第六号2012

巻
頭
言
巻 頭 言
2012年度は欧州財政危機に端を発したソプリン危機、財政・金融の不安定な関係が
日本、欧米、そして新興国も含めた世界経済に大きな影響を与え続ける一年となる。
日本国内でも消費税等増税と社会保障の一体改革、国債・地方債等政府債務、そして
TPP 問題が大きな政治的課題となっている。
グローバル化が急速に進む21世紀においては、いわゆる官と民、文と理、世界と地
域等境界を超えたパートナーシップが求められる。その本質的理由は、国内外を問わ
ない「パワーシフト」の発生にある。パワーシフトとは、経済社会を巡る内外を通じ
た様々な影響力、行動力の相互関係(いわゆる「パワー」)が大きく変化することを意
味する。現実の経済社会でパワーシフトが生じているにもかかわらず、行政や企業、
そして政治がその変化を十分に認識せず、自らの形成してきた既得権としてのパワー
を従来どおりの形で堅持することに終始したとすれば、経済社会の活力は大きく失わ
れることになる。
具体的な課題のひとつが社会資本整備を巡るパワーシフトである。これまでの日本
の社会資本整備は、財政資金に依存し官と民の閉鎖的な関係の中で供給サイドの視点
から主に形成・展開されてきた。このため、世界に通じるトップレベルの技術力を有
する一方で、グローバル社会から求められるコスト面、ニーズ面での多様化に対応す
る機能・姿勢に乏しく、民間資金中心の社会資本整備に対応する柔軟性にも乏しい実
態に陥ってきた。こうした点は世界の成長の核が中国、ベトナム、インド等新興国に
移行する中でデフレ圧力が構造的に高まり、より多面的な付加価値の向上が不可欠な
下で日本経済社会のトータルな持続力を制約する要因ともなっている。
パワーシフトへの対応として求められる第1の点は、グローバル化戦略と地域化戦
略の融合を図ることである。グローバル化に対応しつつも翻弄されない国、地域そし
て政治を通じた政策力の形成が不可欠であり、そこでは地域資源を個性的に形成し高
付加価値化を目指す中でグローバルに活用する視点が重要となる。
第2は行政活動の相対性の確保である。行政活動の相対性とは、行政活動の従来の
パフォーマンスは絶対的ではなく、常に違った視点を有する多彩な発想、活動との比
較を通じて評価・検証することを意味する。それによって、グローバル化に伴う環境
変化のスピードと調和のとれた新たなモデル形成が可能となる。
第3は創造的政策思考の形成である。日本の経済社会は自らの内側に多くの矛盾した
問題をかかえる構造的対立の状況にある。この状況の克服には単に相互の利害関係を調
整する政策思考ではなく、新たなイメージを積み上げていく創造性が求められている。
本年報も以上のパワーシフトへの対応の一助となることを目先している。
北海道大学公共政策大学院院長・教授
宮脇 淳
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シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
シンポジウム:
共生型福祉事業と北のまちづくり
~誰もが、ともに生きられる北海道のために~
北海道においては、最近、障害者や高齢者等が、地域の中で、地域の他の人々と共
にくらしていく「共生型」の福祉事業の拠点整備が進められている。こうした動きを
踏まえ、その展開の状況を評価し、北海道という地域の特色を生かした、地域福祉か
らのまちづくりの在り方を検討しようとの趣旨で、2011年 6 月25日に、(社)北海道
総合研究調査会との共催で、「共生型福祉事業と北のまちづくり~誰もが、ともに生
きられる北海道のために~」と題するシンポジウムを開催した。本シンポジウムにお
いては、2 名による基調講演を行うとともに、3 名が加わり 5 名のパネリストによる
パネルディスカッションを行った。以下に、挨拶、基調講演者の報告要旨及びパネル
ディスカッションの討論概要を掲載する。
・挨拶 ···························································
宮脇
淳
P. 4
北海道公共政策大学院 院長
五十嵐 智嘉子
社団法人北海道総合研究調査会
専務理事
・基調講演
「地域福祉の動向と先駆的地域福祉実践~厚生労働省安心生活創造事業を中心に~」
····· 中島 修 厚生労働省社会・援護局地域福祉課地域福祉専門官
P. 6
「共生型事業から生まれる新たなちいきづくり」
····· 大原裕介 NPO 法人当別町青少年活動センターゆうゆう24 理事長
・パネルディスカッション ·········································
パネリスト 中島
P.15
P.25
修 厚生労働省社会・援護局地域福祉課地域福祉専門官
大原 裕介 NPO 法人当別町青少年活動センターゆうゆう24 理事長
酒田 浩之 NPO 法人和(なごみ)事務局長
向山
篤 北広島団地交流ホームふれて
コミュニティワーカー
寺下 麻理 社団法人北海道総合研究調査会
主任研究員
司
会 西山
裕 北海道大学公共政策大学院教授
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医療介護研究部
年報 公共政策学
Vol. 6
■ 挨拶
宮脇
淳
北海道公共政策大学院
院長
お集まりのみなさま、北海道大学公共
と理系の融合を掲げてきました。東日本
政策大学院のシンポジウムにご出席いた
大震災の被災地などを見ますと、文系、
だきましたことを感謝申し上げます。ま
理系のような人為的な区分が全く意味を
た、この後の基調講演、パネルディスカ
なさないことを痛感します。こうした被
ッションに参加してくださいます先生方
災地の復旧・復興の原動力になるのは、
におかれましても、ご助力いただきまし
地域のコミュニティであり、そこでどの
たことを深く御礼申し上げます。
ような取り組みができるのかということ
になってくると思います。
私ども北大公共政策大学院は、今年で
7 年目を迎えることができました。この
今日、このような形でシンポジウムを
間、大学は厳しい環境の中で多くの受験
開催できるのは、大きな成果だと思って
者の方々にチャレンジしていただきまし
おります。
長丁場になりますが、みなさま一人ひ
た。また、このようなシンポジウムを含
め、私どもが展開しているプログラムは、
とりにとって、実りの多い時間になるこ
大学評価で全国10位に入る評価をいただ
とを期待いたします。最後に、私どもと
きました。このような評価をいただけた
ともに主催いただきました、社団法人北
のも、地域のみなさまのご助力があって
海道総合研究調査会様にこの場をお借り
実現したものと思っております。
して御礼申し上げます。
公共政策大学院は、設立当初から文系
五十嵐
智嘉子
(社)北海道総合研究調査会
専務理事
本日は、お集まりいただきありがとう
の「共生型グループホーム」、高知県の
ございます。私の方からは、今日のテー
「あったかふれあいセンター」といった
取り組みがあります。
マである、共生型地域福祉事業がなぜ北
富山県の「このゆびとーまれ」の取り
海道で多く展開されているのかという背
組みを聞いたときは、「目からウロコ」
景をお話させていただきます。
「共生型事業」という名称を聞くと、
でした。施設としてはデイサービスです
福祉関係者が最初に思い浮かべるのは、
が、認知症高齢者も障害者、子どももゆ
富山方式と呼ばれる「このゆびとーま
っくりと思いのままに過ごしています。
れ」の活動だと思います。その他、熊本
また、別の例で共生グループホームが
県の「地域の縁側づくり事業」や宮城県
あります。障害者が朝、仕事に出かける
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シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
ときに、認知症高齢者が「いってらっし
共生型事業推進プロジェクトを立ち上げ
ゃい」と送り出します。夕方、障害者が
ていこうという動きが道庁の中で起こり
帰ってくると、認知症高齢者が「おかえ
ました。この事業では、1 施設に3,000
り」と言って迎えて、みんなで一緒にご
万円の交付金が支給され、さらに 1 年間
はんを作って食べます。日中は、子ども
に 3 回公募があったため、一気に広がり
連れのお母さん達が集まって、高齢者と
ました。
この事業は、平成23年 6 月現在、交付
一緒に遊んだり、日常生活そのものの場
決定段階のものも含め、全道で106件に
になっています。
なっています。
北海道でもそのような取り組みはあっ
たと思いますが、きちんと仕組みとして
今 日は 、「 福祉 」とい う枠 組みを 越
存在していなかった。それが形になった
え、地域づくりや地域の産業づくりなど
背景には、平成19年、北海道として共生
にも関わりを持っている事例を紹介しま
型施設整備を強力に推進したことがあり
す。なかには、どのように地域と一緒に
ます。その事業は、厚生労働省が福祉施
やっていくのか苦労している事例もあり
設のハード整備のために実施した「地域
ますが、みなさんと一緒に勉強すること
介護福祉空間推進交付金事業」です。当
で、さまざまな展開の仕方があることを
時、療養病床を再編するために、介護療
学習していきたいと思っています。共生
養病床を廃止しようとする動きがありま
型事業とはこういうものだというのはま
した。それはまだ実現していませんが、
だ確立されていませんが、地域の実情に
そのときにケアが必要な高齢者を地域で
合わせたユニークな取り組みが行われて
受け入れるための面的整備を進めるため
いるので、北海道の共生型事業のコンセ
に準備された資金です。
プトはこういうものだという議論をみな
さんと一緒にしていきたいと思います。
この中の 1 つに「高齢者と障害者、あ
よろしくお願いいたします。
るいは子どもが一緒に暮らせるサービス
事業」という項目があり、これを使って
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年報 公共政策学
Vol. 6
■ 基調講演
「地域福祉の動向と先駆的地域福祉実践
~厚生労働省安心生活創造事業を中心に~」
厚生労働省社会・援護局地域福祉課 地域福祉専門官
中島
修
今日は、少し大きな観点から、また、
地域福祉の全体的な動向
安心生活創造事業というモデル事業に関
厚生労働省地域専門官の中島です。よ
して、行政、市町村がしっかり地域福祉
ろしくお願いいたします。今日は、最近
を考えていくという観点からお話したい
の動きを中心に、地域福祉の全体的な動
と思います。
まず、「これからの地域福祉のあり方
向をお話いたします。
共生型事業は、国の施策としてはまだ
に関する研究会」の報告が2008年 3 月に
位置付けられていませんが、地域福祉課
公表されましたので、そのポイントをお
が所管となっています。当時の長妻大臣
話します。次に、共生ケアの考え方につ
は、日本型福祉モデルということで関心
いて国が検討している部分で私なりの考
を持ち、さまざまな調査をするようにと
えをお話したいと思います。それから孤
の指示がありました。例えば、海外では
立の問題です。安心生活創造事業という
パリの「パリソリデール」という取り組
国のモデル事業が 3 年目を迎えており、
みを調べたり、国内の有名なものでは
そこから、地域福祉の先進的な事例を紹
「ゴジカラ村」や「このゆびとーまれ」、
介いたします。地域福祉計画との関係で
「ゆきわりそう」、釧路の「冬月荘」など
は、高知県で「あったかふれあいセンタ
を調べて整理しました。
ー」という取り組みがきっかけとなって
「パリソリデール」は、若者と高齢者が
地域福祉計画の策定が進み始めておりま
一緒に暮らすことで若者は安い家賃で暮
す。権利擁護の動き、最近の一括交付金
らすことができるとともに、若者と高齢
化、地域主権・地方分権化の大きな流れ
者のコミュニケーションを図るというも
については、これから市町村で考え、決
の。パリで熱中症により高齢者が多数死
めていく時代ということでお話したいと
亡することが生じた時に考えられた取り
思います。
組みです。それと似たような取り組みを
まず、全体像ですが、地域福祉の推進
大東文化大学が東京・板橋区の高島平団
について、全国の課長会議でもお話をし
地で行っている。そういったいろいろな
ております。地域福祉計画や民生委員の
共生の取り組みをわれわれ地域福祉課と
取り組み、安心生活創造事業、日常生活
しても調べていたわけです。
自立支援事業といった事業がありますが、
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シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
もう一つ、地域福祉等推進特別支援事業
体で考えていかなければならないテーマ
という事業があります。8 億円ほどの予
です。
算ですが、もしこの会場の中で共生ケア
資料の人口ピラミッドのように、団塊
の考えをさらに進めたいと考え、そのた
の世代と団塊ジュニアの世代が、ともに
めに国の補助金等を考えている方がおら
高齢者になる中で社会保障を考えていか
れれば、2 分の 1 の補助ですが、この事
なければならないと考えています。
高齢者は急激に増えています。今まで
業もあわせて検討していただければと思
は過疎地域で高齢化率が高いと言われて
います。
現在、私がしている仕事の8割を超え
いましたが、今後、高齢化の伸びは都市
る部分が東日本大震災に関するものです。
部で急激になります。埼玉、東京、神奈
現地に行ったり、いろいろな関係機関と
川などでも後期高齢者が急激に伸びてい
つながりを持つ。全国から多くの義援金
きます。
高齢者単独・夫婦世帯も伸びています。
の寄付、専門職の現地への支援、ボラン
ティアの支援があって、少しずつ復興が
これからは高齢者 1 人暮らし、高齢者夫
進んでおります。
婦のみ世帯は標準的な世帯類型だという
考えに沿った施策を打ち出していかなけ
今回、マスコミ等から、阪神・淡路大
ればなりません。
震災に比べると、ボランティアの数が少
ないのではないかという意見がありまし
認知症高齢者について、すでに208万
た。それは、被災地が広域でたどり着く
人が認知症高齢者の水準と言われていま
のが大変だということもありますが、そ
す。福祉が契約の仕組みになっている中
れだけではなく、東北地域は近所同士で
で、判断能力が不十分な方にどのような
助け合う力が豊かにあります。「ご近所
支援を考えていかなければならないのか。
ボランティア」という言い方もされます
福祉サービスを利用する際に、どんな支
が、避難所での被災者同士の支え合いの
援が必要なのか。
このようにデータを見てまいりますと、
動きもあります。
では、前置きはこのくらいにしまして、
財源が厳しいことがおわかりいただける
と思います。
内容に入っていきたいと思います。
介護保険は福祉の健康システムを維持
高齢化について、「3.3:1」とは、3.3
人で 1 人の高齢者を支えるということで、
するだけでも大変と言われており、医療
よく騎馬戦状態といわれます。それが、
を含めた社会保障全体を見ると、毎年 1
将来、1.4人で 1 人の高齢者を支えると
兆円ずつ増えています。今、政府の社会
いう、騎馬戦状態から肩車の状態になり、
保障でこのような仕組みをどう考えてい
社会保障の仕組みはこれからそのくらい
くのか、マスコミ等で話題となっていま
厳しくなります。その中で、いかに今の
す。
核家族化の進行により、おじいちゃん、
サービス水準を維持していくかは大きな
おばあちゃんに助けてもらうことが難し
テーマになってきます。これは、国民全
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年報 公共政策学
Vol. 6
い。さらに、団塊の世代が高齢者の仲間
す。しかし、65歳以上高齢者を対象とし
入りをする中で価値観も多様化してきて
た民生委員による調査では、50代など実
おり、従来の公的サービスになじまない
年層の方は見つからないのでどうするか。
ことがあるのではないかと言われていま
高齢者が増えている中、調査対象を70歳
す。
以上としている自治体もあり、調査対象
ユニークなサービスもいろいろ生まれ
から外れてしまう方々をどのように地域
ています。東京・杉並区では、指定管理
で支援していくのか。障害者や 1 人親家
者制度で男性向けのデイサービスが始ま
庭は、さらに調査から外れてしまいます。
っています。バスを降りると、まず男性
徘徊死・不明者についても、認知症高
雑誌が並んでいる。そういうユニークな
齢者や知的障害者が外出した後自宅に戻
デイサービスも増え、メニューもいろい
ることができず、残念な事故が起きてい
ろ増えてきていると思いますが、価値観
ます。
高齢者虐待、児童虐待も右肩上がりで
の多様化に対応したサービスを考えるこ
増えています。障害者虐待防止法も成立
とも大事だと思います。
しました。これで 3 分野の虐待に関する
都市部の高齢化の問題について、公的
法律がそろったことになります。
な介護・福祉サービスの重点化・効率化
は避けられないという議論が行われてい
障害者の地域移行は、数値目標を示し
ます。さらには、生活ニーズの柔軟な対
て地域の受け皿をしっかりと作っていか
応ということで、各地域ごとに必要なも
なければならないという議論がされてい
のをしっかり捉え、地域福祉を展開して
ます。
消費者被害については、例えば埼玉県
いくことが必要ではないか、と指摘され
富士見市で、認知症高齢者の80代の姉妹
ています。
が、4,000万のリフォーム詐欺に遭いま
した。認知症の方ですが、それぞれ公務
地域福祉の課題
員、証券会社で働いていた経験があり、
しっかりした社会経験を持っていました。
次に、地域で課題となっていることに
なんとか半分は取り戻すことができまし
ついて、簡単に確認します。
まずは孤立死の防止です。これは、地
たが、安心して地域生活を続けていくた
域で身近な問題と捉えられており、内閣
めには、判断能力が不十分になっていく
府の調査では、1 人暮らしをしている人
方をどのように支えていくのかも考えて
の 6 割以上が身近なテーマであると回答
いかなければなりません。
しています。孤立死の問題は、高齢者の
次に、災害時要援護者についてです。
問題と考えがちですが、今は中年、実年
東日本大震災では、市役所や地域福祉を
層の孤立死が増えています。団地、ニュ
担っている職員の多くが被害に遭いまし
ータウンなどで、50代の男性や60代前半
た。石巻市では、4 割の市役所職員が亡
の人が亡くなるという問題が起きていま
くなりました。岩手県の大槌町では町長
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シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
が駐車場で対策会議をしているときに津
てみたい」と考えている方も 8 割います。
波にのまれています。このように、被害
このように、地域活動に関心がある方は
が遭ったときに役所職員が助けに来られ
多いので、この関心の方をどのように実
ない場合に備え、地域で対策を考えるこ
際の活動につなげていくかが重要となり
とも必要です。
ます。
東京・武蔵野市の地域福祉計画の住民
座談会で議論したときに、障害者のお母
「これからの地域福祉の在り方に関する研究
会」報告書のポイント
さんから、災害時にどのような支援をし
たらいいか、地域の施設と一緒に考えさ
せてほしいという話がありました。ある
「これからの地域福祉のあり方に関する
難病の方からは、薬の備蓄を考えてほし
研究会」のまとめについて、簡単にお話
いという声もありました。一つ一つしっ
をしていきたいとます。
ポイントは、自助・共助・公助と3つ
かり地域で考えて、自治会や福祉施設と
に分けたうちの共助を拡大していこうと
も連携していかなければなりません。
また、軽度の障害者や一時的に支援が
いうことです。そして、実際に地域に住
必要な方への支援も必要です。例えば、
んでいる方々、生活課題をよく知ってい
子どもを出産したばかりのお母さんは、
る方々の中でいろいろな仕組みを作って
生協やコンビニ業界が始めている宅配サ
もらい、その中で必要なものを公的な仕
ービスなどがあると助かります。生活を
組みに変えていく。共生型事業の考え方
支えるものについては、まだいろいろ課
も同様だと思います。
題があります。負担をいかに軽減させ、
また、現在の社会福祉は契約制度にな
辛い思いをいかに受け止めていくか、い
っていますが、市町村の役割が見えにく
ろいろな形で考えていかなければなりま
いという意見があります。そこで、研究
せん。
会のまとめでは、地域福祉の推進に関し
重なり合う問題をどう考えるのか、と
て、市町村がしっかりと役割を持つこと
いうこともあります。例えば、高齢者相
を改めて明記しています。安心生活創造
談で訪問に行くと、うつ傾向で仕事をし
事業も実施主体を市町村にしており、社
ていない50代の男性がいるとか、介護が
会福祉法人等に丸投げするのではなく、
大変だと相談に来た人が、不登校の息子
行政がしっかり地域福祉を考えるように
を抱えていたなど、多問題の家族が増え
しています。さらに、この仕組みを進め
てきています。介護保険や障害者自立支
るにあたり、地域福祉コーディネーター
援法だけでは解決できないことが見えて
が多くの役割を担うということで配置を
きています。
検討しています。
内閣府の調査では、地域住民は約3割
共助の拡大に関する例として、例えば
の方が「地域で実際に活動をしている」
社会福祉会などの送迎サービスは、ほと
と答えています。「何らかの支援をやっ
んどが役所や病院に行くためのサービス
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年報 公共政策学
Vol. 6
に費やされています。そこで、NPO が
ない方、1 人暮らしや家族がいても知的
障害者の余暇活動や社会参加のために、
障害やうつ傾向があったりと、声を上げ
送迎サービスを行う。このような生活課
られない方などに対する支援をしっかり
題に基づいた取り組みが共助の拡大にな
していかなければならないのではない
ります。共助の部分で、地域で必要なも
か、ということです。
のを作り出していき、それをさらに公的
地域包括ケアの考え方も大事です。老
なものにするという形は大事なことで
健局の地域包括ケア研究会報告書による
す。
と、介護認定者は、介護保険が始まった
また、圏域を設定し、圏域ごとに考え
2000年には218万人でしたが、2009年で
る問題のレベルを変えることも必要で
は496万人になっており、10年で倍増し
す。例えば、災害時のための薬の備蓄な
ています。当然、利用者が倍になると費
どは自治会レベルで考えることではな
用も増え、それを考えておかなければ制
く、市町村などもう少し広域で考えても
度が維持できません。要介護認定率も上
いいと思います。しかし、ごみの分別や
がっており、今後もさらに上がっていく
雪下ろしなどは広域で議論するのではな
だろうと想定されています。
く、地域の支え合いでどうしていくか考
えるべきでしょう。このように、問題ご
共生ケアについて
とに圏域をどう設定するのか、どの圏域
にどんな相談センターを置いたらいいの
共生ケアについては、日本福祉大学の
かなど、地域福祉計画でしっかり議論し
平野先生と意見交換をしたときに整理し
ていただきたいと思います。
ました。1 つ目は、地域の中で当たり前
住民ニーズをしっかりつかむ仕組みを
に暮らすための小規模な居場所を提供す
作ることも検討しました。かつての地域
るということ。2 つ目は、いろいろな求
福祉の取り組みは、「○○地域福祉委員
めに対しては、高齢者、子ども、障がい
会」などを作り、地域の代表が集まって
者という対象上の制約を与えないという
議論はしていましたが、個別支援にはつ
こと。3 つ目は、その場で展開される多
ながっていませんでした。そこで、個別
様な人間関係を共に生きるという新たな
の要援護者の支援会議をしっかり作るこ
コミュニティとして形づくる営みという
とを位置付けました。要支援者一人ひと
こと。この 3 つの視点で、平野先生は
りに必要な支援チームを作っていくこと
「このゆびとーまれ」の検証調査を行っ
ています。
が重要なのです。
さらに、一時的な支援や制度の谷間に
「このゆびとーまれ」の原点は、宅老所
あるような問題、自殺や自殺遺児の問題
の実践です。「このゆびとーまれ」の惣
等、さまざまな問題を考えていくことを
万さんは、富山日赤病院の看護師を辞め
盛り込みました。高齢などで特に支援の
て、高齢者向けのデイサービスを始めよ
必要な人、助けてほしいと声を上げられ
うとしました。ところが、障害者向けの
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シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
サービスがないからなんとかしてほしい
ような新しいケアの形として推奨してい
と、障害者の親などが集まってきた。そ
けばいいのではないでしょうか。共生ケ
こで、高齢者のデイではなく、多様な
アは、障がい者等の単独サービスの創設
方々を受け止めていくようなサービスを
が難しいような地域、例えば高知県や熊
始めました。「このゆびとーまれ」の取
本県等で評価を得ています。秋田県の藤
り組みは、対象別に支援する従来の社会
里町という人口4,000人ほどの地域で意
福祉の枠組みとは異なるノーマライゼー
見交換をしたとき、共生ケアは、若者等
ションや地域福祉の考え方に沿うもので
の雇用の場であり、支援の場、社会参加
す。さらに、地域ケアの新たな目的や方
の場でもあるという議論がありました。
法、内容を体現しています。
例えば、小さな町では東京や仙台から戻
次に、地域共生と共生ケアという考え
ってきて、何もしないでうろうろしてい
方についてです。地域共生については、
ると、それが周囲にわかってしまい、ま
鹿児島県の「やねだん」が有名で、豊重
たすぐに出て行ってしまう。辛くなって
さんという方が地域づくりの実践をして
帰ってきたのに、それを受け止めてあげ
います。この取り組みは農水省に評価さ
る居場所がないと困る。そこで、受け入
れ、福祉というよりも地域づくり、まち
れる場として、高齢者、障害者の支援だ
づくりという観点があります。今は地域
けではなく、若者も集える多機能型の支
で焼酎を作って韓国などに売り、収益を
援の場を作ろうと考えました。
上げています。さらに、高齢者福祉にも
また、受け皿としてではなく、新しい
取り組み、車椅子を地域で無償で借りら
ケアの方法として共生型を選ぶという形
れるようにする仕組みを作りました。
も大事です。スタッフも共生型の意識に
このように地域共生、または共生ケア
なる必要があり、多様な専門性を求めら
という考え方があり、その中で、地域福
れます。地域コーディネーターの存在も
祉的多機能性が共生ケアの中では大事な
不可欠です。最も重要なのは、共生ケア
のではないか、と思います。対象者を限
がどのような効果を生み出しているの
定せず支援者をコーディネートしてい
か、しっかり検証しなければならないと
く、コーディネーターの存在も大事で
いうことです。
す。そして、地域の中での緊急対応や総
合相談支援、拠点作りや宿泊、情報提供
安心生活創造事業における各地の取組状況
の場、縦割り意識なのか地域づくりの意
国では安心生活創造事業という取り組
識なのかという意識の問題についても考
みを行っており、3 年目になりました。
えていかなければなりません。
共生ケアは、新しいケアの形なのでは
大阪府豊中市や長野県茅野市、三重県伊
ないかと思います。これは、国として統
賀市、愛知県高浜市など、地域福祉推進
一的に何かを決めていくというものでは
市町村を58選び、取り組んでいます。北
なく、各自治体ごとの創意工夫でできる
海道は本別町、福島町、東川町、登別市
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年報 公共政策学
Vol. 6
です。この事業は、どちらかというと訪
内閣府の調査では、単独世帯で食事を
問型のサービスを中核としながら組み立
抜く人が多く見られる結果となっていま
てています。悲惨な孤立死、虐待を1例
す。配食サービスは、公的なサービスだ
も発生させないという目標を掲げ、漏れ
けではなく、民間の配食サービスを利用
ない把握をして、しっかり支援していこ
する方が伸びてきているので、民間サー
うと行政を主体とする位置付けで取り組
ビスの可能性にも期待しています。
んでいます。行政は、一部委託はしても
老健局と経産省、そしてわれわれ地域
いいが、丸投げはしないことになってい
福祉課は、生活支援サービスについて、
ます。
介護保険外サービスの議論を行っていま
自主財源の確保も必要です。公務員
す。例えば、セブンイレブンのセブンミ
は、どのように民間の財源を集めるの
ールという、お弁当を 1 つから届けてく
か、それをどのように助成していくのか
れるサービスがありますが、それに見守
は苦手なので、まちづくり NPO や商店
り機能をつけたらどうか。ローソンと郵
街の人々などの意見をもらいながら事業
政会社も連携しています。このように、
を進めていくことが必要です。まず、基
個別の企業の名前を出して連携すること
盤になるところの支援にしっかり取り組
は、今まであまり行政はしてこなかった
むことです。
のですが、民間との連携も地域の資源を
公的サービスには限界があります。介
活用していくためには大事です。公的な
護保険や障害者自立支援法、児童福祉に
制度、地域の支え合いから漏れてしまう
関する制度も充実してきましたが、地域
ところをなんとか支えられないかという
で生活するためには個別的な支援が必要
ことです。高齢者の支え合いのネットワ
です。そうすると、どうしても公的サー
ークはあっても、障害者はなかったり、
ビスだけでは漏れてしまうところが出て
身体障害者にはあるけれど、知的障害者
きます。それを支えていくためには、民
や精神障害者の支援ネットワークはない
間や地域が一緒にやっていくことが大事
という地域があります。それらに取り組
です。しかし、そう考えたときに、善意
んでいきたいと考えています。
の支え合いだけでは限界なのではない
災害を契機に寄付の意識が高まってい
か。民生委員や自治会長に頑張ってもら
ます。財務省は、8 割まで控除を認めて
うだけでは負担も大きくなってしまいま
くれることとなりました。中央共同募金
す。新しい支えの仕組みをどう作ってい
会は指定寄付という形で、義援金以外に
ったらいいのか、今取り組んでいるとこ
「震災ボランティア・NPO サポート募
ろです。漏れない把握でニーズが見つか
金」という活動者を支援するために寄付
っても、それを受け止めるところが縦割
を集めて助成することも始めました。
りでは、漏れない把握をした意味がない
買い物支援については、札幌市とコープ
ので、総合相談や権利擁護をしっかり考
札幌が協定を結び、見守り機能も果たして
えることが必要です。
いこうという取り組みが始まりました。
- 12 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
58の地域福祉推進市町村は、横浜市や
後見制度をどうするか、という点の議論
北九州市など、政令指定都市など大きい
が重要です。そのようなことを南富良野
都市がある一方で、山梨県の小菅村は人
町はしっかり議論しています。このよう
口800人、役場職員20人で、福祉の担当
に小さい自治体もしっかり議論を行って
も数人です。その中で、いかにまちづく
いるので、いろいろなところでそういう
りをしていくか。北海道本別町は、町か
議論をやっていただきたい。
ら出て行った人から基金を募って町の基
北海道の市町村における地域福祉計画
金を積み立て、それを町の福祉に使おう
の策定状況は、5 割に達していません。
と取り組んでいます。宮崎県美郷町は、
これからは地域主権の時代なので、そう
山の上の方に位置し、移動販売車しか来
いった点について成果を挙げることもご
ない地域があります。魚が食べたいと言
検討いただきたいと思います。
って煮干しを食べている状態で、それを
日常生活自立支援事業について、人口
行政に話すと、なんとかしなければなら
10万人に対して実利用者がどのくらいい
ないと真剣に取り組んでいます。今は行
るのかという点からみると、札幌市と北
政と地域包括と社協をLANで結んで、個
海道の利用実態は少ないです。それを考
人情報保護審査会の承諾を得て情報を全
え、予算をしっかりつけていただきた
部共有化するように仕組みまで変えまし
い。
た。社協が入力したデータを行政が全て
国は、県がつけた予算の 2 分の 1 を補
見ることができ、ふれあい地域サロンか
助しています。県が予算をどのくらいつ
ら生活保護の情報まで全て専門職が見ら
けるかによって、国の補助金額が決まっ
れるようになっています。
てきます。この事業の95%は周りの人か
総合相談の仕組みを議論して、国の検
らの申請によるもので、本人からの申請
討会で発表しました。それから、地域福
は 5%に満たないのです。判断能力の不
祉コーディネーターの存在を見えるよう
十分な方は、自分に支援が必要だとはな
にしたいと取り組んでいます。
かなか思えないので支援にたどり着くま
でに時間がかかります。ですから、福祉
の専門職や周りの人々にそういう契約支
地域福祉計画と日常生活自立支援事業
援を大事に考えてもらいたいのです。
人口規模の小さいところでは、地域福
祉計画の策定がなかなか進んでいませ
地方分権と地域の自主的な取組
ん。地域福祉計画は、住民参加によって
作ることが強調され、中身の議論が十分
4 月 5 日付で第177通常国会にいわゆ
にされていないことが危惧されます。例
る地域主権一括法案が提出されました。
えば、利用者の権利擁護に関する仕組み
これによって今まで都道府県の権限だっ
などはしっかり地域福祉計画で位置付
た社会福祉法人の許認可が市の権限に変
け、権利擁護センターを作ったり、成年
わり、また、社会福祉法人の寄付行為は
- 13 -
年報 公共政策学
Vol. 6
都道府県知事の認可が必要でしたが、そ
をしっかり行って、住民ニーズを明確に
れが廃止されます。つまり、寄付行為が
した上で必要な施策を明確にしていかな
自由にできるようになるのです。地域福
ければ、どれだけいい取り組みでも、根
祉計画の公表についても、努力義務とな
拠がなければなかなか認められません。
り、市町村において公表するかどうかを
行政に認められ、前向きに検討してもら
考えることになります。権限が市など、
うということになれば、各自治体ごとに
身近なところで検討するように変わるの
独自性が期待でき、共生ケアにも積極的
です。この法案は、まもなく成立する見
に取り組めるのです。現在、全国で 9 県
込みです。
が積極的に独自事業を行っていますが、
最後にまとめですが、一括交付金化が
そうしたことも可能になってきます。例
平成24年度から段階的に実施されます。
えば、高知県は独自事業を行っています
それにより、今後、各市町村や身近なと
が、当初、地域福祉支援計画を作ってい
ころで地域福祉を考えることになりま
ませんでした。市町村の地域福祉計画も
す。国の予算もかなり都道府県、市町村
まだできていない状況でしたが、共生ケ
に下りてくることが予想されます。現在
アをきっかけに地域福祉計画を作ってい
もかなり基金化され、都道府県レベルで
こうという方向に転換しました。北海道
考えられるようになってきています。今
でも共生ケアの活動は伸びていますの
回の震災対策でもかなりそういう形に変
で、それとあわせて、地域の拠点づくり
えています。今後はさらに市町村の判断
を考えていただき、地域福祉計画につい
に委ねられます。ですから、ニーズ把握
ても検討していただければと思います。
- 14 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
■ 基調講演
「共生型事業から生まれる新たなちいきづくり」
NPO 法人当別町青少年活動センターゆうゆう24 理事長
大原
裕介
係団体の方から、当別町にどのような困
当別町とゆうゆう24の取組の経緯
りごとを持っている方がいるか聞いて回
NPO 法人当別町青少年活動センター
りました。その中で最も多かった意見が、
ゆうゆう24理事長の大原です。当別町で
障害を持つお子さんを持つ親、特にお母
共生型事業を行っており、今 2 拠点を運
さんが、子どもを一時的に預かってもら
営しています。その簡単な実践報告と、
える場所がなく困っているということで
この秋もう 1 ヵ所共生型の拠点を始める
した。親御さん達の介護負担が増加し、
ので、今後の展開について、最後にまと
なかなか他の兄弟に時間を使えない、そ
めとして、僕なりに共生型事業の整理さ
して何より、親御さん達の社会生活の幅
せていただいたのでお話いたします。
が狭まってしまっている。
そこで、学生企業ということで、1 時
当別町はあまり知られていない町です。
僕も大学は当別町にありますが、大学に
間400円で障害のあるお子さん達を預か
通う際に当別町は札幌の隣にあると初め
る事業を開始しました。しかし、初年度
て知りました。人口 1 万8,000人の小さ
の実績はたった46名で、学生がやるサー
な町です。北海道医療大学があり、だい
ビスなのでなかなか保護者の方々から信
たい教職員合わせて2,500名くらいが在
頼を得ることができませんでした。
2 年目、3 年目以降は、親御さんと一
籍しています。医療系の専門福祉大学で、
歯学部、薬学部、看護学部、臨床福祉学
緒に学習会を開催したり、参観日のよう
部という 4 つの学部学科があります。そ
に預かっている様子を見てもらったり、
して、大学に隣接して1,000人の学生が
夏休み、冬休みは 1 日500円で、午前中
当別町で 1 人暮らしをしています。です
はプールに連れて行き、その後バーベキ
から、当別町は人口の約 5%近くが学生
ューをやって、夜は公園という500円で
という特殊な町です。
は考えられないサービスを打ち出して、
平成14年度に大学のボランティアセン
親の心をつかみましだ。
ターということで、町から家賃補助をい
3 年目以降になると、近隣の札幌市や
ただき、町内の空き店舗を借りました。
江別市からも要請があって学生を派遣し
また、大学からはこの建物の改修費を助
たり、レスパイトで預かるだけではなく、
成していただき、大学と町が協働して町
外出支援をやってほしいということもあ
なかの学生の活動拠点が作られました。
りました。利用者の実績も512名になり、
最初に、社協や行政などさまざまな関
ちょうど僕自身も大学院の卒業の年を迎
- 15 -
年報 公共政策学
Vol. 6
えました。町からは 3 年間の家賃助成が
をさせていただきます。
ありましたが、その後は自立するように
1 ヵ所目が「当別町共生型地域福祉タ
前もって言われていたこともあって、平
ーミナル」です。下に「当別町ボランテ
成17年に当時の支援費制度の児童デイ・
ィアセンター」とも書いています。田西
児童居宅サービスを開始しました。
会館の隣にあり、NPO 法人ゆうゆう24
平成17年の開所以降実施している事業
と社会福祉協議会のボランティアセンタ
は、児童デイサービス、地域生活支援事
ーが一緒の事務所に入り、コーディネー
業、居宅介護、相談支援、就労支援と、
ターが常駐しています。
居住型のサービス以外は自立支援法に基
当別町の地域福祉計画では、実施計画
づく事業をほとんど実施しています。そ
の 1 番目に、住民の福祉的な情報、教育
の他、高齢者や子どもなど、町の中でい
の情報、ボランティアの情報が一元化で
ろいろな困りごとを持った方々を支えて
きるような拠点作りが必要だということ
きました。障害のある子どもだけを対象
が置かれました。ちょうどそのとき、共
とするのではなく、高齢者のレスパイト
生型の基盤整備事業があることを知り、
や、冠婚葬祭にヘルパーを派遣できない
町の中に拠点を作り、社協とNPO 法人
ので学生を行かせられないかということ
が一緒にコーディネートしたらいいので
に対しても、1 時間400円で請け負い、
はないかということで、今まで点在して
共生型のレスパイトサービスのような形
いた社協とNPO 法人のボランティア情
を実施していました。NPO 法人設立後
報や福祉サービスの情報を一元化するこ
も子育て支援事業、介護予防事業、介護
とに取り組みました。もともと役所の中
保険対象外生活支援事業、福祉教育事業
にあった社協のボランティアセンターは
として、引き続き学生のときにしていた
地域福祉ターミナルに移り、社協のボラ
ボランティア活動を事業化しています。
ンディアコーディネーターとうちの学生
拠点としては、今秋できる拠点を含め
ボランティアコーディネーターが一緒の
ると、当別町に 5 ヵ所、江別市に 2 ヵ所、
事務所で机を並べることになりました。
夕張市に 1 ヵ所の 8 拠点を運営していま
これはかなりの実践・実証効果があり
す。常勤スタッフは25名です。僕は今年
ました。例えば、今まではボランティア
32歳になりますが、僕を筆頭に22歳まで
情報が来ると、電話で何往復かやりとり
おり、医療大の卒業生や近隣の大学の卒
してようやく活動に結びつけられていた
業生など、各世代の新卒者を採用してい
のが、ターミナルに来た時点で、ワンス
ます。20代の職員が多い、かなり若い
トップで 2 つの団体で協議できるのです。
NPO 法人です。
ボランティアをしたい人がどういうこと
をしたくて、どういうことを望んで、ど
当別町地域福祉ターミナルにおける実践
ういうことをその人自身得ようとしてい
るのかということを、その場で社協と
今日は 2 ヵ所の共生型事業の実践報告
NPO の職員がアセスメントすることが
- 16 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
できます。そしてお互いに持っているボ
ランティア資源をその場でつなげて、早
ち、生きがいを持つことが介護予防で、
「筋トレをやっても生きがいは持てない
いときにはすぐに実施できます。従来は、
でしょ」と言うと、「そうだなあ」と言
関係機関の間でやりとりをしていると、
われます。だから、生きがいを持ちまし
2、3 日後に行ったか行かないかわから
ょう、役割を持ちましょう、まだまだ元
ないといったような無責任な状況にしば
気じゃないですかということを、町の中
しばなってしまっていました。その意味
で日常的にやりとりしています。
で、ボランティアセンターを一元化した
ボランティアは商工会とも連携してい
のは大きかったと思います。ボランティ
ます。商工会が事務局となって、町内の
アをする人にとっても、ボランティアを
40数店舗が加盟する「とうべつポイント
募集する人にとっても、活動しやすい場
カード会」があります。燃料小売店、ガ
所を目指しています。
ソリンスタンドやクリーニング業、カラ
ボランティアの多くは高齢の方が多く、
オケボックス、アパート業とありとあら
特に65歳以上の元気な女性、80代までの
ゆる業者が加盟しており、3 万5,000円
方がいますが、その方々がボランティア
の買い物をすると500円のキックバック
活動をすることで、介護予防につながり
があります。そこにボランティア活動を
ます。
することで、1 時間ごとに 2 ポイント付
介護予防のためにボランティアという
与される仕組みを提案しました。この仕
形で、高齢者のボランティア活動を介護
組みによって、間接的に当別町の経済活
予防推進事業として実施しています。ボ
性化に寄与することができます。初めは
ランティアを受ける側もする側もメリッ
6 割近い方々が、私達は無償奉仕でやっ
トのある関係でできるボランティア活動
ているので、何かの見返りは期待してい
にしましょうということで、町から地域
ないと反対しましたが、みなさんの活動
支援事業交付金をいただき、コーディネ
がこの町を元気にし、この町を豊かにし
ートしています。
ていくと説得しました。商工会の方々に
高齢者に対してボランティアをするこ
とってメリットのある取り組みを提案す
とでの効果測定等のアンケートを実施す
ると、商工会の方々も、ボランティア活
ると、「笑うことが増えた」、「人と接し
動を知ろうとしたり、認めようとしたり
て話すことが増えた」という結果が出て
します。一方的に福祉や障害者のことを
います。機材を使って筋トレをやったり、
わかってほしいと言ってもわからないの
計算問題をやる介護予防よりも、日常生
で、いかにメリットのあるところに僕ら
活の中で身体を動かしたり頭を使ったり
が提案していくか、ということが重要で
する方がずっと有意義な介護予防だと思
す。
います。介護予防というとときどき怒る
ポイントの仕組みは、次のようなもの
方がいますが、そうやって怒るのも介護
です。まず、ボランティア活動の代表者
予防になります。役割を持ち、感情を持
に、今日は何人で何時間やる予定という
- 17 -
年報 公共政策学
Vol. 6
ことでターミナルに来てもらいます。そ
うすると、今まで出会うことのなかった
してボランティアコインと発行券を渡し、
方々の間に交流が生まれます。例えば、
代表者の方にボランティア活動をやった
おばあちゃんが日本舞踊を踊っていると
後に各メンバーに配ってもらいます。そ
ころに、たまたま子育てのお母さん方が
れを個人でターミナルに来てもらってポ
来て、交流が生まれました。また、学校
イントをつけます。ポイントを刻印でき
に嫌気がさしてスタッフのところに来て
る機械はターミナルにしか置かず、ター
愚痴を言っていた女の子達が、元大工の
ミナルに人が集まる仕組みにしています。
おじいちゃんが作った仕掛け玩具を楽し
さらに、ポイントは500円券になるだけ
んで、このおじいちゃんとこの女の子達
ではなく、年に数回ガチャポンとくじ引
の間に交流が芽生えました。このおじい
き大会を開催しています。年末はプラズ
ちゃんは、次はまたおもしろいのを作っ
マテレビが当たったりかなり豪華で、多
て来ると意気込んで、それが生きがいに
い人だと200枚くらい貯めてきたりしま
なっています。このターミナルまで歩い
す。そうやって商工会と連携しています。
て通うのも運動になります。こういう出
商工会とのポイントでもう一つ特徴的
会いは、「偶然という名の必然」だと思
なのは医療大学との連携で、学生のボラ
います。これらの出会いは別に仕組まれ
ンティア活動や学生の実習にポイントが
たわけではない偶然の出会いですが、地
付くようにしました。これは、学生が商
域の中にそもそもあった必然ではないか
店街で買い物をしたり、飲食したりする
と思っています。
ようになるので、商工会の方に喜ばれま
ボランティアの方が来たときに、入口
した。なかには、家賃が引かれたりする
で子ども達が興味を持って手を携えて交
ので必死にボランティアをする学生もい
流をしたり、子育てサークルのお母さん
ました。
達と小学生の交流があります。ダウン症
地域福祉ターミナルは、事務所だけで
の男の子と学生と高齢者がお食事会のと
なくフリースペースもあります。最初、
きにお手伝いで来ます。囲碁打ちの相手
このフリースペースを無料にするか有料
を探していたおじいちゃんが相手を見つ
にするのかで住民と議論になり、住民は、
けたものの、見事に負けてしまって落ち
お金もないのに無料にしていいのかと言
込んでしまったのですが、そのおじいち
ってくれましたが、無料にしました。
ゃんと、大人なんてたいしたことないよ
また、どんな団体でも使えることにし
と言っているちょっと生意気な子が対局
ました。だいたいこういうところは、福
すると、おじいちゃんが勝って、その子
祉関係団体や社協に登録している団体し
はこのおじいちゃんのことを師匠と呼ん
か使えないなど、使える団体を限ってい
でいます。
僕の中では、おじいちゃんは高齢者の
ることが多く、福祉の人が福祉を狭めて
しまう傾向にありますが、そうではなく、
デイサービスに行ったりすると、1 人で
僕らは誰でも使っていいとしました。そ
囲碁を打っているイメージがあります。
- 18 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
一緒にやろうよと話しかけると、うるさ
NPO が障害者の働く場の確保と地域
い、あっち行けと言われます。高齢者デ
の人達の交流の拠点にしようと、2 年
イという場所にいるから、おじいちゃん
前から運営しています。カフェの一角
は福祉のサービス受益者になっているけ
には駄菓子屋があります。店員は近所
れど、この地域福祉ターミナルにいると、
のお年寄り30人が交代で務めます。
子どもの指導員になれます。そこにケア
ここで、さまざまな交流が生まれて
スタッフがいればいいと思います。いか
います。夕方になると、学校帰りの子
に日常生活と切り離さないようにケア介
ども達がやって来ます。子ども達とは
護していくかということも、共生型ケア
顔見知り。買い物の後、一緒に遊ぶよ
では重要なことではないかと思います。
うになりました。お年寄りはカフェで
ただケアを組み合わせるのではなく、受
働く若者のサポートも始めています。
ける側もケアする側もそれを見る住民側
休み時間に雑談をしたり、仕事のアド
も違和感がないように、どれだけケアを
バイスをしたりしています。
カフェでの交流が思わぬ発展を見せ
日常生活の中にマッチさせるかが大事で
ました。弾いているのは大正琴。お年
す。
日中一時支援の中で、地域貢献をしよ
寄りの誘いで始めました。自宅とカフ
うと取り組みを作って、子ども達にも参
ェの往復だけだった生活に、変化が生
加してもらっています。中度の身体障害
まれました。習い始めて 1 年半余り。
で、犬の散歩をできなくなったことを悩
今では月に 1 回は地域の集会や老人ホ
んでいた方から犬の散歩のボランティア
ームなどに出向き、演奏会を開くまで
の依頼がありました。そこで、自立支援
になりました。
法によるサービスの実施中に、子どもの
何もなかった土地につくられたカフ
支援で子ども達が学生と一緒に犬の散歩
ェ。子どもからお年寄りまでが集い、
をしました。
支え合う場になっています。
当別町共生型地域オープンサロン:ガーデン
大正琴は、僕らに全く相談もなく、あ
の方々が全部大正琴を仕切り、発表会も
の取り組み
自分達で発表する場を見つけて交渉に行
もう一つの拠点について、VTR を見
って、障害者と一緒にポスターを作って
人を集めました。そういうことを大事に
ていただければと思います。
しています。僕は住民ソーシャルワーカ
<VTR>
ーと呼んでいますが、町の中に住民のソ
子どもから高齢者までが集うカフェ
ーシャルワーカーをどれだけ増やすかと
いうことです。
を取材しました。
石狩の当別町にあるカフェです。障
2 カ所目の「共生型地域オープンサロ
害のある若者が働いています。地元の
ン:ガーデン」では、駄菓子屋とドーナ
- 19 -
年報 公共政策学
Vol. 6
ツ屋と喫茶店をやっていますが、VTR
ティシエをやっている若者がいて、自分
には出ませんでしたが、昼は法人自身が
で起業したいけれどなかなか資金や手法
食事を作っているのではなく、コミュニ
がわからないということだったので、う
ティレストランのような形で住民に作っ
ちに来てバレンタイン企画でケーキなど
てもらっています。「一日コックさん」
を出してほしいと依頼したら、喜んで来
という事業で、何を作るか、食数をどう
てくれました。もし、彼がその気であれ
するか、メニューをどうするかを住民の
ば、障害福祉と組み合わせて、ケーキ屋
方が決めて、一日コックをしてもらって
さんも作れると思っています。こういう
います。こうしたことは、いろいろな地
取り組みをすると、町の中にたくさんい
域で取り組んでいますが、うちでは、あ
い人材がいることがわかります。それと
えて最初からプロの料理人にも入っても
福祉をどう組み合わせて、社会資源とし
らっています。例えば、近くで居酒屋を
て町の中に作っていくかはアイディア次
やっているけれど、ランチは提供してい
第だと思います。
ない方や、ランチをやっていてもなかな
うちの障害を持ったスタッフが、自分
かお客さんが入らない方、新しくメニュ
達がどんなふうに働いているのかという
ーを試したい方など。地域の中で競い合
ことを講演したときは、彼らのファンが
うのではなく、この事業で、子育て中の
たくさん町にいて、彼らがしゃべり終わ
お母さん達や高齢者、学生などの町内で
った瞬間に、スタンディングオベーショ
の外食を増やし、お客さんをどんどん獲
ンのように拍手があります。町の中では
得してもらうのです。チラシを置いた
すっかり声をかけてもらえる存在になっ
り、PR するのもいいのです。現に、お
ていて、彼らが来ないとみなさん心配し
客さんが増えた店もあります。ここにお
ます。そういう関係性が築かれているの
客さんがとられたと言う方もいますが、
です。
そういう方には、そうではなく、ここで
学校との連携もしています。先輩から
どんどん PR して、今まで顧客層として
学ぶということで、学校からも招待いた
いなかった方々に来てもらえるようにし
だきました。
てもらいたい、と言います。そうやって
共存し合って町を活性化していかない
コミュニティ農園づくりと高齢者就労支
と、この町自体どんどんつぶれていって
援への挑戦
しまうのです。そのように料理店の方々
とお話してご理解いただき、食べに来て
新たな事業ということで、当別町にコ
くださったり、町のイベントがあれば誘
ミュニティ農園をつくろうとしていま
ってくださって、スタッフにしていただ
す。ようやく確認申請が下りて、来週の
いたり、いい関係が築けています。
月曜日から工事に入ります。町から
一日コックさんで主婦の方々が500円
1,000坪の土地を借り、そんなに大きな
で鮭ランチを出しました。また、町にパ
畑ではないのですが、畑を作って農園と
- 20 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
します。畑の隣には、一日コックで知り
当初、それは僕らの職員が空いた時間で
合った、ホテルのレストランの元料理長
やっていたが、なかなかままならないの
を料理長として招き、本格的な和食レス
で、住民を40人くらい集めて自分達で養
トランをやります。厨房は大きくして、
成プログラムを作り、その方々にパーソ
地域の方が集えるように料理教室も実施
ナルアシスタントとして登録してもら
します。レストランと農園では、障害者
い、住民サービスをやってもらうことと
に就労支援で働いてもらいます。小学校
しました。
と保育所の農園も隣接しており、子ども
また、高齢者が介護状態になっても働
達と障害者の交流にも取り組みたいと考
くことができる就労をどのように組み立
えています。
てていけばいいのかということで、高齢
さらに、新たな挑戦として、高齢者の
者就労支援のフレーム開発、地域住民福
就労支援にもチャレンジしたいと思って
祉的相互システムの開発を、地域に出る
います。なぜ自立支援法に就労支援があ
機会の少ない団塊世代の人にやってもら
るのに、高齢者には就労支援と移動支援
うこととしています。今まで勤めていた
がないのか、ずっと引っかかっていまし
専門的なことをそれぞれ活かしてもら
た。そこで、せっかくの機会なので作っ
い、どうすれば高齢者が働けるのか、福
てみようということで、今いろいろ準備
祉サービスがどんどん厳しくなっていく
しています。農業者から技術提供を受け
中で、住民同士どういうことがあればい
て、農作業従事者と雇用される障害者補
いサービスになっていくのかを研究して
助支援を高齢者が行うもので、障害者補
もらいます。団塊世代の方だけでは難し
助を担っていただくことを主にしていま
いことがあるので、ゆうゆうと社会福祉
す。
協議会が事務局を担い、さらに当別の20
それに付随して、当別町における団塊
世代が研究員となった地域総合ケア及び
団体近くが研究サポーターとして支える
ものです。
高齢者就労支援の開発研究モデル事業を
事業は 2 年プランで、2 年後には自ら
考えています。地域総合ケアは、私達
研究したことをもとに、NPO 法人を起
が、学生時代に 1 時間400円でいろいろ
業してもらいたいと思っています。団塊
な方の支援をするということをやってい
世代の方々に退職した後の人生として、
ました。それを少しプログラム編成を変
社会貢献の NPO を運営していただきま
えて、1 時間500円で制度外サービスを
す。さらに、どうすれば高齢者の就労支
行い、町の困りごとをなんでも受け止め
援が作れるのかとか、どうすれば地域の
る。例えば、介護保険ではなかなか見ら
総合ケアシステムが作れるのかというノ
れない見守りのサービス、買い物サービ
ウハウを、しっかり全国に普及させてい
ス、院内介助などを 1 時間500円で受け
くことも、団塊世代の方々に営業マンに
るというものです。サービスにつなげる
なってやっていただくという研究事業に
ものは、ケアマネや包括と連携します。
なっています。
- 21 -
年報 公共政策学
Vol. 6
もう一つ、新しく取り組みたいことと
だと思っています。売り上げは、研究会
して大きなテーマとなっているのは、い
でやる 1 時間500円のサービスの原資に
かにファンド的にお金を集めるかという
します。何百万単位というお金でも、住
ことです。どうしても財源は限りがあり
民の人達と一緒にサービスを作ってしま
ます。いかに自分達の活動に賛同者を作
えばいいのです。サービスをやった分、
って、企業、個人から資金を集めるか、
行政から費用をもらうのではなく、住民
さらにそれをファンド化していくのが大
との間でやりとりをするという形で、オ
事だと思います。これも研究会で団塊世
リジナルの福祉サービスをやっていきた
代の方々に研究してもらおうと思ってい
いと思っています。制度違反だとか面倒
ます。
なことを言われずに、困っていることを
今、JA と話がついて、市場から外れ
た野菜をトン単位で買わせてもらうこと
みんなで話し合って決めていく、という
ことです。
になりました。それを最低賃金を払える
くらいの形で、高齢者や障害者の方々に
今後の共生型事業と人材育成
荷詰めしてもらいます。そしてそれを北
海道の中で卸すのではなく、全国の福祉
今後の共生型事業は第 2 フェーズとい
事業所関係の授産や就労をやっていると
うことで、これは私論ですが、中島専門
ころ、さらには、今営業をかけているの
官の話と合致するところが多いと思いま
ですが、銀座の飲食店でお通しで出して
す。
もらえるようにするつもりです。事業の
共生型の福祉を通例として特別なもの
タイトルは、今考えているところです。
にするのか、ジェネラルなものにするの
この事業では、あなたの買ったお金が障
か。例えば、富山方式は、高齢者と障害
害者や高齢者の賃金になり、さらにはあ
者、子ども達が一緒にいる場所なので、
なた達の手で福祉サービスを作れますと
かなりスペシャリティが高く、3障害プ
いうことになるのです。農作物を売って
ラス高齢者のケアと子どものケアもする
福祉サービスを作るという新しい展開に
ので、専門的な福祉にしなければならな
賛同いただけませんかということです。
い。それを目指すのか。それとも、一般
同じ野菜を買うなら何か自分が貢献して
住民が自由に出入りしてケアを行うこと
いるという感覚で買ってもらった方が気
をジェネラルな福祉として理解していく
持ちがいいと思います。そうすれば、農
のか。今日僕が説明したのは、ジェネラ
家の人も福祉に感謝します。当別は農業
ルに近いと思います。僕は、それらを混
が一番の基幹産業ですが、だんだん高齢
同させる形が目指すべき共生型の視点だ
化で衰退しています。それを福祉で盛り
と思っています。今は、多角的な視点が
上げ、農業の人とも関係性を作っていき
あるはずなのに、事業をやる NPO や社
たいと考えています。
福、行政、社協の立場で、ケアの効率性
そういうストーリーを作ることは大事
や経済性ばかりの解釈に留めてしまって
- 22 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
単独での就労支援事業所の運営はなかな
います。
例えば、「このゆびとーまれ」は極め
か成り立ちません。そこでは、いろいろ
ていい実践だと思いますが、高齢型の介
なサービスのケア研修を積んだ若者や、
護ケアから入ったところなので、そこで
ベテランの方々が町おこしも含めてやっ
専門性が必要な自閉症の子のケアができ
ていくことが必要だと思います。
ているかといえば、現場を見てそれは難
ジェネラルにする場合は、住民に研修
しいと判断しました。住民の方にとっ
等のフレームが必要なのではないかと思
て、いいサービスができているかも疑問
います。先ほど中島専門官が、地域福祉
があります。ただ、高齢者はとてもいい
コーディネーターが重要だと言っておら
顔をしていて、高齢者にとってはいい場
れましたが、それは僕も共感できまし
所なんだと思いました。高齢者のケアだ
た。さらに言うと、地域福祉コーディネ
けでなく、障害者、子どものケアも全部
ーターは相当な専門職でなければ難しい
やっていくことを目指すのか、それとも
と懸念しています。ソーシャルアントレ
どこかにポイントを置いてやっていくの
プレナーは、自分で社会資源を開発でき
か。
て、さらにケア力を持っている人でなけ
ジェネラルな福祉をわかりやすく言う
れば難しく、例えば、社協のコーディネ
と、福祉を町の中で当たり前に存在する
ーターが嘱託でやるようなレベルでは無
文化にすることだと思います。スペシャ
理です。ケアもできて、さらに地域の中
ルは、3 障害と高齢者、子どもを一度に
で社会資源を作っていくという両輪を持
見るので、専門職としてかなり高いスペ
ってやらなければ難しいです。第2フェ
シャリティが求められ、難しいです。そ
ーズとして、そういう検証フレームをど
れらがしっかり両輪で機能するようなフ
う作っていくかが必要になります。
一つの例ですが、当別町でインフォー
レームが必要だと思います。
スペシャルにする場合は、やはり人材
マル資源開発ということで、住民が障害
育成だと思います。今のヘルパー 2 級の
者や子育て、高齢者の支援もできるよう
制度をもって、障害のケアをやりたいと
なパーソナルアシスタント27.5時間とい
来られても、経営者としては困るので
う研修プログラムを作ってくれました。
す。共生型に応えるような専門的な資格
ヘルパー3級くらいの資格取得をイメー
をもう 1 度議論しなおすべきと思いま
ジしたものですが、カリキュラムが全然
す。3 障害、高齢者、子どもを別々にケ
ニーズに合致していません。ですから、
アするのではなく、いかにこの人達を一
地域のニーズにマッチした、住民の長が
緒にみることができるか。オールマイテ
認める資格の検証プログラムを各自治体
ィーな専門家でなければ生き残っていけ
で作っていく取り組みや、そういったこ
ないのではないかと思っています。
とを自分達でやっていけるような仕組み
また、共生型による起業も促そうと思
をきちんと作っていく、それも団塊世代
っています。特に北海道の過疎地区は、
の方々に研究していただきたいと思いま
- 23 -
年報 公共政策学
Vol. 6
す。何が困っていて、何が必要で、制度
ってしまう。30歳くらいになると、事業
の何がだめで、なんでこうなっているの
所全体を任される。頼れる上司もおら
かということを団塊世代の方が自ら考え
ず、後輩やパートの人から罵られる。そ
て、作っていってもらいたいのです。子
れでは、離職者も増える。
どももけが人も、退院してきた方も、全
しかし、このキャリア構造の速度はど
ての住民を包括的に包むような研修にで
うにもならない。ですから、5 年くらい
きればいいと考えています。
でしっかり積み立てていけるような育成
僕が別に取り組んでいる事業なのです
研修プログラムが必要なのです。例え
が、福祉現場で離職者が相次いでいると
ば、1 年目はケアの理念をしっかり学
いうことと、なかなか高校生の中で大学
び、2 年目は少しコーディネートする力
に進学して福祉に取り組むというよう
を学んでいく。4 年目、5 年目ではコー
な、人材の確保と人材の育成が求められ
チング。これは一番悩んでいる。どうや
ていないということがあります。このこ
って自分の後輩に対して声をかければい
とも地域の悩みと同じ悩みだと思ってい
いのか、指導すればいいのか。
福祉従事者だけでなく、地域の中でも
ます。
若手の福祉従事者がなぜ辞めるかとい
そういう研修を地域ニーズと合わせて組
うことを整理すると、給料が安い、時間
み立てていく仕組みが必要だと思いま
が長いなどがあり、これは辞める口実の
す。民生委員や福祉委員は、福祉に従事
枕詞のようなものです。しかし、若者に
する若者と同じで、ケアに自信が持てな
何度も話を聞いていくと、実際はケアに
いけれど、その職を与えられ、不安なが
自信が持てないまま、信じられない速度
らにやっていると思います。役所に相談
でキャリアアップしていくことが負担と
しても、役所もケアについて自信が持て
なっていることがわかっています。3年
ないので、どうしたらいいかわからな
目になったらいきなりエリアマネージャ
い。専門職の NPO や社協に相談しても
ーを任されたり、任された人はとても不
わからず、地域の中でカオス状態になっ
安そうな顔をしている。通常の会社で、
てしまっている。そういうことをきちん
課長、部長になるのが10年、15年くらい
と見極めて検証をやっていく必要がある
ですが、福祉ではだいたい 5 年でそうな
のではないかと思っています。
- 24 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
■ パネルディスカッション
パネリスト
中島
修(厚生労働省社会・援護局地域福祉課
地域福祉専門官)
大原 裕介(NPO 法人当別町青少年活動センターゆうゆう24
酒田 浩之(NPO 法人和(なごみ)
向山
理事長)
事務局長)
篤(北広島団地地域交流ホームふれて コミュニティワーカー)
寺下 麻理(社団法人北海道総合研究調査会 医療介護研究部 主任研究員)
司
会
西山
裕(北海道大学公共政策大学院教授)
NPO 法人和は、もともと共生という
司会:西山
それでは、パネルディスカッションに
言葉を使いながら、8 年間活動してきて
入ります。先ほど基調講演をしていただ
います。まず、高齢者の介護保険施設の
いたお 2 人に、北海道で共生型事業に取
整備、そしてボランティアのネットワー
り組んでいる、釧路の NPO 法人和の酒
クづくりからスタートしました。
田様、北広島団地地域交流ホームふれて
平成21年に「コロイ」をつくったきっ
の向山様、今回の主催者である北海道総
かけとしては、大きく 2 つの要素があり
合研究調査会において昨年度実施された、
ます。1 つは、阿寒地区は、釧路市内か
北海道の共生型事業に関する調査・研究
ら 1 時間半以上もかかる場所にあり、福
事業を担当した寺下主任研究員を加え、
祉サービスの不毛地帯と言われていたこ
パネルディスカッションを進めていきま
とです。高齢者介護施設も障害者サービ
す。まず、酒田さん、向山さん、寺下さ
スも 1 つもなく、ニーズがありながらサ
んに先ほどの基調講演を踏まえ、北海道
ービスを受けることができない状態でし
における共生型事業の実践についてお話
た。その背景には、市町村合併があり、
いただきたいと思います。
もともと小さな町だった阿寒町は、釧路
市との合併で、障害者の活動支援センタ
ーなどが整備されていない状態のままだ
酒田:
釧路の酒田と申します。NPO 法人和
ったのです。
では、平成21年、平成22年に 2 つの共生
もう 1 つは、僻地であるということが
型の施設を整備しました。平成21年に整
共生型とマッチしているということです。
備したのは「コロイ」といいます。これ
つまり、人口が少ないので、サービスが
は、阿寒湖温泉につくった施設です。次
高齢者だけ、あるいは障害者だけという
に平成22年につくったのは、「きらく」
単独では実施できません。そのための工
です。この 2 つを運営しています。
夫として共生型を進めてきました。もと
- 25 -
年報 公共政策学
Vol. 6
もと地域の人と一緒に福祉を作っていく
齢者介護のグループホームからスタート
ことは、うちのコンセプトでもあり、そ
しましたが、そこのサブスタッフとして
れを実践するために共生型は適している
障害者を採用してきており、それをベー
と思いました。そこで、平成20年に構想
スとして就労支援を始めました。当初の
し、21年にスタートさせたものです。
スタッフは、ケアを始めてから 5 年目に
「コロイ」は、高齢者と障害者が住んで
なるので介護のスペシャリストにもなっ
通って働けるという場所です。そして、
て、一般のスタッフと同様の賃金をもら
子ども達もそこに来ます。障害のあるな
って働いています。障害者が 1 つ目は介
しに関わらず利用できないかということ
護の人材として、2 つ目は基幹産業であ
で、全てのものを入れこんで、制度を利
る農業の再構築をするためのマンパワー
用できるところは制度を利用し、使えな
として、3 つ目は ACT という地域の包
いところは住民のボランティアなどで補
括支援の「お助け隊」として活動してい
う形にしています。
ます。この 3 つの要素を踏まえながら共
一方、「きらく」は、制度に基づく居
生型事業を進めています。
住系の事業を 1 つも置かない、サロンと
ACT に関しては 6 年前からスタート
しての共生型事業です。ベースになって
していましたが、今、訪問看護と抱き合
いるのが地域の農作物を使ったコミュニ
わせて事業化しています。施設に入れな
ティレストランです。そこで障害者が働
い人達、独居の人達など、地域で困って
き、高齢者が訪れる。そこに子育て支援
いる人を包括的に支援するものです。建
などを交えて、地域の人達が支えるとい
物に留まらず、地域の中で共生していく
う形をとっています。地場の食べ物を使
というコンセプトで進めています。
ったレストランとして地産地消を唱えな
がら、就労支援もしていく形の共生型施
向山:
北広島市の北広島団地地域交流ホーム
設となっています。
「きらく」ができたのと同時に、地域の
ふれての向山です。「ふれて」は、まだ
町 内 会 や PTA な ど 12 の 団 体 で 「 き ら
新しい施設で、昨年の11月に完成し、12
く」をうまく利用していくための協議会
月にスタートしました。まだ実績は少な
を設立しました。住民とは「きらく」を
いですが、事業をスタートするきっかけ
建てる準備の段階から、施設をどのよう
やこれまでの経緯、今後の方向性などを
に使うかについて話を進めていました。
説明したいと思います。
協議会は、「きらく」の活用の仕方につ
「地域交流ホームふれて」は、もとも
いての協議の場であるとともに、就労支
と団地にあった「スーパー銭湯ゆったり
援の事務局も担っています。
館」を増改築して建てたものです。この
「きらく」において一番特徴的なのは、
建物には、1 階に市民が自由に交流でき
障害者の就労支援がベースにあるとい
る場「ふれて」と、2 階に介護保険制度
うことです。もともとうちの法人は、高
のデイサービスである「デイホームかた
- 26 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
る」(定員25名)、そして今年の 4 月から
タウンとして宅地造成されました。歴史
北広島のこの地域を担当している地域包
は浅いですが、当時、土地・建物を購入
括支援センターである、北広島市みなみ
した世代は団塊の世代で、これから高齢
高齢者支援センターが入っています。
化を迎えようとしています。現段階でも
北広島の地域の方々の人格が尊重され、
この団地は、高齢化率が30%を超えてい
尊厳が保たれ、安心して生きることので
ます。自治会によっては50%に達してい
きる地域を、地域住民自らの手で作って
る自治会もあります。孤立死もあり、死
いける場にしたいというのが取り組みの
後数日経って発見されている方もいます。
方向性の中心となっています。具体的に
認知症で徘徊して発見されていない方
は、子どもや子育て世代、障害者、地域
もいます。地域において私達は、サービ
住民などが家族で集まって、世代や障害
スだけでなく、地域を作ることもやらな
など関係なく、積極的に交流していただ
ければならないのではないかと考えてい
きたいのです。そして、お互い理解し合
ます。実際、サービス以外でも、地域の
い、それぞれの孤立感を軽減したり、お
祭りに店を出したり、祭りを開いて地域
互いを支え合うことのできる、人と人と
の方々を呼んだりして、地域とのつなが
のつながりの場を作る拠点にしたい、と
りを求めてきました。
私はふれての唯一の職員ですが、私 1
いうことです。
「ふれて」では、何かサービスを行って
人では何もできません。それでもなぜ唯
いるわけではなく、生活の場でもありま
一の職員としているのかというと、費用
せん。ただ、地域の方々が集まってくる
の関係もありますが、むしろ、住民が主
場です。喫茶店と子ども達が集まるキッ
体となってこの空間を使って地域を作っ
ズコーナーがあり、イベントやミニ講座
ていくことを目的にしたいからです。私
もやっていますが、サービスをやってい
の役目は、そのコーディネートや後押し
ないので一切の収入がありません。
をすることだと思っています。
昨年の11月、建物の工事に入る前から、
母体は、社会福祉法人北海長正会です。
北海長正会では、障害者施設や高齢者施
地域の方々に建物の活用を一緒に考えて
設、在宅サービス、高齢者の包括支援セ
ほしいとお願いして動いてきましたが、
ンターや障害者支援センターの委託を受
どういう方々に集まってもらえばいいか
けて運営しています。人と人のつながり
考えました。私も、この春まで地域包括
から生きることの喜びを知ろうという理
支援センターに勤務していたので、自治
念が根底にあって、社会福祉法人が介護
会の会長さんや民生委員の方々とつなが
保険サービスや障害者自立支援制度その
りはありました。形としては、そういう
他の制度に基づく事業だけをやっている
人達に集まってもらった方がいいのでは
だけではだめだと思っています。北広島
ないかという話もありましたが、市役所
も高齢化は例外ではありません。北広島
や社協がやる地域づくりではない、社会
団地は、35年~40年前に札幌市のベッド
福祉法人で民間がやる地域づくりなので、
- 27 -
年報 公共政策学
Vol. 6
自由に人選してもいいのではないかとい
ます。子どもなど 3 世代が集っています
うことで、民生委員をやっていた方や障
が、地域の子育て支援センターの保育士
害者、地域に積極的に参加している方、
が出張してくれたり、子どもが集まるイ
いろいろな世代の方と一緒に考えてきま
ベントをすると、今までのデイサービス
した。工事する前の現場や、設計中、工
の雰囲気とは違うので、2 階のデイサー
事中の現場を見てもらって、例えばキッ
ビスの方が降りてきて交流したりします。
ズコーナーはこっちの方がいいとか、み
こちらが考えていた以上にいい表情があ
なさんの意見も取り入れてつくってきま
り、デイサービスの方では、折り紙や縫
した。
い物など、技術を持った人がいるので、
また、「ふれて」では、住民の方々と
ブレインストーミングして、ここを使っ
子ども達のために何かしようという話も
でてきています。
地域の方々でスタッフを組織化したい
てどんなことをやりたいかということを、
カードを使って整理しながら形にしてき
のです。ただイベントを楽しくするので
ました。喫茶コーナーやイベントなどの
はなく、私達も勉強していかなければな
企画や実行も、住民と一緒に、あるいは
らないので、研修会を開催したり、参加
住民が主体となって行いたいというもの
したりする活動も必要だと思っています。
なのです。なかなか先に進まないイメー
定期的に講座も開催しています。
ジはありますが、人のつながりの希薄化
地域包括支援センターも入っているの
している地域をなんとかしたいと考えて
で、いろいろな知識、技術を持った住民
います。地域を作るということなので、
の情報を集めて、この場に来れば生活の
5 年、10年ではできません。50年、100
中でだいたいのことは解決できるような
年というスパンで見ていくスタンスでお
場にしたいという構想もあります。
安心できる場づくりのために、昔の縁
ります。
ボ ランテ ィア として 、「市 民スタ ッ
側のように、向こう 3 軒両隣のような、
フ」がいます。「市民スタッフ」という
古き良き日本を作りたいという話はよく
呼び名は、四恩園の手伝いをするわけで
出ます。しかし、今の時代それがどこま
はないのでボランティアではなく、地域
でできるか、ということです。今、NTT
づくりをする「ふれて」の市民スタッフ
東日本と、テレビ電話を使ったコミュニ
がいいということで、市民スタッフ達自
ケーションの実証実験をしています。こ
身が付けたのです。現在、25名程度のス
ういった今の時代のいい部分を使って、
タッフがいますが、こういった共生の理
人のつながりを作れないかと思っていま
念を持ったスタッフを100名程度は増や
す。
海の日に、キタラで札響のチャリティ
そうと話しています。そのためにはまず、
人に集まってもらわなければなりません
ーコンサートがあります。その入場料は、
が、理念ばかり表に出しても集まらない
地域の課題を解決しようと動いている団
ので、喫茶店やイベントなどをやってい
体に寄付されます。今までは、日本財団
- 28 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
が直接団体に寄付していましたが、日本
した。
財団が札響に資金を出し、チケットの売
また、実際に事業を行っている法人に
り上げの全部が「ふれて」に寄付される
よる協議会の他にも、モデル事業の一般
ことになりました。そのお金でエアコン
化や普及に係る課題もしっかり研究して
をつけようと思っています。寄付の仕組
いこうと、研究会を設置しました。研究
みに住民の参加があるのがおもしろいと
会のメンバーには、本日の司会者である
思います。
西山先生にも入っていただき、事業のプ
ロセスや財源などについても考えてきま
した。
寺下:
社団法人北海道総合研究調査会の寺下
調査では、「ゆうゆう24」
(大原さん)
です。昨年度、福祉医療機構の助成事業
や「コロイ」
(酒田さん)
、
「ふれて」(向
で道内の共生型事業の施設・事業の調
山さん)のところにも視察・ヒアリング
査・研究を行いましたので、その概要を
に行きました。その他にも協議会のメン
お話します。
バーの中から手を挙げてもらい、施設を
平成19年から道内106ヵ所と、凄まじ
いスピードで共生型施設の整備がされて
見に来てほしいというところに行きまし
た 。「 ゆ う ゆ う 24 」、「 と む て の 森 」、
きています。その中で、大原さんや酒田
「NPO 法人ノーマライゼーションサポー
さん、向山さんのところのような、地域
トセンターこころりんく東川」、「NPO
に密着して献身的な取り組みをやってい
法人和」、「いぶり花づくりネットワー
る法人が出てきています。一方で、ハー
ク」
、「ふれて」と、6 ヵ所訪れました。
ド施設の整備なので、施設は建てたけれ
今日は、すでに本日の基調講演とパネ
ど、中身をどう組み立てていけばいいの
リストの方々から、それぞれの施設の説
か、課題を感じている法人も多いのです。
明がありましたので、残りの施設につい
そこで、共生型事業を行う法人の中でも、
て簡単にお話いたします。
工夫をこらした事例を調査し、どのよう
「NPO 法人とむての森」は北見にある
なプロセスで事業を展開してきたのか、
法人で、もともと障害者の親の会として、
工夫している点は何か、などを明らかに
ボランティアで土日の過ごし方を考えて
することによって、現在、課題を感じて
いたのですが、支援費制度をきっかけに
いたり、これから事業を展開していこう
NPO 法人を立ち上げました。法人では
と考えている団体に向けて、ヒントやガ
子ども達の放課後事業を実施していまし
イドラインとなるものを作ることを目標
たが、だんだん子ども達が大きくなり、
に、調査・研究を実施しました。
仕事の場が必要になってきました。そこ
この調査・研究をするにあたり、全道
で、法人としての共生型事業の第 1 号と
の共生型施設に声かけをしたところ、26
してパン屋を開店しました。
法人から参加の意向をいただき、協議会
「とむての森」では施設を 3 棟運営して
としてより実践的な動きを作っていきま
いますが、それぞれ特徴ある取り組みを
- 29 -
年報 公共政策学
Vol. 6
しています。1 棟目はパン屋、2 棟目は
至ったものです。
カレーショップ、3 棟目は高齢者等の住
特徴は、行政が積極的に関わっている
まいです。3 棟目は、看護大学と連携し
ことです。建物ができあがると行政の関
た人材育成の場として、看護学生の住ま
わりは薄れていくケースが多いですが、
いの場ともなっています。
そうではなく、行政が運営や事業費の獲
パン屋もカレーショップもこだわりを
持った運営をしています。どうやって事
得などを法人と一緒になって考えていま
す。
業を担う人を集めたかというと、いい人
行政が積極的に関わるのは良い面もあ
がいなくて困っているということをあち
るのですが、逆になかなか建物や事業の
こちでみんなに話していくと、こんな人
中身から「行政」という雰囲気が抜け切
がいるよと地域の人が紹介してくれたと
れないという課題もあります。住民に場
いうことでした。
の周知をしたり、中身の仕掛けを考えた
課題は、後継者と人材育成で、この事
りするところで課題が出てきています。
業をどうやって継続していくかというこ
運営費の面でも、今のところ運営の柱と
とです。また、「支援」と「自立」のバ
なるような事業は実施されていません。
ランスも課題です。パン屋もカレーショ
自立支援法に基づく事業を実施すること
ップも民間の店としてやっていけるよう
を視野に入れているということでしたが、
な数字を挙げることを目指していますが、
助成金だけでなく、核となる事業をどの
そうすると専門職が手を出さざるを得な
ように展開していくのかという今後の方
い場面が増えてくるので、そこで働いて
向が課題です。
いる障害者の自立のレベルを下げている
最後に、登別の「いぶり花づくりネッ
のではないかということが悩みだという
トワーク」です。花づくりネットワーク
ことでした。
は、もともと造園業を営んでいる方が代
次に、「NPO 法人ノーマライゼーショ
表で、その方自身も足が不自由になり、
ンサポートセンターこころりんく東川」
障害を持った人の就労の場を作りたいと、
の紹介です。
造園業をやっていた当時から障害者を雇
東川町の障害者の親の会の方々が、子
っていました。そうした中で、行政から
ども達が地域で過ごせる場や働ける場が
共生型の話があって施設をつくったもの
ほしいと考えていました。また、東川町
です。事業は造園業なので、それを生か
の中で私的に専門的なケアを実践してい
した障害者の就労の場ということで、就
た事業者の方が、個人としてはなかなか
労継続支援Aと就労移行支援を展開して
事業は継続していけないので、法人の形
います。
課題としては、やっているのは就労支
で事業を継続させたいと考えていました。
さらに行政が、町の中に障害者施設がほ
援の事業がほとんどで、せっかく素敵な
とんどないのでつくりたいということで、
建物をつくったのに、核となる事業がま
この3者の意向が合致して事業の設立に
だ見えてきていないことです。どうやっ
- 30 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
て地域のニーズを拾い上げていくのかと
も大勢います。事業展開のノウハウをど
いう仕組み作りもまだできていません。
のように整理していくのか、あるいは、
市街化調整区域の中にあるので、宿泊や
安定した運営のためにどのように財源を
住まいという事業展開は難しい中、核と
確保していったらいいのかといったこと
なる事業の確立が必要です。情報共有の
も課題です。
面でも、他の法人や団体との交流がうま
最後に、今後、この研究を通じ、われ
くできておらず、どのように事業を展開
われとしてやっていきたい取り組みにつ
していったらいいのか、どのような工夫
いて触れたいと思います。
ができるのかという情報も持っていない
福祉は生活そのもので、縦割りでは解
ので、事業の組み立てのヒントを得ると
決できないニーズがあります。また、地
ころにも課題があります。
域それぞれのニーズも異なるので、各地
今回の研究を通じて見えてきたことを
域で包括的に考える視点が必要です。北
海道には既に106ヵ所の共生型事業が実
簡単にお話します。
まず、多様化する生活支援ニーズに対
施あるいは実施予定ですが、それらが、
応していく可能性です。実際に共生型事
今後、地域福祉、生活を支える拠点、基
業を展開している法人は、ほとんどが自
盤になっていくのではないかと思います。
立支援事業や介護保険事業などの制度サ
共生型事業を展開するためのガイドラ
ービスを実施しており、それは事業の核
インを作るという話もあったように、今
としては必要なことだと思います。制度
後は、これから事業を行おうと考えてい
サービスで財政の基盤を得ながら、さら
る方が取り組みを組み立てやすいように、
に制度外のサービスを展開することで、
事業展開のプロセスを明らかにし、それ
地域のニーズを幅広くカバーしていくこ
が見えるようにしていくことが必要です。
とができるのではないかと思います。
また、そういったガイドラインだけでな
また、地域の中、あるいは施設の中、
く、コーディネートする役割を担う人も
商店街、大学、専門学校、さらに高齢者
必要です。そのためには、人材育成が必
と子どもという形で、縦横ナナメの多様
要になります。誰か 1 人の人材に頼るの
な交流・支え合い・つながりが共生型施
では仕組み作りとしてうまくいきません。
設を中心に生まれてきています。高齢者
行政などいろいろな人達が関わる人的体
の就労支援のように、地域の雇用の場と
制で、コーディネートできる機関を作っ
しても共生型施設は役割を持ってきてい
ていくことが必要になると思われます。
ます。つまり、福祉が地域づくりの拠点
の役割を担っていると考えられるのです。
司会:西山
共生型事業を核とした地域づくりの芽が
ありがとうございました。それでは、
芽生えてきていると感じるところです。
今の 3 名の方のお話について、基調講演
一方で、どのように事業を展開してい
をしていただいた中島専門官と大原さん
けばいいのか、悩みを抱えている事業者
にコメントをいただきたいと思います。
- 31 -
年報 公共政策学
Vol. 6
みは重要です。共生ケアのプロセスの見
中島:
酒田さんは、NPO の視点から取り組
んでおられるので、過疎地域のニーズを
える化を図ることは、これから国も考え
ていかなければならないことです。
コーディネートをする役割を担うのは、
しっかり捉えて、どういうものが必要か
を考えながら事業を広げていったのでは
どういう人がいいのか。これは、先ほど
ないかと感じました。過疎地域は、単独
の大原さんの提言が参考になりました。
ではサービスが実施しにくいので、共生
社会資源をつなぐ力があり、そしてケア
ケアの形を作っていったのだと思われま
もわかる人、ということでしたが、それ
す。
は 1 人で担うのは難しいかもしれない。
事前にいただいた資料で、酒田さんは、
そうすると、組織、チームで考えていく
釧路に11年住み続けて、この町を良くし
必要があります。それぞれ得意なものを
たいと考えるようになったと書いてあり
生かしながら、チームでこなせるように
ました。「住み続けたい地域にするため
するためにはどうすればいいのか。ただ、
には何が必要か」という視点は大事です。
それを取りまとめる人材は必要です。こ
自助・共助・公助の中で、共助を拡大す
の辺はまだ私も結論は出ていませんが、
るためには、生活者の視点が必要です。
大事な視点だと思います。
生活課題を見つけ出すことは、行政の弱
大原:
いところかもしれません。
次に向山さんですが、社会福祉法人の
釧路の和には僕も伺いました。学校を
役割は何なのかということを改めて考え
生かして農業をしたり、町なかの雑貨屋
ながらお聞きしました。今は株式会社も
さんで障害者が働いていたり、地域づく
有限会社も介護サービスができる時代で
りと連動していていろいろ刺激を受けま
す。その中にあって、社会福祉法人は何
した。
なのか。地域でどのような役割を果たし
取り組んでいるみなさんは、個のケア
ていくのか、ということです。スーパー
に対するケアワーカーとしての強い気持
銭湯が改修されるときに、地域住民は、
ちがあり、そこから共生型を活用したソ
ここには何ができるのか、関心を持って
ーシャルワークへと発展し、そのソーシ
見ていたと思います。地域のみなさんで
ャルワークがケアにしっかり立ち返って
ブレインストーミングして、みなさんの
いることが、実践としてうまくいってい
意見を聞きながら地域づくりをしていっ
ることにつながっていると思います。ケ
たのは、素晴らしい実践だと思いました。
アがなくて、ただソーシャルワーク、ま
社会福祉法人として、こういう役割を果
ちづくり、地域づくりだけを考えても、
たすことを大事にしてもらえればと思い
機能はしていきません。ですから、ケア、
ます。
ソーシャルワーク、そして、しっかり返
寺下さんの報告ですが、共生ケアを検
ってくるケアワークがあるときに、高齢
証し、ガイドラインを作っていく取り組
者に関わるのか、就労支援という形でま
- 32 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
ちづくりに関わるのか、取り組みが見え
スです。もともと僕は大学で精神障害に
てくるのです。ケアなきソーシャルワー
関することを学んでいましたが、現場で
クに成功はないと、それぞれのみなさん
取り組み始めたのは北海道に来てからで
の取り組みの背景や思いなどに共感し、
す。精神障害の方達は、社会に参加した
改めて思いました。
いというニーズを持っているのです。
ゴマサーカスを始めたのは、病院から、
病気を発症してから10年以上も社会に出
司会:西山
ありがとうございました。
れない方々の集団カウンセリングを依頼
次に、私の方からみなさんにご意見な
されたのがきっかけでした。その中で、
社会に出て行きたい、働きたい、人の役
どを伺いたいと思います。
まず、酒田さんは、釧路で生まれたわ
に立ちたいなどの声を聞き、社会に接し
けではありませんが、釧路に住み続け、
たいというニーズを感じました。やはり、
グループホームやゴマサーカスという精
自分の役割を持ちたいという気持ちです。
神障害を持った方のボランティアグルー
当初、介護保険がスタートして、3 年目
プなどに取り組んでおられます。共生型
にグループホームを作りましたが、そこ
への思いや、地域への思いをお話いただ
のお年寄りからも同じニーズを感じまし
ければと思います。
た。子ども達が来たときに世話をしても
らったり、就労支援の方でチラシを折る
仕事があるので、それをやってもらって
酒田:
僕自身は、10年以上前に東京から釧路
います。そういうニーズがあったので、共
に移り住みました。地元の方はあまり釧
生型が必要なのではないかと考えました。
路をほめないのですが、僕は大好きな町
なので、少しでも力になりたいといつも
司会:西山
向山さんにお聞きします。札幌でも、
考えています。
共生型に取り組んだ経緯は、1999年に
厚別区など、団地がまるごと高齢化して
ボランティア団体を始め、それが北海道
いるところがあります。北広島団地も同
で福祉を始めるきっかけになっています。
様に高齢化が進んでいます。その中で、
サービスありきではなく、ニーズありき
共生型施設だけではなく、北海長正会と
ということで、要望、ニーズの声を聞く
して高齢化の進んだ地域をどういう形で
ことによってスタートしました。それが、
支援していくか、また、これから高齢化
阿寒地区の方の共生型です。阿寒地区は、
していく団地をどう面倒を見ていくか、
サービスの不毛地帯で、一般的な施設を
もう少し考えを聞かせていただければと
建てて事業をするのは成り立たない場所
思います。
だったのです。
精神障害の方達と関わるようになり、
向山:
ニーズを感じて始めたのが、ゴマサーカ
- 33 -
日本全体の高齢化よりも先に進んでい
年報 公共政策学
Vol. 6
るという部分があり、どのように対応し
寺下:
ていけばいいのかわからないのが現状で
協議会に集まっていただいた方々の中
す。独居の高齢者や夫婦世帯、空き家も
では、事業の展開を考えるにあたって、
多い。こういう地域は、高齢者だけでは
誰と相談すればいいのか、相談し合う仲
支えきれません。子どもも、障害者もみ
間がいないということがありました。協
んなでお互いを支えなければだめではな
議会メンバー同士でちょっと相談すれば
いかと考えました。また、いろいろ話を
解決できるような課題もあって、事業者
聞くと、子育て世帯や児童、障害者の中
同士で情報交換をしたり、情報を共有し
でもいろいろ課題があることがわかり、
たりできる機会や場が求められていると
お互いを支えて生活できる場を作れたら
感じました。
いいと思いました。
今、法人として、介護保険制度による
司会:西山
サービスを提供してきた部分が本当によ
大原さんの話の中で、従事者のネット
かったのかと自問自答しています。ヘル
ワークということがありました。多くの
パーが訪問すると、例えば、今まで向か
共生型事業は規模が小さい団体が事業を
いのおばさんがごみを捨ててくれたけれ
行っています。また、認知症高齢者や知
ど、ヘルパーがしてくれるからもう大丈
的障害、身体障害、発達障害など、さま
夫、という方が増えました。ちょっとし
ざまな方に対するケアを提供しています。
た人と人のつながりが希薄化してしまっ
職員の方も、例えば自分は知的障害の方
たのです。介護保険制度が全て良かった
については自信があるけれど、発達障害
のかということに立ち返っている状態で
の方については難しいなど、いろいろな
す。今後も介護保険サービスや障害者自
意見があると思います。その中で、職員
立支援法のサービスは提供してはいきま
の方の悩みや専門性についてどう対応し
すが、人と人とのつながりにも留意して
ていったらいいかということについてコ
サービスを提供していこうと思っていま
メントをいただければと思います。
す。つながりを壊してしまったかもしれ
ない部分も、「ふれて」を使ってまたつ
大原:
最近、北海道の若手の職員、40歳まで
ながりを作っていきたいと思っています。
の職員の方々にアンケートを行いました
が、やはりみなさん悩まれています。
司会:西山
寺下さんにお聞きします。協議会を開
本音と建前を分けられる解析方法を使
いて、実際に共生型事業をされている方
って分析すると、建前では給料が安い、
に集まっていただいたということでした
休みがないと言っていますが、本音では、
が、そのときの事業者の方々の関心や思
ケアに自信が持てない、相談できる人が
いなどをお話いただければと思います。
いないなどが多いのです。
介護保険では、いろいろなケア研修や
- 34 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
マネジメント研修、障害の方では、サー
護の事業所も含めた職員70人の有志と、
ビス管理研修やその他各協会が主催して
就労支援の中で、介護の仕事に移行して
いる研修内容がありますが、僕らのよう
いきたいと希望を持っている人達で、総
なNPOでそうした事業をやっているとこ
合ケアの法人独自のプログラムを組んで
ろがみんなで学ぶ機会は、極めて少ない
始めました。法人独自のプログラムを組
ような気がしています。サービス管理者
んだのは、対応したものが他になかなか
研修がそれにマッチしているかも疑問に
見当たらないためです。
思います。ケアマネジメントについて、
ケアを深める研修と、一方で、彼らが求
司会:西山
会場の方から質問や意見をうかがいた
められている組織の中で、どうマネジメ
ントしていくか、さらにいえば、どう人
いと思います。
間関係を作っていくか、障害のある方が
地域で暮らす際、いろいろな方々との関
質問者 1:
ゆうゆうの大原さんに申し入れですが、
係性をどう築くかが、個々の事業所もし
くは事業所と連携しているところの熱心
私は麦藁細工をしているので、お役に立
さや前向きさにゆだねられてしまってい
つのでしたらゆうゆうの活動に参加させ
るところがあります。若い人達に限らず、
てほしいと思いました。
研修フレームをケアマネジメントという
ところから、もう少しソーシャルワーク
大原:
お願いします。
的な、コアなマネジメントの研修などを
加えていくことも必要なのではないかと
思います。それは、僕らのような共生型
質問者 2:
をやっている小さい NPO で共通してい
向山さんにお聞きします。「ふれて」
る悩みだと思います。どこかを頼らずに、
の市民スタッフは、どのようなはたらき
そういう仲間達を募って、研修会を自分
かけをして集めたのか、具体的にお話い
達でしっかりアセスメントして組み立て
ただければと思います。
ていくことも必要だと思います。
向山
いろいろな場で募集している現状です
司会:西山
が、1ヵ月に 1 回、北海道新聞と毎日新
酒田さんのところはどうですか。
聞に、団地地区の約4,600世帯限定で、
イベントの予定や結果、写真などを入れ
酒田
自分も同じように、専門性という部分
た通信を作って、新聞に折り込んでいて、
では、次の展開を渇望しています。実際、
そこに市民スタッフの活動や募集も入れ
今年度から自分たちでも共生型に対応し
ています。
た職員研修を始めています。対象は、介
- 35 -
その他に、地域の方々が主催するイベ
年報 公共政策学
Vol. 6
ントや施設見学、講座の開催のとき、ま
る場と考えていいのでしょうか。
た、ちょっとコーヒーを飲みに来た人に
も話しかけています。実際、市民スタッ
向山:
フに登録しなくても、コーヒーを飲みに
建物は料金はとっていません。コーヒ
来たついでに茶碗を洗ってくれる方もい
ーは100円で出しています。この料金も
ます。地域の方々が使う場所でも、混ん
法人には入れておらず、市民スタッフの
できたときにちょっと手伝ってあげると
活動にあてています。ルールというわけ
か、そういう場にしたいと思っています。
ではありませんが、あるサークル団体だ
けがその場を借りて何かをするわけでは
なく、広く地域に向けて参加を求めたり、
司会:西山
運営委員や市民スタッフは、町内会と
共生の理念を理解してもらいたいと思っ
いう形をとらずに進めたということでし
て使ってもらっています。1 団体だけが
たね。
楽しむために利用するということはあり
ません。
向山:
民間である社会福祉法人なので、最初
質問者 4:
寺下さんに質問です。札幌市は共生型
に検討する人選も自由に決めました。も
ちろん、自治会や民生委員の方もスタッ
事業には応募していないのですか。
フにはおられます。私はずっと包括支援
センターやその他の事業を通して地域の
寺下:
方々と関わってきました。よく市役所や
札幌市は応募していません。
社協など、いろいろな連携図があります
共生型事業は、法人がそれぞれ直接、
が、実際そこでつながりができるのは人
道に申し込めるというものではなく、行
と人です。地域で活発に動いている女性
政が道に申請します。ですから、共生型
の方と話をすると、そこでは縦割りで参
事業を申請したい団体は、行政と関係を
加しにくいと言われます。連携図の下の
作って、それぞれの自治体が道に申請す
方の人達は、やりたくないけれど順番が
るという手続きをうまくできたのだと思
きたのでやっている場合もあります。そ
います。
札幌市に関しては、市自体が事業にあ
ういう団体にはしたくないと思いました。
団体に属していない方でも、一緒に地域
まり積極的でありません。札幌市のよう
づくりをしたいと言ってくれる方はたく
に大きい町では、共生型のような取り組
さんいます。そういう人達で組織を作っ
みもたくさんあり、共生型事業を使わな
ていきたいと思っています。
くても取り組みができる。民間の事業者
のサービスもたくさんある。だから、市
としてこの事業に積極的に手を挙げるかと
質問者 3:
「ふれて」は、無料で地域に開放でき
いうと、判断が難しいのだと思われます。
- 36 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
作りました。ただ漠然とではなく、どう
司会:西山
共生型事業は、市町村の事業という形
いう効果があるのか、今ある制度体制の
です。ただ、市町村が申請するけれど、
中でこうした運営ができるということを、
運営は、民間でもいいということになっ
しっかりとしたビジョンを持ってプレゼ
ています。北海道で、積極的に共生型に
ンしました。
取り組んでいるのは、わりと小さな市町
村が多いのです。大きな都市については
酒田
あまり積極的ではない。それはいろいろ
うちは 2 つ共生型の建物を持っていま
な背景があると思いますが、ただ、施設
すが、最初の阿寒温泉地区に建てた「コ
整備は別として、都市でも事業としての
ロイ」は、ちょうど市の方で、高齢者の
共生型はニーズがあると思われます。今
グループホームを設置しようという計画
後の調査・研究では、都市における共生
を立てていて、それをやってほしいとい
型事業も考えていく必要があると考えて
う話がありました。それで、うちの方で
おります。
それを拡大していって、共生型という形
にしました。
「きらく」はその次の年に建てたので
質問者 5:
行政の方からの申請ということですが、
すが、2 度目なので少し揉めました。た
行政へのはたらきかけなどはどのように
だ、本当の意味で共生型を進めていたの
行ったのですか。
は「きらく」の方で、共生型のフレーム
がまだない 7 年前から、ここで共生型を
したいと言っていたのです。
大原:
市町村合併があって、行政の方で簡単
町は積極的でしたが、「利用者よし」
「職員よし」「地域よし」の「三方よし」
なアンケートを住民にまわしたところ、
を押していきました。この事業が、障害
障害者の福祉サービスは地域には必要な
者、高齢者の方にとって極めて良い活動
いという結果が出て、活動センターも何
になるということ、事業を通じて雇用を
も作らないという話になったのです。そ
生み出せるということで、地元の経済活
れに対して、地域の障害者の会から市の
性化を図れるということは大きな説得材
方に陳情がありました。しかし、市の方
料でした。共生型施設は、特定の方々が
も財政が厳しいのでなかなか取り組めず、
利用するところではなく、地域全体にと
市の直営で何かを考えていたのですが、
って有益な場所になり、地域にとって優
1 年くらい検討して市直営ではできない
位な活動になるということも話しました。
ということになり、それでは、うちがや
当時、行政から指摘されていたのは、
ってやるという感じで取り組みました。
運営をどうするかということです。いろ
住民ニーズがそこにあるかどうかが行政
いろなところを参考にさせてもらいなが
を動かす一番のポイントだと思います。
ら、実際に数字を入れた運営経費の案を
- 37 -
年報 公共政策学
Vol. 6
のみですが、経済的に困難な親からはも
向山:
北広島市は人口 6 万人で、札幌市に比
らえないので、専門職員などが置けませ
べてかなり小さいです。ですから、各事
ん。和は、80%が精神障害の就労支援で
業所と市のつながりが強いので、ある程
専門スタッフがいるので、フリースクー
度は進めることができました。しかし、
ルを併設してケアをする形をとっていま
市のどの部署が担当するかで揉めました。
す。この2つの窓口を持つことで、かな
高齢者なのか、障害者なのか、児童なの
りグレーゾーンの方も来てもらえます。
か。また、共生型の交付金があるという
この事業は、全て制度外で運営していま
情報を聞いて急に進めたので、当初の計
す。
画にはなく、まず議会を通さなければな
また、障害者だと認めたくない人に対
りませんでした。たまたま児童の方の計
して、今年から取り組んでいるのは、
画で、子育て支援の拠点を作るという計
「ホロス」という訪問看護&ACT ステー
画があったので、それに当てはめたのだ
ションです。ACT という名前を使って
と思います。他に、共生型のデイや宿泊
いるのは、北海道ではここ 1ヵ所しかな
できるような生活の場など、3 本申請し
い。制度外の部分で訪問していこうとい
ましたが、実際に通ったのは 1 本だけで
うことで、グレーゾーンの方や、精神障
した。
害を持ちながら医療介入をしていないと
いう方々に対して、ゲリラ的に訪問を行
っています。独居の方の安否確認なども
質問者 6:
和のパンフレットの後ろから 2 ページ
一緒にやっています。
このように、切り口をたくさん作るこ
目に「グレーゾーン」とありますが、既
存の障害者福祉制度から漏れがちな方々、
とによって、制度で拾えない人達をなん
また自分が対象になると認知しにくい
とか地域で見ていけないか取り組んでい
方々にどのようなアプローチをしていけ
ます。
ばいいのでしょうか。
司会:西山
ここまで、シンポジストのみなさまか
酒田:
和では、就労支援 A 型事業所と併設
らいろいろなご意見、コメントがありま
してフリースクールを実施しています。
した。共生型事業は、財政的な問題など
パンフレットの後ろから 3~4 ページ目
いろいろな問題もありますが、これから
がその写真です。これは、釧路市内の子
の地域の多様な福祉を進める上で、発展
ども達に関する取り組みをしていた 4ヵ
が期待できると思っております。また、
所の団体がネットワークを作って一つに
北海道の地域の実情に応じた柔軟な対応
なってできたものです。
ができるという点もあります。中島専門
フリースクールは資金の確保が難しい
官は、共生ケアという言い方をされまし
ので運営しにくいです。収入源は親から
たが、共生型は、事業所内におけるサー
- 38 -
シンポジウム:共生型福祉事業と北のまちづくり
ビスやケアの共生というより、むしろ地
なんとか我々としてもネットワークを作
域と一緒にやっていくという、もっと広
って、情報共有をしながら発展していき、
い意味でのケアに発展できる可能性を持
また新しい芽を作っていくという形にし
ったものだと思います。
ていきたいと思っています。そして、北
この数年間、北海道においてかなり多
くの事業が出てきました。各事業者もい
海道型の共生型事業のスタイルを発信し
ていければいいと思います。
ろいろなやり方で取り組んでいますが、
- 39 -
働く人の自律を支える制度
働く人の自律を支える制度
神田
玲子
1. はじめに
2008年 9 月に生じたリーマンショックは、世界経済に大きな衝撃を与えた。先進国
は、今もその衝撃から抜けだせず、慎重な政策運営の難しい舵取りを強いられている。
将来の雇用不安を抱えたアメリカやヨーロッパ各地の若者による政府への抗議行動は、
新たな成長の道筋が見つけられずにいる先進国の焦りを象徴しているともいえる。
失業や格差の責任は政策当局者にあると批判の矛先が向けられるなか、各国の政策
当局者は、政策運営に当たっていく上で、国民の支持を得ることが今まで以上に必要
とされている。しかしながら、昨今のように社会が不安定化すると、マスコミや政治
団体などに煽られて場当たり的な政策対応に陥ってしまう危険性も高い。それを回避
するためには、各国の制度・政策の枠組みの基礎となっている考え方の違いを把握し、
基本的理念と整合的な形での制度・政策設計が行われるような議論を積み重ねる必要
がある。
そこで、ここでは、働く人の自律に焦点をあて、現在の制度・政策が働く人の自律
にどのような影響を及ぼしているのか、という視点から議論を進める。働く人の自律
とは、職業生活において、自分の規範に基づき自己決定することを意味する。
以下、簡単に各節の紹介をしよう。2 節では、エスピン・アンデルセンの 3 類型論 1)を
踏まえた上で、自律と連帯の考え方について整理する。3 節では、働く人の自律を支
える制度について記述する。4 節では、自律とひと言でいっても、「職業選択の自
由」と「雇用の確保」との重きの置き方が政策レジームによって異なることを述べ、
日本の今後の課題について提示する。5 節ではまとめを示す。
2. 政策レジームと基本理念
2.1 欧米の政策レジーム
欧米の資本主義の政策の大枠について、エスピン・アンデルセンが提唱する3類型
に沿って説明することにしたい。まず、エスピン・アンデルセンの 3 類型、すなわち、
自由主義レジーム、保守主義レジーム、社会民主主義レジームについて簡単に説明し
よう 2)。

