患者の権利オンブズマン「苦情調査」 患者の権利オンブズマン全国連絡委員会 2012 年 4 月 8 日制定 前文 「患者が、自己の権利が尊重されていないと感じる場合には、苦情申立ができなけれ ばならない。裁判所の救済手続に加えて、苦情を申し立て、仲裁し、裁定する手続を可 能にするような、その施設内での、あるいはそれ以外のレベルでの独立した機構が形成 されるべきである。」 「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に調査さ れ、処理され、その結果について情報を提供される権利を有する。」 世界保健機関(WHO)ヨーロッパ会議が 1994 年に発した「ヨーロッパにおける患者 の権利の促進に関する宣言」の本文は、この項で結ばれている。 患者の権利オンブズマンは、このWHO宣言が明確化した患者の苦情調査申立権に対 応するために、施設外の独立した機構として設立された。患者の権利オンブズマンのひ とつの役割は、患者(保健・医療・福祉サービスの利用者)の苦情に基づいて事実を客 観的に調査し、問題の所在を明らかにして、患者の権利を保障・促進するために適切な 情報を提供することである。 第1 目的 患者の権利オンブズマンの苦情調査は、当事者間の誠実な対話によってもなお解決で きない場合に、第三者による客観的な事実調査を実施して、苦情発生の原因を究明する とともに、必要に応じ勧告・提言を行うことで、速やかな問題解決ならびに再発の防止 に寄与し、さらには報告書の公表などにより、 「苦情から学ぶ医療」を実現し、広くわが 国の医療・福祉の質の向上と患者の権利の促進に資することを目的とする。 第2 苦情の申立て 1 面談相談の後、記録検討や同行支援などを得て当事者による対話を行ったにもかか わらず解決を得られなかったとして、患者・家族から患者の権利オンブズマン会議 (以下、オンブズマン会議という)に対する苦情の調査申立書が提出された場合に は、これを受理することを原則とする。ただし、苦情調査は法律上の責任の所在を 解明するものではないので、訴訟や損害賠償、謝罪などの交渉の支援を求める目的 で調査の申立を行うことはできない。なお、相手方が同行支援を拒否するなど、相 手方側の理由により、対話の機会が得られなかった場合は、苦情内容を勘案のうえ、 苦情調査申立書を受理することができる。 2 患者本人による申立を原則とする。ただし、患者本人に申立をできない事情がある 場合は、当該事情および本人と申立人の関係を勘案のうえ、本人以外による申立を 認める。 3 申立がなされても調査を開始しないことがありうること、調査を開始した場合には 申立人の有利不利にかかわらず、当事者双方に調査結果が通知されること、オンブ ズマン会議の決定には法律上の効力はなく、オンブズマン会議が表明する見解の実 現や相手方の履行についても何らの保証責任を有しないこと、調査結果は記者会見、 ホームページ、出版物への登載などにより原則として公表されることなどを、調査 申立時に説明し、文書で同意を得ておくものとする。 第3 調査の開始・不開始の決定 1 相談者からの苦情調査申立に対しては、オンブズマン会議が、調査開始決定・不開 始決定を行う。 2 不開始が決定された場合には、その理由を付して申立人に伝える。 第4 調査の実施 1 調査にあたっては、患者に関する診療記録などの資料を収集し、公平な第三者とし て申立人と相手方から事情を聴取し、記録する。 もし相手方が聴取を拒否した場合には、相手方に対し、申立人の苦情に対する弁明 の機会を自ら放棄することになること、苦情解決に非協力であった機関として機関 名等を公表する理由になる旨を説明し、聴取に応じるよう再考を求める。文書での 回答を含め相手方が調査への協力を拒否した場合は、相手方が苦情調査に対する一 切の協力を拒否した事実を明記したうえで、入手できた情報及び申立人の聴取録の みに基づいて報告書を作成する。 2 医学的情報が必要とされる場合、医学文献、医療者等から専門的情報を収集し、参 考意見を聴取する。また、必要に応じて、申立人家族や後医、メーカー等の第三者 からの情報収集、意見聴取を行う。 第5 事実認定 1 苦情調査手続における事実認定は、争いのない事実に基づいて事実認定することを 基本とし、争いのある事実については、それが苦情に対する判断を導く上で不可欠 である場合を除き真偽の判断を行わないことを原則とする。なお、事実に争いの存 在することが苦情発生原因と関連するなど必要な場合には、争いのある状態自体を 事実認定することができる。 2 苦情調査において認定すべき事実は、 「当該事実に照らせば患者の権利の侵害がある か、苦情を支持できるか」といった、苦情判断の前提として必要な範囲の事実であ る。当該苦情判断に必要ではない周辺事実についてまで認定することは、原則とし て不要である。 第6 苦情に対する判断 1 苦情に関する判断は、患者の権利を基準とする。権利の侵害があるか、侵害がある とまでは判断されない場合でも、権利擁護上、相手方に是正すべき点があるかとい う観点によって判断される。苦情調査の目的は、苦情の発生原因を究明して、当事 者の権利を回復し、同種苦情の再発を防止することにある。したがって、客観的事 実に基づく苦情原因の究明は、権利侵害の事実認定と一体となって進められる。さ らに、原因究明と権利回復・再発防止のための提言・勧告の検討に際しては、申し 立てられた苦情の根底に、患者や家族の抱える苦痛や葛藤が存在することを理解し、 十分な配慮を行う必要がある。 2 苦情判断の基準となる患者の権利については、その内容および根拠を調査報告書に 明示することを要する。患者の権利の存在に関して法令や判例が存在する場合は、 権利侵害の判断基準として引用する。また必要に応じ、国際規約、条約あるいは国 際機関の宣言も同様に判断基準として援用する。 第7 調査報告書の作成 1 苦情に理由があるか否かにつき判断をする前提となる事実認定、苦情に関し問題と なった患者の権利および判断の理由を明示する調査報告書を作成しなければならな い。 2 調査の結果、同種苦情の再発防止、医療の改善に必要と判断されるときは相手方に 対して勧告を行う。勧告内容は調査報告書に明記する。 3 最終的な調査報告書は、オンブズマン会議の全会一致により採択されるものとする。 第8 調査報告書の通知と公表 1 調査報告書は、申立人、相手方の双方に通知する。 2 申立人の苦情を支持するか否かにかかわらず、苦情調査報告書は全て公表すること を原則とする。公表に際しては、必要に応じ、個人情報の保護に配慮した公表用報 告書を作成する。 3 調査報告書の公表は、記者発表、患者の権利オンブズマン・ホームページ、ニュー スレターなどの方法により適宜行う。 以 上
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