歯学部歯学科 5 年生講義 統合科目 I 講義ノート 口腔腫瘍の基礎と臨床 形態と機能の再建、その評価(1) 包括歯科補綴分野 櫻井 直樹 行動目標(到達目標) :口腔癌の治療後の形態・機能障害,その再建法およびその評価法について 説明できる。 Ⅰ 形態と機能の再建 1.腫瘍切除後の形態と機能障害 摂食・咀嚼障害,嚥下障害,構音障害,審美的障害 2.再建術(口腔外科的治療) 軟組織移植 遊離皮膚移植,遊離粘膜移植,有茎皮弁移植,遊離皮弁移植,培養粘膜移植 硬組織移植 腸骨,肋骨,腓骨,肩甲骨等の骨移植術 人工材料 チタンプレート,アルミナセラミック,ハイドロキシアパタイト 3.顎顔面補綴(補綴的治療) ① 顎補綴の種類 顎補綴(上顎顎補綴,下顎顎補綴)栓塞子,顔面補綴 レジン床義歯(加熱重合型レジン) ,金属床義歯(Co-Cr,チタン,白金加金) コーヌス義歯,インプラント義歯,磁性アタッチメント義歯,バーアタッチメント義歯 他のアタッチメント: 歯冠内アタッチメント,歯冠外アタッチメント,スタッドアタッチメン ト ② 上顎欠損と顎補綴 歯,歯槽骨,顎骨,軟組織におよぶ欠損がみられ固有口腔が,鼻腔,上顎洞,口腔外等と交通する. ②-1 上顎欠損の分類 小林の分類 1) HS分類:硬口蓋,軟口蓋,残存歯,開口量などで分類する. 小林の分類 1) 上顎Ⅰ級 硬口蓋のみ欠損 上顎Ⅱ級 硬口蓋と軟口蓋の一部欠損 上顎Ⅲ級 硬口蓋と軟口蓋の大きな部分の欠損 ②-2 上顎顎補綴の特徴 残存歯が多ければ,維持装置が多く利用できるので義顎が安定しやすい. 無歯顎では維持力は主として栓塞部の物理的維持力のみとなり,外れやすい場合もある. 上顎顎義歯は顎骨欠損部のレジンを軽量化するために中空化(bulb)が必要になる場合もある. 天蓋開放型義顎 天蓋閉鎖型義顎(栓塞部中空型) ③ 下顎欠損と顎補綴 顎偏位を伴うことも多く,上顎欠損よりも重篤な機能障害を呈することも多い. ③-1 下顎欠損の分類(小林の分類 1)) 下顎Ⅰ級 実質欠損があっても,左右の顎骨が離断していない症例(含骨移植) 下顎Ⅱ級 下顎の中間部が欠損して,左右に分離している症例 下顎Ⅲ級 片側の顎関節を含め,下顎が片側欠如している症例 ③-2 下顎顎補綴の特徴 ・下顎骨辺縁切除後 再建の有無にかかわらず可撤式顎義歯の補綴が可能である.再建されればインプラント義歯も可能に なる場合もある. ・下顎骨区域切除後 腸骨等で再建されていて,健側に残存歯があれば,残存歯を鉤歯として可撤式顎義歯を製作できる場 合が多い.移植骨にインプラントが植立可能な場合もある.再建されていない場合は,下顎が偏位す る.そこで,上顎の本来の歯列の口蓋側に2重に歯列を補綴する等で,その部位のみで咬合させる(オ クルーザルテーブル) .顎間固定除去後,下顎の患側への偏位防止のため咬合滑面板を応用する場合がある. ・下顎骨半側切除術(下顎関節離断術)後 再建の有無にかかわらず顎補綴は難しい場合が多い. ④.顔面補綴 歯学部歯学科 5 年生講義 統合科目 I 講義ノート 口腔腫瘍の基礎と臨床 エピテーゼ,頬部,鼻部,眼部,耳介を含めた補綴物,シリコーン系材料が多く用いられる. Ⅱ 形態の評価と機能の評価 1.Videofluorography 検査(VF 検査,X 線テレビ撮影検査)2) 硫酸バリウム等の造影剤を嚥下,造影剤を混入させた被験食品(クッキー等)の咀嚼を X 線テレビ で撮影する.