危険物の海面・大気拡散防止策 及び 予測モデル

助成事業
競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて作成しました。
平成16年度
危険物の海面・大気拡散防止策
及び
予測モデル開発のための調査研究
(その1)
平成17年3月
社団法人
日本海難防止協会
ま え が き
この報告書は、当協会が日本財団の助成金及び日本海事財団の補助金を受け、
平成 16 年度に実施した「危険物の海面・大気拡散防止策及び予測モデル開発の
ための調査研究」のうち、「HNS 海面・大気拡散予測モデル開発のための基礎
調査」の結果について取りまとめたものである。
2000 年 3 月、OPRC 条約 HNS 議定書が採択され、従来、油の海上流出事故
への準備及び対応を内容としていた同条約は、有害・危険物(HNS)の流出事
故も対象とすることとなった。
ところで、HNS 輸送中の海上流出事故時の対応策に関しては、輸送されてい
る HNS の種類及び特性が多種多様であることなどから、世界的にも確立した手
法が存在しないのが現状である。また、緊急時の対応策を支援するための関係
情報の整備も十分になされていない。
特に揮発性の高い HNS に関しては、海上輸送事故時の対応を安全、かつ、有
効に実施するための海面・大気拡散防止策の研究が十分になされていない。加え
て、海面・大気拡散の状況をできる限り正確に予測するためのパソコン起動の簡
易なモデルが必要不可欠であるにもかかわらず、我国には存在しないのが現状
である。
本調査はこのような状況に鑑み、当該予測モデル開発のための基礎調査を行
うことを目的とする。
本調査が、HNS 海上流出事故時の準備及び対応能力の向上に資することを切
に期待する。
平成 17 年 3 月
社団法人
日本海難防止協会
目
序
次
章 調査概要
第1章 海面拡散予測モデルに関する調査
1.1 海面拡散予測に係る既存モデル
1.1.1 海洋流動モデル
1.1.2 流出油の挙動と既存モデル
1.2 HNS海面拡散モデル構築のための検討
第2章 大気拡散予測モデルに関する調査
2.1 大気拡散予測に係る既存モデル
1
3
3
3
22
30
33
33
2.1.1 パフモデルとプルームモデル
35
2.1.2 既存モデルと予測手法
36
2.2 HNS大気拡散モデル構築のための検討
第3章 HNS海面・大気拡散予測モデルに係る海外事例調査
53
55
3.1 海外事例の検索及び調査
53
3.2 NRDAM/CMEモデル
64
3.3 海外参考事例のまとめ
79
第4章 HNS海面・大気拡散に係る数値解析方法の考察
83
4.1 海面拡散予測モデル
83
4.1.1 流動モデル
83
4.1.2 吹送流モデル
86
4.1.3 海面拡散モデル
88
4.2 大気拡散予測モデル
90
4.3 数値解析方法のまとめ
97
第5章 数値解析方法の検証
5.1 「ダイヤモンドグレース号」原油流出事故
5.2 「ダイヤモンドグレース号」原油流出事故に係る大気拡散予測
99
99
101
5.2.1 既存の解析結果
101
5.2.2 パフモデルによる予備解析及び妥当性の検証
104
5.3 検証結果のまとめ
110
第6章 今後の課題及び開発計画案
111
6.1 今後の課題
111
6.2 今後の開発計画案
113
序章
調査概要
【調査目的】
2000 年 3 月、OPRC 条約 HNS 議定書が採択され、従来、油の海上流出事故への準備及び
対応を内容としていた同条約は、有害・危険物(以下、
「HNS」と呼ぶ)の流出事故も対象とする
こととなった。
しかしながら、HNS 輸送中の海上流出事故時の対応策に関しては、輸送されている HNS
の種類及び特性が多種多様であることなどから、世界的にも確立した手法が存在しないのが現
状である。また、緊急時の対応策を支援するための関係情報の整備も十分になされていない。
特に揮発性の高い HNS に関しては、海上輸送事故時の対応を安全、かつ、有効に実施する
ための海面・大気拡散防止策の研究が十分になされていない。加えて、海面・大気拡散の状況を
できる限り正確に予測するためのパソコン起動の簡易なモデルが必要不可欠であるにもかか
わらず、我国には存在しないのが現状である。
本調査はこのような状況に鑑み、当該予測モデル開発のための基礎調査を行うことを目的と
する。
【調査内容】
◎
既存の海面拡散予測モデルの調査
油等の海面拡散予測に係る既存のパソコン起動モデルを収集し、数値解析方法等そのメカニ
ズムについて整理するとともに、海上流出事故に伴う HNS の海面拡散予測への適用如何につ
いて考察を行う。
◎
既存の大気拡散予測モデルの調査
陸上プラントから放出される汚染物質の拡散モデル等、大気拡散予測に係る既存のパソコン
起動モデルを収集し、数値解析方法等そのメカニズムについて整理するとともに、海上流出事
故に伴う HNS の大気拡散予測への適用如何について考察を行う。
◎
海外のHNS海面・大気拡散予測モデルの調査
海上流出事故対応を前提とした HNS の海面・大気拡散予測に係るパソコン起動モデルに関
し、海外事例の有無を調査する。
事例が存在する場合には、数値解析方法等そのメカニズムについて整理するとともに、適用
可能な HNS の品名・種類等について明らかにする。
◎
HNS海面・大気拡散に係る数値解析方法の考察
上記調査結果をもとに、できる限り簡易性に優れ、かつ、汎用性に富んだ HNS 海面・大気拡
散予測に係る数値解析方法等について考察を行う。
1
◎
数値解析方法の検証
特に、揮発性ガスの大気拡散事例として、平成 9 年 7 月に東京湾で発生した「ダイヤモンド
グレース号」原油流出事故を取り上げ、実際の被害報告等をもとに前述の考察結果の妥当性を検
証する。
◎
課題の整理等
今後の課題を抽出・整理するとともに、今後の HNS 海面・大気拡散予測モデルの開発計画案
を示す。
2
第1章 海面拡散予測モデルに関する調査
本章では、油等の海面拡散予測に係る既存モデルを収集し数値解析方法等そのメカニズ
ムについて整理するとともに、海上流出事故に伴う HNS の海面拡散予測への適用性につい
て考察を行う。
1.1 海面拡散予測に係る既存モデル
油等の海面拡散をモデルによって予測する場合、海洋の流動に伴う油の移動を解析する
ことが重要な鍵となる。
そこで、初めに海洋の流動を表現するモデルについて整理した上で、その後、油等の海
面拡散予測に係る既存モデルのメカニズムについて取りまとめる。
1.1.1 海洋流動モデル
油等の海面拡散の予測にあたり、海洋の流動を効率的に求めることを目的としたモデル
を流動モデルと言い、その構造によっていくつかに分類できる。ここでは、代表的な以下
の 6 種類のモデルの特徴について述べる。
【流動モデルの分類】
① 平面 2 次元モデル
② 2 次元多層モデル(マルチレイヤーモデル)
③ 2 次元多層モデル(マルチレベルモデル)
④ 準 3 次元モデル
⑤ 平面 2 次元+準 3 次元モデル
⑥ 3 次元モデル
(1)平面2次元モデル
潮汐流や恒流などの海域の流動を予測するモデルである。また、海域の水温や塩分濃度
の拡散状況を予測するモデルでもある。例えば、工場からの処理排水等が周辺海域の水温
より高温な場合、水温及び塩分濃度の拡散を扱うことなどが可能である。
1)モデルの構成
(ア)考え方
潮汐流や恒流などの海域の流動は、3 次元の運動方程式を水面から海底まで積分し、水平
方向に 2 次元のいわゆる浅海長波の方程式を用いて求められる。
また、海域に比べ高水温な水が排水された場合、当該排水は海表面に薄く広がる密度流
の性質を持っている。放出された冷却水の流動及び温度の拡散の方程式は、浅海長波の方
3
程式に基づき、鉛直方向に一定の分布形を仮定して積分を行った 2 次元モデルによってモ
デル化されている。
(イ)仮定
・静水圧近似
・ブシネスク近似
・躍層内は鉛直方向に指数型の分布形を仮定
・水温の高い排水の拡散に寄与する流動成分は潮汐流、恒流等の海域の流動及び放水、河
川等の流動の線形和として考えられる。
(ウ)座標系とメッシュ分割
座標系は水平方向に x、y 軸をとり、水平方向のメッシュ分割を行う。各メッシュ点にお
いて流速、線流量、水位上昇、水深等の値を持つ。
座標系の概念図を図 1.1-1 に示す。
(エ)基礎変数
基礎変数はx、y方向の流速(線流量)、水位上昇及び水温である。
変数のメッシュ上の位置は、水平流速成分はメッシュ交点上で、また、水位上昇、水深
データ等はメッシュ点の中央で定義される。
z
y
ζ
x
h
図 1.1-1 平面2次元モデルの座標概念図
4
2)基礎式系と境界条件
(ア) 運動方程式(海域の流動)
M
t
M
x
U
V
M
y
g(
Hw )
2
N
t
N
x
U
V
N
y
Ah (
M
x2
g(
Hw )
2
M 1
)
sx
y2
1
bx
fM
y
2
Ah (
fN
x
2
1
N 1
)
sy
by
2
y
N
x2
(イ)運動方程式(排水や河川水の流動)
M
t
N
t
US
M
x
US
N
x
VS
N
y
VS
2
M
y
g(
Hw )
x
2
g(
Hw )
y
2
M
Ah( 2
x
N
Ah( 2
x
M
)
y2
2
N
)
y2
(ウ)連続式
t
M
x
N
y
0
(エ)水温の拡散式
Ts
t
(U S
Ts
U )
x
(VS
Ts
V)
y
2
Ts
Kh ( 2
x
2
Ts
)
y2
Q 0 Q1Ts
c Hw
(オ)状態方程式
(T, S)
ここで、 M, N :線流量のx,y方向成分であり、次式で表される。
M
US (
Hw )
N
VS (
Hw )
また、 U S , VS :海面でのx,y方向流速成分、 :水位、 Hw :河川水、排水層厚さ、 g :
重力加速度、 f :コリオリ力、 Ah :水平渦動粘性係数、 sx , sy :海表面の摩擦応力、
bx , by :海底面の摩擦応力、 , , , , :鉛直分布定数、 TO :環境水温、 TS :海表面
の水温、 Kh :水平渦動拡散係数、 Q 0 :海表面からの放熱項、 Q 1 :熱交換係数、 c :海
水の比熱、 :海水の密度、 U, V :x,y方向の沿岸流速成分である。
5
なお、α,β,γ,σは次式で表される。
1
1
1
1
0
0
0
0
f ( )d ,
g ( )d ,
f ( )2 d ,
f ( )g ( ) d ,
h / Hw
(カ)境界条件
地 形 線:流速は滑りなし。水温は境界でのやりとりなし。
外洋境界:潮位を設定。流速は自由流入出流。水温・塩分は流出側が自由流出、流入
側が上流側の値に固定。
水面条件:風の応力,熱フラックスを考慮。熱フラックスは吸収日射量、有効長波放
射量、顕熱輸送量及び潜熱量により計算。
海底条件:摩擦応力を考慮。
が用いられることが多い。
6
(2)2次元多層モデル(マルチレイヤーモデル)
2 次元モデルとは、3 次元の現象を水平方向に注目しモデル化したものである。2 次元モ
デルをベースに 3 次元的な要素を一部に取り込み、モデル化して表現したものが 2 次元多
層モデルである。
2 次元多層モデルには、マルチレイヤーモデルやマルチレベルモデルと呼ばれるモデルが
ある。まず、マルチレイヤーモデルについて述べる。
1)モデルの構成
(ア)考え方
基本的には、2 次元モデルを鉛直方向に重ねたモデル構成となっている。成層した密度場
における流動等、鉛直方向にいくつかの層(レイヤー)を仮定し、それぞれについて基礎
式を立てた形となっている。後に述べるマルチレベルモデルも類似のモデルである。鉛直
方向に 2 層をとったモデルが用いられることが多い。
なお、層間の境界面は変動し、運動量フラックスは海表面等と同様にバルク形式により
定式化が行われる。
(イ) 仮定
・ 静水圧近似
・ ブシネスク近似
・ 鉛直方向の流速成分は陽には求めず、運動方程式及び連続方程式中にも現れない。
・ 層間の流出入量の差は、内部境界面の変動で表される。
(ウ) 座標系とメッシュ分割
座標系は水平方向にx、y軸をとり、水平方向のメッシュの分割を行う。層ごとの各メ
ッシュ点について、水位の上昇(境界面の変動)及び層厚(水深)の情報を持つ。
座標系の概念図を図 1.1-2 に示す。
(エ)基礎変数
基礎変数は各層ごとのx、y方向流速及び水位上昇(海表面に接する層では水位の上昇、
その他の層では内部境界面の位置)である。
変数のメッシュ上の位置は、水平流速成分はメッシュの交点上で、また、鉛直成分、水
位、内部境界面の位置、層厚、水深データ等はメッシュ点の中央で定義される。
7
z
y
ζ
x
h1
ξ
h2
レイヤーモデル
図 1.1-2 2次元多層モデル(マルチレイヤーモデル)の座標概念図
2)基礎式系と境界条件
(ア) 運動方程式
Mk
t
Uk
Mk
x
Mk
y
Vk
1
1
gh k
2
(Pk
k
2
Ah (
Nk
t
Uk
Nk
x
Vk
Nk
y
) fN k
2
Mk
x2
1
(Pk
Mk
1
)
x ( k 12 )
2
y
k
1
gh k k ) fM k
2
y
k
2
Ah (
k
x
2
Nk
x2
Nk
)
y2
1
k
y(k
1
1
1
2)
x (k
k
1
2)
y(k
1
2)
k
(イ)連続式
Mk
x
t
k
t
Mk
x
Nk
y
k 1
t
Nk
y
0
,
k
1の時
,
k
1の時
ここで、 M k , N k :第k層の線流量のx,y方向成分であり、次式で表される。
Mk
h k U k dz
8
Nk
h k Vk dz
また、 U k , Vk :第k層のx,y方向の流速成分、 :上昇水位、
k :第k層の内部界面の
移動量、 g :重力加速度、 f :コリオリ力、 Ah :水平渦動粘性係数、 x , y :各層間の剪
断応力、
k
:第k層の密度、 Pk :第k層の圧力、 h k :各層の厚さである。
なお、 h k は次式で表される。
h1
H1
hk
Hk
1 1/ 2
k 1/ 2
k 1/ 2
H k は基準層厚、kは層番号であり、k−1/2は第k層の上側境界面、k+1/2は下側境
界面である。
(ウ)境界条件
地 形 線:流速は滑りなし。
外洋境界:潮位を設定。流速は自由流入出流。水温・塩分は流出側が自由流出、流入
側が上流側の値に固定。
水面条件:風の応力及び熱フラックスを考慮。熱フラックスは吸収日射量、有効長波
放射量、顕熱輸送量及び潜熱量により計算。
海底条件:摩擦応力を考慮。
層間条件:層間の粘性応力を考慮
9
(3)2次元多層モデル(マルチレベルモデル)
マルチレベルモデルについて、先のマルチレイヤーモデルと比較しながら、その特徴を
述べる。
1)モデルの構成
(ア)考え方
基本的にマルチレイヤーモデルと同様であるが、内部境界面の高さは変動しない。
(イ)仮定
・ 静水圧近似
・ ブシネスク近似
・ 鉛直方向の流速成分は各層の連続条件から求める。
・ 内部境界面はマルチレイヤーモデルと異なり変動しない。
(ウ)座標系とメッシュ
座標系は水平方向にx、y軸をとり、水平方向のメッシュの分割を行う。層ごとの各メ
ッシュ点について鉛直流速、層厚、最上層の水位上昇及び最下層の水深の情報を持つ。
座標系の概念図を図 1.1-3 に示す。
(エ)基礎変数
基礎変数は各層ごとのx、y、z方向流速及び水位上昇である。
変数のメッシュ上の位置は、水平流速成分はメッシュの交点上又はスタッガードの位置
で、水位、層厚、水深データ等はメッシュ点の中央で定義される。
z
y
ζ
x
h1
w
h2
レベルモデル
図 1.1-3 2次元多層モデル(マルチレベルモデル)の座標概念図
10
2)基礎式系と境界条件
(ア)運動方程式
Mk
t
Mk
x
Uk
1
(Pk
k
Nk
t
Nk
x
Uk
1
(Pk
k
Vk
1
gh k
2
Vk
1
gh k
2
Mk
y
( UWk
UWk
1/ 2
2
k
x
) fN k
Nk
y
(VWk
Ah (
1/ 2
1/ 2
)
2
Mk
x2
VWk
1/ 2
y
) fM k
Nk
x2
Ah (
1
Nk
)
y2
1
x (k
1
1
2)
k
x (k
1
2)
k
)
2
k
Mk
)
y2
2
y(k
1
2)
1
k
y(k
1
2)
k
(イ)連続式
Mk
x
t
Wk
1/ 2
Nk
y
W1 / 2
Mk
x
Nk
y
,
Wk
1/ 2
,
1の時
k
k
1の時
ここで、 M k , N k :第k層の線流量のx,y方向成分であり、次式で表される。
Mk
h k U k dz
Nk
h k Vk dz
また、U k , Vk , Wk :第k層のx,y,z 方向の流速成分、 :上昇水位、g :重力加速度、
f :コリオリ力、 Ah :水平渦動粘性係数、 x , y :各層間の剪断応力、
k
:第k層の
密度、 Pk :第k層の圧力、 h k :各層の厚さ、k-1/2は第k層の上側境界面、k+1/2は
下側境界面である。
なお、 h k は次式で表される。
h1
H1
hk
Hk
H k は基準層厚、kは層番号である。
(ウ)境界条件
地 形 線:流速は滑りなし。
外洋境界:潮位を設定。流速は自由流入出流。水温・塩分は流出側が自由流出、流入
側が上流側の値に固定。
水面条件:風の応力,熱フラックスを考慮。熱フラックスは吸収日射量,有効長波放
11
射量,顕熱輸送量,潜熱量により計算。
海底条件:摩擦応力を考慮。
層間条件:層間の粘性応力を考慮
12
(4)準3次元モデル
準 3 次元モデルとは、計算領域を 3 次元のメッシュに分割し、3 次元の基礎方程式を解い
て解を求めたものである。
「準」という名称は、鉛直方向の流速成分wは運動方程式を解か
ずに、連続式の収支から求めていることに由来する。
なお、水温及び塩分濃度の扱いについては、3 次元モデル(後述)と差はない。
1)モデルの構成
(ア)考え方
海域を水平・鉛直の 3 次元のメッシュに分割し、3 次元の基礎方程式を解く。メッシュ分
割された計算領域は、セルと呼ばれる直方体の集まりにより構成される。
(イ)仮定
・ 静水圧近似
・ ブシネスク近似
・ 鉛直方向の流速成分は運動方程式を解かずに、水平流速成分を求めた後に、連続式
から求める。
(ウ)座標系とメッシュ
座標系は水平方向にx、y軸をとり、鉛直方向にz軸をとる。メッシュで分割された各
流体の要素をセルと呼び、第 1 層で水位上昇を表現し、他の層は隣り合うセルと直交する。
座標系の概念図を図 1.1-4 に示す。
(エ)基礎変数
基礎変数はx、y、z方向の流速、圧力、水温、塩分濃度及び水位上昇(最上位のセル
のみ)とする。
各セルの表面に流速成分が、また、セルの中心に圧力、水温、塩分濃度等が定義される。
図 1.1-4 準3次元モデルの座標概念図
13
2)基礎式系と境界条件
(ア)運動方程式
2
u
t
u
u
x
v
u
y
w
u
z
fv
1 P
x
Ax
v
t
u
v
x
v
v
y
w
v
z
fu
1 P
y
Ax
0 = -
2
u
x2
2
x
u
y2
Ay
2
v
Ay
2
y
v
2
2
Az
z2
2
Az
u
v
z2
1 ∂P
-g
ρ ∂z
(イ)連続式
u
x
v
y
w
z
0
(ウ)海面の条件
us
t
x
vs
y
ws
0
z
0
(エ)状態方程式
Pz
g
dz
z
s
T, S
(オ)熱拡散方程式
T
T
T
T
w
v
u
z
y
x
t
x
Kx
T
x
y
Ky
T
y
z
Kz
T
z
1
Q0 Q1T
C・ z
(カ)塩分拡散方程式
S
S
S
S
w
v
u
z
y
x
t
x
Kx
S
x
y
Ky
S
y
z
Kz
S
z
ここで、t:時間、x, y, z:水平鉛直座標軸、u, v, w:各座標軸方向の流速成分、uS, vS,
wS:海表面における各座標軸方向の流速成分、Ax, Ay, Az:各座標軸方向の渦動粘性係数、
P:圧力、ζ:水位、g:重力加速度、c:比熱、ρ:密度、T:水温、S:塩分濃度、Kx, Ky,
Kz:熱と塩分に関する各座標軸方向の渦動拡散係数、Q0:水温に無関係な加熱項、Q1:熱
交換係数である。熱交換量 Q は以下の式で求める。ただし、海表面以外の格子では、Q は
0 である。
Q=Qs-(Qb+Qc+Qe)= Q0-Q1T
14
Qs=0.239(1-α)βQs0
Qb=0.315×10-12(273+T)4-0.296×10-17(273+Ta)6(1+0.17Cd2)
Qc=0.0069CH(T-Ta)u10
Qe=0.010CE(ew-ea)u10
Q1=a+bW
ここで、Qs:吸収日射量、Qs0:日射量、Qb:有効長波放射量、Qc:顕熱伝達量、Qe:潜
熱伝達量、α:海面反射係数、β:熱の水面吸収率、T:水温、Ta:気温、Cd:雲量(0∼1)、
CH:顕熱輸送係数、CE:潜熱輸送係数、u10:海面上 10m の風速、 ew:水温 T における
飽和水蒸気圧、 ea:大気水蒸気圧、a,b:水温および水温と気温の差に関連する係数、W:
風速である。
(キ)境界条件
地 形 線:流速は滑りなし。
外洋境界:潮位を設定。流速は自由流入出流。水温・塩分は流出側が自由流出、流入
側が上流側の値に固定。
水面条件:風の応力,熱フラックスを考慮。熱フラックスは吸収日射量,有効長波放
射量,顕熱輸送量,潜熱量により計算。
海底条件:摩擦応力を考慮。
が用いられることが多い。
15
(5)平面2次元モデル+準3次元モデル
平面 2 次元モデルと準 3 次元モデルを組み合わせた方法である。プリンストン大学によ
り開発されたモデル(POM:Prinston Ocean Model)がこれに該当し、そのソースファイ
ルが公開されている。国内にも POM を用いた解析例が多く存在する。
1)モデルの構成
(ア)考え方
海域を水平・鉛直の 3 次元のメッシュに分割する。POM を例に見ると、外部モードでは
運動方程式及び連続方程式を鉛直方向に積分した 3 次元計算になっている。また、内部モ
ードでは運動方程式、連続方程式、熱拡散方程式及び塩分拡散方程式を 3 次元で数値的に
解くようにモデル化されている。外部モードでは、計算は水位及び代表流速を求め時間進
行する。さらに、これらを定期的に内部モードにフィードバックして 3 次元の流速分布求
める。そのため、準 3 次元モデルに比べて計算時間が短くなるという利点を有する。
(イ)仮定
・ 静水圧近似
・ ブシネスク近似
・ 鉛直方向の流速成分は運動方程式を解かずに、水平流速成分を求めた後、連続式か
ら求める。
(ウ)座標系とメッシュ
座標系は水平方向にx、yの直交軸をとるが、鉛直方向にはシグマ(σ)座標系をとる。
メッシュで分割された各流体の要素をセルと呼び、水位変化を全層で分配して表現し、隣
り合うセルは必ずしも直交しない。座標系の概念図を図 1.1-5 に示す。
(エ)基礎変数
基礎変数はx、y、σ方向の流速、圧力、水温、塩分濃度及び水位とする。各セルの表
面に流速成分が、また、セルの中心に圧力、水温、塩分濃度等が定義される。
図 1.1-5 平面2次元モデル+準3次元モデルの座標概念図(σ座標系)
16
2)基礎式系と境界条件
(ア)外部モード(external mode)
ア)運動方程式
UD
t
U2D
x
U VD
y
gD 2
0
V2D
y
U VD
x
gD 2
o
0
gD
fUD
0
1 σ
~
Fx
x
gD 2 D
x
o
'
d 'd
x
0
1 σ
o
VD
t
fV D
gD
'
d 'd
y
y
wu (0)
0
0
~
Fy
gD 2 D
y
o
'
'
1
0
1
0
'
~
Fy
x
v
D 2A M
U
x
D 2A M
V
y
y
x
D 2A M
U
y
V
x
D2A M
U
y
V
x
Gx
U2D
x
UVD
y
U 2D
x
U VD
y
~
Fx
Fx
Gy
U VD
x
V2D
y
UVD
x
V2D
y
~
Fy
Fy
~
Fx :内部モードの Fx 式を全層で積分した平均
~
Fy :内部モードの Fy 式を全層で積分した平均
イ) 連続方程式
t
UD
x
VD
y
0
17
Gx
d 'd
wv(0)
ただし、
~
Fx
wu ( 1)
'
wv( 1)
d 'd
Gy
(イ)内部モード(internal mode)
ア)運動方程式
U2D
x
UD
t
UVD
y
U
fVD
gD
x
KM U
D
Fx
gD 2
U2D
y
UVD
x
V
fUD
gD
y
o
D 2A M
