企業の貸借対照表 年金財政の積立状況 負債 年金資産 退職給付 資産

米国の年金・会計最新事情
第15回:日米企業年金の深刻度合いの比較(その2)
中立系年金コンサルタント会社 IICパートナーズ
執筆:内田 一郎
監修:中村 義正
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●企業年金積立不足の日米比較
前回は、日米両国とも企業年金の積立不足が大きいと報じられる中で、最悪期は過ぎつつ
あること、また米国では DB プラン(確定給付年金制度)の改革案が出てきていることを
お伝えしました。また、日米年金会計数字のどんな数字を見たら、より正確に比較できる
のかという問題意識で、トップ100社の年金積立不足また未認識債務(〝隠れ債務〟)
の数字に踏み込んでみることにしました。
今回はこの続きで、日本企業の場合は、積立不足、つまり PBO(退職給付債務)と年金資産
の差よりも、未認識債務の数字を見る方が、退職一時金に対する引当てが考慮されるので
ベターであることからお話を始めたいと思います。
● 積立不足と未認識(引当て不足)の違い
日本の企業の場合は、積立不足よりも、償却不足である未認識債務と PBO を比べた方が、
不足の実体に近づくということです。未認識債務とは、PBO から年金資産(積立分)だけ
でなく、認識(償却)引当て分(主に退職給付引当金)も差し引いた値です(下図参照)。
企業の貸借対照表
年金財政の積立状況
負債
年金資産
資産
退職給付
引当金
未認識債務(注)
退職給付債務
(PBO)
株主資本
退職給付
引当金
(注) 未認識債務は、過去勤務債務・数理計算上の差異・
会計基準変更時差異、それぞれの未認識(未償却)分である。
未積立債務(資金の手当がない)=未認識債務(B/S 上に引当されていない)
+退職給付引当金(B/S 上に引当、認識されている)
未認識債務と退職給付引当金の違い
未認識債務
退職給付引当金
企業本体の B/S
企業の負債として
資金の手当
オフバランス
オンバランス
引当なし
引当あり
いずれもなし(年金資産のみ積み立てられている)
日本企業は、退職一時金に対しては、年金資産として別段積み立てようがありません。退
職一時金に見合う資産は、企業本体のバランスシートのいろいろな資産に埋もれているこ
とになります。しかし、退職一時金も、退職給付引当金として、企業の固定負債に認識さ
れています(内部引当て)
。認識されていると言うことは、その分本体のバランスシート上
に負債として計上されているということです。
従って、企業の認識(償却)不足の分は、本体の B/S 上で認識されていない、いわゆる隠
れ債務、オフバランス債務として捉えられることになります。認識分である退職給付引当
金は、認識こそされていますが、別段の資産積立が行なわれているわけではないので、い
わば年金債務として黄信号、未認識債務は、債務の認識も、従って今後発生する費用への
認識もないので、いわば赤信号と位置付けられましょう。
● 〝隠れ債務〟がどのくらい積みあがっているか?
ここで、退職給付引当金として認識する際の、引当ての基準がどうなっているかです。3
年前に導入された退職給付会計制度においては、内部引当てである退職一時金制度も、外
部積立である退職年金制度も、同等に退職給付債務として PBO 計算し、そこから年金資産
として外部積立した額を差し引いた分が、未積立債務として残るわけです。本来ならこれ
がすべて退職給付引当金として企業の負債として認識されるのです。
ところが、上記の注にあるように3種類の未認識債務が存在します。繰延べ償却が会計処
理上許されていますので未償却分が残ります。すべての債務を一度に償却すると影響が大
きいので、複数年にわたって償却すればいいという、〝遅延認識〟が許されているのです。
この結果、未積立債務の全部がバランスシート上負債として認識されず、未認識債務が簿
外に残るわけです。
我国企業の場合、①退職一時金は、それに相当する額が外部積立の年金資産として認めら
れていないことと、②退職給付債務について遅延認識が許されていること、この二つから、
年金資産は、もともと退職給付債務に比べて小さく、なおかつ、遅延認識で退職給付引当
金への引当て計上も小さくなっています(もっとも、遅延認識は米国でも同様です)
。この
ことが、我国企業の場合、退職給付引当金が大きいにもかかわらず、なお未認識債務を大
きくしていると言えましょう。なお、米国基準会計では、退職給付引当金に相当する負債
は、未払年金債務・追加最小年金負債(累積給付債務ABOに達するまでの不足額の認識
が義務付けられている)として、やや厳しく長期負債に認識されています。
● やはり我国企業の年金債務負担は大きい
我国トップ100社の PBO を100としますと、年金資産の積立は45(積立不足率5
5%)
、未認識債務が30(未認識比率30%)
、認識(償却引当て)分は25となります
(トップ100社の平均)
。なお、貸借対照表の認識(償却)純額は、細かく言いますと、
退職給付引当金から前払年金費用(年金費用に対する現金拠出の超過分)などを差し引い
たネットの負債認識額です。
米国トップ100社の場合は、2002年で、PBO100に対して、年金資産積立82(積
立不足率18%)
、引当認識額と未認識額はそれぞれ9ずつほどかと推定されます(ミリマ
ン社調べ)
。
日米の企業年金には制度上の違いがあり、そのまま比べることはできませんが、こういっ
た数字を見ますと、我国企業の未認識債務の大きさが目立ってきます。
(第16回へ続く)