地方分権時代における自主研究活動とその支援のあり方 はじめに

地方分権時代における自主研究活動とその支援のあり方
溝
口
泰
介
はじめに
2000 年 4 月の地方分権一括法の施行によって、市町村は、住民に最も身近な総合的な行
政主体として、これまで以上に自立性の高い行政運営が求められるようになった。また、
2003 年 11 月の第 27 次地方制度調査会の答申 1 では、地域における住民サービスを担うの
は行政のみではないということが重要な視点であるとし、住民やコミュニティ組織、NP
Oその他民間セクターと協働し、相互に連携して新しい「公共空間」を形成することの必
要性とそれらの取組への期待感が表明されている。
このような状況を背景に、市町村や職員研修所では、いわゆる「政策課題研究」「行政
課題研修」などの研修プログラムを導入し、職員の意識改革及び政策形成能力の向上を目
指す取組が活発となっている 2 。
一方、市町村職員が少人数のグループをつくり、勤務時間外に地方自治法やまちづくり
に関する調査研究を行うことがある 3 。気の合う仲間が集まり、自由な議論を行うグループ
もあれば、文献調査や先進地視察をとおして、研究成果の報告を行うグループもある。市
町村職員によるこのような自主的な調査研究活動を、一般に「自主研究活動」といい、自
主研究活動を行うグループのことを「自主研究グループ」と呼ぶ 4 。自主研究活動は、その
成り立ち、テーマ、運営の仕方など、自主研究グループによって様々だが、自主研究活動
ゆえの「自主性」を生かしていくと、職場とは違った視点から市町村行政を見つめなおす
ことができると期待されている。
この点について、大森(1985、pp.4-5)は次のように述べている。自主研究活動は、
「職
員が一度職務上の仕事を離れて自由な気持ちで問題を客観的に捉えていく、そうした研究
的環境を、職場とは別個に創り出す活動である点に特色の一つがある。」「『仕事を離れる』
というのは、自治体行政の諸活動と関係のない事柄を研究するということではまったくな
く、現在の職務担当者としての、あるいは所属組織の一員としての義務からときはなたれ、
1
「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」
2
例えば、岡垣町の「行政課題研修」、福岡県市町村職員研修所の「政策課題研究」など。また、太宰府
市では、新規採用職員研修の一環として「行政課題研究」を実施している。
3
本稿では、市町村職員による自主研究活動を念頭に論じている。
4
大森(1985、p.3)は、自主研究活動を「自治体職員が、職員でありつつも、現任の職務や所属組織か
ら離れて、有志のグループを形成し、自ら研究のテーマと手法を決定し、政策研究を行う活動」と定義す
る。
......
とらわれない精神ないし観点を獲得し、そのことで逆に日常業務の現場を異なった視点か
ら捉えなおし、それまで気づかなかった課題を発見する可能性を開いてゆくことを意味し
ている」と。
市町村職員が仕事を行う場所は、一つは職場であり、もう一つは地域である。したがっ
て、
「それまで気づかなかった課題」とは、職場だけでなく地域に潜在的にある課題という
ことも当然含まれる。
本稿では、こうした自主研究活動の可能性に注目して、地方分権時代における自主研究
活動とその支援のあり方について検討を行うものである。
1
自主研究活動の概要
(1)政策研究の一環としての自主研究活動
1980 年代初頭、地方自治体に政策研究 5 の波が起きた。この時期に政策研究が全国的に
広がっていった背景には、公共施設や道路建設などの量的な基盤整備が一定の水準に達し、
質的な地域づくり 6 が求められるようになったこと、また、そうした質的な地域づくりは、
国が定めた政策を実施するのではなく地域の特性にあったオリジナルな政策を構想する必
要があると、自治体職員が認識し始めたことなどが指摘されている 7 。
こうした状況の中、自主研究活動が一種のブームとなり、地方自治体に雨後の筍のごと
く自主研究グループが形成されていった。
1984 年 5 月、「地方自治体活性化研究会」の主催によって、全国から 62 グループ、123
人が参加して、日本で初めて全国規模の自主研究交流シンポジウムが開催された。シンポ
ジウムでは、まず、法政大学教授(当時)の松下圭一氏によって「地方自治体における自
主研究の役割」というテーマで基調講演 8 が行われた。続いて、参加者は五つの分科会(「市
民参加と地域福祉」
「市民生活とコミュニティ」
「市民参加とまちづくり」
「高度情報化社会
と自治体」「職員研修と自治体活性化」)に分かれ、各参加グループの活動状況の発表や研
究交流が行われた。このときの様子について、地方自治体活性化研究会の代表(当時)は
「全国から多数の研究関係者が自費を中心として参加しただけに熱気あふれるシンポジウ
ムとなった」 9 と報告している。
また、同年 10 月には、全国から 140 団体、350 人(自治体職員、市民、研究者等)が参
5
森(2003、p.28)によれば、政策研究とは「地域独自の公共課題を発見しその課題を解決する方策を探
ること、そしてそのために、現状を調査分析し基礎概念や理論枠組みを創出すること」と定義する。
6
本稿でいう「地域づくり」とは、「住民が生活を送り、企業が企業活動を送れる環境を作ることを言っ
ており、いわゆる『(狭義の)まちづくり』とは違い、生活、産業、医療・福祉、文化、自然環境などを
包含して地域の有り様を作り上げていく」(国土交通省(2004、p.ⅷ))ことを意味している。
7
森(2003)pp.13-14
8
基調講演の内容は、松下(1987)参照。
9
大島(1984)pp.51-52
加して「第 1 回自治体政策研究交流会議」が開催され、この流れは、1986 年 5 月、自治体
職員を主力とする「自治体学会」設立へと向かっていった 10 。
この間の動きについて、松下(1987、pp.25-27)は、「このような政策研究の新しいう
ねりは、明治以来、日本の自治体の歴史ではじめての事態である」と評し、1980 年代を「職
員の政策研究の開花による職員参加の拡大の時期とみたい」と述べている。 また、大森
(1985、p.8)は、「自治体職員による自主研究活動は、広く自治体における『政策研究』
活動の一環として位置づけることができ、またそう位置づけることに大切な意義がある」
と述べている。
(2)自主研究活動を支援する制度の導入
このような状況を背景に、自主研究活動を支援する制度(以下「支援制度」という。)を
導入する市町村が登場する。支援制度は、自主研究グループに対して助成金の交付や会場
の提供などを行うものである。福岡県内では、1986 年 4 月に、前原町(現前原市)が最初
に支援制度を導入した。
支援制度では、自主研究活動を「職員相互の自己啓発意欲の向上」や「政策形成能力な
どの向上」に寄与することなど、研修活動の一環と捉えている市町村が多い。これは、市
