第1回(4/23) 総論:膨れあがる一方の領土、停滞する人口、三色旗の 秘密

横浜市立大学エクステンション講座
エピソードで綴るパリとフランスの歴史
第1回(4/23) 総論:膨れあがる一方の領土、停滞する人口、三色旗の
秘密
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領土
フランス第五共和国憲法第1条:
「共和国、および自由な決定の行為によってこの憲法典を採択する海外領土の諸
人民はひとつの共同体(une Communauté)を設立する。共同体は、それを構成す
る諸人民の平等および連帯に立脚する。」
同72条:共和国の地方団体は市町村(communes),県(départements),海外領
土(territoires d'Outre-Mer)から成る。
フランス全土で約 36,500 の市町村とパリ市、ベルフォール領土を含む96県の
フランス本土と、海外4県、いくつかの海外領土から成る。
(1) フランス本土(France métropolitaine )
“美し国フランス(la douce France)”北緯42.5度~51度,西経5度~東経8
度,1辺500㎞のほぼ正六角形の地域(陸地部分2,600km,海岸2,700km,河川200km)
で、その面積は551,208 km2
(2) 海外県(Départements d'Outre-Mer, D.O.M.)
ガダループGuadeloupe,マルティニク Martinique,ギアナ Guyane,レウニオ
ン Réunion
★法制・行政・税制の面で本土と違い、県会の権限がいくぶん強い。
(3) 海外領土(Territoires d'Outre-Mer, T.O.M.)
サン=ピエール=エ=ミクロンSaint-Pierre-et-Miquelon,仏領ポリネシア Poly
nésie française,ニューカレドニア Nouvelle Calédonie,ワリス島とフトゥナ
Iles Wallis et Futuna,アファール・エ・デジサス Territoire des Afars et d
es Issas
★自治権が強い。
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地形
(1) 山脈と山塊
アルデンヌ Ardennes,ジュラ Jura,ヴォージュ Vosges,中央山塊 Massif
Central、アルモリカン山地 Massif Armoricain,アルプス Alpes …Mont Blanc
1
4,807m、ピレネー Pyrénées…Pic de Vignemale 3,298m
(2) 平地
パリ盆地 Bassin parisien …東西400km, 南北350km,アキテーヌ平原 Bassin
aquittain,北部平地 plaine du Nord,アルザス平地 plaine d'Alsace,ローヌ
回廊 Couloir rhôdanien,ソーヌ平地 plaine de la Saône,ラングドック=ルシ
ヨン平地 plaine du Languedoc-Roussillon
(3) 河川
ロワール Loire …1,020km,ライン Rhein …1,298km, ムーズ Meuse …950km,
モーゼル Moselle …550km,ローヌ Rhône …812km,セーヌ Seine …776km,ガ
ロンヌ Garonne …575km
3
気候
(1) 全体的特徴
気候に影響を与える地形的要素:大西洋(メキシコ湾流)、地中海、ヨーロッ
パ大陸
ヨーロッパのなかで最も穏やかで温和な気候で、雨量は山岳地帯を例外として
年間500 ~1,000mm,山岳地帯は1,000mm を超える。大西洋岸部も800~1,500mm,
雨の降り方を見ると、西部は霧雨、内陸部と地中海沿岸部は激しい雨
(2) 気候のタイプ
准海洋性気候…ノルマンディ Normandie、 アルトワ Artois、 フランドル Flan
dre、ブルターニュ Bretagne、アキテーヌ Aquitaine
大陸的海洋性気候…パリ盆地 Bassin parisien、 アルザス Alsace,中央山塊
Massif central、ローヌ峡谷 Val de Rhone
山岳性気候… アルプス Alpes, ピレネー Pyrénées, ジュラ Jura, ヴォージュ
Vosges,中央山塊 Massif central
4 人口
(1)長期的動向
人口は領土の拡大とともに増えるのが通例。国土はカペー朝の開朝以来拡大する一方
であり、人口もずっと増加の傾向見せたるが、他のヨーロッパ諸国と較べフランスの顕
著な人口学的特徴は、増勢にあるといっても緩慢であり、19世紀になるとはっきり停滞
傾向を見せたことである。
紀元0年……………………………………………… … 700万
2
クローヴィスの治世(メロヴィング朝)……………1,200万
シャルルマーニュの治世(カロリング朝)………… 880万
13世紀中葉………………………………………………1,600万
14世紀中葉………………………………………………2,000万
15世紀中葉………………………………………………1,600万
16世紀中葉………………………………………………1,800万
17世紀中葉………………………………………………2,000万
18世紀中葉………………………………………………1,900万
1789年(フランス大革命)……………………………2,760万
1850年……………………………………………………3,563万
1900年(アルザス=ロレーヌ失陥)…………………3,899万
1920年(第一次世界大戦直後)………………………3,900万
