分譲型シニアマンションの問題点と対応策 (マネジメント的考察)

分譲型シニアマンションの問題点と対応策
(マネジメント的考察)
正会員 増永久仁郎
(NPO法人 近畿マンション管理士協会)
同
北井秀夫(管理組合のマネジメントを研究する会)
会員外 山田健一郎(管理組合のマネジメントを研究する会)
会員外 岩崎昭男(管理組合のマネジメントを研究する会)
1 はじめに
我が国の社会構造は、失われた20年と言われているような長く続いたデフレ経済、少子高齢化、核家族
化の進展等により大きな変貌を迫られている。
それが衣食住に大きな影響を与え、新しい事業形態の創出を促進させているが、とりわけ、マンション住
宅の分野では従来のファミリーマンションからワンルームマンション、都市型タワーマンションに加え単身
高齢者や高齢夫婦向けのマンションが続々開発されている。
私たちマネ研(管理組合のマネジメントを研究する会)は、昨年、高齢化マンションのマネジメントの経
営資源であるヒト・モノ・カネを切り口として、比較的築年数の新しい駅前再開発マンション、20~30
年の郊外型大規模団地マンションと都市型中規模マンションの分析結果を発表しましたが、今回は高齢者対
応マンションの管理(マネジメント)をテーマに研究しましたので、その成果をまとめ発表いたします。
高齢者向けマンションは賃貸型と分譲型に分別される。前者は住宅型有料老人ホームや介護付き老人ホー
ム、ケアハウス、特別養護老人ホーム等がある。しかし平成11年10月、国がサ高住(サービス付き高齢
者向け住宅)のハード・ソフト面の登録基準を設けたこともあり、近年は一気にその存在感を高めている。
一方後者は少子高齢化によるデベロッパーの販売戦略として、2000年代半ばより近畿圏を中心に分譲
型高齢者向けマンションが供給開されていたが、昨年あたりから即日完売の勢いである。
(註 マンション学
34号「高齢者向け分譲マンションの現状と課題より」
以下に賃貸型と分譲型の違いを一覧にしてみた。
賃貸型
分譲型
敷地・建物の所有権者
事業主
区分所有者
共用部分の維持管理責任
事業主
管理組合
生活ルール
事業主が任意設定
管理組合が管理規約で設定
月額費用
家賃・共益費・食費等
管理費・修繕積立金等
介護対応
事業主が運営
管理組合が近隣の医療・介護施設
と提携
食堂
事業主が運営
管理組合が運営
送迎バス
事業主が運営
管理組合が運営
浴場
事業主が運営
大浴場は管理組合が運営
入居条件
年齢や健康状況等の条件あり
なし
尚、近年流行りの賃貸型高齢者マンションのサ高住の事業展開している事業主のパンフレットには、下記
のような内容が掲載されている。
1
「国が定めたサービス基準に則り、生活相談の担当者を常駐させ、本人の安否など親族が確認することが
できる。入居者は60歳以上、または要介護・要支援認定を受けていることが条件」
月額費用はサ高住で15万~25万、住居型老人ホーム15万~30万、介護付き老人ホーム20~35
万となっている。
2 分譲マンションの基本的な管理業務
高齢者向け分譲マンションは一般的にシニアマンションと呼ばれることが多いので、本論でもシニアマン
ションの呼称を使用する。
シニアマンションの供給が今後増大すると予想される根拠は下記のデーターからも読み取れる。
65歳以上の全世帯に占める割合と単身世帯と夫婦のみの世帯割合
1980年
1990年
2000年
2010年
全世帯に占める%
24.0
26.9
35.8
42.6
65歳以上の世帯に占める単身世帯%
10.7
14.9
19.7
24.2
65歳以上の世帯に占める夫婦世帯%
16.2
21.4
27.1
29.9
一人暮らし高齢者の動向
単身世帯に
占める男%
単身世帯に
占める女%
1980年
1990年
2000年
2010年
2020年
2030年
4・3
5.2
8.0
11.1
13・9
15.4
11.2
14.7
17.9
20.3
21.9
23.1
