高機能プラスチックフィルムの 巻取装置の開発に関する研究

東海大学大学院平成25年度博士論文
高機能プラスチックフィルムの
巻取装置の開発に関する研究
指導 橋本 巨 教授
東海大学大学院総合理工学研究科
総合理工学専攻
森川
亮
目
第 1 章
次
序論.......................................................1
1.1 本研究の背景.................................................1
1.2 巻取条件と内部応力の関係......................................7
1.3 巻取装置に関する諸問題.......................................11
1.3.1 巻取条件に関する従来特許...............................11
1.3.2 巻 取 ロールの欠 陥 の防 止に関 する従 来 特 許................. 12
1.4 巻取条件に関する従来の研究..................................14
1.4.1 巻 取 ロールの内 部 応 力 解 析 について...................... 15
1.4.2 巻 取 り直 後 における巻 取 条 件 に ついて.................... 16
1.4.3 環 境 温 度 の経 時 変 化 に おける巻 取 条 件 について............ 17
1.5 本研究の目的と概要.........................................17
第 2 章
巻 取 ロ ー ル の 欠 陥 を 防 止 す る 理 論 モ デ ル の 提 示 .............. 20
2 . 1 緒 言 ............................................... 2 0
2.2 一 般 的 なウェブの巻 取 モデル............................... 22
2 . 2 . 1 巻 取 り 直 後 に お け る 巻 取 ロ ー ル の 巻 取 モ デ ル ............. 2 2
2 . 2 . 2 巻 取 り 後 の 熱 弾 性 特 性 を 考 慮 し た 巻 取 モ デ ル ............ 2 7
2 . 3 ウ ェ ブ 搬 送 の 安 定 化 を 目 的 と し た 巻 取 条 件 に 関 す る 検 討 ......... 3 0
2 . 4 巻 取 条 件 の 検 討 ....................................... 3 5
2 . 4 . 1 巻 取 り 直 後 に お け る 巻 取 条 件 の 最 適 化 ................. 3 5
2 . 4 . 2 巻 取 り 後 の 温 度 変 化 の 影 響 ......................... 4 3
2 . 4 . 3 環 境 温 度 の 経 時 変 化 を 考 慮 し た 巻 取 条 件 の 最 適 化 ........ 4 5
2 . 5 結 言 ............................................... 4 9
第 3 章
理 論 モ デ ル の 実 験 的 検 証 ............................... 5 0
3.1 緒 言 ................................................... 50
3.2 内 部 応 力 の解 析 に用 いる物 性 値 の測 定 ....................... 50
3 . 2 . 1 ウ ェ ブ の ヤ ン グ 率 に つ い て ............................. 5 0
3 . 2 .2 接 線 方 向 ヤ ン グ 率 の 測 定 .............................. 5 0
3 . 2 .3 半 径 方 向 ヤ ン グ 率 の 測 定 .............................. 5 2
3.2.4 ウェブのクリープ特 性 .................................. 54
3.3 巻取試験による内部応力理論モデルの実験的検証...................55
3.3.1 実験装置と方法.........................................55
3.3.2 加熱および冷却され場合における巻取ロールの内部応力.......57
3.4 環境温度の経時変化における巻取条件の最適化の実施例.........60
3.4.1 熱応力を考慮しない巻取条件における欠陥の発生............60
3.4.2 最 適 巻 取 条件 に期 待される効 果......................... 67
3.4.3 最適 巻取 条件 による実 験的 検証......................... 72
3 . 5 結 言 ................................................ 7 4
第 4 章
理論モデルの効果的な運用を目的とした巻取装置に関する検討...75
4.1
緒 言 ........................................... 7 5
4 . 2 ウ ェ ブ の 引 き 継 ぎ 方 法 に 関 す る 検 討 ..................... 7 6
4.2.1 ウェブ巻 き始 めの安 定 化 ............................... 76
4 . 2 . 2 粘 着 テ ー プ を 用 い な い ウ ェ ブ 引 き 継 ぎ 方 法 ............... 7 7
4.2.3 テープレス方 式 の実験 的 検 証........................... 77
4 . 3 巻 取 ロ ー ル へ の ウ ェ ブ 巻 き 付 け 時 に お け る ト ラ フ の 検 討 ......... 8 2
4 . 3 . 1 ト ラ フ の 軽 減 ................................... 8 2
4 . 3 . 2 ト ラ フ の 発 生 を 軽 減 す る た め の ア プ ロ ー チ ............... 8 4
4 . 3 . 3 ト ラ フ の 発 生 に 関 す る 実 験 的 検 証 ..................... 8 6
4 . 4 ニ ッ プ 部 に お け る 線 荷 重 の 均 一 化 ......................... 9 3
4.4.1 ニップローラの検討.....................................93
4.4.2 ニップ線荷重の分布...................................94
4.5 巻 取長 さの変更を考慮 した巻 取条 件 の検 討................... 101
4.5.1 巻取長さの変更に関する検討...........................101
4.5.2 対象とする巻取長さ...................................102
4.5.3 巻取長さの変更を考慮した巻取条件.....................103
4.5.4 最適化された巻取条件の解析例...........................105
4.6 結言.....................................................110
第 5 章
巻取装置への展開........................................111
5.1 緒言...................................................111
5.2 最 適 化 機 能 の実 装 ...................................... 111
5 .3 最 適 巻 取 条 件 の 設 定 方 法 ............................... 1 14
5.4
ウェブ引き継ぎ時におけるウェブ蛇行量の検証...................116
5.5 巻取直後における巻取条件の最適化の実施例....................118
5.5.1 従 来 の巻 取 条 件 における欠 陥 の発 生 .................... 118
5.5.2 最適巻取条件に期待される効果.........................120
5.5.3 最適 巻取 条件 による実 験的 検証........................ 123
5.6 環境温度の経時変化における巻取条件の最適化の実施例.........125
5.6.1 エージング処理を考慮した実施例........................125
5.6.2 最 適 巻 取 条 件 による実 験 的 検 証 ....................... 128
5.7 新型生産機への展開......................................129
5.7.1 新型生産機の概要....................................129
5.7.2 新型生産機に関わる知的財産権........................132
5.8 結言..................................................132
第 6 章
結 論 ............................................... 133
謝 辞 .................................................. 1 3 6
記 号 .................................................. 1 3 7
文 献 ................................................... 1 4 0
第1章
1.1
序
論
本研究の背景
我が国は,成長戦略を社会全体で再構築すべき時期に直面している.日本の経済成長
はバブル崩壊の後,約 20 年にわたり極めて低い水準にとどまり,その間,企業収益は圧迫
され,貿易収支にも悪影響が及んでいる.過去 10 年間,日本の実質成長率は平均で 1%を
下回り,OECD 諸国の中で最低の水準にとどまった 1).また,2011 年には未曾有の東北地
方太平洋沖地震に遭遇し,深刻なエネルギー制約にも直面した.こうした中で,強い経済
を目指した「日本再生戦略」 2)が政府より示され,その取り組みを震災の復興につなげること
により,さらに活力にあふれる国家として再生する戦略が示されている.この戦略の基本方
針の一つとして「グリーン・イノベーション」 2),3) が挙げられており,クリーンエネルギーへの構
造転換を強力に進める成長戦略が明確に打ち出されている.現在,電源に占める再生可
能エネルギーは約 10%であるが,これを今後 20 年弱の間に 25%以上にまで拡大し,産業活
動によるエネルギー消費量を今よりも 20%程度削減することを目標としている.こういった背
景からエネルギーに関する技術的アプローチはいずれの分野においても,我が国の経済
発展を牽引していく重要な要素であり,とりわけ,次世代自動車(電気自動車)などのリチウ
ムイオン電池の高性能化が重点施策として設定されている.リチウムイオン電池はこれまで
携帯電話やノート PC などの小型の携帯端末器に使用され,世界的な市場を形成してきた.
さらに近年においては,リチウムイオン電池を搭載した次世代自動車の市場が立ち上がり
つつあり,自動車 1 台に搭載されるリチウムイオン電池の量が携帯端末に搭載される量より
も多く,その注目度合いが必然的に高まっている 4),5)(図 1-1).このように,新たな市場が形
成されるその一方で,近年の日本経済を牽引してきた,例えば,小型携帯端末やテレビに
代表される液晶ディスプレイ(LCD)などの製造に関する業界の淘汰・再編は世界規模で
進行し,円高の影響にも起因して海外メーカとの市場競争が激しくなっている(図 1-2).当
然ながら,リチウムイオン電池のような新たな市場でも海外メーカの躍進が続き、価格競争
のみならず技術力の面でも脅威になりつつある
6)
.そのため,ビジネスとして成功するため
には,これまで以上のコストダウンもしくは更なる高付加価値が必須である.そして,近年の
こういった新しいタイプのデバイスでは,薄くて柔軟であるプラスチックフィルムが様々な用
途に広く利用されており,それらデバイスの性能とコストを決定する重要なキーマテリアルと
なっている(図 1-3).これは,プラスチックフィルムは柔軟であり,重量が軽いために大量生
産に適しており,製造工程や輸送工程,一般消費者が利用する上での省エネルギー化と
いう観点からしても利点を有しているからである.さらに,プラスチックフィルムはウェットコー
ティングや蒸着,スパッタリングなどの表面処理
7)-9)
を施すことによって防湿や遮光,光学
的・電気的特性などの様々な付加価値を付与することが可能だからである(図 1-4).例え
ば,小型携帯端末の薄型化に貢献している ITO フィルムや液晶テレビの大型化および薄
-1-
型化に寄与した PVA フィルム,TAC フィルムは良く知られるところである 10).今後は電子ペ
ーパのようなフレキシブルディスプレイに代表される柔軟なデバイスの開発も進んでおり,部
品としてプラスチックフィルムが担う役割は大きい.このように,プラスチックフィルムは様々
な製造プロセスにおいて供されているが,一般にプラスチックフィルムは,連続的な媒体とし
て多数のガイドローラと呼ばれるローラにより連続的に搬送され最終工程において,巻取装
置により巻き取られる(図 1-5).その後,巻き取られたプラスチックフィルムはデバイスに見
合った適当なサイズに切断され最終製品として出荷される.したがって,最終製品の品質
を保つには,部材として供給される巻取ロールの欠陥を極力防止する必要がある.巻取り
時にはプラスチックフィルムに巻取張力を与え,ニップローラと呼ばれる押えローラでニップ
荷重を与えながら巻き芯に巻き取る.主な巻取条件として作用するこれら張力とニップ荷重
は巻取ロールの内部応力と密接に関連している
11)
.なお,ニップ荷重とは巻き取られるウェ
ブを押えローラにより押さえつける際の線荷重であり,これによって巻取ロールに巻き込ま
れる空気量を制限し,内部応力を調整する重要な役割を果たしている.したがって,巻取
条件が不適切な場合には,ロールにスリップや型崩れ,しわなどが発生するため最終的な
品質が著しく低下し,大きな経済的損失につながる.そのため,プラスチックフィルムの品
質を保つ上で巻取時の不具合を防止することが極めて重要である.このような柔軟な連続
媒体であるプラスチックフィルム(以下ウェブと称す)の性能を損なうことなく搬送する技術の
ことを「ウェブハンドリング技術」と呼び,学術的な研究が進められている
12),13)
.しかしながら,
ウェブハンドリング技術の学術的な研究に関する歴史はまだ浅く,1980 年代に,オクラホマ
州立大学がウェブハンドリングリサーチセンター(Web Handling Research Center)を設立し,
第 1 回国際ウェブハンドリング学会が開催されてから 30 年ほどしか経過していない.日本に
おける学術的研究も同様であり,1990 年代に,精密工学会の産学協同研究協議会に「柔
軟媒体搬送技術と学理に関する研究協力分科会」が設置され,企業や大学の研究者の
積極的な情報交換と共同研究の場が提供されてから 20 年ほどしか経過していない
14)
.近
年においては,ウェブ上に電子印刷やコーティングを施して高機能化を図る技術(プリンテ
ィッド・エレクトロニクス技術)の確立を目指して東海大学橋本教授の研究成果
15)
を中心に
研究が活発になっているものの,ウェブハンドリング技術に関する決定論的な方法は確立
されておらず装置メーカや操作者による経験や勘に基づいて製造条件を確立している.巻
取工程に関しては,巻取駆動方式による装置上での制約や生産速度,あるいは巻き取り
後における環境温度の変化を考慮した上で巻取条件を適切に設定する必要がある.また,
ウェブをロール状に巻き取ることから,フィルム層間における空気巻込み量に起因する巻取
ロールの内部応力の変化も考慮しなければならない.こういった状況の中で,操作者は巻
取ロール内部の応力状態を適切に保つために過去の不具合や経験的な情報に基づき解
決を図っている.しかしながら,益々進化するデバイスに併せてウェブの品質要求も高くな
ってきており,従来手法による対策では技術的問題に対処することは困難になってきてい
る.また同時に,ウェブを搬送する製造装置にも同様の要求が突き付けられ,さらなる高性
能化とユーザの負担を軽減する装置が求められている.しかしながら,従来の経験的な技
-2-
術の延長では,スリップやしわなどの欠陥が生じない巻取条件や巻取装置を確立すること
は難しく,操作者の感覚に頼る部分も多いため安定した巻取品質を求めることは極めて困
難な状況にある.そのため,このような状況に対処するためには定量的な評価に基づいた
ウェブハンドリング技術の導入が必要不可欠である.生産される最終製品にもよるが,巻取
ロールに関する欠損は,実に生産量の 5%~80%にも相当するという.とりわけ,磁気テープ
や液晶フィルムなどの高機能材料においては,高品質な部材を要求されることから検査の
基準も厳しく,製造コストも高価であることから経済的損失は大きい(図 1-6).すなわち,巻
Lithium ion secondary battery
(2012 矢野経済研究所集計 5))
(a) Year on year trend in global market size
(2012 矢野経済研究所集計 5))
(b) Year on year trend in separator market
Fig.1-1 Trend and projections of global market in lithium ion secondary batteries
-3-
取ロールの欠陥の防止が日本メーカの価格競争力を向上させ,原材料の消費という環境
問題の観点においても重要な技術となる.そこで本論文では,学術的なバックグラウンドを
基礎として,理論モデルをソフト化し,実際の巻取装置に具体的に組み込むことにより欠陥
を防止する巻取装置の開発を目的とした.
(2012 矢野経済研究所集計データによる 5))
(a) Enterprises’ shares of polarizing plates used in smartphones
(2012 矢野経済研究所集計データによる 5))
(b) Enterprises’ shares in domestic smartphone market
Fig.1-2 Enterprises’ shares regarding electronic devices
-4-
Laminate film
Cathode material
Anode material
Separator
Electrolytic liquid
(a) Lithium ion secondary battery
Reflection prevention film
Retardation film
Polarization
Retardation film
Color filter
Polarization
Orientation
Reflection film
Light source
Glass
Glass
Electrode
Electrode
Liquid crystalline layer Spacer
Diffusion plate
Prism sheet
Luminace improved film
(b) Liquid crystal display
Fig.1-3 Products composed of plastic film
-5-
Coating device
Coating device
(a) Manufacture of material for lithium ion secondary battery
Separator
Anode
Separator
Cathode
Separator
Anode
Separator
Cathode
Core
Electrode
(b) Manufacture of lithium ion secondary battery
Fig.1-4 Manufacture of lithium ion secondary battery
-6-
Fig.1-5 Production apparatus
Sales/month
Approximate value of web
Trial product ¥500/m2~
2
High functionalized ¥100/m ~¥500/m
2
Example
¥5,000,000,000/month※
Medicine ¥100/m2~¥500/m2
Soft packaging ¥50/m2~¥100/m2
※ User provision information
Loss
Sales
¥5,000,000,000/month × 5%(Loss)※ = ¥250,000,000/month(Loss)
= ¥3,000,000,000/year(Loss)
Fig.1-6 Economical loss by defect of wound roll
1.2
巻取条件と内部応力の関係
現在,巻取装置として実用に供されている巻取駆動方式は概ね(1)中心駆動巻取,(2)
表面駆動巻取,(3)併用駆動巻取の 3 種類に分類され(図 1-7),空気の透気性が低いウ
ェブに関しては中心駆動巻取りが多く用いられている 13),16).図 1-8 は一般的な中心駆動方
式を示しており,ウェブは張力とニップ荷重を掛けた状態で巻き取られる.これは,ウェブ層
間の摩擦力が低いことに起因する搬送中の蛇行やスリップ,あるいは外的な力が巻取ロー
ルに加わることによって発生するロール形状の変形(図 1-9)を防止することを目的としてい
る.張力が弱い場合には,ウェブ層間の形成される空気層の影響によりウェブ間の摩擦係
数が大きく低下し,かつウェブ層間の押し付け力として作用する半径方向応力も総じて小
-7-
さいため「テレスコープ」あるいは「巻きズレ」と呼ばれるスリップが生じやすくなる.したがっ
て,スリップが発生しないような張力とニップ荷重が経験的に与えられている.当然ながら,
ウェブの破断やクリープ,あるいは塗工された積層膜に対する破壊応力を考慮した場合に
は,製品素材であるウェブには張力やニップローラの押し付け力などの負荷が極力掛から
ない状態が好ましい.しかしながら,巻取ロールの取り扱い易さを考慮した場合には,いわ
ゆる「適度な巻き固さ」を得る必要があり,ウェブ層間の摩擦力の低下を防止する適切な巻
取張力が必要である.一方,ウェブに張力を大きく掛けた状態で巻き取った場合には,ウェ
ブ層間の押し付け力が強くなりすぎるため「菊模様」あるいは「スターディフェクト」と呼ばれ
るしわが発生する.代表的な例としては図 1-10 に示すように,巻き芯の内層付近にしわが
発生する現象である.これは,順次外層から積層されるウェブによって巻き芯付近の内部
層の接線方向応力が負の応力に転ずるためである.図 1-11 は接線方向応力が負に転ず
る概念図を示している.同図に示すように新たに巻き始めたウェブの押し付けによりその内
側の層は巻き芯に向かって圧迫されるため各層のウェブは張力とひずみを減少させながら,
外層から新たに加えられる力と平衡状態を保とうとする.そのため,巻き始めは引張り応力
が作用しているものの,外層から新たに積層されるウェブによって接線方向の応力が減少
し,ついには圧縮方向へ転ずることになる.この状態がいわゆる「巻き締り」と呼ばれるもの
で,巻取ロールと巻き芯の径比(巻取径/巻き芯径)が大きくなると発生しやすいことが知ら
れている
17)
.また,巻取り時の設定パラメータのうち巻取張力についで重要なニップ荷重に
ついても条件が不適切であれば同様の欠陥が発生する.ニップ荷重は巻取ロールに巻き
込まれる空気量を制限し,内部応力を調整する重要な役割を果たしている.大気中で巻き
取られたロールの層間には薄い空気層が何層にもわたり形成されており,その空気の量が
巻取ロールの剛性に大きく影響する.したがって,巻き込み空気量が少ない場合には,巻
取ロールの剛性が高くなるため巻きが固くなり,巻き込み空気量が多い場合には,巻きが
柔らかくなる.このように,巻取ロールに発生するしわやスリップなどの欠陥はロール内部の
応力状態と密接に関連しており,不適切な巻取条件が不具合の主な原因であることが知ら
れている 18).
Nip
Wound roll
Wound roll
Nip
Core Nip load
Nip load
Motor
(a)Center
Core
Nip
Nip load
Motor
Core
Motor
(b)Surface
Fig.1-7 Classes of winders
-8-
Wound roll
Motor
(c)Combination
Nip roll
Wound roll
Web
(a) Outline of winding method
Tension Tw
Air entrainment
Winding condition
Nip load N
(b) Winding condition
Fig.1-8 Outline of center driven winding
※Occurring with our company’s machinery
Slippage
Shape loss
Fig.1-9 Occurring of slippage※
-9-
※Occurring with our company’s machinery
Wrinkle
Core
Fig.1-10 Wrinkles near the winding core※
Second layer
First layer
First layer
Core
Tangential
stress
Core
The core is a base
Radial stress that
that supports the web,
attempts to push inward
and layers of web are
the core’s outer
stacked over it one
diameter acts through
after another.
the first layer
Wrinkles arise from the
compressive action in the
tangential direction
The radial pressure that acts
through the second layer has
the effect of reducing the
first layer’s tension and
strain.
Fig.1-11 Compression by tangential stress
-10-
1.3
巻取装置に関する諸問題
1.3.1
巻取条件に関する従来特許
ウェブの多様化・多機能化や,より高速・高精度な巻き取りが求められるなど,近年になり
その難易度が高くなっている.巻取条件が不適切な場合には巻取ロールにスリップや型崩
れ,しわなどの不具合が発生する.これは巻取ロールに発生する不具合が,ロール内部の
応力状態と密接に関連しているためである.そのため,巻取条件の設定に関する問題が重
要になり,近年になり巻取条件の設定に関する特許
19)-31)
が出願され始めている.巻取条
件の改善に向けた課題は,大きくは操作者の自助努力によって解決可能なものと外部条
件によって左右されるものに分けられる(図 1-12).前者の代表が巻取り時における張力とニ
ップ荷重であり,経験や実測データを参考に各社が取り組みを行っている.一方,後者は
ウェブ材質やウェブ幅,あるいは巻き芯材質や巻取速度などで,顧客先の要求仕様や経
済的な制約などに大きな影響を受ける.そのため,限られた設定範囲の中で操作者は適
切な張力とニップ荷重を設定せざるを得ない状況にある.また,総じて学術的なバックグラ
ウンドの乏しさから度重なる失敗を元に経験的な設定条件を構築するため,欠陥が発生し
た場合のみにおける対処が主となり巻取条件単体では理論的な手法に基づく特許は出願
されていない.
巻取条件を定量的に設定するものとしては,巻取径に応じて張力やニップ荷重を増減
する方法
32)-35)
,巻出張力を基準に巻取張力を増減する方法
36)
などが考案されている.し
かしながら,広報に開示された方法では,ウェブの種類や厚さ,巻き芯の材質の条件の範
囲が限定的であるため,その適用範囲が狭いという問題がある.また,適切な張力を設定
するためにあらかじめデータを取得し,巻取条件とマッチングさせるものとして,サンプルフ
ィルムの伸びと張力の相関関係を利用し張力を算出する方法
た巻取ロールのロール形状を測定し張力に反映する方法
38)
37)
,一定の張力で巻き取っ
などが考案されている.これら
の方法によれば適切な巻取条件を設定できるが,あらかじめ実際のサンプルで計測を行う
必要が生じ,予定された巻取径が変更される場合や巻き芯やニップローラなどの機械的条
件が変わった場合には即座に対応できない問題が生じる.一方,学術的なバックグラウンド
に基づいて巻取条件を設定するものとしては,Altman の巻取方程式を利用する方法
39)
もあ
るが,巻取半径方向の応力に限定しており,しわの発生に関する接線方向応力については
言及しておらず巻取ロールの欠陥を理論的に予測し,防止することはできない.また,巻取
ロールの接線方向応力を予測できる解析プログラムを提供する特許
40)
もあるが,内部応力
の提示にとどまっており,製造プロセスにおける具体的な巻取条件を提供するものではな
い.そのため,巻取品質を決定する巻取条件を簡便かつ理論的に決定することができない
という課題が残されている.したがって,様々なウェブの特性や装置の特性の違いに着目し,
スリップとしわの両方を同時に解消できる適用範囲の広い巻取条件を理論的に提供するこ
とが重要になる.
-11-
Main winding conditions that affect quality of wound roll
Conditions that are alterable
・Winding tension
・Nip load
※Generally held to be fixed
values due to economic and
other process constrains
Conditions that are
problematic to alter
・Web width
・Winding length
・Web thickness
・Young’s modulus of web
・Shape of the core※
・Young’s modulus of core※
・Winding velocity※
Fig.1-12 Main winding conditions that affect quality of wound roll
1.3.2
巻取ロールの欠陥の防止に関する従来特許
巻取ロールの欠陥の防止に関する特許は 1980 年代から今日まで 8000 件以上出願され
ている(図 1-13).巻取に関する学術的なアプローチは少ないものの我々の身の回りで巻
き取られて利用されている分野は意外に広く様々な工夫が取り組まれている.古くは製紙
業界に始まり,繊維,包装,鋼板,炭素複合材,光学系など薄い柔軟媒体が巻き取られる
範囲は広い.そのため,巻取方式として多くの方法が提案され利用されている.その中でも,
とりわけ包装用途の包装材料や光学用途などの機能性材料の巻取方式としては 2 軸ター
レット方式かつ中心駆動巻取方式が一般に多く用いられる.2 軸ターレット方式(図 1-14)と
は,2 つの軸を交互に駆動させることによってウェブを巻き取ることができる方式である.そ
のため,ウェブの搬送を停止させることなく連続的に生産できることから経済性が高いという
大きな特徴を持つ.また,中心駆動方式は,モータにより巻取ロールの中心軸を駆動する
ものであり,この方式はスリップし易いウェブや巻取り径が 2m 未満のウェブを巻き取る場合
に広く用いられている.そして,そのようなウェブの代表例が「プラスチックフィルム」である.
当然のことながらプラスチックフィルムも様々な種類や厚さ,幅などがあるが総じて数ミクロン
から厚くても数百ミクロンという厚さである.そのため,剛性が低くキズやしわが入り易いとい
う欠点があることから,ウェブの損傷を防止する方法が重要となる.したがって,従来から巻
き芯のたわみ量を予め考慮する方法
複数個設ける方法
42)
41)
やニップローラ(あるいはタッチローラと呼ばれる)を
,ニップローラの振動を防止する方法
43)-45)
など多種多様なものが考
案されている.これは,ウェブを巻き取る際の張力やニップ荷重などの巻取条件以外の要
因,例えば機械の精度や構造的な制約などによりウェブにダメージを与える可能性がある
からである.したがって,張力やニップ荷重などの巻取条件のみならず,既存の巻取方法
においてもウェブに必要な品質を考慮した上で適切な巻取方法を提供する必要がある.た
だし,これら巻取方法に関する機械的な構造や電気的な制御に関する仕様は,要求され
-12-
る品質,あるいは装置の製造コストに左右されるものであることから,都度個別に検討され
ている.ところで,従来,ウェブを巻き芯に巻き取る場合,巻取張力は経験的に決定してお
り,その巻取張力の主な張力パターンとしては巻取径の増大に伴って減少するテーパ張力
(図 1-15)が多く用いられている.張力の低減方法として,このように直線的に沿う方法では,
巻き終り時の張力は巻き始めの張力に比較して低い値となる.そのため,搬送中のウェブ
を新しい巻取巻き芯に切り替える場合(以後この作業を”ウェブ引き継ぎ”と呼ぶ)にはウェ
ブの張力を低張力から高張力に急激に切り替える作業を伴う.この場合,一般的な 2 軸タ
ーレット方式ではウェブに過大な付加がかかり,ウェブの搬送が不安定になるという問題が
ある.こういった問題に対して,巻取装置における対策として,ニップローラの接圧方式を変
更することによるウェブ引き継ぎ時における張力変動の抑制
の追加によって張力の応答性を改善する方法
47)
46)
,あるいは特別な検出装置
が出願されている.しかしながら,これらの
特許は張力の変動に対応することが基本であり,その変動の原因となり得る張力差を根本
的に抑えるものではない.また,特別な張力検出器などの装置の追加が必要である.従来
から経験的に得られた巻取条件によれば,巻取径の増大に伴って張力が減少するテーパ
張力方式が良いとされている.一方,ウェブを引き継ぐ場合には,巻初めと巻終わりの張力
差による張力変動などが巻き姿に悪影響を及ぼすという一因となり,巻き姿を改善するため
の何かしらの特別な装置の追加や巻取方式の変更が必要となる.
1975
S50
1985
S60
1989
H1
1998
H10
2008
H20
Method of indicating tension and nip load
Example)特開S58‐162458
Method of setting tension and nip load in a particular range
Example)特開H09‐40247
Method of controlling amount of air entrained
Example)特開H10‐67449
Method of designing core
Example)特開2002‐114418
Method of designing web
Example)特開H09‐52285
Method of storing wound rolls
Example)特開2011‐178251
Fig.1-13 Year on year trend in published patents
-13-
2012
H24
Wound roll
Winding tension [N/m]
Fig.1-14 2-arm turret
300
Initial tension
The difference of tension
200
100
0
50
Taper tension
100
150
200
250
300
Radial position [mm]
Fig.1-15 Summary of the taper tension
1.4
巻取条件に関する従来の研究
巻取条件は巻取ロールの性質を決定する重要な因子の一つである.巻取ロールにおけ
るしわやスリップは巻取ロールの内部応力と強い因果関係にある.そのため,ウェブの巻取
条件と巻取ロールの内部応力の関係についてはさまざまな研究が行われてきた.巻取ロー
ルは薄いウェブを何層にもわたって巻き付け,その際の巻取条件,すなわち張力とニップ
-14-
荷重に起因する径方向への圧縮応力によって巻取ロールの内部応力の状態が逐次変化
するという特徴的なプロファイルを示す.そのため,巻取条件に起因した巻取ロールの内部
応力を見積もるための理論モデルについては近年において様々な研究が行われている.
以下では,全般的な巻取ロールの内部応力解析と巻取条件について記述するが,どれも
巻取ロールの最適な巻取条件を導出するに際して基礎となりうるものばかりである.
