SHOCKと Shockにおける呼吸循環管理 升田好樹(札幌医科大学医学部 集中治療医学) ショックの定義 1.不適切な臓器・組織灌流の状態 2.ショック=低血圧ではない 3.Key words: 急性, 全身性, 循環障害, 細胞障害 4.適切な組織灌流には以下の4つが必要 ・ 適切な血液,血漿の量 ・ 適切なガス交換 ・ 有効な心臓機能 ・ 正常な血管系 ショック分類の変化 ー原因による分類から,循環動態に基づいた治療に直結した分類へー 循環血液量減少性ショック 循環血液量減少性ショック 心原性ショック 心原性ショック 心外閉塞・拘束性ショック 敗血症性ショック アナフィラキシーショック 血流分布異常性ショック 神経原性ショック Weil MH, et al: Proposed reclassification of shock states with special reference to distributive shock. Adv Exp Med Biol 23: 13-23, 1971. Parker MM, et al: Septic and other forms of distributive shock. pp44-55, in Current Therapy in Critical Care Medicine, DC Decker, 1988. ショックの主な原因疾患 ショックの分類 主な原因疾患 1) 出血(外傷性出血,消化管出血,子宮外妊娠破裂) 2) 脱水(脱水,熱中症,嘔吐,下痢,糖尿病性昏睡) 循環血液量減少性ショック 3) 血管透過性亢進(広範囲熱傷,汎発性腹膜炎, 急性重症膵炎,イレウス,低栄養) 心原性ショック (左心不全・右心不全 ・重症不整脈) 1) 心筋障害(急性心筋梗塞,拡張型心筋症,心筋炎, 弁膜症,心損傷) 2) 不整脈(洞不全症候群,房室ブロック,心室頻拍, 上室性不整脈など) 1) 主要心・血管閉塞(肺血栓塞栓症,急性大動脈解離, 心房粘液腫,心房壁在血栓) 心外閉塞・拘束性ショック 2) 胸腔内圧上昇(緊張性気胸,陽圧呼吸) 3) 心圧迫(心タンポナーデ,収縮性心内膜炎) 4) 血管圧迫(縦隔腫瘍) 血流分布異常性ショック 1) 神経原性(脊髄損傷,血管迷走神経反射) 2) アナフィラキシー(薬物,ハチ,植物など) 3) 敗血症性 4) 急性副腎不全(副腎クリーゼ) 血圧,心拍出量はどう表されますか? 1)血 圧 =( )X( ) 2)心拍出量 =( )X( ) a : 血圧, b : 心拍数, c : 中心静脈圧, d : 肺動脈圧, e : 肺動脈楔入圧, f : 左房圧, g : 肺動脈血管抵抗, j : 全末梢血管抵抗, h : 心拍出量, I : 1回心拍出量 答 え 1)血 圧 =( 1回心拍出量 )X( 全末梢血管抵抗 ) 2)心拍出量=( 1回心拍出量 )X( 心拍数 ) 血圧=血流量 x 血管抵抗 循環血液量 (前負荷) 左心室収縮力 (ポンプ作用) 末梢血管抵抗 (後負荷) 血圧を構成する主たる3つの因子 ショックの分類と血圧低下の機序 血管拡張 循環血液量の減少 心臓のポンプ (前負荷の減少) タイトル 機能の減少(後負荷の減少) 出血性ショック 血液成分 熱傷ショック 血漿成分 心原性ショック ○ 神経原性ショック 相対的に○ ○ アナフィラキシー ・ショック 透過性亢進 ○ 敗血症性ショック 透過性亢進 進行すると○ ○ 血行動態からみたショックの鑑別 心拍出量 循環血液量減少性ショック 全末梢血管抵抗 肺動脈楔入圧 中心静脈圧 混合静脈血 酸素飽和度 ↓ ↑ ↓ ↓ ↓ 左心不全 ↓ ↑ ↑ 正常または↑ ↓ 右心不全 ↓ ↑ ↓ ↑ ↓ 緊張性気胸 ↓ ↑ ↓ ↑ ↓ 肺血栓塞栓症 ↓ ↑ ↓ ↑ ↓ warm shock ↑ ↓ ↓ ↓ ↑ cold shock ↓ ↑ ↑ ↑ ↓ 心原性ショック 心外閉塞・拘束性ショック 血液分布異常性ショック ショックの診断基準 小項目で早期診断! 3項目以上を満たす 遅い! ショックの代償機構が働くこの時期 → 診断し,治療開始するのは,今でしょ! 1.カテコラミン分泌の増加 → 心拍数増加 → 心拍出量を維持 末梢血管収縮 (冷感,湿潤) → 血圧維持 2.