ビジネス・ゲーム演習の開発と運用 - 公益社団法人 私立大学情報教育協会

ビジネス・ゲーム演習の開発と運用
流通科学大学
小笠原 宏
(共同研究者: 流通科学大学 又賀 喜治)
連絡先:〒651-2188 神戸市西区学園西町 3-1 流通科学大学
TEL:078-796-4961(直通) FAX:078-794-1084
E-mail: Hiroshi_Ogasawara@red.umds.ac.jp
1. ビジネス・ゲーム演習とはどういうものか。
仮想空間における仮想事業(ビジネス)を現実同様に
様々な設定された条件の下で、複数期間にわたって
経営する演習である。受講者は、数名か集まってグ
ループをつくり、1 グループが 1 企業となる。発表者が
現在行っている授業としてのビジネス・ゲーム演習(学
部)は、総数 80 名程度、8 人で1社とし、おおむね10
社程度でビジネスの成功を目指すというパターンが多
い。授業のタイトルの珍しさもあると思うが、近年は1
00名を越える受講者があり、プログラム運営上は複
数の教員で担当しているが、適正規模を考えると80
名程度(10社以内)が望ましいと考えている。指定さ
れる事業は、開講当初から様々なものが考えられ試
してきた。現在は 2006 年から実際に運用を始めたワン
ケークレイン社(千羽鶴の製造販売が基本事業)がメイン・
ゲームとして運用されている。これに毎回、教員(本発
表者)が授業の流れや運用細目、指針などを設定し、
加えて開講の度に改良及び改訂を行っている。ビジネ
ス・ゲーム演習では、その他に独自で開発した別のゲー
ム・エンジンである OM フォーラム(ソーラー発電きの
製造販売)というゲームも使用されている。以下では
主に、それらのゲームの仕組みの開発と運用におけ
る ICT の役割および改善効果などを示す。重要な点
は、運用者側(教員)側と受講者側でその効果の有無
でなく影響の中身が異なるということも指摘しておく。
よって、そこから生じる負担(負荷)にも違いがあると
いうことである。同時に認識されるのは、ICT 利用の
限界というか使い分けの必要性である。バックアップ
としてだけでなく、対等な選択肢としてのマニュアル運
用法,技術、知恵といったものが不可欠という認識と提
案である。
2.教材としてのゲームと ICT
市販の電子ゲーム・ソフトや、トランプ、伝統的なボー
ド・ゲーム(有名なところでモノポリー)なども、教材とし
て活用している。本年の新しい試みとして、トランプの
戦争ゲーム(大きな数字が小さい方をとるという単純
なゲーム)や、市販のモノポリー・ゲームを何回かプレ
ーさせた。そこでは最終報告課題(レポート)を課して
おり、真剣に取り組ませるために、様々なインセンティ
ブの設定が必要である。例えレポートへの勝者へは加
点、敗者へは減点など、実利的な条件をかして、真剣
に競わせた。「勝つ」ことを目標としながら、なぜ勝て
ないのか、競争状態とはどういう空間、環境なのか
を、体感し、その中で「勝つための戦略、施策」すなわ
ち処方箋があるのかないのかといった筋立てプレーさ
せた。遊びでなく、経営教育、リーダ-育成教育としてゲ
ーム演習を行っているが、強い参加意識と好奇心を持
続させるために様々な工夫が必要。
公益社団法人 私立大学情報教育協会
平成23年度 ICT利用による教育改善研究発表会
様々なICTの中でも、特に映像コンテンツ(例えばルー
ルの解説)はじめとする AV コンテンツを作成し、試用す
る。携帯電話、ipod、ipad など多様なメディアのプレー媒体
が登場し、それらを使いこなす形で商用に近いようなプ
レゼン、資料の作成が近年は可能になったことも大き
い。はやりすたりでなく、ICT を実際に試用、活用を促
すことにより、出来ることは当然ながら出来ないことの
認識理解も進むという効果がある。
また、本来のゲームの仕組みの中にはない設定や条件
をアドホックに追加したり、変更したりすることを行い、
それこそが現実であることを受講者に強く実感させた。
