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 ▼軽飛行機の操縦さえ未熟だったとされるハニ・ハン
ジュールが、あの低層構造の国防総省の横腹に突っ込む操縦
がはたしてできたのか。
元全日空パイロットで航空評論家の前根明氏は「軽飛行機
の操縦訓練の後、地上シミレーターで10時間以上の訓練を
すれば可能」と指摘している。前根氏は世界貿易センターに
2機目のユナイテッド航空175便が斜めに突入した映像を
見たときの感想として「素人の操縦だなと思った。あのビル
の幅は滑走路とほぼ同じ。プロであれば機を水平に保ってぶ
つけられる」とも話した。
▼国防総省に突っ込んだのは本当に旅客機だったのか。
昨年の取材の案内役を頼んだ米バージニア州出身のフリー
ジャーナリストのサンダー・ヒックス氏の話は以下。
「国防総省に旅客機が突入する様子を見た目撃者は60人
以上いる。その中には、幼友達で家族ぐるみの付き合いのあ
り、信頼している女性もいる。彼女に直接取材したが、突入
したのは旅客機だったことは間違いないと言っていた。彼女
の話は疑いにくい」。
ちなみに彼は9・11事件全体を「ブッシュ政権による壮
大なでっち上げ」と断ずるトゥルーサーだ。
▼国防総省に「旅客機激突」後、FBIは近くのガソリン
スタンドの監視カメラのビデオまで回収した。
事実だった。国防総省の敷地内を借りて営業しているガソ
リンスタンドに当時から勤めている女性従業員によると「衝
突から数時間後、FBIの捜査員が来て、カメラのビデオを
全部回収していった」。カメラはスタンドの敷地内に少なく
とも3台。当時と同じ配置とすると、うち一台は旅客機が激
突したとされる壁の部分を真正面から捕らえる位置に配置し
てあった。この映像がいまだに公開されていないのは不自
然。
▼9・11事件の直前にプット・オプション取引で航空関
連株などを空売りして莫大な利益を得た者がいる。
これは米メディアだけでなく、9・11の直後に共同通信
も報じており、事実であることは疑いない。だれの仕業か。
取引を行った者を特定できないのか。金融専門家からは「干
し草の山から針を見つけるようなもの」という見解と「米証
券取引委員会が本気になれば分からないはずがない」という
両方の見解を聞いた。個人的には、後者の見解に説得力を感
じる。専門家の見解をさらに聞いてみたい。
取引を行った者がだれであるか分かったとき、決定的なス
キャンダルが明るみに出るのではないかとも思っている。
(いしやま・えいいちろう・ジャーナリスト)
*筆者には、近著『彼らは戦場に行った ルポ新・戦争と平
和』(共同通信社)があります。
「核密約」裏づける新資料が続々
佐藤・ニクソン極秘文書が私邸に隠されていた
池田龍夫(ジャーナリスト、元毎日新聞記者)
沖縄返還交渉(1969~72)の際、「非核3原則」(核
兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)を国会で明言、国民に
約束した首相は佐藤栄作氏(1901~75)だった。その
後、「『核持ち込み』密約があったのではないか」との疑惑
が指摘され、特に昨年6月以降、元外務省高官らの〝暴露発
言〟が相次いだが、新たに故佐藤栄作氏邸から「核密約文
書」発覚の衝撃が走った。まさに第一級資料であり、歴代自
民党政権が隠蔽し続けたベールが完全に剥がされたと言え
る。折から鳩山由紀夫・民主党政権のもとで、外務省の「密
約調査・有識者委員会」が作業中であり、その波紋は各方面
に広がっている。
「非核3原則」の根幹を揺るがす大問題
衝撃のニュースは2009年12月22日読売新聞夕刊が
特報したもので、他紙も23日朝刊での大報道となった。
「1969年11月21日発表のニクソン米大統領と日本の
佐藤首相による共同声明に関する合議事項」との表題がつい
た文書で、佐藤氏邸に隠匿されていた。故栄作首相の次男、
佐藤信二氏(元通産相)が「父の遺品の中にあった」と、メ
ディア各社に真相を初めて語り、日米両国首脳署名の「最高
機密文書」が明らかになった。
