平成20年度地域中小企業活性化政策委託事業 国内外からの観光集客人口の増加による 地域経済活性化の可能性調査 報告書 平成 21 年 3 月 九州経済産業局 は じ め に 平成 20 年に米国で始まった金融危機以降、世界は主要国を中心に景気後退局面、いわゆ る世界同時不況に突入しました。世界同時不況前、世界経済は、拡大を続けましたが、輸 出拠点化が進んでいた九州経済も、世界経済拡大と連動し高成長が続いていました。しか し、世界同時不況に突入し、世界需要の減少が始まった結果、九州の自動車産業、半導体 産業等製造業の業況は急速に悪化し、九州経済も景気後退局面に突入しました。 一方、九州経済の大半は地元の生産・地域の消費により支えられており、域内の生産・ 消費活動が活発であれば、景気後退局面においても、九州経済の下支えをすることが可能 です。今後、九州経済は、地元の生産・消費につながる地域の産業振興と輸出産業の振興 を同時に進めることが重要になっています。 さて、近年、韓国、アジアをはじめとする海外からの旅行客が増加傾向にあり、また、 国内においてはシニア世代の旅行客の増加も予想され、観光集客人口の増加を通じて、こ れまでの取組を加速させ、地域産業の発展へとつながることが期待されています。こうし た観光集客へ向けた取組は、地域産業の発展のみならず、雇用機会の拡大、にぎわいの創 出、地域の誇りや自信の醸成など多様な面での地域活性化効果も期待されています。 本調査は、最近、特に期待が高まっているこうした観光集客による経済効果を地域産業 の活力向上に結びつけ、更には地域経済の活性化につなげるべく実施したものです。具体 的には、九州における観光客の受入れや地域資源の発掘・活用の事例分析を中心として、 「観 光」を通じた地域活性化の取組を進める際の方向性を取りまとめたものです。 本調査が、地域における「観光」を通じた地域活性化の取組を加速化させ、或いは取組 に当たっての参考になれば幸いです。 本調査の実施に当たり、数多くの地域企業や団体等の皆様方にヒアリング調査にご協力 いただきました。また、本調査の検討に当たり設置しました学識経験者、九州観光推進機 構、民間企業等の専門家からなるワーキンググループの参加者の皆様から、有益な情報提 供やアドバイスをいただきました。ここに、心から感謝申し上げます。 平成 21 年3月 九州経済産業局企画課 目 次 はじめに 【概要編】 ............................................................................................................................... 1 【本編】 第Ⅰ章 九州の産業における「観光」の位置づけ .................................................................. 21 第1節 21 世紀の課題と九州 ................................................................................................. 21 第2節 観光の意義と産業規模............................................................................................... 22 第3節 日本の観光政策.......................................................................................................... 30 第4節 本調査の目的 ............................................................................................................. 32 第Ⅱ章 九州における観光の動向........................................................................................... 33 第1節 統計でみる観光動向................................................................................................... 33 第2節 観光を巡る環境変化................................................................................................... 56 第Ⅲ章 地域における国内外からの観光客受入の対応 ........................................................... 61 第1節 九州全体での取組 ...................................................................................................... 61 第2節 観光の地域活性化への活用........................................................................................ 64 第3節 九州における観光客受入の対応事例 ......................................................................... 65 第Ⅳ章 観光集客に向けた地域資源の活用............................................................................. 71 第1節 地域資源の開発.......................................................................................................... 71 第2節 九州における地域資源の活用事例............................................................................. 75 第Ⅴ章 「観光」を通じた九州地域経済の活性化に向けて .................................................... 80 第1節 観光を地域産業に結びつけ地域経済に波及させるための課題 ................................. 80 第2節 地域経済活性化に向けた取組のカギ ......................................................................... 82 第3節 地域の自発的な取組促進に向けて............................................................................. 91 【資料編】 ............................................................................................................................. 93 【概要版】 国内外からの観光集客人口の増加による 地域経済活性化の可能性調査 報告書 概要 ○背景と目的 好調な輸出型産業を中心に成長を遂げていた九州経済も、世界同時不況により大きな影響を受け ている。他方で、経済の大半は地元の生産・地域の消費活動に支えられており、活発であれば景気 の後退局面であっても地域経済を下支えする可能性がある。 経済産業局では、地域経済の活性化を図るために、地域資源の活用や農商工連携促進の取組など により、多様な主体の参加による地域の魅力を活かした産業の創出に向けた取組を進めてきた。 近年、韓国、アジアをはじめとする旅行客が増加傾向にあり、また、シニア世代の旅行客の増加 も予想され、観光集客人口の増加を通じて、これまでの取組を加速させ、地域産業の発展へとつな がることが期待されている。さらに、観光集客へ向けた取組は、地域産業の発展のみならず、雇用 機会の拡大、にぎわいの創出、地域の誇りや自信の醸成など多様な面での地域活性化効果が期待さ れる。 そこで、本調査は、地域における観光客の受入れや地域資源の発掘・活用の事例分析を行い、 「観 光」を通じた地域活性化の取組の方向性を提示し、九州における地域産業の活力向上、ひいては地 域経済活性化へと寄与することを目的としている。 1.九州の産業における「観光」の位置づけ 九州経済を取り巻く環境 我が国は、すでに人口減少社会に突入しており、人口減少と急速に進む少子高齢化による需要 の減少や市場環境の激変が起こりつつある。これらの影響により、九州における域内経済は、 今後大きな伸びが期待できず、地域経済の活力が低下する懸念が広がっている。 経済のグローバル化により、国内外での企業間競争が今後ますます激化していくことが予想さ れる。これまで主として輸出により九州の地域経済を牽引してきた自動車産業や半導体産業も、 世界同時不況やグローバル競争の激化により先行き不透明な状況にある。 世界の人口は、現在の 67 億人から 2050 年には 92 億人へと爆発的に増加すると予測されて いる。とりわけ途上国の人口増加と経済成長に伴い、資源やエネルギー、食料、水などの需要 が世界で急増することが確実視されている。 このように域内経済の縮小と資源価格の高騰といった将来に対する不安感が高まるなか、今後 の九州経済の発展のために、地域の実情に応じた産業展開の方向性の検討が必要となっている。 1 交流人口の増加による地域経済の活性化へ 九州経済の大半は地元の生産・地域の消費により支えられており、九州内の生産・消費活動が 活発であれば、景気の変動の影響を受けても、九州経済を下支えすることが可能であると考え られる。しかし、九州においては全国平均以上のスピードで人口減少が進んでおり、消費者の 減少により域内市場が縮小する恐れがある。 交流人口の消費額は、一般に定住人口の消費額より大きいと言われる。人口減少の中での消費 の喚起のためには、交流人口の拡大、すなわち観光集客人口の増加に活路が見いだされる。 観光集客へ向けた取組は、地域産業の活性化、雇用機会の拡大、にぎわいの創出、地域の誇り や自信の醸成など多様な面での効果が期待でき、産業活性化という側面だけでなく、地域の活 性化という側面からみても期待の大きな分野である。 自動車出荷額、IC生産額、農業産出額にも匹敵する観光の産業規模 観光は、広範な効果と多様な産業を包含する「総合産業」であり、ホテル・旅館といった宿泊業 や鉄道・バスといった運輸業など、いわゆる従来型の観光産業だけでなく、農林水産業や工業、 商業、サービス業などの幅広い産業の分野において新たな事業展開が期待されている。さらに、 地域住民や各種団体、行政など多様な主体が参画した観光振興の取組は、地域における経済効果 と雇用誘発をもたらす。 九州でも多くの地域が、観光集客による地域経済の活性化に向けて、地域に賦存する身近な地域 資源を活用した取組を行っている。 観光の生産波及効果は、平成 19 年度に全国で約 53 兆円(国内生産額の 5.5%)、雇用誘発効 果は 441 万人(全就業者数の 6.9%)と推計されており、その効果は極めて大きい。 九州における観光の産業規模を観光消費額で見ると、IC生産額を上回り、自動車製造業出荷額、 農業産出額にも匹敵する規模である。 九州における観光の産業規模 (兆円) 3 2.1 1.8 1.6 2 1.0 1 0 自動車製造業 出荷額 観光消費額 農業産出額 IC生産額 資料)経済産業省「平成 18 年工業統計」 、九州農政局「生産農業所得統計(平成 18 年) 九州運輸局「九州観光要覧(平成 19 年版) 」 2 政府でも「観光立国」を国策として重視 平成 15 年 1 月、小泉総理が施政方針演説で「2010 年に訪日外国人旅行者を倍増の 1000 万 人に」と発言したことを契機に、政府でも観光に力を入れるようになり、平成 18 年 12 月には 「観光立国推進基本法」が成立した。 平成 19 年 6 月には「観光立国推進基本計画」が閣議決定され、平成 20 年 10 月には、観光 立国を総合的・計画的に推進するための組織として「観光庁」が発足した。 現在、政府では「観光立国」の実現に向けて、各種施策を拡充しつつある。 九州においても、観光集客人口の増加により観光消費額を拡大させることは、域外市場の 切り取り効果を持つものであり、地域産業の活性化と地域経済の発展に資するものと期待 されている。 3 2.九州における観光の動向 (1)統計でみる観光動向 九州の観光入込客数は微増。入国外国人数は長期的には増加基調 九州における観光入込客数の推移をみると、全体としては微増傾向にあるが、各県別では、福岡 県、鹿児島県は増加傾向であり、一方、佐賀県や長崎県では減少傾向にあるなど、それぞれの県 で差がある。 観光庁「宿泊旅行統計」によると、平成 20 年の九州における延べ宿泊者数は約 3,188 万人で、 全国の約 10%を占める。うち外国人宿泊者数は約 185 万人で全国の 8.3%と、やや低くなっ ている。九州の中では、福岡県が延べ宿泊者数の 25%、外国人宿泊者数の 28%を占めている。 法務省「出入国管理統計年報」によると、九州への入国外国人数は、平成 10 年以降増加を続け、 平成 19 年に約 93 万人となり全国の 10%を占めている。特に韓国からの入国者が急増し、台 湾や中国も増加傾向にある。 九州を訪れる外国人(インバウンド)は、東アジアが多く、約7割が韓国からであり、中国・台 湾を合わせると約9割である。九州の観光にとって最大の海外市場は韓国であり、中国も今後の 伸びが期待されている。 九州の入国外国人数の推移 (千人) 入国外国人数 1,000 全国シェア 927 10.1 900 10.0 800 8.0 700 7.2 7.2 600 8.0 6.3 500 6.0 381 400 300 (%) 12.0 298 2.9 4.0 222 200 2.0 100 0 0.0 昭和50 55 60 平成2 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 資料)法務省「出入国管理統計年報」 韓国は個人旅行(FIT)が増加。南九州への誘導と的確な情報提供による消費拡大が課題 韓国の海外渡航者数は右肩上がりで推移し、平成 19 年は 1,332 万人と韓国人の4人に1人が 海外渡航している計算になる。 九州への韓国人観光客は、高速船やフェリーなど航路の充実に伴って急増しており、韓国人を受 け入れる九州最大の玄関口は福岡空港から博多港へと変化した。九州内での韓国人の訪問地は、 福岡、長崎、熊本、大分の北部九州に集中し、南九州への誘客が課題となっている。 4 また、韓国人の旅行形態は、かつての団体旅行から個人旅行客(FIT)が主流となりつつあり、 価格が高くても上質な旅を求める傾向にある。韓国の旅行業者等によると、韓国人にとって「温 泉といえば九州」というイメージが定着しつつあり、「日本的なもの」を求める傾向も強まって いる。 韓国人観光客に対しては、これまでの団体・低価格という固定観念からの脱却と、的確な情報提 供による消費の拡大が課題である。 中国はクルーズ客が増加。満足度の向上と、リピーター化が課題 中国の海外渡航者数は、4年間で 500 万人から 900 万人へと 1.8 倍に増加した。現在の主な 渡航先はタイやベトナム、シンガポールなど東南アジアだが、訪日旅行も増加傾向にある。今後 の経済成長と海外渡航の規制緩和が進めば、10 億人以上の巨大市場が動く可能性があり、期待 が高まっている。 九州への中国人観光客は、平成 19 年では 7.1 万人であり、入国外国人数に占める割合は7% とわずかである。この年は、特に博多港で中国からのクルーズ船が急増したものの、クルーズ客 は九州内に宿泊していない。このことから短い滞在時間となるため消費額が大きいとは言えず、 今後の消費拡大に向けた取組が課題である。 また、中国人観光客はこれまで海外渡航の制限もあって訪日旅行の経験が浅い。訪日した旅行客 の評価や口コミが、今後の旅行客動向に大きく影響することから、今後は、いかにして訪日中国 人の満足度を高めリピーターとして確保し、誘客を拡大していくかが課題となっている。 インバウンドについては、平成20年夏以降の世界同時不況や円高・ウォン安により、全 国的に直近では減少している。 しかし、長期的には増加するものとみられることから、外国人向けの誘客や周遊のプラン、 メニューづくりは、観光振興を図る上で重要である。 特に九州では、的確な情報提供や満足度向上等により、近接する東アジアからの集客を図 ることがカギとなる。 5 (2)観光を巡る環境変化 人々の観光に対する志向や形態は、近年変化しており、主なものは次のとおりである。 「団体」から「個人」へ 国内において、旅行先に関する情報が少なく、交通や宿泊の手配が煩雑であった頃、人々は職 場や地域の団体、あるいはパッケージツアーに参加して旅行に行くことが多かった。しかし、 最近では、個人や小グループでの旅行が増えている。 インバウンドもかつては団体観光客がほとんどであったが、最近では、韓国人観光客を中心に 個人や小グループによる個人旅行客(FIT)の来訪が増えている。 国内外を問わず、個人や小グループでの観光客が増えた背景としては、観光客の志向が多様化 したことがあげられる。具体的には、体験型、滞在型等の観光形態を志向していること、リピ ーターが訪問先として従来の観光地ではない地域を望み出したこと、癒しや健康づくりといっ た独自の目的のための旅行が増加したこと等があげられる。 その結果、団体受入に対応してきた従来の観光地での集客が厳しくなる一方で、これまで観光 地でなかった地域でも、受入態勢の充実、地域資源の活用、情報発信の強化を図ることで、観 光集客による地域活性化を実現できる可能性が出てきた。 「見学・周遊型」から「体験・滞在型」へ 団体観光中心の時代の観光行動は、 「見学・周遊型」が一般的で、複数の見物先と宿泊所のそれ ぞれの点をバス等で移動する形態が多く、観光消費においては、一部の土産物店や団体客に対 応したレストラン、ホテルに限られていた。 しかし、個人や小グループでの旅行が主流になると、見学中心の旅行形態から、これまでオプ ションでしかなかった様々な現地での「体験」や独自のテーマ設定による散策が可能となり、 観光客の多様なニーズに応えた様々な観光商品が増加している。また、近年では、癒しや健康 づくりといった目的のために、気に入った観光地に比較的長く「滞在」する旅行形態も出てき ている。 「体験・滞在型」への変化により、これまで観光地でなかった地域においても、地域資源を活 用した様々な体験メニューの開発、長期滞在に向けた受入態勢の充実等により、観光ビジネス を展開できる可能性が出てきた。 「発地型」から「着地型」へ 人々の観光に対する志向や観光の形態が、 「団体」から「個人」へ、 「見学・周遊型」から「体 験・滞在型」へと変化する中、旅行会社のビジネススタイルも変化しつつある。 旅行会社はこれまで、旅行の出発地側である大都市圏で得られる目的地情報や出発地側の観点 を重視して、団体中心の低コストのツアーを企画し、観光客を募集して地方に送り出す「発地 型」のビジネスモデルを展開してきた。 6 しかし、人口減少による市場規模の縮小、団体客の減少に伴う営業効率の低下、ネットの普及 に伴う予約収入の減少といった環境変化により、新たな市場開拓の必要性に迫られ、そのひと つとして「着地型」にビジネスの活路を見出そうとしている。 「着地型」とは、旅行・観光の目的地である地域(=着地)の視点を重視して、きめ細やかな 旅行プランを企画し実施するものである。 「着地型」は、観光客の多様なニーズに対応した観光 商品づくりに当たり、地域に賦存する様々な地域資源(自然、歴史、料理・食品、産業、街並 み、文化等々)を幅広く活用するものである。 一部の地域では、地域資源を幅広く活用する中から、観光客と地元との間で磨きがかかり、口 コミやネット上での情報の広がりによって、地域の名物となった商品や特定のターゲートに人 気となっている商品も増加している。 「着地型」のプランづくりは、地域資源活用の観点からも 重要視されている。 「着地型」は、大都市圏の旅行会社にとっては、従来よりも地域との関係が深まり、内容が良 ければ新たな目的地となり、観光商品のバリエーション化が進むことになる。 一方、地域にとっては、地元主導で地域資源を観光商品化することで、発地側の市場へ売り込 む機会の増加につながり、地域経済活性化の可能性が高まることとなる。 シニアとインバウンドの増加 国内の旅行市場は、長期的には人口減少に伴って縮小が見込まれる。しかし、団塊世代がリタ イアすることに伴い、元気なシニア世代が短期的には旅行需要を牽引することが期待される。 また、海外、とりわけ東アジアでは相対的に高い経済成長が見込まれている。既に毎年、人口 の4分の1が海外に渡航する韓国や台湾に続き、今後は中国で本格的な海外旅行ブームの到来 が見込まれ、富裕層の拡大で購買力も向上している。 こうしたシニア世代やインバウンドに上手くアピールする観光商品づくりと情報発信ができれ ば、観光集客人口を増やし、消費を拡大できる可能性がある。 観光を巡る環境変化に伴い、地域では地域資源の活用と情報発信の取組により、さらなる 観光集客の可能性が高まっている。 また、地域資源を活用し新たな商品づくりを行うことは、地域ビジネスの拡大や新たなビ ジネスの創出であり、直接、地域経済への波及につながるため、地域活性化に向けた重要 な要素となる。 地域資源の活用促進や情報発信の充実を図るためには、観光客を受入れる地域の態勢の充 実が不可欠である。 7 3.地域における国内外からの観光客受入の対応 九州内における観光客の訪問先は一部の地域に偏重 九州地域における国内外からの観光客の訪問先は、福岡市、別府、阿蘇、ハウステンボス、長崎 等の大型観光地や大型観光施設、あるいは由布院温泉や黒川温泉など、特定の観光地や温泉地に 偏っているといった特徴がある。 その要因として、限られた日程や経費の中では、従来型の団体観光は減少しているものの、まだ 大きなウエイトを占めていることと、当該地域を結ぶ交通インフラが整備され、アクセスの利便 性が高く短時間での移動が可能で、個人や小グループの旅行客が増加していることがあげられる。 また、そのほかの小規模の観光地や、観光集客への取組を開始したばかりの地域では、観光集客 の取組は行われているものの、総じて観光客増加や消費拡大が表れていない。 韓国人観光客の九州における一般的な観光ルート 資料)ヒアリングより九州経済調査協会作成 観光を地域活性化に積極的に活かそうとするマインドの重要性 観光客の志向の多様化を背景に、観光の形態が「団体」から「個人」へ、 「見学・周遊」から「体 験・滞在」へ移り変わり、シニアやインバウンドが増加する等、観光を巡る環境が変化している 中、観光地においては、観光客のニーズに合わせた新しい受入れ態勢が求められている。 団体観光では、行き先が数カ所に限定されていたため、旅行業者を中心に、行程に含まれる交通 機関、訪問先の名所・施設、宿泊業者、土産物店等の一部の関係者の対応であった。 しかし、観光客の行き先が「点」から「面」に広がりつつある。滞在の長期化のためには、地域 全体としてのホスピタリティーときめ細やかな対応が不可欠となり、さらには、多様で高付加価 値な訪問コース・体験メニューや具体的かつ詳細な情報提供が求められはじめた。 観光客の減少が続く地域では、この求めに対応できていないところが見受けられ、新たなニーズ に対応することで発生するビジネスチャンスを見逃している場合がある。観光を地域活性化に積 極的に活かそうとする場合、地域のマインドが重要となる。 インバウンドについては、現状では、地域経済へのウエイトが少ないことと、国内客に人気が高 い観光地や観光商品がインバウンドにも人気が高いことから、来訪が多い地域を中心に案内や情 報発信の多言語化が進んでいる程度で、特に意識した誘客の取組は少ない状況。 8 一部の先進地で開始された受入態勢の充実とその「見える化」 観光を巡る環境変化への新たな対応によっては、観光集客及びその消費の拡大に結びつく可能性 は高く、多くの地方公共団体や商工団体等では、対応できる態勢づくりが模索されている。 このような中、地域全体でホスピタリティーを高め、観光商品のバリエーション化、よりきめ細 やかな情報提供や案内に取り組み、成果を上げている先進地域がある。 先進地域では、観光客の不安・不便・不自由を減少させる「ワンストップサービス」 、ニーズに 応じたプランやメニューを案内する「コンシェルジュ機能」 、受入態勢の情報を具体的かつきめ 細やかに発信する「見える化」等、積極的な取組が開始されている。 インバウンドの取り込みについては、内需が厳しい情勢の中で、海外市場の切り取りであること から、先進地域やインバウンドの来訪が多い都市を中心に、通訳サービスをはじめ、多言語によ るサインアップ、ビジュアルな情報提供、支払い等の利便性の向上に積極的に取り組み、その情 報をIT活用により発信し「見える化」が進められている。 