U
x
D 2A M
V
y
x
Fy
v
y
x
D 2A M
U
y
V
x
D 2A M
U
y
V
x
'
x
D
'
x
'
d 'd
KM U
D
Fx
gD 2
Fx
D
1
o
VD
t
0
0
1
D
'
y
D
'
y
'
d 'd
イ) 連続方程式
t
UD
x
VD
y
0
ウ)熱量保存式
TD
t
FT
TUD
x
x
DA H
TVD
y
T
x
y
T
DA H
KH T
D
FT
KH S
D
FS
T
y
エ)塩分保存式
SD
t
FS
SUD
x
x
DA H
SVD
y
S
x
S
y
DA H
S
y
ここで、H:水深、η:水位、D:水位+水深(H+η)、σ:σ座標(−1≦σ≦0)、
18
t:時間、x,y:座標軸(x,y:水平)、U,V,ω:各方向の流速成分、 U, V :
鉛直積分した水平方向の流速成分、A M :水平渦動粘性係数、 A M:鉛直積分した水平
渦動粘性係数、K M:鉛直方向の渦動粘性係数、p:圧力、g:重力加速度、ρ:密度、
T:水温、S:塩分量、A H:熱もしくは塩分に関する水平渦動拡散係数、K H:熱もし
くは塩分に関する鉛直渦動拡散係数、f:コリオリ力、 wu(-1) , wv(-1) :海底摩擦
応力である。
(ウ) 境界条件
地 形 線:流速は滑りなし。
外洋境界:潮位を設定。流速は自由流入出流。水温・塩分は流出側が自由流出、流入
側が上流側の値に固定。
水面条件:風の応力,熱フラックスを考慮。熱フラックスは吸収日射量,有効長波放
射量,顕熱輸送量,潜熱量により計算。
海底条件:摩擦応力を考慮。
が用いられることが多い。
19
(6)3次元モデル
3 次元モデルは、計算領域を3次元のメッシュに分割し、3 次元の基礎方程式を解いて、
水平方向だけでなく鉛直方向の流速成分wも運動方程式を解いて求めたものである。
準 3 次元モデルと比べ、鉛直方向にも解いているため、鉛直方向の流速が大きい又は浮
力の作用が無視できない等の現象に対応できる。
1)モデルの構成
(ア)考え方
準 3 次元モデルと同様、海域は水平・鉛直の 3 次元のメッシュに分割され、セルと呼ば
れる直方体の集まりによって構成される。
(イ)仮定
・ ブシネスク近似
(ウ)座標系とメッシュ
座標系は水平方向にx、y軸をとり、また、鉛直方向にz軸をとる。第 1 層で水位変化
を考慮することは可能であるが、計算時間など実用上の制約を考えれば現実的ではない。
他の層は隣り合うセルと直交する。
座標系の概念図を図 1.1-6 に示す。
(エ)基礎変数
基礎変数はx、y、z方向の流速、圧力、水温、塩分濃度等とする。
各セルの表面に流速成分が、また、セルの中心に圧力、水温、塩分濃度等が定義される。
図 1.1-6 3次元モデルの座標概念図
20
2)基礎式系と境界条件
(ア)運動方程式
U
t
V
t
W
t
U2
x
UV
y
2
UV
x
V
y
UW
x
UW
z
1
VW
z
1
VW
y
W
z
o
fV
1
o
2
U
x2
AX
P
z
2
Ay
W
y2
V
z2
AZ
2
W
x2
AX
2
V
y2
Ay
U
z2
AZ
2
V
x2
fU A X
2
U
y2
Ay
2
P
y
o
2
2
P
x
2
W
z2
AZ
e
g
(イ)連続方程式
U
x
V
y
W
z
0
(ウ)熱量保存式
T
t
TU
x
TV
y
TW
z
x
T
x
Kx
y
Ky
T
y
z
Kz
T
z
(エ)塩分保存式
S
t
SU
x
SV
y
SW
z
x
Dx
S
x
y
Dy
S
y
z
Dz
S
z
ここで、t:時間、x,y,z:座標軸、U,V,W:各方向の流速成分、Ax,Ay,Az:水平
渦動粘性係数、Kx,Ky,Kz:温度の渦動粘性係数、Dx,Dy,Dz:塩分の渦動粘性係数、g:
重力加速度、ρ,ρ o:密度,基準密度、T:水温、S:塩分、f:コリオリ力である。
(オ) 境界条件
地 形 線:流速は滑りなし。
外洋境界:流速は自由流入出流。水温・塩分は流出側が自由流出、流入側が上流側の
値に固定。
水面条件:風の応力,熱フラックスを考慮。熱フラックスは吸収日射量,有効長波放
射量,顕熱輸送量,潜熱量により計算。
海底条件:摩擦応力を考慮。
21
1.1.2 流出油の挙動と既存モデル
海上に流出した油等の拡散を予測するモデルは多々存在するが、各モデルに見る流出油
の物理的な分布の表現には次の 2 つの方法が用いられている。
第一のアプローチは、流出した油を流体として捉え、流出油の大きさ等を力学的に計算
する手法である。
第二のアプローチは、流出した油を多数の質点(粒子)として取り扱う手法であり、流
出油の一般的(確率的)な拡がりを表現することができる。
いずれにせよ、流出油の挙動をできるだけ忠実にモデル化する必要がある。そこで、初
めに油の挙動についての一般論を述べ、その後、既存の流出油拡散予測モデルの事例を紹
介する。
(1)流出油の挙動
海上に流出した油は海流、風及び波の力によって移動するほか、拡散、蒸発、混入(鉛
直混合)、エマルジョン化(乳化)
、生物分解等の過程によって時間経過とともに風化する。
風化により油の性質が変化し、これが移動等に影響を及ぼすことになる。
図 1.1-7 に Shen and Yapa(1988)による、流出油の挙動の概念図を示す。
(蒸発)
Spreading
(エマルジョン)
Oil-in-Water
(溶解) Emulsion
(生分解)
(表面化スピル)
(堆積)
(沈降)
(生分解)
Bottom Sediment
Hours
Days
Weeks
Months
Years
Time From Onset of Spill
図 1.1-7 オイル・スリップの変化に影響を与える物理・化学・生物学的な過程と
時間スケール(Shen and Yapa,1988 の表記等を変更)
1)移動
流出した油の移動には「風」、「流れ」及び「波」の力を結合した力が影響する。このう
ち、特に風の影響が強くなる場合が多い。
22
風による海表面の流れは、横山他(1993)が多くの知見をまとめている。これによると、海
表面の流れは、風向の右側に 0∼30 度の角度で存在し、風速の 1.0∼5.3%の速度になると
されている。
この他、数値解析によって吹送流を求める手法がある。解析例として風速や海表面の抵
抗係数を用いた式系を以下に示す。
海面上に吹く風の接線応力τは一般に次式で表される。
τ=ρaCdW2
ここで、ρa は空気の密度、Cd は海面の抵抗係数、W は風速である。今、海面上の風が
連吹して波浪が十分に発達し、大気から見た海面の接線応力と海面から見た大気の接線応
力が等しい場合には、
τ=ρaCdW2=ρwCd’U2
となる。ここで、ρwは海水密度、Cd’は大気面の抵抗係数、Uは海表面流速であり、大気と
海洋の境界層が相似で Cd=Cd’を仮定すれば、
U
a
W
となる。
w
こうして得られた風による海表面の流れと潮流等との合成ベクトルにより、油が移動す
ることとなる。
したがって、事前に海域の潮流等の流れの結果があれば、これをもとに風の影響を考慮
した油の移動が予測できる。
なお、風の場については、気象の予測結果等を利用することで対応可能となる。
2)拡散
従来、油の拡散を支配する現象は、Fay(1971)の 3 段階の分布理論が広く使われてきた。
彼は静水面上の力学的な釣り合いから、油の拡散は時間的に 3 段階に区分できるとしてい
る。そして、①重力−慣性力、②重力−粘性力、③表面張力−粘性力というように、油に
影響する 2 つの力の釣り合いによって拡散現象が支配されるとしている。
3)蒸発
油の蒸発は表面積、厚さ、蒸気圧等に依存していて、油の組成、風速、温度の関数等で
表現される。Gundluch and Boehm(1981)によると、油の特性にもよるが、海面から大気へ
は 20∼40%もの量が蒸発するとしている。しかし、油が風化するに伴い、特に油中水型エ
マルジョンを形成すると、蒸発は目に見えて減少するという。
23
4)混入(鉛直混合)
油が風波にさらされるに伴い、水中に分散し又は海面に戻ったりする過程である。混入
は乱れに強く依存し、高い波動エネルギー域で最大となる。Mackay et al.(1982)は、この
過程を風速、油の粘性、油膜の厚さ等で表現している。
5)エマルジョン化(乳化)
油中水型エマルジョンの形成は、前述のとおり蒸発量に影響し、また、形成後の油の粘
性が形成前に比べはるかに高くなるため、油の拡散を予測する上で重要な要素であると言
える。
また、エマルジョン化された油は、その中のミクロンサイズの油滴の形では 80%以上の
水分を含むと言われていて、水の取り込みは体積とともに増大していく。
こうしたエマルジョン形成は、Mackay et al.(1982)により経験的に定式化されていて、
多くのモデルに利用されている。
6)生物分解
油中の炭素は、海洋の微生物によっていずれ分解される。その分解能は 11∼90%の範囲
と言われている。しかし、すべての微生物が同じ油の成分を利用するわけではなく、しか
も、分解に必要な時間スケールが非常に長いこともあり、この過程を詳細に取り扱ったモ
デルは存在しない。
24
(2)既存モデルに見る流出油の挙動モデル
多くの流出油拡散予測モデルは、拡散する油滴を粒子として取り扱い、拡散特性を考慮
した random walk method を用いて解析している例が多い。横山他(1993)によると、
「粒
子ベースのアプローチは、多くの粒子を必要とするが、油膜の面的な広がりや形状、厚い
オイルや薄いオイルの領域を現実的に表現でき、現状では最良の方法であろう」としてい
る。
表 1.1-1 に油拡散予測モデルに関する基礎的研究及びシステムとして構築された事例を
とりまとめた。
これらのモデルの違いは、油の移動に関する海域の流れが実測値なのか又はシミュレー
ション結果なのか、あるいは 3 次元的なのかもしくは 2 次元的なのかのほか、油の変質を
考慮しているかどうかにある。また、特異な例として、氷盤下での油の拡散を予測する数
値計算法も存在する。
しかし、氷盤下の例を除き、どの知見も海面上を吹く風の効果が考慮されており、海面
上での物質拡散に対する風の重要性がわかる。
次に、油の挙動(移動を除く)に関する数値解析方法を整理する。
1)拡散
油の拡散には Fay(1971)の理論が広く用いられている。Bas-Shi Shiau et al.(1994)も用
いている考え方である。次式に Fay の理論を示す。
・重力−慣性力段階
l
C( ・g)1/4 V1/4 t 1 / 2
・重力−粘性力段階
l
C
1/ 2
( ・g)1/4 V1/3 t 1/4
・表面張力−粘性力段階
l
C
1/ 2
( 2・
) -1/4 t 3/4
ここで、l は広がりの空間スケール、σは水の表面張力、ρωは水の密度、νωは動粘性
係数、V は流出油量、C は定数である。
この他、A.H.Al-Rabeh et al.(1989)は、Lehr et al.(1984)や Gunay(1985)の成果により、
油は楕円状に拡がるとして、次式を設定している、
A
(π/4)QR
Q 1.7[(ρω−ρo )/ρo ]1/3 V1/3 t 3/4
R
Q 0.03W 4 / 3 t 3 / 4
ここで A は拡散面積、Qは短軸長さ、R は長軸長さ、ρωは水密度、ρo は油密度、W は
25
風速である。
また、石油連盟(2003)のモデルは、係数を設定することで流出油の拡散を表現してい
る。
2)蒸発
蒸発を表現するモデルもいくつか存在する。これらは、単に油種に見合った蒸発係数を
掛け合わした式から、気温や風速等をもとに計算した式系まである。
柳ら(1998)の OILSPILLFM では、油滴量に減衰率を積算した一次反応式で表現して
いる。
dN
dt
KeN
ここで、N は単位面積当たりの油滴量、Ke は減衰係数である。
A.H.Al-Rabeh et al.(1989)や Bao-Shi Shiau et al.(1994)は、次式に示す Mackay et
al.(1980)のモデルを用いている。この式は油量や油膜面積、風速や温度の関数で表現され
ている。
F
(1 / C )[ln PO
ln( K m AvtC / RTV
1 / PO )]
ここで、F は蒸発量、V は油量、C は温度定数、A は油膜面積、R はガス定数、T は気温、
v は質量、t は時間、Km は移行係数、PO は蒸発圧(=1-TO/T)、TO は沸点温度である。
また、(財)シップ・アンド・オーシャン財団(2000)は、原油を蒸発成分と難蒸発成分に
分けた2成分系モデルで次式のように設定している。
f (Q )dQ
d
t
TQ
ここで、Q は蒸発率で時刻t迄に蒸発した油の重量と初期の油の重量との比であり、f(Q)
は蒸発率 Q のみの関数、TQ は蒸発時定数である。
なお、石油連盟(2003)モデルや海上保安庁モデルも、気温や風速を考慮したモデルで
ある。
3)混入
混入を表現するモデルもいくつか存在する。A.H.Al-Rabeh et al.(1989)は、次式に示す
Mackay et al.(1980)のモデルを用いている。
RN
10 4 S m x
0.25
/ FN ,
RB
FB xf
この他、Nakata et al.(1991)や堀口他(1991)が、混合距離理論を用いて海面から下方
に移動する油のフラックスを次式で表現している。
26
2
2 z Cs
H3
exp
L D
2TL
F
ここで、F は油の水中への混入量、βは比例定数、H は波の振幅、T は波の周期、L は波
長、Cs は海面単位面積当たりの油濃度、D はモデルでの第一層の層厚である。
4)エマルジョン化
油がエマルジョン化すると、その粘性が変化する。粘性の変化は Mackay et al.(1982)に
よる次式のモデルが広く利用されていて、先の蒸発の式系同様、A.H.Al-Rabeh et al.(1989)
や Bao-Shi Shiau et al.(1994)のモデルにも利用されている。
e
o
exp
2 .5 W
1 k1W
ここで、μe は油の粘性、μo はエマルジョンの粘性、W は油層の含水率、k1 は比例定数
である。
また、(財)シップ・アンド・オーシャン財団(2000)は、油層の厚さの影響や蒸発の影響
を考慮して次式を導いている。
dYw
dt
1
1 Q
K
Yw
1
1 Yw
XρQ YS 1
YS
hO
2
1 Yw Yw
dQ
dt
ここで、Yw は含水率、Q は蒸発率、K は含水速度、ho は初期の油層厚さ、XρQ はその時
点での無水油の密度と初期密度の比、Ys はその時点の含水油の飽和含水率である。
この他、柳ら(1998)は、次式のように海上状態(波形勾配や漂流速度など)に応じ、
エマルジョン化する速度が変化するように表現している。
dy
dt
[K s ( y SAT
y )]
Ko
y
ここで、 y は油の含水量、t は時間、Ks は海上状態によって変化する定数、 y
水分含有量、Ko は境面活性剤の含量に比例する定数、ηは経験因子である。
27
SAT
は最大
表 1.1-1 既往の油拡散予測モデル(その1)
題目
著者等
出典
A
stochastic
simulation
model
of
oil
spill
fate
and
transport
(海上流出油の変質と移動の確率論的シミュレーション)
A.H.Al-Rabeh,H.M.Cekirge,and N.Gunay
Appl.Math.modelling,1989,Vol.13,No.6,p322-329
油の輸送に関する流れ場は3次元モデルを用い、潮流と吹送流を考慮してい
概要
る。その他、油の挙動には「拡散」、「鉛直分散(混入)」、「蒸発」及び「エマ
ルジョン化」が考慮されている。
A NUMERICAL SIMULATION OF OIL SPILL SPREADING ON THE
題目
COASTAL WATERS
(沿岸海面上に拡がる流出油の数値シミュレーション)
著者等
出典
Bao-Shi Shiau and Rong-Sen Tsai
Journal of the Chinese Institute of Engineers,1994,vol.17,No.4,p.473-48
油の輸送に関する流れ場は 2 次元モデルを用い、吹送流を考慮している。
概要
その他、油の挙動には「拡散」、「鉛直分散(混入)」及び「蒸発」が考慮され
ている。
題目
著者等
出典
防災現場用重油拡散モデルの敏感度に関する一考察
柳青魯・李和云・金昭遠
海岸工学論文集,1998,第 45 巻,p931-935
油の輸送に関する流れ場は 2 次元モデルで潮流を計算し、この場に吹送流を考
慮しているほか、海流についてもデータベースをもとに考慮している。その他、
概要
油の挙動には「拡散」、「鉛直分散(混入)」、「蒸発」及び「乳化(エマルジョ
ン化)
」が考慮されている。
なお、本モデルは韓国海洋研究所の OILSPILLFM(OIL SPILL Forecasting
Model)である。
題目
著者等
出典
概要
PREDICTION TECHNOLOGY OF NEAR SHORE OIL SPREADING
(海岸近傍での油拡散の予測技術)
B.S.Toon,J.H.Rho,J.U.Song
Proc Int Conf Offshore Mech Arct Eng,1997,Vol16,p81-88
油の輸送に関する流れ場は 3 次元モデルを用い、
潮流や吹送流を考慮している。
その他、油の挙動には「拡散」が考慮されている。
28
表 1.1-2 既往の油拡散予測モデル(その2)
題目
著者等
出典
海洋における流出油拡散予測シミュレーションに関する基礎的研究
大木みどり・増田光一・間島隆博
第 15 回海洋工学シンポジウム,2000,p387-390
油の流出初期の挙動を捉えることを目的とし、油を流体として扱った1次元モ
概要
デルによる基礎解析を実施している。しかし、「蒸発」等の油の挙動が考慮さ
れていない。
題目
氷盤下の油拡散に関する数値実験
著者等
堺茂樹・岡本敦・笹本誠・泉山耕
出典
概要
題目
著者等
出典
海岸工学論文集,2003,第 50 巻,p1276-1280
氷盤下の油の輸送・拡散を3次元流体モデルにより解析している。しかし、
「蒸
発」等の油の挙動が考慮されていない。
流出油拡散・漂流予測モデル
石油連盟
流出油拡散・漂流予測モデル Ver.6 ユーザーズマニュアル(日本沿岸海域版)
流動場は潮汐流、河川流及び吹送流を考慮し、潮汐流と河川流を組み合わせた
概要
流動場が対象海域分データ化されている。その他、油の挙動には「拡散」
、
「鉛
直分散(混入)」、
「蒸発」及び「エマルジョン化」、さらに、蒸発による組成変
化、乳化による含水率変化、油膜温度変化等も考慮されている。
題目
著者等
漂流予測システム
海上保安庁
出典
流動場は現場の船から入手する海・潮流データ及び風データを集積してメッシ
ュデータを作成している。空白メッシュについては、月別統計値を用いて作成
概要
している。なお、潮流が卓越する海域では、潮流調和定数を用いてデータを作
成している。その他、油の挙動については「蒸発率」、
「含水率」、
「動粘度」及
び「密度」を考慮している。油種も原油、ガソリン、ナフサ、A重油及びC重
油の5種が考慮されている。
題目
著者等
2成分系モデルによる原油風化試験結果の解析(蒸発・乳化と物性の変化)
財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団
出典
概要
原油の海上流出の適切な初期対応のため、原油の風化のうち最も重要な要素で
ある「蒸発」及び「乳化」を予測する手法が開発されている。
29
1.2 HNS海面拡散モデル構築のための検討
海上への HNS の流出は緊急を要する事態であり、可及的速やかに海面拡散解析を行う必
要がある。当該解析に必要な要素は大きく分けて以下のとおりである。
・ 基本となる流動場(潮流、海流、河川流等)
・ 吹送流(風に起因する海表面での流れ)
・ HNS の物性に関する事象(蒸発や溶け込み等)
中でも流動場の計算に多くの時間が必要であり、これをいかに短縮するかがモデル開発
のポイントの一つである。
パソコンで流動場の計算を行う場合、事故発生時に非定常に変化する数日先までの流動
場を求めるには、通常、短くても数十分∼1 時間程度の時間が必要とされる。しかし、石油
連盟の「流出油拡散・漂流予測モデル」を利用すると、東京湾で 90 時間先までの油の拡散
計算に要する時間は数十秒程度である。
このように、パソコンを用いて短時間に、かつ、精度良く拡散解析を実施するためには、
事前に対象海域の卓越する流動場のベクトルデータをストックする必要がある。
卓越する流れとしては外洋性海域ならば海流、内湾ならば潮汐流等が考えられる。海流
については、海上保安庁が発行している日本近海海流統計図のデータをもとに、データベ
ースの作成が可能である。石油連盟のモデルもこの手法を用い、外洋性の海域を対象とし
ている場合は平均的な海流を設定している。
また、潮流を考えた場合、主に半日周潮∼日周潮が卓越するため、少なくとも主要4分
潮(M2,S2,K1,O1)を考慮した流れ場が必要となる。
これら各分潮の振幅や周期が異なるため、得られた流動場は非定常に変化する。したが
って、何十年先(もしくはそれ以上)までの期間の流動場をストックすることは、データ
容量から考えて困難である。
そこで、事前に各分潮別に潮流場を計算し、得られた計算結果より 1 時間程度ごとのベ
クトルデータをストックする。そして、HNS 流出事故発生時には、その発生時刻に相当す
る各分潮流を合成することで事故時の潮汐流を予測し、以後、ストックした時間ごとの潮
流場を合成すれば、時々刻々と変化する潮流場を設定することが可能となる。
さらに、東京湾奥部のように大河川が集中する海域では、海域の流動場に与える河川流
の影響は大きい。しかし、河川からの流入量は常に変化していて、流量予測は時間を要す
る作業となる。そのため、対象とする海域に位置する河川流量を「出水時」
、
「豊水時」
、
「平
水時」、「低水時」等に区分し、流量ごとに河川流による流動場を事前に計算の上、ベクト
ルデータとしてストックすることが望まれる。
すなわち、HNS 事故発生時の潮流や海流に、その時の河川状況を考慮して妥当と判断さ
れる河川流量を選択し合成すれば、海面拡散解析のための基本となる流動場を作成するこ
とが可能となる。
30
なお、潮流や河川流を計算するには、流動モデルを利用することとなる。流動モデルに
ついては、前述のとおり複数のモデルが存在する。
この中から代表的なモデルを取り上げて比較した結果を表 1.2 に示す。
表に示したように、モデルごとに長所・短所が存在するが、対象とする事象を海表面だ
けの現象として考えた場合、平面 2 次元モデルの利用が妥当と思料される。しかし、流出
した HNS の比重が海水と同程度か又は重い場合には、流出物質が下方へ沈降し移動するた
め、3 次元的な流動場での計算が必要とされる。
また、吹送流については、気象予報による風データを用いた計算が妥当と考えられる。
なお、吹送流は風速及び海面の抵抗係数、並びに密度等を用いて求められる。また、風に
よる影響は海表面だけでなく、水深方向にも見られる。したがって、流動場の計算と同様、
流出した HNS が水中に浮遊又は沈むような場合は、水深方向の流速変化を見るためにも、
複数層に区分したモデルにより吹送流の計算を行うことが望まれる。
なお、HNS の物性に関する事象については、対象物質によって大きく異なるため、今後
の研究で引き続き検討する必要がある。
以上を踏まえ、HNS 海面拡散モデル開発のための海面拡散解析のフローを図 1.2 に示す。
表 1.2 流動モデルの比較
平面2次元モデル
分類
平面2次元モデル
準3次元モデル
3次元モデル
中
多
算時間も短縮される。水
計算量が中程度であり、
鉛直方向の運動も方程式
位も考慮され3次元的な
水位が考慮されている。
により求める。
+準3次元モデル
計算量
少
少
計算量が比較的少なく計
海域を2次元に区分して
長所
解くため。計算時間が他
モデルに比べて短い
流動場が得られる。
水位の考慮は可能である
上層の流動場は得られる
が,計算量が増大し計算
