2014 Jun. vol.23 No.6 DI NEWS 熊本総合病院 医薬品情報誌 担当 藤井・市川 CONTENTS 電子カルテ版は天然色! サビーン点滴静注用500mgについて 医薬品医療機器安全性情報312(モーラ ス等の妊娠後期女性への使用禁忌) DSU229 疥癬用「スミスリンローション」の紹介 1頁 2~3頁 4~5頁 6頁 アントラサイクリン系抗腫瘍剤の血管外漏出治療薬:45,593円/瓶 サビーン点滴静注用500mg( デクスラゾキサン)…評価に悩む 抗腫瘍剤の点滴漏れでは、刺激の強い(アントラサイクリン系など)ものがあるので、要注意なのですが、そ れでも動きや血管の状態など、様々な条件で不可抗力的に血管外に漏れてしまう場合があります。 今までは対処専用薬剤が無かったのですが、今回、発売されました。サビーン500mg。 今回は、この薬の「悩ましい部分」を含めて紹介しておきます。 【アントラサイクリン系薬剤と承認時の治験対象】 アントラサイクリン系抗腫瘍剤は、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ピラルビシン、エピルビシン、イダルビシン、 アクラルビシン、アムルビシンあたりですが、国内外治験ではドキソルビシン(アドリアシン、ドキシル)とエピルビ シン(ファルモルビシン)の2つだけが対象になってます。また、治験では「アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤と 同一経路で投与した、他の起壊死性薬剤(ビンクリスチン硫酸塩、マイトマイシンC、ビノレルビン酒石酸塩等) による血管外漏出が明らかに疑われる患者」は除外されています。 【アントラサイクリン系作用と、この薬】 アントラサイクリン系抗腫瘍剤は、DNA 鎖にインターカレーション (間に入り込む)した後、トポイソメラーゼⅡと結合し、DNAが切断さ れた状態で DNA-トポイソメラーゼⅡ複合体を安定化することで、 DNA 鎖の再結合を阻害して細胞毒性を発現する薬。 サビーンは、この、トポイソメラーゼⅡの ATPの結合部位近傍に 結合するようで、このあたりが作用機序「ではないか」と言われて います。ただし、定かではない、というのが本当のようです。 【効けばいいんですけどね。要するに。】 海外 TT01 及び TT02 試験において、「本薬投与後 90 日目 までの血管外漏出に対する外科的処置率」は 0%(0/18例)及び 2.8%(1/36例)。で、国内治験の2例も外科的処置率0%。 つまり、この薬は「外科的処置が必要となる重度の組織障害の抑制」が目的ですから、有効性を「外科的処 置が必要になったか否か」で見ており、それが「ほぼゼロ」だったという結果でした。 【悩ましい点】 そもそも血管外漏出が稀にしか起こらない上に、漏出量・状態など様々なファクターがありますね。治験対 象の選択基準では「血管外漏出に伴う症状(疼痛、腫脹、発赤)を1 つ以上有する患者」くらいです。それを、 世界的に数十例しか見てない中での有効率データの評価は、正直、分からない。さらに言えば、治験での外 科的処置を行う基準も分からない。薬価も高く(下の使用法から、恐らく3日1セット8本程度=37万円弱に) は、現場に使用を躊躇させるほど高い。国内で使える状態にすることには大いに意義はありますが、実際には、 従来療法で十分なのか、本剤を使用すべきか、統一基準的なものが欲しい処かもしれません。 【投与方法:少しややこしい】 通常、成人には、デクスラゾキサンとして、1日 1回、投与 1日目及び 2日目は 1,000mg/m2(体表面積)、 3日目は 500mg/m2を 1~2時間かけて 3日間連続で静脈内投与する。なお、血管外漏出後 6 時間以内 に可能な限り速やかに投与を開始し、投与 2 日目及び 3 日目は投与 1日目と同時刻に投与を開始する。 また、用量は、投与 1日目及び 2日目は各 2,000mg、3日目は 1,000mg を上限とする。 中等度及び高度の腎機能障害のある患者(クレアチニンクリアランス:40mL/min 未満)では投与量を通常の 半量とする。 1 一部抜粋 全文は院内HPで ケトプロフェン(外皮用剤)の妊娠中における使用について 1.はじめに 非ステロイド性消炎鎮痛剤であるケトプロフェンの外皮用剤は,ゲル剤,パップ剤,ローション剤, クリーム剤,テープ剤が,局所における鎮痛・消炎を目的に患部に使用する薬剤として,それぞれ 昭和61年7月,昭和63年3月,昭和63年9月,平成元年3月,平成7年8月に医療用医薬品とし て承認されています。 ケトプロフェン製剤の妊娠中の使用については,坐剤及び注射剤は既に妊娠後期の女性への使 用が禁忌とされていますが,外皮用剤については禁忌とされていませんでした。 