中国のIT事情と日本企業の対応 ITコーディネータ 清水英明 市場としての中国 中国のIT化の速さは目覚しいものがある。 パソコンを使ったネット人口は 2006 年末で 1 億 4 千万人に達し、世界第 2 位と なった。しかもその成長スピードが驚異的で、ここ数年は前年比 20%以上、昨年 は 23.4 %を記録し、2010 年の初めには 2 億 3 千万人にもなると予想され、世界 第 1 位になる日も間近になってきた。 人口に対するネット普及率は全国平均で 10.5%だが、北京市では 30%と農村部 と都市部の格差は 6.5 倍と非常に大きい。 ネットへの接続方式は都市部ではADSLと光が、外国の製造業が進出している開発 区では光ファイバーが整備されているが、農村部では依然としてダイヤルアップ やISDNである。接続方式別利用状況ではADSLや光といったブロードバンドの利用 者が1億人強とネット人口の76%を占めている。 携帯電話について言えば、ユーザー数は 4.6 億人、ノキアとモトローラが 50%以 上のシェアーを持っているのに対して、日本勢は全<の不振である。 ネット接続料金が高いために通常のメールは未発達だが、ショートメールは非常 な勢いで伸びている。 2006 年の伸び率は対前年比 41 %となり、ショートメッ セージの送信数は 4300 億通にも達している。 インターネットを使ったパソコンの利用内容ではネットサーフィン、ネットゲー ム、ネットビジネス、個人向けネットショッピング、メール等先進国と殆ど変わ らない。 ネットサーフィンを行う際に使う検索エンジンでは「百度」というサイトが60% 以上と圧倒的なシェアーを持っており、グーグルやヤフーは苦戦している。 検索エンジン使用回数の対前年伸び率は 04年54%、05年42%、06年40%と驚異 的であり、広告収入もウナギのぼりの状況となっている。 ネットゲームの人口は2006年に対前年比19%伸びて3100万人となり、5年後の 2011 年には4500 万人にもなると予想されている。 ネットショッピングを行った人数は06年2700万人とネット人口の20%を上回った。 特に北京市ではその比率が31%となったが、平均購入額は14元(約210円)と未 だ少なく、これから更に増加するものと思われる。 ネットビジネスには企業向けと個人向けがあるが、前者を行っているのは従業 員 50 人以下の会社が全体の 58 %を占め、その中でも貿易型企業の比率が大き い。 1/4 有名なアリババドットコムのサイトを利用して 55 %の企業が年間 100 万元(約 1500 万円)の売上を上げているという。 個人ビジネスでは参加者の半数が年収3 万元以上と収入の高い層が関与してお り、年齢層では25∼35歳が63%、45%以上は僅か2.7%と圧倒的に若者の世界と なっている。 中国で最大のネットショッピングサイトは 「陶宝網」といい、パソコンの部品 から書籍、衣料品、化粧品、装飾品、各種チケット等合法的な商品なら何でも取 り扱っており、05 年には 18 億ドルの売上を上げ、アジア最大の規模となった。 ハード及びソフトウェア生産国としての中国 ハードの生産面では中国はありとあらゆる IT 製品を作り、全世界へも輸出して いる。パソコンでは裾野産業も育っているので、組み立てに必要な部品は殆ど中 国内で調達が可能であるので、世界生産の 90 %以上が中国で組み立てられてい る。 日本でおなじみのデルはアモイに 2 箇所の大きな工場を持っており、日本や韓国 からの注文を受けて直ちに生産し、1 週間以内に出荷するという体制をとってい る。 携帯電話ではノキア、モトローラの外資に加え、中興、華為、大唐の上位 5 社で 80%以上のシェアーを持っている。 ソフトウェアについては既に大量の人材がいる上に、国や地方政府が強力な後押 しをしているので毎年たくさんのIT人材が供給されている。 大連市は大学に日本語学科の数を増やし、日本語が使える人材を大量に養成して いる。 中国のソフト開発会社は日本語の出来る人材を多数確保したり、自社で養成する ことにより低コストで受託できる体制を整えているし、力を付けた中国企業は自 社開発ソフトを自分で日本に売り込んできたり、海輝軟件国際集団のように米国 のソフト開発会社を数十億円もかけて買収したりするところも見られるように なった。 