「平成25年版高齢社会白書」より
分譲である限り、シニアマンションにも当然の如く管理組合が形成されている。
マンション管理の形態は、管理組合員がその業務を自ら行う「自主管理」
、業務の一部分を外部に委託する
「部分委託」
、全ての業務を外部に委託する「全部委託」に分かれている。
しかし、区分所有者の高齢化と共に、自主管理や部分委託の管理組合は年々その割合が減り、最近では全
部委託が増えていく傾向がある。ましては新築マンションに至っては、デベロッパーは100%に近いほど
「全部委託」形態を採用している。
管理会社が提供する一般的なサービス内容(管理業務)を下記に示す。
(1)事務管理業務
①基幹事務(管理組合の会計の収入及び支出の調定、出納、マンションの維持又は修繕に関する企
画又は実施の調整)
②基幹事務以外の事務管理業務(理事会支援業務、総会支援業務、その他)
(2)管理員業務
①受付業務
②点検業務
③立合業務
2
④報告連絡業務
⑤管理補助業務
⑥日常清掃業務(100戸以下のマンションに多い)
(3)コンシェルジェ業務(タワーマンションやシニアマンション、富裕層マンションに多い)
①取次・手配等(郵便物、宅配、クリーニング、タクシー、各種清掃サービス、コピーサービス等)
②受付・その他のサービス(メッセージの受付、集会室や館内施設の予約等)
(4)日常清掃業務(共有部の掃き、拭き、散水等)
(5)建物・設備管理業務(管理員若しくは専門職による年数回の目視点検)
(6)遠隔監視業務(満水・減水、自動火災警報、エレベータートラブル等)
(7)定期清掃業務(年に数回施工されるエントランス、エレベーターホール等を定期的に実施する清掃
で、日常清掃ではできない高所作業や床面清掃に高圧洗浄機やポリッシャーが利用される)
(8)貯水槽清掃(貯水槽の清掃を年1回実施)
(9)雑排水管洗浄(通常年1回、台所・洗面所・風呂場等の横引き管と立管、会所等の高圧洗浄)
(10)消防設備点検(年2回の法定点検。総合点検と機器点検があり、3年に1回管轄消防署に点検結
果を報告する義務がある)
(11)エレベーター点検(法定点検は年1回であるが、通常毎月若しくは3か月に1回、現場での点検
がある)
(12)機械式駐車機の点検(通常は3か月に1回の機器点検がある)
これらの費用は委託管理費として支払われているが、
(6)から(12)は専門業者に外注しているのが
実態である。
3 シニアマンション特有の管理業務
シニアマンションは高齢者(概ね65歳以上)の富裕層にマーケティングしているので、一般的に下記の
共用施設・設備を有しているが、その管理は全部委託されていないのが現状である。
それを一つひとつ分析した内容を下記に示す。
(1)食堂、レストランと食事サービス
高齢者マンションの大きな特徴の一つは食堂の設置である。したがってデベロッパーの販売資料には
大きなスペースが取られている。その一例を下記に示す。
「毎日のことなので食事の重要性は極めて高い。栄養管理とバランスのとれた配膳で健康・体力維持
そしてアンチエイジングにも一定以上の効果が期待できる。病院介護施設の配膳・調理実績のある食堂
業者と提携、
栄養士が考えた献立料理を調理歴20年のベテラン料理長が入居者本位の料理を提供する」
基本的には食堂は365日若しくは年末年始やお盆委以外は運営されているが、食事時間は、朝食は
午前中2時間、
昼食は正午を挟んで2時間30分間、
夕食は18時前後2時間30分間に限られており、
他にティータイムを設けているマンションもある。
食事は1週間単位の予約制で1~2種類の定食(朝食400円前後、昼食600円前後、夕食800
円前後)が設定されているが、不意の来客に備えて麺や丼も数種類、コーヒー等の飲み物も提供されて
いる。
しかし、食堂の運営は管理会社に委託されず、管理組合が外部の食堂業者と直接委託契約を締結する
3
ことが一般的である。その際の委託料金(食堂運営補助金と呼ばれる)は年間1~2千万円になること