1939年(第二次世界大戦直前)………………………4,190万
1954年……………………………………………………4,286万
1970年……………………………………………………5,006万
1980年……………………………………………………5,383万
1990年……………………………………………………5,785万
2000年……………………………………………………5,910万
2010年……………………………………………………6,250万
(2) 戦後の人口動態
1946年から1990年までの間に、人口は4,050 万人から5,660万人に増大した。19
96年1月1日時点での推定人口は5,830 人と見なされ、戦後50年間に約1,800 万
人(44%)増大したことになる。因みに、1901年から1946年にかけての人口増加
率は、その間に2度の大戦を挟んでいるため、僅か4%にすぎない。
1930年代の出生数………60(万人)
1946年…………………… 85
1949年…………………… 87(ピーク)
-……………………… 80万台を維持
1964年(baby boomers)84
1972年…………………… 72
1995年…………………… 73
[自然増と社会増]
1946~1990年の出生数 3,580 万
-死亡数 2,370 万
1,210 万(自然増)
+移民
400 万(社会増)
1,610 万(合計増)
[女子の合計特殊出生数]
1930年代……………………2.1 人
3
1946年………………………3.0
1964年………………………2.9
1978年………………………1.8
1995年………………………1.7
2010年……………………… 2.1
[死亡率の低下と長寿化] (男)
(女)
1930年代の平均余命…… 54歳
59歳
1970年代………………… 67歳
74歳
1995年…………………… 74歳
82歳
(長寿化要因)衛生環境、医療技術、社会保障
(2) 現在の出身国別の移民人口
フランス国立統計経済研究所(INSEE)は、530万人の外国生まれの移民と650万人の移民2
世がフランスに居住していて、全人口6,250万の19%に当たると推定している。この1,180万
人のうち、およそ500万人がアフリカ系移民であった。
出身国 (2008 年)
%
人数
アフリカ
42.5
2 271 231
アルジェリア
13.4
713 334
モロッコ
12.2
653 826
4.4
234 669
その他のアフリカ諸国 12.5
669 401
チュニジア
★外国人の移入は厳しい統制下にある!
★外国人(労働者)は主に巨大都市に居住
(3) 主要都市人口(2010年の国勢調査 国立統計局)
A
B
順位
都市
C
D
E
大都市圏
中核都市
地域圏
1
Paris*
12,089,2103
10,460,000
Ile de France
2
Lyon*
2,118,132
1,551,000
Rhône- Alpes
1,715,096
1,559,789
1,202,889
879,683
3
4
Marseille* –
Aix-en-Provence
Toulouse
Provence-Alpes-Côte
d'Azur
Midi-Pyrénées
F
県番号
75,77,78,91,92,93,94,95
69 - Rhône
13 - Bouches du Rhône
31 - Garonne
4
Lille–
5
5
Roubaix–Tourcoing
1,150,530
1,018,356
Nord-Pas-de-Calais
6
Bordeaux
1,105,257
843,425
7
Nice
1,005,230
941,777
8
Nantes
854,807
591,461
Pays de la Loire
9
Strasbourg
757,609
449,931
Alsace
10
Grenoble
664,832
463,748
Rhône -Alpes
Aquitaine
Provence-Alpes-Côte
d'Azur
59 - Nord
33 - Gironde
06 - Alpes Maritimes
44 - Loire Atlantique
67 - Bas Rhin
38 - Isère
三色旗
Question?
・フランス三色旗の色:「自由」・「平等」・「友愛」… 旗竿からその順序は?
・いつ制定されたか?
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フランス語
(1) 起源
フランス語の母体は、そこが、古代ローマ帝国の版図に含まれた歴史をもつた
めラテン語である。徐々に変質し、俗ラテンlatin vulgaire→ロマン語 langues
romanes →
オイル語 langues d'oil & オック語 langues d'oc → 中世フランス語 moyen
français → 近代フランス語 français moderne
現存する最古のフランス語は「ストラスブールの誓約」(842 年)[注]である。
[注]Ludwig(東フランク王)とCharles (西フランク王)が中フランク王のLotaire に対抗し
て同盟を約した文書
(2) 中世の文学
ローランの歌 Chanson du Roland (12世紀)
小説トゥリスタン Roman de Trisitan (12世紀)
(3) Académie française(ヨーロッパの公用語)
17世紀はブルボン絶対王朝の成立期である。この権力を背景に、無秩序に近い
言語状態を整理し、規範化が試みられた。ルイ十三世の治世下で設立された「ア
カデミー・フランセーズ」は辞典編纂と国語統制作業を主務とする機関である。
かくて、フランス語は“人工語”となる!
