2011年度 プログラム活動 A. 多文化間の知的対話の促進 21 世紀に入り、より複雑化してきた諸課題を見据え、異なる文化・社会的背景や、研究者、 ジャーナリスト、NGO/NPO のリーダー、作家、芸術家といった細分化された専門を超え、人 文・社会・自然科学の諸分野をつなぐような思索と対話の場を創出し、領域横断的で重層的な 知的ネットワークの形成をはかる。 1. アジア・リーダーシップ・フェロー・プログラム (ALFP) 1996 年度以来、国際交流基金との共催事業として実施してきたアジア・リーダーシップ・フェロー・ プログラム(ALFP)は、2011 年度で 16 年目を迎えた。ALFP では、毎年アジア各国から 6~7 名のパ ブリック・インテレクチュアルを選抜し、フェローとして 2 カ月間日本に招聘している。滞日中、フェローた ちは、会館で寝食を共にしながら、アジア地域や世界に共通する諸課題について議論する知的共同 作業に参加する。このような知的対話を通じて、ALFP は、地域内ならびにトランスナショナルな理解と 協力を促進し、アジアのパブリック・インテレクチュアルおよび日本のカウンターパートとの緊密なネット ワーク構築をめざしている。2011 年度の 7 名のフェローを加え、現在までに、学界、ジャーナリズム、出 版、法律、教育、芸術、NGO(非政府組織)そして非営利活動など、さまざまな専門領域のフェロー95 名が選ばれている。 2011 年度は、「Asia in Dialogue: Visions and Actions for a Humane Society」という共通テー マのもと、フェローたちは 9 月 12 日から 11 月 11 日まで主として会館に滞在し、日本を拠点とする学 者、ジャーナリスト、芸術家、NGO/NPO リーダーたちとのワークショップ、リソース・セミナー、フィール ド・トリップやリトリート会議に参加した。2 カ月間のプログラムの最後には「Beyond Conflict and Disaster: The Role of Civil Society in Asia(対立や災害を超えて:アジアにおける市民社会の役 割)」(11 月 8 日)と題した公開シンポジウムを開催し、共同作業の成果を発表した。 2011 年度に来日した 7 名のフェローと 2 カ月間のプログラムは以下の通りである。 イミティアズ・グル/安全保障研究センター 常務理事・創設者(パキスタン) 今井 千尋/元・在アフガニスタン日本国大使館 一等書記官(日本) ミリアム・サラファスティ・ナインゴラン/プリ財団(トラウマ回復・心理社会的エンパワーメント・センタ ー) 理事長(インドネシア) ジハーン・ペレーラ/ナショナル・ピース・カウンシル 常務理事(スリランカ) エルマー・サイレ/WAND(水・農林業・栄養および開発)財団 顧問(フィリピン) ヴォン・タン・フオン/ベトナム教育科学研究所情報センター ディレクター・首席研究員(ベトナム) 张雅莉 ザン・ヤリ/国際連合政治局 リサーチ・アシスタント(中国) 2. 牛場記念フェローシップ 牛場信彦記念財団の残余財産の寄贈により実施されている本プログラムは、21 世紀の今日、世界 に今なお残るさまざまな分断状況を乗り越え、ヒューマニズム的視点から問題提起をしている外国の傑 出した知識人を招聘し、内外の有識者間の対話促進を目的とする事業である。2011 年度はフェロー の招聘はなかった。 3. 日印交流事業 国際文化会館では、創立当初よりさまざまな形の日印交流を行ってきた。著しい経済成長を遂げる インドが、世界の中でますます存在感を増しており、IT 大国、台頭する中間層、その一方で拡大を続 ける格差――など、インドを語るキーワードも溢れている。しかし多くの日本人にとって、インドは近くて遠 い国、親しみはあるが実態がよくわからない国にとどまっている。インド進出を果たしながらも、文化的 な壁にぶつかって苦労をしている日本企業も数多くあり、その逆もまたしかりである。こうした問題意識 に基づき、国際文化会館と国際交流基金は共同で、日印平和条約の締結から 60 周年を迎える 2012 年を好機ととらえ、日印両国が主軸となり、アジア・太平洋の安定と平和を築くための 対話の「場」を創造することとなった。