町村が補助(助成金を交付)する場合は、
「公益上必要がある場合」に限定されている(地
方自治法第 232 条の 2)ので、職員の資質向上を図るための研修活動の一環とする方が理
解されやすいこと、加えて研究テーマと関連する部署への配慮などから、自主研究活動を
研修活動の一環と位置付けるようになったと考えられる。
しかし、大森(1985、p.4)は、自主研究活動の第一義的な目的は「テーマ(問題)の
客観的、科学的解明にあたる点」にあり、
「自主研究が個々の職員の能力開発につながるこ
とがあっても、それは問題を広い視野のなかで捉える、問題を複眼的にあるいは相対的に
見る、そういう研究方法の実行に伴う効果であって、研修的効果をあげること自体が目的
なのではない」と強調する。もっとも、
「研修と研究の区別は実際には必ずしも明確に行わ
れて」いないと指摘し、
「自主研究といっても、助成金をうけ、しかも自治体の職員の行う
活動である限り、名目上は研修の一環に組み込んでおいた方が筋が立つと考えられやすい、
といってよい。確かに、自主研究活動の助成を制度化し、助成対象をしぼり込み、定まっ
た様式で活動報告を出させるようになれば、相対的に自主性の高い研修活動とあまり変わ
らなくなるだろう」と述べている。
自主研究活動は、支援制度上では研修の一環と位置づけられるとしても、大森が強調す
るように、その第一義的な目的は、テーマの客観的、科学的解明にあることは留意すべき
であろう。
10
政策交流会議は、自治体職員による政策研究活動の交流の場であり、自治体学会は、会員による総会・
シンポジウム・研究会の場である。
2
福岡県内市町村における自主研究活動の現状と課題
(1)アンケート調査
福岡県内市町村における自主研究活動の現状と課題を把握するために、二つのアンケー
ト調査を行った。一つは、県内 96 市町村を対象とした「市町村アンケート」である。もう
一つは、市町村アンケートで把握した自主研究グループ(90 グループ)を対象とした「自
主研究グループアンケート」である(表 1)。本章では、二つのアンケート調査について、
その結果の概要を取りまとめ考察を加えた(アンケート調査結果の単純集計を文末に「資
料」として掲載)。
表1
アンケート調査の概要
市町村アンケート
自主研究グループアンケート
対象
福岡県内 96 市町村
市町村アンケートで把握した自主
研究グループ (90 グループ)
送付先
職員研修担当課又は企画担当課
各自主研究グループ代表者
送付・回収
郵送
郵送
期間
2004 年 5 月 28 日~6 月 11 日
2004 年 6 月 28 日~7 月 9 日
回収結果
回収数 96(回収率 100%)
回収数 56(回収率 62.2%)
(2)県内市町村の現状
ア
支援制度の導入状況と支援の内容
市町村における自主研究活動の支援状況を把握するため、支援制度の導入の有無と支援
の内容について調査を行った。2003 年度末時点において、96 団体 11 のうち 27 団体(28.1%)
が支援制度を導入しており、その内訳は市が 19 団体、町村が 8 団体となっている(図 1)。
市においては、24 団体中の 19 団体(79.2%)と約 8 割の団体が導入しているが、町村
においては 72 団体中の 8 団体(11.1%)と 1 割程度にとどまっている。
69
ない
ある
図1 支援制度の有無
11
市
19
町村
8
27
本稿では、市町村数の単位として「団体」を用いている。
また、支援制度が「ある」と回答した 27 団体に、支援の内容について、図 2 のとおり 6
項目を設定して調査を行ったところ、「研究活動に必要な経費に対する助成金の交付」が
24 団体(88.9%)と最も多く、助成金の交付が支援の中心となっていることが分かる。
2003 年度における 1 グループ当たりの助成金額は、市が 51,455 円、町村が 62,000 円と
なっている(文末「資料」2(10)参照)。
支援制度を導入している市町村が、全体の 3 割程度にとどまっているのは、支援制度に
おける支援の中心が助成金の交付となっていること、つまり支援制度の導入には当然予算
が伴うということが弊害の一つとなっていると考えられる。支援制度に対する 2004 年度の
現計予算額の平均を見ると、市、町村ともに 30 万円程度計上している(文末「資料」1(7)
参照)ことから、財政状況が厳しい市町村では、支援制度を新たに導入することは困難と
思われる。しかし、支援制度を導入していない市町村からは、職員の資質や能力の向上の
ために、その導入を切望する意見が寄せられた(4 団体)。
24
研究活動に必要な経費に対する助成金の交付
12
研究活動に必要な会場(会議室)の提供
9
調査視察やセミナー等へ参加する際の職務免除
7
研究活動に必要な資料の提供
0
特段何もしない
3
その他
0
5
10
15
20
25
30 (団体)
図2 支援の内容(複数回答)
イ
自主研究グループ数の推移
支援制度を導入している市町村では、実際にどれくらいの自主研究グループが活動を行
ったのであろうか。
図 3 は、1999 年度から 2003 年度までの自主研究グループ数の推移を示したものである。
福岡市と福岡市以外の市町村の自主研究グループ数を分けて示しているのは、県内では福
岡市の自主研究グループ数が突出しているからである。
全体では、2001 年度の 94 グループを最高に、80~90 グループの間を推移している。内
訳をみると、福岡市の自主研究グループは、1999 年度の 33 グループから年々増加し、2003
年度は 53 グループとなっている。その割合は全体の 6 割近くを占めている。過去 5 年間の
数値をみる限りでは、福岡市の自主研究グループは増加傾向にあり、福岡市以外の市町村
の自主研究グループは、減少傾向にあることが読み取れる。
なお、この自主研究グループ数の調査結果は、支援制度を利用している自主研究グルー
プ数であることに留意する必要がある。支援制度を導入している市町村の中でも、自主研
究活動はあくまでも自主的な活動であるから、支援制度を利用しない自主研究グループも
存在すると思われる。また、支援制度を導入していない市町村においても自主研究グルー
プは存在すると思われるが、今回の調査で把握できたのは 1 グループのみであった。
(グループ)
94
100
84
80
51
46
80
60
85
57
45
90
37
40
20
33
34
37
40
1999
2000
2001
2002
53
福岡市以外の市町村
福岡市
0
2003
(年度)
図3 支援制度を導入している市町村の自主研究グループ数の推移
図 3 をみると、福岡市と福岡市以外の市町村では、1999 年度と 2003 年度の自主研究グ
ループ数の割合が逆転している。これは、福岡市では、積極的に制度の周知を図った結果、
グループ数の増加につながったと考えられる。
しかし、一般的には、一時期と比較し自主研究グループの数は減少していると指摘され
