改正高年齢者雇用安定法における退職給付制度への対応(319KB)

1
改正高年齢者雇用安定法における
退職給付制度への対応
年金制度コンサルティング部
市川 貴規
【要約】
◇ 改正高年齢者雇用安定法(以下、改正法)が 2006 年 4 月 1 日に施行され、多くの企
業において、高年齢者の雇用に関する制度見直しが行われた。再雇用制度を選択した企
業が最も多いが、定年延長や定年制度の廃止にまで踏み込んだ企業も見られる。
◇ 退職給付制度に関する今回の改正法への対応については、特に検討されず、そのまま
にしているケースも多い。この場合、退職給付制度に人事戦略とのズレや制度運営上の
不都合がないか確認しておく必要がある。さらに、退職給付制度の再構築を予定してい
る企業においては、高年齢者の雇用制度との関係に注意しながら、その制度選択や設計
を行わなければならない。
◇ 本稿では、改正法への対応方法とその留意点を概説し、その対応方法が退職給付制度
に与える影響について説明する。更に、退職給付制度の再構築を予定している企業にお
ける制度選択や設計のポイントについてまとめた。
1.改正高齢者雇用安定法について
1.1.概要と背景
「少子高齢化の急速な進行」や「2007 年問題1」によって我が国の労働力人口は、今後
大きく減少2することが予想されており、これによる経済成長率の低下が懸念されている。
また、厚生年金保険の支給開始年齢の段階的な引上げは、60 歳定年制の企業に雇用される
従業員にとって、賃金・公的年金の無収入期間を生み、その期間における収入の確保が切
実な問題になってきている。以上のようなことから、高年齢者が労働市場において有効的
に活用され、かつ社会の支え手として活躍できることを目指し、また少なくとも厚生年金
保険の支給開始年齢までは働き続けることができるような労働市場の整備を目的として、
高年齢者雇用安定法が改正され、2006 年 4 月 1 日の施行に至った。
2007 年以降、1947 年から 1949 年の間に生まれた団塊の世代が 60 歳定年退職を迎える。この世代の人
数・技術力は非常に大きい。製造業では技術者不足が予想され、企業の財務面からは退職金支払いによる
資金繰りの悪化が懸念されている。
2 厚生労働省職業安定局による労働力人口の推計によれば、2004 年で 6642 万人(100)
、2010 年で 6448
万人(97)、2015 年で 6237 万人(94)、2030 年で 5597 万人(84)まで落ち込むことが予測されている。
なお括弧内は 2004 年の労働力人口を 100 とした場合の割合を示している。
1
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
2
1.2.各企業の対応と問題点
改正法では、65 歳未満に定年の定めをしている事業主は、高年齢者(65 歳3まで)の安
定した雇用を確保するために、次の①から③のいずれかの措置を講じるよう定めている。
①
定年の引上げ(以下、定年延長)
全従業員を引上げ後の定年年齢まで継続雇用する制度。
(主な採用企業)富士電機ホールディングス、川崎重工業など。
②
継続雇用制度の導入
高年齢者が定年後も勤務することを希望するときは、当該高年齢者をその定年後も
引き続き雇用する制度。
(主な採用企業)トヨタ自動車、三菱電機など。
(ア) 勤務延長制度
定年年齢は変更せず、その定年年齢に到達した者を退職させることなく
引き続き雇用する制度。
(イ) 再雇用制度
定年年齢に達した者を一旦退職させた後、再び雇用する制度。
③
定年の定めの廃止(以下、定年制度廃止)
定年制度を廃止し、従業員が自ら退職するまで雇用する制度。
(主な採用企業)日本マクドナルドなど。
なお、②の継続雇用制度については、原則は希望者全員を対象とすることが求められ
ているが、各企業の実情に応じ柔軟な対応がとれるようになっている。事業主が労使協
定によって、継続雇用制度の対象となる従業員を定めるケースが多い。
厚生労働省のアンケート調査4によれば、90%以上の企業が②の継続雇用制度を選択(も
しくは採用予定)したとの結果が出ているが、②を選択した一般的な理由としては、以下