2011 年度は、2012 年度から新たに開始する人物交流 事業に先立ち、12 月に、新しい日印の交流のあり方を考えるワークショップ(非公開)なら びに 2 つの公開シンポジウム(「アジア・ルネサンス-渋沢栄一、J・N・タタ、岡倉天心、 タゴールに学ぶ」および「日印からみる新しいアジア」)を実施した。 B. 交流の主体となる人材の発掘と育成 創造的な知的対話を行うためには、自己の社会や文化の基盤の上に立ち、広い視野と総合 性、人類史的な視点を身につけた主体的な対話能力を持つ人材が必要である。こうした人材の 発掘と育成に資する、効果的で地道なプログラムを行う。 1. 教育プログラム (1) 新渡戸国際塾 新渡戸国際塾は、企業、非営利団体、官公庁、研究機関などの若手職員を対象に、国内外の国際的 な現場で活躍できる人材の育成を目的に開催され、2011 年 12 月に第四期を終了した。塾長は明石康 (国際文化会館 理事長)、塾頭には平野健一郎氏(アジア歴史資料センター長)を迎え、第四期は 2011 年の 6 月から 12 月まで、全 11 回の講義を行った。本塾は主として週末に開催され、各回の構成は、講 義と質疑応答(90 分)、ならびに講師と塾生との自由討論(140 分)となっている。12 回中 7 回は公開講 演とし、各回多くの一般参加があった。 塾生は、書類選考(願書・小論文)および面接により選考され、企業(金融、メーカーなど)、国際交流・ 協力団体、政府機関などから中堅 16 名(平均年齢 33 歳)が集まった。塾生は、国際文化会館での講義 の他に、渋沢史料館や盛岡スタディツアーにも参加した。 なお本プログラムには、公益財団法人渋沢栄一記念財団、財団法人 MRA ハウスの助成をいただい た。 (2) English Communication Seminar for Global Leaders 企業や官公庁、研究機関などで国際業務に携わる人、また国際業務を志す人を対象に、英語による 高度なコミュニケーションの技術を養成する講座。セミナー参加者は、国際的に活躍するリーダーとのラウ ンドテーブル・ディスカッションと、そのための訓練を通じて、英語でリーダーシップを発揮するために必要 なスキル(ディスカッションのファシリテーション、効果的な質問、講師紹介、簡潔かつ中身の濃い自己紹 介など)を身につける。1 回のシリーズは全 5 回のセミナー(ディスカッションの練習 3 回、特別講師とのラ ウンドテーブル・ディスカッション、DVD を使った評価セッション)で構成されている。 本セミナーのコーディネーター兼講師は、NPO 法人「異文化教育研究所」代表、ジョセフ・ショールズ 氏で、2011 年度は、岡部徹氏(NHK 解説委員)を特別講師にお招きして開催した(2012 年 2 月 14、17、 22、25、29 日)。6~7 月には、新渡戸国際塾塾生を対象に、「国際コミュニケーションへの道」と題し、本 セミナーを実施した。(2011 年度より、セミナー名を「グローバル・リーダーズ・セミナー」から改称。) (3) 芸術家のためのグラント・ライティング・セミナー 主としてアメリカでの芸術活動を希望する日本人芸術家が助成金(グラント)を申請する際の申請書の 書き方や、申請時の留意事項について紹介するセミナーを行った。応募書類に多く見られる失敗や成功 例を交えながら、現役の海外助成財団関係者が指導し、模擬申請書類の添削も行った。また、芸術家が 海外で活動する際のポピュラーな形態である AIR(アーティスト・イン・レジデンス)を運営するアートスペー スの代表に、自分に適した AIR の探し方や、海外での AIR の現状についてお聞きした。 2. 諸外国団体との協力プログラム (1) 日米芸術家交換プログラム(日米友好基金 他) 米国の芸術家 5 名が来日し、各々約 5 カ月の間、創作・研究活動に従事し、日本の芸術家との交流を深め る プログ ラム で 、日 米 友 好 基 金 ( Japan - United States Friendship Commission ) と 全 米 芸 術 基 金 (National Endowment for the Arts)の共催で行われている。会館では専門スタッフが来日時のオリエンテ ーションや住居の斡旋、日本人芸術家や関連団体などへの紹介、情報の提供や通訳など、滞日中の活動全 般にわたるサポートを行っている。