ている 12 。この点については、行財政改革の一環として職員が削減される一方で、業務内
容が高度化、多様化しており、職員一人当たりの業務量が増加して、職員に余力がなくな
ったこと、また、仕事とプライベートを峻別し、プライベートな時間を利用してまで研究
活動を行おうという意欲のある職員が少なくなってきたことなどが、グループ数減少の要
因として考えられる(自由回答に基づく。)。
各自主研究グループにおける 1 年間の研究会の平均活動期間は 9.6 月であり、開催回数
は「月 1 回」が最も多い(文末「資料」2(3)(4)参照)。年間に 10 回程度は研究会を開催
し、さらに、報告書の作成やアンケート調査の集計作業などを行うことを考えると、研究
活動には多くの時間を費やすことになる。
自主研究活動を行ったからといって、研究成果が事務事業や施策へ直ちに反映されるこ
とはない。したがって、自主研究活動は「割に合わない」活動となるため、あえて自らの
時間を費やしてまで行おうという意識が乏しくなり、自主研究活動が敬遠されるようにな
ったのではないかと考えられる。
ウ
研究成果の取扱
自主研究グループにとって、研究成果をどのように報告し、政策や施策、事務事業(以
下「政策等」という。)へ反映させるかということは関心が高い点である。そこで、支援制
12
大石田(2004b)p.112
度における研究成果の取扱について、図 4 のとおり 11 項目を設定して調査を行った。
研究成果を報告する機会を設けている市町村は 27 団体中 19 団体である。その方法とし
ては、
「市町村長へ直接報告」や「職員に参加を求めて研究報告会を実施」など、すべて庁
内での報告にとどまっており、住民やマスコミなど外部へ公表を行っている市町村は 1 団
体もない。一方、「特段何もしない」という市町村が 8 団体ある。
8
市町村長へ直接報告
6
職員に参加を求めて研究報告会を実施
報告書を各課へ回覧
4
研究テーマに関係のある部、課に対して報告
4
4
庁議での報告
庁内広報紙や庁内LANを利用して紹介
2
部課長会議等での報告
2
職員だけでなく住民にも参加を求めて研究報告会を実施
0
マスコミを通じて外部へ公表
0
8
特段何もしない
1
その他
0
5
10
(団体)
図4 研究成果の取扱(複数回答)
次に、1999 年度から 2003 年度までの間に、自主研究グループによる研究成果が政策等
へ反映された実績について調査を行ったところ、27 団体中 9 団体、案件は計 13 件であっ
た(文末「資料」1(6)参照)。その内容は、
「ISO14001 認証取得に向けた取組」
「エコオ
フィスの取組」「接遇マニュアルの配布」「名札の大型化」「総合案内の設置に寄与」「各職
場窓口カウンターのローカウンター化」など職場環境の改善に関するものが 8 件、
「市ホー
ムページの開設」「コミュニティバスの時刻表のデザイン刷新」「和白干潟活性化事業」な
ど事務事業の提案、改善に関するものが 4 件、
「男女共同参画の推進に寄与」という新たな
政策の提案に関するものが 1 件となっている。
1999 年度から 2003 年度までの自主研究グループの総数が 433 グループ(図 3 参照)で
あることを考えると、後で述べるように、すべての自主研究グループが提案を目的とする
ものではないとしても、研究成果が反映された実績が 13 件というのはあまりに少ない。こ
れは、政策等に反映できるような研究成果が報告されなかったことが要因の一つと推測さ
れるが、
「特段何もしない」という市町村が 8 団体あることから、研究成果の取扱にも問題
があると思われる。
エ
支援制度の問題点
支援制度を運営する上での問題点を把握するために、図 5 のとおり 7 項目を設定して調
査を行った。27 団体中、「特段問題はない」と回答した市町村は 1 団体もなく、支援制度
を導入している市町村では少なからず何らかの問題を抱えていることが分かる。上位に挙
がったのは、自主研究活動に取り組む職員の減少又は固定化の問題である。なお、職員の
減少又は固定化を問題点として挙げた市町村では、
「全庁的な理解や関心が得られない」
(9
団体)や「具体的な政策提言がなされない」
(7 団体)なども問題点として挙げており、支
援制度の運用が円滑に行われていないことが読み取れる。
15
自主研究に積極的に取り組む職員が減っている
14
自主研究に積極的に取り組む職員が固定化している
9
全庁的な理解や関心が得られない
7
具体的な政策提言がなされない
3
テーマがマンネリ化して新規性に欠ける
5
その他 0
特段問題はない
0
4
8
12
16
(団体)
図5 支援制度の問題点(複数回答)
こうした状況の中、27 団体中 20 団体が 2005 年度以降も支援制度を「存続させる予定」
と回答しており(図 6 参照)、どのような方向で存続させるのかという問いには、13 団体
が「現状のまま」と回答した。そのほかには、「グループづくりの働きかけ」「グループ数
の増加に向けた制度の周知」など、支援制度を職員の間に浸透させる取組を挙げている市
町村や「研究成果の公表や発表」の機会を検討している市町村もある。支援制度を「廃止
する方向で検討」と回答した市町村が 1 団体もないことから、支援制度を導入している市
町村では、少なくともその必要性は認識していると思われる。しかし、多くの問題点を抱
え、形骸化が進んでいると思われる中で、支援制度の充実に向けた有効な方策が見出せな
い状況にあると考えられる。
未定 7
廃止する方向で
検討 0
存続させる予定 20
(単位:団体)
図6
2005 年度以降の支援制度
(3)自主研究活動の現状
自主研究活動の現状を把握するため、①活動目的、②メンバーの年齢及び構成、③活動
概要、④住民やNPO等との交流状況、⑤活動上の問題点、⑥助成金額について調査を行
った。本節では、①④⑤について調査結果の概要を示し考察を加えた(②③⑥については、
文末「資料」参照。)。
ア
自主研究活動の目的
自主研究活動の目的を把握するため、①「市町村行政についての知識及び技能の習得又
は向上」、②「事務事業の専門的な研究」、③「所属する市町村が新たに実施すべき政策な
どの提案」、④「業務の能率改善や行政運営の効率化」及び⑤「その他」の 5 項目を設定し
て調査を行ったところ、図 7 の結果が得られた。
業務に関する知識や技能の習得、事務事業の専門的な研究を行う「学習型グループ」
(①
②)が 5 割を占め、政策や事務改善の提案を行う「提案型グループ」
(③④)は 3 割に満た
ないことが分かった。
33.9
市町村行政についての知識及び技能の習得又は向上
事務事業の専門的な研究
17.9
14.3
所属する市町村が新たに実施すべき政策などの提案
10.7
業務の能率改善や行政運営の効率化
n=56
23.2
その他
0
10
20
30
40
(%)
図7 自主研究活動の目的
イ
自主研究グループの交流状況
自主研究活動の過程で、自主研究グループのメンバー以外の人や団体と、交流や共同研