九州における観光客受入対応の例 窓口機能 強化 情報発信 強化 言語の壁の低減 利便性向上等 イ ン バ ウ ン ド 対 応 ニーズへの対応 としかけづくり 観 光 客 受 入 対 応 • • • • • 客のニーズに対応した多様な着地型プランづくり (別府、阿蘇、等) 「昭和の町」整備とガイド、「一店一品運動」で集客増と消費拡大(豊後高田) エリア毎の地域資源ガイドブックの作成とパッケージツアーの開発(阿蘇) 「長崎さるく」や「ランタンフェスティバル」等の仕掛けで中心市街地活性化(長崎) QR コードを掲載したクーポンマップの作成(福岡市) • 「研修宿泊施設」、「民泊組織」、「観光協会」を統合して窓口を一本化、コンシェルジュ機能 強化(小値賀) スポーツキャンプ地照会のワンストップサービス(宮崎県) • • インターネットや携帯端末を利用した細やかな情報提供(阿蘇) • web とメーリングリストの活用による情報発信(別府ハットウ・オンパク) • ブログを活用した口コミ情報の発信強化(マインドシェア) • • • • • • • • 訪問先、街中、店舗における外国語表記の推進(別府、阿蘇、長崎、対馬 等) 「韓国語支援センター(通訳常駐)」の設置(対馬) 英・中・韓に対応した電話での逐次通訳サービス(JR 九州、ティスコジャパン) 博多港発着の 100 円バスのハングル表記・案内(西鉄) つばめ、リレーつばめの4カ国語自動放送(JR 九州) 福岡市地下鉄、西鉄 100 円バスの駅・バス停ナンバリング(福岡) 外国人客対応マニュアル等作成(福岡市新天町、キャナルシティ博多、阿蘇、等) ハングルによる九州の「和風旅館」紹介サイト及び温泉マナーチラシの作成(キューデンイン フォコム) • • • • • • 韓国のクレジットカード使用可の店頭表示とネット上での情報提供(キューデンインフォコム) ウェルカムカードとしての 韓国人ゴルフ客へのタクシー1000 円割引券(宮崎) 銀聯カード決済導入(キャナルシティ博多、福岡市内の百貨店、長崎・熊本の商店街、等) 銀行窓口での両替終了時間の延長(福岡) アジア諸国通貨の両替、カード決済サービス(別府) 仮上陸許可証の発行、税関や検疫検査の迅速化、免税手続(福岡市) 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 9 4.観光集客に向けた地域資源の活用 活用が開始された様々な地域資源 団体観光客による見学・周遊型の観光が主流であった時代、国立公園・国定公園など自然景観 のすぐれた景勝地、城郭や大橋梁などのランドマークとして機能する建造物、大型の宿泊施設 や観光施設などが主な観光資源であった。 観光の形態が、個人客中心の体験・滞在型へと変化する中で、観光資源に対する考え方も大き く変化し、 「本物」や「そこにしかないもの」が注目されてきた。地域に賦存する身近で様々な 地域資源が、癒し、健康づくり、自然・環境保護等の価値を付加されることで、魅力ある観光 資源となることが期待される。 これまでは観光資源として考えられてこなかった様々な地域資源を、付加価値を高めることで、 観光客により多く売り込む取組が行われ始めているが、九州全体としてみると、豊富な地域資 源の活用に向けては、その素材を見極める「目利き」、商品化に向けた「磨き」や「プロモーシ ョン」等のノウハウ等が不十分であることがヒアリング調査により指摘されている。 「歴史・文化」 の活用 「自然・天然資 源」の活用 「食」に関わる 資源の活用 • • • • • • • • • • • • • • • • • • その他 • • 九州における地域資源の活用の例 温泉情緒を活用した街歩きガイドのビジネス化(別府) 街の歴史・文化を活用したガイド「長崎さるく」のビジネス化(長崎) 窯業と農業を組合せたグリーンクラフトツーリズムの商品化(波佐見) キリスト教会群の世界遺産化と地域文化の観光資源化(長崎県) 古い街なみと「米」関連の商店を活用した「米米惣門ツアー」の実施(山鹿) 近代化産業遺産の観光資源化(北九州、大牟田、三角、鹿児島、等) 石炭産業文化「伊藤伝右衛門邸」の物語性付加による観光資源化(飯塚) 自然資源を活かした体験メニューのパッケージ化、ビジネス化(阿蘇、小値賀、等) 温泉資源と健康を組合せたウェルネス産業化(別府) 冬季晴天の自然を活かしたスポーツキャンプ(宮崎県) 自然科学(学術)と体験(観光)の融合(桜島) 佐世保バーガーをはじめ米軍、日本海軍起源の食の名物化(佐世保) 門前町商店街の目玉商品「馬ロッケ」等の名物化(阿蘇) 新たな名物としてのスイーツの充実(由布院) ご当地グルメと MAP の作成(佐世保バーガー、別府とり天、等) 地域の生鮮品を活用したご当地グルメ(呼子のイカ、竹崎かに、平戸のヒラメ、臼杵のフ グ、等) 充実したハンドボール施設を活用したスポーツコンベンション誘致(山鹿) ロングステイメニュー「おとなの長旅九州」の商品化(JTB 九州、JR 九州、九州観光推進 機構、イデアパートナーズ) 「民泊」の商品化(安心院、野津、小値賀、松浦、等) 「農産物直売所」を通じた加工品等の販売(各地の道の駅、等) 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 10 5. 「観光」を通じた九州地域経済の活性化に向けて (1)観光を地域産業に結びつけ地域経済に波及させるための課題 観光集客人口の増加を地域産業に結びつけ地域経済へ波及させるための課題は、次の5つにま とめられる。 ■個々の地域における観光の課題 ①観光を経済活性化に積極的に活かそうとするマインドの向上(組織・リーダーづくり) ②訪問地として選択させる戦略づくり ③追加の消費を促す仕掛けづくり ④再訪・回遊・長期滞在を促す仕掛けづくり ■九州全体としての観光の課題 ⑤九州内の地域間をコーディネートし広域的な回遊を促す仕掛けづくり ①観光を経済活性化に積極的に活かそうとするマインドの向上(組織・リーダーづくり) 九州で、観光集客人口の増加が地域経済の活性化や雇用の創出に結びついている地域は少ない。 ヒアリングでは、各地の地方公共団体や商工団体等から、観光集客を地域の賑わいや住民の自 信と誇りの醸成だけでなく、地域経済や雇用に結びつけたいという声が聞かれた。 観光を経済活性化につなげた経験やノウハウが乏しい地域も多く、それらの地域では、観光を 積極的に活かそうとする地域全体としてのマインドが特に必要となる。 地域全体としてのマインド向上を図るためには、地域をまとめ牽引する機能を持つ組織やリー ダーが不可欠である。 ②訪問地として選択させる戦略づくり 多くの地域が観光客誘致に取り組む中、訪問地として選択されることは容易ではない。地域に おいて地域資源を活用した様々な観光商品づくりが取り組まれているが、人々に訪問地として 選択させる誘客効果の高い観光資源には至っていない状況である。 また、地域に様々な観光資源が存在するものの、地域全体ではなく個々に情報発信しているた めに、現地の様々な資源のトータルな魅力等が十分に伝わっていない地域も多い。 九州は南九州を中心に、観光客に対するホスピタリティーがトップクラスと言われているが、 旅行会社等へのヒアリングでは、多くの観光地において、個々の受入先のホスピタリティーは 高いものの、現地での受入の連携とその情報発信が不十分であり、訪問先を検討する際に、不 安や不便を感じさせているといった声が聞かれた。 訪問先を検討している人々に、訪問地として選択させるためには、地域資源の高付加価値化と プロモーションによる「魅力向上」の取組と、事前に不安・不便・不自由を感じさせない受入 態勢の充実とその具体的な情報発信による「安心感向上」の取組を、地域一体となって行うこ とが重要である。 11 ③追加の消費を促す仕掛けづくり 地域での観光消費を拡大するためには、地元の素材を活かした安心・安全でおいしい食材や、 農商工連携による地場産品、その土地ならではの体験など、観光客が求める商品をつくり、そ うした商品に関する「ものがたり」や「いわれ」などの特異な情報(うんちく)を的確に伝え て、消費を促すことが重要である。 ヒアリングによると、多くの地域で、購買意欲や好奇心を引き出す商品・体験メニューづくり などのノウハウが不十分であり、消費誘発に繋がっていないとの声が聞かれた。 今後は、訪れる観光客の多様なニーズを把握し、ターゲットを的確に絞り、購買意欲等を引き 出す仕掛けづくりが重要である。 地域で観光客に受け入れられた商品は、ブランドとなり、域外への恒常的な販売の可能性も広 がる。 ④再訪・回遊・長期滞在を促す仕掛けづくり 長らく「団体」で「見学・周遊型」が観光の主流であった我が国では、地域内のいくつかの観 光資源を回遊するような動きは少なかった。また、同じ観光地に何度も訪れるリピーターも少 なく、現地での滞在も1泊が中心であり、ひとつの地域に長期滞在するような旅行形態は少な かった。 観光客が消費する機会が増加する再訪・回遊・長期滞在の形態を目指した地域づくり、観光商 品づくりが、九州でも一部の地域・企業で行われ始めている。 観光の地域経済への波及効果拡大の観点から、観光客の再訪・回遊・長期滞在を促す仕掛けづ くりが重要である。 ⑤九州内の地域間をコーディネートし広域的な回遊を促す仕掛けづくり 九州で観光集客に取り組み、成果を上げ始めた地域もある。しかし、魅力的な取組が行われて いる地域が各地に点在していることと、取組地域個々の情報発信力や集客力が大きくないこと から、九州としての広域的な魅力を高めるには至っていない。 ヒアリングでは、新たな取組を行っているそれぞれの地域や旅行関係業者等が連携・協力し、 観光客の広域的な回遊を促進させるべきだとの意見が聞かれた。 九州全体としての魅力を高めていくためには、旅行関係業者等と連携しつつ地域間をコーディ ネートし、観光客の広域的な回遊を促す仕掛けづくりが重要である。 12 (2)地域経済活性化に向けた取組のカギ 地域資源の活用と観光客拡大の好循環の形成 当調査において、一部の先進的地域で は、誘客・滞在・再訪の促進に向け、 「魅力ある観光資源づくり」 、 「受入態 勢づくり」 、 「消費行動を誘発するしか けづくり」等に取り組み、一定の成功 を収めており、そこには多様な主体の 取組をコーディネートしている「中核 的推進組織」が存在し、コンシェルジ ュ的な機能も発揮していることが明 らかとなった。 先進的な地域では、一元的な情報発信 や誘客活動を展開し、受入態勢を充実 させ、観光客の満足度を高めて来訪者 をさらに拡大し、地域資源を活用した ビジネスを展開・拡大し、それが更な る誘客に結びつくという好循環を形 成している。 観光を地域経済活性化に積極的に活 かそうとする地域のマインドを高め る取組や、観光集客の増加に向けた具 体的な取組を行うに当たっての「取組 のカギ」として、以下の3点を提示す る。 ① 地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 ② 地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 ③ 受入れ態勢の充実とその「見える化」 13 ①地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 観光集客による地域活性化に取り組む地域は、まちづくり、観光集客、商品づくりを一体的に コーディネートし、戦略性を持った取組を推進することが重要である。 そのためには、ホテル・旅館、土産店、飲食店、企業や商工団体、農林水産業、住民グループ などの多様な主体をつなぐ「ネットワーク化」が不可欠である。 取組の先進地においては、多様な主体をつなぐ対応に、従来の機関・団体より弾力的に取り組 める NPO 法人や財団法人等の組織が当たるケースを多く見られた。 それらの組織は、地域内のネットワークの中心的な役割を担うと同時に、他の地域(都市やム ラ) 、域外の企業、外国人などをつなぐ役割も果たしている。 ネットワークの核となる組織は、観光集客による地域活性化に向けた戦略づくりに際し、先見 性と企画力を併せ持つ卓越したリーダーの下、中心的にその機能を発揮するとともに、戦略実 現に向けた様々な取組を行い、成果を上げている。 これらのことから、地域において観光集客による地域活性化の取組を強化するためには、地域 一体となった戦略づくりとその実現に向けた取組推進の機能を持つ「中核的推進組織づくり」 と組織の中心となり牽引する「リーダーづくり」がカギである。 NPO 法人ハットウ・オンパク(大分県別府市)の取組事例 NPO法人「ハットウ・オンパク」は、温泉を核とした地域文化体験型イベント「別府八湯温泉 泊覧会」の開催等を通じ、ウェルネス産業興しを展開。 リーダーを中心とした NPO の組織化。複数のリーダーの育成による取組の拡大。 ネット上での情報交換の場の設定や、 「フェイス・トゥ・フェイス」の交流拠点の確保による取組 への参加促進(プラットフォーム) 。 推進組織による企業への事業提案、テストマーケティングの場の設定。 中核的推進組織の経営強化に向けた観光情報誌の発行などによる収入源の多様化、散策ガイドな どの有料化。 ハットウ・オンパクが中心となって、久留米、都城をはじめ全国にノウハウを移転。 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 資料)NPO 法人ハットウ・オンパクホームページ 14 ②地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 観光集客による地域経済活性化に取り組むに当たっては、誘客効果を高め、観光客の消費を拡 大させるために、地域資源を有効に活用した「魅力ある観光資源づくり」 がカギとなる。 このためには、個人客中心の体験・滞在型へ変化する観光のトレンドを踏まえた上で、地域に 賦存する身近な地域資源の中から、 「本物」 、 「そこにしかないもの」等に着目した「目利き」に より有効な資源を抽出し、高付加価値化等により「磨き」を掛け、 「プロモーション」により認 知度を高めることが重要である。 「目利き」には、マーケティングによるターゲットの絞り込み等も重要である。 「磨き」の手法 としては、 「癒し・健康」 、 「物語性(うんちく) 」、 「自然・環境保護」等を付加する手法や、モ ノ(ハード)とサービス(ソフト)を組み合せる手法等があり、新たなビジネスチャンスの可 能性も秘めている。 これらを行うためには、そのノウハウが地域に不可欠であり、それを有する人材や組織の存在 が求められている。 観光集客に向けた商品づくりを契機に、住民が誇れる地域の商品が、全国や世界へと恒常的に 販売される商品に発展することが期待される。 地域資源活用の取組事例 <NPO 法人ハットウ・オンパク(別府市)> 観光客へのアンケートや、登録会員へリサーチを、常時実施。 別府市をあげての温泉博覧会はもちろん、様々な地域イベントを開催・推進し、その場を、新たな観光資 源やビジネスのテストマーケティングに利用。 宿泊施設や飲食店を、地元の観光資源のショールーム、商品開発の実験場として活用。 温泉資源と、マッサージなど健康・癒しのサービス業とのコラボによる「ウェルネス産業」により新たなビ ジネスを創出。 <財団法人阿蘇地域振興デザインセンター(阿蘇市)> 阿蘇の魅力をより感じてもらうために「スローな阿蘇づくり・阿蘇カルデラツーリズム」を提唱。 滞在型プランにより、地域資源の活用の幅が広がり、体験メニューのバリエーションも拡大。 これが、回遊と体験による地元での消費拡大をもたらし、地域経済活性化へつながっている。 滞在型の観光メニューをリストアップした冊子を作成し、地域でのプランづくりや、コンシェルジュによる個 別対応、旅行会社への売り込みに活用。 商店街では、観光を通じて「通りの暮らし」を見せることに重点を置き、店主らが主体的に景観・環境など の街づくりに参画することを促進。 <NPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会(長崎県小値賀町)> 「手つかずの自然」、「島民の暮らし」、「人々とのふれあい」を、無人島でのカヌー、シュノーケリング、魚 釣り、トレッキングなどの形で体験メニューに取り入れて観光商品化。 「民泊」のビジネス化により地域への経済効果。民泊は観光客と島民とのふれあいも濃く、感動を呼ぶ。 <下町惣門会(山鹿市)> ドラマのロケ地となったこと、街のシンボルとして存在した芝居小屋の修復作業を契機に、菊池川水運で 栄えた下町地区に残る街並みを活かした地域振興を試みる。 下町地区の従業員による任意団体「下町惣門会」により、酒造所、味噌屋、煎餅屋といった「米」に関連 した店舗の従業員がガイドを行う「米米惣門ツアー」を企画。 15 米米惣門ツアーでは、店舗の従業員によるリレー方式での案内が好評。ガイド方法にも工夫が凝らされ ており、お客への商品紹介の方法やバス運転手への商品提供などを実施。 米米惣門ツアーを始めたことで、観光客の滞在時間が大幅に増加。地域での消費も増加。 <長崎さるく博’06 推進委員会(長崎市)> 市民検討委員会から提案された「まち歩きの推進」をイベント化し、平成 18 年に「長崎さるく博’06」を開 催。平成 19 年から「長崎さるく」として再スタートし、現在に至る。 長崎さるくでは、まち歩きメニューの企画と実行が全て市民の手で実施され、利益も市民が享受する態 勢が形作られている。 長崎さるくでは、興味の程度に応じたまち歩きメニューや、各所でのイベント、展示を実施。まちなかに 「さるく茶屋」の設置や市民ボランティアガイドを配置し、街全体を博覧会会場、散策コースをパビリオン としてアピールすることに成功。 独自の認証制度によって「さるくガイド」を設定し、400 名超のボランティアガイドが登録。 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 ③受入態勢の充実とその「見える化」 観光集客に取り組むに当たり、地域の態勢づくりにおいて最も重要なことは、地域全体で観光客 を歓迎する気持ちを高めることであり、この意識が、受入態勢の充実や情報発信の強化等を図る 上での土台となる。 誘客の推進やリピーターの確保を図るためには、不安・不便・不自由の低減に向けたきめ細やか な対応や、観光客のニーズに対応した様々なメニューが提案可能な「受入態勢の充実」と、具体 的でビジュアルな情報発信による、その「見える化」がカギとなる。 例としては、観光客へのワンストップサービスの提供、観光客のニーズに合わせ案内するコンシ ェルジュ機能等が、きめ細やかな対応が可能な「態勢の充実」であり、画像・動画などのイメー ジや多言語による情報発信などが「見える化」である。 さらには、シニアや外国人を受け入れるためのバリアフリー化や通訳、医療などのサービス態勢 の充実とその情報発信も、安心感の醸成につながる重要な要素である。 財団法人阿蘇地域振興デザインセンター(熊本県阿蘇市)の取組事例 阿蘇地域の一体となった魅力を構築するため、農村交流、商店街散策、自然・史跡体験などを「阿蘇カ ルデラツーリズム」として総称し、一体的なプロモーションを実施。 滞在型観光のために、旅館やイベントの情報照会などに対するワンストップ機能の充実や、携帯電話情 報サイト「阿蘇ナビ」など、ITを活用した情報の受発信を実施。 インバウンド対応として、英・中・韓のインターネットテレビ「ASO−TV」による地域観光案内や、事業者 向け外国語接客教室の開催、インターネット通訳システムの導入、多言語会話帳の作成、バス停や駅 の案内板の多言語化といった受入態勢を充実。 地域内の各エリアに対して、阿蘇 DC がワークショップ等によって地域の人達を触発。地域住民自身によ る地域資源の再発見や地域リーダー育成を誘導。 地域を巻き込んで観光客を惹きつける観光資源をメニュー化した「阿蘇まちめぐりガイドブック」を作成。 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 16 ASO-TV で紹介されている地域観光コンテンツ 資料)阿蘇テレビホームページ (3)「取組のカギ」による課題克服に向けた具体的アクション 「取組のカギ」をもとに、観光集客による地域経済活性化に向け、地域において新たに取り組 む場合の戦略や仕掛けづくりは次のとおりである。 (ア) 地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 ※このフローは、既存の多様な主体によるマインド醸成を発端として、中核的推進組織・リ ーダーづくりへ結びつくケースとなっているが、地域の実情によっては、行政や団体が地 域の戦略として、先に中核的推進組織・リーダーを設置して、それらを中心に地域全体の マインド向上を図り、多様な主体を掘り起こしネットワークを形成していくケースが有効 な場合もある。 17 (イ) 地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 (ウ) 受入れ態勢の充実とその「見える化」 18 (4)地域の自発的な取組促進に向けて 連携による支援の輪の形成 「観光」を通じた九州地域経済の活性化に向けて、各地域の多様な主体が連携した取組を促進 させるには、行政や広域的な機関・組織が連携して、それらの取組を支援することが重要であ る。 九州における観光を通じた「地域づくり」 ・「地域再生」への取組 資料)九州経済産業局作成 19 【本編】 第Ⅰ章 第1節 九州の産業における「観光」の位置づけ 21 世紀の課題と九州 1.九州経済を取り巻く環境 我が国は、すでに人口減少社会に突入しており、人口減少と急速に進む少子高齢化によ る需要の減少や市場環境の激変により、経済規模縮小が懸念されている。九州の地域経済 の大半を占める域内経済(内需)には、今後大きな伸びが期待できず、地域経済の活力が 低下する懸念が広がっている。 加えて、経済のグローバル化により、国内外での企業間競争が今後ますます激化してい くことが予想される。これまで主として輸出により九州の地域経済を牽引してきた自動車 産業や半導体産業も、世界同時不況やグローバル競争の激化により先行き不透明な状況に ある。 一方で世界の人口は、現在の 67 億人から 2050 年には 92 億人へと爆発的に増加すると予 測されている。とりわけ途上国の人口増加と経済成長に伴い、資源やエネルギー、食料、 水などの需要が世界で急増することが確実視されている。 このように、域内経済の縮小と資源価格の高騰といった将来に対する不安感が高まるな か、今後の九州経済の発展のために、地域の実情に応じた産業展開の方向性の検討が必要 となっている。 2.交流人口の増加による地域経済の活性化へ 九州経済の大半は地元の生産・地域の消費により支えられており、九州内の生産・消費 活動が活発であれば、景気の変動の影響を受けても、九州経済を下支えすることが可能で あると考えられる。しかし、九州においては全国平均以上のスピードで人口減少が進んで おり、消費者の減少により域内市場が縮小する恐れがある 交流人口の消費額は、一般に定住人口の消費額より大きいと言われる。人口減少のなか での消費の喚起のためには、交流人口の拡大、すなわち観光集客人口の増加に活路が見い だされる。 さらに、観光集客へ向けた取組は、地域産業の活性化、雇用機会の拡大、にぎわいの創 出、地域の誇りや自信の醸成など多様な面での効果が期待でき、産業活性化という側面だ けでなく、地域の活性化という側面からみても期待の大きな分野となる。 このように観光集客を活用した地域経済活性化の取組が、今後の九州の発展を図る方策 の一つとして必要となる。 21 第2節 観光の意義と産業規模 1.観光の意義 平成 18 年 12 月に成立した「観光立国推進基本法」の前文では、下記のように述べられ ている。 図表 観光立国推進基本法 前文 観光は、国際平和と国民生活の安定を象徴するものであって、その持続的な発展は、恒久の 平和と国際社会の相互理解の増進を念願し、健康で文化的な生活を享受しようとする我らの理 想とするところである。また、観光は、地域経済の活性化、雇用の機会の増大等国民経済のあ らゆる領域にわたりその発展に寄与するとともに、健康の増進、潤いのある豊かな生活環境の 創造等を通じて国民生活の安定向上に貢献するものであることに加え、国際相互理解を増進す るものである。 我らは、このような使命を有する観光が、今後、我が国において世界に例を見ない水準の少 子高齢社会の到来と本格的な国際交流の進展が見込まれる中で、地域における創意工夫を生か した主体的な取組を尊重しつつ、地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地 域社会の実現を促進し、我が国固有の文化、歴史等に関する理解を深めるものとしてその意義 を一層高めるとともに、豊かな国民生活の実現と国際社会における名誉ある地位の確立に極め て重要な役割を担っていくものと確信する。 しかるに、現状をみるに、観光がその使命を果たすことができる観光立国の実現に向けた環 境の整備は、いまだ不十分な状態である。また、国民のゆとりと安らぎを求める志向の高まり 等を背景とした観光旅行者の需要の高度化、少人数による観光旅行の増加等観光旅行の形態の 多様化、観光分野における国際競争の一層の激化等の近年の観光をめぐる諸情勢の著しい変化 への的確な対応は、十分に行われていない。これに加え、我が国を来訪する外国人観光旅客数 等の状況も、国際社会において我が国の占める地位にふさわしいものとはなっていない。 これらに適切に対処し、地域において国際競争力の高い魅力ある観光地を形成するとともに、 観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成、国際観光の振興を図るこ と等により、観光立国を実現することは、二十一世紀の我が国経済社会の発展のために不可欠 な重要課題である。 