土木技術資料 54-6(2012) 報文 ハイドロフォンによる掃流砂量の連続観測 鈴木拓郎 * 内田太郎 ** 岡本 敦 * ** の 解析 1) に は、著 者らが考 案した 音圧値を 利用 し 1.はじめに 1 た手法を用いている。音圧値とは音の振幅値の平 流域の最上流の山腹斜面から河口、漂砂域まで 均値のことであり、音量とほぼ同義と考えて差し の土砂が移動する領域を流砂系という。流砂系に 支えない。著者らは水路実験の結果より、流砂量 おいては、ダム堆砂、河床低下・上昇、海岸侵食 と音圧値の間には以下のような関係があることを など、土砂移動に関わる様々な問題が発生する場 示した。 合がある。このような問題の解消のためには、流 (1)流砂量と音圧値は正の相関関係にある。 砂系一貫とした総合的な土砂管理が必要である。 ( 2) 個 別 の 衝 突 波 形 同 士 が 独 立 し て い る ( 重 な そのためには、土砂移動の出発点である山地河川 り合っていない)場合、流砂量と音圧値は比 の流砂量を定量的に把握することが重要である。 例関係にある。 このような背景から、国土交通省では、山地河 ( 3) 集 合 的 に 衝 突 し 、 衝 突 波 形 同 士 が 重 な り 合 川の流量及び流砂量を定量的に把握することを目 うような場合、音波の相殺的干渉が生じて音 的 と し た 全 国 的 な 水 文 流 砂 観 測 を 平 成 21年 度 か 圧 値 は (2)の 比 例 関 係 よ り も 小 さ な 値 に な る 。 ら実施している。その中で、河床面近くを流れる ( 4) 音 圧 値 の 検 出 率 ( 実 際 の 音 圧 値 ÷(2)の 比 例 ※ 成分 である掃 流砂量 の観測 について はハイド ロ 関係の値)は、単位時間当たりの衝突個数の フォンと呼ばれる音響式センサーによる間接的な みに関する減少関数となる。 手法を用いている。ハイドロフォン自体は従来か ら用いられている計測器であるが、得られる音響 このような性質を利用した数値解析によって、 掃流砂量に換算する。 デー タの解析 手法には 新たな 手法 1) を用 いている。 ここでは、新たな解析手法を用いたハイドロ フォンによる掃流砂観測方法の精度に関して、直 接観測結果との比較検証結果を報告する。 2.ハイドロフォン 2.1 ハイドロフォンの概要 ハイドロフォンとはマイクロフォンを内蔵した 金属管である 2),3) (写真-1,図-1)。砂防堰堤水通 し部等の構造物上に設置し、掃流砂の衝突音をア ンプ、データロガー等を通じて音響データとして 記録し、そのデータを解析して掃流砂量に換算す 写真-1 ハイドロフォンの写真 る間接的な手法である。流砂量を直接採取する観 測手法は膨大な費用・労力を要することに加え、 的な手法が考案されてきた。 φ42.6 φ56.0 連続的な観測が困難なことから、このような間接 φ48.6 1/2PTネジ 2.2 ハイドロフォンデータの解析手法の概要 33 ハイドロフォンによって取得される音響データ ──────────────────────── Continuous Observation Of Bedload Discharge Rate With A Hydrophone ※ 土木用語解説:掃流砂量 図-1 - 42 - 18 L=可変(国交省の観測の場合500 or 2000) 水文流砂観測で用いているハイドロフォンの寸法図 (単位はmm) 土木技術資料 54-6(2012) 3.3 ハイドロフォンによる観測システム 3.現地観測による検証 観測地には試験的に複数のハイドロフォンが設 3.1 観測地 置してある(写真-4)。本研究では、そのうちの1 図-2に示す天竜川右支川与田切川中流部の坊主 つを用いて連続観測システムを構築した。システ 平砂防堰堤において、流砂観測施設を用いた直接 ムは、ハイドロフォン、アンプ、データロガー、 観測及びハイドロフォンによる観測を実施した。 PCか ら 構 成 さ れ る 。 ハ イ ド ロ フ ォ ン に よ っ て 取 3.2 流砂観測施設による直接観測 得される音響データはアンプによって増幅される。 流砂観測施設を写真-2に示す。本観測施設は、 デ ー タ ロ ガ ー は PC上 の 動 作 す る 制 御 用 プ ロ グ ラ 砂防堰堤の袖部に設けた取水口から流砂を直接採 ム に よ っ て 直 接 制 御 さ れ 、 1分 に 1回 解 析 処 理 が 取 して流 砂量を計 測する装 置 4) であ る。