経営理論の定番、定説
にとらわれない、危機認識と対処能力の醸成をするた
めにはこの体験と対応は非常に重要である。 それ
に、受講者は必死に必勝法を自ら探ることで何が問題
なのかを明確に認識できるようになるからである。基本
的なオフィスソフトの中でも表計算ソフトの助けを借りる
者も自ずと出てくる。財務指標など外部への情報開示
の必要性と意義を理解させながら、実際に業務報告な
どをさせていく。何を伝えるかは ICT とは関係なく、どう
やって伝えるかの議論で ICT は有効な見方であること
を受講生は実感する。携帯電話の電卓で当初は間に
合わせようとするが、様々なデータ分析や資産を行う
のにはより高度な計算機器、ソフトが欲しくなると言っ
た状況である。後のレポートを作成のための、参照デ
ータの記憶などに、携帯始め、デジカメを活用するもの
も出てくる。多様な小型デジタル機器は便利であり、デ
ータ活用のプラットフォームトシテパソコン利用、ソフトの選択、活用
が促進されるという流れである。自発的かつ目的意識
を持った者の習得スピードは速いし、本来議論あるい
は,考察という思考作業により大きな時間を割くために
もそういったスキルは有効である。グループでは、その
分野が得意なものが中心になって作業をしたりする役
割分担も出てくる。それは妨げないし一つの対応策とし
て実践的である。
3.ICT による効果や改善点そして限界
より現実感を持たせる、感じさせることは重要である。
人間は想像力の動物であるからか、意外と簡単な工夫
や認識で、臨場感が出たり出なかったりする。それは、
受講生の知識レベル(学年次、背景となる勉強の程
度)や、受講態度、意識に依存し、同様に本授業により
学べるあるいは鍛えられるものが大きく変わることを意
味する。双方向型ないし参加型の授業、演習は、指導
側、受講側双方がともに能動的に参加するかによって
その成果も満足度も変わる。その認識が大事である。
ICT の活用も、本来の目的は省力化や反復性の確保と
いった側面の活用、導入が一義的効果と導入理由とい
える。しかし省力化することによって、その分浮いた労
力や手間をどこにかけるかあるいはかけられるかとい
う問題を忘れてはならない。そのためにも常に「新鮮
な」枠組みの提案と実験的運用といった意気込みが重
要である。ゲームのプレーや参加そして関連討議など
において類似した内容を繰り返すだけでは、飽きて来
たり慣れてくる。思考回路が陳腐化し、倦怠感がおき
る。これが大きくなると惰性的な緊張感のない演習とな
り成果が大きく損なわれる。常に新しい仕掛けや変更
が実現できうるような中身であるという認識と警戒感
を、受講生に持続して抱かせることは非常に重要であ
る。そのために、アドホックな新しい映像ファイルや、ネ
タ話を用意するのは当然ながら、必要であればネットで
即座に参照させたり、必要に応じて適宜、ゲームの途
中で討議に加わったりコンサルタント的に必要なアドバ
イスを時間外のメール往復などを通じて積極的に行うこ
とが授業満足度にも関係してくる。 ネットの世界は、想
像以上の玉石混交の情報の宝の山兼ゴミの山でもあ
る。受講生は、自由にこちらの思いも寄らない情報を持
ってくる場合がある。その解釈、利用性を共に議論する
方が重要である。こちらの想定内、設定内での運用や
議論にこだわることは、満足度も下げるし現実から余計
乖離する恐れがある。与える情報が多すぎても、少な
すぎてもよくないが、適正レベルは個々人及びその集
団としてのグループによっても異なるからである。多様
な情報やデータを蓄積し、教員側、ゲーム運用者側も、
同様の緊張感をインセンティブに裏打ちされた自信をも
ってゲームの管理運用者(スーパーバイザー)兼アドバイザ
ーとして振る舞うこと、受講生に対応することが重要な
要素である。
パソコンに載せたゲームエンジンとして、いくつかのプログ
ラムを以前は使用していたし、その延長線上にOMフォ
ーラムは存在する。エクセルなど表計算ソフトを基に、