もあり、これが管理組合にとって大きな負担となることが多い。
一方、食堂業者にとっても、料理長・配膳掛等のスタッフの人件費等の経費と利益を居住者用に提供
する食費(売上高)だけで賄うことは所詮不可能であることから、固定費と一定の利益は管理組合が支
払う運営補助金で補助されなければ業務を受託できない状況にある。
(2)介護・医療施設と生活支援サービス、医療・介護サービス
さすがに医療施設を設置できるシニアマンションは殆どないにしても、ケアールームやフイットネス
ルーム、カルチャー教室や各種イベントも開催できる多目的ルームなどは必需施設となっている。
①24時間管理スタッフが常駐しており、各住戸に設置された緊急コールボタンで居住者の身体の異
常に対応する他、ゴミ出し、電球交換、クリーニング取次、タクシー手配、ハウスクリーニング紹介
等コンシュルジェ業務に付加価値を付けている。
②医療・介護サービスは近隣の医療施設や介護施設と提携しており、健康相談、訪問介護等を行って
いる。しかし、デベロッパーが提供する資料に記載されている近隣の医療・介護施設との提携は、
契約書や覚書は一般的に交わされていない事が多い。
したがって、管理組合は提携自体の永続性を保証されていないので、デベロッパーから業務を引き
継ぐ管理組合が医療・介護施設の提携維持に心がけなくてはならない。
一方、生活支援サービスのスタッフは、日中は管理会社がコンサルジェ派遣業者や介護業者に外部
委託しているが、夜間は管理会社の管理員が代行しているのが現状である。
(3)大浴場
シニアマンションはホテル並みのサービス提供をコンセプトにしているため、専有部の洗面・浴室の
他に大浴場も設置されている。
大浴場にはスパシステムやジェットバス、ジャグジー等の設備も付帯されており、男女が週毎に違っ
た雰囲気を楽しめるよう小ぶりの浴場や家族風呂等も設けている。
その他、リラクゼーションルーや体重計・体脂肪計・血圧計等のヘルス用品も完備されている。
(4)応接家具が整備されたエントランスやゲストルーム等
シニアマンションは販売対象が単身の高齢者や高齢の夫婦であるため来客者用の応接家具があるエン
トランスやゲストルームの設置されている。 利用希望者には貸し布団等が有償で提供される。
(5)送迎バス
管理会社でリース契約したマイクロバス等が提携された医療・介護施設や商業施設向けに1日数回巡
回されるが、運転手は管理員が行うことが多いため日曜・祭日は運休されることが多い。マイクロバス
のリース料金は管理費から支出される。
(6)その他セントラルヒーティング、専有部緊急連絡システム等が完備されている。
このように、シニアマンションは激増する高齢者の終の棲家として、郊外の戸建てやファミリーマンシ
ョンを手放した比較的リッチな層の購買意欲をそそるキャッチコピーが販売パンフレットの随所に散りばか
れている。その一例を下記に示す。
4
5
4 シニアマンションとファミリーマンションの管理業務の比較
ファミリーマンションの管理は自主管理や部分委託、全部委託の形態に分かれているが、シニアマンシ
ョンにおいては全部委託以外の管理形態がないと想像されるので、両者の比較表を下記に示す。
業務内容
事務管理、管理員、日常清掃
シニアマンション
ファミリーマンション
管理会社
管理会社
定期清掃
管理会社(清掃業者に外注)
管理会社(清掃業者に外注)
設備保守
管理会社(設備業者に外注)
管理会社(設備業者に外注)
食事サービス
管理組合(食堂業者に外注)
生活支援
管理会社(業者に外注)
医療・介護施設
管理組合(外部施設と提携)
大浴場運営
管理会社(特別清掃は外注)
送迎バスサービス
管理会社
建物設備点検、遠隔監視
ここで大きな問題が生じてくるのは、食事サービスと医療・介護施設との提携である。
もともとシニアマンションの食事サービスは居住者へ提供することを目的に設置されている。換言すれば
学生寮や企業の社員寮を想像すれば理解できると思う。