細胞外液が血管内に移行して,循環血液量の減少を補う 1)ショックの初期徴候:血圧低下前から起こる 頻脈,四肢末梢の冷汗,湿潤(末梢循環不全)が重要 2)後手に回ると,不可逆性ショック,多臓器障害,死に至る ショック症状:出血性ショックの場合 1)血 圧 =( 1回心拍出量 )X( 末梢血管抵抗 ) ↓ ↑ 手足が冷たい 2)心拍出量=( 1回心拍出量 )X( 心拍数 ) ↓ ↑ 心拍数の増加 出血性ショック ( SHOCK ) の早期認識 S. Skin:皮膚が冷たく湿っている H. HR:頻脈 O. Outer bleeding:外出血 C. Capillary refilling time:爪床色の戻る時間 / Conciousness:意識がぼ〜っとしている K. Ketsuatu:血圧低下に頼っていてはダメ! ショック指数 ショック指数 = 心拍数/収縮期血圧 通常:0.6〜0.7 血圧が100mmHgでも心拍数が100/分なら ショック指数は1となり,出血量(ℓ)は1ℓに相当する ショックに共通する基本初期治療 1. 心肺蘇生法を含めた緊急処置と準備 2. ショックの原因検索と病態把握,重症度判定 3. それに応じた体液補正と薬物療法(血管作動薬) 4. ショックに伴う合併症(呼吸不全,肝・腎不全, DIC,MODS/MOFなど)の予防,治療 ショックの治療:原因の除去 ・循環血液量減少性ショック • 出血(止血) • 脱水(補正) ・心原性ショック • 心筋梗塞(PCI、手術) ・心外閉塞・拘束性ショック • 外傷(手術) ・血液分布異常 • 神経損傷(頸椎固定) • 感染(除去,抗生剤) • アレルギー(抗アレルギー薬,エピネフリン,ステロイド) ショック治療の目標は? 1. 血圧(収縮期血圧:90〜100mmHg) 2. 尿量(>0.5ml/kg/h) 3. 中心静脈圧(8〜12mmHg) 1.呼吸管理 1. 気道確保:意識障害による舌根沈下, 誤嚥防止 喉頭浮腫,肺水腫 2. 上気道閉塞,挿管困難 ⇒ 輪状甲状靭帯切開 3. 人工呼吸管理:肺保護戦略 (1回換気量を少なめに,最高気道内圧< 30cmH20) SHOCKへの対処 血管拡張 循環血液量の減少 心臓のポンプ タイトル (前負荷の減少) 機能の減少(後負荷の減少) 出血性ショック 輸液,輸血 熱傷ショック 輸液,FFP 心原性ショック 冠拡張,β刺激薬 神経原性ショック 輸液 α刺激薬 アナフィラキシー ・ショック 輸液 α刺激薬 感染性ショック 輸液 進行時にβ刺激薬 α刺激薬 2.静脈路確保と輸液 1. ショックでは静脈路は最低2本を確保 CVカテは急速大量輸液に向かない! 2. 出血源より末梢から輸液を投与するのは禁忌 3. 末梢取れない場合,骨髄路を取る(特に乳児・小児) 4. 輸液は細胞外液を用いる 3.血管作動薬 病態 循環改善方法 循環血液量減少性 ショック 1) 十分な輸液(1〜2ℓ)が必要 2) 心停止急迫状態を除き,始めから昇圧薬使用はダメ 心原性ショック 1) 輸液は最小限 2) DOP/ OB投与 3) 前負荷軽減:利尿剤,hANP 4) 後負荷軽減:NG,PDEⅢ阻害薬, PGE1等血管拡張 薬,hANP 血流分布異常性 ショック 1) まず急速輸液 2) 基本:NA アナフィラキシー ショック 2) Ad 0.1mgずつ静注,または0.2〜0.5mgを筋注 神経原性ショック 2) NAなど血管収縮薬を用い, 3) 徐脈に合併する症例では,DOP単独,または併用 敗血症性ショック 図でみる ショック 治療 敗血症動脈 血管収縮させ,血管壁の テンションを維持する ノルエピネフリン 血管内を流れる血流を増やす (心拍出量の増大) 輸液/DOP 4.モニタ/ 臨床検査 1. モニタ: 動脈カニュレーションで持続測定し, 治療の反応性を見る 循環血液量:IVC径 心原性ショックではPACによるモニタ 2. 臨床検査:一般検査+BGA+電解質,胸部X線,ECG AMI:心筋トロポニン,CKMBの迅速キット 肺感染症:肺炎球菌,レジオネラなどの迅速キット エコー:心疾患,出血性疾患,心外閉塞・拘束性疾患に有用 血清乳酸値 組織への酸素運搬料と代謝による酸素消費量のバラン スの評価に用いられる.