1)
2)
公益財団法人総合研究開発機構 研究調査部長
email:[email protected]
Esping-Andersen(1990) pp.26-29.
エスピン・アンデルセンの概要については、総合研究開発機構(2010)を参照されたい。
- 41 -
年報 公共政策学
①
Vol. 6
自由主義レジームの基本的考え方は、市場メカニズムを重視し、政府による所
得再分配は必要最小限にとどめるべき、というものである。アメリカやカナダ
などのアングロサクソン諸国が採用する政策がこれに該当する。
②
保守主義レジームの基本的考え方は、所得再分配政策を重視するが、その機能
を家族や企業といった伝統的組織による共同扶助(保険制度など)に担わせ、
国家の関与は限定的、かつ共同体を補完するものにとどめるべき、というもの
である。フランスやドイツといった大陸ヨーロッパ諸国が採用する政策がこれ
に該当する。
③
社会民主主義レジームの基本的考え方は、所得再分配政策を重視するが、その
機能は主に国家が担うこととし、再分配政策の給付対象の範囲が広い点におい
て普遍主義的・包括的であるべき、というものである。スウェーデンなどの北
欧諸国が採用する政策がこれに該当する 3)。
2.2 市場の競争によって可能となる個人の「自律」4
近代の市民革命を経て、欧米では基本的な人権の 1 つとして自由権が確立された。
それを支える論拠の 1 つは、個人は「自律」して生きるべきであるという考えである。
ここでの「自律」とは、個人が自分の規範に従って自己決定することと定義され、他
律(=他からの命令や束縛によって行動すること)とは反対の概念である。
「自律」を重視する考え方では、「市場」に、個人が商品やサービス、場合によって
は自分の職業を自由に選択することのできる場として重要な位置づけが与えられる。
個人は市場において多くの選択肢のなかから、自分の規範に基づいて商品を選択する
ことで自己実現を図る。
また、働く場をみつけるという意味においても、市場での競争が重要となる。西村
周三 5)によると、ハイエクは、市場の競争を通じてこそ、売り手である労働者は自
らの適性を「初めて知りうるのだ」としている。市場の競争を通じて自分の適性を知
ることができれば、よりふさわしい活躍の場を見つけることができ、個人の「自律」
も高まるはずだ。
つまり、個人の「自律」は、市場の競争によってはじめて可能となる。こうした個人
の「自律」を前提とした市場重視の考え方は、自由主義レジームに端的に現れている。
ところで、日本国憲法においてはどのように「自律」が規定されているのだろうか。
印南一路他 6)は、第13条の前段の「すべて国民は、個人として尊重される。」の箇所
が、「自律の原理」を表明したものと捉えることができるとしている。通説では「個
3)
4)
5)
6)
普遍的・包括的とは、給付の対象を一部の人々ではなく、あまねく広範囲の人々とすること。
2.2~2.4 の議論は、神田玲子(2011)に加筆したものである。
西村周三(2010)
印南一路他(2011)pp168-169。
- 42 -
働く人の自律を支える制度
人の尊重」を「人間の尊厳」と捉えているが、それでは一体人間の何に尊厳が与えら
れているのかが曖昧となってしまう。そのため印南他は「第13条は、個人が自分の人
生を自由に設計し、主体的に幸福を追求することを認めたものであり、したがって、
自分の人生設計における主体的な意思決定、すなわち「自律」が基本になっていると
とらえる。これが「自律の原理」である。」と述べている。
2.3 人と人との支え合いによる「連帯」
次に、自律に対峙する概念である「連帯」について説明したい。「連帯」とは、失
業や病気などの 1 人では対応が困難な共通のリスクに対して複数の人が支え合うこと
で備えようというものである 7)。個人が、市場でのリスクをすべて負うことは合理的
ではない。将来が不安になり、貯蓄を蓄えようと遮二無二に働いたせいで、体をこわ
してしまう人もでてくるかもしれない。そうならないためにも、個人でリスクを負う
のではなく、社会でリスクを共有する方が望ましい。
「連帯」の方法は国によって大きな違いがみられる。たとえば、保守主義レジーム
であるフランスでは、個人が被るリスクに備えて、「家族や企業」といった伝統的組
織が共同扶助(職域別保険制度など)としての機能を担っている。そこでは、共同扶
助を担う団体の運営面、財政面の自律性が尊重され、あくまでも国家は、共同扶助の
ルールづくりに徹するべき、と考えられている。
他方、社会民主主義レジームであるスウェーデンでは、政府による手厚い所得再分
配を現金・現物給付の両面で実施している。その背景にある考え方は、「国家」がリ
スクシェアにおける主体的な役割を担い、社会の構成員全員による「連帯」を通じて
リスクに対応すべき、というものである。そこでは「連帯」のための費用負担も、国
民から広く徴収されることになる。
また、労働組合や雇用規制のあり方も「連帯」の 1 つの形だと考えられる。たとえ
ば、労働組合の存在は、賃金水準や労働条件などの要求を団体で行うことによって労
働者の交渉力を高めることに寄与した。また、雇用規制についても、フランスでは、
企業に対して厳しい雇用規制を課すことにより、労働者が安易に解雇されないように
してきた経緯がある。
2.4 「自律」と「連帯」
これらの「自律」と「連帯」の概念は、双方とも近代国家が形成される過程で人の
権利として認識されてきたものである。自律の概念は、個人主義の思想のなかで発展
し、普遍的な価値を得た。また、フランスで発展した「連帯」という概念は、労働者
が職場で事故に遭えば保障を受ける権利、病気で働けないのであれば生活保障を要求
7)
近藤康史(2010)pp116-117。
- 43 -
年報 公共政策学
Vol. 6
する権利、働きたくても働く口がないなら保障を受ける権利というように、リスクに
対する保障が労働者の権利として捉えられるまでになった 8)。
この「自律」と「連帯」という 2 つの概念は、いずれの政策レジームにおいてもお
互いを補完し合う関係となっている。たとえば、連帯制度である失業保険がなければ、
今の仕事を嫌々ながら続けざるを得ない状況に置かれ、職業の選択を放棄せざるをえ
ないことになる。自律ではなく、まさに他律の状況に陥る。また、極端ではあるが、
自律していない失業者の集まりでは、所得の再分配は不可能である。つまり、このこ
とから明らかになることは、人が自律するためには、皆が連帯していることが必要で
あり、一方、皆で連帯するためには、自律している人が存在することが必要である。
「自律」と「連帯」はお互いがお互いを前提としているのだ。
重要な点は、「連帯」のあり方によってその社会で生活する人々の「自律」の姿が
違ってくる、ということである。より寛容な社会保障制度を整備している国と、最小
限の社会保障制度しか整備していない国では、人々の自律の姿は異なる。社会保障制
度、税制等によって就業行動や失職中の求職行動に違いがあることは知られている。
手厚い社会保障制度が整備されていれば、雇用難の状況のなかで求職活動をあきらめ
てしまうかもしれない。「連帯」の制度の違いが、自律に関連する人々の行動に影響
を与えると考えられる。
3. 働く上での「自律」を巡る「連帯」
3.1 働く人の「自律」とは何か
では、働く人の自律とは何を意味するのか。自分の職業人生、あるいは、職場とい
う範囲で考えると、働く人にとっての自律とは、日常業務の遂行や転職などの職業選
択に際して、いくつかの選択肢のなかから自分の判断で決めているか、ということに
なる。前者は、日々の業務のなかで、仕事のやり方、順序、メンバーなどを自分で決
められるか、といった仕事の裁量性の問題である。日々の仕事で裁量性が与えられて
いなければ、自分で判断してものごとを決めていくことは不可能であろう。非定型的
な業務の場合には、マニュアルに沿った業務が不可能なため、その都度自分の判断が
要求され、高い自律性が求められる。そして、後者の転職などの職業選択については、
人生において誰しも経験する何回かの転機を示している。たとえば、若年期の教育か
ら就業への移行段階、職に就いている人の転職、あるいは、第二の人生に入った高齢
者の就業についての選択である。
しかし、市場でモノやサービスを購入している場合などと違って、働く人が自律す
ることは容易なことではない。店頭では、現金やクレジットカードをもっていれば、
顧客とみなされ、欲しいモノを買うことができる。その取引では、売る側も買う側も
8)
重田園江(2010)pp198-199。
- 44 -
働く人の自律を支える制度
対等な関係にある。消費者は自分の気に入ったものを選択し、購入する。これは自律
した行為といえる。しかし、取引の対象がモノやサービスではなく、労働の場合には、
自律した行為を保証することは困難となる。働く側は労働を提供し、使用者は報酬を
支払うことになる。この場合は、店頭での取引と違い、働く側と使用者の間で交渉力
に大きな差が生じてしまうからだ。諏訪 9)が指摘するように、取引する両者が対等
な関係ではなく、交渉力に差がある場合には、両者の間で公平、公正な合意に達する
ことは難しい。そこで、労働法では、働く側の最低限の立場を確保するために法によ
る介入を認めている。雇用解雇規制、労働時間規制、最低賃金法による賃金水準の規
制、育児時期の休業制度などである。また、こうした法規制のほかにも、働く側の交
渉力を高める手段は存在する。例を挙げれば、教育制度、職業教育訓練制度、失業保
険などの社会保障制度などである。これらの制度も、働く者の企業価値を高めること
などによって交渉力を強め、自律しやすい環境を整備するものだといえる。
すなわち、働く人が自律するためには連帯による支えが必要だということである。
その支えのあり方は、働く人の自律をどう考えるかによって異なるものと考えられる。
3.2 2つの「自律」
:「職業選択の自由」と「雇用の確保」
ここで、「自律(=Autonomy)」と「自立(=Independence)」の違いについて触れ
ておきたい。印南他は、「幸福追従のための自律といった場合、単純に生きているだ
けのギリギリの生活を送っている場合には、選択の源となる選択肢すらない状態であ
るといえるので、自分の人生の設計を主体的に行って幸福を追求することはできない
ということである。つまり、自律して幸福を追求するためには、ある程度の身体的自
立、精神的自立、経済的自立が必要不可欠である」としている 10)。ここで、印南他
の「自立」とは、他者に頼らずに自分1人で生活できる状況を示していると思われる。
現在の仕事には満足していないが、他に転職先もないことから嫌々ながら仕事を続け
ているような状況は、経済的に自立しているが、自律していることにはならない。他
方、経済的に自立していることは、自分で主体的に選択し、判断する上で不可欠であ
ることから、自立していることが自律するための前提とある。つまり、自立は自律に
とって必要条件ではあるが、十分条件ではないという関係が成り立っていることにな
る。
制度・政策に当てはめて自律と自立を考えるとどうなるだろうか。失業者に対する
就業支援は、一義的には雇用を確保することを目的としており、経済的に自立させる
ことを支えるものだ。その場合、厳密には職業の選択肢がどの程度存在しているかは
不明であり、印南他の解釈に従えば自律していることにはならない。雇用を確保する
9) 諏訪康雄(2010)p10。
10) 印南一路他(2011)p235。
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年報 公共政策学
Vol. 6
ことと、職業の選択の自由を得ることは違うものである。厳密には、前者が自立であ
り、後者は自律になる。
しかし、拙稿では、雇用確保も低位ではあるが自律の 1 つと考えることとする。す
なわち、自律を求めるということには、職業選択の自由を得るという意味と、雇用を
確保するという意味の 2 つがあると考える。
3.3 働く人の自律に影響を与える連帯制度
働く人の自律を、どのような制度・政策によって支えようとしているのか。ここで
は、(1)雇用保護規制、(2)高等教育、
(3)職業教育訓練、(4)高齢者雇用を取り上
げて整理する。
3.3.1 雇用保護規制と職業の選択肢
表 1 は、諸外国における解雇規制を示したものだが、アメリカを除き解雇する場合
には正当な理由を課しているのが通常である。
表1.日・米・仏・スウェーデンの解雇規制と有期契約への規制
国名
解雇規制
有期契約の締結規制
・解雇権濫用法理(労働契約
日本
有期契約の更新規制
・反復更新された有期契約の
法)
-
・整理解雇法理
雇い止めへの解雇権濫用法理
の類推適用ありうる
・解雇無効は復職
・解雇には現実に差し迫っ
フランス
・客観的理由必要
・更新は1回まで可能、継続
た、重大な理由が必要
期間の上限は9、18、24ヵ月
・差別等を除き復職でなく補
→違反は無期
償可
スウェーデン
・解雇予告期間は 1~6ヵ月
・原則として客観的理
・正当理由なければ解雇無効
由必要
し(ただし、3 年を超えると
だが、使用者の申し出により
・徴兵前または定年後
自動的に無期雇用に転換)
雇用終了可、労働者は補償を
は有期契約可能
・更新回数・総期間に上限な
受ける
・随意雇用原則により解雇は
アメリカ
自由
-
・性、人種等による差別的解
-
雇は禁止
(注)濱口(2008)の p.105の資料を一部抜粋。
(出所)青木他(2010)より引用11)
日本では、転職市場が未発達なために、転職する人の比率は他の先進諸国と比較し
て低い水準にある。日本で転職市場が未発達であることの背景には、高度経済成長期
11) 青木他(2010)p74。
- 46 -
働く人の自律を支える制度
から80年代の安定成長期にかけて、大企業を中心に終身雇用がほぼ実現したことがあ
る。日本の企業は、景気変動の影響を受けながらも、終身雇用を実現するために、労
働時間削減や採用抑制などの解雇回避措置を実施してきた。従業員は、終身雇用のも
とで比較的頻繁な職場の異動を受け入れ、広いジョブローテーションを経てノウハウ
を蓄積し年功順に昇進した。
こうした終身雇用慣行は在職している従業員に雇用の確保を提供することにプラス
の効果をもっていた。景気の悪化による解雇リスクを抑制し、雇用情勢の不安を一定
程度解消する効果はあると思われる。
しかし、ここでは、雇用保護規制が働く人の自律に与えるマイナスの影響について
2 点指摘しておきたい。
1 つ目の問題は、長期雇用という雇用慣行の下で職業の選択肢が限定されてしまう
ことである。OECD(2010)12)によると、雇用保護規制の強い国の方が、在職してい
る従業員に占める離職者及び入職者の比率が、そうでない国と比較して低くなるとい
う。従業員は、雇用保障によって将来の解雇リスクが低いため、転職を自らあまり考
えようとしなくなる。これは、従業員にとっては、人生 1 回の職業選択しか与えられ
ていない、あるいは、考えようとしなかったことになる。その結果、職場に不満をも
っていても、我慢して働きつづけるようなことになっているのではないだろうか。
ヨーロッパのデータを使った興味深い分析があるので紹介したい。G.Brunello et al 13)
のヨーロッパに関する研究成果によると、雇用保護規制の度合いが強い国ほど、自分
が受けた教育水準と実際の仕事で要求される水準とがミスマッチだと思っている従業
員の割合が増える傾向にあることが明らかとなっている。雇用保護規制の指標として
OECD が作成している雇用保護規制の指標(Employment protection legislation(19942001))14)が採用されており、ポルトガル、ギリシャ、イタリア、フランスが雇用保
護規制の度合いが強い国となっている。これらの国では、教育水準と能力が一致して
いると答えている人の割合は低く、また、一致していないと答えている人の割合が高
くなっている。これは、雇用保護規制のある国の方が転職の機会が少ないことから、
労働者の企業間の移動が少なく、職場でのミスマッチが拡大している可能性が高いた
めと考えられる。つまり、雇用保護規制はミスマッチを拡大させ、働く人の自由な意
思に基づく職業の選択行動を阻害している面があると考えられる。
2 つ目の問題は、若年層の就業を困難にしているという点である。これは、世代間
の不公平の問題にもつながる。就業前の若年層は、労働市場では最も弱い存在である。
先進国では、1980年以降、経済が低成長への移行期するなかで、若年層の失業問題に
12) OECD(2009)pp170-171.
13) G.Brunello et al(2007)p97.
14) 一般解雇(手続き、周知期間等)
、集団解雇、非正規労働者規制(条件、業種等)の度合
いを 0~6 段階で評価して算出。計数が高いほど規制が強い。
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年報 公共政策学
Vol. 6
長年取り組んできているが、昨今の景気悪化を背景に若年層の失業率は急速に高まっ
た。
若年層の労働市場をみると、特に雇用保護規制による需要面での歪みの問題が大き
い。雇用保護規制は、在職の従業員を保護する傾向が強く、結果的に若年層の新規採
用を阻む結果となっている。P.Skedinger15)は、実証分析結果のサーベイから雇用保護
規制の影響は、経済全体の雇用動向ではなく、特に若年層の雇用減に大きな影響を及
ぼすと結論づけている。著作のなかで「雇用保護は、労働市場において逆行する再分
配メカニズムを果たしているとしている、つまり、よりよい状況にあるものが、より
危ない経済状況にいるものの犠牲のもとで優遇されている」と記している。
(単位:倍)
図1.若年層の失業率の相対的高さ(2010)
(注)上記計数は、若年層(15~24歳)失業率の全年齢の失業率に対する比率を算出したものである。
(出所)OECD“Employment Outlook 2011” 16)
若年層の雇用状況をデータでみてみよう。図 1 は、若年層の失業率の全年齢の失業
率に対する比率を算出したものである。社会民主主義レジームのスウェーデンでは若
年層の失業率が他の OECD 諸国の中でも突出して高い国の 1 つとなっている。若年
層の相対的な失業率は、全体の約 3 倍の水準である。その理由として、集団解雇が弾
力的に行われているといわれる社会民主主義レジームのスウェーデンでも、能力不足、
職務怠慢といった個人的理由によって従業員の解雇(普通解雇)を行うことは困難で
あることから、既存の労働者の雇用を優先し、結果的に若年層の新規雇用は抑制され
15) P.Skedinger(2010)p 7.
16) http://www.oecd.org/document/2/0,3746,en_2649_34747_48614146_1_1_1_1,00.html
Table C より作成
- 48 -
働く人の自律を支える制度
る傾向にあることが指摘されている17)。また、保守主義レジームの国のフランスでも、
雇用保護規制が厳しく、若年層の雇用環境は厳しい。
これに対して、解雇規制のない自由主義レジームのアメリカにおいても、今回の世
界金融危機によって若年層の失業率は大幅に上昇した。市場での調整機能が働くこと
が期待されていたが、現時点でも失業率は高止まりの状態が続いている。しかしなが
ら、若年層の相対的な失業率は OECD 諸国のなかでは比較的少ない方である。この
背景には解雇規制が存在しないために、年齢による歪みが発生しにくいことがあると
考えられる。
以上、雇用保護規制による働く人の職業の選択行動と若年層への影響をみてきた。
雇用保護規制は、働く人の自律という点からみると、在職者の雇用確保にはプラスに
働くが、働く人の選択肢を限定し、雇用のミスマッチを拡大してしまう可能性が高い。
また、雇用保護規制は、若年層の雇用確保の機会を奪っているという点で、在職者と
新規参入者の間での不公平を生んでいることがわかる。
3.3.2 高等教育における人材養成
若年層の強みは、学んだばかりの最新の技術や知識である。その技術や知識が社会
や企業のニーズに合ったものかどうかが、職業の選択肢にも影響を及ぼすと思われる。
先進国では、教育レベルが所得水準に与える影響が大きくなっており、それが所得格
差の拡大の背景になっていることが指摘されている。ここでは、自律を促すための高
等教育制度のうち、高等教育のアクセスの確保、また、高等教育の内容について整理
してみたい。
単純労働の就業が新興国に取って変わられるなか、生まれた家庭の所得や環境に関
係なく、多くの人が大学にアクセスしやすいことが、より多くの人が自律する上で極
めて重要な要素となる。スウェーデンやフランスなどのヨーロッパ諸国では大学の授
業料は無料となっており、それらの国では大学教育へのアクセスは日本やアメリカと
比較してはるかに容易だと考えられる18)。スウェーデンやフランスでは大学の生活費
も支給され、フランスでは高校の卒業試験に合格していれば入学試験もなく、大学へ
の入学が許可される。その意味では、教育の機会をなるべく多くの人に与え、格差の
少ない平等な社会を作る仕組みが組み込まれているということができる。
一方、フランスは学歴主義の社会ともいわれており、大学へのアクセスのよさが労
働市場の需給調整メカニズムを迅速にする上で生かされていない可能性が高い。一般
的な大学(バカロレア)は高校の卒業試験に合格していれば、無試験でどの大学にも
合格可能であるが、ステイタスの高い職業に就くには、グランゼコールと呼ばれる高
17) OECD(2008)pp112-113.
18) 新井泰弘、川口大司(2011)pp.63-65。
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年報 公共政策学
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度な専門教育を実施する高等専門学校を卒業しなければならない。グランゼコールの
卒業生は、官庁をはじめ高ステイタスの職業に就きやすいが、それだけに入学試験は
狭き門となっている。どの高等専門学校を卒業するかで就職先や将来が限定され、そ
れ以外の経歴の人が活躍できる余地が狭い可能性もある。
次に、大学教育で教える内容について考えてみたい。グローバル化、IT 化といっ
た20世紀後半から始まった世界的潮流は、働く人に求める資質を大きく変えてきた。
それは、学部と就職先の産業との関係にも表れてきている。近年、日本においても大
学の学部と就職先の産業との関係性が弱くなっているという。通常は理系卒業の学生
は第 2 次産業に就職することが期待されるが、データでみると理系の学生が第 2 次産
業に就業する比率は低下してきている19)。特に、サービス業、金融不動産業、卸小売
業は、採用している学部の偏りが小さくなっており、多様な学部から人材を採用する
ようになっている。新井他は、「昭和40年代のように、ある学部を卒業した後に就職
する産業が特定化されるような状況ならば、高度な特定の専門教育にウェイトを置く
事で、就職してからその知識が活用される機会も多かったであろう。ところが、学部
生の進路の多様化を考慮に入れるのであれば、様々な産業で応用可能な広範な知識を
学生に教えるカリキュラムを考える必要がある」と大学教育の課題を指摘している。
しかし、様々な産業で応用可能な知識や能力を、どのような方法で学生に教えていく
かは、そう簡単に答えはでない。アメリカやスウェーデンでは、大学と大学院の役割
を区分し、就職したときに必要となる専門的知識は大学ではなく、主に大学院で学ぶ
ようになっている。大学では一般教養科目、いわゆるリベラルアーツに比重を置いた
教育が実施されている。現在のリベラルアーツが将来応用可能な知識や能力なのか、
また、リベラルアーツを学べば十分なのか、について拙稿で議論するつもりはないが、
働く人の自律を促進するうえで高等教育で何を学ぶのかが、重要な鍵であることは間
違いない。
このように、働く人の自律を促すには、人材養成が極めて重要である。その役割を
担う高等教育へのアクセスを確保し、また、様々な産業で応用可能な教育内容を提供
することが共通の課題であると思われる。
3.3.3 就業前労働者への職業教育訓練
若年失業者等に対する就業前の職業教育訓練(Vocational education and training)に
ついてみてみよう。職業教育訓練とは、OECD(2010)20) の定義によると、特定の職
業や、ある類型の職業につながるような教育や訓練プログラムのことを示す。
職業教育訓練に対する考え方は国によって異なるが、ここでは大きく 2 つに分けて
19) 新井泰弘、川口大司(2011)pp.65-75。
20) OECD(2010)p.26.
- 50 -
働く人の自律を支える制度
考えてみたい。1 つは、ある特定の職業に就くために必要となる技能(スキル)を習
得することに力点が置かれたもので、ヨーロッパで積極的に取り組まれている。もう
1 つは、職業で必要となる能力(Competency)を習得することを重視したもので、ア
メリカやイギリスで取り組まれている21)。
まず、ヨーロッパ諸国における取組についてみてみよう。ヨーロッパ諸国では、若
年層の失業者に就業を促すための様々な取組が行われてきた。基本的な考え方は、
“Welfare to work”ともいわれ、「生活の保護から労働へ」と移行させることよって個々
人の自律を促すことを目指している。ヨーロッパ諸国で実施されている積極的労働市
場政策の内容は、国によって違いはあるが、主に職業訓練プログラム、就業を促進す
るための補助金、公的職業紹介、就職ガイダンス(アクティベーションとよばれてい
る)から構成される22)。そのなかでも、公的職業訓練制度を積極的労働市場政策の重
要な柱として位置づけられ、積極的な取組が行われてきた。公的職業訓練制度の実施
主体は、民間企業、商工会議所、地方自治体などであり、地元企業の協力を得て実習
演習が行われている。徒弟制度による実習訓練で有名なドイツでは、学校で座学を習
得しながら、地元企業で技能を身につけるというデュアルシステムが実施され、効果
を上げている。ドイツで、景気後退期にかかわらず若年層の失業率がそれほど上昇し
ていないのは、徒弟制度によるものだといわれている。
もう 1 つは、職業で必要となる能力(Competency)を習得することを重視した教
育である。アメリカでは、92年の大統領選挙で職業訓練のあり方が争点となり、生活
保護の重視から生活者自立重視へと移行が打ち出された。生活者の自立支援を促すた
めに、牽引する産業を特定し、その産業に必要となるコンピテンシーを重点的に開発
する方針が取られている。コンピテンシーとは、技術や技能に関わるハードスキル、
読み書き算盤など人間としての基本的な能力を示すソフトスキル、問題発見能力、問
題解決能力、チームワーク・リーダーシップなどの能力を示すコンセプチュアル・ス
キルなどを総評している23)。従来のものづくりに特化されたスキルという用語では、
知的集約型経済への移行を背景として必要となる職業能力を示すことができなくなっ
たため、スキルの代わりにコンピテンシーが使われるようになったとされる。実施主
体は、主に教育機関が中心であり、地域のコミュニティカレッジが積極的に関与して
いる。ちなみに、コミュニティカレッジの年齢別の学生割合は、21歳以下が43%、22
~39歳が42%、40歳~が16%となっており、幅広い年齢層に教育の機会を提供してい
ることがわかる24)。
この 2 つの考え方は、各国の労働市場の特性を表していると考えられる。すなわち、
21)
22)
23)
24)
労働政策研究・研修機構(2009)pp. 5 - 9。
Boeri, et al.(2008)pp.255-256.
労働政策研究・研修機構(2009)pp.300-318。
労働政策研究・研修機構(2009)p.322。
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年報 公共政策学
Vol. 6
ヨーロッパ諸国では、厳しい解雇規制を背景に若年層で発生する失業者に技能を習得
させて雇用機会を確保しようとしている。そこでは、民間企業の協力を得て研修を行
い、即戦力となる人材を育てることが重要である。ここで習得される技能は、現に必
要とされている技能である。解雇規制が厳しい場合には、一旦、就業すればある程度
は継続雇用が認められるために、現在必要とされる技能を習熟させることが、雇用機
会を確保する上で重要なこととなる。
他方、アメリカなどでは、労働市場の流動性が高いために、現在の産業の求める能
力ではなく、長期にわたり必要となる能力を身につけることの重要性は高い。現在必
要とされる技能を身につけて職を得たとしても、産業構造が変化を遂げるなかでその
技能が将来も必要とされる保証はない。その場合には、従業員は途端に解雇リスクに
晒されることになる。そうならないようにするためには、将来必要となる別の技能を
身につけたり、産業を超えて他の職に転職するといった柔軟な対応が可能となるよう
な能力が必要である。そうした能力がコンピテンシーだといえる。
このように、労働市場の違いが、自律を促すための職業教育訓練のあり方にも影響
を与えている。各国で目指している自律とは、ヨーロッパの場合には、雇用の確保に
力点が置かれたものとなっているのに対して、アメリカでは将来の職業選択の自由度
を高めるための能力向上を図るものとなっている。
3.3.4 高齢期の雇用制度
高齢期の就業率(55~64歳)には国によって大きな差がみられる。図 2 は、55~64
歳の高齢者の就業率を示したものである。これによると、アメリカなどの自由主義レ
ジームの国や北欧などの社会民主主義レジームの国の就業率は、大陸ヨーロッパ諸国
と比較して総じて高いことがわかる。日本は、OECD 諸国のなかで最も就業率が高い
グループの 1 つである。
ここでは、雇用保護規制と高齢者の就業率の関係についてみてみたい。各国の高齢
者就業率の違いには、様々な要因が影響していると考えられ、雇用規制と就業率の関
係を一概に判断することは難しい。雇用規制のほか、年金制度のスキーム(年金の支
給開始年齢)や税制、高齢者に対する年齢差別なども影響を及ぼすためである。
スウェーデンの高齢層の就業率は2010年74.3%と高い水準にあり、高齢者の雇用確
保は諸外国と比較しても良好な状況にあるといえる。しかし、人員数では就業率は高
いが、1 人当たりの労働時間は少ない点が指摘されている25)。Skedinger 26)は、こうし
た現象はスウェーデンに限らず雇用保護規制の強い国においてみられるとしている。
規制によって雇用が保護されている国の方が、怠慢や病気による欠勤率が高いという。
25) OECD(2006)p34.
26) Skedinger(2010)p 7.
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働く人の自律を支える制度
(単位:%)
図2.高齢期の就業率(55~64 歳)(2010 年)
(注)当該年齢の総人口に占める雇用者数の割合を算出したものである。
(出所)OECD(2011)”Employment Outlook 2011” 27)
特に、スウェーデンでは、高齢期に病気になると病気手当などが支払われることも高
齢者の就業行動に影響を与えている可能性がある。
一方、保守主義レジームのフランスも雇用保護規制は強いが、年金支給開始年齢が
60歳となっており、しかも退職が要件となっていることから、高齢者の就業率は同
42%と OECD 諸国のなかでも最も低い水準となっている。また、週40時間以上働く
人の割合は37%と、アメリカの86%、スウェーデンの70%と比較すると極端に低い水
準であることがわかる28)。かつてフランスでは、高齢者を労働市場から退出させ、若
年層に雇用機会を提供しようと考え、高齢者の早期退職促進とワークシェアリングに
取り組んできた。こうした影響が、フランスの低い就業率と短時間就労に表れている
と考えられる。
他方、自由主義レジームのアメリカをみると、就業率は同64.4%と、日本やスウェ
ーデンの水準よりは低く、OECD 平均(同63%)よりもやや高い程度にとどまる29)。
しかし、週40時間以上働いている人の割合は86%と他の国と比較して突出して高く、
高齢期に働き方を大きく変えるという傾向はあまりみられない。さらに、アメリカの
特徴的な点は、高齢者の新規の雇用率が高い点である。これはアメリカをはじめ、イ
27) http://www.oecd.org/document/2/0,3746,en_2649_34747_48614146_1_1_1_1,00.html
Table C より作成
28) OECD“OECD.Stats”より掲載。
29) http://www.oecd.org/document/2/0,3746,en_2649_34747_48614146_1_1_1_1,00.html
Table C より掲載。
- 53 -
年報 公共政策学
Vol. 6
ギリス、カナダといった自由主義レジームの国で共通している30)。解雇規制のない国
では、雇用者の勤務内容に問題があれば解雇できるようになっているため、解雇に伴
う費用は低く、市場メカニズムが働いていると考えられる。
また、付記すべき点として、雇用保護規制のない国では、職業訓練への高齢者の参
加率も雇用規制のある国と比べて高くなっていることが挙げられる。通常は加齢に伴
い、企業内外の職業訓練に参加する比率は低下する傾向にある。そのなかでも、オー
ストラリアやアメリカなどの自由主義レジームの国で比較的高い参加率を維持してい
るのが特徴的である。
以上をまとめると、次の 2 点のことがわかる。1 つは、雇用保護規制は労働の質を
悪化させる可能性があるということである。すなわち、雇用保護規制は、高齢者の生
産性を低下させ、自律を損なわしていることになる。もう 1 つは、雇用保護規制のな
いアメリカでは雇用確保がそれほど高い水準にはなっていないものの、ダイナミック
な労働市場が形成されていると考えられることである。技術や能力の高い高齢者であ
れば、職業の選択肢が用意されている可能性があるといえるのではないだろうか31)。
4. 働く人の自律と政策レジーム
前節の各国の制度・政策を踏まえながら、それが自律という面でどのような影響を
及ぼしているのか、レジームごとに整理することにする。
4.1 政策レジームの整理
自由主義レジームは、働く人の職業選択の自由を重視した政策体系だといえる。職
業選択の自由は、労働市場の市場メカニズムを効率的に機能させることによって実現
することが有効だと考えられており、雇用の解雇規制も存在しない。解雇規制は本来
働く人を保護するために存在するが、自律を重視するする考え方に立てば、結果的に
働く人の職業選択の自由度を狭めてしまう解雇規制は不要だという解釈も成り立ちうる。
では、解雇リスクに晒される雇用者の労働市場での交渉力をいかに高めていくべき
か。そこでは、教育制度や職業訓練制度を通じて人的資源を積み上げていくことが重
要な課題となる。教育水準によって所得格差が甚だしい社会においては、最低賃金法
など法規制よりも、人的資源の蓄積がもっとも効果的な交渉力向上の手段になり得る
と考えられる。アメリカで開発されたコンピテンシーの考え方は、単なる知識の習得
だけではなく、産業の構造変化に柔軟に対応できる能力を働く人に身につけさせるよ
30) OECD(2006)p37.
31) 日本では、高齢者の雇用機会を確保するために、企業に対して、65歳以上に定年を引き上
げるか、希望者を定年後も引き続いて雇用する継続雇用制度を導入するか、あるいは定年
の定めを廃止するか、のうちのどれかを実施することが義務づけられた。日本の高齢者の
就業率は79%と先進国のなかで最も高い水準にある。
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働く人の自律を支える制度
うにすることを目指したものである。
ただし、いくつかの問題を指摘することができる。1 つは、高齢者の労働市場につ
いてである。アメリカでは高齢者の新規雇用率も高く、ダイナミックな労働市場が形
成されていると考えることも可能だが、高齢者の就業率は、他の OECD 諸国と比較
してあまり高くない。一般的に、高齢者になると体力が衰え、知識や技能も陳腐化し
ている可能性が高く、年齢差別が労働市場に存在することは否めない。
これに対して、社会民主主義レジームや保守主義レジームでは、働く人の雇用確保
を重視した政策体系だといえる。ヨーロッパでの雇用保護規制の維持は、雇用の確保
に軸足を置いたものだ。もともと、社会民主主義レジームや保護主義レジームは、産
業社会で生じる失業、労災、病気といったリスクをどう社会あるいは集団で分かちあ
うべきか、という点に優位性があり、福祉国家の基礎を形成しているものである。そ
の点からしても、職業の自由な選択よりも、雇用の確保に軸足を置く方が連帯重視の
考え方と親和性がある。
しかし、働く人の自律からみた場合のヨーロッパにおける問題点は、在職者の雇用の
安定を確保することによって、労働市場のアウトサイダーである若年層の自律が妨げら
れていることである。労働市場におけるアウトサイダーとなる人々の雇用をどう確保し
ていくのか、その人々に職業選択の自由をどう与えることができるのか。これに対する
有効な答えは現状を見る限りみつかっていない。これまでもみたように、雇用の確保
に向けてヨーロッパ諸国では積極的労働市場政策に取り組んできている。その方向は
正しいと思われるが、問題はその効果である。仕事の確保に効果があるのか、また、
将来、失業リスクに晒されることはないのか、という点からの評価が必要となろう。
また、もう 1 つの問題は、雇用保護規制により転職の機会が限定され、職業選択の
自由という自律が阻害されているのではないか、という点である。先に紹介したよう
に、G.Brunello et al は、ヨーロッパのデータをもとに雇用保護規制の強い国では、労
働市場で需給のミスマッチが生じやすい傾向にあることを指摘した。雇用規制が強い
と、転職の機会が限られてしまうために、転職せずにミスマッチのある職場にとどま
ってしまう可能性が高いためではないかと思われる。
4.2 人々の意識の変化と自律
今では職業の選択に軸足を置いているアメリカでさえも、以前の労働市場は雇用の
流動性も今ほどは高くなく、職業の選択の自由を重視していたわけではなかった。ア
メリカでは1980年代に労働市場の転換を遂げているが、それ以前は大企業を中心に終
身雇用が実現されていた。当時は、個人が組織に忠実であることが求められ、それと
引き換えに、組織から個人に対しては雇用を保障することで従業員の忠誠心に応えた。
しかし、こうした関係が1980年代以降、企業による大規模なリストラを経験して、組
織への忠誠心をもつことの意味は大きく後退した。特に、1980年代の IBM の大規模
- 55 -
年報 公共政策学
Vol. 6
なリストラは、終身雇用がアメリカで崩壊したというメッセージを働く人に送る役割
を果たしたといわれている。それまで雇用を守るといっていた企業が方向転換したこ
との衝撃は大きいものであっただろう。
アメリカの D.ピンクは、組織に属さずに独立して働くフリーランス、臨時社員、
ミニ起業家などで表されるフリーエージェントの社会が到来することを提唱している。
ピンクは、フリーエージェントの労働倫理は、自由であること(行動の自由、選択の
自由、意思決定の自由)、自分らしさを仕事に表現すること、そして、自分の仕事に
責任をもつことだとする。そこでは、仕事そのものが自分へのご褒美となる。お金、
出世など手に入らなくても、その日、自分の好きなことができる、というのが成功者
だという考えである32)。仕事が自分にとって楽しくなければ、独立する。仕事のなか
に自分なりの意義を見いだし、それを最適の環境で追求するために行動することが重
要になりつつあるというのだ。
すなわち、労働倫理は、企業への忠誠から、自由であること(行動の自由、選択の
自由、意思決定の自由)、自分らしさを仕事に表現すること、そして、自分の仕事に
責任をもつことに変わった。その意味で、アメリカの労働者は、雇用確保から、職業
の選択肢をより多く求める自律へシフトしているといえる。
もし、人々の意識がそのように変化しているとすれば、働く人の職業の選択できる
環境を構築する必要性が強まっているのではないだろうか。雇用保護規制といったも
のが、新しい時代の「自律」を前提としたときに、人々の選択の幅を狭めているので
はないか、という視点からの議論が必要だろう。
4.3 日本の課題
最後に日本の課題についてみてみよう。日本では、日本型雇用システムともよばれ
る終身雇用慣行、年功序列制度、労使協調主義のもとで、従業員は組織に対する高い
忠誠心をもち、経営側と協調姿勢を保ちながら日夜働いた。組織への高い忠誠心とそ
の働きぶりは、1980年代の安定成長期までは従業員にとっても合理的なものであった。
従業員の企業への貢献が、最終的には自分の生活に所得として還元され、働く側にと
ってもプラスのメリットがあったためである。
その後の、右肩上がりの成長の終焉によって、組織再編や企業の再構築に乗り出す
企業も多く、転職の選択肢を考えないことは従業員にとって大きなリスクとなりつつ
ある。しかしながらも、経営者が日本型雇用システムの維持に曲がりなりにも努力し
ている状況のなかで、従業員は終身雇用に対する期待を未だ捨てきれずにいる。労働
組合をはじめ雇用の安定を求める声を依然として強い。しかし、事業環境が大きく変
化するなか、これまでのような年功序列型の昇進は期待できない。働く人は仕事に対
32) ピンク(2002)pp.72-95。
- 56 -
働く人の自律を支える制度
する自分なりの価値を見いだすとともに、その価値を実現するための選択と決断が必
要となる。その意味では、日本の従業員も、職業選択の自由という自律へとシフトし
なければならない時期に来ているのかもしれない。
日本の政策上の問題は、職業選択の自由といった働く人の自律を支援する制度が旧
来型のままであるという点である。日本の教育制度、職業教育訓練、雇用制度・慣行
などは、働く人の自律を尊重した仕組みにはなっていない。教育と産業の分離、学歴
主義、ものづくり実技を中心とした職業教育、自律を阻害する非正社員制度の現状な
ど、これらは働く人が自律するための仕組みとはほど遠い。これは、日本の制度が、
高度経済成長に支えられ、雇用確保が実現されることを前提で作られたままとなって
いることを意味している。すなわち、雇用確保の実現に向けてヨーロッパで取組が行
われているような積極的労働市場政策への転換も十分にされておらず、また、アメリ
カで目指しているような職業選択を自由に行っていけるような姿を支援するようにも
なっていない。どのような働く人の自律を目指すのか、明確な姿についての共通認識
がない状況とも考えられる。
これまでみたように働く人の自律という視点から考えた時に、レジームの違いは、
「職業選択」を重視するのか、あるいは「雇用確保」を重視するのかの違いであった。
両者のうち、どちらに軸足を置くかで連帯の制度設計は変わってくるだろう。両者は
どちらも政策上の重要な概念であり、どちらかの1つの選択ではない。あくまでも、
どちらにより重きを置いていくべきか、その際生じる問題点をどう克服していくべき
か、について日本でも幅広い議論が必要である。
5. まとめ
以上、働く人の自律を中心に、主要国の制度・政策についてみてきた。そのなかで、
職業選択の自由か、雇用確保か、という考え方の違いがそれぞれのレジームにおける
制度・政策の違いに表れていることを述べた。つまり、職業選択の自由に軸足を置く
自由主義レジーム、これに対して、雇用確保の軸足を置く社会民主主義レジームと保
守主義レジームという構図である。
自由主義レジームのアメリカでは、働く人の職業の選択の幅を増やすことを確実に
していくため、働く人が生涯にわたり人的資源をどう蓄積していくかが重要な要素と
なる。そのためのコンピテンシーを基盤とした能力開発は、現在の産業ニーズに合っ
ているのみならず、将来の社会経済の変化にも適応するための柔軟な能力を身につけ
ていくことが目標とされていると考えられる。働く人のより自由な職業観がそれを正
当化させているとも考えられる。
また、社会民主主義レジームのスウェーデンや、保守主義レジームのフランス、ドイ
ツでは、雇用機会の確保を確実にしていくため、在職者に対する雇用保護規制の維持と
失業者に対する積極的労働市場政策を同時に実施している。しかしながら、雇用保護規
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年報 公共政策学
Vol. 6
制は、若年層の就業の障害になっているのみならず、在職者にとっても転職の可能性
を狭めており、その結果、自律を阻害しまうという難しい問題を孕むものであった。
日本では、これまで人々が安心できる社会を構築することを政策課題として掲げて
きた。しかし、安心社会も一歩間違えると、各人のもつ様々な可能性を封じてしまう
社会となる危険がある。職業選択の自由を求めるのであれば、ある程度のリスクを覚
悟しなければならない。しかし、他方で、雇用が確保されない人に対しては、社会が
支援する必要性は増していると考えるべきだろう。日本人にとっての働く人の自律と
は何かを問い直し、新しい時代を生きる人々を支援するための社会の仕組みを構築す
ることが急がれる。
参 考 文 献
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OECD(2010a)“Employment Outlook 2010” OECD Publishing
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年報 公共政策学
Vol. 6
Systems and Policies Affecting the Autonomy of Employees
KANDA Reiko
Abstract
This paper looks at systems and policies in a variety of countries in an attempt to study the
ways in which they affect the autonomy of employees. The paper concludes that in countries
with liberal regimes such as the United States, systems and policies emphasize the creation of
a greater range of choices for employees, while in countries with social democratic regimes
(northern European countries) and countries with corporatist regimes (continental European
countries), systems and policies emphasize the guarantee of employment, attempting to ensure
that employees do not lose their jobs. It is also indicated that when the latter countries attempt
to guarantee employment by means of employment protection systems, a discrepancy is
created between unemployment among the younger generation and employment among the
current working generation, and this ultimately restricts the autonomy of employees.
Keywords
Autonomy, liberal regimes, social democratic regimes, corporatist regimes, employment
protection system, competency, vocational education and training
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中東の政治変革と日本
中東の政治変革と日本
金沢 浩明
はじめに
2011年春のチュニジアの政変に始まった中東諸国の連鎖的な政治体制変革の動きに
ついて、「アラブの春」という言葉が日本でもすっかり定着した。国際社会の予想を
はるかに超えた激しく速い動きは、「独裁体制」の打破、民主化の動きとして歓迎さ
れている。
なぜ今、一気にこうした動きが吹き出てきたのか。2004年から2008年まで四年間、
新聞社のカイロ駐在記者として中東諸国を取材してきた筆者は、当時の体験から、現
在の動きは2003年にブッシュ米大統領(当時。以下肩書は原則として当時のもの)が
提唱した「中東民主化構想」を発端として各国で進んだ民主化の動きの延長線上だと
とらえている。同構想は一般的には、民主化の押しつけであるとして中東諸国の反発
を招き、挫折したととらえられている。確かに短期的・現象的にはその通りだが、一
方で長期的・潜在的にみれば、この構想を巡る各国政権の対応が、水面下では各国の
国民に深く影響を与え、結果的に現在の動きまでの底流となったと考える。
では、なぜ当時は政治体制の変革がほとんど起きず、2011年になってから一気に各
国に広がり始めたのか。どのような状況の変化が背景にあるのか。
本稿では第 1 章で2003年からの民主化構想の実態を振り返り、第 2 章でチュニジア
政変以降の現在の動きを見直す。第 3 章ではなぜ今起きたかの背景を分析するととも
に、中東諸国で今後どこまでどのように民主化が広がるか、また政変の起きた国々の
政治体制はどのようになっていくかを予測する。そして第 4 章では、そうした中東諸
国の状況に対して日本の取るべき対応、政策をまとめたい。
なお中東の定義については様々だが、ここでは東はイランから西はモロッコまでの
中東・北アフリカ地域を指すこととする。
1. 「中東民主化」の最初のドミノ
1.1 ブッシュ構想
「イラクの民主化は、アラブ諸国にとって新しい体制となり、各国に政治改革をも
たらすだろう」。2003年 2 月、ブッシュ米大統領は保守系シンクタンク AEI(アメリ
カン・エンタープライズ研究所)での講演で、「中東民主化構想」を発表した。イラ
ク戦争開戦を前に、中東諸国でテロ活動が根強くあるのはサダム・フセイン政権に代