1.4.1
巻取ロールの内部応力解析について
巻取ロールの内部応力の解析に関する歴史はまだ浅く,Gutterman48)と Catlow49)らによ
るロール内部の応力解析モデルが提示されてから 50 年ほどしか経過していない.継続的
に現在までいくつかのモデルが報告
50)-52)
されているが,その中でも Altman53)や Hakiel54)
が提示した解析モデルが今日の巻取理論の基本を成している.これは,主に欧米の写真
フィルムメーカや磁気テープメーカを中心として巻取に関する理論開発が行われてきたこと
に由来する.1968 年に Altman はロール内部のヤング率の異方性を考慮して,巻取ロール
を厚肉円筒とみなしたときの内部応力の公式を与えた.Altman の公式は一般的な積分公
式で計算できるまでに簡単化されており巻取ロールの内部応力の傾向や物性値などのパ
ラメータがどのような影響を与えるかを調査する場合には大いに有効であった.そのため,
Altman の公式は実際の製造現場においても,巻取ロールの欠陥を抑制する上での有効
なツールとして利用されている.しかしながら,Altman の公式はロール内部のヤング率の異
方性を考慮しているものの巻き取られたウェブ間に介在する空気層によるヤング率への影
響や半径方向ヤング率の非線形性などを考慮していない.そのため,定性的な予測は可
能であったものの実測値と大きく異なり定量的な予測としては不十分なモデルであった.
1987 年に Hakiel は半径方向におけるヤング率の非線形性を考慮した非線形巻取理論を
定式化し,その数値解析方法を導いた.実際の巻取ロールでは薄いウェブを積み重ねるた
めに半径方向ヤング率は層間圧力に大きく依存する.この半径方向ヤング率の非線形性
について 1981 年に Pfeiffer55)は薄いウェブを積み重ねた場合の半径方向ヤング率を実験
的に導出する手法を示している.この手法は K2ファクターテストと呼ばれ,ウェブ素材を数
百枚以上積層させ,圧縮試験により応力とひずみの関係を測定することで半径方向ヤング
率が得られることを示した.その測定により得られる層間圧力と半径方向ヤング率の関係は
概ね非線形であり,今日の巻取モデルと呼ばれる Hakiel モデルはこの実験的手法に基づ
くことで巻取ロールの内部応力の非線形性を扱うことができる.実際,このモデルは古くから
新聞紙など通気性が良く空気の影響が無視できる紙類に対してはその有効性が確認され
ている.これは,Pfeiffer による K2 ファクターテストはウェブ層間に空気を含まない環境下で
の圧縮試験であるため実際の巻取ロールの状況と一致しているからである.しかしながら,
プラスチックフィルムを巻き取る場合には空気を透過しないためにウェブに巻き込まれた空
気が弾性体として半径方向ヤング率に大きく影響し,理論的に求められた内部応力と実際
の内部応力が一致しない.これは,ウェブに巻き込まれた空気は大気側へ即座に放出され
ることなく,巻取ロール内に留まっているためであり,その巻き込まれた実際の空気量につ
-15-
いては Taylor と Good56)により実験的に示されており理論モデルとの整合性を示している.
なお,一般的に巻き込まれる空気量は,ニップローラにより調整される.このニップローラに
よる空気の巻き込み量に関して,Hamrock ら
57)
あるいは Chang ら
58)
はニップ部における空
気の圧縮性およびニップローラの弾性変形を考慮し,弾性流体潤滑理論を取り入れたモ
デルへと拡張した.さらに佐々木ら 59),60)はその考え方を発展させ,ニップローラの表面形状
に対応したより緻密な空気巻き込み量の式を提唱している.このような空気巻き込み量の
問題を定式化できるようになるにつれ谷本ら
61)
は,半径方向等価ヤング率として空気の巻
き込み量を考慮し,巻取ロールの剛性変化を含めた巻取方程式を導出している.さらに,
2010 年に神田
62)
らは巻き込み空気がロール端部から流出する効果を考慮した巻取ロール
の内部応力状態の理論予測モデルを提示し,理論予測モデルのウェブの幅に対する適用
範囲を明らかにした.このように空気を巻き込んだ巻取ロールの半径方向等価ヤング率や
ロール端部からの空気の流出量が考慮されることによりロールの内部応力状態を把握する
精度も次第に改善された.しかし,これらの研究ではロールの内部応力に対する解析モデ
ルの適用は解決しているが,生産に必要とされる巻取条件への展開がなされていないとい
う問題が残されていた.
1.4.2
巻取り直後における巻取条件について
巻取条件は巻取ロールの内部応力と密接な関係にある.そのため,巻取条件は巻取ロ
ールの品質を決定する上で重要な因子の一つである.巻取ロールの内部応力はウェブの
物性値やウェブの幅,あるいは,運転速度が因子として絡んでいるが,それらの多くは最終
製品の仕様や客先の要求仕様によるため変更することは難しい.そのため,機械の操作者
が変更できる因子は意外に少なく,とりわけ張力とニップ荷重の調整により巻取ロールの欠
陥を防止する対応策を検討することになる.こういった問題に対する対策手法の要望は従
来からあるものの巻取ロールの内部応力に関する学術的バックグラウンドが少ないことから
欠 陥 を 防 止 す る 巻 取 条 件 に 対 す る 研 究 も 皆 無 に 等 し い . わ ず か な が ら , 2007 年 に
M.Boutaous ら
63)
により,テーパ張力方式を利用すると仮定した上で,しきい値として設定し
た内部応力を満足するように巻取張力の範囲を決定する研究がなされている.また,同年
C.W.Lee ら
64)
により,ヘビサイド関数を用いたテーパ張力方式を基本とし,巻取中のウェブ
の蛇行を考慮した上で巻取欠陥を防止する方法が提案されている.しかしながら,いずれ
もテーパ張力方式に限定したものであり,ウェブを巻き取る際に重要な巻き込み空気量を
制限するニップ荷重に関しては検討がなされていない.さらに巻取り直後のスリップ(いわゆ
る巻きズレ)に対する対策は考慮されていないため,スリップの原因となる輸送などによる何
かしらの外力が加わるような実際の生産現場への適用は難しい.こういった問題に対して,
橋本ら
65)
はトライボロジーの観点から考察し,フォイル軸受理論
66)
を展開してウェブ層間に
おけるロール内部応力とスリップの関連を導き,ウェブ層間の摩擦係数を極めて簡便でか
つ適用性の高い公式としてまとめた.さらに,ロール内部応力としわの関係を考慮した上で
-16-
最適化問題として巻取り直後における巻取ロールのしわとスリップを同時に防止する巻取
条件を提示 67)68)し,実験によりその有効性を示している.最適化された張力によれば,簡単
に所望した品質の巻取ロールを得ることができる.しかし,これらの研究では巻取り直後に
おける巻取ロール内部におけるしわとスリップの問題は解決しているが,環境温度の変化
における内部応力の変化が考慮されていないという問題が残されていた.さらに,巻取り時
の設定パラメータのうち巻取張力に次いで重要なニップ荷重についての検討はなされてい
ないため,このような手法を空気の透気性が低いプラスチックフィルムに展開することができ
ないという課題が残されている.
1.4.3
環境温度の経時変化における巻取条件について
一般に巻き取られた巻取ロールは様々な熱的環境の変化にさらされる.製造工程にお
けるエージング過程,物流工程における出荷・保管による季節的な環境の温度変化などで
ある.そのため,環境温度の変化の特徴としては,その都度の状況によって加熱あるいは
冷却されることにある.古くから巻取ロールを扱ってきた生産者は熱的環境によってしわや
スリップなどの欠陥が発生し,ウェブの品質に悪影響を及ぼすことを把握していた
69)70)
.し
かしながら,熱的環境に起因する内部応力の変化は直接数値的に評価する適当な手法も
見当たらず,また緩やかに変化することも多いため生産コストの都合から実験的手法による
解決も難しいという問題が残されていた.このような状況を踏まえて,1997 年に Qualls ら
71)
は熱弾性理論に基づく巻取方程式を用いてロール内の温度が均一に分布し,時間的に
変化しないと仮定したときの内部応力を計算し,実験結果との比較を行っている.これに対
して Lei ら 72)はロール内部の温度が時間的に変化する場合のモデルを提案しているが,単
なるモデルの提示に終始しており,内部応力の具体的な計算や実験的検証はなされてい
ない.そこで神田ら
73)
はその考え方を発展させ熱伝導に及ぼす巻き込み空気の影響を考
慮した非定常状態の巻取りロールの内部応力に関する理論予測モデルを提案している.
この理論予測モデルは実験的検証によって加熱された環境温度の変化に対して精度良く
一致することが示されている.さらに,ウェブのクリープコンプライアンスの応力・温度依存性
を詳細に調査した上で解析対象を粘弾性問題に拡張し,任意の温度における粘弾性を考
慮した上で巻取りロールの内部応力を解析する手法を提案している
74)75)
.しかしながら,こ
れらの研究では内部応力の状態を予測することに着目されており,実際の熱的環境の影
響を考慮した上で巻取条件を決定することができないという問題が残されていた.
1.5
本研究の目的と概要
今後の成長が期待されるウェブハンドリング市場であり,案件数の増加や大型化は企業
にとっては望ましいことではあるが,良質な巻取ロールの安定供給を継続するためには相
応の対策が必要となる.また,品質や納期などを含め,委託側の要求は高まっているため,
更なる巻取ロールの欠陥に対する対策が大きな課題となっている.実機での巻取試験は,
-17-
試験コストが高価な割に得られる情報量が少なく,内部応力の計測では作業者の巻き込ま
れに対する安全性の確保やクリーンルームの清浄度の維持管理などを考え合わせると,実
験的手法によって巻取条件を決定する取り組みは実際の製造現場において困難を極める.
そのため,学術的なバックグランドを背景にして,最適な巻取条件を簡便に決定することが
必要である.一方,理論的手法は非線形の微分方程式を含んでいるために式が複雑であ
り,実際の製造現場で簡単に用いることが難しい.したがって少なくとも,製造プロセスを妨
げない程度の設定手法の登場が望まれる.例えば,広く使用されているテーパ張力方式な
どは,初期張力とテーパ率の設定のみであり一般的な関数電卓で計算でき,生産情報とし
て簡単に管理されていることからも明らかである.さらに,巻取ロールの品質はウェブを引き
継ぐ際のウェブ引き継ぎ条件などにも影響されることから,巻取装置の開発には,巻取装
置の特性や生産時における制約条件を鑑みた上で,しわやスリップなどの巻取の不具合を
最小限に防止する巻取条件を設定できることが重要となる.
本論文では,学術的なバックグラウンドを基礎として,最適巻取手法を拡張した上でこれ
をソフト化し,実際の巻取装置に具体的に組み込むことにより欠陥を防止する機能を持た
せることを目的としている.なお,最適巻取手法を巻取装置に組み込むに際して,プラスチ
ックフィルムの巻取で一般的に用いられている 2 軸ターレット方式かつ中心駆動巻取方式
を対象とし,ウェブ幅は,販売実績が多い 1m 以上 2m 未満とした.
第1章は序論であり,主に生産者の立場から考察し,巻取ロールの欠陥に大きく関連す
る巻取条件の諸問題に触れた.巻取装置における特許上の歴史的背景をまとめ,巻取装
置において最適な巻取条件を簡単に設定できる機能の追加の必要性について述べ,本
研究の目的を明らかにした.
第2章では最適な巻取条件を決定する上で必要な理論モデルの整備を行い,巻取装置
に適用する最適化機能のソフト化を図った.まず,内部応力の理論予測モデルを整備し,
巻取り直後におけるしわとスリップの欠陥を防止するための巻取条件の最適化機能を構築
した.同時に,2軸ターレット方式における巻取方法の特徴とその巻取方法に関わるウェブ
搬送の安定性に関する問題点を指摘し,ウェブ搬送の安定性を高めることを目的とした上
で巻取張力の取り扱いを検討し,最適化機能として定式化した.次に,環境温度の経時変
化における内部応力の理論予測モデルを整備し,巻取り直後における最適化手法の応用
展開を図った.実際の製造プロセスにおける環境温度の変化を調査し,実用的な解釈を
加えた上で最適な巻取条件を決定する最適化機能を構築した.構築した機能により保管
や輸送環境により環境温度が加熱・冷却された双方の場合において巻取欠陥の発生を抑
制できる巻取条件を決定することが可能となった.
第3章では第2章で導いた理論モデルの定量的な検証を行った.巻取り直後から保管・
輸送された場合における環境温度の変化を考慮した内部応力の理論予測モデルの実験
的検証はほとんど実施されておらず,ウェブのヤング率の温度依存性による内部応力への
影響は十分に把握されていない.そこで,ウェブのヤング率の温度依存性を調査した上で,
ヤング率の温度依存性が内部応力に及ぼす影響を明らかにし,内部応力の予測理論モ
-18-
デルの妥当性を示した.さらに,理論的に求められた最適巻取条件による解析値と実測値
の比較を行い,内部応力に対する最適巻取条件の効果と妥当性を提示した.提案する最
適化機能によれば,環境温度の変化に対してもあらかじめ内部応力を予測し,欠陥を防止
する最適な巻取条件を理論的に決定できることを提示した.
第4章では第3章で検証した理論モデルを巻取装置に適用する上での問題点とその対
策手法を検証した.巻取ロールの内部応力を理論的に予測する基礎研究は従来から実施
されてきたものの,幾つかの仮定に基づいた実験的規模における解析や実験であることか
ら,実際の巻取装置に対する適用性については検証されていない.そのため,最適な巻取
条件の効果を発揮するに際して,理論予測モデルによる内部応力の解析結果と実際の巻
取装置の内部応力との適合性を図った上で巻取条件を操作者に提供する必要がある.そ
こで,理論予測モデルの解析結果と巻取装置による巻取試験の計測結果を比較検証した
上で,理論モデルの境界条件の安定性について着目した.巻取装置は境界条件に外乱
を与える要因が多く,理論モデルとの適合性を図るためには最内層境界条件に相当する
ウェブの巻き芯への巻き始めと最外層境界条件に相当する巻取ロール最外層へのウェブ
巻き付け時の安定化を図る必要がある.そこで,具体的な外乱の防止方法を提案し,巻取
装置への応用展開を図ることによって,理論予測モデルと巻取装置の適合性を図った.
第5章では,第4章で導いた境界条件の外乱を防止する対処法を実機規模の巻取装置
に適用した上で最適化機能の巻取欠陥に対する効果を検証した.まず,第2章で示した最
適化機能を最適巻取制御ソフトとして巻取装置に組み込み,さらにユーザインターフェース
を備えることで操作者が簡単に操作可能なシステムとして構築した.さらに,実機規模での
巻取試験を実施し,巻取り直後のみならず輸送・保管を含めた環境温度の変化に対しても
効果的にしわとスリップの欠陥を予測し,防止することが可能となることを提示した.一例と
して,従来から経験的に生産に用いられている巻取条件の場合には,巻取全量に対して
約 3%の欠陥が確認されたものの,本最適巻取条件によれば欠陥は発生しないことを提示
した.
第6章は本論文の総括として結論を述べた.
-19-
第2章
2.1
巻取ロールの欠陥を防止する理論モデルの提示
緒言
実際の製造ラインにおいては,対象とする製品が数種類,多い場合には数百種類にも
及ぶ.そのため,多種多様なウェブが扱われ,さらに新たなウェブも次々に市場に投入され
ることから適切な巻取条件を導出する取り組みは難しく,多くの生産現場では実績のある
類似製品の巻取条件を修正することによって対応を図っている.実験的に巻取条件を決
定する場合には,クリーンルームの清浄度の維持管理や実験に際しての人員確保,あるい
は生産ラインの停止などの必要性が生じるためコストの観点から困難な場合が多い.そこで,
不具合の中でも比較的発生頻度の高いしわとスリップの効果的な防止方法について,巻
取条件の最適化理論の観点から検討を加える.本章では橋本らが提案するウェブの巻取
張力の最適化手法
76)
に基づき,実機に適用する際の問題点を洗い出し対策手法を提示
する.なお,橋本らにより提示されている最適化手法はニップ荷重についての最適化の検
討はなされていないため,様々な種類のウェブを取り扱う実製造においては生産対象が限
定されてしまう.そこで,巻取り時の設定パラメータのうち巻取張力に次いで重要なニップ
荷重についても検討し,巻取張力とニップ荷重の 2 つのパラメータを最適化の対象として扱
う.ニップローラのない中心駆動巻取りは古くから実用に供されているが,この方式は巻取
張力のみをウェブに与えた状態で巻き取るものである.したがって,ウェブを押し付ける層
間圧力が低いためにスリップが生じ易い.紙などの通気性が良く空気の影響が無視できる
紙種に対しては有効であるが,プラスチックのような非透過性のウェブでは巻き込まれる空
気厚さを調整することは重要である.図 2-1 は後述の巻取理論モデルを用いて表 2.1 に示
す巻取条件においてニップ荷重のみを変化させた場合における層間摩擦力を比較したも
のである.同図(a)はニップ荷重を与えない場合(N=0N/m)を,同図(b)はニップ荷重を与え
た場合(N=70N/m)を示している.同図を見ると明らかなようにニップ荷重の変化に対して層
間摩擦力の違いが大きいことがわかる.したがって,適用範囲の広い巻取条件を得るため
には巻取張力とニップ荷重の両方を最適化の対象とすることが必要である.さらに,本章で
は巻取ロールを扱う上でもうひとつの重大な課題である巻取り後の熱的環境についても検
討する.一般に巻き取られたウェブは次工程に移送され最終製品に至る加工が順次施さ
れていく.とりわけ,近年の高機能デバイスの製造工程ではウェブに塗工や印刷などの
様々な加工が施され,製品によってはエージングなどの熱処理が施される.また,巻き取ら
れたロールは製造者や輸送者の都合により様々な状態で保管・輸送されるため,大きな環
境温度の変化にさらされる場合がある.巻取ロール内部の応力状態はこのような温度変化
と密接に関連しており,熱的環境に起因するしわやスリップの発生が大きな問題となってき
ている.今後,高機能デバイスは様々な熱的環境下での製造が予想されるため,熱的環境
の影響を考慮した上で巻取条件を決定することは,極めて重要である.そこで,様々な熱
20
的環境に対処することを目的として,神田らにより提示された非定常状態における巻取ロー
ルの内部応力に関する理論モデル
73)
を巻取条件の最適化問題として拡張する.なお,本
研究で対象とする 2 軸ターレット方式は,ウェブの引き継ぎが行われるためステップ状の張
力変化が負荷される.この場合,ステップ状の変化には制御の応答遅れが生じ易く,急激
な変化によりウェブの搬送が不安定に陥りやすい原因となり得る.そのため,ウェブ引き継
ぎ時においてウェブの巻芯への巻き付けが不安定となり,理論的に求められた内部応力と
実際の内部応力に差が生じ,最適化巻取条件の効果を充分に発揮できない可能性が生
じ得る.そこで本章では,生産時に起こり得るこの種の問題を解決するためにしわとスリップ
を同時に防止しながらウェブ引き継ぎ時におけるウェブ搬送の安定化を図る機能を最適化
200
100
Friction force F , kN
300
Nip-load N , N/m
Winding tension Tw , N/m
の一つとして巻取条件の検討に取り入れた.
Taper tension T w0 =200N/m, Taper 30%
Without nip-load
100
0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
80
60
40
20
0
40
60
Radial position r, mm
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
300
100
Friction force F , kN
Nip-load N , N/m
Winding tension Tw , N/m
(a) Without nip-load N=0N/m
Taper tension T w0 =200N/m, Taper 30%
200
100
0
40
Nip-load N=70N/m Const.
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
80
60
40
20
0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(b) Nip-load N=70N/m
Fig.2-1 Comparison of nip-load affects
21
Table 2-1 Conditions for calculating
Maximum radius
Web width
Web Thickness
Young’s modulus in radial direction of web
Young’s modulus in circumferential direction of web
Friction force
Core radius
Young’s modulus of core
Winding velocity
2.2
rmax[m]
W[m]
hw[m]
Er=Aσ nr ,
[Pa]
Eθ
[Pa]
μeff [-]
rc [m]
Ec[Pa]
V[m/min]
0.1845
1.0
25
A = 123
n = 1 .0
5.18
×109
0.3
0.05025
17.0×109
100
一般的なウェブの巻取モデル
2.2.1
巻取り直後における巻取ロールの巻取モデル
巻取ロールの内部応力解析は本研究の全体におよび骨格を成す内容となる.巻取条
件は巻取ロール内部の応力状態と密接に関連している.そのため,内部応力を理論的に
求めることにより,事前にしわやスリップなどの不具合現象を予測し,かつ防止することが可
能と考えられる.ウェブの巻取りにおける諸現象を考慮した巻取ロールの内部応力に関す
る巻取理論は橋本らに提示された理論モデル
76)
を巻取装置に適用する.本理論モデルは
ウェブを巻き取ることにより逐次変化する巻取ロールの内部応力に関する Hakiel モデルを
修正した数値解析モデルであり,実験によりその妥当性が示されている.なお,Hakiel モデ
ルとは今日の巻取ロール内部応力解析の基本を成したものであり,ウェブが順次巻かれて
いくときの内部応力の変化を薄肉円筒に作用する応力の重ね合わせで表現したものであ
る.本理論モデルを用いることにより任意の巻取張力とニップ荷重に対する内部応力の状
態を逐次予測することができる.なお,理論モデルの定式化にあたっては,以下に示す仮
定を設けている.
(1)
スパイラル状に巻かれたウェブは薄肉円筒ウェブとウェブ層間に巻き込まれた空
気層との積層ウェブとして扱う
(2)
薄肉円筒ウェブは完全な円筒形状を保ち,ウェブ幅,ウェブ厚さ,ウェブ表面粗さ
などは変化しないものとする.
(3)
ウェブ層間におけるせん断応力は無視でき,ウェブ層間すべりは無視できるもの
とする.
(4)
巻取駆動方式は中心駆動巻取り方式とする.
(5)
ロール内部の半径方向応力と接線方向応力はいずれも半径方向座標の関数で
あり,接線方向や軸方向座標には無関係とする.すなわち,解析モデルは平面
応力を前提とし,実質的に1次元として扱う.
このような仮定に基づいて,まず巻取ロールの内部応力を求めるためにスパイラル状に巻
22
かれたウェブを図 2-2 に示す薄肉円筒ウェブとウェブ層間に巻込まれた空気層との積層ウ
ェブとして扱う.その際,ウェブの厚さ hw は均一で,巻き取られたロールの幅は最大巻き径
に比べて十分に大きく,ロール形状は真円で完全軸対称と仮定すれば,巻取ロール内部
の半径方向応力 σrは式(2.1)によって計算できる 54).
r2
d 2σ r
dσ r ⎛ Eθ ⎞
⎟σ r = 0
+ 3r
+ ⎜1 −
2
dr ⎜⎝ E r ⎟⎠
dr
(2.1)
式(2.1)を解くに際しては半方向応力 σr に関する次の 2 つの境界条件を設定する必要が
ある.まず最内層における境界条件として,ウェブの第 1 層と巻き芯における変位量が等し
いことから次式を得る.
ε t (r = rc ) =
δσ r
r = rc
(2.2)
Ec
式(2.2)よりロール最内周における境界条件として次式を得る.なお,巻取ロールの内部
応力の解析に関しては,ポアソン比は通常無視して扱うことができる 60).
Eθ
δσ r
Ec
− δσ θ
r = rc
r = rc
=0
(2.3)
ここでロール内部の応力の釣り合い方程式から次式を得る.
δσ θ
r = rc
⎛ dδσ r
⎞
= ⎜r
+ δσ r ⎟
⎝ dr
⎠ r = rc
(2.4)
式(2.3)を式(2.4)へ代入して次の最内層の境界条件式(2.5)を得る.
dδσ r
dr
r = rc
⎞ δ σ r r = rc
⎛E
= ⎜⎜ θ − 1⎟⎟
⎠ rc
⎝ Ec
(2.5)
一方,巻取張力が巻取ロールの最外層に作用するときは,新たなウェブが付加されること
23
による半径方向応力増分は,最外層に作用する圧力と等しいと考えて良いことから,最外
層の境界条件式は次式で与えられる.
δσ r
r =s
=−
∫
2π
0
Tw r = s dθ
2 sπ
=−
Tw
s
(2.6)
一般にプラスチックフィルムは空気を透過しないことから,空気層が生成され易くスリップ
が生じ易い.そのため,ニップローラと呼ばれるローラによりニップ線荷重を与えることにより
巻き込み空気量 h0 を調整している.そのため,ニップ荷重を受けながらウェブが巻き取られ
る際,ニップ部を通過した後のウェブの張力はニップローラとウェブ間の摩擦により変化す
る 77).そこで,本論文ではこの現象に対して Good78)79)により得られた次式を適用する.
Tw = Tw
r =s
+ μN
(2.7)
r =s
摩擦係数μはニップ部におけるウェブ間の有効摩擦係数であり,橋本
65)
によって示された
次式を用いて求められる.
( h0 < σ ff )
⎧ μ ff ⎪
h ⎞
⎪ μ ff ⎛⎜
3 − 0 ⎟ (σ ff ≤ h0 ≤ 3σ ff )
μ=⎨
⎜
σ ff ⎟⎠
⎪ 2 ⎝
⎪0 ( h0 < 3σ ff )
⎩
(2.8)
ここで,ニップ部における初期の空気巻き込み量厚さ h0 は次に示す Hamrock と Dowson57)
の結果を利用する.
⎛ ηV
h0 = 7.73 R eq ⎜
⎜E R
⎝ eq eq
⎞
⎟
⎟
⎠
0.65
⎛ N
⎜
⎜ E R2
⎝ eq eq
⎞
⎟
⎟
⎠
−0.23
(2.9)
なお,Req は式(2.10)に示す巻取ロールとニップローラの等価半径であり,Eeq は式(2.11)に
示す等価ヤング率である.
24
R eq =
1
1
1
+
s R nip
(2.10)
1
E eq =
1
Er
+
r=s
(2.11)
2
1 − ν nip
E nip
また,σff は次式で定義されるウェブの合成自乗平方根粗さである.
σ ff = σ 2f 1 + σ 2f 2
(2.12)
ただし,添字 1,2 はそれぞれウェブ表面および裏面での粗さを示す.
巻取完了後において最外層には新たなウェブが追加されないので,最外層における境
界条件は次のように設定できる.
δσ r
r=s
=0
(2.13)
式(2.2)~(2.13)に示した境界条件を適用して巻取方程式(2.1)を解くことにより,ロール内部
の半径方向応力を求めることができる.その際,巻取ロールの第 i 層での半径方向応力 σri
は第(i+1)層から第 n 層(巻取の最終層)までの応力増分を式(2.14)のように加算して求めら
れる.
σ ri =
n
∑ δσ
j = i +1
(2.14)
rij
ここで,δσrij は第 i 層まで巻いたときの第 j 層における応力増分を表している.具体的な計
算に際しては式(2.14)を式(2.1)へ代入して得られる応力増分 δσr に関する巻取方程式を境
界条件(2.2)~(2.13)の下に順次解き,式(2.14)に従って重ね合わせていく.また,ロール内
部の接線方向応力は,半径方向応力 σr の計算結果を用いて次の応力の釣合い式(2.15)
により求めることができる.
σθ = σ r + r
dσ r
dr
(2.15)
なお,本研究では通常大気中での巻取りを対象としている.したがって,巻取ロールとニッ
25
プローラの間には空気が巻き込まれるため,ウェブ層間に空気層が形成され,その影響に
よってロール半径方向のヤング率が大きく変化することが知られている.このような問題に
対して,初期ウェブ厚さ h w とウェブ層間の空気膜厚さ h0 を併せた厚さ(hw+h0)の等価層の応
力とひずみの関係ならびにボイルの法則を用いることにより,空気の巻き込みを考慮した半
径方向等価ヤング率 Ereq を求めることができる.そこで,本研究ではこの現象に対して谷本
ら 61)により得られた次式を利用する.
h w + h0
hw
h
+ 0
E r E ra
E req =
(2.16)
ただし,空気層のヤング率 Era は次のように与えられる.
E ra =
(σ
Tw
+ pa )
2
r
r =s
(2.17)
s + pa
一方,巻取りロールの接線方向の等価ヤング率 Eteq は次式により求められる.
E teq =
hf
hf + h
Et
(2.18)
ここで,h は巻取り途中における空気層厚さであり,hf は巻取り途中におけるウェブ厚さであ
る.ウェブに巻き込まれた空気層はウェブが順次巻き取られるにしたがって半径方向応力
σr により圧縮される.したがって,巻取り初めの空気層 h0 から圧縮され減少する.なお,巻き
込まれた空気がロール端面から流出する効果については,神田ら 62)により報告されており,
ウェブ幅が 1m以上の場合には,内部応力への影響を無視できるとしている.本研究で対
象とする巻取装置は,ウェブ幅が 1m 以上である.したがって,巻き込まれた空気がロール
端面から流出しないと仮定すればボイルの法則により巻取り途中における空気層の厚さ h
は次式のように与えられる 65).
h=
Tw
r =s
s + pa
σ r + pa
(2.19)
h0
また,巻き込まれた空気層と同様にウェブ hw も厚さ方向に圧縮されることから,巻き取り途
中におけるウェブの厚さ hf は次のように与えられる 65).