ここに、観光立国の実現に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定 する。 資料)観光立国推進基本法 22 この文章から、観光の最も根本的な意義は、 「国際平和の象徴」、 「国民経済の発展」、 「国 、 「豊かな国民生活の実現」の4つに集約できる。 民生活の安定向上」 観光では、「地域経済の活性化」や「雇用機会の拡大」を通じて、「国民経済の発展」に 寄与することも、重要な役割である。 図表 恒久な国際平和 観光の意義と役割 国際社会の相互理解の増進 国際社会における名誉ある地位の確立 国民経済の発展 地域経済の活性化 雇用機会の増大 国民生活の安定向上 健康の増進 潤いのある豊かな生活環境の創造 豊かな国民生活の実現 地域の住民の誇りと愛着の拡大 固有の文化、歴史等に関する理解の深 化 資料)観光立国推進基本法前文より九州経済調査協会作成 23 2.物見遊山から様々なツーリズムを含む概念へ 最近では、大交流時代を迎え、海外からのインバウンド観光の振興が重要な課題となっ ている。また、レジャーとしての「観光」だけでなく、ビジネス目的を含めた旅行も重視 されてきており、それらは、レジャーとしての「観光」と区別して、 「観光・集客」、 「ツー リズム」と言われる。 さらに、近年、人々のニーズの多様化から国内観光の種類も多様化しており、ニューツ ーリズムが注目されている。ニューツーリズムとは、従来の物見遊山な観光旅行に対して、 テーマ性が強く、人や自然とのふれあいなど体験的要素を取り入れた新しいタイプの旅行 と旅行システム全般を指す。テーマとしては、産業観光、エコツーリズム、グリーンツー リズム、ヘルスツーリズム、ロングステイなどがある。 図表 産業観光 エコツーリズム グリーンツーリズム ニューツーリズムの種類とその定義 歴史的・文化的価値のある工場等やその遺構、機械器具、最先端の技術を備え た工場等を対象とした観光で、学びや体験を伴うものである。産業や技術の歴史 や伝承すること、現場の技術に触れることは、当該産業等を生んだ文化を学ぶこ とであり、将来的な産業発展のためにも重要な要素である。 【観光立国推進基本計画(平成19年6月29日 閣議決定)】 この法律において「エコツーリズム」とは、観光旅行者が、自然観光資源について 知識を有する者から案内又は助言を受け、当該自然観光資源の保護に配慮し つつ当該自然観光資源と触れ合い、これに関する知識及び理解を深めるための 活動をいう。 【エコツーリズム推進法 第二条2項(定義)】 自然環境や歴史文化を対象とし、それらを損なうことなく、それらを体験し学ぶ観 光のあり方であり、地域の自然環境やそれと密接に関連する風俗慣習等の生活 文化に係る資源を持続的に保全しつつ、新たな観光需要を掘り起こすことによ り、地域の社会・経済の健全な発展に寄与し、ひいては環境と経済を持続的に両 立させていくことにつながるものである。ホエールウォッチングなど野生生物を観 察するツアーや、植林や清掃など環境保全のために実際に貢献をするボラン ティア的ツアーなどが、これに当たる。 【観光立国推進基本計画(平成19年6月29日 閣議決定)】 農山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動で あり、農作業体験や農産物加工体験、農林漁家民泊、さらには食育などがこれ に当たる。 【観光立国推進基本計画(平成19年6月29日 閣議決定)】 グリーン・ツーリズムとは、山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽し む滞在型の余暇活動。林漁業体験やその地域の自然や文化に触れ、地元の 人々との交流を楽しむ旅。 【農林水産省ホームページ 都市と農山漁村の共生・対流】 ヘルスツーリズム 自然豊かな地域を訪れ、そこにある自然、温泉や身体に優しい料理を味わい、 心身ともに癒され、健康を回復・増進・保持する新しい観光形態であり、医療に近 いものからレジャーに近いものまで様々なものが含まれる。 【観光立国推進基本計画(平成19年6月29日 閣議決定)】 ロングステイ (長期滞在型観光) 長期滞在型観光は、団塊世代の大量退職時代を迎え国内旅行需要拡大や地域 の活性化の起爆剤として期待されるものであるとともに、旅行者にとっては地域 とのより深い交流により豊かな生活を実現するものである。 【観光立国推進基本計画(平成19年6月29日 閣議決定)】 文化観光 文化観光…日本の歴史、伝統といった文化的な要素に対する知的欲求を満たす ことを目的とする観光。 【観光立国推進基本計画(平成19年6月29日 閣議決定)】 資料)日本ツーリズム産業団体連合会ホームページ 24 3.観光・集客産業の範囲 観光・集客は、関連する産業の裾野が広く、直接、間接の雇用拡大も期待できる。日本 ツーリズム産業団体連合会では、 「ツーリズム産業」として、旅行業、宿泊サービス業、テ ーマパーク・観光施設業、観光土産品業、イベント・コンベンション業、運輸業の 5 つを あげ、その周辺には多くの関連団体や関連産業があるとしている。 図表 ツーリズム産業の範囲 資料)日本ツーリズム産業団体連合会ホームページ 25 4.新しい観光・集客と産業 以前は、観光に関わる産業と言えば、交通手段や宿泊の予約、ツアー販売等を行う旅行 代理店をはじめとする「旅行業」 、鉄道、バス、航空、船舶等のキャリアを中心とした「運 輸業」 、観光地などの観光客向け「飲食店」、ホテル・旅館など「宿泊業」、各種の観光集客 施設の「テーマパーク・観光施設業」、祭やイベントを支える「イベント・コンベンション 業」などが中心であった。 もちろん、これらの産業は、現在でも観光の中心的役割を担う産業である。しかし、イ ンバウンド観光やアーバンツーリズムなどの新たな観光の潮流や、ニューツーリズムの勃 興により、従来は観光とは無縁であった製造業や農林水産業など、様々な分野の産業が、 観光と深い関わりを持つようになった。 26 5.観光・集客産業の経済効果 観光庁の「平成 19 年度旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」によると、わが国 における国内の旅行消費額は 23.5 兆円で、これによる直接的な経済効果は、直接の付加価 値誘発効果が 11.8 兆円、雇用誘発効果が 211 万人と推計されている。さらに、この観光消 費がもたらす間接的な効果を含めた生産波及効果は、53.1 兆円(国内生産額の 5.6%)、付 加価値誘発効果は 28.5 兆円(国内総生産(名目 GDP)の 5.5%) 、雇用誘発効果は 441 万人(全 就業者数の 6.9%)と推計されている。 図表 国内の旅行消費額 23.5 兆円の市場別内訳 資料)観光庁「平成 19 年度旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」 図表 我が国経済への貢献(経済効果) 注1)産業連関表国内生産額 949.1 兆円に対応(平成 12 年) 注2)国民経済計算における名目 GDP515.1 兆円に対応(平成 19 年度) 注3)国民経済計算における就業者数 6,425 万人に対応(平成 18 年度) 注4)国税+地方税 93.0 兆円に対応(平成 17 年度) 注5)ここで言う貢献度とは全産業に占める比率 資料)観光庁「平成 19 年度旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」 27 わが国の観光消費は、観光関連産業への直接的な経済効果だけでなく、観光関連産業の 雇用者による家計消費への刺激により、国内の幅広い産業へ生産波及効果をもたらす。 旅行消費額の関連産業への生産波及効果は、 運輸業 8.39 兆円、宿泊業 3.88 兆円が大きく、 その他の産業では、食料品産業 3.79 兆円、飲食店業 2.87 兆円、農林水産業 1.21 兆円とな っている。雇用誘発効果は、小売業 68.5 万人、農林水産業 45.9 万人と推計され、運輸業、 宿泊業のみならず、他の産業への波及効果も大きい。 図表 産業別経済効果 注)国土交通省「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究Ⅶ」による。 資料)国土交通省「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究Ⅷ」より九州経済調査協会作成 九州の観光消費額は 1.8 兆円であり、IC 生産額の 1.0 兆円を上回り、自動車製造業出荷 額の 2.1 兆円、農業産出額の 1.6 兆円に匹敵しており、九州の観光産業は大きな産業規模を 持っているといえる。 図表 九州における観光の産業規模 (兆円) 3 2.1 1.8 1.6 2 1.0 1 0 自動車製造業 出荷額 観光消費額 農業産出額 IC生産額 資料)経済産業省「平成 18 年工業統計」 、九州農政局「生産農業所得統計表(平成 18 年) 」 九州運輸局「九州観光要覧(平成 19 年度) 28 観光消費の他産業に対する生産波及効果は、九州でも見ることができる。 例えば、大分県の平成 19 年の観光消費額は 3,075 億円であるが、これに対する付加価値 誘発額が 2,709 億円、雇用誘発数が 52,514 人であった。この観光消費額による付加価値誘 発額は、平成 18 年度の大分県の電気機械の生産額(2,868 億円)とほぼ同額であり、平成 18 年度の大分県の県内総生産額(4兆 4,684 億円)の 6.1%を占める。 また、付加価値誘発額を産業別にみると、農林水産業が 62 億円、食料品製造業が 89 億 円、石油・石炭製造業が 65 億円、卸売・小売業が 359 億円、運輸・通信業が 434 億円、サ ービス業(娯楽サービス、飲食店、旅館・その他宿泊所、その他の対個人サービス等含む) が 1,184 億円ある。これらを産業別県内総生産額と比較すると、運輸・通信業で 15.7%、 石油・石炭製造業で 14.8%、サービス業で 12.6%を占めている。 図表 大分県の主要産業別付加価値誘発額と県内総生産額 農 林 水 産 業 食料品製造業 石油・石炭製造業 卸売 ・小 売業 運 輸 業 サ ー ビ ス 業 付加価値 誘発額 6,183 8,880 6,463 35,927 43,364 118,350 県内総 生産額 99,945 116,474 43,729 389,019 275,797 939,031 割合 6.19 7.62 14.78 9.24 15.72 12.60 注1)単位は百万円 注2)観光消費額による付加価値誘発額は平成 19 年のデータ、 県内総生産額は平成 18 年度のデータ 資料)大分県「旅行・観光の県内産業への経済波及効果」 大分県ホームページ サービス業 1,893億円 製造業 877億円 農林水産業 108億円 サービス業 1,184億円 運輸業 602億円 運輸業 434億円 卸売業・小売業 359億円 その他 27億円 製造業 153億円 農林水産業 62億円 付加価値誘発額 観光消費額 29 第3節 日本の観光政策 平成 15 年1月、小泉総理(当時)が施政方針演説で「2010 年に訪日外国人旅行者を倍 増の 1,000 万人に」と発言したことを契機に、わが国は政府レベルでも観光に力を入れる ようになった。平成 15 年4月から、現在まで展開されている「ビジット・ジャパン・キャ ンペーン(VJC) 」では、平成 22 年までに訪日外国人旅行者数を 1,000 万人にする」との 目標の下、国内外で様々な誘致活動を展開している。 この他、平成 16 年 11 月には、政府の観光立国推進戦略会議が「国際競争力のある観光 立国の推進」の中で、日本を観光立国にするため、 「外国人旅行者の訪日促進」など4つの 課題を明示し、訪日促進の実現に向けて、「入国手続きの簡素化、円滑化」 、 「地域の外国人 旅行者受入態勢の整備」 、 「外国人への戦略的な情報発信」の方向性を示した。平成 18 年 12 月には、昭和 38 年(1963 年)に制定された観光基本法を全面的に改正した「観光立国推 進基本法」が成立した。 また、平成 19 年6月には「観光立国推進基本計画」が閣議決定され、平成 20 年 10 月に は、観光立国を総合的・計画的に推進するための組織として「観光庁」が発足した。現在、 政府では「観光立国」の実現に向けて、各種施策を拡充しつつある。 一方、 平成 19 年の日本人海外旅行者数の 1,729 万人に対して、訪日外国人旅行者数は 835 万人にとどまり、わが国では、アウトバウンド(海外旅行に行く日本人数)と比べてイン バウンド(日本を訪れる外国人数)が少ないという状況が続いている。 九州においても、特に人口減少が進むと予測される中山間地などの地域においては、観 光集客人口の増加を図ることで、地域産業が潤い、地域経済の活性化につなげることが望 まれている。そのため、九州の各地域では、様々な取組が行われており、近年、韓国など 外国からの観光客も増加している(詳細は後述) 。 30 図表 わが国の観光立国の実現に向けての目標 訪日外国人旅行者数を平成 22 年(2010 年)までに 1,000 万人にすることを 目標とし、将来的には、日本人の海外旅行者数と同程度にすることを目指す。 【平成 18 年:733 万人 →平成 22 年:1,000 万人】 わが国における国際会議の開催件数を平成 23 年(2011 年)までに 5 割以上 増やすことを目標とし、アジアにおける最大の開催国を目指す。 【平成 17 年:168 件 →平成 23 年:5 割以上増】 日本人の国内観光旅行による1人当たりの宿泊数を平成 22 年度(2010 年度) までにもう1泊増やし、年間 4 泊にすることを目標とする。 【平成 18 年度:2.77 泊 →平成 22 年度:4.00 泊】 日本人の海外旅行者数を平成 22 年(2010 年)までに 2,000 万人にすること を目標とし、国際相互交流を拡大させる。 【平成 18 年:1,753 万人 →平成 22 年: 2,000 万人】 旅行を促す環境整備や観光産業の生産性向上による多様なサービスの提供を 通じた新たな需要の創出等を通じ、国内における観光旅行消費額を平成 22 年 度(2010 年度)までに 30 兆円にすることを目標とする。 【平成 17 年度:24.4 兆円 →平成 22 年度:30 兆円】 」 資料) 「観光立国推進基本計画(平成 19 年6月 29 日閣議決定) 31 第4節 本調査の目的 これまでみた通り、我が国は近年、観光産業振興の重要性が高まっており、国をあげて 「観光立国」に向けた取組が加速化している。今後、九州のように人口減少が進むと予測 される地域においては、国内外の観光集客人口の増加を図ることで、宿泊業、運輸業、飲 食業、小売業等の地域経済の活性化に繋げることが期待される。しかし、九州における観 光客の実態や受入態勢の状況は十分に把握されておらず、国内外からの観光集客に向けた 地域資源の活用も十分とはいえないのが実情といえる。 そこで本調査は、地域における観光客の受入れや地域資源の発掘・活用の事例分析を行 い、 「観光」を通じた地域活性化の取組の方向性を提示し、九州における地域産業の活力向 上、ひいては地域経済活性化へと寄与することを目的とする。 32 第Ⅱ章 第1節 九州における観光の動向 統計でみる観光動向 1.九州各県における観光の動向 九州の観光入込客数は微増 九州における観光入込客数の推移をみると、全体としては微増傾向にあるが、各県別で は、福岡県、鹿児島県は増加傾向であり、一方、佐賀県や長崎県では減少傾向にあるなど、 それぞれの県で差がある。 図表 平成14 【観光入込客数】 福岡 91,966 佐賀 31,660 長崎 31,580 熊本 62,093 大分 54,472 宮崎 12,386 鹿児島 46,899 県別観光入込客数の推移 (単位:千人) 19年 15 16 17 18 93,253 32,005 30,483 62,756 55,514 12,050 45,950 94,075 31,412 28,208 61,847 54,589 12,028 46,938 95,676 30,321 28,900 61,197 54,581 12,008 46,093 97,030 29,646 28,906 62,129 54,753 * 12,163 47,819 99,244 30,380 29,386 62,647 12,345 49,665 計 331,056 331,703 329,097 328,776 332,446 283,667 【平成14年=100とした指数】 福岡 100 101 102 104 106 108 佐賀 100 101 99 96 94 96 長崎 100 97 89 92 92 93 熊本 100 101 100 99 100 101 大分 100 102 100 100 101 宮崎 100 97 97 97 98 100 鹿児島 100 98 100 98 102 106 計 100 100 99 99 100 注)原資料は各県観光主管課。各県の調査手法は異なるため、他県との比較は適切ではない。 各県の時系列の動きを比較することは可能。 宮崎県の数値は観光客実数である。鹿児島県の数値は宿泊及び日帰り延人員の合計である。 *大分県については平成 19 年より統計廃止 資料)九州運輸局「九州観光要覧」 (平成 19 年度版)と九州運輸局提供資料より作成 33 観光入込客数とは必ずしも合致しない観光消費額 観光消費額の推移を見ると、観光入込客数でも高い伸びを示していた福岡は高い伸びを 示しているが、同様に客数で比較的高い伸びを示していた鹿児島は微増である。入込客数 が微増であった熊本や大分は、大分は消費額でも微増だったが、熊本は他県と比べても減 少幅が大きい。 図表 平成14 【観光消費額】 福岡 376,191 佐賀 99,039 長崎 281,937 熊本 303,220 大分 264,600 宮崎 92,971 鹿児島 423,800 計 1,841,758 県別観光消費額の推移 15 16 17 (単位:百万円) 18年 390,976 99,405 265,470 294,895 266,100 87,967 431,800 1,836,613 426,663 93,158 248,693 269,828 263,570 87,529 450,700 1,862,828 424,475 93,117 248,577 264,545 263,855 86,991 443,600 1,825,160 438,967 97,181 254,059 264,711 267,839 89,572 437,700 1,850,029 【平成14年=100とした指数】 福岡 100 104 113 113 117 佐賀 100 100 94 94 98 長崎 100 94 88 88 90 熊本 100 97 89 87 87 大分 100 101 100 100 101 宮崎 100 95 94 94 96 鹿児島 100 102 106 105 103 計 100 100 101 99 100 注)原資料は各県観光主管課。各県の統計手法は異なるため、他県との比較は適切ではない。 資料)九州運輸局「九州観光要覧」 (平成 19 年度版) 34 地方ブロックとしては多いものの、まだまだ少ない外国人宿泊客 九州の宿泊者数は 3,187.6 万人(平成 20 年)で、全国比は 10.4%であった。このうち外 国人は 184.5 万人である。 日本を訪れる外国人宿泊客の 45.0%が関東での宿泊で、近畿の 19.2%と合わせると、6 割以上が関東と近畿に集中している。これはおそらく東京への観光客とビジネス客、京都 への観光客が目立っていることが要因と思われる。九州は地方ブロックでは外国人宿泊客 の数は北海道と並んで多いものの、全国比では 8.3%であり、総宿泊者数の 10.4%よりも低 い水準となっている。 九州各県の宿泊者数は、福岡が最も多く、以下、熊本、鹿児島、大分、長崎と続く。外 国人客数でも、福岡が最も多いが、長崎や熊本、大分も多い。一方、宮崎、鹿児島といっ た南九州では、外国人宿泊客の数はまだ多くない。 月別の宿泊者数の構成比を見ると、北海道は季節変動が大きいが、九州は全国とほぼ同 様の推移を示している。 図表 全国ブロック別宿泊者数(平成 20 年) (単位:千人、%) 延べ宿泊者数 全国比 うち外国人 全国比 北 海 道 24,571 8.0 2,134 9.6 東 北 27,239 8.9 507 2.3 関 東 81,618 26.7 10,017 45.0 中 部 63,842 20.9 2,702 12.1 近 畿 41,307 13.5 4,275 19.2 中 国 15,599 5.1 366 1.6 四 国 7,835 2.6 119 0.5 九 州 31,876 10.4 1,845 8.3 沖 縄 12,259 4.0 309 1.4 全 国 計 306,148 100.0 22,275 100.0 資料)国土交通省「宿泊旅行統計」 図表 九州各県の宿泊者数(平成 20 年) (単位:人、%) 延べ宿泊者数 九州内比 うち外国人 九州内比 福岡県 8,086,670 25.4 512,200 27.8 佐賀県 2,121,680 6.7 45,490 2.5 長崎県 4,322,380 13.6 410,070 22.2 熊本県 5,188,460 16.3 364,100 19.7 大分県 4,562,970 14.3 315,270 17.1 宮崎県 2,609,680 8.2 79,490 4.3 鹿児島県 4,984,580 15.6 118,270 6.4 九州計 31,876,420 100.0 1,844,890 100.0 注)確定値発表(平成 21 年6月)前の数値であるため注意が必要 資料)国土交通省「宿泊旅行統計」 35 図表 (%) 月別宿泊者数構成比(平成 20 年) 北海道 九州 沖縄 全国 12.0 11.0 北海道 沖縄 10.0 九州 9.0 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 資料)国土交通省「宿泊旅行統計」 36 7月 8月 9月 10月 11月 12月 2.九州における入国外国人の動向 平成 19 年の入国外国人数は 92.7 万人 九州への入国外国人数は年々増加傾向にある。平成 10 年にアジア通貨危機によって落ち 込むものの、すぐに回復基調となり、右肩上がりの増加を続けている。平成 16 年に 50 万 人を突破すると、その後は加速度的に増加し、平成 19 年には 92.7 万人に達した。 平成 20 年は世界的な不況、韓国の急激なウォン安などの要因により一時的に減少するこ とが懸念されるが、長期的には入国外国人数は増加傾向にあると考えられる。 図表 (千人) 九州7県の入国外国人数の推移 入国外国人数 1,000 全国シェア 900 10.1 10.0 800 8.0 700 600 7.2 8.0 6.3 6.0 500 381 400 298 300 (%) 927 12.0 4.0 222 200 2.0 100 0.0 0 (単位:人、%) 全国 全国 九州 シェア 昭和50 780,298 22,357 2.9 55 1,295,866 79,648 6.1 60 2,259,894 125,695 5.6 平成2 3,504,470 221,821 6.3 7 3,732,450 297,878 8.0 8 4,244,529 363,178 8.6 9 4,669,514 404,934 8.7 10 4,556,845 329,101 7.2 11 4,901,317 343,187 7.0 12 5,272,095 381,187 7.2 13 5,286,310 393,860 7.5 14 5,771,975 443,014 7.7 15 5,727,240 455,158 7.9 16 6,756,830 564,026 8.3 17 7,450,103 631,389 8.5 18 8,107,963 791,144 9.8 19年 9,152,186 927,037 10.1 資料)法務省「出入国管理統計年報」 37 福岡が訪日外客の訪問率でベスト 10 入り 訪日外客の都道府県別の訪問率を見ると、トップは東京(57.4%)で、2位の大阪(23.7%) を引き離している。上位は三大都市圏の都府県が占めているが、7位には福岡が入ってお り、地方圏では最も多くの外国人客が訪問している。九州はアジアへの地理的近接性とい った地の利があり、これが高い訪問率につながっていると言われている。 図表 順位 1 2 訪日外客都道府県訪問率(平成 18 年度) 都道府県名 東京 大阪 訪問地 訪問率(%) 57.4 23.7 大阪 21.4 泉佐野(関西国際空港) 1.1 3 京都 20.3 京都 20.1 4 神奈川 18.8 横浜 9.7 箱根 7.5 5 千葉 16.7 東京ディズニーランド 8.2 成田 6.5 6 愛知 9.6 名古屋 8.5 7 福岡 8.7 福岡 8.4 太宰府 1.1 北九州 0.5 8 兵庫 7.4 神戸 5.6 姫路 1.8 9 山梨 6.6 富士山 4.6 10 北海道 6.4 札幌・定山渓 5.3 小樽 2.5 函館 1.1 12 長崎 4.3 長崎 2.7 ハウステンボス 2.1 14 大分 4.0 別府 3.1 湯布院 1.2 17 熊本 3.6 阿蘇山 2.6 熊本 2.4 27 鹿児島 1.1 鹿児島 1.0 36 佐賀 0.5 36 宮崎 0.5 参考 九州計 22.7 資料)JNTO,ITCJ「JNTO 訪日外客実態調査 2006-2007 訪問地調査編」 38 図表 福岡中心のアジア同心円地図 資料)九州経済調査協会作成 図表 100% 90% 80% 訪日外客の国籍(平成 19 年) 2.0 3.1 6.6 0.7 4.5 10.3 7.1 その他 11.5 ヨーロッパ 14.6 北アメリカ 12.5 他のアジア 15.6 中 国 11.3 70% 60% 50% 40% 30% 69.1 台 湾 20% 31.1 10% 韓 国 0% 九州 全国 資料)法務省「出入国管理統計年報」 39 年々増加する韓国の入国者数 九州7県に対する入国外国人をみると、平成 10 年以降、韓国の入国者数は増加し続けて いる。