究を行ったのかを把握するため、図 8 のとおり、7 項目を設定して調査を行った。
19.6
民間企業
n=56
14.3
住民(個人)
12.5
NPOやボランティア団体
他の市町村職員や自主研究グループ
8.9
大学
8.9
17.9
その他
42.9
行っていない
0
10
20
30
40
50
(%)
図8 自主研究グループの交流状況(複数回答)
その結果、42.9%が「行っていない」と回答した。もっとも、
「民間企業」
(19.6%)、
「住
民(個人)」
(14.3%)、
「NPOやボランティア団体」
(12.5%)などと交流や共同研究を行
ったと回答した自主研究グループでも、研究活動の助言者や、自主研究グループが主催す
る講演会・研修会の講師としての交流がほとんどで、自ら地域に出向き住民やNPO等と
積極的に交流や共同研究を行った自主研究グループは 3 グループだけであった(自由回答
に基づく。)。
ウ
活動上の問題点
自主研究活動を行う上で困ったことについて、図 9 のとおり 10 項目を設定して調査を
行ったところ、6 割以上の自主研究グループが活動上の問題点を抱えていることが分かっ
た。
39.3
仕事が多くて時間的余裕がなかった
14.3
研究成果を実際に施策化する仕組みがなかった
12.5
研究手法がわからなかった
研究成果の発表の場がない、あるいは少なかった
5.4
全庁的な理解や関心が得られなかった
5.4
研究テーマに関する資料等が得られなかった
5.4
助成金額が不十分、あるいは必要以上の使途の限定
3.6
先進地調査ができなかった
3.6
17.9
その他
n=56
32.1
特段困ったことはなかった
0
10
20
図9 活動上の問題点(複数回答)
30
40
50
(%)
最も多かったのは、「仕事が多くて時間的余裕がなかった」の 39.3%(22 グループ)で
ある。行財政改革に伴う職員数の削減や、市町村合併の協議の進展によって業務量が増加
していることから、自主研究活動を行った職員にとっても、時間的な制約がある中での活
動になっていたと思われる。
次に「研究成果を実際に施策化する仕組みがなかった」(14.3%)という回答について
は、
「研究成果の発表の場がない、あるいは少なかった」
(5.4%)と合わせて考えると、研
究成果の取扱について不満があることが読み取れる。このことからも、研究成果の取扱に
問題があることが考えられる。
また、「研究手法がわからなかった」(12.5%)ことについては、議論の進め方、情報収
集の方法、報告書のまとめ方など、活動全般にわたっているようである。これは、メンバ
ー内に調査研究に長けた職員や、庁内に研究手法についてアドバイスを行う人物がいなか
ったことなどが考えられる。
(4)自主研究活動の活性化に向けて
支援制度を導入している市町村では、自主研究活動に参加する職員が減少あるいは固定
化している、全庁的な理解が得られないという問題を抱えていることから、制度の運用が
円滑に行われているとは言いがたい状況にある。
しかし、このような状況にもかかわらず、支援制度を廃止する方向で検討している市町
村は 1 団体もないことから、支援制度を導入している市町村では、少なくとも自主研究活
動の重要性と支援制度の必要性を認識していると思われる。
自主研究活動は、政策研究の一環として具体的な政策提言を生む可能性を持つことを考
えると、それを活性化させることが重要である。そのためには、現状の支援制度では不十
分な面があること認識し、その改善策を検討するとともに、自主研究活動についても、こ
れまでの活動スタイルから、地方分権時代に即した活動スタイルへとシフトしていくこと
を検討することが必要である。
3
自主研究活動の支援のあり方
(1)自主研究活動の活性化に向けた支援策
支援制度における支援の内容を整理すると、「研究活動に必要な経費に対する助成金の
交付」
「研究活動に必要な会場(会議室)の提供」
「研究活動に必要な資料の提供」
「調査視
察やセミナー等へ参加する際の職務免除」などが主なものである。自主研究グループにと
って、助成金の交付を受けたり、公共施設内の会議室を無料で使用できたりすることなど、
有形無形の支援内容は、研究活動を行う上では大きなメリットである。
自主研究活動を活発化させるためには、まず、このような支援制度を導入することが必
要と考える。しかし、既に支援制度を導入している市町村では、制度が円滑に運用されて
いるとは言えない状況にあることから、多くの自主研究グループが「研究手法」と「研究
成果の取扱」について問題を抱えている点(前述 2(3)ウ参照)に注目して、自主研究活
動の活性化に向けた支援策について検討を試みる。
研究手法については、庁内に適材がいなければ、NPOや大学、シンクタンク等に助言・
指導を依頼することが考えられる。調査研究に不慣れな職員に対しては、このような支援
を行うことは重要であり、支援制度の中で検討することも一案である。しかし、今後の自
主研究活動のあり方として、後述のような「地域型自主研究活動」へのシフトを考慮する
と、支援制度での支援を期待するよりも、自主研究グループが研究活動の中でこれらとの
交流を積極的に行うことによって自ら解決を図っていくことが必要ではないかと考える。
これに対して、研究成果の取扱については、いかに優れた研究成果であっても、それを
報告(公表)する場や政策等へ反映させる仕組みがなければ、調査研究を行う意味が半減
されてしまうことから、積極的な支援が必要と考える。自主研究グループは、庁内広報紙
や庁内LANなどを利用して独自に研究報告を行うことも可能であるが、様々な制約から
独自に行うことにも限界がある。また、研究成果を政策等へ反映させることについては、
「職員提案制度」を利用することも考えられるが、すべての市町村にそれが導入されてい
るわけではない(文末「資料」1(10)参照)。したがって、研究成果の取扱に関する支援は、
職員のモチベーションを高めるだけでなく、自主研究活動を活性化させるためにも必要で
はないかと考える。
(2)研究成果を報告する機会
県内の自主研究活動は、市町村行政についての知識や技能の習得を目指すグループや事
務事業の専門的な研究を目指すグループなど、
「学習型グループ」が多いことがアンケート
調査結果から分かった(前述 2(3)ア参照)。学習型グループでは、メンバーの知識の探
究や技能の習得が中心となるため、特段、活動内容を発表したり政策提案をしたりするよ
うなことはない。しかし、学習型グループは、自主研究活動の初期の状態と考えられ、議
論が深まり、活動を継続していくうちに、研究内容の報告や、政策提案を目指す「提案型
グループ」へシフトすることも考えられる。
そこで、第 1 段階として、研究成果を報告する機会を提供することが必要となる。
具体例としては、アンケート調査項目で列挙した「市町村長へ直接報告」「庁議での報
告」
「部課長会議などでの報告」
「報告書を各課へ回覧」
「研究テーマに関係のある部、課に