[沖縄核密約文書]
米国大統領=我々が共同声明で述べたように、米国政
府の意図は、実際に施政権が日本に返還される時まで
に、沖縄からすべての核兵器を撤去することである。
そしてそれ以降は、共同声明で述べているように、日
米安全保障条約と関連する諸取り決めが沖縄に適用さ
れる。しかし、日本を含む極東諸国を防衛するとい
う、米国が負っている国際的責任を効果的に遂行する
ためには、米国政府は、重大な緊急事態が起きた際、
日本政府との事前協議を経て、核兵器の沖縄への再持
ち込みと沖縄を通過させる権利を必要とするであろ
う。米国政府はその場合に好意的な回答を受けられる
ものと期待する。米国政府はまた、沖縄に現存する核
貯蔵施設の所在地である嘉手納、那覇、辺野古及びナ
14 アジア記者クラブ通信 211号 2010年2月号
イキ・ハーキュリーズ基地を、いつでも使用可能な状
態で維持し、重大な緊急事態の際には実際に使用でき
るよう求める。
日本国首相=日本国政府は、大統領が上記で述べた重
大な緊急事態の際の米国政府としての諸条件を理解
し、そのような事前協議が行われた場合には、これら
の要件を遅滞なく満たすであろう。大統領と首相はこ
の議事録を2通作成し、さらに、米国大統領と首相官
邸にのみ保管し、更に、米国大統領と日本国首相だけ
の間で、最高級の機密のうちに取り扱うべきであると
いうことで合意した。
ワシントンDC、1969年11月19日
リチャード・ニクソン(直筆署名)
エイサク・サトウ(直筆署名)
「プライベート文書」との認識に驚かされる
「非核3原則」を世界へ向かって発信、「ノーベル平和
賞」まで受賞した日本国首相が、「重大な緊急事態の際は沖
縄への米軍核再持ち込み」を密かに約束していたとは…。ま
さに「衣の下に鎧」──40年前の「最高機密文書」発掘に
よって、「核持ち込み密約」の策謀が証明されてしまった。
沖縄返還交渉当時の米国は、ベトナム戦争ドロ沼化に喘い
でいる時期だった。米国が日本の求めた「核抜き本土並み返
還」を受け入れ、沖縄・米軍基地からの核兵器撤去に応じた
背景には、米国の財政ピンチと日米繊維交渉打開の思惑も絡
んでいたようだ。米国にとっては、経済大国の地歩を固めて
きた日本との連携強化のための「沖縄返還」だったわけだ
が、その代わりに米国は「有事の際の核再持ち込み」密約を
日本の首相から取り付けていたのである。
佐藤信二氏が朝日新聞のインタビューに応じ、文書発見の
経緯などを語っている重要個所をピックアップして参考に供
したい。
(1)「父(栄作氏)が首相を辞めて私物を自宅に持ち帰っ
た時に、公邸で日記などをつけていた机も運んだ。母も亡く
なり、遺品を整理するため机の引き出しを空けたら、この文
書が出てきた。間違いなく父が書いたものと思う。父の真意
は分からないが、『核抜き本土並み』というのはだいたい固
まりつつあった。そういう中で、文書を押さえにしないと壊
れると本当に思ったのだろうか。次の首相の田中角栄氏に
も、多分この文書を伝えていないと思う。」
(2)「この文書は『プライベートレター』だと思う。公私
の別をはっきりする人で、私文書だから持ち帰ったと思って
いる。公文書というなら官邸に置いただろう。これによって
沖縄が返ってきたと結びつけるのは短絡的だと思う。これま
で積極的に発表しなかったのは、あまり意味がないんじゃな
いかと思ったからだ。文書を見つけた際、外交資料館で保管
を頼もうかとも思ったが、外務省の人たちはあまり関心がな
いようだった。存在を知らない人が多かった。」
〝密使〟若泉敬氏の告白は、本当だった
佐藤首相は、前段で紹介したニクソン大統領との「密約文
書」には、「(この議事録を)首相官邸にのみ保管し、さら
に米国大統領と日本国首相だけの間で、最高級の機密のうち
に取り扱うべきであるということで合意した」と明記されて
いたのに、首相辞任後私邸に持ち帰ったこと自体、国家機密
上の重大問題である。日米首脳だけが厳重保管するとの約束
にも違反しており、とんでもない行為ではないか。息子の信