短所
が下層の流れや鉛直方向
鉛直方向の運動を運動方程式により解かない。
に多くの時間が必要とな
の流れは得られない。
る。
31
対象海域ごとのデータベースの整備
既往知見より
潮 流
海流データベースの作成
河川流
M2 潮流の計算結果
出水時の河川流計算結果
S2 潮流の計算結果
豊水時の河川流計算結果
K1 潮流の計算結果
平水時の河川流計算結果
O1 潮流の計算結果
低水時の河川流計算結果
HNS 流出時の潮流場の作成
M2 潮流+S2 潮流+K1 潮流+O1 潮流
海流および河川流の合成
基 本 と な る 流 動 場
吹送流の計算
吹
送 流 の 合 成
移動に利用される流動場
物質の物性に係わる計算
HNS 海 面 拡 散 予 測 モ デ ル
図 1.2 海面拡散解析のフロー
32
第2章 大気拡散予測モデルに関する調査
本章では、汚染物質等の大気拡散予測に関し、主として陸上で活用されている既存モデ
ルを収集し、数値解析方法等そのメカニズムについて整理するとともに、海上流出事故に
伴う HNS の大気拡散予測への適用性について考察を行う。
2.1 大気拡散予測に係る既存モデル
大気中の拡散は大気の乱流運動によって起きる。したがって、拡散予測を行うには、大
気乱流の特性を知ることが必要である。
乱流運動及び拡散を直接的に関係付ける理論を最初に唱えたのは、G.I.Taylor(1921)であ
る。彼の理論は「乱流拡散の統計理論」と呼ばれ、その後、多くの研究がこの理論をもと
に行われてきた。
この理論とは別途、分子拡散との類似性に依存した取扱として、
「煙の輸送が濃度勾配に
比例する」と仮定した Fick の拡散微分方程式も使われてきた。現在、拡散微分方程式の解
を利用した様々な方法が、大気汚染濃度予測の分野で使われている。
さらに、モンテカルロ法を用いた random walk method も利用されるようになり、拡散
微分方程式では表せない大気拡散現象が記述できるようになった。
これら大気拡散モデルの特徴等を表 2.1-1 に示す。
表 2.1-1 大気拡散モデルの特徴等
原理
拡散微分方程式
の直接解法
方法
差分法
有限要素法
境界要素法
パフモデル
解析解を用いる プルームモデル
方法
特徴
複雑な境界条件を使うのが困難。
拡散係数は煙源からの距離の関数。
複雑な境界条件に適用しやすい。
時間変化,複雑な境界にも適用可。
比較的計算は簡単。
定常状態に適用。
計算は簡単。
光化学大気汚染など化学反応を含む汚染予測
ボックスモデル
に適する。
煙源寄与率は計算困難。
モンテカルロ法
ランダムウォークモデル
微分方程式では再現困難な熱対流非線形性の
再現などが出来る。
大気拡散の予測計算においては、海面拡散の予測計算のように潮流等の周期的に変動す
33
る動きが存在しない。したがって、HNS 流出事故発生時には、時々刻々と変化する発生源
(海面拡散計算結果)からの揮発物質の拡散計算を非定常に実施する必要がある。
仮に当該計算を拡散微分方程式の直接解析によって行った場合、これは多大な時間を要
すこととなり現実的ではない。そのため、大気拡散に関する既存モデルのほとんどが、計
算時間の短いパフモデル又はプルームモデルによって解析されている。
34
2.1.1 パフモデルとプルームモデル
以下にパフモデル及びプルームモデルの概要について述べる。
(1)パフモデル
パフモデルは拡散を固まり(パフ)で表し、非定常状態又は静穏・微風時における濃度
の空間分布を求めるのに適したモデルで、点源からの拡散濃度を与える次式が基本となる。
q'
C
(2 ) 3 / 2
exp
x
y
x 0 )2
(x
2
x
2
z
(y y0 ) 2
fz
2 2y
ここで、C は濃度、q’は排出物質量、σx,σy,σz はそれぞれ x,y,z 方向の拡散幅、x,y は排
出源からの座標値であり、x0,y0 はパフの中心位置である。また、fx は鉛直方向の濃度分布
を表す関数で、地表面完全反射条件では次式となる。
fz
exp
(H e z ) 2
2 2z
exp
(H e z) 2
2 2z
また、混合層上端のリッドや接地逆転層による上空への拡散の停止が起こる場合、それ
らは上空にできる蓋としてモデル化されている。この場合、鉛直方向の濃度分布は次式で
表される。
fz
(z H e
2
exp
n
2nh ) 2
2
z
exp
(z H e
2
2nh ) 2
2
z
ここで、zは高度、He は排出源高さ、hはリッド高度、nは反射回数である。
以上が点源から拡散式であるが、線源及び面源については、線又は面を細分し点源とし
て扱うのが実際的である。
(2)プルームモデル
プルームモデルも点源拡散式が基本であり、次式で表される。
C
q'
2
y
z
u
exp
(y y0 )
fz
2 2y
ここで、C は濃度、q’は排出物質量、σy,σz はそれぞれ y,z 方向の拡散幅、,y は排出源か
らの座標値であり、y0 はパフの中心位置である。また、fx は鉛直方向の濃度分布を表す関数
で、先のパフモデル同様に地表面完全反射条件では次式となる。
fz
exp
(H e z ) 2
2 2z
exp
(H e z) 2
2 2z
35
2.1.2 既往モデルと予測手法
前述のとおり、現在、大気拡散の予測計算では、ほとんどの場合プルーム又はパフ拡散
方程式が用いられ、対象とする物質や現象に適した形に適宜修正され、様々なモデルとし
て存在する。
環境省では、これら多数存在する大気質の予測手法をとりまとめている。その結果を表
2.1-2 に示す。
この中で、予測手法は 24 種類挙げられていて、うち約半数の手法にプルームモデル又は
パフモデルが利用されている。
表にまとめた他にも、経済産業省が、米国環境保護庁(EPA)の ISC(Industrial Source
Complex)モデルを基本に地上の濃度分布の再現性を向上させるよう、複数の工場内での
トレーサーガス拡散実験、ベンゼン等の分布測定及び風洞実験を実施してモデルの拡散パ
ラメータを見直し、建屋の影響を考慮した大気拡散モデル(経済産業省−低煙源工場拡散
モデル:Ministry of Economy , Low rise Industrial Source dispersion MODEL:METI-LIS
モデル)を開発している。
このモデルは、短時間暴露で毒性のある物質及び大気中で反応又は消滅しない物質の拡
散予測が可能である。
なお、METI-LIS モデルの基本となった ISC モデルは、表 1.2-2 中に示したように、プ
ルーム式からなるモデルである。また、ISC モデルは EPA 推奨モデルで、しかもソースコ
ードが公開されていることにより、多くの研究者や企業等で修正が加えられ、違うモデル
として活用されている。
また、独立行政法人 産業技術総合研究所でも、化学物質の広域大気濃度分布や曝露人口
分布を予測するモデル ADMER(正式名称:産総研−曝露・リスク評価大気拡散モデル
(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology - Atmospheric
Dispersion Model for Exposure and Risk Assessment : AIST-ADMER)が開発され、ソフ
トウェア及びユーザマニュアルが無償配布されている。
ADMER の移流・拡散過程の基本原理には、プリューム・パフ式と呼ばれるモデルが用
いられている。通常、大気拡散の予測計算では、高さ方向も考慮されるのが一般的である。
しかし、本モデルは広域での濃度評価を目的としていることから、計算時間の短縮のため、
高さ方向を均一濃度としている。水平方向には 5×5km グリッドごとでの計算を行い、解析
領域内のすべての発生源のグリッドから全グリッドへの寄与を計算し、重ね合わせること
により濃度を推定している。
36
表 2.1-2(1) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(1)
技術等の名称
自動車走行に係る排出係数
概
東京都
要
対象物質:NOX、CO、HC、SOX、CO2、SPM
対 象 年:平成 12 年度、平成 17 年度
建設省
対象物質:NOX、CO、SPM 、SO2
対 象 年:平成 30 年
環境省
対象物質:NOX、CO、PM 、HC
対 象 年:平成5年規制までの車両対象
予測の必要条件
記載なし
適用範囲
記載なし
課題
排出係数は排出ガス試験の走行パターン、年式別自動車保有台数、走
行量モデル等を設定して算出されている。したがって、算出された排出
係数を用いる場合には、これらの設定値の対象とする地域や路線への適
用性についても考慮する必要がある。
表 2.1-2(2) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(2)
技術等の名称
概
要
建設機械等からの汚染物質排出原単位
建設機械からの汚染物質量の排出原単位は、従来、
「固定燃焼施設にお
ける大気汚染物質の排出係数に関する調査報告書」
(昭和 51 年環境庁)
又は「窒素酸化物総量規制マニュアル」に示される船舶用ディーゼルエ
ンジンの値を用いる例が多かったが、最近では建設機械からの汚染物質
排出量を直接計測している例が多くなっている。
環境庁(1995)
「未規制自動車からの排出実態調査報告書」では、フォ
ークリフト、バックホウ、フルドーザ、ホイールローダ、ラフタークレ
ーン、トラクタ、コンバイン及び耕耘機の汚染物質別排出量を示してい
る。
建設省(1991)「排出ガス対策型建設機械指定要領」や建設省(1999)
「建設機械の排出ガス第2次対策について」では、排出ガス対策型建設
機械について HC、NOX、CO、PM 及び黒煙に係る指定基準が示されて
いる。
予測の必要条件
記載なし
適用範囲
記載なし
課題
記載なし
37
表 2.1-2(3) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(3)
技術等の名称
概
要
正規プルーム・パフモデル
有風時(u≧1m/s)には正規プルーム式、弱風時(0.5≦u≦1.0)には
弱風パフ式、また、無風時に(u<0.5)にはパフ式を用いる。
長期濃度を求める場合には、一風向内では濃度が一様であるとし、水
平方向の拡散パラメータ u に無関係とした式を用いる。
基本式は高さ方向に風向・風速が一定を条件としている。プルーム式
は発生源強度及び流れの場が定常を前提としているが、パフ式は発生源
強度及び風向・風速の時間変化に対応可能である。
予測の必要条件
風速、風向、有効煙突高、大気安定度、Lid の有無、高度
適用範囲
・ 基本的には平坦面における定常状態に適用。非定常な場の再現にはな
んらかの擬似的な手法を用いる必要がある。
・ あまり複雑でない地形変化やダウンウォッシュには、有効煙突高や拡
散パラメータの修正により対応が可能
・ 積分により線源又は面源にも対応可能
課題
・ 安定度階級が不連続に変化している。
・ Pasquill-Gifford の拡散パラメータは粗度の 3cm 程度の地域での実
験によるものであり、都市のように粗度の大きい地域では粗度の差を
無視できない。また、地上源からの拡散実験によっているため、高煙
源からの拡散幅とは若干異なる。
・ 混合層の不安定大気中での煙の挙動は混合層内での大きなスケール
の流れにより煙の主軸が上下するが、この主流の向きが表現できな
い。
38
表 2.1-2(4) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(4)
技術等の名称
ダイオキシン類濃度の予測
概
・ ごみ焼却施設の煙突から排出されたダイオキシン類の拡散の状況を
要
シミュレーションすることにより、年平均レベルの最大着地濃度及び
発生距離を予測する。
・ ゴミ焼却施設から排出されるダイオキシン類が、ガス状態及び粒子状
物質に付着した状態で存在する報告があり、粒子状物質状態での拡散
予測を行う。
予測の必要条件
・ 拡散計算モデル
プルーム・パフモデル(窒素酸化物総量規制マニュアル〔改訂版〕)
・ 気象条件
時間別風向風速、日射量、放射収支量
・ 発生源条件
排ガス量、排ガス温度、排出口高さ、吐出速度(18m/秒に設定)、
排出ダイオキシン類の濃度(既存焼却施設の実態調査より設定)
・ その他
ダウンウオッシュの考慮
煙突頭頂部の風速が吐出速度の1/2以上になる場合は、煙突本体の
ダウンウオッシュを考慮する。
重力沈降の考慮
粒子状物質状態での拡散予測では、重力沈降を考慮した拡散モデルを
採用する。なお、粒子状物質の粒径は 20 mに設定。
非定常状態での排出源条件の設定
粒子状物資の粒径 20 m:ばいじん処理後の排ガス中の粒子状物質の
粒径はほとんどが 20 m以下であることより設定。
適用範囲
・ 平坦部における予測
・ 重力沈降を考慮する場合は、ばいじんへの吸着及び粒子状物質の凝集
は考慮しない。
課題
・ 発生源原単位に関して今後のデータの集積を踏まえて整備が望まれ
る。
39
表 2.1-2(5) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(5)
煙軸修正プルーム
技術等の名称
概
要
非定常・非一様な拡散条件を表現するため、プルーム式の煙軸を風の
流れに沿ったものと想定するモデル。
対象となる煙源を起点として、風向別に設定した風系のパターンに沿
った流跡線を作成し、それぞれを多数の点列で近似し、計算地点とこれ
らの点列との距離を y、流跡線に沿って求めた風下距離を x とし、正規
型プルームの x、y に代入して濃度を計算する。
予測の必要条件
・ 各時間毎の風速、風向、大気安定度、Lid の有無、高度
・ 排出源情報
適用範囲
記載なし
課題
記載なし
表 2.1-2(6) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(6)
技術等の名称
概
要
沈着を考慮したプルーム式
裸地表面から飛散する粒子状物質(浮遊粒子状物質、降下ばいじん)
の着地濃度(年平均値)を予測するモデルであり、濃度の鉛直分布を考
慮し、一定方位内の水平濃度が均等になると仮定している。
予測の必要条件
気象条件,粒子状物質発生源単位
適用範囲
記載なし
課題
排出原単位の設定(事例では裸地表面からの飛散量は興嶺・鈴木(1982)
の式を、発破については Walter(1965)を用いている)
40
表 2.1-2(7) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(7)
技術等の名称
概
要
EPA のスクリーニング手法
米国環境保護庁(EPA)が提供する簡易な大気汚染物質濃度予測手法。
EPA では、検討対象となる事業が大気質に与える影響について、
STEP1 単純な手法による影響が微細であるかどうかの確認
STEP2 最大短期濃度による影響の検討
STEP3 詳細な予測検討
のステップを踏んだスクリーニングを推奨している。最も簡単なスク
リーニング手法は、"Screening Procedures for Estimating the Air
Quality Impact of Stationary Sources Revised"により提供され、基本
的に上記 STEP2 までは、電卓レベルでの計算が可能となっている。また、
若干複雑な手法として、パソコン上で稼働する"SCREEN2"を提供してい
る。
これらのスクリーニングの結果、影響 が懸念される場合には、さらに
詳細な予測手法として推奨するモデル等が定められている。
予測の必要条件
ガス排出速度,排出口径,ガス温度,気温,ガス排出量
適用範囲
平坦地形の固定発生源
・ ダウンウォッシュが発生しないこと
・ 50km 圏内にプルーム高より高い地形が存在しないこと
(ダウンウォッシュ・地形は、SCREEN2 においては考慮されている。)
課題
米国の気象条件又は地形条件を前提にしたスクリーニング手法であ
り、我が国に適用するためには、条件等の適合性を考慮する必要がある。
下記の参考文献には手法の適用方法のみが記載されているため、適合
性の検討には大気質予測手法に関する相応の知識が必要である。
41
表 2.1-2(8) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(8)
技術等の名称
概
ISC3 (Industrial Source Complex Model)
要
工場等の固定発生源による大気質濃度を、正規プルームにより予測す
る EPA の推奨モデルの一つ。
短期予測を行う ISCST と長期予測を行う ISCLT がある。
予測の必要条件
煙源情報:位置、排出量、煙源高さ、排出速度、煙突内径、排煙温度
気象情報:時間毎の大気安定度、風向、風速、気温、混合層高さ
適用範囲
煙
源:工場等の固定源。点源、線源、面源、さらに高さ方向のボリ
ュームを持つ煙源に対応。
地
形:郊外および都市域。平坦∼起伏地形。
予測範囲:50km 以下
予測時間:1時間∼1年間
対象物質:一次物質
そ の 他:沈着(乾性沈着)を考慮できる。
影響を及ぼす建物から建物高さ又は幅の3倍以内の距離は、逆流域内
で気流が激しく乱れるため予測できない。
課題
米国の気象条件、地形条件等での予測を前提に作成されているため、
我が国での適応については慎重な検討が必要である。
なお、同モデルはソースコードが公開されているが、コードに変更を
加えた場合には"ISC3"ではなくなることに注意が必要である。
大気安定度分類はパスキルが定めた6段階なので、日本の大気安定度
(10 段階分類)との対応を図る必要がある。
42
表 2.1-2(9) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(9)
CALINE3
技術等の名称
概
高速道路からの大気質濃度を、正規プルームにより予測する EPA の推
要
奨モデルの一つ。
予測の必要条件
道路条件(20 路線まで)
:位置、構造、交通量、排出源強度、混合幅
気象条件:風速、風向、大気安定度、混合層高、バックグラウンド濃度
適用範囲
道路構造:平坦、盛土、橋梁、切土
地
形:郊外及び都市域、平坦
予測範囲:50km 以下
予測時間:1∼24 時間
対象物質:一次物質
そ の 他:沈着(乾性沈着)を考慮できる。
課題
米国の気象条件、地形条件等での予測を前提に作成されているため、
我が国での適応については慎重な検討が必要である。
なお、同モデルはソースコードが公開されているが、コードに変更を
加えた場合には"CALINE3"ではなくなることに注意が必要である。
表 2.1-2(10) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(10)
技術等の名称
概
要
OCD (Offshore and Coastal Dispersion Model)
海上の煙源からの大気質濃度を、正規プルームにより予測する EPA の
推奨モデルの一つ。ダウンウォッシュ、沿岸部のフュミゲーション等を
考慮することができる。
予測の必要条件
煙源情報:位置、排出強度、構造物高さ、煙突高さ、ガス温度、煙突内
径、排出速度、煙突基部の高さ、
気象条件:風向、風速、混合層高さ、湿度、気温、水温(表層)
、鉛直方
向の風速切片*、気温鉛直分布*、乱流密度*(*はオプション)
適用範囲
・ すべての予測点は、すべての煙源より低い位置になければならない。
・ 沈着等は考慮されない。
・ 250 の点源、5 つの面源、1 つの線源、および 180 点の予測点に対応。
・ 地表面は 3600 までの矩形グリッドで表現され、各グリッドについて
地表又は海面の区分を与える。
課題
大気安定度分類はパスキルが定めた6段階なので、日本の大気安定度
(10 段階分類)との対応を図る必要がある。
なお、同モデルはソースコードが公開されているが、コードに変更を
加えた場合には" OCD "ではなくなることに注意が必要である。
43
表 2.1-2(11) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(11)
技術等の名称
CTDMPLUS (Complex Terrain Dispersion Model Plus Algorithms for
Unstable Situations)
概
複雑地形における定常モデルである CTDM に、非定常状態の予測を加
要
えたモデルで、EPA の推奨モデルの一つ。
煙源より高い地点の予測が可能。
予測の必要条件
煙源情報:煙源位置、高さ、煙突内径、吐出速度、吐出温度、排出源強
度(可変排出源であれば時間毎の強度、速度、温度)
気象情報:時間毎風向風速、気温、乱流データ
地形情報:地形コンター
適用範囲
煙
源:高位置にある煙源
地形条件:郊外および都市地域、煙源より高標高の予測が可能。地形勾
配は 15°を超えないこと。
予測範囲:50km 以下
予測時間:1時間∼1年間
課題
米国の気象条件、地形条件等での予測を前提に作成されているため、
我が国での適応については慎重な検討が必要である。
特に、風向風速、地形等の条件から計算によって地表面の摩擦速度や
上層の気象を算出するため、気象条件や地形条件の異なる地域での適用
には留意が必要である。
なお、同モデルはソースコードが公開されているが、コードに変更を
加えた場合には" CTDMPLUS "ではなくなることに注意が必要である。
44
表 2.1-2(12) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(12)
技術等の名称
概
要
EDMS (Emissions and Dispersion Modeling System)
空港による大気汚染予測のためのモデルで、排出量予測と拡散予測の
両方を行う。排出源は、空港施設等の固定発生源及び車両等の地上発生
源、並びに航空機を扱うことができる。
EPA の推奨モデルの一つ。
予測の必要条件
気象条件:風速、風向、時間毎気温、Pasquill-Gifford 安定度
適用範囲
煙源条件:固定源(点源)
、車両、航空機の複合予測が可能
地形条件:平坦
予測範囲:50km 以下
予測時間:1時間∼1年間
対象物質:CO,NOx,SOx,HC,SPM
課題
米国の気象条件、地形条件等での予測を前提に作成されているため、
我が国での適応については慎重な検討が必要である。
なお、同モデルはソースコードが公開されているが、コードに変更を
加えた場合には" EDMS "ではなくなることに注意が必要である。
45
表 2.1-2(13) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(13)
技術等の名称
概
要
CALPUFF(California Puff Model)
CALPUFF は、沿岸部や複雑地形による非定常な気流変化による汚染
物質の移流・拡散に対応するため、1995 年に Scire らによって開発され
たモデルである。三次元気流モデルにより生成された気流の場において、
移流パフによる汚染物質の移流拡散計算を行う。
モデルは大きく①三次元気流モデルである CALMET、②パフによる移
流拡散モデルである CALPUFF、③出力の解析モデルである CALPOST
の3つのコンポーネントによって構成され、さらにいくつかのサブモジ
ュールの使用が可能となっている。
なお、CALPUFF への入力条件となる気流モデルには、三次元非定常
気流の他、ISC3 等で用いられる定常の単気流を用いることもできる。
また、内部境界層によるフュミゲーションを扱うことができる。
CALPUFF は 2000 年に、
EPA の推奨モデル
(Guideline on Air Quality
Model の Appendix A に記載されるモデル)となっている。
予測の必要条件
地形データ、発生源パラメータ(発生源位置、排出量、排出強度、
煙突高、排出速度など)、グリッドの設定、乾燥沈着、湿潤沈着に係るパ
ラメータ、二次反応に係るパラメータ(オゾン、アンモニアバックグラ
ウンド濃度等)
適用範囲
発 生 源:点源、線源、面源及び立体的な発生源