対して報告」「庁内広報紙や庁内LANを利用して紹介」「職員に参加を求めて研究報告会
を実施」「職員だけでなく住民にも参加を求めて研究報告会を実施」「マスコミを通じて外
部へ公表」などを挙げることができる。
アンケート調査結果からは、市町村は住民やマスコミに公表を行うことについて消極的
な態度がうかがえるが、今後は庁内での報告にとどまらず、市町村のホームページや広報
紙などにも研究成果を積極的に掲載して、住民や他市町村の自主研究グループなどから多
様な意見を集約することが、研究成果向上のためにも必要である。
(3)研究成果を政策等へ反映させる仕組み
研究成果の報告を行っている市町村でも、研究成果を政策等へ反映させることについて
は、支援制度実施要綱等に「市政に反映させるように努める」という市町村長の努力義務
を規定している程度である。したがって、第 2 段階として、研究成果を政策等へ反映させ
る仕組みをつくることが重要である。
この点において参考となるのが、
「久留米市政策提案制度」である 13 。久留米市政策提案
制度は、
「久留米市職員に創意工夫による政策提案を奨励することによって、職員の政策形
成能力の向上を図り、柔軟かつ活力ある行政運営を推進することを目的」としている。特
13
2004 年度は 22 件の提案があり、最終的に 7 件がトップ会議で決定された(採用 1 件、研究 6 件)。な
お、久留米市には別途支援制度がある(ヒアリング調査に基づく。)。
徴的なのは、提案の審査が「予備審査」「政策提案審査会議」「トップ会議」と 3 段階ある
こと(図 10 参照)、また、提案受付から実施までが実施要綱に具体的かつ詳細に規定され
ていることである。
トップ会議
政 策 提 案審 査 会 議
予 備審 査
政策提 案
図 10
採用
研究
送付
久留米市政策提案制度の主な流れ
提案の審査について少し詳しく見ていこう。職員から提案された提案書は、まず課長補
佐又は主査級の職員で構成される予備審査に付される。予備審査では、提案書を提出した
職員から意見を聴取(10 分程度のヒアリング)するとともに、提案内容の実現可能性を確
保するために提案内容に関する事務を所掌する所管課長に、提案内容に対する意見書の提
出を求める。これらを参考に、政策提案審査会議に付する必要があると認められる政策提
案を決定する。
政策提案審査会議は部課長級の職員で構成される。政策提案審査会議では、提案内容に
関する事務を所掌する所管部長の意見を聴いたうえで、①問題意識、②有効性、③経済性、
④実行性、⑤創意性、⑥具体性、⑦総合性の 7 項目により審査を行う 14 。各審査項目の内
容及び評点の最高点は表 2 のとおりである。
表2
久留米市政策提案制度における政策提案の審査基準
審査項目
内容
評点の最高点
①問題意識
市民ニーズの現状・課題と行政が果たす役割
5点
②有効性
市民福祉の向上の程度
10 点
③経済性
効果に比較した費用の効率性の程度や経費節減効果
10 点
④実行性
政策の実現にあたっての実行・実現可能性及び検討の程度
5点
⑤創意性
着想の独創性や先進性、新たな視点の導入
5点
⑥具体性
提案内容の具体性
5点
⑦総合性
総合的な視点からの優秀さの程度
10 点
(出所)「久留米市政策提案制度実施要綱別表」一部改
14
これらの各審査項目について点数が配分されており、7 項目の合計は 50 点満点となる(政策提案審査
会議のメンバー1 人当たりの持点)。
これらを参考にして、研究成果の取扱を「採用」「研究」「送付」のいずれに該当するか
を検討する。
「採用」とは、政策提案を翌年度の事業化に向けて検討するもの、又は翌年度
の事業化は困難であるが実現に向けて検討するものである。
「研究」とは、政策提案の事業
化に向けて、当該提案内容に関する事務を所掌する組織で研究をするものである。「送付」
とは現時点では政策提案の内容は採用しないが、今後の事業運営に資する意見として、当
該提案の事務を所掌する組織へその内容を送付するものである。
市長、助役、収入役、教育長などで構成されるトップ会議では、政策提案審査会議で検
討された結果を踏まえ、最終的に研究成果の取扱を決定する。
なお、「採用」又は「研究」と取り扱われた提案内容については、事業化に向けて所管
課長に実施報告書や研究報告の提出を求めていることも特徴である。
以上のように、久留米市政策提案制度は、提案の受付から実施までが実施要綱に具体的
かつ詳細に規定されている。これを参考に、支援制度において、研究成果の報告と研究成
果を政策等へ反映させる具体的な仕組みづくりを行うことが必要である。
(4)透明性の確保
久留米市政策提案制度では具体的に規定されていないが、研究成果を政策等へ反映させ
る仕組みにおいて、提案の受付から実施までを庁内LANなどを利用して常に透明化を図
っておくことが必要と考える。提案を行った自主研究グループの名称や構成メンバー、研
究成果に加え、審査委員の氏名、審査結果、採否の理由に至るまで、すべて公開すること
が望ましい。審査過程等について透明性を確保することにより、自主研究活動に対する全
庁的な関心を引き起こすことが期待できるだけではなく、新たに自主研究活動に取り組む
職員にとって、研究方法や研究の視点などを学ぶ貴重な資料になると思われるからである。
4
地域に密着した自主研究活動
アンケート調査結果(前述 2(3)イ参照)によると、自主研究活動については、住民や
NPO等と交流を行っている自主研究グループは 5 割強あるものの、そのほとんどが研修
会に講師として招く程度で、自主研究グループ内の活動にとどまっていることが分かった。
しかし、「はじめに」で述べたとおり、自主研究活動は、地域に潜在的にある課題を発
見する可能性を開いていくことに意味があるとすれば、住民やNPO等との交流は、一時
的、一方向の関係ではなく、継続的、双方向の関係を築きあげることが重要である。市町
村行政の現場では、地域づくりに関して市民参加や住民との協働が盛んに主張されている
ことからも、地方分権時代の自主研究活動のあり方を考える場合には、住民やNPO等と
の関係づくりを視野に入れた取組を行う必要があるのではないだろうか。
(1)住民やNPO等との対話を重視する自主研究グループ
アンケート調査を行った自主研究グループの中から 6 グループ、及び県外の先進的な自
主研究グループの中から 3 グループを選定し、ヒアリング調査 15 を行った。その中から、
特に、住民やNPO等との対話を重視している二つの自主研究グループを紹介する。
ア
福岡市自主研究グループ「ナウ
「ナウ
フォー
フォー
フューチャー!!」(NOW
フューチャー!!」
FOR
FUTURE、以下「NFF」という。)は、
福岡市の若手職員 5 人が、地域づくりやコミュニティをテーマに結成したグループである。
2002 年に「コミュニティの自律経営」をテーマとした九州大学大学院との共同研究 16 に参
加したメンバーが、このままでは終わらせたくないとの思いから、2003 年、支援制度を利
