産科医療補償制度等について

産科医療補償制度
妊婦健診無料化
子宮頸癌検診無料クーポンについて
「産婦人科」・・・以前は敷居の高いあまり関係のない(かかわりたくない)科と思われておりまし
たが、最近は良かれ悪しかれ何かとマスコミにも取り上げられ注目されつつあるようです。しかし一
方私たち産婦人科医としてはいわゆる「揺りかごから(揺りかご以前から)墓場まで」女性における
健康維持を一生お手伝いしようと世論で騒がれる前から皆思っております。その思いがなかなか伝わ
らなかったところもありますが、最近の世論の趨勢により思いが具体的な形として患者様に還元でき
る体制ができつつあります。今回は①産科医療補償制度 ②妊婦健診無料化 ③子宮頸癌検診無料ク
ーポン についてお話したいと思います。
「妊娠」誰もがよろこび新しい家族を待ちわびる事と思います。なんとなく気持ち悪くなり妊娠検査
で陽性が出て病院を受診。超音波で子宮内に赤ちゃんを認めたときは誰もがよろこばれることと思い
ます。胎動を感じお腹もどんどん大きくなると少しずつ「お母さんになるんだ!」と自覚され、陣痛
がきて無事に出産。赤ちゃんを胸に抱いてお父さんとよろこびを伴にする・・・。しかし中にはその
ようにならない方もいらっしゃいます。様々な理由がありますが今回は「重度脳性麻痺」児の家族を
対象とした補償制度としてたちあがりました。対象は平成 21 年 1 月 1 日以降に産科医療補償制度加
入医療機関にて分娩された重症脳性麻痺児で 33 週 2000g 以上(一部 28 週)としております。初回
準備一時金(600 万円)、以後年 120 万円を 20 才まで総額 3000 万円が支払われます。目的は速やか
に経済的補償を提供し原因分析をし再発防止に役立つ情報を提供することにあります。すでに本制度
が動き出して半年が経過し妊婦さんの中には水色の用紙をもらった方も多いのではないでしょうか。
妊婦さんおよびご家族は間違いなく元気な赤ちゃんが生まれ、私たちもすべての赤ちゃんが無事に何
事もなく生まれることを切に祈ってはおります。しかし実際には予想外のことが不可避で起こってし
まうのです。「起こったことはしょうがない」とは考えず少しでもできることはさせて頂きたいと考
えております。みなさんのご協力のもとこのような患者様の支えとなっていきます。
妊娠、出産に対する認識は私たちと一般女性とでは多少温度差があるようです。上にも書きましたが
一般的に妊娠出産は何事もなく経過していくのが当然と考えている方が多いようです。最近は雑誌な
どで情報を得ていろいろご存知の方も多くかえってこちらが教えられることもあります。そのような
妊婦さんはきっと雑誌の片隅に断片的に書いてある妊娠中の怖い話し(妊娠中毒症や常位胎盤早期剥
離など・・)に多少なりにも目が止まり「気をつけなくちゃ!」と感じていると思います。そのよう
な方は私たちとしては安心なのです。問題なのは「無計画」に妊娠し、妊娠・分娩に「無関心」で、
親になる意識が薄い「無自覚」な患者が後をたたないことです。当院でも「○○才 女性 腹痛 妊
娠しているようですがどこにも妊婦健診していないもようです」という救急車搬送依頼は後を絶ちま
せ。「この人はお腹の赤ちゃんに対してどのように思っているんだろう」と、そのたび医者としてよ
り人間として無力感を感じます。よく「妊婦健診を受けてもなるようにしかならないじゃない」と聞
きますが、「なるようにしかならないからやる必要がない」のではなく「なるべくならないようにす
る姿勢」が必要なのです。ですが「ならないようにする姿勢」をとろうとしてもできず、いたしかた
なく未受診で 10 ヶ月まできてしまったという方もいらっしゃいます。妊娠、自然分娩は病気ではな
