IVP-News-130622-01-01 卵活性化処理方法の違いによるマウス産仔への影響 自力で卵細胞質内に進入できないような精子所見の症例でも、ICSI によりこれを回避できる。しかしながら、卵 細胞質内に注入された精子は、その精子が保持している卵活性化因子によって MII 期で停止していた卵の減数分裂 を再開させる。しかし、精子の卵活性化能力が欠落あるいは弱い場合は受精が成立しない。また、精子の卵活性化 能力が正常でも、卵側の活性化に関連する機能が欠乏していても受精は成立しないことになる。 このような受精障害をレスキューするために、人為的に卵を活性化させる手技が臨床で応用されている。現在のと ころ、主に Ca-ionophore、塩化ストロンチウム、電気刺激による 3 種類の報告がある。それぞれの方法は異なっ たメカニズムで卵を活性化させている。Ca-ionophore は細胞膜のカルシウムチャンネルを開くことで細胞外から カルシウムイオンを流入させ細胞内カルシウムイオン濃度を一過性に上昇させる。電気刺激は電圧をかけることに より、細胞膜にごく小さな穴を生じさせ同様にカルシウムイオンを流入させる。塩化ストロンチウムはその活性化 機序が不明であると思うが、マウスでは自然の受精と同様にカルシウムオシレーションを起こさせることが知られ ているため、通常受精時と同じように細胞内の小胞体からカルシウムを放出させる機能に加担していると想像でき る。 さて、このように機序の違う方法によりヒトで児が誕生しているが、どの方法が一番安全なのかという報告はいま まで無かったように思われる。今回、マウスモデルではあるものの、この疑問に関しての報告があったので紹介す る。結論としては、いずれの方法でも大きな違いは認められなかったとのことであった。 Vanden Meerschaut, F., Nikiforaki, D., De Roo, C., Lierman, S., Qian, C., Schmitt-John, T., De Sutter, P., Heindryckx, B. (2013). Comparison of pre- and post-implantation development following the application of three artificial activating stimuli in a mouse model with round-headed sperm cells deficient for oocyte activation. Human reproduction, 28(5), 1190–8. ヒトの円形頭部精子は卵活性化能力が欠落しているため、ICSI しても受精しないことが知られている。著者らは ヒトの円形頭部精子と類似した wobbler mouse の精子を用いて実験を行った。 左図が wobbler mouse の精子で、卵活性化能力が低い。 右図は正常マウス精子。 ICSI 後の卵細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を調査した結果、正常精子では 96%が上昇したのに対して、 Wobbler 精子は 9.6%しか認められなかった。 高度生殖医療技術研究所(ARMT) IVP-News-130622-01-01 塩化ストロンチウム、電気刺激、Ca-ionophore、いずれの方法においても受精率や胚盤胞到達率や細胞数には差 が認められなかった。 Ca-ionophore の群で妊娠率が若干低かったが、1 匹あたりの産仔数は各群で差異が認められなかった。 産仔の体重増加を調査した結果、塩化ストロンチウム群のメスの体重 増加が 4 週目ごろまで遅れたとのことであるが、概ね各群で大きな違 いは認められなかった。 この文献はマウスモデルによる結果なので、そのままヒトにあてはめ る訳にはいかないが、参考になる知見だと思われた。 ヒトでは、塩化ストロンチウムによる活性化率が不安定であることや、 電気刺激は装置の導入が必要であることなどが理由だと思われるが、 実施し易い Ca-ionophore を用いた出産例の報告が多い。 今後、活性化率が安定していて、かつ安全性の高い手技の確立が進め ばと望んでいます。 2 高度生殖医療技術研究所(ARMT)
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