マクロや関数を活用することによって、エンジンは作ら
れている。その中身は各種変数入力に応じて、統計
学、確率論を応用したような関数(モデル)群である。、
基本的には、他社との競争で需要のパイを取り合うと
いう設定が多くのゲーム・エンジンで大勢である。それ
らのゲームは不十分というわけでなく、そこから学べる
(教えられる)ことと、学べないこと(教えられないこと)
の認識が重要である。現実には、明確に競合相手が全
て認識できるわけでなく、事業継続の間に様々な新規
参入や撤退が起こりうる。想定することの重要性、自ら
の思考プロセスにおける思考実験、考察の多少が大き
な分かれ道になってくる。こういった事実も実感させ、ゲ
ーム演習では仮想現実に反映させることが大事であ
る。 想定外のことが起こりうるか否かと、その発生確
率予測値は、事前の意思決定には大きな影響がある
し、考慮すべき重要な要素である。
プログラムも乱数を活用するような仕組みを導入するこ
とにより当初は、緊張感や好奇心の保持には効果があ
るが、賢明な受講者ほど、早く慣れたり、飽き足りする
のも事実である。
公益社団法人 私立大学情報教育協会
平成23年度 ICT利用による教育改善研究発表会
そうなると新たなフォローが不可欠になる。そうなると授
業(ゲーム運用)進行速度にばらつきが出てくる。これ
は当然の結果であり、なくすべき課題でなく,対応しなけ
ればならない。様々な多様案シナリオの用意、想定を
事前に運用者が出来ているかの永遠の知恵比べとも
言えるわけである。その知的作業は、受講生と共に考
え、進歩するという意味において大きな刺激となる。
最終課題として、その気づき、確認の作業を自らの
グループでの事業経営結果を投資家、株主に説明資
料の作成を課している。そこでは実に多様な機材やファ
イル、情報源を持ち込んでくる場合がある。ここでは既
存のプレゼンソフトを基本的には活用し、「これから継
続して事業継続責任者として適正があり、具体的な計
画をもっている」ことを資料作成をして弁論させている。
説明責任を果たす機会を設けることにより、どうやって
相手の理解と同意を求めるかのついて議論をさせ、具
体的に実行させるわけである。(全員ではないがICTの
実用性、利便性と、同時に限界も再認識する。)
4 使い分けと講師の発想力の鍛錬が必要。
基本的に大人数の集合研修としてビジネス・ゲーム
演習であるが、ICTの活用により、例えば遠隔地からの
研修参加、外国からの参加など、多様な要素を備えた
受講生が集まり議論すること、情報交換することによる
仮想現実の深みがますことが期待できる。ネット技術の
進歩により、時間場所をほとんど気にしないで演習の
実行も可能である。テレビ電子会議システムを活用した
ような演習実行も発表者は考えている。ただケースメソ
ッドの一つの応用展開としてゲーム演習、集合演習を
考えてみると、受講生には相当量の予習、参加意識の
醸成が求められる。この部分の問題の解消や支援に、
ICT がどれだけ貢献するか、役立つかはまさに受講生
の集団の実態に依存するわけで、開講直後まで分から
ない。その分、資料関係の準備、必要知識習得のため
の補足説明や座学部分の多少の調整など、教員側の
アドホックな判断が求められる。そのあたり、常に緊張
感と発想力、洞察力を教員が持ち続けられるかが大き
な鍵となる。つまり、省力化や円滑化といった観点から
ICT の活用を考えるのでなく、アドホックな環境作り問題
的の手段の一つとしてICTを認識し活用することであ
る。バックアップとしてでなく、マニュアル運用といえる
道具立てや代替策を常に揃えておくということである。
謝辞:本発表にあたり、ビジネス・ゲーム演習の企画運用の
当初から共同研究者兼運用者として携わって下さった
又賀喜治教授(流通科学大学)および、ゲーム・エンジ
ン・ソフトの開発及び運用において多大なる協力をいた
だいた凪 孝氏((株)デジタル・シープ代表取締役社長)に
は特にこの場を借りて御礼申し上げます。