用して自主研究活動を始めた。
NFFの特徴は、机上の研究だけでなく、地域に出向き住民と一緒に汗をかくことを積
極的に行っていることである。例えば、清掃美化活動やまちづくり活動、NPOフォーラ
ムの運営などの市民活動に参加して、住民の課題、ニーズをより深く理解しようと試みて
いる。また、地域や市町村が直面している課題を解決するために「ふくおかNPOセンタ
ー」と連携し、
「本音でトーク!!はっけよいコミュニティ」
(2003 年 12 月)、
「協働講座」
(2004
年 11 月)といったシンポジウムや研修会を開催して、多くの住民や市町村職員から好評を
博したところである。
一方、庁内においても、市長や各区長をはじめ、職員有志と意見交換を行うなど活発な
活動を展開している。さらに、市の新規採用職員研修では、
「プレゼン講座」の講師を務め
るなど、自主研究活動で培った能力を遺憾なく発揮している。
NFFでは、ホームページ 17 を作成し、これまでの活動の記録や、ミニレポート(まち
づくり活動報告、視察報告など)を発表することにも意欲的である。
代表を務める的野浩一氏(建設局建設部施設建設課)は、これまでの活動内容について
2002 年はプログラムに沿った研修(市職員研修所による政策課題研修)、2003 年前半は自
主的な研修、2003 年後半から 2004 年は市民活動の実践と位置づけ、
「時間をかけて徐々に
ではあるがステップアップしている」と振り返る。特に、市民活動の実践については、こ
れまでの自主研究活動のイメージを払拭させることができ、
「メンバーとして大きな進歩で
あった」と強調する。さらに、
「活動の成果を発表でき、アピールできたことが貴重な体験
となり、またその後の新たな活動のモチベーションとなった。特に市長や区長会などでの
15
期間:2004 年 6 月~10 月。対象:本章で紹介する 2 グループのほか、「マーケティングを考える会」
(北九州市)、
「FIT」
(田川市)、
「市民と協働を考える会」
(筑後市)、
「ユニバーサルデザイン推進研究
会」「ふくまっこ研究グループ」(以上、旧福間町)、「九州自治体法務研究会」(事務局:熊本県町村会)
及び「ベープラン」(小平市)。
16
市職員研修所の研修プログラム「大学院との共同研究研修」の一環として実施。
17
http://nowforfuture.net/
発表は、各所属においても我々の活動の内容について説得力を持ったものとなり、理解が
深まった」と述べ、自主研究活動を継続するポイントの一つとしてアピールの場があった
ことを挙げている 18 。
イ
横須賀市自主研究グループ「ナイトクラブ」
スナックのマスターの集まりとよく間違われるという「ナイトクラブ」は、1977 年に結
成され、日本では最長寿と言われている自主研究グループである。騎士(ナイト)のよう
な果敢な志を持ち、勤務時間外の夜に研究活動を行うことからナイトクラブと名付けたと
いう(現在のメンバーは 8 人)。
ナイトクラブの誕生期は、学生時代の問題意識や、仕事に対する考え方、メンバー各人
の得意とするテーマの発見・意見交換の場であった。それが、1980 年 6 月に支援制度が導
入されたことを契機に、統一テーマについて研究を行うようになった。例えば、
「地方自治
法第 14 条-条例制定権について」
(1980 年度)、
「横須賀市の事務事業の現状と分析-民間
委託」(1981 年度)、「高齢化社会-自治体の課題」(1982 年度)と続き、最近では、「地方
分権推進に際しての新たなる提案」(2002 年度)、「アイデンティティから見た横須賀のま
ちづくり」(2003 年度)、「(仮称)横須賀の賑わいづくり」(2004 年度)というテーマに取
り組んでいる。
こうした研究の成果は、研究機関誌に各メンバーの自由研究とともに取りまとめられて
いる。研究機関誌は 2~3 年に 1 回発行しており、2001 年に 8 冊目となる 25 周年記念号(約
200 頁)を発行したところである 19 。
ナイトクラブの活動の特徴として一番に挙げられるのは、市民団体などとの積極的な交
流である。例えば、市民との協働という観点からは、
「よこすか未来塾」の活動がある。よ
こすか未来塾とは、ナイトクラブと市内の青年会議所などの市民団体、計 6 団体で構成さ
れる「まちづくり市民ネットワーク」である。各団体の枠組みを乗り越えて横須賀を元気
にしようと、3 年の月日をかけて 1993 年に結成された。よこすか未来塾では、市民から寄
せられた「最初・日本一・自慢・貴重・唯一」という一番情報をもとに、
『よこすか一番物
語』 20 を発行した。この本は、三浦半島地区でベストセラーを 8 週間続け、10 か月で 6 千
部が完売したという。また、横須賀の新しいお土産を作る「よこすか・みやげコンテスト」
や、新しいイベントでまちを盛り上げる「ヨコスカ・イベントコンテスト」などを開催し
てきた。現在は、市と連携して「横須賀市市制 100 周年記念事業」に取り組むなど活動の
幅は広い。
ナイトクラブ代表の山田良正氏(市保健所総務課長)は、快適な建物の中で活動をする
18
的野「自主研究グループの視点での研修支援」(ヒアリング調査時資料)
19
2006 年に「結成 30 周年記念号」を発行する予定。
20
かなしん出版、1995 年。
のではなく「どんどんまちに出て、まちの風に吹かれ、地域の行政ニーズを感性豊かにし
て感じ取り、日々の業務に反映させていく姿勢を大切にしていきたい。
(中略)市民協働で
の取り組みは多くのヒントを与えてくれ」ると述べている 21 。
(2)地域型自主研究活動の意義
NFFやナイトクラブのように、地方自治に関する理論的な研究を行う一方で、市民活
動などの実践活動を通して住民やNPO等と積極的に交流を行う自主研究活動を、ここで
は「地域型自主研究活動」と呼ぶことにする。地域型自主研究活動の特徴は、住民やNP
O等との継続的な交流や共同研究を通して課題を発見し、その解決までを視野に入れてい
る点にある。県内の自主研究グループの大半がグループ内の活動にとどまり、しかも座学
中心の活動を行っていることからすると、地域型自主研究活動は、地域に密着した自主研
究活動として注目に値する。
そもそも地域型自主研究活動の根底にあるのは、フィールドワークを中心とする「現場
主義」の考え方である。大森(1985、p7)は、この現場主義の考え方を「自主研究グルー
プの運営の基本」と位置づけ、次のように述べている。
「まず現地へ、現場へでかけていっ
て、自分の眼で見、自分の耳で聞くことによって実態と問題を感じることである。これは、
できあいの講師をよんできたり、書かれた文献だけを読んで、問題が判った気になってし
まうのでなく、一種のフィールドワークを行うことで研究を地に足がついたものにするこ
とである。と同時に既存の文献や講義からは欠落したり軽視されがちな実態について新た
な発見をしようとする努力でもある。この現地、現場主義によって得られた新しい知見が