一般に動脈血で測定する. 肝臓にて処理される. ヒトでの正常値:2mM/l(18mg/dl)以下 正常時 組織 シャントに より低酸素 状態 侵襲時 組織 ショックの悪循環 ショック 循環血液量 心筋収縮力 本文 細 胞 低酸素症 嫌気性代謝 血管透過性 不可逆性ショック 種々の生物 活性物質 代 謝 性 アシドーシス ショック後の臓器不全 MOF (Multiple Organ Failure ) 4臓器3系統 脳 意識障害 脳 死 心 心不全 肺 ARDS 不可逆性ショック 死亡率:臓器不全数の2乗 肝臓 本文 腎臓 中心性壊死 急性腎不全 急性肝不全 血液 DIC 消化管 消化管出血 ショックの継続時間と生存率 生存率 (%) 100 80 60 40 20 0 0 30 60 90 時間 (分) 1) 循環血液量減少性ショック 1. 絶対的循環血液量の減少 A) 全血の喪失:出血性ショック ・外傷性ショックの約90%を占める ・外出血と内出血がある B) 血漿成分の喪失:熱傷ショック 2. 相対的循環血液量の減少(末梢血管の拡張) A) 神経原性ショック:脊髄損傷など B) アナフィラキシーショック 出血性ショックの重症度分類:出血量と症状 ショック 重症度 循環血液量 の欠乏量 無症状 10〜15% 500〜 750ml 15〜30% 750〜 1500ml 30〜45% 1500〜 2250ml 軽 度 中等度 重 症 45%以上 出血量 2250ml 以上 ショック 指数 臨床症状 尿量 無症状,軽度の頻脈 時に立ちくらみ,眩暈 やや減少 40〜50ml/h 手足の冷感,冷汗, 倦怠感,口渇,頻脈, 血圧低下傾向 減少 30〜40ml/h 1.5〜2.0 蒼白,呼吸速迫,不穏, チアノーゼ,血圧低下, 高度の頻脈 乏尿 10〜20ml/h 2.0以上 強度の皮膚蒼白, 意識混濁ないし昏睡, 高度の血圧低下, 脈拍触れにくい 無尿 0〜10ml/h 0.5〜1.0 1.0〜1.5 図出血量からみた脈拍数,血圧,意識レベルと ショックの重症度 Primary surveyと蘇生 目的:生命機能維持のための生理機能の迅速な評価と支持療法 第一印象 詳細なABCDEアプローチ A 気道評価・確保と頸椎保護 B 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 C 循環評価および蘇生と止血 D 生命を脅かす中枢神経障害の評価 E 脱衣と体温管理 Primary surveyで明らかにされるべき病態 「TAF3X & MAP & 切迫するD」 • • • • • • • • • • T; (Cardiac) Tamponade 心タンポナーデ [C] A; Airway obstruction 気道閉塞 [AB] F; Flail chest フレイルチェスト [B] X; Open pneumothorax 開放性気胸 [B] X; Tension pneumothorax 緊張性気胸 [BC] X; Massive hemothorax 大量血胸 [BC] M; Massive hemothorax 大量血胸(重複) A; Abdominal hemorrhage 腹腔内出血 [C] P; Pelvic fracture 後腹膜出血 [C] 「切迫するD」 重度頭部外傷 [D] B 呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置 • 致命的な胸部外傷と処置(TAFXXX) • • • • • • 心タンポナーデ→心嚢穿刺(Cでも鑑別) 大量の気道出血などによる気道閉塞→確実な気道確保 フレイルチェスト→確実な気道確保、陽圧補助換気 開放性気胸→胸腔ドレナージと閉創 緊張性気胸→胸腔穿刺・ドレナージ(Cでも鑑別) 大量の血胸→胸腔ドレナージと出血量の観察 (Cでも鑑別) • 陽圧換気前後に, 呼吸音の左右差確認 • 気胸の増悪(緊張性気胸)や低容量による血圧低下 ショックの原因検索:大量内出血 出血性ショック 外出血・長管骨骨折 血胸・腹腔内出血・後腹膜出血 非出血性ショック 心タンポナーデ・緊張性気胸 FAST FAST (Focused Asessment of Sonography for Trama) 右胸腔 左胸腔 膀胱周囲 モリソン窩 脾腎境界 膀胱周囲 出血性ショックの治療:FIX-C F. FAST:大量内出血部位の診察 (心タンポ,血胸,腹腔内出血の診断) I. IV:輸液,輸血,抗生剤 X. X-P:レンドゲン(胸,骨盤) C. Compression:外出血に対する圧迫止血 成人:2Lの輸液 (小児:20ml/kg x 3) 2) 心原性ショック 1. 