対流熱損失低減による空気式集熱器の集熱効率向上

関
研究論文
東
学
院
大
学
13
対流熱損失低減による空気式集熱器の集熱効率向上
Improvement of Air Solar Collector Efficiency by Reducing Convection Heat Loss
神谷
是行*1
Yoshiyuki Kamiya
Synopsis
Recently a solar photo-voltaic power generation system has been popular in use. But in
case of thermal demand being existed, combination of PV system and solar system increases
utilization factor of solar energy in limited set up area.
In this paper, in order to improve air solar collector efficiency by reducing convection heat
loss, the method to flow air to the air layer between the collecting plate and the cover grass
has been proposed. The experimental apparatus modifying an air layer of air solar collector
was manufactured and experiments were conducted. It was shown that increase of flow rates
to the air layer decreased convection heat loss. And numerical simulation of air solar
collector efficiency was conducted using experimental results. And then possibility of 20%
improvement of air solar collector efficiency was shown.
keywords;集熱効率,空気集熱器,対流熱損失,通風,シミュレーヨン
Collector efficiency, Air solar collector, Convection heat loss, Ventilation,
Simulation
1 .はじめに
地球温暖化および化石燃料枯渇の問題は,我々が早
熱との組み合わせにより太陽エネルギーの利用率を高
めることができる。しかし,熱需要の季節的な変動を
急に対処すべき問題である。そのためには,生活に対
考慮すると,集熱面積を大きくすることは不利であり,
する意識を変えるとともに,再生可能エネルギーの利
特に設置面積に制限があり太陽電池との組み合わせを
用を積極的に推進して,化石燃料の消費量を抑える必
考える場合,小面積で必要な集熱が可能な集熱効率の
要がある。
高い集熱器が必要となる。
太陽電池は太陽エネルギーを質の高い電気エネルギ
太陽熱集熱器の熱損失は,伝導損失と放射損失なら
ーに変換でき,年間を通じて利用できることから,最
びに対流損失がある。このうち,放射損失と対流損失
近集熱利用に代わり急速に普及しつつある。しかし,
が大半を占めるため,両者を抑制することにより集熱
太陽エネルギーの発電利用と集熱利用を一次エネルギ
効率を高めることができる。平板型集熱器の放射熱損
ーで比較 1 )した場合,現段階では集熱利用がはるかに
失は,受熱面に選択吸収膜を塗布することにより低減
有利であることから,熱需要が期待できる場合には集
できる。一方,対流熱損失の低減については,透明な
円筒状等の対流防止材を空気層に敷きつめる等の方法
*1
所員
機械工学科教授
がこれまでに提案 2 )された。しかし,これによって熱
Dept. of Mechanical Engineering, Kanto-Gakuin
伝導成分が増加することと太陽光の反射・吸収等で受
Univ.
熱量が減少するため,実用化には至っていない。ただ
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2 0 1 1 . 3
し,一部に真空管式 3 )では対流熱損失を効果的に低減
0:周囲または周囲側透明カバー面
させている。
1:入口
本研究では,平板形集熱器の構造を大きく変えるこ
2:出口
となく,簡単な運用変更によって集熱効率を向上させ
る方法として,集熱面と透明板との間の空気層に通風
2 .実験装置および方法
し,これを集熱の一部とすることで,対流熱損失を低
2 .1
実験装置
減する方法を提案する。そして,模型実験を行って熱
図− 1 に実験装置概要を示す。本装置は空気式集熱
移動特性を調べ,さらに,通風による実験式を用いた
器の透明板,空気層,集熱面を模擬し,長さ150mm,