対象物質:基本的には一次汚染物質。ただし、簡単な化学変化を扱うこ
とができる。
気流の場:非定常、非一様な場
地形条件:複雑地形、沿岸域、都市域、郊外
特殊条件:ダウンウォッシュ、フュミゲーション、乾燥沈着、湿潤沈着
課題
我が国での適用例はない。
同モデルはソースコードが公開されているが、コードに変更を加えた
場合には" CALPUFF "ではなくなることに注意が 必要である。
46
表 2.1-2(14) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(14)
JEA モデル(JEA 線煙源拡散式)
技術等の名称
概
要
道路沿道における自動車排出ガスによる大気質濃度の予測式である。
地表付近の風速が高さによってかなり変化することから、鉛直方向の
濃度分布を非正規型としている。式形には He(有効煙突高)を含まず、
基本的には地上源(He=0)からの拡散を表現する。
計算は直角風時(風速 1m/s 以上で線源と風向のなす角度が 40°以上の
とき)
、平行風時(風速 1m/s 以上で線源と風向のなす角度が 40°未満の
とき)及び無風・弱風時(風速 1m/s 未満のとき)に区分して行われる。
パラメータ等は大阪で行われた拡散実験に基づいて決定されている。
予測の必要条件
線煙源排出強度(汚染物質排出量)
、線源と計算点の座標、風向・風速、
放射収支量、交通量、沿道条件(パラメータの設定)
適用範囲
・ 排出源が直線とみなせる平坦道路での自動車排出ガスが沿道環境大
気に及ぼす影響の予測
・ 排出源は地上源
・ 年平均値、1 時間値、日平均の年間 98%値等が予測可能
課題
平坦地での拡散実験結果をもとに作成された手法であるため、山間地、
トンネル項口等の特殊部に対して適用できない。
これに対し、東京都修正モデル(東京都環境保全局)は、道路構造(高
架構造等)に応じた予測ができるように修正を加えている。
表 2.1-2(15) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(15)
技術等の名称
概
要
サットン式
有風時のプルーム式の拡散幅 y、 z を風下距離 x の関数として与え、
地表濃度を求めるもので、同式により求めた最大着地濃度が硫黄酸化物
のK値規制に用いられている。
予測の必要条件
適用範囲
煙突高、口径、断面積、排出ガス量、吐出速度、温度、汚染物質量
煙突からの排出を対象に、風下主軸方向の着地濃度を求める。なお、
サットンのパラメータ Cy,Cz,n の評価時間は数分間程度であり、1時間
値の推定にサットンのパラメータを直接用いるには問題がある。
課題
記載なし
47
表 2.1-2(16) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(16)
噴流モデル
技術等の名称
概
要
トンネル抗口からの排出ガス拡散予測を行うため、トンネル抗口から
の吐出空気を噴流とみなし、噴流内の風速及び濃度がトンネル中心軸に
直行する水平及び鉛直方向に正規分布するものとしたモデル。
無風時(風速 1m/s 以下)には噴流モデルのみを、また、有風時(風速
1m/s 超)には自然風の影響を考慮するため、等価排出強度モデル(トン
ネル抗口から明り部に点煙源を分布させ、プルームモデルによる拡散予
測を行う)を併用し、噴流モデルと等価排出強度モデルにより算出した
濃度を重み付け加算する。
等価排出強度モデルは、トンネル抗口から明かり部に点源又は線源の
排出源を設定し、これにトンネル抗口からの排出量と等量の排出量を排
出強度として与え、プルーム式により拡散濃度を算出する。
予測の必要条件
気象条件、交通条件、道路構造条件
適用範囲
記載なし
課題
トンネル抗口付近の拡散パラメータ及びトンネル風の減衰パラメータ
を与える必要があり、実測等に基づくパラメータ設定が必要となる。
今後の実施事例により、パラメータの設定等に係る知見が蓄積される
ことが望まれる。
表 2.1-2(17) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(17)
技術等の名称
概
要
呼吸モデル
道路堀割区間の蓋かけ部が断続している場合や堀割区間が短い場合
に、堀割構造内の車両走行に伴い、吸排気が交互に繰り返されること(呼
吸作用)をモデル化し、堀割構造道路内の道路軸方向の濃度分布を定式
化した計算式を基本とする計算手法。
開口部から周辺への拡散については、通常の拡散モデルを用いて予測
する。堀割区間出口付近については、トンネル抗口に見立てた噴流モデ
ルを用いる。
予測の必要条件
適用範囲
交通条件(交通量・車速・大型車混入率)、道路構造条件
基本的に一方通行道路
堀割構造道路内部の濃度予測には使えない。
課題
今後の実施事例により、パラメータの設定等に係る知見が蓄積される
ことが望まれる。
48
表 2.1-2(18) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(18)
建設機械の稼動に伴う粉じんの予測
技術等の名称
概
要
建設機械の稼動に伴う降下ばいじん発生及び拡散に関し、既存のデー
タ(実測データ)から統計的手法(回帰予測モデル)により求められた
計算式による予測方法である。基本式はプルーム式より算出されたもの
である。
予測の必要条件
気象条件 :季節別・時刻別風向風速、風向別出現頻度
排出源条件:工種別の主な建設機械の組合わせ、ユニットの数
適用範囲
・ 平坦部による予測
・ 予測対象の汚染物質は降下ばいじんである。
・ 降下ばいじんの再巻き上げは考慮しない。
・ 含水比等の発生に影響を及ぼす要因は考慮しない。
課題
・ 計算に必要な係数等のデータ蓄積が必要である。
・ 今後のデータの蓄積及び解析による水平方向・鉛直方向の拡散係数の
設定からプルーム式による計算が可能と考えられる。
表 2.1-2(19) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(19)
技術等の名称
概
要
多重ボックスモデルによる予測
広域予測に適しているモデルであり、空間的、時間的に非定常不均一
な拡散場の取り扱いが可能である。また、汚染物質の化学反応式を組み
込むことが可能である。なお、長期平均、日平均及び時間平均といった
時系列値が求められる。
予測の必要条件
気象条件:気象のパターン分類、時間別風向風速、風の場の設定
計算条件:拡散パラメータ及び境界条件の設定、減衰速度等の設定
適用範囲
記載なし
課題
・ 拡散パラメータ等は現況再現シミュレーションにより決定するため、
設定方法が煩雑である。
・ 拡散現象の把握においてボックスの設定箇所及び設定数が、その精度
を大きく左右する。
49
表 2.1-2(20) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(20)
三次元数値解析手法
技術等の名称
概
要
3次元の流体力学モデル(差分法等)を用いて、複雑地形における風
(風速・風向)の場を予測し、この場をもとに汚染物質(ガス状、粒子
状物質)の拡散・飛散をシミュレーションするものである。
乱流などのメッシュオーダー以下の現象再現手法により、k- モデル、
クロージャーモデル(HOTMAC/RAPTAD)などの種類がある。
予測の必要条件
気象条件:時刻別風向風速
排出源条件:排ガス量、排ガス温度、排出口高さ、排出汚染物質の濃度
計算条件:地形、風速の鉛直分布を決定するべき指数
適用範囲
記載なし
課題
・ 風の場を予測するに当たり、十分な現況再現を把握する必要がある。
・ 接地逆転層の考慮は困難である。
・ 計算結果は短期時間スケールの予測値である。年平均値を算出する場
合は、プルーム・パフ式で計算した 1 時間値との補正係数を設定する
等から年平均値を計算する。
表 2.1-2(21) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(21)
技術等の名称
概
要
UAM (Urban Airshed Model)
都市域において、化学反応を伴う物質の短期濃度予測を行うためのオ
イラー型の三次元数値解析モデルである。オゾン、窒素酸化物、揮発性
有機化合物(VOC)等の 23 物質を対象とする。気相光化学反応モデル
には Carbon-Bond 4 (Gery et al 1988)を用いている。
EPA の推奨モデルとなっている。
予測の必要条件
発生源データ:点源位置、煙突高・内径、排出量等、非点源強度等
気象データ :グリッドごとの風速・風向、混合層高さ、安定度、気温、
湿度、気圧
大気質データ:グリッドごとの初期濃度
適用範囲
都市域における化学反応生成物質濃度変化を、1∼2日程度の期間に
おいて時間ごとに予測する。
課題
初期条件として、グリッドごとの気象データ、汚染物質濃度等を与える
必要がある。なお、これらの煩雑なデータ作成のための、GUIを用い
たプリプロセッシングモデルも用意されている。
50
表 2.1-2(22) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(22)
技術等の名称
概
要
指数近似モデル
予測により算出された窒素酸化物(NOx)濃度から、二酸化窒素(NO2)
濃度を算出する手法の一つである。
環境大気中に放出された NO が移流時間が長くなるにつれ酸化されて
NO2 となる過程を移流時間、風下距離等を変数とする指数関数で示すも
のである。
野外観測において NO/NOx が時間につれて指数的に減少するという
事実に基づくモデル(指数近似モデルⅠ)並びに拡散方程式と NO の O3
による酸化反応及び NO2 の光分解反応の連立から数値的に導いたモデル
(指数近似モデルⅡ)がある。
予測の必要条件
モデルⅠ
・ 拡散計算による NOX 濃度
・ 拡散時間
モデルⅡ
・ 拡散計算による NOX 濃度
・ バックグランド NOX 濃度
・ バックグランド NO2 濃度
・ バックグランド O3 濃度
適用範囲
課題
記載なし
単独発生源を念頭において考えられていて、バックグランドの O3 濃度
を一定としている。多数の発生源が重合される場合には他の発生源によ
る NO により O3 が消費されるため、同モデルでは NO2 濃度を過大に評
価する傾向にある。
51
表 2.1-2(23) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(23)
統計モデル
技術等の名称
概
対象地域における大気中の NOx 及び NO2 の実測濃度を用いて両者の
要
関係を統計的に求めた上で、当該関係に基づき NOx 濃度計算から NO2
濃度を推定するモデルである。
下式を仮定し、周辺の実測濃度から a、b を推定する。
[NO2]=a[NOx]b
必要に応じ、濃度や期別・時間帯別に各々a、bを求め、各々について
計算された NOx 濃度からの変換を行う。
予測の必要条件
記載なし
適用範囲
記載なし
課題
統計手法であるため、将来、濃度や発生源の構造が大きく変化した場
合に、現状の関係が適用可能かどうかについて留意が必要。
表 2.1-2(24) 環境省がとりまとめている大気質の予測手法(24)
技術等の名称
概
要
OML モデル(Operationelle Meteorologiske Luftkvalitetsmodeller)
ガウス型プルームモデルにおいて、Pasquil-Gifford の拡散パラメータ
に替えて、大気境界層のスケーリングパラメータから計算される拡散パ
ラメータを用いたモデル。
従来の Pasquil-Gifford 方式と比較して、特に、対流混合層における高
煙源からの拡散予測の精度が上がったほか、乱流パラメータと拡散の関
係が理論的に記述されている。今後のガウス型プルームモデルの新たな
方向として期待される。
予測の必要条件
排出源データ、気象データ、排出源及び評価点の位置・標高
適用範囲
・ 煙源から 20km 以内の距離における時間平均濃度の予測。
・ 煙源は単数又は複数の煙突。面源にも適用可能と考えられている。
・ 複雑地形や、表面粗度の変化する地域には適用できない。化学反応、
沈着等は組み込まれていない。
課題
我が国における実施例がなく、今後の検討が必要。
52
2.2 HNS大気拡散モデル構築のための検討
揮発性が高く、かつ、有毒な HNS が流出した場合、避難指示等の適切な対応を速やかに
行うためには、海面拡散と同様に大気拡散についての解析計算を短時間で行うことが極め
て重要である。この場合、計算に長時間を要する 3 次元力学モデルによる解析は実用的と
は言い難く、多くの既往のモデルと同様、短時間で計算が可能なプルーム式又はパフ式に
よる解析が望ましい。しかしながら、これらの式を用いた既往のモデルは、煙突等の固定
発生源からの物質拡散を解析するものが主体である。一方、HNS の海上流出事故は、移動
発生源である船舶に起因するものである。
したがって、HNS 大気拡散モデルがプルーム式又はパフ式のいずれを用いるにせよ、ま
ずは、移動発生源に適切に対応できるよう、境界条件を慎重に検討し設定する必要がある。
また、時々刻々と変化する風の場での非定常拡散解析を実施する必要もある。
時間方向に変化する風の場での拡散解析を行う手法は、現にいくつか存在する。例えば、
Yokoyama et al.(1980)が実施したプルームモデルを用い時間方向に区切り連結する手法、
岡本ら(1979)が実施した流線に沿ってプルーム軸を曲げる手法等である。これらの手法
では、いずれもプルームモデルが用いられている。しかしながら、本来、プルームモデル
は定常解析に利用されるモデルであり、非定常解析にはパフモデルが適しているとされて
いる。したがって、本調査は HNS 大気拡散モデルに係る風の場の非定常解析を、基本どお
りパフモデルによって実施することが望ましいと考えるに至った。
なお、パフモデルに関しては前掲の表 2.1-2(13)に示した CALPUFF モデルのように、ソ
ースコードが公開され、参考となるモデルが存在していることも大きな理由の一つである。
以上を踏まえ、HNS 大気拡散モデル開発のための大気拡散解析のフローを図 2.2 に示す。
海面拡散解析結果(HNS の拡散情報)
気 象 条 件
各 種 計 算 条 件
インプット
境界条件の検討・設定
モデル構築の際には、発生源が移動する事や、発生源高
さを持たない事に留意し、境界条件の設定を実施する。
H N S 大 気 拡 散 予 測 モデル
図 2.2 大気拡散解析のフロー
53
54
第3章 HNS海面・大気拡散予測モデルに係る海外事例調査
原油タンカー等からの油流出事故等を想定し、油等の海面拡散現象を数値モデル化して
シミュレーションを行う試みは、1970 年代から 90 年代にかけて世界中で盛んに行われて
きた。現在、油等の海面拡散予測に利用されている数値モデルの基本式の多くは、こうし
た研究成果に依存している。
現在、これらのモデルは流出油防除のための迅速かつ効果的な現場活動、シナリオを想
定した訓練、準備及び対応のための緊急時計画の作成等に際し、必要不可欠な支援ツール
として積極的に活用されている。
HNS の事故対応等に際しても、こうしたモデルの存在は重要で、すでに海外では開発さ
れている可能性がある。
本章では、HNS の海面・大気拡散予測を目的に開発された海外モデル事例の有無を調査
し、存在する場合には、その数値解析方法等のメカニズム(モデルの構成要素、支配方程
式、パラメータ、解析アルゴリズム等)について明らかにする。
3.1 海外事例の検索及び調査
本調査では、HNS の海面・大気拡散予測に関連性のあるモデル全般について、幅広く情
報検索を行うとともに、当該モデルの概要を調査した。
なお、流出油の海面拡散予測モデル等も、対象物質の性状を変えることによって HNS の
流出に転用できる可能性があることから検索対象とした。また、特に船舶からの海上流出
等を想定していないモデルであっても、化学物質のリスク評価モデルのうち暴露モデルに
ついては、転用できる可能性があることから検索対象とした。
表 3.1-1 に当該モデル検索の情報源とした機関、データベース等を示す。また、表 3.1-2
に当該機関、データベース等から検索した個々のモデルのリストを示す。
55
表3.1-1 モデル検索の情報源とした機関、データベース等
略名
正式名称
詳細
CEAM
Center for Exposure Assessment
Modeling
CEE
Civil and Environmental
Engineering Department
CSMoS
Center for Subsurface Modeling
Support
EPA で開発された曝露評価技法を提供するサイトであり、
多数のモデルが含まれている。
米国旧ドミニオン大学(Old Dominion Univ., ODU)大学
院の1部門であり、様々なモデルを開発している。
EPA で開発された地下水、地下領域のモデルを提供してい
るサイト。
米国 環境保護庁
EPA
GFDL
Environmental Protection Agency
Geophysical
Fluid
Dynamics
Laboratory
HEC
Hydrologic Engineering Center
IGWMC
International Ground Water
Modeling Center
IIASA
International Institute for
Applied Systems
Analysis
IMES
Integrated
System
IMESwin
Integrated
Model
Evaluation
System Windows GUI Model
NHEERL
NIES
OPPT
Model
Evaluation
National Health and
Environmental Effects Research
Laboratory
(独)国立環境研究所
Office of Pollution Prevention and
Toxics
REM
Register of Ecological Models
SCRAM
Support Center for Regulatory Air
Models
USGS
United States Geological Survey
USSL
United States Salinity Laboratory
米国 地理物理学流体力学研究所
水文学技術センター。米国軍隊(USAC:United States Army
Corps)のエンジニアによるオフィスであり、種々のコンピ
ューター・プログラムを提供している。
米国マイネス・コロラド大学(Colorado School of Mines,
CSM)の1部門であり、地理工学の研究センターである。
水環境モデルを開発している。
米国 国際応用システム分析研究所
EPA の開発したモデルをメディアごとに分類し、調査内容
に従い、適切なモデルを選択するシステム(EPA 提供)
。1992
年までに作成された有用なモデルの情報が含まれている。
IMES の Windows GUI 版(Versar, Inc 提供)
。1996 年にア
ップデートされている。
米国 国立健康環境効果研究所
日本 環境省
EPAの中の、化学物質による環境汚染を評価する部門。
ドイツのカッセル大学(Kassel Univ.)と国立環境健康研究
センター(GSF)が提供している、環境に関する 数学的解
析モデルの情報データベース。
EPAにより提供されるサイトであり、大気汚染防止のために
必要とされる大気分散(大気品質)モデルの情報を提供して
いる。
米国地質調査局
塩分による影響を受けた土壌−植物−水系の基礎研究を化
学的、物理学的、生物学的な側面から行う国立研究所。米国
農務省(USDA:United States Department od Agriculture)
の管轄。
56
表3.1-2 モデル検索結果
(対象媒体:MM;複数媒体、AIR;大気、SW;海水、GW;地下水、NP:非点源、OTHER;その他)
No
1
略名
モデル正式名称
対象 媒体
機関
APRAC-3
APRAC-3
AIR
2
AQDM
Air Quality Display Model
AIR
IMESwin
3
ARRPA
Air Resources Regional Pollution Assessment Model
AIR
IMESwin
4
BLP
Buoyant Line and Point Source Dispersion Model
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
5
CAL3QHCR
CAL3QHCR
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
6
CALINE
CALINE
AIR
IMESwin
7
CALINE3
CALINE3
AIR
IMES SCRAM
8
CALPUFF
CALPUFF
AIR
IMESwin IMES
9
CDM-2
Climatological Dispersion Model
AIR
IMESwin IMES
10
CMB7
Chemical Mass Balance
AIR
IMES
11
COMPDEP
COMPDEP
AIR
IMESwin
12
COMPLEX I
COMPLEX I
AIR
IMES
13
CTDMPLUS
Complex Terrain Dispersion Model Plus Algorithms for
Unstable Situations
AIR
IMESwin IMES
14
CTSCREEN
CTSCREEN
AIR
IMESwin
SCRAM
15
DEGADIS
Dense Gas Dispension Model
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
16
EDMS
Emissions and Dispersion Modeling System
AIR
17
ERT
ERT Visibility Model
AIR
18
FDM
Fugitive Dust Model
AIR
IMESwin IMES
19
HIWAY-2
Highway Air Pollution Model
AIR
IMESwin
20
IMPACT
Integrated Model for Plumes
Chemistry in Complex Terrain
AIR
IMESwin
21
INPUFF
Multiple Source Gaussian Puff Dispersion Algorithm
AIR
IMESwin
22
ISC3
The Industrial Source Complex Model
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
23
MESOPUFFII
MESOPUFFII
AIR
IMESwin
24
MPTER
MULTIPLE POINT SOURCE ALGORITHM WITH
TERRAIN ADJUSTMENTS
AIR
IMESwin IMES
25
OCD
Offshore and Coastal Dispersion Model
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
26
PLUME5
Pacific Gas and Electric (PLUME5) Model
AIR
IMESwin
27
RAM
Gaussian-Plume
Algorithm
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
28
RTM-II
Regional Transport Model
AIR
29
SCSTER
Multi-Source (SCSTER) Model
AIR
30
TCM-2
Texas Climatological Model
AIR
IMESwin
31
TOXLT