のような内容が考えられる。
この 65 歳という年齢は、厚生年金保険の定額部分における男性の支給開始年齢のスケジュールにあわせ、
男女同一に、2013 年 4 月 1 日まで引き上げられる。
2006 年 4 月 1 日~2007 年 3 月 31 日
62 歳
2007 年 4 月 1 日~2010 年 3 月 31 日
63 歳
2010 年 4 月 1 日~2013 年 3 月 31 日
64 歳
2013 年 4 月 1 日~
65 歳
4 厚生労働省職業安定局
高齢・障害者雇用対策部高齢者雇用対策課
「改正高齢法の施行に向けた企業の取り組み状況(2006 年 1 月 1 日現在)」
3
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
3
まず、1 点目としては、「労働生産性低下のリスク」が比較的小さいことである。②(継
続雇用制度)では、対象者に対して客観的な基準を定めることが可能であるため、一定の
能力水準をもつ従業員のみを雇用することができるが、①(定年延長)や③(定年制度廃止)で
は、原則として全員の雇用が継続されることになる。
2 点目としては「人件費増加のリスク」が小さいことである。②では、高年齢者の従業
員数を(客観的な基準によって)絞り込むことが可能であることに加えて、60 歳以降、新し
い労働条件への変更が比較的容易である。
3 点目としては、「人事制度変更のリスク」が小さいことである。②であれば、60 歳未
満の従業員に対する人事制度の枠組みや考え方をある程度は踏襲できると考えられる。①
や③では、人事制度の枠組みを大幅に変更しなければならないケースが発生することもあ
る。
企業サイドとして高年齢者の雇用において発生する様々なリスクを極力避けたいと考え
るのは当然であり、そのような観点から②の継続雇用制度は選択しやすい方法と言えよう。
また、当面の措置として②を選択し、社会情勢の変化を見極めながら、将来的に見直しを
図ろうとする企業も少なくないようである。このような企業においては、これを機に一度、
高年齢者の雇用および定年制度の役割について整理しておくべきである。
特に定年制度については、その必要性や役割について様々な考え方があるが、以下のよ
うな観点からポイントを整理してみるのも一つの方法であろう。
現在、「年齢や勤続年数」をベースとした年功的な報酬制度から「個人のポジションや
パフォーマンス等の個人の能力」をベースとした報酬制度への移行が各企業で進んでおり、
このような状況下において、60 歳という年齢に基づいて雇用のコントロールを行うことは、
新しい報酬制度の考え方とズレが生じることになる。また、60 歳での平均余命が優に 20
年を上回り今後も平均寿命の伸びが予想される中、60 歳を超えていても能力的・体力的に
も現役として充分活躍できる従業員が今後増加していくことが予想される。このような報
酬制度との考え方のズレや 65 歳現役時代が近づく中での 60 歳での雇用のコントロール(処
遇変更)は、従業員のモチベーションを低下させることになり会社全体で見たときに大き
な損失になると考えられる。例えば、今回の改正法の施行に併せて、「定年制度廃止」を
発表した日本マクドナルド社5は、「企業文化の育成や事業の戦略目標を達成するのに定年
制は必要ない。年齢や性別など個人の能力とは関係ない事柄によって、会社への貢献の機
会は損なわれるべきではない」6と説明を行っている。これは個人の能力をベースとした報
5
6
2006 年 5 月 23 日
2006 年 5 月 23 日
同社プレスリリースより
日本経済新聞社 Nikkei Net より引用
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
4
酬制度の考え方と高年齢者の雇用の方向性を合致させたと考えることができる7。ただし、
「定年制度廃止」の実施においては、従業員に対して「定年制度の廃止によって自ら退職
するまで雇用される仕組みになっているが、60 歳未満であっても報酬に見合うパフォーマ
