藤本昇特許事務所 大川 博之◇弁理士 昨年、 アップルとサムスンの特許紛争に関連して、 米国国際貿易委員会(ITC)が製品の輸入・ 販売の差し止め命令を出したことや、それに対してオバマ大統領が拒否権を発動したことが 話題になっていました。 ITCを用いた米国における知的財産紛争の解決手段について、概要を教えてください。 1.米国関税法337条調査 米国政府の貿易に関する独立 (滋賀県 B. A) ② 包括的排除命令 特定製品(被申立人製品に限らず) ③ 仮決定(Initial Determination) 行政法判事が行う米国関税法337条 機関であるITCの任務の一つで、米国 に対する輸入が税関で排除されます。 違反の決定です。 における知的財産紛争の解決手段の一 ③ 停止命令 ④ 再審理申し立て つとして利用されています。 米国関税法337条とは、米国の知的 財産権を侵害する製品の輸入、輸入目 排除命令を補完する措置で、既に輸 敗訴当事者がITCに対して申し立て 入された対象製品の使用および販売が を行うことができます。なお、再審理 禁止されます。 は原則、書面のみとなります。 ⑤ 最終決定(Final Determination) 的の販売、輸入後の販売等を違法とす る規定です。また、ITCが調査を行う権 限を有することも規定されています。 本調査には、次の特徴があります。 ①申 し立てから約1年半(2009年の 3.当事者 申立人、被申立人、調査法務官〔米 国不公正輸入調査局(OUII)が任命し、 当事者として審理に参加します〕 。 平均)で最終決定がなされるため、 数年を要する訴訟よりも迅速。 ② 行政法判事(ALJ)による審理。 ③救 済の内容は輸入行為、使用行為、 再審理されない場合は、仮決定が最 終決定となります。 ⑥ 大統領判断 最終決定後60日以内に大統領が拒 否権を発動できます。昨年の拒否権発 4.申し立ての要件 動は1987年以来のものでした。 ① 米国知的財産権の保有と侵害 ⑦ 裁判所への控訴 申立人(企業)の国籍は問いません。 最終決定に対する不服申立ては、合 販売行為の禁止に限られ、金銭的 ② 輸入行為があったこと 衆国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC) な賠償の申し立てはできない。 ③ 米国における国内産業の存在 への控訴により可能です。なお、当事 ④権 利有効性および侵害有無の判断 につき、裁判所への拘束力はない。 米国内における投資により、国内産 者以外の控訴も認められます。 業の存在が推定されます。 6.まとめ ⑤調 査対象は、輸入行為に伴う知的 財産権侵害(輸入、 輸入目的の販売、 5.手続きの流れ 輸入後の販売)に限定される。 ① 申立書の提出 は、申立人の負担が訴訟よりも軽いこ ②行 政法判事による調査手続き(ディ とから、知財紛争解決手段の一つとし 2.救済方法 ① 限定的排除命令 特定の被申立人の製品に対する輸入 が税関で排除されます。 スカバリー、ヒアリング) このように、米国関税法337条調査 て注目されています。 米国行政手続法に従って行われるた なお、知的財産侵害物品の輸入を差 め、証拠能力の扱いは訴訟よりも緩や し止める制度は日本にもあり、税関へ かです。 の申し立てが可能です。 2014 No.3 The lnvention 63
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