Toxic Modeling System Long-Term
AIR
IMESwin IMES
32
TOXST
Toxic Modeling System Short-Term
AIR
IMESwin IMES
Multiple
and
Source
57
Atmospheric
Air
Quality
IMESwin
IMESwin
IMESwin
SCRAM
IMESwin
IMESwin
SCRAM
No
略名
モデル正式名称
対象 媒体
機関
33
UAM
Urban Airshed model
AIR
IMESwin IMES
34
VALLEY
Valley Model
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
35
WYNDVALLEY
WYNDVALLEY
AIR
36
EKMA
EKMA (Empilical Kinetics Model Approach)
Air
IMESwin
SCRAM
IMES SCRAM
37
ASPEN
Assessment
Nationwide
AIR
SCRAM
38
UAM-IV
Urban Airshed Model IV
AIR
SCRAM
39
OBODM
Open Burn/Open Detonation Model
AIR
SCRAM
40
CDM2
Climatological Dispersion Model
AIR
SCRAM
41
CTDPLUS
Complex Terrain Dispersion Model Plus Algorithms for
Unstable Situations
AIR
SCRAM
System
for
Population
Exposure
42
OZIPR
A one-dimensional photochemical box model)
AIR
SCRAM
43
AFTOX
Air Force Toxics Model
AIR
SCRAM
44
ADAM
Air Force Dispersion Assessment Model
AIR
SCRAM
45
Model-3
Models-3/Community Multiscale Air Quality (CMAQ)
AIR
EPA
46
ISC2
ISC2
AIR
SCRAM
47
LONGZ
LONGZ
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
48
MULTIMAX
MULTIMAX
AIR
IMESwin
49
PLUVUE II
Plume Visibility Model II
AIR
IMES IMESwin
SCRAM
50
PAL-DS
Point, Area, Line Source Algorithm
AIR
IMESwin
SCRAM
51
PTPLU
PTPLU (from PoinT PLUme)
AIR
IMESwin IMES
52
RPM-IV
Reactive Plume Mod
AIR
SCRAM IMES
53
RPM-II
Reactive Plume Model
AIR
IMESwin
54
RTDM3.2
Rough Terrain Diffusion Model
AIR
SCRAM
55
RTDM
Rough Terrain Dispersion model
AIR
IMESwin IMES
56
SCREEN2
SCREEN2
AIR
IMESwin IMES
57
SCREEN3
SCREEN3
AIR
IMES SCRAM
58
SDM
Shoreline Dispersion Model
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
59
SHORTZ
Shortz
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
60
CRSTER
SINGLE SOURCE (CRSTER) MODEL
AIR
IMESwin IMES
61
SLAB
SLAB
AIR
SCRAM
62
TEM-8
Texas Episodic Model
AIR
IMESwin
63
TSCREEN
TSCREEN
AIR
IMESwin IMES
SCRAM
64
VISCREEN
VISCREEN
AIR
IMES SCRAM
66
MEPAS
The Multimedia Environmental Pollutant Assessment
System
MM
IMESwin
67
E-FAST
Exposure & Fate Assessment Screening Tool
MM
OPPT
68
HPVScreen
HPV Exposure Assessment Screening Tool
MM
OPPT
69
MNSEM2
Multi-phase Non-Steady state Equilibrium Model
MM
NIES
58
No
略名
70
ANSWERS
Areal Nonpoint Source
Response Simulation
71
NPSMAP
72
73
モデル正式名称
対象 媒体
Watershed
Environment
機関
NP
IMESwin
Nonpoint Pollution Source Model for Analysis and
Planning
NP
IMESwin
STORM
Storage, Treatment, Overflow, and Runoff Model
NP
IMESwin
SWMM
STORM WATER MANAGEMENT MODEL
NP
IMESwin
74
WMM
Watershed Management Model
NP
IMESwin
75
SWRRBWQ
Simulator for Water Resources in Rural Basins-Water
Quality
NP SW
IMESwin
76
AREALDOC
Documents from Atmospheric Research and Exposure
Assessment Laboratory
OTHER
IMES
77
AIDE
ANNIE-Interactive Development Environment
OTHER
IMES
78
CLC
Coordinated List of Chemicals database
OTHER
IMES
79
DBAPE
Data Base Analyzer and Parameter Estimator
OTHER
IMES
80
CONCOR
CONCOR
OTHER
SCRAM
81
EPI Suite
Estimation Program Iterface Suite
OTHER
OPPT
82
ETS
Ecotox Thresholds
OTHER
EPA
83
BPI
Building Profile Input
OTHER
IMES SCRAM
84
NRDAM/GLE
Natural Resource Damage Assessment Model for the
Great Lakes Environments
OTHER
IMES
85
BPIP
CEAM
information
system
Building Profile Input Program
OTHER
CEAM information system
OTHER
CEAM
OTHER
REM
OTHER
OPPT
86
87
ACI_TX
SORGHUM
PEST
DATABASE SYSTEM
88
ChemSTEER
Chemical Screening Tool
Environmental Releases
89
GCES
Green Chemistry Expert System
OTHER
OPPT
90
ASTER
ASsessment Tools for the Evaluation of Risk
OTHER
NHEERL
91
BASINS
Better Assessment Science Integrating Point and
Nonpoint Sources
SW
IMESwin
92
CEQUALICM
CE-QUAL-ICM water quality model
SW
IMESwin IMES
93
CEQUALR1
CE-QUAL-R1
SW
IMESwin WES
94
CEQUALRIV1
CE-QUAL-RIV1
SW
IMESwin
95
CEQUALW2
CE-QUAL-W2 V3: hydrodynamic and water quality
model
SW
IMESwin
96
CORMIX
Cornell Mixing Zone Expert System
SW
EPA CEAM
IMES
97
DYNHYD5
DYNHYD5
SW
IMESwin
98
DYNTOX
Dynamic Toxicity Model
SW
IMESwin
99
EUTRO5
EUTRO5
SW
IMESwin
100
EXAMS
Exposure Analysis Modeling System
SW
101
FATE
FATE MODEL
SW
IMESwin IMES
CEAM
IMES
102
FGETS
Food and Gill Exchange of Toxic Substances
SW
IMES
HEC-6
SCOUR AND
RESERVOIRS
SW
IMESwin IMES
HEC
103
MANAGEMENT
DEPOSITION
59
For
IN
REPORT
SRC
Exposures
RIVERS
&
AND
No
104
略名
モデル正式名称
対象 媒体
機関
HYDRO2D-V
HYDRO2D-V
SW
IMESwin
105
HYDRO3D
HYDRO3D
SW
IMESwin
106
MICHRIV
MICHRI
SW
IMESwin IMES
107
QUAL2E
ENHANCED STREAM WATER QUALITY MODEL
SW
IMESwin
IMES
CEAM
108
SLSA
SIMPLIFIED LAKE/STREAM ANALYSES
SW
IMESwin
109
WASP5
Water Quality Analysis Simulation Program
SW
IMES
110
WATERSHED
WATERSHED
SW
IMESwin
111
WQRRS
WQRRS
SW
IMESwin IMES
112
GCSOLAR
GCSOLAR
SW
IMES
113
THERMS
Thermal Simulation of Lakes
SW
IMES
114
QUAL2EU
Enhanced Stream Water
Uncertainty Analysis
SW
CEAM
115
SMPTOX3
Simplified Method Program - Variable Complexity
Stream Toxics Model
SW
CEAM
116
UTCHEM
BATHTUB
FLUX
UTCHEM
SW
CSMOS
BATHTUB/FLUX/PROFILE model system
SW
CEE
the Water Quality Analysis Simulation Program
(WASP6)
SW
EPA
117
118
WASP6
package
Quality
Model
with
EPA
119
POM
Princeton Ocean Model
SW
120
AQUATOX
AQUATOX
SW
EPA OPPT
121
MOM
The GFDL Modular Ocean Model (MOM)
SW
GFDL
122
SED3D
Three-Dimensional
Numerical
Model
of
Hydrodynamics and Sediment Transport in Lakes and
Estuaries
SW
CEAM
123
desert
DEcision Support system for Evaluation of River basin
sTrategies (DESERT)
SW
IIASA
124
MEXAMS
METALS
SYSTEM
SW
IMESwin
125
MULTIMED
Multimedia Exposure Assessment Model
SW
IMESwin IMES
126
P8-UCM
P8 Urban Catchment Model
SW
IMESwin
127
PCPROUTE
PCPROUTE
SW
IMESwin IMES
128
REACHSCAN
REACHSCAN
SW
OPPT IMES
EXPOSURE
ANALYSIS
MODELING
129
RIVMOD
RIVMOD
SW
IMESwin IMES
130
SEDDEP
SEDDEP
SW
IMESwin IMES
131
TWQM
Tailwater Quality Numerical Model
SW
IMESwin IMES
132
first
FQPA Index Reservoir Screening Tool
SW
OPPT
133
2DFATMIC
TWO-Dimensional Subsurface Flow
Transport of MIcrobes and Chemicals
SW GW
OPPT
134
RPM
Regional Particulate Model
-
IMES
135
WINDROSE
WINDROSE
-
IMES
136
WQSTAT
Water Quality Statistics
-
IMES
137
NRDAM/CME
Natural Resource Damage Assessment Model for
Coastal and Marine Environments
-
IMES
138
ANNIE-IDE tool
kit
ANNIE-Interactive Development Environment tool kit
-
CEAM
139
AGCM
CCSR/NIES Atmospheric General Circulation Model
-
REM
60
FAte
and
No
略名
140
AMBLE
141
ANNIE-IDE
APPLESCAB_C
L
142
モデル正式名称
AMBLE Atmospheric
Emphasis
Model
対象 媒体
-Boundary
Layer
機関
-
REM
ANNIE-Interactive Development Environment tool kit
-
REM
APPLESCAB v.3.0 - pest management
-
REM
143
BIOFT3D
Flow and Transport in the Saturated and Unsaturated
Zones in 2 or 3 Dimensions
-
REM
144
BLAYER
Boundary LAYER model
-
REM
145
CABO_TPE
CABO/TPE Weather System
-
REM
146
CARRY
CARRY - contaminant transport model
-
REM
147
CCSR_NIES_AG
CM
CCSR/NIES Atmospheric General Circulation Model
-
REM
CEMOS_AIR
CEMOS_LEVEL
1
atmospheric transport of chemical
-
REM
CemoS/Level1 - steady state distribution of chemical
-
REM
150
CEMOS_LEVEL
2
CemoS/Level2
compartment
-
REM
151
CEMOS_PLUM
E
CemoS/Plume - atmospheric transport of chemical
-
REM
152
CLAWS
Coupled Landscape and Water System
-
REM
153
CLIMAK
CLImate MAKer - stochastic generator of daily
weather data
-
REM
154
CUTWORM
Black Cutworm Development Model of Caster and
Showers
-
REM
155
ETPOT1_0
Module for the calculation of potential transpiration
and evaporation
-
REM
156
FLOWEX1_1
Water flow through vadose zone
-
REM
157
FLUSH
Marine salmon cage flushing rates and dissolved
oxygen levels
-
REM
158
FLUSS
water quality
rivers/estuaries
-
REM
159
GAS
Gas Diffusion Model
-
REM
160
GAS-FLUX
Gas-Flux canopy photosynthesis model
-
REM
161
GDAY
Generic Decomposition And Yield
-
REM
162
GDM
Gas Diffusion Model
-
REM
163
GUS
GUS
-
REM
164
HUMUS
Hydrologic Unit Model of the United States
-
REM
165
KEY
Korea-East-Yellow Seas Model Ver. 1.0
-
REM
166
LEACHM
Leaching Estimation and Chemistry Model
-
REM
167
LEAFC3
A Coupled Photosynthesis-Stomatal-Energy Balance
Model for Leaves
-
REM
168
MACRO
Non-steady state model of waterflow and solute
transport in
-
REM
169
MICROWEATH
ER94
Microweather94
-
REM
170
MOFAT22
Multiphase Flow and Transport of Multicomponent
Organic Liquids
-
REM
171
MTCLIM
Mountain Climate Simulator
-
REM
172
MU_STM
MUMM's sediment transport model
-
REM
148
149
-
concentration
and
transport
61
of
chemical
model
for
in
tidal
No
略名
モデル正式名称
対象 媒体
機関
173
MULAT
Multiple Layer Aquifer Transport
174
MUST_24
Model for Unsaturated
water-Table
175
NCAR_CCM
NCAR Community Climate Model
-
REM
176
NIEDD
NIEDD - rainfield model
-
REM
177
OPUS
integrated model for transport of nonpoint-source
pollutants
-
REM
178
OPUS1_2
OPUS1 & 2 - Oil Palm sUmmary Simulator.
-
REM
179
OWLS
Object Watershed Link Simulation
-
REM
180
PH-ALA
Hydrodynamic model: Hydro.Mass balance model:
Ph-ala
-
REM
181
RAMS
Regional Atmospheric Modeling System
-
REM
182
RUNOFF1
A simplified hydrological runoff model
-
REM
183
SAEM
Species, Area, Environment Model
-
REM
184
SATURN
SATurated-Unsaturated
transport
-
REM
185
SAWAH
SAWAH 2.0 - Simulation Algorithm for Water flow in
Aguic Habitats.
-
REM
186
SHADE
Simulation of stream temperatures and shading
dynamics on a watershed scale
-
REM
187
SHAW
Simultaneous Heat and Water model
-
REM
188
SME
Spacial Modeling of the Environment (SME) version 1.
-
REM
189
SOLTRANS
SOLute TRANsport Simulator
-
REM
SOR3D
SOR3D: A Three- Dimensional Model of Diffusion
Avection in an Estuarine
-
REM
190
flow
flow
above
and
a
Shallow
RadioNuclide
-
REM
-
REM
191
SORKAM
SORKAM
-
REM
192
SOS
SOS - Spreadsheet Oriented Simulation.
-
REM
193
SSEM
SSEM (a Shallow Sea Ecological Model)
-
REM
194
STEMAX
Multinary gas diffusion program (STEMAX) -
-
REM
195
STEPPE
Vegetation dynamics of grasslands
-
REM
196
STRATA
A Stratigraphic Modeling Package, Release 2.13
-
REM
197
SURFEST
Surface Water Pesticide Exposure Estimation
-
REM
198
TOXFATE
Contaminant Fate Model
-
REM
199
TOXSWA
TOXic substances in Surface WAters
-
REM
200
TREERING
A Process Model of Cambial Activity and Ring
Structure in Conifers
-
REM
201
UCD_LLNL
Mesoscale Atmospheric Simulation Model
-
REM
202
VENT2D
Finite-difference model of multi-compound
transport and phase distribution
-
REM
203
VS2DT
Variably Saturated 2-D Flow and Transport Model
-
REM
204
VSAFT
Variably SAturated
dimensions
-
REM
205
WAM
WATERSHED ACIDIFICATION MODEL
-
REM
206
WANULCAS
WaNuLCAS: Water, Nutrient and Light Capture in
Agroforestry Systems
-
REM
207
WASMOD
Water and Substance Simulation Model
-
REM
Flow
and
62
Transport
vapor
in
2
No
略名
モデル正式名称
対象 媒体
機関
208
WASP
Water Quality Analysis Simulation Program
-
REM
209
WATCROS
WATCROS - WATer balance and CROp production
Simulation.