しかし、後者は居住している学生や社員の殆どが利用することを前提した献立があるに比し、前者は居住
全員が利用する訳ではない。たとえば夫婦者は自炊するし、健康な単身者は外部のレストランを利用するだ
けでなく、介護用のケータリングサービスを受ける居住者もいることから全戸数に占める食堂利用率は年々
下がる傾向にある。
したがって学生寮や社員寮以上に管理組合から食堂運営業者に運営補助金を支出しないと彼らは事業から
撤退をする。
同様に医療・介護施設との提携も施設側にメリットがないと判断されれば、訪問診療や訪問介護、訪問健
康相談・指導も実施される訳ではなく、いつ何時提携が解消されるかわからないリスクを抱える。
5 シニアマンションの経費分析
ファミリーマンションにはない共用施設が設けられ、サービスもホテル並みを目指しているので管理費は
高額にならざるを得ない。
某シニアマンションの管理組合から管理費分析の依頼を受け、提供された定期総会資料や管理委託契約書
を元に各項目毎に経費分析を行った結果を下記に示す。
(1)事務管理業務費
事務管理業務の費用の内訳は、フロントや本社・支社の事務スタッフの人件費と事務所費、各種リース
料金、備品・消耗品費等になっているが、フロントはファミリーマンション以上にマンションを訪問する
頻度も上がるため、フロントが担当する管理組合数が減らさざる等の理由からどうしても割高にならざる
を得ない。
その結果、当該マンションの事務管理費はファミリーマンションの1.5~2倍になっていた。
(2)管理員業務費とコンシェルジュ業務費
24時間常駐管理のため日中は管理員2名、コンシュルジェ1名、夜間は管理員1名のシフト体制を敷
6
いている。
管理員のうち1名は月~土曜日の7時間勤務(年末年始、夏季休暇、祝日、会社が定めた健康診断日や
休日制度あり)で標準的な管理員業務を行い、1名は24時間勤務(仮眠制度あり)で日中は共用部分の
日常清掃や大浴場の清掃、送迎バスの運転等を行っている。
コンシュルジェは月~土曜日の8時間交代制勤務、年末年始や祝日は休日になっているが、管理会社は
コンシュルジェ業務を専門業者に外注している。
当該マンションの場合、3名の週労働時間は190時間となり、時給換算するとファミリーマンショ
ンより約50%高くなっていた。
(3)建物設備点検業務費と遠隔監視業務費
建物設備点検業務費はファミリーマンションと同程度の費用であるが、遠隔監視業務費は緊急コール
システムを専有部分に設置するためシステムのリース料金を含めると割高にならざるを得ない。
当該マンションではファミリーマンションの10倍弱の費用となっていた。
(4)定期清掃費
一般的にファミリーマンションの共用部と専有部の比率は2対8であるが、シニアマンションは4対
6となり、共用部分の清掃面積が増えることで費用は割高になる。
加えて大浴場の年に数回の特別清掃も加算される。
(5)各種設備の保守点検費
貯水槽清掃、雑排水管洗浄、消防設備点検、エレベーター点検、機械式駐車機等はファミリーマンシ
ョンと同額であるが、シニアマンション特有の大浴場用の給湯システムや全館空調システム等の保守点
検費用が加算される。
(6)食堂運営負担金等
食堂運営負担金は管理組合が一括して管理費の中から支出される場合と区分所有者が個々に支払う場
合がある。何れも食堂の利用にかかわらず区分所有者は全員負担することが求められる。
(7)共用部分の光熱水費
館内空調や低いレンタブル比、大浴場などのファミリーマンションの数倍の光熱水費となる。
(8)修繕積立金
修繕積立金は「修繕積立一時金」の他に「月額修繕積立金」で構成されているが、昨今の新築マンシ
ョンでは月額修繕積立金は5年毎、若しくは10年毎に増額されると共に10年毎に一時金徴収も計画
されている事が多い。当該マンションの場合、一時金の徴収は計画されていないが月額修繕積立金は1
0年毎に倍増が計画されていた。
以上の点をまとめると、戸当たりの管理費は平方メートル当たり1千円前後となる。
