アウトソーシング

IT アウトソーシングを始める
-
プロジェクトマネジャーの立場から
-
増田 一成*
In beginning IT outsourcing
- For a project manager -
Kazunari Masuda*
IT アウトソーシングは IT サービスの中でも主要となり,ますます多様化・成長が著しい.しかし担当して
いてもその本質を理解しない人も多くいる. IT アウトソーシングの基本的や考え方を考察し本質を理解して
もらうために本論文を記述した.あわせて成功するための要因を上げたので参考にしていただきたい.
Also in IT service, IT outsourcing becomes main and its diversification and growth are more remarkable still.
However, there are some persons who do not understand the essence even if it is taking charge mostly.
This paper was described, in order to consider the basic target and view of IT outsourcing and to let you understand
essence. Since it united and the factor for succeeding was raised, I would like you to make it reference.
Key Words & Phrases :アウトソーシング,原価,要員,資産,サービス品目
outsourcing , cost price, personnel, property, service items
部をアウトソーサーに長期の契約を持って継続
的に委託することと言える.
アウトソーシングの初期においては前述した
EDS 社の運用受託が嚆矢であり,現在でもほと
んどのケースでは運用が中心である.
次に保守サービスが 1970 年代,情報子会社の
設立とともに拡がっていった.
これに反し大規模システム構築は同じく外部
リソースを利用するがアウトソーシングの範疇
ではなく SI(システムインテグレーション)と
呼ぶ.
そして基本的には長期かつ延長を前提とした
契約が多い.[2]
1.はじめに
IT アウトソーシングは 1990 年代からさかん
になり専業・メーカーなどがこのビジネスに乗
り出してきたサービスである.このビジネスを
切り開いた先駆者としては 1962 年に創業した
EDS 社があげられる.EDS 社は 40 年以上に渡
りアウトソーシング・サービスに取り組んでお
り,業界では No.1 の存在となっている.
90 年代から 2000 年代前半にかけては大企業
を中心に規模の拡大と成長が著しかったこのビ
ジネスも 2000 年代後半からは多様化と中堅企
業へと変わりつつある.これは過去の IT 化と同
様の進展である.2008 年にはわが国において
23,300 億円市場なろうと予測されている.また,
ガートナー社の予測では 2007 年の IT サービス
市場の 56%を占めるとしている.[1]
アウトソーシング・サービスの顧客は大企業
が中心であったが,これからは中小企業を取り
込まなければ成長は無い.
そこで原点に戻ってアウトソーシング・サー
ビスとは何かそしてこのビジネスを立ち上げる
にはどうすべきかといった観点からアウトソー
シング・サービスをテーマとして取り上げた.
2.IT アウトソーシング・サービスとは
2.2 計算センターサービス
1950 年代からアウトソーシングに似た計算サ
ンターサービスがあった.アウトソーシング・
サービスの一種とも言えるが,以下の点で異な
っている.
・ データを MT あるいは伝票などを多くの
場合ユーザーが計算センターに持ち込ん
だ.
・ 結果を印刷物で受け取った.
・ バッチ処理が主体だった.
・ システムを単独で持てない規模だった.
2.1 IT アウトソーシングの定義
企業における IT 運用・保守の全部もしくは一
2.3 SI(システム・インテグレーション)
AMS(アプリケーション保守サービス)の新
提出日:2006 年 8 月 31 日
*[email protected],日本 IBM インダストリアル ソリューション株式会社アウトソーシングビジネス部(iiSC Outsourcing Service)
1
障害時の責任の所在の問題やサービス水準を保
つことなど双方のメリットが減殺される.
規構築サービスとほとんど変わらなくなってい
るが,大規模なシステム構築は SI の範疇に入れ
るのが一般的である.
AMS の場合は①アウトソーシング基本契約
があり,その追加契約か契約内の依頼作業のい
ずれかになる.②構築されたシステムはアウト
ソーシングで運用する.などが前提で単純に開
発を外部に委託することは SI 契約になる.
2.6 要員構成
要員の構成は規模・サービス品目によるが概
ね次のようになる.
PM(全体責任者)
1名
Project Office
1~数名
運用リーダー
1名
運用 SE
数名
運用リーダー
10 名~
保守リーダー
1~数名
保守 SE
数十名~数百名
ヘルプデスクリーダー
1名
ヘルプデスク要員
数名~数十名
NWSE
1 名~数名
その他
2.4 IT アウトソーシング・サービスの品目
一般には以下のサービスがある.
