路上駐車による走行車両の旅行時間に対する 影響に関する実証分析

2009 年 2 月
路上駐車による走行車両の旅行時間に対する
影響に関する実証分析
-効率的な都市交通流の実現に向けて-
<要旨>
本 稿 は 、路 上 駐 車 に よ る 走 行 車 両 の 旅 行 時 間 に 対 す る 影 響 に つ い て 、東
京 23 区 内 の 29 地 区 を 対 象 と し て 実 証 分 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、最 適 な 路
上駐車価格はほとんどの地区において現在の駐車違反に係る反則金に比
べ て 高 く な り 路 上 駐 車 を 許 容 す べ き で は な い が 、交 通 量 の 少 な い 郊 外 部 や
休 日 の 都 心 部 の 一 部 の 地 区 に つ い て は 、一 定 の 料 金 を 徴 収 し て 路 上 駐 車 を
許容することが最適であることが具体的な数値をもって示された。また、
最 適 な 路 上 駐 車 水 準 を 実 現 し た 場 合 、実 質 的 に 既 存 の 道 路 に お け る 交 通 容
量 の 拡 大 と 同 じ 効 果 が 得 ら れ る が 、最 適 な 路 上 駐 車 料 金 の 設 定 は 当 該 効 果
を 生 み 出 す 道 路 の 拡 幅 に 比 べ て よ り 安 価 な 政 策 手 段 で あ り 、副 次 的 に は 容
積率の緩和という経済効果を生み出すことを可能とすることを指摘した。
政策研究大学院大学
政策研究科修士課程
まちづくりプログラム
MJU08057 平 林 剛
1
【目次】
1 . は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 03
1.1
問 題 意 識 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 03
1.2
先 行 研 究 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 03
1.3
路 上 駐 車 に 関 す る 制 度 概 要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 04
1.4
路 上 駐 車 の 現 状 と 道 路 交 通 法 改 正 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 05
2 . 路 上 駐 車 に よ る 走 行 車 両 の 旅 行 時 間 に 対 す る 影 響 に 関 す る 計 量 分 析 ・ ・ 06
2.1
路 上 駐 車 が 走 行 車 両 に 対 し て 与 え る 影 響 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 06
2.2
Q-V 式 と BPR 関 数 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 08
2.3
分 析 に 使 用 す る デ ー タ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 09
2.4
推 計 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 10
2.5
分 析 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 12
3 . 路 上 駐 車 を 社 会 的 に 最 適 化 す る た め の 方 策 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 16
3.1
理 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 16
3.2
社 会 的 に 最 適 な 路 上 駐 車 料 金 、 路 上 駐 車 台 数 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 18
3.3
駐 車 場 市 場 に 対 す る 影 響 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 23
3.4
路 上 駐 車 密 度 に 対 す る 路 上 駐 車 料 金 の 妥 当 性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 24
3.5
結 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25
4 . 社 会 的 に 最 適 な 路 上 駐 車 水 準 の 実 現 に よ る 経 済 効 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25
4.1
最 適 な 路 上 駐 車 料 金 設 定 時 に お い て 可 能 と な る 交 通 容 量 ・ ・ ・ ・ 25
4.2
道 路 拡 幅 費 用 の 推 計 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 26
5 . ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27
6 . お わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 29
2
1.はじめに
1.1
問題意識
道路交通に関する問題として、特に東京などの大都市部においては、渋滞の
ほかに路上駐車が挙げられる。渋滞の発生原因として通過交通量が可能交通容
量を上回る絶対的な交通量の多さについては言うまでもないが、路上駐車車両
によって走行車両の円滑な走行が妨げられる結果、整備前に想定していた交通
容量よりも結果として少ない容量しか供給がされていないことも、その一因と
考えられる。渋滞は走行時間の増加などの社会的損失を発生させることから、
路上駐車車両は道路の整備効果を本来よりも減殺することとなる。また、国民
の間における道路交通に対する不満の一端となっているとも考えられる。この
ほかにも駐車車両に関連する交通事故の発生や緊急車両の通行阻害、ゴミ収集
作業の妨害等といった悪影響についても懸念される。
このため、本論文では、路上駐車によってドライバーが得る私的便益と路上
駐車車両によって走行車両の通行が妨げられることに伴う旅行時間の増加によ
る社会的余剰の減少とをデータを用いてエリア別、時間別に実証分析すること
により、路上駐車に対して現在講じられている様々な政策が効率的でないこと
を明らかにする。また、ドライバーが得る私的便益よりも外部不経済による社
会的費用の方がより大きい路上駐車が行われている場合、最適な路上駐車料金
を設定することによって、当該路上駐車を最適量へと抑制することが可能とな
る。また、このことは走行車両の旅行時間の減少、すなわち単位時間当たりに
おける道路交通インフラに対する負荷が減少することを意味する。同じ交通イ
ンフラに対する負荷の減少のための物理的な手法としては道路幅員の拡幅が代
表的であるが、拡幅工事には多額の費用を要する。したがって、最適な路上駐
車料金の設定がより安価に同じ政策効果を実現する。最後に、この実質的な交
通容量の拡大が実現できれば、インフラへの負荷抑制をその規制の根拠とする
容積率の緩和が可能となるものと考えられる。このように、最適な路上駐車料
金の設定は、単に外部不経済を解消するにとどまらず、正の外部経済を生み出
しうることについても言及する。
1.2
先行研究
道 路 交 通 に 関 し て は 、 交 通 混 雑 (渋 滞 )に よ る 旅 行 時 間 の 増 加 な ど に 着 目 し た
先行研究が多数存在する。しかしながら、路上駐車車両が走行車両の旅行時間
に与える外部不経済の費用に関する先行研究は極めて少ない。
当 方 の 調 べ た 限 り で は 、後 藤 ・ 中 村 ( 2 0 0 5 ) 他 に お い て 、限 界 路 上 駐 車 1 台 が も
たらす社会的な不便益の大きさが次第に逓減していくことの実証分析を行って
い る 。 ま た 、 村 川 (2007)に お い て は 、後 藤 ・ 中 村 (2005)の 手 法 を 用 い て 公 共 交 通
(バ ス )へ 及 ぼ す 外 部 不 経 済 を 加 え た 実 証 分 析 を 行 っ て い る 。 さ ら に 、 交 通 工 学
の 見 地 か ら は 、田 中 他 ( 2 0 0 4 ) に お い て 交 差 点 下 流 の 路 上 駐 車 位 置 に よ る 交 通 容 量
へ の 影 響 な ど に つ い て 分 析 が 行 わ れ て い る 。し か し 、こ れ ら は い ず れ も 特 定 の 1
3
~ 3 地 点 に お け る 実 地 調 査 を も と に し た 研 究 で あ り 、対 象 エ リ ア の 普 遍 性 に 乏 し
い点は否めない。
このため、本論文においては、路上駐車による走行車両に対する影響をある
程度地域普遍的に把握することを目的とする。
1.3
路上駐車に関する制度概要
道 路 交 通 法 ( 昭 和 3 5 年 法 律 第 1 0 5 号 ) に お い て 、駐 車 と は 、
「車両等が客待ち、
荷 待 ち 、貨 物 の 積 卸 し 、故 障 そ の 他 の 理 由 に よ り 継 続 的 に 停 止 す る こ と (貨 物 の
積卸しのための停止で五分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための停止
を 除 く 。)、 又 は 車 両 等 が 停 止 し 、 か つ 、 当 該 車 両 等 の 運 転 を す る 者 が そ の 車 両
等 を 離 れ て 直 ち に 運 転 す る こ と が で き な い 状 態 に あ る こ と を い う 。」 ( 第 2 条 第
1 8 号 ) と さ れ て い る 。 ま た 、 停 車 と は 、「 車 両 等 が 停 止 す る こ と で 駐 車 以 外 の も
の を い う 。」 ( 同 条 第 1 9 号 ) と さ れ て い る 。
さ ら に 、駐 車 場 法 (昭 和 32 年 法 律 第 106 号 )に お い て は 、路 上 駐 車 場 と 路 外 駐
車 場 の 区 分 が あ る 。 路 上 駐 車 場 と は 、「 駐 車 場 整 備 地 区 内 の 道 路 の 路 面 に 一 定 の
区画を限つて設置される自動車の駐車のための施設であつて一般公共の用に供
さ れ る も の を い う 。」 ( 第 2 条 第 1 号 ) と さ れ て お り 、 こ の 規 定 に 基 づ き パ ー キ ン
グ ・ メ ー タ ー と パ ー キ ン グ ・ チ ケ ッ ト が 設 置 さ れ て い る 。ま た 、路 外 駐 車 場 は 、
「道路の路面外に設置される自動車の駐車のための施設であつて一般公共の用
に 供 さ れ る も の を い う 。」 ( 同 条 第 2 号 ) と さ れ て お り 、 主 と し て 民 間 ( 一 部 公 的
主 体 )に よ っ て 供 給 さ れ て い る い わ ゆ る 一 般 的 な 駐 車 場 で あ る 。
路上における駐車や停車又は路上駐車場において所定の時間を超過した駐車
等については、道路交通法に第 9 節の 2 として「違法停車及び違法駐車に対す
る措置」という節が設けられ、表 1 に示す罰金、違反点及び反則金が定められ
ている。
表1
放置駐車違反及び駐車違反に係る罰金、違反点及び反則金
放 置 駐 車 違 反
罰 金
駐 車 違 反
15 万 円 以 下
10 万 円 以 下
違 反
駐 停 車 禁 止 場 所 等
3 点
2 点
点
駐 車 禁 止 場 所 等
2 点
1 点
反 則
駐 停 車
大 型 車
25,000 円
15,000 円
金
禁 止 場
普 通 車
18,000 円
12,000 円
所 等
二 輪 ・ 原 付 車
10,000 円
7,000 円
駐 車 禁
大 型 車
21,000 円
12,000 円
止 場 所
普 通 車
15,000 円
10,000 円
等
二 輪 ・ 原 付 車
9,000 円
6,000 円
4
1.4
路上駐車の現状と道路交通法改正
平 成 19 年 3 月 の 警 視 庁 調 査 に よ る と 、 東 京 23 区 に お い て は 、 66,826 台 の 瞬
間路上駐車台数
1
の う ち 、 84%を 占 め る 56,259 台 が 違 法 駐 車 で あ っ た 。 し か し 、
平 成 14 年 度 の 警 視 庁 管 内 に お け る 駐 車 違 反 検 挙 総 件 数 は 438,222 件 、 つ ま り 、
一 日 あ た り で も 約 1,300 件 に す ぎ ず 、 事 実 上 ほ と ん ど の 路 上 駐 車 が 無 料 で 行 わ
れていたと言ってよい。
路上駐車に対しては、これまでも諸般の対策が講じられてきたものの、依然
として深刻な社会問題であった。総合規制改革会議における「規制改革の推進
に 関 す る 第 2 次 答 申 」( 平 成 1 4 年 1 2 月 1 2 日 ) に お い て 、 駐 車 違 反 対 応 業 務 の
民間委託について検討を行うこととされた
2
こ と を 受 け 、 平 成 15 年 度 に 警 視 庁
に お い て「 違 法 駐 車 問 題 検 討 懇 談 会 」が 開 催 さ れ 、9 月 に は「 違 法 駐 車 問 題 へ の
対 処 の 在 り 方 に つ い て の 提 言 」が 行 わ れ た 。こ れ ら を 受 け て 平 成 17 年 度 に 道 路
