猫カリシウイルス上部気道感染症 - 猫感染症研究会-JABFID

猫カリシウイルス上部気道感染症
猫カリシウイルス上部気道感染症とは?
■ 猫カリシウイルス(FCV)が原因です。上部気道の病原体と直接触れること
で容易に感染し、また野外で蔓延しており、同居している猫が多頭数の場合
の有病率は高い感染症です。
■ FCV は多様性が高く、頻繁に変異し、多数の株が存在しています。病原性、
抗原性、誘導される免疫の範囲も広範です。
■ FHV やクラミジアおよび / またはボルデテラと同時感染することもよくあり
ます。
■ 非常に重篤で全身性疾患となる FCV 感染(強毒全身性猫カリシウイルス感染
症)が最近観察されています。
感染
■ 症状を伴う急性感染またはキャリアー状態の猫は、口腔内、鼻腔内、結膜の
分泌物のなかに FCV を排泄しています。
■ 感染はおもに直接接触することにより成立します。しかし、ウイルスは乾燥
した環境でも1カ月以上感染性を保つため、間接的な伝播も一般的に起こり
ます。
臨床症状
■ FCV 株の多様性や猫の年齢によって症状は異なります。
■ 口腔内潰瘍、上部呼吸器症状、高熱がみられます。一過性の関節炎による跛
行が観察されることがあります。
■ 肺炎はとくに幼若な猫でみられます。
■ 慢性の口内炎や歯肉炎を持つ猫から FCV が検出されています。
■ 強毒全身性猫カリシウイルス感染症では、発熱、皮膚の浮腫、頭部・手足に
おける潰瘍性腫瘍や黄疸がみられることがあります。死亡率は高く(67%
に及ぶ)
、成猫ではさらに深刻な病態となります。
診断
■ FCV の RNA は RT-PCR により、結膜と口腔内のスワブ、血液、皮膚掻爬また
■ RT-PCR の陽性結果は、慎重に解釈する必要があります。理由は、持続感染
のキャリアー猫による低レベルのウイルス排泄が起こっている可能性がある
ためです。
■ ウイルス分離は、RT-PCR と比べ感度は低くなりますが、生ウイルスを証明
することができます。結膜サンプルは、フルオレセインまたはローズベンガ
ル染色前に採取しなければなりません。
■ 血清検査は推奨されていません。理由は、陽性反応が感染によるものかワク
チン接種によるものかを区別することができないからです。
■ 強毒全身性猫カリシウイルスに関しては、臨床症状、高い伝染性、高い致死
率、重篤な症状を呈する数頭の猫の血液から同じ株が分離されることによ
り、診断されます。
疾病管理
■ 支持療法(輸液療法を含む)および看護ケアが必須となります。
■ 食欲が減退している猫には、調整された、嗜好性の高い、均一に温められた
食事を与える必要があります。
■ 粘液溶解薬(例;ブロムへキシジン)または生理食塩水の吸入は、病態の緩
和をももたらすことがあります。
■ 広域スペクトラムの抗生物質は、細菌の二次感染防止を目的として投与され
るべきです。
■ FCV は、約1カ月間環境中で生存することができ、一般的な多くの消毒薬に
抵抗性を示します。次亜塩素酸ナトリウム(5% 漂白液の 32 倍希釈)が有
効です。
■ シェルターでは、新入りの猫は2週間の検疫が必要です。感染が認められる
繁殖施設の母猫は子猫と隔離し、同腹子はワクチン接種を受けるまでほかの
猫と一緒にしないようにします。
■ 無症候の FIV または FeLV 感染猫は、順調にワクチン接種を受けることができ
ます。
■ 早期ワクチン接種は、過去に感染した子猫を持つ母猫から産まれた子猫、ま
たは感染の危険性のある猫の場合に考慮するべきです。
は肺組織から検出することができます。しかし、株の多様性があるために偽
陰性となることがあります。
©Japanese Advisory Board on Feline Infectious Diseases 2013 /猫感染症研究会 本シートの無断複製・転載を禁じます。
猫カリシウイルス上部気道感染症
ワクチン接種の推奨
■ すべての健康な猫に、コアウイルスの1つである FCV に対するワクチン接種を受けさせる必要があります。
■ 9週齢時と 12 週齢時の2回接種が推奨され、1年後に初回ブースター接種を受けさせます。
■ ハイリスク環境では、16 週齢時に3回目を接種することが推奨されます。
■ ブースター接種は3年ごとに受けさせるべきですが、ハイリスク環境にいる猫に対しては毎年接種したほう
が良いでしょう。
■ ワクチン接種歴が不明の成猫に対しても、同じウイルス株を含有しているワクチンを使用し、2∼4週間隔
で2回接種したほうが良いでしょう。
■ 十分にワクチン接種を実施した飼育猫群において発症した場合、異なる株を使用しているワクチンに変更す
ることは有益となる可能性があります。
■ とくに異型株による感染の場合、カリシウイルス感染症から回復した猫が生涯感染から防御されているわけ
ではありません。このような猫へのワクチン接種は今後も推奨されます。
■ 慢性潰瘍性増殖性歯肉口内炎
(Albert Lloret の好意による)
■ 脱落性口腔内潰瘍(+鼻炎)
© Merial
■ 重度の口・鼻粘膜潰瘍
(Albert Lloret の好意による)
■ 強毒全身性猫カリシウイルス感染症
(Albert Lloret の好意による)
猫ヘルペスウイルス上部気道感染症
猫ヘルペスウイルス上部気道感染症とは?