26
⎛ δσ r
h f = hw ⎜⎜1 −
Er
⎝
⎞
⎟⎟
⎠
(2.20)
σr(radial stress)
Condition
Winding velocity V
Air viscosity η
σθ(Tangential stress)
Web layer
Core
s
rc
1
2
3
4 …i-th layer
i ≤ rmax
Air entrainment
r
hw (Initila web thickness)
hf (Web thickness)
h0 (Initial air thickness)
h (Air thickness)
Fig.2-2 Outline of theoretical analytical model
2.2.2
巻取り後の熱弾性特性を考慮した巻取モデル
環境温度は巻取ロール内部の応力状態と密接に関連している.環境温度に起因した巻
取ロール内部の温度変化はロールの各層に熱ひずみを発生させ,これが巻取ロール内部
の応力状態に大きく影響する.このような巻取方式に対してその内部応力を知るにはウェ
ブの熱ひずみを考慮した上で前節の Hakiel のモデルを修正する方法が有効である.そこ
で,本論文では Hakeil のモデルを非定常温度環境下における巻取問題に拡張した神田ら
73)
のモデルを用いる.したがって,図 2-3 に示す理論モデルを用いることにより任意の環境
温度における内部応力の状態を逐次予測することとする.なお,理論モデルの定式化にあ
たっては,前節で述べた Hakiel 修正モデルと同様の仮定を設けている.温度変化における
欠陥の発生は内部の熱ひずみに大きく依存している.この点を考慮して Hakiel のモデルに
熱応力の項を新たに付加すると,半径方向応力 σr に関する基礎方程式が次のように導か
れる 73).
r2
E ⎞
∂ 2σ r
∂σ r ⎛
∂Δ T
+ ⎜⎜1 − θ ⎟⎟σ r = Eθ (α r − α θ )ΔT − Eθ rα θ
+ 3r
2
∂r
∂r ⎝
Er ⎠
∂r
27
(2.21)
式(2.21)を解くためには半径方向応力 σr に関する2つの境界条件が必要である.まず最内
層における境界条件として,ウェブの第 1 層と巻芯における変位(r=rc)での適合性に基づ
いて次式を設定する.
r
∂δσ r
∂r
r = rc
⎛
E ⎞
+ ⎜⎜1 − θ ⎟⎟δ σ r
Ec ⎠
⎝
r = rc
= E θ (α c − α θ ) Δ T
(2.22)
ここで δσr は巻取り中における新たなウェブの追加および巻取り後のロール温度の変化にと
もなうウェブの熱ひずみに起因する応力増分である.したがって,巻取ロール内の半径方
向応力 σr は,巻取り完了までのこれらの応力増分をすべて足し合わせることで求められる.
なお,熱ひずみに起因する応力増加分は巻取り後の温度変化に起因するものである.した
がって,巻取り中における境界条件は前節と同様に設定する.
巻取り直後から巻取ロールの周囲に温度差が生じるとロール内の温度分布は経時で変
化する.そこで,巻取りロールの温度拡散率を a とすれば巻取り完了後の巻取ロールのロ
ール内温度 T に関する非定常熱伝導方程式
80)
⎛ ∂ 2T 1 ∂T ⎞
∂T
⎟
= a⎜⎜ 2 +
∂t
r ∂r ⎟⎠
⎝ ∂r
は次式で与えられる.
(2.23)
ここで,式(2.23)を解くためにはロール温度 T に関する 2 つの境界条件が必要である.巻芯
およびロール端面からの熱損失は少ないと考えられるので,最内層(r=rc )における境界条
件を断熱境界と仮定して次のように設定する.
∂T
∂r
=0
(2.24)
r = rc
一方,巻取ロールと周辺空気の接触面において,熱伝達による熱移動が支配的であり,巻
取ロール最外層の全表面において熱伝達率 hs は一様であると仮定すると,最外層(r=s)に
おける境界条件を次のように設定できる.
⎛ ∂T ⎞
⎟ = −hs (T f − T ) r = s
⎝ ∂r ⎠ r = s
λ⎜
(2.25)
さらに初期条件として,巻取完了時(t=0)における巻取ロール内の温度を次のように設定す
る.
28
T
t =0
= T0
(2.26)
なお,ウェブ表面には粗さが存在するため,空気層厚さ h によりウェブ同士の接触状態はウ
ェブ層間により異なる.一般に空気の熱伝導率はウェブに比べて低いことから,ウェブの接
触状態を考慮した上で,ウェブと空気層を合成した等価熱伝導率 λeq が次式で表わされる.
λ eq =
hw + h
hw
h
+
λw
(2.27)
λ air
巻き込まれる空気層が多く(h>3σff)かつウェブの熱伝導率が高い場合には空気層による熱
伝導に及ぼす影響が大きいことが報告されている.ただし,本研究では層間摩擦力を保つ
こと目的としていることから総じて巻き込まれる空気量は少ないこと,さらに熱伝導率が低い
プラスチックフィルム(λ=0.1W/mK 程度)を扱うことから空気層の熱伝導率は無視できるもの
として計算を進める.なお,このような扱いが妥当であることは神田らの実験結果
73)
により検
証されている.したがって,式(2.24),(2.25)の境界条件および式(2.26)の初期条件の下に
熱伝導方程式を解くことにより,任意の時刻 t における巻取ロール内部の温度分布を計算
することができる.
Ambient temperature Tf
Thermal Strain αrΔT
Heat transfer
Thermal Strain αθΔT
Web layer
Core
Air entrainment
Surface temperature T
Thermal insulation at inner core
Fig.2-3 Theoretical model that takes account of thermal environment
29
2.3
ウェブ搬送の安定化を目的とした巻取条件に関する検討
本開発で対象とする 2 軸ターレット巻取方式では,図 2-4 に示すように 2 つの軸を交互
に駆動させることによってウェブを巻き取るようになっている.そのため,ウェブの搬送を停
止させることなく連続的に生産できることが特徴である.まず,同図(a)はウェブが巻取ロー
ル(A)に順次巻かれており,反対側の駆動軸に巻き芯(B)がセットされている状態を示してい
る.次に,同図(b)に示すようにウェブの切断が可能な定位置までターレットを旋回させ,カ
ッタアームを移動させる.次に,同図(c)に示すようにカッタを動作させ,ウェブを切断する.
この作業により,ウェブの新たな巻き芯(B)への引き継ぎが完了する.その後,同図(d)に示
すように搬送されるウェブは巻取ロール(B)として巻き取られる.このように同図(a)~(d)を 1
周期と考え,これを繰り返すことにより連続的にウェブを巻き取ることができる.図 2-5 は従
来の巻取張力の切り替え方式の概念図を示したものである.巻き始めの張力 Tw(rc)を巻取
長さに応じて比例的に低下させ,目標とする巻取長さに達することで新たな巻き芯にウェブ
を引き継ぐ.張力の低減方法として,このように直線的に沿う方法(テーパ張力方式)が一
般的であり,巻き終り時の張力 Tw(s)は巻き始めの張力に比較して低い値となる.この方式
ではウェブ引き継ぎ直後,新たな巻取張力がステップ状に負荷されるため制御の応答遅れ
が生じ易く,ウェブが安定的に追従できない問題が生じ得る.例えば,ウェブのハンチング
やウェブの蛇行,最悪の場合にはウェブが破断するといったようなことが挙げられる.これら
の現象は,巻き芯の強度,ウェブの機械的性質などのソフト的な条件,あるいはダンサロー
ラなどの張力変動を吸収するハード的な条件に影響され,一義的に原因を特定することは
困難である.しかしながら,少なくともステップ状に負荷される巻取張力によって影響され,
その結果,巻取時の初期の蛇行によって折れしわなどの不具合が発生することは良く経験
されることである.とりわけ,図 2-6(a)に示す模式図のように,ウェブが蛇行した場合には,
蛇行によって生じた空隙部分にウェブが積層されることになる.この場合,新たに巻き取ら
れるウェブを支えるような土台ともなるべきウェブの積層領域が無いために半径方向に対す
る弾性力が極端に減少する.したがって,いわゆる「巻き締り」とは異なる形態でしわが発生
することになり,いかなる巻取条件によっても対応は困難となる.このような問題に対して,
図 2-7 に示すように張力制御の応答性を改善する取り組みも有効な手法として挙げられる
が,これらの特許 46),47)はウェブ巻き始めのテーパ張力の変動に対応することが基本であり,
張力検出器などの装置の追加が要求される.また,経験的に求められたテーパ張力を基
本としていることから,しわなどの欠陥が発生し易い巻き芯付近における内部応力を考慮し
たものではない.なお,前節で述べた巻取ロールの内部応力解析モデルは,1次元として
半径方向のみを扱うためウェブの幅方向における変化は考慮されていない.すなわち,ウ
ェブの巻取りは幅方向に対して均一に巻き取ることを前提としておりウェブの蛇行は考慮さ
れていない.したがって,図 2-6(a)に示すようにウェブが蛇行するような場合には,内部応
力を予測することができないという問題が生じる.図 2-6(b)はウェブ引き継ぎを行った際に
おけるウェブの蛇行によってしわが発生した一例を示している.この事例において,巻き芯
30
に摩擦係数が高いゴムを使用することにより巻き付け初めの 1 層目は蛇行し難く,ウェブ同
士が接触する 2 層目からウェブ層間の摩擦力が低下する.その結果,2層目からウェブが
大きく蛇行し,ある一定量ほどのウェブが巻き取られた後に,巻き芯近くの空隙によりしわが
発生したものである.ウェブの表面に摩擦係数 81)の低いシリコンなどが塗工された場合には
このような現象が顕著であり,ウェブの幅方向における走行の安定性を考慮する必要があ
ることがわかる.ウェブ搬送の安定性を改善する方法として巻取張力や搬送速度を変更す
る方法が考えられるが,その実施に当たっては多分に経験に依存せざるを得ず,非効率的
である.したがって,ウェブ引き継ぎ時の安定的な搬送を目的とした巻取張力の合理的な
設定手法を検討しておくことが重要である.そこで,このような不具合を未然に防止するた
めに,巻き始め張力 Tw(rc)と巻き終り張力 Tw(s)の差を可能な限り小さくすることを考える.提
案する巻取張力の概念図を図 2-8 に示す.張力の差ができるだけ小さくなるように操作す
ることにより,制御の応答遅れなどを軽減する.なお,提案する巻取張力についてはしわと
スリップが発生しないように内部応力を検討しながら,後述の最適化により決定する.本手
法により,巻取装置における巻取初期の搬送の乱れを軽減し,かつ巻取ロール内部の応
力を最適に保つことが期待できる.
31
Guide roller
New core(B)
Wound roll(A)
Wound roll(A)
New core(B)
Web
Nip-roller
Cutter arm
Cutter
Winding wound-roll(A)
Turning of the turret
(a) Motion-1
(b) Motion-2
Wound roll(A)
Nip-roller
Wound roll(B)
Cutter New core(B)
Wound roll(A)
Guide roller
Nip-roller
Splice web
Winding wound-roll(B)
(c) Motion-3
(d) Motion-4
Fig.2-4 Operation of winder
32
Winding tension
Initial wind-up tension Tw(rc)
Winding up for one roll
Tw(r)
|Tw(s)-Tw(rc)|
Splice
Web length
Taper tension
Outermost wind-up tension Tw(s)
Fig.2-5 Hysteresis of taper tension
Web
Datumlin
The gap in the circumferential
Displacement
Gap
Core
(a)Cross section model
(b)Example
Fig.2-6 Defects due to snaking of web
33
特開平 10-7299
Fig.2-7 Method of tension control
Winding tension
Initial wind-up tension Tw(rc)
Tw(r)
Splice
Winding up
Minimize
|Tw(s)-Tw(rc)|
Web length
Optimized tension
Outermost wind-up tension Tw(s)
Fig.2-8 Idea of tension that takes into account web conveyance satbility
34
2.4
巻取条件の検討
2.4.1
巻取り直後における巻取条件の最適化
前節の図 2-8 に示した張力概念図に基づいてウェブ搬送の安定性を改善し,同時にしわ
とスリップを抑制する最適化された巻取り条件を理論的に導出する.巻取条件の最適化に
関しては,橋本ら 76),82)-86)の提案した方法を拡張して用いる.以下にその詳細を述べる.
最適化によって得られる巻取張力はトルク指令値に変換され制御部を介して電気モータ
により与えられる.最適化によって得られたニップ荷重はそれに相当する圧力に変換され,
制御機器に指令値として与えられる.したがって,制御に影響しない程度で滑らかに巻取
条件を設定することを目的として,張力関数 Tw およびニップ荷重関数 N を関数の柔軟さと
扱いやすさを考慮してそれぞれ式(2.28)および式(2.29)に示す 3 次スプライン関数によって
表現する.ここで,記号 Δr は半径方向座標 r の等分割区間,Mi は各区間において表され
る曲線の各節点位置における一次導関数が連続となる条件から決定される形状パラメータ
である.
2
⎛
Mi
(ri +1 − r )3 + M i ( r − ri ) 3 + ⎜⎜ Ti − M i Δ r
6Δr
6Δr
6
⎝
⎛
M Δ r 2 ⎞⎛ r − ri ⎞
⎟⎜
− ⎜⎜ Ti +1 − i +1
⎟ Δr ⎟
6
⎠
⎝
⎠⎝
Tw (r ) =
2
⎛
Mi
(ri +1 − r )3 + M i ( r − ri ) 3 + ⎜⎜ N i − M i Δ r
6
6Δr
6Δr
⎝
⎛
M Δ r 2 ⎞ ⎛ r − ri ⎞
⎟⎟ ⎜
− ⎜⎜ N i +1 − i +1
⎟
6
⎝
⎠⎝ Δ r ⎠
N (r ) =
⎞⎛ ri +1 − r ⎞
⎟⎜
⎟
⎟
⎠⎝ Δ r ⎠
(2.28)
⎞⎛ ri +1 − r ⎞
⎟⎟⎜
⎟
⎠⎝ Δ r ⎠
(2.29)
図 2-9 は最適化を行うにあたって,張力関数 Tw とニップ荷重関数 N を逐次更新する進
化過程を示している.同図(a)に示すように,張力関数 Tw を逐次進化させる際には,図に破
線で示す進化過程((K+1)ステップ)での前段階(K ステップ)の張力関数に対して各接点
P(k)(ri,Ti)の r 座標を固定し,Tw 座標を正の方向あるいは負の方向に δTi だけ変化させて新
たな節点 P(k+1)(ri,Ti)を得る.このようにして得られた新座標値を用いて式(2.28)により関数形
を更新し,後述の目的関数 f(X)の値が最適となるまで逐次進化させていく.なお,ΔTi は任
意の半径位置 ri における初期張力と進化途中(k ステップ)の張力との差を示しており,設計
者が設定した範囲内において決定される.張力同様にニップ関数 N に関しても式(2.29)に
より関数形を更新する.このとき,張力に関しては nr 個の半径方向位置における初期張力
からの変化量,ニップ荷重に関しては mr 個の半径方向位置における初期ニップ荷重から
の変化量をそれぞれ設計変数として設定する.したがって,巻取張力とニップ荷重は次の
ような設計変数ベクトル X として表される.
35
(
Χ = Δ T1 , Δ T 2 , L Δ T n r , Δ N 1 , Δ N 2 , L , Δ N m r
)
(2.30)
ΔTi(i=1 ~ nr)および ΔNj(j=1 ~ mr) はそれぞれ初期張力及び初期ニップ荷重からの更新量
である. i,j は半径方向の分割位置を表す.なお,設計変数ベクトルの探索範囲は最大張
力 Twmax,最大ニップ荷重 Nmax を上限値として,最小張力 Twmin,最小ニップ荷重 Nmin を下
限値として選び,これらの値は設計者が予め設定する.多くの場合は,実機の仕様として
示されている運転が可能な最大範囲を設定すれば良い.したがって,制約関数 gi(X)にお
いて巻取張力とニップ荷重の制約条件に関しては,次式で与えられる.
g1 = ΔT 1 min −ΔT1 , g 2 = ΔT1 − ΔT1 max
⎫
⎪
g 3 = ΔT2 min − ΔT2 , g 4 = ΔT2 − ΔT2 max
⎪
⎪
M
⎪
g 2 nr −1 = ΔTnr min − ΔTnr , g 2 nr = ΔTn r − ΔTnr max
⎪
⎬
g 2 nr +1 = ΔN1 max − ΔN 1 , g 2 nr + 2 = ΔN 1 − ΔN 1 max
⎪
⎪
g 2 nr +3 = ΔN 2 min − ΔN 2 , g 2 nr + 4 = ΔN 2 − ΔN 2 max
⎪
M
⎪
g 2 nr + 2 mr −1 = ΔN mr min − ΔN mr , g 2 nr + 2 mr = ΔN mr − ΔN mr max ⎪⎭
(2.31)
なお,本開発では nr と mr についてはこれらを逐次増加させて目的関数の値を計算し,関
数値が一定となる時点での値を選定して,可能な限り設計変数が小さくなることを意識して
nr=7 , mr=4 と決定した.実機に最適化機能を搭載する上で,コストおよび設置スペースの
観点から計算機の処理能力は限られる.したがって,計算機への負荷を軽減し,素早く最
適な巻取条件を導きだすことも重要なことによる処理である.また,ウェブのしわを防止する
ためには,接線方向応力に圧縮応力が生じないことが必要である.そのため,すべての領
域において接線方向応力の最小値 σmin が非負であるとする条件として式(2.32)を課す.
g 2 nr + 2 mr +1 = −σ min
(2.32)
また,本開発では,巻取ロールをクレーンで吊り上げ,巻き取られたロールがある程度移動
してもスリップが発生しないような摩擦力を想定し,これを臨界摩擦力 Fcr とした.したがって,
スリップを防止するためには,ウェブの層間摩擦力が滑りを開始する臨界摩擦力 Fcr 以上に
保たれていることが必要であり,条件として式(2.33)を課す.
36
g 2 nr + 2 mr + 2 = Fcr − F ( r = 0.95rmax )
(2.33)
臨界摩擦力の設定範囲は巻取ロールの最外層から 5%小さい巻取り径付近( r=0.95rmax)と
している.これは,巻き終わり時の最終層には張力が掛からないため最外層での層間摩擦
力がゼロになり,すべての領域において層間摩擦力を確保することが困難であることによる
処理である.なお,ロールの型崩れの発生には保管や移送環境,あるいは巻取ロールの保
持方法など多様な要因が内在し,それらを厳密に同じ条件として表現することはできない.
すなわち,スリップを発生させようとする外力や衝撃力は個々の状況によって異なる.その
ため,臨界摩擦力もそれに追従するように設定することが肝要である.
以上のことを考慮して,制約条件を次の不等式によって表す.
g i (X ) ≤ 0 (i = 1 ~ 2nr + 2mr + 2)
(2.34)
なお,制約関数 gi(X)は次式でまとめられる.
g1 = ΔT 1min− ΔT1 , g 2 = ΔT1 − ΔT1max
⎫
⎪
g 3 = ΔT2 min − ΔT2 , g 4 = ΔT2 − ΔT2 max
⎪
⎪
M
⎪
g 2 nr −1 = ΔTnr min − ΔTnr , g 2 nr = ΔTnr − ΔTnr max
⎪
⎪
g 2 nr +1 = ΔN1max − ΔN1 , g 2 nr + 2 = ΔN1 − ΔN1max
⎪
⎬
g 2 nr +3 = ΔN 2 min − ΔN 2 , g 2 nr + 4 = ΔN 2 − ΔN 2 max
⎪
⎪
M
⎪
g 2 n r +2 mr −1 = ΔN mr min − ΔN mr , g 2 nr + 2 mr = ΔN mr − ΔN mr max ⎪
⎪
g 2 nr + 2 mr +1 = −σ min
⎪
⎪
g 2 nr + 2 mr + 2 = Fcr − F (r = 0.95rmax )
⎭
(2.35)
しわを抑制するためには接線方向応力を非負に保つ必要があるが,必要以上に接線方
向応力が大きい場合にはウェブのひずみが大きくなるためデバイスの品質に影響を与え,
最悪の場合にはウェブの弾性限界を超えてしまう.したがって,可能な限りウェブに応力を
掛けない状態が望ましい.さらに,耐スリップ力を保持するために,半径方向応力を大きく
取り過ぎるとウェブ層間の押しつけ力も増大し,ウェブの材質によってはウェブ同士が貼り
つく現象(ブロッキング)やウェブ厚さの不均一性などに起因するしわ(ゲージバンド)が発
生する可能性が高い.これらの現象が発生した場合,次工程でウェブを繰り出す場合にウ
ェブの表面に傷などの欠陥が発生する.そのため,スリップを防止する一方で層間摩擦力
37
を最小に保つ必要がある.したがって,目的関数の設定に当たってはロールの半径位置の
広い範囲において円周方向応力が非負で,かつゼロに近く,さらに層間摩擦力と臨界摩
擦力の差が正で,かつゼロに近づくようにする.また,前述のウェブ引き継ぎ時におけるウェ
ブ搬送の安定化を目的として巻き始めの張力と巻き終りの張力の差がゼロに近づくように
する.したがって,最小化すべき目的関数は次式によって定義される.
f (Χ ) = ∫
s
rc
2
2
2
⎡⎛ F
⎛ T (s)
⎞
⎞ ⎛⎜ σ θ ( r ) ⎞⎟ ⎤
cr
⎢⎜
⎥ dr + ⎜ w
⎟
⎟
+
−
−
1
1
⎜ T (r ) ⎟
⎢⎜⎝ F ( r ) ⎟⎠ ⎜⎝ σ θ ref ⎟⎠ ⎥
⎝ w c
⎠
⎣
⎦
(2.36)
なお,層間摩擦力 F(r) は式(2.37)により求める. μeff は巻き取られたロールのウェブ層間の
摩擦係数であり,式(2.8)において初期空気膜厚さ h0 の代わりに式(2.19)より得られる巻取り
途中における空気膜厚さ h を使用することにより求められる.
F (r ) = 2πrμ eff σ r W
(2.37)
また,計算機による計算誤差を防止し,収束性の向上を図るために接線方向応力に関す
るスケーリングを行う.そこで,スケーリングのために接線方向応力 σθref を導入し,式(2.38)
で与える.
σ θref = T w 0 / h w
(2.38)
以上により,巻取張力とニップ荷重の最適化問題は次のように定式化される.
Find
Χ to minimize
f ( Χ)
subject to (2.39)
g i ( Χ) ≤ 0(i = 1~2nr + 2mr + 2)
本最適設計問題は制約関数をもつ非線形最適設計問題
86)
である.そこで,橋本らよる最
適化手法を踏まえて,式(2.30)-(2.38)に対して次式(2.40)を定義し,2 次計画問題として逐
次近似し最適解を求めてゆく.ここで, d(k) は探索ベクトル, B(k)はヘッセ行列であり, k は反
復回数を示す.
38
Find
d (k )
to minimize
1
∇f ( X ( k ) ) T d ( k ) + ( d ( k ) ) T B ( k ) d ( k )
2
subject to (2.40)
g i ( X ( k ) ) + ∇g i ( X ( k ) )T d ( k ) ≤ 0(i = 1~2nr + 2mr + 4)
なお,準ニュートン法に基づいて探索を行うため B(k)は BFGS 公式(式(2.41))により更新さ
れる.
B
( k +1)
=B
(k )
Y ( k ) (Y ( k ) ) T B ( k ) A ( k ) ( A ( k ) ) T B ( k )
+ (k ) T (k ) −
(Y ) A
( A(k ) )T B (k ) A( k )
(2.41)
A(k),Y(k)はそれぞれ次式で与えられる.
A ( k ) = X ( k +1) − X ( k )
(2.42)
Y ( k ) = ∇f ( X ( k +1) ) − ∇f ( X ( k ) )
(2.43)
計算手順は次のようにまとめられる.
1.
計算に必要とされる適当な初期張力および初期ニップ荷重,ウェブ物性値などの
初期値を設定する.また,十分に大きなペナルティパラメータ rp を設定する.
2.
2 次計画問題として探索ベクトル d(k),ラグランジュ乗数 u(k+1)を求める.
3.
d(k)=0 であれば Xopt=X(k)として収束終了.さもなければステップ 4 へ.d(k)=0 に
なるまでステップ 2 からステップ 8 を繰り返す.
4.
rp<max{u(k+1)}であれば,ペナルティパラメータ rp を更新する. rp=max{u(k+1)}と
する.
5.
直接探索法によりペナルティ関数 Fr(X(k)+ts(k)d(k))を最小とするステップサイズ
ts(k)を求める.なお,ペナルティ関数 Fr(X)は次式で定義される.
Fr ( X ) = f ( X ) + r p
2 nr + 2 mr + 4
∑ min( 0, g
i =1
i
( X ))
6.X(k+1)=x(k)+ts(k)d(k)より,次ステップの X(k+1)を求める.
7.BFGS 公式により B(k+1)を求める.
8.k=k+1 とおいてステップ 2 へ戻る.
39
(2.44)
なお,初期値を 1 個のみにした場合,導出される設計変数が局所的な最適解に陥る可
能性がある.そこで,最適設計に際して初期張力のテーパ率を様々に変化させて計算を行
い,すべて同一の関数値に収束することを確認している.これによって本解法により得られ
る解が大域的な最適解であると判断している.すなわち,複数の初期値を用いることで局
所的最適解に陥る危険性を軽減している.図 2-10 は最適設計の手順を流れ図として示し
たものである.設計作業は初期値設定,巻取り完了時までの内部応力の計算,最適化の 3
段階より構成されている.なお,この手順は巻取直後における内部応力の最適化を扱った
ものである.
40
Winding tension Tw
Pi-1
δTi-1
Pi-1
Optimized tension
Pi(1)
Pi-1(k+1)ΔT
ΔTi-1
Ti-1
Initial tension
(1)
Pi+1(1)
ΔTi+1
i
Pi(k+1)
(k)
Pi+1(k+1)
δTi
Ti
Pi(k)
δTi+1
Ti+1
Pi+1(k)
ri
ri-1
ri+1
Radial coordinate
(a) Evolution of tension
Optimized nip-load
Nip-load N
Initial nip-load
Ni+1
Ni
Ni-1
ΔNi-1
(k)
δNi-1 Pi-1 ΔNi
Pi-1
Pi
δNi
ΔNi+1
Pi(k+1)
(k+1)
Pi(1)
Pi-1(1)
ri-1
(k)
ri
Pi+1(k)
δNi+1
Pi+1(k+1)
Pi+1(1)
ri+1
Radial coordinate
(b) Evolution of nip-load
Fig.2-9 Evolution of winding condition under optimization
41
Start
Set initial values
Preparation
Set Tw and N
in the radial
Update σr
Calculation of Er
Solve equations of δσr
using Eq(2-1),(2-5)and(2-6)
Update r
n=n+1
During winding
Calculation of σr,σθ using δσr
No
Maximum radius?
Yes
Update
Tw and N
Find design value X
using Eq(2-29)-(2-38)
No
Optimization
Optimum results?
Yes
End
Fig.2-10 Flow of calculation
42
2.4.2
巻取り後の温度変化の影響
図 2-11 は生産現場において,エージングや移送中の温度変化により巻取ロールに生じ
たスリップとしわを観察し,写真撮影した事例を示している.図 2-11(a)は巻取直後の様子
を,図 2-11(b)は環境温度が数日にわたって変化した後の様子を示している.巻取り直後
にはしわとスリップは認められないのに対して,環境温度が変化した場合には,図 2-11(c)
および図 2-11(d)の拡大写真から明らかなように,巻径領域全体にわたる大小様々なしわと
巻芯付近でのスリップが認められる.このような現象は従来から熱ひずみに起因するものと
考えられており,その対策が急務のこととされてきた.しかしながら,熱的環境に起因する不
具合は,巻取条件やウェブの異方性,あるいは,巻芯の熱膨張が因子として絡んでおり,
複雑である.さらに,巻取後のロール温度は時々刻々と変化することが多く,それによって
巻取ロールの内部応力も経時で変動し,巻取直後には確認されなかったしわやスリップな
どの不具合が発生することが多い.例えば,保管・移送中の環境温度が季節や地域などに
よって緩やかに変化するような場合には,巻取ロールの内部応力も緩やかな変化を示す.
この場合,不具合の発覚までに長時間の観察を要し,製品の再生産およびそれに関わる
生産計画の見直し等による経済的な損失は多大である.このような状況を踏まえて,本節
では巻取り直後のロールが加熱および冷却される状況を想定し,不具合を防止する最適
巻取条件を検討する.なお,実際の製造プロセスにおいて,ウェブの軟化点温度を超える
ような熱処理や極端な冷却処理などは行わないため実用的な範囲で温度を見積もることが
肝要である.そこで,具体的な条件として,巻取直後における環境温度の変化を
ΔTf=+20K および ΔTf=-20K と想定し,これら 2 つの場合においてロール内部の熱応力を
予測する.加熱条件としては,巻取ロールが夏場に空調管理された部屋から屋外へ搬出さ
れる場合,あるいは一般的なエージングの条件を想定しており,冷却条件としては,冬場に
搬出される場合や冷蔵保管される場合を想定した結果である.この仮定は,従来の生産条
件やユーザに対する独自のヒアリング結果から妥当であると考えられる.一例として,図
2-12 に実際の製造プロセスにおいて巻出し工程から次工程に至るまでの巻取りロール周
辺の環境温度を計測した結果を示す.同図を見るとわかるように,エージングの場合にお
いて最も急激な環境温度の上昇・下降を示しているものの多くの時間領域において緩やか
な温度の変化を示している.このような環境温度では,巻取ロール内部の温度変化も総じ
て緩やかであり,外観検査によって不具合の発生が確認できるまでには少なくとも 3,4 日
間程度の時間を要する.そのため,巻取条件に起因して不具合が発生した場合には,そ
の再生産を含めた時間的な損失は大きい.さらに,プラスチックフィルムの熱伝導率は総じ
て低く,環境温度の操作に対して,巻取ロールの内部温度が鋭敏に変化しないことから,
不具合の進行を軽減させる具体的な対処方法も見当たらない.したがって, このような想
定をもとに最適な巻取条件を導出し,加熱・冷却いずれの場合においても不具合を防止す
ることが重要である.