交 通 法 が 改 正 さ れ 、 平 成 18 年 6 月 に 施 行 さ れ た 。 そ の 要 点 は 、 違 法 駐 車 逃 れ を
防ぐための放置違反金制度の導入と民間による効率的な取り締まりを行うため
の駐車監視員制度の導入である。
新法施行の結果、警視庁交通局発表の「新たな駐車対策法制の施行状況につ
いて」によれば、下記のように路上駐車の減少が見られ、一応の効果が上がっ
ているところである。
平 成 1 8 年 6 月 1 日 の 法 施 行 後 1 年 間 に お い て 、東 京 都 内 に お け る 1 日 当 た り
の 違 法 駐 車 標 章 取 付 件 数 は 約 5,700 件 に 増 加 し た 。 ま た 、 平 成 17 年 10 月 と 平
成 18 年 10 月 の 比 較 で 全 国 405 区 間 1,694km に お い て は 違 法 駐 車 台 数 が 1km 当
た り 24.2 台 か ら 9.8 台 に 59.5%減 少 す る と と も に 、 全 国 105 区 間 564km に お い
て は 旅 行 時 間 が 1km 当 た り 3 分 19 秒 か ら 2 分 54 秒 へ と 12.2% 減 少 し た 。 さ ら
に 、 駐 車 車 両 に 係 る 交 通 事 故 に つ い て も 、 平 成 18 年 6 月 か ら 平 成 19 年 4 月 ま
でについて過去 5 年間の同期の平均との比較では、駐車車両衝突事故件数が
2,349 件 か ら 1,707 件 へ と 27%減 少 す る と と も に 、 う ち 死 亡 事 故 に つ い て も 86
件 か ら 58 件 へ と 33% 減 少 し て い る 。 ま た 、 駐 車 車 両 起 因 事 故 件 数 に つ い て も
5 , 8 7 8 件 か ら 5 , 0 0 4 件 へ と 1 5 % 減 少 す る と と も に 、う ち 死 亡 事 故 件 数 に つ い て も
28 件 か ら 25 件 へ と 11% 減 少 し て い る 。
警 視 庁 管 内 に お い て は 、 主 要 路 線 (晴 海 通 り 、 新 宿 通 り 、 明 治 通 り 等 10 路 線
約 3 2 . 1 k m ) に お け る 瞬 間 放 置 駐 車 台 数 ( 1 4 時 か ら 1 6 時 ) は 、平 成 1 8 年 5 月 2 4 日
の 1,051 台 か ら 施 行 後 1 か 月 の 平 成 18 年 6 月 28 日 に は 304 台 へ 71.1% 減 少 、3
1
平日昼間の一定時間内に一定基準以上の道路を対象として、四輪車の駐車台数を計
測し算出したものである。
2 「 都 市 に お け る 交 通 渋 滞 を 緩 和 し 、 効 率 的 な 経 済 活 動 を 実 現 す る た め に は 、 違 法 駐
車問題の解決が重要である。都心部における駐車違反対応を効率化するため、当該業
務の民間委託を推進することが必要である。現在の制度においては、民間委託は、違
法駐車車両の警告等に限られているが、今後、現場における駐車違反対応業務の民間
委託を幅広く行うことができるように、広く国民の意見を踏まえながら、駐車違反に
関 す る 法 制 度 の 在 り 方 を 含 め て 検 討 す べ き で あ る 。」 と さ れ 、 平 成 1 5 年 度 中 に 結 論 を
得ることとされた。
5
ヶ 月 後 の 8 月 23 日 に は 274 台 へ 73 .9% 減 少 、 6 カ 月 後 の 11 月 29 日 に は 448 台
へ 57.4% 減 少 、 1 年 後 の 平 成 19 年 5 月 23 日 に は 363 台 へ 65.5%減 少 し て い る 。
ま た 、 渋 滞 長 (各 区 間 に お け る 1 時 間 ご と の 平 均 渋 滞 長 の 合 計 )に つ い て は 、 平
成 1 7 年 6 ~ 8 月 の 1 2 . 5 3 k m か ら 平 成 1 8 年 6 ~ 8 月 に は 9 . 1 2 k m と 2 7 . 2 % 減 少 、平
成 17 年 9~ 11 月 の 11.67k m か ら 平 成 18 年 9~ 11 月 に は 9.0 8k m と 2 2 . 2 % 減 少 、
平 成 17 年 12 月 ~ 平 成 18 年 2 月 の 12.32km か ら 平 成 18 年 12 月 ~ 平 成 19 年 2
月 に は 8.82km と 28.4%減 少 、 平 成 18 年 3 月 ~ 5 月 の 10.86km か ら 平 成 19 年 3
月 ~ 5 月 に は 8 . 1 8 k m と 2 4 . 7 % 減 少 し た 。ま た 、平 均 旅 行 時 間 ( 5 k m に 換 算 し た 値 )
に つ い て は 、平 成 1 7 年 6 ~ 8 月 の 2 0 分 1 0 秒 か ら 平 成 1 8 年 6 ~ 8 月 に は 1 8 分 1 5
秒 と 9 . 5 % 減 少 、平 成 1 7 年 9 ~ 1 1 月 の 1 9 分 4 8 秒 か ら 平 成 1 8 年 9 ~ 1 1 月 に は 1 8
分 29 秒 と 6.7% 減 少 、 平 成 17 年 12 月 ~ 平 成 18 年 2 月 の 20 分 25 秒 か ら 平 成
18 年 12 月 ~ 平 成 19 年 3 月 に は 18 分 31 秒 と 9.3%減 少 、 平 成 18 年 3 月 ~ 5 月
の 19 分 29 秒 か ら 平 成 19 年 3 月 ~ 5 月 に は 18 分 15 秒 と 6.3%減 少 し た 。
ま た 、岸 井 ( 2 0 0 7 ) に よ れ ば 、道 玄 坂 通 り の 通 算 路 上 駐 車 台 数 は 平 均 し て 新 法 施
行 前 よ り 30%減 少 し た と の 実 地 調 査 が 行 わ れ て い る 。
しかし、これらの効果をもってしても依然として東京、大阪を中心とした大
都市部において路上駐車に係る問題が解消されたとまでは言えない。その理由
と し て は 、第 一 に 、路 上 駐 車 に 係 る 諸 制 度 が 経 済 学 的 知 見 を 適 用 す る こ と な く 、
地域・時間にかかわらず一律に設計されているため、依然として路上駐車を選
択することがドライバーにとって合理的となっていることが指摘される。第二
に、路上駐車については 1 台目が及ぼす外部不経済が極めて大きく、その後路
上駐車台数が増加するにつれて次第に逓減すると考えられることから、現在の
路上駐車水準から多少なりとも路上駐車が減少したとしても、それによる外部
不経済の減少はさほど大きくないためである。
2.路上駐車による走行車両の旅行時間に対する影響に関する計量分析
2.1
路上駐車が走行車両に対して与える影響
路上駐車が走行車両に対して与える影響について考えるに当たっては、道路
の 整 備 に よ る 利 用 者 便 益 が 参 考 と な る 。平 成 1 5 年 3 月 に 国 土 交 通 省 道 路 局 が 発
表した「道路事業の整備に係る費用便益分析マニュアル」においては、道路の
整 備 に よ る 利 用 者 便 益 と は 、道 路 の 整 備 に よ っ て 道 路 利 用 者 が 負 担 す る 金 銭 的 、
時間的、その他すべての費用が軽減される効果であるとされている。主な利用
者 便 益 と し て は 、 旅 行 (走 行 )時 間 の 短 縮 、 燃 料 費 等 の 走 行 経 費 の 減 少 (節 約 )、
交 通 事 故 に よ る 損 害 額 の 減 少 、 渋 滞 緩 和 等 に よ る 定 時 性 (時 間 信 頼 性 )の 向 上 、
運 転 快 適 性 の 向 上 や 運 転 者 の 疲 労 軽 減 な ど が 挙 げ ら れ て い る が 、こ の う ち 上 位 3
つについて便益の計測に用いる原単位を算出している。以下ではこれらについ
て概説する。
6
(1)旅 行 (走 行 )時 間 短 縮 便 益
時間価値原単位とは、自動車 1 台の走行時間が 1 分短縮された場合のその
時 間 の 価 値 を 貨 幣 換 算 し た も の ( 単 位 : 円 / 台 ・ 分 ) で あ り 、① 人 の 機 会 費 用 ( 短
縮 時 間 を 更 な る 労 働 や 余 暇 に 充 て る こ と が で き る こ と に よ る( 金 銭 的 )価 値 ) 、
② 車 両 の 機 会 費 用 ( 短 縮 時 間 に 車 両 を レ ン タ ル に 出 し た り 、追 加 的 な 生 産 活 動
を 行 う な ど で 遊 休 車 両 を 活 用 す る こ と に よ る (金 銭 的 )価 値 ) 及 び ③ 貨 物 の 機
会 費 用 ( 走 行 時 間 の 減 少 分 だ け 貨 物 の 保 有 時 間 が 減 少 し 、早 く 取 引 ( 現 金 化 等 )
を 行 う こ と が で き る こ と に よ る ( 金 銭 的 ) 価 値 ) の 総 和 と し て 算 出 さ れ る 。自 家
用・営業用の別、業務目的・非業務目的の別ごとに算出され、これに走行台
キ ロ 比 率 を か け た も の が 乗 用 車 の 時 間 価 値 原 単 位 と さ れ て い る 。平 成 1 5 年 度
価 格 で は 62.86 円 /台 ・ 分 で あ る 。
(2)走 行 経 費 短 縮 便 益
走 行 経 費 原 単 位 と は 、 自 動 車 1 台 が 1km 走 行 す る の に 必 要 な 走 行 経 費 (単
位 : 円 /台 ・ km)で あ り 、 ① 燃 料 費 (ガ ソ リ ン 及 び 軽 油 に 要 す る 費 用 )、 ② 油 脂
費 (エ ン ジ ン オ イ ル に 要 す る 費 用 )、③ タ イ ヤ ・ チ ュ ー ブ 費 (タ イ ヤ 等 に 要 す る
費 用 )、 ④ 整 備 費 (修 理 等 の 点 検 ・ 整 備 に 要 す る 費 用 )、 ⑤ 車 両 償 却 費 (車 両 の
購 入 に 要 す る 費 用 )か ら な る 。 平 成 15 年 度 価 格 で は 一 般 道 路 (平 地 )40km/h の
場 合 11 .31 円 /台 ・ k m で あ る 。
(3)交 通 事 故 減 少 便 益
交 通 事 故 に よ る 社 会 的 損 失 額 は 、 道 路 ・ 沿 道 区 分 (道 路 種 別 ・ 沿 道 状 況 ・ 車
線 数 ) 毎 に 、単 路 及 び 交 差 点 部 そ れ ぞ れ に つ い て 算 定 さ れ た 人 身 事 故 件 数 に 人
身事故 1 件当たりの損失額をかけることによって算出される。なお、人身事
故 1 件 当 た り 損 失 額 は 、① 人 的 損 失 額 ( = 人 身 事 故 1 件 当 た り 死 傷 者 数 ( 重 度
別 )×死 傷 者 1 人 当 た り 損 失 額 )、 ② 物 的 損 失 額
4
3
(= 人 身 事 故 1 件 当 た り 物 損
事 故 発 生 件 数 ×物 損 事 故 1 件 当 た り 物 的 損 失 額 )、 ③ 渋 滞 損 失 額 (= 渋 滞 に 遭
遇 す る 交 通 量 ( 台 ) × 平 均 損 失 時 間 ( 時 ) × 時 間 価 値 原 単 位 ( 円 / 台・時 ) ) の 3 種 類
の 損 失 額 の 合 計 と し て 算 定 さ れ る 。平 成 1 5 年 度 価 格 で は 死 亡 3 6 , 3 5 9 千 円 / 人 、
重 傷 (後 遺 障 害 )12,660 千 円 /人 、 軽 傷 (傷 害 )1,542 千 円 /人 で あ る 。
路上駐車は、この逆に次の 3 点の外部不経済を発生させていると考えられ
る。
(1)旅 行 (走 行 )時 間 増 加
(2)燃 料 費 等 の 走 行 経 費 の 増 加
(3)(駐 車 車 両 に 起 因 す る )交 通 事 故 に よ る 損 害 額 の 増 加
な お 、「 費 用 便 益 分 析 マ ニ ュ ア ル 」 が 平 成 1 5 年 8 月 の 改 定 か ら 一 定 期 間 経 過
していること、国会や各地の事業評価監視委員会等において事業評価手法に関
する様々な議論がなされたことを踏まえ、費用便益分析を含む事業評価手法に
① 死 亡 、 ② 重 症 (後 遺 障 害 )、 ③ 軽 傷 (障 害 )の 3 分 類 で あ る 。
一般に物損事故は「事故統計」上は把握されていないため、車両事故保険に関する
資料より得られる物損事故件数から人身事故に対する発生倍率を設定している。
3
4
7
つ い て 見 直 し を 行 う た め 、 平 成 20 年 6 月 12 日 に 「 道 路 事 業 の 評 価 手 法 に 関 す
る検討委員会」が設置され、費用便益分析における便益・費用の計算方法、事
業評価手法の考え方等について検討が行われている。以下の分析では特に断り
の な い 限 り 平 成 21 年 2 月 時 点 で 採 用 さ れ て い る 平 成 15 年 度 価 格 を も と に 算 出
した時間価値原単位を用いている。しかしながら、検討中の案では旅行時間短
縮 便 益 に つ い て は 現 行 の 平 成 15 年 度 価 格 に 比 べ て 約 2/3 に 減 少 す る 見 込 み で あ
る 。 今 後 、 検 討 中 の 平 成 20 年 度 価 格 に よ る 時 間 価 値 原 単 位 を 適 用 す れ ば 、 本 論
文の考え方は変わらないものの結果については大きな変化が生じる可能性があ
る。詳細については後述するが、路上駐車車両が及ぼす外部不経済の限界費用
が減少するため、より多くの地点で一定の料金を徴収した上で路上駐車を許容
することが社会的に望ましくなる。つまり、現行でも今回の分析の対象地区で
はない地方部においては、交通容量に対する実交通量が少ないため、路上駐車
による外部不経済が小さく、一定の料金を徴収して又は無料での路上駐車が許