本プログラムにより 2011 年度のフェローに選出されたのは以下のアーティス トである。 グレッグ・ハーベク Greg Hrbek/作家 (2012 年 4 月~) ジェーン・ラキー Jane Lackey/美術作家 (2011 年 4 月~8 月) メアリー・ルシエー Mary Lucier/ビデオアーティスト (2011 年 3 月~8 月) ミッシェル・ナガイ Michelle Nagai/作曲家 (2011 年 10 月~3 月) シェイ・ヤングブラッド Shay Youngblood/作家、ビジュアルアーティスト (2012 年 3 月~) 来日している米国人芸術家の活動や、彼らと日本人芸術家がコラボレーションする際の発表の場とし て、不定期に「IHJ アーティスト・フォーラム(略称 AF)」(助成:日米友好基金)を行っている。2011 年度 は以下の通り、1 回のフォーラムを開催した。 日にち 7月8日 タイトル 円形の痕跡 スピーカー ジェーン・ラキー/ビジュアル・ア ーティスト、トーマス・レン/インテリ ア・デザイナー (2) 日米国際金融シンポジウム(ハーバード・ロースクール) 国際文化会館は、ハーバード・ロースクール国際金融システム・プログラム(PIFS)との共催により、日米国 際金融シンポジウム「21 世紀金融システムの構築:日本と米国にとっての課題」を開催している。シンポジウム は、毎年日米交互で開催され、日米両国の政府高官、政治家、金融機関幹部、法律家、コンサルタント、研究 者、メディア代表者など 100 名以上が参加して、2 日間にわたって国際金融システムの機能と安定化にかかわ る問題についてオフレコの討議を行う。 2011 年 11 月 4 日より 6 日までハーバード大学(マサチューセッツ州ケンブリッジ)で開催された第 14 回シ ンポジウムには、日米から約 130 名が参加して、3 つのテーマ、1.「公的債務の累積と金融セクター」、2.「シ ステミックな安定のためのミクロ・プルデンシャル措置―バーゼル III とGSIFI規制」、3.「インフレかデフレか― 地質学及び地政学上のリスクとマクロ政策」、について討議が行われた。 C. 知的交流に関する情報発信と社会貢献 知的交流の成果の共有は、複眼的、重層的な知的対話を成立させ、国際理解を進める基盤 になる。地球社会が取り組むべき課題に対する日本の知的貢献を発信する役割を充実させ、信 頼できる情報の発信とコミュニケーションを促進する、独自性のある事業を行う。 1. アイハウス・パブリック・プログラム (1) アイハウス・アカデミー 各界各分野で主導的な役割を果たし、「21 世紀の叡智」と目される有識者をお招きし、公開講演会を 開催するプログラムで、2011 年度は以下の通り、1 回の講演会を開催した。 日にち 2012 年 1 月 19 日 テーマ 講師 石川 九楊/書家、京都精華大学教 授 司会:ミラー和空/翻訳者、ラピスワ ークス・ディレクター 書とは何か? (2) アイハウス・ランチタイム・レクチャー 広く一般の方々を対象として、第一線で活躍中のさまざまな分野の専門家をお招きし、タイムリーなテ ーマについてお話しいただく時事講演会で、2011 年度は以下の通り、5 回の講演会を開催した。 日にち 4 月 22 日 テーマ 講師 ソマリア沖・アデン湾における海賊問題の 現状と課題 中畑 康樹/防衛省統合幕僚監部、 第 3 次派遣海賊対処 指揮官 コメンテーター:上野 英詞/財団法 人 海洋政策研究財団 調査役 5 月 26 日 宿命の越境者 イサム・ノグチ 7月6日 中東変動の現状と行方 ドウス 昌代/作家 (IHJ Bulletin, Vol. 31, No. 2, 2011、 『国際文化会館会報』Vol. 22、No.2、 2011 に掲載) 山内 昌之/東京大学 教授・中東 調査会 常任理事(IHJ Bulletin, Vol. 31, No. 2, 2011、『国際文化会館会 報』Vol. 22、No.2、2011 に掲載) 10 月 19 日 1 月 26 日 湾岸諸国を過ぎ去った「アラブの春」 河井 明夫/財団法人 中東調査会 研究員 紛争後、平和はどう築かれるのか 長谷川 祐弘/法政大学 教授、元 国連事務総長東ティモール特別代 表 (3) japan@ihj 「日本理解の増進」を共通項に、情報交換・発信および国境・職業・分野を超えた相互交流の場となる フォーラムで、会館がこれまで築いてきた、アカデミズム、ジャーナリズム、アート、ビジネスなどにおける内 外の専門家の協力をもとに実施している。