43
Core
No defect
(a) Whole view after winding
A
B
100mm
A
A
Defect
(b) Whole view after storage
Slippage
from edge
Core edge
Core
Wrinkle region
Wrinkle region
(d) Enlarged photo at B
(c) Enlarged photo at A
Fig. 2-11 Typical example of web defects due to temperature change
44
Environmental temperature,℃
50
40
30
20
10
Storage
and winding
0
0
50
Aging
100
Storage
150
200
250
300
Time t, hr.
Fig.2-12 Example of environmental temperature
2.4.3
環境温度の経時変化を考慮した巻取条件の最適化
前述で設定した温度環境下( ΔTf=±20K )において最適な巻取条件を設定し,巻取ロー
ルの欠陥を防止することができれば実用上は問題ない.そこで,温度が上昇(加熱)した場
合と低下(冷却)した場合においてしわとスリップを同時に防止できる巻取条件を検討す
る.
最適化手法は,前節で提案した方法を拡張する.設計変数ベクトル X は張力とニップ荷
重を最適化の対象とするため次式で定義する.
(
X = Δ T1 , Δ T 2 , L Δ T n r , Δ N 1 , Δ N 2 , L , Δ N m r
)
(2.45)
巻取条件である張力関数およびニップ荷重関数は前節で述べた巻取り直後における巻取
条 件 の最 適 化 と同 様 の扱 いとする.したがって,任 意 の巻き径 位 置 に対 する分 割 位 置
(nr=7,mr=4)は同じ設定とする.また,設計変数ベクトル X の探索範囲は上限値と下限値の
間に規定され,上限値として最大張力 ΔTmax,最大ニップ荷重 ΔNmax を,下限値として最小
張力 ΔTmin,最小ニップ荷重 ΔNmin を与える.したがって,巻取張力とニップ荷重に関する制
約関数 gi(X)は前節の条件と同等の設定で良い.加熱や冷却が行われる温度環境下にお
いてしわを防止するためには,経過時間を通じて接線方向に圧縮応力が生じないこと(不
等 式 で σθ(r,t)≥0 と 表 現 さ れ る ) が 必 要 で あ る . そ こ で , 巻 取 り ロ ー ル 内 部 の 全 領 域
(1.0<r/rc<rmax/rc)における最小値を σθmin とし,制約条件を設定する.加熱される条件下に
おいては,次式 (2.46)を課す.
45
g 2 nr + 2 mr +1 = −[σ θ min ( r , t )]+ ΔT f
(2.46)
冷却される条件下においては,次式(2.47)を課す.
g 2 nr + 2 mr +3 = −[σ θ min ( r , t )]− ΔT f
(2.47)
また,同時にスリップを防止するためには,経過時間を通じて層間摩擦力 F が臨界摩擦力
Fcr 以上に保たれていること(不等式で F(r,t)≥Fcr と表現される)が必要である.そこで,温度
が上昇(加熱)した場合と低下(冷却)した場合においてスリップを回避できるように制約条件
として設定する.加熱される条件下においては,次式(2.47)を課す.
g 2nr +2mr + 2 = Fcr − [F (r, t )]+ΔT f
( for r / rc < 0.98rmax / rc )
(2.48)
また,冷却される条件下においては,次式(2.49)を課す.
g 2nr +2mr + 4 = Fcr − [F (r, t )]−ΔT f
( for r / rc < 0.98rmax / rc )
(2.49)
臨界摩擦力の設定範囲は巻取ロールの最外層より 2%小さい全ての領域としている.これは,
経時変化により巻取ロール内部の応力が複雑に変化し,最外層付近のみならず最内層付
近においてもスリップする可能性があるためである.以上のことより制約関数 gi(X)を次式で
定義する.
g 1 = ΔT 1 min −ΔT1 , g 2 = ΔT1 − ΔT1 max
M
g 2 nr −1 = ΔTnr min − ΔTnr , g 2 n = ΔTnr − ΔTnr max
g 2 nr +1 = ΔN 1 max − ΔN 1 , g 2 nr + 2 = ΔN 1 − ΔN 1 max
M
g 2 nr + 2 mr −1 = ΔN mr min − ΔN mr , g 2 nr + 2 mr = ΔN mr − ΔN mr max
g 2 nr + 2 mr +1 = −[σ θ min (r , t )]+ ΔT f g 2 nr + 2 mr + 2 = Fcr − [F (r , t )]+ ΔT f
( for r / rc < 0.98rmax
g 2 nr + 2 mr + 4 = Fcr − [F (r , t )]− ΔT f
( for r / rc < 0.98rmax
g 2 nr + 2 mr +3 = −[σ θ min (r , t )]− ΔT f
46
⎫
⎪
⎪
⎪
⎪
⎪
⎪
⎪
⎬
⎪
⎪
⎪
/ rc )⎪
⎪
⎪
/ rc )⎪
⎭
(2.50)
本最適設計は非定常状態を扱うため,すべての時間に対して制約条件を設定することとす
る.巻取ロールを次工程に移送するまでの数日間,あるいはエージングにおける数時間を
設定することができ,操作者が任意に設定すれば良い.なお,本最適設計例では計算時
間を考慮し,巻取り直後(t=0hr.)から指時時刻まで 10 秒間隔で巻取ロール内部の応力を求
め,15 分毎における計算結果を制約条件の対象としている.
以上のことから,本最適化問題における制約条件を以下の不等式によって表すこととす
る.
g i ( X ) ≤ 0 (i = 1 ~ 2nr + 2mr + 4)
(2.51)
目的関数 f(X)については,前述と同じくロールの広範囲の半径位置において接線方向
応力が非負であり,ゼロに近いこと,さらに層間摩擦力が臨界摩擦力に等しいか大きく,そ
の差ができる限りゼロに近づくこととし,加えてウェブ引き継ぎ前後の張力差が最小となるよ
うに決定する.したがって,最小化すべき目的関数は次式となる.
f (X ) = ∫
s
rc
2
2
⎡⎛ F ( r , t )
⎛ σ θ (r , t ) ⎞ ⎤
⎞
⎜
⎟
⎢⎜
⎥ dr
− 1⎟⎟ +
⎜ σ
⎟ ⎥
⎢⎜⎝ Fcr
⎠
⎝ θ ref ⎠ ⎦
⎣
⎛ T (s)
⎞
+ ⎜⎜ w
− 1⎟⎟
⎝ Tw ( rc )
⎠
(2.52)
2
以上により,巻取張力とニップ荷重の最適化問題は次のように定式化される.
Find
X
to minimize
f (X )
subject to g i ( X ) ≤ 0(i = 1~2nr + 2mr + 4)
(2.53)
本最適設計問題は前節の非線形最適設計問題と同様の手法で計算すれば良い.図
2-13 は最適設計の手順を流れ図として示したものである.設計作業は初期値設定,巻取り
完了時までの内部応力の計算,指定時刻までの内部応力の計算,最適化の 4 段階より構
成されている.なお,この手順は巻取後の温度変化を扱ったものであり,巻取中の温度変
化を考慮したものではない.
47
Start
Set initial values
Set Tw and N in the radial position
Preparation
Update σr
Calculation of Er
Solve equations of δσr
using Eq(2-1),(2-5)and(2-6)
Update r
n=n+1
During
winding
Calculation of σr,σθ using δσr
No
Maximum radius?
Yes
Set in-roll stress σr, σθ at time t=0
Set thermal condition Values
Solve equations of T
using Eq(2-23),(2-24)and(2-25)
t=t+Δt
Update σr
Update r
n=n+1
Solve equations of δσr
using Eq(2-21),(2-22)and(2-6)
During
storage
Both in the
case of +ΔTf
,and the case of
-ΔTf
Calculation of σr,σθ using δσr
No
No
Maximum radius?
Yes
Storage finished?
Yes
Update
Tw and N
Find design value X
using Eq(2-45)-(2-53)
No
Optimization
Optimum results?
Yes
End
Fig.2-13 Flow of calculation
48
2.5
結言
本章では,ウェブ引き継ぎ時におけるウェブの搬送の安定性に着目し,巻取り直後にお
ける巻取ロールのしわとスリップを同時に防止する巻取条件の最適化を検討した.さらに,
環境温度の変化に伴う巻取ロール内部の応力状態に着目し,巻取り後の温度変化の影響
を考慮した上で巻取ロールのしわとスリップを同時に防止する巻取条件の最適化を検討し
た.得られた主な結論を以下に示す.
(1)
巻取り時の設定パラメータのうち巻取張力に次いで重要なニップ荷重について検
討し,巻取張力とニップ荷重の両方を含めた巻取条件の最適化手法を提示し
た.
(2)
ウェブ引き継ぎ直後は,新たな巻取張力がステップ状に負荷されるため制御の応
答遅れが生じ易く,ウェブが安定的に追従できない可能性を示した.
(3)
ウェブ走行の安定性を増すために,巻初めと巻終わりの張力の差を可能な限り小
さくすることを提案し,最適化手法として定式化した.
(4)
結論(3)に述べた手法を適用した上で,巻取り直後におけるしわとスリップを同時
に防止できる巻取条件の理論モデルを構築した.
(5)
実際の製造現場で起こり得る不規則な温度変動を調査・検討して,しわとスリップ
を防止する最適な巻取条件を解析する上での,実用的な温度範囲を提示した.
(6)
巻取り直後から任意の時間を最適化の対象とし,巻取ロールの温度変化の影響
を鑑みた上で,結論(1),(4)と併せて最適化機能を構築した.
49
第3章
3.1
理論モデルの実験的検証
緒言
前章までに,巻取理論モデルに基づいた巻取条件の最適化機能を構築
88)-90)
した.本章
では,実測された内部応力と解析結果を比較することにより,対策に基づいて得られた理
論モデルの妥当性を確認し,その有用性を検証する.ただし,巻取試験による検証には多
額のコストが掛かること,また重量物や回転機械を扱うことからも安全性の観点において定
量的な測定データを得ることが困難である.そこで,本研究では,一般に良く用いられてい
る PET フィルム
91)-93)
を対象とし,重量も軽くウェブの扱いが簡単な仕様(ウェブ幅 280mm)
において具体的な巻取条件により最適化機能の効果を確認した
94),95)
.さらに,PET フィル
ムのヤング率の温度依存性を考慮した上で,巻取ロールの内部応力に及ぼす影響を検討
した.ヤング率の温度依存性を把握しておくことは,実機の操作者に物性値の測定方法を
提供する上でも重要である.
3.2
内部応力の解析に用いる物性値の測定
3.2.1
ウェブのヤング率について
前章までにおいて,巻取り直後から環境温度の経時変化までを考慮した上でロール内部
の熱応力を求め,巻取条件を最適設計理論に基づいて決定する手法を示した.ロール内
部の応力を理論的に予測する場合には,計算に用いられる物性値を精度良く見積もって
おくことが重要である.とりわけ,巻取ロールの接線方向および半径方向におけるヤング率
が内部応力に大きく影響することから,いわゆるウェブの異方性を考慮した取り扱いが必要
である.なお,一般にウェブは製膜時における延伸率と結晶構造の違いに起因して,ヤン
グ率は異方性を有し,かつ,環境温度によってヤング率が変化する
96)
.しかしながら,巻取
ロールの内部応力に対するヤング率の温度依存性の影響は明らかにされておらず,それ
を考慮した実験的検証も見当たらない.そのため,内部応力を理論的に求める上で,物性
値の温度依存性の影響を把握しておくことは重要である.そこで,まず内部応力の計算に
用いるウェブのヤング率について検証を実施しておく.ヤング率の温度依存性を考慮した
場合と考慮しない場合において計測を実施し,それら両者の物性値を用いて内部応力へ
の影響を検証する.なお,本研究では包装やタッチパネルなどで広く用いられている PET
を対象とした.
3.2.2
接線方向ヤング率の測定
接線方向のヤング率は図 3-1 に示す万能材料試験機(Instorn 製 3360 および 5965)を
用いて測定を実施した.試験方法は JISK712797)および JISK716198)に規定された方法に従
- 50 -
い,試験片の寸法は幅 15mm,標点距離 100mm,厚さ 50um の短冊状の形状とし,引張速
度は 0.2mm/s とした.また,環境温度は 25~65℃の範囲において 10℃毎に設定した上で
個別に計測を実施した.なお,測定部の環境温度は恒温槽により,設定値に対して偏差
±2℃以内に保つことができる構造となっている.図 3-2 は引張試験で得た応力ひずみ線
図の勾配から算出したヤング率を測定温度に対してプロットした結果である.同図からわか
るように,接線方向ヤング率は環境温度の上昇に伴い減少する傾向を示している.なお,
同図において実線は実測したそれぞれの環境温度に対するヤング率を式(3.1)に示す一
次関数で近似した結果である.
Eθ = −0.0135T f + 4.66[GPa ]
(3.1)
また,同図において破線は環境温度 25℃において実測したヤング率を一定値として示し
た結果(Eθ=4.3Gpa)である.これは,後述する内部応力の計算において,ヤング率の温度
依存性を考慮しないものとして扱うことによる処理である.なお,実際の計測作業において
設定する環境温度は室温に近いほうが便利である.そのため,温度依存性を考慮しない
場合には一般的な室温に近い環境温度 25℃における計測値(Eθ=4.3Gpa)を用いることに
した.
Thermostat inspection chamber
PET
(a)Pulling examination device
(b)Thermostat inspection chamber
Fig. 3-1 Intensity testing device
- 51 -
Young’s modulus Eθ , GPa
6
Eθ=4.3[GPa]
5
4
3
Eθ=-0.0135Te+4.66[GPa]
2
Approximation formula
Treating Young’s modulus at 25℃
1
0
20
as a constant value
30
40
50
60
70
Temperature Tf,℃
Fig. 3-2 Temperature dependence of Young’s modulus
3.2.3
半径方向ヤング率の測定
巻取ロールは薄いウェブを積み重ねるために半径方向のヤング率は層間圧力に大きく依
存し,非線形性を示すことが知られている 55).そのため,非線形性を考慮した上で,半径方
向ヤング率を見積もることが重要であり,このような問題に対して Pfeiffer55),99) は薄いウェブ
Specimen
Table
(b)Specimen of PET
(a)Compression examination device
Fig. 3-3 Compressive strength testing device
- 52 -
Compressive stress σrc, MPa
1.5
●
■
1.0
▲
Tf=25[℃]
Tf=45[℃]
Tf=60[℃]
0.5
0
0.02
0.04
Strain ε
(a) Strain curve
0.06
0.08
Young’s modulus Er, MPa
200
Er=1.35×104σr0.71
Tf=25[℃]
Tf=45[℃]
Tf=60[℃]
100
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Radial stress σr ,MPa
(b) Young’s modulus curve
Fig. 3-4 Young’s modulus at various temperatures
を積み重ねた場合の半径方向ヤング率を実験的に導出する手法として圧縮試験法を推奨
している.しかしながら,Pfeiffer による手法は一定温度の環境下において半径方向ヤング
率を測定するものであり,巻取ロールの温度が変化するような場合には,ヤング率が常に一
致するとは限らない.そこで,半径方向ヤング率の温度依存性について検討しておく.
圧縮方向の計測には前述の万能材料試験機を使用しており,図 3-3 に示す装置構成で
- 53 -
PET の圧縮試験を実施している.試験片は,100mm 四方で切り取ったウェブを 200 枚積層
したものであり,同図に示すように,積層させたウェブを 1 つの試験片として扱う.なお,試
験片を作成する作業性を鑑みて積層枚数を 200 枚とし,200 枚以上ではヤング率が変化し
ないことを確認している.また,試験時における環境温度はそれぞれ 25℃,45℃,および
60℃で実施しており,恒温槽を用いて設定した.図 3-4(a)に圧縮試験を行った応力ひずみ
線図を,図 3-4(b)にその応力ひずみ線図から導出した各温度における半径方向ヤング率
を示す.同図(a)にみられるように,応力ひずみ線図は非線形となり,応力の増加に伴い,
応力ひずみ線図の傾き,すなわちヤング率が大きくなることがわかる.そこで,それぞれの
温度で測定した応力ひずみ線図に対して,式(3.2)に示す実験公式に基づいて係数(A1 お
よび B1)を同定することにより,半径方向ヤング率を表すことにした.
E r = A1σ r
B1
(3.2)
同図(b)において,各線種は測定時の環境温度を示しており,実線は環境温度 25℃を,
破線は環境温度 45℃を,一点鎖線は環境温度 60℃をそれぞれ示している.なお,同図よ
り,半径方向応力が増加するにしたがって,各温度における半径方向ヤング率の違いが見
られるものの大きな差が生じていないことがわかる.したがって,内部応力の計算に際して
は,一般的な室温に近い環境温度 25℃の計測から得られた式(3.3)を採用した.なお,この
ような扱いが妥当であることは後述の実験結果により検証している.
E r = 1.35 × 10 4 σ r0.71
3.2.4
(3.3)
ウェブのクリープ特性
ウェブは高分子化合物であることから機械的特性が変化する粘弾性を有している.その
ため,時間の経過とともにヤング率が変化し,巻取ロールの内部応力に影響を及ぼす可能
性がある.とりわけ,環境温度を考慮する場合には,巻取ロールが長時間保管されることか
ら,その特性を把握しておくことは重要である.そこで,引張クリープ試験を実施して,ウェ
ブの粘弾性特性について検証した.試験装置は接線方向ヤング率の測定で用いたものと
同様,図 3-1 に示す万能材料試験機を使用した.なお,クリープ試験による試験片のひず
みは引張荷重によるひずみに比較して小さいため,測定精度を考慮して長さ 500mm の試
験片を使用した.図 3-5 は環境温度が 25℃の場合におけるクリープ変位の計測結果であり,
引張応力 2MPa,4MPa,6MPa,および 8MPa に相当する一定荷重をそれぞれ与えている.
同図に見られるように PET の場合においては,いずれの時間においても試験開始直後
(t=0)における初期変位からの変化は見受けられない.さらに,環境温度が 60℃の場合に
おいてもクリープ変位は同様の結果であった.これは,PET のガラス転移温度が約 70℃付
近であることから温度による影響が少ないことが考えられる.したがって,ロールの内部応力
- 54 -
Displacement θ , mm
2
1.5
8.0MPa
6.0MPa
2.0MPa
4.0MPa
1
0.5
0
0
2
4
6
8
10
12
Time t,hr
Fig. 3-5 Results of tensile creep testing
に対するクリープ特性の影響は少ないことが予想され,粘弾性の影響は考慮しないこととし
た.
3.3
3.3.1
巻取試験による内部応力理論モデルの実験的検証
実験装置と方法
前章で述べたヤング率の温度依存性について,熱応力に対する巻取理論への適用性を
判定するために,図 3-6 に示す方法で温度と半径方向応力を測定し,理論結果との比較
を行った.ロール内部の温度と半径方向応力を測定するため,巻取り中のフィルム層間に
温度センサならびに圧力センサを挿入する.この圧力センサは感圧部の圧力の増加に伴
い回路の抵抗値が減少する特性を有しており,抵抗値を計測することで感圧部に作用する
圧力を測定することができる.また,温度測定には小型のサーミスタを用いた.なお,実験
に使用したウェブの物性値および実験条件を表 3-1 に示しておく.実験においては環境温
度 Tf を任意に調整可能な図 3-7 に示す温調保管庫を使用した.この保管庫内部はヒータ
と冷凍機,ファンから構成されており,巻取ロールをこの中に設置することでロールの加熱と
冷却を行うことができる.なお,保管庫内はファンで攪拌することで温度分布を一様に保つ
ことができ,指令値に対し±1℃の偏差で制御できることを確認している.また,熱伝達率 hs
の測定には熱流束センサと温度センサを用い,評価対象面に設置した熱流束センサで熱
流束 q とセンサ表面温度 Ts を計測し,これらの値を用いて式(3.4)により求めている.
hs =
q
T f − Ts
(3.4)
- 55 -
Thermocouple
Wound roll
Pressure sensor
Tw
Nip roller
Core
Fig. 3-6 Method of measuring internal stress and temperature
Table 3-1 Conditions for experimental
Web width
Web Thickness
Maximum radius
Young’s modulus in radial direction of web
Composite RMS roughness of web
Friction coefficient
Thermal conductivity of web
[m]
[μm]
rmax [m]
Er=Aσ nr ,
[Pa]
Eθ
[Pa]
[μm]
[-]
[W/(mK)]
4.3
×109
0.1
0.3
0.12
Specific heat of web
[J/(kgK)]
936
Young’s modulus in circumferential direction of web
3
0.28
50
0.099
A = 1 . 35 × 10 4
n = 0 . 71
Density of web
[kg/m ]
1400
Expansion coefficient in radial direction αr
[1/K]
15.5×10 -5
Expansion coefficient in circumferential direction αθ
[1/K]
2.1×10-5
Expansion coefficient of core αc
[1/K]
1.4×10-5
Young’s modulus of core
[Pa]
17.0×109
Core radius rc
0.0451
Winding velocity
[m]
[m/s]
Winding tension
[N/m]
100
Nip load
[N/m]
1.0
235
2
Heat transfer coefficient
hs[W/m K]
- 56 -
33.0
Wound roll
Fun device
Sensor
Fig. 3-7 Temperature controlled storage cabinet
3.3.2
加熱および冷却された場合における巻取ロールの内部応力
前述のヤング率の測定結果より,内部応力に対するヤング率の温度依存性の影響は少
ないと予想される.そこで,前段階として内部応力に対するヤング率の温度依存性の影響
を理論的に検討しておく.図 3-8 は具体的な条件として,巻取り直後における温度変化を
ΔTf=+20K(巻取直後の温度 T0 を 20℃,環境温度 Tf を 40℃)と想定した上で,巻取り直後
から 12 時間経過するまでの非定常熱応力解析を行った結果であり,巻取り直後および 12
0.02
1.0
Radial stress stress σrv
Radial stress difference Δσrdif
t=12hr
0.01
0.8
0.6
t=0hr
0.4
0.2
0
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
0.0
2.2
Normalized radial position r/r c
Fig. 3-8 Influence exerted by temperature dependence
of Young’s modulus on internal stress
- 57 -
Radial stress σr, , MPa
Radial stress difference Δσrdif, , MPa
時間後を示している.同図において実線は,温度依存性を考慮しない場合における半径
方向応力 σrv を示している.なお,ヤング率の温度依存性を考慮しない場合における半径
方向応力 σrc もほぼ同一の結果である.そのため,同図において破線は,ヤング率の温度
依存性を考慮した場合と考慮しない場合における 12 時間経過後における内部応力の差(
Δσrdif=|σrv-σrc|)を示している.なお,内部応力に関する計算方法については第 2.2.2 節にお
いて示した手法を用いている.計算に際しての諸条件は表 3-1 の値を適宜用いており,ヤ
ング率は前節で求めた測定結果(図 3-2 および図 3-4)を用いている.図 3-8(破線)を見る
とわかるように両者の差は小さく,実際の製造プロセスにおいて加熱された場合の環境温
度は 40℃程度であることから,計算に際してヤング率の温度依存性は考慮する必要がない
と考えられる.したがって,後述の実験結果との比較において,理論的に内部応力を求め
るに際しては,ヤング率の温度依存性は無いものとして扱う.
次に,PET を用いた巻取試験を実施して,ロール内部の非定常熱応力解析との比較を
実施した.なお,本実験では加工段取り替えや輸送時において生じる急激な環境の変化
を想定して図 3-9 に示す環境温度の異なる 2 パターンをステップ状に設定している.また,
実験にあたっては,ロールの全領域が環境温度と同一になることを考慮し,加熱・冷却時
間を 12 時間迄とした.図 3-10 は図 3-9 に示す温度変化(加熱 ΔTf=+10K)に対応する半
径方向と接線方向の応力の変化を示している.なお,接線方向応力については次に示す
半径方向応力と接線方向応力のつり合い式(3.5)を用い,半径方向応力の測定値から間
接的に求めている.
σθ = r
dσ r
+σr
dr
(3.5)
Temperature variation ΔTf , K
同図より巻取り直後,保管庫内で加熱されることにより外表面から巻取ロール内に熱が
10
5
ΔTf=10K
0
ΔTf=-10K
-5
-10
0
2
4
6
Time t, hr.
8
10
Fig. 3-9 Variation in ambient temperature
- 58 -
12
Radial stress σr , MPa
Temperature change ΔT , K
1.0
10
ΔTf=10K
Cal.
r=47mm
r=70mm
r=92mm
Exp.
5
0
0
2
4
6
8
10
Time t, hr.
Exp.
r=47mm
r=70mm
r=92mm
0.6
0.4
0.2
0
12
2
Cal.
t=0hr.
t=3hr.
t=7hr.
0.8
0.6
0.4
0.2
0
40
50
60
70
6
8
10
12
(b) Radial stress change
Tangential stress σθ , MPa
Radial stress σr , MPa
Exp.
4
Time t, hr.
(a) Temperature
1.0
Cal.
0.8
80
Radial position r, mm
90
100
(c) Radial stress
2
Exp.
Cal.
t=0hr.
t=3hr.
t=7hr.
1
0
-1
40
50
60
70
80
90
Radial position r, mm
100
(d) Tangential stress
Fig. 3-10 Variation in wound roll’s temperature and internal stress when ambient temperature is heated
流入し,外層から温度が上昇していることがわかる.また,温度変化に伴って応力状態が
変化しており,加熱時には半径方向応力が増加している.それと同時に接線方向応力は
最内層付近で減少して圧縮応力を生じ,その結果ウェブが座屈してしわの発生する可能
性が高くなっている.なお,理論予測モデルによる計算結果と実測値はおおむね良い一致
を示しているが,接線方向応力において最内層付近で多少差異が生じている.これは,接
線方向応力を式(3.5)から間接的に求めており,実測した半径方向応力の測定点数が少な
いためと考えられる.これに対して,計測精度の向上を目的として計測点を多くすることも考
えられるが,圧力センサ自体の厚みによってウェブの積層状態が乱れる.そのため,計測
点数が増すほど内部応力が不均一になってしまうという問題が生じる.また,最内層付近
は巻き芯の影響を受け易いことから,巻き芯に関わる何かしらの影響が内部応力に現れた
ことも原因として推察される.そのため,理論予測モデルの検証を考えた場合,接線方向
応力の直接的な計測方法は重要であり,これへの対処のための計測の工夫を施すことは
今後の検討課題であると思われる.
図 3-11 は図 3-9 に示す温度変化(冷却 ΔTf=-10K)に対応する半径方向と接線方向の
- 59 -
Exp.
Radial stress σr , MPa
Temperature change ΔT , K
1.0
0
Cal.
r=47mm
r=70mm
r=92mm
ΔTf=-10K
-5
-10
0
2
4
6
8
10
Time t, hr.
12
0.2
2
4
6
8
10
Time t, hr.
(b) Radial stress change
12
2
Exp.
0.8
Tangential stress σθ , MPa
Radial stress σr , MPa
r=47mm
r=70mm
r=92mm
0.4
(a) Temperature
Cal.
t=0hr.
t=3hr.
t=7hr.
0.6
0.4
0.2
0
40
Cal.
0.6
0
1.0
Exp.
0.8
50
60
70
80
90
100
Radial position r, mm
Exp.
Cal.
t=0hr.
t=3hr.
t=7hr.
1
0
40
50
60
70
80
90
100
Radial position r, mm
(c) Radial stress
(d) Tangential stress
Fig. 3-11 Variation in wound roll’s temperature and internal stress when ambient temperature is cooled
応力の変化を示している.冷却された際には,加熱時とは反対に半径方向応力が低下し
ていることがわかる.また,接線方向応力は,最内層付近で増加しており加熱時と逆の傾
向を示している.
以上に示した 2 つの温度変化のパターンにおいて半径方向および接線方向における内
部応力の測定結果に着目すると,巻き芯付近において理論予測との間に多少差異が見ら
れるものの,加熱および冷却において理論モデルの有効性が確認できているといえる.
3.4
環境温度の経時変化における巻取条件の最適化の実施例
3.4.1
熱応力を考慮しない巻取条件における欠陥の発生
巻取条件の設定が不適切な場合には,巻取ロールの温度変化に起因してスリップや型
崩れ,しわなどの深刻な不具合が発生する.とりわけ,製造工程でのエージング過程にお
ける熱的環境に起因するしわの発生が大きな問題となってきている.一方,巻取後の緩や
かな温度変化,例えばウェブの保管時や移送時の温度変化によってもスリップやしわなど
- 60 -
の欠陥が発生し,ウェブの品質に悪影響を及ぼすことがある.そのため,環境温度の変化
を予め考慮したしわ及びスリップの防止策を検討することが重要である.そこで具体的な最
適設計例として急激に温度が変動する場合を取りあげる.なお,本研究で提案する最適化
手法は張力とニップ荷重の両方を対象としている.しかしながら,ウェブのヤング率による内
部応力への影響を鑑みた場合,巻き込み空気量を調整するニップ荷重に比較して,温度
依存性のあるヤング率と直接的に関係し得る張力の影響が大きいことが予想される.そこ
で,本最適化手法の妥当性を確認することを目的として,張力のみを最適化の対象とす
る.
Temperature change |ΔT| , K
Temperature variation ΔTf , K
図 3-12 に対象とする環境温度と巻取後にその環境温度で 12 時間(t=12hr)加温・冷却さ
20
ΔTf=+20K
10
0
-10
-20
20
ΔTf=-20K
0
2
4
6
8
70
80
10
Time t, hr.