日本経済新聞社静岡支局
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年報 公共政策学
Vol. 6
表されるような国民に自由を与えない強権・抑圧的な政治体制が原因であり、独裁政
権を打倒して民主的な体制を作ることがテロの撲滅につながる、イラクでそれを行う
ことで他のアラブ諸国にも民主化の波が広がり、テロ活動も下火になる――という主
張だった。
そうした発想自体は以前からあったが、2001年の米同時多発テロの首謀者がサウジ
アラビア人などだったことから米国内で説得力を増すようになった。イラク戦争の終
結後は、ブッシュ政権はイラクでの民主選挙を強く推進するとともに、サウジアラビ
ア、エジプト、ヨルダンなどの親米国を含めてアラブ諸国に民主化を強く要求した。
これに対して、アラブの親米国から強く反発の声があがった。仮に民主化を急激に
進めれば内政の混乱や政権崩壊にもつながりかねないとの危機感からで、サウジやエ
ジプトなどは「各国の実情にあった民主化」を主張。欧州諸国などからも異議があが
ったことを受け、2004年 6 月の米ジョージア州での主要国首脳会議(シーアイラン
ド・サミット)では中東民主化を主要議題と位置付けた一方で、アラブ諸国と協議の
場を持ちながら民主化へ向けた動きを進めていくことで一致した。
このブッシュ構想は、米国のイラク開戦と関連していたため、「米国の価値観の押
しつけ」「中東各国の実情を知らない暴論」といった否定的な評価が当時は多かった。
そしてそれは押しつけであったが故に受け入れられず,消えていったと一般的に思わ
れている。
だが、いくつか重要ポイントがある。
第 1 に中東民主化構想に最も反発したのはアラブ諸国の政権側であり、一般の国民
ではない。「民主化の押しつけ」だと抵抗したのは少なくとも第一義的にはアラブの
「独裁政権」である。
第 2 は、アラブ諸国の国民の多くは「反米」だが、その理由は価値観押しつけへの
反発ではない。反米の最大の要因は、米国がイスラエルの同盟国であり、イスラエ
ル・パレスチナ紛争の調停者の役割を引き受けながら、同時に一貫してイスラエル寄
りの立場をとってきたことにある。反発は、民主化構想に対してでなく、「テロの発
生の原因は民主化の遅れにある」という論理に対して、「テロの発生は親イスラエル
の米国の政策に原因がある。責任は我々ではなく、米国自身にある」という意識から
起きている。つまり一般国民は、民主化構想にいたる論理には反発したが、民主化そ
のものには反対ではない。それまで中東で主要な論点でなかった民主化が、米国の提
起により初めて論点となったのである。
第 3 に、民主化自体を否定する動きはアラブ諸国の政権側からもでていない。政権
側の主張は「民主化を進めるのはいいが、各国の実情に沿ってゆっくりやりましょ
う」というものだった。そして現実に2004年以降、民主化はゆっくりしたペースで現
政権の安定を脅かさない形で進められていく。
国民はこれに対し、「そんなゆっくりしたペースでいいのか」という疑問を持つよ
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中東の政治変革と日本
うになる。反米と同時に反現政権の意識が高まっていく。一方、米国は当然ではある
が、反米の一般国民よりも親米政権の意向を重視し、実質的に民主化よりも政権の安
定を優先するようになった。つまり、民主化構想を葬る方向に進めたのはアラブの国
民ではなく、各国政権とブッシュ政権自身だった。
こうして国民の間に民主化欲求マグマが着実にたまっていく。そして2011年になり
一気に吹き出したのだ。直接のきっかけは米オバマ政権が以前ほどアラブ親米政権へ
の直接の肩入れをしなくなり、民主化を求める人にとって「敵」が弱体化してきたこ
とにある。民主化の流れは厳密にいえばもっとさかのぼることができるが、最近での
契機は2003年 2 月といってよいだろう。
各国別に状況を見てみよう。
1.2 エジプト――ムバラク 5 選がもたらしたもの
2005年 9 月、ムバラク・エジプト大統領は88%の高い得票率で 5 選を果たした。そ
して 6 選を前に2011年 2 月、国民の大規模な反政府デモの前に政権は崩壊した。この
事実だけを見ると05年の時点では盤石だったムバラク政権が、11年には唐突に盛り上
がった民衆パワーの前に敗れた、ように見える。しかし、05年の時点で、すでに国民
の不満は顕著になっており、それをムバラク大統領が長年の経験による政治手腕と軍
の協力で抑え込んだのが実態だった。その成功体験を過信したために11年の状況変化
を見誤ったのが、ムバラク氏の失敗だった。
キファーヤ運動――。05年の大統領選の際、アラビア語で「もうたくさん」を意味
する反ムバラク再選運動が若者を中心に盛り上がった。03年のイラク戦争で米国の開
戦を容認したことに対するムバラク政権への不信感、24年間という長期政権に対する
反発、さらに大統領の息子ガマル・ムバラク氏への「禅譲」が現実味を帯びてきたこ
と、などが背景にあった。
同年の大統領選は米国の民主化圧力をうけ、それまでと比べ二つの変化があった。
一つは、従来は与党が圧倒的多数を占める人民議会が候補者を一人指名し、大統領選
は単なる信任投票であったものを、初めて複数の立候補を認めたことだ。立候補には
厳しい条件がつき、実質は「やらせ」選挙だったが、形式的には選挙の形を整えた。
もう一つはキファーヤ運動という反体制運動に対し、非常事態宣言下による取り締
まりをせず、軍・警察の管理下で運動自体は容認したことだ。米国の民主化構想を配
慮したのは明らか。その結果、キファーヤ運動は中途半端に終わったものの、当時は
政権と一枚岩だった軍の統制がなければ運動はもっと広がったかもしれないとの自信
を与えた。それが11年の政変へと結びついていく。
1.3 レバノン――「杉の革命」とヒズボラ台頭
2005年 2 月14日。レバノンの首都ベイルートで爆弾テロが起き、レバノンの実力者、
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年報 公共政策学
Vol. 6
ハリリ首相が死亡した。ハリリ氏が当時レバノンを実効支配していたシリアと距離を
置いていたこと、大量の爆弾が市中心部に設置されていたことなどから治安部隊の関
与が確実視され、暗殺の背後にシリアがいるとみた国民約100万人が市内の中心広場
を埋め尽くす大規模デモに発展。親シリアの後継首相が辞任し、駐留シリア軍が29年
ぶりに撤退するにいたった。
民主化構想後、中東で市民運動が政権を打倒した最初の例であり、米国は古くから
レバノンの象徴であり国旗にも採用されている「レバノン杉」にちなんで杉の革命
(シ-ダー・レボリューション)と名付け、中東民主化の成果として大歓迎した。
同年 5 - 6 月の議会選挙ではシリアの呪縛が消えたことで、反シリア派が過半数を
占めた半面、徹底した反イスラエル・反米姿勢と住民福祉活動で貧困層などに人気の
ある親シリアのイスラム教シーア派組織ヒズボラも議席数を伸ばし、初めて入閣した。
民主化構想で目標として掲げたより自由な政権の組成は進んだが、レバノン各陣営の
勢力争いにより政権は不安定化。ヒズボラの台頭はイスラエル兵拉致を発端として06
年 7 月にイスラエルとヒズボラの全面戦争という事態を生み出す。
そのため、杉の革命が民主化の象徴として輝いたのはわずか数カ月で、米国も成功
例とは見なさなくなる。次に述べるパレスチナ選挙でのイスラム原理主義組織ハマス
の圧勝もあり、民主化や自由選挙を進めることはイスラム過激派の台頭を招くという
当時の中東各国首脳の論理を受け入れ、民主化の旗印こそおろさないものの実質的に
は民主化圧力の矛をおさめる方向に進む。
そのため現在、チュニジアのジャスミン革命を、レバノンの杉の革命と結びつける
論は必ずしも多くない。しかし、市民の力による民主化のドミノ現象は、この時点で
萌芽していたのである。
1.4 パレスチナ――ハマス圧勝の衝撃
2006年 1 月のパレスチナ評議会(国会に相当)選挙の結果は、世界中に衝撃を与え
たといって過言でないだろう。対イスラエル武力闘争の続行を掲げるイスラム原理主
義組織ハマスが圧勝し、パレスチナ自治政府の政権も握ったからだ。
米国はテロ組織と認定するハマスの政権を認めない方針を貫き、その結果パレスチ
ナはハマスと穏健派のファタハに分裂し、中東和平交渉も暗礁に乗り上げる。ハマス
圧勝は米国にとって「許せない結果」だった。
しかし、当時の中東で自由選挙、つまり結果があらかじめ想定できない選挙で指導
者を選んでいたのは、イスラエル、パレスチナ、トルコくらいだった。パレスチナ住
民は当時、「我々はアラブの中で最も民主化が進んでいる」と胸を張っていた。
当時のパレスチナ人は自治政府を動かしていたファタハの幹部に対し、和平交渉を
進める外交手腕が十分ないのに利権には敏感で汚職など腐敗・堕落しているとの不満
を強めていた。ハマス圧勝は、住民がハマスの武闘路線を支持したというより、ファ
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中東の政治変革と日本
タハに「お灸をすえる」ことを意識したものだった。分かりやすくいえば、日本の
2009年の総選挙で民主党が圧勝したのは、民主党が支持されたというより自民党への
拒否反応だったのと同じ構図である。その後、ハマスが国際的な支持を得られずに経
済戦略で行き詰まったのも、ファタハが住民が期待したように自らを反省し立て直す
ことができなかったのも、日本の民主党政権の行き詰まりや自民党の停滞とかなり似
ている。
パレスチナ住民は2006年時点で、自らの選択により腐敗した政権を倒し、少なくと
も当時は清潔と思われた新興勢力を選んだ。客観的にみれば民主化の大きな動きであ
る。しかし、米国はハマス政権の誕生を民主化構想の成果とはとらえず、政権を無
視・抑圧する方向に進む。その結果、当時も民主化の動きが次々と起きていたにもか
かわらず、アラブの春という表現は生まれなかった。
2. 「アラブの春」
2.1 チュニジア
ムハンマド・ブアジジ氏。2010年12月、チュニジア南部シディブジドで野菜・果物
の露天商だった26歳のチュニジア人青年は、アラブ諸国の民主化をもたらした人物と
して、世界的に有名になった。彼は、営業許可証を持たないことを理由に警察官に野
菜などを没収されたことに抗議して焼身自殺し、それがきっかけとなって抗議デモが
シディブジドからチュニジア全土に広がった。当初はデモを抑え込もうとしていた軍
部が抑えきれなくなり、政権に反旗を翻した結果、2011年 1 月14日、ベンアリ大統領
はサウジアラビアに亡命し、23年間にわたる政権が崩壊した。
独裁政治の崩壊として国際的に報道されているが、そもそも2010年12月時点でチュ
ニジアが独裁・強権国家であり、それが大きな問題であると認識していた人々が、日
本を含めて世界にどれだけいただろうか。むしろ、チュニジアは親欧米で開放的な政
策をとるベンアリ政権のもとで高い経済成長を遂げ、女性の社会進出なども進んだ、
アラブ諸国の中で「優等生」のイメージだった。ブッシュ前米大統領が中東民主化構
想の推進のために中東諸国や主要国と共同で立ち上げた「未来へのフォーラム」では
常に〝改革派〟であり、「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムはチュニジア
を、「アフリカ諸国の中で最も経済競争力のある国」に選んだ。つまり、そうした外
受けの良さと、国内の強権的な政治手法とのギャップが、劇的な政変を招いたと言え
る。
筆者はそれを、ベンアリ大統領の「油断」だったと考える。ベンアリ政権は、内政
では強権体制を強化する一方で、改革派のイメージを国際社会に与えることに成功し
ていた。一般国民からみれば、たとえ国民の意識は反米であっても、親欧米政権の下
で外国企業の投資が増えればそれはプラスである。また米国がどれほど現地事情に無
理解な意図に基づいたものであっても、政権に民主化圧力をかけ、それによって民主
- 65 -
年報 公共政策学
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化が進むのであれば、基本的に歓迎である。
しかしベンアリ政権は、米国の中東民主化構想が中東各国政権と国民のそれぞれ別
の理由による反発を受けて事実上挫折したことをうけ、それ以上の民主化には乗り出
さなかったばかりか、むしろ親族による政治・経済支配を強めた。米国がオバマ政権
になって反米諸国に対しても融和的になり、その結果相対的に、中東の親米諸国に対
する強力な支援姿勢がなくなると、政権批判イコール米国を敵に回すこと、という構
図は薄れた。ベンアリ政権はそれまでの国際社会の高い評価に甘んじて、こうした国
民の意識変化への配慮が欠けていたことが、破滅につながったのである。
2.2 エジプト
人口1000万人の小国にすぎないチュニジアと、人口が8000万人近くとアラブ諸国最
大で、地域の大国の一つとして政治的な主導権を発揮してきたエジプトでは、中東地
域に与える影響力は根本的に異なる。チュニジアの民衆運動が 1 月25日にエジプトに、
首都カイロ中心部タハリール広場でのムバラク政権への抗議運動という形で波及し、
2 月11日にムバラク政権が辞任に追い込まれたことは、チュニジアに端を発した「ア
ラブの春」の拡大という方向性を決定づけたと言えるだろう。
エジプトの基本的な構図はチュニジアと同じだ。ムバラク政権は米国からの民主化
圧力を、複数候補による大統領選挙実施などの施策やイスラエルへの融和的な態度な
どにより、乗り切ったと判断した。そして2010年末の人民議会選挙では、従来以上に
公然と野党への妨害などを行い、欧米諸国などからは改革派とみられていたムバラク
大統領の次男ガマル・ムバラクへの世襲路線が国民から見て誰の目にもあきらかにな
った。これは、キファーヤ運動が盛り上がった時点で、ムバラク政権の変革の動きに
期待して静観していた多くの国民を裏切るものだった。なぜキファーヤ運動を教訓と
して民主化を進めるのでなく、世襲路線に走ったのか。世襲でも国際社会からは民主
化が進むと判断され許容されるという「油断」や「おごり」があったのではないか。
軍は国民を抑えこむ力を持つが、本質的に国民を守るために存在し、最終段階では
国民の意思に従う。独裁・強権体制はその政策が国民の支持を得ていれば安泰だが、
支持を失えば早晩、倒れざるをえないのである。
2.3 リビア
2011年10月に最高指導者カダフィ大佐が殺害され、カダフィ派と反カダフィ派の激
しい内戦に終止符が打たれた。内戦に至る構図はエジプトと同じ。2003年の大量破壊
兵器廃棄宣言以降のカダフィ大佐は国際社会へのアピールに力を注ぎ、息子のサイ
フ・イスラム氏がその先頭にたった。
米国をはじめ多くの国はリビアの民主化への動きを支持し、サイフ・イスラム氏を
後継者として評価した。しかし、エジプト同様、国民の間では現指導者の子息は欧米
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中東の政治変革と日本
諸国などに求められるイメージを宣伝しているだけとみられ、次期指導者としての評
価は低かった。
リビアがチュニジア、エジプトに比べて政権崩壊までのプロセスが長くかかり、欧
米諸国の軍事介入を経て初めて実現したのは、カダフィ大佐の人気の高さと、次章で
述べるようなリビアが産油国だったことが理由である。ベンアリ、ムバラクに比べ、
カダフィは明らかにカリスマ性を持った指導者だった。パレスチナ問題に関してアラ
ブ諸国の態度を強く批判したことなどは、アラブ世界ではかなりの共感をもって受け
止められた。政権幹部が続々と反体制派に転じても、亡命や辞任という形をとらなか
ったのは、自身の人気への自負があったからだろう。
しかし、カダフィ大佐がアラブ諸国との関係が疎遠になるのと平行してアフリカ諸
国への傾斜を強め、内戦時にアフリカ人傭兵を動員したのにいたって、国民の支持は
一気に冷めた。国民を守るのではなく敵に回し、しかもその戦いを外国人にさせたこ
とは、以前はいくらカリスマ指導者であろうとも、明白に国民への裏切り行為だった
からだ。
2.4 イエメン、シリア、その他の国々
イエメン、シリアは2011年11月時点では完全な体制変革は起きていないが、いずれ
起きる公算が大きいと思われる。イエメンのサレハ大統領は「親米・改革派」という
点で、チュニジアなどと同様の構図である。
シリアのアサド政権は反米政権であることは大きな違いだが、共通の構図もある。
民主化構想が進められた時に本来、体制変革の動きが起きても不思議ではなかったの
に、同構想の〝挫折〟後に変革をしっかり進められなかったことが、従来のような治
安部隊の存在では十分に押さえ込めない事態まで反体制運動が盛り上がった理由とな
った点である。
ヨルダン、モロッコや、バーレーンなどの湾岸諸国といった、国王や首長を元首と
する君主制の国でも、民衆デモは繰り返し起きており、政権側は一層の〝譲歩〟を迫
られることになるのではないか。
3. 民主化ドミノとその行方
3.1 米国の影響力低下がもたらしたもの
この章では、なぜアラブの春が2000年代中盤に起こらず、2011年に起きたかを検証
したい。
最大の変化は米国の中東地域での影響力低下である。2011年に倒れた政権は親米色
が強かったか、以前は反米でも現在は実質的に親米に転じていた政権である。その米
国の影響力が弱くなれば、当たり前のことだが政権の安定度は弱まる。オバマ政権が
ブッシュ政権に比べると、中東の親米諸国に距離をおいたというイメージが広がって
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年報 公共政策学
Vol. 6
きたことで、必然的に中東親米諸国は弱体化した。政権は倒してもいい存在、倒せる
存在になったのである。
米国の中東民主化構想に対して、中東では政権側は内容について政権の存在自体を
脅かす可能性があるために反発し、国民側はテロは民主化の遅れが原因という、国民
からみてピント外れで身勝手な理論に反発した。
国民側は民主化そのものに反発したわけではない。米国の圧力であっても民主化が
進むことに対する抵抗感はなく、期待は高まった。
しかし、各国政権は国民がこのように潜在的に求めていた民主化をさらに着実に進
めようとしなかったばかりか、米国が民主化への熱意を失い始めたことに乗じて、逆
に権力の世襲化などへと進み始める。国民は反発を強め、米国の介入や圧力がないこ
とを直感し、安心して大規模デモへと突入し、変革を図る。
民主化構想への反発が国民の理解を表面上は得た中東の親米・強権諸国は、それを
誤解し過信したことで、国民の支持を一気に失ったのだ。
パレスチナ・イスラエル問題について、アラブ諸国の国民は一致してパレスチナ支
持である。従って米国のイスラエル寄りの政策に対する反発が強い。エジプトなどの
親米国家においても、国民の意識は本質的には反米である。
当然、これらの国で民意を正確に問い、民主的な選挙をして民主的な政策を打ち出
せば、反米政権ができ、反米的な政策を打ち出す公算が高い。親米政権がそうした世
論を抑え込み続けるには、米国が強烈な中東への関与を続け、頼りがいのある国であ
り続けなければならない。オバマ政権は当初はイスラエルの影響力から脱却すること
への期待をもってアラブ諸国から歓迎されたが、結果的にはそうならず、存在感が薄
れただけだった。米国がそういう状況では、親米政権の存在意義はなくなる。
パレスチナ自治政府のアッバス議長が米国の反対を押し切って国連加盟を申請した
のは、「親米派」の意味が薄れたという住民の世論をくみ取ったからにほかならない。
反米まではいかないが、「離米」の動きだ。今後こうした反米・離米がタブーでなく
なることで、中東の民主化はさらに進むと予想される。
3.2 「民衆革命」はどこまで広がるのか
前の章でみたように、相次ぐ政変はいずれも、国民の「裏切られ感」が背景にある。
従って国民から元々民主化を期待されていない君主制の国では、民衆革命が起きると
は限らない。また、非産油国では政府は国民から税金を集める必要があり、クライア
ントである国民は本質的に強い立場にあるが、産油国では莫大な石油収入を国民に分
配するのが政府の役割であり、お金を出す側である政府の権限が強くなる。
このため、民衆革命は君主制の産油国では、広がりにくいのではないか。具体的に
はサウジアラビア、クウェート、UAE(アラブ首長国連邦)などは、国民の民主化
への期待に応える政策をとっていけば、体制自体が崩壊する懸念は強くないとみる。
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中東の政治変革と日本
共和制を掲げる国や、君主制でも非産油国の体制が今後も続くかは微妙だ。具体的
にはイエメン、シリア、バーレーン、モロッコ、ヨルダンといった国で、現実にこれ
らの国の政情は不安定な状況となっている。
さらに日本からみて関心が高いのはこれが北朝鮮など中東以外の国にも波及するか
である。筆者はそれを判断するだけの知識を持たないが、中東民主化構想の時と同様、
政権側が当面は封じ込むことができてもそれが民主化への改革を伴わなければ、いず
れ市民の不満が噴き出す可能性があるのではないか。
3.3 新体制の行方は
現在国際社会が懸念しているのは、相次いで政権崩壊を経験した国々が、いつ政治
的に安定し、経済成長が軌道にのるかである。
チュニジア、エジプト、リビアの新政権発足へ向けた動きを見ていると、安定した
政権が出来るまでには少なくとも 2 - 3 年、現実的にみれば 5 年以上はかかりそうな
雰囲気が漂っている。
旧政権は国内外に対し、「自分たち以外に責任を持って政治を担える勢力はなく、
反体制勢力には全く統治能力はない」→→→「従って、もし国家が大混乱に陥り、経
済が激しく停滞して人々の生活が大きく影響を受けるような事態を望まないのであれ
ば、自分たちの政権を支えるべきだ」、という論理で強権政治を正当化してきた。
「民衆革命」は、現体制がこのまま続くよりは、たとえ将来が不透明で混乱が予想さ
れても自分たちの手で政治を動かしたい、という国民自身の選択である。中東諸国は
30歳以下が人口の 6 割以上を占める。若者が多数を占める国だからこそできる将来へ
の賭けであり、軍や旧体制の幹部などを排除してゼロからのスタートを望む若者たち
の要望が通れば通るほど、政治的安定までの道のりは長くなるだろう。
新しい政治体制作りへの模索は、少なくとも当面の間、イスラム政党を中心に動く
ことになるだろう。エジプトもリビアもチュニジアも、人口の約 9 割かそれ以上がイ
スラム教徒。伝統的にイスラムでは厳格な政教分離の伝統は少ない。また、各個人が
自分のアイデンティティを自らの宗教に求める動きが強まっているのはイスラム圏だ
けでなく世界的な最近の潮流であるし、イスラム政党は旧体制から厳しく抑圧されな
がら社会福祉活動などを通じて国民の間に浸透し着実に支持を広げてきた。ゼロから
の出発という状況下では、他の勢力に比べて比較的組織がしっかりしていて安定感が
あるイスラム政党が、選挙で第1党となるのは当然なのではないか。
もちろんイスラム教徒の中でも明確な政教分離を求める層も少なくなく、今後新た
な政党が徐々に組織を整えてくる可能性はある。ただ、イスラム政党に代わり政権の
中枢を担うほど力をつけるまでには、時間がかかると思われる。
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年報 公共政策学
Vol. 6
3.4 「フェースブック革命」は本当か
中東諸国の政治変革の背景と展望に関連して、ツイッターやフェースブックなどソ
ーシャルメディアが大きな役割を果たしたことについて若干私見を述べたい。
デモの動員でソーシャルメディアが相当使われ、それが政権打倒に大きく役立った
のは事実である。ただ政権を打倒したのはソーシャルメディアの力ではない。デモを
軍部がコントロールできないほど大規模で持続性のあるものにし、それによって軍を
旧政権から離反させることに成功した、若者たちの力である。彼らは自分の身の回り
にある便利な道具としてソーシャルメディアを使っただけだ。そして、それに気づい
た政権側が携帯電話もソーシャルメディアも使えないように回線を寸断しても、デモ
はさらに拡大したのである。
2005年の時点でもレバノンの「杉の革命」は携帯電話やインターネットがデモ参加
者の間で駆使され、IT による革命という評価が一時期広まった。中東諸国は既存メ
ディアは政権の管理下にあり、電話ももともとインフラ整備が遅れて使い勝手が悪い
上、政府の統制が厳しく反政府活動には使いづらい。新しいメディアへの依存度が高
いのは確かである。
エジプトでキファーヤ運動が巻き起こっていた時、デモ参加者から面白い話を聞い
た。非常事態宣言がずっと続いていた同国では集会の自由はなく、デモの打ち合わせ
のため集会を誰かの家や飲食店などでやれば、すぐに近所の人や秘密警察などから通
報され、逮捕されてしまう。ソーシャルメディアがまだ普及していなかった当時、ど
うやって集会をするか。彼らが目をつけたのが、ナイル川にたくさん浮かぶ観光船だ
った。隅田川の屋形船のように、観光客だけでなく地元の人々の娯楽となっている観
光船は多数が川岸に停泊し、客が集まってくればそこからナイル川をゆっくりと上下
する。あらかじめ仲間で船をおさえ、示し合わせてその船に乗り込めば、打ち合わせ
をしても集会ではなくクルージングでたまたま一緒になっただけだと言い張れるし、
川の上であればそもそも密告や盗聴される心配もない――というのだ。工夫に感心す
るとともに、反政府運動とは政府との根気強い知恵比べなのだと実感した。
多少穿っているかもしれないが、中東諸国の革命を IT とすぐ結び付ける傾向があ
るのは、「暴れている中東の若者たちが最新メディアを駆使しているなんて意外!」
という偏見が潜んでいる感じがする。イラク戦争下でのイラク人若者のブログが話題
になった時、ある中東研究者は「イラクにも自分たちと同じような若者がいてブログ
をしている、と驚いていること自体が問題だ」と指摘していた。
当然だが、中東諸国は伝統的な優れた文化を持つ上に経済は全体として高成長して
おり、新しい技術も情報も豊富に入ってくる。自分たちと同じような若者たちを激し
い抗議運動に突き動かした原動力は何なのかを考えることのほうが、ソーシャルメデ
ィアの影響力を論じるよりも本質的なことではないか。
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中東の政治変革と日本
4. 日本が中東諸国に対してとるべき対応は
中東の政治体制の変革の流れは2011年ほど劇的ではなくても、今後も確実に続くと
思われる。日本は中東諸国の変革にどのように対応すべきなのか。あまり意識されて
いないが、中東と日本の関係は歴史的にも現状でも、中東と欧米諸国の関係とはかな
り異なる。その観点から 4 つのポイントを指摘したい。
4.1 「イスラム政権」アレルギーの払拭に貢献する
3 章で述べたように、旧政権が崩壊し、民主的な自由選挙が実現した国では多くの
場合、イスラム系の政党が第 1 党になり、政権を担うか少なくとも中核的な役割を果
たすだろう。あえてざっくり言えば、民主化とイスラム化はほぼイコールであり、民
主化を推進することはある程度のイスラム化を容認することにほかならない。
しかし、欧米諸国の間ではいまだに、イスラム化を民主化と対立する概念ととらえ、
イスラム政党の躍進に強い警戒感を持つ傾向が強い。背景には、1979年にイランで王
政を倒して誕生したイスラム政権が反米・反西欧政権となったこと、イスラム原理主
義勢力によるテロの標的に度々なったこと、さらに長期的な歴史としてイスラム勢力
の台頭とのせめぎあいを経験してきたこと、などが挙げられるだろう。
いくつか指摘したい。まずイラン革命は民衆運動ではあったが、新たな政権は民主
選挙を経て成立したわけではなく、現在も政治体制そのものは民主化されていない。
つまり民主化によって現体制が出来たとは言い難い。実際に今回、イラン政府は当初
は親米各国での住民デモを歓迎したものの、自国への波及を恐れて積極的な歓迎姿勢
の表明は控えるようになっている。
また、チュニジアやエジプトなどで新政権を模索する中で台頭しているイスラム政
党は、過激な原理主義組織ではなく、穏健派である。国際社会と敵対関係をとろうと
はしておらず、また仮に今後その点で過激化すれば、国民の支持を失うと思われる。
ただ、イスラエル・パレスチナ問題では徹底してパレスチナ寄りであり、アラブの価
値観やイスラムへの価値観にも当然こだわりがあるため、もし米国などがそれに反発
を示せば、政権も反米傾向を強めることになるだろう。
イスラムとの歴史的なせめぎ合いについていえば、それは欧米諸国特有の問題であ
る。少なくとも日本とイスラム諸国との間には歴史的に大きな紛争や対立は生じてお
らず、本来、日本にはイスラム政党の躍進に対して抵抗感を持つ理由はない。民主化
の進展として歓迎すべきことである。国際的なイスラムアレルギーがあるとすればそ
れを払拭することに貢献し、同時にアレルギーが高まらないような政策をとるよう新
政権側を支援していくことにおいては、日本ほどその役割にふさわしい国はない。
イスラム化と民主化を対立概念ととらえがちな欧米諸国に対して、中東諸国から反
証例として提示されるのがトルコである。トルコは軍主導による厳格な政教分離の国
から、選挙で圧倒的な支持を得たイスラム政党のエルドアン政権下により、イスラム
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年報 公共政策学
Vol. 6
化へのかじをきってきた。しかし、それによって民主化が後退したわけでもなく、国
際社会との関係が悪化したわけでもない。トルコと日本は歴史的に極めて関係が良好
な国であり、「トルコモデル」を日本が積極的に推奨することに違和感を持つ向きは
ないだろう。
4.2 「共通の感覚」と思われていることを意識する
「アラブ諸国と日本の文化は似ている」と言われて賛同する日本人はどれだけいるだろ
うか。むしろ対極で、理解しにくい存在だと思っている人が大部分だろう。
しかし、アラブ人の中には「我々と日本人は共通の文化がある」と言い切る人が少な
くない。彼らの意識では、アラブの文化は欧米文化と大きく違う、それに比べると、日
本のほうが自分たちに近いと感じているわけだ。
本当に文化が近いのかどうかはさておき、まず両者の意識ギャップを埋める必要があ
る。
「中東は日本にとって付き合いやすい国々なのかもしれない」との仮説にもとづいて
付き合うことで、見方も変わる可能性がある。実際、中東と長くつきあっている日本人
の中には、文化が近いということに同意見の人も少なくない。
4.3 長期的な人間関係を大事にする
民主化の流れでも触れたように、中東で一つの流れが起きて現実化するまでの時間
のレンジは日本人などの感覚より長い。短期で結論を出さずにより長期的に見ていく
必要がある。人間関係についても同様で、4.2 で述べたような共通の感覚も数年程度
の短期的な付き合いではたぶん生まれてこない。政府、企業、学者、学生などそれぞ
れの立場での付き合いや交流を数年単位でなくより長い期間を前提としたものにし、
関係を長期的に続けていくことが、意識ギャップを埋めていくことにもなる。
4.4 日本の技術・商品を積極的に売り込む
中東諸国の日本製品に対する評価は高い。従来からの主要輸出商品である自動車、
家電などでも他地域に比べると依然日本ブランドへの人気は根強いし、新しい輸出商
品であるアニメなどのソフトも確実に浸透している。また、日本産の食品、菓子、農
産物から、花火、玩具、文具なども人気がある。
全般に、使い勝手の良さやシンプルさ、値段の安さといった実用性よりも見た目や
デザイン、技術の先進性などを追求する日本製品の特徴は、中東の人々の嗜好にあっ
ている。「本物」に敬意を表し、本物と感じて自分が気に入れば多少の値段の高さに
はこだわらない気風が強いからだ。
従来は日本企業からみると中東全体でも人口がアジアほど巨大でないため、輸出市
場としての優先順位は高まらない傾向があった、しかし、若者が多く今後も人口増加
が続くため、市場としての魅力は確実に高まる。特に中小企業の技術、商品の積極的
- 72 -
中東の政治変革と日本
な売り込み先としては大変有望だ。
最大の課題は日本の中小企業にこうした現実への認識が薄いことである。まず売り
込みを通じて日本と中東の距離感を縮めることが先決。それによってエネルギーに偏
重していた貿易もバランスがとれたものになっていくと思われる。
最後に
「アラブの春」は決して複雑な事象ではなく、2003年にさかのぼって流れをとらえれ
ばかなり単純な構図として見ることができる、というのが本稿の最大の趣旨である。
中東やアラブの動きは分かりにくいというイメージや先入観を持つ向きがいまだに
多いのは、イスラム教という要素への注目が過剰なためだと思う。アラブ人自身も外
国人に政情などを説明する際、イスラム教を絡めて説明する場合が多い。
ただ、私は中東駐在時も今も、「中東でおきている紛争や対立のほとんどは、本質
的には部族対立や権力闘争、利権を巡る争い。当事者が自身を正当化したり味方を増
やすために、宗教を利用しているだけだ」と感じてきた。リビアなどでの新政権を巡
る勢力争いも、パレスチナの内紛も、多数の勢力が入り交じるレバノン情勢でさえも、
宗教というフィルターをかけずに、極端に言えば地方の保守的なおじさんたちの昔な
がらの権力争いとして見たほうが分かりやすい。
若者による反政府デモは、研究者の多くが指摘しているように宗教の色彩がほとん
どなかった。にもかかわらず、「イスラムの春」といった観点から分析し、これによ
るイスラム政権の誕生に懸念を示す分析も見受けられる。イスラム社会を異質な社会
という前提で論じなければならない理由があるのだろうか。アラブの春を契機として、
日本と中東との精神的な距離感が少しでも埋まっていくことを期待している。
以上
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年報 公共政策学
Vol. 6
Political Change in the Middle East,
-how should Japan react?
KANAZAWA Hiroaki
Abstract
Drastic political change in the Middle East countries in 2011 gave big impact to the world.
The seeds of
the change has already appeared in 2003, just after U.S President George W.
Bush intruded democratization on
Middle East countries.
dramatic decrease of U.S influence to the Middle East,
After 8 years, and also after
democratization has realized
voluntarily by young people in this area.
Keywords
Middle East, political change, jasmine revolution, democratization,
policy,
Islamic party
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Japanese foreign
損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
-神戸市外郭団体改革の実証的分析-
宮脇
淳
1. はじめに
地方自治体の行財政を巡る大きな課題として、第三セクター等外郭団体の改革に関
連した損失補償契約の有効性問題が2010~2011年にわたり議論展開された。損失補償
契約に関しては、第三セクター等改革推進のための地方債(以下「三セク改革債」)
の発行期限が2013年度に迫る中でその処理に向けた財政運営上の実務的問題に法的有
効性に関する司法判断が絡み問題が輻輳化する状況に直面していた。同契約について
は東京高裁(2010.8.30、原審事件番号平成21(行政コ)298)で違法判決、そして同
事件の上告審である最高裁判決破棄自判(2011.10.27、事件番号平成22(行政ツ)
463)によって適法とする司法判断が示され一応の整理がなされた。本問題は、法的
判断と同時に今後の地方財政と金融の関係、そして地方議会審議のあり方にも関連す
る問題である。本論文では、損失補償契約に関する法的問題と地方行財政の実務的プ
ロセスを通じて抽出される課題を神戸市外郭団体改革の実証分析と重ねながら整理・
検証すると共に三セク改革債活用を巡る課題等について整理する。なお、最高裁では
損失補償契約を適法とする判断を示しているものの、2003年12月12日付総務省自治財
政局長通知「第三セクターに関する指針の改定」の内容では、損失補償契約を有効と
する前提をとりながら地方自治体に対して原則として行わない趣旨が提示されており、
過去の契約に基づく法的安定性と共に今後の地方財政の健全性確保を睨んだ損失補償
契約のあり方については政策的思考からの整理が必要となっている。
2. 損失補償契約に関する法的根拠と司法判断
2010年 8 月30日、長野県安曇野市の第三セクターに関する損失補償契約に対して東
京高等裁判所が地方自治体の保証を禁じている法律に違反することを理由に無効判決
を言い渡した(東京高判平22.8.30判タ1334号58頁、金法1907号16頁)(以下「安曇野
菜園事件東京高裁判決」
)。この判決を受け、損失補償契約を巡る財政・金融両視点か
らの議論が高まった。損失補償契約の有効性に関する揺らぎは第三セクターの経営だ
けでなく、地方債制度を含めた地方自治体の財政運営、そして金融監督等財政、金融