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厳密な論理構造、統辞法、発音、綴字…公用語として罰則をもって汎用につと
める → かくて17世紀以降今日にいたるまでそれほど大きな変化を被っていない。
(4) フランス語の地位の変遷
18・19世紀はフランス語が絶対的といっていいほどの地位を保持した時代であ
る。とくにブルボン王朝の末期の啓蒙時代には、フランス語はヨーロッパの宮廷
では母国語以上にもてはやされた。
しかし、フランスの政治的後退はフランス語の地位の低下をもたらした。現在
でも万国郵便連合、国際外交アカデミー、オリンピック、EUなどでは絶対的な
地位を保持。
(5) フランス語の特徴
①統辞・形態・綴字・発音などで極めて窮屈
②代名詞と動詞変化の複雑さ
③性と数の一致の厳格さ
④新造語と外来語の統制
⑤論理性(語義の正確さ→外交文書)
7
フランスの政治制度
(1) 第五共和制憲法
1958年9月28日の国民投票によって可決され、同年10月4日から発効。
(2) 特徴
①大統領の超越的地位と強大な権限
②政府は大統領に完全に従属し主体性を喪失
③行政権が立法権に優越
④行政権は司法権に対しても優位
(3) 共和国大統領
①選挙……5年任期(任期満了、死亡、辞任)。以前は任期7年だったが、シ
ラク大統領の2期めから5年になった。第1回投票で過半数の得票者が出れば当
選。第1回投票で過半数の得票者が出ないときは、上位2者で決戦投票をおこな
う(第2回投票)。
②大統領の地位……大統領は民事上の職務行為に責任を追及されないし、刑事
上の行為についても免責される(例外:国家反逆罪)。大統領は職務上の行為の
政治的責任を負わない。つまり、国民も国会も彼を解任できないが、その身代わ
りとして副署した大臣が責任を負う
③大統領の権限……総理大臣の任命と解任、閣僚の任命と解任(総理大臣の提
6
案に基づく)、閣議に出て議長をつとめるが、閣議は大統領の承認なくしては何
事も決定できない(=諮問機関!)。法律・行政命令(décret と ordonance)に
署名、文官・武官の任免、軍の長だが、国防の責任は総理大臣が負う、核兵器の
使用は大統領が決定。大使の信任状の授受。条約の締結交渉と批准(国会決議を
要するものもある)
④大統領の国会に対する関係……総選挙から1年経過後は国会を解散できる。
法案を国会にかけず、直接国民投票にかけることができる。臨時国会を招集でき
る。国会が制定した法律に署名(差し戻しも可)。国会が制定した法律および条
約を憲法評議会にたいし合憲性の判断を求めることができる。
⑤大統領の司法権に対する関係……「司法権の独立の保障者」として司法高等
評議会の評議員を任命しその会議を主宰する。司法高等評議会の協議を経て恩赦
を命令できる
⑥大統領の国民に対する関係……大統領は緊急措置権を有する。「緊急事態と
は重大かつ直接の脅威が共和国の諸制度、国家の独立、領土の一体性、国際的取
決めの執行が危胎に陥れ、かつ憲法上の公権力の適正な運営が中断されている事
態である」。その判断は大統領がおこなう。緊急措置の範囲は無限定で、司法権・
行政権を一身に帯びることも可能。しかし、国会は解散できないものとされ、常
時開会する。
(4) 政府
①構成……総理大臣、大臣、参事官(secrétaires d'État)で構成。大臣と国
家参事は国会議員・公務員・全国的性格の職業代表と両立せず
②責任……職務上の行為について責任を帯びる。刑事責任を問うのは裁判所で
はなく高等法院である。
③総理大臣……任免権は大統領がもつ大臣の任免の提案。大統領の委任がある
ばあい閣議を主宰。国会に施政方針を提示し、政府法案の提出。国会が制定した
法律の憲法評議会への合憲性審査請求をおこなう。デクレ(décret)の制定。文
武官の任命。行政事務の統括。軍務指揮権。
④大臣……国防・外務・経済・財政・文部・国際協力・設備・農業・生活・労
働・厚生・産業・研究・商業・手工業・貿易など15省で構成
⑤次官……総理大臣直属、大臣直属、直属なし。
⑥閣議……大統領、総理大臣、大臣、次官の全員が出席するのが通例。高級官
僚の任免。国会の議事日程。政府提出法案。国会の法案審議への政府介入に関す
る事項。施政方針の提示、信任問題の提出
(5) 国会
①2院構成……国民議会と元老院。国民議会は直接選挙で任期5年。元老院は
間接選挙で任期9年。3年ごとに3分の1ずつ改選。