(a) Variation in ambient temperature
12
t = 12hr.
t = 5hr.
10
t = 2hr.
0
40
50
60
90
100
Normalized radial position r/r c
(b) Temperature distribution
Fig. 3-12 Numerical simulation results of temperature distribution
- 61 -
Table 3-2 Conditions for calculation
Web width
Web Thickness
Maximum radius
Young’s modulus in radial direction of web
Composite RMS roughness of web
Friction coefficient
Thermal conductivity of web
[m]
[μm]
rmax [m]
Er=Aσ nr ,
[Pa]
Eθ
[Pa]
[μm]
[-]
[W/(mK)]
4.3
×109
0.1
0.3
0.12
Specific heat of web
[J/(kgK)]
936
Young’s modulus in circumferential direction of web
3
0.28
50
0.099
A = 1 . 35 × 10 4
n = 0 . 71
Density of web
[kg/m ]
1400
Expansion coefficient in radial direction αr
[1/K]
15.5×10 -5
Expansion coefficient in circumferential direction αθ
[1/K]
2.1×10-5
Expansion coefficient of core αc
[1/K]
1.4×10-5
Young’s modulus of core
[Pa]
17.0×109
Core radius rc
[m]
[m/s]
0.0451
Winding velocity
Winding tension
[N/m]
100
Nip load
[N/m]
1.0
235
2
Heat transfer coefficient
hs[W/m K]
33.0
れた場合の巻取ロールの温度変化を示す.また,表 3-2 に内部応力を求める際の設定条
件を示す.なお,図 3-12(b)はその環境温度で加温・冷却された場合の巻取ロール内部の
温度変化を示しており,これは 2.2 節で述べた熱伝導方程式により理論的に計算された結
果である.経過時間の対象範囲は巻取直後から 12 時間(t=12hr)とした.これは,表 3-2 に
おける条件下において 12 時間経過後にロール内部温度が環境温度にほぼ一致すること
を根拠に決定したものである.また,ウェブのヤング率は環境温度に依存しないものとして,
同表に示す一定値を与えた上で計算を実施している.
図 3-13 は温度変化を考慮しない条件,すなわち巻取り直後の内部応力のみを最適化
の対象として求めた最適巻取条件を示している.実線は張力関数を,破線はニップ荷重関
数を表している.なお,表 3-3 に最適化を適用する場合の設定条件を示す.
図 3-14 は図 3-13 に示す温度変化を考慮しない最適巻取条件により巻き取った場合の
内部応力の計算結果であり,巻取り直後の環境温度を 20K 加熱した場合を示している.図
中の(a)~(c)は巻取り直後の環境温度を 20K 加熱した後の 4 時間経過後(t=4hr)および 12
時間経過後(t=12hr)の結果を示しており,それぞれ半径方向応力 σr,接線方向応力 σθ,層
間摩擦力 F について示している.
同図(a)は環境温度を 20K 加熱した場合の半径方向応力である.同図より,加熱条件下
では,ウェブの半径方向における線膨張係数(αr=15.5×10-5 )が円周方向(αθ=2.1×10-5 )に
- 62 -
Nip-laod N , N/m
Winding tension Tw , N/m
Nip-load N=235N/m
Opitimized tension
Radial position r
Fig.3-13 Optimized tension without consideration of thermal stress
Table 3-3 Design variables of optimization
Parameters
Values
Fcr[kN]
3.0(for r/rc<2.05)
σθref[MPa]
2.0
Twmax[N/m]
200
Twmin[N/m]
0
N [N/m]
Const
比較して高いためにほぼ全巻径領域(r/rc=1.1~2.2)にわたって半径方向応力が増大する.
そのため,同図(c)に見られるように,全領域にわたって層間摩擦力が上昇している.
同図(b)は接線方向応力を示している.同図より,温度変化を考慮しない場合は,接線
方向応力が負の領域,すなわちしわが発生する可能性が極めて高い領域が存在する.こ
れは,PET の線膨張係数の異方性が内部応力に大きく影響していることが原因であると推
察される.すなわち,温度が高くなる条件では半径方向の線膨張係数 αr が接線方向 αθ に
比較して高いために半径方向応力が増大し,巻芯近く(r/rc=1.2)の接線方向応力が減少す
る.これはいわゆる「巻き締まり」の状態に相当しており,温度上昇による半径方向応力の
増大によって接線方向応力が減少することを示している.
一方,巻取り直後の環境温度を 20K 冷却した場合を図 3-15 に示しており,加熱した場合
と同様にそれぞれ 4 時間経過後と 12 時間経過後の内部応力をそれぞれ示している.
同図(a)に見られるように,冷却時には半径方向応力が減少し,その結果としてウェブ層
間の押し付け力が減少する.そのため,同図(c)に示すように層間摩擦力はほぼ全巻径領
域にわたり時間経過とともに低下し,臨界摩擦力を下回ることがわかる.したがって,冷却
時にスリップが発生する危険性は高くなる.
- 63 -
同図(b)は冷却時の接線方向応力を示している.同図より,巻き芯付近において時間とと
もに半径方向応力が下がり,巻き芯付近ではこれが負となる領域は存在しないことがわか
る.これは,巻き芯付近におけるウェブの半径方向応力が下がるためであり,巻き芯付近に
おけるしわ発生の可能性は低くなると考えられる.しかしながら,最外層付近(r/rc=2.0 付近)
において接線方向応力は負を示す.これは,すでに巻取直後(ΔTf=0K)において最外層付
近の接線方向応力はゼロ付近を示しており,更なる温度降下によって半径方向応力が下
がるものの最外層付近では巻取張力が上昇しており,わずかな半径方向応力によって接
線方向での応力が圧縮方向に転じやすいためである.
以上のことから,熱応力を考慮しない場合には,加熱により巻芯付近にしわの発生する
危険性が高くなること,また冷却により最外層付近におけるスリップとしわの危険性が増すこ
とがわかる.なお,従来の研究として,Qualls ら 71)は温度変化に伴う巻取ロールの欠陥の防
止法として,巻芯とフィルムの線膨張係数の差が小さくなるような巻き芯の設計を提案して
いる.この手法によれば,巻取ロールの欠陥をある程度防止できるが,巻き芯の製造方法
やコストなどから巻き芯の設計条件を変更する範囲が限られる.さらに,本研究で用いたウ
ェブの例に見られるように,半径方向と接線方向の線膨張係数の異方性が強いウェブ素材
の場合では,環境温度が変化した際に巻取ロール全体の内部応力が複雑に変化するた
めに,巻き芯付近での巻き芯設計による対応のみではロール欠陥を防止することは難しい.
したがって,ウェブの異方性および巻き芯の線膨張の影響を予め考慮したしわ及びスリップ
の防止策を理論的に検討することが重要である.
- 64 -
Radial stress σr , MPa
1.0
0.8
0.6
t=4hr
0.4
t=12hr
0.2
0
40
Tangential stress σθ , MPa
t=0hr
50
60
70
80
Radial position r, mm
(a) Radial stress
90
100
2.0
1.5
1.0
t=0hr
0.5
t=4hr
0
-0.5
40
t=12hr
Constraint condition σθ≥0
50
60
70
80
90
100
Radial position r, mm
(b) Tangential stress
Friction force F , kN
30
20
F≥Fcr, Fcr=3.0kN
Constraint condition
t=0hr
t=4hr
t=12hr
10
0
40
50
60
70
80
90
100
Radial position r, mm
(c) Friction force
Fig. 3-14 Optimized tension without consideration of thermal stress(Heating ΔTf=+20K)
- 65 -
Radial stress σr , MPa
1.0
0.8
0.6
0.4
t=0hr
t=4hr
0.2
0
40
50
60
t=12hr
70
80
90
100
Tangential stress σθ , MPa
Radial position r, mm
(a) Radial stress
2.0
1.5
t=0hr
1.0
t=12hr
Constraint condition σθ≥0
0.5
t=4hr
0
-0.5
40
50
60
70
80
90
100
Radial position r, mm
(b) Tangential stress
Friction force F , kN
30
20
10
0
40
t=0hr
50
t=4hr
60
F≥Fcr, Fcr=3.0kN
Constraint condition
t=12hr
70
80
90
100
Radial position r, mm
(c) Friction force
Fig. 3-15 Optimized tension without consideration of thermal stress(Cooling ΔTf=-20K)
- 66 -
3.4.2
最適巻取条件に期待される効果
前節に示した巻取条件による問題に対して,熱応力を考慮した最適化張力を提案する.
最適化を行った際の与条件は前節に示した表 3-3 と同じとする.なお,与条件は生産時に
おける仕様によって適宜変更される値である.
図 3-16 は,しわとスリップが起きないように最適化問題を解いて得られた張力とニップ荷
重を示している.実線は,熱応力を考慮した最適張力(同図 B)を,一点鎖線は前節(図
3-13)で示した熱応力を考慮しない最適張力(同図 A)を示している.
同図の最適張力において,いずれの半径位置においても最適張力(B)は最適張力(A)に
比較して高い値を示す.これは後述するように,内層付近の接線方向応力の圧縮応力を
防止する効果と半径方向応力の減少による外層付近の層間摩擦力の低下を防止する効
果が同時に現れ,トレードオフ関係の解消がなされたためである.
図 3-17 は熱応力を考慮した上で最適化された張力を用いたときの内部応力の計算結
果を示しており,巻取り直後の環境温度を 20K 加熱した場合を示している.図中の(a)~(c)
は巻取り直後の環境温度を 20K 加熱した後の 4 時間経過後(t=4hr)および 12 時間経過後
(t=12hr)の結果を示しており,それぞれ半径方向応力 σr,接線方向応力 σθ,層間摩擦力 F
について示している.
同図(a)に示す半径方向応力においては,加熱条件下において巻き芯付近での大きな
半径応力を示す.したがって,従来の巻取り条件であればいわゆる「巻き締り」の傾向を示
す.しかしながら,同図(b)の接線方向応力については,いずれの時間においても巻き芯近
傍に圧縮応力が生じていない.これは,最適化張力によって温度上昇による圧縮応力の
発生を抑制させる効果が現れたためである.すなわち,温度変化によって生じる圧縮応力
を消滅させるためにあらかじめウェブに引張応力を作用させて巻き取るためである.
300
Nip-load N=235N/m
Nip-laod N , N/m
Winding tension Tw , N/m
同図(c)は環境温度を 20K 加熱した場合の層間摩擦力を示している.同図において,い
200
Optimized tension with consideration of thermal stress(B)
100
0
40
Optimized tension without consideration of thermal stress(A)
50
60
70
80
90
100
Radial position r, mm
Fig. 3-16 Optimized tension with consideration of thermal stress
- 67 -
ずれの時間においても制約条件 r/rc<2.05 の範囲内で層間摩擦力は臨界摩擦力以上であ
ることがわかる.
図 3-18 に巻取り直後の環境温度を 20K 冷却した場合を示しており,加熱時と同様にそ
れぞれ 4 時間経過後と 12 時間経過後の内部応力をそれぞれ示している.
同図(a)は冷却した場合の半径方向応力を示している.ほぼ全巻径領域において時間
経過とともに半径方向応力は減少しており,ウェブの層間押し付け力は総じて減少している.
しかしながら,同図(c)に示す層間摩擦力において,いずれの時間においても r/rc<2.05 の
範囲内で層間摩擦力は臨界摩擦力以上であり,両者の差が小さいことがわかる.これは,
スリップを防止するための制約条件に加え,臨界摩擦力との差ができる限りゼロに近づくよ
うに条件を設定しているためである.すなわち,温度変化によって生じる圧縮応力を消滅さ
せるためにあらかじめウェブに引張応力を作用させ,さらに半径方向応力の減少を見積も
った上で,層間摩擦力がすべりを生じない程度に巻き取るためである.層間摩擦力が大き
すぎる場合には,ウェブ層間の押し付け力も増大し,ウェブの材質によってはウェブ同士が
貼りつく現象(ブロッキング)が発生する可能性が高い.この現象が発生した場合,次工程
でウェブを繰り出す場合にウェブ表面に傷などの欠陥が発生する.そのため,スリップを防
止する一方で層間摩擦力を最小に保つ必要がある.同図(b)は冷却した場合の接線方向
応力を示している.温度変化を考慮した場合は,いずれの半径位置においても圧縮応力
を生じていない.とりわけ,最外層での巻取張力を大幅に増加させることによって最外層付
近にあらかじめウェブに圧縮応力を打ち消すほどの引張応力が作用するためである.以上
のことから,温度変化を考慮し,張力の最適化を図ることによりシワもスリップも生じない巻
取条件を設定することが可能であることがわかる.
図 3-19 は環境温度を 20K 加熱した場合についてテーパ張力と最適張力により巻き取っ
たときの接線方向応力の計算結果を比較したものである.同図における接線方向応力とは
巻取りロールの内部(r/rc=1.0~2.2)における最小値であり,巻取の直後(0hr),4hr,および
12hr が経過したときの状態を示している.同図より,熱応力を考慮しない巻取条件により巻
き取った場合には,時間経過とともにしわが発生する危険性が増大することがわかる.一方,
熱応力を考慮した張力により巻取った場合には常に接線方向応力が非負かつゼロに近い
状態を保っている.これは,しわの発生を防止するための制約条件(σθ≥0)に加えて,接線
方向応力ができる限りゼロに近くなるように最適化問題を定式化しているためである.なお,
ウェブに過度の引張応力が作用する場合にはクリープが発生する恐れがあるので実用上
好ましくない.そのため,接線方向の圧縮応力を防止する一方で,ウェブに作用する引張
応力を最小限に保つことが本手法の目的である.
図 3-20 は環境温度を 20K 冷却した場合について熱応力を考慮した場合と熱応力を考
慮しない場合における最適張力により巻き取ったときの層間摩擦力の計算結果を比較した
ものである.同図は,巻取の直後(0hr),4hr,および 12hr が経過したときの状態であり,巻径
の最外層付近の位置(r/rc=2.05,r=92mm)における層間摩擦力を示している.同図より,熱
応力を考慮した最適張力で巻き取った場合には,摩擦力は臨界摩擦力(Fcr=3.0kN)を常に
- 68 -
上回ることがわかる.これに対して,熱応力を考慮しない張力で巻き取った場合には,大き
な層間摩擦力は発生しないが臨界摩擦力を大きく下回り,巻取り直後においてスリップが
発生する危険性が高まる.
図 3-19 および図 3-20 の結果から,最適化手法を用いると,生産時に設定可能な張力
およびニップ荷重を仕様範囲として,環境温度の変化を考慮した上でしわとスリップの発生
のみならずクリープやブロッキングの危険性を低減できることがわかる.
- 69 -
Radial stress σr , MPa
1.0
0.8
t=4hr
0.6
t=12hr
0.4
0.2
0
40
t=0hr
50
60
70
80
90
Radial position r, mm
(a) Radial stress
100
Tangential stress σθ , MPa
2.0
1.5
1.0
t=12hr
t=4hr
t=0hr
0.5
0
-0.5
40
Constraint condition
50
60
70
80
Radial position r, mm
(b) Tangential stress
σθ≥0
90
100
Friction force F , kN
30
t=4hr
t=12hr
20
10
t=0hr
Constraint condition F≥Fcr, Fcr=3.0kN
0
40
50
60
70
80
90
100
Radial position r, mm
(c) Friction force
Fig. 3-17 Optimized tension with consideration of thermal stress(Heating ΔTf=+20K)
- 70 -
Radial stress σr , MPa
1.0
0.8
t=0hr
0.6
t=4hr
t=12hr
0.4
0.2
0
40
50
60
70
80
90
100
Tangential stress σθ , MPa
Radial position r, mm
(a) Radial stress
2.0
1.5
t=0hr
1.0
t=4hr
t=12hr
0.5
0
Constraint condition
-0.5
40
50
60
σθ≥0
70
80
90
100
Radial position r, mm
(b) Tangential stress
Friction force F , kN
30
20
t=0hr
t=4hr
t=12hr
F≥Fcr, Fcr=3.0kN
Constraint condition
10
0
40
50
60
70
80
Radial position r, mm
(c) Friction force
90
100
Fig. 3-18 Optimized tension without consideration of thermal stress(Cooling ΔTf=-20K)
- 71 -
Tangential stress σmin , MPa
0.1
0
Optimized tension with consideration of
thermal stress
-0.1
Optimized tension without consideration
of thermal stress
-0.2
-0.3
0
2
4
6
Time t, hr
8
10
12
Fig. 3-19 Comparison of minimum tangential stress σθ
Friction forceF , kN
10
8
Optimized tension without consideration
of thermal stress
Optimized tension with consideration of
thermal stress
6
4
Fcr=3.0kN
2
0
0
2
4
6
Time t, hr
8
10
12
Fig. 3-20 Comparison of friction force F (r/rc=2.05,r=92mm)
3.4.3
最適巻取条件による実験的検証
これまでに提案した巻取条件の最適化手法によって環境温度の変化における最適張
力を求めることができるが,その妥当性を確認するために巻取りを実施して,その性能を確
認する.そこで,最適巻取条件の効果を調査するために落下試験による層間摩擦力を計
測した.なお,最適巻取条件の検証手法の一つとして,巻き芯付近に発生するしわの外観
を撮影することが挙げられる.しかしながら,しわの評価は具体的な計測手法も確立されて
いないことから,定性的な評価にならざるを得ない.そこで,落下試験による層間摩擦力に
よる評価を実施した.図 3-21 は実験装置の概略図である.本装置は巻取ロールを落下さ
せる構造となっており,巻取ロールの任意の半径位置 r に衝撃荷重を与えることができる.
- 72 -
また,落下時の衝撃加速度は巻芯部に設置した加速度センサにより測定する.測定の際
には,落下高さの調整により衝撃荷重を徐々に増加させ,スリップが生じた際の衝撃加速
度を測定することで式(3.6)により摩擦力を求める.ここで,F はロール層間摩擦力,m はスリ
ップ内側のロール質量,a は衝撃加速度を表す.
F = ma
(3.6)
図 3-22 は巻取直後の巻取ロールを 12 時間冷却した場合の層間摩擦力の解析結果と
測定結果である.環境温度の変化を考慮した最適張力により 3 回巻取りを実施し,それぞ
れの半径位置 r=72mm,r=82mm,r=92mm にて落下試験をそれぞれ実施した.ここで,環境
温度は図 3-12(a)に示されるステップ状の ΔTf=-20K を与えており,巻取張力は図 3-16 に
示される ΔTf=±20K の温度範囲で最適化された張力(B)と温度変化を考慮しない張力(A)を
用いている.図 3-22 の結果から温度変化を考慮して最適化された張力で巻取られたロー
ル内の層間摩擦力の測定値は理論予測値と良く一致している.なお,温度変化を考慮し
た最適化張力で巻き取られたロールにはしわとスリップが発生していないことを目視によっ
て確認している.以上のことから本最適張力モデルの妥当性が確認できた.
Core
Shaft
Acceleration sensor
Wound roll
Downward fall
r
Fig. 3-21 Measurement of interlayer friction force
- 73 -
Friction force F , kN
10
Theory Exp.
8
Optimized tension (A)
6
Optimized tension (B)
4
Fcr=3.0kN
2
0
40
50
60
70
80
90
100
Radial position r, mm
Fig. 3-22 Interlayer friction force of wound roll
3.5
結言
本章では,実際の内部応力を測定した上で,提案する解析手法の妥当性を示した.さら
に,従来の巻取条件による問題点を指摘し,その解決策として最適化された巻取条件を提
示し,巻取試験によりその有効性を提示した.さらに,ウェブのヤング率の温度依存性を計
測した上で,巻取ロールの内部応力に対するヤング率の温度依存性の影響が小さいことを
提示した.以下に結果のまとめを示す.
(1)巻取ロールの内部応力に対して,PET フィルムのヤング率の温度依存性が及ぼす影
響は小さいことを実験的に示した.
(2)巻取ロールの内部応力は周囲の環境温度の変化にともなって大きく変化することを実
験的に示し,理論予測と概ね一致することを示した.
(3)従来の巻取条件による巻取り不具合を指摘し,その対策手法として最適化巻取条件を
掲示し,層間摩擦力を計測することにより,理論モデルの予測値と一致することを示した.
- 74 -
第4章
理論モデルの効果的な運用を目的とした巻取装
置に関する検討
4.1
緒言
第 2 章では,巻取ロールの内部応力を考慮した巻取条件の最適化に関する理論モデル
を提示,第 3 章において理論モデルの妥当性を提示した.本章では,この理論モデルを巻
取装置に適用する準備として,巻取理論の境界条件とその境界条件に影響を及ぼす実機
における諸現象を検討する.一般に,物流における輸送性の観点から,ウェブは適度な大
きさや重量に達するまでロール状に巻き取られる.そのため,連続的にウェブを巻き取り,
かつ,ウェブの搬送を停止させないことを目的に 2 軸ターレット巻取方式が多く用いられる.
図 4-1 は 2 軸ターレット方式の概要を示している.同図に見られるように,駆動軸に取り付け
た巻き芯(同図 A1)により所定の長さに達するまでウェブを巻き取る.その後,ウェブの引き
継ぎを行い,もう一方の巻き芯(同図 A2)により新たな巻き取りを開始する.生産効率の観
点から,このような方式が用いられるが,ウェブ引き継ぎ時の作業時間は極めて短く,同図
に示すように安全性の観点において,操作者が巻取りロールの付近で巻き取られるウェブ
の状態を調整することは難しい.したがって,例えば,ウェブ引継ぎ条件が不適切な場合や
部品の精度,あるいは強度が不適切な場合には,それらの影響として巻き始めの状態が不
安定になり易く,かつ調整が困難である.理論的に求められる内部応力は幾つかの仮定
(第 2.2.1 節参照)を置かれて求められるが,理論的手法において重要とされる境界条件,
すなわち巻き始めの状態(最内層の境界条件)を実機において安定的に扱うことは大変に
重要である.最内層付近は,ウェブが積層される上で土台ともなるべき箇所であり,しわの
発生を見積もるうえで接線方向の応力が最も負になりやすい領域だからである.一方,ウェ
ブが新たに巻きつけられることによる境界条件(最外層の境界条件)も同様に重要である.
これは,一般的な巻取りロールであれば数千枚から数万枚ものウェブが積層されることから,
わずかな境界条件の乱れによっても累積される半径方向応力への影響は大きく,巻取ロー
ルの全体の剛性に著しく影響を与えるためである.しかしながら,巻取装置ではそれら仮定
を乱す現象が発生し易い.そのため,理論的に求めた内部応力と実際の内部応力は異な
る可能性が生じる.したがって,理論的に仮定された環境と実際のウェブの巻き取りにおけ
る環境を適度に一致させることは,極めて重要な課題である.そこで,巻取装置における環
境を考慮し,理論的に内部応力を求める際に重要な境界条件に着目し,最内層に最も影
響するウェブの巻き始めの安定化,最外層に最も影響するウェブ巻き付け時の安定化を図
った.以下に詳細を順次述べる.
- 75 -
Driving shaft
Core(A2)
Core(A1)
Driving shaft
High speed
conveyance
Hazard of worker
being caught up
Fig. 4-1 General view of winder, showing safety problem
4.2
ウェブの引き継ぎ方法に関する検討
4.2.1
ウェブ巻き始めの安定化
多くの生産条件においてロール内部の接線方向応力が負(圧縮応力),すなわちしわに
なる領域は巻き芯の近傍で発生する可能性が高い.このことは実際の製造現場でも良く経
験されるところであり,このようなしわを防ぐには巻き芯の近傍における内部応力を正確に
見積もることが重要である 100),101).しかしながら,実機ではウェブの巻き始めにおいて巻き芯
近傍に外乱を与える次の不具合現象が発生し,前述の最内層境界条件を必ずしも満足し
ない.
(a) 巻き芯と粘着テープの形状段差や粘着力の違いによりウェブの幅方向に張力変化が
発生し,ウェブに折れしわが発生する.
この現象により,ロール内部の幅方向に応力の不均一が発生し,場合によってはウェブ
がいびつな形状で巻き芯に巻かれてしまう.巻き芯の近傍でこのような現象が発生した場
合には,順次ウェブが積層されていくため最外層にいたるまで幅方向の内部応力が不均
一になる.これら巻取初期の折れしわはロール内部の圧縮応力によるしわと異なり,張力お
よびニップ荷重の操作では改善しにくい.
- 76 -
そこで,前述の巻取理論モデルを実機に適用させるため,この不具合現象を回避し,境
界条件を整合させる方法を検討しておく.
4.2.2
粘着テープを用いないウェブ引き継ぎ方法
巻取り時におけるウェブの引き継ぎでは一般に図 4-2 に示すような粘着テープが用いら
れているため,巻き芯と粘着テープとの粘着力の差によりウェブの幅方向に不均一な張力
が発生し易い.また,巻き径が増大するにしたがってロールの最内層付近に高い半径方向
応力が発生し,粘着テープの厚さの違いに起因してウェブの幅方向に不均一な応力分布
が発生する可能性が高まる.このような不具合現象を回避するためには,予め粘着テープ
の位置や厚さが巻取ロールの内部応力へ及ぼす影響を考慮し,かつ巻き取られる直前の
ウェブに折れしわが生じないように考慮する必要がある.しかしながら,搬送中のウェブの状
態は数値で比較できない項目が多く,さらに,粘着テープには様々な種類があることから,
これらの特性を定量的に扱うことは不可能に近い.なお,機能性材料のように微小な欠陥
も許されないウェブの場合には,目に見えないようなわずかな形状の変化も許容できない.
とりわけ,ウェブを巻きつける上で土台とも言える最内層は特に重要であり,最内層での幅
方向における形状や応力の均一化は重要である. したがって,本開発で扱う巻取装置で
は粘着テープを用いない方式として,図 4-3 に示す水滴噴霧を用いる装置(以降,テープ
レス方式と呼ぶ)を採用した.なお,一般的なウェブ引き継ぎでは,ウェブが搬送されながら
カッタで切断され,押えローラにより新しい巻き芯(粘着テープ)へ押しつけられる.これら一
連の作業は 100ms 程度のサイクルタイムで実施され,ウェブの切断時には張力の急激な変
動が発生し,ウェブの搬送が不安定になる可能性を有している.このような張力の安定化に
対しては一般的な張力制御では対応が難しく,従来から巻取に不具合を生じる要因として
考えられていた
46),47)
.そこで図 4-4 に示すように,ウェブの切断前にあらかじめ新たな巻取
軸に押えローラを押しつける機構を採用した.テープレス方式では,粘着テープを用いな
いために切断前に予めウェブを巻き芯へニップローラで押しつけることができる.まず,搬
送中のウェブを押えロール(同図 A1)と巻き芯(同図 A2)により挟み込む.次に,カッタ(同図
A3)を動作させ,切断ポイント(同図 P1)にてウェブを切断する.これらの作業により,ウェブ
の新たな巻き芯(同図 A2)への引き継ぎが完了する.従来はウェブの切断後に押えローラを
動作させており,ウェブの巻き芯への貼り付きが不安定であったが,この方式によれば安定
した状態で貼り付けることが可能となる.
4.2.3
テープレス方式の実験的検証
本開発で提案したテープレス方式と従来の粘着テープ方式とによる外観検査を実施し
た.図 4-5 に示すように円筒度 0.05mm にて製作した透明なポリカーボネート製の巻き芯を
用いてウェブ引き継ぎを実施した.その後,図 4-6 に示すように内視鏡カメラを用いて巻き
芯内部における外観検査を実施した.なお,ポリカーボーネード材の剛性は大きくないた
め巻取径が大きくなる場合には,ウェブの重量により巻き芯のたわみが発生する.そのため,
- 77 -
巻き芯の変形による内部応力への影響を考慮した上で,巻取径φ150mm まで巻取りを実
施した.なお,巻取り速度 V は 100m/min とし,張力 Tw とニップ荷重 N の巻取り条件はそれ
ぞれ Tw=100N/m および N=70N/m の一定値とした.図 4-7 は粘着テープを用いてウェブ引
き継ぎを行った場合の巻取ウェブの最内層付近の状況である.結果を見ると明らかなように
円周方向にわたって均等に圧縮ひずみが発生していることが見て取れる.一方,粘着テー
プの領域(青色部)においては,圧縮ひずみが発生していない.これは,粘着テープにより
円周方向のウェブの移動が抑制されることが原因と予想され,粘着テープを用いることによ
り幅方向における不均一性が発生していることがわかる.
図 4-8 はテープレス方式を用いた結果であり,ウェブが綺麗に巻き付いていることがわか
る.これは,粘着テープを用いないことにより,局部的な応力集中が緩和されたためである
と考えられる.さらに,図 4-9 にウェブの幅方向にわたる実験結果の比較を示す.実験では
PET ウェブにて最大ロール直径 200mm までの巻き取りを行った.この時,直径 100mm の
位置に感圧紙を挿入し幅方向の応力分布を目視にて観察した.写真は,巻取り後にウェ
ブを巻きほどいたときの結果である.粘着テープを用いる場合には,内部応力の変化やし
わの発生が確認されるのに対して,本方式ではしわや応力の変化はほぼ生じていないこと
がわかる.このことから,本方式により,前述の項目(a)で述べた巻取開始時のしわを防止す
ることができる.