ンスが上げられない場合には、厳しい処遇となる」というメッセージを明確に伝えておく
必要があろう。従業員がこの仕組みの本当の意味を理解してこそ自らのモチベーション引
上げに繋げることができ、会社として「定年制度廃止」を成功に導くことになると思われ
る。
今後、「定年制度廃止」や「65 歳定年制度」を採用する企業が徐々に増加していくこと
が予測されるが、高年齢者の雇用は、人件費の増加に直接繋がってしまう。各企業は、限
られた人件費の中で、年齢というフィルターを通すのではなく、純粋に能力やパフォーマ
ンスが優れた従業員を確保していかねばならない。そのためには、個人の能力やパフォー
マンスに対する透明かつメリハリの効いた人事報酬システムの構築が必須となるであろう。
2.退職給付制度構築のポイント
ここまで、高年齢者の雇用の考え方についてまとめてきたが、ここからは、高年齢者の
雇用が退職給付制度に与える影響について整理したい。高年齢者の雇用の検討にあっては、
その報酬体系(賃金・賞与・退職給付)の構築が大きなポイントになる。報酬の中でも賃
金・賞与については、会社全体の人件費を勘案した上で、勤務形態・仕事内容・能力等に
応じた額を支給することが可能であり、ある程度は企業の裁量で自由に設計できる(55 歳
以降の賃金水準との調整や、公的年金制度における在職老齢年金との調整を行う企業あり)。
一方、退職給付制度、特に企業年金制度については、法律・税制等が複雑に絡み合ってお
り制約も多いことから、企業が独自で制度選択や設計を行うことは難しい。また、今回の
改正法への対応においても、「再雇用制度」を採用している限りは、制度運営上の不都合
が発生するケースが少ないため、現時点においては高年齢者の雇用を意識した制度変更を
実施していない企業も多いと思われる。しかしながら、本来、高年齢者の雇用制度と退職
給付制度は、セットで構築すべきものであり、また前述のように「定年延長」や「定年制
度廃止」を導入しようとする企業であれば、その人事制度の方向性を意識した制度選択及
び設計が必要になる。
そこで、退職給付制度の特徴や法律の制約について、高年齢者の雇用といった観点から
説明する。退職給付制度としては、代表的な企業年金である確定拠出年金と確定給付企業
年金を例に議論を進めたい。
日本マクドナルド社では、当面 60 歳に到達する従業員が少なく、人件費に大きな影響を与えないという
ことも、定年制度廃止に踏み込むことができた大きな要因であったことも考慮しておく必要がある。
7
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
5
2.1.高年齢者雇用と確定拠出年金制度
確定拠出年金では、60 歳到達日(誕生日前日)に加入者としての資格を喪失し8、その時
点で、従業員に対する会社からの掛金拠出は終了する。「再雇用制度」のように一旦定年
退職した後に嘱託等として再雇用される場合であれば、これら従業員について退職給付を
付与(確定拠出年金の場合には掛金拠出)する必要性が低いため問題は発生しない。一方、
「定年延長」「定年制度廃止」のように 60 歳以降においてそれ以前と同じ雇用契約(例え
ば正社員)が継続される場合には、雇用形態の主旨からすれば、60 歳以降の期間について
も退職給付の付与期間として考えるべきであるが、現在の法律の枠組みにおいては、確定
拠出年金では掛金拠出ができないことになる。
60 歳以降を退職給付の付与期間とする企業にとっては、確定拠出年金への掛金拠出がで
きない期間に対して何らかの制度を用意することになる9。特に、確定拠出年金と他制度の
選択制の退職給付制度を採用している企業においては、60 歳以降の給付を行う制度は必ず
用意しなければならない。確定拠出年金を導入した(もしくは導入予定の)多くの企業に
おいては、退職給付を「賃金の後払い」と位置付けていることが多いため、掛金拠出がで
きない場合には、給与での代替(退職金前払い)が最適であろう。退職金前払い制度であ
れば、給与・賞与として単年度毎に清算されるため、高年齢者の雇用に関する人件費の把
握が容易になり、さらに、将来、確定拠出年金の法律上の手当てがされた時点での確定拠