たとえば単身者用(ワンルーム)タイプで月額3~4万円、夫婦者用(50~60㎡)で4~5万円
の月額管理費になる。これに月額修繕積立金を加えると区分所有者は富裕層に限られる。
毎年実施されるマンション管理新聞社の管理費に関する大阪府内の最新データーによれば築5~10
年のファミリーマンションは下記のようになっている。
①平均月額管理費:㎡当たり131円
②平均月額修繕積立金、㎡当たり91円
ちなみに、同築年数のシニアマンションは、管理費㎡当たり900円前後であり、ファミリーマンシ
7
ョンの6~7倍であり、修繕積立金は㎡当たり175円が2倍弱であることからシニアマンションの管
理費・修繕積立金はかなり割高であることが解る。
6 シニアマンションの問題点と対応策
以上述べてきたような問題点はシニアマンションに共通するものであり、なにも特異なものではない。
ここで取り上げるシニアマンションは、大阪・京都・兵庫・奈良4県で7件のシリーズマンションとして供
給され、同一大手ガス会社系列管理会社が委託管理を受託しているうちの一つである。以下にこのマンショ
ンの具体的な問題点と対応策の実践事例を説明するが、当該マンションはまだ改革の途上にあることから対
応策も進行形であることを前提にしてほしい。
(1)経緯
平成24年9月、大阪府堺市の平成18年1月竣工、89戸15階・地下1階建てシニアマンションの
理事長・副理事長から以下の相談を受けた。
①理事の成り手が少なく、かつ区分所有者は高齢であり1年毎の輪番制であることから、マンション管
理に積極的に取り組む意欲に乏しい。
②マンション管理の知識が不足している理事会は、どうしても管理会社主導の運営になることから、管
理組合目線のコンサルタントのアドバイスの必要性を感じている。
③管理費は食堂運営費の負担等から慢性的な赤字体質になっている。区分所有者が購入時に20~30
万円の管理一時金を支払っているので、現在は管理一時金でその赤字を埋めている状況だ。
③1階の共用部分に提携先であった医療施設の介護関連のグループ会社に販売当初から貸していたが、
賃料は無料であるにも関わらず居住者向けサービスはないことが判明した。いわゆる訪問介護施設で
あった。したがって理事会が賃料の請求を行ったが、介護施設側は「賃料は不要の条件で借用してい
た。話が違う」と平成23年退去した。現在医療・介護施設や鍼灸医院等の入居希望を探している
が苦労している。
また提携先の医療施設に問い合わせたが、提携とは名ばかりであり、デベロッパーから名前を借用
させて欲しいとの要請に応じただけであることも判明した。
④赤字体質の改善を図るため、先ず食堂業者を変更し食堂運営費の大幅削減を図っている。次回定期総
会(翌年2月)で当件の議案を審議する予定である。
以上の相談を受けて、NPO近畿(NPO法人近畿マンション管理士協会)はシニアマンションの管理
組合運営に関するアドバイザー契約を交わした。
(2)理事会運営上の問題
一般的に管理組合の理事のモチベーションは決して高くはないと思われている。この原因は、マンショ
ンの購入者は「区分所有者は管理組合員の構成員であり、マンション管理は管理組合が行うものである。
管理組合には管理規約があり、その規約に総会議決事項や理事会運営などが規定されていて、区分所有者
は誰でも理事になる可能性がある」ことを、必ずしも解っていないからと類推される。
また、管理組合の自立化に関しても「管理組合はマンション管理業務を管理会社に委託しているが、そ
れはマンション管理業務を管理会社に丸投げしているのではなく、そこには自己責任原則がある」ことの
理解力が乏しい。
まして、シニアマンションの購入者は、ホテルのような設備がある上に食堂(レストラン)で3食が食
べられ、医療・介護サービスが手厚い高齢者向け分譲マンションのイメージが強いため(と言うより販売
8
パンフレットがそのように書かれている)