心臓の収縮障害 ・急性心筋梗塞:梗塞範囲が40%以上 ・心筋炎,肥大型心筋症 2. 不整脈 ・高度徐脈( < 40/min) ・高度頻脈( > 160/min:発作性上室性頻拍症など) 心原性ショックの理学的所見 1.収縮期血圧が90mmHg以下, タイトル 血圧が判明している高血圧患者では, 以前のレベルより30mmHg以上の低下が 30分以上続く場合 2.各臓器の循環障害による以下の症状が,全て みられる場合 本文 1) 皮膚蒼白,湿冷,チアノーゼ, 2) 精神機能,意識レベルの低下 3) 尿量20ml/h以下 心原性ショックの症状 1. 心筋収縮力の低下 → 末梢循環不全 皮膚蒼白,湿冷,冷汗,過呼吸, 血圧低下,乏尿 2. 相対的前負荷の増加 → 肺毛細管圧の上昇 泡沫状血痰を伴う肺水腫 (淡いピンク状の空気を含んだ血性痰) スターリング曲線 一 回 心 仕 事 量 正常 心室の拡張期圧/容量と 心臓仕事量は相関 心不全 心臓が適切なポンプ作用を営むには, 心室内に適切な量の血液が充満されていなければ, 十分な心拍出量が得られない 拡張終圧期 心筋梗塞時におけるフォレスターの心機能分類 心係数 (L/分/m2) Ⅰ Ⅱ 正常 鬱血性心不全 肺鬱血(+) 循環不全(一) 2.2 Ⅲ 循環血液量不足 本文 Ⅳ 心原性ショック 肺鬱血(+) 循環不全(+) 循環不全(+) 18 肺毛細管圧(mmHg) 心筋収縮力増強 → 心臓に無理させない治療 (冠血流の維持,後負荷の軽減) 1. 薬物療法 タイトル 1) 直接心筋収縮力増強に働く ・強心配糖体(ジギタリス) ・カテコラミン(DOP,DOB,NA,Ad) ・カルシウム拮抗剤 ・PDEⅢ阻害薬,hANP 2) 冠状動脈拡張薬 ・ニトログリセリン本文 ・PGE1 ・カルシウム拮抗剤) 3)βブロッカー 2. IABP / PCPS 3. 心筋代謝改善 → GIK療法 4. 根治的治療:IHD, AMI(PCI),急性心不全(NPPV) 3) 閉塞性ショック:心拡張障害 1. 心タンポナーデ 2.緊張性気胸 3.肺塞栓 閉塞性ショックの症状 分類 特徴的所見 備考 右心への血液の 頚静脈の著明な 流入障害 怒張 極めて特徴的な所 見 肺から左心への 肺鬱血がみられ 血液の流入障害 ない 他の心原性ショッ クとの相違点 血流分布異常性ショック Distributional Shock 1. アナフィラキシーショック 2. 神経原性ショック 3. 敗血症性ショック アナフィラキシー(様)ショック 1) アナフィラキシーショック 抗原に監査された個体に再度同一の抗原(薬物,昆虫毒,蛇毒) に暴露されるとIgEとの抗原抗体反応(即時型1型アレルギー) により,肥満細胞からヒスタミンやセロトニン,ブラジキニン などの血管作動性アミンが遊離し,血管拡張,血管透過性亢進に よる血漿成分の血管外漏出によって循環血液量が減少する. 2) アナフィラキシー様ショック 補体系の活性化により化学物質が肥満細胞を直接刺激することに より,血管拡張,血管透過性亢進,気管支攣縮を生じる. 疾患:薬物ショック,ペニシリンショック,ヒスタミンショック, 血清ショック,血液製剤投与,食物アレルギー,虫刺症など 3-1) アナフィラキシーショックの症状 ・軽症:結膜炎,鼻炎,紅斑,蕁麻疹様,血管浮腫 ・中等症:気管支攣縮,血圧低下(70〜90) → 呼吸困難 ・重症:喉頭浮腫,血圧低下(70以下) → 窒息 症状の発現:急速 抗原侵入の場合は極短時間で, 注射の場合,30秒〜10分以内で,30分以上かかることは稀。 