北海道大学公共政策大学院院長・教授
連絡先:〒060-0809北海道札幌市北区北 9 条西 7 丁目北海道大学公共政策大学院
E-mail:[email protected]
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年報 公共政策学
Vol. 6
を巡る広範な実務領域に関連し、地方自治体の今後の政策展開にも密接不可分の関係
を有するからである。また、損失補償契約の検証においては2009年 4 月に全面施行さ
れた「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(以下「財政健全化法」)の議論に
おいて損失補償契約が如何に扱われてきたかを概括する必要がある。なぜならば、行
政そして立法の不作為による不整合な現状が最終的に地方自治体や金融機関の運営に
大きな影響を与える要因となった可能性があり、、同時に損失補償契約の有効性の問
題は財政健全化法の全面施行と同時に導入された三セク改革債の活用にも影響を与え
ざるを得なかったからである。
2.1 損失補償契約の法的根拠
損失補償契約は、地方自治体が自らの出資・出えんにより設立した第三セクター等
について金融機関との間で締結することを基本とする。損失補償契約について地方自
治法は地方自治体の財政援助の一種と位置づけて、同法199条 7 項(監査委員の職務)、
221条 3 項(予算執行に関する長の調査権等)に規定している。損失補償契約につい
て地方自治法の代表的な逐条解説では、「特定の者が金融機関等から融資を受ける場
合、その債務の全部または一部が返済不能となり当該金融機関が損失を受けた時に地
方自治体が融資を受けた者に代わって当該金融機関に対して損失を補償すること」と
説明されている 1)。こうした解釈に基づき、地方自治法214条で債務負担行為として
予算計上することが求められている。また、損失補償契約の機能的意義は、「金融機
関等からの融資を受ける際、地方自治体が債務者のために当該金融機関に対して当
該債務又は当該債務から生じる利子の弁済を保証する債務保証契約」と説明されて
いる 2)。補償契約は、民法上の保証と同義語とされ民法446条により主たる債務者が
履行をしない時にその履行の責任を負うものとしている。
損失補償に関連する法律としては、1946年「法人に対する政府の財政援助の制限に
関する法律」(以下「財政援助制限法」)が挙げられる。同法3条で「政府又は地方公
共団体は、会社その他の法人の債務については、保証契約することができない」とし
ておりこの規定に基づき、債務保証については厳格な制限が設けられてきた。しかし、
実務においての損失補償契約の内容・解釈が多様であり、禁止されている保証契約と
損失補償契約が類似した内容であるか否かは次節で見る司法判断の推移からも整理さ
れるように繰り返し議論されてきたところである。この点に関しての行政解釈は「損
失補償については、法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律第3条の規制す
るところではないと解する」(1954年 5 月12日付け大分県総務部宛自治庁財政課長回
答)旨示しており、予算における債務負担行為として地方議会の議決を受けるなどの
1)
2)
松本英昭『新版逐条地方自治法[第 5 次改訂版]』(学陽書房、2009)639頁。
同上、640頁。
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損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
ほかは保証契約と類似の制約がない行政実務が続いてきた。これにより、地方自治体
側にとっては歳出予算に組み込まず予算額を抑制したままで政策的に信用供与を行う
ことができ、事業の採算性等が限定的でも公益性を理由に幅広い事業展開を可能する
などのメリットが存在した。一方、融資する金融機関側としては、損失補償契約の存
在により経営悪化や清算整理業務において債権放棄に応じる可能性を低下させること
ができた。損失補償契約は信用力や事業性を度外視することはなくても、最終的には
地方財政本体から債権回収できるメリットをもたらしてきた。なお、2003年12月12日
付総務省自治財政局長通知「第三セクターに関する指針の改定」の内容では、損失補
償契約を有効とする前提をとりつつ原則として行わない趣旨が提示されている。
2.2 従来の主な司法判断
2010年 8 月の安曇野菜園事件に関する東京高裁判決に至るまでにも、損失補償契約
の有効性を巡る司法判断は多く蓄積されてきた。
2002年 3 月25日に福岡地裁判決は、福岡県大牟田市損失補償に関する損害賠償請求
事件判決(ありあけジオ・バイオワールド事件)で、損失補償契約と保証契約とは内
容・効果において異なり(地方自治法221条 3 項)、市長が市議会で明確に説明し議決
を得る等適正な手続きを経ていること、また当該テーマパーク事業も明確に公共性・
公益性がないとは言えないことから損失補償契約を有効とする判断をしている。本判
決は、損失補償契約の締結が公共性ないし公益性を有しないなどで地方自治法、地方
財政法に違反し首長の裁量範囲を逸脱又は乱用するものである場合には損失補償契約
は違法であると判示したものの、仮に損失補償契約が違法であっても私法上は有効と
し、地方自治体は契約の相手方に対して当該契約に基づいて債務を履行する義務を負
うため、同債務の履行として行われる行為自体を違法とは言えないとした。そして、
損失補償契約が私法上も当然無効と言える判断要件として、①違法自由の明確性、②
契約の相手方による当該違法事由の認識ないし認識の可能性、③法令上当然要求され
ている議会議決等必要手続きの有無などを挙げている。本判決は、2006年 3 月 9 日、
最高裁が上告棄却・上告受理申し立て不受理とし確定している。
さらに熊本県荒尾市アジアパーク損失補償に関する損害賠償等請求事件判決(最高
裁小法廷2007年 9 月21日決定)でも、損失補償契約は財政援助制限法3条に違反するも
のではなく、契約締結に関しても公益性があり適法と判断している。公益性の有無に
関しては、地方自治体の経済的、社会的、地域的諸事情で行政目的に照らして政策的
に考慮すべきであり一義的には決定するのは困難とし、首長の判断に裁量権の逸脱・
濫用があるか否かを判断基準として掲げている。なお、本件に関して最高裁では実質
的審議は行われず、上告棄却・不受理決定し本判決は確定している。これに対して、
川崎市 KCT(かわさき港コンテナターミナル株式会社)損失補償に関する損害賠償
請求権行使請求事件判決(横浜地裁2006年11月15日判決)では、「民法上の保証契約と
- 77 -
年報 公共政策学
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は言えないまでも、それと同様の機能、実質を有するものであって、財政援助制限法
3 条による規制を潜脱するものと言うほかないから、同条に違反した無効なものであ
る」とした。本判決では、損失補償契約が①貸付債権が回収不能にある状況が要件と
されていないこと、②主たる債務の存在を前提とし主たる債務への付従性があること
等から保証契約と異なるものとは言えないとして財政援助制限法による規制を潜脱し
違法としている。さらに本判決では、③公法たる財政援助制限法は効力規定であり私
法上も無効であるとの判断も行っている。本判決は控訴されず確定しておりこれ以降、
保証契約は、主債務との間に付従性と補充性を有し、保証人は主債務が期限を経過し
ても履行しない場合に主債務と同一の責任を負うのに対して、損失補償契約は、主債
務に対して付従性、補充性はなく、主債務から独立して損失を補てんすることを性格
とするという区別議論が展開されている。
なお、本判決では市長個人に対する損害賠償責任は、①損失補償契約が保証契約と
は異なるとする行政解釈が広く受け入れられていたこと、②過去の裁判例も適法とし
ていたことなどから故意・過失はないとし否定したほか、本判決に基づいて市が金融
機関に対して損失補償金の返還を求めることも信義則を根拠として否定している。そ
の他の判例としては、市出資株式会社再建に係る損失補償債務の負担に関する大阪地
裁2009年 5 月22日判決(クリスタ長堀事件)、町区画整備事業に係る損失補償契約に
関する東京地裁2009年 9 月10月判決(土地収用組合事件)ともに損失補償契約は保証
契約に該当せず財政援助制限法3条には違反しない判断を行っている。以上のような
損失補償契約を巡っての司法判断の流れが形成される中で、安曇野菜園事件東京高裁
判決が大きな争点を地方財政に投げかけることになる。
3. 安曇野菜園事件東京高裁判決
安曇野菜園事件東京高裁の損失補償契約に対する違法判断は、以下の点をポイント
としている。
3.1 損失補償契約の違法性
第 1 のポイントは、損失補償契約を一定の要件の下で財政援助制限法 3 条の類推適
用から違法としたことである。東京高裁は、損失補償契約の中でもその契約の内容が
主債務者に対する執行不能等現実に回収が望めないことを要件とすることなく、一定
期間の履行遅滞が発生したとして責任を負う内容の場合、財政援助制限法 3 条が類推
適用され、その規制が及ぶと解するのが相当であるとした。その上で、本件の民間金
融機関三社との本損失補償契約については、うち一社の契約は保証契約と異ならない
内容であり、他二社との契約は保証契約とほとんど異ならない内容であるため、財政
援助制限法 3 条が類推適用され、同条違反であるとしたのである。
第 2 のポイントは、財政援助制限法 3 条を効力規定としたことである。東京高裁は、
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損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
財政援助制限法 3 条は単なる手続き規定、訓示規定ではなく効力規定であり、同条に
違反して締結された損失補償契約は原則として私法上も無効とした。これに基づき、
地方自治体の未払い段階にある損失補償金の差し止めを認めた初めての判決となった。
本判決によって損失補償契約に対しては、財政援助制限法3条の趣旨を没却していな
いと認められる特別の事情がない限り、住民訴訟による差止め請求が認められる可能
性が高まったことになる。財政援助制限法3条の趣旨を没却していないと認められる
特別の事情とは何か。それは、対象事業が損失補償契約を締結してまで実施すべき公
益性の必要性に高いこと、相手方の金融機関も公益性の必要性を認識し協力し契約を
締結していること、保証契約と同様の機能を果たす内容とは異なることなどが要件と
なる。本要件の核をなす公益性の判断においては、諸般の事情を総合的・合理的に勘
案して決定する地方自治体の裁量権を前提としており、地方自治体の首長に逸脱・濫
用の権限行使がなかったか否かが判断材料とされ、具体的には当該支出を決定した判
断に著しい不合理性又は不公平性があるか否かなどがポイントとなる。
第 3 のポイントは、一般法理としての信義則の援用を認めたことである。損失補償
契約の相手方である金融機関が地方自治体に対して履行請求するに際して一般法理と
しての信義則援用は禁じられるものではないとした。それは、関係金融機関は別途、
損失補償契約の履行請求訴訟を起こし、安曇野市が信義則上、損失補償契約の無効を
主張しえない事情を主張して勝訴し、金融機関側は強制執行の方法で損失補償金を得
ることが可能としたのである。すなわち、地方自治体が損失補償契約を無効と主張す
ることが社会通念上著しく妥当性を欠くと評価される場合には、金融機関側に信義則
上無効を主張することはできず、金融機関は地方自治体に履行を求めることができ、
その際は強制執行の方法によるべきとした。裁判所によって支払いが差し止められた
未払い損失補償金の支払いについて信義則に基づき請求する具体的方法を提示した面
でも初めての判決となった。なお、信義則上、無効を主張できない要件は、前述した
財政援助制限法3条に没却しない要件に準ずる内容となっている。
前述したように安曇野菜園事件東京高裁判決は財政援助制限法3条を効力規定とし
て、本条に違反した損失補償契約は無効としている。財政援助制限法は、そもそも戦
前の財政が特殊会社のために債務保証を行い巨額の負担を抱え込むに至った経験から
これを原則禁止し、国や地方自治体が不確定な債務負担によって債務が累増すること
を防止する意図で制定された。財政援助制限法による制限を損失補償契約に類推適用
する根拠も、この潜在的債務拡大圧力を回避し財政の健全性を確保することにある。
とくに、損失補償契約が付従性、補充性を有せず求償代位の当然性がないことから保
証契約よりも重い法的責任を地方自治体が負うことへの認識が重要となる。この面か
ら財政援助制限法の規制を潜脱する結果となる。なお、政策的に見た場合、財政援助
制限法の原則に対して国家財政においては独立行政法人、株式会社日本政策投資銀行
等多くの法人に対して個別法で保証契約禁止の事項を解除している。これに対して、
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年報 公共政策学
Vol. 6
地方財政の場合は地方道路公社法などごく例外的に解除されているに過ぎない。この
解除に関する国と地方自治体の違いに正当性があるか否かも政策的適正性を判断する
要素のひとつとなる。その場合、公益性と同時に解除対象としている法人へのガバナ
ンスの度合い・形態に留意する必要がある。国が個別法で解除している法人の多くは
独立行政法人、そして国が実質的な支配権を有する法人となっている。国の実質的な
支配権によって強い統治が期待できる組織体でその業務に公益性がある場合、財政援
助制限法が懸念する債務負担累積による財政悪化の危険性は小さくなることが期待で
きる。しかし、地方自治体の出資・出えんによる第三セクター等のガバナンスの度合
い・形態は多種多様であり国の独立行政法人等と同列に判断することはできない点に
留意しなければならない。また、地方財務の実務として損失補償契約の有効性につい
ては、住民訴訟等への対応を考えると訴訟によって裁判所の判断を得ることが最も確
実な手法である。しかし、これによれない事情がある場合、住民訴訟のリスクは残る
ものの、特定調停等を選択することが考えられる。
3.2 任意履行の要件と住民訴訟差し止め請求
損失補償契約に関する訴訟の多くは、情報公開が充実したことを背景とした住民監
査請求とそれに続く住民訴訟の活発化にある。安曇野菜園事件も住民訴訟によるもの
であり地方財務において住民訴訟にどう対応するかは重要な課題となっている。その
対応においては、住民訴訟を単に回避する姿勢ではなく、住民訴訟が提起された場合
においても十分な説明責任を果たせる理論形式によって対処する体制を地方自治体と
しても形成しておくことが求められている。安曇野菜園事件東京高裁判決は、地方自
治体の金融機関に対する履行の差し止めを認めている。本判決で地方自治体が損失補
償契約について任意履行を行う場合、その支出に対して差し止め訴訟が提起され認め
られる余地が拡大したことを意味する。このため、地方自治体が損失補償契約に基づ
いて任意履行する際には、
「財政援助制限法3条の趣旨を没却していない特別な事情の
要件」を満たしているか否かについて十分に精査する必要があるとした。没却してい
ない特別な事情の要件は、①事業としての公益上の必要性、②公益上の必要性への金
融機関の協力の有無、③保証契約と異なる機能であること、④金融機関側に財政援助
制限法違法への認識がないこと、である。①事業としての公益上の必要性については、
すでに整理したように地方自治体の首長の裁量権の問題であり、その裁量権について
逸脱・濫用がなかったか、逸脱・濫用については手続きの正統性や内容に関する合理
性等が判断の要件となる。なお、従来の事業について公益性が認められても、第三セ
クター等について何らかの財政負担を行い債務圧縮や追加支出等により存続させた場
合、新たに存続させたことに対する意思決定時点での公益性の判断が問われる。②公
益上の必要性への金融機関の協力の有無については、第一義的には①の事業自体の公
益上の必要性が判断前提となり、その上で金融機関としての営業姿勢、審査姿勢等が
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損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
判断材料となる。③保証契約とは同様の機能を果たしていないことについては、まず
契約内容として、保証契約が持つ付従性、補充性、そして主債務と同一の責任を負い、
主債務の不存在・無効・取り消し等の場合には保証人も責任を負わない旨の内容か否
かが判断のポイントとなる。損失補償契約は、債権者に損失が発生した場合には主債
務から独立して損失を補てんする内容であり、主債務が何らかの要件で無効等になっ
ても損失補償契約者は責任を負う。加えて、損失補償契約では主債務が期限内に履行
しないことだけでなく、倒産等現実に債権回収ができない状況となって発生した損失
をも対象とするといった性格がある。こうした性格を踏まえ、純粋な損失補償契約に
該当するのか、それとも保証契約類似契約なのか、財政援助制限法の規制を潜脱して
いないか等を判断することになる。たとえば、実務面では対象第三セクターが破綻を
した場合、損失補償契約を締結した金融機関が地方自治体に直ちに履行請求した場合、
その行為をもって保証契約との類似性を自ら認めたとする解釈も成り立つ余地がある。
なお、さらに留意すべき点として挙げられるのは、地方自治体内における手続きの適
正性、地方自治体に対する金融機関の融資姿勢、返済請求姿勢等契約内容外の事情に
も目を向けることである。④財政援助制限法違反に対する金融機関側の認識がないこ
とについては、司法判断で整理した横浜地裁判決(川崎市 KCT 損失補償に関する損
害賠償請求権行使請求事件判決)がひとつのポイントとなる。前述したように市長個
人に対する損害賠償責任については、①損失補償契約が保証契約とは異なるとする行
政解釈が広く受け入れられていたこと、②裁判例も適法としていたことなどから故
意・過失はないとし否定している。これを踏まえると当該判決以前の契約については
違法性の認識が困難であるとの判断も可能である。しかし、それ以降に行われた契約、
契約変更等については違法性に対する認識がより強く問われる。
なお、安曇野菜園事件東京高裁判決は、損失補償契約の相手方である金融機関が地
方自治体に対して履行請求するに際して一般法理としての信義則援用は禁じられるも
のではないとした。すなわち、地方自治体が損失補償契約を無効と主張することが社
会通念上著しく妥当性を欠くと評価される場合には、金融機関側に信義則上無効を主
張することはできず、金融機関は地方自治体に履行を求めることができる。この信義
則上の無効を主張できない要件としては、没却していない特別な事情の要件である①
②④が提示されており同要件の判断基準が参考となる。
3.3 任意履行における損失額確定
以上の要件に基づき任意履行する場合、最終的に課題となるのが任意履行額の確定
である。この確定を不明確に行えば、そのこと自体が過大な住民負担の原因となり、
住民訴訟の対象となりうる。そのため、もっとも明確な確定となるのは法的な確定で
あり、破産手続きに基づく配当額の確定、民事再生手続きにおける再生計画に基づく
弁済額の確定等であり、同時に金融機関側の最終損失額の確定を意味することになる。
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年報 公共政策学
Vol. 6
損失額の確定は本来、慎重な法手続きと時間を要する課題であるが、まず法手続きを
経ることが優先されるべきであり、それが時間的要因等で厳しい場合、損失額確定に
対して法的手続きに代わる専門的判断を経る必要がある。なお、第三セクターについ
て法的処理を行う場合、議会の議決が必要となることから議会審議による第三セクタ
ーの破綻等の情報が公開された際に、金融機関が当該第三セクターの口座出金停止等
の措置を講じる可能性があることにも留意しなければならない。
4. 金融機関に与える影響の認識
安曇野菜園事件東京高裁の損失補償契約違法判決が金融機関側の行動に与える主な
影響についても検証しておく必要がある。それは、地方財政と金融の関係そして地方
債制度にも関連する問題だからである。加えて、地方債の信頼性に関する問題が金融
を通じて地方財政の実務運営に如何なる影響を与えるかも検証する必要がある。
4.1 資産査定
金融監督では金融機関が保有する個別資産を検討して、回収の危険性または毀損の
危険性の度合いに従って、その危険性がない資産である「非分類(Ⅰ分類)」から回
収不可能または無価値と判断される資産である「Ⅳ分類」まで四段階に資産分類して
いる。この資産分類は債務者ごとに行われ、債務者は財務内容、資金繰り等の実態で
正常先から破綻先まで 5 区分に分けており、以上の債務者区分、資産分類は貸倒引当
金計上の前提となるプロセスとなっている。このため、貸倒引当金は、以上の資産査
定に基づき一般貸倒引当金と破綻先債権に係る個別貸倒引当金の計上が行われる。こ
うした資産査定の中で損失補償契約について行政解釈上、財政援助制限法3条の規定
外としてきたことなどから、回収の危険性または価値の毀損の危険性がなく個別貸倒
引当金を計上する必要のない資産であり、これまでの金融検査マニュアルにおいても
履行の確実性が極めて高い優良保証と位置づけることがほとんどであった。債務者区
分も地方自治体の出資・出えんが行われ財務状況がある程度良好であれば正常先に区
分する場合が多く、損失補償契約付きの第三セクター向け融資のリスク・ウェートは
ゼロとしてカウントしてきた。
しかし、損失補償契約が無効等最高裁で安曇野菜園事件東京高裁判決に基づくと優
良保証等として扱うことは困難となり、都市銀行、地方銀行を問わず金融機関経営に
大きな影響を与える。損失補償契約が無効となると、同契約は貸出金回収に当たって
保全措置とはならないため、優良保証等の取り扱いが困難となり資産分類の非分類の
見直しが必要となると同時に、回収の危険性等の観点から債務者区分についても見直
しを要することになる。具体的には、第三セクター事業の継続性、収益性、財務内容、
資金繰り等を地方自治体の支援がないことを前提に勘案し評価する。そして、債務者
区分も回収危険性が高く、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先となれば個別貸倒引当金
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損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
計上となり、実質破綻先、破綻先となれば全額貸倒引当計上ないし全額直接償却とな
り金融機関経営にも影響を与える。
4.2 信義則準用の実効性
安曇野菜園事件東京高裁判決では前述した信義則準用についてみれば、本案件につ
いて過去の判例、行政実例、損失補償契約に対する議会議決の有無のみでは信義則に
反するか否かは不明であるとしている。前述した①当該契約を締結する公益上の必要
性、②当該金融機関が公益上の必要性に協力して契約を締結していること、③契約当
時の諸般の事情から当該金融機関に違法性の認識がない等の判断については、損失補
償契約に依存することなく当該事業の継続性・収益性等に甘い判断をしていない等金
融機関の第三セクター融資に対する審査内容の厳格性、損失補償契約も含め当該事業
及び融資を金融機関側から積極的に働きかけているか否か、事業適否の判断の前提と
なる経営に関する見通し等業績計画について誰が実質的に作成し如何に共有したか、
事業の下振れリスクについて如何に認識し共有していたか等が重要となる。
また、同東京高裁判決では信義則準用において履行請求訴訟に勝訴しても金融機関
は強制執行を行わなければならず差止め判決の拘束力による地方自治体の任意履行は
許されていない。このことは、当該地方自治体と密接な関係がある指定金融機関や地
域金融機関にとって当該地方自治体の財産に対する強制執行、公金預かり金との相殺
等は地域との軋轢が強くその覚悟が必要となる。和解や民事上の損害賠償請求等の手
段の選択も可能なものの、金額的妥協の問題等困難性も多い。
5. 三セク改革債の活用
損失補償契約の有効性問題は、三セク改革債を通じた第三セクター等外郭団体改革
に密接な関係を有する。経営が著しく悪化した第三セクター等については、単純に損
失補償契約に依存して継続するのではなく、当該事業の存在意義の有無などを抜本的
に見直し、負債の削減や清算等を伴う第三セクターの整理を行うことが、将来も含め
た住民の負担やリスクを軽減し地方財政そして地域政策の健全性、適切性を確保でき
るとする政策判断が必要となる。しかし、抜本的見直しの対象となる第三セクター等
の経営状況は悪く、損失補償契約の履行等で一時的に地方財政に大きな負担をかける
ことが避けられない場合が多い。財政収支の悪化等一時的な負担を行うことが難しい
場合、第三セクター等の整理を見送ってきた地方自治体も少なくない。こうした状況
を克服するため第三セクター改革に必要となる一定の経費について地方債発行を認め、
地方財政法の改正で一定期間に集中して処理するため2009年度に創設された制度が三
セク改革債である。三セク改革債は、公営企業の廃止、地方道路公社または土地開発
公社の解散や業務の一部廃止、第三セクター及び地方住宅供給公社の解散または事業
再生を対象として発行される。具体的には、第三セクターと地方住宅供給公社につい
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年報 公共政策学
Vol. 6
ては地方自治体が損失補償及び資金貸付を行っている法人に限定し、当該法人の破産、
特別清算、再生及び更生の各手続き、一般に公表されている債務処理の為の準則等に
基づく私的整理に必要となる損失補償及び短期貸付の整理に要する経費となっている。
この経費は、有効な損失補償契約の履行義務に基づくものであり、三セク改革債創設
以降に増額した損失補償額等は対象としない。なお、土地開発公社、地方道路公社は、
債務保証、損失補償を行っている借入金の償還と短期借入金の整理に要する経費を対
象としている。
この三セク改革債を活用するには、第 1 に適法・有効な損失補償契約の存在が必要
となる。この点に関して安曇野菜園事件東京高裁判決は大きな影響を与え、次にみる
最高裁の破棄自判では三セク改革推進への配慮が指摘されるに至っている。第 2 に
2013年度までに「起こす」ことである。この「起こす」ことを如何に解釈するかであ
る。三セク改革債を活用する場合、まず議会の起債に関する議決を経たうえで総務大
臣等の許可を得る必要がある。この一連の手続きを住民訴訟を意識した上で、法的な
損失額確定を経て行うことになれば事実上時間が不足することは避けられない。仮に、
損失額確定について法的手続きを経ず任意に行えば、住民監査請求から住民訴訟のリ
スクが拡大する。一方で時間制約を理由に三セク改革債活用を断念すれば、一時期に
巨額の財政負担が生じるため地方自治体として負担することが困難となり、三セク整
理の取り組みもとん挫しかねない。このため、三セク改革債を安曇野菜園事件東京高
裁判決を踏まえ実効性のある制度として維持するには、2013年度までに「起こす」を
当該年度の歳入に計上した上で繰り越し可能とするなどの実務的対処が必要となる。
なお、三セク改革債を認めた地方財政法改正に関する法的趣旨について、財政健全化
に向けて有効・適法な損失補償契約を対象とするものの、改正後地方財政法が起債に
よる損失補償の履行を認めていることから少なくとも有効な損失補償契約であれば適
法判断を別として当該公金の支払いは差し止め対象とならないと考えることも可能で
あり精査を必要とする点である。
6. 最高裁判決
これまで検証してきた損失補償契約を違法とした安曇野菜園事件東京高裁判決は最
高裁判決(2011.10.27)によって破棄自判となり基本的に損失補償契約を適法とする
判断が示された。これにより、損失補償契約で定められた内容で地方自治体が支払い
を行ってもそれ自体は違法とならず、一方で地方自治体側は損失補償契約の違法を根
拠とする債務圧縮等を行うことが難しくなった。最高裁判決は損失補償契約について、
財政援助制限法3条の類推適用により直ちに違法、無効となる場合があると解するこ
とは、公法上の規制法規としての当該規定の性質、地方自治法等における保証と損失
補償の法文上の区別を踏まえた当該規定の文言の文理、保証と損失補償を各別に規律
の対象とする財政援助制限法及び地方財政法など関係法律の立法又は改正の経緯、地
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損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
方自治の本旨に沿った議会による公益性の審査の意義及び性格、同条ただし書所定の
総務大臣の指定の要否を含む当該規定の適用範囲の明確性の要請等に照らすと、相当
ではないと判断した。その上で、損失補償契約の適法性及び有効性は、地方自治法
232条の2の規定の趣旨等に鑑み、当該契約の締結に係る公益上の必要性に関する当該
地方公共団体の執行機関の判断にその裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったか否
かによって決するべきとしている。また、裁判官宮川光治氏は補足意見の中で地方財
政法33条の 5 の 7 第 1 項 4 号が創設され、地方公共団体が負担する必要のある損失補
償に係る経費等を対象とする地方債(改革推進債)の発行が平成25年度までの時限付
きで認められるなど、その改革作業も地方公共団体の金融機関に対する損失補償が財
政援助制限法3条の趣旨に反しないことが前提となっているとし、三セク改革債を活
用した第三セクター等外郭団体改革の政策的取り組みに対しても配慮する姿勢を示し
ている。この問題の判断に当たっては、法的安定性・取引の安全とともに上記の改革
作業の進捗に対し配慮することも必要としたのである。
さらに、財政援助制限法 3 条は、戦前の特殊会社に対する債務保証により国庫が膨
大な負担を招いたという反省から、「未必の債務」や「不確定の債務」の負担を制限
するため、保証(民法446条以下)という契約類型に限って、政府又は地方公共団体
が会社その他の法人の債務を負うことを禁止する規定と理解すべきであり、立法者が
保証と損失補償を区別していたことは、財政援助制限法制定の翌年である昭和22年に
制定された地方自治法199条 7 項が監査委員の監査権限の対象として前段で損失補償
を掲げ、後段で保証を掲げ、同法221条 3 項では普通地方公共団体の長が調査等をす
ることができる債務を負担している法人について保証と損失補償を掲げていること等
からも明瞭であるともしている。加えて、損失補償契約は、附従性や補充性がなく当
然には求償や代位ができないため保証責任よりも責任が過重になる場合があり得るが、
保証債務は主債務と同一性を有するので利息・違約金・損害賠償債務等を含むが、損
失補償契約では損失負担の範囲を限定することは可能であり、損失補償契約について
同条の規定を類推適用することは、同条本文による禁止の有無に係る実体的観点から
の問題があるほか、同条ただし書所定の総務大臣の指定の要否に係る手続的観点から
も、同条の適用範囲について明確性を欠く問題点を指摘し、基本的には地域における
政策決定とそこにおける経済的活動に関する事柄は、地方議会が個別にチェックする
べきであり、金融機関もそれを信頼して行動していることから保証以外の債務負担行
為をどこまで規制するかは、そうした地方自治の本旨を踏まえた立法政策の問題であ
るとした。
以上の最高裁判決に対する政策思考的側面からの注目点は、第一に三セク改革債に
よる第三セクター等外郭団体改革への政策的配慮を示していることである。この点は
三セク改革債の発行に関して、2003年12月12日付総務省自治財政局長通知「第三セク
ターに関する指針の改定」の内容では損失補償契約を有効とする前提をとりつつ原則
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年報 公共政策学
Vol. 6
として行わない趣旨が提示されていることを踏まえれば、最高裁判決によって過去の
損失補償契約に基づく債務処理を進めるため同契約の法的安定性と適法性を前提とし
つつも、地方財政の規律面から将来に向けての損失補償契約は「未必の債務」や「不
確定の債務」の負担を拡大させる危険性からその問題点を重く認識する必要がある。
第二は地方議会の責任の重要性である。地域における政策決定とそこにおける経済
的活動に関する事柄は、地方議会が個別にチェックするべきであり、金融機関もそれ
を信頼して行動していることを重視することは同時に、地方議会での個別チェックの
プロセスの透明性とそれに伴う説明責任を明確にしていくことが政策思考的に求めら
れる。地方財政の「未必の債務」や「不確定の債務」の負担の回避、そして地方財政
と金融の信頼関係確保において根底的要素となるからである。
7. 神戸市外郭団体改革
以上、2010~2011年にかけての損失補償契約を巡る東京高裁そして最高裁の判決を
整理・検証したが、この間、一連の判決を踏まえつつ三セク改革債活用による第三セ
クター等外郭団体改革に取り組んだ神戸市の事例を同市外郭団体あり方検討委員会
(委員長:筆者)の議論を検証しつつ実務的課題を整理する。なお、2011年秋以降の
議会で第三セクター等外郭団体の見直しを表明する地方自治体が増加をしている。そ
の背景には、第1に今年春の統一地方選挙を経て政治的に大きな見直し政策の提示が
可能な時期に入ったこと、第2に地方財政法で時限的に発行が認められている三セク
ター改革債の発行期限が2013年度中であり、実務的な面から時間的制約が強まってい
ることがある。こうした外郭団体見直しの中で神戸市の取組みは、法律面・政策面を
問わず他の地方自治体の検討のリーディングケースとなる事例である。以下では、
2011年 9 月に方向性を明確に打ち出した神戸市の取り組みに焦点をおき、地方財政が
金融、司法との関係で抱える実務的課題について整理する。
7.1 住宅供給公社の清算
7.1.1 背景と現状
神戸市は、住宅供給公社、舞子ビラ事業、航空貨物ターミナル等多くの外郭団体に
ついて抜本的な見直しを提示した。その中でも住宅供給公社(以下「住公」)につい
ては、2011年 9 月12日の矢田神戸市長の定例記者会見3)で破産解散の選択肢もやむな
しとの判断を明確にしていた。
神戸市の住公は住環境の良好な住宅及び宅地を低価格で供給することで、市民生活
の安定と社会福祉の増進に寄与し市全体の住宅政策の一翼を担うと同時に、阪神淡路
大震災復興に関して「神戸市震災復興住宅整備緊急 3ヵ年計画」に基づき、借上特優
3) 『神戸新聞』2011年 9 月13日朝刊
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損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
賃住宅を供給するなど復興政策に重要な役割も果たしてきた。こうした住公に対する
神戸市の方針決定の前提となった都市計画総局外郭団体あり方検討委員会(以下「あ
り方委」)は、中間取りまとめの形で 9 月 8 日に今後の方向性を提示している。そこ
では、経営の行き詰まりの主因として、多く地方自治体の住宅供給公社が直面した経
済社会の成熟化とデフレ経済の深化に伴うライフスタイルの変化、不動産資産の稼働
率低下と価値下落があるほか、大震災復興対応に伴う負担増大の二点を挙げている。
後者においては、国の特定優良賃貸住宅供給促進事業、すなわち、民間の土地の所有
者等が行政から建設費補助や住宅金融公庫融資等を受けて建設した賃貸住宅を、地方
自治体の外郭団体等管理法人が原則として20年間管理し、中堅所得者層等に対して優
良な賃貸住宅を供給する制度の課題と密接に関連している(以下「借上特融賃事業」)。
借上特融賃事業は入居者にとっては、家賃の一部に一定期間(最長20年間)補助を得て、
所得に応じた適正な家賃負担で良質な住宅に入居できるメリットがある一方で、住環
境の変化、核家族化、デフレによる持ち家志向の拡大による稼働率の低下等による経
営不振、財政負担の拡大のデメリットも目立つ状況となっている。
神戸市住公は2010年度末で債務超過額約22億円、金融機関等からの借入金残高が約
433億円となり、うち109億円余は分譲事業の評価損処理にかかるものである。また事
業損益では借上特優賃事業が、年間 4 億円以上の赤字を計上している。今後の収支見
込を一定の条件の下で試算を行った結果、2011年度以降は特優賃の空家率上昇などの
影響から利益確保が困難なことに加え、賃貸事業等に対する金融機関の借入金償還
(毎年度約10億円)が2010年度から本格化しその年度末資金の借入が不可能な場合は
2011年度末に資金不足が生じる見込みとなる。仮に年度末資金の借入が可能となって
も、分譲事業に対する金融機関からの借入金(約55億円)の償還期限が2014年 3 月で
あり、それに見合った分譲資産の売却は地価の下落等により困難な状況であることか
ら2013年度末には資金不足に陥ることが避けられない。現在の住公の収支構造が賃貸
住宅事業に依拠するため、収入に比して借入金返済の負担が余りにも大きく、収支赤
字の大きな要因である借上特優賃事業が2018年度に終了しても収支は好転せず厳しい
状態が続く。このため、三セク改革債活用により財務状況が立ちいかなくなる前に適
切な処理を行うことが必要となっている。
7.1.2 選択肢の検証
あり方委は住公の今後の選択肢として、公社存続として①支援継続案、②特定調停
案、③民事再生案、公社清算として④自主解散案、⑤破産案の5つの選択肢に分け検
討を進めている。その検討と主な課題は次のとおりとなる。
①支援継続案は、分譲資産の売却損処理や借上特優賃にかかる赤字補てんのほか
2036年度まで資金不足の補てんを神戸市が続ける案であり、今後20年以上財政支援が
不可欠なことから継続的な財政負担が可能かどうか神戸市財政全体の視点からの判断
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年報 公共政策学
Vol. 6
が不可欠となる。また、事業を継続する案であり、今後の社会情勢の変化による二次
破綻リスク(連帯債務の現実化、空室率の上昇、借入金の金利上昇、大規模修繕の必
要性等々)が残され将来リスクを抱えることになる。
②特定調停案は調停により債務の減額を図り、その債務について神戸市が損失補償
を実行することにより、住公の銀行借入金を神戸市からの貸付金で肩代わりする案で
ある。この案は法的整理であるものの、あくまでも当事者間の合意が前提であり、民
事再生案や破産案に比べるとプロセスの透明性は低い。また、北海道、千葉県、長崎
県の各住宅供給公社における特定調停の事例を見ても、住宅金融支援機構は法的解釈
として債務の圧縮には応じられない制約があるとして返済期間の長期化や金利の引き
下げによる対応に限っており、財政負担の軽減に取り組むことが困難である。
但し、例えば損失補償における遅延損害金相当分のカットなど相手方を特定した部
分的な財政負担軽減に取り組む手法としては有効な場合がある。また、民間金融機関
とは損失補償契約を締結しているため債務の圧縮に応じる余地は少なく、結果として
この案のメリットは、神戸市の損失補償実行によって有利子負債を圧縮することに限
られると共に、二次破綻のリスクは残る構図になる。
③民事再生案は申立に伴い損失補償を実行し10年間の再生期間終結時に資産を売却
し住公を清算する案である。10年間、住公を延命させる使命が何なのか、というそも
そもの理由が見出しにくい。本民事再生案に関しては、神戸市が2009年度に実施した
住公のデューデリジェンス 4)で10年間の再生期間終結時に、資産を売却し住宅供給公
社を清算する他、再生期間終結後も住公を事業継続していくシナリオが検討されてい
る。資産売却を行わない後者は配当率が低く民事再生計画が認可される見込みがなく、
清算を前提とする案として検討している経緯がある。民事再生計画の案の可決には、
債権額、債権者数ベースのそれぞれの過半数の同意が必要であり困難性を伴うことも
重要な課題となる。
④自主解散案は借入金の全額返済のほか、債権債務関係を整理するとともに資産売
却、事業整理を行い、神戸市会の議決を経た上で国土交通大臣の認可を経て公社を清
算する案である。この案の場合、国土交通大臣の解散認可を得るためには債権債務関
係を整理する必要があるが、住宅金融支援機構に対する連帯債務を神戸市等が引き継
がないとすると、関係者の同意が得られていないとして認可されない状況も想定され
ること、任意手続であるため三セク債の発行はできないが、財源措置が出来るのであ
れば、入居者等への影響が少ないため、本自主解散案は十分選択肢になり得ること、
などがポイントとなる。但し、住宅金融支援機構や民間金融機関からの借入金をまと
めて弁済するため、多額の財政資金の確保が必要であり、そのための手法として神戸
市の基金の利用(繰替運用)が考えられる。
4) 『神戸市住宅供給公社経営改善に関するデューデリジェンス業務最終報告書』2009.11.30。
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損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
図表 市民負担見込み額の比較
所要経費
内
容
支援継続案
約240億円
分譲資産の売却損処理や借上特優賃にかかる赤字補てん
特定調停案
約260億円
損失補償を実行することにより、公社の銀行借入金を神
のほか、平成48年度まで資金不足の補てんを続ける。
戸市からの貸付金に肩代わりする。
民事再生案
約220億円
民事再生の申立に伴い損失補償を実行し、10年間の再生
期間終結時に資産を売却し公社を清算する。
自主解散案
約320億円
借入金の全額返済のほか、債権債務関係を整理するとと
もに資産売却、事業整理を行い、市会の議決を経た上で
国土交通大臣の認可を経て公社を清算する。
破
産
案
約240億円
破産法の手続きにより公社を清算する。その中で、損失
補償を実行する。
(注)特定調停案、民事再生案、破産案については、第三セクター等改革推進債を活用することができる。
(資料)神戸市都市計画総局外郭団体あり方検討委員会『中間まとめ』2011年 9 月 8 日。
⑤破産案は、破産法の手続きにより住公を清算しその中で、損失補償を実行する案
である。破産案は対外的に影響の強い手法であり、「破産団体」というレッテルを貼
られることによる影響、神戸市債の格付けや、他の外郭団体への融資条件の引き上げ
など、神戸市行財政の広範囲に影響が出る可能性があることに留意する必要がある。
また、入居者や借上特優賃オーナー等に影響が及ぶため、その影響を緩和させる事前
措置が不可欠である。具体的には、住公資産の事前移動(任意売却)をすることで入
居者の保護を図るなど、住宅金融支援機構(抵当権者)や民間金融機関の同意は必要
なものの対応を徹底することで自主解散案とのギャップは埋めることができる。また、
三セク改革債発行による損失補償の実行を選んだ場合、2013年度までの発行期限に間
に合う必要がある。なお、以上の各案における市民負担見込み額は図表のとおりであ
る。
7.2 選択肢の検証の視点と結論
以上の選択肢に関し、市民の将来負担・リスクの最小化を図り、神戸市行財政の持
続性を確保しつつ公共サービスの充実を図ることを目的に清算選択の面から優先順位
の検証を行う必要がある。外郭団体改革する際に、まず採算性と事業性と政策性に分
けて判定することが基本となる。住公に関しては過去の債務を含めた場合、自立した
採算性は認められない。この点は、過去投入した財政資金の整理を積極的に行い、市
民の将来負担・リスクを最小化する方策を早急に実施しなければならない段階にある
ことを意味する。事業性については民営化などの事業モデルも含めて大胆な組織改革
- 89 -
年報 公共政策学
Vol. 6
をすれば一部において持続的経営が可能であると判断できる。また、資金収支が短期
借入で賄われており、対応策の選択によっては過去の債務を切り離すことは可能でも
それだけで採算性を持続的に回復させることは非常に難しい。また採算性の回復は、
将来に向けた持続的事業性を担保するものではない。このため、持続的事業性が回復
しない以上、単なる組織整理ではなく基本的枠組みの抜本的な見直しを図る手立てが
必要となる。
さらに、住公の場合は、公的賃貸住宅を運営していること、地域の幅広い住環境に
関するインフラ的機能を果たしてきたことなどに鑑み、提供サービス等の一定の持続
性確保への配慮が必要となる。多数の住宅を政策的に供給してきた経緯を考えれば、
抜本的組織見直しに先立ち事業・資産を他の組織に移し替えることで関係者、入居者
への影響を最小限に抑える必要がある。このため、具体的には一般賃貸住宅等資産の
事前売却は、入居者等の混乱を防ぐ意味でも着実に進めることが重要となる。但し、
抵当権者などの同意を得ない限り、事前売却は困難であるため、金融機関との協議に
おいて理解を得ることが前提となる。また、売却にあたっては、債権者取消権や否認
権の行使を招来しないように留意する必要がある。借入額が資産価値を上回るオーバ
ーローン物件は抵当権者等の同意を得るのは困難であるが、破産や解散による換価処
分に比して事前売却の方が高額で売却される可能性が高いため、経済合理性の点から
同意を求めることが重要である。
一方で住公は迅速な阪神淡路大震災からの復興事業を担っており、その役割に応え
借上特優賃オーナーを保護するために、神戸市あるいは他の外郭団体で政策的に借上
契約を引き継ぐ課題が発生する。住公が負っている連帯債務は、借上特優賃等のオー
ナーの住宅金融支援機構に対する債務と同一内容の債務を連帯して負担するものであ
る。特優賃等の管理期間が20年間であるのに対し、連帯債務は融資期間である35年間
で設定されており、管理期間終了後も15年間にわたり、一般民間マンションとなった
借上特優賃等に関して連帯債務を負うという歪な関係に立たされている。住宅金融支
援機構は、公社の解散(破産)により、借上特優賃等のオーナーの期限の利益を喪失
させて、融資の残債務を一括して弁済するよう請求できる。このため、オーナーの保
護を図るには、住公から住宅金融支援機構に対してオーナーへの繰上弁済請求をしな
いよう働きかける必要がある。
債務処理に関する三セク改革債の発行は、多額の経費を起債によりまかない一時的
な神戸市財政への多額の負担を回避すると同時に10年以上の長期間にわたって分割償
還することで、年度ごとの市の負担額を平準化することが可能となる。その結果、他
の市政への財政的な影響を低く抑えることに繋がるため、神戸市にとっては財源調達
の点で、神戸市民にとっては市民サービスの維持の点で大きな制約要因とせずに済む
利点がある。
以上の個別の整理から、①入居者保護、震災復興に寄与してきた借上特優賃オーナ
- 90 -
損失補償契約、三セク債に関する政策的思考による課題検証
ー等の関係者への配慮をできる限り前倒しで行うこと、②住宅供給公社の事業のうち
まちづくり等公共性、政策性の面から今後も継続する必要性がある業務については、
神戸市及びその他の外郭団体が継承すること、③①の先行的実施と②を前提として必
要な公共サービスは維持しつつ、住宅供給公社を法的整理により解散し神戸市民の将
来負担・リスクを最小化する選択肢を優先すべきと結論づけることが可能となる。
8. まとめ
損失補償契約は最高裁判決により基本的に適法とされ、損失補償契約に基づく債務
処理を三セク改革債活用により地方自治体が処理するスキームが政策的にも維持され
た。この点は法的安定性と共に第三セクター等外郭団体改革の政策遂行面への配慮か
ら根拠づけられている。一方で、将来に向けた地方財政の運営においては、損失補償
契約や類似的措置である免責的債務引受は「未必の債務」や「不確定の債務」負担を
拡大させる要因となる。この意味から損失補償契約等に対する立法上の措置による明
確化は地方財政への健全性確保の点から重要な課題であり、その意味から安曇野菜園
事件東京高裁判決が財政・金融、そして住民訴訟等に与える影響の検証は重要となる。
消費税、地方消費税等の増税議論が展開される中で国と地方の財政関係だけでなく、
財政と金融の関係も少子高齢化とグローバル化の構造的変化に直面している今、将来
に向けて見直す時を迎えている。
参 考 文 献
赤川彰彦(2011)『土地開発公社の実態分析と今後の展開』東洋経済新報社。
河村小百合(2010)「「安曇野判決」にみる損失補償契約の今後の取り扱い」、金融財政事情
研究会『金融財政事情』2010.11.8、pp29-33。
総務省(2011)『第三セクター等の状況に関する調査結果』。
中野祐介(2011)「第三セクター等の債務の状況と自治体財政運営上の課題」、金融財政事情
研究会『金融法務事情』№1913、pp18-26。
浜中善彦(2010)「損失補償における自治体と金融機関の責任分担」、金融財政事情研究会
『金融法務事情』№1907、pp48-49。
三上
徹(2010)「地方公共団体の損失補償契約無効とする判決の実務への影響」、金融財政
事情研究会『金融法務事情』№1907、pp50-53。
宮脇淳編著(2009)『自治体戦略の思考と財政健全化』ぎょうせい。
宮脇淳編著(2010)『第三セクターの経営改善と事業整理』学陽書房
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年報 公共政策学
Vol. 6
“Political verification of the compensation to the
financial institution by local public finance”
MIYAWAKI Atsushi
Abstract
As a big problem about local public finance, there is a problem of the legal validity of the
compensation to the bank relevant to an affiliated organization. The consideration to this
problem is important in order to maintain the soundness of local public finance. In addition,
this consideration is important also in order to liquidate the past accumulated debt. In this
paper, I verify the legal judgment about the validity of compensation concretely. Moreover, I
verify the problem to compensation by a policy theory. This problem relates also to the policy
decision function of the Parliament of local autonomy. Thereby, I consider the practical
problem of public finances and a bank, and management of the future of local public finance.
Keywords
the local finance,
the local autonomy,
the compensation,
the accumulated debt.
- 92 -
the affiliated organization,
医療扶助の現状と課題
医療扶助の現状と課題*
-北海道伊達市のレセプト分析からのアプローチ-
石井
吉春**
1. はじめに
急速な高齢化の進展に加え、長引く景気低迷などにより、生活保護受給者が 2 百万
人を突破し、そのあり方について様々な論議が生じているが、地方財政の圧迫要因と
しても認識が高まっている。
生活保護費については、扶助費の 4 分の 3 を国が負担するほか、その他についても
標準的な金額が基準財政需要額に算入され、交付税措置される制度設計になっている
が、実態的には、大都市などの財政悪化の主要因となっている。保護費全体で98年度
の1.9兆円が2008年度には3.0兆円へと、1.5倍の増加となっており、10年度はさらに
2 割程度増加しており、3兆7千億円に増加しているものとみられる。
扶助費は2007年度で 2 兆6,175億円となっているが、このうち医療扶助が 1 兆3,071
億円と扶助費全体のほぼ 5 割を占め、最大の支出項目となっている。
こうしたなかで、医療扶助の実態分析はあまり行われてきていないため、医療扶助
の現状や課題について十分な議論がなされておらず、ともすれば義務的経費の増加と
してのみ受け止められてきた。
本研究では、こうした状況を踏まえ、北海道伊達市の協力を得て、医療扶助に係る
直近 1 年間のレセプトデータの提供を受け、これらデータに加え各種の関連統計を用
い、以下のとおり、医療扶助について多面的分析を行うものである。
(1).既存研究では、石井(2008)による政令市・中核市分析を通じて、被保護人員
1 人当たり医療扶助について、被保護人員に占める高齢者比率、入院における
精神病患者比率が最も高い説明力を有してことが示されているが、本研究にお
いては、医療扶助の位置づけを確認した上で、都道府県別データを用いて、医
療扶助の水準がどのような要因によって決定されているかについて検討を行う。
(2).その上で、北海道伊達市のレセプトデータを用いて、全国の医療費データとの
比較などを通じ、伊達市における医療扶助の現況、その問題点を明らかにする
とともに、医療扶助そのものの課題についても検討を試みる。
*
**
本稿は、2011年度の日本地方財政学会における報告をもとに加筆修正したものである。作
成に当たり、同学会で多くの有益なコメントを頂いた。ここに感謝したい。
北海道大学公共政策大学院教授
E-mail:[email protected]
- 93 -
年報 公共政策学
Vol. 6
なお、本研究は前述のとおり、伊達市の協力のもとで生活保護のレセプトデータを
用いて分析を行ったものであるが、厚生労働省が各年度において 1 か月分のレセプト
の一部データを抽出して医療扶助実態調査を行っているものの、傷病状況について13
分類の全国値のみしか開示されていないなど、実態が十分明らかにされておらず、そ
ういた意味からも先鞭をつけるものと考えられる。
2. 医療扶助の位置づけとその決定要因
2.1 生活保護における医療扶助の位置づけ
最初に被保護世帯数、被保護人員の動きについてみていくと、高度成長期などを経
て1952年度から1993年度で、被保護世帯数は△17%、被保護人員は△57%減少してい
るが、その後は増加傾向が顕著になっている。
近年の増加の動きは、成長率の低下と失業率の上昇、高齢者数の増加といった動き
とほぼ連動しており、高齢化の進展に加え、経済環境の変化などが保護率に強く影響
を与えていることを示唆している。
一方、扶助費総額は、57年度の447億円が85年度には 1 兆5,233億円まで増加したが、
その後は減少に転じ、91年度には 1 兆3,098億円まで減少している。その後は再び増
加に転じ、07年度には 2 兆2,613億円となっている。これを種類別にみると、07年度
で医療扶助が 1 兆3,071億円、生活扶助が8,708億円などとなっており、医療扶助が全
体のほぼ 5 割を占める最大の支出項目となっている(被保護人員 1 人当たりの単価は、
医療扶助1,047千円、生活扶助631千円)
。
図1. 被保護世帯、人員などの推移
(資料)厚生労働省「社会福祉行政業務報告」内閣府「国民経済計算年報」総務省「国勢調査」をもとに
作成。
- 94 -
医療扶助の現状と課題
図2. 扶助費における医療扶助の位置づけ
(資料)厚生労働省「社会福祉行政業務報告」をもとに作成。
構成比の経年推移をみると、60年代前半に医療扶助の比率が大きく減少し生活扶助
の比率が上昇しているほか、00年代に入ってからは、介護扶助の導入などもあり、再
び医療扶助の比率が低下している。
次に、被保護人員 1 人当たりの水準についてみていく。扶養費全体では、57年度の
28千円が66年度には100千円となり、75年度には508千円、84年度には1,008千円、99
図3. 家計消費などとの比較による扶助水準
(資料)厚生労働省「社会福祉行政業務報告」内閣府「国民経済計算」総理府「家計調査」などをもとに
作成。
- 95 -
年報 公共政策学
Vol. 6
年度には1,852千円と順次増加しているが、その後は減少傾向に転じており、07年度
には1,696千円になっている。
扶養水準については、84年以降水準均衡方式により決定されているが、制度発足当
初の絶対的な貧困への対処という考え方から、一般国民の生活水準との関連において
捉える、いわゆる相対的貧困基準へと転換している。
その水準について、SNA における家計の最終消費支出や、家計調査における勤労
者世帯消費支出の推移との比較を試みると、90年代後半以降、消費水準が頭打ちある
いは低下を余儀なくされるなかにあって、生活保護の扶助水準がこうした変化に十分
対応していないといった見方が生じている。デフレという特異な環境下における動き
とも言えるが、現行のキャッチアップ型の決定方式に限界が生じているといった見方
もでき、さらなる検証が求められる。
2.2 医療費に占める医療扶助
こうしたなかで、医療扶助は1980年代を除き、ほぼ一貫して増加を続けてきており、
2008年度においては1兆3,561億円に達している。
国民医療費に占める医療扶助の比率をみると、保護率が1952年の23.8パーミルから
1995年の7.0パーミルまで低下を続けた後に、同年をボトムに増加に転じているなか
で、ほぼ連動した動きとなっており、1954年度の10.6%から90年代半ばまで低下傾向
を続けた後に増加基調に転じており、直近では 4 %程度になっている。
次に診療区分別に医療扶助と国民医療費を対比すると、医療扶助は、入院が7,469
億円と全体の55.1%を占め、国民医療費の36.8%を大きく上回っているほか、対全国
比も5.8%と平均より2ポイント程度高くなっている。精神の一定割合を生活保護が担
図4. 医療扶助の推移と国民医療費に占める比率
- 96 -
医療扶助の現状と課題
表1. 診療区分別にみた医療扶助と国民医療費
一
般
診
療
国民医療費
金 額
構成比
128,248
36.8
131,347
37.7
259,595
74.6
入 院
入院外
総 数
歯科診療
薬局調剤
入院時食事等
訪問看護
計
25,777
53,955
8,152
605
348,084
7.4
15.5
2.3
0.2
100.0
金 額
7,469
3,025
10,495
生活保護
構成比
55.1
22.3
77.4
対全国比
5.82
2.30
4.04
488
1,774
765
39
13,561
3.6
13.1
5.6
0.3
100.0
1.89
3.29
9.38
6.45
3.90
(資料)上記 2 図表ともに厚生労働省「国民医療費」などをもとに作成。
っていること、医療費が高額となる入院などが生活保護受給の主要なきっかけになっ
ていることなどが背景要因として考えられる。
2.3 地方財政に占める生活保護費
表 2 が地方財政全体の生活保護費の推移となっているが、保護費全体では2004年度
の2.7兆円が2009年度には3.3兆円へと1.19倍の増加となっている。被保護人員の増加
による影響が大きいものの、被保護人員の伸び(同期間に1.24倍)に対し、生活保護
費の伸びが低くとどまっているため、被保護人員1人当たりの生活保護費は、98年度
の1,918千円から09年度には1,842千円まで低下している。なかでも、人件費などの伸
びが低位にとどまっているが、被保護人員の増加に対応した人員増が行われていない
ことなどが背景要因と考えられ、扶助費が急増するなかで、財政制約が地方公共団体
の活動を制約してきている実情が窺える。
表2. 地方財政全体でみた生活保護費の推移
被保護人員
実
数
増
減
率
2004
2005
2006
2007
2008
2009
05/04
06/05
07/06
08/07
09/08
1,423
1,476
1,514
1,543
1,593
1,764
3.7
2.6
1.9
3.2
10.7
金額
1人当たり金額
生活保護費 扶助費 人件費など 生活保護費 扶助費 人件費など
27,290 25,528
1,762
1,918
1,794
124
28,264 26,364
1,900
1,915
1,786
129
28,683 26,744
1,939
1,895
1,766
128
28,589 26,594
1,995
1,853
1,724
129
29,365 27,449
1,915
1,843
1,723
120
32,501 30,516
1,986
1,842
1,730
113
3.6
3.3
7.9
-0.2
-0.4
4.0
1.5
1.4
2.0
-1.1
-1.1
-0.5
-0.3
-0.6
2.9
-2.2
-2.4
1.0
2.7
3.2
-4.0
-0.5
-0.0
-7.0
10.7
11.2
3.7
-0.0
0.4
-6.4
(資料)総務省「都道府県決算状況調」「市町村決算状況調」、国立社会保障・人口問題研究所「社会保
障統計年報」をもとに作成。
- 97 -
年報 公共政策学
Vol. 6
表3. 人口規模別にみた市における保護費などの動向(07 年度)
団体数
住基人口
被保護
保護率
人員
市町村
5千人未満
千人
1
千人
5
パーミル
0
45.0
生活保護
対歳出
国庫
費
総額比
負担金
地方負担 1人当たり
比率
保護費
億円
%
億円
%
千円
CW数
CW1人当
人員
人
人
5.5
11.4
2.6
52.2
2,590
3
71
85
5千人以上1万人未満
1万人以上3万人未満
60
1,438
16
10.8
286.6
4.1
194.5
32.1
1,841
174
3万人以上5万人未満
192
7,617
58
7.6
1,010.1
3.4
696.2
31.1
1,738
623
79
5万人以上10万人未満
267
18,710
134
7.2
2,348.1
3.7
1,625.5
30.8
1,755
1,279
97
10万人以上30万人未満
190
30,477
301
9.9
5,315.6
5.3
3,721.0
30.0
1,763
2,498
120
30万人以上50万人未満
46
17,757
224
12.6
3,961.8
7.0
2,790.2
29.6
1,771
1,641
136
50万人以上100万人未満
14
9,601
128
13.3
2,329.0
7.0
1,646.3
29.3
1,825
966
132
100万人以上
34
27,665
566
20.5
11,236.8
9.8
7,825.6
30.4
1,984
4,582
124
計
804
113,269
1,427
12.6
26,493.5
6.6
18,502.0
30.2
1,857
11,766
119
(資料)厚生労働省「社会福祉行政業務報告」、総務省「市町村決算状況調」などもとに作成。
因みに、2010年10月の被保護人員数09年度の数字から12%もの増加となっており、
09年度の 1 人当たり保護費を用いて試算すれば、年間の保護費は3.6兆円に達すると
みられ、さらに大きな財政圧迫要因になってきている。
因みに、人口を 9 段階に区分して、一部データの取れない市を除き、2008年度末の
市に統合して07年度の保護率をみると、100万人以上が20.5パーミルと最も保護率が
高く、人口 5 万人以上10万人未満までは規模が小さくなるにつれて低下しているが、
それ以下では規模が小さくなるほど保護率が上昇している。
一方、生活保護費の歳出総額に占める割合は、人口100万人以上で9.8%にまで達し
ているが、保護率の動きと同様の動きとなっている。また、1 人当たり保護費は、級
地設定で大都市の最低生活費の方が高く設定されている一方で、人口規模が小さくな
ると管理費負担が重くなるとみられ、人口100万人以上の1,9841千円が人口 3 万人以
上45 万人未満で1,738千円まで減少した後に、14万人以上 3 万人未満では1,841千円
に増加している。
2.4 医療扶助水準の決定要因
被保護人員 1 人当たり医療扶助額については、石井(2008)による政令市・中核市
分析を通じて、①被保護人員に占める高齢者(65歳以上)比率、②入院における精神
病患者比率を説明変数としたときに、相応の説明力を有するとの分析結果が得られて
いる。
本稿では、データ制約などから都道府県別のデータを用いて、被保護人員1人当た
り医療扶助額を被説明変数とし、高齢者(65歳以上)比率と入院に占める精神病患者
比率を説明変数とする重回帰分析を行った。
その結果をみると、決定係数は0.491365となり、高齢者比率は 1 %有意、入院に占
める精神病患者比率も 5 %有意となっている。因みに、65歳以上人口比率の方が、75
- 98 -
医療扶助の現状と課題
表4. 被保護人員 1 人当たり医療扶助額を説明変数とする重回帰分析の結果
決定係数 R 2
高齢者(65歳以上)人口比率(09年)
0.491365
入院に占める精神病患者比率(09年)
t
P-値
5.479853
0.000002
2.462427
0.017786
歳以上人口比率よりも 1 人当たり医療扶助額との相関関係が強く、上記回帰分析でも
決定係数が高くなっている。
次に、総人口 1 人当たり医療扶助額を被説明変数として、保護率に強く影響を与え
ていると考えられる①全世帯に占める高齢者単身世帯比率、②離婚率、③完全失業率、
医療費水準に影響を与えていると考えられる④人口10万人当たり医師数を被説明変数
として重回帰分析を行うと、決定係数は0.725355となり、①と②は 1 %有意、③と④
は 5 %有意となっている。
因みに、前記石井(2008)では、政令市及び中核市の保護率について、①高齢者単
身世帯比率、②離婚率、③完全失業率を説明変数としたときに、相応の説明力を有す
るとの分析結果が得られている(ただし、③は2000年には 5 %有意となっていなかっ
たものが、2005年には 5 %有意となっており、生活保護受給の実態の変化を表してい
るとの見方が示されている)。
なお、医療費水準に影響を与えている要因としては、他にも人口当たりの病床数な
どが考えられるが、有意な結果が得られなかった。人口当たりの医師数が有意となる
一方で、人口当たり病床数が有意とならなかったのは、医師不足などにより都道府県
別にみても病床数と医師数にギャップが生じているためとみられ、昨今の医療環境の
変化が表れているとみることができよう。
表5. 総人口 1 人当たり医療扶助額を説明変数とする重回帰分析の結果
決定係数 R 2
t
P-値
高齢者単身世帯比率(2005年)
2.797613
0.007737
離婚率(2005年)
3.237597
0.002356
2.313905
0.025637
2.068792
0.044757
0.725355
完全失業率(2005年)
人口10万人当たり医師数(2008年)
3. 伊達市における医療扶助の現状と課題
3.1 伊達市における生活保護の位置づけと医療環境
2007年の道内市部の保護率をみたのが図 5 となる。伊達市は、10.8パーミルと低い
方から 5 番目に位置づけられる。この結果、07年度の伊達市の人口 1 人当たり保護費
も20.5千円と低い方から45 番目となっており、歳出に占める比率も4.5%と低位にと
どまっている。
次に、伊達市の医療環境をみるために、道内の市部における人口千人当たり医師数
- 99 -
年報 公共政策学
Vol. 6
図5. 道内市部における保護率(2007 年、パーミル)
(資料)総務省「統計でみる市区町村の姿」をもとに作成。
図6. 道内市における生活保護費の状況(2007 年度)
(資料)総務省「市町村決算状況調」をもとに作成。
(歯科医師を含む)をみていく。図 7 をみると、旭川市、札幌市、函館市に加え、2
次医療圏の中核と位置づけられる砂川市、名寄市などが上位にあるが、伊達市は中核
と位置づけられる室蘭市を0.7人程度下回っているものの、人口規模などからみれば
比較的充足度は高いものとみられる。
- 100 -
医療扶助の現状と課題
図7. 道内市における医師数(2008年)
(資料)厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」をもとに作成。
3.2 伊達市の医療扶助の概況
伊達市の直近 1 年間(2009年12月から2010年11月)の月平均でみた診療区分別医療
扶助は、延人員743人に対し、決定金額(点数×10で算出)は40.4百万円(年間485百
万円)となっている 1)。
1人当たり金額は、入院450.9千円、外来16.1千円などとなっているほか、1 日当た
り金額も、入院20.3千円、外来7.7千円などとなっている。金額の構成比は、入院が
63.8%に達しているほか、外来15.3%、調剤13.7%などとなっているが、全国の構成
比と比べて入院が8.7ポイント上回っている。
次に、伊達市の位置づけを確認するために、厚生労働省の「社会福祉行政業務報
告」のデータを用いて、北海道、全国の医療扶助の状況と比較していく。
表6. 伊達市の医療扶助の概況
延人員 延日数 1 人当たり日数 決定点数 決定金額 同比率 1 人当たり金額 1 日あたり金額
人
日
日/人
千点
千円
%
千円
千円
入院
57.2
1,268
22.2
2,578
25,776
63.8
450.9
20.3
外来
383.6
798
2.1
617
6,172
15.3
16.1
7.7
歯科
27.8
74
2.6
69
687
1.7
24.7
9.3
調剤
271.5
415
1.5
552
5,520
13.7
20.3
13.3
訪問看護
3.0
23
7.6
226
2,257
5.6
752.3
99.2
計
743.1
2,577
3.5
4,041
40,411
100.0
54.4
15.7
1)
本分析で、伊達市のデータはとくに断りがない場合には、09年12月から10年11月までのレ
セプトデータを集計・加工した数字となっている。
- 101 -
年報 公共政策学
Vol. 6
表7. 2009年度の医療扶助人員(月平均・人・%)
全
国
北
海
道
伊
達
市
入 院
入院外
計
入 院
入院外
計
入 院
入院外
計
総数
125,820
1,280,636
1,406,456
11,037
118,091
129,128
41
309
350
人員
精神病
56,090
42,561
98,651
4,290
1,930
6,220
24
28
52
その他
69,730
1,238,075
1,307,805
6,747
116,161
122,908
17
281
298
総数
対全国(北海道)シェア
精神病
その他
8.77
9.22
9.18
0.37
0.26
0.27
7.65
4.54
6.30
0.56
1.45
0.84
9.68
9.38
9.40
0.25
0.24
0.24
表8. 2009年度の医療扶助件数・金額など
全
国
北
海
道
伊
達
市
入院
入院外
歯科
計
入院
入院外
歯科
計
入院
入院外
歯科
計
件数
千件
1,914
24,890
2,649
29,453
145
2,666
206
3,017
1
11
0
12
金額
百万円
836,314
408,860
53,729
1,298,902
69,541
42,813
4,780
117,134
305
146
10
456
金額など
同構成比
%
6.5
84.5
9.0
100.0
59.4
36.6
4.1
100.0
66.9
32.0
2.2
100.0
1件当たり単価
千円
437.0
16.4
20.3
44.1
480.9
16.1
23.2
38.8
465.6
13.0
24.3
37.0
対全国(北海道)シェア
件数
金額
%
%
7.56
10.71
7.77
10.24
0.45
0.42
0.20
0.41
8.32
10.47
8.90
9.02
0.44
0.34
0.21
0.39
(資料)上記2表ともに、厚生労働省「社会福祉行政業務報告」などをもとに作成。
北海道の医療扶助人員は、対全国比9.2%の129千人となっているのに対し、医療扶
助金額は同10.5%の1,171億円となっている。一方、伊達市の医療扶助人員は、北海
道の0.27%の350人となっているのに対し、医療扶助金額は同0.39%の4.6億円となり、
道内でも相対的に高い扶助水準にある。全国や北海道と対比して、入院の比率が高い
ことからこうした数字になっているものとみられる。
一方、伊達市の 1 件当たりの金額は、入院は466千円と、全国平均を上回る一方で
道内平均を下回る水準となっている。また、入院外は13千円と道内平均、全国平均を
ともに下回る水準となっている。
因みに、総人口 1 人当たりの医療扶助費は、全国平均の10.2千円、道内平均の21.3
千円に対し、伊達市は12.9千円となっており、保護率が道内では低い方にあることな
どによるものとみられる。
- 102 -
医療扶助の現状と課題
3.3 回帰分析とのかい離
被保護人員 1 人当たり医療扶助についての表 4 の回帰式 2)を用いて、伊達市の被保
護人員 1 人当たり医療扶助額を算出すると、実際金額(1,075千円)の65%の水準に
当たる702千円となる。かい離の要因としては、後述するとおり、高齢者のなかでも
75歳以上の比率が高いことなどが考えられる。
次に、総人口 1 人当たり医療扶助についての表 5 の回帰式 3)を用いて、伊達市の総
人口 1 人当たり医療扶助を算出すると、実際金額(12.3千円)の1.3倍に当たる16.4
千円となる。かい離の要因としては、前述したとおり、失業率などに対して実際の保
護率が低位にとどまっていることなどが考えられる。
表9. 伊達市の被保護人員1人当たり医療扶助の回帰分析とのかい離
定数項
高齢者(65歳以上)人口比率(09年)
入院に占める精神病患者比率(09年)
被保護者1人当たり医療扶助
係数
-7.17373
13.95803
3.62503
伊達市の数値
回帰式による数値
-7.2
35.6
496.6
58.5
212.2
1,074.7
701.6
表10. 伊達市の総人口1人当たり医療扶助の回帰分析とのかい離
定数項
高齢者単身世帯比率(2005年)
離婚率(2005年)
完全失業率(2005年)
人口10万人当たり医師数(2008年)
総人口1人当たり医療扶助
係数
-27.72101
0.83794
8.06712
2.31822
0.02906
伊達市の数値
10.5
2.1
5.7
188.9
12.30
回帰式による数値
-27.72
8.80
16.54
13.30
5.49
16.41
3.4 年齢階級別の医療扶助の状況
表11で伊達市の年齢階級別医療扶助の状況をみると、入院人数は65歳以上が81人と
全体の57%を占めており、同金額も206百万円と全体の61%を占めている。
一方、入院外人数は65歳以上が190人と全体の49%を占めており、同金額も94百万
円と全体の53%を占めている。
こうした伊達市の年齢別医療扶助の特色をみるために、国民医療費、医療扶助実態
調査、伊達市のレセプトデータを対比していく。
まず、2009年度の医療扶助実態調査と08年の国民医療費を用いて、入院医療費に関
して、年齢階級別に、生活保護と国民医療費の格差を推計した。その結果、1 人当た
りの入院医療費は、生活保護が国民医療費の5.0倍の大きさにあり、なかでも15~59
2)
3)
回帰式は、-7.173+13.958×高齢者人口比率+3.625×入院に占める精神病患者比率。
回帰式は、-27.721+0.827×高齢者単身世帯比率+8.067×離婚率+2.318×完全失業率+
0.029×人口十万人当たり医師数。
- 103 -
年報 公共政策学
Vol. 6
表11. 伊達市における年齢階級別の医療扶助
1
6
6
医療扶助費
c
222
43
17
19
20
42
142
5
18
134
45
45
50
95
392
6
18
140
47
47
54
104
416
3,443
2,384
1,746
1,635
5,998
15,212
101
265
5,314
1,684
1,755
2,615
3,977
15,711
107
265
8,757
4,068
3,501
4,250
9,975
30,923
80
140
92
82
143
107
20
15
40
37
39
52
42
40
18
15
63
87
74
79
96
74
89,187
42,493
44,205
39,010
123,105
338,061
546
1,559
49,485
30,330
24,663
21,385
47,657
175,625
769
1,559
138,510
72,823
68,868
60,395
170,762
513,686
実人数 a
入
院
入
院
外
計
0~5歳
6~14歳
15~59歳
60~64歳
65~69歳
70~74歳
75歳以上
計
0~5歳
6~14歳
15~59歳
60~64歳
65~69歳
70~74歳
75歳以上
計
0~5歳
6~14歳
15~59歳
60~64歳
65~69歳
70~74歳
75歳以上
計
表12.
1人当たり
日数 b/a
1人当たり
扶助費 c/a
222
1日当たり
扶助費 c/b
37.1
2,074
2,500
2,327
1,951
2,931
2,381
109
87
369
674
548
428
502
448
128
87
989
1,549
1,465
1,118
1,642
1,235
25.9
17.8
25.3
23.9
20.5
22.2
5.4
5.9
9.3
18.0
14.1
8.2
12.0
11.2
7.2
5.9
15.8
17.9
19.7
14.2
17.1
16.6
入院に係る国民医療費と医療扶助の格差(10億円・千人・%・千円/人)
政令市・中核市
その他地域
全国
政令市・中核市
人
その他
員
全国
政令市・中核市
同
比
その他
率
全国
政令市・中核市
単
その他地域
価
全国平均a
1人当たり国民医療費 b
格差(a÷b×100)
扶
助
額
延日数 b
0~5歳 6~14歳 15~59歳 60~64歳 65~69歳 70~74歳 75歳~ 総数
1,015
1,092
111,124
52,051
54,644
46,428 106,927 373,281
922
966
135,617
69,529
65,468
59,438 131,092 463,033
1,918
2,037
246,617
121,857
119,983
105,969 237,934 836,314
24.3
70.1
297.9
84.8
93.2
87.0
130.5
787.9
23.2
69.4
319.7
96.6
104.1
100.7
172.1
885.8
47.5
139.5
617.6
181.4
197.3
187.7
302.6 1,673.7
3.1
8.9
37.8
10.8
11.8
11.0
16.6
100.0
2.6
7.8
36.1
10.9
11.8
11.4
19.4
100.0
2.8
8.3
36.9
10.8
11.8
11.2
18.1
100.0
42
16
373
614
586
533
819
474
40
14
424
720
629
590
762
523
40
15
399
672
608
564
786
500
68
14
42
123
167
231
390
100
59.3
105.2
947.9
548.1
363.7
244.6
201.6
497.7
(資料)厚生労働省「国民医療費」
「被保護人員全国一斉調査」「医療扶助実態調査」などをもとに作成。
歳の格差が9.5倍と最も大きいほか、60-64歳も5.4倍となっている。
次に、伊達市の入院に係る医療扶助と全国との間の格差についてみていく。
- 104 -
医療扶助の現状と課題
表13. 入院に係る医療扶助の伊達市と全国の格差(千円・人)
0~5歳 6~14歳 15~59歳 60~64歳 65~69歳 70~74歳 75歳以上
伊達市 a
222
療
単価が全国と同じ場合 b
242
扶
年齢構成が全国と同じ場合の人員
14
助
実際の人員との差異
費
単価・年齢構成が全国と同じ場合 c
医
差
異
総数
89,187
42,493
44,205
39,010
123,105 338,061
380
64,687
34,940
29,797
37,816
91,208 259,070
40
176
52
56
54
86
478
-8
-14
-14
0
-7
13
30
0
548
582
70,434
34,803
34,267
30,265
67,955 238,854
単価による差異 d=a-b
-20
-380
24,500
7,553
14,408
1,194
31,897
年齢構成による差異 e-d
-306
-202
-5,748
137
-4,470
7,551
23,254
78,990
20,216
差異計 e=a-c
-326
-582
18,753
7,690
9,937
8,745
55,150
99,207
(資料)厚生労働省「国民医療費」
「被保護人員全国一斉調査」「医療扶助実態調査」などをもとに作成。
単価による影響と年齢構成の差異による影響に要因を分けて、全国の入院医療費と
の格差がどの年齢層で生じているのかをみていくと、全体では75歳以上の格差が最も
大きく、15-59歳がそれに続いている。
このうち、75歳以上は、年齢構成が24%と全国平均の1.38倍に達している上、1 人
当たり金額も1,072千円と全国平均の1.19倍の水準にあり、年齢構成による増加の
115%を占めるほか、単価による増加の40%を占めている。
また、15-59歳は、1 人当たり入院医療費が551千円と全国平均の1.38倍の水準にあ
り、単価による影響が大きく表れている。
同様に、入院外医療費(調剤などを含む)に関して、年齢階級別に、生活保護と国
民医療費の格差を推計した。
1 人当たりの入院外医療費は、生活保護が国民医療費の1.6倍の大きさにあり、入
院に比べて格差が小さいが、15~59歳の格差が最も大きく、国民医療費の2.3倍に達
表14.
入院外に係る国民医療費と医療扶助の格差(10億円・千人・%・千円/人)
政令市・中核市
その他地域
全国
政令市・中核市
人
その他
員
全国
政令市・中核市
同
その他
比
率
全国
政令市・中核市
単
その他地域
価
全国平均a
1人当たり国民医療費 b
格差(a÷b×100)
扶
助
額
0~5歳 6~14歳 15~59歳 60~64歳 65~69歳 70~74歳 75歳~ 総数
2,936
4,918
71,763
31,310
32,978
33,560 58,887 236,352
1,983
3,629
67,533
30,277
31,937
30,475 60,402 226,236
4,824
8,410
139,157
61,714
64,923
63,894 119,667 462,588
24.3
70.1
297.9
84.8
93.2
87.0
130.5
787.9
23.2
69.4
319.7
96.6
104.1
100.7
172.1
885.8
47.5
139.5
617.6
181.4
197.3
187.7
302.6 1,673.7
3.1
8.9
37.8
10.8
11.8
11.0
16.6
100.0
2.6
7.8
36.1
10.9
11.8
11.4
19.4
100.0
2.8
8.3
36.9
10.8
11.8
11.2
18.1
100.0
121
70
241
369
354
386
451
300
85
52
211
314
307
303
351
255
102
60
225
340
329
340
395
276
141
80
100
230
289
396
440
172
72.0
75.6
225.5
148.1
113.9
85.9
89.9
160.5
(資料)厚生労働省「国民医療費」
「被保護人員全国一斉調査」「医療扶助実態調査」などをもとに作成。
- 105 -
年報 公共政策学
Vol. 6
表15. 入院外に係る医療扶助の伊達市と全国の格差(千円・人)
0~5歳 6~14歳 15~59歳 60~64歳 65~69歳 70~74歳 75歳以上
総数
伊達市 a
546
1,559
49,323
30,330
24,663
21,385
47,657 175,625
療
単価が全国と同じ場合 b
609
1,567
36,501
17,695
16,123
22,801
45,872 141,169
扶
年齢構成が全国と同じ場合の人員
14
40
176
52
56
54
86
478
助
実際の人員との差異
-8
-14
-14
0
-7
13
30
0
費
単価・年齢構成が全国と同じ場合 c
1,378
2,402
39,744
17,626
18,542
18,248
医
差
異
34,177 132,117
単価による差異 d=a-b
-63
-8
12,823
12,635
8,540
-1,416
1,784
年齢構成による差異 e-d
-769
-834
-3,243
69
-2,419
4,553
11,695
34,456
9,053
差異計 e=a-c
-831
-843
9,580
12,704
6,121
3,137
13,480
43,509
(資料)厚生労働省「国民医療費」
「被保護人員全国一斉調査」「医療扶助実態調査」などをもとに作成。
している。
同様に、伊達市の入院外に係る医療扶助と全国との間の格差についてみていくと、
75歳以上の格差が最も大きく、60-64歳、15-59歳がそれに続いている。
このうち、75歳以上は、1 人当たり入院外医療費が411千円と全国平均とほぼ同水
準にあるが、年齢構成による影響が大きく表れている。
また、60-64歳は、1 人当たり入院外医療費が551千円と全国平均の1.7倍の水準に
あり、単価による影響が大きく表れている。
紙面の制約もあり、表は掲載を省略しているが、総額ベースの年齢階級別の生活保
護と国民医療費の格差をみると、1 人当たりの医療費は、生活保護が国民医療費の
2.8倍の大きさにあるほか、15~59歳の格差が最も大きく、生活保護が国民医療費の
4.4倍に達している。
一方、伊達市の医療扶助総額と全国との間の格差についてみていくと、表16のとお
り比率の高い入院と同様に、75歳以上の格差が最も大きく、15-59歳がそれに続いて
いる。このうち、75歳以上は、1 人当たり医療扶助が1,483千円と全国平均の1.24倍
の水準にあり、単価及び年齢構成による増加の48%を占めている。
また、15-59歳は、1 人当たり医療扶助が856千円と全国平均の1.95倍の水準にあり、
単価及び年齢構成による増加の20%を占めている。
表16. 医療扶助の伊達市と全国の格差(千円・人)
0~5歳 6~14歳 15~59歳 60~64歳 65~69歳 70~74歳 75歳以上
総数
伊達市 a
769
1,559
138,510
72,823
68,868
60,395
170,762 513,686
療
単価が全国と同じ場合 b
851
1,947
101,187
52,635
45,920
60,618
137,081 400,240
扶
年齢構成が全国と同じ場合の人員
14
40
176
52
56
54
86
478
助
実際の人員との差異
-8
-14
-14
0
-7
13
30
0
費
単価・年齢構成が全国と同じ場合 c
1,926
2,984
110,178
52,428
52,810
48,513
医
差
異
単価による差異 d=a-b
102,132 370,971
-83
-388
37,323
20,188
22,947
-222
年齢構成による差異 e-d
-1,074
-1,036
-8,991
207
-6,889
12,104
34,949
33,681 113,446
差異計 e=a-c
-1,157
-1,425
28,332
20,395
16,058
11,882
68,630 142,715
29,269
(資料)厚生労働省「国民医療費」
「被保護人員全国一斉調査」「医療扶助実態調査」などをもとに作成。
- 106 -
医療扶助の現状と課題
3.5 傷病別の医療扶助の状況
傷病別の入院動向について、医療扶助実態調査(2009年)と国民医療費(2008年)
の構成比の差異を、全分類と精神を除く分類でみたのが表18表となる。
全分類でみると「精神及び行動障害」が国民医療費を+32ポイント上回っている。
この点は、生保の大きな特色となるが、他の特色が埋没してしまうので、精神を除く
分類でみると、「循環器系の疾患」が国民医療費を+11ポイント上回っているほか、
「神経系の疾患」が+5 ポイント、「新生物」が+2 ポイント国民医療費を上回ってい
る。
一方、入院外の動向をみると、「精神及び行動障害」、「循環器の疾患」、「内分泌、
栄養及代謝疾患」が国民医療費を+3 ポイント上回る一方、「腎尿路生殖器の疾患」
が国民医療費を△7 ポイント下回っている。
表を省略しているが、傷病別の一般診療(入院+入院外)でみると、全分類では、
「精神及び行動障害」が国民医療費を+25ポイント上回っている。一方、精神を除い
た分類でみると、「循環器の疾患」が国民医療費を+ 8 ポイント上回っているのが大
きな特色となっている。
表17.
傷病別・入外区分別にみた国民医療費と医療扶助の差異(構成比%)
入院
全分類
生保
a
入院外
除く精神
国民医 差引
療費 b b-a
生保
a
国民医
療費 b
差引
b-a
生保
a
国民医
療費 b
差引
b-a
01 感染症及び寄生虫症
1.4
1.9
-0.5
2.4
2.6
-0.2
4.3
3.3
1.0
02 新生物
8.7
16.9
-8.2
15.1
12.8
2.3
7.4
8.7
-1.3
03 血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害
0.2
0.8
-0.6
0.4
0.8
-0.4
0.3
0.7
-0.4
04 内分泌、栄養及代謝疾患
3.7
4
-0.3
6.5
7.4
-0.9
13.7
10.6
3.1
42.4
10.4
32.0
0.0
6.9
3.6
3.3
4.9
5.3
-0.4
4.7
3.6
2.5
1.1
-1.0
05 精神及び行動障害
06 神経系の疾患
8.6
3.9
07 目及び付属器の疾患
0.7
1.8
-1.1
1.3
3.6
-2.3
4.4
5.4
08 耳及び乳様突起の疾患
0.1
0.3
-0.2
0.1
0.7
-0.6
1.1
1.1
0.0
09 循環器系の疾患
18.2
22.2
-4.0
31.6
20.4
11.2
21.9
18.7
3.2
10 呼吸器系の疾患
3.3
5.7
-2.4
5.7
7.8
-2.1
7.8
9.8
-2.0
11 消化器系の疾患
3.9
6.5
-2.6
6.7
6.3
0.4
6.9
6.2
0.7
12 皮膚及び皮下組織の疾患
0.4
0.7
-0.3
0.6
1.8
-1.2
2.0
2.8
-0.8
13 筋骨格系及び結合組織の疾患
3.9
6.2
-2.3
6.7
7.4
-0.7
12.3
8.6
3.7
14 腎尿路生殖器系の疾患
1.9
4
-2.1
3.3
7.4
-4.1
3.6
10.8
-7.2
15 妊娠、分別及び産じょく
0.1
1.1
-1.0
0.1
0.7
-0.6
0.0
0.2
-0.2
16 周産期に発生した病態
0.1
1
-0.9
0.1
0.6
-0.5
0.1
0.2
-0.1
17 先天奇形、変形及び染色体異常
0.2
0.8
-0.6
0.3
0.5
-0.2
0.2
0.3
-0.1
18 症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見
0.6
1.7
-1.1
1.0
1.8
-0.8
1.0
1.8
-0.8
5.5
8.8
-3.3
9.5
6.6
2.9
2.6
4.5
-1.9
100.0
100
0.0
100.0
100.0
0.0
100.0
100.0
0.0
19 損傷、中毒及びその他の外因の影響
計
(資料)厚生労働省「国民医療費」
「被保護人員全国一斉調査」「医療扶助実態調査」などをもとに作成。
- 107 -
年報 公共政策学
Vol. 6
次に入院に係る伊達市の傷病別医療扶助について、全国との対比をみていくと、03
の「血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の傷害」で 1 件当たり点数が全国の2.6倍
になっているほか、01の「感染症及び寄生虫症」でも1件当たり点数が全国の2.0倍と
なっている。1 日当たりの点数もこの 2 疾患が上位となっており、それぞれ全国の
3.6倍、3.1倍となっている。
入院の構成比をみていくと、日数、点数ともに 2 の「新生物」が全国を大幅に上回
っているほか、14の「腎尿路生殖器系の疾患」も日数、点数ともに全国を 3 ポイント
程度上回っている。一方、09の「循環器の疾患」については日数、点数ともに全国を
大きく下回っており、これらの動きが伊達市の医療扶助を特色づけていると考えられ
る。
なお、表は省略しているが、年齢別傷病別に国民医療費との比較をみると、「精神
及び行動障害」が各年代で比率が高くなっているほか、「新生物」が65~74歳の38%、
「腎尿路生殖器系の疾患」が75歳以上の 8%を占めることなどが特筆できる。
入院外に係る伊達市の傷病別医療扶助について、全国との対比をみていくと、1 件
当たり点数では、14の「腎尿路生殖器系の疾患」の全国の2.1倍となっているほか、
02の「新生物」、13の「筋骨格系及び結合組織の疾患」が全国と比して高い水準にあ
表18. 傷病別にみた入院に係る医療扶助の伊達市と全国の格差
単価(点数)
大分類
伊達市 a
構成比(%)
全国 b
a/b×100
伊達市 a
全国 b
a-b
1 件当たり 1 日当たり 1 件当たり 1 日当たり 1 件当たり 1 日当たり 日数 点数 日数 点数 日数 点数
点数
点数
点数
点数
点数
点数
構成比 構成比 構成比 構成比 構成比 構成比
01
68.3
6.5
33.5
2.1
203.6
308.2
0.8
2.4
1.0
1.4
-0.3
1.1
02
74.0
3.9
48.6
3.1
152.1
126.5
12.9
24.6
4.5
8.7
8.3
16.0
03
102.4
8.8
39.5
2.4
259.4
364.1
0.2
1.0
0.1
0.2
0.1
0.8
04
49.9
2.6
33.7
1.8
148.1
140.5
2.8
3.5
3.3
3.7
-0.5
-0.2
05
34.5
1.3
33.9
1.2
101.6
105.8
53.4
33.0
57.3
42.4
-3.9
-9.4
06
39.8
1.6
40.0
1.6
99.5
99.4
4.2
3.2
5.0
4.9
-0.9
-1.7
07
26.7
5.1
31.0
5.3
86.2
95.6
0.2
0.6
0.2
0.7
0.0
-0.1
08
35.9
2.9
22.3
2.4
161.1
120.4
0.3
0.5
0.0
0.1
0.3
0.4
09
52.0
2.7
42.9
2.0
121.1
135.5
8.6
11.4
14.6
18.2
-6.0
-6.8
10
38.4
3.4
35.8
2.4
107.4
143.2
1.0
1.6
2.2
3.3
-1.3
-1.7
11
40.0
2.2
32.8
2.4
122.0
92.2
3.7
4.0
2.6
3.9
1.1
0.1
12
32.5
3.0
27.9
1.9
116.8
154.2
0.2
0.3
0.3
0.4
-0.1
-0.0
2.6
13
47.4
2.6
40.0
2.1
118.3
121.7
5.0
6.4
2.9
3.9
2.1
14
48.2
2.2
36.7
2.4
131.5
91.8
5.4
5.9
1.2
1.9
4.1
4.0
25.6
3.4
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.1
-0.0
-0.1
31.4
3.8
67.6
93.9
0.0
0.1
0.0
0.1
0.0
-0.0
72.1
4.8
0.0
0.0
0.0
0.0
0.1
0.2
-0.1
-0.2
15
16
21.3
3.5
17
18
22.8
2.1
29.9
2.1
76.3
98.3
0.2
0.2
0.4
0.6
-0.2
-0.4
19
21.4
2.2
40.4
2.2
53.0
98.7
1.0
1.1
4.0
5.5
-3.0
-4.4
計
45.1
2.0
37.1
1.6
121.4
126.9
100.0
100.0
100.0
100.0
0.0
0.0
(資料)厚生労働省「国民医療費」
「被保護人員全国一斉調査」「医療扶助実態調査」などをもとに作成。
- 108 -
医療扶助の現状と課題
表19. 傷病別にみた入院外に係る医療扶助の伊達市と全国の格差
単価(点数)
大分類
伊達市 a
構成比(%)
全国 b
a/b×100
伊達市 a
全国 b
a-b
1 件当たり 1 日当たり 1 件当たり 1 日当たり 1 件当たり 1 日当たり 日数 点数 日数 点数 日数 点数
点数
点数
点数
点数
点数
点数
構成比 構成比 構成比 構成比 構成比 構成比
01
1.7
0.7
1.7
0.7
98.5
114.0
2.1
2.0
4.2
4.3
-2.1
-2.3
02
4.2
2.1
2.9
1.5
147.4
137.6
6.1
16.6
3.1
7.4
3.1
9.2
03
1.1
0.7
1.4
0.8
75.7
86.7
0.4
0.4
0.2
0.3
0.2
0.1
04
1.9
1.2
1.8
0.8
100.7
139.2
7.8
11.8
10.2
13.7
-2.4
-1.9
05
1.0
0.3
1.5
0.7
65.7
40.5
5.0
1.8
6.2
6.9
-1.2
-5.0
06
1.6
0.8
1.6
0.7
95.4
119.3
2.0
2.2
3.2
3.6
-1.2
-1.4
07
0.8
0.7
0.8
0.6
102.5
117.9
4.8
4.2
4.8
4.4
0.0
-0.1
08
0.8
0.6
1.1
0.4
75.2
142.9
1.0
0.8
1.7
1.1
-0.7
-0.4
09
1.0
0.6
1.6
0.7
62.3
83.2
19.3
14.3
20.1
21.9
-0.8
-7.6
10
1.1
0.7
1.3
0.6
87.9
120.1
5.0
4.8
8.1
7.8
-3.1
-3.1
11
1.2
0.8
1.5
0.6
77.7
128.8
4.2
4.2
7.1
6.9
-2.9
-2.6
12
0.4
0.3
0.7
0.4
54.8
68.8
2.4
0.8
3.2
2.0
-0.8
-1.2
13
1.8
0.6
1.4
0.4
129.8
161.5
21.1
16.0
21.4
12.3
-0.4
3.6
14
3.7
1.0
1.7
1.0
214.6
102.8
12.7
17.0
2.2
3.6
10.5
13.4
15
0.6
0.4
0.9
0.5
69.6
71.3
0.1
0.0
0.1
0.0
0.0
-0.0
1.8
1.1
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.1
-0.0
-0.1
1.8
1.0
41.5
73.6
0.0
0.0
0.1
0.2
-0.1
-0.2
16
17
0.8
0.8
18
0.9
0.7
1.2
0.7
77.7
102.1
1.2
1.1
0.9
1.0
0.4
0.2
19
1.1
0.3
1.2
0.5
89.9
60.9
4.7
1.9
3.2
2.6
1.6
-0.7
計
1.6
0.8
1.5
0.6
108.5
122.6
100.0
100.0
100.0
100.0
0.0
0.0
(資料)厚生労働省「国民医療費」
「被保護人員全国一斉調査」「医療扶助実態調査」などをもとに作成。
る。一方、1 日当たり点数をみると、8 の「耳及び乳様突起の疾患」、04の「内分泌、
栄養及代謝障害」、02の「新生物」が全国の1.3倍を超える水準にある一方で05の「精
神及び行動障害」が全国の4割程度の水準にある。また入院外の構成比をみていくと、
14の「腎尿路生殖器系の疾患」が全国を日数で+11ポイント、点数で+13ポイント上
回っているのが、最も大きな差異となっている。
なお、表は省略しているが、年齢別傷病別に国民医療費との比較をみると、「筋骨
格及び皮下組織の疾患」が15~44歳の44%に達すること、「腎尿路生殖器系の疾患」
が45~64歳の24%に達していることなどが特筆される。
入院で02の「新生物」が多いこと、入院外で14の「腎尿路生殖器系の疾患」が多い
ことは、伊達市の国民健康保険、後期高齢者医療の現況とも共通しているが、「腎尿
路生殖器系の疾患」が多いことについては、伊達市に透析専門病院が立地しているこ
とが大きな要因になっているものとみられる。
3.6 医療扶助の集中度
417人の受給者を医療費の少ない方から10等分し、第 1~第10分位とし、個人別の
集中度をみると、第 1 分位が全体の0.1%、第 2 分位は0.5%の使用にとどまる一方で、
- 109 -
年報 公共政策学
Vol. 6
第 10 分 位 は
47.7%、第 9
分位は23.7%、
第 8 分位は
11.4%を使用
している。
それでも、
上位への集中
度は、一般的
な医療費に比
して弱いもの
図8. 個人別の医療扶助の集中度
になっている。
3.7 保護年数別にみた医療扶助の状況
保護年数別の入院医療費をみると、経過年数が増えるのにつれて 1 人当たり日数が
増加するとともに、1 人当たり金額も 1 年以上 2 年未満をボトムに増加している。
一方、1 日当たり金額は、1 年未満が31千円と最も高いが、20年以上では20千円ま
で低下している。
同様に入院外医療費をみると、20年以上で、1 人当たり日数は最も長くなる一方で、
表20. 保護年数別入院医療費の状況(月平均、人・日・千円)
人数
1 年未満
1 年以上~2 年未満
2 年以上~5 年未満
5 年以上~10 年未満
10 年以上~20 年未満
20 年以上
計
19
19
26
29
30
19
142
日数
決定金額
112
132
171
185
390
279
1,268
3,419
2,695
4,098
4,483
6,693
4,388
25,776
1 人当たり
日数
5.9
7.0
6.6
6.4
13.0
14.7
8.9
1 人当たり
金額
180
142
158
155
223
231
182
1 日当たり
金額
30.6
20.4
24.0
24.2
17.2
15.8
20.3
表21. 保護年数別入院外医療費の状況(月平均、人・日・千円)
人数
1 年未満
1 年以上~2 年未満
2 年以上~5 年未満
5 年以上~10 年未満
10 年以上~20 年未満
20 年以上
計
46
44
90
100
68
30
378
日数
決定金額
45
110
210
201
142
91
798
- 110 -
580
855
1,723
1,413
1,096
475
6,142
1 人当たり
日数
1.0
2.5
2.3
2.0
2.1
3.0
2.1
1 人当たり
金額
12.6
19.4
19.1
14.1
16.1
15.8
16.2
1 日当たり
金額
13.0
7.8
8.2
7.0
7.7
5.3
7.7
医療扶助の現状と課題
1 日当たり金額は最も低くなっている。
一方、1人当たり金額は、1年未満が13千円と最も低いほか、5 年以上10年未満の14
千円が20年以上では16千円まで増加している。
3.8 受診傷病数別にみた医療扶助の状況
年間に人が受診した傷病数についてみると、一般診療ベースで、1 傷病が92人、2
傷病が84人となる一方で、5 傷病を超える人数が102人と、全体の 4 分の 1 に達して
いる。
このうち、入院は 3 傷病以上の人数が18人にとどまっており、入院外の傷病数で大
きな差異が生じている。
さらに、入院外について、保護年数別に受診傷病数をみたのが図 9 となるが、経過
年数が増えるのにつれて傷病数が増加する傾向が明確に窺える。
こうした動きの背景には、単年度の分析だけでは即断できないが、加齢などの要因
も加わり、年数の経過とともに傷病数が増えていくといったことのみならず、受診抑
制がかからないという制度特性なども表れているものとみられる。
表22. 受診傷病数別の医療扶助(一般診療、人・日・千円)
人数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
計
92
84
75
52
30
25
21
14
3
5
4
2
1
408
実日数
6,016
5,599
3,206
2,760
1,845
1,563
1,472
852
165
691
326
199
98
24,792
決定金額
98,726
97,653
47,736
41,773
32,963
19,544
15,285
10,870
2,298
9,621
3,743
1,769
1,392
383,374
1 人当たり日数
65
67
43
53
62
63
70
61
55
138
82
100
98
61
1 人当たり金額
1,073
1,163
636
803
1,099
782
728
776
766
1,924
936
884
1,392
940
1 日当たり金額
16.4
17.4
14.9
15.1
17.9
12.5
10.4
12.8
13.9
13.9
11.5
8.9
14.2
15.5
表23. 受診傷病数別の医療扶助(入院、人・日・千円)
人数
1
2
3
4
5
計
95
29
16
1
1
142
実日数
8980
4350
1738
58
86
15,212
決定金額
162,685
102,770
39,073
986
3,799
309,312
- 111 -
1 人当たり日数
95
150
109
58
86
107
1 人当たり金額
1,712
3,544
2,442
986
3,799
2,178
1 日当たり金額
18.1
23.6
22.5
17.0
44.2
20.3
年報 公共政策学
Vol. 6
表24. 受診傷病数別の医療扶助(入院外、人・日・千円)
人数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
計
88
78
69
44
30
27
20
8
4
5
3
1
1
378
実日数
786
1,190
1,689
1,072
1,068
1,273
1,231
465
172
276
224
84
50
9,580
決定金額
13,482
8,071
11,725
8,107
9,539
6,110
7,908
2,488
1,553
2,696
1,447
500
435
74,062
1 人当たり日数
8.9
15.3
24.5
24.4
35.6
47.1
61.6
58.1
43.0
55.2
74.7
84.0
50.0
25.3
1 人当たり金額
153
103
170
184
318
226
395
311
388
539
482
500
435
196
1 日当たり金額
17.2
6.8
6.9
7.6
8.9
4.8
6.4
5.4
9.0
9.8
6.5
6.0
8.7
7.7
図9. 保護年数別にみた入院外の傷病数
3.9 診療機関別にみた医療扶助の状況
診療機関別の受診動向をみると、入院では市内の D 病院が延人数227人、決定金額
113百万円と全体の41%を占めるほか、壮瞥町の Sa 病院が37百万円(同14%)、市内
の M 病院30百万円(同11%)で続いている。
また、入院外では、市内の D 病院が延人数1,781人、決定金額40百万円と全体の
54%を占めるほか、上位10施設のうち 7 施設が市内となっている。
次に、以下では傷病大分類・診療機関別の上位17位をみたものであるが、新生物で
は、市内の D 病院が延人数で35人、決定金額26百万円を占め一方、室蘭市の 3 病院
が上位を占めている。
精神及び行動障害は、壮瞥町の Sa 病院が93人、決定金額35百万円を占めるほか、
- 112 -
医療扶助の現状と課題
表25. 診療機関別医療扶助(入院)
延人数
所在市町村
人
D 病院
伊達市
Sa 病院
壮瞥町
M 病院
伊達市
S 病院
室蘭市
H病院
伊達市
M 病院
室蘭市
T病院
洞爺湖町
B病院
室蘭市
So 病院
壮瞥町
S 病院
登別市
その他共計
227
101
94
29
52
26
19
13
19
16
596
実日数
決定金額
日
4275
3020
2518
419
1465
344
349
257
427
449
13,523
千円
112,753
37,254
30,378
27,723
20,639
13,544
12,337
8,245
6,468
5,591
274,931
1 人当たり
延日数
日
18.8
29.9
26.8
14.4
28.2
13.2
18.4
19.8
22.5
28.1
22.7
1 日当たり
金額
千円
26.4
12.3
12.1
66.2
14.1
39.4
35.4
32.1
15.1
12.5
20.3
シェア
%
41.0
13.6
11.0
10.1
7.5
4.9
4.5
3.0
2.4
2.0
100.0
表26. 診療機関別医療扶助(入院外)
所在市町村
D 病院
伊達市
I 病院
伊達市
K 病院
伊達市
N 病院
伊達市
M 医院
伊達市
B病院
室蘭市
N 医院
伊達市
M 病院
室蘭市
K クリニック
伊達市
S 病院
室蘭市
その他共計
延人数
人
1781
332
281
276
289
84
139
73
166
70
4,603
実日数
決定金額
日
3952
894
431
645
373
153
156
110
196
92
9,580
千円
39,754
5,330
2,867
2,822
2,647
2,617
2,257
1,983
1,755
1,374
74,062
1 人当たり
延日数
日
2.2
2.7
1.5
2.3
1.3
1.8
1.1
1.5
1.2
1.3
2.1
1 日当たり
金額
千円
10.1
6.0
6.7
4.4
7.1
17.1
14.5
18.0
9.0
14.9
7.7
シェア
%
53.7
7.2
3.9
3.8
3.6
3.5
3.0
2.7
2.4
1.9
100.0
表27. 傷病別にみた診療機関別医療扶助(人・日・千円、千円/日)
疾病分類
新生物
新生物
新生物
新生物
新生物
内分泌、栄養及代謝疾患
精神及び行動障害
精神及び行動障害
精神及び行動障害
精神及び行動障害
神経系の疾患
循環器系の疾患
循環器系の疾患
消化器系の疾患
筋骨格系及び結合組織の疾患
筋骨格系及び結合組織の疾患
腎尿路生殖器系の疾患
その他共計
病院名 所在市町村 延人数 実日数 決定金額 1 人当たり延日数 1 日当たり金額
D 病院
伊達市
35
679
26,461
19.4
39.0
S 病院
室蘭市
17
262
17,857
15.4
68.2
T 病院
洞爺湖町
17
335
12,067
19.7
36.0
B 病院
室蘭市
7
186
6,432
26.6
34.6
M 病院
室蘭市
9
180
5,520
20.0
30.7
D 病院
伊達市
17
358
10,244
21.1
28.6
Sa 病院
壮瞥町
93
2779
34,539
29.9
12.4
M 病院
伊達市
94
2518
30,378
26.8
12.1
D 病院
伊達市
62
1573
21,840
25.4
13.9
S 病院
登別市
16
449
5,591
28.1
12.5
So 病院
壮瞥町
12
349
5,642
29.1
16.2
D 病院
伊達市
23
299
12,545
13.0
42.0
H 病院
伊達市
26
735
9,926
28.3
13.5
H 病院
伊達市
13
385
6,446
29.6
16.7
D 病院
伊達市
14
187
6,187
13.4
33.1
S 病院
室蘭市
5
83
5,345
16.6
64.4
D 病院
伊達市
28
733
16,208
26.2
22.1
596 13,523
274,931
22.7
20.3
- 113 -
年報 公共政策学
Vol. 6
市内の M 病院が94人、30百万円、市内の D 病院が62人、22百万円と続いている。
循環器系の疾患などでも、市内の D 病院及び H 病院が一定の金額を占めている。
入院、入院外別に市町村別の状況をみると、伊達市は入院では延人数400人、決定
金額170百万円、入院外では4,183人、66百万円となっており、決定金額合計は236百
万円と、全体の62%を占めている。
室蘭市は決定金額計で60百万円と、16%を占めるほか、壮瞥町も44百万円と12%を
占めている。
表28. 市町村別にみた医療扶助
入院
医療
機関数
延人数 実日数
機関
人
日
入院外
決定金額
千円
1 日当たり 医療
金額
機関数
千円
機関
延人数 実日数
1 日当たり
決定金額
金額
千円
千円
決定
シェア
金額計
人
日
伊達市
6
400
8,570
170,001
19.8
24
4,183
8,870
65,592
7.4
千円
235,593
%
61.5
室蘭市
4
77
1,177
54,182
46.0
4
235
373
6,154
16.5
60,336
15.7
壮瞥町
2
120
3,447
43,722
12.7
2
20
24
206
8.6
43,928
11.5
洞爺湖町
2
22
408
14,012
34.3
5
37
53
503
9.5
14,515
3.8
札幌市
10
32
676
12,971
19.2
16
61
125
827
6.6
13,799
3.6
登別市
2
29
825
10,252
12.4
2
8
35
127
3.6
10,380
2.7
函館市
1
6
109
4,171
38.3
3
33
60
423
7.0
4,594
1.2
小樽市
3
14
23
156
6.8
156
0.0
恵庭市
1
4
4
39
9.8
39
0.0
帯広市
1
2
3
18
5.9
18
0.0
白老町
1
5
9
17
1.9
17
0.0
江別市
1
1
1
0
0.0
0
0.0
63
4,603
9,580
74,062
7.7
383,374
100.0
計
27
686 15,212
309,312
38.3
4. おわりに
伊達市の医療扶助の現況分析からは、おおよそ以下の点が指摘できる。
①年齢階級別では、75歳以上の扶助費が突出しているが、その背景には、非高齢者
の比率が低い生保受給状況に加えて、一次産業に依存する地域の所得基盤の弱さ
などがあるとみられること
②傷病別にみると、「新生物」の比率が高いことなどが特筆されるが、年度別の医
療扶助の動きなども踏まえると、高額医療をきっかけに生活保護に流れるケース
が多いことの表れとみられこと
③一方で、「腎尿路生殖器系の疾患」の比率が高いことの背景には、専門病院の立
地といった要因が大きいと考えられ、医療扶助についても、地域の医療環境に大
きく左右される側面を有しているとみられること
④こうした動きなどを反映して、集中の程度は弱いものの、医療扶助の使用は一部
受給者に集中していること
- 114 -
医療扶助の現状と課題
⑤保護年数が長くなるにつれて、傷病数の増加、診療日数の増加などの傾向がみら
れること
また、その他の分析からは、以下の点が指摘できよう。
①医療扶助が入院主体で運用されている上、高齢化が扶助金額増加の大きな要因に
なっていることなどを踏まえると、現状の医療供給体制のままでは、今後大幅な
増加を免れない可能性が高いこと
②こうしたことを踏まえると、生活保護費が地方財政のさらなる圧迫要因となる可
能性が高いこと
今回の分析では、個別市のデータをベースにしたものであり、一概に医療扶助全般
の課題を指摘することは難しいが、以上を踏まえると、少なくとも以下の点は指摘で
きよう。
①医療扶助も地域の医療環境に依拠していると考えられ、地域的な偏りを平準化す
るためには医師の地域的な配置の適正化などが前提条件になること
②発見の遅れたがんや透析といった高額医療が生活保護のきっかけの一つになって
いる現状を踏まえれば、健診受診率の向上などの健康増進への取り組みが、保護
率抑制にも一定の効果を持つ可能性があること
③年数経過が健康状態の悪化につながっている可能性が高いとみられ、自立支援に
向けた生きがいや居場所づくりなどが、中長期的な医療扶助の抑制につながる可
能性があること
④受診抑制がきかない上、生活態度に問題がある場合でも無条件で扶助が受けられ
ることなど、制度的な枠組みが医療扶助増加の背景要因の一つとみられ、抜本的
な見直しが必要なこと
単年度の医療扶助分析では、現状把握も不十分な上、各市の詳細データの開示が進
んでいないことなどから、同種の研究をさらに積み重ねていくことが望まれる。
主な参考文献
石井吉春(2008)「生活保護における都市間格差の態様と地方財政の持続可能性」
『年報公共政策学』第 2 号 p83-108
岩崎房子(2006)「生活保護制度における医療扶助と介護扶助の仕組みと課題」
『鹿児島国際大学福祉社会学部論集』第25巻第 1 号 p35-4
- 115 -
年報 公共政策学
Vol. 6
The subject of the medical aid in public assistance
ISHII Yoshiharu
Abstract
The recipients of public assistance increased in number and it has led to aggravation of local
public finance.
In this research, the medical aid which occupies 50% of the expenses of public assistance
was selected as a theme.
And the actual condition and the improvement direction of medical aid were examined
based on the data of Date city, Hokkaido.
I would like to expect that a data indication in each city will progress and research of the
same kind will progress from now on.
Keywords
medical aid, local public finance.

