臨床心理学、試験問題 藤井力夫 臨床心理学後半では「内なる他者」

臨床心理学、試験問題
藤井力夫
臨床心理学後半では「内なる他者」の形成と利用をめぐって講義しました。復習問題、18問題のう
ち、この機会に自分なりにしっかりまとめておきたいと思う問題を2問、選び、解答しなさい。字数は、
各問、A4用紙1枚以内、計2枚。配点は、各50点、計100点とする。
1、「手は突き出た大脳」に対して、「眼は突き出た精神」と言われます。眼の動きや表情に、その人
の「精神」が反映されるゆえんについて、考えるところを述べなさい(10/14 資料・「マイクロサッカ
ード」、10/21 資料・「めに関する慣用句」、10/28 資料・「ミラー・ニューロンの存在」)。
2、フロイト(S. Freud)は、「精神分析」の方法を、「こころの三層構造」に求めました。「自我」に
おける「エス」と「超自我」、「エス」と「現実」との葛藤として、こころの問題をとらえることの意
義について、考えるところを述べなさい(10/14 要綱d、10/21 要綱・「フロイトにおける防衛機制」)。
3、エリクソン(E. H. Erikson)は、人間は青年期に至るまでしっかり「自我同一性(ego identity)」を
獲得すべき存在で、現代社会には、ときに「自己を見失う」危険性があることを、「同一性拡散」の問
題として整理しました。「子ども、長男、長女などとして」、「学生、受験生、職業選択の問題」、「好
きな人、恋人、結婚の問題」、「職業、視能訓練士として」、「父親、母親として」など、立ち向かう
なかでしか同一性を確保できないと思われます。どのように立ち向かってきましたか、考えるところを
述べなさい(10/14 要綱c・「同一性拡散」)。
4、「誇り」や「励まし」がその年齢に相応しい「頑張り」をつくっているものと考えられます。それ
だけに、「誇り」や「励まし」自体、その人なりのものとして年齢とともに発展させていかねばなりま
せん。こうした意味で「自分を見失わない一つの方法」(藤井)を提起しました。参考になるとすれば
どのようなところか、考えるところを述べなさい(10/21 要綱 e・「藤井の場合」)。
5、土門拳の写真・「女の子」は、「目線」のもつ意味をみごとに表現しています。わたくしたちはど
こに立とうと、この女の子の「目線」から離れることはできません。「目線」というものが、時空を越
えて存在するということを見事に言い得ています。あなたに注がれてきた「目線」、あなたが受けてき
た「目線」について、考えるところを述べなさい(10/14 要綱 a、教科書 pp.23-25)。
6、衝動性眼球運動(サッケード)は、見慣れない対象や獲物に眼を止め、最適な行動を引き出すこと
に貢献しています。現代生理学では、①「前庭動眼反射」を基礎に成立し、「上丘」で運動座標への変
換が実現されていること、②水平、垂直の「バースト・ニューロン」や、「ポーズ・ニューロン」の駆
動部位が同定されていること、③通常は「黒質網様体」でその発動が抑制されていること、④「尾状核」
や「前頭眼野」からの脱抑制によってその発動が実現されていること、などが解明されています。衝動
性眼球運動における「上丘」の役割について、考えるところを述べなさい(11/15 資料・「眼球と頭の
運動」)。
7、脳幹運動系の一つとして、衝動性眼球運動の神経機構に関する現代的な理解を学習しました。前庭動
眼反射を基礎とするサッケードの機能化が、外界への行為座標のみならず、内的な自らの行為プランの
形成に貢献しているとするのです。前庭動眼反射の神経機構を図解し、なぜそのように推論されるのか、
学んだところを論述しなさい。「尾状核から黒質網様部への脱抑制」の問題に着目するとまとめやすい
でしょう(10/28 要綱・「他者のこころ」へのサッカード、同・1歳半児の背景)。
8、近年、見ているだけで、他人の意図を映し出す脳部位の存在が注目をあびています(ミラー・ニュ
ーロン)。人間でいえば、動詞発語に関係する脳部位(44 野)が見ているだけで「動作」に反応し、「何
をやろうとしているか」、他者の意図を把持することになっているというのです。「ミラー・ニューロ
ン」の存在をめぐって、考えるところを述べなさい(10/28 資料・「ミラー・ニューロンの存在)。
9、見ているだけで、他者の「動作」に反応する脳部位の存在は、歩き始めの子どもにおけることばの
獲得の様子を理解する上で参考になります。大人と一緒に見ていて(「共同注視」)、見つけたものに
「指さし」しながら、大人の方に「見返る」(「参照的注視」)、眼の動きがそれです。「共同注視」
時の「参照的注視」の意義について、考えるところを述べなさい(10/28 要綱・「指さしの開始はすべ
ての始まり」)。
10、
教科書では、
両眼視機能の成立を、
眼における
「向かう力」の誕生として論じていました(pp.66-72)。
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この誕生は、原始反射の減弱から寝返りに必要な頸性立ち直り反射に至る過程でもありました。両眼視