垂 直方向 なされる。 の 3箇 所( 上・ 中・下 段) に取 水口 を設 けて いる。 本システムでは観測データを即時に解析するた 本研究では掃流砂を対象としているため、本観測 め、生データを保存する必要がなく、記録容量が 施設でも下段のみのデータを解析対象とした。 大幅に少なくなる。全国の流砂観測では、保存し た生データを回収した後に解析処理を実施するた め 、 保 存 容 量 と の 兼 ね 合 い か ら 観 測 頻 度 を 15分 に 1回 と して いる 。本 研究 の 場合 は観 測頻 度の 限 界はデータ取得~解析に要する時間によって決ま り 、 1分 に 1回 ま で 短 く す る こ と が 可 能 と な っ て いる。 図-2 観測地点の位置図 写真-2 写真-3 流砂観測施設 写真-4 - 43 - 取水口等の位置 ハイドロフォンの位置 土木技術資料 54-6(2012) 得 ら れ な か っ た 。 台 風 15 号 時 に つ い て は 水 位 3.4 観 測 期 間 ハイドロフォンを用いた連続観測システムは1 ピ ー ク 付 近 のデ ー タ が得ら れ た 。 分 に 1回 の 常 時 観 測を 実施 し て い る 。 流 砂 観 測 施 設 を 用 い た 直 接 観 測 は 平 成 23年 台 風 12号 、 台 風 15号 ( 写 真 -5) を 対 象 と し て 実 施 し た 。 観 測 頻度 は 1時 間に 1回 で あ る 。 3.5 観 測 結 果 図 -3 に 台 風 12 号 時 の 観 測 結 果 を 、 図 -4 に 台 風 15号 時 の 観 測 結 果 を 示 す 。 そ れ ぞ れ 時 間 雨 量 、 水 位 、 流 砂 観測 施 設 による 掃 流 砂 量 観測 結 果 (以 後 、 直 接 観 測 結 果 と す る )、 ハ イ ド ロ フ ォ ン に よ る 掃 流 砂 量 解析 結 果 (以後 、 ハ イ ド ロフ ォ ン 解析 結 果 と す る )を 示 し ている 。 掃 流 砂 量に つ い ては 単 位 幅 当 た り ( 1m当 た り ) の 掃 流 砂 量 を 示 し て 写 真 -5 い る 。 流 砂 観測 施 設 による 観 測 は 観 測回 数 に 限界 平 成 23年 台 風 15号 時 の 様 子 ( 9月 21日 8時 ) が あ る た め 、 台 風 12号 時 の 観 測 は ピ ー ク に 達 す 0 5 10 15 20 25 雨量 2.5 1E-03 1E-04 1E-05 ハイドロフォン解析結果 直接観測結果 水位 2 1.5 1E-06 1 1E-07 0.5 0 1E-08 9/2 水 位 (m) 単 位 幅 掃 流 砂 量 (m3 /m/sec) 時 間 雨 量 (mm) る 前 の 水 位 が緩 や か に上昇 す る 期 間 のデ ー タ しか 9/3 9/4 図 -3 9/5 9/6 平 成 23年 台 風 12号 時 の 観 測 結 果 2.5 1E-04 2 1E-05 1.5 1E-06 1 1E-07 0.5 1E-08 9/19 0 9/20 図 -4 9/21 平 成 23年 台 風 15号 時 の 観 測 結 果 - 44 - 9/22 9/23 水 位 (m) 単 位 幅 掃 流 砂 量 (m3 /m/sec) 時 間 雨 量 (mm) 0 5 10 15 20 25 1E-03 土木技術資料 54-6(2012) 直 接 観 測 結果 と ハ イドロ フ ォ ン 解 析結 果 を 比較 で や す い 渓 流を 把 握 した上 で 計 画 的 な砂 防 事 業を すると、全体的に良好に一致しているものの、9 推 進 す る こ と、 砂 防 基本計 画 の 策 定 や砂 防 事 業の 月 2 日 ( 台 風 12 号 時 ) の デ ー タ で は 、 ハ イ ド ロ 効 果 評 価 を 行う 際 に 実施す る 流 出 解 析及 び 河 床変 フ ォ ン 解 析 結果 が 直 接観測 結 果 の 数 倍と な っ てい 動 計 算 の 係 数を 設 定 するた め の 基 礎 情報 と し て利 る 。 こ れ は ハイ ド ロ フォン の 解 析 で は水 の 音 の影 用 さ れ る こ とな ど 、 総合的 な 土 砂 管 理だ け で なく、 響 を 完 全 に 分離 で き ないた め で あ る と考 え ら れる。 