Hokkaido University Public policy School
- 116 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
Effects on Service Improvement of Mobility
Management for Sustainable Urban Transport
KAGAYA Seiichi , URAOKA Masaru

and KATO Ami

1. INTRODUCTION
Sustainability is the balance between human society and the environment for future
generations fundamentally. To achieve this equilibrium, several complex problems need to be
solved. Meanwhile, governance involves many organizations and stakeholders in addition to
the government that takes decisions affecting others. Sustainability governance can be defined
as a framework within which the global environment for future generations is discussed and
then determined. Participation requires all stakeholders to have a voice in influencing
decision-making. The decision-making process has been a frequent topic of discussion and has
led to the introduction of strategic environmental assessment (SEA). SEA is a systematic and
comprehensive process for evaluation the environmental effects of a policy, plan or program
(PPP) and its alternative at the earliest appropriate stage of the publicly accountable decisionmaking process [7], [14].
Based on the idea of SEA, the transport planning should be promoted. Especially, a
sustainable city planning including a new management for human mobility should also be
discussed in terms of the environment for future generations. In these years, it has been
common to argue a sustainable city or eco-city which is the city designed with consideration
of environmental impact, inhabited by people devoting to minimization of required inputs of
resources and outputs of waste and polluted loads [15]. Specifically, it is to create the smallest
possible ecological footprint, and to produce the lowest quantity of pollution loads, to use
urban area efficiently, to reduce use of the fossil fuels [21]. So an urban planning system
should be reconsidered in terms of sustainable policies. Here, the sustainability in urban areas
involves attempts of urban development including environmental, social and economic
improvements, policies and practices on the next generation stage [12]. In most of Japanese
cities and towns, transport planning is based on a point of respect for use of car vehicles.



Graduate School of Engineering, Hokkaido University
e-mail: [email protected]
Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism
Sapporo Municipal Office
- 117 -
年報 公共政策学
Vol. 6
Accordingly the increase of automobile traffic has often occurred traffic congestion in
downtown areas.As a result, traffic congestion causes the reduction of car speed and the
increase of fuel for car vehicles in a downtown area, while car drivers use their car vehicles
even for walking distance conveniently [13]. Therefore, it is necessary for the cities to improve
the transport service in their areas including such various modes as walking, cycling, and
public transit oriented system, so called the mobility management. Those traffic modes
contribute to the improvement of urban sustainability positively and can give us an appropriate
mobility measure. At the same time, we can also verify an appropriation of introducing such
mobility management [8].
In this study, first of all, the effect on the introduction of a new public transport system,
namely, an extension of tram car system is assessed. Here, the impacts on surrounding areas
due to tram line extension are evaluated in view of the sustainable urban planning. The next
objective is to evaluate the effects on the improvement of an underground passage, which is
more convenient for pedestrian to go around the downtown area. The former measure has been
planned and the latter measure has just been used in Sapporo city which is located in
Hokkaido Japan in 2011. The population of the city is 1.9 millions approximately.
Finally, the results are discussed in view of urban sustainability.
2. STRATEGIC ENVIRONMENTAL ASSESSMENT FOR SUSTAINABLE URBAN
TRANSPORT PLANNING
Figure 1. paradigm shift from existing system into future sustainable evolution
- 118 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
The 1987 Brundtland Report, Our common Future, defined sustainable development as
development that meets the needs of the present without compromising the ability of future
generation to meet their own needs. According to this report, sustainability draws on the
continuity of economic, social, institutional and environmental aspects to provide the optimum
outcome for human and natural environments both now and in the indefinite future. To
evaluate sustainability, the decision-making process should involve the policy, plan and
program (PPP) procedure and other appropriate indicators. In PPP, the policy is a broad
statement of intent, comprising an objective and a broad course of action to meet it; the plan is
a specific strategy outline for policy implementation; and the program lists highly specific
proposals or instruments for policy implementation. The PPP creates the hierarchy of the
decision-making process and also results in a tiered relationship. Thus, the SEA approach
provides decision-makers with better information on the impacts of alternatives in a proactive
and systematic manner [23]. Figure 1 shows a framework of nested structure to evolve the
sustainability governance.
In Japan, either national or local government has undertaken infrastructure improvements,
for example, in transport systems and river environment systems based on the SEA. The
author has also promoted the decision-making process due to the concept of the SEA in the
fields of not only transport planning but also river improvement planning. This decisionmaking process is shown in Figure 2. It can be divided into three groups of stakeholders:
administration, community and the support groups. Efficient collaboration between these
groups can enhance sustainability governance planning. This planning process also includes
three procedural phases which are devised from Stage 1 to Stage 3:
Stage 1: Problem finding and checking are discussed in terms of brainstorming and
morphological methods. Structural models are constructed via Fuzzy Structural Modeling
(FSM) [5] at the following step. The set of models are used in a basic structure of policymaking for infrastructure planning [9].
Stage 2: during this stage, project planning is prioritizes. Several alternative plans are
selected by discussing how best to achieve the project aims. Next, the most appropriate plan is
determined in terms of Fuzzy Multi-Criteria Analysis (FMCA) or Analytical Hierarchy
Process (AHP). The benefits are then estimated by the contingent valuation method (CVM) to
confirm the economic validity of the analysis [10]. In case of transport planning some methods
like a Discrete Choice Model (DCM) are used as the estimation of traffic demand on each
mode.
Stage 3: The outline of the design is discussed with regard to basic factors related to
infrastructure planning. Conjoint analysis is then used to evaluate several designs in terms of
specific attributes. Next, a concrete design is settled upon via the governance framework,
- 119 -
年報 公共政策学
Vol. 6
which is composed of certain stakeholders [11]. A workshop technique is also introduced with
in the governance framework for stakeholder discussions, usually involving administrative
organizations, local residents, technical experts, consultants and non-profit organizations
(NPOs).
Here, it is discussed that several methods in stage 2 and stage 3 are applied to sustainable
transport planning focused on the mobility management.
Figure 2. Proposed planning process based on SEA
- 120 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
3. METHODS AND ANALYTICAL PROCEDURE
3.1. Procedure of analysis
In urban transportation planning, it is popular to evaluate the appropriation of a plan on
transport facilities using a monetary analysis such as the cost-benefit analysis. However, it can
be limited to use such an analysis in case of downtown transport planning because of
complexity of a traveler behavior and multifarious needs of inhabitants [18]. So some different
methods should be introduced to analyze the assessment based on human behavior and needs
for mobility directly [4], [6].
Thus, analytical procedure of this study is proposed depending on the specific measures as
shown in Figure 3.
First of all, several attributes were introduced to apply Analytical Hierarchy Process (AHP)
to the evaluation of alternative plans in case of the extension of tramcar line. Next effects due
to the extension of tramline were compared with the existing case. Moreover, it was verified
that the strength of approval toward the new plan was calculated by application of Contingent
Valuable Method (CVM) [14]. That is, the residents’ expectations for the effect of extension of
tramline were indicated in terms of the willingness to pay (WTP). On the other hand, a model
of individual choice behavior was built to catch visitors in commercial facilities due to season,
weather, scale of facility and respondent’s attributes. And then, the visitors’ choice behaviors
in commercial districts were used to evaluate effects on the use of underground pedestrian path.
Finally, the synthetic effects on urban sustainability were discussed due to two new
improvement of transport in downtown in view of sustainability.
Figure 3. Analytical procedure of this study
- 121 -
年報 公共政策学
Vol. 6
3.2. Procedure of analysis
(1) Application of AHP
As mentioned in the previous section, AHP was introduced to indicate the attractiveness of
the downtown area after the extension of tramline quantitatively. The general procedure of the
method is implied as the following contents [22]:
1) Compose the hierarchical figure by analyzing a problem.
2) Assess the importance of factors in each level and make a matrix. The interrelation is
examined from an upper level to a lower level orderly with a pair comparison [19].
3) Compute the weight of factors and consistency index (CI) in each pair of matrix.
(Two kinds of pair comparisons)
i) A pair comparison in each level and ii) a pair comparison of alternatives in every
evaluated factor is shown.
(Calculation of weights)
i) Geometry mean of each factor and ii) weight based on geometry mean formulated as
Equation 1 and Equation 2.
Ai  n a1 a 2 ......a n
Wi 
(1)
Ai
m
(2)
A
i 1
i
an : surveyed importance of sample n, Ai : average importance of factor i in all
respondents, Wi : weight of factor i.
where
(Consistency index CI) consistency index is formulated as Equation 3.
CI 
where
 max  m
(3)
m 1
max : maximum eigenvalue, m: number of factors.
4) Compound weights from the result of a pair comparison analysis and obtain the
comprehensive weight of an alternative.
(2) Evaluation in terms of CVM
When there is originally no market on the evaluation, CVM makes a market imaginarily and
intends to consider it [7].
In this method, first of all, the contents of environment and administrative service are
provided for the respondents. And then, the willingness to pay is asked toward heightening a
- 122 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
quality level of environment. On the other hand, the willingness to accept compensation
(WTA) can be calculated if environment or administrative service is declined. The WTA is
indicated as the necessary money to obtain the original utility again. CVM can also evaluate
both the use values and the holdover value. Direct and indirect use value and option value are
measurable even in terms of usual consumer's surplus analysis and Hedonic approach which is
a kind of the analyses on the non-market material.
But it is only possible to evaluate the
existing value in terms of CVM. The CVM is possible to estimate not only the values of
substantial environment or administrative service but also their virtual values. On the basis of
the questionnaire it is supposed to the imaginary situation, it is possible to ask monetary values
of environment and the administration service directly. The questionnaire of WTP in CVM is
divided roughly into the following four methods.
1) Free answer: to ask sum of payment freely.
2) Bid price using game mode: to ask agree or disagree with the proposed price to repeat
until obtaining the answer of “No”.
3) Payment card system: to answer the appropriate value within some alternative choices.
4) Pairing choice system: to ask agree or disagree with proposed price
This study adopted the payment card system.
Supposed the probability of agreement with a given WTP price to Pr[yes] , it is formulated
as Equation 4.
Pr[ yes] 
where
1
1  e  V
(4)
V ; a difference of utility between proposed prices.
Here, it can be estimated parameters of estimate equation by maximum likelihood method
as equation 5 [6].
n
m
i 1
k 1
V    T    i y i    k z k
(5)
where  ,  ,  ,  ; parameters, T is a proposed price, yi ; variables of a respondent’s
attributes ( i  1, n ), and z ; variables of a respondent’s awareness ( k  1, m) .
(3) Choice behavior model for visiting facility
Choice behavior model to visit facility (district) is constructed depending on the choice
structure shown in Figure 4 [1], [20]. First, the discrete choice model to visit facility in case of
each different season and weather condition is constructed by using binomial logit model (NL
model). Using results obtained by questionnaire, a choice behavior is modeled for selecting a
district from two different districts corresponding to three objectives, namely, shopping, eating
- 123 -
年報 公共政策学
Vol. 6
Figure 4. Structure of choice behavior model
and drinking, and playing [3].
In this study it is supposed that a main effect due to pedestrian travel through underground
path is regarded as the reduction of travel time and without weather conditions. The
explanatory variables are represented as each season, each weather, pedestrian time to facility,
the scale of facility, and dummy variables of generations [16].
Specifically, symbols of provided equation are represented as
g  G : set of generations
w  W : set of weathers {f : fine, r : rain, c : snow}
p  P : set of aims {b : shopping, e : eating and drinking, j : amusement}
d  D : set of downtown districts {o: Ohdori district, s: Sapporo station district}
a  A : set of activities {y : staying in downtown, n : going back to home}
The utility function in the model is defined as Equation 6 using above variables.
v k ypd ( (p  P, d  D) is the utility of person k having objective p and
k
selecting facility d, and  g is the dummy variable (generation g of person k is 1 and
Here,
otherwise is 0.
k
k
k
v ypd
 v ypo
 v yps


w
w{ f , r ,c}
(t wo  t ws )   m ( x o  x s )   o    gp   gk (6)
gG
t wd : walking time to facility d in weather w,
 k : parameter of walking time in weather w,
x d : facility scale d,
- 124 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
 m : parameter of facility scale,
 gp : parameter of generation g having objective p,
 g : constant (district B)
k
Walking time is real time in a rain. U ypd is probability variable.
 ~iid ( depending on Gumbel distribution)
k
k
U ypd
 v ypd
 ,
The choice probability of each facility is given Equation 7 [17].
Pyps  Pr(U yps  U ypo ) 
1
1  exp(v ypd )
Pypo  1  Pyps
,
(7)
(4) Choice behavior model for staying/ returning
If model structure as shown in Figure 2 is regarded as MNL model, log- sum variables of
facility utility can be represented as the utility of each objective. This variable is represented as
Equation 8.
k
k
v yp
 ln(  exp(v ypd
))
(8)
d D
Choice probability is formulated as Equation 9.
P 
k
yp
k
exp(v yp
)
 exp(v
p 'P
k
yp '
(9)
)
As same way, the log-sum variable obtained by utility of each objective is regarded as
Equation 10.
k
v yk  ln(  exp(v yp
))
(10)
pP
The utility of choice for returning home (going back to home) during staying time t is
formulated in Equation 11. Moreover, the choice probability between staying in downtown and
returning home is calculated by binomial logit model as Equation 12. The parameters are also
estimated by binomial logit model.
v nk   t  t
(11)
- 125 -
年報 公共政策学
Pnk 
Vol. 6
1
,
1  exp(vak )
Pyk  1  Pnk
where vak  vnk  v yk  t  t   y  v yk
(12)
4. ANALITICAL RESULTS
4.1. Case study 1: Effects due to extension of tramline
(1) Objectives
The objectives of case study 1 are mentioned in detail. It is to investigate the indirect effect
(impact on surrounding areas) of the extension of Sapporo tramline. The district with tramline
extension via Station Avenue is called as Naebo district. Up to the present, when a local
government examines the introduction of a new public transport system, profitability (supply
and demand) of the system is main concern. However, an assessment of the impacts on
surrounding areas by the system is also important from the aspect of deliberate urban planning.
(2) Questionnaire survey
The questionnaire was surveyed on the following objectives, namely, what residents in
Naebo district desired in terms of extension of tramline, what they expected some effects
including the residents in the surrounding district, and how much they should paid to the plan
on extension of tramline as an indicator, that is, WTP.
First of all, the questions for pair-wise comparison and alternative comparison survey were
provided with analyzing AHP. The alternatives were considered as the case of extension of
tramline or existing case comparatively.
As the second viewpoint, the questions were made with regard to WTP using CVM.
Specifically, a method of payment was introduced in order to support management after
completing the extension of tramline.
The questionnaire survey was performed in the area of tramline extension and another area
without the influence on its extension. Table 1 shows the outline of questionnaire contents in
case 1.
Table 1 Outline of questionnaire contents
Surveying Date
December 18,19,2009
respondents
Residents in Naebo district and outside districts
Method of distribution
Direct distribution & collecting by mail
Number of distribution
1000 sheets (Naebo) and 1000 sheets (outside)
Number of recovery
504 sheets (recovery rate: 25.2%)
Questionnaire contents
Pairwise comparison between evaluation criteria, willingness to pay,
personal attributes, etc.
- 126 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
(3) Results by AHP
For the purpose of analyzing what kind of factors relate to urban planning, Analytical
Hierarchy Process (AHP) is applied. First, the results obtained by applying AHP are presented.
Figure 5 shows the Hierarchy chart assumed in the present study. The valuation factors are
attractiveness, affluence, activeness, and environment.
Figure 5 Hierarchy chart for AHP
Table 2 Definition of evaluation criteria
Evaluation criteria
Detailed definition
Attractiveness
This plan will increase attractiveness in the surrounding district in terms of
image and symbolization.
Affluence
This plan will enhance functions in the district due to fulfillment of commercial
facilities and medical facilities.
Activeness
This plan will bring activeness in the district by increase of residents
opportunity for going out.
Environment
This plan will decrease environmental loads such as reduction of green house
gas.
The valuation factors are explained in detail as Table 2.
From the results, Sapporo citizen in not only Naebo district with direct effects but also in
the other district without direct effects expects the extension of Sapporo tramline to Naebo
district due to the broad impacts in surrounding areas. According to the effect on the tramline
extension, the total utility in Naebo district was increased to 2.45 times in comparison with
existing condition. On the other hand, the same value in the other district was 1.47 times. The
effect in the district with the directly extended plan was more remarkable than in the district
without the plan. And, people living in Naebo district expect Activeness by the extension,
while people living in the other districts expect attractiveness.
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年報 公共政策学
Vol. 6
Figure6 Result of AHP (Survey on Naebo district)
Figure 7 Result of AHP (Survey on outside district)
(4) Results obtained by CVM
Contingent Valuing Method (CVM) was applied to estimate the indirect effect by the
extension of Sapporo tramline to Naebo district compared with the other districts.
the results of CVM are presented as shown in Figure 8. This Figure shows the estimation of
WTP in two different districts. This result was analyzed by the effects of individual attributes
on WTP. The amount of WTP and the benefit of indirect effect due to the tramline extension
are estimated by the model. Figure 8 also compares real odds of willingness to pay of Naebo
district to estimated odds calculated by the model. Using these results, the total value of
benefit was accumulated as 13.8 million yen/year. The benefit can be divided into each
criterion so that affluence, activeness and environment are 3.6 million yen/year, 3.5 million
yen/year, 3.8 million yen/year, and 2.8 million yen/year respectively. Incidentally, a direct
benefit in present value due to traffic demand estimation was calculated at 5.6 billion yen.
- 128 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
Figure 8 Estimation of willingness to pay in two different districts
Meanwhile the indirect benefit obtained by CVM was computed at 207 million yen, that is,
only 3.7% of direct benefit approximately. The whole cost in present value is 5.2 billion yen.
The cost benefit ratio (B/C) is 1.09 without indirect benefit and 1.14 with indirect benefit.
As above-mentioned, it was analyzed that the impact of the extending Sapporo tramline to
Naebo district on surrounding areas quantitatively. This result shows Sapporo city government
must address consensus-building. That is, it is shown that Sapporo citizen expects activeness
and attractiveness.
4.2. Case study 2: Effects due to construction of underground pedestrian path
(1) Objectives
The road network improvement in a downtown prompts travelers to visit a new developed
shopping area more frequently. For instance, the shopping area in the downtown of Sapporo is
separated into two districts, that is, two commercial cores. One is the existing old shopping
district and another is a new shopping district developed in recent years. Many shops have
been constructed and opened in the new developed district, while the existing shopping district
has declined relatively. However, the underground path was completed in 2011, so that it is
easier for two shopping districts to connect with each other closely. Thus, it is more
convenient for visitors to enjoy shopping requiring for attractive shops. The visitor’s behavior
will also change more actively.
Here, a disaggregate model was constructed to analyze visitor’s behavior on shopping in the
- 129 -
年報 公共政策学
Vol. 6
downtown district. The factors of model include personal attributes, season and weather
conditions, and scale of shopping facilities based on a questionnaire survey. At the same time
the effects on building the underground path connected two shopping districts are evaluated in
terms of focusing on the visitor’s behavior choice for shopping facilities.
(2) Questionnaire survey
The questionnaire survey in this case study was executed on visiting aim, choice of largescaled or small-scaled shopping facility, staying time and choice of districts in the conditions
of season and weather with or without the underground pedestrian path.
The obtained data were applied to make a choice behavior model used for evaluation of
effects on the measure of underground pedestrian path.
The outline of this questionnaire survey is displayed in Table 3.
Table 3 Outline of questionnaire contents
Surveying Date
November 28,2010
respondents
Visitors to downtown area
Method of distribution
On-the-spot
Number of distribution
1000 sheets
distribution & collecting by mail
Number of recovery
339 sheets
Number of valid answer
321 sheets
Questionnaire contents
Choice of shops, activity on surveyed day, choice of facility, personal
attributes, etc.
(3) Results of Choice behavior model for visitors
In general, traveling measures of a visitor in a downtown are considered multifariously.
Here, only walking was introduced for giving influences on use of an underground path. A
model was, therefore, based on pedestrian’s behavior on it.
Pedestrian behavior choice in downtown districts was separated into three levels, namely,
the first level was a choice of continuing travel activity in downtown or going back to home,
the second was a choice of travel aims and the third was a choice of visiting facilities.
Disaggregate model was applied to determine the choice behavior of pedestrian in downtown
before and after new development of underground pedestrian path. It is supposed that visitors
choose their aims and shopping facilities step by step after arriving in the downtown district.
At level 1, a binomial logit model was applied to choose the shopping site among two
different districts depending upon whether the underground path is or not and weather
condition. At the same time, the three objective utilities were calculated as log-sum variables
of the facility utility at level 2. Finally, the binomial logit model for choosing either staying in
downtown or going back to home was built based on the utility for staying and the staying
- 130 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
Table 4 Analysis corresponding to choice levels
Choice level
Level 3
Choice of Staying or returning
Level 2
Choice of visiting aim
Level 1
Choice of visiting facility
Explanatory variable
Log-sum variable
Staying time in downtown
Log-sum variable
Walking time in summer, in raining, in snowing, scale of facilities
and generation
time for each visitor at level 3. This model provides the information on time distances due to
the seasonal and weather conditions and the disturbance of aim achievement and as a result,
the new construction of underground pedestrian path brings effects to visitors.
The overall framework is already mentioned above in Figure 4. Furthermore, the list of
explanatory variables is described in Table 4.
(4) Parameter estimation and examination
The analyses were used by free software R. Parameters estimation and examination were
resulted in Table 5~7.
Table 5 Results of parameter estimation and examination in case of shopping
Table 6 Results of parameter estimation and examination in case of eating & drinking
- 131 -
年報 公共政策学
Vol. 6
Table 7 Results of parameter estimation and examination in case of playing
The parameters of walking time depended upon weather condition. Namely, time resistance
for waking is larger in rainy or snowy time than summer (fine) time. In view of the aim, the
eating and drinking had the largest resistance. The shopping and the playing followed it.
Furthermore, the larger the facility is, the larger the utility is. In particular, in case of shopping,
such consideration was remarkable. The young generations were generally fond of Station
district, while the old generations tend to visit in Odori district. This is because there are many
old shops in Odori district which are familiar with aged people. Meanwhile, the core buildings
of Sapporo station are used as their own commercial facilities in terms of new projects.
Next, the utilities of each aim and staying in downtown were calculated using the log-sum
variables shown in
Table 8.
Table 8 Utilities using log-sum variable
Moreover,
parameters
the
on
choice probability
between staying in
downtown
returning
and
Table 9 parameter estimation of the model for staying or returning
home
were estimated in
table
9.
The
hitting ratio was
over 80%, so that
the
model
was
high-grade
reliability.
(5) Results of analysis using the model
- 132 -
Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
Table 10 shows the change of the obtained choice probability in case of facilities where
people visit. If the underground pedestrian path was used, the pedestrian traffic from Odori
district to Station district was the increase of about 8%. Reversely, the pedestrian traffic from
Station to Odori was the increase of about 15%. Odori district can obtain an advantageous
condition due to using the underground pedestrian path. In view of weather condition, raining
or snowing makes the increase of choice probability compared with summer (clear).
In the downtown area, Station district has large-scaled compound shopping facilities, while
Odori district has small or middle-scaled shopping facilities mainly. In the next analysis,
considering such a facility scale, the areas of facilities were introduced. The analytical results
are illustrated in Table 11. Compared with the former analysis, the facilities in Station district
obtained higher choice probability. The attractiveness of each facility in Station district can be
high now because of existing large facility.
In this case study, the pedestrian choice behavior model was constructed depending on
Table 10 Choice probability change of facilities without considering the facility scale
Table 11 Choice probability change of facilities with considering the facility scale
weather condition, the attractiveness of facility and the attribute of visitors. The model was
- 133 -
年報 公共政策学
Vol. 6
applied to the improvement of underground pedestrian path. Comprehensively, the
underground pedestrian path brings multi-visits to the citizens. Particularly, in raining or
snowing, it is available for using such the path. It will also be expected to give a large effect
due to activation of downtown.
(6) Synthetic effects on urban sustainability
Synthetic effects on urban sustainability were discussed through two case studies. Namely,
the extension of tramline and the introduction of underground pedestrian path were
demonstrated as the effective mobility management of transport in downtown. Basically, it is
necessary for us to reduce a disparity of mobility in the downtown for future sustainability.
The extension of tramline contributes to reduce the disparity of inhabitant mobility in an area
with a poor public transport. This can be one of sustainable improvements for urban planning.
On the other hand, the underground pedestrian path is useful to enjoy walking in rainy or
snowy weather particularly. People living in cold and much snowfall area also want to walk
around downtown in winter as same as summer season. Therefore, it is important for us to
promote uses of underground facility.
Both plans on mobility management are extremely available for urban sustainability.
5. CONCLUDING REMARKS
It is concluded that several important points on transport plan or management were found in
view of urban sustainability through this discussion:
1) Transport planning should be a new method for sustaining people and their society in an
urban area.
2) The road is not used by only car, but by pedestrian and public transport modes. Therefore,
it is necessary for us to use it wisely.
3) Future transport planning should be made a point of mobility management, while it does
not make specific facilities and establishments.
4) Management is to answer the needs of society, community and to devote to users as well.
Transport planning should be applied to a management system with unifying with urban
or community planning.
5) The management of tramcar should be corresponded to the needs of the district
appropriately.
6) It is important for the opening of underground path to evaluate as one of available
measure for urban sustainable in cold and snowy area. In near future, it should be
discussed innovations.
As future subjects of the study, the simulation of visitors’ behavior will be examined and the
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Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
possibility of comprehensive travel demand management using transit mall and so on will be
confirmed quantitatively. Furthermore, the alternatives should be prepared with the agreement
of inhabitants.
It is indispensable to assess the needs and concerns of the citizens to the alternatives in order
to compose an appropriately sustainable plan in the future. It is also to establish the effective
technique for building the transport system in downtown area corresponding to sustainability
for future generations.
6. REFERENCES
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年報 公共政策学
Vol. 6
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London: Earthscan Publications Ltd., 1996.
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Effects on Service Improvement of Mobility Management for Sustainable Urban Transport
Effects on Service Improvement of Mobility
Management for Sustainable Urban Transport
KAGAYA Seiichi , URAOKA Masaru

and KATO Ami

Abstract
In these years, the urban planning system has been reconsidered in terms of sustainable
policies. The sustainability in urban areas involves attempts of urban development including
environmental, social and economic improvements, policies and practices in the next
generation stage. In most of Japanese cities and towns, transport planning was based on the
efficiency of car vehicles use until these years. As a result, traffic congestion occurred and
caused slower speeds, longer times of car vehicles in a downtown area, while car drivers used
the car vehicles even for walking distance. Therefore, it is necessary for the cities to improve
the transport service in their areas including walking, cycling, and public transit oriented
system and so on, namely, mobility management. These traffic modes contribute to the urban
sustainability positively and correspond to the appropriate mobility of the people.
In this study, first of all, the effect on the introduction of a new public transport system,
namely, an extension of tram car system was examined. Here, the impacts on surrounding
areas due to tram line extension are assessed in view of the sustainable urban planning. In the
next objective, the effects on the improvement of an underground passage, which is more
convenient for pedestrian to go around the downtown area, were evaluated. The practical
research and study was examined in Sapporo City, Japan.
The results of analysis show in the following aspects: 1) the inhabitants expects the
extension of tramcar in the supposed area, 2) people also expect activeness and attractiveness
resulted from the extension of tram car line, 3) the pedestrians expect to be capable more
choice of shop facilities, particularly, in rainy or snowy weather due to the use of underground
passage, 4) the underground passage stimulates the behaviors of visitors between two
commercial areas which exist separately to stay and enjoy for longer time.
Keywords
Transport planning, urban sustainability, tram improvement, mobility management