出年金の掛金への移行もスムーズとなる。
残念ながら、確定拠出年金制度は、現時点における法律の枠組みが 60 歳定年退職を前提
に構築されているため、60 歳以降の従業員の退職給付制度としては使い難い。しかしなが
ら、高年齢者の雇用により企業の高齢化が進行していくことを考えれば、企業財務への影
響(退職給付債務の認識等)が小さい確定拠出年金制度は、有効な選択肢であることは間
違いない。このような点からも、平成 19 年以降に予定されている確定拠出年金法改正にお
いては、65 歳現役時代の到来に備えた「加入年齢の上限引上げ」等10の改正が実施される
ことを期待したい。
8
確定拠出年金(企業型年金)の加入者としての要件は、「60 歳未満の厚生年金保険の被保険者・私立学校
教職員共済制度の加入者」と定義されている(確定拠出年金法第 2 条第 6 項、第 9 条第 1 項)。また、第
11 条第 6 項には資格喪失の時期として、
「60 歳に達したとき」とされている。
9 今回のテーマから若干外れる部分もあるが、企業によっては定年退職のタイミングと 60 歳の誕生日がず
れている場合(例えば、定年退職日を、60 歳誕生日を越えた最初の 9 月末と 3 月末としている場合など)
があり、このようなケースでは、掛金拠出ができない期間が存在することになる。この期間について、そ
のまま給付(=掛金拠出)をしないことも考えられるが、他の制度(例えば退職金前払い)との選択制を検討
している企業では注意が必要である。
10 他には、①中途引き出し要件の緩和、②第 3 号被保険者や公務員に対する加入対象者の拡大、③拠出限
度額の引上げ、④企業型年金におけるマッチング拠出、⑤特別法人税の撤廃等が挙げられる。
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
6
2.2.高年齢者雇用と確定給付企業年金制度
2.2.1.給付設計
「定年延長」や「定年制度廃止」を実施する企業においては、その雇用形態を考えれば、
60 歳以前の給付算定方法をそのまま継続するべきである。例えば、給与比例方式では給与
や勤続年数、積上げ方式ではそのポイントを退職時まで給付の算定要素として加味するこ
とになる。この場合、従業員へ支払う給付額は増加し、企業からの掛金拠出額や退職給付
債務(PBO)も増加する。これについては高年齢者の雇用に関する費用対効果の観点で考
えるべきであろう。会社にとって費用以上の効果を出す従業員に対しては、年齢に関係な
くそれに見合う退職給付を付与し、そうではない従業員に対しては、給付額を抑えること
によってバランスをとっていくことになる。退職給付の算定方法としては、勤続年数に基
づいて給付が自動的に増加する定額方式(ポイント制の勤続ポイントも含まれる)や、勤
続年数別の支給率を乗じる給与比例方式では対応は難しいため、個人のポジションやパフ
ォーマンスに基づくポイント方式や給与の一定割合の積上げ方式に変更しなければならな
い。このような給付算定方式の運営、すなわち従業員の評価制度が上手く機能するのであ
れば、高年齢層にも給付を加算することができる。
しかしながら、後述のように退職給付債務等の観点から、やむを得ず、60 歳以降の従業
員に対する給付の額のコントロールを行わなければならない場合には、かつて 55 歳から
60 歳へ定年延長がなされたときを参考にすればよいであろう。55 歳時点において給付算定
要素の凍結(55 歳時点の給与や 55 歳までの勤続期間をカウント)や、55 歳以降毎年累積
するポイントを小さくする(例えば一律 60%)等の手法を用いて、給付の伸びを極力抑え
る仕組みを構築した。今回も同様の考え方になると思われるが、給付額のコントロールを
行う年齢については、給与を含めたすべての人件費の枠組みの中で考えていくべきであろ
う。
2.2.2.支給開始年齢の弾力化
確定給付企業年金では、老齢給付金(一般的にいう年金給付)を受けるための要件とし
て、「60 歳以上 65 歳以下の規約に定める年齢に到達すること」と定められた11。60 歳に
定年年齢を定めている企業においては、60 歳到達をそのまま老齢給付金の支給要件として