-
REM
210
WATERMOD
WATERMOD
-
REM
211
WATOR
WA-TOR
-
REM
212
WAVE
WAVE
-
REM
213
WBM
Water Budgeting Model
-
REM
214
WEATHER
Weather Simulation Model
-
REM
215
WGEN
Weather Generator
-
REM
216
WODA
Water Oxygenation Deoxygenation Assessment Model
-
REM
217
HEC-HMS
HEC Hydrologic Modeling System
-
HEC
218
HEC-GeoHMS
Geospatial Hydrologic Modeling Extension
-
HEC
219
HEC-2
HEC-2 Water Surface Profiles
-
HEC
63
3.2 NRDAM/CMEモデル
以上のとおり検索を行い、当該モデルの概要を調査した結果、我々が目標とする HNS の
海面・大気拡散予測モデルに相当する海外事例は見当たらなかった。
唯一、No.137 の「NRDAM/CME(Natural Resource Damage Assessment Model for
Coastal and Marine Environments)
」のみが、HNS の海面拡散予測に関し参考となる事
例であることが判明した。
以下、
「NRDAM/CME:The CERCLA Type A Natural Resource Damage Assessment
Model for Coastal and Marine Environment.(米国内務省環境政策・遵法室の作成資料)
」
及び「NRDAM/CME Technical Documentation Volume I - Part 1 April 1996, Revised 1,
dated October 1997」をもとに、本モデルの概要を記す。
(1)モデル開発の背景
本モデルは、有害物質の流出による沿岸域の被害額を評価し、損害賠償額を算定するた
めの米国一律の標準手法として、「1980 年の CERCLA(Comprehensive Environmental
Response, Compensation, and Liability Act:包括的環境対策・補償・責任法)」及び「 1990
年の OPA(Oil Pollution Act:油汚染法)」のもとでの使用を目的として開発されたアセス
メントツールである。
CERCLA は「連邦、州等は有害物質による自然資源の損傷を評価し、汚染に関与したす
べての潜在的原因者に浄化のための費用を負担させることができる」としている。また、
OPA は水域に油が排出された際に、連邦及び州に対し同様の権限を与えた法律である。
米国内務省(DOI:Department of Interior)は CERCLA のもと、自然資源被害の評価
に関する規則を制定した(Code of Federal Regulations Part 11.43)。 一方、米国海洋気
象局(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)は OPA のもと、ア
セスメントに関する規則を制定した(CFR Part 990.15)
。
NRDAM/CME は、こうした規則で定められた自然資源等の損傷評価を行なうための全
国一律のツールとして開発され、1996 年に導入された。その後、1997 年に修正版が出され
た。
64
(2)モデルの概要
本モデルは海上流出した有害物質の挙動(海面拡散、水中拡散及び海底堆積)を解析し、
沿岸域及び海洋の生物群集への影響、当該影響を回復又は修復するための費用、さらに、
当該回復・修復期間中に公衆が被る損害賠償額を決めるためのモデルである。
地理情報システム(GIS)を基本とし、物質の挙動の解析に関しては、油の拡散予測シミ
ュレーションモデルを応用している。また、対象物質として油のほか 426 種類の化学物質
に対応可能である。無論、船舶によってばら積み輸送される HNS の海上流出にも対応可能
である。
本モデルは、米国の全沿岸帯を 77 区域にゾーニングし、それぞれの区域に生息する生物
群集のデータベースが組み込まれている。また、損害賠償額の決定にあたっては、回復又
は修復活動に必要な費用のほか、漁業被害、レクリェーション被害等の損害額を加えて評
価する仕組みとなっている。
本モデルは、以下のサブモデルによって構成される。図 3.2-1 に本モデルのフローを示す。
・ メイングリッドシステム(GIS)
・ 物理的挙動サブモデル
・ 生物影響サブモデル
・ 影響回復サブモデル
・ 補償サブモデル(野生生物の価値評価モデル)
・ 補償サブモデル(漁業の価値評価モデル)
・ 補償サブモデル(海浜レクリェーションの価値評価モデル)
・ 補償サブモデル(ボート遊びの価値評価モデル)
・ 生息域の回復と再生産の費用評価サブモデル
65
ユーザー入力
流出物質の種類、量、時間、位置、日時、風向・風速、
流氷、浄化対策、物価指数など
環境情報
地理的分布
データベース
(気象、流動)
GISプロセッサー
(市販のソフトではなく独自開発ソフト)
(原則としてパブリック・ドメイン・ソフト)
化学物質情報
データベース
物理的挙動サブモデ ル
沿岸生態区分ゾー ン
とグリッドの定義
海表面、水中、
底質の濃度
生物影響サブモデル
被害補償
データベース
生物現存量の減少
被害補償サブモデル
被害修復対策
データベース
被害修復サブモデル
被害補償費用
被害修復費用
損害賠償額
図 3.2-1 モデルのフロー
66
生物情報
データベース
(3)モデルの前提条件
本モデルは簡易化のため、以下の前提条件が設定されている。
1)風向・風速
風向・風速については、現地のデータをユーザーが入力するか、統計的な気象データベ
ースを使用する。
2)流れ
流れについては、2 次元で鉛直方向に平均化する。淡水流入、湧昇流等の流動に関する
3 次元的な分布も重要であるが、本モデルでは考慮しない。
3)ゾーンの構成
各ゾーンはメッシュによって構成され、そのサイズは 200mから 5km四方までである。
沿岸域では小さく、沖合いでは大きなサイズとする。メッシュ数は各対象エリアの大きさ
にかかわらず、10,000 個(100×100)に固定する。
図 3.2-2 にゾーニングの例を示す。
4)計算時間
モデルの計算期間は、流出から 2∼3 日程度を想定している。したがって、長期にわたる
慢性毒性による影響及びより広範囲の影響は計算できない。
5)対象範囲
地理的な対象範囲は、米国の海岸すべてとする。沖合い方向は、経済的排他水域とほぼ
同じ範囲をカバーする。ただし、陸域、地下水及び大気の影響は考慮していない。
また、米国民に供されるサービスに関係するものについてのみ対象とする。例えば、米
国の漁業者が漁獲する魚介類(U.S.Fish)への被害は、領海内又は公海近くで生じた場合
にのみ対象となる。その場合、移動力の大きな魚類等も、年間の多くを領海内で生息する
ものについては対象とする。さらに、公海上での食物連鎖上の損害が U.S.Fish に損害をも
たらす場合は対象とする。
6)対象生物
被害算定の対象とする生物種は魚類、貝類、その他の無脊椎動物及び脊椎動物(は虫類、
ほ乳類又は鳥類)並びに植物である。
生物現存量に関しては、空間的及び時間的に平均化したものを利用する。分布域が特殊
なものや、週単位といった短期間の生物の分布は考慮していない。生物影響は急性毒性値
のみから計算する。毒性値は生物の分類群で平均化している。
67
生物間の被食及び捕食関係並びに競争関係は考慮していない。あくまで、急性毒性によ
る死亡及び餌生物の減少のみを扱っている。その場合、生物群集の元々の死亡率及び産卵
率は変化しないと仮定している。
7)対象経済活動
損害額算定の対象とする経済活動は、以下の 4 カテゴリーである。
・ 水産物の減少による経済的な損失(漁獲物の質の劣化は未考慮)
・ 釣り又は狩猟における獲物の減少による損失
・ 野生生物の観察機会の減少による損失
・ 立入禁止措置による海岸への訪問機会の損失
8)その他の前提条件
その他の主な前提条件は、以下のとおりである。
・ ユーザーが釣り又は狩猟に係る汚染による禁止区域の範囲を入力すれば、釣り又は狩
猟に係る損失を考慮することができる。
・ モデルが評価できる被害修復対策は、他からの生物の移入又は移植もしくは汚染底泥
の除去による再生産力の回復である。
・ 魚介類の市場価値は、流出によって変化しない。
・ 漁業者、游魚者又はハンターの獲得努力の程度は、流出によって変化しない。
・ 漁業者、游魚者又はハンターの獲物による売上高は、流出後も変化しない。
・ 被害補償の計算は平均化された値に基づき、釣り大会又は地域の特殊性等の特異的な
状況は考慮されない。
・ 複数の流出があっても、それぞれの流出は単独として扱い、複合影響は計算されない。
・ モデルの対象とする暴露経路は水を経由するものだけである。生物群集への大気又は
地下水による影響、生物濃縮による影響、地質的な経路による影響等は含まれない。
・ 例えば、分散剤の使用等、防除活動の影響による生物資源への被害の可能性について
は考慮しない。
・ 混合物の流出の場合は、そのうちの 1 成分にしか対応できない。
・ 流出した物質は、海表面上か表面の近くに放出されるとする。
・ 生物データベースにはいくつかの絶滅危惧種が含まれ、絶滅危惧種に影響が及ぶ場合
は、モデルで計算される額よりも高額の修復費用や補償額が必要とされる。
68
(各ゾーンは 100×100 のメッシュにより構成)
図 3.2-2 ゾーニングの例
69
(4)モデルの解析方法等
以下に、本モデルの基本的な考え方、解析方法等について述べる。
1)基本的な考え方
本モデルは、流出した有害物質を個々のパーティクル(粒子)単位で取り扱い、個々の
粒子又は膜が、海水と一緒にラグランジュ的に移動すると仮定している。いわゆる、
「ラグ
ランジュ離散パーティクル(スリック)法」と呼ばれる概念である。したがって、プルー
ムの境界における急激な濃度変化の問題を回避でき、また、多用途のモデル化にも応用が
きくとしている。
空間コンパートメントの考え方は、物理的な環境要素を以下の 6 種類に区分している。
・ 大気
・ 海表面
・ 表層水
・ 下層水
・ 底質
・ 潮間帯(汀線)
なお、流出した有害物質の濃度予測については海表面、水中及び底質(底泥と潮間帯)
の 3 種類についてのみ対象としていて、大気への蒸発移行分については諸影響と直接的に
リンクしていない。
その他、以下の考え方を基本としている。
・ 有害物質の密度が海水より軽いか等しい場合、表面拡散及び移流、エントレインメン
ト(連行攪拌)並びに蒸発を考慮してモデル化している。
・ 有害物質の密度が海水より重い場合、密度が海水と平衡するまで、または底質に到達
するまで、対流ジェットプルームによりモデル化している。
・ 有害物質の移流拡散は、ランダムウォーク法によりシミュレートしている。
・ 有害物質の相(状態)変化に関しては、有害物質の一部が懸濁態粒子に吸着状態とな
るか、または溶存態となるかを線形平衡理論により計算している。なお、有害物質の
一部が懸濁態粒子に吸着する場合は、懸濁態粒子の沈降速度と同じ速度で沈降するこ
ととする。
・ 底泥中の有害物質の状態に関しては、簡易な生物攪拌式(bioturbation equation)に
よって計算している。
・ 有害物質の分解速度に関しては、水中及び底質中の有害物質の分解を一次反応分解過
程として計算している。
70
2)ラグランジュ離散パーティクル(スリック)法の特徴
「ラグランジュ離散パーティクル(スリック)法(Lagrange Discrete Particls Method)
」
では、海表面に流出した HNS や油を大量の小パーティクル(粒子)の集合体として考えて
いる。
各パーティクルは、質量及び質量に関連した時間に依存する 1 組の空間座標を有してい
る。これらのパーティクルは、最初、流出率に対応する割合で流出地点の水中に投入され、
その後、移動を開始すると仮定される。各パーティクルの移動は風、流れ及び周辺パーテ
ィクルの濃度の影響を受ける。各時間ステップの間、すべてのパーティクルは、それぞれ
の位置でのドリフト速度及び変動成分によって移動させられる。この計算はパーティクル
ごとに行われ、方程式の解ではない。したがって、同方法と対比する「オイラー法」より
も効率的とされる。こうした移動の結果、全体の広がりは各パーティクルの広がりの集合
として表される。
全パーティクルの移動が計算された後、有害物質の海面から大気への蒸発、水中への溶
解及び海底への沈降の量など、海面からの有害物質の損失量が計算される。したがって、
各パーティクルの質量及び個数は、時間の経過とともに変化する。表面の有害物質の厚さ
は、グリッド内に存在するパーティクルの体積の和を面積で割ることによって計算される。
なお、こうした手法は油の海面拡散予測モデルで多用されている一方、以下のような問
題点も指摘されている。
・ 油の海面での広がりの理論は、もともと単一のスリックに対して開発されたものであ
る。したがって、離散的なスリック又はパーティクルに同じ理論を適用することは、
理論の基本概念と対立してしまう。
・ スリックの重複のため、蒸発を計算するために必要なスリック面積の計算が不正確に
なる。
・ スリック間の質量交換は人工的なものであり物理的な意味を持たない、または、物理
的な説明が困難である。
・ 軸対象の広がりと1次元の広がりの間を区別することが困難である。
こうした問題点の指摘にもかかわらず、
「ラグランジュ離散パーティクル(スリック)法」
やスリックによるモデル化は、海面拡散予測モデル技術の現状とされている(中田,1998)
。
71
3)解析方法
以下に、プロセスごとの本モデルの解析方法を示す。
(ア)拡散
海表面での有害物質の拡散は、水平及び鉛直方向のせん断流によって起きる。本モデル
のミクロな広がりは、Mackay et al.,(1980)が経験式に基づいて修正した Fay(1971)及
び Hoult(1972)の重力粘性式によって計算されている。なお,海表面の拡散面積の変化
率は次式で表現されている。
dA
dt
K 1A
1/ 3
Vm
A
4/3
ここで、A:拡散膜の面積(㎡)、K1:拡散係数(sec-1)、Vm:流出量(m3)、t:時間
(sec)である。
Fay-Hoult の拡散理論における第1段階(重力-慣性力)は非常に短時間のうちに起こる
ので、上式には組み込まれていない。したがって、放射状の拡散速度の最大値は、100
の
油 流 出 の 初 期 状 態 に 計 測 さ れ た 時 間 間 隔 の 平 均 値 で あ る 0.1 m /sec に 限 定 さ れ る
(Dippner,1983)
。
拡散過程は物質固有の最終的な厚さになった時点で終了する。拡散係数K1 は、5.0×
108/day に 設 定 さ れ て い る ( Audunson et al.,1984, Sørstrøm and Johanson,1985,
JBF,1976, Sørstrøm,1989, Reed et al.,1990,1992)
。
なお、油流出の場合は、海表面の流出油は風速の 3.6%の速度と海流の合成ベクトルで移
動すると仮定している。水中に移行した油は移流によってのみ移動する。
(イ)蒸発
スリック表面からの蒸発過程については、Mackay and Matsugu(1973)の式を採用し
ている。
海表面における蒸発過程での質量移動係数(K2 m/hr)は次式によって計算される。
K2
0.029W 1 / 3 D
0.11
S c 0.67 ((MW 29) / MW )1 / 2
ここで、W:風速(m/hr)
、D:拡散膜の半径(m)
、Sc:シュミット数(表面組度の指
標値)
、MW:流出有害物質の揮発成分のモル分子量(gm/mole)である。
Mackay et al.(1990)に従い、クメンのシュミット数Scは 2.7 が設定されている。
上式中のモル分子量MWは、Payne et al.,(1984)による空気中での拡散補正項である。
また、質量移動速度(gm/hr)は次式によって計算される。
72
dm
dt
K 2 PVP A / RT FMW
ここで、m:拡散膜からの蒸発量(gm)
、PVP:蒸気圧(atm)
、A:拡散膜の面積(㎡)、
R:ガス定数(8.206×10-5atm・m3/mole/oK)、T:温度(oK)、F:拡散膜中の揮発成分
を構成する残存部分、MW:流出有害物質の揮発成分のモル分子量(gm/mole)である。
なお、原油や石油製品等の混合物質の蒸発過程の取り扱いについては以下のように整理
されている。
・ 分子量が 100gm/mole 以下の芳香族系炭化水素については、ベンゼン及びトルエンの
平均のモル重量と溶解度とする。
・ 分子量が 100 から 160gm/mole の間の芳香族系炭化水素については、溶解度が測定さ
れている石油製品の重み付き平均値とする。
・ 無害で難溶解性の物質の揮発成分は、よりモル重量の大きい物質の揮発レベルとする。
また、混合物については物質重量による重み付き平均されたモル重量を使用する。
(ウ)溶解・混入
海表面のスリックから水中への溶解・混入の過程については、単位時間あたりの量とし
て、Mackay et al.,(1980)に基づき、次式で表されている。
Da
K 3 W 1 2 / 1 50
0.5
ST
ここで、W:風速(m/s)、K3:定数(初期値
0.11)、μ:粘性(centipoise)、δST:
スリックの厚さ(m)である。
Wolff and Poels(1986)による研究結果では、海表面にスリックを形成する有害物質の
場合、上式による計算結果は蒸発量に比較すると過小評価する傾向にあることが示され、
以下のような有害物質の溶解度に依存する補正係数Dbが提案されている。
Db
K 4 (S / MW ) 0.2
ここで、S:溶解度(mg/l)、MW:モル分子量(gm/mole)
、K4:定数( 100)である。
浮遊する有害物質に対して、水中への混入率は DaDbで計算される。水中への混入は、
飽和濃度に達するまで溶解することとする。
原油や石油系製品の場合、こうした混入過程のほかに小油滴となって混合する過程(エ
マルジョン化)が含まれる点が有害物質の場合と異なる。ただし、ガソリン、灯油、軽油
等は水とのエマルジョンを作らないことが確認されている(Payne and Phillips, 1985)
。
73
芳香族系の炭化水素については、小油滴と表面スリックからの混入があるので、異なるモ
デル式で計算する。
(エ)沈降
連続放出される有害物質の沈降過程は、Koh and Chang(1973)の開発した沈降プルー
ム式が基礎となっている。
水中に貫入した汚染物質のジェットプルームは、海水との混合によって希釈されるとと
もに半径を増してゆく。汚染物質の初期密度をρ0 とすると、沈降に伴って希釈され海水の
密度と等しくなったところでプルームの沈降はストップする。海水の密度の方が小さい場
合は海底までプルームが到達する。
ジェットプルームの中心軸周りの座標系を使って沈降過程を定式化すると、以下のよう
になる(Koh and Chang,1973)。
質量フラックス(Fm)の保存式
dFm
ds
E
W
運動量(M)の保存式
dM
ds
Fb j Fd
E
wU
エントレインメント率
E
2R j (
1 U rel
2 U sin
sin
2)
ここで、Fm:ジェットプルームの中心軸に沿った質量フラックス(kg/sec)
、E:エント
レインメント率(㎡/sec)
、M:単位長さあたりの運動量(momentum;kgm/sec2)、Fb:
単位長さあたりの浮力(kg/sec2)、Fd:単位長さあたりの抵抗力(kg/sec2)、U:周囲の
海水の速度(m/sec)
、Urel:海水とジェットの速度差(m/sec)、Rj:ジェットの半径(m)、
α1,α2:エントレインメント係数(α1=0.081,α2=0.353 Koh and Chang, 1973)
、ρw:
周囲の海水の密度(kg/m3)、γ:ジェットの軌跡と周囲海水の流向との角度の差 、θ2:
ジェットの軌跡と垂線との角度、j:鉛直流の単位ベクトルである。
浮力Fbと抵抗力Fdは、次式で表される。
Fb
R 2j g (
Fd
w C d R j ( U sin
w)
2
)2
74
ここで、g:重力加速度(kg/sec)、γ:ジェットの密度(kg/m3)、Cd:抵抗係数(=
1.3)である。
ジェットプルームから周囲の海水への質量の移動は次式で計算される。
dm
dt
Ah (C 0
C)
ここで、A:ジェットの断面積(㎡)
、C:ジェット中の汚染物質の濃度(kg/m3)、C0:
周囲の海水中の汚染物質濃度(kg/m3)である。なお、質量移動係数は、以下の経験式によ
って計算される(Holman, 1981)。
h
0.347D eff R 0e.62 S 0e.31
2R j
ここで、Deff:有効拡散係数(5×10-6 ㎡/sec)、Rj:ジェットの半径(m)、Re:レイ
ノルズ数=2URj/v、Sc:シュミット数=Deff/v、v:動粘性係数(㎡/sec)である。
(オ)再蒸発
本モデルでは、Lyman et al.,(1982)に基づき、水中に混入した有害物質の再蒸発の過
程を扱っている。計算手順は以下の通りである。
ヘンリー定数(H)
H
PVP /(S / MW )
ここで、PVP:蒸気圧(atm)、S:溶解度(mg/L)
、MW:モル重量(g/mole)である。
H<3×10-7 の場合、蒸発は無視できるとする。H>3×10-7 の場合、無次元のヘンリー定数
H
を計算する。
H
H / RT
ここで、R:ガス定数(8.206×10-5atm・m3/mole/oK)、T:温度(oK)である。
液相での交換係数(K5)
K5
20 44 / MW
気相での交換係数(K6)
K6
3000 18 / MW
液相と気相を合わせた物質交換係数(K7)
75
K7
( H K 5 K 6 ) /( H K 6
K5 )
ここで、定数K5、K6、K7の単位は㎝/hrである。水中から大気への実際の物質移動
は、次式で表される。
dm
dt
K7
m
d
ここで、mは大気に移行する汚染物質の量であり、水深dまでに存在する全物質量と等
しい。溶存している物質の揮発する深さdは、最大で波高の 1/2 に限定されるか、あるいは
拡散深さdとする。
d
2D Z t
ここで、Dz:鉛直拡散係数(㎡/sec)、Δt:モデルの計算タイムステップ(sec)であ
る。
(カ)水平・鉛直移動
海水流動による有害物質の移動は、平均潮汐流によって計算されている。鉛直のシァー
流によって水柱内を拡散するとしている。流れによる移動を加えた上で、拡散が計算され
ている。拡散は現象の長さスケールによって与えられる。
Dx
Dy
0.01L1.13
ここで、Dx、Dyは水平拡散係数(㎝ 2/sec)
、Lは長さのスケール㎝である(Okubo, 1971,
1974)。
海表面での混合深さの計算は、米国陸軍工兵隊の海岸防護マニュアル(U.S. Army Corps
of Engineering Shore Protection Manual;CERC,1984)の式に準拠している。この式で
は風速、フェッチ(吹送距離)、風の継続時間等から有効波高(Hs)が計算され、この有
効波高を用いて海表面における最初の混合を計算する。
海表面を浮遊する物質については、連行される粒子が波高の 1/2 の層に移行するとしてい
る。
水平及び鉛直方向の粒子の分散は、ランダムウォークモデルのアルゴリズム(Reed,1980)
を使用している。海水の流れがviの場合の粒子の拡散は、次式で表される。
vi
R*
6D i / t
76
ここで、添字iは座標軸xyzであり、Diは拡散係数、Δtは計算のタイムステップ、
R*は乱数(-1.0≦R*≦1.0)である。
鉛直拡散係数Dzの値は、海洋での一般的な値 0.0001 ㎡/sec と設定した(Kullenberg,
1982)。ユーザーへの情報として、最大混合深度を計算時間ステップごとに出力されるよう
になっている。この混合深度内で汚染物質は均一に分布していると仮定している。
(キ)堆積
水中内の有害物質は基本的に懸濁物質に吸着し、懸濁物質の沈降とともに海底に運ばれ
るとしている。吸着態の濃度(Ca)と溶存態の濃度(Cdis)の比率は、標準的な平衡理論
式を用いて計算される。
C a / C dis
K oc C SS
ここで、Koc:相分割係数(無次元)、CSS:懸濁物質の濃度(mg/l)である。
懸濁物質の濃度は初期値として 10mg/l(Kullenberg,1982)が設定されているが、ユーザー
が任意の数値を設定できるようになっている。懸濁物質に吸着して沈降する汚染物質は、
水中の全汚染物質に係数(Ca/(Ca+Cdis))をかけたものであり、この量が沈降速度Vsで
沈降する。沈降を表すために、海底面に近傍の懸濁物質濃度を水中の 10 倍と設定している
(Kullenberg, 1982)
。
モデルの設定では、スピルの継続時間は底泥からの拡散時間(年単位)に比べると短期
間(すなわち、日単位)であるため、底泥からの消失も含む底泥からの拡散は、次式で計
算される。
C
t
(D Z C / z)
t
kC
上式を汚染物質量Qについて解くと、次式になる。
C
Q/2
D bio t exp kt ( z 2 / 4D bio t )
ここで、Q:単位面積あたりの汚染物質負荷量(t/㎡)
、Dbio:生物による底泥の撹乱
速度(㎡/day)、t:時間(day)、z:底泥の深さ(m)
、k:分解速度(/day)である。
底泥表面に堆積した汚染物質は、溶出によって再び水中に回帰してくる。物質の溶出量
の計算は、Thibodeaux(1977,1979)の式を使用している。
dm
dt
hA c (C S
CW )
77
ここで、h:汚染物質の移動係数(m/day)、Ac:対象とする底面積(㎡)、CW:底層
水中のバックグラウンド濃度(t/㎡)、Cs:底質中のバックグラウンド濃度(t/㎡)であ
る。
汚染物質の移動係数hは、次式で計算する(Thibodeaux,1977,1979)
。
0.36(VL / ) 0.8 ( / D ) 0.33 D / L
h
ここで、V:鉛直流速(m/sec)
、L:有効距離(m;Ac=L2)
、Dν:底層水中の拡散
係数、ν:海水の動粘性係数である。
(ク)計算ステップの長さ
移動拡散過程の計算においては、タイムステップは可変としている。本モデルでは、グ
リッドサイズに応じて、まず計算ステップの長さが計算されている。
t
( x y)1 / 2 /(2U max )
ここで、ΔxΔyはx,y方向のグリッドの大きさで、Umaxは海水の最大流速である。
なお、水深の浅い水域では、計算時間ステップは鉛直輸送速度に依存するので、以下の式
で求める。
t
0.25d 2 /(6D z )
78
3.3 海外参考事例のまとめ
HNSの海面・大気拡散予測モデルとして唯一参考となる海外事例として取上げた、
NRDAM/CMEモデルの概要をまとめたのが表3.3-1である。
表3.3-1 モデル検索結果
モ
デ
沿岸域及び海洋環境における自然資源被害評価モデル
ル
NRDAM/CME:The CERCLA Type A Natural Resource Damage Assessment
名
Model for Coastal and Marine Environment
称
作
成
米国内務省(DOI:Department of Interior)
者
公
表
年
1996年(1997年修正版)
度
モ
デ
ル
油及び化学物質の船舶からの流出事故による生態系や社会環境(漁獲、レクリェー
の
ションなど)への影響を、貨幣価値換算して損害補償額を算定するためのモデル。
目
的
モ
デ
・海表面に流出した油及び化学物質の物理拡散挙動予測
ル
(大気拡散については含まれていない。水中濃度と底質への堆積を予測)
の
・拡散後の濃度による生態影響リスク評価
概
・漁業影響予測と社会環境影響予測に基づく損害額評価
要
対
象
物
化学物質426物質(HNSを含む)
質
79
項
目
1.
移
動
国内事例
基本式
(油流出拡散予測モデル)
海表面のスリックを細分してパーティクルとして
取扱い、ランダムウォークモデルを適用。
同左
ランダムウォーク以外のモデ
ルも多数存在する。
2.