Graduate School of Engineering, Hokkaido University
e-mail: [email protected]
Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism
Sapporo Municipal Office
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
EUの「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
鈴木
一人
EU 全域で見ると、エネルギーの対外依存度は57%であり、2030年には65%にまで
上昇すると見られている 1)。北海油田を除くと、域内に安定的で潤沢な地下資源を持
たない EU は、日本と同様、資源を対外的に依存しなければならない状況にある。ま
た、既に市場統合を果たし、石油やガスの域内における移動の自由も保障されている
市場であるため、EU が各国ごとに資源外交戦略を立てるよりは、EU 全体で統一的
な戦略をもつほうが、対外的な交渉力が向上し、資源供給国に対して有利な条件を引
き出すことが出来ると考えられている。加えて、欧州域内におけるガスパイプライン
や送電線のネットワークは緊密に連携しており、国境を超えた売買電やガスの流通が
日常的に行われている状況の中で、EU が統一的な資源外交戦略をもつことは合理的
に考えて当然である。
にもかかわらず、EU レベルでの資源外交というものは存在していない。それは
EU の政策文書などで用いられる用語から見ても明らかである。欧州では「資源外交
(resource diplomacy ないしは energy diplomacy)」という単語は滅多に使われず、主と
して「エネルギー安全保障(energy security)」という単語が用いられる。ここから明
らかなように、EU における資源外交の中核には、いかにエネルギーの安定供給を確
保し、安定した価格で調達できるのか、という問題が横たわり、それを達成するため
の手段として外交が展開される。
つまり、EU での議論の中心は「エネルギー安全保障」であり、「資源外交」はエ
ネルギーの安定供給のための手段の一つでしかない。さらに、エネルギーの安定供給
を実現するための手段としての外交は、現在においても加盟国の権限として強く残っ
ており、EU 全体として統一的な資源外交を展開することが困難となっている。
このような状況の中で、EU の「資源外交」が成立するのか、また、成立するとす
ればどのような資源外交となるのかを本稿の検討対象としたい。天然資源の乏しい
EU における資源外交の困難と、それを乗り越えていこうとする EU のエネルギー安
全保障戦略を分析することで、分析概念としての「資源外交」の精緻化をすると共に、

1)
北海道大学
Commission of the European Communities, An Energy Policy for Europe, Communication From
the Commission to the European Council and the European Parliament. COM(2007) 1. January 10,
2007. なお本稿では、地理的概念として、ヨーロッパ大陸全体(冷戦期については主とし
て西ヨーロッパ)にかかわる場合「欧州」と表現し、地域機構としての政策などを論ずる
場合は「EU」と表記する。また、EU 加盟国に限定する問題については「EU各国」、また
欧州大陸の国家全体にかかわる問題については「欧州各国」と表記する。
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年報 公共政策学
Vol. 6
同じく天然資源の乏しい日本に対してのインプリケーションを見て取ることも出来よ
う。
1. 欧州のエネルギー戦略の前史
欧州がエネルギー戦略を必要とするのは今に始まったことではない。欧州が深刻な
エネルギー戦略の危機に直面したのは、1970年代の石油危機であったが、そこで欧州
各国は何らかの対策を取らなければならないとの認識を高めることとなった。その第
一は、欧州各国間のエネルギー政策はもちろんのこと、世界的なエネルギー消費国の
間の調整が必要ということであった。そのため、1974年に欧州各国も参加する国際エ
ネ ル ギ ー 機 関 ( IEA ) を 設 立 し 、 需 要 側 の 調 整 を 行 う こ と で 石 油 輸 出 国 機 構
(OPEC)に対抗し、市場を安定させることを目指した。第二に、欧州各国はエネル
ギーの供給源を多様化させ、中東に偏っていた依存関係を緩和することを目指した。
その中で注目が集まったのはソ連である。冷戦真っ只中であるとはいえ、1960年代の
ドゴールの戦略的仏ソ関係の構築や1970年代のブラントの東方外交など、ソ連との戦
略的交渉はこれまでも存在しており、欧州にとってはもっとも安定的で、安価なエネ
ルギーの獲得手段としてソ連とのパイプラインの接続を目指した 2)。
しかし、これは1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻によって大きな障害に直面
する。この年から「新冷戦」が始まり、米ソ関係が悪化したことで、米国の同盟国で
ある欧州の立場も微妙なものとなった。ソ連から見れば、経済的な衰退と米ソ間関係
の悪化を緩和すべく、欧州からの投資と技術移転は重要な意味を持ち、欧州から見れ
ば、エネルギー供給の多様化と安定化のためにも、ソ連との関係を強化する必要があ
った。そのため、欧州各国はソ連のアフガニスタン侵攻を批判しつつも、シベリア・
パイプラインプロジェクトは継続されることとなった。これに対し、アメリカはソ連
への技術移転は対共産圏輸出委員会(COCOM)協定違反として、1981年から欧州各
国に対して経済制裁を発動し、米欧間関係が悪化する事態となった。この時期はフラ
ンスで初の社会党大統領となるミッテランが政権に就き、ドイツではコール首相が政
権についた時期であり、そうした政権交代期の不安定な状況の中で、ソ連とアメリカ
の間での戦略的選択をしなければならないという状況に追い込まれた 3)。結果として、
ソ連からのエネルギー供給を優先する欧州にアメリカが折れる形で経済制裁を撤回し、
パイプラインの建設が進むこととなった。これが、現在にまで続く、欧州のロシア依
存の基本的な構図となっている。
2)
3)
Zeyno Baran, “EU Energy Security: Time to End Russian Leverage”, The Washington Quarterly,
Autumn 2007, vol.30, no.4, pp.131-144
Patrick J. DeSouza, “The Soviet Gas Pipeline Incident: Extension of Collective Security
Responsibilities to Peacetime Commercial Trade”, Yale Journal of International Law, Vol.10, No.2,
Spring 1985, pp.92-117; Stephen Woolcock, “East-West Trade After Williamsburg: An Issue
Shelved but not Solved”, The World Today, Vol.39, No.7/8, Jul.-Aug. 1983, pp.291-296.
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
この問題は、1991年のソ連崩壊によってさらに複雑な状況を生み出すこととなった。
これまでソ連の一部であったカスピ海沿岸からのガス供給を受けていた欧州は、ソ連
崩壊によって15の共和国(バルト 3 国も含む)に分裂し、新たに生まれた共和国と個
別に交渉する必要に迫られただけでなく、これまではソ連としてひとまとまりの対象
であったため問題にならなかった「エネルギー経由国」が多数生まれることとなった。
そのため、国境におけるガスの受け渡しなどが複雑になるだけでなく、ガスの供給国
のほかに経由国とも交渉する必要が生まれた。そのため、EU はソ連崩壊後の欧州に
おけるエネルギー秩序を安定させるために、「エネルギー憲章宣言(Energy Charter
Declaration)」を1991年にオランダのイニシアチブで取りまとめ、ユーラシア大陸全
体におけるエネルギー政策の規範的基礎を築こうとしたのである。この「エネルギー
憲章宣言」に基づき1994年には「エネルギー憲章条約(Energy Charter Treaty)」が締
結され、1998年に30ヶ国の批准によって発効することとなった(現在は51ヶ国が批
准)4)。
この条約はエネルギーに対する対外投資規制の標準化やエネルギーの自由貿易、エ
ネルギーの自由移動の保証、エネルギー効率化の推進、そして紛争解決メカニズムに
関する規定が盛り込まれている。ここから明らかなように、この条約はソ連崩壊後の
ユーラシア大陸におけるエネルギーの欧州への安定的な供給を目指したものであり、
欧州の資源外交の一つの金字塔となっている。しかし、これはあくまでもユーラシア
大陸におけるエネルギー貿易の条件を定めたものであり、実際のエネルギー供給の安
定化を保証するものではない。さらにガスの最大供給国であるロシアと経由国である
ベラルーシが条約を批准していないという点も含め、この条約だけでエネルギーの安
定供給が担保されているとはいえないだろう。
2. グリーンペーパーと『欧州のためのエネルギー政策』
このように、1970年代の石油ショックをきっかけとしてエネルギー供給の多様化を
図ってきた欧州は、ロシアとの交渉を進めるため、次第に欧州各国が協調して資源外
交を執り行うようになり、EU が中心となって「エネルギー憲章条約」を締結するに
至ったことで、新たな局面を迎えるようになった。とりわけ、1991年に締結されたマ
ーストリヒト条約では、共通外交安全保障条約(CFSP)を EU の第二の柱とし、加
盟国が EU の枠組みの中で統一的な外交戦略を展開することが可能になったことで、
EU の役割が大きくなってきた。また、1992年末には域内市場の統合が完成し、欧州
が一つの市場となることで、EU の執行部に当たる欧州委員会がエネルギー部門にお
いても一定の役割を担うようになってきた。
4)
各国の調印・批准状況に関しては、http://www.encharter.org/fileadmin/user_upload/document
/ECT_ratification_status.pdf を参照。ロシアとベラルーシは調印のみだが、暫定的に条約を
適用している。
- 141 -
年報 公共政策学
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しかし、こうした状況を大きく変え、EU が統一的な資源外交を展開しなければな
らない状況になったのが、ロシアとウクライナの天然ガス供給を巡る危機であった。
2005年 3 月に「オレンジ革命」の旋風に乗ってユーシェンコがウクライナの大統領に
就任すると、反ロシア親欧州路線を取り、ロシアのプーチン大統領との関係が悪化し
ていった。その結果、ロシアからウクライナに輸出されるガスの価格をこれまでの独
立国家共同体(CIS)向け優遇価格から、国際市場の価格に準じた価格設定へと移行
することをロシアが提案し、それをウクライナが拒否したことで、2006年 1 月からウ
クライナ向けガスの供給が停止され、ウクライナを経由して欧州に輸出されるガスの
量も減少した。
このような状況からロシアからのガス供給に依存する欧州は、様々な政治的状況の
変化においても安定してエネルギーを供給する体制を構築する必要に迫られるように
なった。その時から、EU のエネルギー戦略が練られるようになる。その先駆けとな
ったのが、2006年 3 月 6 日に出された「持続的で競争力があり、安定したエネルギー
に向けての欧州戦略グリーンペーパー」である 5)。このグリーンペーパーとは、欧州
委員会が新たな政策を打ち出す前にコンサルテーションのために提示するものである
が、ウクライナ経由のガス供給が止まった直後にこうした政策のたたき台が出された
ことは、EUがいかにこの問題を深刻に受け止めていたかを明らかにしている。
このグリーンペーパーの問題意識は(1)外国へのエネルギー依存の増大、(2)エ
ネルギー価格の高騰、(3)二酸化炭素排出削減目標との両立、(4)域内エネルギー統
合市場の未完成といった点にあり、これらを解決するために、6 つの論点が示されて
いる。その第一は域内エネルギー市場の統合を通じて、経済成長と雇用をもたらすと
いうものである。これは欧州の送電網を整備し、電力の自由化を促進し、欧州のエネ
ルギー産業の国際競争力を強化することで経済成長と雇用が増加するという政策オプ
ションを提示している。これは、各国が独占的な権限をもち、多くが国有企業によっ
て運営されている電力市場を開放し、規制緩和を進めることで経済発展を目指すとと
もに、加盟国が保持する権限を EU(欧州委員会)に移転するという権力関係の変化
を求めるものである。
第二の論点は、加盟国間の連帯を強化し、エネルギーの安定供給を図るというもの
である。ここでは、電力インフラの共同整備や IEA(国際エネルギー機構)などのマ
ルチ外交の場における EU 共通の立場の確立、またそのための EU 全体のガス備蓄量
の公表といったことが含まれている。第三の論点はガスによる発電の依存度を減らす
ためのエネルギーのベストミックスの追求、第四の論点は欧州の気候変動への対応と
の連動したエネルギー戦略の構築、すなわち再生可能エネルギーの導入、エネルギー
5)
Commission of the European Communities, GREEN PAPER: A European Strategy for Sustainable,
Competitive and Secure Energy, COM(2006) 105 final, 8.3.2006.
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2006:0105:FIN:EN:PDF
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
効率性の向上といった化石燃料の使用量の削減、第五の論点は欧州における、熱核融
合などを含むエネルギー関連の研究開発の推進、そして、最後の第六の論点として、
対外的なエネルギー政策の一貫性の確保が論じられている。
特に、本稿の関心から言えば、第六の論点を若干詳しく見ていく必要があるだろう。
ここでは、まず EU の対外的なプレゼンスが低いのは加盟国が一致したエネルギー戦
略をもたないことに原因があるとして、EU と加盟国が「対外エネルギー政策」を共
同して構築することが求められている。そのためには、域内のエネルギー事情の調査
を行い、データに基づいて戦略を作ることから着手することが呼びかけられている。
そのうえで、EU に必要なエネルギー・インフラ、とりわけ石油・ガスのパイプライ
ンと LNG のターミナルの建設が重要として、カスピ海沿岸、北アフリカ、中東との
関係を調整していくことの重要性が論じられている。また、ウクライナやトルコなど、
域外のエネルギー経由国がエネルギーの安定供給のためにはカギとなるとして、これ
らの国々とエネルギー供給国との関係も含め、外交的な関係を強化することが必要と
されている。そして、エネルギー供給国との対話を推進することが求められている。
とりわけ問題となるのがロシアであり、EU とロシアの新しいイニシアチブが必要で
あり、EU はロシア産ガスの最大の購入者として対等な立場で交渉しなければならな
いとくぎを刺している。また、欧州近隣諸国に対しては、EU の規制やスタンダード
を導入させ、市場の調和や環境規制などで価値観の共有が必要として、北アフリカ諸
国、ウクライナ、トルコ、カスピ海、地中海諸国と結んだ、汎欧州エネルギー共同体
(Pan-EUropean Energy Community)の構築を目指そうとしている。また、環境問題や
エネルギー効率化、研究開発などの分野と連動した対外政策を展開する必要性が論じ
られ、とりわけ2005年から EU で実施されることになった排出権取引システムを対外
的に拡大していくことが、EU のエネルギーの安定供給に貢献するとしている。さら
に、WTO ルールなど自由貿易の枠組みを通じて、エネルギー経由国における差別的
な対応を防止し、エネルギー貿易の安定化を図ろうとしている。
加えて、このグリーンペーパーをきっかけに、「欧州」と「EU」のずれを修正する
ための動きも起こった。「欧州」には EU に加盟しないスイスやノルウェーなどが含
まれるが、これらの国々はすでに「欧州経済圏(EEA)」という枠組みで協力してお
り、すでにエネルギー分野では EU と一体化した関係にある。しかし、問題は今後
EU に加盟する可能性のある、旧ユーゴスラヴィアを中心とするバルカン半島諸国で
あった。これらの国々はトルコなどの東からのパイプラインの経由国になる国で、こ
れらの国々との関係を安定させることは EU にとっても重要な意味をもっていた。ま
たバルカン半島諸国から見れば、将来 EU に加盟するためにも、エネルギー経由国で
あるという強みを活かす必要があり、交渉の材料として用いることもあり得た。その
ため、EU は2006年に「エネルギー共同体条約(Energy Community Treaty)」を EU、
アルバニア、ボスニア、クロアチア、マケドニア、モンテネグロ、セルビアとコソボ
- 143 -
年報 公共政策学
Vol. 6
との間で締結し、エネルギー規制や安定供給に関する規則を定めた 6)。また、2005年
から始まった排出権取引にこれらの国々を含めることで、EU の排出権取引市場が拡
大し、グローバルなスタンダードを作っていく足掛かりとした。これにより、EU は
バルカン半島諸国がエネルギー経由国としての立場を乱用することを阻止し、EU の
規制を適用し、ロシアなどのエネルギー供給国との交渉においてより多くの国の支持
を得る形になったことで、「規制帝国7」としてのパワーを高め、交渉力の強化へとつ
なげていった。
このグリーンペーパーは政策のたたき台であるがゆえに、幅広く問題提起を行い、
それに対する政策アイディアを提供しており、その後の EU のエネルギー戦略の出発
点となっているが、このペーパーで論じられた内容を検討すると、以下のような点が
明らかになってくる。
その第一は、EU と加盟国の間での権限分割が決定的な問題であり、EU レベルで
の政策を展開するためには、加盟国との連携強化が不可欠である、ということである。
EU がグローバルな存在感を示し、資源外交を展開するためには「Speak with one
voice」でなければならず、それが実現しない限り、政策目標を達成することは困難
であるとの認識が示されている。第二は、環境政策との連動である。1990年代の京都
議定書の交渉を通じて、EU は環境問題に関して強い権限を有するようになり、越境
的な環境汚染や地球温暖化の問題については EU レベルで政策を策定していくことが
加盟国の間でもコンセンサスとなっている。そのため、EU は環境問題とエネルギー
政策を連動させ、EU が持つ高い環境技術をエネルギー供給国に提供することで、見
返りにエネルギーの供給安定を図っている。ただ、こうした環境政策を通じた対応は、
EU 域内のエネルギー効率化、すなわち資源への需要を低下させることで EU が抱え
る脆弱性を排除するということが中心的な課題となり、資源外交における積極的なエ
ネルギー獲得のための手段とはなっていない。第三に、環境問題同様、EU が対外的
な交渉力をもつ分野として WTO や安全規制などの経済的ルールを交渉の基調として
いる点である。これも EU レベルに権限が移譲されている分野であり、欧州委員会と
しては加盟国の干渉を受けない政策分野であるため、政策の自由度が高いだけでなく、
交渉の材料に乏しい EU としては最強の武器となるものである。EU はエネルギー貿
易にも自由貿易を適用し、国際的なルールに基づいて対応することを通じて、エネル
6)
興味深いのは、この決定はエネルギー政策の部局ではなく、EU拡大を担当する部局にお
いて行われた点である。Council Decision, Conclusion by the European Community of the
Energy Community Treaty, 2006/500/EC, 29 May 2006.
http://europa.eu/legislation_summaries/enlargement/western_balkans/l27074_en.htm
7) 「規制帝国」の概念については、拙稿「
『規制帝国』としてのEU」山下範久編『帝国論』
講談社選書メチエ、2006年 1 月、44-78頁、および、拙稿「グローバル市場における権力
関係:「規制帝国」の闘争」加藤哲郎・国廣敏文編『グローバル化時代の政治学』法律文
化社、2008年 4 月、133-159頁を参照。
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
ギー供給国と対等な関係で交渉をし、他方で、EU が持つ巨大なエネルギー市場をテ
コにして、エネルギー供給の安定化や品質やサービスなどに関しては、EU 域内市場
のルールを適用し、それに合致させることを求める。こうした交渉術は他の分野でも
みられるものであり、すでに筆者は別のところで、EU が国際交渉において他国に自
国基準を押し付ける姿を「規制帝国」と名付けたが 8)、資源外交においても、まさに
「規制帝国」的な交渉を行っていこうとしていることが見て取れる。
このグリーンペーパーをたたき台として、2007年に作り上げられたのが『欧州のた
めのエネルギー政策(An Energy Policy for Europe)
』である 9)。ここではグリーンペ
ーパーで設定した論点を踏襲しながら、若干の表現の変更や追加などなされているが、
重要な変化として一点挙げられるのは、原子力政策に関する記述が追加されたことで
ある。これは、一部の加盟国から温暖化対策としての原子力の重要性が指摘され、長
期的なエネルギー戦略として、化石燃料への依存を軽減しながら、温室効果ガスの排
出を減らすためには原子力は不可欠との立場を取ることとなった。しかし、原子力政
策に関しては各国の隔たりが大きく、この政策文書の中でも、原子力利用に関しては
各国が最終決定権を持つとし、EU の役割は原子力安全や核不拡散への対応、および
使用済み核燃料の処分に関する調整にとどめられた。ここは加盟国が EU 主導のエネ
ルギー政策を受け入れつつも、加盟国の最終決定権を再確認し、加盟国間のエネルギ
ー政策に対する格差が浮き彫りにされた。また、EU の役割は、その前身である欧州
原子力共同体(Euratom)の持つ権限に限定されている点が興味深い。
3. 『エネルギー2020』とエネルギーサミット
『欧州のためのエネルギー政策』を策定し、欧州の資源外交、特にロシアに対する
交渉に向けての体制が整ったにも関わらず、2008年初頭に再びロシアとウクライナの
間でガス料金の支払いを巡る問題が発生し、3 月にガスの輸出量を削減する措置をロ
シアが取ったため、その影響が欧州にも及び、エネルギー需給のバランスが崩れる状
況となった。また、2009年 1 月にはロシアとウクライナの間で再びガス価格の交渉が
難航し、ウクライナのユーシェンコ大統領が EU に仲介を求めてくるほどの危機的な
状況が生まれた。この時ロシアが EU 向けに輸出したガスをウクライナが横取りして
いると主張し、その分のガス供給を削減する方針を打ち出した。この危機は2週間に
わたって続き、ブルガリアやスロヴァキアなど、ウクライナ経由でロシアからガスを
受け取る国々では深刻なガス不足が起こっていた。また、ウクライナはロシアから供
給されるガスの圧力が弱いとして、ウクライナ国内のガス供給を遮断してまで欧州向
8)
9)
前掲書。
Commission of the European Communities, Communication from the Commission to the European
Council and the European Parliament, “An energy policy for Europe”, COM(2007) 1 final, 10 January
2007 http://europa.eu/legislation_summaries/energy/european_energy_policy/l27067_en.htm
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年報 公共政策学
Vol. 6
けのガスを輸送するという事態まで起きた。こうした事態を打開するため、危機が起
こってから 2 週間後の 1 月17日にロシアで EU、ロシア、ウクライナの三者協議が行
われ、ウクライナの代表として出席していたティモシェンコ首相とプーチン首相が長
時間の協議を行い、1 月18日に合意に達した。ここでは、ウクライナが欧州向けガス
と同じ価格を支払うことが原則合意され、2009年の間はそこから20%の割引を行うと
いうものであった10)。度重なるロシア‐ウクライナ間のガス危機に対し、欧州委員長
のバローソは両国とも信頼に足るパートナーではないと突き放し、こうした問題に欧
州が振り回されることに嫌気がさすと同時に、ロシアに依存しないエネルギー戦略の
必要性を実感した。
また、この間、ロシアは EU 各国に個別にアプローチし、EU の足並みを乱すよう
な戦略を取るようになってきている。その代表例が、2005年に首相の座を離れたゲル
ハルト・シュレーダーをロシア国営のガス会社であるガスプロムの子会社であるノル
ド・ストリームの役員として迎え入れ、ロシアからバルト三国やポーランドを経由せ
ず、バルト海に海底パイプラインを敷設して直接大消費地であるドイツにガスを供給
する計画を立てたことがある。これにより、経由国としての利益(コミッション)を
得ることが出来なくなり、自国へのガス供給のルートを奪われたバルト三国やポーラ
ンドはドイツを激しく批判した11)。また、2009年にはシュレーダー政権の副首相兼外
務大臣であったヨシュカ・フィッシャーがカスピ海沿岸からトルコ、ルーマニア、ブ
ルガリアを経由して欧州にガスを供給するナブッコ(Nabucco)パイプラインの運営
会社のコンサルタントとなり、ノルド・ストリームに対抗するガス供給ルートを EU
機関や欧州各国を対象にロビー活動をするようになった12)。これにより、EU 各国の
利害やパートナー関係が複雑となり、統一的なエネルギー政策を展開することが難し
くなった。
こうした中で、これまでの『欧州のためのエネルギー政策』では不十分として、新
たな中長期エネルギー戦略の検討が始まった。それが『エネルギー2020』と呼ばれる
政策文書である13)。この『エネルギー2020』は、基本的には『欧州のためのエネルギ
ー政策』を踏襲しつつ、よりメリハリの付いたエネルギー政策を立て、中長期的な視
野でエネルギー戦略を構築しなければならないという問題意識に基づいている。
10) Simon Pirani, Jonathan Stern and Katja Yafimava, The Russo-Ukrainian Gas Dispute of January
2009: A Comprehensive Assessment, Oxford Institute for Energy Studies, February 2009
11) Peter Rutland, “Russia as an Energy Superpower”, New Political Economy, Volume 13, Issue 2,
2008, pp.203-210.
12) Daniel Freifeld, “The Great Pipeline Opera: Inside the european Pipeline Fantasy that Became a
Real-life Gas War with Russia”, Foreign Policy, Sept./Oct. 2009.
<http://www.foreignpolicy.com/articles/2009/08/12/the_great_pipeline_opera>
13) European Commission, Energy 2020: A Strategy for Competitive, Sustainable and Secure energy,
COM(2010) 639 final, Brussels, 10.11.2010
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
ここでは 5 つのプライオリティが設定されている。その第一は、エネルギーの削減
(Energy Saving)である。特に運輸交通部門と建築部門におけるエネルギー消費の削
減を通じて需要側のニーズを削減し、エネルギーの需給を安定させることを目指して
いる。第二に、汎欧州エネルギー市場の統合の期限を2015年とし、それまでに EU 各
国の送電網を接続し、電力の融通を可能にするとともに、1 兆ユーロをかけてエネル
ギー・インフラを構築することを目指している。第三に、27の加盟国に「欧州エネル
ギー共同体」の国々も加え、欧州が一体となってエネルギー供給国との交渉を進める
ことが目指されている。第四に、エネルギー技術の分野で世界をリードすることが示
され、第五に、電力の自由化を進めつつ、安定し、安全なエネルギー供給を行うこと
が目標とされている。
この中でも本報告にとって重要になるのは、三番目のプライオリティである、EU
の一体化を通じた国際交渉力の強化である。1990年代から進めてきた EU の「Speak
with one voice」は未だに現実となっていないが、2009年12月に発効したリスボン条約
によって、EU の対外政策の制度が整備され、「EU 外務大臣」が正式に EU 対外政策
を体現することとなり、国際社会での存在感と発言権を増強できるとの期待が高まっ
ていた。
そこで、『エネルギー2020』では、4 つのアクションプランが示された。その第一
は、近隣諸国とのエネルギー市場と規制を統一することである。これはすでに述べた
ように、EU が国際的なアクターとして交渉力を増していくためには、より多くの国
を味方につけることが必要との認識に基づいており、同時に、EU がこれら周辺諸国
に対して技術支援やインフラ整備支援を提供することで、EU と一心同体の状況を作
ることを目指している。すでに「エネルギー共同体条約」があり、このメンバーを拡
大していくことで容易に周辺諸国を取り込んでいくことが可能となるが、ここで対象
として考えられているのは、ウクライナやトルコといった重要なエネルギー経由国と、
エネルギー供給国である南地中海(北アフリカ)諸国である。この時点ではリビアの
カダフィ政権は欧米接近路線を取っており、2003年の核開発の放棄や2006年のアメリ
カによるテロ指定国家の解除など、リビアとの関係が良好であったこともあり、エネ
ルギー共同体条約を通じてリビアとの一体化を図ろうとしていた。しかし、この試み
は『エネルギー2020』が発行された 2 ヶ月後の中東・北アフリカ諸国における「アラ
ブの春」が動きだしたことによって大きく混乱することとなる。結果的に中東・北ア
フリカにどのような政治体制が生まれるのか、それらの国々との関係をどう定めてい
くのかについては、まだ見通しが立っていない。
第二のアクションは、主要なパートナー国との特恵的な関係の構築である。これは、
冷戦崩壊直後のユーラシア大陸におけるエネルギー供給秩序を安定させるための仕組
み、すなわち「エネルギー憲章条約」をユーラシア大陸から、より広い地域に拡大し
ていくことを目指したものである。そのターゲットとして重視されているのが中東・
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年報 公共政策学
Vol. 6
北アフリカ諸国であり、これらの国々との間での安定したエネルギー供給のルールを
作ることを目指している。しかし、EU は決定的な交渉のレバレッジをもっておらず、
逆にこの地域においては各加盟国が植民地時代の遺産を受け継ぐ形で個別の利害関係
をもっており、そう簡単には EU としての資源外交を展開することが出来ない地域で
もある。
第三のアクションは、将来に向けての低炭素エネルギーを推進するグローバルな役
割の強化である。すでに京都議定書以来、EU は環境問題、地球温暖化対策において
グローバルなリーダーの役割を果たし、EU 域内においても様々な低炭素イニシアチ
ブが取られている。その結果、EU 域内企業の中でも太陽光発電や風力発電などで国
際競争力をもつ企業が出てきており、こうした資源を活かした低炭素エネルギーの国
際的な普及は EU の利益にもかなう。同時に、雨天が少なく、日照時間の長い中東・
北アフリカにおいては、太陽光発電が最も効率的に行えるとして、アルジェリアなど
に巨大な太陽光発電のプラントを建設する、Desertec 計画が進められている。
第四のアクションは、原子力安全や核不拡散に関する取組の強化である。これは、
イランやペルシャ湾岸諸国における原子力への関心の高まりを反映したものである。
これらの国々は産油国でありながら、自国のエネルギー消費をまかなうための原子力
発電へとシフトしており、原子力で置き換えられる分のエネルギーを輸出に回すと同
時に、将来的な石油の枯渇にも対応できるエネルギー戦略を描いている。こうした動
きに対して、フランスをはじめとする欧州の原子力産業もこの新たな市場に参入する
ことを目指しているが、同時にこの地域は政治的に不安定な地域であり、原子力技術
が軍事利用、すなわち核開発に用いられる可能性があることも EU は懸念している。
このように、『エネルギー2020』は、これまでのロシアを主要なパートナーとした
エネルギー戦略から、エネルギー供給源の多様化を目指したものとなっている。考え
てみれば、1970年代の第四次中東戦争をきっかけに起きた石油ショックで明らかにさ
れた欧州の脆弱性を回避するために選んだロシアとの関係強化が、いまやところを変
えて、ロシアからのエネルギー供給が不安定化したため、中東・北アフリカとの関係
に回帰するという転換が起こっている。
この『エネルギー2020』の発行を受けて、議長国であるハンガリーのイニシアチブ
により、EU として初めてエネルギーをテーマとした首脳級会議(サミット)が開か
れた。このエネルギーサミットが目指したのは、これまで EU がイニシアチブを発揮
して『欧州のためのエネルギー政策』や『エネルギー2020』といった EU 全体を包括
する政策を打ち出したにも関わらず、加盟国間の戦略の違いや最終決定権の保持によ
って、結果的に EU のエネルギー政策が機能していないことを乗り越えることである。
とりわけロシアとの関係で EU は何度も苦汁をなめ、いよいよ加盟国がバラバラであ
ってはならないという危機感を反映したものといえよう。また、このサミットが行わ
れたのは2011年 2 月 4 日であり、チュニジアにおける「ジャスミン革命」が起こった
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
直後であり、チュニジアのベンアリ大統領が国外逃亡をしてから 3 週間しかたってい
ない時期であった。また、「ジャスミン革命」の余波は中東全体に広がりつつあり、
エジプトでは「フェイスブック革命」と言われる事態が進行している最中であった。
このサミットでは以下のような論点が話し合われた14)。まず代替エネルギーに関し
ては、これまで EU はエネルギー効率化による対外依存度の削減を進めるため、2020
年までにエネルギーの使用量を20%削減すると提案していたが、その手段として再生
可能エネルギーが取り上げられていた。しかし、フランスは自国の原子力推進政策を
欧州にも拡大するとして、原子力利用の積極的採用を求めた。ただ、議論はエネルギ
ーの使用量の削減に期限を決めて対応することは各国のエネルギー事情を混乱させる
として、拘束力のない目標にしてしまったため、代替エネルギーの推進についても議
論は進まず、原子力に関しても各国の独自路線が維持されることとなった15)。
第二に、すでに2009年の段階で電力市場の自由化を進めることが決定されているに
もかかわらず、デンマークを除くすべての加盟国が EU 規則を遵守しておらず、中で
もフランスやリトアニアのように、国営の電力会社が独占している国では、電力の自
由化に対して後ろ向きな政策をとっている。その結果、サミットでは自由化の期限を
先送りし、2014年までに自由化を完了し、EU の統一市場を形成することが合意され
た。
第三のテーマとして、シェールガスの問題が取り上げられた。シェールガスは地層
に細切れに埋まっている天然ガスのことだが、このシェールガスを取り出す技術をア
メリカが開発したため、シェールガスの埋蔵量が大きいアメリカでは、基幹エネルギ
ーとしてシェールガスの活用が進められているほか、膨大な埋蔵量が確認されている
ため、天然ガス市場の価格も下落するという状態にある。これに刺激を受けて、ポー
ランドはシェールガスの開発に熱心な姿勢を見せており、このサミットでもシェール
ガスを将来性のある有効なエネルギーとして取り上げた。アメリカ同様、ヨーロッパ
大陸にもシェールガスの鉱脈は点在しており、今後の EU のエネルギー政策の方向性
を決めるのに重要な役割を果たすであろう。
そして最大の論点として挙げられたのが、対外政策であった。ここでは欧州委員会
のエネルギー担当委員であるエッティンガーと、「EU 外務大臣」であるアシュトン
が加盟国の首脳に対し、エネルギー外交交渉の権限をもっと与えてほしいと訴え、北
アフリカの Desertec プロジェクトと、EU が支援するナブッコパイプラインの建設へ
の支援を求めた。しかし、EU 各国首脳は対外交渉戦略について意見を一致させるこ
とができず、2011年 6 月までに欧州委員会がエネルギーの安定供給と国際協力に関す
14) “Factbox: Main Results of EU Energy Summit”, Reuters, February 4, 2011.
http://www.reuters.com/article/2011/02/04/us-eu-summit-energy-results-idUSTRE7134NC20110204
15) “EU Leaders to Dodge Energy Efficiency at Summit”, EurActiv.com, 3 February 2011. http://www.
euractiv.com/en/energy-efficiency/eu-leaders-dodge-energy-efficiency-summit-news-501837
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年報 公共政策学
Vol. 6
る戦略的一貫性を高めた政策文書を出すことを求めるという結論しか出なかった。こ
れは激変する国際環境の中で、EU 加盟国はそれぞれの立場を維持し、中東・北アフ
リカ情勢やロシアの大統領選挙の行方など、様々な不確定要素が多いなかで、EU に
権限を移譲するリスクが大きいと判断した結果であろうと思われる。それだけに、各
国は自国へのエネルギーの安定供給を確保するための権限を保持し、状況に柔軟に対
応できるようにしておきたかったのである。また、ロシアに対して、EU として「ル
ールに基づく、透明性のあるパートナーシップを構築すること」を求めているが、こ
れは、EU にロシアとの交渉の権限を一定程度付与することを認めつつ、その範囲を
ロシアとの間のルールの構築に限定している点が重要である。つまり、このエネルギ
ーサミットでは、エネルギー安全保障の最終決定権は加盟国にありつつも、その環境
を整える役割を EU に与えるという分業関係を明示化したものといえよう。
4. 「資源外交」の正面作戦:ロシア
欧州における資源外交は、1970年代から常にソ連/ロシアとの間での外交が中心的
なテーマであった。冷戦時代においては、地政学的な観点からソ連に対する依存度を
高めることに対しての懸念や、大西洋同盟のパートナーであるアメリカは、欧州がソ
連に対して脆弱になることを懸念し、ソ連とのガスパイプライン建設を中止させるべ
く圧力をかけてきたが、結局、エネルギー供給の多様化を目指す欧州の戦略が維持さ
れ、ソ連/ロシアとの資源外交は比較的安定的なものであった。
このソ連/ロシアと欧州の資源外交が安定的に行われていた背景には、両者の相互
依存関係があったことがよく知られる。一方で、安定的で多様なエネルギー供給を確
保しようとする欧州の利害があり、他方で、国際的に孤立し、経済的な困難を抱えた
1980年代以降のソ連、そして1990年代のロシアにとって、大規模なエネルギー消費地
である欧州にガスを供給することで安定した外貨獲得を見込むことが出来、また、
LNG 設備や輸出のための港湾整備が整わないソ連/ロシアにとっては、地上のパイ
プラインでガスを供給できる欧州は理想的なパートナーであった。さらに、欧州から
の積極的なインフラ投資や技術移転によって、技術輸出管理の制限に直面していたロ
シアにとっては渡りに船でもあり、それはロシア時代になっても変わらなかった。
このような関係が一変するのがプーチン大統領の就任と「強いロシア」の再構築と
いう国家イメージの高揚であった。すでに論じてきたように、2005年のオレンジ革命
によって反ロシアを標榜するユーシェンコがウクライナの大統領になったことで、ロ
シアは露骨にウクライナに圧力をかけ、天然ガスの供給を武器にして反ロシア路線を
変更させようとした。それは結果的に、ロシアとの良好なパートナー関係を築いてき
た欧州にも波及する問題となり、欧州も利害を共有する問題となってしまったのであ
る。
ここで、ロシアと欧州の間のパイプラインの経路を見ておく必要がある。下の図 1
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
は主要なロシアと欧州を結ぶパイプラインの概略図である。
ここから明らかなように、現在、ロシアからの天然ガスは Yamal と Brotherhood、
Soyuz と呼ばれるパイプラインを通って欧州に供給されており、いずれもベラルーシ
やウクライナを経由する形になっている。
これに対し、欧州は、ロシアとの関係が不安定になりやすいウクライナやベラルー
シを経由せず、ロシアやカスピ海沿岸から直接ガスの供給を受けるようなパイプライ
ンの建設が進められている。これらの新たなパイプライン計画を巡って、様々な駆け
引きが行われており、それが現在の欧州の資源外交の中心的な課題となっている。
主要な駆け引きの舞台は北と南で展開されている。北は Nord Stream と呼ばれるバ
ルト海の海底に敷設される、ロシアのガスプロムの子会社によって建設されているパ
イプラインである。これは、本来経由国となるはずのエストニアやポーランドをバイ
パスし、ロシア領内から直接ドイツに天然ガスを供給するものであり、経由国として
の便益を受けるはずのバルト三国やポーランドは Nord Stream の建設に反対の姿勢を
表明している。そのため、ガスプロムは2005年に首相の座を退いたシュレーダーを重
役として招き、欧州域内でのロビイングで影響力を発揮することを期待している。そ
図1. 欧州―ロシア間ガスパイプライン
(出典)Economist, July 16th, 2009
http://www.economist.com/node/14041672
- 151 -
年報 公共政策学
Vol. 6
の効果もあり、Nord Stream の計画は順調に進められているが、EU 全体が支援するプ
ロジェクトとしては認められておらず、ガスプロムが期待している EU からの資金援
助が得られないという問題が起きている。
もう一つの舞台はやや複雑である。ここでは主要な提案が三つ錯綜しており、それ
らを巡る経由国の争いが激しい。ロシアが中心となって建設しようとしているのが
Nord Stream の姉妹版である South Stream であり、黒海のロシア沿岸からウクライナ
をバイパスしてブルガリアに接続し、そこから欧州に天然ガスを供給するルートであ
る。これに対して、EU が当初提案していたのが White Stream と呼ばれる、グルジア
のトリビシからクリミア半島を経由し、ルーマニアに接続するルートであった。この
提案のポイントは、ロシアを供給国とせず、カスピ海沿岸のアゼルバイジャンから直
接欧州に接続するルートを確保し、供給国の多様化が可能となる点にあった。しかし、
このルートはロシアとの関係が良好ではないグルジアやウクライナを経由するため、
天然ガス供給の不安定化のリスクがあるとして、十分な支持を得られていない。逆に、
現在のEU が積極的に進めようとしているのがナブッコ(Nabucco)ルートである。
これはイラクのクルド人自治区からトルコを経由し、ブルガリアから欧州に接続する
ルートである。これは中東諸国からの天然ガスも、またカスピ海沿岸からの天然ガス
田にも接続しており、ロシアからのガス供給が止まったとしても、供給国の多様化に
よってリスクを回避できるという利点がある。また、ナブッコはイタリア-トルコ-
ギリシャ接続ルート(Italy-Turkey-Greece Interconnector: ITGI)やアドリア海横断パイ
プライン(Trans Adriatic Pipeline: TAP)にも接続し、ギリシャ、アルバニアを経由し
てイタリアに接続するルートにも貢献する。このナブッコを軸とするルートは EU に
よって支援されており、シュレーダー政権の外務大臣であったフィッシャーが顧問を
務めるなど、欧州の中でも最も存在感と期待が大きい。
しかし、このナブッコルートも必ずしも安定しているとは言い切れない問題がある。
それは供給国となるアゼルバイジャンやカスピ海の逆の沿岸にあるトルクメニスタン
における政情不安の問題である。これらの国々ではエネルギー価格の高騰により、急
速な経済成長を遂げているが、同時にその経済成長が独裁政権を支えており、天然ガ
スの市場が変化することによって、これらの国々がロシア同様、ガスを交渉材料とし
た外交政策を展開する可能性もあるからである。
そのため、EU は欧州近隣政策(European Neighborhood Policy: ENP)を展開し、こ
れらの国々との良好な関係を維持しつつ、「エネルギー憲章条約」や「エネルギー共
同体条約」に基づく、エネルギー自由貿易と規制の標準化を武器に、安定したエネル
ギー供給を確保しようとしている。
5. 「資源外交」の搦手作戦:北アフリカ
しかしながら、2011年 5 月に出された、新たな欧州近隣政策の政策方針では、この
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
エネルギーの問題がすっかり抜け落ちる状況となった16)。それは、中東・北アフリカ
で起こった「アラブの春」に起因している。2011年 1 月のチュニジアから始まった、
民主化を求める大衆運動は、中東・北アフリカ諸国の独裁政権を揺るがし、これまで
安定的にエネルギーを供給してきた国々、とりわけ欧州にとって重要であるリビアに
おける資源外交のあり方に疑問を投げかける結果となったからである。これまで欧州
は2003年のリビアの核放棄をきっかけにエネルギー供給国としてのリビアとの関係を
深めており、間接的にリビアのカダフィ政権を支える形となっていた17)。しかし、そ
うしたカダフィ政権との蜜月の関係が、結果的にチュニジアの「ジャスミン革命」に
刺激されて巻き起こった民主化要求運動を抑圧する側の片棒を担ぐ結果となってしま
い、民主主義や人権を外交政策の中核とする EU の価値観と大きく矛盾する結果とな
っていることが明らかとなった。
そのため、英仏は、その他の政治的思惑も含め、積極的に反政府勢力を支援し、こ
れまでのカダフィ政権を間接的に支援してきた過去を否定するかのように反政府勢力
の国家承認といった外交的支援だけでなく、NATO を通じた軍事的支援にまで乗り出
し、国連安保理決議の枠を超える形でカダフィ政権への攻撃を強めている。EU の欧
州近隣政策も、そうした流れを受けて、中東・北アフリカにおける民主主義運動を支
援するとともに、これまで資源外交の枠組みの中で独裁政権を支援することを容認し
てきた過去を見直し、民主化運動がどのような結果になろうとも、EU の外交政策の
中軸には民主主義と人権の擁護を据えるという姿勢を明確にしたのである。
この政策転換が資源外交という観点から見て、どのような結果を生み出すのかは定
かではない。場合によっては民主化運動の結果、イスラム原理主義的な立場を取る政
権が生まれるリスクもあり、その場合、欧州との安定した関係を築くことが出来ると
いう保証はない。また、リビアのケースのように、戦闘員として訓練されていない市
民が武器を取って独裁政権と内戦状態になると、容易に決着がつかず、多数の死傷者
を生み出すという問題も出てくる。さらに、すでに北アフリカから多数の難民がボー
トで地中海を横断し、イタリアやマルタに漂着しており、こうした移民をどう受け入
れるのかという問題について、EU は混乱した状況にある。チュニジアからの難民を
受け入れたイタリアは、EU 域内を自由に移動できるシェンゲン協定の加盟国であり、
難民のイタリア国内での移動の自由を認めると、彼らは自由にシェンゲン協定の加盟
国に移動することが出来る。チュニジアからの難民の多くはフランスに移住すること
16) European Commission, “A new and ambitious European Neighbourhood Policy”, Brussels, 25 May
2011, IP/11/643
17) このような資源国が独裁政権や内戦によって貧困状態にあり、それを先進国が支える構造
は Resource curse(資源の呪い)と呼ばれている。代表的な研究として Macartan Humphreys,
Jeffrey D. Sachs, Joseph E. Stiglitz (eds). Escaping the Resource Curse. Columbia University Press,
2007 を参照。
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年報 公共政策学
Vol. 6
を希望していたため、フランスは一時的にイタリアからの人の移動に制限をかけたこ
とで、シェンゲン協定に違反しているとしてイタリアと険悪な関係になった。
このように、中東・北アフリカにおける民主化運動が欧州に及ぼす影響は大きく、
まだこの運動が収束していないため、今後の展開を予測することは難しいが、資源外
交という観点から見ると、もうひとつの側面が見えてくる。それは、化石燃料の供給
国としての中東・北アフリカというだけでなく、再生可能エネルギーの供給国として
の中東・北アフリカという関係である。それを体現しているプロジェクトが Desertec
である。この Desertec はドイツのジーメンスや RWE、ドイツ銀行などで構成される
Desertec Industrial Initiative Consortium が主導し、EU が支援する(ちなみに欧州委員
会のエッティンガーエネルギー担当委員はドイツ出身)プロジェクトで、チュニジア、
モロッコ、アルジェリア(いわゆるマグレブ諸国)の砂漠地帯に太陽光発電の設備を
大規模に整備し、そこから欧州に電力を供給するというものである。このプロジェク
トも政治的な安定性、とりわけ設備が大規模であるだけに、政情不安から内戦状況に
陥った場合や、イスラム原理主義のテロが起きた場合などはテロの標的となりやすい
死活的なインフラであるため、リスクが大きくなる。
そのため、欧州にとって、今後の中東・北アフリカに対する資源外交の基本的な路
線としては、一方で民主主義と人権の擁護を推進するという立場を明確にしつつ、同
時に、この地域における政治的安定を目指すという二つの大きな目標を達成しなけれ
ばならない。
しかしながら、ここで EU 特有の問題に直面することとなる。それは、中東・北ア
フリカのエネルギーに依存していない北ヨーロッパ(イギリスや北欧諸国)は一般的
に前者の民主主義的価値の推進を強調するのに対し、これらの地域に強く依存してい
るイタリアやフランスなどは政治的安定とエネルギー供給の安定を優先しがちである、
という問題である。現時点では、EU が一体となって民主主義的価値の実現という方
向に向かっているが、今後、中東・北アフリカ地域が一定の安定を見せた後、どのよ
うな政治勢力が支配的になるかによって、この違いが出てくる可能性がある。これは
EU の資源外交にとって大きな足かせとなり、これまで見てきたような加盟国間の対
立によって EU が統一的な政策をとれないような状況が生まれる可能性もある。
さらに、本報告の対象からは若干離れるが、アフリカ大陸との関係で大きな問題を
抱えるのは、欧州の原子力発電に不可欠なウランの供給を巡る問題である。欧州が使
用するウランのほとんどはアフリカ大陸、特に旧フランス植民地であるニジェールか
ら供給されているが、日本の福島第一原発の事故を受けて欧州の原子力政策が多いに
揺らいでいる。そのため、欧州の原子力を支えるウランの供給に関する資源外交のあ
り方にも変化が生まれる可能性がある。というのも、アフリカ大陸でウランを産出す
る国々では、現在、アルカイダ系のイスラム原理主義テロ集団が成長しており、しば
しば原子力産業の関係者を誘拐する等の事件を起こしている。欧州の資源外交という
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EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
観点から見ると、ウランの安定供給についても、様々な問題を内包しており、そのう
え、欧州の原子力政策自身が各国ごとに大きく異なる方向を向いているため、統一的
な政策を展開できるのか、疑問は尽きない。
まとめ
本稿では、EU の資源外交をめぐる政策的な展開と、近年の欧州のエネルギー事情
やエネルギー供給国における変化への対応を見てきたが、ここから欧州における資源
外交とはどのようなものなのかをまとめてみたい。
第一に、欧州における資源外交とは、加盟国が独自に展開するエネルギーの安定供
給戦略があり、その基本には各国のエネルギー政策の差異の大きさがある。化石燃料
一つとっても、北海油田にアクセスのあるノルウェー(EU 加盟国ではない)やイギ
リス、オランダなどの立場と、そのアクセスがない国々では異なり、また、天然ガス
をロシアから輸入しているドイツやオーストリア、ギリシャ、中東欧諸国とその他の
国々では対応が大きく異なる。さらに、パイプラインの敷設計画に伴って、自国への
エネルギー供給を安定化させ、価格を下げていくためにも、パイプラインのルートを
巡って各国が激しく駆け引きを行っている。また、原子力政策では、福島第一原発の
事故をきっかけにドイツが脱原発路線に政策転換し、イタリアも停止していた原発を
再稼働させるための国民投票で脱原発路線を明らかにした。ドイツやイタリアに加え、
これまで原子力発電を否定してきたオーストリアや原発をもたないポルトガルやアイ
ルランドなどは原子力の利用そのものに反対している。逆に原発に依存するフランス
やイギリス、中東欧諸国は、それでも積極的な原子力利用の推進を掲げている(図 2
参照)。このように、各国のエネルギー政策が大きく異なっており、エネルギー政策
が統一されない中で、統一的な資源外交を展開することは、極めて困難であろう。
したがって、第二に、EU が展開する資源外交は、主として資源供給国との間のル
ール作りが中心となる。エネルギー憲章条約やエネルギー共同体条約といった、自由
貿易ルールを基礎として、EU に権限が与えられている通商分野や規制の分野でのア
プローチが中心となっている。これは、各国のエネルギー戦略を潤滑に進める上での
戦略的・制度的インフラを提供し、その点では EU の資源外交の一つの成果として見
ることが出来るであろう。
第三に、EU の資源外交の対象は EU 域内にも向けられる。域外の国の資源に対す
る依存度を減らすためには、域内の需要を減らすことも一つの資源外交である。つま
り、EU が権限をもつ環境政策と、グローバルな環境政策におけるリーダーシップを
一つの資源外交の軸として定め、域内で化石燃料に依存しない再生可能エネルギーの
利用を促進し、その技術的な優位性を確立したうえで、域外に対して気候変動枠組条
約などを通じた働きかけを行っていくことで、資源との取引を進めるという複雑な戦
略を展開している。これが典型的に現れるのが EU 域内で展開する排出権取引を域外
- 155 -
年報 公共政策学
Vol. 6
図2. 欧州各国の原子力発電所
(出典)Die Spiegel, April 11th, 2011 http://www.spiegel.de/international/business/bild-756251-199568.html
に適用するカーボン・クレジットの戦略であり、また、Desertec のように、域外国で
の再生可能エネルギー技術の移転と、それによるエネルギー供給の確保である。これ
は通常使われる「資源外交」のイメージとは遠く感じるものであるが、EU が展開す
る資源外交のツールとしては重要な意味をもつ。
このように、EU における資源外交は、加盟国レベルの外交と EU レベルの外交と
いう戦略的矛盾を抱えながらも、EU が持っている制度的権限をフルに活用し、京都
議定書のようなグローバルな制度やカーボン・クレジット、さらには WTO ルールな
どの制度的な資源を活用した資源外交を展開している。また、1970年代の IEA の設
立に見られるように、エネルギーの一大消費地としてのバーゲニング・パワーを活用
し、安定的なエネルギー供給を実現しようとしている。
このような努力の結果、EU は一歩ずつ資源外交のアクターとしての能力を高めつ
つあるが、しかしながら、最終的な決定権限が加盟国にあり、交渉相手(とりわけロ
- 156 -
EU の「資源外交」を巡る戦略とその矛盾
シア)が EU 加盟国の間のエネルギー政策の差異に付け込んで、EU ではなく加盟国
と直接交渉をするようになると、EU の結束が乱れ、統一的な資源外交を展開するこ
とが困難となる。
ゆえに、EU がこれから資源外交を展開し、中国やインドなどの巨大なエネルギー
消費国との競争が激しくなってくる中で存在感を示すためには、加盟国のレベルでの
エネルギー政策の調和と、EU に対する資源外交の権限の移譲が不可欠となってくる
であろう。加盟国が自国の利害だけを守ろうとすれば、エネルギー供給国に付け入る
隙を見せることとなり、欧州全体のエネルギー安全保障を確保することが出来なくな
る。福島第一原発の事故をきっかけに欧州各国がエネルギー政策を見直す中で、単に
原子力の問題だけでなく、欧州の資源外交をも含む政策の展開が出来るようになれば、
EU もグローバルな舞台で資源外交の重要なプレーヤーとしての存在感を増すことが
出来るだろう。
- 157 -
年報 公共政策学
Vol. 6
The EU’s Strategy for “Resource Diplomacy”
and Its Contradiction
SUZUKI Kazuto
Abstract
This article discusses the chronological development of EU's energy security policy and its
problems.
Because energy security is primarily a responsibility of national governments, the
European Union (European Commission in particular) was not able to formulate unified
energy policy.
But at the same time, due to the lack of natural energy resources, EU member states needed
to cooperate in order to increase bargaining power against energy rich regions such as Middle
East or Russia. The problem of international negotiation became clear when Russia and
Ukraine increased the political tension, and in order to secure supply of natural gas from
Russia, EU launched the discussion with Green Paper which resulted the first comprehensive
energy policy in 2007. Furthermore, the "Energy 2020", a new policy document suggested
the necessity for EU to influence the process of rules- and standard-making to secure the free
trade environment for energy resources.
However, the division of competence between member states and EU still make it difficult
to formulate comprehensive energy policy. Furthermore, dynamic change of international
environment such as "Arab Spring" and Russo-Ukraine conflict, and different reactions and
interests of member states complicated the EU strategy for energy rich regions.
This
structural contradiction of EU's energy security policy implies that EU may not be hegemonic
power in international arena, but their role as a giant consumer of energy would have a power
to shape international energy market.
Keywords
resource diplomacy, energy security, gas pipeline, energy strategy, European integration
- 158 -
中国における CO2 排出の特徴に関する分析
中国における CO2 排出の特徴に関する分析
王
磊
1. はじめに
気候変動は国際社会が関心を持つ重大かつ世界的な問題である。地球温暖化の影響
が世界の気候システムに多くの変化を引き起こし、我々人類の将来にも重大な影響を
及ぼすと予測される。近年中国は高い経済成長率を遂げるとともに、CO2 の排出量は
急速に増加し、2008年にアメリカを抜いて、世界一の CO2 排出国になった。中国に
おける CO2 の排出状況、増加の背景、温暖化問題に対する解決策等が、全世界から
注目されている。
中国の CO2 排出状況は、1978年以前、生産の技術レベルが低いため、CO2 の排出
量とエネルギー強度は共に増加していた。1978年以降、エネルギー利用効率の改善、
産業構造の調整によりエネルギー強度は減少しつつあり、主に経済成長等の要素が
CO2 の排出を誘発している 1)。経済成長は CO2 の排出を誘発する最大の要因である 2)。
大量のエネルギー消費、収入の増加、貿易開放度の増大等が CO2 の排出を増加させ、
特に輸出貿易によって CO2 排出量の10%-27%が誘発された 3)。要するに、短期的に
見ると、経済急成長により中国の CO2 の排出量が減少する可能性は低い。CO2 排出
誘因として、主に経済の成長、エネルギーの消費構造、人口の増加、都市化の進展、
国際貿易の活発化、インフラ整備、資本投資の増加、エネルギー効率の低下などが指
摘される。
本論文は以上の先行研究の成果を踏まえ、主に政治経済学的側面から中国における
CO2 排出の特徴を総括し、排出の特徴に基づく排出増加の背景を分析し、削減策に関
する課題を検討する。CO2 排出の削減は世界共通の課題であり、排出増加の背景にも
共通点がある。工業化へ進展中にある途上国において、大量のエネルギー消費、経済
成長、都市化進展、インフラ整理等は共通の要因になる。しかし、各国のエネルギー
消費構造、産業構造、資源状況により CO2 排出の特徴は異なる。この特徴を形成す
る背景の分析は、各国の状況に基づく削減策を策定する場合に必要である。したがっ
て、本論文は、中国の CO2 排出の特徴を総括し、その背景を政治経済学的方法によ
って分析する。LMDI 法での分析により、中国の CO2 の排出が増加しつつあるが、