いとの認識から保険は適用されず、妊娠初期検査は 30000 円、通常の妊婦健診は 5000~10000 円。
分娩費用も 40 万~50 万円。妊娠したうれし涙が悲し涙に変わります。若い妊婦さんには大変な負担
で少しでも負担軽減のためにと「妊婦健診無料化」が本年 4 月から始まりました。以前は 5 回、5 万
円であったものが 14 回、11 万 3000 円に拡大されました。ただお住まいの自治体により助成額が異
なることと、すべての妊婦健診が無料化するわけでなく正確には「妊婦健診一部助成」となります。
詳しくは各自治体のホームページをご覧になり確認してください。この制度がすべての女性に周知さ
れ、一人でも多くの方が妊婦健診を受けられ無事に元気な赤ちゃんと会って頂きたいものです。追
記:少子化対策の一環であるならば 2 年間の短期制度では終わらないことを祈ります。
今度は婦人科のお話しをいたします。子宮癌の話しです。子宮癌は大きく分けて子宮体癌と子宮頸癌
があります。子宮体癌は子宮の奥の方にある妊娠したときに赤ちゃんがいる場所にできる癌で、50
才前後で太っている人がなりやすい傾向があります。子宮頸癌は子宮の手前にできる癌です。「メタ
ボ」
・・もう誰もが知っている言葉で時として笑い事に使われますが、やはり笑い事ではすみません。
心筋梗塞、脳梗塞などは疾患として有名ですが子宮体癌も覚えておいてください。女性の体型が立派
になり子宮体癌が増加傾向にあるのは紛れもない事実です。しかし今回は子宮頸癌検診の助成として
クーポン制度が開始したため子宮頸癌を中心にお話しさせていただきます。子宮癌死亡者は昭和 57
年の老人保健法施行後順調に減少してきました。検診成果が非常によく現れ喜ばしい限りでした。し
かし最近異変が起こりつつあり、死亡率が横ばいになっています。原因として「子宮頸癌の若年化」
が大きな要因と考えられております。ほとんどの子宮頸癌は「ヒトパピローマウイルス」と言うウイ
ルスが子宮頸部に感染することにより発生することが分かっています。ヒトパピローマウイルスは性
交渉により感染されるため、最近の性交渉の若年化、多様化のために若くして発生する方が多くなっ
ています(ただヒトパピローマウイルスは性交渉を持つと誰でも感染する機会があり、誰でも持って
いる可能性があるウイルスでいわゆる性病とは異なります。また感染したとしても発症するのはごく
一部で、すぐに悲観する必要はありません)。この若年層の増加を抑えることが喫緊なこととなりま
す。が、若い方は仕事、育児、家事が忙しく「受診する時間がない」
、
「うっかり忘れていた」、
「恥ず
かしくて行きたくない」、「なんとなく痛そう」などなどなかなか受診できない事情があるようです。
では海外ではどうでしょうか?アメリカは検診で問題ないと保険が安くなるようですし、イギリスは
政府が中央管理してすべての女性に検診を直接通達しているようです。このようにして検診率 80%と
いう値をたたき出し、実際癌死亡率を着実に減らしています。それに反して日本は 20%前後の受診率
で OECD 最低です。結局は検診率を上げるのは「周知徹底」と「経済援助」が必要なのが分かりま
す。平成 21 年度補正予算で子宮頸癌検診無料クーポン券が盛り込まれました。対象は 20 才から 5 才
間隔で 40 才までのすべての女性で、直接通知され(周知徹底)、しかも無料(経済援助)となってい
ます。しかし無料券配布は 5 才おきのため「5 年ごとの検診で安心」とは考えないでください。これ
はあくまでも公費援助を受けられる間隔であり、医学的理由ではありません。医学的には 2 年ごと(理
想的には 1 年ごと)検診を行っていただきたく、公費援助をきっかけに後はご自分で検診を受けるよ
うにしてください。やはり「自分の健康は自分で守る」気持ちが大切です。