②国民議会の優越……両院不一致のばあいの最終決定権。予算案先議権。臨時
会期請求。政府信任・不信任手続の専属(ただし、元老院議員は大統領によって
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解任されず)。
③国民議会選挙(487 名)……有権者は満18才以上のフランス国籍を有する者。
公民権停止者と法定欠格者にはない。被選挙権は満23才以上。ただし、公務退任
後一定期間、職務管轄地では立候補できない者(知事、県事務局長、副知事、パ
リ区長、司法官、将校、高級官僚)もいる。当選者は地方議会の議員を兼ねるこ
とができる(大学教授など若干の例外はある)。空席が生じた場合は補欠選挙を
行う(ただし、任期終了1年間は除外)。
④元老院(306 名)……国民議会議員、県会議員、市長村議員の代表から成る
選挙人団によって選挙される“市町村の大評議会”“農業会議所”いう評判をと
る。県単位で、県人口に案分比例する定数。
⑤国会の立法権……法律事項と命令事項の区分(境界は不明確!)。国会は法
律事項についてのみ法律(loi)を制定できる(オルドナンスordonnance)…これ
はフランス特有のものである。政府のみがもつ命令事項はデクレ(décret)というか
たちで法律と同一の効力をもつ。法案提出権は国会と政府が有するが、後者のほ
うが優越することが多い。
(6) 司法
①原則的に「3権分立」を基礎に据えているが、フランス独自のものもある。
たとえば行政事件訴訟は司法権に属さず、行政権に属する(→行政裁判所)大統
領の反逆罪や内閣閣僚の刑事責任は司法裁判所とは別の高等法院に委ねられる。
合憲審査権は憲法評議会に委ねられる。
②司法裁判所……わが国とほぼ同様と考えてよく、民事と刑事に区分される。
③行政裁判所……行政事件に関する訴訟を扱う。地方行政裁判所(下級)と国
家参事院(上級)。
③高等法院……大統領と大臣の職務上の刑事責任に関する裁判を扱うが、裁判
官はすべて国会議員であり、議員資格を失うと裁判官の地位も喪失。大統領の大
反逆罪。大臣の重罪および軽罪。
④憲法評議会……法律と条約の合憲性審査をおこなう。構成は大統領、元老院
議長、国民議会議長がそれぞれ3人ずつ選任する議員から成る。審査請求権…大
統領、総理大臣、元老院議長、国民議会議長の4人。違憲宣言…法律と条約は失効
する。
(c)Michiaki Matsui 2015
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【補遺】フランスの政治制度早わかり
フランスでは第三共和政および戦後の第四共和政では議会の権限が強く、数多くの政
党の連携や合従による政権交代劇がくり返され、政局は不安定な状況が続いた。とくに
ひどかったのが第4共和政である。なんと!11 年間で 21 もの内閣が交替。
アルジェリア問題での苦悶を後目に世間の輿望を担って再登場したシャルル・ド・ゴ
ールは大統領権限を大幅に強化し、議会の権限を縮小する第五共和国憲法を 1958 年に制
定した。初代大統領として彼自身が就任。以後、この第五共和政が基本的な枠組みとな
る。この共和政は大統領制と議院内閣制を折衷した内容で、半大統領制と呼ばれている。
大統領は任期5年、再選についての規定はない(再選は可)
。
直接普通選挙で選ばれ、第1回目の投票で有効投票の過半数を獲得した候補者がいな
ければ、上位 2 名による第 2 回投票がおこなわれ、より多く得票した者が当選となる。
因みに、1962 年に憲法を改正するまでは、アメリカのように選挙人団を通じた間接選挙
で選ばれていた。
また、①首相の任免、②首相を通じて閣僚の任免、③の解散、④法律案や条約批准の
承認を国民投票にかける、⑤非常大権、⑥議会が可決した法律案を再議するように要求
する、などの権能があります。反逆罪以外で責任を追求されることがないのも特色。
なお、大統領が辞職したり死亡したりした場合は、上院議長が職務を代行する。
【エリゼ宮】
フランスにおける迎賓館的な役割を担うが、パリにあるエリゼ宮である。フランス大統領官邸で、もと
もとは 18 世紀前半に建てられたエヴェール伯爵の宮殿だった。その後、ルイ十五世の愛妾ポンパドゥール
夫人や、ナポレオンの皇后ジョゼフィーヌが住まいにしていたこともある。1873 年より大統領官邸として
使用されている。シャンゼリゼ大通りに面し、つねに憲兵隊が眼を光らせているので、それとわかる。
