潰瘍性大腸炎における 生物学的製剤の役割

潰瘍性大腸炎における
生物学的製剤の役割
消化器関連疾患︵炎症性腸疾患︶
はじめに
花 井 洋 行
IBDにおける内科的治療の考え方の変化
5 アミノサリチル酸︵5 ASA︶製剤と
炎症性腸疾患︵IBD︶は、厚生労働省難治
性疾患に指定されている。近年、患者数は増加
ステロイドが中心のIBDに対する内科的治療
腸炎︵UC︶ ・6万人、クローン病︵CD︶
度特定疾患医療受給者証交付件数で、潰瘍性大
の一途をたどり、最新の患者数では2013年
TNF α 抗体﹂である。CDに対する抗TN
その変化をもたらしたのは、生物学的製剤﹁抗
の考え方が、この 年間で劇的に変わってきた。
−
F α 抗体の治療効果は予想を大きく上回り、
10
かも、高齢発症の増加や患者の高齢化に伴い、
全世界で汎用されるに至っている。米国で19
キシマブ︵IFX レミケード︶が2002年
承認された。わが国でも表①のようにインフリ
98年にCDで、相次いで2005年にUCで
3・9万人、合わせて 万人を超えている。し
−
対象患者が 歳以下から 歳以上と全年齢層に
わたっている。
70
にCDで、2010年にUCで承認された。第
®
(211)
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71
−
−
20
16
10
①日本におけるアダリムマブ、インフリキシマブの歴史
(日本における適応取得年月)
アダリムマブ(ヒュミラⓇ)
インフリキシマブ(レミケードⓇ)
2014年11月 インフリキシマブ BS
潰瘍性大腸炎 2013年6月
腸管型ベーチェット病 2013年5月
関節リウマチ 2012年8月
(関節の構造的損傷の防止)
2011年8月 クローン病(増量)
若年性特発性関節炎 2011年7月
クローン病・強直性脊椎炎 2010年10月
2010年6月 潰瘍性大腸炎
尋常性乾癬・関節症性乾癬
2010年1月
関節リウマチ
2008年4月
2010年4月 強直性脊椎炎
2010年1月 尋常性乾癬・関節症性乾癬
乾癬性紅皮症・膿疱性乾癬
2009年7月 関節リウマチ
(関節の構造的損傷の防止)
(増量・投与間隔短縮)
2007年11月 クローン病(維持療法)
2007年1月 ベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎
2003年7月 関節リウマチ
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−
®
2の抗TNF α 抗体であるアダリムマブ︵A
DA ヒュミラ︶も、CDとUCで追加承認さ
−
(筆者作成)
れた。
抗TNF α 抗体は、単にその治療効果のみ
ならず、IBD治療に多くのインパクトを与え
た。最も重要なのは﹁粘膜治癒﹂
、すなわち潰
瘍を治すことが病気の再燃を防ぐ上で大切だと
いう考え方の導入であった。IBDの治療は、
これまでは症状を改善すればよいという臨床的
−
効果を中心に考えられてきた。抗TNF α 抗
体療法はこの考え方を大きく変え、再燃予防に
は内視鏡的に治癒する﹁粘膜治癒﹂の状態に持
っていくことが必要であるという考え方が、多
くのエビデンスとともに定着してきたのである。
UCの適切な治療の選択
UCの基本的な治療としては5 ASA製剤
の全身投与と局所投与があげられるが、寛解導
入療法は症状の度合いにより治療の選択肢が異
(212)
−
2002年1月 中等度から重度の活動期及び外瘻を有
するクローン病
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ン︵ペンタサ、アサコール︶は同量使用すれば
な効果が証明されているし、国の内外で
additive
のガイドラインでも推奨されている。メサラジ
等症・重症に用い、中等症以上には注腸療法の
なる。基本薬である5 ASA製剤は軽症・中
であり、両剤はステロイド離脱を行う際に強力
MPの最適な症例は、ステロイド依存性患者
うに習熟する必要がある。アザチオプリンや6
アザチオプリンを安全かつ適切に使用できるよ
かし、寛解維持療法において効果は大きいので、
同等の効果が認められる。
は低い。目の前にいる患者の薬剤治療歴とその
で約 ∼ %消失する。
6
b.
抗TNF α 抗体
である。
後、維持療法にも使用が可能であることが魅力
−
、 A D A︵ U L T R A
アザチオプリン︵イムラン︶やメルカプトプ I F X︵ A C T 1︶
リン︵6 MP ロイケリン/保険適用外︶な
2︶ 共 に、 短 期 間︵ 8 週 間 ︶
、 長 期 間︵ 1 年
a.
UCの維持療法としての免疫調節薬
療法で保険適用︶などを用いるべきである。
用︶
、タクロリムス︵3カ月の寛解導入療法が
抗TNF α 抗体は難治性のUCや免疫調節
薬抵抗例の中等症、重症に用いられ、寛解導入
分除去療法の集中治療︵寛解導入療法で保険適
−
50
保険適用︶
、IFX・ADA︵寛解導入と維持
70
M P に 変 更 す る こ と︵ thiopurine switch
︶
反応歴は、重要な情報である。その際は血球成
悪心、嘔吐などの症状にはアザチオプリンから
用が起こらないよう慎重に対応すべきであり、
な武器となる。しかし、白血球減少などの副作
−
−
しかし、ステロイド依存性、ステロイド抵抗
性など難治性の病態には軽症、中等症でも効果
®
®
対しては寛解導入効果のエビデンスはない。し
どの免疫調節薬︵チオプリン製剤︶は、UCに
解維持効果でプラセボに比して有意な改善効果
間︶での臨床症状の改善効果や寛解導入率、寛
®
(213)
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73
®
−
−
Percent of PaƟĞnts
20
10
0
(文献2より)
PBO:プラセボ、ADA:アダリムマブ
PBO
ADA
PBO
ADA
n=246
n=248
n=246
n=248
を示している︵図②︶
。それぞれの study
で対
象患者が異なるので数字は一概には比較できな
いが、共に大規模な信頼度の高い代表的な臨床
床試験の結果がつい最近報告され︵ULTRA
Aに関してはULTRA1、2後、3年間の臨
や粘膜治癒率も有意に改善効果を示した。AD
試験の結果である。しかも、ステロイド離脱率
1)
2)
60
免疫調節薬との併用療法か?