いるケースも多い。この場合、高年齢者の雇用を考えるにあたっては、後述するような税
もう一つの要件として、「50 歳以上 60 歳未満の規約に定める年齢に達した日以後に実施事業所に使用
されなくなったときに支給するものであること(規約において当該状態に至ったときに老齢給付金を支給
する旨が定められている場合)
」とも定められているが、本論と直接関係がないため、ここでは議論から外
した。
11
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
7
制面の問題もあるため、それに応じた規約変更の検討が必要となる。具体的には、老齢給
付金の要件を定年年齢に合わせること(定年延長の場合)や、各従業員自らが支給開始年
齢を選択できる仕組みが考えられるだろう。
ここに、60 歳定年制の企業(不動産業、従業員 1500 人)で、「継続雇用制度(再雇用
制度)」の導入にあわせ、確定給付企業年金の設計を行った例を紹介する。この企業では、
60 歳の定年にて退職する従業員もいれば、再雇用制度を活用し 65 歳まで働く従業員も存
在することになる。このような従業員の 60 歳以降の多様なライフスタイルを支援する意味
で、各従業員が支給開始年齢を自由に選択できるようにした(図1参照)。ここで従来の
年金を第 1 年金と第 2 年金の 2 種類の年金給付に分割し、第 1 年金は 60 歳支給開始の 10
年確定年金、第 2 年金は、支給開始年齢を 60 歳~65 歳の間で自由に選択できる 5 年確定
年金とした(10 年確定年金も選択可能)。第 1 年金は、支給開始年齢を一律 60 歳に設定
し 60 歳以降に減少する賃金を補填する役割を持たせた。第 2 年金は、各従業員が完全に退
職した時点から受取ることをイメージし、公的年金と共に、退職後の生活費の基盤となる
年金として位置付けた。このような支給開始年齢の弾力化は、厚生年金の支給開始年齢や
実際の退職年齢を加味しながら従業員自らの判断で支給開始年齢を選択することを可能と
している12。
また、規約に定める老齢給付金の支給開始年齢と、実際の年金受取時期のズレ(支給の
繰下げを行った場合)を埋める利息は、各企業が自由に定められるようになっている(ゼ
ロ以上であればよい)ため、企業が過度の負担にならないような利率を設定しておくべき
である。
図1 :確定給付企業年金の設計例
支給開始年齢:60歳から65歳の選択
第2年金:5年確定
もしくは
10年確定
第1年金:10年確定
60歳
12
65歳
70歳
詳細な設計の可否については、確定給付企業年金の幹事会社等に確認する必要あり。
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
8
2.2.3.給付受取時の税制
確定給付企業年金における給付受取時の課税について、注意しなければならない点があ
る。年金受給開始年齢が規約に一律 60 歳と定められている場合、従業員が 60 歳以降もそ
のまま勤続するケースにおいて(例えば、定年延長、定年制度の廃止)、在職中の 60 歳到
達時に受取る一時金13は一時所得となり、従業員にとって税務上不利な扱いになる(なお、
一旦退職する「再雇用制度」であれば、退職所得の扱いとなる14)。これは、所得税法第
31 条第 3 号にて、退職手当とみなされる一時金について、「確定給付企業年金の規定に基
づいて支給を受ける一時金については、加入者の退職により支払われるもの」と定義され
ているためである。
参考までに、確定拠出年金では、同様なケースであっても、60 歳を超えて支払われる老
齢給付金(一時金受取)は、所得税法施行令第 72 条第 2 項第 5 項で「確定拠出年金の規定
に基づいて支給を受ける一時金については、老齢給付金として支給される一時金」と定め
られており、雇用の形態に関わらず(退職については問われない)退職所得として扱われ
る。
確定給付企業年金において、従業員が年金受取ではなく一時金選択するケースも多い現
状を踏まえると、「定年延長、定年制度の廃止」の制度を設けている企業ではその取り扱