シミュレーションによって集熱効率向上の可能性を検
幅100mmの加熱面,それと同じ大きさの冷却面ならび
討する。
に厚さ35mmの空気層およびその出入り口流路(長さ
記号
75mm,高さ 5 mm)からなる。
A:要素面積[m2]
c:比熱[J/(kgK)]
G:風量[kg/s]
Gr:グラスホッフ数(代表長さ:l )
h:熱伝達率[W/(m2K)]
I:日射強度[W/m2]
K:熱通過率[W/(m2K)]
l:空気層厚さ[m]
Nu:ヌセルト数
Pr:プラントル数
q:熱流束[W/m2]
Ra:レーレー数(Pr・Gr)
T:温度[K]
v:流速[m/s]
加熱面には厚さ 4 mmの銅板を用い,裏面にラバー
ヒータに密着させている。冷却面には厚さ0. 5mmのア
ルミ板を用い,その中央部に30mm×30mmの熱流束計
をはめ込み,空気漏れのないよう両者を密着させた。
加熱面および冷却面は,高さ90mm,幅160mm,長さ
300mmの断熱材(スタイロフォーム)に収めて空気層
ならびに出入り口流路を形成させ,空気層の内側各面
には放射成分をカットするために,アルミ箔を貼り付
けた。
冷却面の上に冷却装置を搭載し,その中にセパレー
タを取り付けて,冷却面上部に高さ10mm,幅120mm
の流路を形成した。冷却空気は冷却装置上部のファン
によって送風され,冷却面とセパレータとの間を通り,
装置背面から排気される。
α:吸収率
空気層出入り口流路内および空気層内(加熱面から
ε:放射率
13mmと21mmの位置)ならびに加熱面および冷却面の
η:集熱効率
温度を測定するために径0. 2mmの T 型熱電対を取り付
θ:傾斜角[ °
]
けた。また,空気層通風量を測定するために,入口部
λ:熱伝導率[W/
(mK)]
分に径16mmの開口部を設け,その中心部分に熱線風
σ:黒体放射係数[W/
(m2K4)]
τ:透過率
:空気層側風量割合
添え字
a:空気
c:冷却面
h:加熱面
in:流入または吸収
L:空気層側
out:流出
P:流路側
r:放射成分
S:天空
T:集熱面−周囲空気間
Fig. 1
Experimental apparatus
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速計を取り付けている。本実験では傾斜面での集熱を
想定しているため,装置全体を傾けθ=30°で実験を
行った。
2 .2
実験方法
ヒータおよび冷却ファンの供給電圧を一定にし,空
気層通風量を変化させて実験を行い,定常状態に達し
た後の各部の温度,冷却面熱流束を測定した。通風量
は測定した開口部風速から求め,密閉(通風なし)の
条件では,空気層出口流路を閉鎖して実験を行った。
Fig. 3
Nu vs. vin
3 .実験結果および結果の整理
3 .1
……………………………
(1)
冷却面熱流束の変化
空気層入口流路風速 vin を変化させた場合の冷却面熱
…………………………………
(2)
流束と加熱面および冷却面温度の変化を図− 2 に示す。
vin =0(密閉空気層)の場合,冷却面熱流束は110W/m2
程度を示し,加熱面温度は約85℃に達する。vin の増加
Nuはvin = 0 の場合2. 3を示すが,風量の増加とともに
減少して,約0. 5まで低下する。また,加熱密度を変化
により冷却面熱流束,加熱面温度ともに大きく低下し,
させてもNuはほとんど変化しない。本実験条件のvin =
v in =0. 4m/s 以上では冷却面熱流束は約 1 割に減少す
0 でのRa cos(θ)は67000程度であり,この条件に相当
る。また,この時加熱面温度も55℃程度まで低下する
する傾斜密閉空気層の下面加熱上面冷却熱伝達のNuは
が,冷却面温度はほとんど変化していない。
3. 5程度を示す報告 4 )がある。本研究の場合,長さ方
向が150mmと短いことと,空気層側面からの熱損失が
大きいこと等が影響し,Nuがやや小さいと考えられる。
3 .2
空気層温度変化
図− 4 に加熱面中央部の空気層内温度分布の変化を
示す。加熱面から13mmおよび21mmの位置の温度はほ
ぼ等しく,vin が小さい場合は,空気層の温度は加熱面
温度に近い。vin の増加とともに加熱面温度も低下する
が,空気層温度はさらに低下し冷却面温度に近くなる。
このことは,通風量の増加により冷却面と空気層の温
Fig. 2
Heat flux and temperature vs. vin
度差が減少し,これによって冷却面熱流束が低下する
ことを示している。
ヒータ加熱量は一定であることから,vin の増加によ
り加熱面熱伝達率は増加し,加熱面温度は低下する。
このとき,空気層からの流出熱量は増加するため,冷
却面熱流束は低下する。また,冷却空気流量は十分に
大きく一定であるため,冷却面温度はほとんど変化し
ない。
冷却面熱流速と加熱面温度ならびに冷却面温度から
式(1)より空気層熱通過率 KLを決定し,式(2)より空
気層厚さを代表長さとする Nuを求めた。図− 3 に Nuと
vin の関係を示す。
Fig. 4