なお、ここの晩餐会で出されるワインとフランス料理には結構、政治的なメッセージもこめられている
ようで、招かれた各国首脳でただ「美味い、美味い」と喜んで帰るのはアウト。その意味を読み取れるか
どうかで賓客の才覚が問われるのだ。フランスはブラックユーモアの国である。
首相は大統領によって任命され、閣僚候補を大統領に推薦し任命してもらい組閣する。
また、下院が内閣不信任決議案を可決した場合は内閣総辞職を大統領に申し出なけれ
ばならない。その段階で大統領の執る施策は次の2つ。
① 現内閣を支持し、下院を解散する
② 下院が承認する可能性のある新内閣を任命する
大臣は議員との兼職は禁止で、国会議員はその職を辞さなければならない。
議会は下院(国民議会)と上院(元老院)の2院から成り、下院のほうが権限は強い。
下院:定数 487、任期5年、解散あり、国民による直接選挙で選出
上院:定数 306、任期9年、3年ごとに3分の1ずつ改選、地方議会議員などによる
選挙人団によって選出
下院選挙は、フランス国籍をもつ 18 歳以上の男女が選挙権をもっておこなわれ、1選
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挙区から1人を選出する(小選挙区制)。
また、第1回目の投票で有効投票の過半数かつ登録有権者の4分の1以上を獲得した
ものがいなければ、第2回目の投票へ(資格があるのは登録有権者数の 12.5 %以上を得
票した候補者のみ)。そして、トップの者が当選する。なお、被選挙資格は満 23 歳以上。
司法に関していうと、刑事裁判所、民事裁判所の2つの裁判所がある。
そのほか、違憲立法審査権をもつ憲法評議会が設置されている。その評議会委員は2
タイプあり、(1)大統領が任命する3人…任期9年、再任禁止、(2)上院議長、下
院議長がそれぞれ任命する3人×2=6人…終身。違憲いかんを提訴することができる
のは大統領、首相、両院議長、下院議員 60 名、上院議員 60 名のみ。
地方自治について述べよう。フランスはアメリカやドイツとは異なり、中央政府の権
限が非常に強いことが特徴として挙げられる。
まず大きな行政区画として、州(地域圏/レジオン)がある。フランス本国では複数
の県によって構成されており、海外のフランス領では領土ごとに、それぞれがひとつの
州となっている(本国に 22、海外に4つの州)。そして、州には州知事と州議会が存在
する。
つづいて、県(デパルトマン)がくるが、これも非常に特異なシステムである。
国家の地方出先機関を統括し、首相と閣僚を代表して任命される知事と、地域が選出
する県議会と議長が治める自治組織がドッキングするという、日本人から見ると、ちょ
っと複雑な構成になっている。この県はフランス革命に伴い設置されたもので、「州」
になじみもつ地方人は人工的な「県」を二の次に見る。県議会議員の任期は6年。
知事についてもう少し詳しくみてみよう。彼らは国家公務員で、基本的に国立行政学
院(ENA)を卒業したエリートである。まずは副知事としていろいろな知事に仕え、
様々な役職を経験。それを経て知事に任命される。州の首都になっている県知事に任命
された知事はそのまま州知事になる。尤も、他県の知事の上に立つわけではない。かつ
ては県知事の権力が非常に大きかったが、現在では県議会議長に執行権がある。
その次にくる郡(アロンディスマン)は地方自治体ではないが、各県に4~5郡程度
あり、県副知事が監督する。 しかし日本のように名目的な存在かといえばそうではな
く、市町村長、市民の窓口としての機能を有している。
さらに小郡(カントン)というのもある。これも地方自治体ではなく、複数の市町村
にまたがる選挙区を指し、ふだんは機能しない。小郡ごとに1名の県議会議員を選出す
る。
最後に市町村(コミューン)。これを耳にする日本人は日本の市町村を思い浮かべが
ちだが、似ても似つかない。平成の大合併で数が2千を切った日本と異なり、その数は
(日本総人口の半分でありながら)なんと約3万6千!! おまけに、このうち3万2千
の市町村は人口 2 千人以下であり、さらにその中の約4千は人口百人以下だ!! もち
ろん、議員も存在し、任期は6年である。なお、市町村長は議員の中から選ばれる。
余談になるが、地域圏は高校の、県は中学校の、市町村は小学校の運営をおこなう。
その教育内容を統括するのは国ではなく、地域圏に存在する国立大学である。
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