Mackay et al.,(1980)[Fay(1971)とHoult(1972)
Fay(1971)の理論式
表
を修正]
A.H.Al-Rabeh et al.(1989)
面
拡
散
dA
dt
K1A
1/ 3
4/3
Vm
A
Mackay and Matsugu(1973)
K2
0.029W
dm
dt
1/ 3
D
0.11
Sc
0.67
Mackay et al.(1980)
((MW 29) / MW)
1/ 2
Mackay and Matsugu(1973)
環境省モデル
K 2 PVP A / RT FMW
E
溶解した物質からの再蒸発過程は別に取り扱って
MWp PV
A K GM
3.
いる。
K GM
蒸
Lyman et al.,(1982)によるヘンリー定数を用い
Sc
v / Dp
発
た式による。
Dp
D H 20
R T
0.0048 U 7 / 9 Z
1/ 9
Sc 2 / 3
MWH 20
MWp
財)シップ・アンド・オーシャ
ン財団(2000)
f (Q )dQ
4.
溶
Da
K3 W 1
/ 1 50
Db
K 4 (S / MW ) 0.2
RN
0.5
ST
解
混
入
t
TQ
Mackay et al.(1980)
Mackay et al.(1980)
2
d
10 4 Sm x
0.25
/ FN ,
RB
FB xf
環境省モデル
DIS A K LM C S
水中への加入率は DaDb
5.
水中での分解は考慮されていない。
生
ただし、底泥への堆積過程では分解を考慮してい 長いため、短時間の流出油拡散
モデルでは分解は考慮されて
る。
物
分
微生物分解は時間スケールが
いない。
解
80
6.
沈
降
ジェットプルーム式を採用している。
流出油のエマルジョン化過程
質量・運動量の保存式
が考慮されているモデルはあ
dFm
ds
る。
E
dM
ds
Fb j Fd
W
E
wU
エントレインメント係数
E
2R j (
1 U rel
2 U sin
sin
2)
Thibodeaux(1977,1979)
7.
堆
C a / C dis
積
C
Q/2
底泥への流出油の堆積モデル
はほとんどない。海岸への漂着
K oc C SS
について考慮しているモデル
D bio t exp kt ( z 2 / 4D bio t )
がある。
注)プルームのうち、排出流体の初速度に依存したプルームをジェットプルームと呼ん
でいる。
81
82
第4章 HNS海面・大気拡散に係る数値解析方法の考察
本章では前章までの調査結果をもとに、可能な限り簡易性に優れ、かつ、汎用性に富ん
だ HNS 海面・大気拡散予測モデルに係る数値解析方法等について考察を行う。
4.1 海面拡散予測モデル
HNS 海面・大気拡散予測モデルのうち海面拡散予測に関しては、基本的には次式の構成
からなるモデルであり、これに HNS ごとに異なる物性等についてのモデルを追加する形に
なると思われる。
海面拡散予測モデル=流動モデル+吹送流モデル
以下に各モデルの詳細について記述する。
4.1.1 流動モデル
特に本モデルを必要とする海域として、ケミカルタンカー等の船舶交通が輻輳し、かつ、
ケミカルタンカー等による HNS の荷役が定常的に行われている海域が想定される。すなわ
ち、東京湾、伊勢湾及び大阪湾である。
また、対象とする HNS 拡散を海表面での挙動のみとするため、計算時間の短縮の観点か
ら、平面 2 次元モデルによって各内湾の主要4分潮(M2 潮流,S2 潮流,K1 潮流,O1 潮流)
の各分潮流及び河川水の流入による河川流(出水時,豊水時,平水時,低水時)を事前に
計算しておくことが望まれる。
以下に、平面 2 次元モデルの基礎式等について振り返ってみる。
(1)平面2次元モデルの基礎式
潮汐流や恒流などの海域の流動は、3 次元の運動方程式を水面から海底まで積分し水平方
向に 2 次元である、いわゆる浅海長波の方程式を用いる。基礎式系を以下に再掲する。
1)運動方程式(海域の流動)
M
t
U
M
x
V
M
y
g(
Hw )
2
Ah (
M
x2
x
fN
2
M 1
)
sx
y2
83
1
bx
N
t
N
x
U
V
N
y
g(
Hw )
y
2
fM
2
1
N 1
)
sy
by
2
y
N
Ah ( 2
x
2)運動方程式(河川水による流動)
M
t
US
M
x
N
t
US
N
x
VS
N
y
VS
2
M
y
g(
Hw )
x
2
M
x2
Ah(
M
)
y2
2
g(
Hw )
y
2
N
x2
Ah(
N
)
y2
3)連続式
t
M
x
N
y
0
4)水温の拡散式
Ts
t
(U S
Ts
U )
x
(VS
Ts
V)
y
2
2
Ts
Kh ( 2
x
Ts
)
y2
Q 0 Q1Ts
c Hw
5)状態方程式
(T, S)
ここで、 M, N :線流量のx,y方向成分であり、次式で表される。
M
US (
Hw )
N
VS (
Hw )
また、 U S , VS :海面でのx,y方向流速成分、 :水位、 Hw :河川水、排水層厚さ、 g :
重力加速度、 f :コリオリ力、 Ah :水平渦動粘性係数、 sx , sy :海表面の摩擦応力、
bx , by :海底面の摩擦応力、 , , , , :鉛直分布定数、 TO :環境水温、 TS :海表面の
水温、 Kh :水平渦動拡散係数、 Q 0 :海表面からの放熱項、 Q 1 :熱交換係数、 c :海水
の比熱、 :海水の密度、 U, V :x,y方向の沿岸流速成分である。
なお、α,β,γ,σは次式で表される。
1
1
1
1
0
0
0
0
f ( )d ,
g ( )d ,
f ( )2 d ,
84
f ( )g ( ) d ,
h / Hw
(2)主な計算条件
平面 2 次元モデルによる主な計算条件として、計算格子や潮位条件が挙げられる。計
算格子は、格子サイズが細かいほど、流動場を詳細に表現することが可能となる。
しかしながら、計算時間やストックするデータ容量に影響する項目であること、また、
対象海域が東京湾、伊勢湾及び大阪湾の比較的広い内湾であることから、1000m程度の
格子分割が妥当であると考えられる。一方、対象海域の大きさに依存して格子分割数を
例えば 100×100 等の一定値にする等の方法も考えられる。
潮位条件は、対象海域の外海境界に近い地点の潮汐調和定数を用いることで設定可能
となる。表 4.1-1 に東京湾、伊勢湾及び大阪湾を対象とした時の潮位条件例を示す。
なお、大阪湾には瀬戸内海側と紀淡海峡側の2つの境界が存在し、しかも瀬戸内海が
潮流の卓越する海域であることから、瀬戸内海全域の潮流計算を実施し、得られた結果
を大阪湾の境界条件と設定する手法も考えられる。
表 4.1-1 東京湾、伊勢湾及び大阪湾を対象とした場合の潮位条件例
対象海域
東京湾
潮
位 条 件(㎝)
測点名
M 2潮
S 2潮
K1潮
O 1潮
37.00
18.00
22.00
19.00
金田湾
44.00
20.00
22.00
17.00
的矢港
※
64.40
20.70
30.50
22.61
高松港
大阪湾2※
45.56
21.80
24.24
18.20
下津港
伊勢湾
大阪湾1
※大阪湾1は瀬戸内海側、大阪湾2は紀淡海峡側の地点である。
85
4.1.2 吹送流モデル
吹送流とは海面上を吹く風の応力によって起こされる流れのことであり、流動モデルの
境界条件として設定されることが多い。
以下に、吹送流モデルの基礎式等について述べる。
(1)吹送流モデルの基礎式
海面上に吹く風の接線応力τは一般に次式で表現される。
a Cd W
2
ここで、ρa は空気の密度、Cd は海面の抵抗係数、W は風速である。
なお、海面上の風が連吹して波浪が十分に発達し、大気から見た海面の接線応力と海面
から見た大気の接線応力が等しい場合には次式となる。
a Cd W
2
'
2
w Cd U
ここで、ρwは海水密度、Cd’は大気面の抵抗係数、Uは海表面流速である。
また、大気と海洋の境界層が相似で Cd=Cd’を仮定すれば、海表面流速は次式となる。
a
U
W
w
上式では実際のモデル式を簡易的に示したが、風による海面の接線応力には東西方向や
南北方向に加わる力がある。各成分を次式に示す。
x
a
C d Wx Wx2
Wy2
y
a
C d Wy Wx2
Wy2
このようにして得られた風による海表面の流れと潮流等との合成ベクトルにより、油等
は海面を移動することとなる。したがって、事前に海域の潮流等の流れの結果があれば、
これをもとに風の影響を考慮した移動予測が可能となる。
ただし,海面の抵抗係数 Cd にはいくつかの値が提唱されているため、係数設定値の違い
を検討する感度解析を実施し、より安全側に予測できる設定を行う必要がある。
86
(2)主な計算条件
吹送流モデルの主な計算条件は風向及び風速であり、これらデータに気象予報値を用い
ることで、数十時間先までの吹送流の予測が可能となる。
87
4.1.3 海面拡散予測モデル
既存の油の海面拡散予測モデルでは、拡散に関し Fay,Fannelop and Waldman,Hault
等の理論式が一般に使用されている。これらの式は、実験で求められた経験定数を使用し、
あるいは解析的な方法によって導き出されている。一方、HNS の海面拡散については、モ
デル式が確立されていない。
油の拡がりは粘性に依存するとされているので、粘性を表現する解析が中心となってい
るが、HNS の場合は物質によって挙動が異なるので、より一般化した基礎式が必要になる
と考えられる。
物質の拡散に係わる拡散係数(D)について見ると、J.C.Huang 及び F.C.Monastero が
実験データをもとに 5∼19 ㎡/s の範囲で変化する値を報告している。また、A.J.Elliot らの
染料実験では、2000cm2/s の水平拡散係数が測定されている。
その他、染料パッチ実験を基礎として、A.Okubo は拡散係数(D)と時間(t)の関係
を次式で表している。
D 0.0027 t 1.34
(cm2/s)
単位時間当たりの A.okubo の拡散係数値は、J.C.Huang 及び F.C.Monastero の報告値や
A.J.Elliot の測定結果に比べて極めて小さな値である。しかしながら、時間(t1.34)に比例
することから、時間経過に伴い大きな渦が拡散に寄与することが考慮されている。
また、大久保が詳しく調べた結果によれば,図 4.1-1 に示すように、拡散係数D(cm2/s)
と拡がり距離 l(㎝)の関係に次式が得られている。
D 0.0103l 1.15
(cm2/s)
D:拡散係数
l :拡がり距離
宇野紀早苗(1993)沿岸の海洋物理学,p504,
図 10.12 より引用
図 4.1-1 大久保(1974)による調査結果
前式の拡がり距離 l(㎝)については、前述の Fay の理論式にも用いられている。
その他、平成 14 年度に環境省が「有害液体物質流出事故時における環境影響評価手法検
88
討調査」として、HNS を対象とした流出事故発生時の短長期的予測手法(以下、環境省モ
デルと言う)について検討し、その中で流出物質の海面上での拡がりを考慮している。
環境省モデルでは、流出した汚染物質の海面上での拡がりの評価には、原油を想定した
Haoult らの古典的な膜拡がり式を利用している。Haoult の式は、瞬時放出の場合、適切な
膜拡がりを与えるとされている式である。この式系は次式のとおりであり、Fay の理論式
と同様である。
l 1 .5
(
V2
g
v
w
1/4
t 3/8
1/4
w
p)/
w
ここで、l は拡がり距離(m)、ρw は海水密度(㎏/m3)、ρp は対象物質の密度(㎏/m3)
、
V は単位幅当たりの流出量(m3)
、vwは水の動粘性係数(㎡/s)、gは重力加速度(m/s2)
である。
したがって、全方位への均等拡大を仮定し、膜は円柱状を保って拡がっていくことにす
れば、拡がり距離 l は拡がり半径に相当する。
なお、環境省モデルでも海水中での物質拡散を考慮しているようであるが、その式系の
記載はなく、モデルでの設定が不明である。
しかしながら、HNS を対象として海面上での拡がりモデルを導入し、物質の拡散につい
て考慮しているモデルが存在することから、本調査においても流出物質の拡散を膜拡がり
モデルとともに考慮することが望まれる。
なお、環境省モデルの長期予測は、流出物質が想定したコンパートメントごとに熱力学
的平衡状態に達した際の濃度を求めるフガシティーモデル利用し、化学物質の長期的な挙
動を予測していて、本調査が想定する時間スケール(数日程度)とは異なっている。
89
4.2 大気拡散予測モデル
本調査が対象とするのは HNS 流出事故対応のためのモデルであり、事故発生後数日間の
拡散予測がターゲットであると思料される。そのため、非定常解析が必要である。したが
って、HNS の大気拡散予測に関しては、簡易性に優れたパフモデルの利用が適当と考える
に至った。
以下に、パフモデルについて振り返ってみる。
(1)パフモデルの基礎式
パフモデルの式系は次式のとおりである。図 4.2-1 に示すように、次々に放出されるパフ
を計算し、重ね合わせ濃度の積分することで濃度分布を求める手法である。
C
q'
(2 ) 3 / 2
exp
x
y
x 0 )2
(x
2
x
2
z
(y y0 ) 2
fz
2 2y
ここで、C は濃度、q’は排出物質量、σx,σy,σz はそれぞれ x,y,z 方向の拡散幅、x,y は排
出源からの座標値であり、x0,y0 はパフの中心位置である。
また、fx は鉛直方向の濃度分布を表す関数で、地表面完全反射条件では次式となる。
fz
exp
(H e z ) 2
2 2z
exp
(H e z) 2
2 2z
また、混合層上端のリッドや接地逆転層による上空への拡散の停止が起こる場合、それ
らは上空にできる蓋としてモデル化されている。この場合、鉛直方向の濃度分布は次式で
表される。
fz
exp
n
(z H e
2
2nh ) 2
2
z
exp
(z H e
2
2nh ) 2
2
z
ここで、z は高度、He は排出源高さ、h はリッド高度、n は反射回数である。
以上が点源から拡散式であるが、線源及び面源については、線及び面を細分し点源とし
て扱うのが実際的である。
90
図 4.2-1 次々に放出されるパフ
91
(2)主な境界条件
パフモデルにおける主な気象条件は、風向・風速及び単位時間あたりのパフ発生量であ
る。風向・風速は前述の吹送流モデルで設定する値が利用できる。単位時間あたりのパフ
発生量については、対象とする HNS ごとに設定する必要がある。
なお、常温で蒸気・ガス状になる物質の蒸発過程に関しては、様々な数理モデルが考え
られている。どのモデルを利用するかを含め、蒸発過程に関しては引き続き検討が必要と
思われる。
1)液だまりモデル
蒸発過程に関する数理モデルのうち、「液だまりモデル(Liquid Pool Model)」と称さ
れるモデルの例を以下に示す。
通常、液だまりモデルでは、室内におかれた槽に貯められた液相上に、一定速度の気流が
流れ、その間に温度の変化などが無視できるような場合、蒸発する速度を一定として取り扱
われる。
発生速度式として、種々の理論式、実験式、またはそれらの中間の半理論式などが提唱さ
れ、それぞれの変数も異なる。たとえば、米国EPAが採用した数理モデルでは、発生速度式
としてMackayらの報告に基づき次式が用いられた。
G
SL
2.2 10 4 U 0a.78 MW 2 / 3 P
1
TL
( g / sec/cm2 )
ここで、 SL は液だまり面積(cm2)、 Ua は移流速度(m/sec)、MWは分子量(g/mole)、P は
蒸気圧(atm)、 TL は液体表面の温度(K) である。
その後、A. Hummelらの報告による次式が用いられている。
92
G
SL
5
8.79 10 MW
0.833
1
P
MW
1
29
0.25
1
T 0.05
Ua
xPtotal
0. 5
(g/sec/cm2 )
ここで、Δxは風下方向の液だまりの長さ(cm) ,Ptotalは全圧(Pa)である。
一方、A. LennertらはD. C. Grayらの提唱する式を含む7つの発生速度式を対象に比較検
討し、次式が実験室内の測定値とよく合致したと報告している。
L3 / 4 L30/ 4
G
0.62
1.1 10 6 U a P1.02
L L0
SL
2/3
0.86
(mol/sec/㎡ )
ここで、 Ua は気流(m/sec)、P は対象化学物質の蒸気圧( Pa )、L は液だまりの長
さ(m)、 L0 は液だまりの初期長さ(m)である。
このように、この液だまりモデルの発生速度式は、より少ない変数で発生速度を推定する
理論、半理論及び実験式が検討されている。
2)油拡散モデルにおける蒸発モデル
例えば高度に精製された油の場合、数日のうちに揮発成分の蒸発により体積の 75%以上
を失う。HNS の揮発成分の蒸発も同程度であると考えられる。そこで、既存の油拡散モデ
ルにおける蒸発過程の取り扱いについて整理しておく。
蒸発速度を決定する際には、蒸発による質量の伝達を決めることが重要な要素となる。
D.Mackey,R.S.Matsugu(1973)は、水及びガソリンの蒸発に関する室内実験結果を基本
とした蒸発質量伝達係数を計算するため、次式を提案している。
Km
0.0292U
0.78
D
0.11
Sc 0.67
ここで、Kmは質量伝達係数(m/hr)、Dはスリック直径(m)、Uは風速(m/hr)、Sc
はシュミット数である。
ここで得られた質量伝達係数Kmを用いて、D.Mackey(1981)は蒸発により失われる成分
量 M(mole)として次式を提案している。
M
K m A tXP s / RT
ここで、Kmは質量伝達係数(m/hr)、 tは時間(s)、Aはスリック面積(㎡)、XPs
は部分蒸気圧、Ps は蒸気圧、Rは気体常数(atm m3/mol・K)
,Tはオイル表面温度(K)
である。
93
油拡散モデルでは、この他にも数多くの蒸発モデル式が提案され、原油を用いた実験に
よって得られたパラメータを使用する式も多い。その中でも前述の D.Mackey(1981)の式は、
原油に特有のパラメータに依存していないので、HNS にも適用が可能ではないかと考えら
れる。
以上、蒸発に関して液だまりモデル及び油拡散モデルで用いられている例を示した。HNS
の蒸発量条件を設定するためには、こうした関数を用いた設定を行い HNS の減少項として
利用しなければならない。
3)環境省モデル
前述の環境省モデルでも、図 4.2-2 に示すとおり、対象物質の蒸発及び溶解が考慮されて
いる。
大気拡散
気 相
蒸発
移流・拡散
拡
拡散
散物
物質
質
溶解
液
相
環境省(2003)平成 14 年度有害液体物質流出事故時における
環境影響評価手法検討調査,p51,図 3.2-4 より引用
図 4.2-2 対象物質の蒸発と溶解
蒸発速度=気膜の物質移動係数×表面積×飽和蒸気密度
溶解速度=液膜の物質移動係数×表面積×飽和溶解度
環境省モデルでは、対象物からの蒸発速度に関し、Evans らの蒸発速度式(次式)が用
いられ、同式により大気中への物質の負荷を表現している。この式はプールからの物質の
蒸発を対象としたものであり、液膜からの蒸発速度の評価にはこれが適しているとされて
いる。
94
A K GM
E
K GM
MWp PV
R T
0.0048 U 7 / 9 Z
Sc
v / Dp
Dp
D H 20
1/ 9
Sc 2 / 3
MWH 20
MWp
G
ここで、Eは蒸発速度(㎏/s)、Aは液膜の表面積(㎡)、K M は気膜中の物質移動係数(m/s)、
PV は対象物質の蒸気圧(Pa)
、Rは気体定数(8314J/kmol)、Tは温度(℃)
、Uは風速(m/s)、
Zは液膜直径(m)
、Scはシュミット数、vは空気の動粘性係数(1.5E-5 ㎡/s)、MWpは
対象物質の分子量(㎏/kmol)
、MWH2O は水の分子量(㎏/kmol)、Dpは対象物質の大気中
の分子拡散係数(㎡/s)、DH2O は対象物質の大気中の分子拡散係数(㎡/s)である。
また、溶解については次式により表現されている。
DIS A K LM C S
L
ここで、DIS は溶解速度(㎏/s)、 K M は液膜中の物質移動定数であり、環境省モデルで
は Mackay(2001)による値(0.01m/s)が利用されている。また、CS は飽和溶解度(㎏/m3)
である。
以上、大気中への負荷(蒸発)だけでなく溶解も考慮することで、海表面の物質量を減
少させつつ海表面を拡散する過程をより詳細に表現することが可能となり、本モデルにお
いても考慮する必要があると思料される。
4)対象物質の各計算格子への分配
以上、対象物質の物性に関するモデル化について述べてきたが、大気拡散解析の境界条
件の重要部として、
「どこからどれだけ蒸発するか」の設定が挙げられる。
海面拡散計算は対象海域を任意サイズの計算格子に区切り実施するため、対象物質の膜
拡がりを考慮した拡散計算を実施した場合、ある計算格子は全面が対象物質に覆われるが、
隣の格子の液膜面積は計算格子 2 分の 1 程度となることがある。
このような場合、対象格子からの蒸発又は溶解に係る液膜面積と総液膜面積の比で物質
放出量を分配することが、計算時間を考慮しても有効と考えられる。なお、この手法は環
境省モデルでも次式で表現し、利用されている手法である。
I i, j
(A IC ) i , j
A OF
I OF
ここで、Ii,j は計算格子(i,j)の物質量(mol/s)、(AIC)i,j は計算格子(i,j)内の液膜で覆わ
れている部分の面積(㎡)
、AOF は液膜の総面積(㎡)、IOF は物質総量(mol/s)である。
95
これにより,
「各計算格子からの大気への蒸発量」が計算されることとなる。
なお,環境省モデルでは液膜面積としているが、漏出した物質の挙動を多数の粒子で表
現する場合、前式の(AIC)i,j および AOF を粒子数として捉えることで対応できる。
以上に関し、本モデルにおいても考慮する必要があると思料される。
96
4.3 数値解析方法のまとめ
以上、既存モデルから得た知見等をもとに、HNS 海面・大気拡散予測モデルの数値解析
方法等について考察した結果を以下にまとめる。
・ 流動場の計算については、一般的な流動計算モデルが適用できると思われる。
・ HNS 流出事故に対し迅速に対応するためには、流動場の計算に時間をかけていられな
い。そのため、対象海域の流動場について事前に流動計算を実施し、計算結果をデータ
ベース化しておくことが必要と思われる。
・ 海表面を漂流する流出 HNS のスリック(薄膜)の表面から蒸発した成分の大気拡散予
測モデルについては、瞬間点源からの大気拡散モデルであるパフモデルを採用すること