二氏が最近の「密約報道」の高まりに便乗して文書公表に踏
み切ったと推察されるが、国会議員だった信二氏の「プライ
ベート文書だ」との認識には驚かされた。「親子そろって、
密約文書を私物化し、秘匿した」との非難を浴びるのは、当
然でなかろうか。
米国大統領が署名した「密約文書」には、「重大な緊急事
態が起きた際、日本政府との事前協議を経て…」と断りつつ
も、「米国政府はその場合に好意的な回答を受け止められる
ものと期待する」と明記している。平たく言えば、「日本政
府は、米国の申し入れに遅滞なく応じる」との前提に立った
レトリックで、事前協議を空洞化するものである。
以上の「密約」について、返還交渉の〝密使〟だった故若
泉敬氏(京都産業大学教授)は1994年に出版した著書
「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」で密約交渉の経緯を暴露し
ており、信憑性の高い資料と見られていたが、自民党政府は
一貫して存在を否定してきた。このほど、日米首脳の直筆署
名文書が白日のもとに曝されたことにより、「歴代政府のウ
ソ」が完全に暴かれたのである。
「沖縄返還、肩代わり密約」、「核搭載艦船寄港の密
約」も…
日米間の「密約」として、(1)核持ち込み時の事前協議
から艦船寄港などを外す核密約、(2)朝鮮半島有事の際に
在日米軍基地を出撃拠点として容認する密約、(3)有事の
際の沖縄への核再持ち込み密約、(4)沖縄返還の際、米国
が負担すべき原状回復費400万ドルを日本側が肩代わりす
るなど3億2000万ドルを義務づける密約──があったと
指摘されているが、まず(3)の密約が「佐藤栄作署名文
書」発掘によって裏づけられた。
(4)の「沖縄返還時の3億200万ドル肩代わり密約」
については現在、東京地裁の「沖縄密約文書開示訴訟」がヤ
マ場を迎え、注目を集めている。昨年12月1日開かれた口
頭弁論で、交渉当事者だった吉野文六・元外務省アメリカ局
長が原告側証人として、「肩代わり密約があった」とキッパ
リ証言している。証言内容は前回のリポートで詳報したので
重複は避けるが、「沖縄返還密約」の国家賠償訴訟提起(2
005年)から5年にわたる審理を通じて、これまた密約の
存在が極めて濃厚になってきた。
(1)の「核兵器搭載艦船の日本寄港・通過」の密約もま
た、昨年6月の村田良平・元外務事務次官の「核持ち込み」
発言を皮切りに、元外務省高官から次々と「密約発言」が飛
び出している。今年1月になって、1960年の日米安保条
約改定時に外務事務次官だった山田久就氏(故人)が語った
録音テープが見つかった。共同通信が1月22日配信したも
ので、史料価値は高い。山田氏が81年5月、原彬久氏(東
京国際大学大学院教授)のインタビューに答えたもので、既
に明らかになっているライシャワー元駐日大使証言を肯定す
る内容である。これまた、日本政府が一貫して「事前協議が
なかったから、核持ち込みはない」との主張を完全に覆す資
料である。録音テープのやり取りが興味深いので、要点を紹
介しておこう。
「(原)1960年に安保国会が始まって、赤城宗徳防衛
庁長官がトランジット(通過・寄港)もイントロダクション
(持ち込み)に入る。事前協議の対象になると言うんです。
外務省で(国会対策用の)想定問答を作り、トランジットも
入れています。だから取り繕ったわけですね。だけど日米間
の問題意識としては、トランジットは全然入ってない。
(山田)入っていない。ライシャワー氏が『核艦船の通
過・寄港は核持ち込みではない』と証言した通りです。通
過・寄港を『持ち込み』に入れたのは、対野党戦術ですよ。
安保改定時に、非核3原則なんてバカな話は考えていないか
らね。(核持ち込みの事前協議をしたら)完全にイエスもあ
れば、ノーもあるということでね、その時の状況によって
ね。それが両国間の了解ですよ」。──当初から、「核持ち
込み」をカムフラージュする意図があったことを明白に裏づ
ける証言である。米国の軍事戦略に「ノー」と言えない日本
政府が、姑息な〝言い逃れ〟で糊塗し、ウソの上塗りをして
