転倒による骨折事例のRCA分析報告

転倒による骨折事例のRCA分析報告
熱川温泉病院
リスクマネージャー
大井
記子
「 転倒による骨折事例のRCA分析報告」
熱川温泉病院
リスクマネージャー
大井 記子
K E N-I K UK AI M E D I CAL GR OUP
【今回報告する事例の概要】
今回報告する事例の概要
今回の事例の概要は、転倒し骨折したケースで
す。先ほどRCAでの分析が難しいのではないかと
平成12年
脳動脈瘤発見され、他院でクリッピング術施行
平成14年
多発性脳梗塞発症、以降再発を繰り返していた
言及されたケースですので、是非ご意見をいただ
歩行は可能だが、バランス悪く、筋力低下もあり
平成18年6月16日 リハビリ目的で入院
ければと思います。
入院時状況
ADL見守りレベル
事故の概要はスライドの通りですが、長谷川痴呆ス
入院前は杖歩行していたが、不安定にて車椅子使用。
移動時転倒の危険性高く、コール指導を要す。
ケールは 20 点でしたが、本当に 20 点なのか疑問
FIM
セルフケア 73点
HDS-R
20点 だが若干物忘れみられる
の残る方でした。
転倒・転落アセスメントスコア
認知 32点
15点
危険度 Ⅲ
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【今回報告する事故の概要】
今回報告する事故の概要
この事故はスタッフが見ていないところで起きて
います。一人で患者様が転倒し、骨折にいたって
What
患者様が転倒
(何があったのか)
います。マニュアルには 3 時のラウンドが規定され
Who
患者様が一人で転倒
(誰が関係しているの
か)
ておらず、結果的にはスタッフの目の届かないとこ
When
ろで転倒されてしまった。転倒時は一人でベッドか
(いつ起きたのか)
ら起き、ベッドサイドのシルバーカーをつかんだ際
(どこで起きたのか)
にシルバーカーが動いてバランスを崩し、転倒して
(どのようにしておきた
のか)
います。
(影響はどの程度か)
Where
How
How much
H18年8月19日午前3時
自室内
一人でベットから起き上がりシルバーカーにつかんだ時
バランスを崩し転んだ
左肋骨骨折
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【経過表】
経過表
経過表を見ると、発覚までに時間がかかって
日時
います。朝のラウンド時に患者様から転倒の訴
内容
8月18日
えがなく、発覚まで時間がかかりました。規定
21:00
看護師ラウンド 患者様は良眠されていた。
23:00
看護師ラウンド 患者様は良眠されていた。
19日
時間にラウンドをして、患者様が良眠されてい
2:00
看護師ラウンド 患者様は良眠されていた。
3:00
尿意をもよおし目を覚ます。
るのを確認しているのですが、その合間に転倒
ベットから一人で起き上がる。
が発生しています。
バランスを崩した。
シルバーカーを掴んだ。
転倒する。
6:00
13:00
看護師ラウンド 患者様からの報告はなかった。
看護師ラウンド 患者様より報告があり発覚する。
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【業務分析ワークシート】
業務分析ワークシート
これについては、深夜帯ということもあり、ナース
コール指導以外に分析対象となる業務は特にあり
ステップ
ませんでした。
実施者
必要な活動
1 看護師
コール指導
ナースコール
2
コール指導
ナースコール
CW
使用書式、機器等
手段
特記事項等
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【変化分析】
変化分析(通常と違う点はあったのか?)
マニュアルどおりに業務を遂行しており、特
に通常と違うことはありませんでした。
変化要因
差異・変更点
影響
明確にすべき疑問
特になし
What
(状況、設備、行動等)
特になし
Who
(担当者、管理状況等)
特になし
When
(発生時、設備状況、スケ
ジュール等)
特になし
Where
(場所、環境、プロセス等)
特になし
How
(作業方法、不規則な活動
等)
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【バリア分析】
バリア分析(安全策は機能していたのか?)