Wrinkle
Adhesive tape
Core
Fig. 4-2 State of the web with the adhesive tape
- 78 -
Spray nozzle
Core
Fig. 4-3 Spray nozzle device
Guide roller
Cutter(A3)
Core(A2)
Wound roll
Web
Core
Pre-nip
Splice point(P1)
Nip roller(A1)
Cutter arm
Fig. 4-4 Method of transferring web to core
- 79 -
Driving shaft
Adhesive
Polycarbonate core
Fig. 4-5 Visualization test using polycarbonate-core
Polycarbonate core
Wound roll
Wound roll
Tape
Endoscope camera
Shot region
at fig4-7,4-8
Polycarbonate
Endoscope
(a) Endoscope camera
(b) Schematic of shot
Fig. 4-6 Condition of wound roll interior
- 80 -
Wrinkle
Adhesive tape
Fig. 4-7 Core interior with adhesive tape present
These flaw is due to
polishing of the core
Web edge
No wrinkle
Fig. 4-8 Core interior with tape-less method
- 81 -
Adhesive tape
Photograph of web
wrinkling at
rc=46mm
V=50m/min(const.)
Tw=100N/m(const.)
N=70N/m(const.)
Test film : PET
Stress uniformity
Photograph of
pressure-sensitive
paper at r=50mm
Stress non-uniformity
(a) With adhesive tape
(b) Without adhesive tape
Fig4-9 Comparison of adhesive tape
4.3
巻取ロールへのウェブ巻き付け時におけるトラフの検討
4.3.1
トラフの軽減
巻取ロール内部の応力状態は,新たなウェブが付加されることによる半径方向の応力増
加分により逐次変化していく.一般的な生産条件であれば,ウェブが順次積層される層数
は数千枚から数万枚にも及ぶため最終的な内部応力への影響は大きく,応力増加分を正
確に見積もり,安定化することは大変に重要である.
しかしながら,実機ではウェブが巻き取られる直前おいて巻取ロールの最外層に外乱を
与える次の不具合現象が発生し,前述の最外層境界条件を必ずしも満足しない.
(a) ポアソン効果に起因するトラフにより,ウェブの幅方向における巻き込まれる空気量が
不均一となる.
なお,トラフとは図 4-10(a)に示すように張力によるポアソン効果によってウェブが幅方向
に収縮し,その結果,ウェブが不均一な波状の形状に変形する現象をいう.このようなトラフ
によって巻取り時における巻き込み空気量が変化する概念図を図 4-10(b)に示す.この現
象により,ウェブ層間に厚さの異なる空気膜が形成され,巻径の増大につれて幅方向にお
けるロール半径方向の等価ヤング率の分布が大きくなる.ウェブのトラフは搬送に使用され
るガイドローラの精度や強度,あるいはウェブに掛ける張力に影響されるため,巻取り時の
張力およびニップ荷重の操作のみでは改善しにくい.そこで,前述の巻取理論モデルを巻
- 82 -
取装置に適用させるため,この不具合現象を回避し,境界条件を整合させる方法を検討し
ておく.
Tension
Trough
Web
Tension
Poisson effect
(a) The deformation due to tension
Trough
Nip roll
Web
Nip load
Core
Air layer is thick
Air layer is thin
< Cross-sectional view >
Core
Web
Guide roller
Wound roll
(b) Distribution of air
Fig. 4-10 Effects of trough on wound roll
- 83 -
4.3.2
トラフの発生を軽減するためのアプローチ
搬送中におけるウェブのトラフの状況を定量的に評価することは難しい.これは,高速で
搬送されるウェブの状態を数値で比較できない項目が多く,さらにウェブは透明体であるこ
とから,適当な計測手法も少ないことが原因として挙げられる.そのため,製造現場におい
て,巻取条件やガイドローラなどの個々の要素を作りこむことにより対策を実施している.わ
ずからながら,ウェブの表面形状をカメラで撮影し,画像変換により評価する方法
102)
が示さ
れているものの,その多くは定性的な評価に頼らざるを得ない.さらに,トラフは永久ひずみ
が残らないウェブの変形であるが,画像変換による手法は搬送中におけるウェブの永久ひ
ずみとしてのしわ
103)
を抑制するものであり,巻取り時における空気の巻き込み量の観点で
は実施されていない.図 4-11 は従来の実機によってウェブが巻き取られる直前の状況を示
している.同図において,微小なトラフが発生していることがわかる.なお,トラフが発生する
大きさや数,形状は非常に色々な要因が絡んでおり,一義的にトラフを防止する方法は決
定できない.これは,ウェブの強度,いわゆる「腰の強さ」や張力などの搬送条件,あるいは
ガイドローラのたわみや機械の精度にも影響されるためである.そこで,本研究では,巻取
りが実施されるウェブに対して,トラフの数と大きさが最小になるように表 4-1 の項目を逐次
検討しながらトラフが最も軽減される組合せを選定した.この時,巻き取られる直前のトラフ
の状況を目視にて観察し,数・大きさを比較している.図 4-12 は PET フィルムに対する構
成の一例を示しており,主な特徴としては,巻取ロール(同図 A1)の巻取り径が大きくなる
にしたがって,ガイドローラ(同図 A2)を移動させ,巻取ロール(同図 A1)とガイドローラ(同
Guide
Wound
Trough
Trough
Fig. 4-11 Schematic of trough on web
- 84 -
図 A2)の距離(同図 P1)を一定に保つことである.これは,巻取りロールの径が増加するこ
とによるガイドローラとの距離(同図 P1)の変化を防止し,距離の変化によって,トラフの発
生に関する条件が異なることを防止するための処置である.また,トラフの減少を目的として
ガイドローラ表面(同図A2)の摩擦係数を調整した上で,図 4-13 に示す形状を実験的に
導きだした.同図に示すように,ガイドローラのスパイラル状の表面領域に対して,ウェブと
の摩擦係数が高くなる領域を製作している.このような,構成によれば,トラフが発生する危
険性を低減させることができ,従来に比較して均一な巻取りが期待できる.なお,ガイドロー
ラの表面形状に関しては著者らが特許出願
104),105)
を実施しており,ウェブの特性やウェブ
の抱き角度によって適宜変更を加えている.ただし,トラフに関する理論的な装置の設計
方法は,十分に確立されておらず,定量的な計測方法を含めた設計手法の確立は今後の
課題であると考えている.
Splice device of tape-less
Moving unit
Wound
Guide roller(A2)
Wound roll(A1)
LM Guide
Moving
Distance(P1)
Web
Cutter-arm
Fig. 4-12 Mechanical elements for trough prevention
- 85 -
Table. 4-1 Parameter of guide roller
Value
Advantage
Disadvantage
Large
Large section
modulus, small
deflection
Large moment of
inertia
Small
Small moment of
inertia
Small section
modulus, large
deflection
Inter pass
distance of
guide roll
Large
Small effect on roll
accuracy
Small
Web not prone to
deflection
Surface
roughness of
guide roll
Large
Small slippage of web
Small
Not prone to biased
tension
Item
Outer diameter
of guide roll
Web prone to
deflection
Large effect on roll
accuracy
Prone to biased
tension
Large slippage of web
The domain where a coefficient of friction is low.
Angle θ
Web direction
The domain where a coefficient of friction is high.
Width of a domain is a design variable.
A carbon-fiber-reinforced plastic material is used to reduce moment of inertia.
Fig. 4-13 Outline of guide roller for trough prevention
4.3.3
トラフの発生に関する実験的検証
本開発で提案した装置構成を用いて外観検査を実施した.図 4-14 は従来の装置構成
による巻取り中のウェブの搬送状態を観察し,写真撮影した事例を示している.同図から明
らかなように,幅方向にわたりトラフが認められる.これに対して,図 4-15 は本開発で提案し
た装置で搬送している様子を示している.提案した方法によればトラフの発生が認められな
い.次に当たり剤による表面形状の検査と感圧紙による検査を実施し,トラフによる内部応
- 86 -
力への影響を確認した.図 4-16 に検査の概略図を示す.まず,同図(a)に示すように,目
視にてトラフを確認した場合には,トラフが発生した箇所にマーカで記録し,巻取り径φ
150mm に達したところで感圧紙を挿入する.次に,巻取り径φ300mm に達するまで巻取り
を実施する.巻取り終了後,同図(b)に示すように,ロールの表面に当たり剤(光明丹)を塗
布したのち,精密定盤の上でロールを回転させる.その後,精密定盤に転写された当たり
面を目視にて確認した.図 4-17 に巻取りロールの外周面に当たり剤を塗布した直後の状
態を示す.なお,巻取条件は表 4-2 に示す条件で実施している.
図 4-18 は,従来の巻取方法を用いて巻き取った場合の当たり面の結果を示している.
同図(a)において幅方向における表面形状に分布があることがわかる.また,同図(b)は,定
盤に転写されたロール形状と巻きほどいた感圧紙を比較したものであり,搬送中に発生し
たトラフの位置を示している.同図より,トラフが発生した位置とロール形状の分布,さらに
は感圧紙による内部応力の分布がほぼ一致していることがわかる.このことより,巻取ロー
ルの内部応力に及ぼすトラフの影響が大きいことがわかる.これに対して,図 4-19 は,本研
究で提案した方法で巻き取った結果を示しており,当たり面が均一に転写されており,内
部応力も比較的均一であることがわかる.以上のことから,本研究で提案する方式により,
前述の項目(a)で述べた最外層における均一化を図ることができる.
- 87 -
Wound roll
Trough
Fig. 4-14 Occurrence of trough during winding
Guide roller
Japan patent JP2013-078885
Japan patent JP2013-078886
Wound roll
Pressure sensitive
No trough is observed
Distance is constant
Distance P1 on fig4-12
Fig. 4-15 Web conveyance after trough is prevented
- 88 -
Permanent marker
Trough
Wound roll
Mark
Winding
diameter
300mm
Web
Pressure sensitive paper
Inserted at the point of diameter 150mm
(a) Test method during winding
Wound roll
Red lead
Rotation
Surface plate
Contact
(b) Test method post-winding
Fig. 4-16 Test methods
- 89 -
Red lead
Surfaec plate
Fig. 4-17 Red lead applied to wound roll
Table 4-2 Test conditions
Wound roll radius
r,m
0.15
Web width
W,m
1.0
Web thickness
hw,μm
25
Winding velocity
V,m/min
100
Web
PET
Winding tension
T,N/m
250
Winding taper
φ
0.3
Nip load
N,N/m
100
Core radius
rc,m
0.038
- 90 -
Wound roll
Red lead
(a) Change in roll shape with conventional winding method
Mark on web
Web overlap on
pressure sensitive
paper
Pressure sensitive paper
(b) Effects of trough on internal stress
Fig. 4-18 Results of tests using conventional method
- 91 -
Wound roll
Red lead
(a) Change in roll shape with the proposed winding method
Red lead
Pressure sensitive paper
(b) Result of inspection of internal stress with the proposed winding method
Fig. 4-19 Results of tests using the proposed method
- 92 -
4.4
ニップ部におけるニップ線荷重の均一化
4.4.1
ニップローラの検討
ニップ線荷重を与える方式の一つして図 4-20 に示すような空気加圧方式が一般的であ
り,ベアリングによってニップローラの両端を支持する方法が採用されている.このような加
圧方式は,ニップローラの両端を固定支持とすることからニップローラの中央部にたわみが
発生し易い.そのため,ニップローラの中央部付近のニップ線荷重は総じて小さくなり,最
外層における巻き込み空気量が幅方向にわたって不均一になるという問題が生じる.巻き
込まれる空気量は巻取ロールの剛性に大きく影響することから,幅方向にわたってニップ
線荷重を均一に扱うことは極めて重要である.また,ウェブの巻取速度が大きい場合には,
巻き込まれる空気の量が増加するため,ウェブ層間の摩擦力が低減し,スリップなどの欠陥
が生じる危険性が高まる.これを防ぐ最も効果的な方法は,ウェブの巻取口近傍でニップロ
ーラを利用してニップ線荷重を加え,巻き込み空気量を低減させることである.一方,ニッ
プ線荷重を高くした場合には,ニップローラのたわみが大きくなることからニップ線荷重がさ
らに不均一になるという問題が生じる.そのため,ニップ線荷重を受けながらウェブが巻き
取られる場合,ニップローラとウェブ間の摩擦の影響により巻取張力が増加するため,ニッ
プ線荷重の分布によって巻取り時の張力も不均一になってしまう.そこで,巻取ロールの内
部応力の不均一性にニップローラのたわみの影響が大きいと捕らえ,ニップローラのたわみ
を考慮した上でニップ線荷重の均一化を図った.
Air cylinder
Rocking lever shaft
Arm
Nip
ll
Core
Fig. 4-20 Outline of pressure application method using nip roller
- 93 -
4.4.2
ニップ線荷重の分布
図 4-21 に示すように一般的なニップローラは両端軸にベアリングを設ける両端支持方式
であり,ニップ線荷重を巻取ロールに与える場合には両端軸から荷重を付加する形式とな
る.したがって,ニップローラの弾性変形によって幅方向の中心付近においてニップ線荷
重が減少する傾向を示す.図 4-22 に汎用的な構造解析コードにより,解析を実施した一
例を示す.なお,解析結果は,弾性変形の特徴を示すために適当なスケーリングを行って
いる.同図(a)は,解析条件を示しており,両端軸支えによる加圧によって巻取ロールにニッ
プ線荷重を与えることを想定している.同図(b)は,解析結果を示しており,ニップローラの
中心付近において,たわみが大きくなっていることがわかる.そのため,巻取ロールとの接
触量が減少することから,いわゆる「中抜け」が発生し易くなる.このような現象に対して,ニ
ップローラの表面にウェブに損傷を与えにくいゴム素材を使用し,さらにはローラ表面をクラ
ウン形状(ロールの端から中心に向かってロールの外径を徐々に大きくする形状)に加工
することによって,ニップ線荷重の均一化を図ることが多い.なお,実際の製造プロセスで
は,特定のニップ荷重に対するたわみ量を求め,その変形量に対応するクラウン形状を作
成し対応を図っている 106)-109).しかしながら,クラウン形状は限定したニップ荷重に対する補
正であるため,汎用性が低く,幅広い巻取り条件に対応することが困難である.とりわけ,本
研究においてニップ荷重は可変式としているためクラウン形状では対応できない.また,幅
方向におけるニップ線荷重の分布を減少するために加圧力を下げる方法も挙げられるが,
空気の巻き込み量が多いためにスリップが発生し易いという問題が生じる.そこで,前述の
巻取理論モデルを実機に適用させるため,高い加圧力においても均一なニップ線荷重が
得られる方法を検討しておく.図 4-23 にたわみを均一にするために実施した支持形状を
示す.両端支持軸は,ニップローラ中央付近の支持部を介して固定される.加圧力はニッ
プローラの中央部付近より加えられるため,ニップローラの変形量は支持点を中心に分散
することが可能となる.なお,ニップローラ表面に掛かる荷重は,巻取ロールとニップローラ
の剛性およびニップローラの変形量や角度により変化するため,巻取ロールとニップローラ
の接触量を厳密に見積もって解析的に求めることは容易ではない.そこで,ニップローラと
巻取ロールとの接触量を考慮せず,図 4-24 に示すように等分布荷重における真直はりの
変形問題 110)として,支持点間の変位量 a,b が同等になるように支持点距離 L1 および L2 を
決定した.
図 4-25 にニップ線荷重の分布を計測した概要を示す.同図(a)は装置の外観を,同図
(b)はニップ線荷重を計測する手法を示している.ニップ線荷重の計測位置は同図(a)に示
す計 9 点にて実施しており,計測にはフレキシブルなフィルムを利用したフォースセンサ(ニ
ッタ製 B201-L)を利用した.このセンサは感圧部の加圧力の増加に伴い回路の抵抗値が
減少する特性を有しており,抵抗値を計測することで感圧部に作用する作用力を測定する
ことができる.このようなフレキシブルなセンサを用いることにより,曲面における計測を簡便
に行うことができる.なお,抵抗値の計測はセンサの専用測定機(ニッタ製 ELF システム)
を用いており,±5%の直線性を確認している.計測は従来方式によるニップローラと本研究
- 94 -
で提案 するニップローラ方 式の 2 種類 に対 して実 施 し,設 定するニップ線荷 重 N は
N=70N/m および N=170N/m とした.図 4-26 に本研究で提案するニップローラの外観を示
す.
図 4-27 は,ニップローラと巻き芯間の接触圧力を計測した結果である.同図において,
破線は従来のニップローラ方式を,実線は本方式で提案したニップローラ方式による圧力
を示している.図を見るとわかるように,設定ニップ荷重 N が N=170N/m において,従来の
方式を用いた場合(破線)には圧力分布が大きくおおよそ 115~223N/m の範囲で分布して
いることがわかる.一方,本方式によるニップローラを用いた場合(実線)には,幅方向にわ
たり圧力分布が少なくおおよそ 152~195N/m の範囲であることがわかる.
図 4-28 は,図 4-27 に示した設定値 N=170N/m におけるニップ線荷重の最大値と最小
値の実測値を用いて前述の巻取理論モデルにより計算した接線方向応力を比較したもの
である.なお,巻取ロールの内部応力は,一例として表 4-3 における条件下において導出
している.同図(a)は従来のニップローラ方式を,同図(b)は提案するニップローラ方式を示
している.同図(a-i)に見られるように,従来のニップローラ方式の場合には接線方向応力に
大きな差が存在し,設定値 N=170N/m の場合と大きく異なることがわかる.すなわち,幅方
向において内部応力が不均一になる可能性を示している.一方,本提案によるニップロー
ラ方式で巻き取った場合には,同図(b-i)に示すように内部応力の差が比較的少なく,内部
応力の均一性に対して効果を示すことがわかる.実際の製造現場では,経験的な要素が
多く,外観による判断も困難であるため幅方向におけるニップ荷重の均等化は,操作者の
感覚に頼る部分も多い.しかしながら,同図(a-i)に示したようにニップ線荷重の不均一性に
より巻取ロールの内部応力の分布も大きく,実際の製造プロセスにおいてクラウン形状のニ
ップローラを用いていることからも検討すべき重要な因子である.したがって,本研究では,
最外層における境界条件の安定化の観点から,ニップ線荷重の分布を検討し,ニップロー
ラの支持方法を提案した.なお,ニップ線荷重のバラつきが許容される範囲については,ロ
バスト性を鑑みた上で決定する必要があり,今後の検討課題であると考えている.
- 95 -
Bearing
Arm
Nip roller
Cross section
Fig. 4-21 Conventional support method for roller
Nip-load condition
Nip roller
Symmetry condition
Fixed all SPC
condition
Wound roll
(a) Condtitons for analytical model
Bend
(b) Result of structural analysis
Fig. 4-22 Analytical result
- 96 -
L1
L2
Arm
L1
Bearing
Contact point
Nip roller
Contact point
Fig. 4-23 Proposed support method for roller
Uniform load N
a
a
b
L1
L1
L2
Fig. 4-24 Deformation problem of simple support beam
- 97 -
Nip roller
Measure point
Core
(a) Locations of load measuring points
Sensor
Nip roller
Core
(b) Measurement of nip load
Fig. 4-25 Test method
- 98 -
Nip roller
Gap
Core
Fig. 4-26 Proposed nip roller
300
Nip load [N/m]
250
○
Proposal model at N=70N/m
●
Proposal model at N=170N/m
△ Conventional model at N=70N/m
▲ Conventional model at N=170N/m
200
223N/m
152N/m
150
195N/m
100
115N/m
50
0
0
200
400
600
800
1000
Measurement position [mm]
Fig. 4-27 Result of a measurement of nip-load
- 99 -
Friction force F , kN
Tangential stress σθ , Mpa
90
1
N=170N/m
N=223N/m
N=115N/m
0.5
0
-0.5
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
80
70
N=170N/m
60
50
40
N=223N/m
N=115N/m
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(a-i) Tangential stress
(a-ii) Friction force
90
1
N=170N/m
0.5
N=195N/m
N=152N/m
0
-0.5
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
Friction force F , kN
Tangential stress σθ , Mpa
(a) Conventional model
80
70
N=170N/m
60
50
40
N=195N/m
N=152N/m
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(b-ii) Friction force
(b-i) Tangential stress
(b) Proposal model
Fig.4-28 Comparison of nip-load affects
Table 4-3 Schematic of trough on web
Wound roll radius
r,m
0.185
Web width
W,m
1.0
Web thickness
hw,μm
25
Winding velocity
V,m/min
100
Web
PET
Winding tension
T,N/m
200
Winding taper
φ
0.3
Nip load
N,N/m
170
Core radius
rc,m
0.051
- 100 -
4.5
巻取長さの変更を考慮した巻取条件の検討
4.5.1
巻取長さの変更に関する検討
前章においてウェブ引き継ぎ時におけるウェブ搬送の安定化を図り,これを最適化機能と
して実際の巻取装置に組み込む手法を示した.一方,実際の製造プロセスにおいて様々
な巻取条件を運用した際の経験によれば,あらかじめ設定された巻取条件で巻取を実施
できない場合がある.これは,巻取工程以外における運転時の調整によって巻き取るウェ
ブの長さ,すなわち,巻取ロールの最終径が変わるためである.前章の最適化巻取条件は
固定値として設定された最終径に対してあらかじめ計算される.そのため,生産中に巻取
長さが変更された場合には,最終径の変更に対する巻取条件を設定できず,実際の内部
応力が計算結果と異なる状態に陥り,しわとスリップが発生する可能性が高くなるという問
題が生じる.これは,巻取条件は,巻き始めから巻き終わりに至るまで巻取ロール全体の内
部応力に関係するため,計算によって最適化条件を求めるためには最終径をあらかじめ固
定値として扱う必要があるからである.なお,本研究で提案する実機においては,図 4-29
に示すように巻取り中に実測した巻取径に対応して巻取条件を指示しており,最終径が変
更された場合には,それに応じて適当な何かしらの値が巻取条件として設定される.したが
って,巻取長さの変更,すなわち巻取理論モデルにおける最外層境界条件の適用範囲の
変更に対して柔軟に対処できることは,張力とニップ荷重の最適化機能を広く活用する上
で重要である.そこで,巻取長さの変更を含めた上で最適な巻取条件を導く手法を検討し,
生産時に起こるこの種の問題に対応できる巻取条件を求める.
Fig. 4-29 Schematic diagram of system
- 101 -
4.5.2
対象とする巻取長さ
本節の目的は,予定されていない巻取長さの変更,すなわち最外層境界条件の変更に
対して容易にシステムが対応し,しわやスリップなどの欠陥を防ぐことにある.生産中におけ
る巻取長さの変更は,食品包装用ウェブ上での印刷の色彩調整をはじめ,リチウム電池用
ウェブなどでの塗工の安定性,あるいは前工程のウェブの損失に影響されるため計画され
た長さより短くなる場合がある.一方で,客先への納品や次工程における損失を考慮した
際には,品質保証の観点よりウェブを延長して巻き取る場合がある.しかしながら,これらウ
ェブの巻取長さの変更は様々な生産状況に影響されるため巻取長さを正確に予測するこ
とは困難である.これは,付加価値を与える生産プロセスが作業者の経験に依存し,前工
程で巻き取られたウェブの長さにも依存するためである
112),113)
.一般に,次工程における損
失を考慮した場合には延長して巻き取りたい要望が多い.例えば,プロセス処理が順調で
ある場合には,前工程のウェブ長さに対応するように延長した状態で巻き取られ,調整を多
く要する場合にはウェブの損失により短く巻き取られる.そのため,都度,巻取り長さは延長
あるいは短縮される可能性がある.なお,最適化の観点において,最外層付近のスリップを
防止するためには,巻き終わり付近のニップ荷重を上げることが効果的 76)であり,最内層付
近のしわを防止するためには,あらかじめ巻取条件が作用する範囲,すなわち巻取長さ
(最終巻き径)を知ることが重要となる.これは,巻取長さ(最終巻き径)を未知数とした場合
において,スリップの防止に必要な巻き終わり付近のニップ荷重を増加させる操作を実施
する前に,実際の巻取りが終了する可能性があるからである.そのため,実際の巻き取りが
終了するまで,常にスリップを防止する高い張力を設定し続ける必要があり,巻取り長さが
延長される場合には,内層付近に発生するしわを防止する操作が困難になる.したがって,
時々刻々と増加する巻取り径を計測し,その現在値に対して最適化計算を逐次行うことは
難しい.さらに,最適化計算は少なからず計算時間を必要とするため,巻取速度に対する
追従性において実用として供することは困難である.したがって,しわとスリップを防止する
Number of response
最適化巻取条件を求めるためには最終径 rmax を固定値として,運転前に計算を完了させ
Percentage of changing length [%]
Fig. 4-30 Changing the planned winding length
- 102 -
ておく必要がある.しかしながら,前章の最適巻取条件はあらかじめ巻取長さを限定した上
で計算されており,実際の巻取り終了時における巻取長さの変更が大きい場合には効果を
発揮できない可能性を生じる.したがって,実用上問題の無い範囲で巻取長さが変更され
る範囲を見積もり,最終巻取径の変動に耐えうる巻取条件を求めることが必要である.この
ような状況を踏まえて,本節ではウェブの巻取長さが延長および短縮される状況を想定し,
不具合を防止する最適巻取条件を検討する.具体的な条件として,予定される巻取長さよ
りも 10%延長した場合と 10%短縮された場合においてロール内部の応力を予測する.このよ
うな仮定条件は,図 4-30 に示すユーザに対する独自のヒアリング結果から多くの製造プロ
セスを満足する範囲として妥当と考えられる.
4.5.3
巻取長さの変更を考慮した巻取条件
最適化に際しては,第 2 章で述べた最適化手法を拡張する.最適化に際して設計変数
ベクトル X を次式で定義する.
(
X = ΔT1 , ΔT2 ,…ΔTnr , ΔN1 , ΔN 2 ,…, ΔN mr
)
(4.1)
ここで,ΔTi(i=1~nr)および ΔNj(j=1~mr)はそれぞれ初期張力及び初期ニップ荷重から
の更新量であり,第 2 章で述べた最適化手法と同様に分割数はそれぞれ nr=7,mr=4 とする.
また,任意の巻き径位置に対する巻取張力とニップ荷重は最適化された設計変数から 3 次
スプライン関数で表現する.ただし,ΔT7 および ΔN4 の巻き径位置は巻取長さが 10%短縮さ
れた際の巻径とし,それ以降は ΔT7 および ΔN4 より更新された巻取張力とニップ荷重による
一定値として設定する.実際の製造プロセスにおいて,ウェブの切断時における張力は巻
取装置の切断条件にも影響するため切断時の安定性を考えて固定値としたいという要望
が多い.さらに,運転情報の管理の観点からもウェブ引継ぎ時における巻取条件は一定値
であることが望ましい.なお,従来から広くテーパ張力方式が利用されている理由の一つと
して,最終巻取径の変動に対して張力の変動が少なく,切断条件への影響が少ないことが
挙げられる.したがって,本手法では,計画された巻取径 robj を基準として,巻終りの径が最
も小さい場合 rlmin(巻取長さが短縮された場合)から巻取径が最も大きい場合 rlmax(巻取長
さが延長された場合)において一定値による張力とニップ荷重として運転することを条件とし
て課すことにした.したがって,制約関数 gi(X)において巻取張力とニップ荷重に関しては,
それぞれ次式で与えられる.
g 1 = ΔT 1 min −ΔT1 , g 2 = ΔT1 − ΔT1 max
⎫
⎪
⎪
⎪⎪
g 2 nr −1 = ΔTnr min − ΔTnr , g 2 n = ΔTnr − ΔTnr max
⎬
g 2 nr +1 = ΔN 1 max − ΔN 1 , g 2 nr + 2 = ΔN 1 − ΔN 1 max
⎪
⎪
:
⎪
g 2 nr + 2 mr −1 = ΔN mr min − ΔN mr , g 2 nr + 2 mr = ΔN mr − ΔN mr max ⎪⎭
:
- 103 -
(4.2)
しわを防止するためには,ウェブ巻取長さが延長・短縮された場合の最終の巻取径に対
し巻取ロールの全領域(rc≤r≤rmax)における接線方向応力の最小値 σθmin(r)がゼロ以上であ
ることを満足する必要がある.そのため,接線方向応力の最小値が非負である条件として
式(4.3)を課す.
g 2 nr + 2 mr +1 = −[σ θ min (r )]rmax / rc = rl min / rc ⎫
⎪⎪
g 2 nr + 2 mr + 3 = −[σ θ min (r )]rmax / rc = rojb / rc ⎬
⎪
g 2 nr + 2 mr + 5 = −[σ θ min (r )]rmax / rc = rl max / rc ⎪⎭
(4.3)
また,スリップを同時に防止するためには,層間摩擦力がすべりを生じる臨界値以上に
保たれていることを満足する必要がある.そこで,ウェブ巻取長さが延長・短縮された場合
の最終の巻取径に対し最外層より 8%小さい巻取径の位置(r=0.92rmax)において層間摩擦
力 F(r)とスリップの臨界摩擦力 Fcr の差がゼロ以上であることを制約条件として,式(4.4)を
課す.
g 2 nr + 2 mr + 2 = Fcr − [F (r , t )]rmax / rc = rl min / r c
g 2 nr + 2 mr + 4 = Fcr − [F (r , t )]rmax / rc = robj / rc g 2 nr + 2 mr + 6 = Fcr − [F (r , t )]rmax / rc = rl max / rc
( for r < 0.92rmax )⎫
⎪⎪
( for r < 0.92r max ) ⎬
⎪
( for r < 0.92rmax ) ⎪⎭
(4.4)
以上のことを考慮して,制約条件を次の不等式によって表す.
gi ( X ) ≤ 0 (i = 1 ~ 2nr + 2mr + 6)
(4.5)
ただし,制約関数 gi(X)は次式でまとめられる.
g1 = ΔT 1 min−ΔT1 , g 2 = ΔT1 − ΔT1 max
⎫
⎪
⎪
⎪
g 2 nr −1 = ΔTnr min − ΔTnr , g 2 n = ΔTnr − ΔTnr max
⎪
g 2 nr +1 = ΔN1 max − ΔN1 , g 2 nr + 2 = ΔN1 − ΔN1 max
⎪
⎪
:
⎪
⎪
g 2 nr + 2 mr −1 = ΔN mr min − ΔN mr , g 2 nr + 2 mr = ΔN mr − ΔN mr max
⎪
⎬
g 2 nr + 2 mr +1 = −[σ θ min ( r )]rmax / rc = rl min / rc ⎪
g 2 nr + 2 mr + 2 = Fcr − [F (r , t )]rmax / rc = rl min / rc
( for r < 0.98rmax ) ⎪
⎪
g 2 nr + 2 mr + 3 = −[σ θ min ( r )]rmax / rc = robj / rc
⎪
⎪
g 2 nr + 2 mr + 4 = Fcr − [F (r , t )]rmax / rc = robj / rc
( for r < 0.98rmax ) ⎪
⎪
g 2 nr + 2 mr + 5 = −[σ θ min (r )]rmax / rc = r l max / rc ⎪
g 2 nr + 2 mr + 6 = Fcr − [F (r , t )]rmax / rc = rl max / rc
( for r < 0.98rmax ) ⎪⎭
:
- 104 -
(4.6)
目的関数 f(X)については,第 2 章と同様にロールの広範囲の半径位置において接線方
向応力 σθmin(r)が非負であり,ゼロに近いこと,さらに層間摩擦力 F が臨界摩擦力 Fcr に等
しいか大きく,その差ができる限りゼロに近づくこととする.さらに,ウェブ引き継ぎ時におけ
るウェブ搬送の安定化を考慮し,巻終わりの径が最も小さい場合 rlmin(巻取長さが短縮され
た場合)においてウェブ引き継ぎ前後の張力差が最小となるように決定する.これは,ウェ
ブ引き継ぎ時における巻取条件を固定値とするために巻終りの径が最も小さい場合 rlmin か
ら巻取径が最も大きい場合 rlmax において一定値による張力とニップ荷重として運転してい
ることによる処理である.したがって,最小化すべき目的関数は次式となる.