異質なグループ・メンバーの発想・着眼点・考え方等によって解明され検討されるとき、
なにが本当の問題なのか、なにを研究上の焦点(と)することが必要なのかの見当をつけ
ることができるわけである」 22 と。
この大森の見解は、20 年前に公表されたものであるにもかかわらず、県内の自主研究活
動は、未だに庁舎内での活動が中心となっているのが現状である。なぜ、自主研究活動に
おいて、現場主義の考え方が浸透していないのか。その背景には、行政による「公共独占」
の意識が根強く残っていることが考えられる。つまり、長年にわたり、良くも悪くも行政
主導の地域づくりが進められてきた結果、住民や団体の声は参考意見の一つに過ぎないと
いう職場風土が形成され、このことが自主研究活動にも少なからず影響を与えてきたもの
と思われる。
しかし、近年、住民の考えや感覚とかけ離れた行政による地域づくりに業を煮やし、住
民やNPO等が自らの地域づくりに参加する傾向が強くなりつつある。こうした流れは強
21
山田「元気まちづくり 3 部作~市民協働編」財団法人神奈川県市町村振興協会『自治展望』第 40 号、
2002 年 8 月、p.32
22
引用中の( )内は筆者加筆。
まりこそすれ、弱まることはないとする見解 23 もあり、行政による公共独占の仕組みは転
換の時期にあると言えるだろう。
(3)行政と住民との関係づくりに向けて
こうした中、行政主導による地域づくりからの転換に向けて、市民参加や住民との協働
などの手法が盛んに主張されている。しかし、市民参加、住民との協働については、
「確立
した理論や方法論や良いテキストはなかなか見あたらず、市民参加の現場にある職員、市
民は悩みが尽きない」 24 、あるいは、「『参加』『参画』『協働』というようなことばが、あ
たかも発展段階論のようなことば遊びとして使われてい」る 25 などの指摘があり、行政と
住民の関係づくりは、混迷した状態が続いている。
また、2004 年 5 月、国土交通省の研究会によって、住民、NPO、自治会・町内会、ま
ちづくり会社、企業、事業者団体などによる「多様な主体による地域づくり」が提唱され
た 26 。同研究会によれば、
「多様な主体による地域づくり」を実現するためには、行政は地
域づくりの「主役」から「黒子」になるべきであり、そのためには、何よりも多様な主体
と向き合う市町村職員の意識改革こそが最も重要な点であると述べている。
以上のように、行政と住民との関係づくりには、「市民参加」「住民との協働」「多様な
主体による地域づくり」などの手法や概念が用いられているが、いずれにしても、福祉、
環境、教育、健康、防災、防犯など、地域づくりのあらゆる課題について、市町村職員は
これまで以上に住民と真正面から向き合うことが求められていることは明らかである。
もっとも、すべての住民が行政に好意的で、地域づくりに積極的に参加してくれるとは
限らない。例えば、行政の対応の悪さに不満や諦めを感じている人、子育てや介護に追わ
れ地域づくりに無関心な人、あるいは参加したくてもできない人など、さまざまな住民が
いることも事実である。市町村職員の中には、市民参加、協働の必要性は認識しつつも、
このような住民や地域とのかかわり方について、具体的な方策が見出せずにいる人も多い
と思う。しかし、こうした悩みは、いくら机上で考えたとしても解決するものではない。
それは、畳の上でいくら泳ぐ練習をしても、一向に上達しないことと同様である。まず、
地域の中に飛び込み、住民と接することが、市民参加や住民との協働を目指す市町村職員
にとって第一歩となる。
自主研究活動は、まさにその第一歩をサポートするものである。自主研究活動は、自治
体行政の現場の課題と無関係ではなく、自主研究活動で学んだ知識、技術、経験などを業
務に反映させていくことに意味がある。市民参加とは何か、住民との協働とは何かと理論
的な検討を行う一方で、少人数による機動性を発揮して、地域の課題やニーズを住民とと
23
国土交通省(2004)p.ⅶ
24
地方自治職員研修臨時増刊号 74、「はじめに」
25
今井(2003)p.9
26
国土交通省(2004)
もに共有することから始めることを提案したい。さらに、NFFやナイトクラブのように、
住民やNPOとともに地域の課題解決に向けた方策を検討したり、シンポジウムやイベン
トを開催したりすることで、市民参加、住民との協働に向けたヒントが得られるのではな
いだろうか。
市民参加や住民との協働がどういうものなのかは、自らの経験や実践を通じてしか学ぶ
ことができないものである。実践的活動を積み重ねることで、その地域における市民参加
や住民との協働の形がみえてくるとき、そこに地域型自主研究活動の意義を求めることが
できるであろう。
おわりに
自主研究活動は、その名のとおりあくまでも自主的な活動であるため、それを行うか否
かは職員の自由である。本稿では、自主研究活動の重要性を述べてきたが、それを行わな
くとも本来の業務で支障をきたすようなことはない。
それでは、自主研究活動を行う意義はどこにあるのか。それは、地域に潜在的にある課
題を発見することである。少人数で構成された自主研究グループが優れた機動性を発揮し
て、地域における声なき声、形なき思いをいち早く感じ取り、課題の発見とその解決に努
めること、それを自治体行政に「先駆けて」行うことが自主研究活動の醍醐味でもある。
また、こうした自主研究活動を支援するためには、多くの市町村が支援制度を導入し、
その充実を図ることが望ましい。しかし、これまでの支援の内容では不十分な面があるこ
とから、研究成果の報告の場と政策等へ反映させる仕組みをつくることを提案した。自主
研究活動は、プロジェクトチームや市町村内シンクタンク 27 による研究などと同じく政策
研究の一環であることを考えると、自主研究活動による研究成果を軽んじる理由はない。
支援制度の中で研究成果の報告の場と政策等へ反映させる具体的な仕組みをつくり、研究
成果を蓄積していくことが、自主研究活動の活性化に向けた方策であり、地方分権時代に
求められる支援であると考える。
現在のところ、自主研究活動の注目度は低い。しかし、自主研究活動、特に地域型自主
研究活動は、職員の意識改革だけではなく、自治体改革へとつながる可能性を秘めた活動
であることを最後に強調しておきたい。
[謝辞]
本稿執筆に当たり、アンケート調査及びヒアリング調査に御協力をいただきました市町村職員の皆様、
自主研究活動に関して貴重な御意見をいただきました 大石田久宗氏(三鷹市健康福祉部調整担当部長)、
梅崎満晴氏(久留米市総務部能力開発室)、井本正彦氏(太宰府市総務部行政経営課)に、厚くお礼申し
上げます。
27
杉尾正則「市町村内シンクタンクを核とした政策創造」本書所収参照。
参考文献
[1]今井照(2003)「市民参加の論点」『住民参加の考え方・すすめ方』地方自治職員研
修臨時増刊号 74、pp.8-25。
[2]大石田久宗(2004a)「市民参加と自治型社会」武智秀之編著『都市政府とガバナン
ス』中央大学出版部、pp.289-308。
