力学 2:講義ノート:第 6 回:11 月 19 日 1 力学1 : 11月19日 ポイント: 固定軸の無い剛体の運動 教科書のままでぼーっと見ていても面白くない。いろいろ考えてみよう。 [例1] 斜面上をころがり落ちる剛体 (6.72) 式、(6.73) 式の数学的な導出はみな出来ると思う (予習メモにも書いたし)。問題はそ の「意味」である。 意味1: まず、気をつけるべき事は 「重心の運動は外力の和だけで決まる」 という大原則はなんらゆらいでいない、ということである。(6.73) の結果を (6.68) に入れると M d2 x 5 = M g sin θ dt2 7 という式になる。これは (6.72) そのものである。つまり、重心の運動に関する限り 「動摩擦力 F をうけながら滑べる質点」 となんら変わらない、ということである。違いは、質点の場合は F は動摩擦の式 F = µ0 R で決まるのに対して剛体の場合は「滑べりが無い」という条件 v = aω から間接的に決まっている、ということである (但し、滑べりが無い場合の剛体に働いている のは「静止摩擦力」である)。質点の場合は摩擦による仕事は熱になって消えてしまうが、斜面 上をころがり落ちる剛体の場合は、これが回転運動のエネルギーになる、という違いがあるだ けである。 実際、斜面に沿って ` 移動した場合の摩擦による仕事は ` × F であるがこれは (6.73) を使って 2 `F = `M g sin α 7 である。一方、(6.76) と (6.75) を使うと剛体の回転運動のエネルギーは 1 1 2 I0 ω 2 = M g` sin α − M v 2 = `M g sin α 2 2 7 となり、確かに摩擦がした仕事は全部、回転エネルギーに変換されていることが解る。 力学 2:講義ノート:第 6 回:11 月 19 日 2 実際、摩擦とは質点としての運動以外の運動にエネルギーが変換されてしまうことに他なら ず、通常の摩擦の場合は物質内部の原子の熱運動に変換されているのである。その意味では剛 体の回転と摩擦をうけて滑り落ちる質点は全く等価である。 意味2: (6.72) の別の意味は 「I0 /M a2 が等しい剛体はみな同じ運動をする」 ということである。これは非常に見逃しやすい。例えば、球は 2 I0 = M a2 5 であるから、大きさや重さに関わらずいつも 2 I0 = 2 Ma 5 なので大きさや重さに関わらず、まったく同じ速度で斜面を転がり落ちるのである。例えば、 ボーリングの玉とパチンコ玉を同時に斜面の頂上から転がらせると同時に斜面の下端に到達す ることになる。 また、I0 /M a2 が小さい程、斜面方向の加速度は大きい。例えば、球はこの値がわずか 2/5 し かないので、(無限に薄い) 円盤 (I0 /M a2 = 1/2) とか、(無限に細い) 輪 (I0 /M a2 = 1) よりも ずっと速く転がることができる。これは次の様に理解すればいいだろう。同じ速度で転がる場 合、同じ半径なら同じ角速度で回転することになる。しかし、剛体の回転の運動エネルギーは 慣性モーメントに比例するので、慣性モーメントが大きい程、余分に仕事をしなくてはならな い。しかし、剛体を転がすエネルギーは重力の位置エネルギー以外に無く、エネルギーは保存 する (つまり、並進運動と回転運動のエネルギーの和はどんな剛体を転がしても同じ) なのだか ら、結局、慣性モーメントが大きい物体は並進運動に少ししかエネルギーを分配できず、結果 的にゆっくり回転することになる。そういう意味では「輪」が円盤、球、輪の中では一番遅く 転がるのである。 意味3: 最後に、ここで考えられたモデルは実は大きな欠点を持っていることを述べて終りにしたい。 「水平面に球を置き、徐々に面を傾けて行けばいつ転がり始めるか?」 という問題を考えよう。 まず、F は静止摩擦力であることを思い出そう。つまり斜度 α が十分小さければ、 F = M g sin α となってもいいはずである。少なくとも傾きが十分小さければ静止摩擦力と斜面に沿った重力 はつりあうはずである。が、しかし、もし、こんなことが起きたらどうるだろうか?質点とし 力学 2:講義ノート:第 6 回:11 月 19 日 3 て見た場合にはこの球は転がり始めない。なぜなら加速度がゼロだから。が、剛体として見た 場合には力のモーメントがゼロじゃないから、回転することになる。じゃあ、何が起きるのだ ろうか?その場で静止したままで回転を始めるのだろうか! ? そんなばかなことはない。何がいけないのか、というとこの「モデル」はこの様な状況設定 を扱えるように作られていないのである。現実の球にも板にも凸凹があり、その凸凹のおかげ で玉は「ひっかかり」有限の斜度では回転を始めることができないのである。これはまったく 別の性質であり「転がり静止摩擦」とでもいうべきものを導入して 「力のモーメントが Nc 以下なら回転を始めない」 としなくてはいけない。どんなモデルでも現実の理想化にすぎないことを忘れてはいけない。 剛体の斜面上の回転という単純な問題でさえ、過度の単純化を含んでいることをわすれてはい けない。 [例2]打撃の中心 教科書には「打撃の中心」という概念が野球でいうところの「ジャストミート」とは何か? (なぜ、ジャストミートなら手が痛くないのか) を説明している。