いに注意が必要であり、支給時期の弾力化等の措置を講じておく必要がある。
所得税法第 31 条
次に掲げる一時金は、(略)退職手当等とみなす。
第3号
確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける一時金で、同法第 25 条第 1 項に規定
する加入者の退職により支払われるもの。その他これに類する一時金として政令で定めた
もの。
所得税法施行令第 72 条第 2 項
所得税法第 31 条第 3 号に規定する政令で定める一時金は、次に掲げる一時金とする。
第5号
確定拠出年金法第 4 条第 3 項に規定する企業型年金規約(略)に掲げる老齢給付金として
支給される一時金
13
正式には脱退一時金という。ただし、通常は選択一時金というケースが多い。
勤務延長制度の場合は、定年年齢にて確定給付企業年金の資格を喪失し一時金が支払われるケースであ
れば、退職所得して取り扱われる。(所得税法基本通達 30-2、31-1(3))
14
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
9
2.2.4.退職給付債務等の会計上の認識
確定給付企業年金では、退職給付会計上の債務認識(退職給付債務:PBO)の問題を無
視することはできない。高年齢者の雇用が PBO にどのような影響を与えるか整理してみる。
PBO は将来の支払額を現在価値に割り戻すことによって計算されるため、支払いのタイミ
ングやその支払い額によって PBO の額に影響を与える。そのため、高年齢者の雇用制度を
実施することは、給付額やその支払い時期に変更を与えることになり、仮に 60 歳以上の従
業員がいない場合であっても PBO に影響が及ぶ。ここで、65 歳まで定年延長を実施した
場合の個人ベースで見た PBO への影響について、60 歳以降給付を増加させない前提15をお
いて、簡単なモデルを用いて確認してみる(図 2 参照)。
図2:PBOの計算イメージ
20歳入社で、現在30歳の従業員のPBOを求める
Case1 60歳定年のケース
1000万円
Case2 65歳定年のケース
<前提> 定年まで退職率ゼロ
期間定額基準
割引率2.0%
定年時退職金額 1000万円
20歳入社 現在30歳
<PBO計算>
Case1:1000万円×10/40年×1.02^(-30年)=138万円
Case2:1000万円×10/45年×1.02^(-35年)=111万円
旧定年 新定年
60歳 65歳
定年延長を実施する場合には、期間按分に用いる数値(10/40→10/45)と割引期間(30→35)
の影響により、個人ベースでみた PBO は減少する(実際は、途中退職の確率を見込むため、
減少割合は図 2 に示すケースより小さい)。しかしながら、定年延長は、将来、従業員の
高齢化を引き起こす可能性が高く、その場合には、定年延長実施時から徐々に PBO が増加
していくことになる。定年延長実施時における平均年齢が 30 歳、かつ平均勤続年数が 10
年であったものが、定年延長の影響により、35 歳かつ勤続 15 年に伸びるとすれば、企業
の PBO が増加していくことも想像できるであろう16。
仮に増加させる場合であれば、図 2 における Case2 の PBO 算定式の退職金額を変えればよい。この場
合は、退職金額の増加分と退職までの期間の増加分が相殺しあうことになる。実際には途中退職を見込む
ことになり計算は複雑になる。
16 ちなみに、企業の平均的な従業員像が、35 歳かつ勤続 15 年に変化したとすれば、
PBO=1000 万円×15/45 年×1.02^(-30 年)=184 万円 となり、これに従業員数を乗じた額が企業全体の
PBO の目安になる。
15
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
10
確定給付企業年金の実施企業は、高年齢者雇用による従業員の年齢構成の上昇に注意し
ておかねばならないが、このような人員計画のコントロールできるような報酬体系の再構
築が同時に必要になってくる。この点から考えても、定年延長や定年制度の廃止は、人事