1)
2)
3)
北海道大学大学院経済研究科博士後期課程
E-mail:[email protected]
Wang(2005)
Zhang(2009)
Yan(2010)
- 159 -
年報 公共政策学
Vol. 6
2001年以降急速に増加している傾向がみられる。部門別からみると、工業部門は最大
の排出部門である。エネルギー消費源において 7 割の CO2 が石炭の使用により排出
される。中国の各省の排出は不均衡である、という結果が得られた。削減策の実施に
ついて分析し、政府の失策は削減効果低下の最大の原因であることを指摘した。
本論文は以下の構成である。排出特徴を総括するため、まず LMDI(log-mean
divisia index、要因分析法の一つ)法を使って1990 - 2009年の CO2 の排出量を計算す
る。次に総括された排出特徴に基づく CO2 の排出背景を分析する。さらに、削減策
に関して、主に省エネルギーと再生可能エネルギー、この二つの面から削減策の課題
を検討する。最後に中国の削減策について展望する。
この論文のデータは「中国統計年鑑」(2010年版)、「中国エネルギー年鑑」(1996 2009年版)に記載されたデータを使用する。政治行政区として中国は全部で23省、5
自治区、4 直轄市、2 特別行政区があるが、この論文ではすべて「省」と表記する。
各省の統計にはマカオ、チベット、台湾、香港は含まれない。
2. 中国における CO2 排出の特徴
2.1 CO2 排出量の計算方法
CO2 排出量の計算について本論文は LMDI 法を使う。LMDI 法は1970年代以来よく
使われている要因分析研究法の一つであり、このモデルは CO2 の総排出量の変化が
すでに既知の影響因子により引き起こされることを前提として仮定し、残差が生じな
いため、近年 CO2 の排出量の分析にもよく使われている。
以下、LMDI モデルの説明と、それを使った計算結果を示す。
全国、各省、各産業のエネルギー起源の CO2 の排出量を Kaya 恒等式 4)により展開
し、下記のように表記する 5)。
C = ∑Ci = ∑(Ci/Ei)(Ei/E)(E/Y)(Y/P)P = FSIGP
C:
エネルギー消費により排出される CO2 排出量(万標準炭トン)
i:
1 次エネルギー種類(石炭、石油、天然ガス)
E:
各種類エネルギー消費量、標準石炭で換算する(万トン)
Y:
国内総生産値(実質 GDP、2005年の価格で計算する)(億元)
P:
総人口数(万人)
東京大学の茅陽一名誉教授は,人類の活動と CO2 の排出量との関係を表した、いわゆる
「茅恒等式」を提唱した。この式は1990年に IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に
CO2 排出量抑制の GDP 成長に与える影響として報告され、IPCC の第 4 次評価報告書でも
参照された。
5) Ang(2004)、Wang(2005)
4)
- 160 -
中国における CO2 排出の特徴に関する分析
t:
当年度
F = Ci / Ei:各種類エネルギー消費により排出される CO2 の炭素排出係数
S = Ei / E :エネルギー消費構造
I = E / Y :エネルギー消費強度(万標準炭トン/万元)
G = Y / P :1 人当たりの国内総生産値(万元/人)
そして、年排出量の差は下記の方式で表す。
△C = Ct - Ct-1 = Ft St It Gt Pt - Ft-1 St-1 It-1 Gt-1 Pt-1
更に展開すると、
△C = △CF + △CS + △CI + △CG + △CP
△CF = L (Ct、Ct-1) ln (Ft / Ft-1)
△CS = L (Ct、Ct-1) ln (St / St-1)
△CI = L (Ct、Ct-1) ln (It / It-1)
△CG = L (Ct、Ct-1) ln (Gt / Gt-1)
△CP = L (Ct、Ct-1) ln (Pt / Pt-1)
ここで、L (Ct、Ct-1)=(Ct - Ct-1)/ ln (Ct / Ct-1)
「中国統計年鑑(2010年版)」に記載されたエネルギー総消費量、国内総生産額と総
人口数のデータを LMDI モデルに代入して下記のような結果が得られた。1990年を
基準年として、1990 - 2009年における2009年の時点で全国の CO2 総排出量の年間平
均的な増加率は 7 %、1 人当たり CO2 排出の年間平均増加率が6%である。
(単位:万標準炭トン)
図1. 中国における CO2 総排出量(1990 - 2009年)
(出典) LMDI モデルにより計算した結果で著者が作成した
さらに、CO2 排出の年間増加率の結果を表1で表す。
エネルギー消費源については、石炭、石油、天然ガスなど 1 次エネルギーの使用に
より排出された CO2 排出量を多い方から順に、石炭、石油、天然ガス、という結果
が得られた。最大の排出源は石炭であり、排出量の約75%を占め、最小の排出源は天
- 161 -
年報 公共政策学
Vol. 6
然ガスであり、排出量
の約 5 %を占めた。石
表1. CO2 排出の年間増加率(%)(1990 - 2009年)
1990-1991: 5
1995-1996: 6
2000-2001: 3
2005-2006: 10
油の使用により排出さ
1991-1992: 5
1996-1997: -0.8
2001-2002: 6
2006-2007: 8
れ た CO2 の 排 出 量 は
1992-1993: 6
1997-1998: -4
2002-2003: 15
2007-2008: 7
石炭より少ないが、
1993-1994: 6
1998-1999: 1
2003-2004: 16
2008-2009: 8
1996 年 か ら 増 加 し て
1994-1995: 7
1999-2000: 4
2004-2005: 11
2002年に最大となり、
(出典) LMDI モデルにより計算した結果で著者が作成した
2003年から減少する傾向が見られる。
各産業により排出された CO2 の排出量は図 2 にまとめた。中国において第 2 次産
業により排出された CO2 の排出量が圧倒的に多く、全産業の排出量の約73%を占め
る一方、第 1 次産業は排出量のわずか約 3 %である。第 3 次産業により排出された
CO2 の排出量は、1995年から徐々に増加し、現在排出の25%を占めている。
図2. 各産業により排出された CO2 排出量の割合
(出典) LMDI モデルにより計算した結果で著者が作成した
中国は国土面積が広く、省ごとに自然状況や経済成長及び社会の格差が大きい。し
たがって、各省の CO2 排出の状況も様々である。1990 - 2008年の各省の総 CO2 排出
量を多い方から順に、山東、河北、広東、江蘇、遼寧、河南、山西、四川、浙江、湖
北、湖南、内モンゴル、黒竜江、上海、安徽、吉林、福建、雲南、貴州、北京、陝西、
新疆、広西、甘粛、天津、江西、重慶、寧夏、青海、海南、という結果が得られた。
累積排出量が多い地域は東部沿海、中部に集中し、少ない地域は西部に集中している。
1990 - 2008年の増加率を計算すると、増加率が大きい省は、内モンゴル、広西、福建、
海南、山東、浙江であり、増加率が小さい省は、北京、黒竜江、遼寧、吉林、四川で
ある。増加率の変化より、CO2 の排出は東部沿海地域 6)から中部、西部地域に移動す
6)
中国の四つ経済地域:東北地域(遼寧、吉林、黒竜江)、中部地域(山西、河南、安徽、
- 162 -
中国における CO2 排出の特徴に関する分析
る傾向が見られる。
以上の計量分析をまとめると、次のような中国における CO2 の排出特徴が得られ
る。中国では近年 CO2 の排出が急速に増加し、特に2002年以降顕著に増加した。産
業面において、工業部門により排出された CO2 の排出量は総排出量の約7割を占めた。
エネルギー消費源において、石炭により約75%、石油により約20%、天然ガスにより
約 5 %の CO2 が排出された。省別において、各省の CO2 排出の格差が大きく、東部
沿海地域、中部地域の累積 CO2 排出量は西部地域より多い。近年 CO2 の排出は東部
沿海地域から中部、西部地域に移動する傾向が見られる。
2.2 排出特徴の背景
LMDI モデルにより、ある国の CO2 の排出は、エネルギーの種類、1 人当たりの
GDP、人口の要因、エネルギー利用効率に左右されることが示唆されているため、
CO2 排出の特徴の背景については、以上の要因を政治経済学的側面から分析する。
2.2.1 2001年以降の排出量の急増に関する背景
中国の2001年以降のエネルギー消費の種類、人口、エネルギー利用効率は変化して
いるが、CO2 排出の変化より小さい。ここで考えられるのは CO2 排出の1/3を占める
輸出貿易と 1 人当たりの GDP の変化である。これらの増加率と CO2 排出の増加率を
比較してみよう。1998年アジア金融危機のため、輸出貿易収入の増加率は 1 %に激減
し、1996 - 1998年 CO2 の排出増加率はマイナスになった。2001年に中国は WTO に加
入し、輸出の拡大と外資の吸収により生産が拡大され、輸出貿易収入の増加率は22%
に急増し、CO2 の排出増加率も著しく増加した。1 人当たりの GDP の増加率は、
1991 - 1992年には11%であったが、1996 - 1998年に6.6%へ減少し、1999年から増加
に転じ、2005 - 2006年に最高の13.6%になった。輸出貿易と 1 人当たりの GDP の増
加率は、CO2 の排出増加率の変化とほぼ一致する。したがって、2001年以降輸出貿易
の拡大とともに生産の増加、貿易額の上昇により 1 人当たりの GDP が増加し、これ
らが排出量の急増をもたらしたのである。
CO2 排出量の急増に伴う 1 人当たりの排出量も急増し、先進国より低いものの、世
界平均レベルを超えた。IEA の統計データにより、2008年に中国における 1 人当たり
CO2 の排出量は 5 トン、同期アメリカの1/4に過ぎないが、世界 1 人当たり平均 CO2
排出量の 4 トンを超えた。今後、CO2 排出量の統計上において中国の人口優位性がな
くなり、より一層削減の責任を取らなければならないと考えられる。
CO2 排出強度(GDP 当たり CO2 排出量)について、GDP と CO2 の排出量が増加し
湖北、湖南、江西)、東部沿海地域(北京、天津、河北、山東、上海、江蘇、浙江、福建、
広東、海南)、西部地域(内モンゴル、陝西、寧夏、甘粛、青海、新疆、四川、重慶、広
西、雲南、貴州)。
- 163 -
年報 公共政策学
Vol. 6
つつあるものの、CO2 排出強度は減少する傾向が見られる。技術進歩や科学発展によ
り GDP 1 単位を創造するために消費されるエネルギーが減少しつつあることにより、
1978 - 2000年に CO2 排出強度の減少幅はかなり大きかったが、2001年以降排出量が
急速に増加し、排出強度の減少幅は縮小している。
2.2.2 排出不均衡の現状に関する背景
各産業の CO2 排出量の計算結果に基づくと、第 2 次産業、すなわち工業部門が最
大の CO2 排出部門であり、2008年の総排出量の約72%を占めた。工業部門に属する
電力部門は石炭の最大の消費部門であり、約半分以上の石炭を消費し、2008年の総排
出量の約35%を占めた。工業部門は90%以上の石炭を消費し、GDP 貢献率は約50%
であるため、CO2 の排出要因は、主に工業部門のエネルギー消費種類、工業部門
GDP の増加、エネルギー利用効率にあると考えられる。工業部門が最大の排出部門
となる原因について政治的側面から見ると、それは中国政府が工業を優先的に発展さ
せた政策の結果である。中国政府は国民生活レベルを向上させるため、GDP に対す
る貢献度が高い電力、化学、製鉄、製鋼などに力を入れている。これらの産業は、高
い経済成長率を保ち経済発展に重要な役割を演じている一方、大量の廃棄物や汚染物
を排出し、環境にとっては負担が重く、CO2 の排出量も多い。さらに、現在のエネル
ギー利用効率は依然として低い。中国統計年鑑に記載されたデータにより、2007 年
にセメント 1 トンを生産するために日本のエネルギー消費は118kg 標準石炭、中国は
158kg 標準石炭である。2008年に鉄鋼 1 トンを生産するために日本のエネルギー消費
は626kg 標準石炭、中国は709kg 標準石炭である。2008年に電力 1 kWh を生産するた
めに、日本の石炭消費量は309g、中国は345g である。したがって、工業部門、特に
エネルギー転換部門に対して省エネルギーやエネルギー効率の改善を急速かつ確実に
実施することは CO2 排出の削減に大きく貢献できるはずである。
エネルギー消費構造面について、CO2 排出量の 7 割以上は石炭の燃焼により排出さ
れた。その原因の一つは中国のエネルギー資源分布である。中国には石炭の埋蔵量が
多く、エネルギー消費の中心となっている。このようなエネルギー消費構造を持つ国
は世界で数少ないといえる。石炭の炭素排出係数は高く、燃焼により CO2 と SO2 が
大量に排出され、大気汚染の一つの重要な原因ともなる。さらに、エネルギー資源の
分布が不均衡である。石炭資源は主に華北、西北地域に分布し、水力資源は主に西南
地域にあり、石油、天然ガス資源は主に東部、中部、西部地域と海域に集中している。
石炭の生産量が多いのは山西、内モンゴル、陝西、河南、山東であり、石油の生産量
が多いのは、黒竜江、新疆、山東、陝西、天津である。しかし、中国の主なエネルギ
ー消費地域は東南沿海の経済発達地域に集中し、資源埋蔵地とエネルギー消費地が離
れている状況である。長距離の「北煤南運」(北部の石炭を南部に送る)、「北油南運」
(北部の石油を南部に送る)、「西気東輸」(西部のガスを東部に送る)、「西電東送」
- 164 -
中国における CO2 排出の特徴に関する分析
(西部の電力を東部に送る)は、中国のエネルギー輸送の基本的な構造であり、輸送の
ために大量のエネルギーを消費し、輸送により排出される CO2 量は少なくない。
各省の CO2 排出の不均衡の原因は主に各省の経済規模の格差にある
7)
。ここで
2005 - 2009年の各省の総生産値、1 人当たり GDP の平均値、総 CO2 排出量、1 人当
たり CO2 排出量の平均値、CO2 排出の平均年間増加率、エネルギー強度の平均値の
データをまとめて順位づけると以下のような結果が得られた。順位から見ると、GDP
第 1 位である広東は、CO2 の排出は第 3 位、CO2 排出の平均年間増加率は第19位、エ
ネルギー強度は第29位である。GDP 第 2 位である山東は、CO2 の排出は第 1 位、CO2
排出の平均年間増加率は第16位、エネルギー強度は第19位である。GDP 第 3 位であ
る江蘇は、CO2 の排出は第4位、CO2 排出の平均年間増加率は第14位、エネルギー強
度は第26位である。GDP 第 4 位である浙江は、CO2 の排出は第 9 位、CO2 排出の平
均年間増加率は第27位、エネルギー強度は第28位である。GDP 第 5 位である河南は、
CO2 の排出は第 5 位、CO2 排出の平均年間増加率は第15位、エネルギー強度は第18位
である。それに対して、GDP 第26位である貴州は、CO2 の排出は第16位、CO2 排出
の平均年間増加率は第24位、エネルギー強度は第3位である。GDP 第27位である甘粛
は、CO2 の排出は第25位、CO2 排出の平均年間増加率は第23位、エネルギー強度は第
6位である。GDP 第28位である海南は、CO2 の排出は第30位、CO2 排出の平均年間増
加率は第 7 位、エネルギー強度は第24位である。GDP 第29位である寧夏は、CO2 の
排出は第28位、CO2 排出の平均年間増加率は第2位、エネルギー強度は第 1 位である。
GDP 第30位である青海は、CO2 の排出は第 5 位、エネルギー強度は第 2 位である。
以上をまとめると、GDP が大きくなればなるほど、CO2 の排出量が多くなる。GDP
が大きいと、エネルギー生産性が高くなり、CO2 排出の増加率は小さい。したがって、
経済が先に成長した省は、エネルギー生産性が高いため、CO2 排出の増加率が減少し
ている。経済成長が遅れている省は、大量のエネルギー消費がCO2 排出の増加をもた
らし、さらにエネルギー生産性が低いため、CO2 削減にかなりの工夫が必要になると
考えられる。
2.2.3 排出の地域移動
1990 - 2008年の各省のCO2 排出増加率の変化より、CO2 排出は東部沿海地域から中
部、西部地域へ移動する傾向が見られる。1990 - 2000年にCO2 排出増加率が大きいの
は浙江、広西、福建、海南、広東であり、増加率が小さいのは、湖南、黒竜江、陝西、
吉林、四川である。2000 - 2008年に増加率が大きいのは内モンゴル、陝西、湖南、山
東、寧夏であり、増加率が小さいのは、北京、黒竜江、遼寧、貴州、安徽である。こ
の二組のデータにより、CO2 の排出は東部沿海地域から中部、西部地域に移動する傾
7)
Clarke-Sather(2011)
- 165 -
年報 公共政策学
Vol. 6
向が見られる。各省の間の人口の移動に伴うCO2 排出の変化を細かく把握できないが、
原因は主に各省のエネルギー消費量の変化、エネルギーの利用効率の格差と地方
GDP 成長の変化にあると考えられる。政治経済学的側面から分析すると、原因は主
に地域発展の不均衡にある。東部沿海地域は地理優位性や政府の政策的支援により先
に経済成長を遂げた。1 人当たりの GDP からみると、最も富裕な上位 5 省は東部沿
海地域にある上海(6.5万元、以下の単位を省略)、北京(5.7)、天津(4.7)、浙江
(3.7)、江蘇(3.4)であり、下位 5 省は広西(1.3)
、安徽(1.2)
、雲南(1.0)
、甘粛
(1.0)、貴州(0.8)である。トップ 3 位はすべて直轄市であり、上海は中国で最も発
展している国際的都市、北京は中国の首都、天津は北京に近く、港湾都市として国の
経済発展政策に恵まれて速やかな発展を遂げている。下位 5 省では安徽を除き、他の
4 省はすべて中国の西部にある。地方発展の格差の大きさ及び地域発展の不均衡が明
らかに読み取れる。この格差を縮小させるため、近年中央政府は様々な地域経済発展
政策を打ち出した。代表的な政策は「西部大開発」
、「中部地域の振興」、「東北工業基
地の振興」である。これらの開発政策により、西部、中部、東北地域のエネルギーの
消費が増加し、CO2 の排出は東部沿海地域から中部、西部地域に移動している。各省
の工業部門の変化からこの移動も明らかに見られる。2009年に工業生産額が大きい省
は江蘇(13.4%)、山東(13.0%)、広東(12.5%)、浙江(7.5%)、遼寧(5.1%)、
小さい省は海南(0.2%)、青海(0.2%)、寧夏(0.3%)、貴州(0.6%)、新疆
(0.7%)であるが、2006 - 2009年に工業生産額の平均増加率について、平均増加率が
大きいのは内モンゴル、江西、安徽、湖南、四川であり、平均増加率が小さいのは上
海、北京、黒竜江、浙江、新疆である。東部沿海地域の工業の成長が鈍化する一方、
中部、西部の工業が速やかに成長する傾向が見られる。さらに、中部、西部のエネル
ギー利用効率が低いため、東部沿海よりもっと多くのCO2 が排出されると考えられる。
工業生産額の平均増加率の変化に伴い、CO2 の排出は東部沿海地域から中部、西部に
移動すると考えられる。資源の埋蔵面からみると、エネルギー消費量が大きい東部沿
海地域は資源の埋蔵量が少ない。東北地域は石油の埋蔵量が豊富で全国の29.7%を占
める。中部地域は石炭の埋蔵量が豊富で全国の40.2%を占める。西部地域は全国の
32.4%の石油、82.9%の天然ガス、50.5%の石炭と豊富なエネルギー埋蔵量を持つ。
資源の埋蔵地は消費地と離れている現状であるため、消費地の需要に応じてエネルギ
ーを転換させ、そのエネルギー生産によってCO2 が排出される。現在、エネルギーの
埋蔵量が豊富な内モンゴル、雲南、四川、河南、寧夏は、電力を他省へ供給している。
他の省に電力を供給するために排出されたCO2 量は、当該地域の経済発展により生じ
たものというより、東部沿海地域の生産・消費活動のために排出されたという意味合
いがあることに留意する必要がある。
- 166 -
中国における CO2 排出の特徴に関する分析
3. 削減策の課題について
Kaya 恒等式により CO2 総排出量に影響する要素を、エネルギー消費構造、エネル
ギー消費強度、1 人当たりの国内総生産額、総人口数、エネルギー別の CO2 の炭素排
出係数、の五つの部分に分けることになる。これらの要因に対して削減策は、エネル
ギー構造面(Ei / E)において再生可能エネルギーへの転換、CO2 の炭素排出係数面
(Ci / Ei)において低炭素エネルギーの使用、総人口数面(P)において総人口数の抑
制、エネルギー消費強度面(E / Y)において省エネルギー、エネルギー利用効率の
改善・技術の進歩が挙げられる。本論文は主に省エネルギーと再生エネルギーに関す
る削減策の課題を検討する。
3.1 省エネルギーに関する課題
中国政府はエネルギー効率を改善するため、高エネルギー消費、立ち後れた生産能
力の企業を淘汰する政策を打ち出した。2007年に13業種の立ち後れた生産能力を淘汰
する地域別・年度別の「十一・五」計画が公布された。続いて10大産業(鉄鋼、自動
車、繊維、設備製造、電子情報、造船業、軽工業、石油化学、物流、非鉄金属)の振
興計画(2009 - 2011年までの 3 年間)の中で、鉄鋼、繊維、造船業、軽工業、石油化
学、非鉄金属の生産に対するエネルギー消費量の制限が制定された。さらに、中国に
おける最も重要な国民経済・社会発展の五ヵ年計画の中にも省エネルギー目標が盛り
込まれた。第 9 次、第10次五ヵ年計画においてエネルギー強度の削減目標が掲げられ、
さらに第11次五ヵ年計画で、2010年までに単位 GDP 当たりのエネルギー消費を2005
年比で20%削減するという削減の目標が提出された。
しかし、高エネルギー消費企業やエネルギー生産効率の低い産業の閉鎖を実施しつ
つあるにもかかわらず、第 9 次、第10次 5 ヵ年計画に掲げた削減目標は達成されなか
ったのである。考えられる原因の一つは高エネルギー消費企業の地方 GDP への貢献
が大きく、地方政府は財政収入のため、中央政府の省エネルギー政策の実施が不徹底
であるところにあるといわれる 8)。このような状況に対して、中央政府は第11次五ヵ
年計画が掲げた削減目標を達成するため、2007年 6 月に環境と省エネルギーの目標を
達成できなければ、ほかの業績がよい場合でも、責任者を昇進させないとする人事評
価の「一票否決制度」を導入した。削減目標に対する責任制度が取り入られ、目標を
達成できなかった場合は責任者辞任しなければならない。この制度を実施した後、
2010年に第11次五ヵ年計画が掲げた削減目標をほぼ達成した。
ここで地方政府が企業の地方 GDP への貢献を重視する原因を分析してみよう。地
方 GDP の成長が行政上の人事評価の基準である制度が基本的な原因であると考えら
れる。現在この人事評価制度は修正されつつあり、環境保護、省エネ・削減の成績な
8)
Chen(2011)
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年報 公共政策学
Vol. 6
ど新たな評価基準が盛り込まれたが、地方 GDP の成長、雇用、社会保障の完成度な
どはやはり大きな採点項目である。したがって、各地方政府は地方 GDP の成長、雇
用、社会保障などの項目に優先的に力を入れなければならなくなる。しかし、地方政
府の財政支出は不均衡である。地方政府は公共サービス、社会安全、教育、文化体育、
社会保障と雇用、仮住宅、医療衛生、環境保護、町と村の事務、農業、林業、交通運
輸、自然災害後の再建等各項目に関する支出の80%以上を負担しなければならないが、
2009年の地方政府の財政支出は61044億元である一方、財政収入は32602億元である 9)。
明らかに財政赤字の状態である。1994年の税収改革がこの財政不均衡の原因である。
この改革以降、中央政府の財政収入は1993年の22.0%から2009年の52.4%へ増加する
一方、地方政府の財政収入は1993年の78.0%から2009年の47.6%へ減少した。支出に
ついて、中央政府は1993年の28.3%から2009年の20%へ減少する一方、地方政府は
1993年の71.7%から2009年の80%へ増加した10)。財政の赤字を改善するため、地方政
府は地方財政収入の中心を占める営業税(税収分配の割合:地方政府98%、中央政府
2 %)、企業所得税(税収分配の割合:地方政府34%、中央政府66%)、資源税(税収
分配の割合:地方政府100%)、罰金(収入分配の割合:地方政府96%、中央政府
4 %)等を非常に重視し、これらの税収を増加させるために高エネルギー消費企業を
引き続き操業させる動機が働いていると考えられる。
さらに、中央政府は再生可能エネルギー発電を普及するために様々な税金に対する
減免政策を打ち出し、地方政府の税収にマイナスの影響を与えた。影響が一番大きい
のは風力発電企業に対する一部分の税金の減免政策であり、この政策により地方政府
の財政収入が激減しつつある。付加価値税11)を例として説明しよう。中央政府は風力
発電企業の付加価値税を半分減免にし、残る半分の付加価値税の税額に対して設備の
付加価値税の税額に相当する金額も免除できる。例えば、設備投資は 3 億元、風力発
電設備容量は 5 万kWの場合、発電量は1.2億kWh、送電網への売電価格は0.51元/kWhで
計算すると、毎年の売電売上は6120万元である。半分減免の政策により付加価値税の
税額は6120万元(売上) * 8.5%(付加価値税の税率の1/2)= 520.2万元になる。設備の
付加価値税の税額は 3 億(設備の値段)* 17%(付加価値税の税率)= 5100万元である
ため、発電所についてさらに5100万元に相当する付加価値税の税額を免除できる。毎
年発電所が政府に納付すべき付加価値税の税額は520.2万元であるため、10年間で合
計5100万元になる。つまり約10年間、風力発電企業から地方政府への付加価値税の税
収がなくなる。そのうえに、風力発電所において短期間に利潤を上げられないために
9) 「中国統計年鑑」(2010年版)の財政篇に記載されたデータを引用した。
10) 「中国統計年鑑」(2010年版)の財政篇に記載されたデータを引用した。
11) 付加価値税(value added tax, VAT)、中国での言い方は価値増価税である。1979年から実
施し、製品の価値増加部分に対して徴収する。基本的税率は17%である。計算方法:税額
=売上*税率 - 投入*税率。
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中国における CO2 排出の特徴に関する分析
所得税の税収も得られない。風力設備の生産が拡大しつつあるため、供給過剰になっ
て設備の値段は値下げに転じた。これにより、地方政府は風力設備を生産する企業か
ら徴収できる所得税が減少し、財政収入がさらに減少することになる。したがって、
地方政府は企業の営業税、基準を超えるための罰金等により財政収入を増加するため、
高エネルギー消費企業を引き続き操業させる動機が動き、中央政府の省エネルギー政
策の実施に消極的になる。地方政府の財政状況を改善できない限り、今後も、中央政
府の新たなエネルギー消費効率基準を満たさない高エネルギー消費企業を引き続き操
業させる動機があると考えられる。
3.2 再生可能エネルギーに関する課題
経済が成長するとともに、エネルギーの需要量は増加しつつあり、エネルギーの供
給、特に石炭の供給に大きい圧力を与える。2010年の 1 - 3 月に石炭の供給が不足し
たため、河南、湖北、重慶、遼寧、山東等省は停電になり、12月にも陝西、重慶、河
南、貴州等省は停電になった。中国石炭の生産量と消費量は、両方とも世界一である
が、埋蔵量統計により、2010年末中国の石炭埋蔵量は世界の13%を占め、豊富な埋蔵
量があるとはいえず、大量の石炭消費状況を改善しなければ、今後石炭の供給を確保
できないと考えられる。石油も、自動車市場の急速に拡大により、ガソリンへの需要
が一層拡大し、2010年の石油消費量の半分は輸入で賄った。国際原油価格の高騰と海
外から国内へ輸送コストの増加により、原油の輸入が十分に確保できない可能性があ
る。したがって、再生可能エネルギーの開発や普及は CO2 排出の削減、そしてエネ
ルギー供給安全に対して重要な役割を演じる。
そこで、中国政府は再生可能エネルギーの開発や普及を非常に重視するようになり、
2005年 2 月28日に再生可能エネルギーの普及に向けた基本法としての「再生可能エネ
ルギー法」が公布され、2020年までに中国の再生可能エネルギーが国内の発電容量に
占める割合を15%に増加させることを目標とした。さらに2007年 9 月に「再生可能エ
ネルギー中長期発展計画」が策定され、2010年までの再生可能エネルギー比率はエネ
ルギー全体の10%を目標とし、2020年までに再生可能エネルギーを全エネルギーの
15%にまで引き上げることが明示された。さらに設備総容量は500万kWを超過する発
電所において、非水力再生可能のエネルギー発電設備容量は2010年までに設備総容量
の 3 %、2020年まで設備総容量の8%を占めなければならないと決定した。現在中国
は主に再生可能エネルギー発電の開発や普及に力を入れている。電力部門が50%以上
の石炭を消費するため、石炭を代替して発電することは CO2 排出の削減に重要な役
割を演じる。したがって、中央政府は様々な政策を打ち出して再生可能エネルギー発
電の開発や普及を促進しつつある。
これらの促進策の実施により著しく効果が現れている。2010年に発電設備容量の内
訳は、水力は22.36%、火力は73.43%、原子力は1.12%、風力は3.06%である。2009
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年報 公共政策学
Vol. 6
年と比べると、水力は0.1%減、火力は1.05%減、原子力は0.08%増、風力は1.05%
増になる。2010年に水力発電設備容量は2.1億KW、総発電量の16.24%を占め、2005 2010年の平均的な増加率は12.98%である。水力発電は主に甘粛、四川、湖北、福建、
雲南、広西、貴州、青海にある。非水力再生可能なエネルギー発電において発展の規
模が大きいのは風力である。2010年に風力発電設備容量は2958万kW、総発電量の
1.17%を占め、2005 - 2010年の平均的な増加率は94.75%である。2010年に新増設備
容量が大きいのは内モンゴル、河北、甘粛、遼寧である。風力に対する投資が多く、
設備容量の増加も 1 位であり、再生可能エネルギー発電の普及を牽引する主役である。
しかし、急速に発展している風力については、大きな課題がある。まず、送電網へ
の接続の課題である。2010年の風力発電所の接続率は約69.3%であり、大量の風力発
電量を接続できず浪費させることになる12)。その原因は風力発電所の建設計画の失策
にあると考えられる。2005年の中央政府の風力発電の補助政策により風力発電所を建
設するインセンティブが生まれ、風力設備の容量は2005年の106万kWから2010年まで
の2958万kWに急増した。政府は風力発電所の建設計画を審査する際、送電網の整備に
関する調査が不足しており、結局送電網の整備は風力発電所の建設に追いつけない結
果になる。送電網側一方のみの原因ではなく、風力設備側にも課題がある。中央政府
は国産設備を普及させるため、風力発電所において国産設備の割合は 7 割未満の場合、
操業できないと決定した。このインセンティブにより風力設備の国内生産が急増した
が、設備に関する具体的かつ高水準の統一技術基準、特に送電網への接続技術基準が
ないため、送電網への接続基準を満たさない設備を多く生産させた結果を招いた。送
電網への接続ができないため、そのまま放置されてしまう。これは設備と送電網の問
題ではなく、政府の失策である。これらの失策を認識してきた中央政府は、様々な修
正策を打ち出した。特に設備に対して2009年11月に風力設備70%国産の政策を中止し、
続いて2010年 3 月に「風力発電設備生産企業の生産能力に関する基準」を公布し、生
産企業の操業条件、製品の技術と質量の基準、省エネ・環境保護、製品の技術改善等
生産技術に関する基準が盛り込まれ、より一層設備の技術レベルと質量の改善を促進
させる決意が強く見られる。さらに、2011年 8 月に「大型風力発電所における送電網
への接続に関する基準」を公表し、18項目の基準が決定され、接続を確保するための
設備の技術改善、性能の向上、出力の基準などが詳しく明記された。これらの修正策
は設備の技術基準と送電網への接続基準を明確にし、今後風力の高レベルの発展を促
進することを目的としているが、現在使用中の設備に関する解決策を提出していない。
現在送電網への接続基準を満たさない設備を取り換える場合、かなりの金額が必要で
ある。風力発電所の負担能力を超える可能性が高いため、中央政府から支援金を出す
必要があると考えられる。
12) 『中国風力発展報告2011』に記載されたデータで計算して得られた。
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中国における CO2 排出の特徴に関する分析
もう一つの失策は調整電源の設置の問題である。風力発電の出力は不随意に変動す
るため、需要への追従は基本的に他の調整力に富んだ電源(火力発電、貯水式水力発
電など)に頼ることになる。しかし、大規模な風力発電施設を建てる地域は、火力発
電、貯水式水力発電が足りない恐れがある。甘粛酒泉の計画を例として分析しよう。
甘粛の酒泉に千万KW級の大規模風力発電所を建てる計画がある。しかし、「中国電力
発展報告2010」に記載されたデータによると、2010年に甘粛全省の総発電設備容量は
2075万kWであり、このうち火力発電設備は1324万kW、水力発電設備は611万kWである。
仮にすべての火力発電設備をこの千万kW級の大規模風力発電所の調整電源にしても、
不足する恐れがある。しかも、すべての火力発電設備を省内一つの地域の風力発電の
調整電源にする現実可能性はないし、この千万kW級の風力発電所以外の甘粛の風力発
電所にも調整電源が必要である。解決方法の一つは、この千万kW級風力発電所の近く
に千万kW級の火力発電所、或いは千万kW級の貯水式水力発電所を建てることである。
しかし、火力発電により CO2 が排出されることになり、酒泉の自然状況により水が
少ないため、大規模の貯水式水力発電所の建設も困難である。調整電源がない場合、
送電網への接続は不可能であり、高効率火力発電所の建設が必要である。そうでなけ
れば、特高圧送電網の整備を待つしかない。中央政府はこの課題を解決するため、十
二・五期間において1000億元を投資して全国に貯水式水力発電所を建設し、3100億元
を投資して1000KVと750KVの送電網を整備することを決定した13)。これは火力、水力
と風力発電をセットにして1000KVと750KVの送電網により消費地へ輸送する目的であ
る。特に酒泉の大規模風力発電所に対して、酒泉-長沙の間に±800KVの送電網を整備
し、火力、風力をセットにして華中地域へ輸送することを決定した。これらの政策に
より今後風力のような再生可能なエネルギー発電に対する調整電源が確保でき、消費
地へ輸送の支障がなくなるが、送電網と調整電源の整備は短期間にはできず、整備で
きるまでの解決策はまだ不明である。
次は稼働率の課題である。「中国電力報告2010」によると2010年の風力発電所の稼
働時間は2047時間であったが、豊富な風力資源があるので稼動時間はもっと多くなる
はずである。稼働率低下の原因は、自然状況の悪さが風力発電に与える影響にあると
考えられる。新疆、甘粛、内モンゴルの風力資源が豊富のため、大型風力発電所が建
てられつつある。しかし、新疆、甘粛、内モンゴルにおいて黄砂の異常気象が多いた
め、風力設備は故障になりやすい。現有の風力設備技術によりこの課題を解決するの
は難しい。風力発電所の立地を選ぶ際には、このような課題を考えなければならない。
最後に、寡占の課題がある。中央政府は再生可能エネルギー資源発電の普及を促進
するため、設備総容量が500万kWを超過する発電所において、非水力再生可能なエネ
ルギー発電設備容量は2010年まで設備総容量の 3 %、2020年まで設備総容量の 8 %を
13) 「電力第12次五ヵ年発展計画」に関する研究報告
- 171 -
年報 公共政策学
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占めなければならないという政策を打ち出した。この政策は確かに風力の普及を促進
させたが、中央発電企業、国有発電企業による風力発電の寡占をもたらした。2010年
に風力累積設備容量の上位10位は、中国国電グループ、中国華能グループ、中国大唐
グループ、中国華電グループ、中国広東原子力グループ、国華電力、中国電力投資グ
ループ、京能グループ、華潤電力、新天緑色エネルギーグループであり、京能グルー
プ、新天緑色エネルギーグループが国有発電企業である以外、他の発電企業はすべて
中央企業である。非水力再生可能エネルギー発電の割合は総電源の 3 %に満たさない
場合、企業にとって新たな火力発電所の建設ができないという規定があるため、非水
力再生可能エネルギーへの投資の真の目的は、発電企業の火力発電量を増大させるこ
とではないかと推定される。さらに、中央発電企業、国有発電企業の寡占は新しい企
業の参入を阻害し、風力発電企業の経営の多元化への発展を遅らせる可能性が高い。
4. 削減政策に対する展望
中国 CO2 排出の 7 割以上は、石炭の使用により排出されるため、石炭消費の50%
以上を占めている発電部門が排出削減に重要な役割を果たす。発電設備容量の 7 割以
上を占めている火力を非化石燃料発電に代替させることは共通の解決策である。しか
し、原子力には安全の課題があるため、中国政府は原子力発電所の安全を重視し、建
設中止あるいは建設延期になる可能性が高いと考えられる。非化石燃料発電としては、
風力と太陽光発電に頼ることになる。中央政府が太陽光の発電量を送電網へ売電する
価格は1.15元/kWhと決めたが、太陽光発電技術の不足や調整電源の確保、そして送電
網の整備等様々な課題が存在するため、太陽光発電は風力発電のような急速に発展で
きる可能性が低い。したがって、発電部門に対する削減の重心を高効率の石炭利用に
移させ、火力発電の効率を高めることにより、再生可能エネルギー発電の調整電源確
保の課題も解決できると考えられる。
中国国内各省のエネルギー生産性の格差が大きく、一番高い北京(0.7標準石炭ト
ン/万元)は一番低い寧夏(3.9標準石炭トン/万元)の 5 倍である。仮にもし国内エ
ネルギー生産性が高い省はエネルギー生産性が低い省に技術移転や支援を行い、各省
のエネルギー生産性の格差を縮小し、全国のエネルギー強度が全国の平均値0.9標準
石炭トン/万元から0.7標準石炭トン/万元へ改善した場合、総エネルギー消費量の約
20%が節約でき、CO2 排出の削減にも大きく貢献できるはずである。さらに、産業に
対する技術移転により同産業のエネルギー生産性の最大値を実現した場合、もっと多
くの CO2 排出の削減ができると考えられる。
現在は、原材料、運輸コストの増大や賃金の値上げのうえに、配分された省エネ目
標を達成するため、高エネルギー消費産業を東部から西部へ、中心都市から周辺都市
へ移転させる傾向が見られる。産業の移転と同時に省エネ・削減技術を導入し、新省
エネ産業を作ることが一番理想的であるが、資金の不足や技術の低位性のために実現
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中国における CO2 排出の特徴に関する分析
は困難であり、ただの移転のみになってしまう。この傾向について注意すべきである。
最後に、日本からの協力の可能性についてもその重要性を指摘できる。CO2 の削減、
そして温暖化問題に対する他の解決策の成功は、世界が一丸になって協力する必要が
ある。中国に対して、石炭ガス化複合発電(IGCC)など特に技術レベルが高く、エ
ネルギー生産性が高い日本からの協力が非常に重要である。二国の協力により、win
- win の効果ができ、より一層発展ができると考えられる。
5. 結論
本論文は中国における1990 - 2009年の CO2 の排出量を計量分析し、排出の特徴を
分析した。1990-2009年に年間 CO2 排出の増加率は 7 %であるが、2002年以降著しく
増加した。原因は、中国が2001年 WTO に加入し、外資の吸収と輸出の拡大により生
産が拡大されたことである。生産急増により 1 人当たりの CO2 排出の増加をもたら
し、世界平均的なレベルを超えた。CO2 排出強度は1978 - 2000年において減少幅が大
きく、これは GDP の増加幅が CO2 排出量の増加幅より大きかったためである。2001
年以降は、CO2 排出量が急速に増加したため、排出強度の減少幅は縮小した。
CO2 の排出は、様々な側面で格差と偏りがある。産業面において、工業部門により
排出された CO2 の排出量は総排出量の約7割を占めた。電力部門は約半分以上の石炭
を消費し、2008年に総 CO2 排出量の約35%を占めた。エネルギー消費面において、
石炭消費は最大の排出源であり、約70%を占めた。そして石油消費は約18%、天然ガ
ス消費は約 4 %を占めた。省別の面において、各省の CO2 排出の格差が大きく、
2008年に排出最大の山東は排出最小の海南の27倍である。累積排出量は東部沿海地域
が多いが、近年中央政府の地域経済発展政策の実施により、西部、中部、東北地域は
エネルギーの消費を増加し、CO2 の排出は東部沿海地域から中部、西部地域に移動す
る傾向が見られる。
削減政策の課題について、省エネルギーと再生可能エネルギーの使用に分けて分析
した。省エネルギーについて、地方政府は財政収入増加のため、高エネルギー消費企
業を引き続き操業させる動機がある。原因は地方政府の財政支出と財政収入の不均衡
である。再生可能エネルギーについて、政府の失策により送電網の整備が風力発電所
の建設に追い付けない結果、発電設備が送電網へ接続できない結果をもたらした。そ
して稼働率の低さ、調整電源の不足が風力発電による CO2 削減に効果を発揮しない
原因である。中央発電企業、国有発電企業は風力発電を寡占しており、民間企業の参
入を阻害する現状である。
今後、石炭の高効率利用、各省・同産業の間の技術移転によるエネルギー生産性向
上の実現などは CO2 削減に重要な役割を果たす。削減策の実施により引き起こされ
た高エネルギー消費産業の地方移転など新たな課題を積極的に解決しなければならな
い。
- 173 -
年報 公共政策学
Vol. 6
参 考 文 献
中国国家発展·改革委員会(2007)「中国気候変動対策国家法案」。
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中華人民共和国国務院報道弁公室(2008)「中国の気候変動政策と行動」。
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中国電力企業連合会(2011)「電力第12次五ヵ年発展計画」に関する研究報告。
中国電力監督管理委員会(2011)「中国電力報告2010」。
李俊峰等(2011)『中国風力発展報告2011』中国:中国環境科学出版社、p.44.
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- 174 -
中国における CO2 排出の特徴に関する分析
Analysis on the CO2 Emissions of China
WANG LEI*
Abstract
This paper uses LMDI(log-mean divisia index)model and analyzes the characteristics of
energy-related CO2 emissions over 1990-2009 in China. The results show that after 2001, the
emissions increase rapidly, regional emissions are remarkable, and 70% of the emissions are
due to coal consumption. Then the paper analyzes the background of those emission
characteristics. Finally the paper analyzes the change about CO2 emissions reduction policy,
finds the unbalance in the local government's fiscal and the central government's unwisely
decision are the main causes of big emissions.
Keywords
China, CO2 emissions, reduction policy
*
Doctoral Student, Graduate School of Economics and Business Administration, Hokkaido
University
- 175 -
後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
角田 晋一郎
はじめに
本稿はエチオピアにおけるケーススタディを皮切りに、開発援助における援助の氾
濫に焦点を当てている。被援助国となる国家の中でもエチオピアを含む後発開発途上
国(以下、LDC)において生じ得る援助の氾濫として知られる援助課題を、従来型の
援助モダリティのみならず新規援助モダリティを分析・評価することで、現状の
LDC を取り巻く環境の中、今後の国際開発援助がどのように展開され得るのかを考
察することを目的としている。
以下に本稿の各章のテーマと内容を概説する。
第一章、「エチオピアにおけるケーススタディ」では、多くの援助組織が流入する
ことで生じる援助組織間の競合を取り上げ、被援助国側のガバナンス能力との関係に
おいて述べている。
第二章「援助の氾濫と援助協調」では、第一章で述べる事例から課題の本質を抽出
し、なぜ援助組織間の競合が生じ、本来であれば被援助国側にとって望ましい援助の
流入量の増加が開発効果を上げること妨げるのか、先行研究をもとに論じている。
第三章「LDC を取り巻く援助側の現状」では、現状の LDC を取り巻く環境がどの
ような状況にあるのかを OECD 加盟国・非加盟国の両立場からの考察を試みている。
そして新興国の開発援助への参入により、今後の LDC に対する開発がどのように展
開し得るのか考察している。
第四章「援助体制の変化と新規援助モダリティ」では、援助疲れ、被援助国の債務
問題、そして遅々として進まない LDC 開発を背景として変化した援助体制について
論じている。また、そのような背景の中で構築された新規援助モダリティに関しての
考察を述べている。
以上のように、現状に至る開発援助の潮流を考察し、国際機関、国家やNGOなど
の多岐に渡る開発援助参画者により複雑に形成される国際援助体制と開発援助のダイ
ナミクスの中で生み出されてきた種々の援助モダリティとの関係を述べ、LDC の開
発が援助の氾濫の渦中において、今後どのように展開され得るのかを念頭に論ずるこ
とを目的としている。
第一章 エチオピアにおけるケーススタディ
著者は青年海外協力隊員水資源開発職種として平成20年-22年の間、エチオピア国
南部諸民族州水資源開発局に勤務した。多くの場合、相手組織の人材を通して課題へ
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年報 公共政策学
Vol. 6
のアプローチを行わざるを得ないのであるが、組織の司令塔である上役は常に繁忙の
ため不在であり、さらに技術系の職員は研修や出張のため不在しがちであった。その
ため、著者の携わったプロジェクトに限らず多くの水資源開発プロジェクトが遅々と
して進捗しない事態に陥っていた。この傾向は日本国の外務省と JICA 1)がそれぞれ
主導する無償資金協力や技術プロジェクト無償、また、他国の援助組織や国際機関が
主導するプロジェクトにおいても同様に見られた。
サハラ以南は世界的な水源開発課題地域であり、多くの援助組織が入り込むことと
なる。しかしながら多くの援助組織が入り込むことにより、どのような問題が発生す
るのか、本章において実務上の課題・障壁と併せて論じて行く。
本稿においての課題抽出を明確にする上で、改めて 2 つの課題をここに述べ、その
後の考察への皮切りとする。本章ではまず、本稿の中核となる LDC 開発における
「援助組織間の競合」を取り上げ、相互に関連し合う「被援助側のガバナンス能力」
について論じる。
第一節 援助組織間の競合
本節では、援助の現場において生じ得る援助組織間の競合の一例として、現地職員
に支払われる日当により引き起こされる問題を取り上げ、具体的な事例の要約と課題
の抽出を行うことを目的とする。なお、ここで取り上げる日当とは、技術移転のため
の研修やプロジェクト型の援助を遂行する上で現地職員に対して支払われる援助側の
支出を意味する。
日当は本来、現地職員の宿泊費や食費の拠出は消耗品や経常支出として被援助側の
組織または個人により行われることが望ましいとされる。しかし、それらの出費が困
難である場合に被援助国の負担軽減を目的に支払われ、現地職員にとっては通常業務
の給与外の報酬となっている。著者の所属先であった水資源開発局に入っていた大口
の援助組織を例に挙げると、一日当たりの日当として日本円換算にして、UNICEF 2)
が1,500円、世界銀行が1,000円、及び JICA が800円 3)として拠出されていた 4)。この
他、独自路線の傾向が強い USAID 5)では2,000円/日が拠出されていた 6)。
このような援助機関による日当の差異には、援助予算を投下し効果・実績を残すた
めに額を吊り上げ、より上役の人間や優秀な人間を自らの援助組織の研修などに召還
しようとする援助側の意図が根底にある。ここでの問題は各援助組織が一つの行政組
1)
2)
3)
4)
5)
6)
Japan International Cooperation Agency
United Nations International Children’s Emergency Fund
エチオピアが定めている日当の上限に則り定められた額を JICA は拠出した。
金額は赴任当時(2010年前後)の値であり、物価上昇などに対応するため見直しが行われる。
United States Agency for International Development
公務員の月給は10,000~25,000円程度であったため、日当を得ることはかなりの所得増に
つながる。
- 178 -
後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
織に対して援助を試みたとしても、名目こそ違え内容は似たものとならざるを得ない
ことである。そのため数の限られた職員の争奪戦が行われる結果を招き、援助側はプ
ライオリティを増すために当初の日当の名目から離れた金額を日当として設定する傾
向に陥ってしまう。この結果、比較的低額予算のプロジェクトほど人材の確保に苦労
せねばならなくなるのである。ひどいケースでは全くの門外漢 7)があてがわれること
さえある。
このような現象は私の所属した水資源開発局に限ったことではなく、援助が集中し
やすい保険・衛生分野や教育分野においても同様であった。また、日当に限らず、援
助組織が直接雇用する場合には現地公務員の規定月給と比較してかなりの高給が支払
われる。さらに、国際 NGO や外資系の民間企業も同様な対応により人材を獲得しよ
うとするため、現地職員の間には不公平感や不満が常に存在し、日当や給与の金額の
多寡が職に対する動機となり、人材の流動は悪い意味で極めて活発となる。著者の所
属先においては、後続の援助を効果的なものとするため、州の行政官や地方の行政官
を対象とした能力開発を目的とした指導が行われたが、その修了証を踏み台に人材が
行政分野から流出する本末転倒の結果を招いていた。結果として、開発のために必要
な行政分野の人材が、薄給のため人材不足であるという悪循環に陥り、開発が頓挫す
ることになる。
こうした問題における課題を整理すると、被援助国において分野を同じくする、も
しくは上記の例のように同一の組織に対して複数の組織による同様の援助が入り込ん
だ際、人材の獲得競争が援助側に生じてしまう点である。いずれの援助側の組織にお
いても、援助に対する効果は求めねばならず、受け入れ側に十分な人的キャパシティ
が無ければ、現地人材の獲得に奔走せねばならない。この人材獲得競争に敗れれば、
援助の効果が期待を逸れて低いものとならざるを得ない。この問題は開発に対するイ
シューが大きければ大きいほど、また受け入れ先のキャパシティが小さいほど顕著に
表れざるを得ないのである8)。人材が豊富であればこのような事態は回避されようが、
人材自体が不足している場合には不可避の現象であるとも考えられる。
解決策の一つとしては受け入れ先のキャパシティを上げることである。しかし、こ
れは人材が流出し易い中、援助を延々と続ければいつかは人材が豊富になるのではな
いかというかなり楽観的な論理であり、望ましいとは考えにくい。もう一つの解決方
法として考えられるのは、援助側が何らかの合意の上に援助の総量を受け入れ可能な
レベルにするよう調整を図ることである。そもそも国際組織である世界銀行や
7)
8)
ある国際機関職員に聞いた話では技術者を呼んだのに、来たのは警備員や掃除婦であった
とされる。
サハラ以南の水問題は典型的であり、著者の所属先であった水資源開発局においても記述
の援助組織の他、ヨーロッパ系の援助組織、宗教団体、NGOと数多くの組織が同分野に殺
到している。
- 179 -
年報 公共政策学
Vol. 6
UNICEF はその予算の一部を日本からの多国間援助予算として得ており、同様な援助
を施すことは援助の重複にもなり非効率なのである。二国間の援助が競合することは
ともかく、このような国際組織との間にすら競合が生じざるを得ない状況こそ問題で
ある。
第二節 被援助側のガバナンス能力
次に、日当問題に付随して投下される援助予算が所属先においてどのように消化さ
れていたかの実例を述べる。第一節で述べたように、研修などのプロジェクト履行の
際には、日当が援助組織から直接支払われる事もあるが、UNICEF と世界銀行の場合
はプロジェクト予算の一部を被援助組織に割り当て、独自の会計を予算内で行わせて
いた。こうした場合、被援助国の当該組織では、日当の多寡による各プロジェクトへ
の序列・優先順位付けが行われ日当の多い業務ほど予算の消化が早くなった。また、
該当するプロジェクトとは全くの別業務であるにも拘らず当該援助プロジェクトの名
目での日当取得が行われることもあった。これは職員の低い所得に対する不満、他の
労働者が援助により物的支援や、より高額の給与をもらっていることへの不公平感が
根底にある。しかし、このような日当にアクセスできる人材自体も限られており、こ
れより生じる不公平感は所属先内及び下位に位置する地方自治体との摩擦を引き起こ
していた。
このような日当の消化やそれが生み出す不公平感は、引いては各援助組織が主導す
るプロジェクトの失敗へとつながる一因となっていた。具体的には、このような大口
でかつ自由度の高い財政支援に近い援助モダリティは、他の小規模の援助組織や草の
根と呼ばれる小規模な活動の妨げとなっていた。
このような問題を被援助側のモラルハザードや脆弱なガバナンスの問題として片付
けることは容易であるが、それ自体は開発を前進させる手段にはなり得ない。しかし
防止策として援助側が監視すること、例えば日当の取得を毎回援助側に伺いを立てる
ことも考えられるが、作業が煩雑になり非効率なものとなってしまうであろう。作業
が煩雑になることは人材の乏しい被援助側にも、財源の限られた援助側にも望ましい
状態ではない。そしてエチオピアの財政状況に鑑みれば、援助を使わずに自前で日当
予算を調達させることは量的に厳しいと言わざるを得ないのである 9)。
日当を財政支援の例として取り上げたが、被援助側の経常支出の不足を補い手元の
予算を元手に被援助側が自律的に開発を行える状態へと誘うためにも、被援助国に対
9)
水資源開発局では財政支援に対し、所属する南部諸民族州からの歳入はほぼ零とされ、水
資源開発局のおよそ2億円余りの年間予算は首都での歳入及び他国や援助組織からの財政
支援は連邦政府を介して賄われている現状にある。追記として、被援助国の管理能力を巡
る財政支援に対しては他国政府や各援助組織も特に慎重であるが、現状におけるエチオピ
アの国家予算のおよそ半分が財政支援としての援助によりまかなわれている。
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後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
するなんらかの財政支援は必要となる。被援助側のガバナンスが弱い状況下で如何に
効果的に財政支援を実行していくかは重要な課題である。
第三節 実務経験から得た課題の抽出
被援助国おいて生じる援助の競合やガバナンスの向上を克服し、開発を持続的なも
のとするためにどのような手段がもとめられるのか。経常的な被援助国の予算不足を
補填するために、どのように予算を集め投下することが可能であるか。また、ガバナ
ンスが脆弱な中で、どのような予算の投下方法が望ましいか。そして資金があっても
被援助側が実行可能であるのかについて、次章以降で考察していく。
第二章 援助の氾濫と援助協調
本来、援助組織の増大はすなわち途上国に流入する資金の増大を意味するため、特
に低所得国家にとっては望ましい状況となるはずである。しかし、第一章一節で挙げ
たように、現実には援助組織の競合が問題となることがあり得る。本章では、こうし
た競合が起きる状況を改めて整理し、援助組織間の競合がとりわけ LDC に望ましい
影響を及ぼすことができないのかを明らかにする。
第一節 援助の氾濫
第二次世界大戦後の初期においては、軒並み疲弊しきった各国の財政下で復興や開
発を低金利や長期償還期間といった条件で支援を実行できたのがアメリカ一国であっ
たこともあり、援助が競合するといった事態は生じ得なかった。しかし、復興や敗戦
国の経済復帰と成長が実現するに従い、開発途上国への援助供与国が増加し、さらに
近年では国家以外の NGO による援助への参画が増えることとなった。
そのため援助組織の乱立により競合が生じ得る構図へと移行したのが現状である。
援助の形態が二国間援助か多国間援助かに関わらず、援助の大部分は各援助国の国家
予算10)から供出されるため各援助国は供与に付随した効果とそれに付随した利益を求
めることにある。利益とは被援助国が抱える資源の獲得、市場の開拓、安全保障の確
立、純粋な人道支援と言ったように援助側の思惑や時々により様々である。なお
NGO は、DAC11)諸国から途上国に拠出される ODA 総予算と比べると、その規模は 2
割程度であるが、援助の主体が NGO であっても効果と利益を求める点で本稿では同
等とみなす(外務省 2010)
。
単純には援助組織の増加に伴う援助額の増加は被援助国にとって望ましい状態であ
る。それではなぜ競合が生じてしまうのであろうか。理由の一つとして考えられるの
10) こ こ で は 民 間 資 金 や OOF ( Other Official Flows ) を 除 き ODA ( Official Development
Assistance)のみを意味する。
11) Development Assistance Committee
- 181 -
年報 公共政策学
Vol. 6
は、上述のような利益を求める際の奪い合いの結果として競合が生じる事態である。
実務で経験した例として挙げたように、援助とはプロジェクト形式で行われることが
ほとんどである。つまり援助を実施するにあたり、その効果と利益を求めるためには
被援助国と援助国、もしくは被援助国と国際組織との間に援助案件形成から事後評価
までが何らかの形で行わなくてはならないことを意味する。つまり単純な援助国の増
加といっても被援助国側になんらかの負担が必要とされるため、援助国が増えただけ
被援助国の援助に対するキャパシティを超える事態が生じる。このキャパシティを超
える量の援助が様々な援助組織により投入された際、限られたキャパシティを巡って
競争が生じると考えられる。第一節の例に照らし合わせれば、限られたキャパシティ
とは人的資源でありこの不足により獲得競合が生じると捉える事が可能である。
つまり、日本の援助にも顕著に見られる傾向であるが、一国に対する援助は個別具
体的なプロジェクト型の援助の集合体であり、二国間援助と一口に言っても内実そこ
には数多くのプロジェクトが同時進行することになり、援助組織が多ければ援助に該
当する分野が重複することで一層被援助国側のキャパシティを圧迫することになる。
さらに第一節の例で取り上げたように、人材の流動性が高い場合には結果として高い
言語能力や学歴を有する有能な人材と経験を積んだ職員が自治体には残らない事態が
生じ、キャパシティの向上が望めない事態に陥る。また、被援助国に求められる負担
の増加も懸念される。具体的には援助側、もしくはプロジェクト12)により、契約条件、
会計時期、援助方針などが異なることから個別の対応を行わねばならず、多大な労力
を被援助国側に求めることになる。プロジェクトが実行される際の人材の獲得に限ら
ず、プロジェクトが終了した際、その後の被援助国の継続的な経常予算の圧迫をも生
み出すのである13)。そしてこの問題は大概にして、プロジェクトが終了するとともに、
援助の氾濫下でのプロジェクト形式の援助が結果的に持続性の無い一時的なものに過
ぎないことを示している。
なお、日本の最たる援助先であるアジアにおいては援助の氾濫が生じても、さほど
問題にならなかった。そればかりかアジアの多くの国は開発を遂げることができてい
る。これは一重にアジアの被援助国の多くがキャパシティである物資、資金、人材、
技術、制度などの側面において欠けている面が比較的少なかったためであると考えら
れる。つまり援助が過剰に乱立しても、それを消化できるだけのキャパシティが被援
助国側に存在していたからである。一方におけるアフリカ諸国などの LDC において
12) 例えば日本の援助として給水を取り上げても、その内容は技術協力か一般無償化によって
異なる。
13) 世界銀行による援助の氾濫(原文: Aid Bombardment)は「大量のドナーの数や資源、活
動、そして複雑で一貫性の無い手続きの要求が、被援助国政府の計画、予算、管理、モニ
タリング、そして評価を行うためのキャパシティを越える」国家において顕著に生じる現
象とされる(World Bank 2001)。
- 182 -
後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
は乱立する援助を消化できるだけのキャパシティが存在せず、援助の氾濫による負の
側面が顕著に生じると結論付けることができる。
以上をまとめると、LDC における援助の氾濫は、援助側と援助を受ける側の量的
な不均衡から生じるプロジェクトの重複、整合性や関連性の無いプロジェクトの乱立
を招く要因となることが指摘できる。キャパシティの大小、つまり多重の援助を調整
するだけの能力に関わらず、被援助国側にとっては頂けるものを拒む理由は存在しな
いため、援助の効率性や効果を求める上で援助側が調整しなくてはいけないことにな
る。その一つが援助協調である。
第二節 援助協調
被援助国のキャパシティが脆弱である場合、キャパシティを超えて流入する援助の
氾濫を防止するためには援助側での調整が考えられる。近年では、援助の氾濫を問題
視したことから、援助協調の重要性が援助側に認識されるようになった。ここでは援
助の協調へと結びつく、国際的な援助の潮流を追うことにする。
援助の氾濫によるパレート最適になり得ない状況から、開発援助の成長促進効果の
発現を目的として各援助組織が協調することの必要性が生じてきた。この援助協調の
重要性は国際的な合意としてパリ宣言 14)により各国に認識されたとされる(外務省
2007)。パリ宣言は援助国と被援助国両者の取り組み事項をまとめたものであり、原
則としてオーナーシップ、協調、アライメント、結果、そして説明責任を重視してい
る(OECD 2005)。
国際的な援助体制に協調が重要視されたものの一つが貧困削減戦略書(以下、
PRSP15))を低所得国向けに提出させる援助体制である。PRSP とは被援助国のオーナ
ーシップの下に、幅広い援助参画者を巻き込み策定される、被援助国のマクロ経済、
社会構造政策、そして成長の促進及び貧困削減に関するプログラムを対外的な資金調
達需要と関連させた開発計画を示したものである(IMF 2011)。PRSP 体制への移行
に際しては、それまでの失敗から様々な問題を如何に解決するかが重要な焦点となっ
た。これは PRSP が援助の氾濫の防止策として、協調を埋め込んだ結果として表れて
いる。
PRSP 体制以外にも、特に援助の氾濫に対して焦点を当てた解決手法としてセクタ
ー・ワイド・アプローチ(以下、SWAp)16)と呼ばれる援助手法が考え出された。こ
れは、各援助組織が個別に援助を実施していた状況から生じる障害を是正するべく、
14) 2005年パリにおける第 2 回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラムにおいて採択さ
れた。第三回はアクラで行われ、アクラ行動計画として採択されている(外務省 2009)。
15) PRSP は世界銀行・IDA や IMF による被援助国に対する債務帳消しや新規貸付の条件とも
なるため多くの国で策定されている。
16) Sector Wide Approach: SWAP、SWAp、セクター・アプローチ、セクター・プログラムとも
- 183 -
年報 公共政策学
Vol. 6
被援助国政府のオーナーシップの下で当該分野に対する情報提供や指針調整を行い援
助の効率化を図るためのものである。この潮流はさらには援助資金をも共通にしたほ
うがより効果的・効率的に援助を実行できるとの考えを生み、後述するコモン・プー
ル17)形式の援助が台頭することになる。
第三章
LDC を取り巻く援助側の現状
LDC における援助の氾濫、それに対する援助協調が求められてきた現象・背景を
ここまでに述べてきた。では、援助側の現状がどのようになっているのか、そして今
後どのように展開され得るのであろうか。
本章では、OECD 加盟国を中心とする世界の援助の開発途上国向けの資金の動き、
そして LDC に対する開発予算の動向、及び OECD 非加盟国からの開発資金の流入に
触れ、今後の LDC 開発がどのように展開され得るのか考察する。
第一節
OECD 加盟国・非加盟国からの資金の流れと LDC
先進国というのも抽象的な概念ではあるが、ここでは DAC 加盟国を先進国と呼び、
先進国から開発途上国全般に対する資金の流れを見て行くことにする。DAC 諸国か
らの開発途上国への資金の流れは ODA 以外にも、OOF、NGO 贈与、民間資金が存
在する。例えば2008年度の日本の場合では ODA 額の 2 倍以上の民間資金が開発途上
国に流れた。イギリスやフランスではそれぞれの ODA 額の 3 倍近い民間資金の流れ
がある。また、世界最大の ODA 拠出国であるアメリカは民間資金フローの純額が
ODA 予算とほぼ同程度の額が、開発途上国から回収されている18)。NGO による贈与
額が DAC 諸国間で突出して大きいのもアメリカの特徴であり、日本の ODA の 2 倍
近い贈与が行われている。DAC 諸国全体で見ると、ODA の合計額と民間資金の合計
額とがほぼ同程度19)である。DAC 諸国からの開発途上国への全ての資金の流れの内、
OOF と NGO 贈与は併せて全体の10%にも満たない額であり、依然として DAC 諸国か
ら開発途上国への資金の流れの主流は ODA と民間資金であることが分かる(外務省
2010)。
先進国から開発途上国への資金の流れが上述の通りにある一方で、DAC 非加盟
国 20)から開発途上国へ流入する資金も重みを増してきている。DAC 資料によれば、
2008年度の時点で100億 USD に近い ODA 資金が DAC 非加盟国から開発途上国向け
に拠出されている(統計局 2008)。この ODA 予算規模は OECD 加盟国から開発途上
17) コモン・バジェット、コモン・ファンド、コモン・バスケットとも
18) 2008年時点では DAC の ODA 拠出上位 7 カ国ドナーの内、アメリカとオランダは共に回
収額が上回る。オランダは ODA の 3 倍以上の民間資金からの回収がある。
19) 2008年において、前者が121,505百万ドル、後者が121,224百万ドルである。
20) OECD には加盟しているが DAC には加盟していない国家を指す。
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後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
国に流入する ODA 総額の 1 割弱を占めるほどになってきている。依然として ODA
の合計額は一部の国からの拠出が大半を占めるが、その一方でこうした新たな参画者
からの開発援助のアプローチが台頭してきている。
2008年を例にとれば、OECD 加盟国政府から拠出される ODA 予算の内、およそ 3
割に当たる約400億 USD が LDC 向けに拠出されている(ibid.)。これは ODA での合
計額であるため、全ての援助組織や LDC に流入する資金を網羅している訳ではない
が、プロジェクト式の援助に限らず各援助組織が個々の利益を追求する上で、概ねこ
の400億 USD が援助の氾濫の原資であると換言できる。
また、LDC における開発資金を論じる上で、無視できないのは BRICS21)などの国
家である。詳論に足る資料の蒐集が困難であるため、必ずしも十分な論拠を示すこと
はできないが、こうした OECD 非加盟国から LDC への資金流入も今日、かなりのウ
ェイトを占めるものであることに違いはない。特にかねてよりアフリカに偏重した拠
出を続けてきた中国は、例えば2009年には FOCAC 22)の場で100億 USD 相当の援助を
アフリカ諸国向けに宣言23)するなど表だった面だけでも LDC に対する影響は計り知
れないものがある。
第二節
LDC を取り巻く現状考察
現在の LDC、引いては開発途上国全体を取り巻く開発援助の環境は、第二次世界
大戦後のアメリカ一極型の援助体制やその後の日本を含む一部の経済大国による援助
体制は過去のものとなり、従来の先進国や途上国と言った漠然とした国家の定義付け
でさえ形骸化したものであるのかもしれない。いずれにせよ今後の LDC に対する開
発援助は援助の氾濫に見る援助組織のせめぎ合いは、OECD 加盟国といった従来の援
助体制だけでは、たとえ十全な合意形成が図れたとしても、それらの加盟国のみで完
結することではないのは確かである。
第四章 援助体制の変化と新規援助モダリティ
第二章で述べたように、援助の氾濫、依然として解決されない貧困問題、そして援
助予算が減少する中で PRSP 体制や SWAp、コモン・プールといった新しい援助モダ
リティが援助協調の実現を模索する中で作り出されてきた。これらの新しい援助方式
21) ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを指し、経済規模で言えば近年インドネシ
アも同等の存在力を持っている。
22) Forum on China-Africa Cooperation の略称。現在まで 4 回に渡り開催される中国とアフリカ
の フ ォ ー ラ ム で あ り 、 2009 年 の フ ォ ー ラ ム で は 49 ヶ 国 の ア フ リ カ 諸 国 が 参 加 し た
(FOCAC 2009)。
23)3年間の低金利借款、グリーンエネルギー技術協力、貧困層向けのマイクロファイナンス、
中国のアフリカからの輸入関税の引き下げなど内容は多岐に渡る(Bloomberg 2009; BBC
2009)。
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年報 公共政策学
Vol. 6
は、従来からのプロジェクト形式の援助に対して、プログラム形式の援助と呼ばれる。
コモン・プール形式に限らず、プログラム援助には、援助組織間の金銭面を含む協調
が求められる。本章では PRSP 体制の詳細に触れ、SWAp とコモン・プール形式の援
助モダリティについての詳細を述べるとともにそれらの考察を行っていく。
第一節
PRSP 体制への移行
PRSP体制に移行する前の国際的な援助体制は世界銀行による構造調整融資(以下、
SAL)を重要視する体制であった(石川 2003)。SAL 体制下では途上国開発の目標は
あくまでも成長重視であったが、PRSP 体制下では成長よりも貧困の削減が主要な目
標として捉えられるようになった。そして、PRSP は世界銀行・IMF による構造調整
の流れの中で90年代に入り、単なる債務の帳消し24)のみでは後発途上国の根本的な解
決にはなり得ないといった新たな論理の発展の上にも成り立っている。SAL 体制下
における後発途上国への援助は世界銀行、正確には世界銀行グループの中の IDA が
後発途上国にとって中所得・高所得途上国と比較してかなりの好条件での融資が行わ
れてきた25)。石川は SAL 体制の弱点を、中所得国以上の途上国に対しては成功した
ものの、低所得国、特にサハラ以南のアフリカ諸国においてはことごとく失敗したと
分析している(ibid.)。さらに、この SAL 体制が援助側の恣意に沿う形への報酬とし
ての援助となる傾向が被援助側の主体性(以下、オーナーシップ)を減じていること
への懸念から、被援助側のオーナーシップを重視することが求められた背景が存在す
る(ibid.)。
端的には PRSP の作成自体がオーナーシップの発揮とみなされる。ここでの被援助
国のオーナーシップとは、PRSP の下にどのように開発するかを各参画者と決定する
ための進行の主導権を持つことを意味する。これにより予算減26)と援助の氾濫による
障壁が改善され、効果的で効率的な援助の実行が望まれている(JICA 2001)。しか
しながら渡辺・三浦が指摘するように、PRSP は「政府が「なすべきこと」を網羅的
にリストアップしたものに過ぎず、個々の政策を実行に移す際のシークエンシング
(sequencing)-実現可能性、調整・執行にかかるコスト、期待される効果、効果出現
の時期に配慮した政策の順序-については明らかにされていない」ため、実際には被
援助国政府が指揮を執るというよりかは、形式的なものとしての意味合いが強いと言
える(渡辺ら 2007; p.74)。またオーナーシップといってもそれは非常に限られたも
のである点には注意が必要である。そしてそもそも PRSP とは特にサハラ以南での構
24) 債務の問題の根底にあったのは ODA というより、民間からの短期資本が問題とされる
(石川 2003)。パリ・クラブにおいては公的関与の無い商業債権と多国間融資期間(世界銀
行、IMF など)の債権は対象外としている。
25) PRSP 体制下においても構造調整的な性格は存続している。
26) 援助の氾濫への問題視以上に各国の援助疲れによる拠出資金の減少を補うためでもある。
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後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
造調整が失敗したことから、ガバナンス能力の脆弱な低所得国向けの援助投下のため
の条件としての側面があり、オーナーシップが重要であれ、それを求めることは
LDC の実情にもとるのである。
第二節 財政支援におけるファンジビリティの問題
プログラム型の援助の特徴はその資金のファンジビリティ(融通性)に依拠してい
るといっても過言ではない。その他、被援助側のオーナーシップがプログラム型援助
の実効性を巡って重要となるが、これに関しては後述することとする。そしてここで
は SWAp とコモン・プールの考察に入る前に、このファンジビリティを説明する。
ファンジビリティの懸念は従来から、財政支援型の援助分野において問題視されて
きた(高橋 2001 a)。ファンジビリティの高いプログラム型の援助では、当該分野の
みならず被援助国予算全体を把握する必要が生じるのである。
政府の歳入が関税や法人税など比較的課税が容易なものからの税収に頼っている低
所得の途上国の場合、前年度予算などが当該年度の予算の参考とはなり難い。そのた
め被援助国にとっての予算の使途は計画的なものとはなり難く、このような国家に対
する財政支援はファンジビリティへの懸念を持たざるを得ない。プログラム援助の背
後を常に付きまとう重要な問題であると言える。
被援助国に対し、援助側は開発援助の効果を追求せねばならないため、援助予算の
モニタリングと自国民や資金の提供先へのアカウンタビリティを確保せねばならず、
また二国間であればタイド性27)の高いものにしたいとするインセンティブを持つため、
使途を限定するための動機が存在する。さらに日本の援助の主軸である自助努力の観
点からは、被援助国が援助へ極度に依存することは回避されねばならないといった考
慮がなされる。そのためファンジビリティの高い援助に対しては消極的とならざるを
得ないのである。
第三節 セクターワイドアプローチ(SWAp)
SWAp とコモン・プールは援助モダリティとして性質上共通する点が多いため、共
通する点は本節において述べ、コモン・プール形式の性質の内、財政協調のみを次節
において取り扱う。
SWAp は援助の氾濫から生じる援助側の競合を問題視した結果考案された。SWAp
は被援助国政府にオーナーシップを求め、水、教育、保健衛生などの分野毎に各援助
組織が集い開発戦略を共有し実行していくという援助モダリティである(JICA
2004)。つまり援助の氾濫により生じる被援助国に課される煩雑な業務や経常支出の
圧迫、持続性の無い個別案件の重複や一貫性の無さと言った弊害を克服するための論
27) 受注先を援助国の企業などに限定することを指す。
- 187 -
年報 公共政策学
Vol. 6
理的な帰結である。
しかしながら援助側が個々のなんらかの利益を追求する利害関係者である以上、合
意形成を図っていくのは必ずしも容易ではないはずである。すでに考察してきたよう
に援助の氾濫による弊害が生じるのは、被援助先に受け入れた援助をすべて吸収する
だけのキャパシティが存在しない状況下である。そのため合意形成がなんらかの形で
図れたとしても、それに見合うだけの各援助側の利益が確保されるのであろうか。も
ちろん、各援助組織側の利益が例えば貧困の削減のようなイシューの純粋な解決のみ
であれば、合意は比較的容易であろう。しかしこのような理想的な状態は現実におい
て可能なのであろうか。SWAp を理想的なものとするために、参加する援助組織間の
同質性を高めれば可能であるかもしれないが、これは結果として排除される援助組織
が存在することを意味する。排除された援助組織が独立性の援助を展開すれば、一部
の同質性の高い援助組織の集まりは被援助国が許容可能なレベルまで援助投入量の調
整を行わざるを得なくなるであろう。同質性の高い援助組織の集まりにとっても、そ
れぞれには援助の利益を得なければならないため、この利益に絶対量が存在し排除さ
れた独立性の高い援助を行った組織と共通のものであれば、得られる利益は小さなも
のとならざるを得ない。そして援助の目標が純粋な被援助国の開発であったとしても、
そこには既得権益28)が存在しているのである。
つまり、協調路線の重視は利害の一致しない利害関係者29)に対する排他性すら生み
かねず、排他される利害関係者が存在する限り投入する援助の総量を持続可能なレベ
ルにまで調整することは実際には厳しいと言わざるを得ない。また個別の援助組織に
とっての既得権益者が存在する限り、調整が大規模になるほど反作用と副作用が大き
くならざるを得ないのである。
また、排他性が高まることにより、援助の総量が将来的に減りかねない事態につな
がる。これは援助組織が日本のようにその予算の大半を税金で賄っている以上、納税
者への説明責任が必ず付帯することに起因する。つまり正当化に足るだけの説明責任
が求められるのであり、目的とされた利益が十分に上げられない状況下では正当化が
不十分なものとなる恐れがある。
では、何らかの規制により協調が実施された場合、どのように結果の公平さが確保
されるのであろうか。援助協調が実行された後、なんらかの利益が得られた際に、こ
の利益がどの援助組織に帰属するのかをあらかじめ把握する必要がある。例えば、予
算規模のみを見ても援助側には大小あり、その能力一般に関しても差異があることを
念頭に置かねばならない。そのため、援助側が利害関係者の集まりである以上、不公
28) 日本の援助では開発コンサルタント、ゼネコン、公務員の専門家派遣制度などが含まれる。
贈与か貸付かに関わらずアンタイド化に伴い、既得権益の流動化が進行し、一概に定義す
ることは困難である。
29) ミッション系の団体や大口のドナーがこれにあたると考えられる。
- 188 -
後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
平な利益の分配は割りを食わなかった組織の不満を募ることになりかねないのである。
また相対的に投入した援助量に比して大きな利益を得ることになる援助組織は割りを
食わなかった組織に対する不満の温床となり得る。さらには、そもそも自律性を主張
し SWAp に不参加であった援助組織は、SWAp から派生した効果にフリーライディン
グすることが可能となる。現実には、ある独自のプロジェクト形式の援助の成功が自
己から派生した独自の利益であるのか、もしくは SWAp から派生した効果であるの
か区別がし難いといった問題を包含しているため、フリーライダーを排除することは
難しい。
このプログラム型援助の負の特性は、二国間援助において際立つ。例えば、北欧、
イギリスはプログラム型援助の導入を主張し、一方でアメリカ、フランス、日本はプ
ロジェクト型の援助も依然として必要であるとの態度を示すことに表れている
(JICA 2001)。これは北欧のように ODA の資金規模が少額な国家では、パートナー
シップの中でより援助の効果を追求できるといったインセンティブを持つためとされ、
またイギリスであれば本国の持つ開発分野での人材や知的資産が活かされる場はプロ
グラム型の援助型式であることが理由とされる(ibid.)。一方での立場は自律性の重
視が援助による利益を得る上で比較的効果的としたプログラム型に対する結果である
と考えることができる。さらに日本の場合であれば、「自助努力」重視の援助が通用
した被援助国のオーナーシップが確立されていたアジアにおいて効果を発揮した「要
請主義」の徹底の体制から脱しきれず、体制の変革や既得権益の対応に遅れが出てい
るためと捉えることが可能である。
SWAp の理念的な観点は援助の氾濫を防止するために非援助側と援助側とでの情報
や認識をできる限り共有し、齟齬や援助の重複、一貫性の無さといった面を解決しよ
うという前提の上に成り立っている。本来であれば被援助国側が持っているべき情報
でさえ、政府でなく援助組織などの間に分散・偏在していることは多々ある。情報の
共有を行うためにはこれらの個別に持ち得る情報の価値に対する公平な負担が主張さ
れて然るべきである。
ここまでを整理すると、協調を目指した援助モダリティである SWAp の問題は、
そもそもの合意形成を図ることができるのかといった側面と、そして公平な利益の分
配が可能かどうかといった点に求められるのである。さらにこれらの問題点は自助努
力の条件が存在していれば生じ得ない問題であり、つまるところ被援助国側のオーナ
ーシップが脆弱であればあるほど、援助側での調整が非常に重要になり、問題点が色
濃く生じると考えられる。PRSP 体制やプログラム型の援助型式は被援助国の主体性
を重視しようとする側面を持ち合わせているが、現実にはその時点における被援助国
の発揮し得る、もしくは与えられるオーナーシップの範疇での援助の投入量の調整が
必要であり、むしろ開発の進行自体がオーナーシップの強度に左右されるという開発
の限界を露呈していると言える。つまり SWAp の目指す効果的で効率的な援助を目
- 189 -
年報 公共政策学
Vol. 6
論んだとしても、結果としてオーナーシップが強化されていかなければ開発はそれほ
ど進まないという、論理の帰結であるはずの SWAp が一種の矛盾を孕んでいるので
ある。
第四節 コモン・プール形式
次に資金面での援助協調を論じていく。そもそもコモン・プール形式の援助とは、
各援助国・国際組織が開発援助資金の一部を被援助国の特定の分野に対し共通のアカ
ウントに拠出し、被援助国のオーナーシップの下にどのように活用するか各援助国・
国際組織が協議し、予算の使途を決定していく方式である。債務負担と恒常的な国際
収支の赤字に見舞われる LDC にとって上述の煩雑な業務が解消され、経常収支を安
定させる上でも被援助国にとって望ましい形となると考えられている(高橋ら 2008)。
もう一方の援助側にも援助疲れが顕著に表れる中、予算のより効率的で効果的な消化
は望ましいとの考えが生じてきたため、いくつかの国際組織や記述のプログラム援助
に積極的な国家はコモン・プールに対して前向きである(JICA 2001)。
コモン・プールのメリットとして、多くの援助組織に渡って構成される予算である
ため、バスケット制に見るような量的な安定性の担保となる点がある。この点は二国
間援助において援助国の思惑や情勢により途上国に対して年度的に拠出される予算が
変動することで主体的な援助計画が年度を越えて発揮しにくかった欠点を克服できる。
また、実務の例として挙げた予算不足によって援助の効果が持続性なものにならない
際は、解決策となり得る。コモン・プール形式がファンジブルであればあるほど、そ
してたとえ費用対効果の度外視やモラルハザードが起きたとしても、援助の氾濫にて
紹介した「投入される援助の総量とキャパシティの不一致」は生じ得ないのである。
それではコモン・プール形式の援助のデメリットは何であろうか。その一つはファ
ンジビリティが高いゆえの被援助側の躊躇にある。特定分野に対しての共有アカウン
トへの各国からの振り込みであるため、直接プールされた資金が他の用途に使われる
ことは防がれるが、それでも元々被援助側が特定分野につぎ込む予定であった国家予
算が他の分野に転用され得るファンジビリティの問題は防ぎようがないであろう。こ
の点に関しては、拠出の条件としてコンディショナリティを課していくことが効果的
であると考えられるが、一方で被援助側の自主性はさらに低いものとなる点は拭い去
れない。
もう一つが拠出先のアカウンタビリティの問題である。コモン・プール形式をたと
え採用したとしても多くの援助組織にとっては、例えば納税者に対して説明責任を負
わねばならない。援助側が資金のモニタリングや会計報告を求める際には、結果とし
て被援助側が個別対応せねばならないため、管理に費やす手間暇・コストが軽減され
ることはない。これに関して高橋が、LDC 政府の資金の管理体制が未整備なため、
資金使途のモニタリングを巡って様々なトラブルが生じている現状を報告している
- 190 -
後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
(高橋 2001 b)。
有本と高野のモデル研究によれば、援助側が完全に利他的30)であるときには、財政
支援が援助の氾濫に対する解決策になり得るとされる(有本ら 2007)。確かにこの主
張は尤もなものであり、完全に利他的な状態、つまり援助側が口も出さないし報告の
義務も課さない状況下で競合は生じ得ない至当な状態である。しかしながら被援助組
織側に厳格な同質性や組織性を追求することは前節で述べたように厳しいと言わざる
を得ないのである。これらの議論を具体的なものとして論じれば、日本のような二国
間援助においても多国間援助においても世界的に見て多額の援助予算を投下する国に
とって、コモン・プールはその性格上、拠出した資金に見合うだけの発言力の問題、
他国の資金と混ざることで自国の存在感(顔の見える援助)が低下することやアカウ
ンタビリティの問題から難色を示さざるを得ないのである。どんなにフラッグ・ダウ
ンを声高に叫んだところで、それによる代替利益が存在しなければ旗を立てざるを得
ないのである。プログラム援助の中でも、特にファンジビリティの高い一般財政支援
となれば、なおの事これらの問題点が強調されるであろう31)。被援助国に対する一般
財政支援はプログラム型援助の一つの究極的な到達点であろうが、現状においては実
現可能性の低い絵空事である。現状におけるコモン・プール形式の援助はそもそも旗
を立てにくい予算を用意しない限りは限定的なものでしかあり得ないであろう。
第五節 オーナーシップと新規援助モダリティ
では、被援助国に求められるオーナーシップとは、プログラム型の援助モダリティ
や援助協調とどのように関連するのであろうか。オーナーシップはガバナンスの強弱
と密接に関連していると考えねばならない。しかしながら PRSP の節でも述べた通り、
こと LDC において LDC に委譲されるオーナーシップは限られたものにならざるを得
ない。そして SWAp と同様にプログラム型の援助であるコモン・プール形式の援助
は、ファンジビリティの高い援助が被援助国に拠出される際、被援助国側にグッドガ
バナンスが存在するかどうかを鍵としている。世界銀行によればこのグッドガバナン
スとは、法の支配、透明性、説明責任、そして市民社会の参加を基本的な構成要素と
している(渡辺ら 2007; p.59)。
グッドガバナンスが被援助国の所与として存在し得れば、被援助国のオーナーシッ
プの下に資金の機動性を高め、結果、効果的で効率的な開発を実現することを期待で
きる。そしてこの担保が不可能であるほど、ファンジビリティの高さから生じる拠出
側にとってのインセンティブと信頼性は低いものとなる。そのため、プログラム援助
30) 各援助組織がそれぞれの「旗を立てる」ことにこだわらない状況を指している(有本ら
2007)。
31) 被援助国に対してコンディショナリティを課していくことであるいは可能かもしれないが、
財源の拠出先が十分に確保されねばならないという問題は依然として変わらない。
- 191 -
年報 公共政策学
Vol. 6
が一つのモダリティとして本意を十分に発揮するためには、LDC はその要件を十分
に満たすことができないフェーズにあると言えよう。
援助の潮流が PRSP 体制に見る協調を重要視する体制に移行したが、PRSP の提出、
SWAp やコモン・プール形式にみるプログラム型援助はいずれも被援助国のオーナー
シップを重視するという立場に立っている。すなわち被援助国のオーナーシップを前
提として組み立てられているのである。しかしながらここまでに述べて来たように被
援助国が得られるオーナーシップとは被援助国のキャパシティやガバナンスの状態に
大きく依存する。つまりプログラム型援助は LDC に対する開発の手法として十全と
は呼べない代物であり、あくまでも援助の流入量を援助側がいかに調整できるかの枠
組み、もしくは援助参画者のフォーラムとしての機能が重視されねばならない。べき
論から被援助側のオーナーシップを高めていくことを論じたところで、特に主体性の
文脈で語られるオーナーシップには相応の被援助側の体力か自由度の高い予算が求め
られることに変わりはない。
第六節 新規援助モダリティの考察
以上を整理すると、援助の氾濫による帰結である重複、一貫性といった問題を克服
する上で、協調とまでは言えないまでも統括的な各援助組織間の情報共有は開発を実
現する上で何らかの形で必要となる。しかしながら、組織性を高めようとすると、排
他性が高まり、結果として協調にもとる結果を生じると考えられる。
そのため、あるいは小規模な援助組織同士が同質性を高めて歩み寄り、SWAp やコ
モン・プールといった手法により、排除されやすいもしくは自律性を重視する大口の
援助組織との間で、援助総量のインプットに当たる部分を簡素化し調整を図っていく
ことが無難であるといった方針も可能であるのかもしれない。いずれにせよ、現状の
プログラム援助はいずれの方式もが LDC において生じる援助の氾濫を実行的に回避
し得る方策とは成り難く、むしろ調整のためのフォーラムとして存在することに意義
があると考えられる。
結びに
本稿では実務上の課題を皮切りに、LDC 開発において援助側での調整の必要性を
論じ、それに対する解決案アプローチとしてプログラム型の援助を考察してきた。し
かしながら、新たな援助モダリティは LDC の開発に対して必ずしも十全ではなく、
さらには日本の援助を始め開発援助を取り巻く環境が劇的に変化している中、援助の
氾濫は協調には収束せずむしろさらに激しくなる傾向すらあるのである。
そのため今後の援助関係組織は援助の氾濫が一層激しくなる中で開発の効果を上げ
て行くことになると考えられる。もし LDC の開発を協調路線で進むのであれば、不
確実な被援助国のオーナーシップの下に、幅広い援助組織の参画を得て情報や認識、
- 192 -
後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
そして目標の共有が求められるため、コモン・プールを始めとする援助モダリティの
実現には開放性と利害関係者の調停を図るだけの柔軟性が必要であることに変わりは
ない。
依然として膨大な援助需要が LDC にはある一方で、それを満たす実行手段が財
源・援助モダリティ共に十全とはいかないまでも、現状においては従来型と新規の援
助モダリティの複合により効果を高めて行くより他ならないのである。あるいは被援
助国の中央政府や地方自治に対して各援助参画者がアプローチするのではなく、現地
の人材を極力使わない被援助国の国民に直接還元されるプロジェクト型の援助により、
副次的な統治機構の強化を視野に入れるといった新たな試みが必要となるのかもしれ
ない。ドナーの量的主体が国家であり、オーナーシップの委譲が利益還元を求めてな
される以上、旗を下げさせることの模索の他に、ドナー間の競争の果てに淘汰が生じ、
結果的に援助の氾濫を超克していくこともあるいは可能かもしれない。LDC に対す
る援助モダリティはまだまだ発展途上にあるのである。
参 考 文 献
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渡辺昭夫、土山實男編(2003)「グローバル・ガバナンス」、東京大学出版会。
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World Bank(2001)“The Drive to Partnership Aid Coordination and the World Bank”, World Bank:
p.15.
- 194 -
後開発途上国における援助の氾濫と新規援助モダリティ
Aid Bombardment and New Aid Modalities
surrounding Least Developed Countries
TSUNODA Shin’ichiro
Abstract
This paper deals with aid bombardment which often occurs in priority issues of aid to
developing countries, and aims to find the most effective and feasible modality to resolve aid
bombardment. I analyzed the international tide of development aid formed by many donors
and borne new aid modalities which include sector wide approaches and common pool
budgets, and discuss the effectiveness of new aid modalities to least developed countries.
Though new aid modalities are not necessarily sufficient to coordinate donors and resolve aid
bombardment in the result, there is no other way to promote aid effectiveness without
composition of modalities including new aid modalities. Alternatively, aid bombardment might
be overcome at the end of competing donors.
Keywords
aid bombardment, aid modalities, aid effectiveness, aid coordination, Ethiopia, least
developed countries, sector wide approach, common pool budget
- 195 -
地方議会向けサマースクールの開催について
地方議会向けサマースクールの開催について
北海道大学公共政策大学院公共政策学研究センター研究員
水澤
雅貴
北海道大学公共政策大学院(公共政策学連携研究部・公共政策学教育部)では、8
月18日(木)
・19日(金)の 2 日間、地方議員向けのサマースクールを開催した。
このサマースクールは、地方分権が本格化する中、自治立法権の担い手としてその
役割がますます重要となっている地方議会の活性化に寄与することを目的に、大学・
大学院の取組としては全国初の試みとして、2008年にスタートしたものであり、本年
は第 4 回目、道議会、市議会、町議会議員ら18名の参加を得て実施した。
議会改革の問題から、議員活動、議会運営の実務上の課題などについて、講義を通
じて理解を深めるだけでなく、受講者自らが考え、情報・意見を出し合い、議論する
ことで相互研鑽を図ることを狙いとするもので、大学・大学院の取組として、このよ
うな地方議会議員向け研修を、宿泊を伴う集中講義・ワークショップ形式で実施する
のはユニークと言える。
また、当大学院の機能を活用して実施するこのスクールは、当大学院自身が、公共
空間を担う諸主体の中の一つとして、積極的に社会的役割を果たしていこうとするも
のであり、当大学院の社会貢献活動の一環と位置付けることができる。
以下、今回のサマースクールを総括する。
1 サマースクールの概要・日程
サマースクールの概要及び日程は次のとおりである。
概
要
1
主
催 : 北海道大学公共政策大学院
2
後
援 : 北海道市議会議長会
北海道町村議会議長会
3 開 催 期 間 : 2011年 8 月18日(木)~ 8 月19日(金)
開 催 場 所 : 北海道大学(札幌市北区北 9 条西 7 丁目)
4 対象・定員 : 地方議会議員及び地方議会議員を志す方。定員20名程度
5 受 講 料 : 8,000円(宿泊代含まず)

