カリフォルニア州における燃料電池自動車普及の取組み

2014 年 10 月 1 日
カリフォルニア州における燃料電池自動車普及の取組み
サンフランシスコ事務所
金堀 宏宣
燃料電池自動車の普及について、カリフォルニア州では州政府と自動車メー
カー、エネルギー関連会社などが連携した取組みを進めている。州政府による
厳しい環境規制が先導的に取り入れられ、これが無公害車の導入を後押しする
形にもなっている。本稿では、インフラ面、制度面、コスト面などで課題が残
る燃料電池自動車の普及について、カリフォルニア州における取組みを紹介す
る。
1.はじめに
「究極のエコカー」と言われる燃料電池自動車(FCV)が、今年度中に世界に
先駆けて日本で発売され、来年夏頃には欧米での販売も予定されている。米国
では、今年1月に米国最大の家電見本市「コンシューマー•エレクトロニクス•
ショー(CES)」で、トヨタ自動車が開発した FCV(写真1)のお披露目があ
った。
一回の水素充填による航続距離
は約 700km、水素充填の時間は3
分程度と一般のガソリン車と同等
であるが、水素ステーションの整備、
補助金など政府による支援策が普
及のカギを握る。現在米国で大きく
普及台数を伸ばしているハイブリ
ッド車やプラグインハイブリッド
車に比べると、インフラ面、制度面、 写真1:CES に出展された燃料電池自動車
コスト面などクリアすべき課題は
(出典:Toyota Motor Sales, USA)
多いが、自動車の動力源として新た
に水素が加わることで、供給源の多様化、環境負荷の低減など我々の社会に与
える影響は計り知れない。
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2.連邦政府より厳しい環境規制
米国の中でも特に環境規制が厳しいカリフォルニア州では、カリフォルニア
大気資源局(CARB)1が、無公害車(ZEV)2規制により一定以上の台数を販
売する自動車メーカー3に対して、2015 年までに、7台に1台以上の割合で ZEV
を販売することを義務づけている。実際には、この規制値どおりに ZEV を導入
することは難しいため、ハイブリッド車や天然ガス車などの販売台数も ZEV に
準じて考慮されるようになっている。
規制値をクリアできなかった場合、CARB に罰金を支払うか、または他社か
ら環境クレジットを購入することになる。電気自動車(EV)のテスラを販売す
るテスラモーターズ4は、規制対象の自動車メーカーには入っていないが、販売
台数に応じて環境クレジットを獲得している。CARB では、この環境クレジッ
トの売買を認めており、同社はこのクレジットを売却し収益を得ている。
このように、規制を
クリアできなかった
場合のペナルティー
は、会社の収益に影響
を与えることになり、
否が応でも自動車メ
ーカーはこの厳しい
規制に対応しなけれ
ばならない。ある意味、
この規制は自動車メ
ーカーの環境技術開
発を後押しすること
にもつながっている。
図1:カリフォルニア州における FCV の普及台数の予測
一方で、環境意識の高
(出典:CARB)
い消費者の選択肢を
増やし、新たな市場を創出することにもなっている。
ZEV のうち FCV の普及台数については、CARB が今年6月に発表したレポ
ートによると、2017 年に 6,650 台、2020 年に 18,465 台と予測されている(図
1)。FCV の普及台数の増加に合わせて、利用者が安全面、利便性の面でストレ
スを感じること無く利用できる水素ステーションの整備が不可欠であることは
言うまでもない。
California Air Resources Board(CARB)
。カリフォルニア州の大気汚染を防止する行政機関。
Zero Emission Vehicle の略。排気ガスを一切出さない EV や FCV のこと。
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該当する自動車メーカーは、クライスラー、GM、フォード、トヨタ、日産、ホンダ。
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バッテリー電気自動車の開発、生産及び販売を行う自動車メーカー。本社所在地は、米国カリフォルニア
州パロアルト市。