その一方、かつて韓国とほぼ同数であった台湾は、観光客の北海道への流出などに より、伸び悩んでいる。中国については、入国者数の絶対数はまだ少ないが、着実に増加 し続けている。米国は2万人弱、英国は1万人弱にとどまっている。 図表 九州7県に対する入国外国人の推移 (万人) 100 90 80 アメリカ イギリス その他 70 60 50 韓国 40 30 20 香港 台湾 10 中国 0 平成9 10 11 12 13 14 資料)法務省「出入国管理統計年報」 40 15 16 17 18 19年 3.韓国人客の日本・九州への訪問動向 韓国の海外渡航者数は、平成 19 年まで急増傾向 韓国の海外渡航者数は、アジア通貨危機の影響で平成 10 年に落ち込んだものの、その後 は順調に伸び、平成 19 年には 1,332 万人に達している。推計人口に対する海外渡航者数の 比率は、平成 19 年に 27.5%と日本よりかなり高い。 韓国経済は、平成9年のアジア通貨危機以降急回復を遂げ、平成 19 年に1人当たり GDP は約2万ドルに達している。また、韓国ウォンの対ドルレートも、平成 19 年まではほぼ一 貫して高まり、平成 18 年以降1ドル=1,000 ウォンを上回っている。 図表 (万人) 2,200 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 韓国の海外渡航者数の推移 出国者数 (%) 推計人口比 27.5 30.0 25.0 1,332 20.0 1,161 883 608 712 1,008 15.0 709 10.0 551 454 434 5.0 307 0.0 平成9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19年 資料)韓国法務部、韓国統計庁 図表 韓国の経済動向 為替レート (対ドルレート) 期末値 単位 (%) (ドル) (ウォン) 平成10 △ 6.9 7,528 1,204 11 9.5 9,558 1,138 12 8.5 10,891 1,265 13 3.8 10,177 1,314 14 7.0 11,504 1,186 15 3.1 12,711 1,193 16 4.7 14,181 1,035 17 4.2 16,444 1,012 18 5.1 18,395 930 19 5.0 19,751 936 資料)ジェトロ海外情報ファイル「韓国:基礎的経済指標」 実質GDP 成長率 1人あたりの GDP(名目) 41 近年急増する韓国人客 九州への入国韓国人の数は、アジア通貨危機の影響があった平成 10 年に一時的に落ち込 むものの、右肩上がりで増えている。とくに平成 12 年以降の伸びは著しく、平成 19 年に は 74.1 万人にまで達した。 韓国人客の入国港(空港)を見ると、長きにわたって福岡空港が九州最大の玄関口とし ての機能を果たしてきたが、航路(なかでも高速船)の拡充に伴って平成 16 年に博多港が 逆転している。特徴的なのは対馬の港(厳原、比田勝)で約9%を占めていることで、釜 山から最も近い外国として対馬を訪れる客が増えている。 韓国からの観光客の増加は高速船の輸送人員の推移にも現れていて、これまで日韓航路 (高速船)の利用者数は日本人>韓国人であったものが、韓国人>日本人に逆転している。 図表 九州・山口の入国韓国人数の推移 (千人) 800 741 26.0 700 25.0 600 500 (%) 30.0 全国比 20.0 15.6 400 15.0 300 10.0 11.7 200 九州・山口への 入国韓国人数 100 5.0 0.0 0 昭和45 50 55 60 平成2 7 12 17 資料)法務省「出入国管理統計年報」 図表 九州・山口の主要港別の入国韓国人数(平成 19 年) その他 0.1% 他の5空港 8.8% 対馬の港 8.9% 下関港 13.5% 博多港 37.5% 福岡空港 31.1% 資料)法務省「出入国管理統計年報」 42 図表 九州・山口の主要港別の入国韓国人数の推移 (千人) 300 博多港 250 200 福岡空港 150 下関港 100 他の5空港 対馬の港 50 0 昭和45 昭和45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 福岡 (空港) 7,228 5,206 4,709 7,965 10,406 11,202 11,503 14,030 18,342 24,395 26,510 29,300 30,777 25,274 23,287 23,289 23,519 27,074 38,166 68,483 87,269 111,354 115,594 113,047 118,456 112,509 127,923 131,866 75,430 100,628 107,492 104,444 107,964 112,423 122,223 127,626 182,183 230,700 50 博多 55 厳原 60 平成2 比田勝 長崎 (空港) 7 12 熊本 (空港) 17 大分 (空港) 宮崎 (空港) 1 1 1 3 1 1 1 2 4 8 2 1 15 11 37 22 849 845 2,199 3,504 9,547 10,539 14,918 18,404 20,601 31,644 33,518 15,456 38,938 58,527 74,287 91,724 109,762 136,032 170,234 230,596 277,949 4 14 21 11 174 760 786 1,295 504 403 7 97 15 1,646 7,659 6,258 6,940 7,983 9,747 23,012 27,334 40,506 13 49 145 571 423 307 189 404 369 263 473 583 2,073 3,619 7,742 11,308 13,756 15,133 25,244 1 1 3 2 22 3 3 4 13 10 21 8 10 101 2,331 3,078 5,071 4,964 3,679 4,059 3,533 5,398 3,160 474 2,021 3,959 4,339 7,394 10,243 11,373 12,525 11,630 9,433 9 48 132 182 186 139 184 188 116 138 620 858 656 2,037 3,691 2,583 3,285 4,589 4,782 2,066 2 2 8 4 546 2,480 7,860 10,078 11,872 12,895 資料)法務省「出入国管理統計年報」 43 4 41 6 15 32 11 3 9 15 9 547 4,349 7,252 8,624 5,641 7,140 3,491 2,932 4,091 4,413 5,991 8,244 14,069 11,176 7,452 11,277 12,889 3 3 3 17 4 16 8 222 85 728 880 2,476 5,226 9,193 16,370 9,795 12,554 14,700 鹿児島 (空港) 1 16 3 2 3 8 5 6 30 12 25 10 12 44 7 20 45 55 5 16 1,571 3,403 3,813 4,086 5,846 4,325 7,752 7,034 2,775 5,389 7,228 6,877 8,476 9,233 9,813 9,150 13,674 15,583 下関 3,521 6,491 8,246 10,762 9,151 8,020 10,634 11,610 15,390 8,836 10,691 14,593 16,500 15,979 18,343 15,996 11,751 15,443 20,672 31,206 40,607 37,063 34,955 20,478 34,753 28,026 34,445 37,315 29,255 45,485 57,228 60,325 60,061 62,345 61,296 68,006 83,330 100,406 北部九州に集中する韓国人客 九州への入国韓国人の訪問先は、北部九州に集中する傾向にあり、現時点では南九州へ の環流は少ない。一般的な韓国人客の九州観光は3泊4日、短期の場合は2泊3日の行程 で、福岡、別府・由布院、黒川・阿蘇・熊本、ハウステンボスなどを訪問するものが多い。 図表 ハナツアー本社日本事業部の地域別送客実績(平成 19 年) (単位:人、%) 送客人数 構成比 50,792 24.3 九州 関西 34,400 16.4 関東 32,629 15.6 18,424 8.8 地 道南 道東 5,015 2.4 域 南九州 3,956 1.9 別 東北 3,700 1.8 商 北陸 3,519 1.7 品 沖縄 2,913 1.4 四国 2,723 1.3 南紀 1,474 0.7 米子 174 0.1 日本一周 18,395 8.8 地 8,389 4.0 な 域 ホテル 交通パス 2,550 1.2 い区 法人旅行-本州 8,204 3.9 商分 法人旅行-船舶 7,514 3.6 品で 法人旅行-九州 2,608 1.2 き 法人旅行-北海道 1,974 0.9 予約合計 209,353 100.0 注)嶺南事業部(釜山地域)を除く 資料)ハナツアー提供資料 図表 韓国旅客の九州における一般的な観光ルート 資料)韓国でのヒアリングにより九州経済調査協会作成 44 個人旅行(FIT)での日本への渡航者は、今後増える可能性も 平成 19 年の韓国人海外渡航者へのアンケートによると、日本への旅行は、56.4%が個人 旅行、10.1%が往復の交通手段や宿泊のみ出国前に予約する部分パッケージ旅行であり、他 の国と比較して、すでに個人旅行(FIT)の比率が高い。 図表 個人旅行 韓国人の海外旅行形態 部分パッケージ旅行(自由旅行) 日 本 全体パッケージ旅行 33.5 10.1 56.4 3.1 中 国 46.7 50.2 3.2 アメリカ 13.4 83.4 全 体 0% 20% 46.6 4.4 48.9 40% 60% 80% 100% 注)韓国人の海外渡航者へのアンケート(平成 19 年) 資料)韓国観光公社(釜山発展研究院提供資料) 図表 韓国人の海外旅行形態(平成 19 年 12 月) (単位:%) オースト 全体平均 日本 中国 アメリカ タイ ラリア 旅行社でパッケージ購入 37.5 24.5 44.1 15.2 61.2 35.0 旅行社、航空社の自由旅行商品 23.0 32.3 18.1 23.5 10.1 20.0 旅行社で一部を注文 9.7 10.0 11.0 13.6 8.4 8.1 インターネットで航空と宿泊を予約 22.0 24.3 13.5 32.6 18.3 30.0 その他 7.9 8.9 13.2 15.2 1.9 6.9 旅行経験人数(人) 707 408 132 415 160 注)平成 19 年 12 月実施のインターネット調査。19 歳以上の男女 4,364 人が回答。うち海外旅行経験者 3,187 人 資料)韓国旅行新聞社 45 九州は、温泉イメージが定着 「観光地訪問」と「ショッピング」が高く 80%台である。 韓国人の日本での主要活動は、 そして、3番目の理由として「温泉」が 46.0%と高い。 韓国旅行新聞社のインターネットアンケート調査(平成 19 年 12 月、回答者 4,364 人) では、日本への観光目的は、1位が観光(45%) 、2位がスパ・温泉(19%)である。 韓国の旅行会社によると、東京や大阪はショッピング目的が多いが、温泉といえば「九 州」というイメージが定着、温泉目的では、九州が圧倒的に多いという。 図表 韓国人の日本での主要活動(平成 19 年) 出国者 全 体 77.9 74.0 26.0 (単位:%) 日本への 渡航者 84.7 81.0 16.5 観光地訪問 ショッピング 業務遂行 公演/民俗行事/ 19.8 祭り参加及び観覧 グルメ 13.6 22.5 温泉 13.5 46.0 美容/肌管理/マッサージ 12.1 研修/教育/研究 6.8 ミーティング/会議/学術 3.3 大会/博覧会参加 注)韓国人の海外渡航者へのアンケート(平成 19 年) 、複数回答 資料)韓国観光公社(釜山発展研究院提供資料) 図表 契機、背景 ブーム 訪日旅行の イメージ 九州への旅行 のイメージ 韓国人の日本への旅行ニーズの変化 平成元年∼9年 平成元年、海外渡航の完全自由化 海外旅行ブーム 安心・安全・清潔で初心者向き。安価で 手軽な旅行先。 著名観光地やテーマパークの周遊。高価、 最先端の家電製品の買い出し。 東京、大阪に次ぐ第3の目的地。 別府、阿蘇、HTB。 資料)ソウルでのヒアリングをもとに作成 46 平成 10 年∼現在 平成 10 年、アジア通貨危機 well-being ブーム 安心・安全・清潔で初心者向き。安価で 手軽な旅行先。 温泉、日本料理、文化に触れる旅。 個人旅行は少々高くても高質な旅。 東京、大阪に次ぐ第3の目的地。船の利 用が増加。 「九州」としてのイメージ浸透。身近で 安価な海外。日本で最も温泉が充実した 地域。自然の中の温泉。家族旅行に最適。 別府、阿蘇、HTBに加え、由布院温泉、 黒川温泉が人気に。 図表 韓国の地域別に見た九州旅行者の中心的な客層 地域 ソウル首都圏 特色 ・ 年齢層の偏りは少ないが、20∼30 代が最も多い。 ・ FIT(個人旅行、部分パッケージ旅行)が増加。 ・ 航空機利用が中心(KTX+高速船は、まだ少ない) 。 ・ 若者は東京、大阪志向が強く、あらかじめ訪問する店を決めて訪日。高齢 者はソウルに類似する東京、大阪より九州の温泉を志向。 南 部 地 域 ( 釜山 都 市 ・ 若者が中心。 圏) ・ FIT(個人旅行、部分パッケージ旅行)が増加。 ・ 高速船やフェリー利用が中心。 地方圏 ・ 40 代以上の中高年が中心。 ・ 全体パッケージ旅行が中心。 ・ 航空機利用が中心。安価なツアーではフェリーを利用。 ・ 冬場の農閑期が中心。まちづくり視察ツアーも多い。 資料)ソウルでのヒアリングをもとに作成 図表 行き先 主な目的 事前情報 事前予約 宿泊 域内の移動 韓国人の個人旅行(FIT) 、東京・大阪と九州との違い 東京・大阪 ・ 自分の趣味にあった店やイベント を楽しむ ・ ネットや口コミ ・ 往復の交通手段やホテルなど、全 てを自ら予約する個人旅行 ・ ホテル ・ 地下鉄など公共交通 行動パターン ・ 同一ホテルに連泊し、店やイベン ト、観光ポイントを訪問 資料)ソウルでのヒアリングをもとに作成 47 ・ 九州 温泉や自然を楽しむ ・ ネットや口コミ ・ 往復の交通手段と宿泊は旅行会社で購入 する部分パッケージ旅行 ・ ホテルより旅館志向が強い。 ・ KRP(九州レールパス) 、SUNQパス。 レンタカー利用も増加 ・ 観光しながら周遊。最近では連泊も増加。 最近は湯布院、黒川が人気。 4.中国人客の日本・九州への来訪行動 増加を続ける中国の出国者・外国旅行者 中国の出国者総数(渡航先として香港とマカオを除く)は平成 13 年の 500 万人から平成 17 年の 900 万人へと、わずか4年間で 1.8 倍に急増している。 渡航先としては、タイやベトナム、シンガポールといった東南アジアが中心だが、日本 へのアウトバウンドも増加傾向にある。 図表 中国の出国者総数、主要渡航先、出国率 平成13年 順位 渡航先 1位 平成17年 旅行者数(人) 順位 渡航先 タイ 694,886 1位 シンガポール 旅行者数(人) 2位 ベトナム 672,846 2位 ロシア 798,661 3位 シンガポール 497,398 3位 タイ 761,904 857,814 4位 韓国 482,227 4位 ベトナム 752,576 5位 ロシア 461,175 5位 韓国 709,836 6位 マレーシア 453,246 6位 日本 652,820 7位 日本 391,384 7位 ドイツ 418,235 8位 ドイツ 237,183 8位 マレーシア 352,089 9位 米国 232,416 9位 オーストラリア 284,957 10位 オーストラリア 157,955 10位 米国 270,272 出国者総数 5,012,219 出国者総数 9,021,700 出国率(%) 0.4 出国率(%) 0.7 注1)渡航先欄に記載された旅行者数は、受入国の統計による。 注2)出国者総数は、送出国の統計による。 注3)上記の主要渡航先には、香港およびマカオが含まれていない。 注4) 香港が発表した中国 (大陸) からの到着者数 (日帰り客を含む) は、 平成 13 年 4,448,583 人、平成 17 年 12,541,400 人。マカオが発表した中国(大陸)からの到着者数(日帰り客 を含む)は、平成 13 年 1,076,439 人、平成 17 年 2,369,738 人。 資料)JNTO「JNTO 訪日旅行誘致ハンドブック 2007/2008」 (初出:世界観公機関(UNWTO)、 国際観光振興機構(JNTO)) 図表 中国人外国旅行目的地(参考) 平成16年 渡航先順位 平成17年 旅行者数(人) 渡航先順位 平成18年 旅行者数(人) 渡航先順位 旅行者数(人) 1位 香港 13,001,635 1位 香港 13,525,400 1位 香港 14,330,000 2位 マカオ 7,490,491 2位 マカオ 8,479,200 2位 マカオ 9,890,000 3位 日本 1,021,325 3位 日本 1,117,000 3位 日本 1,280,000 4位 ロシア 809,606 4位 ベトナム 845,000 4位 韓国 1,098,000 5位 ベトナム 785,682 5位 韓国 843,300 5位 タイ 770,000 6位 韓国 697,023 6位 ロシア 770,500 6位 ロシア 720,000 7位 タイ 682,475 7位 タイ 595,500 7位 米国 638,000 8位 米国 443,874 8位 米国 532,000 8位 シンガポール 560,000 9位 シンガポール 429,258 9位 シンガポール 477,200 9位 ベトナム 507,000 10位 北朝鮮 295,738 10位 マレーシア 354,700 10位 マレーシア 出国者総数 28,852,850 出国者総数 31,026,300 出国者総数 440,000 34,523,600 注)日本への旅行者数は、日本側の国際観光振興機構(JNTO)の統計との乖離が大きいが、中国は出国カー ドに基づく統計で、日本経由で米国に行く場合も日本として計上されるため。 資料)JNTO「JNTO 訪日旅行誘致ハンドブック 2007/2008」 (初出:中国国家旅遊局) 48 100 万人に迫る中国人訪日客 独立行政法人 国際観光振興機構(日本政府観光局;JNTO)の統計によると、中国の訪 日客は増加を続けている。平成 10 年には 26.7 万人であったが、平成 19 年には 94.3 万人 となった。平成 17 年における中国の出国者の行き先別では、日本は第6位であり、全体の 7%程度を占めている。 また、中国の訪日目的は、観光客が4割弱、ビジネスが2割強、その他が4割弱となっ ている。 図表 中国人訪日客の推移 (千人) 1,000 943 900 812 800 700 616 653 16 17 600 500 391 400 267 295 352 11 12 452 449 300 200 100 0 平成10 13 14 15 18 資料)JNTO「JNTO 訪日旅行誘致ハンドブック 2007/2008」 図表 訪日客の目的(平成 18 年) 一時上陸客 3.2% その他客 36.5% 観光客 36.6% 商用客 23.7% 資料)JNTO「JNTO 訪日旅行誘致ハンドブック 2007/2008」 49 19年 現状では少ないながらも期待される市場の成長性 九州への入国中国人の数は、韓国人に比べるとまだまだ少なく、平成 19 年で 7.1 万人に とどまっている。しかし、傾向としては右肩上がりで増えており、今後の経済成長や海外 渡航に関する規制が緩和されれば、10 億人以上の巨大な市場が動くことになり、大きな期 待が寄せられている。 図表 中国人の九州・山口への入国者数の推移 (%) (千人) 九州・山口 80 8.1 70 全国比 10.0 68 8.1 46 50 40 34 4.3 20 10 9.0 8.0 60 30 71 13 5 16 17 19 18 20 20 22 26 6.2 50 7.0 6.0 5.0 34 28 4.0 3.0 2.0 8 1.0 0.0 0 平成2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 (単位:人、%) 全国 九州・山口 全国比 平成2 117,814 5,067 4.3 3 142,150 8,088 5.7 4 187,681 13,312 7.1 5 204,302 15,733 7.7 6 210,476 17,113 8.1 7 229,965 18,545 8.1 8 257,393 18,358 7.1 9 283,467 20,294 7.2 10 299,573 20,232 6.8 11 327,005 22,052 6.7 12 385,296 25,706 6.7 13 444,441 28,149 6.3 14 527,796 33,792 6.4 15 537,700 33,592 6.2 16 741,659 45,878 6.2 17 780,924 49,925 6.4 18 980,424 67,587 6.9 19 1,140,419 70,932 6.2 資料)法務省「出入国管理統計年報」 50 17 18 19年 図表 中国人の九州・山口への入国者数の推移 (単位:人、%) 入 国 者 数 増 加 率 構 成 比 平成2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19年 7/2年 12/7年 19/12年 平成2年 平成12年 平成19年 福岡 空港 3,511 6,037 11,250 14,057 15,497 17,165 16,682 18,455 18,353 20,060 23,084 24,988 29,606 29,066 38,381 42,084 46,696 47,911 388.9 34.5 107.6 69.3 89.8 67.5 長崎 空港 962 1,496 1,701 1,387 1,335 1,064 1,046 1,342 1,173 1,016 1,408 1,509 1,501 1,075 1,830 1,822 2,595 1,862 10.6 32.3 32.2 19.0 5.5 2.6 鹿児島 空港 23 40 122 76 82 91 53 123 116 226 184 194 412 906 1,117 1,836 1,787 1,858 295.7 102.2 909.8 0.5 0.7 2.6 他の 空港 空港計 1 4 8 6 7 5 11 7 7 41 33 255 380 368 1,565 1,153 2,994 2,871 400.0 560.0 8,600.0 0.0 0.1 4.0 4,497 7,577 13,081 15,526 16,921 18,325 17,792 19,927 19,649 21,343 24,709 26,946 31,899 31,415 42,893 46,895 54,072 54,502 307.5 34.8 120.6 88.8 96.1 76.8 下関港 長崎港 38 496 63 413 31 179 93 98 59 104 35 144 257 256 189 58 419 4 565 4 688 5 976 6 1,479 2 1,661 3 2,311 25 2,422 63 2,976 10,049 4,803 9,192 △ 7.9 △ 71.0 1,865.7 △ 96.5 598.1 183,740.0 0.7 9.8 2.7 0.0 6.8 13.0 博多港 0 29 13 11 22 38 52 103 108 136 271 220 399 493 625 544 480 534 − 613.2 97.0 0.0 1.1 0.8 他の 港湾 36 6 8 5 7 3 1 17 52 4 33 1 13 20 24 1 10 1,901 △ 91.7 1,000.0 5,660.6 0.7 0.1 2.7 港湾計 570 511 231 207 192 220 566 367 583 709 997 1,203 1,893 2,177 2,985 3,030 13,515 16,430 △ 61.4 353.2 1,547.9 11.2 3.9 23.2 九州・ 山口計 5,067 8,088 13,312 15,733 17,113 18,545 18,358 20,294 20,232 22,052 25,706 28,149 33,792 33,592 45,878 49,925 67,587 70,932 266.0 38.6 175.9 100.0 100.0 100.0 資料)法務省「出入国管理統計年報」 今後の成長が見込まれるクルーズ客 九州を訪れる中国人で最近目立つのはクルーズ船による訪問客である。