いずれの講演も、基本的には通訳をつけずに英語で行うことが 特徴となっている。2011 年度は以下の通り、7 回の講演会を開催した。 日時 テーマ 4月6日 写真家 石元泰博と戦後日本モダニズ ム芸術:『桂』を中心に 5 月 18 日 朝鮮半島情勢の安定化と米日韓によ る三カ国協力 7月5日 ビッグ・フォー以前のオートバイ業界: 戦後日本における競争と産業政策 (1945-1970) 7 月 20 日 刊行から 100 年『遠野物語』が問いか けるもの 9 月 28 日 新しい日本の建築:近年の作品と新し い潮流 2012 年 1 月 17 日 君臨する企業の法則:日本への教訓 2012 年 3 月 23 日 太平洋の架け橋:日米野球交流と文 化外交 講師 石元 泰博/写真家 聞き手:中森 康文/米国ヒューストン美 術館写真部門 キュレーター ピーター・ベック/外交問題評議会 (CFR)/日立フェロー 司会:添谷 芳秀/慶應義塾大学教授 ジェフリー・W・アレクサンダー/ウィスコ ンシン大学パークサイド校 准教授 司会:藤本 隆宏/東京大学大学院経 済学研究科 教授 ロナルド・A・モース/アナポリス・インタ ーナショナル CEO 司会:上杉 富之/成城大学 教授、民 俗学研究所グローカル研究センター長 (IHJ Bulletin, Vol. 31, No. 2, 2011、『国 際文化会館会報』Vol. 22、No. 2、2011 に掲載) ギータ・メータ/コロンビア大学 非常勤 教授、ディアナ・マクドナルド/美術史 家・建築史家 司会: 鈴木エドワード/建築家 マイケル ・A・クスマノ/マサチューセッ ツ工科大学スローン経営大学院 教授 司会:西口 敏宏/一橋大学 教授 清水 さゆり/ミシガン州立大学 教授 司会: ロバート・ホワイティング/ジャー ナリスト (4) その他 A) 「世界の原発政策を捉える」 3.11 東日本大震災が、日本の原子力発電政策の大幅な再検討を迫り、短期のエネルギー需給の問 題に加えて、中長期的なエネルギー政策、環境政策にも大きな問題を提起したことを背景に、本プログラ ムでは、内外の原子力政策の専門家を招き、世界の原発政策について学び、これからの日本の原子力 政策について考えるきっかけをつくった。 「福島原発事故の影響~原発事故に国境なし」 (6 月 16 日) 講師: 遠藤 哲也/元 IAEA 理事会 議長、元原子力委員会 委員長代理 司会: 明石 康/国際文化会館 理事長 「世界の原発政策の動向」 (6 月 17 日) パネリスト: 李志東/長岡科学技術大学 教授、 コルディエ・ピエール=イヴ/フランス大使館 原子力参事官 鈴木 達治郎/原子力委員会 委員長代理 E・ブルース・ハワード/米国大使館 科学・環境・医療担当参事官 司会: 植田 和弘/京都大学 教授 B) 「IHJ 日本理解セミナー:現代日本の課題と展望:文化的未来を模索して」 (8 月 27 日~28 日) 日本は未曾有の被害をもたらした東日本大震災を経験し、大きな岐路に立たされている。かつてより日 本は、よき文化的伝統の喪失、少子高齢化、内向き志向、リーダーシップの欠如など、さまざまな問題を 抱えており、この危機的状況に加え、世界は日本がこうした課題をどう克服し、次世代のための未来を描 くことができるのか注目している。本プログラムでは、こうしたアジェンダを再考し、日本がいかにグローバ ル社会の中で生き残っていくかを展望する議論の場を創出した。 2、3 年の在日経験をもつ海外からの方や、現代日本についての情報を英語で発信する必要性を感じ ている、中堅の社会人を対象に実施し、主として港区内の大使館の担当官を中心に全体で十数名の参 加があった。2 日間の講師陣と講演テーマは以下の通りである。 