診断
■ 世界中に蔓延している猫ヘルペスウイルス(FHV)が原因です。野外の猫
■ サンプルには結膜、角膜もしくは口腔咽頭のスワブ、角膜掻爬または生検
科動物も感染します。
を用います。
■ FHV は、カリシウイルスや細菌と関連して発生することがよくあります。
■ 弱毒生ワクチンを最近接種した猫からの採材は行わないでください。
■ 回復後も FHV は潜伏し、ほとんどの猫が生涯にわたりウイルスのキャリ
■ 低量のウイルス排泄や持続感染の可能性があるため、PCR による陽性結果
■ ストレスまたは免疫抑制作用のあるコルチコステロイド療法により、ウイ
■ ウイルス分離は、PCR より感度が落ちますが、ウイルスの生存を証明しま
アーとなります。
ルスの再活性そして排泄が起こる可能性があります。
感染
■ 症状を伴う猫では、口腔内、鼻汁および結膜分泌物内に FHV 排泄が起こり、
ウイルス排泄は約3週間持続します。
は注意して解釈する必要があります。
す。結膜サンプルは、フルオレセインまたはローズベンガル染色前に採取
しなければなりません。
■ 血清学的検査は推奨されません。
疾病管理
■ 感染はウイルス排泄猫に直接接触することにより成立します。
■ 支持療法(輸液療法を含む)および看護ケアが必須となります。
■ 感染は宿泊施設、繁殖施設、シェルター、多頭飼育家庭など、多頭飼育環
■ 食欲が減退している猫には、調整された、嗜好性の高い、均一に温められ
境下の猫でみられます。
■ 持続感染している不顕性感染の母猫から、子猫が感染することがあります。
臨床症状
■ 幼若猫では、急性鼻炎、結膜炎、通常発熱を伴い、沈鬱そして食欲不振が
みられ、とくに重篤に陥ります。死に至る肺炎が起こることもあります。
■ 潰瘍性、樹枝状角膜炎がみられます。
■ 一般的に症状は1∼2週間以内に回復します。
た食事を与える必要があります。
■ 粘液溶解薬(例;ブロムへキシジン)または生理食塩水の吸入は病態の緩
和をもたらすことがあります。
■ 広域スペクトラムの抗生物質は、細菌の二次感染防止を目的として投与さ
れるべきです。
■ 急性 FHV 眼疾患の治療には、抗ウイルス点眼薬を使用することもあります。
■ シェルターでは、新入りの猫は2週間隔離したほうが良いでしょう。
■ 繁殖施設では、母猫と子猫を隔離し、子猫はワクチン接種を受けるまで一
緒にしないようにします。
■ 無症候の FIV または FeLV 感染猫は、順調にワクチン接種を受けることがで
きます。
■ FHV は非常に不安定なウイルスであり、多くの殺菌剤、消毒薬、洗浄剤に
感受性を示します。
©Japanese Advisory Board on Feline Infectious Diseases 2013 /猫感染症研究会 本シートの無断複製・転載を禁じます。
猫ヘルペスウイルス上部気道感染症
ワクチン接種の推奨
■ すべての健康な猫に、コアウイルスの1つである
FHV のワクチン接種を受けさせる必要があります。
■ 9週齢時と 12 週齢時の2回接種が推奨され、1年
後に初回ブースター接種を受けさせます。
■ ワクチン接種歴が不明の成猫に対しても、2∼4週
間隔で2回接種したほうが良いでしょう。
■ ブースター接種は1年ごとに受けさせる必要があり
ます。低リスク環境にいる猫(例:室内だけの猫)
に対しては、3年ごとでも十分でしょう。
■ ブースターワクチン接種を逸してしまった場合、1
回の接種で足りるでしょう。
■ FHV 関連疾患から回復した猫は、通常、生涯感染か
ら防御されてはいないため、ワクチン接種が必要で
す。
■ 樹枝状角膜潰瘍
(Eric Déan の好意による)
■ 急性結膜炎および角膜炎
© Merial
■ 出血性肺炎
© Merial
■ 急性鼻炎および角結膜炎
(Albert Lloret の好意による)
■ 急性結膜炎
(Julia Beatty の好意による)
猫汎白血球減少症
猫汎白血球減少症とは?