欧米ではクルー ズ船による海外渡航はポピュラーであるが、最近ではアジアにおいてもその動きが活発に なりつつある。 平成 20 年に博多港へ寄港したクルーズ船の数は 35 であった。そのうち 29 が外航クルー ズ船であった。 図表 北米 欧州 東南アジア 日本 世界計 世界のクルーズ人口 (単位:万人) H13年の H13年時の H19年の H13∼19年 実績 H22年の予測 実績 増加率(%) 700 1,230 1,071 53.0 140 350 518 270.0 80 120 125 56.3 20 20 21 5.0 1,000 1,550 1,786 78.6 資料)2008 韓・日海峡沿岸クルーズ観光討論会(H20.10.22)池田良穂基調講演資料より作成 51 図表 平成 20 年の博多港へのクルーズ船寄港状況 着岸日時 離岸日時 船名 喫水 前港 次港 1 にっぽん丸 3/13 8:00 3/13 12:00 6.56 神戸 宮之浦 2 にっぽん丸 3/15 13:00 3/15 17:00 6.56 宮之浦 神戸 3 RHAPSODY OF THE SEAS 外航 4/5 8:00 4/5 22:00 7.6 Shanghai Pusan 4 RHAPSODY OF THE SEAS 外航 4/11 8:00 4/11 21:00 7.6 長崎 Cheju 5 RHAPSODY OF THE SEAS 外航 4/15 8:00 4/15 22:00 7.6 Shanghai Pusan 6 RHAPSODY OF THE SEAS 外航 4/20 8:00 4/20 22:00 7.6 Shanghai Pusan 7 RHAPSODY OF THE SEAS 外航 4/27 10:00 4/27 20:00 7.6 神戸 Pusan 8 RHAPSODY OF THE SEAS 外航 5/4 14:00 5/4 22:00 7.6 神戸 Pusan 9 PANSTAR HONEY 外航 6/10 7:00 6/10 18:00 5.7 Pusan 長崎 10 PANSTAR HONEY 外航 6/20 7:00 6/20 18:00 5.7 Pusan 松山 11 COSTA ALLEGRA 外航 7/9 7:00 7/9 18:00 8.2 Cheju 鹿児島 12 COSTA ALLEGRA 外航 7/15 7:15 7/15 18:00 8.2 Cheju 鹿児島 13 COSTA ALLEGRA 外航 7/21 7:15 7/21 18:00 8.2 Cheju 鹿児島 14 COSTA ALLEGRA 外航 7/27 7:15 7/27 18:00 8.2 Cheju 鹿児島 15 COSTA ALLEGRA 外航 8/2 7:15 8/2 19:00 8.2 Cheju 鹿児島 16 COSTA ALLEGRA 外航 8/7 7:15 8/7 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 17 COSTA ALLEGRA 外航 8/12 7:15 8/12 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 18 COSTA ALLEGRA 外航 8/18 10:30 8/18 20:00 8.2 鹿児島 Cheju 19 COSTA ALLEGRA 外航 8/22 7:15 8/22 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 20 COSTA ALLEGRA 外航 9/1 10:30 9/1 20:00 8.2 鹿児島 Cheju 21 COSTA ALLEGRA 外航 9/5 7:15 9/5 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 22 COSTA ALLEGRA 外航 9/14 7:15 9/14 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 23 COSTA ALLEGRA(臨時) 外航 9/19 7:15 9/19 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 24 COSTA ALLEGRA 外航 9/23 7:15 9/23 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 25 COSTA ALLEGRA 外航 9/28 7:15 9/28 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 26 COSTA ALLEGRA 外航 10/3 7:15 10/3 20:00 8.2 Cheju 長崎 27 COSTA ALLEGRA 外航 10/9 7:15 10/9 19:30 8.2 Cheju 鹿児島 28 飛鳥II 10/12 8:00 10/12 11:00 7.8 鳥取・島根 鳥取・島根 29 飛鳥II 10/20 9:00 10/20 17:00 7.8 鳥取・島根 鳥取・島根 30 飛鳥II 10/22 14:00 10/22 17:00 7.8 鳥取・島根 鹿児島 31 飛鳥II 外航 11/3 7:00 11/3 12:00 7.8 長崎 Shanghai 32 飛鳥II 外航 11/7 14:00 11/7 18:00 7.8 Shanghai 広島 33 ぱしふぃっくびいなす 外航 11/27 10:00 11/27 16:00 6.52 Pusan 宮之浦 34 ぱしふぃっくびいなす 11/30 16:00 11/30 18:00 6.52 宮之浦 兵庫県相生 35 ふじ丸 外航 12/2 7:00 12/2 16:00 6.56 Pusan 大分 注)クルーズ船の概要 RHAPSODY OF THE SEAS (中国 総トン数:78,491 トン 全長:278.94m 定員:2,435 人) COSTA ALLEGRA (中国 総トン数:28,597 トン 全長:187.69m 定員:1,072 人) PANSTAR HONEY (韓国 総トン数:14,057 トン 全長:136.60m 定員:514 人) にっぽん丸 (日本 総トン数:21,903 トン 全長:166.65m 定員:532 人) 飛鳥 II (日本 総トン数:50,142 トン 全長:240.90m 定員:872 人) ぱしふぃっくびいなす (日本 総トン数:26,561 トン 全長:183.40m 定員:644 人) ふじ丸 (日本 総トン数:23,235 トン 全長:167.00m 定員:600 人) 資料)博多港港湾局 HP より作成 52 リピーターとして確保することが課題 観光目的の訪問者の訪日回数は、全体的には「初回」と「2回目以上」がほぼ同数であ る。しかし、中国については、これまでの海外渡航の制限もあって、訪日を初めてとする 観光客が圧倒的に多い。訪日した旅行客の評価や口コミが、今後の旅行客の動向に大きく 影響することを考慮すると、今後は、全国および九州に対して「初めて訪問した人」の満 足度を高めて、リピーターとして確保するための支援策、受け皿づくりが必要になる。 図表 訪日回数(観光目的の訪問者のみ) (平成 18 年度) 全国(n=5,948) 韓国(n=1,595) 0.6 68.5 30.9 中国( n=339) 1.7 75.0 23.2 米国(n=493) 英国(n=199) 15.1 80.9 10% 20% 30% 初回 8.1 27.8 64.1 0% 2.1 13.6 84.4 香港(n=577) 1.0 44.8 54.2 台湾(n=1,732) 2.3 47.5 50.1 40% 50% 2回目以上 60% 70% 不明 資料)JNTO,ITCJ「JNTO 訪日外客実態調査 2006-2007 訪問地調査編」 53 80% 90% 4.0 100% 5.日本を訪問する韓国人や中国人の活動や満足度 (1)訪日旅行に関する支出の状況 韓国・中国は平均を下回る消費 訪日旅行をする外国人の、自国内および日本国内における支出額は、1人1日当たり約 32,000 円である。韓国人は 25,000 円程度、中国人は 28,000 円程度であり、平均値よりも 低い結果となった。 なお、福岡空港・博多港で入国・出国した訪日旅行をする外国人については、訪問地が 福岡県のみの場合は 26,990 円、訪問地が九州のみの場合は 24,236 円となっており、とも に平均値よりも低くなっている。 図表 訪日客の1日あたりの1人平均消費額(平成 17 年) サンプル数 全体 韓国 台湾 中国 香港 タイ シンガポール 豪州 英国 ドイツ フランス 米国 カナダ その他 6,034 1,701 1,059 717 172 48 103 92 366 154 111 757 64 690 平均支出総額 (円) 31,911 25,301 28,908 28,058 29,536 17,364 32,397 43,541 39,444 38,812 28,379 44,937 35,233 34,970 注)自国内と日本国内での支出の合計 資料)JNTO,ITCJ「JNTO 訪日外客消費動向調査 2005」 54 (2)日本に対する満足度 全国の中では高い九州に対する推薦率 韓国、中国の訪日客が帰国してから友人・知人に勧める地方をみると、韓国、中国共に 九州の推薦率が高い。 韓国の九州に対する推薦率は 78.8%と日本国内では第2位、中国の九州に対する推薦率 は 52.2%と日本国内では第3位に位置する。 図表 韓国と中国の地域別訪問件数と推薦率(平成 18 年度) 訪問件数と推薦件数を勘案した推薦率(韓国) 訪 問 ・ 推 薦 件 数 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 (n=2,684) 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 北海 東北 関東 道 0% 北陸 中部 関西 中国 四国 九州 沖縄 訪問件数(人) 152 104 1,788 45 398 1,002 54 13 697 21 推薦件数(人) 125 38 1,217 20 158 537 19 3 549 13 推薦率(%) 90% 80% 82.2% 36.5% 68.1% 44.4% 39.7% 53.6% 35.2% 23.1% 78.8% 61.9% 資料)JNTO,ITCJ「JNTO 訪日外客実態調査 2006-2007 満足度調査編」 訪問件数と推薦件数を勘案した推薦率(中国) (n=743) 900 800 訪 問 ・ 推 薦 件 数 60% 700 600 50% 40% 500 400 300 30% 20% 200 100 0 10% 北海 東北 関東 北陸 中部 関西 中国 四国 九州 沖縄 道 訪問件数(人) 53 39 851 37 387 563 41 15 92 13 推薦件数(人) 31 13 349 15 103 163 10 2 48 8 推薦率(%) 70% 58.5% 33.3% 41.0% 40.5% 26.6% 29.0% 24.4% 13.3% 52.2% 61.5% 資料)JNTO,ITCJ「JNTO 訪日外客実態調査 2006-2007 満足度調査編」 55 0% 第2節 観光を巡る環境変化 1.「団体」から「個人」へ 以前は旅行先に関する情報が少なく、交通や宿泊の手配も現在と比べて困難であった。 そのことから、人々は職場や地域の団体、あるいはパッケージツアーに参加して旅行に行 くという形態が中心であった。しかし最近では、国内宿泊観光旅行や宿泊数は減少傾向に あり、消費者の余暇時間の過ごし方の変化やその他のレジャーの充実など、旅行業界にと っては競合環境が厳しくなっている状況が考えられる。一方で、国内外含めた遠方旅行の 経験者の増加や、マイカー旅行の普及、またインターネットの普及と旅先での宿泊予約サ ービスが普及したこと等により、個人や小グループでの旅行は増えている状況にある。 インバウンドに関しても、かつては団体観光客がほとんどであったが、最近では、韓国 人観光客を中心に個人や小グループによる個人旅行客(FIT)の来訪が増えている。 個人や小グループでの観光客が増えた背景としては、上記であげた外的要因の変化に加 えて観光客の志向が多様化したことがあげられる。具体的には、体験型、滞在型等の観光 形態を志向していること、リピーターが訪問先として従来の観光地ではない地域を望み出 したこと、癒しや健康づくり等の観光客独自の目的のための旅行が増加したこと等があげ られる。九州においては、湯布院、黒川温泉のような地域は、まさに多様化した観光客の ニーズに合致して、集客を伸ばしてきたといえるだろう。 統計によると、九州全体としては、入り込み客数は増加しているものの、旅行の形態が 団体から個人へとシフトしているため、団体客が多い宿泊観光客数は各県とも減少もくし は横ばい傾向にある。 このように、団体受入に対応してきた従来の観光地での集客が厳しくなる一方で、これ まで観光地でなかった地域でも、受入態勢の充実、地域資源の活用、情報発信の強化を図 ることで、観光集客による地域活性化を実現できる可能性が出てきた。 56 図表 国内宿泊観光旅行の回数及び宿泊数の推移 回、泊 3.0 1人当り宿泊数 2.81 2.78 2.5 2.89 2.72 2.47 (暫定値) 2.0 1人当り回数 1.5 1.71 1.70 1.77 1.68 1.54 (暫定値) 1.0 平成15 16 17 18 19年度 資料)国土交通省「観光白書 2008」 図表 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 九州各県の宿泊観光客数の変化 平成12 9,009 2,746 13,023 6,675 8,040 9,602 18年 8,777 2,413 11,128 6,718 7,822 9,619 (千人、%) 増減率 ▲ 2.6 ▲ 12.1 ▲ 14.6 0.6 ▲ 2.7 0.2 注)各県独自の方法で算出。長崎県は平成 15 年より算出方法変更。 宮崎県の宿泊観光客数は未公表 資料)各県観光統計より作成 2.「見学・周遊型」から「体験・滞在型」へ 団体観光中心の時代の観光行動は、 「見学・周遊型」が一般的で、複数の見物先と宿泊所 のそれぞれの点をバス等で移動する形態が多いことが特徴であったといえる。そのことか ら観光消費においては、一部の土産物店や団体客に対応したレストラン、宿泊するホテル 内に限られていた。 しかし、個人や小グループでの旅行が主流になると、見学中心の旅行形態から、これま でオプションでしかなかった様々な現地での「体験」や独自のテーマ設定による散策が可 能となり、観光客の多様なニーズに応えた様々な観光商品が増加している。例えば、そば 打ちや窯元体験、田舎民泊体験のような地域文化を体験するものや、農業体験、自然観察 のようなグリーンツーリズム、 「大人の社会科見学」と呼ばれる工場見学まで、様々なプロ 57 グラムが注目を集め始めている。また、近年では、癒しや健康づくり等の目的のために、 気に入った観光地に比較的長く「滞在」する旅行形態も出てきている。 この「体験・滞在型」への変化により、既存の観光地だけでなく、これまで観光地でな かった地域においても、地域資源を活用した様々な体験メニューの開発、長期滞在に向け た受入態勢の充実等により、観光ビジネスを展開できる可能性が出てきた。 3.「発地型」から「着地型」へ 人々の観光に対する志向や観光の形態が、「団体」から「個人」へ、「見学・周遊型」か ら「体験・滞在型」へと変化する中、旅行会社のビジネススタイルも変化しつつある。旅 行会社はこれまで、旅行の出発地側である大都市圏で得られる目的地情報や出発地側の観 点を重視して、団体中心の低コストのツアーを企画し、観光客を募集して地方に送り出す 「発地型」のビジネスモデルを展開してきた。この方法は、同様のパッケージで大量の集 客を得ることができることから、旅行すること自体に価値の合った時代におけるビジネス モデルであったといえる。 しかし、人口減少による市場規模の縮小、団体客の減少に伴う営業効率の低下、ネット の普及に伴う予約収入の減少といった環境変化によって、従来のマスツーリズムのビジネ スモデルには限界が見え始めている。旅行会社は新たな市場開拓の必要性に迫られており、 そのひとつとして「着地型」にビジネスの活路を見出そうとしている。 「着地型」とは、旅行・観光の目的地である地域(=着地)の視点を重視して、きめ細 やかな旅行プランを企画し実施するものである。 「着地型」は、観光客の多様なニーズに対 応した観光商品づくりに当たり、地域に賦存する様々な地域資源(自然、歴史、料理・食 品、産業、街並み、文化等々)を幅広く活用することが可能となった。 一部の地域では、地域資源を幅広く活用する中から、観光客と地元との間で磨きがかか り、口コミやネット上での情報の広がりにより、地域の名物となった商品や、特定のター ゲットに受けている商品も増加していることから、 「着地型」のプランづくりは、地域資源 活用の観点からも重要視されている。 「着地型」は、大都市圏の旅行会社にとっては、従来よりも地域との関係が深まり、内 容が良ければ新たな目的地となり、観光商品のバリエーション化が進むことになる。一方、 地域にとっては、地元主導で地域資源を観光商品化することで、発地側の市場へ売り込む 機会の増加につながり、地域経済活性化の可能性が高まることとなる。 58 4.シニアとインバウンドの増加 国内の旅行市場は、長期的には人口減少に伴って縮小が見込まれる。しかし、団塊世代 がリタイアすることに伴い、元気なシニア世代が短期的には旅行需要を牽引することが期 待される。じゃらん宿泊旅行調査では、シニア層は旅行に行った人の割合、年間旅行回数 ともに、他世代と比べても高いという結果もでている。最近のシニアは、若い頃は旅行に 行きたくても簡単に行けなかった世代であり、現在は比較的経済力があり、知識欲も旺盛 で、旅行への意欲が高いといえる。 こうしたシニア世代に上手くアピールする旅行商品が提供できれば、観光集客人口を増 やし、消費を拡大できる可能性がある。大手旅行会社においても、すでにシニア層にター ゲットを絞ったバスツアーや海外旅行、クルーズ旅行の商品企画を行っており、その需要 の喚起に取組んでいる。 また、海外、とりわけ東アジアでは相対的に高い経済成長が見込まれている。既に韓国 や台湾では、毎年人口の4分の1が海外に渡航するという状況になっている。一大市場と 目される中国では、中国人の海外旅行は飛躍的に増加しており、今後本格的な海外旅行ブ ームの到来が見込まれる。また、富裕層の拡大によって購買力も向上しており、世界各国 で高い消費を行うグループであると見込まれている。 また国際交通・通信ネットワークの発達に伴い、情報発信も来訪も以前に比べて容易と なった。韓国の若者にとってインターネットで海外現地の情報を入手することが一般的に なってきており、その動向は今後アジア各国へも波及していくものと考えられる。このよ うに、インバウンドが、新たな旅行市場として厚みが増す可能性が出てきたのである。 図表 中国人の海外旅行の延べ人数 (万人) 4,500 4,095 4,000 3,452 3,500 2,885 3,000 2,500 2,000 3,103 2,022 1,660 1,500 1,000 500 0 平成14 15 16 17 18 19年 資料)National Bureau of Statistics of China「China Statistical Yearbook2008」 59 上記のような観光を巡る環境変化に伴って、地域では地域資源の活用と情報発信の取組 により、さらなる観光集客の可能性が高まっているといえるだろう。また、地域資源を活 用し新たな商品づくりを行うことは、地域ビジネスの拡大や新たなビジネスの創出であり、 直接、地域経済への波及につながることから、地域活性化に向けた重要な要素となりえる。 今後、地域資源の活用促進や情報発信の充実を図るためには、観光客を受入れる地域の 態勢の充実が不可欠となる。 60 第Ⅲ章 第1節 地域における国内外からの観光客受入の対応 九州全体での取組 わが国の政府レベルでの観光政策に対応して、九州でも九州運輸局や九州経済産業局、 九州観光推進機構等において、国内外からの観光客受入の対応を進めている。 九州運輸局の取組 国土交通省九州運輸局は、国の「観光立国推進基本計画」に掲げられた訪日外国人旅行 者数や国内観光旅行での年間宿泊数等、具体的な数値目標の実現に向けて、観光事業者、 地方自治体等関係者と連携し、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)や魅力ある観 光地づくり等の観光振興策を推進している。具体的には、鉄道・コミュニティバス・乗合 タクシー・旅客船等への情報やノウハウの提供による人材育成、公共交通の活性化、観光 カリスマ塾の開催、観光地の活性化に対する支援等である。 九州経済産業局の取組 経済産業省は、 「新経済成長戦略改訂版(2008)」の中で、3つの成長戦略を提示してい る。その1つである「地域・中小企業・農林水産業・サービスの未来志向の活性化」にお いて、九州では、地域資源の活用や農商工連携の促進等を通じた観光集客人口の増加によ る地域経済の活性化に向けた施策を展開している。 この他、国の地方機関では、九州地方整備局、九州農政局、九州地方環境事務所が観光・ 地域づくりの関連施策を実施している。 61 図表 九州における観光・地域づくり関連施策一覧 施設名 ビジット・ジャパン・キャンペーン事業 九州観光まちづくりコンサルティング事業 観光地域プロデューサー事業 ニューツーリズム創出・流通促進事業 観光圏整備事業 公共交通活性化総合プログラム 地域公共交通活性化・再生総合事業 まちめぐりナビプロジェクト 観光地域づくり実践プラン 観光カリスマ塾 九州型ロングスティ「おとなの長旅・九州」実証事業 九州遺産プロジェクト まちづくり交付金 まち再生総合(まるごと)支援 景観形成事業推進費 街なみ環境整備事業 地域自立・活性化交付金 広域ブロック自立施策等推進調査費 農山漁村活性化プロジェクト支援交付金 広域連携共生・対流等対策交付金 地産地消モデルタウン事業 広域・総合観光集客サービスの支援事業 戦略的中心市街地中小商業等活性化支援事業 戦略的中心市街地商業等活性化支援事業 中小商業活力向上支援事業費補助金 電源立地地域対策交付金 企業立地促進法による支援 中小企業地域資源活用プログラムによる支援 地域資源活用売れる商品づくり支援事業 地域資源活用販路開拓等支援事業 市場志向型ハンズオン支援事業 地域資源活用企業化コーディネイト活動等支援事業 地域資源活用型研究開発事業 JAPANブランド育成支援事業 地域資源∞全国展開プロジェクト 地域団体商標登録制度 伝統的工芸品産業支援補助金 エコ・ツーリズムの推進 地方元気再生事業 支援施策の種別 補助金 調査費 その他 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 担当官署 運輸局 運輸局 運輸局 運輸局 運輸局 運輸局 運輸局 運輸局・整備局 運輸局・整備局 運輸局 運輸局 運輸局 整備局 整備局 整備局 整備局 整備局 整備局 農政局 農政局 農政局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 経産局 環境事務所 地方連絡室 注)施策メニューは平成 20 年6月末現在のもの 資料)九州運輸局、九州地方整備局、九州農政局、九州経済産業局、九州地方環境事務所「平成 20 年度観 光・地域づくり関連施策メニュー」 62 九州観光推進機構の取組 かつて九州では、各県や市町村、民間団体等がそれぞれ観光客の誘致に向けた取組を実 施してきた。しかし、地域が一体となって誘致に取組んでいる北海道や沖縄では観光客が 増加傾向にあるが、九州は相対的に低下してきた。こうした状況を変えるため、平成 15 年 10 月に「九州はひとつ」の理念のもと、九州地域の自立的かつ一体的な発展に向けて、官 民が一体となって「九州地域戦略会議」を設置し、その活動の一環として、九州観光戦略 の策定を決議した。これに基づき、平成 17 年1月に誕生したのが「九州観光推進機構」で ある。 九州観光推進機構は、国内外の観光客を数多く招き入れるため、九州観光のモデルコー スを設置し、国内外の人々に対して PR を実施している。平成 19 年 10 月には、第二次九 州観光戦略を策定したが、その中で「旅行先としての九州を磨く」、「域外から九州に人を 呼び込む」、「東アジア等から九州に人を呼び込む」の三つの柱を明示し、観光を通した九 州地域経済の活性化を目指している。 一部の地域に偏重する観光客の訪問先 九州運輸局や九州観光推進機構等は、九州全体での観光客受入の対応を促進しているが、 九州を訪問する観光客の訪問地は九州の一部の地域に集中している。