しかし、打撃の中心はあくま で「バットのある場所を持ったとき、どこに球があたれば手が痛くないか」という問題に答え たに過ぎない。本当のジャストミートは「球が遠くまで飛ぶ」ということも大切だろう。で 問い:どこで打ったらもっとも遠くまで球が飛ぶのか? という問題を考えよう。 仮定 (次ページの図参照): 1. バットは重心の速度 V 、重心の周りの角速度 ω で運動しながらやって来て、重心からの 距離が h の場所で質量 m の球と衝突する。 2.球は最初、静止している。 3.球とバットの衝突は完全弾性衝突である。 4.打者はバットの打撃の中心を持っている (つまり、衝突時に手からバットに加わる外力は 無い)。 仮定2は球が飛んで来てバットに当たる場合にも一般化可能である。もし、球の速度が −v で やってきて、速度 V で動いているバットに「打たれる」ならば、これは静止している球を v + V で動いているバットが「打つ」のと同じだからである。よって仮定2はなんら特殊な状況では ない。球がバットに斜めに当たる場合は衝突の法線成分だけを考えればいい。接線成分は変化 しない。さて、衝突後の球の速度、バットの重心の速度、バットの角速度をそれぞれ、v 0 , V 0 , ω 0 とすると、 運動量保存則:M V = mv 0 + M V 0 角運動量保存則:I0 ω = I0 ω 0 + mv 0 h 完全弾性衝突:V + hω = v 0 − (V 0 + hω 0 ) 力学 2:講義ノート:第 6 回:11 月 19 日 h 4 m V ω G m v’ G ω’ V’ となる。最後の式は、球の衝突場所でのバットの速度が 重心の速度+重心までの距離×角速度 で計算できることを用いた。あとはこれを v 0 について解き、 「v 0 を最大にする h は何か?」 という問題を解けば良い。第1、2式から m 0 v M mh 0 = ω− v I0 V0 = V − ω0 が得られるので、これを第3式に代入して Ã m 0 mh2 0 v V + hω = v − V − v + hω − M I0 Ã ! m mh2 0 V + hω + V + hω = v 1 + + M I0 2(V + hω) v0 = 2 m 1+ M + mh I0 ! 0 などとなるであろう。v 0 を最大にする h を求める。 ³ d 2(V + hω) = 2 m dh 1 + M + mh I 2ω 1 + 0 m M + ³ 1 ´ mh2 I0 m +M − 2(V + hω) 2m h I0 + mh2 I0 ´ = 0 が極値の条件である。分母はいつも正の値なので、分子=0が条件である。整理すると µ Vm m 2hmω 2 h +4 h − 2ω 1 + I0 I0 M ¶ =0 力学 2:講義ノート:第 6 回:11 月 19 日 5 となる。これを h について解いて s 2V h=− ±2 ω µ V ω ¶2 µ ¶ 1 1 + + I0 m M を得る。これが極値の条件である。これは一方が正、一方が負であるが、正の方が v 0 が大きい だろうことは図から明らかである (重心より手前にぶつかって球が大きな速度を得るわけが無 い)。よって、以下では正のものだけ扱おう。このとき、v 0 が最大となる。 求まった h を代入してもみやすい形は出てこないようなのでとある具体的な状態だけを例と してとりあげておしまいにする。 例:球とバットの重さは同じ、つまり M = m であり、また、バットは長さ ` の棒であるとす る。つまり 1 I0 = M `2 12 である。更に `ω V = 2 とする。つまり、棒の下端はちょうど静止しているような運動である、とする (棒の下端の速 度は V − ω`/2 であることに注意)。計算すると (計算が正しければ←みなさん、確認してくだ さい!) 1 + h` v0 = ³ ´2 V 1+6 h ` になる (はずである)。図示すると以下の通り。最大値のピークは非常に大きく、まさに「ジャ ストミート」しないと遠くに飛ばない、ということが解るだろう。直観的な「ジャストミート」 がこうやってちゃんと力学を用いて説明できるのである。 力学 2:講義ノート:第 6 回:11 月 19 日 6 復習レポートの指針: ○ 滑べりながら落ちる場合には「摩擦がする仕事はすべて回転運動のエネルギーになる」と はいえない。実際に計算してそうならないことを確認し、それはなぜであるかを考えてみよう。 大変なはずだ。 ○ ジャストミートした時、バットの持っているエネルギーの何%が球に伝わるだろうか? ○ [例3] について何か面白いことを考えてみよう! ○ 教科書の問題を解いてみてもいい。 ○ こういうのが難しい人は今日の講義の内容をA4用紙1枚にまとめてだしてもよい。 ○それも出来ない人は教科書をA4用紙1枚分、写してもいいことにする。 ○勿論、それ以外でもよい。講義や教科書に関係あれば。 とにかく、他人のレポートを写すのは厳禁。こんな自由なレポートで同じ内容になるわけな いから写せばすぐに解ります。
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