容されるべきと考えられる。走行時間短縮便益の時間価値原単位が減少するこ
とは、路上駐車を一定程度許容すべき区域が拡大するのと同義である。
2.2
Q-V 式 と BPR 関 数
今後行う分析の前提とした既往の研究成
果 と し て 、 Q-V 式 と BPR 関 数 に つ い て こ こ
で 簡 単 に 触 れ て お く 。こ れ ら は 各 リ ン ク の 旅
行 時 間 (旅 行 速 度 )を 各 リ ン ク の 交 通 量 と 交
通容量等のリンク属性の関数で表したリン
クパフォーマンス関数の代表である。
ま ず 、 Q-V 式 に つ い て は 、 交 通 量 (Q)と 走
行 速 度 (V)と の 関 係 を 表 し た も の で あ り 、 こ
図 1:Q-V 式
れを設定することで混雑による速度の低下
を 考 慮 す る こ と が で き る 。 こ の Q-V 式 の 一 般 型 は 、 図 1 に 示 す と お り で あ る 。
Q1:基 本 交 通 容 量 : 原 則 と し て 交 通 容 量 で あ り 、 一 般 交 通 量 調 査 結 果 よ り 、 道
路規制別車線数別に 1 車線あたりの日交通量の平均値を求めている。
Q2:可 能 交 通 容 量 : 渋 滞 が 発 生 す る 状 況 を 想 定 し て お り 、 道 路 構 造 令 (昭 和 45
年 政 令 第 320 号 )第 3 条 に 規 定 す る 第 1 種 の 道 路
5
に つ い て は Q2=Q1×2.0、
そ の 他 の 道 路 に つ い て は Q2=Q1×1.5 を 原 則 と す る 。
V1:初 期 速 度:交 通 量 が 少 な い 場 合 に 走 れ る フ リ ー ス ピ ー ド の 平 均 値 を 示 し て
お り 、規 制 速 度 ま た は 交 通 量 が 少 な い 場 合 の 旅 行 速 度 を 参 考 に 決 め て い る 。
V2:中 間 速 度 : 交 通 量 が ほ ぼ 交 通 容 量 程 度 の 時 の 旅 行 速 度 の 平 均 値 を 示 し て お
り 、 V1 の 50%程 度 を 原 則 と し て い る 。
V3:概 念 と し て は 、 渋 滞 が 発 生 し た 道 路 の 平 均 旅 行 速 度 と し て い る 。 た だ し 、
5
4.1 に お い て 詳 述 す る 。
8
完全に通行止めとすると著しく長距離の迂回交通が発生し、配分結果の交
通 量 が 意 味 を 持 た な く な る た め 、 原 則 的 に V3=5.0km/h と し て 設 定 す る 。
t
し か し 、 Q-V 式 に つ い て は 不 連 続 関 数 で あ る こ と か
t = t
0
{ 1 + 2 . 6 2 ( q / C )
5
ら 、リ ン ク 交 通 量 と 旅 行 時 間 を 単 調 増 加 関 数 と し て 仮
2 0 . 9 t
0
定 し た も の が B P R 関 数 で あ る 。一 般 的 に は 操 作 性 が 高
いという理由から米国道路局で開発された下記の
BPR 関 数 が 用 い ら れ て い る 。な お 、各 変 数 の 定 義 等 は
表 2 のとおりである。
3 . 6 2 t
0
1 . 0 8 t
0
t
0
( q / C )
β
t=t0{1+α(q/C) }
0 . 5
1 . 5
4
図 2:修 正 BPR 関 数
表 2:BPR 関 数 に 用 い ら れ る 各 変 数 の 定 義 等
記 号
定 義
単 位
出 典
備 考
t
旅 行 時 間
分 /km
「平 成 17 年
単 位 距 離 (1km)/混 雑 時 平 均 旅 行 速 度
度 道 路 交 通
により算 出
6
t0
自 由 旅 行 時 間
分 /km
センサス」一
単 位 距 離 (1km)/指 定 最 高 速 度 から算 出
q
時 間 交 通 量
台 /h
般 交 通 量 調
大 型 車 については乗 用 車 換 算 係 数 の2を
査
用 いて乗 用 車 に換 算
C
可 能 交 通 容 量
7
台 /h
箇 所 別
基 本 表
東
混 雑 度 =実 交 通 量 の乗 用 車 換 算 台 数 (台
京 都 特 別 区
/12h)/12 時 間 交 通 容 量 より逆 算 して算 出
なお、パラメータである α と β の値は国によって異なるが、日本では道路状
況 の 近 い オ ラ ン ダ の 道 路 交 通 デ ー タ に 基 づ い て α=2.62,β=5 と い う 値 を 設 定 し た
修 正 BPR 関 数 が 用 い ら れ て い る 。 具 体 的 な 関 数 を 図 2 に 示 す 。
2.3
分析に使用するデータ
路 上 駐 車 に 関 す る デ ー タ は (財 )東 京 都 道 路 整 備 保 全 公 社 の 「 路 上 駐 車 実 態 調
査 」 (平 成 17 年 度 )を 、 交 通 量 に 関 す る デ ー タ は 国 土 交 通 省 の 「 道 路 交 通 セ ン サ
ス
8
」 (平 成 17 年 度 )を 利 用 し た 。
ま ず 、「 路 上 駐 車 実 態 調 査 」 は 、 都 内 2 3 区 に お け る 駐 車 状 況 ( 駐 車 施 設 実 態 ・
路 上 駐 車 実 態 ) を 把 握 す る こ と で 、地 域 の 特 性 に 応 じ た 駐 車 対 策 を 検 討 す る こ と
を 目 的 と し て 行 わ れ て い る 調 査 で あ り 、 東 京 23 区 内 の 各 区 に お い て 主 要 駅 49
地 区 を 抽 出 し 、 お お む ね 当 該 駅 を 中 心 と し た 1km四 方 の 区 域 内 に お い て ① 駐 車
場 施 設 調 査 (位 置 、 箇 所 、 容 量 、 形 態 、 営 業 時 間 、 料 金 等 )、 ② 駐 車 場 利 用 実 態
調 査 (平 日 ・ 休 日 別 、 13・ 15・ 17・ 19・ 21 時 の 駐 車 台 数 、 入 庫 待 ち 等 )、 ③ 路 上
駐 車 実 態 調 査 ( 平 日 ・ 休 日 別 、 1 3・ 1 5・ 1 7・ 1 9・ 2 1 時 の 合 法 ・ 違 法 別 等 の 路 上 駐
車 台 数 )、 ④ ナ ン バ ー プ レ ー ト 調 査 (9 地 区 の 平 日 ・ 休 日 別 、 13~ 21 時 内 の 特 定
6
7
8
1 日のうち最混雑時間帯における重方向のもの
現実の道路条件及び交通条件の下で通過できる乗用車の最大数である。
正式名称は「全国道路・街路交通情勢調査」である。
9
路 線 の 車 線 別 駐 車 時 間 )の 4 つ の 調 査 が 行 わ れ て い る 。な お 、路 上 駐 車 実 態 調 査
の調査方法は、特定の 1 時間の間において当該区域の中を調査員が巡回し駐車
車両を計測するものであるため、正確には路上駐車台数とは延べ路上駐車台数
ではなく、いわゆる瞬間路上駐車台数となる。路上駐車密度は、区域内に駐車
している路上駐車台数を当該区域内の全道路延長で割った平均値として算出す
る
9
。
「道路交通センサス」は、道路における交通量及び道路現況などを調査し、
道路の計画、建設、維持修繕、管理などについての基礎資料を得ることを目的
として、国土交通省道路局によっておおむね 5 年に 1 度行われている調査であ
り 、 交 通 量 ・ 旅 行 速 度 な ど の 実 測 を 行 う 「 一 般 交 通 量 調 査 」、 ア ン ケ ー ト 調 査 等
により地域間の自動車の動きを把握する「自動車起終点調査」に大別される。
このうち、今回の分析で用いた「一般交通量調査」については、高速道路・一
般国道・都道府県道・一部の指定市の一般市道を対象として、道路の幅員構成
や 整 備 状 況 を 調 査 す る 「 道 路 状 況 調 査 」、 自 動 車 ・ 二 輪 車 ・ 歩 行 者 の 交 通 量 を 調
査 す る 「 交 通 量 調 査 」、 自 動 車 で 実 走 し て 速 度 を 測 定 す る 「 旅 行 速 度 調 査 」 の 3
つの調査が行われている。
以上のデータを踏まえ、今回の分析における推計対象として、両調査におい
て 同 一 の 地 点 を カ バ ー し て い る 29 地 点 (詳 細 は 別 表 1 参 照
10
) を 選 択 し た 。デ ー
タ は 平 日 、 休 日 別 に な っ て お り 、 推 計 サ ン プ ル デ ー タ 数 は 58 と な る 。
なお、駐車にはパーキング・メーターなどを利用した合法駐車と駐車禁止場
所への駐車という違法駐車の 2 種類が存在する。本論文において推計する路上
駐車車両による走行車両の旅行時間に対する影響については合法、違法の別を
問わないと考えられる。このため、駐車車両割合は、合法駐車車両を含む道路
上におけるすべての路上駐車車両のデータをもとにして算出している。
2.4
推計方法
可能交通容量は、通常、基準交通容量に当該道路の車線幅員、側方余裕及び
沿道条件の影響による補正を行うことによって算出されている。ところが、路
上駐車については 2 列駐車等駐車の状況が著しい区間については修正係数とし
て 0.65 が 設 定 さ れ て い る も の の 、 そ れ 以 外 の 多 く の 場 合 に つ い て は 考 慮 さ れ て
いない。つまり、路上駐車車両によって本来の可能交通容量は算出値よりも減
少しており、実際の混雑度はより高く、旅行時間は過小に算出されていると考
え ら れ る 。そ こ で 、上 記 の B P R 関 数 を も と と し て 、旅 行 時 間 を 被 説 明 変 数 と し 、
路上駐車密度を説明変数として追加するモデルへの修正を試みることとした。
な お 、 個 別 道 路 (上 り 、 下 り 別 )ご と の 路 上 駐 車 台 数 に つ い て は 、 路 上 駐 車 密 度 を 5
分類して図形式で示されているが、おおむね特異値はない。
1 0 「 道 路 交 通 セ ン サ ス 」 1 0 0 6 の 地 点 に つ い て は 、「 路 上 駐 車 実 態 調 査 」 の 高 輪 台 駅 地
区と五反田駅地区の双方において用いている。これは「道路交通センサス」の調査地
点が両駅地区のほぼ中間にあり、かつ両駅地区が隣接しているとともに、道路の形状
から流入、流出がほとんどないと考えられるためである。
9
10
なお、路上駐車車両が走行車両に対して及ぼす旅行時間の増加という外部不
経済の限界費用は、路上駐車台数が増大するにつれて逓減する関係にあると考
えられる。また、旅行時間には自由旅行時間、混雑度、路上駐車密度の他にも
車線幅、大型車混入率、信号交差点密度などが影響を与えると考えられること
から、これらについても説明変数に加えることとした。
また、旅行時間にはオフィス街や商業地などその地区特有の事情が影響を及
ぼ し て い る と 考 え ら れ る こ と か ら 、地 域 特 性 変 数 (A)に つ い て も 説 明 変 数 と し て
モ デ ル に 加 え た 。こ の 地 域 特 性 変 数 に つ い て は 、さ ま ざ ま な も の を 試 し た 結 果 、
最 終 的 に 最 も モ デ ル へ の 当 て は ま り の よ か っ た 「 平 成 12 年 国 勢 調 査 、 平 成 13
年事業所・企業統計調査等のリンクによる地域メッシュ統計」
11
(日 本 測 地 系
1kmメ ッ シ ュ )に お け る 「 昼 間 人 口 千 人 当 た り 飲 食 料 品 小 売 店 数 」 を 採 用 し た 。
すなわち、路上駐車密度が高いほど旅行時間が増加するという仮説について
以 下 の モ デ ル を た て て 通 常 の OLS の 手 法 で 推 計 し た 。 な お 、 各 変 数 の 定 義 等 は
表 3 のとおりである。
t =α+t0{β+γ(q/C)5}+δD1/2+ ζS+ ηB+ θW+ ιA×H+κH+ε
表 3:推 計 式 に 用 い ら れ る 各 変 数 の 定 義 等
記 号
定 義
単 位
出 典
D
路 上 駐 車 密 度
台 /100m
「路 上 駐 車 実 態
調 査 」
S
信 号 機 密 度
機 /km
備 考
最 混 雑 時
12
における「平 均
路 上 駐 車 車 両 数 」を採 用
「平 成 17 年 度 道
信 号 のある交 差 点 数 /区 間
路 交 通 センサス」
距 離 から算 出
B
大 型 車 混 入 率
%
一 般 交 通 量 調 査
W
車 道 幅 員
m/車 線
箇 所 別 基 本 表
A
地 域 特 性 変 数
H
休 日 特 性 変 数
車 道 幅 員 /車 線 数 から算 出
後 述
平 日 =1,休 日 =0
11
分 析 時 点 に お い て 平 成 17 年 度 の 国 勢 調 査 に 基 づ く 当 該 メ ッ シ ュ 統 計 が 整 備 さ れ て
いないため、年度が異なるものの最新の統計を用いることとした。
1「
2 路 上 駐 車 実 態 調 査 」に お い て は 1 3 , 1 5 , 1 7 , 1 9 , 2 1 時 の 5 時 間 帯 の デ ー タ し か 存 在 せ ず 、
「 道 路 交 通 セ ン サ ス 」 の 時 間 別 交 通 量 は 7 時 台 か ら 19 時 台 ま で で あ る た め 、 14 時 ,16
時 ,18 時 に つ い て は 前 後 の 時 間 の 平 均 値 を 、 13 時 以 前 が 最 混 雑 時 の 場 合 は 一 日 の 平 均
の値を採用している。
11
2.5
分析結果
上記のモデルを基本として複数の場合について分析を行ったところ、結果は
以下に示すとおりとなった。
(1)平 成 17 年 度 の デ ー タ の み を 用 い た 場 合