抗TNF α 抗体の単独療法か
れている。
3︶
、臨床症状も粘膜治癒率も約 %が維持さ
3)
抗TNF α 抗体の単独療法で十分か、また
は免疫調節薬の併用療法を行ったほうが有効性
−
も、2014年にIFXとアザチオプリンの併
ことが明らかにされている。また、UCの場合
2010 年にすでに SONIC Study
により、I
FXとアザチオプリンの併用療法が優れている
が高いのかが、問題になっている。CDの場合、
−
8.5
30
74
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(214)
34.6
40
ULTRA 2
Week 52
ULTRA 2
Week 8
17.3
P=0.004
60
㛗ᮇ䠄52㐌㛫䠅䛾ᐶゎ⥔ᣢ⋡
▷ᮇ䠄䠔㐌㛫䠅䛾⮫ᗋ⑕≧ᨵၿ⋡
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
P<0.001
50.4
50
Percent of PaƟĞnts
②潰瘍性大腸炎におけるアダリムマブの臨床効果
③各抗 TNF- α抗体と免疫調節薬の併用効果のエビデンス
薬物動態
インフリキシマブ
アダリムマブ
セルトリズマブ
ゴリムマブ
併用が優れる
併用が優れる
併用が優れる
併用が優れる
データが十分で
ない(不明)
導入効果
併用が優れる
併用が優れる
データが十分で
ない(不明)
維持効果
併用が優れる
データが十分で
ない(不明)
データが十分で
ない(不明)
データが十分で
ない(不明)
増量の必要性
データが十分で
ない(不明)
データが十分で
ない(不明)
データがない
データがない
手術の必要性
データが十分で
ない(不明)
データが十分で
ない(不明)
データがない
データがない
併用療法と単独治療での直接比較試験で証明
併用療法をサブ解析もしくは RCT のメタ解析で証明
併用療法と単独療法の比較を観察研究で証明
RCT や観察研究で併用メリットも単独療法も証明できない
(文献5より)
用療法が
週の時点で
16
を有意に改
Mayo score
善することが示された︵ SUCCESS Study
︶
。I
FXのみでなくADAでも併用療法の有効性が
報告されているが、表③にIBD全体における
5)
抗TNF α 抗体と免疫調節薬の併用療法に関
する review
を示す。
エビデンスとしては対象患者により結果が異
なるなど、まだ十分でなく今後長期の維持効果
などの検証がなされるべきであろう。
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UCのどんな患者に使うべきか?
前述したように有効性が高いが高価なため、
適応患者を選択する必要がある。
適応患者の選択にあたっては、過去の治療歴
から難治性︵ステロイド依存例、ステロイド抵
抗例︶と診断された患者群の中から選ぶことに
75
なる。
具体的には次のような患者群に抗TNF α
抗体が使われている。
−
−
4)
(215)
1.ステロイド依存症例でチオプリン抵抗例、
不耐例
2.チオプリンで寛解維持されていたものの再
燃をした患者︵ thiopurine failure
︶
3.ステロイド抵抗例で既存の治療法で寛解導
入、ないしは維持療法が不可能な患者
4.粘膜治癒達成を目的とした使用 他の治療
︵タクロリムスや血球成分除去療法︶などで
寛解導入され、寛解維持されているものの
粘膜治癒が得られない患者なども適応とな
ろう。
重症例は手術のタイミングを見逃さないよう
にすることが肝要である。また反応が低下した
患者にはIFX ADAの switch
が必要とな
り、長期寛解維持例にはいつ抗TNF α 抗体
文献
Rutgeerts P, et al : Infliximab for induction and
Maintenance Therapy for Ulcerative Colitis. N Engl J
Med, 353, 2462-2476 (2005)
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Maintains Clinical Remission in Patients with
Moderate-to-Severe Ulcerative Colitis.
Gastroenterology, 142, 257-265 (2012)
Colombel JF, et al : Four-Year Maintenance Treatment
With Adalimumab in Patients with Moderately to
Severely Active Ulcerative Colitis : Data from
ULTRA1, 2, and 3. Am J Gastroenterol, 109, 17711780 (2014)
Panaccione R, et al : Combination Therapy With
Infliximab and Azathioprine Is Superior to
Monotherapy With Either Agent in Ulcerative Colitis.
Gastroenterology, 146, 392-400 (2014)
Dulai PS, et al : Systematic review : monotherapy with
antitumour necrosis factor
agents versus
combination therapy with an immunosuppressive for
IBD. Gut, 63, 1843-1853 (2014)
α
を中止すべきかが議論されている。
︵浜松南病院 消化器病・IBDセンター
センター長︶
1)
2)
3)
4)
5)
76
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