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3.水素ステーションの整備
カリフォルニア州では、「カリフォルニア燃料電池パートナーシップ」5が、
水素ステーション整備のロードマップを策定しており、予測される FCV の普及
台数、水素ステーションのコスト、マーケット情報などをベースとして、必要
とされる水素ステーションの数が試算されてきた。
図2:FCV 普及に必要な水素ステーションの数(出典:CARB)
前述の CARB 発表のレポートによると、2014 年 8 月現在、同州内には9カ所
の水素ステーションが設置されており、その殆どが、南カリフォルニアに集中
している。
また、2014 年末までには 23 カ
所にまで増え、FCV の販売開始が
予定されている 2015 年の初めま
でには、28 カ所の水素ステーショ
ンが増設され、合計 51 カ所とする
計画が立てられている(図2)。こ
の 28 カ所の水素ステーション増
設に対して、カリフォルニア州エ
ネルギー委員会は、約 50.3 億円
写真2:カリフォルニア州トーランス市の
水素ステーション
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(出典:CaFCP)
California Fuel Cell Partnership(CaFCP)
:自動車メーカー、エネルギー供給会社、政府機関、燃料
電池関連企業などで構成された組織。各機関が連携して、燃料電池自動車の普及、商用化のための支援
を行っている。
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(約 4,660 万ドル)の資金供与を承認しており、同州の主要地域に水素ステー
ションが整備される予定である。さらに、昨年9月のカリフォルニア州議会で
は、水素ステーションの数が 100 カ所に達するまで毎年 20 億円を予算化するこ
とが可決されるなど、同州における FCV 普及に向けた動きは活発である。
日本でも自動車メーカーが独自に水素ステーションの整備に乗り出している
が、ここカリフォルニア州でも、エネルギー関連の企業だけにとどまらず、ト
ヨタ自動車が米国カリフォルニアのベンチャー「ファーストエレメント•フュー
エル社」を通して米国でのインフラ整備を展開している。同社は、カリフォル
ニア州エネルギー委員会から 29.8 億円(約 2,760 万ドル)の助成を受け、同州
内に 19 カ所の水素ステーションを 2015 年秋までに整備することを計画してい
る。
4.カリフォルニア州との連携
本県では、2004 年に産学官からなる「福岡水素エネルギー戦略会議」を設立
し、FCV 普及に向けた取組みを進めている。水素エネルギー分野で先進的な地
域である本県とカリフォルニア州が連携を深めることで、水素エネルギー社会
の実現がより近づくことが期待される。
また、去る9月8日には、日本政府とカリフォルニア州政府との間で、気候
変動等に関する覚書が取り交わされた。覚書には、気候変動、再生可能エネル
ギー、ZEV をはじめとする自動車などが具体的な協力分野として挙げられてお
り、今後カリフォルニア州と日本との協力関係が一層強化されることとなった。
本県には、自動車産業をはじめとする様々な製造業の集積があり、研究開発
分野では、水素エネルギー製品研究試験センターや次世代燃料電池産学連携研
究センターなど、先進的な研究、開発を行う環境が整っている。カリフォルニ
ア州立大学6、ローレンス国立研究所7等の優れた研究機関やエネルギー関連の
企業なども集積する同州との連携を積極的に進めていくことで、FCV の普及に
向けて、これまでに無かった新しいアイデアや発想が生まれてくるのではない
だろうか。
当事務所では、引き続きカリフォルニア州や米国での取組みをしっかりフォ
ローし、本県の水素戦略を推し進めていきたい。
※ 為替レート
6
7
1ドル=108 円
州内に 23 の大学を持ち、約 45 万人の学生、45,000 人の教員、職員を擁する米国でも最大級の大学群。
米国エネルギー省所管の研究所。州内にはローレンス•バークレイ研究所、ローレンス•リバモア研究所
があり、環境、エネルギー分野など様々な研究が行われている。
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