8 月 27 日 イントロダクション・セッション 全体モデレーター: 渡辺 靖/慶應義塾大学 教授 セッション1:“失われた日本” 再考 講師: アレックス・カー/作家 セッション2: 日本の 「内向き志向・閉鎖性」の打開 講師: グレン・S・フクシマ/エアバス・ジャパン株式会社 取締役会長 セッション3: リーダーシップについて 講師:田中 均 /株式会社日本総合研究所国際戦略研究所 理事長 夕食懇談: オベントウと日本の食文化 講師:安藤 エリザベス/食文化ジャーナリスト 8 月 28 日 禅体験プログラム@青松寺 講師:喜美候部 宗一/青松寺 住職 セッション4: 人口変動問題の検証 講師: 橘木 俊詔/同志社大学経済学部 教授 セッション5: 日本の文化的未来を模索する 講師: 近藤 誠一/文化庁 長官 総括セッション モデレーター:渡辺 靖/慶應義塾大学 教授 協力:青松寺 C) 「日本英語の勧め」(2012 年 2 月 8 日) 日本人の英語力の低さが指摘され, 教育やビジネスの現場などでさまざまな措置が取られてきたが、 いまだに日本人の英語力が向上したという話は聞こえてない。こうした背景に鑑み、本プログラムでは、日 常的に、第一あるいは第二外国語としての英語を駆使しながら仕事をしている方々をお招きし、グローバ ル社会の一員としての良識の鍛錬やそれぞれの専門性に重きを置きながら、自分らしい英語を話すこと の重要性について考えた。 パネリスト: ウルス・ブーヘル/駐日スイス大使館 特命全権大使 黒川 清/政策研究大学院大学 教授 チェルシー・リード/群馬県立高崎女子高等学校 外国語指導助手 ジョセフ・ショールズ/NPO 法人「異文化教育研究所」代表 ステファン・ラウルス・ステファンソン/駐日アイスランド共和国大使館 特命全権大使 D) 「核の不拡散と原子力問題を再考する」(2012 年 3 月 28 日) 2011 年 3 月 11 日に東日本を襲った地震と津波後の福島原発の事故は、日本やドイツのみならず他の 国々においても原子力の平和利用に疑問を投げかけた。本プログラムでは、核利用をめぐる脆弱性に対 しての核の不拡散体制の強化やクリーン・エネルギー創出というグローバル・アジェンダを取り上げ、ポスト 3・11 における核兵器や原子力をめぐる未来について再考した。 共催:オーストラリア国立大学 基調講演: ギャレス・エヴァンス/オーストラリア国立大学 学長 「核の不拡散と原子力問題を再考する」 パネリスト: 阿部 信泰/日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター 所長 「危機に瀕する核不拡散体制」 吉田 文彦/朝日新聞論説委員 「3.11 後の日本の原子力政策」 2. 出 版 (1) 公益信託長銀国際ライブラリー この事業は、2000 年 7 月に設定された「公益信託長銀国際ライブラリー基金」(前身である長銀国際ラ イブラリー財団の残余財産を基金として事業を継承)の事業である。政治・経済・社会・文化などの日本人 著作を毎年 2 冊選定し、英訳・刊行し、広く内外に配布し、国際社会の中での日本理解の増進に資する ことを目的としている。 2012 年 3 月から 5 月にかけて、以下 2 冊の英語翻訳版を刊行し、内外の大学図書館、研究機関、公 共図書館、文化施設など、海外 2,800 カ所、国内 700 カ所への無償配布の実施を予定している。 渡辺浩著 『日本政治思想史 十七~十九世紀』 (東京大学出版会、2010 年刊)の英語版 A History of Japanese Political Thought, 1600–1901 by Watanabe Hiroshi 翻訳者:David Noble 開米潤著 『松本重治伝:最後のリベラリスト』 (藤原書店、2009 年刊)の英語版 Matsumoto Shigeharu: Bearing Witness by Kaimai Jun 改編・翻訳者:Waku Miller 次の 2 冊が、2011 年度英語翻訳版刊行事業の対象として選定され、2012 年度末までに刊行・配布の 予定である。 田中優子著 『布のちから:江戸から現在へ』 (朝日新聞出版、2010 年刊)の英語版 The Cultural History of Japanese Cloth [tentative] by Tanaka Yūko 翻訳者:Geraldine Harcourt 若松英輔著『井筒俊彦:叡智の哲学』(慶應義塾大学出版会、2011 年刊)の英語版 Izutsu Toshihiko: In Search of Wisdom [tentative] by Wakamatsu Eisuke 翻訳者:Jean Connell Hoff (2) アイハウス・プレス 2006 年より実施しているアイハウス・プレスは、出版メディアを通して、国際文化会館のプログラム活動 の成果を公益性を高めるために一般に発信する活動と、海外における日本理解の増進を目的として日本 人による名著を英訳刊行し発信する活動、とを基本として実施している。 