食塊の流れや形成能力,嚥下能力,上顎顎欠損部の顎補綴の辺縁封鎖性等を評価. 2.顎運動 下顎頭や切歯点の運動を評価することによって,おおよその機能状態を評価ができる.しかし,多く の測定装置が歯牙にクラッチを装着する形式で測定するために,顎欠損患者では,特に手術後では歯牙 欠損によりクラッチの装着が困難になり,顎運動測定が困難になることも多い.測定は主に6自由度測 定装置を用い,国内で市販されているものは MM-J2(松風),トライメット(東京歯材社),ナソヘキサ グラフ(GC) ,ゼブリス WinJaw システム(キクタニ)がある.本学では主にトライメットを使用して いる.下顎の任意点を計測可能で切歯点のみならず,大臼歯部や下顎頭部の測定も可能.この他にも3 自由度測定装置としてシロナソグラフ(カノープス) ,MKG(K-6 ダイアグノシックシステム) (モリタ) がある. 3.筋電図 咬筋,側頭筋,顎二腹筋等を表面筋電図で分析.双極表面導出により求める. パラメータとしては,以下のものがあるが,機能検査に適したものは,統一した見解がない. ① 咀嚼リズム分析による変動係数 ② パワースペクトル分析(筋電図の周波数成分の累積度数分布曲線分析) ③ 非対称性指数(左右筋電図の積分値の差を左右筋電図の積分値の和で除する. ) 4.咀嚼能率 ① 篩分法(Manly 法)3) ピーナッツ3gを 20 回咀嚼させて 10Mesh の篩を通過する重量%. ② 篩分法(木戸法) ピーナッツ2gを咀嚼させて頬側と舌側の貯留率を分析.食塊形成能を予測. ③ 咀嚼回数計測法 4) 吸水性煎餅1枚を咀嚼させて初回嚥下までの回数を計測. ④ ATP 顆粒剤吸光度法 ATP 顆粒剤を咀嚼後,蒸留水で含嗽させ,分光光度計で 259nm 吸光度測定. ⑤ その他 寒天を用いた篩分法,ガムを用いた混和試験,グミゼリーからの糖溶出量の分析 5.咬合力分析 上下歯列間に生じる力を分析する方法 ① オクルーザルフォースメーター(直径1cm 程度の1部位の測定,ひずみゲージを応用) (モリタ) ② デンタルプレスケール(薄いポリシートを加圧により,微小カプセルが破裂して赤く発色し,その 色を 専用スキャナーで読 み取り,咬合力と接触点を算出する.) (GC) ③ T スキャンⅡ(薄い導電シートを用い加圧力の大きさで抵抗値が変化することを利用.具体的な咬 合力が算出できない欠点がある.) (キクタニ) 6.発音検査 会話明瞭度,ソナグラム,鼻腔漏気率等,封鎖機能評価. (詳細は寺尾先生の講義) 7.超音波検査 嚥下機能の検査にも使用. 文献 1)小林俊三 顎補綴について日本歯科医学会雑誌 31(11):1207-1208 1979. 2)加藤一誠ら Videofluorography の支援による有床義歯補綴治療 補綴誌 44 (5):625-632 2000. 3)Manly RS,Braley LC. Masticatory performance and efficiency. J Dent Res29:448-462 1950. 4)本間 済,河野正司,櫻井直樹,小林 博 煎餅の咀嚼回数を指標とした咀嚼能力評価法による義歯 装着効果の評価 補綴誌 50(2):219-227 2006.
© Copyright 2024 Paperzz