t^=-1.387+t0{1.641***-0.017*(q/C)5}+1.347***D1/2-0.097S-0.038B
(1.388)
(0.599)
(0.009)
(0.367)
(0.094) (0.041)
+0.508W+0.414***A×H-0.782H+ε (R2=0.2972)
(0.311)
(0.113)
(0.588)
注 1)***,**,*は そ れ ぞ れ 1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す 。
注 2) ()内 は 標 準 誤 差
路 上 駐 車 密 度 (D1/2)が 増 加 す る ほ ど 旅 行 時 間 (t)が 増 加 す る 正 の 関 係 を 示 し て
お り 、仮 説 に 整 合 的 で あ る 。具 体 的 に は 、他 の 条 件 を 一 定 と し た 場 合 に お い て 、
100m 当 た り の 路 上 駐 車 密 度 が 0 台 か ら 1 台 に 増 加 す る と 、1km の 通 過 に 係 る 旅
行 時 間 は 1.347 分 増 加 す る 。し か し 、D1/2 と い う 仮 定 を お い て い る た め 、路 上 駐
車 密 度 が 2 台 に 増 加 し て も 1km の 通 過 に 係 る 旅 行 時 間 の 増 分 は 1.905 分 、 す な
わち、路上駐車密度が 1 台目から 2 台目に増加することに伴う限界的な旅行時
間 の 増 加 は 0.558 分 に と ど ま り 、 以 下 、 台 数 が 増 加 す る ご と に 限 界 的 な 旅 行 時
間 の 増 加 量 は 逓 減 し て い く 。な お 、こ の 係 数 に つ い て は 1 % 水 準 で 統 計 的 に 有 意
である。
ま た 、地 域 特 性 変 数 と し て 採 用 し た「 昼 間 人 口 千 人 当 た り 飲 食 料 品 小 売 店 数 」
については、ビジネス街においては昼間人口が多い割に飲食料品小売店数が少
ないことからその値は小さくなり、商業地においては昼間人口が少ない割に飲
食料品小売店数が多いことからその値は大きくなると考えられる
13
。推計から
は昼間人口千人当たりの飲食料品小売店数が多いほど自動車通過時間が増大す
る と い う 正 の 関 係 が 得 ら れ た 。ま た 、こ れ は 1 % 水 準 で 統 計 的 に 有 意 な 値 と な っ
ている。
し か し な が ら 、 混 雑 度 (q/C)の 5 乗 の 係 数 に つ い て は 、 10%水 準 で 統 計 的 に 有
意 な 値 と し て わ ず か な が ら 負 の 値 が 推 計 さ れ て お り 、 既 存 の BPR 関 数 か ら 帰 結
される正の関係と適合しないという問題点がある。
(2)D の 乗 数 を 変 化 さ せ た 場 合
D の 乗 数 1/2 に つ い て は 先 行 研 究 の 後 藤・中 村 (2005)を 参 考 に し た も の で あ る
13
昼間人口の大小にかかわらずそもそも飲食料品小売店が存在しなければ地域特性
変 数 も 小 さ な 値 を と る こ と に な る が 、本 論 文 に お い て は 東 京 2 3 区 内 の 駅 周 辺 の 主 要 道
路を対象にしていることから、飲食料品小売店がないような場所は存在しないという
仮定をおいている。
12
が 、推 計 式 の 頑 健 性 を 補 強 す る た め 、D の 乗 数 を 1 / 2 以 外 に さ ま ざ ま に 変 化 さ せ
て 同 様 の 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 D を 1 乗 と し た 場 合 に は 係 数 は 統 計 的 に 1%
水 準 で 有 意 な も の と し て 0 . 4 3 1 、D に つ い て 対 数 を と っ た 場 合 に は 係 数 は 統 計 的
に 1%水 準 で 有 意 な も の と し て 0.797 と い う 値 を 得 た 。 D1/2 の 場 合 に お い て は 、
D = 1 の と き t = 1 . 3 4 7 、D = 2 の と き t = 1 . 9 0 5 、D = 3 の と き t = 2 . 3 3 3 、D = 4 の と き t = 2 . 6 9 4
と い う 値 を そ れ ぞ れ と る 。 今 回 の 分 析 に 用 い た デ ー タ に お け る D の 平 均 は 2.24
で あ り 、D が 2 か ら 3 に 増 加 し た 場 合 の t の 増 分 は 0.428 で あ る こ と か ら 、D の
1 乗 に つ い て 推 定 さ れ た 係 数 0.431 は 妥 当 な 値 で あ る と 考 え ら れ る 。ま た 、D に
つ い て 対 数 を と っ た 場 合 に お い て は 、 決 定 係 数 が 0.233 と (1)の 0.297 に 比 べ て
若 干 減 少 し て い る も の の 、 D1/2 の 傾 き と し て は 違 和 感 の あ る 数 値 と ま で は 言 え
ない。
(3)D 以 外 の 説 明 変 数 に つ い て 乗 数 を 変 化 さ せ た 場 合
次 に 、(1)で は 直 線 的 に 変 化 す る と 仮 定 し て い た S,B,W な ど 他 の 説 明 変 数 に つ
い て も 、t 0 ( q / C ) 5 や D 1 / 2 の よ う に 乗 数 を 変 化 さ せ る こ と に よ っ て 更 に あ て は ま り
のよいモデルを考えることとした。
それぞれの説明変数について、次のような考え方からより妥当と思われる乗
数を設定することとした。
・ 信 号 機 密 度 (S): 信 号 機 密 度 が 増 加 す る ほ ど 走 行 車 両 が 赤 信 号 で 停 止 す る 確
率と延べ停止時間は増加するという正の関係にあると考え
られることから、走行時間は増加するものと考えられる。
しかしながら、その限界的な増加時間については次第に逓
減 す る と 考 え ら れ る た め 、 S1/2 と す る 。
・ 大 型 車 混 入 率 (B): 大 型 車 ほ ど 加 速 度 が 小 さ い た め 速 度 が 遅 く 、 旅 行 時 間 は
増加するものと考えられる。しかしながら、逆に大型車は
プロドライバーが多いことから、さほど旅行時間が増加し
ない可能性も否定できない。このため、大型車混入率と走
行時間の関係については、逓増する可能性もあるし、逓減
す る 可 能 性 も あ り 、何 と も 言 え な い こ と か ら 、1 乗 の ま ま 変
化させないこととする。
・車 道 幅 員 ( W ):車 道 幅 員 が 広 い ほ ど 側 方 車 両 に 注 意 す る 必 要 が な く な る た め 、
走行速度は向上し旅行時間は減少するものと考えられる。し
かしながら、車道幅員が十分広くなればその限界的な減少時
間はゼロに近づく、すなわち逓減していくものと考えられる
た め W-1/2 と す る 。
以上の考え方を踏まえ、さまざまに乗数を変化させた場合を試行した結果、
最も当てはまりの良いモデルは次のとおりとなった。
13
t^=3.154+t0{1.716***-0.017**(q/C)5}+1.370***D1/2-0.009 S1/2-0.033B
(2.490)
(0.608)
(0.008)
(0.375)
(0.008)
(0.041)
-5.840 W-1/2+0.413***A×H-0.833H+ε (R2=0.2899)
(4.146)
(0.114)
(0.592)
注 1)***,**,*は そ れ ぞ れ 1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す 。
注 2) ()内 は 標 準 誤 差
他の条件を一定とした場合において、路上駐車密度が増加するほど旅行時間
が 増 加 す る 正 の 関 係 を 示 し て お り 、 仮 説 に 整 合 的 で あ る 。 具 体 的 に は 、 100m 当
た り の 路 上 駐 車 密 度 が 0 台 か ら 1 台 に 増 加 す る と 、 走 行 車 両 の 1km の 通 過 に 係
る 旅 行 時 間 は 1.370 分 増 加 す る 。し か し 、D1/2 と い う 仮 定 を お い て い る た め 、路
上 駐 車 密 度 が 2 台 に 増 加 し て も 走 行 車 両 の 1km の 通 過 に 係 る 旅 行 時 間 の 増 分 は
1 . 9 3 7 分 、す な わ ち 、路 上 駐 車 密 度 が 1 台 目 か ら 2 台 目 に 増 加 す る こ と に 伴 う 限
界 的 な 旅 行 時 間 の 増 加 は 0.567 分 に と ど ま り 、 以 下 台 数 が 増 加 す る ご と に 限 界
的 な 旅 行 時 間 の 増 加 量 は 逓 減 し て い く と い う (1)と ほ ぼ 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た 。
ま た 、 こ の 係 数 に つ い て は 1% 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る 。
ま た 、他 の 統 計 的 に 有 意 な 係 数 に つ い て も 、ほ ぼ ( 1 ) と 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た 。
し か し 、( 1 ) と 同 様 に t 0 ( q / C ) 5 の 係 数 が 5 % 水 準 で 統 計 的 に 有 意 な 値 と し て わ ず
か な が ら 負 の 値 を と っ て お り 、 既 存 の BPR 関 数 か ら 帰 結 さ れ る 正 の 関 係 と 整 合
しないという問題点が残る。
(4)平 成 9 年 度 の デ ー タ を 追 加 し た 場 合
(1)か ら (3)ま で に つ い て は 、 い ず れ も 平 成 17 年 度 の み の デ ー タ を 使 用 し て お
り 、 サ ン プ ル デ ー タ 数 が 58 と や や 少 な い と い う 問 題 点 が あ る 。 こ の た め 、 サ ン
プ ル デ ー タ 数 の 増 加 を 図 る べ く 、 (3)を 前 提 と し て 、 過 年 度 に お い て 2 つ の 調 査
の調査年度が一致する平成 9 年度
14
の サ ン プ ル デ ー タ 4 0 個 を 追 加 し 、年 次 特 性
変 数 ( Y: H 9 - 1 0 = 1 , H 1 7 = 0 ) を 導 入 し た モ デ ル を 構 築 し 推 計 を 試 み た 。
t^=1.421+t0{1.494***-0.014*(q/C)5}+0.975***D1/2+0.003 S1/2-0.001B
(1.954)
(0.506)
-2.401 W
-1/2
(3.354)
(0.008)
+0.260
(0.090)
***
(0.341)
(0.008)
(0.035)
2
A × H - 0 . 3 9 4 Y- 0 . 2 5 2 H + ε ( R = 0 . 1 7 2 0 )
(0.285) (0.495)
注 1)***,**,*は そ れ ぞ れ 1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す 。
注 2) ()内 は 標 準 誤 差
路 上 駐 車 密 度 (D1/2)が 増 加 す る ほ ど 旅 行 時 間 が 増 加 す る 正 の 相 関 を 示 し て お
り、仮説に整合的である。具体的には、他の条件を一定とした場合において、
14
「 路 上 駐 車 実 態 調 査 」 に つ い て は 平 成 9 年 度 と 平 成 10 年 度 の 2 カ 年 度 に わ た っ て
調査が行われている。
14
100m 当 た り の 路 上 駐 車 密 度 が 0 台 か ら 1 台 に 増 加 す る と 、1km の 通 過 に 係 る 旅
行 時 間 は 0.975 分 増 加 す る 。し か し 、D1/2 で あ る た め 、路 上 駐 車 密 度 が 2 台 に 増
加 し て も 1km の 通 過 に 係 る 旅 行 時 間 は 1.379 分 、 す な わ ち 路 上 駐 車 密 度 が 1 台
目 か ら 2 台 目 に 増 加 す る こ と に 伴 う 限 界 的 な 旅 行 時 間 の 増 加 は 0.404 分 に と ど
まり、以下台数が増加するごとに限界的な旅行時間の増加量は逓減していくと
いう結果が得られた。他の統計的に有意な説明変数の値も含めて係数の値こそ
や や (1)と 比 べ る と 小 さ い も の の ほ ぼ 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た 。 ま た 、 こ の 係 数 に
つ い て は 1%水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る 。
こ の こ と か ら 、 (1)か ら (3)ま で に つ い て は 、 サ ン プ ル 数 が 58 と や や 少 な い も
のの、推計結果の信頼性については特に問題ないものと考えられる。
ただし、通常、サンプル数を増やすと決定係数は上昇するが、今回の試算で
は 逆 に 0.172 と 半 分 程 度 に 低 下 す る 結 果 と な っ た 。 そ の 理 由 と し て は 、 年 次 特
性 変 数 で は 十 分 な コ ン ト ロ ー ル が で き て い な い (他 の 要 因 が 関 与 し て い る )可 能