何が機能していれば事故が起きなかったかを
考えた場合、やはり患者様にナースコールを押
していただいていれば、事故は起きなかったと
バリア
(安全策)
考えられます。患者様への注意が十分でなかっ
結果
ナースコール ナースコールが押されな
かった
たことで、ナースコールが押されなかったと考
バリア(安全策)の評価
(なぜバリアが機能しなかったのか)
・患者様への指導が十分ではなかった
・ナースコールを押すように注意を喚起する環境
づくりが整っていなかった
えられます。
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【因果図】
因果図(全体)
尿意を催したのは生理現象なので、分析の対象か
8/19
2:00
患者良眠
確認
尿意をもよ
おし目が覚
める
ベッドから一
人で起き上
がった
シルバー
カーをつか
んだ
バランスを
崩す
なぜ尿意をもよ
おしたのか?
なぜナース
コールを押さな
かったのか?
なぜシルバー
カーがあったの
か?
なぜバランスを
崩したのか?
ら外します。「なぜ一人で起き上がったのか」、「シ
ルバーカーをつかんだ」、「バランスを崩した」につ
3:00
転倒骨折
いて、なぜなのかを掘り下げて分析してみました。
尿意をもよ
おし目が覚
める
なぜなら、、、
(個別に根本原因を分析した結果)
すべきことが規定され
ていなかった(ルール
がなかった)
情報は伝わっているが
各スタッフに理解され
ていなかった
ケアプラン立案ルール
が守られなかった
(ルールが破られた)
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●なぜ一人で起き上がったのか
因果図①
この患者様は、入院前はナースコールが中々
押せずに病棟内で対策を色々と講じていた。し
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2:00
患者良眠
確認
尿意をもよ
おし目が覚
める
かし、外泊前はナースコールが押せていたので、
ベッドから一
人で起き上
がった
シルバー
カーをつか
んだ
ベッドから一
人で起き上
がった
では何故ナースコールの指導をしなかったの
ナースコー
ルを押さな
かった
外泊後にナース
コールの指導を
しなかった
外泊前はナースコールを押して
もらえるような環境を作っていた
が、外泊後はしていない。
(事故前に外泊している)
かと考えた場合、
「危ない」という認識をスタッ
フが持ってはいたが、その先に「どうすればよ
リスクを認識しながら対
策を講じていなかった
危険認知の情報が病棟
で共有されなかった
注意を喚起する
環境を整えてい
なかった(札等)
アセスメントシートでリス
クを認識しながら対策を
講じていなかった
ナースコー
ルを押した
いのか」を理解できていなかった。この点が根
3:00
転倒骨折
スコアシートは評価するだけで対
応策は書かれない。外泊前後の
指導ルールがない。
バリア(ナースコール)
が破られている
外泊後も注意せずにそのまま過ごしてしまった。
バランスを
崩す
危険認知の情報が病棟
で共有されなかった
すべきことが規定さ
れていなかった(ルー
ルがなかった)
病棟内では「危な
い」という情報が口
頭でしか伝わって
おらず、危険度が
理解されていな
かった
情報は伝わっている
が各スタッフに理解さ
れていなかった
K E N-I K UK AI M E D I CAL GR OUP
本原因の候補として考えられます。
また、注意喚起ができていなかった点につい
ては、アセスメントシートの結果を基にどうし
たらよいのかについて、病棟内で十分に検討さ
れていなかったことが原因と考えられました。
結局、危ないという情報が漠然と伝わってい
ても、何をしたら良いのかが伝わっていなかっ
たことが根本原因ではないかと考えられます。
● なぜシルバーカーがあったのか
因果図②
シルバーカーが片付けられていなかったのは、
「危ない」という情報が伝わってはいたものの、「シ
ルバーカーが近くにあってはいけない」という認識
にまで至らなかったということが原因と考えられます。
8/19
2:00
患者良眠
確認
尿意をもよ
おし目が覚
める
シルバー
カーをつか
んだ
シルバーカー
を片付けな
かった
ベッドから一
人で起き上
がった
シルバー
カーをつか
んだ
バランスを
崩す
カンファ・リハビリ後の
評価情報を病棟で共
有していなかった
3:00
転倒骨折
情報は(形式的に)伝わっ
ているが各スタッフに理解
されていなかった
病棟内では「危ない」という
情報が口頭でしか伝わって
おらず、危険度が理解され
ていなかった
ミニカンファレンス等で情報は伝わっていても、具
ケアプランが立てられ
なかった
体策までつながっていなかったということです。
家族理由な
ので該当せ
ず
また、ケアプランの立案が十分ではなかった
ということも原因として考えられます。