具体的には、福岡市、 別府、阿蘇、ハウステンボス、長崎等の大型観光地や大型観光施設、あるいは由布院温泉 や黒川温泉など、特定の観光地や温泉地である。 これらの地域に偏る要因として、観光客にとって限られた日程や経費の中では、従来型 の団体観光は減少しているものの、まだ大きなウエイトを占めていることと、当該地域を 結ぶ交通インフラが整備され、アクセスの利便性が高く、比較的短時間での移動が可能な ことで、個人や小グループによる旅行客が増加していることが挙げられる。 また、そのほかの小規模の観光地や観光集客への取組を開始したばかりの地域では、観 光集客の取組は行われているものの、総じて観光客増加や消費拡大が表れていない。 63 第2節 観光の地域活性化への活用 観光を地域活性化に積極的に活かそうとするマインドの重要性 観光客の志向の多様化を背景に、観光の形態が「団体」から「個人」へ、 「見学・周遊」 から「体験・滞在」へ移り変わり、シニアやインバウンドが増加する等、観光を巡る環境 が変化している。こうした中、観光地においては、観光客のニーズに合わせた新しい受入 れ態勢が求められている。 団体観光では、行き先が数カ所に限定されていたため、旅行業者を中心に、行程に含ま れる交通機関、訪問先の名所・施設、宿泊業者、土産物店等の一部の関係者の対応であっ た。しかし、観光客の行き先は、 「点」から「面」に広がりつつある。滞在の長期化のため には、地域全体としてのホスピタリティーときめ細やかな対応が不可欠となり、さらには、 多様で高付加価値な訪問コース・体験メニューや具体的かつ詳細な情報提供が求められは じめた。 しかし、九州全体としてみると、こうした求めへの対応ができていないところが見受け られる。特に小規模な観光地や観光集客への取組を開始したばかりの地域は、一部で入込 客数が増加しているものの、国内外の観光客の受入に対応し、満足度を高め、消費拡大に つなげているケースは少なく、新たなニーズに対応することで発生するビジネスチャンス を見逃している場合がある。このようなチャンスを捉えて、観光を地域活性化に積極的に 活かそうとするマインドが重要となる。 遅れるインバウンドへの対応 一方で、近年韓国人観光客を中心に、九州への外国人来訪者が増加している。しかし、 九州全体では、観光客全体に対するウエイトがわずかで地域経済への影響が少ないこと、 国内客に人気が高い観光地や観光商品が外国人客にも人気であることから、国内観光客の 満足度を高める取組の延長線上に、インバウンドに対応した取組があるとの認識が主流で ある。そのため、既にインバウンド来訪が多い地域を中心に、多言語による案内や情報発 信、都市部における両替対策、手続きの簡素化など、外国人観光客の増加に対する対応策 が進んでいる程度であり、特にインバウンドの受入を意識した誘客の取組は少ない状況に ある。 64 第3節 九州における観光客受入の対応事例 観光を巡る環境変化への新たな対応によっては、観光集客及びその消費の拡大に結びつ く可能性は高く、現在、多くの地方公共団体や商工団体等では、対応できる態勢づくりが 模索されている。 このような中、地域全体でホスピタリティーを高め、観光商品のバリエーション化、よ りきめ細やかな情報提供や案内に取り組み、成果を上げている先進地域がある。 先進地域では、観光客の不安・不便・不自由を減少させる「ワンストップサービス」や ニーズに応じたプランやメニューを案内する「コンシェルジュ機能」 、受入態勢と情報を具 体的かつきめ細やかに発信する「見える化」等、積極的な取組が開始されている。これら の取組の内容は、 「ニーズへの対応」 、 「窓口機能強化」、「情報発信強化」に大別される。 「ニーズへの対応」は、別府や阿蘇などで見られる「客のニーズに対応した旅行プラン づくり」や、福岡市で見られる「QR コードを掲載したクーポンマップの作成」等、既に著 名な観光地を中心に取組が進んでいる。 「窓口機能強化」は、ワンストップサービスを提供する形で進められている。 「情報発信強化」は、インターネットや携帯電話端末など、情報機器等を活用した取組 が多い。 インバウンドの取り込みについては、内需が厳しい情勢の中で、海外市場の切り取りで あることから、先進地域やインバウンドの来訪が多い都市を中心に、通訳サービスをはじ め、多言語によるサインアップ、ビジュアルな情報提供、支払い等の利便性の向上に積極 的に取り組み、その情報を IT 活用により発信し「見える化」が進められている。 65 図表 窓口機能 強化 情報発信 強化 言語の壁の低減 利便性向上等 イ ン バ ウ ン ド 対 応 ニー ズ への 対 応 としかけづくり 観 光 客 受 入 対 応 九州における観光客受入対応の例 • • • • • 客のニーズに対応した多様な着地型プランづくり (別府、阿蘇、等) 「昭和の町」整備とガイド、「一店一品運動」で集客増と消費拡大(豊後高田) エリア毎の地域資源ガイドブックの作成とパッケージツアーの開発(阿蘇) 「長崎さるく」や「ランタンフェスティバル」等の仕掛けで中心市街地活性化(長崎) QR コードを掲載したクーポンマップの作成(福岡市) • 「研修宿泊施設」、「民泊組織」、「観光協会」を統合して窓口を一本化、コンシェルジュ機能 強化(小値賀) スポーツキャンプ地照会のワンストップサービス(宮崎県) • • インターネットや携帯端末を利用した細やかな情報提供(阿蘇) • web とメーリングリストの活用による情報発信(別府ハットウ・オンパク) • ブログを活用した口コミ情報の発信強化(マインドシェア) • • • • • • • • 訪問先、街中、店舗における外国語表記の推進(別府、阿蘇、長崎、対馬 等) 「韓国語支援センター(通訳常駐)」の設置(対馬) 英・中・韓に対応した電話での逐次通訳サービス(JR 九州、ティスコジャパン) 博多港発着の 100 円バスのハングル表記・案内(西鉄) つばめ、リレーつばめの4カ国語自動放送(JR 九州) 福岡市地下鉄、西鉄 100 円バスの駅・バス停ナンバリング(福岡) 外国人客対応マニュアル等作成(福岡市新天町、キャナルシティ博多、阿蘇、等) ハングルによる九州の「和風旅館」紹介サイト及び温泉マナーチラシの作成(キューデンイン フォコム) • • • • • • 韓国のクレジットカード使用可の店頭表示とネット上での情報提供(キューデンインフォコム) ウェルカムカードとし ての韓国人ゴルフ客へのタクシー1000 円割引券(宮崎) 銀聯カード決済導入(キャナルシティ博多、福岡市内の百貨店、長崎・熊本の商店街、等) 銀行窓口での両替終了時間の延長(福岡)) アジア諸国通貨の両替、カード決済サービス(別府) 仮上陸許可証の発行、税関や検疫検査の迅速化、免税手続(福岡市) 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 66 ■事例紹介■クーポンマップによる飲食店・観光施設の PR(福岡市) (株)キューデンインフォコム「きずなプロジェクト」は、平成 21 年3月に、福岡市ビジター ズインダストリー推進協議会等の協力を得ながら、福岡市内の「西新・ももち」エリアの飲食店 や店舗、 「天神・中州」エリアの屋台を紹介する”QPON MAP”を制作した。同 MAP では、対 象エリアの地図が掲載されており、各店舗や施設の名称、場所、簡単な紹介文、QR コードが記 載されている。QR コードにアクセスすれば、各店舗や施設のクーポンの入手が可能になる。 地図の中には交通アクセスや公衆トイレ、銀行、宿泊施設(ホテル)も記載されており、始め て訪問して歩き回る人に対しても利用しやすいような配慮が見られる。 同プロジェクトは、観光客と地元住民、福岡の店舗の相互の「きずな」を深めるものと位置づ けられており、紙メディア、携帯電話、Web のクロスメディアで有益な情報を発信することを 目指している。現在の同プロジェクトは、平成 21 年7月までの実証実験期間中だが、今後も「も つ鍋マップ」など、地図の種類を増やすことを予定している。 「西新・ももち」と「天神・中州」の QPON MAP 資料)九州経済調査協会撮影 67 ■事例紹介■ワンストップサービスをするアイランドツーリズム協会(長崎県小値賀町) 長崎県小値賀町は、観光客を呼び込むために、無人島でのカヌー、シュノーケリング、魚釣り、 トレッキング、鹿観察などの様々な体験メニューの整備や、オーストリアの音楽家を招聘する「長 崎おぢか国際音楽祭」の開催を行っている。しかし、一時期問い合わせ先が錯綜していたことも あり、平成 19 年度から、島内の観光窓口を一元化する組織として、これまで体験メニューを提 供していた「野崎島の自然学校」、 「民泊組織」 、そして「観光協会」の 3 つを統合し、 「NPO 法 人おぢかアイランドツーリズム協会」を立ち上げた。 同協会では、観光事業の推進に当たり、単に交流人口を増やして賑わいを創出するのではなく、 産業として島の経済が潤うように、 “外貨”獲得としての売上増加、島内への経済波及、常勤職 員の増加、行政からの自立という攻めの経営戦略を立てている。そして、小値賀町の観光に関す るワンストップサービスを実現している。 旧・野首天主堂(左)とカヌー体験(右) 資料)小値賀町ホームページ 68 ■事例紹介■ガイドブックによるエリア毎のツアーのPR(熊本県阿蘇地域) 阿蘇地域振興デザインセンター(熊本県阿蘇市、以下阿蘇 DC)は、阿蘇地域内の連携を図り、 地域振興、観光振興、環境・景観保全、情報発信を広域で取組むシンクタンクであり、また地域 と連携しビジョンを具現化していくドゥタンクでもある。阿蘇 DC では、 「阿蘇まちめぐりガイ ドブック」という滞在型観光メニューをリストアップした冊子を作成した。同ガイドブックでは、 阿蘇郡1市7町村の中の 26 エリアのおすすめスポットと、スポットを巡る散策モデルコースが 提案されている。各エリアの紹介ページには、おすすめスポットにおける最も近いバス停名(バ スが通っていない地域は車での移動時間)や、バス停の位置を明示した地図、地元を熟知する案 内人(観光ガイド)の名前と連絡先が記載されており、始めて訪問する人が利用しやすい形でと りまとめられている。 阿蘇 DC は、同ガイドブックにより、旅行会社がパッケージ商品を組みやすくしたり、地域コ ンシェルジェが個人客のニーズに合わせた旅行プランを提示しやすくなることを期待している。 「阿蘇まちめぐりガイドブック」 資料)九州経済調査協会撮影 69 ■事例紹介■入国審査の迅速化や両替時間の拡大等によるクルーズ船の誘致(福岡市) 近年、福岡市にはクルーズ船で訪問する中国人が増加している。クルーズ船の増加に対応して、 福岡市では、CIQ(国境を越える交通および物流において必要な手続きである税関(Customs) 、 出入国管理(Immigration) 、検疫(Quarantine)の総称)手続きの迅速化を進めている。具体 的には、入国審査を迅速化するため、参加者のパスポートを預かるかわりに「仮上陸許可証」を 渡した上での上陸許可や、係員が沖合で舟に乗り込んで実施する税関・検疫検査などである。 また、博多港での歓迎演出を盛大にする工夫や、銀聯カードの利用可能店舗の拡大促進、大丸 福岡天神店に常設の両替コーナーの設置、両替時間の拡大(銀行の両替窓口を通常の 15 時から 17 時過ぎまで延長)なども実施している。 ■事例紹介■通訳常駐の「韓国語支援センター」設置(長崎県対馬市) 対馬を訪問する韓国人観光客の増加に対して、対馬市商工会は、対馬観光物産協会、(株)まち づくり厳原、厳原ショッピングセンターと協力して、交流センター内に「韓国語支援センター」 を設置した。韓国からの高速船が厳原に入港する日を対象に、同センターにサポーターと呼ばれ る通訳を常駐させている。サポーターは、通訳、観光案内、ショッピングサポート、トラブル相 談に対応している。 通訳に関するコストは、対馬市商工会等4団体が負担している。通訳には、ショッピングセン ターでのサポートの他、地元の人に対する韓国語講座や韓国人とのふれあい活動にも参加しても らっている。 交流センター内の「韓国語支援センター」受付 資料)九州経済調査協会撮影 70 第Ⅳ章 第1節 観光集客に向けた地域資源の活用 地域資源の開発 1.地域資源を活かした観光振興による地域経済への波及 団体観光客による見学・周遊型の観光が主流であった時代は、国立公園・国定公園など 自然景観のすぐれた景勝地や、城郭や大橋梁などのランドマークとして機能する建造物、 大型の宿泊施設や観光施設などが主な観光資源であった。 しかしその後、観光の形態が、団体観光から個人客中心の体験・滞在型へと変化する中 で、観光資源に対する考え方も大きく変化し、既存の観光地ではなく、グリーンツーリズ ムやブルーツーリズム、映画やドラマゆかりの地訪問、産業観光やヘリテージツーリズム (産業遺産観光) 、プロスポーツのキャンプ地訪問など、 「本物」や「そこにしかないもの」 が注目されるようになってきた。これにより、地域において身近で様々な地域資源が、癒 し、健康づくり、自然・環境保護などの価値を付加されることで、魅力ある観光資源とな る可能性が出てきた。 これまでは観光資源として考えられてこなかった様々な地域資源を、付加価値を高める ことで、観光客により多く売り込む取組が行われ始めているが、九州全体としてみると、 豊富な地域資源の活用に向けては、その素材を見極める「目利き」や、商品化に向けた「磨 き」や「プロモーション」等のノウハウ等が不十分であることが、ヒアリング調査により 指摘されている。 このような潮流の中で、わが国では、「経済成長戦略大綱」や「骨太の方針」等により、 各地域の「強み」である地域資源(地域・産地の技術、地域の農水産品、観光資源等)を 活用した新商品・新サービスの開発・市場化を支援している。支援に当たっては、国の関 係6省(総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省)が協 力態勢を整備した上で実施することとしている。 地域資源は、観光行動の様々なプロセスと密接に関係する上、関係する主体が多岐にわ たる。そのため、観光に向けた地域資源の開発を進め、多くの観光客による利用が実現す れば、地域経済に対する波及が期待される。 例えば、図表「地域資源を活かした観光振興」で示すとおり、観光客の「食事」に対し ては、その地域の料理や農林水産物が密接に関係し、推進主体としては飲食業が挙げられ る。また、 「散策」に対しては、その地域の景観や町並み、産業遺産が関係し、推進主体と しては住民や大学が挙げられる。 ただし、地域資源の開発に当たっては、個別の主体が個別の地域資源を取り扱うのでは なく、個別の主体が連携して、地域資源を一体となって開発し、連携させることが求めら れる。何故なら、地域資源が連携していなければ、観光客の観光行動全てに対応すること が難しいからである。 71 図表 地域資源を活かした観光振興 地域資源を活かした観光の振興 移動 体験 温泉 入浴 食事 地域資源 鉄道 飛行機 バス 自然 伝統 農業 温泉 料理 農林水 産物 推進主体 交通業 工房 農家 等 観光行動 温泉 施設 等 飲食業 等 散策 知る 買う 宿泊 産業遺産 ガイド 語り部 土産品 特産物 ホテル 旅館 行政 NPO 等 住民 大学 等 小売業 加工業 宿泊業 景観 街並 地域資源間・推進主体間の連携 資料)九州経済産業局資料 2.地域資源活用に向けた取組 地域資源を活かした観光振興は、地域経済に対して様々なプラスの影響をもたらすこと が期待されるが、その実現は容易ではない。何故なら、どの様な地域資源が観光客にとっ て魅力あるものかが不明である上、一般の商品/サービスとは異なり、地域資源は「その 土地にしかないもの」であるため、常に提供できるとは限らないからである。そのため、 地域資源は、段階を踏んで活用していくことが求められる。その段階とは、①発掘(形成) 、 ②商品化、③販売、④PR、⑤持続の5つである。 「発掘」は、観光客の呼び込みや地域経済に貢献する地域資源を探す(新たに作る)段 階である。観光客を含む交流人口の増加により地域の活性化を図ることを検討しているが、 何を実行すればいいのか分からない、何を利活用すればいいのか分からない状態が該当す る。従って、克服方法は、とにかく「地元ならでは」と思われる資源の棚卸しや、外部の 組織との連携で地域資源に「気づこうとする」ことなどが当てはまる。例えば、 「佐世保バ ーガー」のヒットに成功した佐世保市では、佐世保ならではのグルメによる地域活性化を 検討した時、佐世保バーガー以外にもビーフシチューやぜんざいなどにも注目するといっ た、地域資源の棚卸しを実施した。 「商品化」は、発掘した(新たに作った)地域資源を、観光客が利用しやすい形にする 段階である。観光客に喜ばれる地域資源は把握できたが、それを商品化するための資金と ノウハウ、人材が不足している状態が該当する。従って、克服方法は、地域外の組織・人 72 物や第三者機関のアドバイスを受けることや、既存の施策を活用することなどが当てはま る。例えば、対馬市商工会は、現在、韓国人観光客向けの土産物として、養殖マグロの内 臓を活用した新製品の開発を進めているが、開発資金は、長崎県の「地域商工業新展開支 援事業費補助金」から調達している。 「販売」は、商品化(サービス化)した地域資源を、実際に観光客に対して販売する段 階である。この段階の問題点は、商品化した地域資源の供給が不安定になる可能性がある ことである。従って、克服方法は、様々な形で供給量を増やすことである。例えば、長崎 市では、まち歩きをイベント化した「長崎さるく」において、数多くのまち歩きメニュー を設定しているが、陳腐化しないように、数百名に及ぶボランティアによる観光ガイドの 活用や、市民によるまち歩きメニューの新規提案を常に受け入れている。 「PR」は、販売すべき地域資源を国内外に PR する段階である。この段階の問題点は、 効果的な広報活動が分からないことである。克服方法の一つとして、知名度の高い企業や 組織とタイアップし、その企業/組織のネットワークを活用した PR などがある。例えば、 長崎県小値賀町のおぢかアイランドツーリズム協会では、観光客に対して漁業体験や農 業・畜産体験等を提供することで、自然や文化遺産を未来へ確実に継承していくという取 組を実施しているが、アサヒビールの地域活性化プロジェクト「アサヒスーパードライ野 崎島環境保全プロジェクト」に選ばれることで、アサヒビールのホームページで取組内容 が紹介されている。 最後に「持続」は、 「発掘」から「PR」に至る段階を継続して実施する段階である。この 段階の問題点は、観光客に対して「飽きさせない」ことである。 73 図表 段階 内容 地域資源活用の段階と問題点 問題点 主な取組事例/克服例 ・地元ならではのものに目をつける(佐世保 ①発掘 (形成) ・地域の未活用 ・地元は却って気 資源への気づき づきにくい ・活用意識共有 ・活用方法が不明 バーガー、佐世保市) ・民間や市民の地域づくり関連組織との連携 (別府オンパク、別府市) ・ドラマ放送に合わせた地域の素材探し(下 町惣門会、山鹿市) ・地域へのアドバイスによる着地型旅行プラ ②商品化 ・喜ばれる商品化 ・商品による誘客 ・資金とノウハウの ンの形成(阿蘇地域振興デザインセンター、 不足 阿蘇地域) ・協力者の不足 ・県の補助金による養殖マグロの内臓を活用 した新製品開発(対馬市商工会、対馬市) ③販売 ・安定供給 ・供給が不安定 ・数百名のボランティアによる観光ガイド、市 ・観光客と域外へ ・販路確立/維持が 民による数多くのまち歩きメニューの提案(長 の販促 困難 崎さるく、長崎市) ・アサヒビールとのタイアップキャンペーンの ・知名度向上 ④PR ・ 商品/ サー ビ ス でのイメージ向上 ・効果的な方法が 不明 実施(おぢかアイランドツーリズム協会、長崎 県小値賀町) ・JR九州とのタイアップによるレンタサイクル の提供(唐津市) ⑤持続 ・取組の継続 ・ 顧客の「 飽き」 へ ・体験メニューを地域全体に拡大(桜島ミュー の対応 ジアム、鹿児島市) 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 74 第2節 九州における地域資源の活用事例 九州各県は、基本構想で地域資源を特定しており、その数は九州7県で 1,179 件ある。 このうち、農林水産物は 401 件、鉱工業品は 233 件、そして観光資源は 545 件と全地域資 源の半数を占める(平成 20 年 7 月 2 日現在)。しかし、九州各県の地域産業資源活用事業 計画認定数の場合、全体の 70 件のうち、農林水産物が 27 件、鉱工業品が 38 件に対して、 観光資源は5件にとどまっている(平成 21 年 2 月 20 日現在) 。現在の九州では、地域資源 の観光での活用は、発展途上にあるといえる。 ここでは、地域資源の活用について、 「 『歴史・文化』の活用の観光資源化」 、「『自然・天 然資源』の高付加価値化」 、 「 『食』に関わる資源の活用・名物化」 、「その他」に分類した上 で、具体的な事例を紹介する。 1.「歴史・文化」の活用の観光資源化 九州は、江戸時代に外国との窓口になった長崎港、キリスト教会群、日本の近代化を支 えた近代化産業遺産など、 「歴史・文化」に関係した地域資源が多い。特に、近代化産業遺 産については、全国の認定件数 1,115 カ所に対して、九州では 144 カ所が認定されている。 近代化産業遺産については、施設の維持管理に関する予算確保といった課題があるものの、 今後の観光資源化が期待されている。 ■事例紹介■「近代化遺産 軍艦島再生プロジェクト」(賑わいの島)構築事業(長崎市) 明治時代以降、海底炭坑の島として、日本の近代化を支えてきた長崎市の「軍艦島(端島) 」 は、近代化産業遺産として認定を受けている。平成 21 年度からは、やまさ海運株式会社 (長 崎市)が、軍艦島を観光資源として活用し、上陸案内ガイドの育成等を通じた付加価値のある軍 艦島観光商品の開発を行うことを検討している。 同社は既に、軍艦島に上陸しない形での「軍艦島周遊クルーズ」を実施しているが、利用者数 は年間1万人を超え、年々増加傾向にある。今後は、旅行会社との連携による商品化も視野に入 れた国内外に対する観光客等への PR や、上陸整備を担う長崎市や地元観光関係団体等との連携 を通した、ガイドマニュアルの作成や関連グッズの開発等に一体的に取組む予定である。 軍艦島の外観 資料)中小企業基盤整備機構ホームページ 75 2.「自然・天然資源」の高付加価値化 九州は、世界的にも有名な阿蘇山や雲仙普賢岳などの景観や、各地に点在する温泉など の、自然・天然資源に恵まれている。観光における自然・天然資源は、単体では「観光客 が見学するだけ」で終わるため、地域経済の活性化との関係が薄くなるが、何らかの付加 価値を融合させることにより、地域経済との関係が深くなる。 ■事例紹介■気候の特殊性を生かしたスポーツツーリズムへの取組(宮崎県) 宮崎県は、冬季には雨が降りにくく、また温暖であるという気候の特性がある。この特性を生 かす形で、宮崎県は、スポーツによる観光客誘致を進めている。平成3年には、県の観光施策と してスポーツランドみやざきの展開が位置づけられ、平成7年にはスポーツランドみやざき推進 協議会の設立、 平成 14 年には県の観光・リゾート課にスポーツランド推進班が設置されるなど、 スポーツによる集客の推進態勢は、年々強化されている。推進態勢の強化により、宮崎県へのス ポーツキャンプ・合宿の受入団体数、延べ参加人数は増加しており、平成 19 年度には、団体数 が初めて 1,041 団体、延べ参加人数は 16.2 万人と、いずれも過去最高となった。 宮崎県においては、キャンプ地としての実績がさらなるキャンプの誘致につながるといった好 循環が生まれている。J リーグクラブのキャンプは、練習だけでなく、多くの練習試合を組んで 実戦への備えを進めるという志向が強い。したがって、近隣に対戦相手が多数いる地域がキャン プ地に選ばれやすく、集積が集積を生む状態となっている。平成 20 年には J リーグの 33 クラ ブ中 14 クラブが宮崎県内でのキャンプを実施しており、全国最多の J リーグキャンプの開催実 績を誇っている。 J リーグのキャンプ風景 資料)九州経済調査協会撮影 76 3.「食」に関わる資源の活用・名物化 九州は、温暖な気候と自然環境に恵まれているため、農業や水産業が盛んであり、平成 18 年の農業産出額は約1兆 7,121 億円と、全国のおよそ2割を占めている。全国的な産地 として知られた1次産品も数多くあり、代表的なものとして、福岡県のいちごや長崎県の 鰺、宮崎県のマンゴー、鹿児島県の黒豚などがある。 九州各地では、呼子のイカ、竹崎かに、平戸のヒラメ等1次産品を活用した「ご当地グ ルメ」や、佐世保のハンバーガーや阿蘇地域の馬ロッケ(馬肉コロッケ)など地域で馴染 みが深かった食べ物の名物化、湯布院で人気の洋菓子など新たな名物づくり等、観光にお ける「食」の活用が進んでいる。 ■事例紹介■知名度向上に貢献する佐世保バーガー(長崎県佐世保市) 佐世保バーガーは、終戦後の昭和 25 年ごろ、当時の駐留米軍が市民に作り方を教えたのが発 祥といわれている。 佐世保市では 10 年ほど前から佐世保ならではのグルメを活かした観光への取組を進めており、 平成 14 年の市制施行 100 周年を前に、当時11店舗あった市内の手作りハンバーガー店の券を つけた旅行商品を販売。そのとき製作された佐世保バーガーマップが人気の始まりだ。その後、 観光パンフレットのひとつとして『佐世保バーガーマップ』が制作されるようになり、マップを 片手にハンバーガーを求める観光客が増え、佐世保バーガーは次第にTVや雑誌、映画でもとり あげられるようになった。