性があることや、追加した平成 9 年度のデータについては、休日の最混雑時旅
行速度のデータが計測されていない地点や路上駐車密度を算出していない地点
があり、これらの地点を除外しているため場所的な偏りがあることが考えられ
るが、その原因を突き止めることは本論文の本旨ではないため省略する。
ま た 、 依 然 と し て 、 t0(q/C)5 の 係 数 が 1%有 意 水 準 で わ ず か な が ら 負 の 値 を と
っており、仮説に適合していないという問題が残されている。
(5)説 明 変 数 か ら t0(q/C)5 を 除 外 し た 場 合
既 存 の BPR 関 数 か ら t0(q/C)5 は 旅 行 時 間 t と 正 の 相 関 関 係 が あ る も の と 考 え
ら れ る が 、上 記 の ( 1 ) か ら ( 4 ) ま で の 分 析 結 果 で は 係 数 の 有 意 水 準 こ そ 異 な る も の
のいずれもわずかながら係数がマイナスとなっている。
t 0 ( q / C ) 5 は 今 回 の 推 計 に お い て 必 須 の 説 明 変 数 で は な い が 、推 計 の 頑 健 性 を 確
保 す る た め 、説 明 変 数 か ら t 0 ( q / C ) 5 を 除 外 し た モ デ ル に つ い て 分 析 を 行 っ て も 路
上駐車と旅行時間の関係について同じ結果を得られるかどうかを確認すべく分
析を行った。
t^=2.966+ 1.407**t0+1.373***D1/2-0.004S1/2-0.031B
(2.564) (0.607)
(0.386)
(0.008)
(0.042)
- 5 .34 4W - 1 / 2 + 0 . 3 11 * * * A ×H- 0 .65 4H + ε ( R2 =0.2 463 )
(4.264)
(0.106)
(0.603)
注 1)***,**,*は そ れ ぞ れ 1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す 。
注 2) ()内 は 標 準 誤 差
路 上 駐 車 密 度 (D1/2)が 増 加 す る ほ ど 旅 行 時 間 が 増 加 す る 正 の 関 係 を 示 し て お
り、仮説に整合的である。具体的には、他の条件を一定とした場合において、
1 0 0 m 当 た り の 路 上 駐 車 密 度 が 0 台 か ら 1 台 に 増 加 す る と 、走 行 車 両 の 1 k m の 通
15
過 に 係 る 旅 行 時 間 は 1.373 分 増 加 す る 。 以 下 台 数 が 増 加 す る ご と に 限 界 的 な 旅
行 時 間 の 増 加 量 は 逓 減 し て い く と い う ほ ぼ (1)か ら (3)ま で と ほ ぼ 同 様 の 結 果 が
得 ら れ た 。 ま た 、 統 計 的 に 有 意 な 結 果 が 得 ら れ た 他 の 説 明 変 数 に つ い て も 、 (1)
か ら (3)ま で と ほ ぼ 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た 。
こ の こ と か ら 、混 雑 度 t 0 ( q / C ) 5 を 説 明 変 数 と し て 加 え な く て も 路 上 駐 車 密 度 と
旅行時間の関係については同様の結果が得られることが明らかとなった。
(6)ま と め
以 上 、(1)か ら (5)ま で い ず れ も D1/2 の 係 数 は 1 か ら 1.4 ま で の 範 囲 内 に あ る と
と も に 、1%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 な 値 で あ る 。す な わ ち 、100m 当 た り の 路 上 駐
車 密 度 が 0 台 か ら 1 台 に 増 加 す る と 、 走 行 車 両 の 1km の 通 過 に 係 る 旅 行 時 間 は
1~ 1.4 分 増 加 し 、 そ の 後 路 上 駐 車 密 度 が 増 加 す る に つ れ て 限 界 的 な 旅 行 時 間 の
増加分は減少していくという仮説が検証された。そこで、以下では計算の簡便
化 の た め 、 (1)を 用 い て 分 析 を 進 め て い く 。
な お 、そ の 他 の 説 明 変 数 で あ る 信 号 機 密 度 ( S ) 、大 型 車 混 入 率 ( B ) 、道 路 幅 員 ( W ) 、
休 日 特 性 変 数 (H)に つ い て は 、 (1)か ら (5)ま で の い ず れ の 方 法 に よ っ て も 有 意 な
結果が得られなかった。
3.路上駐車を社会的に最適化するための方策
3.1
理論
路上駐車の及ぼす走行車両の旅行時間の増大という外部不経済に対しては、
交通量の多い昼間は外部不経済が大きいため禁止的に高い路上駐車料金を設定
して路上駐車を許容すべきでない。一方で、外部不経済が小さい交通容量に余
裕のある夜間などは無料での路上駐車を許容すべきである。また、その中間の
段階として一定の台数について有料で路上駐車を許容する段階が存在する。
ここでは、厚生経済学の外部不経済の概念を用いて、教科書などによく登場
する通常の場合と今回の路上駐車に係る場合について、その違いに着目しつつ
理論的な考察を加えることとする。
路上駐車に対してより高い効用を得る
人 か ら 順 に 路 上 駐 車 を し て い く 。こ の 行 動
は駐車場への駐車から得られる効用より
路上駐車から得られる効用が大きい限り
継 続 す る 。ま た 、路 上 駐 車 に よ る 走 行 車 両
の旅行時間に対する外部不経済の限界費
用 に つ い て は 、先 に も 述 べ た よ う に 最 初 の
一 台 目 に よ る も の が 非 常 に 大 き く 、路 上 駐
車台数の増大とともに逓減していくと考
図 3:通 常 の 場 合
えられる。限界費用曲線と駐車需要関数との交点が、最適な路上駐車価格・台
16
数を与えることとなる。
な お 、図 3 に 示 す 通 常 の 場 合 、私 的 限 界 費 用 曲 線 ( P M C ) と 社 会 的 限 界 費 用 曲 線
(SMC)の 差 と し て 表 さ れ る 外 部 不 経 済 は 外 部 不 経 済 の 発 生 原 因 行 為 の 量 が 増 大
す る と 逓 増 し て い く と 考 え ら れ る 。 こ の 場 合 は 、 当 初 は PMC と D(需 要 関 数 )の
交 点 E 0 に お い て 外 部 不 経 済 の 発 生 原 因 行 為 量 X 0 、外 部 不 経 済 の 発 生 原 因 行 為 に
関 す る 価 格 P0 が 実 現 さ れ て い る 。 し か し 、 こ の と き 灰 色 の 部 分 で 表 さ れ る 死 荷
重 ( D . W. L ) が 発 生 し て い る こ と か ら 、 社 会 的 に 最 適 な 状 態 と は 言 え な い 。 社 会 的
に 最 適 な 状 態 は SMC と D の 交 点 E*で あ り 、 こ の と き 死 荷 重 は 消 滅 し 、 余 剰 が
最 大 化 さ れ る 。こ の と き の 外 部 不 経 済 の 発 生 原 因 行 為 は X * 、そ の 価 格 は P * と な
る。
これに対して、図 4 に示す今回の分析では、単位時間当たりの路上駐車料金
を 一 定 の 値 と す れ ば 、 初 期 状 態 に お い て は PMC と D の 交 点 E0 に お い て 路 上 駐
車 台 数 は X0、 路 上 駐 車 価 格 は P0 が 実 現 す る こ と と な る 。
し か し 、初 期 状 態 に お け る 社 会 的 限 界 費 用 曲 線 を S M C 1 と す る と 、濃 い 灰 色 で
表わされる死荷重が発生している。社会的に最適な状態はこの死荷重が消滅す
る SMC1 と D の 交 点 で あ る E1 点 で あ
り 、 こ の と き 路 上 駐 車 台 数 は X1 に 減
少 し 、路 上 駐 車 価 格 は P 1 に 上 昇 す る 。
さ ら に SMC が 上 昇 す る に つ れ て 社 会
的に最適な点は D の上を左に移動し、
SMC2 を と っ た 場 合 均 衡 は E2 点 と な る 。
路上駐車台数 X は自然数しかとらな
い こ と か ら 、 X2 が 1 を 下 回 る と 社 会
的に最適な状態は路上駐車に対して
X=1 の と き の 駐 車 需 要 関 数 の 価 格 (正
確 に は P2)よ り も 高 い 料 金 を 徴 収 し 路
上駐車を許容しないということにな
図 4:今 回 の 分 析
る。
一 方 、社 会 的 限 界 費 用 曲 線 が S M C 3 を と り 、路 上 駐 車 に よ る 外 部 不 経 済 が さ ほ
ど 大 き く な い 場 合 に は 、 社 会 的 に 最 適 な 状 態 は E3 点 と な り 、 こ れ を 実 現 す る た
め に は 路 上 駐 車 価 格 を P3 の 水 準 に 設 定 す る 必 要 が あ る 。 や が て 社 会 的 限 界 費 用
曲 線 が SMC4 ま で 低 下 す る と 、 社 会 的 に 最 適 な 状 態 は E4 点 よ り 右 に あ る X 軸 上
の点となり、このとき路上駐車価格は 0 となる。すなわち、駐車スペースの許
す限り駐車を需要するすべての車を路上駐車させることが社会的に最適である
という結果になる。
このため、以下では社会的に最適な路上駐車の状態を実現するにはどのよう
な施策をとるべきか、すなわち、地域ごと・時間ごとに路上駐車料金をいくら
に設定すればよいかを分析する。その結果、現行制度における駐車違反料金の
設定が不合理であることを検証できる。
17
ただし、これまでの説明及び以下の試算における「社会的に最適な状態」と
は、既存の道路交通量を所与のものとした場合において、路上駐車密度のみを
変化させることによって達成されるものであるという条件が付いていることに
留意する必要がある。
そもそも絶対的な交通量が可能交通容量を超過している場合に社会的に最適
な道路交通の状態を実現するためには、サプライサイドの手段として道路の拡
幅などによって可能交通容量を拡大するか、デマンドサイドの手段としてピー
クロードプライシングなどの手法によってそもそも道路需要を可能交通容量以
下に減少させるか、またはその組み合わせによるかのいずれかしかない。本研
究 に お い て は 、東 京 2 3 区 内 の 駅 周 辺 の 主 要 道 路 に お け る 昼 間 時 間 帯 を 分 析 対 象
と し て い る た め 、 平 均 混 雑 度 は 平 日 で 1.083 と 1 を 超 過 し 、 休 日 で も 0.933 と 1
に極めて近い値になっているため、走行車両相互間で引き起こす混雑による外
部不経済は大きく、混雑率を減少させることによって走行時間の短縮が可能と
なり外部不経済の費用を縮小できるものと考えられる。このため、道路交通全
体について考えれば、路上駐車密度と混雑度を同時に操作して社会的に最適な
交通量及び路上駐車料金・台数を実現すべきものであるが、今回の試算におい
ては、混雑度・路上駐車密度という 2 つの説明変数と旅行時間との関係を同時
に満たすモデルを導出できなかったこともあり、路上駐車密度を最適化するこ
とのみにとどまっているものである。
3.2
社会的に最適な路上駐車料金、路上駐車台数
以 下 、 2.5 に お い て 分 析 の 対 象 と し た 29 地 区 に つ い て 、 社 会 的 に 最 適 な 路 上
駐車料金・台数を算出する。その際、路上駐車実態調査において調査対象とし
た 道 路 の 1km当 た り の 平 均 駐 車 台 数 に 着 目 し て 以 下 の 計 算 を 行 っ た 。 結 果 は 別
表 2 のとおりであるが、その算出過程を小職の所属する政策研究大学院大学
15
に最も近接している六本木地区を例として以下に示すこととする。
まず、当該地区における平日・休日別、上り・下り別の混雑度と路上駐車密
度は以下の表 4 のとおりである。
表 4:六 本 木 地 区 に お け る 混 雑 度 と 路 上 駐 車 密 度
13 時
17 時
平 日
休 日
平 日
休 日
平 日
休 日
混 雑 度 (上 り )
0.988
0.647
1.151
0.762
0.841
0.678
混 雑 度 (下 り )
0.828
0.558
0.841
0.558
0.757
0.582
1.4
1.0
2.0
1.7
1.9
1.5
路 上 駐 車 密 度 (台 /100m)
15
15 時
東京都港区六本木 7 丁目に位置する。
18
ま た 、2.5 で 求 め ら れ た 路 上 駐 車 密 度 と 旅 行 時 間 に 係 る 相 関 式 に つ い て 、計 算
の簡略化のため、寄与度の大きい変数のみからなる次の関数について計算を行
った。
〔 平 日 〕 t=1.2{1.641-0.017(q/C)5}+1.347D1/2+ 0.414×1.5
〔 休 日 〕 t=1.2{1.641-0.017(q/C)5}+1.347D1/2+ 0.414×0
この式に表 4 のデータを代入することにより、時間帯別、上下線別、平日・
休日別に路上駐車密度による旅行時間の増加分が簡易に計算される。
次 に 、上 記 で 算 出 さ れ た 旅 行 時 間 の 増 加 分 を 金 銭 換 算 す る 。換 算 に 際 し て は 、
国 土 交 通 省 道 路 局 が 平 成 1 5 年 に 発 表 し た「 道 路 事 業 に お け る 費 用 便 益 分 析 マ ニ