①システム運用
運用・障害対応・障害防止・監視・
導入支援・HWSW 保守・セキュリティ管理・
マシン室管理・システム導入・変更管理・
問題管理
②アプリケーション保守
新規開発・拡張修正・現状維持・障害対応
③ヘルプ・デスク
電話対応・メール対応・導入支援
④ファシリティ提供
運用・障害対応・障害防止・監視・
HWSW 保守・セキュリティ管理・
マシン室管理
⑤ホスティング
運用・障害対応・障害防止・監視・管理・
導入支援・HWSW 保守・セキュリティ管理・
システム導入・変更管理・問題管理
⑥ネットワーク提供
運用・障害対応・障害防止・監視・
HWSW 保守・セキュリティ管理・変更管理・
問題管理
通常運用は 24 時間 365 日が多く,常時 2 名必
要なので最低が 10 名になる.保守 SE はアプリ
ケーションの規模により大きく変動し,かつラ
ンクも数段階になる.また大規模の場合階層構
造となり,リーダー管理者の階層ができる.ヘ
ルプデスクは対応するユーザー数と受付時間帯
によって必要人数が変動する.
3.IT アウトソーシングの原価
原価は大きく分けると①人件費②HW 費用③
SW 費用④ファシリティ費用⑤ホスティング使
用料⑥その他費用⑦リスク対策費に分けられる.
その詳細について以下記述する.
3.1 人件費
基本はスキル・ランク別の月額単価を必要人
数ごとに積み上げる.スキルはサービス品目に
よって異なる(前項参照).
リーダー・SE の単価は SI などのプロジェク
トと基本的に変わらない.オペレーターの単価
は通常月額 40~50 万円前後であるが,近年より
費用の低減を目指し海外に運用拠点を設置する
傾向にある.
この単価は SI などの一般販売価格なのでこの
中にリスク負担分や粗利益も含まれている.
以上のサービスを機種によって分け,あるい
は複数の品目を組み合わせたサービスとしてい
る.
2.5 資産の扱い
通常 IT アウトソーシング・サービスで対象と
なる(運用される)機器やファシリティは受託
者(アウトソーサー)の資産である.なぜなら
ば①資産管理に工数がかかるので外部にまかせ
なければ意味が無い.②サービス水準が達成で
きない場合アウトソーサーに責任を帰すことが
できる.③アウトソーサー側では調達コストを
通常のユーザーより廉価にすることで利益を確
保できる.
諸般の事情から全部あるいは一部の資源を委
託者(ユーザー側)の資産のまま運用をアウト
ソーシングしているケースがある.その場合は
3.2 HW
当該の契約に専ら使用される機器の費用.複
数の契約で使用される場合はその他使用料金と
なる.通常は減価償却費であるが新規購入価格
の場合もある.アウトソーサーがコンピュータ
ーメーカーの場合一般販売価格と差をつけ,専
2
業アウトソーサーに比べ優位な価格を設定する
ことができる.
線料金などがある.通勤費・通常交通費などは
人件費に含まれることが多い.
3.3 SW
これも HW と同様に専らその契約のために使
用される SW 費用が基本となる.しかし SW の
場合はアウトソーサーと SW メーカー間の契約
により実際の費用が大きく異なる場合がある.
数量契約などがあるためである.
もう一つの選択肢として委託者(使用者)が
SW メーカーと契約したものを使用する場合が
ある.この場合は契約の原価には含まれない.
ただしこの場合 HW が受託者(アウトソーサー)
資産であると契約者と異なっているので SW メ
ーカーとの間に許諾契約を締結しなければなら
ない.
アウトソーサーがコンピューターメーカーの
場合,HW に固有の OS や DB など同じメーカー
提供の SW を使用する.この場合原価にはその
SW 料金が含まれるが受託者にとってライセン
ス料金は粗利益となる.
3.7 リスク対策
SI でも同様であるが予期しない事象が発生して
対応するためにコストがかかることがある.まったく
余裕の無い計画で無い限り通常は多少問題が出
ても吸収しなくてはならないが,外部要員を追加し
たり機器を増設しなければならないことが受託者
(アウトソーサー)の責に帰する場合は受託者が負
担しなくてはならない.すべての契約で発生するわ
けでは無いので発生率(危険度合い)を見込んで
保険のように積んでおく必要がある.この積む金額
の比率は当然アウトソーサーによって異なる.
4.IT アウトソーシングを成功させるために
4.1 委託者の立場から
4.1.1 目的意識
目的をはっきりさせる.コアコンピタンスへの
集中なのかコスト削減なのかも含め目的をでき
るだけ少なく絞り,副次的効果と分けることが
必要.目的・目標があいまいだと判断する時に
時間がかかりひいては本格運用の準備段階であ
るトランジション時に問題が発生する.