様 々 な 場 面 での 活 用 が期待 さ れ る 。 掃 流 砂 量 が 発生 し て いない 時 で も 単 位幅 掃 流 砂量 の 解 析 結 果 は 0と な ら ず 、 10 -7 ~ 10 -6 (m 3 /m/sec)程 謝 辞 度 と な り 、 この 値 が ハイド ロ フ ォ ン の解 析 限 界と 流 砂 観 測 施設 を 用 いた直 接 観 測 結 果は 天 竜 川河 言 え る 。 な お 、 こ の 値 は 数 mm程 度 の 砂 礫 が 1秒 川 事 務 所 か ら提 供 を 受けた も の で あ る。 ま た 、ハ 当 た り に 1個 通 過 する 程度 の 量 で あ る。 イ ド ロ フ ォ ンの 設 置 に当た っ て も 同 事務 所 の 関係 単 位 幅 掃 流 砂 量 が 約 10 -6 (m 3 /m/sec)以 上 の 領 域 各 位 に は 多 大な ご 尽 力をい た だ い た 。こ こ に 記し で は 、 直 接 観測 結 果 とハイ ド ロ フ ォ ン解 析 結 果は て 感 謝 の 意 を表 し ま す。ま た 、 直 接 観測 の 実 施や 非 常 に 良 好 に 一 致 し て い る 。 特 に 台 風 15号 時 は 連 続 観 測 シ ステ ム の プログ ラ ム 開 発 にあ た っ ては、 水 位 の 大 小 と掃 流 砂 量の大 小 が 必 ず しも 連 動 して 多 く の 方 々 のご 協 力 をいた だ い た こ とを 記 し て、 い な い が 、 その よ う な変化 ま で 良 好 に一 致 し てい 関 係 各 位 に 感謝 の 意 を表し ま す 。 る こ と は 、 ハイ ド ロ フォン の 適 用 性 の高 さ を 示し て い る と い える 。 参考文献 4.まとめ 本 研 究 で は、 流 砂 観測施 設 に よ る 掃流 砂 量 の直 接 観 測 結 果 とハ イ ド ロフォ ン に よ る 解析 結 果 を比 較 し 、 ハ イ ドロ フ ォ ンの現 地 適 用 性 を検 証 し た。 直 接 観 測 結果 と ハ イドロ フ ォ ン 解 析結 果 は 細か な 変 化 ま で 非常 に 良 好に一 致 し て お り、 本 手 法の 現 地 適 用 性 の高 さ を 示すこ と が で き た。 以 上 、 流 砂観 測 に よって 流 砂 量 を 定量 的 に 把握 す る こ と が 可能 で あ ること が 示 さ れ た。 流 砂 観測 の 結 果 は 、 周辺 地 域 におけ る 土 砂 生 産の 発 生 や土 1) 鈴 木 拓 郎 、 水 野 秀 明 、 小 山 内 信 智 、 平 澤 良 輔 、 長 谷川祐治:音圧データを用いたハイドロフォンに よる掃流砂量計測手法に関する基礎的研究、 砂 防 学 会 誌 、 Vol.62、 No.5、 pp.18~ 26、 2010 2) 水山高久、 野 中 理 伸 、 野 中 伸 久 : 音 響 法 ( ハ イ ド ロフォン)による流砂量の連続計測、砂防学会誌、 Vol.49、 No.4、 pp.34~ 37、 1996 3) 水山高久、 冨 田 陽 子 、 野 中 理 伸 、 藤 田 正 治 : ハ イ ド ロ フ ォ ン に よ る 流 砂 量 の 観 測 ( 続 報 )、 砂 防 学 会 誌 、 Vol.50、 No.6、 pp.44~ 47、 1998 4) 伊藤仁志、 矢 澤 聖 一 、 石 田 勝 志 、 山 下 伸 太 郎 、 佐 光洋一、高橋健太、水山高久:天竜川水系与田切 川 に お け る 流 砂 計 測 、 砂 防 学 会 誌 、 Vol.61、 No.6、 pp.19~ 26、 2009 砂 災 害 の 切 迫性 を 即 時的に 把 握 す る こと 、 土 砂が 鈴木拓郎* 一般財団法人砂防・地すべり 技術センター砂防技術研究所 砂防システム研究室 主任研 究員(前国土交通省国土技術 政策総合研究所危機管理技術 研 究 セン ター 砂防 研究 室研究 官)、博士(農学) Dr. Takuro SUZUKI 内田太郎 ** 国土交通省国土技術政策総合 研究所危機管理技術研究セン ター砂防研究室 主任研究 官、農博 Dr. Taro UCHIDA - 45 - 岡本 敦*** 国土交通省国土技術政策総合 研究所危機管理技術研究セン ター砂防研究室長 Atsushi OKAMOTO
© Copyright 2024 Paperzz