ュ ア ル 」を 用 い る 。路 上 駐 車 車 両 に よ る 外 部 不 経 済 に は 、主 と し て ( 1 ) 旅 行 ( 走 行 )
時 間 増 加 、(2)燃 料 費 等 の 走 行 経 費 の 増 加 、(3)(駐 車 車 両 に 起 因 す る )交 通 事 故 に
よ る 損 害 額 の 増 加 の 3 種 類 が あ る が 、 こ こ で は (1)の 旅 行 (走 行 )時 間 増 加 の み を
外 部 不 経 済 と し て 算 出 す る こ と と す る 。な お 、(2)及 び (3)に つ い て 算 出 し な い 理
由は次のとおりである。
(2)燃 料 費 等 の 走 行 経 費 に つ い て
走行経費減少便益は基本的に速度が遅いほど大きく、速度が速くなるにつ
れて減少する。本論文において分析の対象とした地区の中で最混雑時におけ
る旅行速度が最も低い平日の金町駅地区においても、路上駐車密度をゼロに
す る こ と に よ っ て 最 混 雑 時 に お け る 旅 行 速 度 を 6.9km/h を 14.7km/h に 増 加 さ
せ る こ と が で き る が 、こ れ よ り 幅 の 広 い 5 k m / h か ら 1 5 k m / h に 増 加 す る 際 の 時
間 価 値 原 単 位 の 増 加 分 で も 11.76 円 /台 ・ km に す ぎ な い 。 ま た 、 分 析 対 象 の 地
区 平 均 で は 、最 混 雑 時 に お け る 旅 行 速 度 は 平 日 で 1 7 . 8 7 k m / h 、休 日 で 1 8 . 4 5 k m / h
で あ り 、仮 に こ れ ら が 走 行 経 費 減 少 便 益 を 最 小 に す る 4 5 k m / h に な っ た と し て
も 走 行 経 費 減 少 便 益 は 3 円 /台 ・ km 程 度 増 加 す る に す ぎ な い 。 こ れ は 走 行 時
間 減 少 便 益 の 時 間 価 値 原 単 位 6 2 . 7 6 円 / 台・k m に 比 べ て 極 め て 小 さ い 値 で あ る
ことから、計算の簡便化のために算出しないこととする。
(3)(駐 車 車 両 に 起 因 す る )交 通 事 故 に よ る 損 害 額 に つ い て
路上駐車車両によって引き起こされる事故件数、死亡者数、負傷者数にお
いては、東京都全体におけるデータは存在するものの、分析の対象とした地
区における個別データは存在しない。なお、類似のものとして道路交通セン
サスに各地区別の交通事故の事故件数、死亡者数、負傷者数についてのデー
タがあるが、データは国道に限られており、都道については存在しない。分
析にはこれらのデータに関する制約が存在する。また、データのある国道に
お い て も 事 故 は 年 200 件 程 度 で あ り 、 全 交 通 事 故 件 数 に 占 め る 路 上 駐 車 原 因
の事故の割合を考慮すれば、本論文の分析単位である 1 時間に換算したとき
の額は無視できるほど極めて小さいものになると考えられることから、計算
の簡便化のために算出しないこととする。
ま た 、旅 行 (走 行 )時 間 増 加 に つ い て も 、厳 密 に は 自 家 用 ・ 営 業 用 の 別 、業 務 ・
非業務の別を考慮した上で走行台キロ比率を乗じて乗用車の時間価値原単位を
19
決 定 す べ き で あ る が 、 計 算 の 簡 便 化 の た め 、 乗 用 車 の 時 間 価 値 原 単 位 62.86 円 /
台・分を用いることとする。
な お 、 こ の 値 は 全 国 平 均 の 値 で あ り 、 今 回 の 分 析 に お い て 対 象 と し た 東 京 23
区内においては、時間価値原単位の算出において用いられる各種人件費が全国
平均よりも高いこと、また、営業用車の比率、業務目的車の比率ともに全国平
均よりも高いと考えられるため、本論文において分析の対象とした地区におけ
る時間価値原単位はこれより大きなものとなる可能性が高いことに留意する必
要がある。
こうして、全路上駐車車両が全走行車両に対して及ぼす 1 時間当たりの外部
不 経 済 に よ る 費 用 =路 上 駐 車 密 度 に よ る 旅 行 時 間 の 増 加 分 (単 位 :分 /台 )×走 行 台
数 (単 位 :台 /h)×旅 行 (走 行 )時 間 増 加 の 時 間 価 値 原 単 位 (62.86 円 /台 ・ km)と し て 表
される。その値は以下の表 5 のとおりである。
表 5:六 本 木 地 区 に お け る 全 路 上 駐 車 車 両 に よ る 外 部 不 経 済 の 費 用
13 時
15 時
17 時
平 日
休 日
平 日
休 日
平 日
休 日
上 り
¥175,626
¥94,833
¥244,519
¥145,506
¥174,019
¥121,643
下 り
¥147,173
¥99,405
¥177,701
¥106,535
¥156,745
¥104,428
な お 、 最 大 は 銀 座 駅 地 区 平 日 13 時 の 下 り 線 で ¥573,060、 最 小 は 大 泉 学 園 駅 地
区 休 日 17 時 の 上 り 線 で ¥17,526 で あ っ た 。
次 に 、追 加 1 台 ご と の 路 上 駐 車 に 伴 う 外 部 不 経 済 に
よ る 費 用 を 算 出 す る 。 こ れ は 、 D1/2 の 傾 き (D-1/2/2)と
し て 求 め ら れ る 。路 上 駐 車 密 度 に つ い て D 1 / 2 と い う 仮
定 を お い た 場 合 、図 5 の 積 分 の 面 積 に 示 す よ う に お お
むね 1 台目の車両はその後の全車両数が及ぼす外部不
経 済 に よ る 費 用 の 65%を 占 め て い る こ と か ら 、 1 台 目
図 5:路 上 駐 車 密 度 と
の 車 両 が 及 ぼ す 外 部 不 経 済 の 費 用 は 、以 下 の 表 6 の と
外部不経済による費用
おりとなる。
表 6:六 本 木 地 区 に お い て 1 台 目 の 車 両 が 及 ぼ す 外 部 不 経 済 の 費 用
13 時
15 時
17 時
平 日
休 日
平 日
休 日
平 日
休 日
上 り
¥113,533
¥61,305
¥158,069
¥94,062
¥112,494
¥78,636
下 り
¥95,140
¥64,260
¥114,874
¥68,869
¥101,327
¥67,507
な お 、 最 大 は 銀 座 駅 地 区 平 日 13 時 の 下 り 線 で ¥370,453、 最 小 は 大 泉 学 園 駅 地
区 休 日 17 時 の 上 り 線 で ¥11,329 で あ っ た 。
20
次 に 、3.1 の 図 4 の 分 析 を 踏 ま え て 、社 会 的 に 最 適 な 路 上 駐 車 水 準 を 実 現 す る
場 合 に お け る 最 適 路 上 駐 車 価 格 ・ 台 数 を 算 出 す る 。3 . 1 の 図 4 の 分 析 で は X ( 路 上
駐 車 台 数 )を 用 い た が 、 こ れ ま で 用 い て き た デ ー タ は D(路 上 駐 車 密 度 )(単 位 :台
/100m)で あ る た め 、 X=10×Dと し て 換 算 し て 考 え る 。 な お 、 1kmの 主 要 道 路 上 の
路 上 駐 車 に 着 目 し て い る こ と か ら 、 Dの 最 小 値 は 0.1、 最 大 値 は 、 一 般 に 乗 用 車
の 平 均 駐 車 長 が 6m
16
と さ れ て い る こ と か ら 100/6 と な る 。
正確な駐車需要関数の算出には、最低限駐車料金の変動に応じた駐車車両数
の変化に関するデータが必要であるが、今回用いたデータにはそのようなデー
タが存在しないため、以下では次の 2 つの駐車需要関数を想定して分析するこ
ととする。
(1)現 在 の 駐 車 場 価 格 で 水 平 の 駐 車 需 要 曲 線 を 想 定 し た 場 合
六 本 木 地 区 に つ い て は 、1 台 目 の 路 上 駐 車 車 両 が 及 ぼ す 外 部 不 経 済 の 費 用 を
路上駐車価格として設定し、路上駐車を許容すべきでないという結果が得ら
れた。
また、その他の地区についても、平日についてはすべての地区において六
本 木 地 区 と 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た 。 一 方 、 休 日 に つ い て は 、 恵 比 寿 駅 (4048:
芝 新 宿 王 子 線 )で は 、上 り 線 の 13 時 に お い て D=11.3、17 時 に お い て D=5.7 を
境に路上駐車車両が及ぼす外部不経済の費用をドライバーの得る便益が上回
り、一定の路上駐車料金を徴収した上で路上駐車を許容すべきとの結論が得
られた。しかし、その他については、平日と同様の結果であった。
【参考】
平 成 2 0 年 度 価 格 に よ る 時 間 価 値 原 単 位 を 用 い た 場 合 、平 日 に つ い て は 恵 比
寿 駅 (4048:芝 新 宿 王 子 線 )の 全 時 間 帯 、 休 日 に つ い て は 神 保 町 駅 (6013:大 手 町
湯 島 線 )の 上 り 17 時 、 日 本 橋 駅 (1051:一 般 国 道 15 号 )の 13 時 と 15 時 、 恵 比
寿 駅 (4048:芝 新 宿 王 子 線 )の 全 時 間 帯 に お い て 、 路 上 駐 車 車 両 が 及 ぼ す 外 部 不
経済の費用をドライバーの得る便益が上回る D の値が存在し、一定の路上駐
車料金を徴収した上で路上駐車を許容すべきとの結論が得られた。なお、そ
の 他 に つ い て は 、平 成 1 5 年 度 価 格 を 用 い た 場 合 と 同 様 に 路 上 駐 車 車 両 が 及 ぼ
す 外 部 不 経 済 が ド ラ イ バ ー の 得 る 便 益 を 上 回 り 、1 台 目 の 路 上 駐 車 車 両 が 及 ぼ
す外部不経済の大きさを路上駐車価格として設定し、路上駐車を許容すべき
でないという結果が得られた。
(2)右 下 が り の 駐 車 需 要 関 数 を 想 定 し た 場 合
個々のドライバーはそれぞれ路上駐車と駐車場に駐車することの便益を比
較し、より大きい便益を得られる方を選択していると考えられる。したがっ
て、路上駐車を選択している者は、駐車場に駐車することの便益よりも高い
便 益 を 路 上 駐 車 に 対 し て 見 出 し て い る こ と か ら 、 (1)の 仮 定 で は 路 上 駐 車 に 対
する便益を過小に評価しているおそれが高い。このため、右下がりの駐車需
16
平 均 車 長 5m+平 均 車 間 距 離 1m
21
要関数を想定することとした。
どのような傾きの関数を想定するかが問題となるが、次の仮定の下に図 6
に示すような簡易な関数を想定した。
・駐車を需要するすべての車両のうち、路上駐
車に対する価値が駐車場料金以下の者は駐車場
に 駐 車 す る こ と を 選 択 す る が 、当 該 価 値 額 は 駐 車
場料金を最高にゼロまで台数に応じて等差的に
減少する。
・路上駐車を行う者の路上駐車に対する価値額は
現 在 の 駐 車 場 料 金 を 最 小 と し 、上 記 の 割 合 で 等 差
的に増加する。
・当該地区における総駐車需要車両数は所与のもの
図 6:駐 車 需 要 関 数
とし、他地区への逸走などは存在しない。
こ の と き 、 路 上 駐 車 を 選 択 す る 者 の 便 益 は ((現 行 の 駐 車 場 料 金 + 最 高 額
17
)/2)×路 上 駐 車 台 数 と い う 台 形 の 面 積 と し て 表 さ れ る 。
以上の方法で計算した結果、次のような結果が得られた。
六本木地区については路上駐車による外部不経済の費用がドライバーの
得 る 便 益 を 上 回 り 、1 台 目 の 路 上 駐 車 車 両 が 及 ぼ す 外 部 不 経 済 の 費 用 を 路 上
駐車価格として設定し、路上駐車を許容すべきでないという結果が得られ
た。しかし、深夜時間帯など交通量の少ない時間帯においては、路上駐車
車両が外部不経済を及ぼす対象である走行車両自体が減少していることか
ら、料金を徴収して路上駐車を許容すべき時間帯やそもそも駐車料金を徴
収 す る 必 要 な く 路 上 駐 車 を 許 容 す る 時 間 帯 も 存 在 す る 。具 体 的 に は 、1 時 間
当 た り 交 通 量 が 488 台 を 下 回 る よ う に な る と 路 上 駐 車 密 度 次 第 で は 駐 車 を
認めることが社会的に最適な状態となりうる。
な お 、 上 記 の 条 件 に お い て 、 Dの 上 限 は 100/6 で あ る か ら 、 道 路 に お け る
路 上 駐 車 の 最 大 収 容 台 数 は 上 り 下 り 合 わ せ て 約 333 台 と な る 。 当 該 地 区 に
おいてこれを上回る駐車車両が存在する場合には、当該道路分については
路外駐車場に駐車される必要が生じる。このため、路上駐車についても無
料ではなく、ドライバーの料金選好に応じて一定の料金を徴収することが
経済学的に最適となる。一方、すべてが路上駐車によってカバーされる場
合においては、路上駐車料金は無料とすべき
18
であり、この場合において
は当該地域において民間による駐車場の供給は行われないこととなる。
ま た 、 そ の 他 の 地 区 に つ い て は 、 平 日 に つ い て は 恵 比 寿 駅 (4048:芝 新 宿
王 子 線 )の 全 時 間 帯 を 除 く す べ て の 地 区 に お い て 六 本 木 地 区 と 同 じ 結 果 が
17最