2011 年度は、以下の 3 冊を刊行した。 国際文化会館新渡戸国際塾編 『グローバル化とリーダーシップ』 The Sino-Japanese War and the Birth of Japanese Nationalism by Saya Makito (佐谷真木人著『日清戦争:「国民」の誕生』 の英語版) 翻訳者:David Noble Taction: The Drama of the Stylus in Oriental Calligraphy by Ishikawa Kyuyoh (石川九楊著『書:筆蝕の宇宙を読み解く』の英語版)翻訳者:Waku Miller (3) 定期・不定期刊行物 各年度の事業内容をまとめた年次報告書(『国際文化会館の歩み』、Annual Report)と、講演録などを 掲載し会館の動きを伝える機関誌(『国際文化会館会報』、IHJ Bulletin、年 2 回刊)を刊行し、会員に発 送した。2011 年度の刊行物は、以下の通りである。 A) 英文年次報告書 Annual Report 56 (2010 年度事業報告、8 月発行) B) 和文年次報告書 『国際文化会館の歩み 55』 (2010 年度事業報告、8 月発行) C) IHJ Bulletin (“ ”内は主な掲載記事) Vol. 31, No. 1(6 月発行) “The Future of Power” Joseph S. Nye, Jr. “How Can Culture Become Soft Power?” Kondō Seiichi “Cities of China in Rapid Transitions” Ishikawa Mikiko “Interpreting Japan’s Mid-Century Modernity: Imperial Japan at its Zenith” Kenneth Ruoff “Future of Japan” Andō Tadao Interview: “Go Abroad, Young People of Japan!” Eric J. Gangloff “The Future of Graduate Schools of Law in Japan” Fujikura Kōichirō Vol. 31, No. 2(12 月発行) “Is There Life after Democracy?” Arundhati Roy “The Life of Isamu Noguchi:Journey without Borders” Masayo Duus “Change in the Middle East and Future Prospects” Yamauchi Masayuki “Yanagita Kunio’s The Legend of Tono: Historical Relevance” Ronald A.Morse Interview: “Inward Focus Makes Japan a Poor Communicator” Mikuriya Takashi D) 『国際文化会館会報』(「 」内は主な掲載記事) Vol. 22, No. 1(6 月発行) 「パワーの将来」 ジョセフ・S・ナイ・ジュニア 「文化は如何にしてソフト・パワーとなりうるか?」 近藤 誠一 「激動する中国の地方都市」 石川 幹子 「戦時期の近代性:絶頂期の帝国日本をめぐって」 ケネス・ルオフ 「これからの日本を考える」 安藤 忠雄 「日本の若者よ、海外をめざせ」 インタビュー:エリック・ガングロッフ 「どうなる日本の法科大学院」 藤倉 皓一郎 Vol. 22, No. 2(12 月発行) 「民主主義のあとに生き残るものは?」 アルンダティ・ロイ 「宿命の越境者イサム・ノグチ」 ドウス 昌代 「中東変動の現状と行方」 山内 昌之 「刊行から 100 年:『遠野物語』が問いかけるもの」 ロナルド・A・モース 「内向き志向が日本の対外発信力を弱める」 インタビュー:御厨 貴 E) Rethinking Global Challenges: Asian Intellectuals in Dialogue (Asia Leadership Fellow Program 2010 Program Report, February 2012) D. 