エンジン冷却用ラジエータの性能

エンジン冷却用ラジエターの性能
V科石井
本エンジン実験は2週連続で、第1週は実験を行い、第2週は実験データの分析・レポート作成・
必要な再実験などを行う。特に第2週は熱力学の教科書、レポート用紙、電卓を必ず持参すること。
[1] 目的
(1)エンジン冷却用ラジエターの性能測定を行い、熱交換の理論と特性を理解する。
(2)本実験を通して、熱力学、内燃機関工学、伝熱工学などの理解を深める。
[2] 概要
2・1 ラジエターとは
ラジエター(Radiator)とは、燃焼で発生した高温の熱エネルギー
の一部を、機関の外部へ放出させるための放熱器(エンジン構造部
材が高温になり破損するのを防ぐための冷却器)であり、熱交換器
(Heat Exchanger)の一種である。一般に、エンジンに供給された
燃料のエネルギー(燃料の燃焼による全供給熱量)のうち、動力に
変換(熱エネルギーを仕事に変換)できるのは、高々3割程度
であり、残りは冷却損失、排気損失として外部へ捨てられる。一般
に、乗用車に多く用いられる水冷エンジンの場合、最大熱効率を与
える運転条件における冷却損失は3~4割程度に達する。
また最近は、狭いエンジンルーム内に多くの部品が搭載されてお
り、かつエンジンの高出力化・高性能化などにともない、エンジン
構造部材の熱負荷はますます増大している。そのため高効率な冷却
システムがエンジン設計上の重要な課題となる。
図1 自動車用ラジエターの例
2・4 熱交換器の理論
熱交換器とは、高温の流体Aから低温の流体Bに
流体A
熱を移動させる装置であり、各作動流体として液体
や気体などの流体が用いられる。一般に、液体と液
体、液体と気体、気体と気体などの2種類の流体間
で熱交換するものと、作動流体の相変化(液体から
気体に変化、気体から液体に変化など、潜熱)を利
用して熱交換するものがある。また熱交換の目的
により、加熱器(Heater)
、冷却器(Cooler)、蒸発
器(Evaporator)
、凝縮器(Condenser)などの形式
流体B
に分類される。
一般に、熱交換器内を流れる作動流体は、仕事の
図2 熱交換器概要
相互作用を含まず(外部との仕事の授受はない)
、
作動流体の位置エネルギーと運動エネルギーの変化
は無視でき、また熱交換器と周囲は一般に断熱されていることが多い(作動流体間の熱移動のみを
考えればよい)ので、高温流体が失う熱エネルギーと低温流体が受ける熱エネルギーは等しくなる。
ここで図2のような熱交換器において、どちらか
一つの作動流体(例えば、流体 A)に着目し、開いた
系の定常流動(Steady Flow System)を考える(図3)。
熱交換器を通過する際に、単位時間あたりになされた
交換熱量を⊿Q、流体が外部にした単位時間あたりの
仕事を⊿W とすると、熱力学第1法則(エネルギー
保存則)より次式が得られる。
(添え字1は入口、2は出口)
u 1 ,P 1 ,v 1
⊿W
・
・
⊿Q
u 2 ,P 2 ,v 2
z1




P v
P v
m u 2  2   gZ 2   m u1  1   gZ1 
2 2
1 2





1
 ⊿Q  ⊿W
2
2
z2
2
1
図3 開いた系の定常流動
・
[kg/s
m
: 質量流量 [kg/s]
u : 比 内 部 エ ネ] ル ギ [J/kg]
[J/kg
]
P: ー
[Pa
[Pa]
圧
圧力
3
[kg/ ]
ρ: 力
密度 ][kg/m
v: 流体の速度
[m/s
m/ ]
m
g : 重力の加速度 s [m/s
m/ 2]
z : 基準面からの高さs [m]
[m
]
・
[J/s
⊿Q : 単位時間あたりの加熱量 [J/s]
・
] [J/s
⊿W: 単位時間あたりの外部仕事 [J/s]
]
ここで外部仕事をゼロとし、位置エネルギーと運動
エネルギーの変化を無視すると、次式が得られる。