高 額 = 現 行 の 駐 車 場 料 金 ×(駐 車 場 駐 車 台 数 + 路 上 駐 車 台 数 )/駐 車 場 駐 車 台 数 )
こ こ で は 潜 在 的 な 駐 車 需 要 を 考 慮 し て い な い が 、路 上 駐 車 の 料 金 を 低 廉 に す る こ と
によって路上駐車の収容台数を超過する場合には、その時点における金額を徴収する
必要がある。
18
22
得 ら れ た 。一 方 、休 日 に つ い て は 、神 保 町 駅 (6013:大 手 町 湯 島 線 )の 下 り 17
時 、日 本 橋 駅 ( 1 0 5 1 : 一 般 国 道 1 5 号 ) の 1 3 時 と 1 5 時 、恵 比 寿 駅 ( 4 0 4 8 : 芝 新 宿
王 子 線 ) の 全 時 間 帯 に つ い て は 、路 上 駐 車 車 両 が 及 ぼ す 外 部 不 経 済 の 費 用 を
ドライバーの得る便益が上回る D の値が存在し、一定の路上駐車料金を徴
収した上で路上駐車を許容すべきであるとの結論が得られたが、その他の
地区については、平日と同様の結果が得られた。
【参考】
平 成 20 年 度 価 格 を 用 い た 場 合 、 平 日 に つ い て は 神 保 町 駅 (6013:大 手 町 湯
島 線 )の 下 り 17 時 を 除 く 全 時 間 帯 、 湯 島 駅 の 15 時 と 17 時 、 大 井 町 駅 の 下
り 17 時 、 恵 比 寿 駅 (4048:芝 新 宿 王 子 線 )の 全 時 間 帯 、 荻 窪 駅 の 上 り の 13 時
と 下 り の 1 3 時 と 1 5 時 、大 泉 学 園 駅 の 上 り 1 7 時 と 下 り 1 3 時 、新 小 岩 駅 ( 4 0 9 0 :
御 徒 町 小 岩 線 )の 下 り 17 時 、 休 日 に つ い て は 神 保 町 駅 (6013:大 手 町 湯 島 線 )
の 全 時 間 帯 、 神 保 町 駅 (4042:白 山 祝 田 田 町 線 )の 上 り の 13 時 と 15 時 、 下 り
の 17 時 、 日 本 橋 駅 (1051:一 般 国 道 15 号 )の 全 時 間 帯 、 湯 島 駅 の 上 り 全 時 間
帯 と 下 り の 17 時 、浅 草 駅 の 上 り 15 時 、両 国 駅 の 上 り 13 時 と 下 り の 全 時 間
帯 、 恵 比 寿 駅 (4048:芝 新 宿 王 子 線 )の 全 時 間 帯 に お い て 、 路 上 駐 車 車 両 が 及
ぼす外部不経済の費用をドライバーの得る便益が上回る D の値が存在し、
一定の路上駐車料金を徴収した上で路上駐車を許容すべきとの結論が得ら
れ た 。 な お 、 そ の 他 に つ い て は 、 平 成 15 年 度 価 格 を 用 い た 場 合 と 同 様 に 路
上 駐 車 車 両 が 及 ぼ す 外 部 不 経 済 の 費 用 が ド ラ イ バ ー の 得 る 便 益 を 上 回 り 、1
台目の路上駐車車両が及ぼす外部不経済の費用を路上駐車価格として設定
し、路上駐車を許容すべきでないという結果が得られた。
3.3
駐車場市場に対する影響
最適な路上駐車の状態が実現する場合、利用者の駐車場需要と期待駐車場支
払料金に変化が生じ、駐車場市場に対して影響を与えると考えられる。具体的
には、最適な路上駐車台数と現在の路上駐車台数との大小関係で次の 2 通りに
分類される。なお、ここでは、当該地区全体の路上駐車台数と駐車場駐車台数
を捉え、地区単位で見た駐車場市場に対する影響を考察している。
(1)最 適 な 路 上 駐 車 台 数 が 現 在 の 路 上 駐 車 台 数 を 下 回 る 場 合 に は 、 路 上 駐 車 を
行っている車両のうち最適な路上駐車台数との差分については駐車場に移動
することが社会的に望ましい。ただし、既存の駐車場の容量でこれをカバー
できない場合は、駐車場の供給が増加するか駐車場価格が上昇することとな
る。短期においては駐車場の供給を増加させることは難しいことから駐車場
価格は上昇するが、長期においては上昇した駐車場価格に対応して駐車場の
供給が増加し、駐車場価格は下落する。
(2)最 適 な 路 上 駐 車 台 数 が 現 在 の 路 上 駐 車 台 数 を 上 回 る 場 合 に は 、 地 区 内 の 駐
車場に駐車している車両のうち最適な路上駐車台数との差分については路上
駐車に移行することが社会的に望ましい。この場合、短期においては駐車場
23
への駐車台数が減少し、駐車場価格は下落するが、長期的には下落した駐車
場価格に対応して駐車場の供給は減少し、駐車場価格は上昇する。
各 地 区 に つ い て 計 算 し た 結 果 は 別 表 3 の と お り で あ る 。「 過 不 足 」 欄 に プ ラ ス
の値が出ている地区においては最適な路上駐車の状態
19
が実現されても駐車場
供給が過剰であり、逆にマイナスの値が出ている地区においては、最適な路上
駐車の状態が実現されるためには駐車場の新規供給が必要となる。
3.4
路上駐車密度に対する路上駐車料金の妥当性
社会的に最適な状態における路上駐車料金が駐車場料金に対して高いほど
個々のドライバーはより路外駐車場に駐車することを選択し、路上駐車密度は
減少するものと考えられる。現行制度ではどの地点においても同一の路上駐車
料金
20
が設定されているため、1 時間当たりの平均駐車場料金に対する最適路
上駐車価格が高いほど路上駐車密度が低くなるという仮説が構築できる。この
ほか、路上駐車密度は絶対的な交通量にも影響を受けるものと考えられること
から、混雑度を説明変数にとり、さらに休日特性変数を加えた以下の推計式に
ついて分析を行った。
な お 、 29 地 点 に お け る 3 時 間 帯
21
のデータが平日・休
日 別 に 存 在 す る こ と か ら 、 延 べ サ ン プ ル デ ー タ 数 は 計 174 で あ る 。 ま た 、 各 変
数の定義等は表 7 のとおりである。
D^=1.7965***+ 0.0045***MR/PS-0.7956***q/C-0.2279H+ε (R2=0.6510)
(0.2178)
(0.0003)
(0.1956)
(0.1508)
注 1)***,**,*は そ れ ぞ れ 1%,5%,10%の 水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る こ と を 示 す
注 2) ()内 は 標 準 誤 差
表 7:路 上 駐 車 料 金 の 妥 当 性 に 関 す る 推 計 式 の 定 義 等
記 号
定 義
単 位
出 典
MR
最 適 路 上 駐 車 価 格
円
本 論 文
PS
1時 間 当 たりの
円 /h
「路 上 駐 車
対 象 エリアの駐 車 台 数 に応 じ
実 態 調 査 」
て加 重 平 均 して算 出
平 均 駐 車 場 料 金
備 考
他 の 条 件 を 一 定 と し た 場 合 、1 時 間 当 た り の 平 均 駐 車 場 料 金 ( P S ) に 対 す る 最 適
路 上 駐 車 価 格 (MR)の 割 合 (MR/PS)が 100 増 加 す る と 100m 当 た り の 路 上 駐 車 密 度
(D)が 0.45 台 増 加 す る 。 ま た 、 こ の 係 数 は 1%水 準 で 統 計 的 に 有 意 で あ る 。
こ れ よ り 、路 上 駐 車 密 度 は 、1 時 間 当 た り の 平 均 駐 車 場 料 金 に 対 す る 最 適 路 上
駐車価格の倍率が高いほど増加するという仮説が検証された。逆にいえば、現
19
そのほとんどは路上駐車がゼロの状態である。
現 実 に は 取 締 り の 頻 度 に 応 じ て 利 用 者 に よ る 期 待 反 則 金 支 払 額 は 異 な る が 、取 締 り
の頻度が不明であり、また、少なくとも極めて低い現状においては路上駐車料金が地
区別に異なることを想定していない。
21 13 時 、 15 時 、 17 時 の 3 時 間 帯 で あ る 。
20
24
在の均一路上駐車料金はこの倍率が高いほど割安であることを意味しており、
それゆえ路上駐車を選択する者が多くなっていると考えられる。また、混雑度
に つ い て は 1 % 水 準 で 統 計 的 に 有 意 な 値 と し て 負 の 値 を と っ て い る が 、混 雑 度 が
大きいと路上駐車をする余地がないためであると考えられる。
3.5
結論
東 京 2 3 区 内 に お い て は そ も そ も 道 路 が 非 常 に 混 雑 し て い る た め 、特 に 都 心 に
近い地区をはじめとするほとんどの地区においては、禁止的に高い料金を徴収
し、路上駐車を許容しないことによって走行車両の旅行時間の短縮を図る方が
社 会 的 に 望 ま し い 。一 方 で 、東 京 23 区 内 で も 混 雑 度 が 低 く 交 通 容 量 に 余 裕 の あ
る比較的郊外に位置する地区や都心部に近い地区でも休日の交通量の少ない地
区においては、一定の額の路上駐車料金を徴収して路上駐車を許容することが
社会的に最適である。
このように、地区においてもそれぞれ道路容量や駐車需要は異なり、それら
に応じたきめ細かな駐車管理政策の立案が不可欠であると考える。
4.社会的に最適な路上駐車水準の実現による経済効果
4.1
最適な路上駐車料金設定時において可能となる交通容量
社会的に最適な路上駐車水準を実現する状態において、路上駐車車両が及ぼ
す外部不経済による費用が大きい地域では、路上駐車が減少することによって
実質的に既存の道路交通インフラの交通容量の拡大がもたらされる。現在、道
路交通容量の拡大を図るための主たる政策手段としては道路の拡幅が挙げられ
るが、この手段と比較して最適な路上駐車料金の設定がいかに安価な手段であ
るかということを以下で示す。
図 7 に お い て 初 期 状 態 に お け る 総 交 通 台 時 間 は A+Bで 表 わ さ れ る と す る と 、
路上駐車の減少によって走行台キロ当たり平均走行時間は減少することから、
総 交 通 台 時 間 が 変 わ ら な い と 仮 定 す れ ば 、走 行 台
キロ当たり平均走行時間の減少に対応する分だ
けの走行台キロを増加させることが可能になる
と い え る 。 具 体 的 に は 、 そ の 大 き さ は A+B=B+C、
す な わ ち A=Cで 表 わ さ れ る 。 た だ し 、 混 雑 率 が 1
を 超 え る 、す な わ ち 走 行 台 キ ロ が 可 能 交 通 容 量 を
超 過 し た 状 態 に お い て は 、混 雑 に よ る 走 行 速 度 の
低下という外部不経済が発生する
22
図 7:走 行 台 キ ロ と 平 均 時 間
こ と か ら 、平
22
厳密には混雑率が 1 を上回っても走行車両相互により発生する渋滞によって引き起
こされる時間費用の増加よりも容積率の拡大に伴う便益が大きければ、経済学的には
より効率的ということになるが、ここでは簡略化のためにこのような仮定を置いてい
る。
25
日・休日合わせたすべての時間帯における混雑率が 1 を超えない範囲内におい
て 走 行 台 キ ロ の 増 加 、す な わ ち 総 交 通 台 時 間 の 増 加 が 可 能 と な る も の と 考 え る 。
上 記 の 仮 定 を も と に 計 算 し た 結 果 、 29 地 区 中 表 6 の 8 地 区 で 交 通 容 量 の 拡 大
が可能となる。
4.2
道路拡幅費用の推計
次 に 、4 . 1 で 算 出 さ れ た 交 通 容 量 の 拡 大 を 道 路 の 拡 幅 に よ っ て 達 成 す る 場 合 の
費用について算出する。
具体的には、各地区における現在の車線数を前提として、上記で算出された
交通容量の拡大を達成するために当該地区において必要な道路の拡幅幅を算出
し、それに必要な費用を算出する。
道路構造令第 3 条により、都市部における高速自動車国道及び自動車専用道
路以外の道路については第 4 種に分類されており、同条第 2 項において、表 8
のように計画交通量に応じて第 1 級から第 4 級までに区分されている。
表 8:道 路 構 造 令 に お け る 分 類
計 画 交 通 量
10,000 台 /日
4,000 台 /日 ~
500 台 /日 ~
500 台 /日
以 上
10,000 台 /日
4,000 台 /日
未 満
第 1 級
一 般 国 道
都 道
第 1 級
第 2 級
第 2 級
第 3 級
第 4 級
今 回 の 推 計 対 象 と し た 29 地 区 の 道 路 に つ
い て は す べ て 計 画 交 通 量 10,000 台 /日 以 上 の
一 般 国 道 又 は 都 道 で あ る こ と か ら 、第 1 級 道
路 で あ る 。各 地 区 に お け る 現 行 の 車 線 数 を 前
提 と し て 、上 記 で 算 出 さ れ た 交 通 容 量 の 増 加
を 図 る た め に 、 現 行 の Q-V式 の デ ー タ か ら 車
線 数 (片 方 向 当 た り )と 計 画 交 通 容 量
23
との
関係式を導出すると図 8 に示すように
図 8:車 線 数 と 可 能 交 通 容 量
C=8 85 2 .7 ×L - 113 05 ( L:片 道 当 た り 車 線 数 )と い う 推 計 式 で 表 さ れ る 。
C に拡大可能な交通容量を代入して算出される L の値と現在の車線数との差
が、社会的に最適な路上駐車料金を設定した時において可能となる交通容量の
緩和分に必要な車線数である。
道 路 統 計 年 報 に よ れ ば 、 東 京 都 で 2 車 線 の 道 路 を 1km 整 備 す る の に 必 要 な 費
23
基本交通容量とは、道路条件及び交通条件が基本的な条件を満たしている場合に、