国民を欺いてきた戦後政治の姿に、驚愕は深まるばかりだ。
外務省「有識者委員会」が、密約文書解明に斬り込む
鳩山民主党政権発足直後の昨年11月、外務省は「核密約
を調査・検証する有識者委員会」を立ち上げ、自民党政権が
閉ざし続けてきた難題に斬り込む作業に着手、当時の外交文
書を洗い出している。有識者委員会は、北岡伸一・東大教授
を座長に、河野康子・法政大教授、坂本一哉・大阪大教授、
佐々木卓也・立教大教授、波多野澄雄・筑波大教授、春名幹
男・名古屋大教授(元共同通信記者)の6委員で構成。いず
れも日米外交・安保・沖縄問題の専門家で、外務省参与(非
常勤国家公務員)として、守秘義務が課せられている。同
チームの調査対象は、先に挙げた「密約」4件だが、外務省
と財務省から問題文書は見つかるだろうか。各省庁には、公
文書を厳重管理・保存する義務が課せられているが、大臣間
の引き継ぎを含めて文書管理は恣意的で、いい加減な実態と
いう。「由らしむベし、知らしむべからず」の〝お上意識〟
がなお根強く、「探したが、文書はなかった」との隠蔽体質
は目に余る。特に「情報公開法」が施行された2001年前
後、外務省幹部らの指示で、一部文書が廃棄(焼却、裁断)
されたといわれ、「調査検証チーム」の証拠集めは生易しく
ないと推察する。ただ、「核搭載艦船の寄港密約」に関する
大平・ライシャワー会談などの関連文書はかなり見つかって
いるようで、「寄港密約」に関する証拠集めは進んでいる模
様だ。
一方、「沖縄返還、肩代わり密約」については、大蔵省課
長補佐時代に「原状回復費問題」を直接担当した森田一氏
(大平外相秘書官のあと運輸相)の証言を受け、菅直人財務
相が文書探しを命じるなど、外務・財務両省での掘り起こし
作業が進行中だ。しかしここにも、2001年前後の〝廃
棄〟文書はあるようで、「寄港密約」より証拠集めが難航す
ると予想されている。ただ、「肩代わり密約」については、
東京地裁での審理を通じて、補強材料が次々出てきている。
日米安保改定50周年、再検証のチャンス
東西冷戦の終焉から20年、中国をはじめ新興国の経済発
展によって、先進国(特に米国)優位の外交圧力がスンナリ
通用しない時代になった。「日米安全保障条約改定」50周
年を迎えたいま、日米関係のヒズミを検証し、軍事偏重でな
い日米同盟を再構築する絶好のチャンスである。当面「沖
縄・普天間基地移設問題」がホットな課題ではあるが、その
根底にある日米軍事協力の在り方を再検証し、日本が「核な
き世界」への先導役となる覚悟が、鳩山民主党政権に求めら
れていると思う。その観点に立って見れば、歴代自民党政権
の欺瞞的「核密約」を清算し、戦後の日本の道標になってき
た「憲法9条」と「非核3原則」を再確認することこそ肝要
アジア記者クラブ通信 211号 2010年2月号 15
である。ベールを剥がされた「核密約の存在」を逆手にとっ
て、「憲法改正」「非核3原則見直し」論が台頭するような
時代状況は危険きわまりなく、国家存亡の重大事であるから
だ。
最後に、寺島実郎氏が「東アジアの現状を冷静に捉えるな
らば、『戦略的あいまいさ』であっても、日本での米軍の存
在は一定の枠において継続されるべきものであろう。ただ、
これまでの惰性ではなく、熟慮の上、相互信頼に値する日米
同盟の再構築に立ち向かうべきである」と前置きし、5項目
の問題点を提起していたので、その概略を紹介しておきた
い。(『世界』2010年2月号)
経済と安全保障の二本立てで討議を深め、日米同盟を再設
計する。日米FTA(自由貿易協定)などの具体化と米軍基
地などの在り方についての戦略対話を実現する。
(2)日米軍事同盟の在り方について日本の考え方を明確
にする。米軍基地・施設を使用目的ごとに検討し、的を終え
たものから削減、まずは10年以内に半減を目指す。
(3)地位協定については、米軍基地を順次『日本政府が
管理する枠組の中で、米軍を自衛隊基地に駐留させ形での共
同管理方式』へと移行する。
(4)米軍のプレゼンスを維持する仕組みとして、ハワ
イ・グアムに『緊急派遣軍』的戦力を一定期間保持して、日