Temperature distribution in air layer
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2 0 1 1 . 3
流出熱流量と hL
…………………………
(3)
図− 5 にvin を変化させた場合の空気層からの流出熱
量ならびに空気層出口温度の変化を示す。vin が0. 02m/s
…………………………………
(4)
では,出口風速が小さいため,熱損失により出口流路
…………………………………
(5)
内温度が低い値を示している。しかし,vin =0. 05m/s
では出口空気温度は一旦上昇し,それ以上では入口風
速の増加により出口空気温度は低下するが,流出熱量
は増加する傾向にある。
3 .4
熱バランス
本実験装置は集熱器の空気層部分を模したものであ
るが、加熱面積が小さいため,熱損失が大きい。そこ
空気温度として空気層出入り口空気の平均温度を用
で,これらの損失成分のバランスを考える。本実験装
い,式(3)で流出空気に対する加熱面の熱伝達率 hLを
置の熱移動は,加熱面から冷却面への対流成分および
定義した。ただし,Thは加熱面温度である。図− 6 に
放射成分ならびに通風による流出熱流の他に,熱損失
hLとvin との関係を示す。図よりhLは式(4)で近似でき
として加熱面下向きの熱伝導成分ならびに空気層側面
る。図中には,式(5)で表わされる入口速度を周囲速
からの熱伝導成分が考えられる。ここでは,加熱面下
度とした場合の平板熱伝達率の理論式 5 )を併記した。
向きの熱伝導成分を加熱面から装置裏面への一次元熱
式(4)
,
(5)ともに風速の影響はほぼ同様であるが,本
伝導の 3 倍と仮定し,ヒータ入力から各熱移動成分を
実験範囲では式(4)は式(5)の約 2 倍の大きさを示す。
差し引いて空気層側面からの熱伝導成分を計算した。
これはコアンダー効果の影響と考えられる。
図− 7 に,空気層温度と周囲温度との差 Ta−T0と空気
層熱損失との関係を示す。本実験装置は加熱面の幅
100mmに対して装置の幅が160mmと比較的小さいこと
から,側面への熱損失の割合が大きい。さらに,冷却
装置内の流路幅が120mmであることから,特に空気層
側面から冷却面流路への熱損失が大きいと考えられる。
図− 7 は若干のばらつきは存在するが,Ta−T0と熱損失
とはほぼ比例関係にあり,近似式から計算した空気層
側面の断熱材の平均厚さは約10mmである。これより,
空気層側面から冷却流路への熱移動が比較的大きいこ
とが分かる。
Fig. 5
Heat flow rate and outlet temperature vs. vin
Fig. 7
Heat loss from air layer vs.(Ta-T0)
4 .集熱シミュレーション
Fig. 6 hL vs. vin
4 .1
計算モデル
実験の結果,空気層への通風量により,冷却面への
対流熱移動量は減少することが確認できた。また,通
風により加熱面温度が低下し,空気層からの流出空気
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温度も低下するが,その分流出熱量は増加することが
明らかとなった。冷却面への対流熱移動量の減少は集
…( 9 )
熱器の対流熱損失の低下につながるが,加熱面温度の
低下は受熱面温度の低下を意味し,集熱量の減少をも
たらす。さらに,空気層出口温度の低下は集熱温度の
低下を意味する。そこで,本実験で得られた結果をも
…(10)
とに,想定する空気式集熱器の集熱シミュレーション
を行った。
…………………………(11)
図− 8 に計算モデルの概要を示す。主な集熱は集熱
面の下面流路で行われ,空気層出口空気と合わせて集
…………………………………
(12)
熱するものとした。長手方向を10分割し,集熱面温度
は各要素での分布は考えず一様として,日射吸収量,
放射損失量,対流損失量ならびに集熱面上面および下
面の空気取得熱量に関する要素での熱流束を式(6)〜
(10)で表わした。通風の場合,空気層入口ならびに流
4 .2
計算結果
空気層側への通風割合として式(13)で
を定義し
た。計算は を 0 〜0. 5まで変化させて行ったが,実験
路入口の空気温度を周囲温度とし,式(11)の熱バラ
範囲の は0. 18までであり,それ以降は Nu=0.5として
ンスから各要素の集熱面温度と出口状態を決定して,
計算している。また,実験結果は加熱部150mmに対す
これを次の要素の入口状態として計算を行った。なお,
るものであるが,本計算は対流熱損失の低減による影
空気層への通風のない従来型の場合は,式(9)を用い
響を調べることを目的としているため,集熱器長さが
ずに集熱面下面流路の熱移動のみを考えた。
長い場合についても実験結果が適用できるものとした。
計算条件は,集熱器の長さを 1 mとし,集熱面裏面
……………………………
(13)
にはフィンを取り付け,伝熱面積を 2 倍とした。また,
集熱面は選択吸収膜仕様(吸収率0. 9,放射率0. 2)を