単 位 断 面 を 1 時 間 に 通 過 し 得 る 乗 用 車 の 台 数 で あ り 、1 車 線 当 た り 2,200pcu/h、2 方 向
2 車 線 道 路 は 2,500pcu/h で あ る 。 な お 、 設 計 交 通 容 量 と は 、 道 路 を 計 画 ・ 設 計 す る 場
合に、その道路の種類、性格、重要性に応じて、その道路が年間を通じて提供すべき
サービスの質に応じて規定される交通量である。
26
用 は 平 均 約 5 0 億 円 と さ れ て い る こ と か ら 、こ の 値 に 必 要 な 拡 幅 車 線 数 を 乗 じ る
こ と に よ っ て 、道 路 の 拡 幅 に 要 す る 金 額 が 求 め ら れ る 。 厳 密 に は 、道 路 拡 幅 の
幅と費用の関係については共通費用が存在することから線形ではなく車線の幅
に 応 じ て 逓 減 す る も の と 考 え ら れ る が 、東 京 2 3 区 内 に お い て は 道 路 工 事 費 用 よ
りも土地の買収に要する費用が大半であり、線形で増加するものと仮定した。
以上の仮定をもとに計算した結果、各地区における道路の拡幅に要する金額
は以下の表 6 のとおりとなった。
表 6:交 通 容 量 拡 大 に 必 要 な 拡 幅 幅 と 金 額
1km の 道 路 を 拡 幅 す る こ と に よ っ て 交 通 容 量 の 拡 大 を 図 る た め に は 8 地 区 合
計 で 約 677 億 円 を 要 す る が 、 こ の 費 用 は 最 適 な 路 上 駐 車 料 金 を 設 定 す れ ば 無 償
で同一の効果をあげることが可能である。
なお、今回の分析においては、すべての時間帯において混雑率が 1 を超えな
い と い う 条 件 を 課 し た た め 、そ も そ も 混 雑 度 の 高 い 道 路 の 多 い 東 京 2 3 区 内 に お
い て は 対 象 地 域 が 2 9 地 区 中 上 記 の 8 地 区 に 限 ら れ る こ と と な っ た 。し か し な が
ら、ピークロードプライシングなどの手段を用いて走行需要自体をコントロー
ルし、混雑率を 1 以下に抑え込むことができれば、さらに多くの地区において
最適な路上駐車料金の設定による経済的便益を得ることができると思われる。
5.まとめ
路上駐車に関して入手可能なデータに極めて限りがある中で、既往の 2 つの
調査を組み合わせることにより、平日・休日別、時間帯別、地域別に最適路上
駐車料金及び台数を具体的な数値でもって算出することができた。また、各地
域における駐車場市場に対する影響についても具体的な数値でもって明らかに
することができた。
本 論 文 に お い て 分 析 対 象 と し た 場 所 は 東 京 23 区 内 の 29 地 区 と 数 的 に は 限 ら
れているが、都心部から郊外までを一通り網羅している。このことから、少な
く と も 東 京 2 3 区 内 で あ れ ば 、デ ー タ さ え 揃 え ば 今 回 の 分 析 手 法 を 用 い る こ と で
最適路上駐車料金・台数等を具体的に算出することが可能と考える。
な お 、 今 回 の 分 析 に お い て は 、 デ ー タ の 都 合 上 、 東 京 23 区 内 の 駅 周 辺 に お け
る主要道路上の路上駐車に着目していることから、主要道路以外の脇道などに
27
ついては分析によって考慮しないか主要道路と同じという実際の道路の状況と
は若干異なる仮定を置いている。
現実には、主要道路上で路上駐車に関する規制を強化しても、それまで主要
道路上で路上駐車を行っていた車両は脇道に移動し、いたちごっこになってい
るケースが多い。このため、実際の政策立案に当たっては、地区内における1
つの主要道路だけを対象とするのではなく、地区全体で路上駐車をどのように
管理すべきかというエリアマネジメントの観点が非常に重要となる。脇道につ
いては、交通量が主要道路よりも少ないことから路上駐車車両が走行車両の旅
行時間に対して及ぼす外部不経済の費用は小さくなることから、一定の料金を
もって路上駐車を許容しうるケースが多くなるものと考えられる。このため、
例えば主要道路については高額の路上駐車料金を設定し路上駐車を事実上認め
ないこととするものの、脇道については一定の料金を徴収した上で路上駐車を
認めるなどのメリハリのある対策を講じることが必要である。現在、駐車監視
員制度については、各警察署単位で重点地区を設けてはいるが、先に述べたエ
リアマネジメントの観点からは警視庁全体で路上駐車に対する姿勢について地
域的なメリハリをつけることがより効率的な制度の運用を可能にすると考える。
また、そもそも交通量が可能交通容量以上であれば混雑が発生し、走行車両
同士が外部不経済をもたらしていることから、ピークロードプライシングなど
により流入車両に対する課金を行って走行車両の流入量をコントロールするこ
とによって路上駐車だけでなく道路全体の効率的利用を追求することができる。
既 存 の 駐 車 対 策 と し て は 、① 駐 車 容 量 の 拡 大 (駐 車 場 整 備 、既 存 駐 車 場 の 有 効
活 用 、 時 間 制 限 駐 車 区 間 の 拡 大 )、 ② 駐 車 需 要 の 軽 減 (公 共 輸 送 機 関 へ の 転 換 や
共 同 集 配 の 促 進 等 の 交 通 需 要 マ ネ ジ メ ン ト な ど ) 、③ 駐 車 モ ラ ル の 向 上 な ど が あ
げられる。これらに加えて、本論文において算出された社会的に最適な路上駐
車料金の設定によって、効率的な取り締まりの実現と実質的な交通容量の拡大
をもたらすことができる。むしろ順序としては最適な路上駐車料金の設定を行
った上で、既存の道路交通インフラの容量の限界に達する点について既存の駐
車対策を活用することがより効率的な対処といえよう。
ただし、最適な路上駐車料金の設定自体には特段の費用を要するものではな
い が 、 最 適 な 駐 車 状 態 を 実 現 す る た め に は モ ニ タ リ ン グ (監 視 )が 必 要 と な る 点
に注意が必要である。路上駐車に対する最適な料金が上記のように算出されて
も、個々のドライバーは自らが想定する路上駐車料金で路上駐車と駐車場への
駐車を選択することから、当該料金を各ドライバーが認識しなければ、社会的
に最適な路上駐車水準は実現されない。これは、現在の路上駐車に対する反則
金は地域・時間にかかわらず均一に設定されているが、取締りの確率が不明で
あるために期待反則金支払額を自分の予想をもとに計算せざるを得ない状況に
等しい。特に、本論文では社会的に最適な路上駐車水準を実現するためにはエ
リア別、時間帯別に細かく路上駐車料金を変化させる必要があるとしており、
政策効果を発揮するためにはリアルタイムでドライバーに対して路上駐車料金
28
を知らせる必要がある。そのためのハードの整備が不可欠となろう。また、路
上駐車を駐車場の代替財としてとらえるならば、駐車場の料金や空車情報など
を表示する情報インフラについてもあわせて整備することが不可欠となる。実
際には、常にリアルタイムで社会的に最適な駐車の水準を実現するためには多
額の費用を要するため、既往のデータを参考に平日・休日別、時間帯別、エリ
ア別に料金を設定した上で、定期的にデータを収集し、見直しを図ることが現
実的な対処となろう。
また、本論文で示された最適な路上駐車価格を実現することにより、路上駐
車が走行車両に対して及ぼす外部不経済の費用が減少する地域においては、実
質的に交通容量の拡大と同じ効果を得ることができる。実質的な交通容量が拡
大されればインフラへの負荷の抑制をその規制目的の 1 つとしている容積率の
緩和を図ることが可能となる。このため、単に路上駐車による外部不経済を解
消するという対処療法的な目的ではなく、むしろ容積率の緩和という経済効果
を 生 み 出 す 手 段 と し て 、最 適 な 路 上 駐 車 料 金 の 設 定 を 行 う べ き で あ る と 考 え る 。
6.おわりに
今 回 の 分 析 対 象 と し た 29 地 点 に つ い て は 、 東 京 23 区 内 か つ 駅 周 辺 の 比 較 的
交通量の多い幹線道路を対象にしたことから、結果としてほとんどの場所にお
いて路上駐車車両が走行車両に対して及ぼす外部不経済による費用が路上駐車
によってドライバーの得る便益を上回る結果となった。しかし、都心部から離
れた郊外部や都心部でも休日の交通量の少ない場所・時間帯においては、路上
駐車車両が走行車両に対して及ぼす外部不経済の費用は小さくなっていくとい
う傾向を読み取ることができた。
今回の分析では統計的に良い結果が得られなかったために分析を行わなかっ
たが、路上駐車だけを最適化するのではなく、走行車両相互が引き起こす混雑
による外部不経済も含めて社会的に最適な道路交通を実現するためのモデルに
発 展 さ せ る こ と が 今 後 の 課 題 で あ る 。ま た 、東 京 23 区 以 外 の 主 要 都 市 や 地 方 に
おいても適用できる普遍的なモデルかどうかの検証やそのためのモデルの改良
についても今後の課題といえよう。
しかし、路上駐車に関するデータについては、筆者が本論文の作成にあたっ
て 調 査 し た 限 り で は 、 東 京 23 区 以 外 で は 極 め て 乏 し い の が 実 情 で あ る 。 現 に 、
道 路 交 通 セ ン サ ス (平 成 11 年 度 )で は 路 上 駐 車 密 度 を 全 国 的 に 測 定 し て い た が 、
統 計 の 簡 素 化 の 観 点 か ら 直 近 の 平 成 17 年 度 の 調 査 に お い て は 調 査 対 象 か ら 除 外
されてしまっている。今回の分析に基づく社会的に最適な路上駐車料金の設定
に当たっては、詳細なデータに基づく事前の分析が不可欠であることから、政
策の実現に向けて路上駐車に関する統計の更なる充実を願ってやまない
24本
24
。
論 文 の 執 筆 に 関 し 、 主 査 の 久 米 良 昭 教 授 (政 策 研 究 大 学 院 大 学 )、 副 査 の 加 藤 一 誠
29
【参考文献】
違法駐車問題検討懇談会「違法駐車問題への対処の在り方についての提言」
平 成 15 年 9 月
岸 井 隆 幸 ( 2 0 0 7「
) 路上駐車取締りの民間委託導入前後における路上駐車実態に
関する研究」
警 視 庁 交 通 局 「 新 た な 駐 車 対 策 法 制 の 施 行 状 況 に つ い て 」 平 成 19 年 6 月 14
日
後 藤 ・ 中 村 ( 2 0 0 5 )「 路 上 駐 車 に 対 す る 社 会 的 最 適 課 金 の 推 定 - 靖 国 通 り と 明 治
通りを対象として-」
( 財 ) 道 路 経 済 研 究 所 ( 2 0 0 7「
) 欧米諸国における道路と自動車に係る負担に関す
る 研 究 - 最 適 な 駐 車 課 金 政 策 - Regulating on-street parking- を 中 心 に 」
鈴 木 克 宗 「 路 上 駐 車 の 実 態 ・ 問 題 点 と そ の 対 策 」 高 速 道 路 と 自 動 車 第 33 巻 第
12 号 1990 年 12 月 p43-48
田 中 伸 治 、 新 井 寿 和 、 川 口 高 志 、 桑 原 雅 夫 ( 2 0 0 4 )「 交 差 点 下 流 の 路 上 駐 車 が 及
ぼす交通への影響分析」
田中法昌「違法駐車問題と道路交通法および自動車の保管場所の確保に関す
る 法 律 の 改 正 」 高 速 道 路 と 自 動 車 第 33 巻 第 12 号 1990 年 12 月 p38-42
中 村・松 本・轟 (2007)バ ス 停 付 近 に お け る 路 上 駐 停 車 の 外 部 費 用 の 計 測 - 新 浦
安駅周辺を対象に-
八 田 ・ 久 米 ・ 唐 渡 ( 2 0 0 5 )「 都 心 の 容 積 率 緩 和 の 費 用 便 益
ITS に よ る 混 雑 料 金
を考慮に入れた分析」
文 世 一 ( 2 0 0 5 ) 「 交 通 混 雑 の 理 論 と 政 策 【 時 間 ・ 都 市 空 間 ・ ネ ッ ト ワ ー ク 】」 東
洋経済新報社
村 川 貴 紀 ( 2 0 0 7「
) バス停付近における路上駐停車の社会的費用の計測-通過交
通に及ぼす影響分析-」
Edward Calthrop, Stef Proost, “Regulating on-street parking”, Regional Science
and Urban Economics 36, (2006), p29-48
N・ グ レ ゴ リ ー ・ マ ン キ ュ ー ( 2 0 0 0 )「 マ ン キ ュ ー 経 済 学 Ⅰ ミ ク ロ 編 」 東 洋 経 済
新報社
教 授 (日 本 大 学 経 済 学 部 )と 鶴 田 大 輔 准 教 授 (政 策 研 究 大 学 院 大 学 )に は お 忙 し い 中 適 切
な ご 助 言 を 頂 き ま し た こ と を 心 か ら 感 謝 い た し ま す 。ま た 、論 文 発 表 会 等 に お い て 数 々
の貴重なご意見を頂いたまちづくりプログラムディレクターの福井秀夫教授をはじめ
とする政策研究大学院大学の専任、客員の教授陣にもお礼申し上げます。加えて、日
頃から疑問点の相談などに応じて頂いたまちづくりプログラムのメンバーにもお礼を
申し上げます。なお、筆者の時間管理の悪さから提出直前まで作業が立て込むことと
なり、内容に関する誤りや文章の不明瞭性についてその存在を否定しきれないが、本
論文についての文責はすべて小職に帰します。また、本論文は筆者の個人的な見解を
示したものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではないことを申し添えます。
30
別表 1
31
別表 2
32
別表 3
33