が適当と思われる。
・ 大気拡散予測モデルとして一般的に使用されているプルームモデルは、連続排出による
定常状態を再現するモデルであるため、HNS 拡散予測モデルのように点源が時間によ
って移動し、また、表面積も変化するなど非定常状態のモデルでは使用が困難であると
思われる。
・ 大気拡散予測モデルでの今後の検討課題として、「時間によって変化する風のデータを
どうするか(各時間で入力するか、予測中は一定とするか)
」また、「流出した HNS の
スリック(薄膜)の表面から蒸発過程のモデル式をどうするか」が挙げられる。
・ 流出した HNS の物性に関し、本モデル用に改良されたデータベースが必要と思われる。
なお、前章で述べた米国のモデルについては蒸発、溶解、沈降、底泥への堆積等の物質
変化過程のすべてを本モデルに取り入れるのは複雑すぎると思料される。また、これらの
諸過程については取り入れにあたり、各変化過程の基本式を用いて事前に感度解析をして
おく必要があると思われる。感度解析の結果によって、モデルに必須の過程とあまり重要
でない過程とを分別することによってモデル作成の効率化が図れると思料される。
97
98
第5章 数値解析方法の検証
前章の考察結果の妥当性、特に HNS の大気拡散モデルに係る考察結果の妥当性を机上で
検証するためには、過去の HNS 事故事例を取り上げ、揮発性ガスによる被害の発生状況等
と照合することが一つの手法であると思料される。しかしながら、過去我が国では、HNS
輸送中の海上流出事故に伴い大量の揮発性ガスが大気中に放出し被害をもたらす等の事例
は発生していない。
そこで本章では、揮発性ガスの大気拡散事例として、平成 9 年 7 月に東京湾で発生した
「ダイヤモンドグレース号」による原油流出事故を取り上げ,前章の考察結果の妥当性を
検証する。
5.1 「ダイヤモンドグレース号」原油流出事故
1997 年 7 月 2 日 10 時頃、東京湾中ノ瀬付近において原油タンカー「ダイヤモンドグレ
ース号」が底触し大量の油を流出させた。流出油は中東産の「ウムシャイフ」という揮発
性の高い原油であったため、大量の石油蒸気が大気中に放出された。
当該放出状況については、図 5.1-1 に示す各地点(A∼F)に位置する大気汚染常時測定
局で観測され、図 5.1-2 の結果が得られている。
A∼F:大気汚染常時測定局,★:原油流出事故発生場所
図 5.1-1 大気汚染常時測定局と原油流出事故発生場所
99
A
B
C
300
D
E
F
B:MAX595
NMHC(10ppbC)
250
200
150
100
50
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間(1997年7月2日)
大原ら(2000)東京湾原油流出事故による大気環境影響の数値解析,Fig.2 を引用
図 5.1-2 各測点のNMHC観測結果
流出事故発生日の NMHC(非メタン炭化水素)の濃度変化を見ると、事故発生現場に近
い地点 A で事故発生 1 時間後の 11 時に最初の濃度ピークが見られる。次いで、地点 B 及
び地点 C が 12 時に濃度ピークを観測している。さらに、地点 D 及び E が 13 時に、最後に
地点 F が 14 時にそれぞれ濃度ピークを観測している。
事故発生日の午前 10 時の横浜測候所で観測された風向・風速は南西の風、7.1m/s であっ
たことから、風下へ向かうに従い濃度ピークの出現タイミングが遅くなっている。すなわ
ち、揮発した NMHC が南西風に運ばれ、茨城県方向(北東方向)へパフ状に輸送されてい
たことが予想される。
また、各地点のピーク時濃度を見ると、地点 A が約 1900ppbC、地点 B が約 6000ppbC、
地点 C が約 1700ppb、地点 D が約 1000ppbC、地点 E が約 600ppbC、そして地点 F が約
500ppbC となり、事故発生現場にもっとも近い地点 A よりも地点 B で最高濃度が観測され
ている。
これは、中ノ瀬付近で流出・揮発した大量の NMHC が南西風により北東方向へ運ばれた
ため、事故発生現場から北西方向に位置する地点 A よりも北東方向に位置する地点 B での
濃度が上昇したものと推察される。
さらに,地点 A 及び地点 B の NMHC 濃度の時系列変化を見ると、最初の濃度ピークか
ら 5 時間後に 2 度目の濃度上昇が見られる。この間、東京湾に高濃度汚染物質が滞留して
いたものと予想される。
100
5.2 「ダイヤモンドグレース号」原油流出事故に係る大気拡散予測
「ダイヤモンドグレース号」原油流出事故に関しては、大原ら(2000)により大気環境影響
に関する数値解析が実施されている。以下にその概要を記すとともに、前章の考察結果の
妥当性を検証するための予備解析を行う。
5.2.1 既存の解析結果
大原らは,図 5.2-1 に示す様に関東地方含む広い範囲を東西方向に 5.66 ㎞,南北方向に
5.54 ㎞の計算格子に区切り、光化学反応を含む 3 次元グリッド型物質輸送モデルを用いて
解析を行っている。
風速や拡散係数等の気象データは、アメダスによる地上実測風と 5 地点の高層気象デー
タを用いて 4 次元データ同化した気象モデルによって生成している。他の大気拡散計算条
件は、通常期の発生物質として Nox,Sox 及び NMHC の排出を図 5.2-1 に示すメッシュ別
に考慮し、これに事故によって発生した NMHC を付加して解析を行っている。
また、事故による石油蒸気の蒸発量および蒸発時間は正確に把握されていないため、石
油連盟資料や NMHC の実測濃度と事前計算結果との比較等を参考にして、7 月 2 日の 10
∼11 時の 1 時間に中ノ瀬を含むメッシュから 180t/h としている。なお、計算は事故発生日
の 7 月 2 日 3 時から翌日 3 日 24 時までの 45 時間を対象に実施されている。
上記計算条件により得られた計算結果のうち、図 5.2-1 中に示された P1、P2、P3の各メ
ッシュの濃度変化を図 5.2-2∼図 5.2-4 に示す。
図中の棒グラフ及び「○」印は実測値を示し、折れ線グラフの太実線が原油流出事故を
想定した計算結果である。これを見ると、各地点ともに NMHC 濃度のピーク出現時が実測
結果と良い対応を示している。さらに、P2、P3の各地点では濃度値も一致する結果が得ら
れている。しかし、P1地点の濃度に関しては,実測値の約 2 倍の値が計算されていて、大
原らの検討結果を見ると設定した NMHC の排出量 180t/h が過大である可能性があるとし
ている。
なお、この解析に要した計算時間が約 40 時間としている。解析の対象とした時間は 45
時間であり、計算時間とほぼ同等となっている。そのため、緊急時の対応に利用するには
困難な手法と考えられる。
101
大原ら(2000)東京湾原油流出事故による大気環境影響の数値解析,Fig.1 を引用
図 5.2-1 大原らの計算格子図
大原ら(2000)東京湾原油流出事故による大気環境影響の数値解析,Fig.6 を引用
図 5.2-2 大原らの計算結果(P1,棒グラフ:観測値,折れ線グラフ:計算値)
102
大原ら(2000)東京湾原油流出事故による大気環境影響の数値解析,Fig.6 を引用
図 5.2-3 大原らの計算結果(P2,○:観測値,折れ線グラフ:計算値)
大原ら(2000)東京湾原油流出事故による大気環境影響の数値解析,Fig.6 を引用
図 5.2-4 大原らの計算結果(P3,○:観測値,折れ線グラフ:計算値)
103
5.2.2 パフモデルによる予備解析及び妥当性の検証
前章で考察した大気拡散予測手法であるパフモデルによる解析が、
「ダイヤモンドグレー
ス号」の原油流出を想定した場合、適用可能かどうかの予備解析及び妥当性の検証を以下
に実施する。
なお、本解析では潮流場の計算は実施せず、図 5.2-5 に示すように、大気への NMHC の
放出源は定点とし、風下方向に存在する各測点での濃度の時系列変化傾向を検討するもの
とした。また、水平的な拡がりは考慮しないこととした。
放出源から 10 ㎞地点は、前掲図 5.1-1 で見る流出事故発生場所から地点 A までの距離に
相当し、以下 37 ㎞、46 ㎞、57 ㎞、73 ㎞及び 100 ㎞の各地点は、流出事故発生場所から地
点 B、地点 C、地点及び地点 F までの距離に相当する。
パフの拡がり
風上 風下
NMHC放出源
10㎞ 37㎞46㎞57㎞ 73㎞ 100㎞
図 5.2-5 予備解析の概念図
(1) 計算条件
本解析に用いるモデルは次式のパフモデルである。
C
q'
(2 )3 / 2
exp
y
z
( y y0 )2
2 2y
( Z Z0 ) 2
2 2z
上式は前章に記したパフモデルの式系と若干異なる。これは、本解析では水平方向に一
方向(ここでは y 方向)と高さ方向のみの 2 次元で解析を行うと仮定したためである。
また、本解析では対象物質の放出量及び風向、風速などの気象条件が主な計算条件とな
る。放出量は、石油蒸気の蒸発量および蒸発時間は正確に把握されていないため、前節で
示した大原らの設定値である 180t/h を用いる。風向及び風速は、事故発生時 1997 年 7 月 2
日 10 時の横浜測候所の観測結果である南西の風,風速 7.1m/sを設定する。
なお、本解析では水平的な拡がりは考慮していないため、風速のみが放出されたパフの
中心位置に影響する。また、パフの拡がりの程度により計算結果で得られる濃度値も異な
るため、拡散幅(σy,σz)には既往知見を参考に 3 種類の設定を行い、各設定値による
結果の違いを検討することとした。
設定した計算条件一覧を表 5.2-1 に示す。
104
表 5.2-1 計算条件一覧
利用モデル
パフモデル(鉛直二次元で取り扱う)
NMHC 放出量
180t/h(大原ら(2000)の設定値を参考)
NMHC 放出時間
1時間(大原ら(2000)の設定値を参考)
風速
7.1m/s(事故発生日 10 時の横浜観測値)
大気安定度
D(風速,雲量)
ボサンケピアソン式
環境省 NOx マニュアル式
拡散幅
Briggs の式
拡散幅に用いた各係数値について以下に示す。
1)ボサンケピアソン式
ボサンケピアソン式は大気安定度により異なるパラメータと風速からなる次式で表され
る。
y
2 R2 U Y
,
z
2 P U
ここで、R 及び P は大気安定度より決定される係数値(表 5.2-2)
、U は風速、Y は放出
源からパフ中心までの距離(風速×時間)である。
表 5.2-2 ボサンケピアソン式のパラメータ
大気安定度
R
P
弱
0.04
0.02
平均的
0.08
0.05
強
0.16
0.10
105
2)環境省 NOx マニュアル式
環境省の NOx 総量規制マニュアルに記載されている区分法であり、表 5.2-3 に示すとお
りである。
表 5.2-3 環境省 NOx マニュアル式
安定度
y
Ay
A
B
C
D
E
F
G
y
x ay
y
z
風下距離
Az
z
x az
z
風下距離
1.122
0.0800
0∼300
1.514
0.00855
300∼500
2.109
0.000212
500∼
0∼1000
0.964
0.1272
0∼500
0.396
1000∼
1.094
0.0570
500∼
0.924
0.1772
0∼1000
0.885
0.232
1000∼
0.918
0.1068
0∼
0.929
0.1107
0∼1000
0.826
0.1046
0∼1000
0.889
0.1467
1000∼
0.632
0.400
1000∼10000
0.555
0.811
10000∼
0.921
0.0864
0∼1000
0.788
0.0928
0∼1000
0.879
0.1019
1000∼
0.565
0.433
1000∼10000
0.415
1.732
10000∼
0.929
0.0554
0∼1000
0.784
0.0621
0∼1000
0.889
0.0733
1000∼
0.526
0.370
1000∼10000
0.323
2.41
10000∼
0.794
0.0373
0∼1000
0.901
0.426
0∼1000
0.851
0.602
1000∼
0.914
0.282
0.865
0.921
0.0380
0∼1000
0.637
0.1105
1000∼2000
0.896
0.0452
1000∼
0.431
0.529
2000∼10000
0.222
0.2.17
10000∼
106
3)Briggs の式
Briggs は表 5.2-4 に示す拡散幅を与える式を提案していて、市街地及び平滑地における
拡散幅が計算できる。なお、本解析では海上に相当すると考えられる距離までは平滑地用
の値を設定し、それ以降は市街地用の値を設定することとする。
表 5.2-4 Briggs の式
適用
安定度
y=
z
=
A
0.22X(1+0.0001X)-1/2
0.20X
平
B
0.16X(1+0.0001X)-1/2
0.12X
滑
C
0.11X(1+0.0001X)-1/2
0.08X(1+0.0002X)-1/2
地
D
0.08X(1+0.0001X)-1/2
0.06X(1+0.0015X)-1/2
用
E
0.06X(1+0.0001X)-1/2
0.03X(1+0.0003X)-1
F
0.04X(1+0.0001X)-1/2
0.03X(1+0.0003X)-1
市
A−B
0.32X(1+0.0004X)-1/2
0.24X(1+0.0001X) -1/2
街
C
0.22X(1+0.0004X)-1/2
0.20X
地
D
0.16X(1+0.0004X)-1/2
0.14X(1+0.0003X)-1/2
用
E−F
0.11X(1+0.0004X)-1/2
0.08X(1+0.0015X)-1/2
107
(2)計算結果
ボサンケピアソン式、環境省マニュアル値及び Briggs 式の各拡散幅式を用いた計算結果
を図 5.2-6 に示す。なお、計算結果の濃度値は地面上 1m高さの結果である。各ケースとも
に 10 ㎞地点が最も高濃度となっていて、この距離に相当する地点 A の傾向とは異なる結果
である。
これは、地点 A は事故発生地点から約 10 ㎞の場所ではあるが、風下方向とは異なるため
地点 B より低濃度になったものと考えられる。しかし、各ケースともに計算開始 30∼1 時
間後に地点Aの濃度ピークを迎えていて、先に検討した観測値の変動と一致する傾向が得
られた。
また、他の地点についても同様であり、地点 B、C、D 及び E の順に計算開始 2∼3 時間
後に各地点に相当する距離地点で濃度ピークを迎え、観測結果と良い対応を示した。そし
て、事故発生地点から最も離れた地点 F に相当する 100 ㎞地点の計算結果も、観測値と同
様に 3.5∼4 時間後に濃度ピークを迎える結果が得られた。
次に、計算結果で得られた各ケースの濃度値を見ると、拡散幅の設定により濃度が大き
く異なることが確認された。したがって、今後モデルの作成にあたっては、拡散幅設定の
ための事前解析を実施する必要があり、この設定作業を行うことで観測値と良い対応を示
す結果が得られるものと考えられる。
また、各地点に相当する距離地点の計算結果と観測値に差が見られる。これは、本解析
では通常 3 次元で計算するモデルを 2 次元空間で解析するなどの仮定を設けていること、
さらに、各地点が一直線上に並んでいないことなどの理由が挙げられる。
108
10㎞
37㎞(B付近)
46㎞(C付近)
57㎞(D付近)
73㎞(E付近)
100㎞(F付近)
1000
900
NMHC(10ppbC)
800
700
600
500
400
300
200
100
0
0
0.5
10㎞
1
1.5
2
2.5
37㎞(B付近)
3
3.5
4
4.5 5 5.5 6 6.5 7 7.5
経過時間(時間)
拡散幅にボサンケピアソン式を用いたケース
46㎞(C付近)
57㎞(D付近)
8
73㎞(E付近)
8.5
9
9.5 10
100㎞(F付近)
250
NMHC(10ppbC)
200
150
100
50
0
0
0.5
10㎞
1
1.5
2
2.5
4.5 5 5.5 6 6.5 7 7.5
経過時間(時間)
拡散幅に環境省のNoxマニュアル値を用いたケース
37㎞(B付近)
3
3.5
4
46㎞(C付近)
57㎞(D付近)
8
73㎞(E付近)
8.5
9
9.5 10
100㎞(F付近)
120
NMHC(10ppbC)
100
80
60
40
20
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5 5 5.5 6 6.5
経過時間(時間)
拡散幅にBriggs式を用いたケース
図 5.2-6 予備解析結果
109
7
7.5
8
8.5
9
9.5 10
5.3 検証結果のまとめ
HNS 大気拡散予測のための数値解析方法の妥当性について、
「ダイヤモンドグレース号」
原油流出事故を取り上げて検証した結果を以下にとりまとめる。
ダイヤモンドグレース事故発生時の周辺域の大気観測結果より、原油流出により蒸発し
た高濃度な NMHC が風下方向にパフ状に輸送されることが確認された。
この現象について、前章で考察した解析解からなるパフモデルを用いて予備解析を実施
したところ、空間的な仮定のもとでの解析で得られた濃度値と観測値との間に差が生じた
ものの、濃度ピークを迎えるタイミングについては実現象と良い対応を示すことが確認さ
れた。
また、拡散幅の設定状況により、得られる計算結果値が大きく異なることも確認され、
今後のモデル化に際しては、事前に既往知見を参考にした感度解析を実施して設定する必
要があることが確認された。このほか、海面拡散に係る各パラメータについても、既往知
見を整備し感度解析を実施することが必要である。
総じて言えば、パフモデルを用いることで大気に放出された汚染塊の移動を表現できる
ことが確認された。パフモデルを用いて大気拡散解析を実施するとした前章の考察結果は、
課題は残されるものの、妥当であったと考えられる。
110
第6章 今後の課題及び開発計画案
本章では、今年度調査により得られた今後の課題を抽出・整理するとともに、今後の開
発計画案について記す。
6.1 今後の課題
今年度実施した既往知見の収集整理、
「ダイヤモンドグレース号」の原油流出事故を対象
とした予備解析等により、以下の課題が抽出された。
【流動モデルについて】
海域の流動場については、HNS 流出事故発生時にパソコン起動下で瞬時に潮流場を予測
する必要があるため、平面 2 次元モデルにより各対象海域の主要 4 分潮の潮流場を事前に
データベース化する事が望まれる。
その場合、東京湾や伊勢湾のように湾外との境界部が 1 箇所(湾口)の場合は良いが、
大阪湾のように紀淡海峡側や明石海峡側の 2 箇所存在する場合には、条件設定を十分に検
討する必要がある。
【吹送流モデルについて】
風による海表面の流れに関する既存知見を見ると、モデル化されたものの他、風向の右
側に 0∼30 度の角度で存在し、
風速の 1.0∼5.3%の速度になるとしている文献も存在する。
当該文献値を用いて解析を実施した場合、極めて短時間で解析結果が得られるものと思わ
れる。
しかしながら、実際には陸地との距離(離岸距離)なども影響するため、海域を格子分
割しての吹送流モデルによる計算が必要となる。その場合、吹送流モデル中で設定されて
いる海面の抵抗係数(Cd)にはいくつかの値が提唱されているため、係数設定値の違いを
検討する必要がある。
【海面拡散モデルについて】
海面拡散モデルでは、蒸発及び溶解に影響する対象物質の物性データの整備が必要不可
欠である。対象となり得る物質の分子量や比重などのデータベース化について検討する必
要がある。
【大気拡散モデルについて】
大気拡散解析に関しては、計算時間が短時間であること、また、非定常現象を対象とし
た解析であることを考慮し、パフモデルの適用が妥当であると考えた。パフモデルによっ
て「ダイヤモンドグレース号」原油流出事故を対象とした予備解析を実施したところ、拡
111
散幅の設定により得られた結果(濃度値)が変わることが確認された。
拡散幅の設定値により異なる計算結果の最小値と最大値との間には約 7∼8 倍もの差が見
られた。当該設定についても十分な検討が必要である。
以上の課題について、表 6.1 にとりまとめる。
表 6.1 知見の収集整理により得られたモデル設定のための今後課題
課題
項目
流動モデル
開境界が複数存在する場合の境界条件設定方法や計算領域の設定
吹送流モデル
海面の抵抗係数の設定
海面拡散モデル
対象物質の物性データの整備
大気拡散モデル
拡散幅の設定
112
6.2 今後の開発計画案
今年度調査の結果、HNS の海面・大気拡散予測に必要なモデルが次のとおり整理された。
必要モデル 1:流動モデル(潮流や河川流)
必要モデル 2:吹送流モデル(風による流れ)
必要モデル 3:海面拡散モデル(対象物質毎の物性を考慮したモデル)
必要モデル 4:大気拡散モデル(海面からの蒸発モデル等も含む)
しかしながら、前述のとおり、流動モデルに関しては境界条件の設定方法、吹送流モデ
ルに関しては係数設定値に係る事項、海面拡散モデルに関しては各種物質の物性データの
整備、大気拡散モデルに関しては設定条件の検討など、それぞれにクリアすべき課題が存
在する。
こうした状況を踏まえ、図 6.1 に HNS 海面・大気拡散モデルの今後の開発計画案に関す
る理想的なフローを示す。
113
平成16年度
HNS海面・大気拡散予測モデル開発のための基礎調
査
○各種モデルに関する既往知見の収集・整理
○数値解析方法の考察と検証
課題事項
平成17年度
HNS海面・大気拡散予測モデルの試作
吹送流モデルの設定
東京湾を対象とした流動シミュレーション
海面・大気拡散モデルの設定
潮流4ケース:主要4分潮流(M2,S2,K1,O1)
河川流3ケース:豊水時,平水時,低水時
○流出物質の海面挙動モデル
・物質の移流,拡散,蒸発,溶解等のモデル化
※ケース数は今後の検討事項
○流出物質の大気拡散モデルの設定
・流出物質の海面挙動モデルとの結合
・大気拡散に係わる設定条件の検討
潮流+河川流
HNS物性データの整備
基本となる指定日時の流動場の設定
結 合
HNS海面・大気拡散モデルのプロトタイプの設定
=平成18年度以降=
○他海域を対象としての流動場の設定および各種モデルの設定
○各年度の課題事項への対応
○可視化方法の設定
HNS海面・大気拡散予測モデルの構築
図 6.1 HNS 海面・大気拡散モデルの今後の開発計画案に関する理想的なフロー
114
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