⎡ s
f ( X ) = ⎢∫
⎢ rc
⎣
2
⎡⎛ F ( r ) ⎞ 2 ⎛ σ ( r ) ⎞ 2 ⎤
⎛
⎞ ⎤
⎟ ⎥ dr + ⎜ Tw ( rmax ) − 1⎟ ⎥
⎜ θ
⎢⎜
⎟
1
−
+
⎜ T (r )
⎟ ⎥
⎟ ⎜σ
⎟
⎢⎜⎝ Fcr
⎝ w c
⎠ ⎦
⎠ ⎝ θ ref ⎠ ⎥⎦
⎣
⎡ s
+ ⎢∫
⎢ rc
⎣
⎡⎛ F ( r ) ⎞ ⎛ σ ( r ) ⎞
⎟
⎢⎜
− 1⎟⎟ + ⎜ θ
⎜
⎟
⎢⎜⎝ Fcr
⎠ ⎝ σ θ ref ⎠
⎣
⎡ s
+ ⎢∫
⎢ rc
⎣
⎡⎛ F ( r ) ⎞ 2 ⎛ σ ( r ) ⎞ 2 ⎤ ⎤
⎟ ⎥ dr ⎥
⎢⎜
− 1⎟⎟ + ⎜ θ
⎜σ
⎟
⎥
⎢⎜⎝ Fcr
θ ref ⎠ ⎥
⎠
⎝
⎦ ⎦
⎣
2
2
rmax / rc = rl min / rc
(4.7)
⎤ ⎤
⎥ dr ⎥
⎥ ⎥
⎦ ⎦ rmax / rc = robj / rc
rmax / rc = rl max / rc
以上により,巻取張力とニップ荷重の最適化問題は次のように定式化される.
Find X to minimize
subject to f (X )
(4.8)
g i ( X ) ≤ 0(i = 1~2nr + 2mr + 6)
4.5.4
最適化された巻取条件の解析例
以下に張力およびニップ荷重の最適化の例を示す.ウェブ引継ぎは予定される巻取長
さに対して±10%の範囲において実施される可能性があることとする.近年ではロール・ツ
ー・ロール業界の市場性も高まることから生産に際して様々なウェブ長さ 113)が挙げられてい
るが,本研究では一例として基準とする巻取長さ L を L=2000m とする.これは,巻取径が小
さくウェブ厚みが大きい場合にはウェブ長さの増減における径の変化が大きく,実際の製
造プロセスにおいても本巻取長が慣例的によく用いられているためである.したがって,巻
取長さが延長された場合には,L=2200m となり,短縮された場合には L=1800m となる.な
お , 巻 径 に 換 算 し た 場 合 は , そ れ ぞ れ L=1800m で は rmax=0.13m , L=2000m で は
rmax=0.135m,L=2200m では rmax=0.14m となる.また,表 3-4 に計算に際しての設定条件を
示す.
当然ながら,予定されているウェブの巻取長が延長された場合には,延長されたウェブ
の長さに対応して巻取径も増大する.なお,増加した巻取径に対応する巻取条件の指令
値はあらかじめ設定されていない.このような場合,外挿法により巻取条件を設定すること
- 105 -
Table 4-4 Prescribed optimization conditions for calculation
Web width
Web Thickness
Maximum radius about web length 2000m
Young’s modulus in radial direction of web
Composite RMS roughness of web
Friction coefficient
Reference value of friction force
[m]
[μm]
rmax [m]
Er=Aσ nr ,
[Pa]
Eθ
[Pa]
[μm]
[-]
Fcr [kN]
4.8
×109
0.1
0.28
50.0
Reference value of tangential stress
σθref [um]
8.0
Maximum tension limit
Twmax [N/m]
230
Minimum tension limit
Twmin [N/m]
0
Maximum nip-load limit
Nmax [N/m]
210
Minimum nip-load limit
Nmin [N/m]
0
Young’s modulus of core
[Pa]
17.5×109
Core radius rc
[m]
[m/min]
0.05
Young’s modulus in circumferential direction of web
Winding velocity
1.0
25
0.135
A = 121
n = 1 .0
100
や何かしらの対応が個別に行われているが,本研究で対象にしている実機では,予定され
ていた最終巻取径における巻取条件でウェブの巻取を継続するシステムを採用している.
図 4-31 はこのような実機を想定した場合の張力とニップ荷重を示しており,実線は張力
関数を,破線はニップ荷重関数を表している.なお,同図中に示されている巻取条件は表
4-4 における条件下においてウェブの巻取長さを固定した条件に基づいて導出した最適化
手法による計算結果である.なお,臨界摩擦力 Fcr は,巻取ロールをクレーンで吊り上げ,
巻き取られたロールがある程度移動してもスリップが発生しないような摩擦力を想定し,
Fcr=50kN とした.また,臨界摩擦力の設定範囲は巻取ロールの最外層から 8%小さい巻取
り径付近までとした.これは,巻き終わり時の最終層には張力が掛からないため最外層での
層間摩擦力がゼロになり,すべての領域において層間摩擦力を確保することが困難である
ことによる処理である.同図において巻初めの初期張力と巻終わりの最終張力はほぼ同じ
値(およそ Tw=200N/m)を示し,最適化は計画時(L=2000m)に予定された最終巻取り径
(rmax=0.135m)に限定して行われている.したがって,計画時に予定された最終巻取り径
(rmax=0.135m)よりウェブがさらに巻き取られる場合(r>0.135m)は一定値として設定される.
図 4-32 は,最終の巻取径の増減を考慮した上で,しわとスリップが起きないように本節で
提示した最適化問題を解いて得られた張力とニップ荷重を示している.同図の最適化張力
は,巻き始めの初期張力が高く(およそ Tw=220N/m),巻き終わりの張力が低い値(およそ
Tw=170N/m)を示している.一方,ニップ荷重は,巻き径の中間付近までおおよそ一定値を
示しており,巻き終わりに近づくにしたがって高い値を示す.これは,巻取径の増加による
接線方向の圧縮応力の発生と巻取径の減少による層間摩擦力の低下を防止する効果を
- 106 -
Nip-laod N , N/m
Winding tension Tw , N/m
Conventional tension
L=2200m
L=2000m
L=1800m
Conventional nip-load
Radial position r, mm
Nip-laod N , N/m
Winding tension Tw , N/m
Fig. 4-31 Conventional tension
Optimized tension
L=2200m
L=2000m
Optimized nip-load
L=1800m
Radial position r, mm
Fig. 4-32 Optimized tension
同時に与えるためである.
図 4-33 は図 4-31 および図 4-32 に示す巻取条件により巻き取った場合の内部応力の計
算結果であり,接線方向応力 σθ,層間摩擦力 F について示している.同図(a-i),(a-ii)は従
来の巻取張力による結果を,同図(b-i),(b-ii)は巻取径の増減を考慮した最適化張力による
結果を示している.同図(a-i)に見られるように,最終の巻取径が増大した場合(破線)には
最外層付近に接線方向応力が負となる領域が存在し,この領域においてはしわが発生す
る可能性が高いことがわかる.これは,予定された巻取径(rmax=0.135m)に対してのみ接線
- 107 -
Tangential stress σr , MPa
Tangential stress σr , MPa
L=1800m(r max =130mm)
L=2000m(r max =135mm)
L=2200m(r max =140mm)
Radial position r, mm
L=2200m(r max =140mm)
Fcr=50kN
L=2000m(r max =135mm)
L=2200m(r max =140mm)
Radial position r, mm
(b-i) Tangential stress
Friction force F , kN
Friction force F , kN
(a-i) Tangential stress
L=1800m(r max =130mm)
r=110mm
L=2000m(r max =135mm)
L=1800m(r max =130mm)
Radial position r, mm
L=2200m(r max =140mm)
Fcr=50kN
r=119mm
L=2000m(r max =135mm)
L=1800m(r max =130mm)
Radial position r, mm
(a-ii) Friciton force
(a) Conventional tension
(b-ii) Friction force
(b) Optimized tension
Fig.4-33 In-roll stress under the conventional condition and optimized condition
方向応力が非負であり,ゼロに近いことを目標として最適化を実施しているためである.す
なわち,予定された巻取径に対してさらにウェブが追加された場合には,層間摩擦力として
作用するウェブの押し付け力が大きく作用する一方で,最外層付近における接線方向の
応力が負に転じやすい特徴を持つためである.一方,巻取長さの変更を考慮した上での
最適化巻取条件で巻き取った場合には,同図(b-i)に示すようにいずれの巻取径において
も圧縮応力が生じていない.これは,最終の巻取径が増大する場合(破線)に最も圧縮応
力が生じる可能性が高くなることを考慮した上で,巻取条件が調整されたためである.
同図(a-ii)は層間摩擦力を示している.巻き終りの巻取径が減少した場合(一点鎖線)に
は,外層付近(最外層から 15%の位置,r=0.11m)において臨界摩擦力を下回っており,スリ
ップが発生する危険性が高い.これは,予定された巻取径(rmax=0.135m)に達する前にウ
ェブの巻取りが終了することにより層間摩擦力を増加させるための巻き上げ張力およびニッ
プ荷重が付与されないためである.一方,本開発の最適化モデルによれば,同図(b-ii)より,
ほぼすべての領域において従来の巻取条件に比較して高い摩擦力を保っており,臨界摩
擦力を下回るのは r=0.119m 以降(最外層から 7%の位置)であることからスリップに対して効
果を示していることがわかる.これは,最外層付近の層間摩擦力が低下することを見積もっ
た上で,あらかじめ初期張力を高く設定(およそ Tw=220N/m)し,巻き始め初期から層間摩
- 108 -
Tangential stress σθ , MPa
0.5
0
Constraint condition σθ≥0
-0.5
-1
1600
○ Optimized tension
● Conventional tension
1800
2000
2200
2400
Actual winding length L,m
Fig. 4-34 Comparison of minimum tangential stress σθ
擦力を高い値(およそ F=70kN)に設定しているためである.また,巻取径が増加した場合
(破線)においても,層間摩擦力はほぼ一定値を示し,ウェブ層間の押しつけ力を適度に
保つことにより,接線方向応力が負とならないように巻取条件が調整されていることがわか
る.
図 4-34 はウェブの巻取長さが増減した場合について従来の張力と最適張力により巻き
取ったときの接線方向応力の計算結果を比較したものである.同図における接線方向応
力とは巻取ロールの内部(r=rc ~rmax)における最小値を示している.同図より,従来の張力
で巻き取った場合には,ウェブの巻取長さが延長(L=2200m)されることによりしわが発生す
る危険性が増大することがわかる.一方,最適化張力により巻き取った場合には常に接線
方向応力が非負かつゼロに近い状態を保っており,しわが発生する危険性が低い.
図 4-35 はウェブの巻取長さが増減した場合について従来の張力と最適張力により巻き
取ったときの層間摩擦力の計算結果を比較したものである.同図における層間摩擦力とは
最終の巻取径に対して 8%小さい巻取径の層間位置における摩擦力を示している.同図よ
り,従来の張力で巻き取った場合には,巻取長さが短縮(L=1800m)された場合において層
間摩擦力が臨界摩擦力より低くなることがわかる.一方,最適化張力で巻き取った場合に
は,層間摩擦力は臨界摩擦力(Fcr=50kN)を上回り,両者の差が少ないことがわかる.
図 4-34 および図 4-35 の結果から,従来の巻取条件ではウェブの巻取長さが変更され
た場合には,しわとスリップが発生する危険性が高まる.これに対して,本最適化手法を用
いると,生産時におけるウェブの巻取長さの変更を考慮した上でしわとスリップを防止するこ
とが可能である.さらに,ウェブの巻取長さが延長あるいは短縮されたすべての範囲
(rmax=0.13~0.14m)において,同じ張力のもとでウェブの引き継ぎ(ウェブの切断)を実施で
きる.
- 109 -
Friction forceF , kN
80
70
60 Constraint condition Fcr=50kN
50
40
30
20
1600
○ Optimized tension
● Conventional tension
1800
2000
2200
2400
Actual winding length L,m
Fig. 4-35 Comparison of friction force F at 0.92rmax/rc
以上のことから,実際の製造現場に起こりうる巻取長さの変化を考慮し,張力の最適化
を図ることによりしわもスリップも生じない巻取条件を設定することが可能であることがわかる.
なお,第4章に示す実験的検証においては,内部応力の比較を目的とし,巻取ロールにお
いて最終の巻取径は一致させていることから,本節で提案した最適化機能は適用しないこ
ととした.
4.6
結言
巻取条件の理論モデルを実機に適用する上で,実際の生産時に起こる問題に着目し,
問題点とその解決方法を示した.以下に結論をまとめる.
(1)
内部応力の理論モデルに適用する最内層境界条件の安定化が重要であること
に着目し,テープレス方式を採用した上で,ウェブの巻き芯への巻き付けの安定
化を実現した.
(2)
内部応力の理論モデルに適用する最外層境界条件の安定化が重要であること
に着目し,最外層の幅方向におけるトラフの発生を軽減する手法を検討し,空気
巻き込み量の幅方向における変化を軽減した.
(3)
幅方向におけるニップ線荷重の均一化が重要であることに着目し,たわみを軽減
するニップローラを提案し,その妥当性を示した.
(4)
生産中にウェブの巻取長さの変更が行われる可能性を指摘し,巻取長さの変更,
すなわち最外層境界条件の変更に対して柔軟に対処できる最適化手法を示し
た.
- 110 -
第5章
5.1
巻取装置への展開
緒言
前章までに,巻取理論に基づいた巻取条件の最適化手法を構築し,環境温度を経時
変化させた上で内部応力を測定し,その理論モデルの妥当性を示した.本章では,理論
モデルを具体的に巻取装置で運用する手法を示す.また,既存の巻取装置に最適化機
能を搭載した上で,最適巻取条件の効果を検証し,巻取ロールの欠陥防止に対する有用
性を確認する.さらに,本節で示す実機サイズの実験により得られた試験データを元に新
たな生産機を製造した.ただし,新規に製作した生産機には従来から蓄積された技術的要
素が含まれること,また販売予定の製品に直結する最新技術であるため詳細は一部の記
述に留めることをご容赦願いたい.
5.2
最適化機能の実装
実際の製造ラインにおいては,対象とする最終製品によりウェブの幅や厚みが変更される.
そのため,広い範囲において巻取張力とニップ荷重が設定できることが望ましい.従来から
巻取条件の設定は経験に基づいて行われているが,特に一定のニップ力の下にロール半
径方向に張力を比例的に低下させる手法(テーパ張力)が広く浸透している.このようなテ
ーパ張力方式は巻径の変動に対して,ウェブ引き継ぎ時の張力や内部応力の変化が少な
く,さらに条件の設定は初期張力 To とテーパ率 φ の 2 つの設定値のみを扱えば良いことか
ら実際の作業との対応がとりやすいという特徴を持つ.また,経験上多くの巻取環境におい
て顕著な欠陥が発生しにくいことから慣例的に良く用いられている.しかし,ロール内部の
応力状態を最適に保つような巻取条件においては,巻き終わりの張力を上昇させるような
巻き方がより有効である.一方,ニップ荷重については巻き品質を最適に保つように巻込
み空気量を可変的に操作することが重要と考えられ,一義的に運転条件を固定化するシ
ステムでは柔軟な対応ができない.そこで,本研究では図 5-1(a)に示すように前述の理論
モデルを用いて得た巻取条件を指示する方式を用いることとした.従来は図 5-1(b)に示す
ような手動による入力方式が主で,多くは固定値で運転条件を設定している.一方,本方
式によれば,広い範囲において巻取条件を柔軟に与えることができる.検証実験では,図
5-2 に示すようなテープレス装置とニップローラを設けた巻取部から構成される装置に本方
式を実装し,ウェブの巻取りを実施した.なお,図 5-3 は既存の巻取装置の全体を示して
おり,第 3 章で提示した巻取り理論の実機への適合性を高める手法を適宜用いている.
- 111 -
(a) Automatic regulation
(b) Manual regulation
Fig. 5-1 Schematic diagram of system
- 112 -
Injection device of tape-less on web splice
Guide roller(Measures of the trough)
Nip-roller (Double supported beam)
Fig. 5-2 Devices used in theoretical model
Dryer
Winding
Un-winder
Fig. 5-3 Overall views of devices
- 113 -
Coating
Printing
5.3
最適巻取条件の設定方法
巻取条件の最適化に際しては汎用的な 32 ビットパーソナルコンピュータを用いた.ソフト
ウェアは,最適化に必要な前提条件の設定と演算結果を表示するユーザインタフェース部,
最適化の数値解析を行う演算部の 2 つに大きく分けられる.なお,最適化を実施する演算
部には高速処理に有利な FORTRAN を言語として用いており,ユーザインタフェース部に
は画像などを扱うため Visual Basic を用いている.前提条件の設定および計算結果の確認
は,できる限り操作者の熟練度を要求しない操作方法が望ましいことから,グラフなどを用
いて視覚的に表示する方法とした.図 5-4 にシステム構成の外観図を,図 5-5 にユーザイ
ンタフェース部の例を示す.最適化の条件に際しては,同図(a)に示す入力画面によりウェ
ブなどの物性値を設定することができる.なお,操作者の設定手順を簡略化するために同
図(b)に示す入力画面によりあらかじめウェブやコアなどの物性値をデータベースとして登
録し,必要に応じて選択することができる.設定した値は,最適化で必要な各種パラメータ
に変換され演算部で利用される.次に演算部で最適化された巻取条件の良否は,同図(c)
に示すグラフなどを用いることにより視覚的に確認することができる.これらの処理によれば,
操作者は煩雑な計算式を意識することなく巻取条件を設定することができる.
Control
console
2arm turret
System
Fig. 5-4 Implementation of optimization functions
- 114 -
Conditions for nip roller
Conditions for web
Conditions for core
(a) Input data
(b) Physical property
Boundary
codition
(c) Calculation result
Fig.5-5 An example of interface
- 115 -
5.4
ウェブ引き継ぎ時におけるウェブ蛇行量の検証
提案する最適巻取条件はしわとスリップを防止するとともに,ウェブ引き継ぎ時における
ウェブの蛇行を可能な限り防止することを目的としている.そこで,巻取ロールの欠陥に対
する最適張力の効果を判定する前段階として,実機でのウェブ引き継ぎ時におけるウェブ
の蛇行量について検証を行う.本研究で提案する巻取装置では,ウェブ引き継ぎ時の安
定的な搬送を目的として,巻き始めの張力と巻き終わりの張力の差を可能な限り小さく決
定している.さらに,内部応力への影響を鑑みて,粘着テープを用いないテープレス方式
を採用しており,ウェブ引き継ぎ時に予めウェブを巻き芯へ押えローラで押し付けた上でウ
ェブを切断する.そのため,このような手法を用いることにより,ウェブ引き継ぎ時の張力変
動が抑制され,ウェブの搬送が安定的な状態に保たれる.そこで,本研究で提案する手法
について,搬送の安定化に関する効果を検証するために,巻き始めの張力と巻き終わりの
張力の差を小さくした場合におけるウェブの蛇行量を計測する.図 5-6 はウェブ引き継ぎ時
のウェブの蛇行量 lm の測定結果である.蛇行量は CD 方向(ウェブの幅方向)におけるウェ
ブの変位量と定義し,ウェブ引き継ぎ時におけるウェブ幅方向の片端位置を図 5-7 に示す
レーザ変位計にて計測している.図 5-6 の実線は本開発で提案したウェブ引き継ぎ方式を
示している.ここで,ウェブ引き継ぎ時における巻き終り張力と巻き始め張力は共に同じ
Tw=200N/m とし,押えローラを予めウェブに押しつけた状態で蛇行量を計測した.一方,同
図の破線は従来のウェブ引き継ぎ方式を示している.ここで,ウェブ引き継ぎにおける巻き
終り張力は Tw=40N/m,巻き始め張力は Tw=200N/m とし,押えローラは予めウェブに押しつ
けていない.同図の結果から,本開発で提案したウェブ引き継ぎ方式は安定しており,ウェ
ブ引き継ぎ時におけるウェブの蛇行を解決している.なお,搬送中のウェブの状態は数値
で比較できない項目が多く,さらに,ウェブには様々な種類があることから,代表例として,
PET フィルムを用いた場合のウェブの蛇行量を一例として示している.
- 116 -
2
Conventional method
1
0
-1
-2
Web splice
Move distance from the center lm , mm
3
Present method
-3
5
10
15
Time ,s
Fig. 5-6 Result of variation amount
Wound roll
Displacement
measuring device
Fig. 5-7 Schematic of measurement
- 117 -
20
5.5
巻取直後における巻取条件の最適化の実施例
5.5.1
従来の巻取条件における欠陥の発生
巻 取 条 件 の設 定 が不 適 切 な場 合 には巻 取 直 後 に巻 取 ロールにしわが発 生 する.図
5-8(a)は従来の巻取条件の事例として,破線は初期張力 Tw0=200N/m(テーパ張力)での
巻取張力を,一点鎖線は同じく初期張力 Tw0=140N/m(テーパ張力)による巻取張力を示
している.同図(a)のテーパ張力おいて,低減率 φ は 30%としている.この値はしわやスリッ
プの発生状況から決定され,試行錯誤的に広く用いられているものである.同図(b)は同図
(a)に示した各張力に対応したニップ力を示している.なお,同図(b)におけるテーパ張力に
おけるニップ荷重は N=70N/m(経験的に定めた固定値)としている.このような巻取条件に
対して前述で述べた巻取理論を用いて解析した結果を図 5-9 に示す.なお,計算に用い
Winding tension Tw , N/m
た諸条件を表 5-1 に示す.同図(a)は接線方向応力を,同図(b)は層間摩擦力をそれぞれ
300
Taper tension Tw0=200N/m , N=70N/m
200
100
Taper tension Tw0=140N/m, N=70N/m
0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(a) Winding tension
Nip-load N , N/m
300
200
Nip-load of Tw0=140N/m and 200N/m
100
0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(b) Nip load
Fig. 5-8 Conventional winding condition
- 118 -
Tangential stress σθ , MPa
2.0
Taper tension Tw0=140N/m, N=70N/m
1.0
0
Taper tension Tw0=200N/m , N=70N/m
-1.0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r , mm
(a) Tangential stress
Friction force F , kN
100
80
Taper tension Tw0=200N/m , N=70N/m
60
Critical friction force Fcr=50kN
40
20
0
40
Taper tension Tw0=140N/m, N=70N/m
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r , mm
(b) Friction force
Fig. 5-9 In-roll stress under the conventional condition
示している.同図(a)にみられるように,初期張力 Tw0=200N/m によるテーパ張力を用いた場
合(破線)には接線方向応力が負となる領域(r/rc=1.1~2.5)が存在し,この領域においてし
わが発生する可能性が高いことわかる.これはいわゆる「巻き締まり」の状態に相当している.
これに対して,初期張力 Tw0=140N/m によるテーパ張力を用いた場合(一点鎖線)では巻
取張力が総じて低いために負となる領域が見当たらない.
同図(b)は層間摩擦力を示している.この値が高いほど「巻きズレ」と呼ばれるウェブのス
リップ現象が発生し難くなる.後述する最適化計算において臨界摩擦力 Fcr は Fcr=50kN と
している.これは,巻取りロールをクレーンで吊り上げ,巻き取られたロールがある程度移動
してもスリップが発生しないような摩擦力を想定している.比較のため同図中に臨界摩擦力
- 119 -
Table 5-1 Prescribed optimization conditions for calculating
Maximum radius about web length 4000m
Web Thickness
rmax, mm
hw , μm
0.185
25
Web width
W,m
1.0
n
Young’s modulus in radial direction of wound roll
Er=Aσ r ,
Pa
A=123
n=1.0
Young’s modulus in circumferential direction of wound roll
Eθ ,
Pa
Ec, Pa
5.18
×109
17.0
×109
0.05
Young’s modulus of core
Core radius
Winding velocity
rc, m
V, m/min
100
Friction coefficient
μeff
0.3
Fcr を示す.同図より,初期張力 Tw0=200N/m を用いた場合(破線)には,最外層付近まで臨
界摩擦力以上を保っている.すなわち,同等の外力が発生する輸送環境などであれば,ス
リップに対しても効果を示していることがわかる.これに対して,初期張力 Tw0=140N/m によ
るテーパ張力を用いた場合(一点鎖線)では巻取張力が総じて低いために臨界摩擦力を
大きく下回っている.すなわち,同等の外力が発生する輸送環境などであれば,スリップの
危険性が高いことを示している.このように,しわとスリップは常にトレードオフの関係にあり,
欠陥を同時に防止するための具体的な初期張力やテーパ率は試行錯誤により設定される
ことになる.テーパ張力の利点は,最終巻終わり径が変化した場合において,切断時にお
ける巻取張力と内部応力の変化量が少ないことにある.そのため,テーパ張力方式はウェ
ブの巻取り長さの変更が見込まれる生産プロセスにおいて古くから利用されている.
5.5.2
最適巻取条件に期待される効果
従来のテーパ張力による問題に対して,最適化張力を提案する.最適化を行った際の
与条件を表 5-2 に示す.なお,与条件は生産時における仕様によって適宜変更される値
である.
図 5-10 は前述の巻取条件に対して具体的に巻取張力とニップ荷重の最適化計算を行
った事例について示している.同図(a)において実線は最適化した巻取張力を示している.
一方,同図(b)は同図(a)に示した張力に対応した最適ニップ力を示している.図 5-11 に最
適巻取り条件で巻き取った場合における内部応力の解析結果を示す.同図(a)は接線方
向応力を,同図(b)は層間摩擦力をそれぞれ示している.同図(a)にみられるように,最適化
した張力とニップ荷重を用いた場合(実線)には,いずれの領域においても圧縮応力を生じ
ていないことがわかる.
- 120 -
Table 5-2 Design variables of optimization
Parameters
Values
Fcr[kN]
50.0
σθref[MPa]
8.0
Twmax[N/m]
200
Twmin[N/m]
0
Nmax [N/m]
200
Nmin [N/m]
0
Winding tension Tw , N/m
300
Optimized tension
200
100
0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(a) Winding tension
Nip-laod N , N/m
300
200
Optimized nip-load
100
0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(b) Nip load
Fig. 5-10 Optimized winding condition
- 121 -
同図(b)は層間摩擦力を示している.同図より,最適化された巻取条件を用いた場合に
は,臨界摩擦力より高い摩擦力を保っている.すなわち,同等の外力が発生する輸送環境
などであれば,スリップに対しても効果を示していることがわかる.従来,スリップが発生した
場合には,テーパ張力の初期張力,もしくはニップ荷重を高い値に変更して対応すること
が多い.この場合,ウェブ層間の押し付け力として作用する半径方向応力 σr が大きくなり,
ウェブ層間に形成される空気層も薄くなるため層間摩擦力が増加する.しかしながら,同時
に接線方向応力 σθ に圧縮応力が生じ,しわの発生が危惧される.一方,本開発の最適化
手法によれば,接線方向応力(圧縮応力)を見積もった上で巻取張力を設定し,押し付け
Tangential stress σθ , MPa
力(半径方向応力)が低下する最外層付近において空気巻込み量をニップ荷重によって
2.0
Optimized tension
1.0
0
-1.0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(a) Tangential stress
Friction force F , kN
100
80
Optimized tension
60
40
Critical friction force Fcr=50kN
20
0
40
60
80 100 120 140 160 180 200
Radial position r, mm
(b) Friction force
Fig. 5-11 In-roll stress under the optimized condition
- 122 -
制限し,層間摩擦力を高い値に設定している.なお,ニップ荷重を固定値とし,最外層付
近の巻取張力を大きくすることも方法の一つではあるが,引張力が大きいとウェブに塑性変
形を引き起こす可能性がある.また,中心軸駆動モータのコストや設置スペースの制限を
受けることからも巻取張力を大きくすることはできない.そのため,実際の製造においてはニ
ップ荷重を可変とすることが望ましい.