平成 15 年にはNHKの連続ドラマ「てるてる家族」に、平成 16 年 には映画「69 sixty nine」、平成 17 年には映画「釣りバカ日誌 16」にも登場。 平成 19 年度からは認定制度を設け、市内では現在約 35 店舗の店が各店こだわりの「佐世保 バーガー」を提供している。現在、佐世保市は、佐世保バーガーだけではなく、日本海軍が起源 である「海軍さんのビーフシチュー」や、昨年広島カキに次いで地域団体商標登録された「九十 九島(くじゅうくしま)かき」をつかった観光 PR にも力を入れている。 佐世保観光コンベンション協会のホームページ 資料)佐世保観光コンベンション協会ホームページ 77 ■事例紹介■地元食材を活用した「鉄輪地獄蒸し」の商品開発(大分県別府市) ホテルを経営する株式会社風月(大分県別府市)は、別府鉄輪温泉の温泉水(水蒸気)を活用 し長時間かけて加工する「低温スチーム」の技術を用いた、「鉄輪地獄蒸し」の加工品、お土産 品を開発している。 「鉄輪地獄蒸し」による調理方法は、既存の高温による地獄蒸しと比べて、肉や魚の素材の特徴 を活かし、甘みやうま味を引き出す調理方法であり、商品としての付加価値を高めている。原料 の供給については、地域の農家や漁業組合及び養鶏場等と連携を図り、商品開発については、別 府大学や食品分析センターの協力を得て実施している。 「鉄輪地獄蒸し」は、観光客をメインターゲットとし、観光土産品店やJRでの車内で販売し ているが、今後は、インターネット販売による販路拡大も図る予定である。 地獄蒸し料理(左)と低温スチーム試作機(右) 資料)中小企業基盤整備機構ホームページ 4.その他 「歴史・文化」や「自然・天然資源」、「食」に当てはまらない地域資源についても、観 光における活用が進んでいる。例えば、農家や漁家における「民泊」の商品化や、九州各 地の道の駅などの農産物直売所で実施されている加工品等の販売である。 78 図表 「歴史・文化」 の活用 「自然・天然資 源」の活用 「食」に関わる 資源の活用 その他 九州における地域資源の活用の例 温泉情緒を活用した街歩きガイドのビジネス化(別府) 街の歴史・文化を活用したガイド「長崎さるく」のビジネス化(長崎) 窯業と農業を組合せたグリーンクラフトツーリズムの商品化(波佐見) キリスト教会群の世界遺産化と地域文化の観光資源化(長崎県) 古い街なみと「米」関連の商店を活用した「米米惣門ツアー」の実施(山鹿) 近代化産業遺産の観光資源化(北九州、大牟田、三角、鹿児島、等) 石炭産業文化「伊藤伝右衛門邸」の観光資源化(飯塚) : 自然資源を活かした体験メニューのパッケージ化、ビジネス化(阿蘇、小値 賀、等) 温泉資源と健康を組合せたウェルネス産業化(別府) 冬季晴天の自然を活かしたスポーツキャンプ(宮崎県) 自然科学(学術)と体験(観光)の融合(桜島) : 佐世保バーガーをはじめ米軍、日本海軍起源の食の名物化(佐世保) 門前町商店街の目玉商品「馬ロッケ」等の名物化(阿蘇) 新たな名物としてのスイーツの充実(由布院) ご当地グルメと MAP の作成(佐世保バーガー、別府とり天、等) 地域の生鮮品を活用したご当地グルメ(呼子のイカ、竹崎かに、平戸のヒラ メ、臼杵のフグ、等) : 充実したハンドボール施設を活用したスポーツコンベンション誘致(山鹿) ロングステイメニュー「おとなの長旅九州」の商品化(JTB 九州、JR 九州、 九州観光推進機構、イデアパートナーズ) 「民泊」の商品化(安心院、野津、小値賀、松浦、等) 「農産物直売所」を通じた加工品等の販売(各地の道の駅、等) : 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 79 第Ⅴ章 「観光」を通じた九州地域経済の活性化に向けて 第1節 観光を地域産業に結びつけ地域経済に波及させるための課題 観光集客人口の増加を地域産業に結びつけ地域経済へ波及させるための課題は、次の5 つにまとめられる。 ■個々の地域における観光の課題 ①観光を経済活性化に積極的に活かそうとするマインドの向上(組織・リーダーづくり) ②訪問地として選択させる戦略づくり ③追加の消費を促す仕掛けづくり ④再訪・回遊・長期滞在を促す仕掛けづくり ■九州全体としての観光の課題 ⑤九州内の地域間をコーディネートし広域的な回遊を促す仕掛けづくり ①観光を経済活性化に積極的に活かそうとするマインドの向上(組織・リーダーづくり) 九州で、観光集客人口の増加が地域経済の活性化や雇用の創出に結びついている地域は 少ない。ヒアリングでは、各地の地方公共団体や商工団体等から、観光集客を地域の賑わ いや住民の自信と誇りの醸成だけでなく、地域経済や雇用に結びつけたいという声が聞か れた。 しかし、観光を経済活性化につなげた経験が薄くノウハウも不十分である地域が多く、 それらの地域は、観光を積極的に活かそうとする地域全体としてのマインドが特に必要と なる。マインドの向上を図るためには、地域が一体となることが重要であり、地域をまと め牽引する機能を持つ組織やリーダーが不可欠である。 ②訪問地として選択させる戦略づくり 多くの地域が観光客誘致に取組む中、訪問地として選択されることは容易ではない。地 域において地域資源を活用した様々な観光商品づくりが取組まれているが、人々に訪問地 として選択させる誘客効果の高い観光資源には至っていない状況である。 また、地域に様々な観光資源が存在するものの、地域全体ではなく個々に情報発信して いるために、現地の様々な資源の魅力等が十分に伝わっていない地域も多い。 九州は南九州を中心に、観光客に対するホスピタリティーがトップクラスと言われてい るが、旅行会社等へのヒアリングでは、多くの観光地において、個々の受入先のホスピタ リティーは高いものの、現地での受入の連携とその情報発信が不十分であり、訪問先を検 討する際に、不安や不便を感じさせているといった声が聞かれた。 訪問先を検討している人々に、訪問地として選択させるためには、地域資源の高付加価 80 値化とプロモーションによる「魅力向上」の取組と、事前に不安・不便・不自由を感じさ せない受入態勢の充実とその具体的な情報発信による「安心感向上」の取組を、地域一体 となって行うことが重要である。 ③追加の消費を促す仕掛けづくり 地域での観光消費を拡大するためには、地元の素材を活かした安全・安心なおいしい食 材や、農商工連携による地場産品、その土地ならではの体験など、観光客が求める商品を つくり、そうした商品に関する「ものがたり」や「いわれ」などの特異な情報(うんちく) を的確に伝えて、消費を促すことが重要である。 ヒアリングによると、多くの地域で、購買欲をそそる商品づくりや、好奇心を引き出す 体験メニューづくりなどのノウハウが不十分であり、消費誘発に繋がっていないとの声が 聞かれた。 観光客のさらなる消費行動を誘発させるためには、訪れる観光客の多様なニーズを把握 し、ターゲットを的確に絞り、購買意欲等を引き出す仕掛けづくりが重要である。 また、地域で観光客に受入れられた商品は、ブランドとなり、域外への恒常的な販売の 可能性もある。 ④再訪・回遊・長期滞在を促す仕掛けづくり 長らく「団体」で「見学・周遊型」が観光の主流であった我が国では、地域内のいくつ かの観光資源を回遊するような動きは少なかった。また、同じ観光地に何度も訪れるリピ ーターも少なく、現地での滞在も1泊が中心であり、ひとつの地域に長期滞在するような 旅行形態は少なかった。 地域にとっては、再訪・回遊・長期滞在は、観光客が消費する機会が増加することから、 地域経済の活性化に結びつきやすい。九州でも一部の地域・企業で、こうした旅行形態を 目指した地域づくり、旅行商品づくりが行われ始めている。 地域においては、地域経済への波及効果拡大の観点から、観光客の再訪・回遊・長期滞 在を促す仕掛けづくりが重要である。 ⑤九州内の地域間をコーディネートし広域的な回遊を促す仕掛けづくり 九州で観光集客に取組み、成果を上げ始めた地域もある。しかし、魅力的な取組が行わ れている地域が各地に点在していることと、取組地域個々の情報発信力や集客力が大きく ないことから、九州としての広域的な魅力を高めるには至っていない。 ヒアリングでは、新たな取組を行っているそれぞれの地域や旅行関係業者等が連携・協 力し、観光客の広域的な回遊を促進させるべきだとの意見が聞かれた。 九州全体としての魅力を高めていくためには、旅行関係業者等と連携しつつ地域間をコ ーディネートし観光客の広域的な回遊を促す仕掛けづくりが重要である。 81 第2節 地域経済活性化に向けた取組のカギ 1.地域資源の活用と観光客拡大の好循環に向けて 九州では、一部の地域を除き、観光を地域経済活性化に積極的に活かそうとするマイン ドが高まっておらず、観光を通じたビジネスチャンスを見いだせない状況にある。それは、 観光集客人口の増加を図ることが、地域産業・地域経済の活性化につながることを理解し つつも、地域資源を活用した商品づくりや観光客の満足度を高めるためのノウハウが不足 しているからである。その背景として、取組を担い、推進する組織・人材が不十分である ことがあげられる。 当調査において、一部の先進的地域では、誘客・滞在・再訪の促進に向け、 「魅力ある観 光資源づくり」 、 「受入態勢づくり」 、 「消費 行動を誘発するしかけづくり」等に取組み、 一定の成功を収めており、そこには多様な 主体の取組をコーディネートしている「中 核的推進組織」が存在し、コンシェルジュ 的な機能も発揮していることが明らかと なった。 先進的な地域では、一元的な情報発信を 含む誘客活動を展開し、受入態勢を充実さ せ、観光客の満足度を高めて来訪者をさら に拡大し、地域資源を活用したビジネスを 展開・拡大し、それが更なる誘客に結びつ くという好循環を形成している。 このことから、観光を地域経済活性化に 積極的に活かそうとする地域のマインド を高める取組や、観光集客の増加に向けた 具体的な取組を行うに当たっての「取組の カギ」として、以下の3点を提示する。 ① 地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 ② 地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 ③ 受入態勢の充実とその「見える化」 82 2.取組のカギ ①地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 観光集客による地域活性化に取組む地域は、まちづくり、観光集客、商品づくりを一体 的にコーディネートし、戦略性を持った取組を推進することが重要である。 そのためには、ホテル・旅館、土産店、飲食店、企業や商工団体、農林水産業、住民グ ループなどの多様な主体をつなぐ「ネットワーク化」が不可欠である。 取組の先進地においては、多様な主体をつなぐ対応に、従来の機関・団体より弾力的に 取組める NPO 法人や財団法人等の組織が当たるケースを多く見られた。 それらの組織は、地域内のネットワークの中心的な役割を担うと同時に、他の地域(都 市やムラ) 、域外の企業、外国人などをつなぐ役割も果たしている。また、観光集客による 地域活性化に向けた戦略づくりに際し、先見性と企画力を併せ持つ卓越したリーダーの下、 中心的にその機能を発揮するとともに、戦略実現に向けた様々な取組を行い、成果を上げ ている。 これらのことから、地域において観光集客による地域活性化の取組を強化するためには、 地域一体となった戦略づくりとその実現に向けた取組推進の機能を持つ「中核的推進組織 づくり」と「リーダーづくり」がカギである。 図表 NPO 法人ハットウ・オンパク(別府市)の取組事例 NPO法人「ハットウ・オンパク」は、温泉を核とした地域文化体験型イベント「別 府八湯温泉泊覧会」の開催等を通じ、ウェルネス産業興しを展開。 リーダーを中心とした NPO の組織化。複数のリーダーの育成による取組の拡大。 ネット上での情報交換の場の設定や、 「フェイス・トゥ・フェイス」の交流拠点の確 保による取組への参加促進(プラットフォーム) 。 推進組織による企業への事業提案、テストマーケティングの場の設定。 中核的推進組織の経営強化に向けた観光情報誌の発行などによる収入源の多様化、 散策ガイドなどの有料化。 ハットウ・オンパクが中心となって、久留米、都城をはじめ全国にノウハウを移転。 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 資料)NPO 法人ハットウ・オンパクホームページ 83 ②地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 観光集客による地域経済活性化に取組むに当たっては、誘客効果を高めるためと、観光 客の消費を拡大させるために、地域資源を有効に活用した「魅力ある観光資源づくり」 が カギとなる。 このためには、個人客中心の体験・滞在型へ変化する観光のトレンドを踏まえた上で、 地域に賦存する身近な地域資源の中から、 「本物」 、 「そこにしかないもの」等に着目した「目 利き」により有効な資源を抽出し、高付加価値化等により「磨き」を掛け、 「プロモーショ ン」により認知度を高めることが重要である。 「目利き」には、マーケティングによるターゲットの絞り込み等のリサーチを踏まえる ことも重要であり、 「磨き」の手法としては、 「癒し・健康」、 「物語性(うんちく)」、 「自然・ 環境保護」等を付加する手法や、モノ(ハード)とサービス(ソフト)を組み合せる手法 等があり、新たなビジネスチャンスの可能性も秘めている。 これらを行うためには、そのノウハウが地域に不可欠であり、それを有する人材や組織 の存在が求められている。 観光集客に向けた商品づくりを契機に、住民が誇れる地域の商品が、全国や世界へと恒 常的に販売される商品に発展することが期待される。 84 図表 地域資源活用の取組事例 <NPO 法人ハットウ・オンパク(別府市)> 観光客へのアンケートや、登録会員へリサーチを、常時実施。 別府市をあげての温泉博覧会はもちろん、様々な地域イベントを開催・推進し、その場を、新 たな観光資源やビジネスのテストマーケッティングに利用。 宿泊施設や飲食店を、地元の観光資源のショールーム、商品開発の実験場として活用。 温泉資源と、マッサージなど健康・癒しのサービス業とのコラボによる「ウェルネス産業」により 新たなビジネスを創出。 <財団法人阿蘇地域振興デザインセンター(阿蘇市)> 阿蘇の魅力をより感じてもらうために「スローな阿蘇づくり・阿蘇カルデラツーリズム」を提唱。 滞在型プランにより、地域資源の活用の幅が広がり、体験メニューのバリエーションも拡大。 これが、回遊と体験による地元での消費拡大をもたらし、地域経済活性化へつながっている。 滞在型の観光メニューをリストアップした冊子を作成し、地域でのプランづくりや、コンシェルジ ュによる個別対応、旅行会社への売り込みに活用。 商店街では、観光を通じて「通りの暮らし」を見せることに重点を置き、店主らが主体的に景 観・環境などの街づくりに参画することを促進。 <NPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会(長崎県小値賀町)> 「手つかずの自然」、「島民の暮らし」、「人々とのふれあい」を、無人島でのカヌー、シュノーケ リング、魚釣り、トレッキングなどの形で体験メニューに取り入れて観光商品化。 「民泊」のビジネス化による地域への経済効果。民泊は観光客と島民とのふれあいも濃く、感 動を呼ぶ。 <下町惣門会(山鹿市)> ドラマのロケ地となったこと、街のシンボル的存在であった芝居小屋の修復作業を契機に、菊 池川水運で栄えた下町地区に残る街並みを活かした地域振興を試みる。 下町地区の従業員による任意団体「下町惣門会」により、酒造所、味噌屋、煎餅屋といった 「米」に関連した店舗の従業員がガイドを行う「米米惣門ツアー」を企画。 米米惣門ツアーでは、店舗の従業員によるリレー方式での案内が好評。ガイド方法にも工夫 が凝らされており、お客への商品紹介の方法やバス運転手への商品提供などを実施。 米米惣門ツアーを始めたことで、観光客の滞在時間が大幅に増加。地域での消費も増加。 <長崎さるく博’06 推進委員会(長崎市)> 市民検討委員会から提案された「まち歩きの推進」をイベント化し、平成 18 年に「長崎さるく 博’06」を開催。平成 19 年から「長崎さるく」として再スタートし、現在に至る。 長崎さるくでは、まち歩きメニューの企画と実行が全て市民の手で実施され、利益も市民が享 受する態勢が形作られている。 長崎さるくでは、興味の程度に応じたまち歩きメニューや、各所でのイベント、展示を実施。ま ちなかに「さるく茶屋」の設置や市民ボランティアガイドを配置し、街全体を博覧会会場、散策 コースをパビリオンとしてアピールすることに成功。 独自の認証制度によって「さるくガイド」を設定し、400 名超のボランティアガイドが登録。 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 85 ③受入態勢の充実とその「見える化」 観光集客に取組むに当たり、地域の態勢づくりにおいて最も重要なことは、地域全体で 観光客を歓迎する気持ちを高めることであり、この意識が、受入態勢の充実や情報発信の 強化等を図る上での土台となる。 誘客の推進やリピーターの確保を図るためには、不安・不便・不自由の低減に向けたき め細やかな対応や、観光客のニーズに対応したメニューが提案可能な「受入態勢の充実」 と、具体的でビジュアル的な情報発信による、その「見える化」がカギとなる。 例としては、観光客へのワンストップサービスの提供、観光客のニーズに合わせ案内す るコンシェルジュ機能等が、きめ細やかな対応が可能な「態勢の充実」であり、画像・動 画などのイメージや多言語による情報発信などが「見える化」である。 さらには、シニアや外国人を受入るためのバリアフリー化や通訳、医療などのサービス 態勢の充実とその情報発信も、安心感の醸成につながる重要な要素である。 図表 財団法人阿蘇地域振興デザインセンター(阿蘇市)の取組事例 阿蘇地域の一体となった魅力を構築するため、農村交流、商店街散策、自然・史跡体験な どの「阿蘇カルデラツーリズム」と公共交通を組み合わせた取り組みをスローな阿蘇づくり として総称し、一体的なプロモーションを実施。 滞在型観光のために、旅館やイベントの情報照会などに対するワンストップ機能の充実 や、携帯電話情報サイト「阿蘇ナビ」など、ITを活用した情報の受発信を実施。 インバウンド対応として、英・中・韓のインターネットテレビ「ASO−TV」による地域観光案 内や、事業者向け外国語接客教室の開催、インターネット通訳システムの導入、多言語会 話帳の作成、バス停や駅の案内板の多言語化といった受入態勢を充実。 地域内の各エリアに対して、阿蘇 DC がワークショップ等によって地域の人達を触発。地域 住民自身による地域資源の再発見や地域リーダー育成を誘導。 地域を巻き込んで観光客を惹きつける観光資源をメニュー化した「阿蘇まちめぐりガイドブ ック」を作成。 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 資料)阿蘇テレビホームページ 86 ④「取組のカギ」による課題克服に向けた具体的アクション 「取組のカギ」をもとに、観光集客による地域経済活性化に向け、地域において新たに 取組む場合の戦略や仕掛けづくりを次のとおり提示する。 87 88 図表 事例から見た観光を通じた地域経済活性化に向けた取組のカギ 中核的推進組織と リーダーづくり 地域資源を活かした 観光資源づくり 受入れ態勢の充実と その﹁見える化﹂ 官民協働組織「ビジターズ・インダストリー推進協議会」によるインバウンド 対応(福岡市) まち歩きメニューの企画と実行が全て市民の手で実施され、利益も市民が 享受する態勢が形作られている「長崎さるく」(長崎市) 韓国釜山市に「(財)対馬国際交流協会」を設立し韓国でのプロモーションを 展開(対馬市) 一元的な観光振興、対応窓口の一本化を行うことで満足度の高いきめ細 やかな旅行を提案(小値賀町) 専門家をリーダーに招き、先見性と企画力、地域をまとめる手腕により、多 様な観光資源を「阿蘇カルデラツーリズム」として結集(阿蘇市) 泊覧会イベントの継続開催を通じて、5,000 人の顧客会員組織と200 社以 上の事業者によるプラットフォームを形成し、コミュニティビジネスの育成・ 支援を展開する「NPO法人ハットウ・オンパク」(別府市) 手つかずの自然、多くの無人島という地域資源を活かしたシーカヤック体 験プログラム、エコツアーを企画(対馬市) 「手つかずの自然」、「島民の暮らし」、「人々とのふれあい」を、体験メニュ ーに取り入れて観光商品化(小値賀町) 酒造所、味噌屋、煎餅屋といった「米」に関連した店舗の従業員がガイドを 行う「米米惣門ツアー」を企画(山鹿市) 泊覧会や関連するイベントは、地元企業やまちづくり団体等にとって、新た な事業のテストマーケテイングやプロモーションの重要な機会(別府市) マリンスポーツのお試しサービスや韓国人観光客へのトレッキングツアー の提案など新たなスポーツツーリズムの需要喚起(宮崎市) 中国人クルーズ客の入国手続きの迅速化(福岡市) 行政、民間施設の外国人向け電話通訳サービスの提供(福岡市) 外国人客の指さし会話帳、接客マニュアルの作成(福岡市) 「銀レンカード」への対応(福岡市) 街全体を博覧会会場、散策コースをパビリオンとしてアピール する「長崎さ るく」(長崎市) 独自の認証制度による市民の「さるくガイド」(長崎市) きめ細やかな対応によりオーダーメイド型旅行を提供し、リピーターを獲得 (小値賀町) 店舗の従業員によるリレー方式や商品紹介の方法等、地元の消費に結び つくガイド手法を追求(山鹿市) 多様な訪問プランや体験メニュー等を提案できる滞在型観光メニューをリ ストアップしたガイド本を作成(阿蘇市) インターネットテレビや携帯電話での情報提供システムの充実(阿蘇市) 口コミ情報を重要視し、全国の顧客会員を中心に、メールにより生の声を 情報交換(別府市) 県内の球場・グランドの空き情報とキャンプ希望団体応対を一元管理する ことで、施設間の調整や視察対応が迅速に(宮崎市) 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 89 3.その他の重要な取組 環境の保護・保全 環境面からのアプローチによる観光地イメージ向上も重要である。観光客の急増は、地 域環境に悪影響を与える懸念があり、環境が悪化すれば観光客が来なくなる。持続的な観 光振興のためには、先行的に環境を保護・保全し、観光地のイメージを向上させることが 求められる。 環境面からのアプローチの例としては、太陽光発電、電気自動車など、低炭素社会の実 現に貢献するエネルギーや機器の導入や、景観保護の新素材、エコブロックなどエコ素材 の導入などが考えられる。 ■事例紹介■法律等による規制への対応について 観光を通じた地域活性化を図るために新たな取組を進める場合、法律等の規制への対応 が必要となり注意を払う必要がある。 例えば、長崎県小値賀町では、農家民泊、漁業体験、古民家再生に関する規制への対応 が必要となった。また、別の地域のヒアリングでは、外国人ガイドや二次交通に関する規 制への対応も求められたという。 図表 対応を求められた規制の例 規制対象 農家民泊 内容 ・厨房を自宅用と来客用の分ける必要あり(食品衛生法) ・一定規模以上の民泊では、非常口サイン等をつける必要あり(消防法) 漁業体験 ・子どもの体験でも船釣り客を想定した「遊漁船業登録」が必要 (遊漁船業の適正化に関する法律) 古民家再生 ・飲食店や宿泊施設に用途変更する場合、耐震性への対応が必要 (建築基準法) 外国人ガイド ・外国人に有料でガイド通訳を行う場合「通訳案内士資格」が必要 (通訳案内士法) 二次交通 ・交通不便地域でガイドが観光客を車で案内する場合、料金の徴収は不可 (道路運送法) 資料)ヒアリング等により九州経済調査協会作成 90 第3節 地域の自発的な取組促進に向けて 「観光」を通じた九州地域経済の活性化に向けて、各地域の多様な主体が連携した取組 を促進させるには、行政や広域的な機関・組織が連携して、それらの取組を支援すること が重要である。 図表 九州における観光を通じた「地域づくり」 ・「地域再生」への取組 資料)九州経済産業局作成 91 【資料編】 資料1 国内外からの観光集客人口の増加による 地域経済活性化の可能性調査 ワーキンググループ ワーキンググループの開催の経緯と目的 当調査では、九州における国内外からの観光客の受入の現状とそれに対応する企業・地 域の取組の実態等を把握・分析し、集客増につながる地域資源のさらなる活用や新たな商 品・サービスの開発に向け調査した。調査に当たっては、専門家ならびに関係部局のメン バーによるワーキンググループを設置し、有益な情報提供やアドバイスをいただいた。 