国は国家政策として、70 のソフトウエアパーク、11 の国家ソフトウェア産業基 地、6 箇所の国家ソフトウェア輸出製品基地などの建設を意欲的に進めているの で、インドに肩を並べるソフトウェア大国になるのは時間の問題であろう。 日本企業のアプローチと問題点 このような急拡大の市場やソフトウェア開発の実力を見て、日本の企業も黙っ ておらず、輸出、ソフト開発の委託(アウトソーシング)、資本進出等、各種の 方法で参入を図っている。 先ず輸出についてはハード、コンテンツ、ソフト技術等の輸出があげられるが、 ハードについてはよほどの高付加価値品でなければ日本品は価格競争力の面で 2/4 輸出は難しくなっている。 コンテンツについては音像製品、映画、テレビドラマ、ビジネス用ソフトウェア、 アニメ、ゲーム、携帯用コンテンツ等たくさんあるが、中国の輸入許可を取るこ とがなかなか難しいため、思うように伸びていないのが実情である。 ソフト技術の輸出に関しては企業間の合意があれば輸入許可は必要ないので、企 業相手の成約は伸びている。特に生産に必ず付随するソフト輸出の伸びは大きい。 次にソフト開発の委託(アウトソーシング)を見ていこう。 中国は開発に携わる技術者の給与が日本に比べて圧倒的に安いことと、物流費と いう地理的制約がないことから、子会社や合弁会社を作って開発委託をしたり、 中国の会社に委託をしたりと様々のやり方で行われている。 人件費ではインドと余り変わらないが、言葉の問題と要件定義に暖昧さが残る日 本の会社は中国を委託先として選ぶ傾向が強く、国別委託比率では全体の8 割を 上っている。富士通、日立製作所、日本ユニシス等は1000人を越える規模の技術 者を自社の子会社で抱え、更に増やそうとしている。 自社で子会社を持てないか、或いはコスト面から敢えて持たない会社は中国の会 社にソフト開発を委託する際には次の点を注意する必要がある。 即ち成果物の帰属者が誰かをはっきりさせることと、そのまま市場に出せないと いうことである。成果物の帰属については、黙っていれば受託者の物となってし まうので、契約書に成果物は委託者に帰属すると書<必要がある。 委託先から納入されたソフトは不十分なものが多く、委託者がチェックして修正 を加ええないと使えないことが多いので、委託費だけでなく日本でもコストがか かることを認識しておく必要がある。 資本進出では前述したソフト開発会社の設立に加え、ネット通販、SNS (ソーシ ャル・ネットワーキング・サービス)、ネット広告、飲食店情報サイト、人材紹 介会社等の分野で活発な動きが見られる。 ネット通販については中国の富裕層をターゲットに日本や世界のプランド品を 売ることを目的にした会社を作りサイトを立ち上げたりしているが、ICPライセ ンス(電信信息服務経営許可証)が取れずに苦労している会社が多いよ うであ る。 ICPライセンスが取れない会社は、「ネット販売のためのコンサルティング」と いう経営範囲の許可を取り中国の企業にネット通販業務を頼み、コンサル料の名 目で手数料を受け取っているようである。 SNSでは昨年設立した独資のDeNA北京が試験サービスを始めたし、ネット広告 ではアドウエイズが間もなく成功報酬型広告の仲介を始める由。 また、ぐるなびは中国人と日本人を対象として飲食店情報サイ トを開設すべく 準備中である。 ただこの分野は、中国政府によるサイトの管理や事業の認可に時間がかかる上に、 採算が取れるかという心配もあるので、一気に進出数が増えるということはなさ 3/4 そうである。 その他、少し変わったところでは日本語の出来るIT技術者を日本に連れてきて希 望する会社に紹介するというビジネスも現れた。TACやメイテックは大連でIT技 術者の育成を始めた他、パソナテックは東北地区の大学と提携して卒業生を日本 企業に紹介している。 ただの人集めでは、なかなか良い人材が集まらないと中国の大学に自社の講座を 寄付し、そこで育てた人材を日本に連れてこようとする企業も(アルプス技研や カシオ)も現れた。 以上、中国の IT を取り巻く環境と日本企業の動きを述べてきたが、中国は製造 業だけでなく IT 分野でも世界のトップレベルに着実に近づきつつあるので、今 後とも注目していく必要があろう。 以上 4/4
© Copyright 2024 Paperzz