5.5.3
最適巻取条件による実験的検証
以上に提案した巻取り直後における巻取条件の最適化手法の妥当性を検討するために
巻取テストを実施して,その性能を確認した.実装した最適化手法により最適な巻取条件
を計算し,その巻取条件によって巻き取った巻取ロールの外観を観察した.なお,巻取りに
際しての諸条件は表 5-1 に基づいている.また,従来の巻取条件は前述の図 5-8 を,最適
化の巻取り条件は図 5-10 の結果を用いている.
Enlarged photo (b),(c)
(a) Whole view after winding
Loss : 3%(100m)
Loss : 0%(0m)
No defect
Wrinkle
(b) Taper tension ;Tw0=200N/m, N=70N/m
(c) Optimized tension, Nip-load
Fig. 5-12 Photograph of wound roll
- 123 -
図 5-12 に巻取ロールの外観写真を示す.プラスチックフィルムの外観をカメラ撮影する
際,光の反射などの諸条件から撮影は困難である.そこで,局所的に赤色オイルを塗布し,
撮影を実施した.図 5-12(c)において最適巻取条件を適用した場合にはしわが生じていな
いことがわかる.一方,図 5-12(b)に示すように従来の巻取条件で巻き取った場合には,巻
取コア付近にしわが生じている.なお,巻取ロールの外観検査を行ったところ同図(b)にお
いては,巻き芯からおよそ 100m の領域においてしわを確認した.巻取ロールのウェブの全
長は 4000m であることから,約 3%の欠陥となり,一般的な欠陥量と同程度である.それに対
して,最適巻取条件によれば欠陥量がゼロである.実際の機能性材において,目視で簡単
に確認できないしわであっても,品質的に許容できない場合が多々ある.そのため,ロール
Shaft
Shaft
Part to push a core
Wound roll
Core
Base
(a) Photograph of apparatus
(b) Photograph of shaft
Shaft
Wound roll
Core
Slippage
Downfall
(b) Schematic of apparatus
Fig. 5-13 Experimental apparatus for drop test
- 124 -
内部の応力が非負になるという理論的保証が巻取り前に得られることが重要である.
次に落下試験を行い,耐スリップ力を比較した.図 5-13 に落下試験の概略図を示す.
本装置はシャフトを介して巻取ロールを落下させる構造となっており,シャフト内部の部品を
駆動させることによりコアの保持力を操作することができる.本試験では,それぞれの張力
で巻き取った巻取ロールを同じ高さから自由落下させ,衝撃を加えた後に外観を比較した.
図 5-14 は落下後の巻取ロールの外観である.従来の巻取条件を用いて巻き取った場合
には,同図(a)に示すように最内層にスリップが生じていることがわかる.これは,巻取コアの
下端面が地面に衝突した際の衝撃力に対して層間摩擦力が相対的に低いためである.一
方,最適化した巻取条件で巻き取った場合には,同図(b)に示すように衝撃力が付与され
てもスリップが発生していないことがわかる.さらに,ロール端面においてもウェブが蛇行し
て巻き取られた形跡は確認されなかった.すなわち,ウェブ引き継ぎ時の蛇行を防止した
上で,巻きしわを生じさせることなく,従来手法よりもスリップを起こし難いことがわかる.なお,
同図(a)に示すように巻き芯付近において大きなスリップが生じた場合には,しわや傷が無く
とも次工程では使用できない.これは,次工程においてウェブの幅方向の送り出し位置を
ほぼ一定として生産工程が計画されているためである.したがって,このような場合には,新
しい巻き芯への巻き取り(いわゆる巻き返し)が必要になる.これに対して,本最適手法によ
れば次工程において必要とされる巻取ロールの巻き姿を予め考慮した上で巻取条件を決
定できる.以上のことから巻取り直後における最適巻取条件の妥当性が確認できた.
Initial position
Initial position
No slippage
Slippage(about 30mm)
Loss : 0%(0m)
Loss : reproduction
(a) Taper tension Tw0=140N/m, N=70N/m
(b) Optimized tension , Nip-load
Fig. 5-14 Result of drop test
5.6
環境温度の経時変化における巻取条件の最適化の実施例
5.6.1
エージング処理を考慮した実施例
巻取条件の設定が不適切な場合には熱的環境に起因するしわやスリップの発生が問題
となる.とりわけ,近年の製造プロセスにおいて,エージング処理における巻き芯付近部の
- 125 -
しわが大きな問題となってきている.そこで,エージング処理による加熱を想定して,巻取り
直後(t=0hr)から環境温度 ΔTf を ΔTf=+20℃まで 12 時間(t=12hr)変化させた場合における
欠陥の防止方法を検討する.図 5-15(a)は表 5-3 に示す条件に対して,しわとスリップの発
生を同時に予防することを目的に最適化された巻取り条件を,同図(b)は接線方向応力を,
同図(c)は層間摩擦力を示している.同図(b)の接線方向応力については,いずれの時間
においても巻芯近傍に圧縮応力が生じていない.これは,最適化張力によって温度上昇
による圧縮応力の発生を抑制させる効果が現れたためである.また,同図(c)の層間摩擦力
ついては,いずれの時間においても制約条件(r/rc<2.04)の範囲内で層間摩擦力は臨界
摩擦力以上であることがわかる.図 5-16 は時間経過に伴う接線方向応力の計算結果を示
したものである.同図における接線方向応力とは巻取ロールの内部(r/rc=1.0~2.08)におけ
る最小値であり,巻取の直後(0hr),4hr,および 12hr が経過したときの状態を示している.
同図より,最適化張力により巻取った場合には常に接線方向応力が非負かつゼロに近い
状態を保っている.これは,しわの発生を防止するための制約条件(σθ≥0)に加えて,接線
方向応力ができる限りゼロに近くなるように最適化問題を定式化しているためである.なお,
ウェブに過度の引張応力が作用する場合にはクリープが発生する恐れがあるので実用上
好ましくない.そのため,接線方向の圧縮応力を防止する一方で,ウェブに作用する引張
応力を最小限に保つことを目的とした結果である.
Table 5-3 Conditions for experimental
Web width
Web Thickness
Maximum radius
Young’s modulus in radial direction of web
Composite RMS roughness of web
Friction coefficient
Thermal conductivity of web
[m]
[μm]
rmax [m]
Er=Aσ nr ,
[Pa]
Eθ
[Pa]
[μm]
[-]
[W/(mK)]
4.52
×109
0.2
0.3
0.13
Specific heat of web
[J/(kgK)]
1100
Young’s modulus in circumferential direction of web
3
1.0
25
0.105
A = 118
n = 1 .0
Density of web
[kg/m ]
1390
Expansion coefficient in radial direction αr
[1/K]
16.7×10 -5
Expansion coefficient in circumferential direction αθ
[1/K]
2.1×10-5
Expansion coefficient of core αc
[1/K]
0.1×10-5
Young’s modulus of core
17.0×109
Winding velocity
[Pa]
[m/min]
Heat transfer coefficient
hs[W/m2K]
33.0
Critical friction force
Fcr[kN]
6.0
Reference tangential stress
σθ[Mpa]
8.0
- 126 -
100
Winding tension Tw , N/m
Nip-load N , N/m
300
Optimized tension
200
100
Optimized nip-load
0
40
60
80
100
120
Tangential stress σθ , MPa
Radial position r, mm
(a)Optimized winding condition
2
t=0hr
1
t=4hr
t=12hr
0
40
50
60
70
80
90 100 110 120
Radial position r, mm
(b)Tangential stress
Friction force F , kN
30
t=0hr
t=4hr
t=12hr
20
10
Critical friction force Fcr=6kN
0
40
50
60
70
80
90 100 110 120
Radial position r, mm
(c)Friction force
Fig. 5-15 Optimized tension
- 127 -
Tangential stress σθ , MPa
Time t, hr
Fig. 5-16 Comparison of minimum tangential stress σθ
5.6.2
最適巻取条件による実験的検証
環境温度の変化を考慮した巻取条件の理論モデルの妥当性を検討するために巻取試
験を実施した.提案する巻取条件によって巻き取った後に環境温度を 45℃に保ったエー
ジングルーム内にて 12 時間保管した後,巻取ロールの外観を観察した.なお,巻取ロール
の保管は図 5-17(a)に示す空調機が設けられたエージングルームにて行い,環境温度は
設定値に対して±1℃以内に保つことができる構成となっている.また,巻取り直後におけ
る巻取ロールの温度は図 5-17(b)に示す赤外線温度計を用いて計測したところ 25℃であっ
た.したがって,実験に際して巻き取り直後における環境温度(エージングルーム内の雰囲
Heater
Wound roll
(a) Aging room
(b) Temperature measurement
Fig. 5-17 Aging room
- 128 -
Core
Core
No defect
No defect
(a) After winding
(b) After aging
Fig. 5-18 Result of storage
気温度)と巻取ロール表面の温度差は ΔTf=+20℃である.
図 5-18 に外観写真を示す.なお,エージングルームへの保管は,計算条件と同じ 12 時
間までとした.同図(a)は,巻取り直後の巻き芯付近部を示しておりしわが生じていないこと
がわかる.また,同図(b)は,エージング処理後の巻き芯付近部を示しており巻取り直後と同
様にしわが生じていないことがわかる.以上のことから,このような環境温度の変化を考慮し
た巻取り条件を用いることにより巻取ロールの内部応力の変化を考慮した上でウェブに欠
陥を生じない最適な巻取を設定することが可能であると結論付けられる.
5.7
新型生産機への展開
5.7.1
新型生産機の概要
図 5-19 および図 5-20 は,本研究で得られた成果を元に新たに製作した装置を示してい
る.図 5-19(a)は装置全体を示しており,食品包装や機能性デバイスでは,ウェブの貼り合
わせ(ラミネートと呼ばれる)を行う工程が多いことから,ラミネート部および塗工部から構成
している.また,巻取部は 2 つの巻取装置を配しており,ウェブの特性などに併せて適切に
巻取理論モデルを扱えるように巻取装置を適宜選択できるようにしている.さらに,今後は
生産時において搬送されるウェブを吸収し,見掛け上においてウェブの搬送を停止させる
装置(アキュームレータ装置と呼ばれる)にも対応することを見据えて,拡張性を考慮して設
計を実施している.なお,本機は様々な試験条件に対応できるように配慮している.これは,
更なる難易度の高い巻取り試験の評価や新たなユーザの獲得を目標としているためであ
る.
近年,プリンティッド・エレクトロニクスの発展に伴い,様々な材質のウェブが登場し,フレ
キシブル性を有したガラスなども利用され始めている.今後,こういった様々な特性を持っ
たウェブによる最適化機能の評価も行う必要がある.
- 129 -
Dryer
Un-winder
Lami Accumulation Inspection
Winder
Winder
(a)Figure of summary
(b)Externals
(c)Externals
Fig.5-19 Views of devices
- 130 -
Un-winder
Coating
(b)Optimized computer
(a)Winding system
(c)Optimized computer
(d)Un-winder
(f)Inspection of slip and wrinkle
(e)Accumlater
Fig.5-20 Views of devices
- 131 -
5.7.2
新型生産機に関わる知的財産権
表 5-3 は,本研究で得られた成果を元にした出願中の特許を示している.同表に提示す
る特許および本研究により得られた巻取技術およびそれに関わるウェブの搬送技術,さら
には操作性を考慮した最適化機能を組み合わせたことにより,操作者の負担を軽減させた
上で,高品質な巻取りが可能となった.
Table.5-3 List of patent applications
No.
特許公開番号
名称
1
特開 2012-240814
ウェブ巻取装置およびその制御方法
2
特開 2012-046261
巻取装置の制御方法および巻取装置
3
特開 2012-188221
巻取装置および巻取制御方法
4
特願 2013-078885
ガイドロール及びウェブ搬送装置
5
特願 2013-078886
ガイドロール及びウェブ搬送装置
5.8
結言
本章では,まず,既設された巻取装置に最適化機能を実装し,最適化巻取条件を設定
できるようにした.次に,従来の巻取条件による問題点を指摘し,その解決策として最適化
された巻取条件の効果を提示した.その有効性を検証するために実際に実機規模でのウ
ェブの巻取実験を行い,その有効性を確かめた.さらに,それらの成果を考慮した上で,新
たな生産機を製作した.以下に結果のまとめを示す.
(1)巻取張力とニップ荷重の最適化機能を実機に組み込み,操作者が簡単に操作できる
手法を構築した.
(2)従来の実製造プロセスでの巻取条件による巻取不具合を指摘し,その対策手法として
最適化巻取条件を掲示し,スリップやしわなどの不具合を防止できることを示した.
(3)しわとスリップの欠陥を防止する巻取条件の最適化機能を設けた新たな生産機を製作
した.
- 132 -
第 6 章.結論
一般に,巻取ロールの品質はロール内部の応力状態に支配され,その内部応力はウェ
ブに作用する張力と巻取ロールに巻き込まれる空気量により支配されている.さらに,近年
の機能性材料では,ウェブの熱膨張・収縮によっても内部応力は大きく変化し,巻取ロー
ルの欠陥に影響する問題も著しく増加している.そのため,巻取ロールの品質を保つため
には熱的環境の影響も考慮した上で巻取条件を設定することが重要となってきている.従
来から巻取ロールの欠陥を防止するために,製品毎に巻取条件の対策が図られてきたが,
近年の多種多様なウェブや巻き芯の種類,あるいは海外諸国へ長時間にわたって巻取り
ロールを輸送するような熱的環境下において,従来から行われてきたような経験的な対処
方法は限界に近づいている.そのため,巻取り直後から長時間にわたって巻取ロールの品
質を保つためには,内部応力の理論的な予測が必要不可欠であり,その予測に基づいて
適切な内部応力を理論的に設定することが要求される.そこで,巻取ロールの内部応力と
密接な関係にある巻取条件に着目し,その最適化機能を開発し,実験により有効性を検
証した.さらに,最適化機能を巻取装置に組み込み,操作者が簡単に操作できる手法を構
築した.
以下,本研究により得られた結論を述べる.
第 2 章では,巻取ロールの欠陥の防止を考慮した巻取張力とニップ荷重の巻取条件の
最適化を行いその理論モデルを構築した.得られた主な結論を以下に記す.
(1)
プラスチックフィルムにおける巻取ロールの欠陥を防止するためには,巻取時の設
定パラメータのうち巻取張力のみならずニップ荷重の両方を含めた巻取条件の最
適化の必要性を提示した.
(2)
張力とニップ荷重の両方を含めた巻取条件の最適化手法を提案し,しわとスリップ
を同時に防止する最適巻取条件を提示した.
(3)
巻取装置における巻取理論モデルの適用性を考慮し,巻き始めのウェブ走行の安
定性を検討し,巻取条件による対策手法を提示した.
(4)
結論(3)に基づき,巻初めと巻終わりの張力の差を可能な限り小さくすることを提案
し,最適化機能として定式化した.
(5)
しわとスリップを防止する最適な巻取条件を解析する上での,実用的な温度範囲を
設定した.
(6)
実際の製造現場で起こりうる不規則な温度変動によって巻取ロールに欠陥が発生
する可能性を示し,環境温度の経時変化における巻取ロールの欠陥の防止を考
慮した巻取張力とニップ荷重の巻取条件の最適化手法を提案した.
- 133 -
第3章では,前章までの理論を基に,巻取ロールの内部応力を計測した上で理論モデル
の妥当性を示し,最適巻取条件の有効性を提示した.さらに,ウェブのヤング率の温度依
存性を計測した上で,巻取ロールの内部応力への影響を検証した.得られた主な結論を
以下に記す.
(1)
ウェブのヤング率の温度依存性を検証し,ヤング率の温度依存性が巻取ロールの
内部応力に及ぼす影響は小さいことを示した.
(2)
環境温度の変化に対して,巻取ロールの内部応力が大きく変化することを実験的
に示し,理論予測と概ね一致することを示した.
(3)
巻取り完了後にロール周辺の環境温度を変化させた場合の巻取試験を実施し,理
論的求められた内部応力と実測値がおおよそ一致することを示した.
(4)
従来の巻取条件による巻取不具合を指摘し,その対策手法として具体的な最適化
巻取条件を掲示した.
(5)
結論(4)に基づき,最適化巻取条件による巻取試験を実施し,層間摩擦力を計測
することにより,理論モデルの予測値と実験値は概ね一致し,最適巻取条件の有
用性を示した.
第4章では,実機における巻取理論モデルの適用性を考慮し,巻取機における改善点
を整理し,主に巻取モデルの最内層と最外層の境界条件の安定化について対策を実施し
た.得られた主な結論を以下に記す.
(1)
巻取装置への巻取理論モデルの適用に際して,最内層境界条件の安定化が重
要であることを示し,幅方向における内部応力の均一化に際してテープレス方式
を提案し,ウェブの巻き付けの安定化を実現した.
(2)
巻取装置への巻取理論モデルの適用に際して,最外層境界条件の安定化が重
要であることを示し,最外層の幅方向におけるトラフに起因する巻き込み空気量の
分布を軽減する手法を提案し,その効果を示した.
(3)
ニップローラのたわみに起因する幅方向におけるニップ線荷重の分布を示し,ニ
ップ線荷重の分布によって巻き込み空気量が不均一になる可能性を示した.
(4)
結論(3)に述べた巻き込み空気量の均一化を目的に,たわみを軽減するニップロ
ーラ形状を提案し,ニップ線荷重の分布が軽減する効果を示した.
(5)
実際の製造プロセスにおいてウェブの巻取長さの変更が行われる可能性を指摘
し,その範囲を適切に見積もった上で,巻取長さの変更に対して柔軟に対処でき
る最適化手法を示した.
第5章では,2軸ターレット方式かつ中心駆動巻取方式に最適化機能を設備化し,巻取
試験を実施することにより,その効果を確認した.得られた主な結論を以下に示す.
- 134 -
(1)
巻取張力とニップ荷重の最適化機能を実機に組み込み,操作者が簡単に巻取条
件を操作できる手法を構築した.
(2)
実機における巻取試験により,本研究で提示した最適化機能は実際の生産現場
で確認されるスリップやしわなどの巻取欠陥を効果的に防止できることを示すととも
に,従来の巻取条件に比較して有用であることを示した.
(3)
本研究の成果を総括した上で,新たな生産機を製作し,ウェブハンドリング技術の
更なる発展を目的とした環境を整備することができた.
最後に本研究の総括として,産業界への効果と展望についてまとめる.我々の身の回り
では,古くから食品の包装や磁気テープとして,プラスチックフィルムが使われており,近年
においては液晶テレビの偏光板やリチウム電池のセパレータなどに代表される電子デバイ
スとしての需要が大いに拡大している
114)
.これらの素材は,その製造過程でロール状に巻
き取られ生産に供されることから巻取ロールの欠陥を防止することが極めて重要な基本技
術となる.とりわけ,近年の高機能デバイスはウェブ単価のコストアップや工場設備の投資
がかさむため,巻取条件などのオペレーション上の制約によって生産効率が阻害されること
は極力避けなければならない.しかしながら,スリップやしわの理論的な防止策は学術的な
バックグラウンドの乏しさから経験則にゆだねられている部分が多く,理論的な対策手法は
皆無に等しい.一方,巻取試験による条件設定は,具体的な対策手法の一つではあるも
のの,実際の計測において適当な計測手法が少ないこと,作業者の巻き込まれに対して安
全性を考慮しなければいけないこと,単に数点を計測する用途であれば試験コストが高価
な割に得られる情報が少ないことなどから,総じて試験回数は少なく,何らかの試行錯誤や
推察に留まっているのが実情である.しかしながら,欠陥を防止するために,コストに見合っ
た何らかのより具体的な手法が要求されていることも事実であり,本研究はそれらの要望を
満足する理論的かつ具体的な対策手法の一つであると考える.巻取ロールに関する欠損
は,実に生産量の 1%~80%に相当し,磁気テープなどの高機能材料においては,5%程度
の損失量であっても年間数億円もの損失に達するという.今後もさらに,ロール・ツー・ロー
ル業界の市場拡大を受けて受注競争はますます激化することが容易に予想される.このよ
うな状況を受けて,受注競争の激化は価格競争を招いており,設備投資の増加や品質管
理への対応強化などコストは増加の方向にあるのに対し,必ずしも販売価格は上昇してい
るとは言えない状況になりつつある.さらに,高機能化に伴うウェブ自体の扱いも難しくなっ
ており,それに対応する技術力および人員の増強や教育も必要とされ,多くの企業にとっ
て感覚的であった巻取条件の設定そのものが困難なものとなってきている.したがって,理
論的な手法に基づいて巻取ロールの内部応力を事前に予測し,かつ欠陥を防止できる本
技術は厳しい価格競争を耐え抜く画期的な機能を供与するものと確信している.今後もさ
らに産業界の発展とウェブハンドリング技術の向上を目指して様々な課題に取り組んでいく
覚悟である.
- 135 -
謝
辞
本論文は,東海大学大学院総合理工学研究科総合理工学専攻博士課程の博士論文
であり,本論文をまとめるにあたり終始暖かいご指導を賜りました東海大学 橋本巨教授に
慎んで感謝の意を表します.本論文の作成に当たり,橋本 巨教授には,研究の進め方,
論理の展開方法,理論の細部に渡り懇切丁寧なご指導,ご鞭撻を戴き,本論文を大成す
ることができました.近年,ロール・ツー・ロール業界の市場拡大を受けて新規参入も増加し,
受注競争はますます激化していることに端を発し,2008 年に著者が東海大学における「ウ
ェブハンドリング研究会」に出席した縁で,東海大学大学院に入学し,その研究成果をまと
めたものであります.今後もさらに,成長が期待されるウェブハンドリング市場であり,案件
数の増加や大型化は企業にとっては望ましいことではありますが,良質な巻取りロールの
安定供給を継続することは困難になっており,いわゆる現場における泥臭い汗を流す対応
では限界に近付きつつあることを感じていました.そのような状況において,橋本巨教授か
ら理論的な手法に基づいて巻取ロールの欠陥を防止する本研究をご指導いただき,今後
も学んだ多くのことを開発活動に活かしていく所存です.
そして,ご多忙の折,本論文の申請をお引き受けくださり,有益なご助言をいただきまし
た主査の岩森暁教授,審査委員の山本佳男教授,神崎昌朗教授,槌谷和義准教授に甚
大なる謝意を表します.さらに,著者が思い悩んだとき,多数の有益なご助言をいただきま
した砂見雄太先生に甚大なる謝意を表します.また,開発に際して有益なご助言励ましの
言葉をいただきました同じ課程学生である大倉工業㈱藤本清二様に深く感謝し,御礼申し
上げます.また,海外などにおける論文発表におきましても落合成行先生をはじめ研究室
の学生皆さまには多大なるご協力をいただき感謝いたします.そして,不慣れな著者に事
務手続きなどで様々な便宜を図ってくださった工学部長室戸塚優貴子様に深く感謝いた
します.
本研究は,環境問題にも繋がる総合的なウェブハンドリング技術の向上を目指したもの
であり,本研究の動機付けになった国内外の関係各社から寄せられた多くの不具合事例,
問い合わせ,原因究明は,本格的な研究の原動力になりました.また,技術士包装物流会,
包装専士会の仲間の皆様には常日頃,適切な指導,鞭撻を戴きそして励まして戴き深く感
謝いたします.そして,ウェブハンドリング技術の向上を経営目標として強力に推進してくだ
さり,このような有意義な機会を与えて下さった富士機械工業㈱ 和田隆雅社長,富永保
昌常務,永井守章部長に甚大な感謝の意を申し上げる所存です.また,著者の研究活動
に終始ご支援いただいた富士機械工業㈱ 設計部西村高博部長をはじめ,多くの従業員
の皆さまに心から感謝いたします.今後もさらに,産業界の発展とウェブハンドリング技術の
向上を目指して様々な課題に取り組んでいく所存です.
おわりに,非常に興味深い研究の機会を与えていただき,また,終始支え励まして下さ
ったすべての方々に感謝の意を表します.
136
記
号
a
:巻取りロールの温度拡散率 [m2/s]
A1,B1
:任意定数 [-]
B
:ヘッセ行列 [-]
d
:探索ベクトル [-]
Ec
:巻取コアのヤング率 [Pa]
Eeq
:巻取ロールとニップローラの等価ヤング率 [Pa]
Er
:巻き込み空気の影響を考慮した巻取ロールの半径方向ヤング率 [Pa]
Era
:巻取りロール内部の空気層の半径方向ヤング率 [Pa]
Ereq
:巻取りロールの半径方向の等価ヤング率 [Pa]
Eteq
:巻取りロールの接線方向の等価ヤング率 [Pa]
Enip
:ニップローラのヤング率 [Pa]
Eθ
:巻取ロールの円周方向ヤング率 [Pa]
f(X)
:目的関数[-]
F
:ウェブ層間における摩擦力 [N]
Fcr
:臨界摩擦力の基準値[kN]
gi(X) (i = 1~2nr+2mr+2)
:制約関数
h
:巻取り途中における巻き込み空気厚さ [um]
h0
:初期の巻き込み空気厚さ [um]
hf
:巻取り途中におけるウェブの厚み [um]
hw
:ウェブの厚み [um]
hs
:ロール表面における熱伝達率 [W/m2K]
L
:実際の巻取り長さ [m]
lm
:ウェブの蛇行量 [mm]
Mi
:形状パラメータ [-]
mr
:ニップ荷重関数の半径方向の分割数 [-]
nr
:張力関数の半径方向の分割数 [-]
N
:ニップ線荷重 [N/m]
Nmax
:最大ニップ荷重 [N/m]
Nmin
:最小ニップ荷重 [N/m]
ΔNj (j= 1~mr)
:j 番目の節点における初期ニップ荷重からのニップ荷重変化量[N/m]
ΔNjmax (j= 1~mr) :j 番目の節点におけるニップ荷重変化量の許容最大値[N/m]
ΔNjmin (j= 1~mr) :j 番目の節点におけるニップ荷重変化量の許容最小値[N/m]
pa
:標準大気圧(=0.101MPa) [Pa]
-137-
P
:形状関数の接点 [-]
q
:ロール表面における熱流束 [W/m2]
r
:巻取層の任意の半径位置 [m]
rc
:巻芯の半径 [m]
rp
:ペナルティパラメータ[-]
rmax
:実際の最大巻取径 [m]
robj
:巻取り予定径 [m]
rlmax
:予定より巻取りが延長された場合における巻取り径 [m]
rlmin
:予定より巻取りが短縮された場合における巻取り径 [m]
Δr
:ロール表面における熱伝達率 [W/m2K]
Req
:巻取りロールの等価半径 [m]
Rnip
:ニップローラの半径 [m]
s
:巻取ロールの最外半径 [m]
t
:時刻 [hour]
T
:ロール内部の温度 [K]
Tf
:周囲の温度 [K]
Ts
:ロール表面の温度 [K]
Tw
:巻取張力 [N/m]
Two
:初期巻取張力 [N/m]
Twmax
:最大巻取張力 [N/m]
Twmin
:最小巻取張力 [N/m]
T0
:ロール内部の初期温度 [K]
ΔT
:ロール内部の温度変化量 [K] (=T-T0)
ΔTf
:ロール温度と環境温度の差[K](=Tf-T0)
ΔTi (i= 1~nr)
:i 番目の節点における初期張力からの張力変化量 [N/m]
ΔTimax (i= 1~nr) :i 番目の節点における張力変化量の許容最大値 [N/m]
ΔTimin (i= 1~nr) :i 番目の節点における張力変化量の許容最小値 [N/m]
V
:ウェブの巻取速度 [m/min]
W
:ウェブの幅 [m]
X
:設計変数ベクトル
αc
:巻芯の線膨張係数 [1/K]
αr
:ウェブの半径方向線膨張係数 [1/K]
δσr
:巻取中における半径方向応力の増分[Pa]
δσθ
:巻取中における接線方向応力の増分[Pa]
αθ
:ウェブの接線方向線膨張係数 [1/K]
εt
:ウェブの第1層のひずみ量 [-]
η
:標準大気圧下における空気の粘度 [Pas]
-138-
θ
:引張時における変位 [m]
μ
:ニップローラとウェブの動摩擦係数 [-]
μeff
:ウェブ間の静摩擦係数 [-]
νnip
:ニップローラ素材のポアソン比 [Pa]
σff
:ウェブの合成自乗平方根粗さ [um]
σf1
:ウェブ表面の自乗平均根粗さ [um]
σf2
:ウェブ裏面の自乗平均根粗さ [um]
σmin
:巻取ロールの接線応力の最小値 [Pa]
σr
:巻取ロール内部の半径方向応力 [Pa]
σrc
:圧縮試験における圧縮応力 [Pa]
σθ
:巻取ロール内部の円周方向応力 [Pa]
σθref
:巻取ロール内部の接線方向応力の基準値 [Pa](=Tw0/hw)
δσr
:巻取中における半径方向応力の増分[Pa]
Δσrdif
:巻取ロール内部の半径方向応力の差[Pa]
φ
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-139-
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