今回,妊婦がケトプロフェンのテープ剤を使用して胎児動脈管収縮等が起きた症例が集積したこ と等から,厚生労働省はケトプロフェンのテープ剤を含む外皮用剤について妊娠後期の女性への 使用を禁忌とするなどの使用上の注意の改訂を指示しましたので,その内容について紹介します。 ①モーラステープ20mg,同テープL40mg(久光製薬)他 ②エパテックゲル3%,同ローション3%,同クリーム3%(ゼリア新薬工業)セクターゲル3%,同 ローション3%,同クリーム3%(久光製薬) ミルタックスパップ30mg(ニプロパッチ) モーラスパップ30mg,同パップ60mg(久光製薬)他 2.経緯 ケトプロフェンのテープ剤については,妊娠後期の女性が多数枚を連続して使用し,胎児に動脈 管収縮が起きた国内症例が集積したことから,平成20年12月に製造販売業者は使用上の注意 を改訂し,妊娠後期の女性には慎重に使用するよう注意喚起しました。また,平成23年11月には, 更なる国内症例が報告されたことに伴い,製造販売業者はケトプロフェンのテープ剤を妊娠後期 に多数枚を連続して使用しないよう医療従事者向け資材の配布による注意喚起を行いました。 その後,妊娠中の女性がケトプロフェンのテープ剤を使用し,胎児に胎児動脈管収縮等の副作 用が起きた症例が新たに集積したことから,医薬品医療機器総合機構(以下,「PMDA」という。) は妊婦に対する更なる注意喚起の必要性について対応を検討しました。 PMDAにおける検討の結果,妊娠後期の女性がケトプロフェンのテープ剤1日1枚を1週間使用し て胎児に動脈管収縮が起きた症例があること,また,これまでの国内症例の集積や既にケトプロ フェンの坐剤及び注射剤で妊娠後期の女性が禁忌になっていることも踏まえると,テープ剤につい ても坐剤及び注射剤と同様の注意喚起が必要と判断しました。また,テープ剤以外の外皮用剤に ついても同様の事象が起こる可能性があるため,厚生労働省はケトプロフェンの全ての外皮用剤 の製造販売業者に対し,平成26年3月25日付で妊娠後期の女性への使用を禁忌とするよう使 用上の注意の改訂を指示しました。 また,ケトプロフェンのテープ剤を妊娠中期の女性が使用して羊水過少症が起きた症例もあるこ とから,PMDAはケトプロフェンを含有する製剤について妊娠中期の女性が使用する場合の注意喚 起が必要と判断し,厚生労働省はケトプロフェン製剤の製造販売業者に対し,必要最小限の使用 にとどめるなど慎重に使用する旨を「妊婦,産婦,授乳婦等への投与」の項に追記し併せて注意 喚起するよう,指示しました。 3.ケトプロフェンのテープ剤の胎児動脈管収縮等及び羊水過少症の発現状況について ケトプロフェンのテープ剤の販売が開始された平成7年12月から,平成26年1月10日までに,妊 娠後期における胎児動脈管収縮関連の副作用症例が4例,妊娠中期における羊水過少症の副 作用症例が1例報告されています(表1)。 2 一部抜粋 全文は院内HPで ケトプロフェン(外皮用剤)の妊娠中における使用について 4.妊娠中の使用に関する注意事項について 表2の通り,平成26年3月の添付文書改訂により,【禁忌】,【妊婦,産婦,授乳婦等への投与】の 項において,妊娠中の使用に関する注意が追記されましたので,以下について十分注意の上,対 応をお願いします。 ①妊娠後期の女性には胎児に動脈管収縮が起こる可能性があるため,ケトプロフェンの外皮用剤 を使用しないでください。 ②妊娠中期の女性にケトプロフェン製剤を使用する場合,ケトプロフェンのテープ剤において羊水 過少症が起きた報告があることを考慮し,必要最小限の使用にとどめるなど慎重に使用してくだ さい。 また,ケトプロフェン以外の非ステロイド性消炎鎮痛剤の外皮用剤において,胎児に動脈管収縮が 起きた症例は報告されていませんが,薬剤の作用機序からは妊娠後期の女性に使用した場合,ケ トプロフェンのテープ剤と同様に胎児に動脈管収縮が起こる可能性があることを考慮し,治療上の 有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用するよう注意してください。 3 当院使用品のみ抜粋 ゼプリオン水懸筋注シリンジ(当院未採用) パリペリドンパルミチン酸エステル 改訂箇所 [用法・用量に 関連する使用 上の注意] 追記 一部改訂 117 精神神経用剤 改訂内容 「過去にパリペリドン又はリスペリドンでの治療経験がない場合には、まず、一定期間経 口パリペリドン又は経口リスペリドン製剤を投与し、治療反応性及び忍容性があることを 確認した後、経口パリペリドン又は経口リスペリドン製剤を併用せずに本剤の投与を開始 すること。」 「他の持効性注射剤から本剤に切り替える場合は、薬剤の薬物動態を考慮して投与時期、 投与量に十分注意し、患者の症状を十分に観察すること。 