1 )集熱効率
想定した。
図− 9 に集熱板への通風量を一定とし,
を0. 5まで
変化させた場合の集熱効率ηと集熱面平均温度の計算
結果の一例を示す。
の増加によりηは増加するが,
その割合は徐々に小さくなる。
= 0 は従来の集熱方
式を表わし,そのηは約0. 6を示す。実験範囲の
=0. 18
では,ηは約0. 73を示し,従来方式より約20%の向上が
期待できる。
Fig. 8
Simulation model
………………………………………
(6)
………………………………
(7)
………………………………
(8)
Fig. 9
η and mean collecting surface temperature
vs. (Selective surface)
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集熱板平均温度は通風により一旦上昇し,その後
2 0 1 1 . 3
たがって,
の増加により入口部分の集熱面温度は低
の増加により低下している。これは,後述のように従
下することになる。また,空気層への通風空気は加熱
来方式と通風方式の計算方法の違いによるものと考え
により徐々に温度が上昇することから集熱面温度も上
られる。
昇し,集熱面温度勾配が大きくなる。
図−10に
の変化に対する空気層側ならびに流路側
本研究では簡単化のために空気層内の流れの計算を
の出口空気温度を示す。空気層流出温度はψが小さい
行っておらず,通風の場合は入口温度に周囲温度を用
時94℃程度を示し,
いているため,集熱板温度は実際よりやや低めに計算
の増加により徐々に低下する。
が増
されることになる。また,空気層熱通過率および流出空
の増加によ
気の熱伝達率に実験式を用いているため,従来方式と
り集熱板温度が低下するためと考えられる。集熱温度
通風の場合で計算値に若干の差が生じていると考えら
は両者の混合として与えられ,
れる。さらに,空気層内での対流成分を分割した各要素
= 0 の集熱板下面流路出口温度は約60℃で,
加してもそれほど変化しない。これは,
の増加により集熱効
率と同様に上昇する。
内での熱通過として表わしているため,特に
=0の
場合の長手方向温度分布が小さめに計算されていると
考えられる。これにより,受熱面温度が低く計算され
る可能性がある。これについては改良の余地がある。
3 )集熱面放射率の影響
図−12に,集熱面を黒色ペイント塗装仕様(放射率
0. 9)とし,
を変化させた場合のηおよび集熱面平
均温度の関係を示す。図− 9 と比較すると,集熱面温
度が25℃程度低下している分集熱効率も大きく低下し,
従来方式では0. 43,
Fig. 10
Temperature vs. vin
=0. 18で0. 52程度を示している。
しかし,この上昇率は図− 9 の場合とほぼ同様であり,
集熱板の仕様にかかわらず,空気層への通風により集
熱効率を20%程度改善できると考えられる。
2 )集熱面温度分布
図−11に各
に対する集熱板の温度分布を示す。ど
の条件においても入口側から出口側にかけて温度が上
昇しているが,従来方式の場合の温度勾配が最も小さ
い。
本研究では,空気層入口流路高さ 5 mm,集熱板下
面流路高さ30mmであることから,同じ通風量でも空
気層入口流速 vin は大きく,その分 hLも大きくなる。し
Fig. 12
η and mean collecting surface temperature
vs. (Black paint surface)
5 .結論
空気式集熱器の集熱効率向上を目的に,集熱器空気
層を模擬した実験装置を製作し,通風量を変化させて
実験を行った。本研究で得られた結論は以下のように
まとめられる。
Fig. 11 Temperature distribution on collecting plate
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1 )空気層に通風することにより,対流熱損失を抑
えられることを示し,空気層熱通過率に関する
実験式を得た。
2 )通風空気が空気層を通過する際の加熱面からの
熱伝達を定義し,それに関する実験式を得た。
3 )空気層へ通風する集熱器の集熱シミュレーショ
ンを行い,従来方式に比べて約20%の集熱効率
向上の可能性を示した。
参考資料
1 )神谷是行:太陽エネルギー,Vol. 35,No. 2,2009,
PP. 33−38
2 )新太陽エネルギー利用ハンドブック,日本太陽エ
ネルギー学会(2000),144
3 )新太陽エネルギー利用ハンドブック,日本太陽エ
ネルギー学会(2000),406
4 )Buchberg, H., Catton, H., et al, J. of Heat Transfer,
Trans. of ASME, 98, 182(1974)
5 )甲藤好郎:伝熱概論,養賢堂(1981)65
(2011年 1 月20日受理)
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