[3]大石田久宗(2004b)
「協働型自治体と職員」
『自治体としての職員力』地方自治職員
研修臨時増刊号 76、pp.106-113。
[4]大島振作(1984)
「シンポジウム報告
第一回全国自主研究交流シンポジウム」
『地方
自治職員研修』1984 年 8 月号、pp.50-52。
[5]大島振作(1986)
「自主・政策研究と職員研修」松下圭一編『自治体の先端行政』学
陽書房、pp.253-281。
[6]大森彌(1985)
「自治体職員による自主研究」
『自治研修』1985 年 2 月号、自治大学
校。
[7]大森彌(1987)『自治体行政学入門』良書普及会、pp.192-207。
[8]国土交通省(2004)多様な主体による地域づくり研究会『地域から日本再生シナリ
オ(試論)~市民自治を基礎におく戦略的地域経営の確立に向けて~』2004 年 5 月。
[9]財団法人福岡県市町村研究所・広域行政研究会(2005)
『合併後のまちづくり~新し
い自治の胎動を願って』。
[10]自治研修研究会編集(1986)
『地方行政ゼミナール』ぎょせい、pp.三一八九・21-
28。
[11]田村明・三木俊治編著(1988)とくしま自治体学会報告集『地域の自立をめざして』
公人社。
[12]地方自治体活性化研究会編著(1984)
『自主研究実践ハンドブック』総合労働研究所。
[13]福岡県市町村職員研修所(2002)『福岡県市町村職員研修基本計画』。
[14]松下圭一(1987)
「自治体における政策研究」『都市型社会の自治』日本評論社、
pp.25-48。
[15]森啓(2003)『自治体の政策形成力』時事通信社。
[16]『地方自治職員研修』1983 年 1 月号、pp.24-51。
[17]『月刊自治フォーラム』1991 年 9 月号、pp.2-31。
<資料>アンケート調査結果の概要
2001 年度
94 グループ
※紙面の都合上、一部調査結果の省略及び調査項
2002 年度
85 グループ
目の文言の修正がある。
2003 年度
90 グループ
1
市町村アンケート調査結果
※数値は団体数、(
(6)過去5年間の研究成果の施策等への反映実績
)の数値は割合。
(1)支援制度の有無
有
27(28.1%)
無
69(71.9%)
有
9(33.3%)
無
12(44.4%)
不明
6(22.2%)
13 件
(7)支援制度の経費
2003 年度決算見込額平均
市
以下、支援制度が「有」と答えた 27 団体へ質問
114,564 円
町村
21,000 円
2004 年度現計予算額平均
(2)支援の内容(複数回答)
市
293,889 円
町村
283,550 円
助成金の交付
24(88.9%)
会場の提供
12(44.4%)
資料の提供
7(25.9%)
職務免除
9(33.3%)
参加職員の減少
15(55.6%)
特段何もしない
0(0.0%)
参加職員の固定化
14(51.9%)
その他
3(11.1%)
テーマがマンネリ化
3(11.1%)
具体的な政策提言がない
7(25.9%)
(8)支援制度の問題点(複数回答)
全庁的な理解が得られない 9(33.3%)
(3)報告書の提出義務
義務付けている
26(96.3%)
特段問題はない
0(0.0%)
義務付けていない
1(3.7%)
その他
5(18.5%)
(4)研究成果の取扱(複数回答)
(9) 2005 年度以降の支援制度
研究報告会(職員対象)
6(22.2%)
存続させる予定
20(74.1%)
研究報告会(住民対象)
0(0.0%)
廃止する方向で検討
0(0.0%)
報告書を各課へ回覧
4(14.8%)
未定
7(25.9%)
庁内広報紙等の利用
2(7.4%)
テーマ関係部課へ報告
4(14.8%)
市町村長へ直接報告
8(29.6%)
有
32(33.3%)
庁議での報告
4(14.8%)
無
58(60.4%)
部課長会議等での報告
2(7.4%)
検討中
4(4.2%)
マスコミへ公表
0(0.0%)
無回答
2(2.1%)
特段何もしない
8(29.6%)
その他
1(3.7%)
(10)職員提案制度の有無(96 市町村へ質問)
2
自主研究グループアンケート調査結果
※数値はグループ数、(
)の数値は割合。
(5)支援制度の導入している市町村の自主研究グ
(1)自主研究活動の目的
ループ数
1999 年度
84 グループ
政策提案
8(14.3%)
2000 年度
80 グループ
事務改善提案
6(10.7%)
(7)自主研究グループの交流状況(複数回答)
自己研鑽
19(33.9%)
専門研究
10(17.9%)
住民(個人)
その他
13(23.2%)
NPOやボランティア団体 7(12.5%)
(2)メンバーの年齢及び性別
人
)
)
)
人
(
人
年齢
計
(
女
性
(
男
性
割
合
25歳未満
7 11 18
3.1
25歳以上30歳未満 46 60 106 18.0
30歳以上35歳未満 61 63 124 21.1
35歳以上40歳未満 52 26 78 13.3
40歳以上45歳未満 41 31 72 12.2
45歳以上50歳未満 40 36 76 12.9
50歳以上55歳未満 52 29 81 13.8
55歳以上
18 15 33
5.6
計
317 271 588 100.0
8(14.3%)
民間企業
11(19.6%)
他市町村職員等
5(8.9%)
大学
5(8.9%)
行っていない
24(42.9%)
その他
10(17.9%)
(8)先進地調査視察実施の有無
有
9(16.1%)
無
46(82.1%)
(9)活動上の問題点(複数回答)
研究手法がわからなかった
7(12.5%)
仕事が多くて、時間的余裕がなかった
22(39.3%)
研究成果の発表の場がない(少なかった)
(3)活動期間
3(5.4%)
平均 9.6 月
研究成果を実際に施策化する仕組みがなかった
8(14.3%)
(4)研究会の開催割合
月1回
23(41.1%)
月2回
10(17.9%)
週1回
7(12.5%)
週 2 回以上
1(1.8%)
その他(不定期) 14(25.0%)
全庁的な理解や関心が得られなかった
3(5.4%)
研究テーマに関する資料等が得られなかった
3(5.4%)
助成金額が不十分、使途の限定
2(3.6%)
先進地調査視察ができなかった
(5)研究会の開催時間帯
平日の勤務時間前
0(0.0%)
平日の休憩時間
2(3.6%)
平日の勤務時間後
43(76.8%)
土日祝日
6(10.7%)
その他
4(7.1%)
2(3.6%)
特段困ったことはなかった
18(32.1%)
その他
10(17.9%)
(10)助成金交付の有無
(6)研究会の開催場所
本庁舎等の会議室
42(75.0%)
有
47(83.9%) 無
執務室内
1(1.8%)
※1 グループ当たり
民間団体の施設内
1(1.8%)
構成員の自宅
2(3.6%)
その他
9(16.1%)
8(14.3%)
市 51,455 円、町村 62,000 円