メールアドレス:[email protected]
- 197 -
年報 公共政策学
Vol. 6
<北海道大学公共政策大学院(HOPS)2011地方議員向けサマースクール日程>
- 198 -
地方議会向けサマースクールの開催について
2 サマースクールの特色
今回のサマースクールの企画に当たり、次のような特色を意図した。
①
当大学院の多彩な研究者教員と実務家教員を動員し、地方分権が本格化する中、
議会の役割がますます重要となることを踏まえ、地方政府にふさわしい地方議会
となるための議会改革の問題から、議員活動、議会運営の実務上の課題にわたる
幅広いテーマを取り上げること
②
議会改革について、先駆的な取組に造詣が深いキーパースンを迎えての特別講
演・意見交換を行うこと
③
全国初の「文理融合型」公共政策大学院として、「理論と実践の架け橋」を重
視し、政策立案能力を有する有為な人材の育成に力を注いでいる当大学院の特色
を生かし、参加者が自ら考え、発表し、議論する機会を多く設けること
3 募集と応募状況
サマースクールの実施に当たっては、北海道市議会議長会と北海道町村議会議長会
の後援を受け、両団体が有するネットワークを活用して、受講者の募集に協力をいた
だいた。この場を借りて改めて感謝申し上げる次第である。
受講者の募集に当たっては、道内市町村議会事務局に募集案内をメール送付したこ
と、北海道議会事務局と札幌市議会事務局に直接募集案内を持参し、議員の皆さんへ
の直接配布をお願いしたこと、その他、北海道大学及び当大学院並びに全国町村議会
議長会のウェブサイトに案内を掲示するとともに、マスコミへの資料提供を行った。
今回の募集定員は、例年と同じ20名とした。募集開始直後から、昨年の募集に間に
合わなかった地方議員からの応募や東京在住の団体職員からの応募照会があるなど、
関心が高く、締切日(6 月30日)の時点で応募者は20名と定員数に達した。
4 受講者
表1 男女比率(( )内は2010年実績)
性別
人
比率
回のサマースクールでは特別な選考は行わず、
男
17(11)
94%
希望者全員の受講を受け入れることとした。
女
1(3)
6%
その後、1 名の辞退者、前日急用で 1 名の
計
18(14)
100%
受講希望者が定員数であったことから、今
欠席者が出たため、最終受講者数は18名とな
った。
受講者の属性を分類すると、次表のとおりである。道内からの参加者は17名で、道
外(東京都)からの参加者が1名であった。団体の区分別では、都道府県議会議員は
2 名、市議会議員が 2 名、町村議会議員は 9 名と現職議員の比率が約 7 割であった。
また、今年度の特徴は、議員志望者が 5 名と、議員志望者の参加人数が前回(2 名)
より多かったことである。
- 199 -
年報 公共政策学
Vol. 6
表2 受講者の道内・外比率(( )内は2010年実績)表3 現職・議員志望者の構成
区分
人
比率
区分
人
比率
道内
17(13)
94%
現職
13
72%
道外
1(1)
6%
議員志望者
5
28%
計
18(14)
100%
計
18
100%
(注1)道議 2 名、市議 2 名、町村議 9
年齢別では、最小年齢34歳~最高年齢66歳で、平均年齢51歳、昨年の54歳より 3 歳
若返った。その要因は、議員志望者 5 名全員が30歳代であり、平均年齢を押し下げる
結果となったことによる。
議員経験別では、1 期・2 期のフレッシュな議員が約 6 割を占める一方、3 期以上
のベテラン議員が約 4 割で、その中には現職の議長が 1 名含まれている。ベテランク
ラスでも、これまでの議会活動に変革の必要性を感じ、改めて勉強して、議会活動・
議会改革に活かしたいとする意欲的な方が多かった。
表4
現職の経験状況(( )内は2010年実績)
区分
1期目 2期目 3期目 4期目
現職(人)
4(3)
4(4)
3(2)
0(1)
比率
31%
31%
23%
―
(注2)現職議長
5期目
2(0)
15%
6期以上
0(2)
―
計
13(12)
100%
1名
表5
年齢構成(( )内は2010年実績)
区分
30歳代
40歳代
受講者(人)
5(1)
3(3)
比率
28%
17%
(注3)最小年齢34歳~最高年齢66歳
(注5)過去の受講生 4名(22%)
50歳代
4(5)
22%
60歳代
6(5)
33%
計
18(14)
100%
(注4)30歳代はすべて議員志望者
(注6)平均年齢 51歳(54歳)
5 スクールの内容
スクールの内容については、1の概要・日程のとおりであり、目下の重要課題であ
る議会改革をテーマに、講義・ワークショップを設定した。
5 - 1 講義・講演
スクールでは、まず、当大学院の宮脇淳院長が開講の辞を述べたのち、引き続き、
「地方議会に求められる政策の思考と議論」と題して基調講義を行った。宮脇院長は、
「地方議会は大きな転換点を迎えている」「議会改革はグローバルな視点から考えるこ
とも大切」「議会は政策を創る製造業にならなければならない。一歩広い視野から観
察すること、観察するとは自分の思い込みを排除することであり、改革の第一歩は自
- 200 -
地方議会向けサマースクールの開催について
分の議会の思い込みに気付くことではないか」「議員は、議論と主張の違いを知って
ほしい。大方、主張になっている。私はこう思うでは政策を生み出さない。互いの考
えをぶつけ、考えの根拠を検証し合い、矛盾点を議論し合わなければ政策議論にはな
らない」と、受講生へ熱いエールを送った。
続いて、特別講演として、「地方議会の政務調査費」「標準町村議会会議規則・委員
会条例詳解」など多くの著作があり、議会制度・議会運営や議会改革の分野における
第一人者である北海道町村議会議長会事務局長の勢籏了三氏より「政務調査費の現状
と課題」と題してご講演をいただいた。勢籏事務局長からは、政務調査費制度の成立
の経緯、支給額の現状、制度面の課題等に関する詳しい説明をして頂いた。受講者か
らは、「都道府県別等の政務調査費の額による説明は分かり易かった」などの声が寄
せられた。大変ご多忙の中、快くお引き受けいただいた同氏には、改めて深く感謝を
申し上げる。
また、最終日には、米田雅宏当大学院准教授より、「地方議員のための政策法務―
その現状と課題」と題する講義が行われた。米田准教授からは、政策法務能力向上が
議員活動にもたらす意義について、並びに「条例の種類」や「条例制定のポイント」
など、条例立案に必要な政策法務に関する基本知識についての説明があった。受講者
からは、「自分では調べられなかった政策法務の内容を聞くことができた。また、政
策法務の基礎を再確認できた」との声が寄せられた。
受講者は終始熱心に耳を傾け、また、少ない時間ではあったが、活発な質疑・意見
交換が行われた。
5 - 2 事前学習
当スクールは、少人数方式により受講者が自ら考え議論することを特色の一つとして
おり、2 日間にわたる議論を実り多いものとするため、事前学習として次のテーマに
関する意見等の事前提出を各受講者にお願いした。
①あなたが所属する(又はあなたが目指す)議会の議会改革に関するこれまでの取
組、現状、今後予定されていることについて
②地方政府にふさわしい地方議会となるためには、どのようなことが必要か、あな
たの意見(改革の方向性、具体的内容など)
③議会改革に関し、他の受講者から聞きたい事項等について
ここでは事前学習課題の②「地方政府にふさわしい地方議会となるためには、どの
ようなことが必要か」から、町議会議員と道議会・市議会議員等(議員志望者を含
む)とに分けて、それぞれの主な意見等を整理してみる。
町議会議員グループの主な意見等は、次のとおりである。
①政策立案・提言を議会が出来るようになるには、議員の兼業・専業の考え方、議
員報酬の在り方、事務局体制の確立など、未整理な点が多い。
- 201 -
年報 公共政策学
Vol. 6
②住民が議会に望んでいることは、行財政のチェックであって、政策立案ではない
のではないか。
③町民の意識が、ほとんど議会改革にまでは至っていないのではないか。
④議会活動に対する住民の理解がないままに、議会無用論が先行していないか。
一方、道議会・市議会議員等グループの主な意見等は、次のとおりである。
①党派を超えた議員個々の意見の尊重により、論議の活性化と透明性の確保が出来、
形式的な議論からの脱却が出来るのではないか。
②議会に自由な発想と行動力が不足しているため、現実的には議員と地域住民との
相互コミュニケーションが 4 年に一度となっており、政治が身近にあり、市民意
見が反映されているという実感がないのではないか。
③二元代表制において、与党・野党はそもそも存在しない。会派が、議員同士の議
論を深めることや議会として政策提案をすることを阻んでいないか。一般質問後
のフォローアップを議会がしていない。議会が形式化、儀式化し、議会の存在意
義が今問われていないか。
④行財政改革の見地からの地方議会改革(議員数の削減など)と、地方政府にふさ
わしい地方議会改革とは混同してはならない。
このように、町議会議員と道議会・市議会議員等では、地方議会改革に対する視点、
意見等に若干の差異が見られた。
5 - 3 ワークショップ
講義や事前学習を踏まえ、ワークショップでは「地方政府に向けた議会改革」につ
いて熱心な議論が行われた。グループ分けについては、基本的に自治体の規模が類似
の議員同士をグループ化し、議員志望者は志望議会などを考慮して各グループに入っ
てもらった。グループ名は、使用した教室にちなみ305(道議会議員・市議会議
員・議員志望者)、306(町議会議員・議員志望者)、307(町議会議員・議員志
望者)とした。
ワークショップの初日(18日)は、夕方から夜 8 時頃まで各々白熱した議論が行
われた。翌日(19日)の午前中は、グループ毎に議論したことを手際良く模造紙に
まとめ、同日午後の全体会においてそれぞれ発表・意見交換を行った。各グループの
発表のポイントは、概ね以下のとおりである。
305グループは、「議員を選ぶ側も選ばれる議員側も、議論・合意・決定にかか
るスキルアップが必要である」とのことであった。また、グループ内の議論において
「議員=政治家か?」といったやりとりが行われたことも紹介された。議員は単に選
挙で当選した人、政治家は議会運営能力がある人(例えば他の議員を仲間にする能力
のある人)ということであった。したがって、議員に求められるのは「政治家へのス
キルアップ」とのことであった。
- 202 -
地方議会向けサマースクールの開催について
306グループからは、「議員の意識が変われば、有権者の意識も変わる」、「議員
の意識改革=議会改革」
、「議会審議の充実=議会報告会=議員が恥をかくことで、有
権者の意識も変わる」、「意識改革=議会基本条例」、他の議員に「議員の意識改革」
の必要性をどう伝えるかが課題であるなど、「議員の意識改革」に関する意見が多く
挙げられたことが報告された。
307グループからは、それぞれの議会の運営の仕方に差異があることなどが報告
された。グループ内の議論においては、「質問の事前通告に対する町長からの事前回
答がある議会とそうでない議会」、「質問に役立つ情報を得るために、執行部側との接
点がある議会とそうでない議会」など、議会毎に議会運営の仕方が微妙に違うことが
再確認出来たとのことであった。また、「議員力の差は執行部側の矛盾を的確に付け
るかどうかの差である」との発言があったことなども紹介された。307グループの
結論は、「議会改革は、議員が恥をかくことを覚悟し、議員が共に行動できるか否か
にかかっている」とのことであった。
グループ別の発表後の全体での意見交換では、「議会改革」に向けて「行動するこ
と、仲間を増やすこと」などが確認された。
このように、一歩一歩の実践が大きな改革に繋がることを受講者全員が共有、確認
できたことが、本サマースクールの成果の一つと言えよう。
6 今後に向けて
サマースクール終了時に受講者全員にアンケートを実施した。アンケート結果(抜
粋)は次のとおりである。これを見ると、サマースクールの開催回数については、
「年 1 回程度」が56%に対し、「年 2 回程度」を望む声が44%、1 泊 2 日の期間につい
ては、「ちょうど良い」が56%、「やや短い」が39%であった。さらに、今後のサマー
スクールのテーマとしては、表8にあるように「議会基本条例」
、「財政問題」
、「地域
活性化」など多様な意見が寄せられた。
◇アンケート結果(抜粋)
表6 このような議員向けスクールの今後の開講について、どのように思いますか?
年1回程度
10
56%
年2回程度
8
44%
計
18
100%
表7 1泊2日の期間はいかがでしたか?
ちょうど良い
10
やや短い
7
無回答
1
計
18
56%
39%
5%
100%
- 203 -
年報 公共政策学
Vol. 6
表8
今後議員向けスクールを開催する場合、どのようなテーマを取り上げたらいいと思いま
すか。
(1)議会
議員力
議員とは
議会提案条例
(議会の)情報公開
(議会への)住民参加
(議員の)個別政策づくり
議会基本条例
議員の資質向上
一般質問
(議会と)行政との関わり方
議員改革
全国の議会改革の現状
(議会と)市民との協働
議員公開手法
議会改革の検証
議員報酬
議会事務局(人事)
議論の仕方
法務の手法
選挙法
(議員の)地域活動実践
議会改革のケーススターディ
議会改革に関する各議会の取組事例
(2)財政
財政
財政問題
自治体財政の作り方
地域の産業政策
PFI
過疎対策
(3)地域
地域活性化
官民連携
(4)その他
北海道のエネルギー対策
経済成長
また、アンケートの自由意見欄の主な意見等については、次のとおりである。
・議会運営のあり方、やり方について情報交換が出来たことは有意義だった。長年議
員をしていても気付かなかったことを、このスクールに参加して、気付かせてもら
った。
・『地方政府』確立に向けた議会の取組みについて、大変参考になった。この縁をネ
ットワークでつなげていきたいと思っている。
・始まるまでは長いスケジュールだと思っていたが、あっという間の 2 日間だった。
・非常に、刺激になった。地元に帰って、がんばります。
・充実した 2 日間を過ごす事ができ、ありがとうございました。来年以降も是非参加
したい。
このように、受講者からは感謝と今後のサマースクールへの期待の声が数多く寄せ
られたところである。来年度のサマースクールの在り方については、これらのアンケ
ート結果を踏まえて、今後、検討していく必要があろう。
最後に、今回のサマースクールを一つの契機として、受講者同士が幅広くネットワ
ークを形成し、今後も情報交換をしながら同志を増やし、各地域で議会の活性化や地
域の振興にますます取り組んでいかれることを期待したい。
- 204 -
医療政策勉強会について
医療政策勉強会について
高波
千代子*
土畠
智幸**
1. 勉強会開催の趣旨及び経緯
わが国の医療は、国民皆保険と自由開業医制の下、世界でも類をみないフリーアク
セスの医療を実現してきた。しかしながら現在、急速な少子高齢化の進行やグローバ
ル経済の進展等により社会構造が大きく変動する中、逼迫する国家財政という大きな
制約に縛られながら、わが国の医療政策はこれまでに無く難しい舵取りを強いられて
いる。
医療アクセスの面でも、医師の地域的偏在や過疎地域の公立病院の縮小・廃止、実
質的な無保険者の存在等、医療の提供体制が十分に保障されない状況も出現してきた。
患者の問題行動や高額賠償を認める医療訴訟等も日常的に紙面を賑わせるようになり、
患者と医師の関係も大きく様変わりしている。
このような医療を巡る昨今の問題状況は、地域政策にも大きな問題を提起している。
地域の在り方を考える際に医療の確保は不可欠の問題であるにもかかわらず、これま
で個々の市町村における公立病院の経営問題や医師の不足といった個別問題ばかりに
注目が集まりがちで、都道府県全体あるいは広域圏単位での地域政策として医療のあ
るべき姿が議論されることは少ない。
北海道大学公共政策大学院では様々な公共政策課題が多岐に渡り取り扱われている
ものの、残念ながら医療政策に限っては社会保障論ないしは地域政策論の一部として
若干の講義が行われているに過ぎず、医療政策を正面から取り上げた講義は少ない。
そこで、医療政策に関心を持ち問題意識を共有する学生が集まり、趣旨に賛同いただ
いた西山裕教授と共に医療政策について学ぶ勉強会を開催することとなった次第であ
る。
本勉強会は2010年10月から月に 1 度の割合で開催しており、当初から公共政策大学
院の教員・学生のみならず、医療政策に関心を持つ人々が幅広く参加することのでき
るオープンな場として運営している。そのため、法学研究科や医学部保健科学研究院、
民間の医療機関等から多岐にわたる参加者を得ることができた。
*
**
北海道大学公共政策大学院修士課程在籍
E-mail : [email protected]
北海道大学公共政策大学院修士課程在籍
E-mail : [email protected]
- 205 -
年報 公共政策学
Vol. 6
2. 各回の概要
第1回「過疎の進む地域の Stroke care worker への教育と Stroke team が発揮する
リーダーシップ」
・講 師
齊藤 正樹 氏(札幌医科大学神経内科 助教)
・日 時
2010年10月25日(月)18時15分~20時30分
【講義概要】
2002(平成14)年から 4 年間、砂川市立病院の神経内科医長として勤務されてい
た齊藤氏から、当時、同院が進めていた北海道中空知圏域における自治体病院間の
連携協定や脳卒中地域連携パスの体制確立について説明を受けた。病院単独で医療
を完結させる、いわゆる「自己完結型医療」から、医療機関それぞれの役割を独自
に確立し、相互に連携することで地域の医療を完結させる「地域完結型医療」へ、
既存の医療システムの転換を試みた同院の多岐に渡る取組みと共に、地域医療にお
ける医療連携の重要性について学んだ。
第2回「医療と社会」「障がいと関わり」
・講 師
土畠 智幸 氏(小児科医・手稲渓仁会病院 小児 NIV センター長)
・日 時
2010年11月29日(月)18時15分~20時30分
【講義概要】
小児科医として医療機関で小児医療に従事する傍ら、本大学院で医療と社会の関
係性の研究を進める土畠氏から、医師と患者のミクロ的考察、社会システムに組み
込まれた医療、聖域化された医療の功罪、いわゆる「医療崩壊」という社会現象、
医療界にみられる意識変化等、多角的視点からの解釈を学んだ。また、実践の場で
障害児の在宅医療システムの構築に尽力する土畠氏自身の経験や見識から、障害に
対する社会の認識などの考察について述べられ、社会に形成される様々な境界を自
ら越えて他者と関わりを持つことの重要性について議論した。
第3回「北海道の医療計画について」
・講 師
荒田 吉彦 氏
(北海道保健福祉部 医療政策局 地域医師確保推進室 医療参事)
・日 時
2010年12月22日(水)18時15分~20時00分
【講義概要】
荒田医療参事から、北海道医療計画(2008年 3 月北海道庁策定)について、道内
の医療連携体制の構築に取り組む重要項目として掲げられる分野、特に道民の死因
の大部分を占め、疾病経過の中で複数の医療機関から医療が提供されることの多い
4 疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)、地域医療の確保において重要な
課題となる 5 事業(救急医療体制、災害医療体制、へき地医療体制、周産期医療体
- 206 -
医療政策勉強会について
制、小児医療体制)
、及び在宅医療等、同計画のポイントについて説明を受けた。
第4回「所得と健康の関係についての分析:D 市レセプト分析より」
・講 師
泉田 信行 氏
(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部 第一室長)
・日 時
2011年 1 月24日(月)18時30分~20時00分
【講義概要】
所得と健康投資の関係性の分析を目的として泉田氏が主席研究員として従事され
た研究 1)の分析成果について学んだ。同研究では、D 市の国民健康保険制度加入者
のレセプト、加入者マスタ、所得(納税)データに基づいて個人単位でマッチング
しながら、所得が健康投資(医療サービスの利用)に与える影響の有無について統
計的に検討された。数値的には、世帯の所得水準は健康投資に対しほとんど影響を
与えないという結論が導かれたとの分析結果に対し、レセプトデータは健康が損な
われた事実の帰結であるため、個人の健康維持行動や健康水準の情報として利用す
る際には留意が必要との指摘がなされた。
第5回「北海道のドクターヘリについて」
・講 師
小野寺 秀雄 氏
(道央ドクターヘリ基地病院 / 手稲渓仁会病院 企画情報室長)
・日 時
2011年 2 月28日(月)18時00分~20時15分
【講義概要】
2001年、北海道初のドクターヘリ運航病院へ名乗りを上げた手稲渓仁会病院の導
入戦略を遂行した小野寺氏から、本格実施に至るまでの背景や準備過程、現在の運
行状況等の説明を受けた。民間によるドクターヘリ運航という高いハードルに対し、
同院では長期的戦略と共に挑み、顧客ニーズを正確に予測し、法人自らのリスクで
ドクターヘリを試行して徐々にその意義や有用性を地域住民、医療従事者、自治体
関係者等に浸透させた。その実績をもって正式に2006年に救命救急センターの指定
を受けた同院の経験から、地域医療政策に対する民間医療機関の役割や可能性につ
いても議論が及んだ。
第 6 回は2011年 3 月14日に予定されていたが、東日本大震災の影響で中止となった。
1) 泉田信行・高久玲音・野口晴子.(2011)「所得水準と健康水準の関係の実態解明とそれ
を踏まえた医療・介護保障制度・所得保障制度のあり方に関する研究」報告書. 厚生労働省科
学研究費補助金政策科学推進研究事業
- 207 -
年報 公共政策学
Vol. 6
第7回「産科医療補償制度って何?」
・講 師
宿田 孝弘 氏(エナレディースクリニック 副院長)
※事前講義 土畠 智幸 氏(手稲渓仁会病院 小児 NIV センター長)
・日 時
2011年 6 月 6 日(月)17時00分~19時30分
【事前講義概要】
宿田氏の講義の予習として、土畠氏と共に産科医療の基礎知識や産科医の抱える
様々な課題について確認した。特に、無事に出産することが当然と看做される産科
医療の現場では、問題が生じた際のリスクやストレスが他の診療科に比べて極めて
高い点、また女性医師の増加による現役産科医不足の問題等が紹介された。
【本講義概要】
宿田氏から、産科医療補償制度の背景や課題について医師の視点を交えながら講
義を受けた。同制度は、訴訟リスクに曝される産科医救済(訴訟リスクの軽減)の
必要性の顕在化に端を発して設けられたものの、補償範囲は限られ、且つ訴訟制度
との併用も可能であり、また妊産婦が実質的に負担する掛け金を医療施設が運営組
織(日本医療機能評価機構)に支払うという複雑な保険の構造により運営されてい
るため、今後、制度の趣旨に資するかは疑問であるとの意見が示された。医師の訴
訟リスク軽減には、例えば公的保障制度化、無過失補償制度の導入、訴訟との併願
を不可にする等、制度の位置付けをより明確にすることが求められると問題提起さ
れた。
第8回「公衆衛生における保健師の活動と人材育成」
・日 時
2011年 7 月11日(月)18時00分~19時30分
・講 師
佐伯 和子 氏(北海道大学大学院 保健科学研究院 教授)
【講義概要】
公衆衛生看護の分野において、特に行政機関で働く保健師の活動と人材育成に着
目されている佐伯氏から、これからの社会で求められる保健師像、教育課程、人材
育成システム構築の重要性について講義を受けた。疾病構造が高齢者型へ移行し障
害者や高齢者単独世帯が増える中、課題を重複して抱える地域住民に対する保健師
の役割も徐々に変化してきており、新しい方法論を創出し自ら実践推進する人材が
必要とされている。その一方で、在宅ケアを始め自立支援や地域生活支援等の既存
のシステムを活用し、地域間・多職種間のネットワークを保健師が先導して構築す
る重要性も指摘された。
3. 結語
昨年度開始した医療政策勉強会も第8回を数え、主催者側の多様な経歴を映すかの
ように講義内容は多岐に渡った。私的な勉強会というアットホームな雰囲気も手伝い、
- 208 -
医療政策勉強会について
講師の方々の本音を垣間見る幸運に恵まれたのもうれしい限りである。臨床現場で
日々医療と向き合う医師や保健師、更には医療経営の観点から率直な意見にふれられ
たことは参加者にとって極めて貴重な機会となった。毎回活発な議論の中で医療政策
の在り方に各自想いを新たにしたことと思う。多忙なスケジュールの合間を縫って講
義を引き受けて頂いた講師の方々へ改めて深く感謝するものである。
本勉強会においては、今後ともオープンな勉強会としての特色を生かし、多様なテ
ーマを取り上げながら公共政策大学院らしい勉強会として、更なる発展を目指し努力
していきたいと考えている。
- 209 -
【活 動 報 告】
注)肩書きは当時のもの。
報告者・パネリスト:
1. シンポジウム(2011年度開催分)
●日
山崎
時:2011年 6 月25日㈯
13:30~17:00
場
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟 W203
幹根(北海道大学)
張
育哲
(台北大学)
蘇
建栄
(台北大学)
マーティン・イェニケ(ベルリン自由大
学・環境政策研究所 教授)
テーマ:「共生型事業と北のまちづくり
石井
~誰もが、ともに生きられる
吉春(北海道大学)
北海道のために~」
●日
報告者・パネリスト:
中島
修
大原
裕介(NPO 法人当別町青少年セン
酒田
浩
(NPO 法人和 事務局長)
向山
篤
(北広島団体地域交流ホーム
時:2011年11月 3 日㈭
13:30~17:00
(厚生労働省社会・援護局地
場
域福祉課 地域福祉専門官)
所:北海道大学学術交流会館
ターゆうゆう24 理事長)
復興、自然エネルギー、北海道の力~」
報告者・パネリスト:
植田
和弘(京都大学大学院経済学研究
「ふれて」 コミュニティワ
教授)
ーカー)
寺下
講堂
テーマ:
「環境・エネルギーシンポジウム~震災
安田
將人(資源エネルギー庁再生可能
麻里(
(社)北海道総合研究調査会
エネルギー推進室 補佐)
医療介護研究部 研究員)
和田
篤也(環境省地球環境局地球温暖
化対策課 調整官)
●日
時:2011年 9 月15日㈭
石橋
榮紀(浜中町農業協同組合
11:00~15:30
場
代表理事組合長)
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ
赤羽
博夫(日本製鋼所室蘭製作所
第1会議室
副所長)
テーマ:
「環境と経済「二重の危機」への挑
松田
從三(ホクレン農業総合研究所
戦-東アジアにおけるグリーン・
顧問)
ニューディール政策の検討-」
報告者・パネリスト:
Grant Jordan (英・アバディーン大学
2. 研究会(2011年度開催分)
名誉教授)
●日
場
●日
所:北海道大学人文・社会科学総合
時:2011年 9 月27日㈫
教育研究棟
14:00 ~17:00
場
時:2011年 4 月21日㈭ 16:15~
テーマ:「台湾政治の見方:2012年の総統
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ
W409
選挙を中心に」
第2会議室
報告者:
テーマ:「地方行財政改革の国際比較-日本
と台湾-」
林
成蔚
(北海道大学公共政策大学院
特任准教授)
- 211 -
●日
時:2011年5月26日㈭
場
●日
16:15~
教育研究棟
所:北海道大学ファカルティハウス
W409
エンレイソウ2階
報告者:
の検証 特に行政法(学)の視点から」
北村 美恵子(北海道NPOバンク事務局長)
報告者:
雅宏(北海道大学公共政策大学院
●日
准教授)
時:2011年10月20日㈭
場
●日
時:2011年6月23日㈭
場
第1会議室
テーマ:「NPOの資金調達」
テーマ:
「原発事故の法律問題―フクシマから
米田
時:2011年10月19日㈬
場
所:北海道大学人文・社会科学総合
W409
教育研究棟
テーマ:「日韓関係の変化―経済関係から
W409
国際関係へ」
報告者:
テーマ:「宇宙開発と国際政治」
陳
報告者:
鈴木
所:北海道大学人文・社会科学総合
16:15~
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟
16:15~
昌洙
(北海道大学公共政策大学院
教授)
一人(北海道大学公共政策大学院
教授)
●日
●日
場
場
時:2011年10月7日㈮
教育研究棟
テーマ:「原発事故:東京電力の一ヶ月」
奥山
W202
テーマ:
「脱原発と再生エネルギーの可能性」
報告者:
報告者:
飯田
哲也(環境エネルギー政策
俊宏(朝日新聞経済部)
研究所長)
時:2011年10月12日㈬
場
所:北海道大学人文・社会科学総合
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟 W410
●日
時:2011年10月21日㈮
●日
所:北海道大学ファカルティハウス
時:2011年10月26日㈬
場
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ2階 第1会議室
エンレイソウ2階
第1会議室
テーマ:「震災後のわが国の課題」
テーマ:「震災復興の現状と課題」
報告者:
報告者:
飯田
鈴木
政之(読売新聞社論説委員会
貴博(日本政策投資銀行
副委員長)
●日
東北支店長)
時:2011年10月14日㈮
場
●日
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟
時:2011年10月28日㈮
場
所:北海道大学人文・社会科学総合
W202
教育研究棟
W202
テーマ:「福島第一原発事故の分析と教訓」
テーマ:「フクシマ論:二つの原子力ムラ」
報告者:
報告者:
奈良林
直(北海道大学工学部
教授)
- 212 -
開沼
博
(東京大学博士課程)
●日
場
時:2011年11月2日㈬
場
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟 W202
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ2階
テーマ:「震災の現場から」
第1会議室
報告者:
テーマ:「健康を核とした地域づくりを目
外岡
指して」
秀俊(ジャーナリスト・元朝日新
聞解説委員)
報告者:
水谷
洋一(網走市長)
●日
●日
場
時:2011年11月4日㈮
場
時:2011年11月30日㈬
エンレイソウ2階
教育研究棟
W202
報告者:
丸谷
報告者:
水野
倫之
智保(セイコーマート社長)
(NHK 解説委員)
●日
場
時:2011年11月9日㈬
場
第1会議室
テーマ:「流通業の可能性」
テーマ:「福島原発事故と事故報道」
●日
所:北海道大学ファカルティハウス
所:北海道大学人文・社会科学総合
時:2011年12月2日㈮
所:北海道大学人文・社会科学総合
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ2階
教育研究棟
第1会議室
W202
テーマ:
「開かれた復興と東アジア外交」
テーマ:「ビジネスプロセスアウトソーシ
報告者:
ング(BPO)の可能性」
杉山
晋輔(外務省アジア大洋州局長)
報告者:
佐藤
良雄(キャリアバンク代表取締役)
●日
時:2011年12月7日㈬
場
●日
所:北海道大学ファカルティハウス
時:2011年11月16日㈬
場
エンレイソウ2階
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ2階
テーマ:「どさんこ商品開発に向けて」
第1会議室
報告者:
テーマ:「地方債の現状と課題」
菊田
淳
報告者:
木幡
浩
場
(地方公共団体金融機構)
時:2011年11月18日㈮
時:2011年12月14日㈬
場
所:北海道大学ファカルティハウス
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟
エンレイソウ2階
W410
第1会議室
テーマ:「市役所改革の実践」
テーマ:「日韓関係の現在」
報告者:
報告者:
徐
(ドーコン技術推進本部技術
情報部新規事業開発室)
●日
●日
第1会議室
岡本
炯源 (在日韓国大使館公使(経済
満幸(釧路市総合政策部企画課
都市経営戦略主幹)
担当))
●日
●日
時:2011年11月25日㈮
場
- 213 -
時:2011年12月16日㈮
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟
W410
報告者:
テ ー マ :「 震 災 時 の 日 米 協 力 : Operation
山崎
幹根(北海道大学公共政策大学院
Tomodachi」
教授)
報告者:
山口
昇
●日
(防衛大学校総合安全保障
時:2012年1月20日㈮
場
研究科・元内閣参与)
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟
●日
場
―311後の希望学」
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ2階
W202
テーマ:「震災復興会議とは何だったのか
時:2011年12月21日㈬
報告者:
第1会議室
玄田
テーマ:「地域金融の可能性」
有史(東京大学社会科学研究所
教授)
報告者:
堰八 義博(北海道銀行頭取)
●日
●日
場
時:2012年1月4日㈬
場
時:2012年1月26日㈭
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ2階
第1会議室
W409
テーマ:「公有地信託の課題と震災復興活
テーマ:「自治体税務の実際」
用の問題点
報告者:
阿部
16:00~
報告者:
公男(斜里町企画総務課長)
若生 幸也(北海道大学公共政策大学院
専任講師)
●日
時:2012年1月6日㈮
場
所:北海道大学人文・社会科学総合
教育研究棟
●日
W202
場
時:2012年1月27日㈮
所:北海道大学人文・社会科学総合
テーマ:「日本の原子力政策の将来」
教育研究棟
報告者:
鈴木
W202
テーマ:
「東日本大震災とNPO・ボランティア
達治郎(原子力委員会委員長代理)
―ゼロ年代市民社会政策の果てに」
報告者:
●日
時:2012年1月11日㈬
場
仁平
典宏(法政大学社会学部 教授)
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ2階
第1会議室
●日
テーマ:「いちご農家の受入れ」
時:2012年2月29日㈬
場
報告者:
山口
教育研究棟
和海(伊達市農協営農対策室長)
15:00~
所:北海道大学人文・社会科学総合
W409
テーマ:「「内地雑居」への想像力:グロー
バリゼーションと福沢諭吉」
●日
場
時:2012年1月18日㈬
報告者:
所:北海道大学ファカルティハウス
エンレイソウ2階
眞壁
第1会議室
仁
(北海道大学公共政策大学院
准教授)
テーマ:「スコットランドの地方分権」
- 214 -
「年報 公共政策学」投稿規程
1. 趣旨・目的
本誌は、公共政策に関する研究成果の発表、ならびに実践と研究の交流を通じた公共政
策学の発展を目的としています。
2. 投稿の資格
⑴ 研究者、実務者を問いません。
⑵ 未発表・未投稿のものに限ります。他の雑誌に掲載されたものや現在投稿中のもの
は投稿できません。
⑶ 投稿された論文は、インターネット上で公開されること及び後日出版されうるこ
と、何らの対価を請求できないことに承諾する必要があります。編集委員会は、投稿
された論文について、投稿者がこれらの事項を承諾したものとして取り扱います。
3. 原稿の採否
⑴ 投稿された論文は、編集委員会が委嘱した複数のレフェリーによって査読が行われ
ます。査読結果を踏まえて編集委員会が最終的に掲載の採否を決定します。
⑵ 掲載の採否の判断の結果については、電子メールによって投稿者にお知らせしま
す。
⑶ 採用するものについては、レフェリーのコメントに基づき、投稿者に一部修正を求
めることがあります。
⑷ 採否にかかわらず、投稿原稿の返却はいたしません。
4. 原稿の送付
⑴ 原稿は、氏名・住所・電話番号・電子メールアドレスを明記のうえ、郵送または電
子メールにて送付してください。
⑵ 郵送の場合は、印刷したもの2部と、文章および図表のファイルを保存した
CD-ROM を送付してください。
⑶ ファイル形式は、MS Word 形式、テキスト形式のいずれかとします。可能であれば
PDF 化したものも添付してください。
⑷ 送付先
北海道大学公共政策大学院「年報 公共政策学」編集委員会
① 郵
送:〒060-0809 北海道札幌市北区北9条西7丁目
② 電子メール:[email protected]
5. 様式
⑴ 論文は和文または英文に限定します。
⑵ 原稿はA4判を用い、別に定める「執筆要領」に従って執筆してください。
6. 原稿の校正
校正は原則として第一校までとします。
7. 論文などの別刷
論文などの掲載原稿の別刷の印刷は投稿者の自己負担で行います。
- 215 -
執 筆 要 領
1. 原稿の長さ
20,000字以内とします。ただし、字数には表題・図表・注・文献リストを含みますが、英文
要約(Abstract)は含みません。
2. 書式
原稿の書式は以下のルールに従ってください。
⑴ 書式設定
① 用紙サイズ:A4判
② ページ設定:1ページ40字×30行の横書き一段
③ ページ番号:各ページの下部中央に、通し番号を半角数字でつけます。
④ フ ォ ン ト:和文は明朝系フォント、英文は Times または Times New Roman を使用する。
⑵ 全体の構成
① 表題
② 執筆者の氏名・所属・連絡先
③ 本文および脚注
④ 引用文献
⑤ 図表
⑥ 英文タイトル、英文要約および英語キーワード
の順序で構成します。
3. 表題
フォントサイズは16pt 程度とし、中央揃えにする。
4. 執筆者の氏名・所属・連絡先
⑴ 執筆者の氏名は、フォントサイズを12pt 程度とし、中央揃えにする。
⑵ 執筆者の所属と連絡先は、著者名の右肩に*、**、…の記号をつけ、原稿の第1ページの
下部に脚注として所属と連絡先(住所・電子メールアドレスなど)を明記する。大学院生
の場合は○○大学大学院○○研究科○○課程在籍と記入する。フォントサイズは脚注と同
じとする。
5. 本文
⑴ 節、項
半角数字を用いて、「1.」「1.1」「1.1.1」のように記入する。
⑵ 英数字
半角文字を用いる。
⑶ 句読点
「、」「。」「()」「=」などの記号類は全角文字を用いる。
⑷ 年号
原則として西暦を用いる。元号を使用する場合には、西暦の後ろに括弧書きにて添える。
(例) 2003年(平成15年)
⑸ 外国名
和文表記が通常用いられている場合は、「和文表記(英文表記:略称)」とする。
和文表記が無い場合は、「英文表記(略称)」とする。
(例) 北海道大学公共政策大学院(Hokkaido University Public Policy School:HOPS)
⑹ 数式
独立した数式には、式の末尾に数式番号を振る。括弧の順序は、[{( )}]とする。
(例) C  a  bY K , L   T 
(1)
- 216 -
⑺
脚注
脚注番号は、本文該当箇所の右肩に「1)、2)」のように片括弧・半角数字によって通し番
号で付ける
脚注は、フォントサイズを10pt程度とし、各ページの最後に記載する。
6. 図表・写真
⑴ 図表・写真は、執筆者の責任において電子形態で作成し、オリジナルおよび仕上がり寸
法大のコピーも原稿とともに提出する。
⑵ 図表・写真は、大きさに応じて1/4ページ大(400字相当)、1/2ページ大(800字相当)
と字数換算する。
⑶ 写真は図として取り扱い、図および写真には図1(英文の場合 Fig.1)、表には表1(英
文の場合 Table 1)のように通し番号を入れる。
⑷ 他の著作物からコピーした図表の転載は、原則として受理しない。
⑸ 文字の大きさ、説明記号の大きさ、線の太さなど、刷り上がりサイズでの見やすさに配
慮して図を作成すること。電子メールによる提出の場合、PDF ファイルに変換して文字化
けを起こしたりしていないか確認して提出すること。
⑹ 図の番号とタイトル、および説明文を図の下部に書く。
(例)
〈図〉
図1 国内総生産(GDP)の推移
(出典)内閣府経済社会総合研究所編『国民経済計算報告平成14年版』
(注1)季節調整済み
⑺ 表の番号とタイトルを表の上部に、説明文を表の下部に書く。
(例)
表1 日本の…の動向
〈表〉
(出典)○○研究所『…』
7. 文献引用
⑴ 本文中に他の文献から引用した場合、引用文献の「著者名(刊行年)、ページ」を表記し、
参考文献に列記する。
(例1) 脚注を用いる場合:〈本文〉…3)。〈脚注〉3) 佐藤(2000a)、pp.2-10
(例2) 本文に記す場合:〈本文〉…(佐藤(2000a)、pp.2-10)。
⑵ 文献リストは、著者名(アルファベット順か五十音順)、出版・発行年、論文名、書名・
雑誌名、出版社名、巻号、所在ページの順で記載する。
⑶ 和文文献は、書名・雑誌名を『』で、論文名を「」でくくる。欧文書名・雑誌名はイタ
リック体にする。
⑷ 同じ著者のものは年代順に並べる。同じ著者の同一年代のものは、引用順にa、b、c
…を付して並べる。また、同一著者の複数の文献を記載するときは、2つめ以降の表示に
は、氏名の代わりに、――――(4倍ダッシュ)を用いる。2行以上になる場合は、2行
目以降は一文字下げる。
⑸ 写真、図表を他の文献から引用、転載する場合は、著者自身が事前に著作権者から許可
を得なければなりません。本誌はそれについては責任を負いません。
8. 英文要約および英語語キーワード
⑴ 英文要約は、フォントサイズを10pt 程度とし、長さは100語以内とする。
⑵ 英語のキーワードは、要約の末尾に5語以内で列記する。
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『年報 公共政策学』編集委員会
編集委員長
松浦 正孝(北海道大学公共政策大学院 教授)
編集委員
石井 吉春(北海道大学公共政策大学院 教授)
高木 真吾(北海道大学公共政策大学院 准教授)
高野 伸栄(北海道大学公共政策大学院 准教授)
辻
康夫(北海道大学公共政策大学院 教授)
「年報 公共政策学」 第6号
平成24年3月30日発行
編集兼発行人
松浦正孝
発
行
所
北海道大学公共政策大学院
札幌市北区北9条西7丁目
TEL:011(706)3074
[email protected]
印
刷
所
北海道大学生活協同組合
印刷・情報サービス部
札幌市北区北8条西8丁目
TEL:011(747)8886
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