ワーキンググループの論点 ・観光に関する体系的整理及び地域産業との関連 ・九州における観光の現状及び課題 ・韓国・中国等におけるアウトバウンドの実態 ・九州における国内外の観光客受入対応の実態 ・九州の未活用地域資源の発掘と観光・集客促進等への活用 ・とりまとめの方向性(インバウンドの増加へ向けた対応策や取組の方向性、九州の資源 等の有効な活用方法) ワーキンググループの開催日程 第1回:1月 27 日(火) 、第2回:2月 17 日(火)、第3回:3月 11 日(水) ワーキンググループ委員名簿 (順不同・敬称略) 氏 名 所 属 役 職 千 相哲 九州産業大学 商学部 教授 高橋 誠 九州観光推進機構 事業本部 副本部長 枌 大輔 株式会社キューデンインフォコム e-ビジネスグループ 九州路プロジェクトリーダー 山下 真輝 株式会社JTB九州 地域活性化事業推進室 室長 大塚 久司 九州運輸局 企画観光部 交通企画課 課長 宮野 和典 九州運輸局 企画観光部 国際観光課 課長 押井 和徳 九州運輸局 企画観光部 観光地域振興課 課長 古賀 秀一 九州経済産業局 総務企画部 企画課 課長 93 資料2 九州地域活性化セミナー(概要) ∼「観光の産業化」による「地域づくり・地域再生」の実現を目指して∼ 日 時:平成 21 年 3 月 23 日(月) 14:00∼17:00 会 場:ホテル日航福岡 新館(福岡市博多区) 主 催:九州経済産業局 後 援:九州運輸局、九州観光推進機構 参加者:113 名 《プログラム》 (1)基調報告 「観光」を通じた九州地域経済の活性化に向けて 九州経済産業局長 橘高 公久 (2)観光の産業化に関する先進事例報告 事例①「オンパク型手法による地域資源の活用と人材育成」 NPO 法人ハットウ・オンパク 代表理事 鶴田 浩一郎 氏 事例②「観光の産業化による地域の再生をめざして」 MPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会 専務理事 高砂 樹史 氏 (3)トークセッション 〔司会〕九州州産業大学商学部観光産業学科 主任教授 千 相哲 氏 NPO 法人ハットウ・オンパク 代表理事 鶴田 浩一郎 氏 NPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会 専務理事 高砂 樹史 氏 (4)観光関連施策の紹介 九州運輸局企画観光部次長 山口 雅基 氏 九州経済産業局産業部産業課長 芳野 勇一郎 94 講師等プロフィール つるた こういちろう 鶴 田 浩 一 郎 氏 (NPO法人ハットウ・オンパク 代表理事) (株)鶴田ホテル(ホテルニューツルタ)代表取締役社長。 観光カリスマ百選に選ばれ、 「別府八湯温泉泊覧会(ハットウ・ オンパク) 」では、散策の商品化やウェルネス産業の育成など、温 泉資源を活かした産業の創出につながる様々な取り組みを行って いる。 たかさご たつし 高 砂 樹 史 氏 (NPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会 専務理事) 10 年間の劇団生活を経て長崎県小値賀島に移住。 平成 19 年に立ち上げた NPO では、体験学習、民泊、古民家再 生など多彩な事業に取り組む。小値賀町は今年度、エコツーリズ ム大賞特別賞、オーライ!ニッポン大賞グランプリを初めとした 各賞を受賞。 せん そうてつ 千 相 哲 氏 (九州産業大学商学部観光産業学科 主任教授) 韓国・ソウル生まれ。立教大学大学院修了(社会学博士)。 平成 11 年より九州産業大学で教鞭を執る。研究テーマは境界 にまたがる地域の観光。日本観光研究学会の理事を務めるほか、 福岡県観光審議会委員や国土交通省「道路標識」検討委員会委員 など公職を歴任。 95 (1) 基調報告 「観光」を通じた九州地域経済の活性化に向けて 九州経済産業局長 橘高 公久 九州経済と観光産業の位置づけ 九州経済の大半は、地元の生産・地元の消費であり、 どんな時期でも地元の生産、消費活動が元気であれば、 まず落ちることはない。市場は地域とともにある。 輸出産業も世界で頑張っており、成長という意味で大 変貢献している。現在、世界恐慌の荒波にもまれ大き な試練にあっている。 経済とは、地域を支え地域の活力を生み出す源泉であ る内需、地域産業と、新たな活力を世界に求めていく 二つの柱があり、どちらが欠けてもいけない。その中 で、地域の内需としうる観光の位置付けを産業の立場 からも考えてみる必要がある。 観光は幅広い産業。観光庁、九州運輸局、九州農政局 等と連携を図りながら、地域全体で取り組んでいくこ とが大事であるという視点で、皆様と一緒に考えてい きたい。 九州経済産業局における観光産業に関する取組 九州地域での戦略的取組の一つとして、「農商工連携・観光・医商連携等を通じた九州地域経済の 活性化」を位置付けている。 一つ目は「農商工連携や地域産業資源活用等の取組強化」。農業・商業・モノ作りの人たちが連携 して、地域資源を活かし、自慢できるもの、ワクワクするものを沢山作り、多くの人に使ってもら うこと。 二つ目は「中国・韓国等に対する広域的観光誘致の取組強化」。今後、国内マーケットはなかなか 成長しないことから、国際的な取組は不可欠。国際観光を積極的に考えて、産業効果をより多くの 地元の人たちに産業面でプラスにするという問題意識。経済の“伸びしろ”のある発展途上国とも 関係しており、外国の市場を引っ張ってくることを考えていかないといけない。 三つ目は「医商連携、ソーシャルビジネスの振興等による安心安全な地域社会構築」。滞在型の観 光地の売りは、ソフト(文化・人情・もてなしの心)が優れているだけでなく、物理的に癒される・ 健康になる・ストレスが減るといった効果を生み出す仕組み・環境・施設を考えようということ。 地域を住みやすくする活動を応用することで、自分が住んで幸せな地域は人にも安心して勧めたい 地域となる。地域おこしの大事な基盤であり、それ自体が新しい産業になってくるようにしないと いけない。 96 九州の観光産業の現状 観光消費額 1.8 兆円は、九州の成長を牽引する自動車産業(製造品出荷額 2.1 兆円)、半導体産業(IC 生産額 1 兆円) 、農業(農業産出額 1.6 兆円)に匹敵するもので、九州の柱にふさわしい分野。 全国に占める外国人宿泊の割合は 8.9%と、1割経済の九州ではもっと延びる余地がある。九州の 入国外国人は 92 万人で、観光庁の目標とする全国 1,000 万人の中で1割が目標。あと一息。 今後の観光振興に向けた課題と取組のカギ 観光を通じて地域経済の活性化、雇用機会の拡大を図りたい。 その際、観光を巡る環境変化に注意する必要がある。すなわち、 「団体」から「個人」へ、 「見学」 から「体験・滞在」へ、 「発地主義」から「着地主義」への流れと、高齢者とインバウンドの増加 を意識した取組が重要になる。 魅力ある観光資源づくり・地域づくりを進めるには、訪問の動機付け、消費行動の誘発、満足度の 向上が重要であり、地域資源の活用と観光客拡大の好循環の形成がポイント。 そのためには、(1)地域づくりを担い、多様な主体をつなぐための地域において中核となる推進組 織と地域を束ね地域を引っ張っていくリーダー、(2)受入れ態勢の充実とそれの旅行者への見える 化、更に(3)地域に存在する資源を活かした魅力ある観光資源づくりがカギ。 地元の人達が連携しあい観光振興を図るという点での良い事例として、別府のハットウオンパクが 上げられる。是非、この別府に学んで欲しい。 特に情報発信については IT も含めてさらなる取組が必要である。 人に話したくなるようなストーリー性のある商品づくり。加えて、自分の店のものだけでなく、地 域、町、県、日本と、PR の輪を広げていくこと。ご当地自慢を集めた上で、どうパッケージするか で売れる商品ができあがっていく。みんなで結集してストーリーをつくりましょう。 97 (2) 観光の産業化に関する先進事例報告 事例①「オンパク型手法による地域資源の活用と人材育成」 鶴田 浩一郎 氏(NPO法人ハットウ・オンパク 代表理事) 観光産業の取組段階 最近では、観光産業という言葉がどこでも通用するよう になり、産業として認められてきた。産業という括りに なると、旧来型の旅館、観光施設、テーマパークだけで なく、地域の個店や住んでいる人達の集大成が観光産業 ということになる。 観光地には成長フェーズがある。①胎動期(都城、久留 米)、②発展期(豊後高田、長湯温泉)、③成熟期(湯布 院、黒川) 、④衰退期、⑤再生期。 別府は石油ショック後、ずっと宿泊客が微減。豊富な地 域資源に依存して長らえてきたが、バブル崩壊と 97 年頃 の金融不安、デフレで完全に衰退した。衰退期は短いほ どいいが、長く続くとなかなか持ち上がらない。別府は 今、やっと再生期を迎えている。 ハットウ・オンパクの取組 オンパクは、温泉地再生のための標準化された「手法」 。現在、その手法を全国 10 カ所に持ち出し ている。オンパクモデルがうまくいくのは、胎動期、再生期のフェーズにある温泉地だ。 オンパクは 2001 年に始まり、春・秋の年二回開催。業種を問わず、集客交流をやりたい、地域の 宝を磨きたいという 200 の事業者に協力してもらい、参加交流型の商品をつくっている。旅館・ホ テルは 30∼50 軒、ウェルネス産業も同様の数、B級グルメ系商店 30 店で、これらが主力。集客数 は 2,500 人∼3,500 人程度。プログラムは参加交流型のもので 100 種類。複数の事業者によるコラ ボ企画もある。NPO 内で連携商品ができていく。事業者が増え、多様な組み合わせができるよう になってきた。これがオンパクの特徴。 プログラムの定員稼働率は約 90%。悪くても 80%。この高稼働率を支えているのは IT。IT はイ ンフラとして重要。顧客・予約管理ではシステムを構築している。オンパク好きの顧客を 5,000 人 以上確保しており、ここが最大支持層で、口コミで広がっている。 たくさんの商品を顧客の満足度の高低で判別していく仕組み。沢山の商品がでてくるが、オンパク 内で選別される。事業者にとってはオンパクがテストマーケティングの場になっており、そこで上 手くいけば通年商品になる。 98 オンパクのコンセプト オンパクは 5 つのコンセプトがある。小さな試みを積み重ね、その中で別府の再生を通じて“自分 たちがしたいこと”という基準で 5 つ決めた。 第一は、天然温泉力の体験。地元の人は、実はあまり地元のこと知らない。そこから別府八湯温泉 道の企画が生まれた。88 湯に入ると名人になれるというもの。年間 5,000 人が参加しており、100 人が名人になっている。 第二が、地域文化の体験。基本は街歩きだが、それが売れる商品になる。ロンドンウォークから学 んだ。竹瓦周辺を有料で歩く人は年間1万人くらいになっている。 また、地域文化の復活。温泉地の廃れた文化を引き戻すこと。例えば芸者さん体験や夜の路地裏散 策。面白いのは、過去の人を現役に引き戻すと、マーケットがすっかり変わる。視点を変えると、 女性がお客になり、流しの人がスターになる。これは事務局が企画し、マーケットを狙いながら、 昔の人を引き戻す。 第三がエコロジー。どこでもやっているが、一番いいのは食文化とあわせること。エコを取り入れ るのにも、コツとマーケットをあわせるノウハウがいる。 第四が食文化の体験。ほとんどがB級グルメ。例えば、別府鳥天のような地元の人が食べているも の。これが観光客の食べるものになる。総菜つまみ食いウォークなど。 最後に、健康と温泉。非常に別府にとっての大きなテーマであり、地元の雇用創出にもつながる。 例えば癒し・美のようなウェルネス産業。新しい産業を興すことを大命題にしてきた。人材開発等 の支援を受けながら、エステシャン、エクササイズの先生、医者が手を組んで、オンパクで商品展 開していく。小さく始めてうまくいけば起業する。 中間組織の態勢について NPO も大きくなり、中小企業に近いオペレーションが必要になってきた。テーマも、ソーシャル ビジネス、コミュニティビジネスに入り込んできた。融資も人材開発も必要となる。公的使命を帯 びながら、組織運営しながら、いかに地域課題を解決できるのか、というのを背負うつもりで NPO のマネジメントをやっている。 スタッフは有給。有能な人はそれなりの給与が必要だ。 全国 10 カ所でオンパクを展開しているが、再生・胎動地域の共通点は、リーダーと企画系のマー ケティングの人が 30 代後半から 40 代前半で構成されており、モチベーションが非常に高いこと。 新しいコンセプトをたてて取り組むためには、地域の中でこの年代を持ち上げないといけない。 99 事例②「観光の産業化による地域の再生をめざして」 高砂 樹史 氏(NPO法人おぢかアイランドツーリズム協会 専務理事) 小値賀島の観光の経緯 小値賀島の大きな転機は、アメリカからの修学旅行生の 受入。 今年で 3 年目だが、 満足度は 2 年連続で世界 NO.1。 アメリカの「ピープル・トゥ・ピープル」が世界 48 コース で交流を行っており、利用者アンケートのホームステイ 部門で、最高評価をいただいた。 小値賀島は、以前は全く観光地ではなかった。観光でな んとかしようとしたときに、小値賀の人と暮らしと自然 にそのまま触れてもらおうと考えた。長崎県の規制緩和 でできるようになった民泊で、農家・漁家で設備投資な しに宿泊を受け入れることができるようになった。 元々、私自身は、小値賀にゆかりもなかった。小値賀島 を訪れて、自給自足の豊かな生活を見て、ここで子ども を育てたいと思った。そのまま都会の人に体験してもら えれば商品になると思った。 小値賀島の課題と取り組み 小値賀は 6 年前、 合併問題で島が 2 分されていた。 最終的に単独市町村のままでいくこととなった。 真っ二つに割れる議論をしたが、それで良かったのはこれから島をどうしていくのか、島民それぞ れがよく議論して考えたこと。その素地があったから、小値賀島は、 「外貨を稼がないといけない」、 「観光が必要」という議論ができた。 NPO 会員は 80。人数では 100 名を超えている。島の 30 人に 1 人は会員。 島の課題は、人口ピラミッドが超・逆三角形であること。高齢化率は 42%。団塊ジュニアが小値賀 にいない。なぜかというと、20∼30 代の仕事がない。高校生は 30 数名いるが1人も島に残れない。 とても親の仕事を継いで食べていけるような事業規模がない。これが数十年続いている。 NPO では観光を産業にしようとしている。小値賀島の漁業規模が 10 億、農業規模が 5 億。そこで 観光を 5 億円産業にして、子どもが将来、小値賀島で仕事が持てるようにしようと考えている。 NPO では、島が自立してやっていくために外貨を稼ぐこととして観光を位置づけている。集客人 口を増やすことだけが目的ではないということを、立ち上げ時期に半年かけて議論した。それが NPO 組織の数値目標になっている。 NPO は、現在、8 千万の事業収入と 2 千万の国等の事業費補助収入からなっている。町役場から のお金は入っていない。 そのままの自然を売りにしているので、訪れた人が島の暮らしと自然を褒めてくれる。島民に誇り と自信が生まれた。クリーンな生活の最先端があるとの自覚がでてきた。 100 NPO の地元経済効果率(金額ベース支払先)は実に 87%。そして事業の 8 割を民間からの収入で まかなっている。常勤職員が 10 名。訪問リピーター率は 50%を超えている。 今後の取組 今後、小値賀島の観光を 5 億円産業とするために、まず小値賀島の観光大使にアレックス・カー氏 に就任してもらった。彼は古民家再生と外国人誘客に取り組んでいる。小値賀島には現在、民泊し か宿泊施設がないが、体験型を望んで来ても夜は気遣いなく虫もいない場所でリラックスしたい人 が圧倒的に多いだろう。今後、アレックスさんに古民家再生のプロデュースをしてもらい、小値賀 の建物の再生をしてほしいと考えている。 NPO は資本蓄積ができないという問題がある。今後は事業型 NPO と株式会社を両輪として、特定 第三種旅行業に登録して、 観光を 5 億円産業にしてきたい。 これまで 2 年で 1 億規模になったので、 今後 10 年くらいかけてやっていきたい。 101 (3) トークセッション 〔司会〕千 相哲 氏 (九州産業大学商学部観光産業学科 主任教授) 鶴田 浩一郎 氏 (NPO 法人ハットウ・オンパク 代表理事) 高砂 樹史 氏 (NPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会 専務理事) 地元での問題意識の共有化 ≪千 氏≫ 観光の産業化とは、産業構造を高度化するプロセス と言える。そのためにはコーディネーションや行政 の関わりが大変重要になる。コーディネーションに ついて、パネラーに伺いたい。 地域の課題に対して、地域全体で連携して輪を広げ て取り組んでいくことが上げられていた。その前の 段階で、地域の抱えている問題や危機意識、振興の方向性を、住民や事業者、行政で共有する必要 がある。その意識の共有について、両地域ではどのように図られたのか? ≪鶴田 氏≫ 問題意識の共有までの過程がなかなか難しい。 観光行政では、どうして集客プロモーションに特化しがち。一般的に、観光行政は誘致・宣伝予算 しかもってない。また、旧来のビジネスモデルでも、売れない地域商品はプロモーションしても売 れない。エージェントは売れる物を売るという視点だ。 だが、衰退地域では集客ではなく、地域をつくり直さないとダメだ。突き詰めていくと地域のつく り直しに行き着く。だが、旧来型の観光施設、行政と市民は、対立軸になることが多い気がする。 特に旧来型の温泉地等では。 市民レベルの視点で、一緒に地域を作り直さないと、トップダウンではなにも変わらない。別府で 最初に始めたのは、竹瓦温泉の再生。小さな成功体験を積み重ねていけば、市民も分かってくれる。 行政、旅館も巻き込める。この経験があったからこそ、2004 年くらいに成功して、ひとつにまと まった。 102 モチベーションの高い、何かをやりたい人を集めて小集団を作っていくことがポイント。小集団のア イデアを商品化していく。すると地域への愛着が育って、アイデアが出て、良い集客ができてくる。 地域での問題意識の共有化は、その後だろう。 ≪高砂 氏≫ 合併問題によって、島民全体が島の将来を論議した。その下地があったことが良かった。 「外貨稼ぐための商品は?」と考えたとき、物産と観光があった。しかし、安定的に船が動かない 流通リスクがあり、観光に絞られた。 私のようなよそ者がスパイスとして利いている。私は、小値賀島で観光をやるつもりは全くなかっ たが。ただ自分が感動したことがある。その日取れたものから夕食をつくる贅沢、交流体験の素晴 らしさ。自分のように感動して家族を連れてきた人が、口にする島の良さには説得力がある。 最初は少人数で始めた方が良い。小値賀では最初は 7 軒から始まった。一升瓶を持って地元の方々 に協力をお願いして回った。いざ始めると都会から来た 20 代、30 代の女性は、おばあさんの家に 泊まって感動する。野菜を採ったり、魚を釣って食べると、本当に感動する。夕食を食べて、おば あさんの話を聞くだけで、涙を流す。そして涙ながらの別れがある。 地元経済が潤う仕組みづくり ≪千 氏≫ まず、楽しくやることが大事。そのためには、情熱をもって取り組んでいける人が必要ではないか。 さらに地域住民が地域資源を知って、楽しみながら取り組むべき、という話であったと思う。 二つ目の質問だが、事例報告でも地域が潤う仕組みづくりが大事だという話があった。事業者や一 般市民にもお金が潤う仕組みをどのように形作っていったのか? またその成果はあったのか? ≪鶴田 氏≫ 何を成果指標にするのか。オンパクができたことで、別府の市民所得は伸びただろうか。きっと下 がっただろう。そもそも市民所得が増加している地域の方が少ないのではないか。 オンパクでは、成果目標を検証できるようにモデルをつくった。成果指標は事業所参加数、商品数、 売上、通年商品になった数など。要は、オンパクで地域経済を刺激できたかどうか。地域づくりを やりたい人達に向けて、導入のためのモデルシートつくった。 お金が回る仕組みは、地域にとって非常に重要だ。衰退地域では特に重要。多くの地域では旧来型 の手法で行われている。しかし新しいものを入れる時期に来ている。商工会議所や観光協会といっ た旧来組織のあり方も考えていかないと、うまくいかないだろう。自分たちの NPO は新興勢力に 近い形だと思っている。地域で旧来・新興がうまく融合するのが望ましいが、かなり時間がかかる だろう。 ≪高砂 氏≫ 小値賀島の最大の目標は、少子高齢化に歯止めをかけて、仕事をつくって、人口を維持すること。 そのためにやるべきことは、交流・体験をそのまま提供することだが、そのままでは売れない。商 品にすることが大事。 103 いくらで売るのか、仕入れ値・売り値をどうするか、協力者にいくら払うか、時間帯をどうするか、 中身の充実は。このように、そのままの交流・体験を商品に仕上げていくこと。 商品はお客様のものである、という考え方が大事。お客様に満足を与えられないといけない。民泊 に連れて行くまでどうオペレーションするか、終わった後どうオペレーションするか。受付のとき はどう対応するか、そのような“総合力”が問われる。島の観光ワンストップ窓口として、電話、 メール一本で、島に関わる観光すべてを我々でアレンジする。 地元とお客さんを調整しながら、お客さんが来て・戻るまで、すべて受け付けて、商品を買ってい ただいて、日程全てを総合的に満足してもらう。それがリピート率 50%という成果になっていると 思う。 地域資源の有効活用 ≪千 氏≫ 地域資源には人・場所性があると思う。この場所性を見極めることで、ナンバーワンでなくともオ ンリーワンになるものはたくさんあると思う。両地域は地域資源を捉え直して、新しい見方を提供 して商品化する試みが盛んであると認識している。 会場の方のために、商品化のコツや条件、売れる・注目される商品についてお話しして頂きたい。 ≪高砂 氏≫ 「そのままがいいが、そのままではダメ」と言ったが、逆に「そのままではダメだが、そのままじ ゃないとダメ」とも言える。例えば、よく地引き網をしたいという話がある。それはお断りしてい る。小値賀の漁業に地引き網の文化がないからである。要望があるからといって、地元にないもの を持ってきても意味がない。それは結局、偽物になる。地域資源を商品化するには、これが大事だ。 「小値賀が一番、ここしかできない」 、というのは必ずしも必要ない。どこでもできるものでもい い。しかし、そのひとつずつは、お客さんの一定の満足度を超えるものでないといけない。日本一 のプログラムでなくてもよいが、総合的に良かったと思えるようにプロデュースできていることが 大事。 ≪鶴田 氏≫ オンパクは、すでに顧客がついている。オンパクではリピーターを重要視しており、マスは最初か ら考えていない。しかし旅行業界は、マスツーリズムから抜け切れていない。リピート、滞在の重 要性は分かっているが、どうしても忘れられない。旅館・ホテルの財務体質も、マスツーリズム仕 様になっている。リピーター重視、滞在型観光をやると、自己否定になる人が多い。新しい動きは、 理論では分かるが体が動かないのが現実だろう。 最初、別府では集客は非常に苦労した。ブレイクスルーしたのはアンケートをしっかり分析したか ら。しっかりアンケートをとっていた。分析すると、参加者は女性が多く、満足度の高いプログラ ムは女性が作っていることが分かる。そこで、企画グループを女性、最終決定も女性にした。女性 向け商品を女性が作る態勢にした。また、時間帯毎、年代毎に求められるプログラムが違う。アン 104 ケートを元にマーケットを細分化していった。これで集客率 80%、オンパクの顧客が 5,000 人以上 となった。 行政の関わり方や行政への意見・要望等 ≪千 氏≫ 最後に、観光振興に当たって行政に期待することについて伺いたい。 ≪鶴田 氏≫ 行政との関係は、これまで良かったり悪かったりした。しかし、行政との関係の逆張りが利いて、 地域としては頑張れることもある。行政を超えて頑張ることも必要かと思う。 コミュニティビジネスに入り込んでいく NPO は、中小企業と一緒だ。リスクを代表が被って、公 益的仕事をやっている。現在、税制等の面で事業系 NPO に問題が出てきている。新たな公を担う 組織に対しては、新しい枠組みを作って欲しい。これは切なる願い。この問題にはいつも自己矛盾 を感じている。 ≪高砂 氏≫ 物産、古民家再生といった新しい事業を起こそうとするとき、お金が必要になる。しかし NPO は 資本蓄積ができないので、新しい事業に対するお金の援助はどうしても必要だろう。 現場が変化してきている。旅行者の趣向が変わり、旅行の個人化も進んでいる。また体験・交流を 求めている。しかし、現行の規制は、その変化に追いついていない。そのように現状に対応できて いないものが沢山ある。そういう話を現場から汲んで、規制緩和して、地域のコミュニティ産業が 活性化する仕組みづくりをお願いしたい。 105 セミナー参加者に対するアンケート調査(結果概要) (サンプル 37、回収率 32.7%) 参加者の属性 未記入 2.7% その他 18.9% 企業 35.1% 地方公共 団体 21.6% 個人 8.1% NPO法人 8.1% 経済団体 5.4% N=37 セミナー参加満足度 観光振興による地域活性化 に向けた取組の有無 やや不満 2.9% 普通 8.6% 未記入 2.9% 未記入 17.1% ある 22.9% 満足 42.9% ない 28.6% おおむね 満足 42.9% 今後取り 組みたい 31.4% N=35 N=35 106 平成20年度地域中小企業活性化政策委託事業 国内外からの観光集客人口の増加による地域経済活性化の可能性調査 報告書 平成 21 年 3 月発行 発 行:九州経済産業局 総務企画部企画課 〒812-8546 福岡市博多区博多駅東 2 丁目 11 番 1 号 TEL:092-482-5415 FAX:092-482-5947 URL:http://www.kyushu.meti.go.jp 調査委託先:財団法人 九州経済調査協会 〒810-0041 福岡市中央区大名 1-9-48 TEL:092-721-4907 FAX:092-716-4710 URL:http://www.kerc.or.jp/ 福岡合同庁舎本館
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