マウス子宮内膜症モデルにおける 薬用ハーブ・パルテノライドの抗炎症

日エンドメトリオーシス会誌 2013;34:207−210
207
〔一般演題/基礎
〕
マウス子宮内膜症モデルにおける
薬用ハーブ・パルテノライドの抗炎症および病巣縮小効果
鳥取大学医学部産科婦人科学教室
高井
緒
絵理,谷口
文紀,上垣
崇,岩部
寺川
直樹,原田
省
富夫
顕微鏡画像から総表面積を計測した.
言
子宮内膜症治療薬として,GnRH アゴニスト,
.子宮内膜症病巣の組織所見
低用量ピル,あるいはプロゲスチン製剤が応用
病巣をホルマリン固定し,ヘマトキシリン・
されているが,卵巣欠落症状などの副作用のた
エオジン(H.E.
)染色を行い,組織学的特徴
めに長期投与が難しいこと,挙児希望のある患
を確認した. Ki67免疫組織化学染色法により,
者には投与しにくいという問題点がある.薬用
細胞増殖能を評価した.
ハーブの一種であるパルテノライドは,ナツシ
.子宮内膜症病巣の遺伝子発現
ロギク(フィーバーフュー)から抽出される成
病巣組織における遺伝子発現量は,Real time
分で,欧米では古くから片頭痛や関節炎などの
RT―PCR で定量した.代表的な炎症性サイトカ
緩和に用いられており,抗炎症効果を有するこ
インである Vascular endothelial growth factor
とが知られている.本研究では,マウス子宮内
(Vegf ),Interleukin(IL)―6(Il ―6 ),Leukemia
膜症モデルを用いて,天然型 NFκB 阻害剤で
inhibitory factor(Lif )
,お よ び Monocyte che-
ある薬用ハーブ・パルテノライドの効果につい
motactic protein―1(Mcp―1 )の遺伝 子 発 現 に
て評価し,副作用の少ない新しい子宮内膜症治
ついて検討した.
成
療薬の可能性について検討した.
績
子宮内膜の移植から
対象と方法
週後には,すべてのマ
ウスにおいて囊胞状の子宮内膜症様病巣が形成
.マウス子宮内膜症モデルの作製
週齢の BALB/c マウスの卵巣摘出後にエ
された.囊胞内容は漿液性で,直径約
∼
mm
5μg/マ ウ ス/
ストラジ オ ー ル 吉 草 酸(E2:0.
大であり,多くは腹膜(主に切開創部)
,腸管
週;富士製薬工業)を投与し,性ホルモン動態
膜,あるいは子宮周囲にみられた(図
を同調させた.
=
週間後に,ドナーマウス(n
)から子宮組織を摘出し,約
mm2以下に
細切したのちに,レシピエントマウス(n=16:
パルテノライド群:n=
,対照 群:n=
%DMSO(対照群)または パ
ルテノライド(10mg/kg/回)を週
投与した.投与
ドナー
卵巣摘出
E2 皮下注射
(0.5mg/mouse)
パルテノライド
腹腔内注射
(10mg/kg)
子宮摘出
)
の腹腔内に子宮組織の半分量を注入した.子宮
移植直後から
AB)
.
レシピエント
卵巣摘出 子宮内膜組織注入
病巣摘出
回腹腔内
週間後に,腹腔内に形成され
た囊胞状の子宮内膜症病巣を摘出した(図
)
.
マウスあたりの病巣の個数と総重量を評価し,
0
図
1
2
3
4
5
6 (週)
マウス子宮内膜症モデルの作製
208 高井ほか
(A)
(B)
(C)
(D)
図
マウス子宮内膜症様病巣
(A)腹腔内に形成された病巣,
(B)摘出した病巣,(C)(D)囊胞の H.E.染色像
囊胞組織の内腔は,単層の上皮細胞で形成され
モデルで用いられた量の20%に減量したこと
ており,ヒト子宮内膜症の初期病変に類似した
と,子宮内膜組織を移植する際に注射器を用い
病理学的特徴を示していた(図
ずに注入したことが挙げられる.吉野らは,同
CD)
.
パルテノライドの投与により,病巣個数はマ
様のマウスモデルに,p38 MAPK 阻害薬を投
8個から3.
9個に有意に減少し
ウスあたり平均5.
与することにより,
マウス腹腔内洗浄液中のIL―
6
た.病巣の総重量は対照の約40%に低下し(65.