機能の成立を「対向的な志向」の誕生として捉える意義について、考えるところを述べなさい(教科書
pp.66-72、11/11 要綱・体軸形成、藤井・「乳幼児視力発達連関表))。
11、衝動性眼球運動時の「前頭眼野」や「上丘」の役割について勉強しました。目に入った「対向座
標」を「行為座標」に変換するにあたっての「身体軸」の形成の問題です。3歳児の「見立て遊び」、
たとえばハンガーをスキー板に見立てて遊ぶなどは、2歳児における砂場などで立ったり座ったりする
ことによる足腰の増強が貢献しています。砂場遊びなどでの感覚運動あそびがその後の「見立て遊び」
に繋がることの意義について、考えるところを述べなさい(11/4 要綱・「解読に向けての出発点、まる
を描けるということ」)。
12、なんでもかんでも反応していたのではたいへんです。サッケードも、自分のペースを乱されては、
混乱します。「聞き」、「聞き返す」は、自分なりに整理するための一つの方法です。4歳児、絵本を
読んでもらっていて、「どうして○○○なの」と聞き返すのは、既知との照らし合わせですし、自分な
りの「組み込み」です。それゆえ、ここでは「他者の気持ち」のみならず、自分ならこうするというよ
うに、「内なる他者」を形成することに貢献しています。「聞き」、「聞き返す」の意義について、考
えるところを述べなさい(11/11 要綱・「黙っておれない3歳児、ことばで組み込むということ」)。
13、「自閉症」の子どもたちはことばでの表現が苦手です。逆に、目で見た場面の印象は強く脳裏に
焼き付けられるようです。それゆえ、目で見た印象をことばで整理することが不得手となってしまう傾
向があるようです。たとえば、出かける当人なのに、「いってらっしゃい」と言ってしまうという現象
が生じてしまいます。これが、どうして「内なる他者」の形成を妨害することになるのか、考えるとこ
ろを述べなさい(教科書 pp.205-219)。
14、「統合失調症」の患者さんに「幻覚」や「幻聴」の症状が現れることがあります。なんらかの理
由である場面や印象がその人のこころを圧迫し、「内なる他者」がこころに収まりきらず、外に飛び出
し自分を攻撃してくるという関係になってしまったものと考えられます。「内なる他者」が飛び出し、
自分を攻撃してくるということがありうるということについて、考えるところを述べなさい(教科書
pp.221-233、11/18 要綱d・「何が大事か、精神疾患患者にみる REM 睡眠の特徴」)。
15、日本の ATR 研究所で、第一次視覚野に投影され映像を再現することに成功したことを紹介しまし
た。一次野以降の役割は、「眼位円柱」や「方位円柱」の存在を基礎に「向き」の解析にあることが、
強調されています。「向き」の解読が、たとえば、書字ではその筆順の習得を可能にしていると考えら
れます。「の」は描けても、「め」を描くことが難しいとされる子どもの事例について、考えるところ
を述べなさい(11/4 要綱c、同資料・「脳活動のデコーディング」、12/2 資料・「かな文字に潜む運筆
方略と呼吸の位相」)。
16、人生には無意識の時間が3分の1あり、なかでも急速眼球運動の REM 睡眠の時期がとても重要
だとされています。胎児期後半は、ほとんど REM 睡眠の状態で、誕生に向けての感覚・運動機能の練
習をしていたとされていますし、誕生後は、REM 睡眠での夢が、明日に向けてのさわやかな「目覚め」、
対人関係などのストレスを開放し自分を取り戻すことに貢献しているものと理解されています。急速眼
球運動に乗せた REM 睡眠期の夢の役割について、考えるところを述べなさい(11/18 要綱・「人生の1
/3は無意識の世界」、「朝方になるほど長くなる REM 睡眠」)。
17、教科書では、「見つめる」機能の発達は、外界のみならず、「自己」をも見つめる器官として発
達するということを展開していました。「内なる他者」の形成がそれです。これによると、「内なる他
者」の形成は、現代社会ではさらにこれ自体をも自分で励ますことが重要だしています。あなた自身は
「内なる他者」をどのように励ましていますか。教科書 263 頁、図 6-2 の D と E の違いに着目して、考
えているところを論述しなさい(11/11 要綱・「聞き返し、問い返しによる組み込み」、「それでも、
やっぱりの問い直し」、教科書 pp.205-271)。
18、視覚障害の人たちにおける点字読み取りの方法について勉強しました。縦3点、横2列の関係に
おける能動的な触知覚や、「分かち書き」での触読変換・文生成がそれです。ここでの能動性は、「継
ぎ3点」に対する予知的な「向き」予測にあるものと考えられます。眼は見えなくとも、一次視覚野以
降でなされる「向き」の分析が、能動的に利用されていると言えます。いくつか「点字」を図示し、点
字触読の優位性について説明しなさい。あわせて、眼を瞑って「向き」を想い描けることの意義につい
て、あなたの考えるところを述べなさい(12/2 資料・「点字読み取りにみる継時処理」、「分かち書き
での文生成」)。
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