P 
P
m u 2  2   m u1  1   ⊿Q
2 
1 


2
(1) ここで作動流体が液体の場合は(非圧縮性流体)
、
比内部エネルギーの変化は次式となる。
u 2  u1 
熱交換器
⊿Q  P1 P2 
  
m
 1  2 
3
また液体は非圧縮性と見なせるので一般に密度変化は無視できる。また比熱が温度によらず一定
とすると次式を得る。(定圧比熱と定積比熱の区別はない C P  CV )
⊿Q 
P  P 

 1 2
m
  


4
⊿Q 
P  P 

 1 2
m

  

5
u 2  u1 
従って、
CV T2  T1  
一般の熱交換器では、上式の右辺第2項は無視できる場合が多いので、次の基礎式を得る。
CV T2  T1  
⊿Q
m
(2)気体の場合は(圧縮性流体)
、比エンタルピー h  u 
6
P

の関係を用いると(2)式は次のよう
に変形できる。
m h2  h1   ⊿Q
7
さらに比熱(定圧比熱)が温度によらず一定とすると次式が得られる。
h2  h1  C p T2  T1  
⊿Q
m
8
2つの作動流体(本実験では水と空気を用いる)間で熱交換する場合、定常状態、熱損失などが
全くない理想状態では水と空気が交換する熱量は等しくなるので ⊿Q 空気  ⊿Q 水 の関係が成立する。
しかし現実の熱交換器には何らかの熱損失があるため必ずしも等号にはならない。
9
水が失う熱エネルギー
⊿Q 水  m 水  C水 ⊿T水
空気が受ける熱エネルギー
⊿Q 空気  m 空気  C空気 ⊿T空気
10 
・
[J/s]
⊿Q i : 作動流体 i の 単位時間あたりの交換熱量
・ : 作動流体 i の質量流量(単位時間あたりの質量)
m
[kg/s]
i
c : 作動流体 i の比熱
[kJ/ (kg ・K
・ )]
i
⊿Ti : 作動流体 i の熱交換器入口・出口の温度差
[K]
なお作動流体が熱交換器内部を通過するときの曲がり管による損失や管摩擦などによる各種損
失が無視できない場合は、基礎式(1)の右辺に、その損失エネルギー分(損失の場合は負の値と
なる)を付け加える。
[3] 実験
3・1 実験装置
水の出口温度
電熱ヒーター
(温度調整)
ラジエター
卓上扇風機
空気の出口温度
M
恒温槽
バルブ
M
ポンプ
空気の流速
流
量
計
空気の入口温度
水の入口温度
水の流量
図4 実験装置概要 (作動流体に水と空気を用いる)
(参考)供試ラジエターは密閉型冷凍機用(東芝キャリア空調システムズ社製)のラジエター、温
度測定は熱電対、冷却用空気流速の測定はホットワイヤ方式またはベーン式、循環水の流量測定を
フロート型流量計。
3・2 実験方法
(1)水(循環水)の温度設定:電熱ヒーターを用いて、恒温槽内の水道水の温度調整。
(温度設定は2条件以上)
(2)水(循環水)の流量設定:循環ポンプを作動し、バルブ開度を変え、水の流量調整。
(目標、各温度において水流量を5条件以上)
(3)空気の流量設定:卓上扇風機を作動し、定常状態に達したのちに測定開始
(目標、扇風機の位置を変えて2条件以上)
以上、時間のある限り(1)
、(2)、(3)で各設定条件を変更し繰り返し測定する。(詳細は当日
指示)
注)一般に、自動車用ラジエターは、エンジンから奪った熱を大気へ放熱する開放系となっている。
従って、ラジエターを通過する空気の温度および流速は、ラジエター前後で各数箇所以上測定し、
その平均値を求める必要がある。またラジエターの寸法計測も忘れないように(熱量計算する際に、
空気が通過する断面積を知っておく必要がある)
。
3・3 (参考)実験結果の整理
まとめ方のポイントは、
・全測定データを一覧表にまとめる(運転条件が分かりやすいように並べる)
・各流体の、入口温度(横軸)と出口温度(縦軸)のグラフを作成(運転条件を明記)
・各流体が交換した熱量(水は熱を放出、空気は熱を受けとる)を求め、受けた熱(横軸)と放出し
た熱(縦軸)のグラフを作成 (どのように値を求めたかも明確に記述すること)
・各実験データの考察(観察で知り得たことや実験で体得した内容など)
・「熱交換器の性能向上には何が必要か?」などについて考察
など