フランスの文化と社会 II (M. David COURRON) ‒ 2016 年度 秋学期 移民危機 ● ロマ民族問題 ロマ民族 (le peuple Rom) とは 初めに、ロマ民族とは、欧州全体で 1000 万人から1200万人いると言われている 欧州で最大の少数民族 (une minorité ethnique) であり、欧州では「異教徒」として古く から差別 (la ségrégation, la discrimination) と迫害 (une persécution) の対象となって いる。そのため、移動民族として知られてはいるが、好んで移動しているのではなく、 差別のために土地 (une terre, un terrain) を買えなかったり、定職 (un emploi fixe) に 就くことができなかったためという説もある。しかし現在では定住して (s’établir) い る人も多く、約 600 万人のロマ人が EU 圏に住んでいる。 また、ロマ族は、8 世紀ごろ欧州に移ってきたとされている。エジプト (l’Égypte) か ら来たと信じられていたこともあり、かつては「ジプシー」という 称 (une insulte, un mot péjoratif) で呼ばれていた。 ● フランスからの強制退去 (une évacuation forcée/par la force/manu militari) フランスでは、約7万人から 12 万人がキャンピングカー (une roulotte, une caravane) やモービルハウス (un camping-car) で日常生活 (la vie quotidienne) を送っている。そ の中には、ホームレス (un sans domicile fixe, un SDF) ではないが、街中での高い家賃 (un loyer) を支払う (payer) ことができず、とりあえずキャンプ場で過ごしている人、 数ヶ月の出稼ぎ (un travail hors de son pays) の間だけモービルハウスで過ごす人、そし て、昔から移動して暮らしているロマ族がいる。 サルコジ政権 (la présidence Sarkozy) は、2007 年頃から治安 (l’ordre public) の改 善 (une amélioration) と 称 し て 、 こ の よ う な 人 々 の 取 り 締 ま り (un contrôle, une surveillance) を始めた。 しかし彼の制作は移動生活者全体に対する取り締まりのようにカモフラージュされ ているが、暗にロマ民族に対する人種差別的な (raciste, discriminatoire) 政策 (une politique, une mesure) なのではないかと言われている。 まず彼は、ロマ民族に対して、 「帰国援助費 (une aide au retour) 」と称した、自主的 に帰国する人々に飛行機のチケット代 (le prix du billet d’avion) プラス大人 (un adulte, une grande personne) は 300 ユーロ (l’euro)、子供 (un enfant, un mineur) は 100 ユー ロを支払うという帰国奨励策を行った。 そして、追放政策は 2010 年夏からより厳しくなり、大統領自ら「今夏 3 ヶ月以内に 300 のキャンプ場で不法滞在している (séjourner clandestinement) ロマ民族を強制退 フランスの文化と社会 II (M. David COURRON) ‒ 2016 年度 秋学期 去させるように」と、明らかにロマ民族を対象とした差別的命令を下した。早朝から、 機動隊 (les CRS - Compagnies républicaines de sécurité) をキャンプ場に送り込み、家財 を壊し、力づくで護送車 (un fourgon cellulaire) に乗せる強制送還 (une explusion forcée/contrainte) が相次いだ。この政策により、8000 人以上のロマ人が、ルーマニア (la Roumanie) とブルガリア (la Bulgarie) に強制送還された。 そして、2011 年末、キャンピングカーやテント (une tente) で生活する人々に対す る取締をより厳しくする法案 (un projet de loi) が国民会議 (l’Assemblée nationale) で 可決された (être adopté)。これは、キャンプ場に長期滞在する客の人数やアイデンティ ティー (l’identité) を市役所 (une mairie) に届け出る (déclarer) ことを経営者に義務 付け (être obligé)。視聴に不意打ち検査を行う権利 (un droit) を与え、長期滞在者には 特別に税金 (un impôt) を課すという法案である。そしてこの法案も、暗にロマ民族に 対するものではないかと言われている。 2013 年にはオランド政権 (la présidence Hollande) がロマの家族全員をフランスか ら「国外追放」するために、警察 (la police, les forces de l’ordre) が課外活動中 (une sortie scolaire, une activité péri-scolaire/extra-scolaire) の15歳のロマ人の少女をバスから連 れ去ったとして、高校生の抗議活動 (un mouvement de protestation des lycéens) を招い ている。 ● 移民問題 移民 (un immigré, un migrant) とは何か。答えは 外国で生まれ (être né à l’étranger) 、 出 生 時 に (au moment de sa naissance) フ ラ ン ス 国 籍 (la nationalité française) を持っていなかった人 のことである。1999 年の国勢調査 (un recensement) によれば (selon)、フランス本国に居住する (résider, séjourner) 移民は 431 万人で、こ れは人口 (la population) の 7.4%にあたる。移民の出身地 (le pays d’origine) を見てみ ると、ポルトガル (le Portugal)、アルジェリア (l’Algérie)、モロッコ (le Maroc) が最 も多く、合わせて (au total) 50 万人に達する (atteindre, s’élever à, se monter à)。次い で、イタリア (l’Italie)、スペイン (l’Espagne)、チュニジア (la Tunisie)、トルコ (la Turquie) 、 ア フ リ カ 諸 国 (les pays d’Afrique) と な っ て い る 。 ま た EU (l’Union européenne) の従来加盟国 15 カ国 (les 15 États-membres de l’époque) からの移民は減 少 傾 向 (une tendance à la baisse) に あ り 、 1975 年 は 移 民 全 体 の 56% を 占 め た (représenter) が、1999 年は 45%であった。 つい最近パリでのテロ (un acte de terrorisme, un attentat terroriste) が勃発した (se produire, survenir) 原因 (une cause, une raison, un motif) も ISIS (l’État islamique, Daesh) が移民に扮して入国したことが考えられている現状から、移民問題はフランス にとって重大な問題 (un problème grave) となっている。 2005 年 10 月 27 日にも移民暴動事件 (les émeutes dans les banlieues) が起こっている。 フランスの文化と社会 II (M. David COURRON) ‒ 2016 年度 秋学期 これはパリ郊外 (la banlieue parisienne) で北アフリカ出身 (être originaire d’Afrique du nord/ du Maghreb) の 3 人の若者が警察 (un policier) に追われ逃げ込んだ変電所 (un transformateur électrique) で感電し (s’électrocuter)、死傷したことをきっかけにフ ランスの若者たちが起こした暴動である。幼稚園 (une école maternelle) やコンビニ (une épicerie, une supérette) などの公共施設 (un établissement public) が破壊され (être détruit)、同年 11 月中旬に (à la mi-novembre) 暴動が終息するまでに放火された (être incendié) 乗 用 車 (un véhicule) は 9000 台 を 超 え 、 逮 捕 者 (une personne interpellée) も 3000 人近くに達した。 この暴動の背景はとして (à l’arrière-plan de ces émeutes)、事件の起きた郊外部は貧困 層 (les classes défavorisées) の住む団地 (un quartier, une cité d’habitation) が多くスラ ム化しており (être en voie de ghettoïsation)、失業 (le chômage)、差別 (la discrimination)、 将来への絶望 (le désespoir) など積もり積もった不満 (l’insatisfaction accumulée) が一 気に (soudainement, tout d’un coup) 噴出した (exploser) ものとみられている。移民の 失業率 (le taux de chômage) は深刻で、当時 40%にも上ったという。 移民により労働力 (la main d’œuvre, la force de travail) を埋める動きも進んでおり、3 K 労働(汚い (sale)・きつい (pénible)・危険 (dangereux))と呼ばれている。景気 (la conjoncture/la situation économique) が上向いて (s’améliorer) 労働力が不足している (manquer) ときだけ移民を雇い (embaucher, recruter, engager)、景気が悪くなるとリス トラして (débaucher, mettre au chômage) 本国に帰れというのはひどい話だと思うが これがフランスの直面する (se confronter à) 現状なのだな、と感じた。
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