、マンション管理の主体が管理組合であり、管理会社にマンショ
ン管理業務を委託しているだけであることの実感がない。
当該マンションの管理規約では、理事は抽選で選ばれ、理事会の定員は7名である。任期は1年(総員
入れ替え制)
、役員は理事の互選で選任されるが、
「理事長のみ自薦・他薦にて特別に総会で選任」や「9
0歳以上の区分所有者の理事免除条項」
「外部居住の区分所有者は管理費に月額2千円を加算する義務(理
事免除)
」
「
、抽選で選出された内部居住の区分所有者は月額3千円を1年間加算されることで2年間理事免
除条項」などのローカルルールが規定されている。
理事会の構成メンバーは平均余命の男女の比率通り女性の方が多い。しかし男は外で働き女性は家庭を
守る世代の影響からか理事長は男性が選ばれる傾向が強い。
このような環境にあるシニアマンションで、その資産価値の根幹となる「食堂の運営」及び「医療・介
護施設との提携」は管理会社のマンション管理業務に含まれていないため、管理組合自らが管理(マネジ
メント)を行う必要があると自覚させることはかなり難しい状況である。
当該マンションの食堂運営の構図は、食堂利用料は全額食堂業者の売上となっているので、管理組合に
は収入がないにも関わらず、食堂業者に固定費(食堂運営費の名目)として年間14,255,208円(月
額1,187,934円)を食堂業者に支払っていた。その影響で、平成24年度の管理費会計は1,81
3,718円の赤字であった。
(註)平成25年度は食堂業者の変更や食堂補助金の改定が行われた。
加えて医療・介護施設との提携も、提携先のメリットがなければ逆選択されるので提携が切れるリスク
もあるので、永続的な提携関係を維持するには相互に信頼がなければならないのに任期1年、抽選制総入
れ替えの理事会制を敷いていた。ちなみに、理事長の留任は過去ないとのことであった。
(3)レンタブル比問題
レンタブル比とは総専有面積÷総延べ床面積で示される。賃貸マンションでは総専有面積が総賃貸面積と
なり、一般的にレンタブル比は80~90%があるが、90%以上は高収益賃貸マンションとみなされる。
分譲マンションにおいてもレンタブル比は事業性や分譲価格に大きな影響を与える。
しかし、シニアマンションの場合、分譲マンションでありながら、豪華な応接セットを配備する必要上広
いエントランスが設計され、大浴場やケアールーム、カラオケルーム、車椅子が両側通行できるように幅広
い内廊下(全館空調の関係から解放廊下は少ない)などの共用部分が多い。
当該マンションの場合、そのうえエレベーターが3台、地下に大浴場や大容量給湯器などが設置され、2
Fは食堂やケアールーム、会議室などがあり、地下1階、地上15階建てのうち3つのフロアーが共用部分
になっていた。レンタブル比は61.1%であった。
(註:マンション学34号「高齢者向け分譲マンションの現状と課題」長谷工総合研究所の吉村直子研究員
の発表論文にたまたま当該マンションのレンタブル比が載っていた)
2011年8月に発表された(社)不動産協会の「高齢時代の住宅のあり方に関する研究」には、シニア
マンションの算出データー28件の多くのレンタブル比は55~65%の間に分布するが、これは一般分譲
マンションに比べるとかなり低い、と記載されている。
業界ではファミリーマンションのレンタブル比が80%以上と言われていることから判断してもシニアマ
ンションの共用部分はかなり広いと言わざるを得ない。
9
そのうえ、高齢者向けマンションであることから、過剰な程のバリアフリー化が設計されている。また全
館の共用廊下は全て高価なカーペット使用になっているので、カーペットの劣化によるけつまずき防止のた
めの維持管理は管理組合の責任となってくる。
(4)管理費・修繕積立金などの問題
管理費に占めるコストの殆どは人件費である。
ファミリーマンションと違いシニアマンションは24時間常駐勤務となっており、加えて管理員業務の他