本剤及びリスペリドンの主活性代謝物はパリペリドンであり、リスペリドン持効性懸濁注 射液から本剤への切替えにあたっては、過量投与にならないよう、用法・用量に注意する こと。 以下の投与方法で、リスペリドン持効性懸濁注射液投与時の定常状態と同程 度の血漿中有効成分濃度が得られることが推定されている(「薬物動態」の項参 照)。 •リスペリドン持効性懸濁注射液25㎎を2週間隔で投与している患者には、最 終投与の2週間後から本剤50㎎を4週間隔で投与する。 •リスペリドン持効性懸濁注射液50mgを2週間隔で投与している患者には、最 終投与の2週間後から本剤100mgを4週間隔で投与する。 [重要な基本的 注意]一部改訂 「持効性製剤は、精神症状の再発及び再燃の予防を目的とする製剤である。そのため、 本剤は、急激な精神興奮等の治療や複数の抗精神病薬の併用を必要とするような不安 定な患者には用いないこと。また、一度投与すると直ちに薬物を体外に排除する方法が ないため、本剤を投与する場合は、予めその必要性について十分に検討し、副作用の予 防、副作用発現時の処置、過量投与等について十分留意すること。〔「用法・用量に関連 する使用上の注意」、「副作用」、「過量投与」の項参照〕」 ※当院未採用ですが、死亡例も多く出ており、救急外来等への搬入も予想されるため、紹介した。 ベナンバックス注用 ペンタミジンイセチオン酸塩 641 抗原虫剤 改訂箇所 改訂内容 [副作用]の「重 大な副作用」 一部改訂 「低血圧、QT延長、心室性不整脈、高度徐脈: 重篤な低血圧、QT延長、心室性不整脈(Torsades de pointesを含む)があらわれること があるので、このような症状が発現した場合には直ちに本薬の投与を中止し、再投与し ないこと。また、高度徐脈があらわれることがあるので、異常が認められた場合には、投 与を中止するなど適切な処置を行うこと。」 4 当院使用品のみ抜粋 5 【効能効果】疥癬 【用法用量】通常、 1 週間隔で、 1 回 1 本(30 g )を頸部以下(頸部から足底ま で)の皮膚に塗布し、塗布後12時間以上経過した後に入浴、シャワー等で洗浄、除去 する。 薬価:5%1g 77.3円(1回薬価:2,319円) さて、スミスリンローションが製造承認され、薬価も付きました。成分名はフェノト リン。というよりも、既にスミスリンという名前で一般にも良く知られていますね。 この記事を書いている時点では、未だ、その姿は見ることができないのですが、今後 は在宅医療の進展に伴い、当院でも使用する可能性があるので紹介しておきます。 薬店などで販売されているのが右のスミスリンシャンプー。 第二類医薬品、3000円弱の定価だったと思います。1mL中 フェノトリン4mg(0.4%)で80mL瓶。 一応、スミスリンシャンプーの一般用医薬品添付文書を紹介しておきます。 スミスリンLシャンプータイプは,ヒトに寄生するアタマジラミ・ケジラミの駆除に 優れた効果のある医薬品です。 ヒトに寄生するシラミには,アタマジラミ,ケジラミ,コロモジラミの3種類があり, 皮膚から吸血して,かゆみ,湿疹などを起こします。特に保育・幼稚園児や小学生の 間で集団発生するシラミはアタマジラミです。 この説明文書のスミスリンLシャンプータイプQ&Aに記載している正しい使用法に 従って,シラミを早く退治してください。 [使用方法] 1.シラミが寄生している頭髪又は陰毛を水又はぬるま湯であらかじめ濡らす。 2.1回量を用い,毛の生え際に十分いきわたるように又全体に均等になるようにシャ ンプーする。 3.シャンプーして5分間放置した後,水又はぬるま湯で十分洗い流す。 4.この操作を1日1回,3日に1度ずつ(2日おきに)3~4回繰り返す。 [使用する部位・場所:1回量] 頭髪:10~20mL程度 陰毛:3~5mL程度 スミスリンパウダーも30g入りで販売されています。こちらもシラミの除去の効能 で、1g中4mg(0.4%)の濃度。シラミの居るところに散布。 さて、ここまで見たように、市販のスミスリンは0.4%でシラミに有効ですが、今回 販売される医療用の疥癬(ヒゼンダニ)除去用は5%です。 12.5倍の濃度!かなり濃いですね。恐らく、疥癬のヒゼンダニは、皮膚の中に疥 癬トンネルを掘って生きてますから、ピレスロイド系殺虫剤であるフェノトリンを、そ のトンネル奥まで効かせる濃度ということでしょう。 臨床成績では、全身に1週間隔で2回塗布したときの有効率は92.6%だそうです。 さて、注意です。ローションは、塗布後12時間以上経過後にシャワーなどで洗い流 すことになってます。Ⅱ/Ⅲ相試験では、塗布後1日(24時間)で洗い流してますから、 12~24時間の間に入浴できるよう、時間調整しながら塗布してください。 6
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