報酬体系の変更が必要であり、逆に従業員にとって非常に厳しい変更になることが容易に
想像できよう。
3.まとめ
公的年金の仕組みや日本の雇用状況を考えれば、65 歳現役時代は間近に迫ってきており、
高年齢者の雇用を「継続雇用制度」で対応している企業は、いずれは定年制度を含めた人
事制度の抜本的な見直しの検討が必要になる。
退職給付の観点からは、確定拠出年金、確定給付企業年金いずれの制度であっても、高
年齢者を雇用するにあたって 60 歳未満と何ら給付算定方法を変更しないこと(給付を増加
させること)が、従業員のモチベーションを考えれば最適な選択肢であることは間違いな
い。そのためには、透明性の高い評価制度に基づいた人事報酬制度の運営が要求されるこ
とになる。また、高年齢者の雇用をより効果的に行うためには、高年齢者の雇用形態に合
わせた退職給付の多様な受取り方の設計や、企業年金制度では対応できない部分に対する
退職金前払い制度(賃金の上乗せ)の構築も有効である。そして最も肝要なことは、従業
員のモチベーションを下げてしまう報酬制度へ変更した企業は、労働力不足が目前に迫る
厳しい競争社会を勝ち抜くことは決してできないことを認識しておく必要があると考える。
【参考文献】
1. 厚生労働省
労働経済白書
平成 17 年版労働経済の分析
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/05/index.html
2. 清家篤 [2000]『定年破壊』講談社
3. 日高大開 [2005] 『退職給付制度の改廃等をめぐる税務』
4. 労政時報
第 3649 号[2005/3/11]
労務行政研究所
5. 労政時報
第 3672 号[2006/2/24]
労務行政研究所
財団法人大蔵財務協会
6. 厚生労働省:高年齢者雇用対策ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koureisha.html
7. 産労総合研究所 [2006]『65 歳雇用時代の退職金・企業年金と高齢者雇用』
当レポートに記載された内容は作成時点のものであり、正確性や完全性を保証するものではなく、今後予告なく変更されることがあり
ます。当社の事前の承諾なく複製または転送することを禁じます。
【重要な留意事項】
本資料に記載した情報に基づき当社とお取引いただく場合は、次の事項に十分ご注意く
ださい。
手数料等およびリスクについて
● お客様から当社が受領する報酬額は、投資一任契約に係る運用する資
産または投資顧問契約におけるご提供するサービス内容、投資顧問契
約に基づき当社が分析する運用機関の会社数、分析対象の運用資産の
種類等によりお客様と個別に協議させていただいた上、決定いたしま
す。
また、お客様のご依頼により遠隔地に出張する場合、出張旅費等の実
費を投資一任契約または投資顧問契約に基づきご請求させていただく
ことがあります。この場合、その他費用等の総額を事前に明示するこ
とはできません。
● 投資一任契約または投資顧問契約により運用または助言する有価証券
等についてのリスクは、次のとおりです。
・ 金利水準、為替相場、株式相場、不動産相場、商品相場、その他
の指標等の変動、有価証券等の発行者の経営・財務状況の変化等に
伴い、当該有価証券等の市場価格が変動し、また、その支払いを
受けられなくなることがあるため、投資元本を割り込んだり、そ
の全額を失うことがあります。
・ さらに、信用取引や有価証券関連デリバティブ取引を用いる場合
においては、委託した証拠金を担保として、証拠金を上回る多額
の取引を行うことがありますので、上記の要因により生じた損失
の額が証拠金の額を上回る(元本超過額が生じる)ことがありま
す。
当社とのお取引に際しては、必ず契約締結前書面等をよくお読みになり、
お客様のご判断と責任に基づいてご契約ください。
商号等
株式会社 大和ファンド・コンサルティング
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 843 号
加入協会
社団法人日本証券投資顧問業協会