にコンシュルジェ業務もあることから日中は最低3名以上の人員が配置されている。
その他大浴場や広いエントランス、カーペット敷きの幅広内廊下、多目的ルームなどの清掃箇所なども共
用部分となるので日常清掃員の業務は増加される。
先の(社)不動産協会発表の研究報告でも管理費に関する記述で「近傍のファミリーマンションと比較し
た場合の㎡単価比については、低いものは2倍であるが、それ以外は4~8倍である」と記載されている。
そのうえ、ファミリーマンションでは管理費徴収の単位が住戸毎になされているが、シニアマンションで
は居住人単位となっている事例も報告されている。
当該マンションでは管理費徴収単位は住戸単位であるが、それでもマンション管理新聞調査データーの比
較でも6~7倍高くなっている。
修繕積立金は長期修繕計画書により算出される。シニアマンションはファミリーマンションと違いレンタ
ブル比が高く、またその共用設備や住宅設備も高価であることから長期修繕計画書の項目も必然的に多くな
ることから、修繕積立金も過大にならざるを得ない。
(5)対応策
以上のような問題点は必ずしも管理組合に充分把握されておらず、今期理事会や臨時総会の席上において
マンション管理士が幾度なく注意喚起を行うことで問題意識が芽生えてきたようだ。
今後の対策としては下記が挙げられる。
①
区分所有者全員に共通の現状認識を持たせること。具体的な方策として理事会議事録的な硬い文書で
はなく理事会便り、専門委員会便り的な広報紙を活用すること。
②
理事長を補佐するためにマンション管理士に理事長代行機能を持たせること。例年、理事長候補が見
つからず苦労しているようだが、その原因はマンション管理の知識がないため気後れしてしまうとの
ことなのでサポート体制を確立することにより自薦・他薦を活性化すること。
③
継続的に対策を講じる専門委員会を設置すること。理事会が1年任期の総員入替なので第3者(たと
えばマンション管理士など)と交えた有識者の集まり(専門委員会)を設け、当該マンションの問題
点を分析し対応策をオープンに討議する機関を設けること。
④
理事会と専門委員会の有機的結合を図ること。得てして理事会と専門員会とは対立する管理組合もあ
ることから理事会と専門委員会の役割の自覚化の教育をマンション管理士が行うこと。
⑤
専門委員会の役割はマンションの資産価値の向上の方策を検討すること。そのためには「良好なコミ
ュニティの形成」と「狭義のマンション管理(マネジメント)
」を行う必要がある。とりわけ、当該
マンションは遊休共有部分として1Fの店舗スペース(約102.3㎡)
、2Fの食堂、ケアールー
ム(合計326㎡)などの活用が考えられる。遊休共用部分を単純に賃貸に出す方法もあるが、その
際は青色申告の問題がある。他方では食堂業者、介護(医療)施設との一体化した業務委託も検討の
余地がある。以上のことを資産価値向上の観点から検討することが求められる。
10
以上の問題点は徐々に理事会で理解されてきたが、 当該管理組合の定期総会は2月に開催されるの
で、我々マンション管理士は新理事を啓発することが求められる。
今期理事会は①及び②に取り掛かって任期が終了した。
しかし、平成25年の年末に、管理会社から管理委託契約書に記載されている「管理員の送迎バス
運転業務の削除」要請が唐突に理事会にあり、理事長始め副理事長役員は対応に忙殺された。
幸いなことに、今期理事長は次期理事長の引継ぎも兼ねて「送迎バス問題」の処理にあたっている
ので、次期理事会発足時には理事全員がシニアマンションの管理に関心を抱いてくれるかもしれない。
平成26年2月に開催が予定されている定期総会は大荒れに荒れるかもしれないが、管理組合自立
化の第一歩にならんことを期待したい。
★参考文献
日本経済新聞
マンション学34号「高齢者向け分譲マンションの現状と課題」吉村直子長谷工総合研究所主任研究員
平成25年版高齢者社会白書
(社)不動産協会「高齢時代の住宅のあり方に関する研究」2011年8月
11