3.4 ファシリティ
家賃・光熱費が主となる.家賃は占有面積に
平米単位の賃貸料で求められる.一般には
10,000~25,000 円/平米が相場である.空調の
電力料は家賃に含まれる場合が多い.HW 機器
の電力料は家賃に含まれている場合と別料金の
場合があり,家賃だけでサイトを比較すると誤
ることがある.HW 機器電力料を見積もる場合
その機器の仕様に記載の電力を用いるが問題が
2つある.仕様記載の最大電力量は稼動時であ
って起動時にはその数倍の電気が流れることが
ある.またもう一つは最大であって平均では無
いということである.CPU やルーターは電源が
はいっていれば使用電力量はあまり変動しない
が磁気ディスク装置・プリンターのように大き
く変動する機器もある.その場合実コストは大
きく下がるが専用メーターが無ければファシリ
ティオーナーの利益となる.
4.1.2 決定のメカニズム
トランジションでは委託者・受託者双方で確
認・合意すべきことが多岐に渡る.その決定が
遅延することはサービス開始の遅延や不十分な
準備から満足度の低下に繋がる.日常の運用ル
ールの決定・重要事項の決定などレベルに応じ
た最終承認者を決めておかないと,未決のまま
準備を進め,変更が多発することになる.
4.1.3 コミュニケーション
委託者と受託者間のコミュニケーションだけで
なく,委託者・受託者それぞれの内部部門間の
コミュニケーションが十分でないケースがよく
ある.コミュニケーションのルールを定め適切
なツールを用いること.
3.5 ホスティング使用料金
CPU と Disk が主でその他機器なども含まれる.
CPU は MIPS とメモリー区画(MB ごと)で単価を定
める.Disk は装置ごとか GB 単位となる.
使用料金の算出基礎は前項までと同様だが,そ
の内訳は契約ごとに計算せず標準で定める.
4.1.4 会議
目的(決定・承認・伝達など)を明確にしてで
きるだけ短時間かつ少ない頻度にする.
4.2 受託者の立場から
4.2.1 目標
目標を定めその達成に全力を上げる.目標が
一つなら,ほとんどうまくゆく.目標が複数個
ある場合は優先度をつけ優先度の高い目標の実
3.6 その他経費
遠隔地への出張費・消耗品・家具・備品・回
3
[1] 赤津雅晴,「成功するアウトソーシングの勘
所」
,情報処理,2005 年 5 月
[2] 清水照雄,
「IBM のサービス事業とアウトソ
ーシング」
,ProVISION No.30,2001 年 5 月
現をまず考える.基本的には契約書の実現が最
優先事項である.
4.2.2 コミュニケーション
何も手をうたなければコミュニケーションは
悪化し取り返しがつかないことになる.トラン
ジションは言うにおよばず運用局面においても
コミュニケーションはアウトソーシング運用の
鍵である.適切なツールを用いて,コミュニケ
ーションを円滑に運ぶルールを最初に定めなく
てはならない.
4.2.3 事例の提示
委託者(ユーザー)はアウトソーシングのイ
メージがわかないのが通常である.だからこそ
豊富な事例を紹介し,現場見学やサンプルドキ
ュメントを提示する必要がある.何も無いとこ
ろで説明するより数段理解が進む.
4.2.4 変更管理(トランジション中)
準備段階での変更は避けたいが,変更しないと
運用がまわらないこともあり受け入れざるを得
ないこともある.変更を受け入れる場合のルー
ルを明確に定め,きちんと記録を残さなければ
ならない.
4.2.5 議事録
口頭で合意したことは議事録に残さなければ
ならない.議事録には双方の代表が署名できれ
ば良いが実際は難しい.その場合はアウトソー
サー側が原案を作成し委託者側の担当者名で発
表(あるいはメール)してもらう習慣をつける
とよい.
4.2.6 プロジェクト管理
トランジション(運用開始までの準備)は SI
と同様プロジェクトである.WBS 作成は当然だ
が,プロジェクト管理ツールなどを使用して管
理する必要がある.プロジェクト管理の手法・
方針については委託者を含めメンバー全員に徹
底することが必要.
5.おわりに
ますます多様化し成長するアウトソーシン
グ・サービスの基本的な考え方を理解するのに
役立っていただきたくこの論文を記述した.ア
ウトソーシング・サービスの知識や経験が少な
くこれからこの世界にはいろうとする方々の一
助となれば幸いである.
参考文献
4