「No.24意思表示の到達について」 [63KB pdfファイル]

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№24 意思表示の到達について
平成25年6月 松原市総務部政策法務課
前回までは、消滅時効について連続して考え
てきましたが、今回は変わって意思表示の到
達というテーマについて考えます。
1
意思表示とは?
「意思表示の到達」と聞いて、まず疑問に思う
のは「意思表示」とは何なのかということだと思い
ます。それは、文字通り意思を表示することなので
すが、「想いを寄せる人への告白」だとか、「家族
に対してお腹が空いたからご飯を作って欲しいと
述べること」などは、ここで言う意思表示には含ま
れません。ここで言う意思表示とは、法律的な意
思の表示、つまり、権利義務や法律関係を変動さ
せるという意思を表示することです。
例えば、マンションの家主が行う借主の賃料不
払いを理由とした賃貸借契約の解除、土地を買お
うとしている人が行う土地の所有者に対する土地
を買いたいという申込みなどです。
2
到達とは?
(1)なぜ到達が取り上げられるのか?
次に到達とは、文字通りたどり着くという意味で
すが、なぜ意思表示について到達ということが取
り上げられるのでしょうか。それは、意思表示の効
力はどの時点で生じるのかということを考えるため
です。上で挙げた例で言えば、これらの意思表示
が面と向かって口頭でなされた場合には、その場
で効力が生じることに何ら問題はありませんが、
北海道に住む家主が大阪府に住む借主に対して、
手紙を郵送して賃貸借契約を解除しようとする場
合にはそう簡単ではありません。手紙を書き終わ
った時点、手紙を投函した時点、手紙が借主の郵
便受けに入った時点、借主が手紙を手に取った時
点、借主が手紙を読み終わった時点など、様々な
時点が考えられます。賃貸借契約の解除等、意思
表示の効力がいつ生じるのかは、基本的なルー
ルとして定まっていなければ、安心して取引をする
ことができません(例えば、手紙を投函はしたもの
の、郵便事故で紛失した場合や、借主が契約を解
除されることを嫌がって手紙を読まずに放置した
場合などに、解除の効力が発生するのかどうかが
分からなければ困ります。)。
(2) 民法の規定
そこで民法は、97条1項で「隔地者に対する意
思表示は、その通知が相手方に到達した時からそ
の効力を生ずる。」と規定しています(到達主義と
いいます。これはあくまでも原則で、例外もありま
す。)。問題はここでいう到達の意味ですが、「受
領され或は了知されることを要するの謂ではなく、
それらの者にとつて了知可能の状態におかれたこ
とを意味するものと解すべく、換言すれば意思表
示の書面がそれらの者のいわゆる勢力範囲(支
配圏)内におかれることを以て足るものと」解され
ています(最高裁判所判決昭和36年4月20日民
集15巻4号774頁)。つまり、上の例では、手紙を
借主が読み終わったり、手に取ったりすることまで
は必ずしも必要ではなく、借主が手紙を読もうと思
えば読むことができる状態に達すれば到達したこ
とになるということです。個々のケースにおいて、
どの時点でその様な状態に達したかについては、
具体的な事情を基に判断しなければなりません。
3 自治体の行う行為について
民法の定める到達主義の原則は、特にこれと異
なる定めのない限りは、自治体が行う許可等の行
政行為(№14「行政行為について」参照)にも
適用されると考えられています。また、自治体が一
般の私人と同じ立場で契約等を行う場合の意思
表示についても、当然適用されます。一度、仕事
で送る文書の内容が意思表示に当たるのか、そ
の効力はいつ生じるのか、考えてみてください。
作成者:政策法務課 余川章一郎(弁護士)