調査研究プロジェクト 1. 外交問題夕食懇談会 本懇談会では外交問題に関心の深い方々にご参加いただき、毎回ゲストを迎え、よりインフォーマルな 雰囲気の中で、オフレコでお話しいただいている。調査研究プロジェクトとして試験的に行い、得られた成 果を他のプログラムの参考にするため、参加者は職種や専門を超えて、学者・研究者、外交実務経験者、 NPO・シンクタンク関係者、メディア関係者、経済人など、異なる分野から少人数に限定している。使用言 語は日本語または英語で、いずれも通訳はつけずに行っている。 2011 年度は以下の通り、5 回の懇談会を開催した。 第 10 回: ケネス・ロス/ヒューマン・ライツ・ウォッチ代表(7 月 6 日) 第 11 回: ハンス・シュヴァイスグート/駐日 EU 代表部 大使(9 月 15 日) 第 12 回: 田中 信明/前駐トルコ日本大使(11 月 24 日) 第 13 回: 佐々江 賢一郎/外務省 事務次官(2012 年 1 月 30 日) 第 14 回: 程永華/駐日中国大使(2012 年 3 月 6 日) E. その他 1. 他団体との連携 (1) ジャパン・ソサエティ 日米プログラムの活性化ならびに会館とジャパン・ソサエティ(ニューヨーク)との連携強化のため、 2008 年 4 月より、双方にリエゾンデスクを開設した。具体的には、共催プログラムの開催や、互いの活動 の広報協力を行っている。 (2) 日米友好基金 日米友好基金および同基金の関連団体である、日米交流財団の定期的な日本訪問の際の協力を行 った。 F. 図書室 1. 第二回日本専門家ワークショップ「現代日本の文化・社会へのアクセス」 本事業は国際文化会館と将来の日本研究界を担う優秀な日本専門家とのネットワークを強化することを目 的として開催した。有識者からなる選考委員会が選考した 10 名の日本専門家(若手日本研究者 5 名、図書館 員などの日本情報専門家 5 名)が、2012 年 2 月 14 日から 2 月 22 日まで会館に滞在した。滞在中情報探索 技術や最新の情報源について講義を受け、その後様々な図書館・資料館・研究機関などにて各自調査を行 った。そして、これらのワークショップの成果を広く人々と共有することを目的として実地調査成果報告会を開 催した。 招聘者 日本研究者 レーナ・エーロライネン/ヘルシンキ大学 Ph.D.(フィンランド) アグネセ・ハイジマ/ラトビア大学 准教授(ラトビア) エカテリーナ・レベデヴァ/ロシア極東国立人文大学 専任講師(ロシア) ダヴィッド・メルヴァルト/ハイデルベルグ大学 准教授(ドイツ) カタジーナ・アンア・ソンネンベルグ/ヤギェウォ大学 専任講師(ポーランド) 日本情報専門家 アン・ヘギョン/国立中央図書館 古書専門員(韓国) 安里 のり子/ハワイ大学 准教授(米国) アントニー・ブスマール/フランス国立極東学院 図書館副館長(フランス) 八田 綾子/モナシュ大学 日本研究司書(オーストラリア) 鈴木 紗江子/ワシントン大学東アジア図書館 タテウチ日本語貴重書遡及入力事業カタロガー (米国) 2. 通常業務 (1) 図書室サービス 2000-2011 2011 年度は東日本大震災の影響を受け来日者数が急減し、図書室もその影響を受け前年度と比較 すると来館者が減少した。しかし、その一方で資料の貸出やレファレンスは若干増加している。来館者は 減少しても資料やレファレンスの需要は通常以上の需要があったと言える。 (2) 蔵書管理 2000-2011 蔵書管理においては、2007 年度以降滞架図書が発生しないよう目録作業管理を徹底した。また、古 い参考図書等の除籍も開始した。2011 年度は、2010 年度に実施した蔵書点検によって判明した未登録 図書他の処理作業を行った。また将来的には図書館システム LIMEDIO による蔵書の一元管理を目指 しており、2011 年度は雑誌管理を LIMEDIO へ移行する準備作業を行った。
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