診断
■ 猫汎白血球減少症、パルボウイルス(FPV)は、アライグマやミンク、
■ FPV は市販のラテックス凝集反応または免疫クロマトグラフィー法によ
キツネと同様にすべての猫科動物に感染します。
■ 感受性を持つすべての猫を死亡させることができます。
る検査により、糞便から検出することができます。全血または糞便を用
いた PCR 検査が専門の検査機関で利用できます。
■ FPV は数カ月間環境中で生存することもあり、多くの消毒薬に対し高い
■ 感染なのかワクチンによる抗体なのかが区別できないため、血清学的検
感染
疾病管理
■ 病気の猫は糞便中に高力価の FPV を排泄し、糞便 - 口腔経路によって伝
■ 支持療法(輸液療法を含む)および看護ケアが必須となります。
抵抗性を持っています。
播します。
■ 感染経路としてもっとも一般的なのは間接的な接触で、媒介物(靴や衣
服)を介して FPV は運ばれます。つまり、室内飼育猫にもリスクがある
ということを示しています。
■ 子宮内感染と新生子への感染も発生します。
臨床症状
■ FPV は全年齢の猫が感染しますが、もっとも感受性が高いのは子猫です。
■ 致死率は高く、子猫では 90% 以上です。
■ 感染細胞による症状は以下のとおりです。
査は推奨されません。
■ 腸炎の症例には、グラム陰性嫌気性菌に対する広域スペクトラムの抗生
物質の非経口投与が、敗血症防止のために必須となります。
■ 組換え型猫インターフェロン - ωは有効と考えられています。
■ 疑いのあるもしくは確定診断された症例は、隔離管理が必要です。
■ 次亜塩素酸ナトリウム(漂白液)
、過酢酸、ホルムアルデヒドまたは苛
性ソーダを含む消毒薬が有効です。
■ ワクチン接種歴が不完全な幼若猫、初乳摂取が不十分な子猫またはワク
チン接種されていない猫には、抗 FPV 血清を皮下または腹腔内接種する
ことにより2∼4週間、感染防御されます。抗血清の定期的な使用は推
奨されていません。また、抗血清はワクチン接種の代替にはなりません。
‐ 下痢
‐ リンパ球減少症、好中球減少症に続いて、血小板減少症と貧血が発
症します
‐ 免疫抑制(一過性、成猫)
‐ 小脳性運動失調(子猫のみ)
‐ 流産
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猫汎白血球減少症
ワクチン接種の推奨
■ 猫汎白血球減少症(FPV)はコアウイルスの1つであり、室内飼育猫を含むすべての猫に FPV に対する
ワクチンを受けさせる必要があります。
■ 9週齢時と 12 週齢時の2回接種が推奨され、1年後に初回ブースター接種を受けさせます。
■ 高い感染状況(猫シェルター)にいる、もしくはワクチン由来の抗体価が高い母猫(繁殖施設)から生
まれた子猫には、16 週齢時に3回目のワクチン接種が推奨されます。
■ 最初のブースター接種は1年後に、その後は3年またはそれ以上の間隔で接種します。
■ ワクチン接種情報がわからない成猫に対しては、1年後のブースター接種を1回受けさせた後は、3年
以上間隔を空けることもできます。
■ 弱毒生ワクチン接種後、迅速な感染防御が始まりますが、妊娠している母猫には薦められません。
■ 弱毒生ワクチンは、4週齢未満の子猫に接種すべきではありません。
■ 感染猫の集中治療
(Albert Lloret の好意による)
■ 出血性下痢
(Albert Lloret の好意による)