本・韓国が応分のコスト負担をする方式などを模索する。
(5)普天間問題は、周辺住民への危険を配慮し、『20
14年までの移転完了』を可能とする現実的選択肢を速やか
に決定する」
(20010年2月1日 記)
「沖縄密約文書開示訴訟」第5回口頭弁論は、2月16日
午後4時半から東京地裁103号室で開廷。次回弁論で、
結審される予定です。多くの皆さんの傍聴をお願いしま
す。
米軍、被災救援名目でハイチに侵攻
中南米の対米従属体制維持狙う
ミッチェル・チョスドフスキー(カナダ・オタワ大学教授)
マイアミを本拠とする米南方軍(SOUTHCOM)と中南
米地域に展開する米軍の最大の任務は、ワシントンの意思に
従属する国家体制を「裏庭」と呼ばれるこの地域で維持、拡
大させることにある。ハイチ大地震による被災救援を大義名
分に米国は1万人規模の米軍部隊を急きょ派遣した。政府機
能不全に陥ったハイチでの米軍の新たなプレゼンスは米国の
意のままにならないキューバとベネズエラを封じ込めるため
の米国の戦略追求に利用されると著者は断言する。それは2
0世紀初頭以来、植民地型統治を志向してきた米国の対ハイ
チ政策の貫徹でもある。(編集部)
原題:「ハイチへの緊急援助の軍事化 人道支援それとも侵
略か」
米軍の任務は何か
ハイチには20世紀初頭以来の米軍による侵攻と占領の長
い歴史がある。米国の介入はハイチの国民経済の破壊と国民
の窮乏化をもたらしてきた。
今回の大地震で壊滅的被害が生じた原因は(社会基盤整備
の著しい脆弱さなど)ひとえにこの国の窮状によるものであ
るとの世論が世界で流布している。
国家組織は壊滅し、インフラは破壊され、人々は底なしの
貧困と絶望に突き落とされ、ハイチの歴史、その植民地とし
ての過去は拭い去られてしまっている。
米軍がこの困窮した国の“救援”に出動した。その任務は
一体何か?人道的救難活動なのか、それとも侵攻なのか?
政府機能不全と米軍支配
米国の“人道的救難活動”実施の主要機関は国防総省、国
務省、それに米国際開発庁(USAID)である。USAI
Dは世界食糧計画(WFP)がハイチへ配給する食糧支援の
運搬を委託されている。
しかしながら、米国の救援活動の軍事部門が絶望的に貧困
なハイチの人々を救助する組織全体の活動に影を落としてい
る。人道的救難活動のすべてが米連邦緊急事態管理局(FE
MA)あるいはUSAIDのような非軍事部門の政府機関に
よって実施されているわけではなく、ペンタゴン(国防総
省)が支配的な役割を果たしている。その中枢機関は米南方
16 アジア記者クラブ通信 211号 2010年2月号
軍(SOUTHCOM)である(2010年1月13日付U
SAIDプレスリリースを参照)。
原子力空母カール・ビンセンとその護衛艦隊は1月15日
現在、すでに首都ポートオープリンスに到着した。総勢20
00人の海兵隊上陸部隊と陸軍第82空挺師団は人道支援任
務に加え、治安および騒乱対策を含む広範な任務を遂行すべ
く訓練中である。
さまざまな民間チームや組織によって急派された救援隊と
は対照的に、米軍の人道的任務は明確に定められていない。
海兵隊のスポークスマンは1月14日、「海兵隊員の第一の
任務は戦闘であり、これは国際社会の認知するところだ。し
かし、必要とされれば、ハイチの人々に対し温情的な活動を
実施する。わ
れわれはこの
役割を果たし
たいと思って
いる。慈悲心
ある戦闘員は
支援の必要な
人々に手を差
し伸べる。わ
れわれはこれ
を実施できる
ことに心を高
ぶらせてい
る」との声明
を出した。
オバマ大統
領とプレバル
大統領は電話
会談を行った
ものの、米軍
ホセホ・エスクッラの風刺画
部隊のハイチ
への上陸と駐屯
に関して、両国政府が交渉したとのレポートはなかった。米
軍派遣はワシントンの独断で実施された。ハイチの政府機能
不全は、人道支援を名目に、事実上ハイチ政府の機能を肩代
わりする米軍大量派遣の合法化を容易にした。
───────────────────────────
表1 ハイチへ派遣される米軍艦船と部隊