6および MCP―1蛋白濃度が低下したことを報
vs. 29.
6mg)
,総面積も約50%減少した(50.
3
告した〔1〕が,本研究では,それらの蛋白濃
2
vs. 25.
7mm )
(図
ABC)
.Ki―67陽 性 細 胞 比
8%から8.
5%に低下した(図
率は平均17.
D)
.
度は検出限界以下であり,比較できなかった.
また,本実験で,マウスに腹腔内投与したパル
病巣組織における炎症関連遺伝子発現は,パル
テノライド量はサプリメントとして経口摂取さ
テノライド投与群では対照群に比して,
れる量よりも多く,至適用量については今後の
つの
炎症性サイトカイン遺伝子の有意な発現減少が
みられた(図
E)
.
考
検討が必要である.
これまで私どもは,子宮内膜症細胞の炎症性
察
サイトカインによる増殖進展機構および類腫瘍
月経血逆流説による子宮内膜症の発生を模し
性格に着目して研究を展開してきた.まず,子
たマウスモデルを確立し,天然型 NF―κB 阻害
宮内膜症患者の腹水中には IL―8,Tumor necro-
剤である薬用ハーブ・パルテノライドの効果を
sis factor(TNF)α 等のサイトカイン濃度が高
検証した.本研究成績から,パルテノライドが
いこと,TNFα が NF―κB 経路を介して IL―8産
子宮内膜症病巣の縮小や腹腔内炎症を抑える可
生を誘導し,子宮内膜症間質細胞の増殖を促進
能性が示された.
すること,さらに COX―2遺伝子の発現を誘導
マウスモデル作製における工夫としては,卵
巣摘出後のエストロゲン投与量を従来のマウス
して PGE2産生を促進することを明らかにした
.
〔2―4〕
マウス子宮内膜症モデルにおける薬用ハーブ・パルテノライドの抗炎症および病巣縮小効果 209
(A)
Number of lesions per mouse
(B)
100
*
Total weight of lesions
per mouse(mg)
8
6
4
2
*
80
60
40
20
0
0
control
parthenolide
control
parthenolide
(D)
Total volume of lesions
per mouse(mm2)
80
*
60
40
20
0
control
25
Ki67positive cells/field
(%)
(C)
*
20
15
10
5
0
parthenolide
control
parthenolide
(E)
**
100
50
0
0
50
Parthenolide
Control
Mcp-1mRNA relative level
Lif mRNA relative level
100
0
図
50
(%)
*
Control
*
100
Parthenolide
Control
(%)
(%)
Il-6mRNA relative level
Vegf mRNA relative level
(%)
*
100
50
0
Parthenolide
Control
Parthenolide
マウス子宮内膜症モデルにおけるパルテノライドの効果
(A)マウスあたりの病巣個数,
(B)総重量,
(C)表面積,
(D)上皮細胞における Ki67染
色陽性細胞比率,
(E)炎症関連遺伝子発現.* p<0.
05;**p<0.
01 vs. control.
昨年の本学会では,培養子宮内膜症間質細胞
までに,急性白血病,乳癌や膵臓癌などにおい
において,パルテノライドが NF―κB 経路を介
て,パルテノライドの NF―κB 活性阻害による
して IL―8産生を低下させ細胞増殖を抑制する
6〕
,子宮
抗腫瘍効果が明らかにされており〔5,
こと,および COX―2遺伝子発現を低下させて
内膜症組織の進展にも重要な役割を果たすと考
PGE2産生を抑制することを報告した.
えられる.
NF―κB は,腫瘍の進展において種々の遺伝
これらの成績から,新しい子宮内膜症治療薬
子発現制御に関わることが知られている.これ
の候補として NF―κB 阻害作用を有するパルテ
210 高井ほか
ノライドに注目した.近年,パルテノライドな
どの薬用ハーブは補完代替治療薬として注目さ
れている.パルテノライドは副作用の少ない子
宮内膜症薬剤として,術後の疼痛や,再発によ
り長期の薬物治療が必要な患者,挙児希望のあ
る患者などへの応用が期待できるものと考えら
れる.
結
論
パルテノライドはマウス子宮内膜症モデルに
おいて,抗炎症作用および病巣縮小効果を示し,
新しい子宮内膜症治療薬となる可能性が示唆さ
れた.
文
献
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