ケアプラン立案ルー
ルが守られなかった
安全環境整備の
ルール、家族指導の
ルールがなかった
すべきことが規定されてい
なかった
(ルールがなかった)
リスクを認識しながら
対策を講じて
いなかった
家族が置いた
外泊時に指導を
しなかった
指導の必要性を認識
していなかった
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いずれにしても、危険という認識があっても、
活動につながっていないことが原因であると考
えられます。
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●なぜバランスを崩したのか
因果図③
シルバーカーのブレーキが機能していなかっ
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2:00
患者良眠
確認
たことが直接の原因ですが、シルバーカーを確
尿意をもよ
おし目が覚
める
ベッドから一
人で起き上
がった
シルバー
カーをつか
んだ
バランスを
崩す
認するルールがなかったことや、
「まさか使うこ
3:00
転倒骨折
情報は(形式的に)伝わっ
ているが各スタッフに理解
されていなかった
とはないだろう」という思い込みがあったこと
バランスを
崩す
シルバーカーが
支えとして機能し
なかった
シルバーカーのブ
レーキがかけられて
いなかった
が根本原因だと考えられます。
「危ないのでシル
ブレーキ確認を忘
れた(スタッフ)
ブレーキ確認を
忘れた
(患者様ご自身)
バーカーを近くに置いてはいけない」とセット
まさか使うとは
思っていなかっ
た・・・リスクを
理解していない
すべきことが規定されてい
なかった
(ルールがなかった)
で考えることができなかった点が原因と考えら
安全環境整備の
ルール、家族指導の
ルールがなかった
れます。
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【事故発生の原因】
事故発生の原因
「すべきことが決められていなかった」とい
うことが根本原因と考えられます。
「この人は危
根本原因
「すべきことが決められていなかった」
今回の事故では、“危険”という曖昧な認識はあったものの、それに対して何をすべきかが規定されていな
かった。具体的には、患者様のアセスメントをして転倒リスクを把握していたにも関わらず、ケアプラン等の
具体的な対策に結びついていなかったことが原因と考えられる。
ない」と皆が分かっていたにもかかわらず、
「何
をしたら良いか」が規定されていませんでした。
根本原因ではないが事故発生をもたらしたと思われる原因
寄与因子としては、
「危険」という情報が口頭で
「危険という情報が口頭で伝わっていた」
事故を起こされた患者様は「危ない」と口頭で伝わっていたが、正式な文書で“何が危ないのか”
を皆で共有されていなかった。
しか伝わっていなかったことが挙げられます。
「ケアプランが立案・修正されていなかった」
また、ケアプランの立案と修正に関して、カン
入院後にケアプランが立てられていたが、カンファレンスやリハビリ評価等の情報を反映し、見
直しがされていなかった。
ファレンスの情報が即座に反映されていなかっ
K E N-I K UK AI M E D I CAL GR OUP
たことも挙げられます。
【改善提案書】
改善提案書
危険という認識はあっても、どの程度危険なのか、
スタッフによって認識に差がありました。
根本原因
危険であるという認識はあるが(転倒・転落アセスメントやリハビリカンファレンスなどで)
どの程度危険であるかなどの理解がスタッフによって差がある。
規定された対策(ルール)がなかった。入院、外泊、帰院など環境の変化による情報が組織的
に(家族、リハスタッフ、病棟スタッフ、医師)収集し共有できていなかった。
入院後に外泊をして環境が変わっていたが、環
境変化についての情報が共有できていれば、対策
はもっととれたと考えます。
改善策
転倒・転落アセスメントスコアシートで評価した危険度別の看護計画を作成して初期の段階で
対策を講じる(スタッフの差に影響されない様に)。
入院時、外泊時、帰院時などの環境変化に対する情報を収集して共有するルールと書面の作
成と活用。
改善策については、危険度別に対策を規定す
ることにしました。現在、標準看護計画を作成
している最中ですので、スタッフが危険と分か
K E N-I K UK AI M E D I CAL GR OUP
っても何もしないということがなくなると考え
られます。
また、リハビリ病院という性質上、外泊訓練
もしています。外泊時の環境変化に関する情報
収集・共有ルール等を作成することを考えてい
ます。
以上、ご清聴ありがとうございました。
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