経口で消化されてアレルゲンになるものでは,30分以上かかる。 血圧低下や呼吸停止,心停止をきたす(蜂刺症:死亡例 <15分) アナフィラキシーショックの治療 軽症 症状 治療法 中等症 結膜炎,鼻炎, 気管支攣縮,血圧低下(70 紅斑,蕁麻疹様, 〜90) 血管浮腫 抗ヒスタミン薬 重症 喉頭浮腫,血圧低下(70 以下) 1)酸素投与 2)気道確保/気管挿管 3)大量輸液(1ℓ以上) 4)エピネフリン0.3mg筋注,0.1mg静注 5)H1ブロッカー:ジフェンヒドラミン 6)H2ブロッカー:シメチジン,ラニチジン 7)ステロイド(遅発性予防):MPSL 125mg 8)グルカゴン(β遮断薬長期投与患者に適する): cAMP増加による陽性変力作用,陽性変時作用を有する 3-2) 神経原性ショック 1. 交感神経系の緊張低下のため末梢血管拡張 と相対的循環血液量の減少による血圧低下 2. 迷走神経反射亢進によって生じる徐脈 本文 疾患:著しい驚愕・不安,高位脊髄損傷,高位脊髄麻酔, 脳死,頚部や腹部などの叩打・圧迫など 臨床症状 :脱力感,冷汗,嘔気,顔面蒼白,失神 3-2) 神経原性ショックの治療 症状 治療 血圧低下:末梢血管拡張と相 1)大量輸液 対的循環血液量の減少 2)NA 徐脈:迷走神経反射亢進 1)アトロピン 2)DOP 敗血症と FOY0124 SIRSの概念と診断基 準 敗血症性ショックにおけるパラダイムシフト PAMPs DAMPs(Alamins) G(-)菌 LPS CD14 PGN G(+)菌 TLR2 TLR4 NO 内因性大麻 ANA, 2-AG NFκB IL-1β, TNFα 敗血症には多因 子が関与し,一 箇所を抑制して も治療効果を期 待できない!? Monocyte Inflammatory cytokines (IL-6, IL-8) Monocyte NFκB HMGB-1 death 3-3) Sepsis / severe sepsis / septic shock 定義 敗血症 重症 敗血症 敗血症性 ショック 感染によって引き起こされた全身性 炎症反応症候群 臓器障害,乳酸性アシドーシス,乏 尿,意識混濁などの臓器灌流低下, または低血圧を呈する敗血症 十分な輸液負荷を行っても低血圧が 持続したり,血管収縮薬の投与を必 要とする病態 3-3) 敗血症性ショック 感染に伴うショック 初期 → hyperdynamic state : warm shock ・血圧の低下原因: 末梢血管の拡張による相対的循環血液量の減少 ・心拍出量は増加し,皮膚は温かい 進行 → hypodynamic state : cold shock ・血圧の低下原因:心臓の収縮力低下 ・心拍出量は低下し,皮膚は冷たくなる 敗血症性ショックの症状 進行度 初 期 Hyperdynamic shock 進 行 Hypodynamic shock 症状 皮膚 感染に伴う高熱, 温かい 悪寒・戦慄, Warm 意識障害,頻脈, shock 尿量減少, 心拍出量 末梢血管 増加 低下 低下 増加 血圧 低下 (SVR低下) 出血性ショック と同様な症状: 四肢冷汗,頻脈, 血圧低下,乏尿, 冷たい Cold 代謝性アシドーシス shock 著明低下 (心収縮力低下) 11の学会が共同で提唱 Surviving Sepsis Campaign Guideline = 敗血症治療のガイドライン 今後10年間で死亡率を25%低下させよう 2008 SSCG: 重症敗血症のガイドライン 1)敗血症の発症確認後,6時間以内に治療目標に達するように輸液負荷を行う 2)抗生物質選択は広域スペクトラムから開始.監視培養で感受性のある抗生物質に変更. 3)血管作動薬はノルエピネフリンとドパミンを用いる 4)敗血症性ショックに対しステロイドを用いる 5)重症敗血症に対しては活性化プロテインC(遺伝子組み換え型)を用いる 6)ヘモグロビンの目標値を7〜9g/dlとする 7)肺傷害に対し,低換気量(高炭酸ガス許容)と適切なPEEP 8)体位を半臥位とする 9)人工呼吸器からの離脱はARDSネットワークのプロトコルを用いる 10)鎮静はスケールを用い(Ramsayスコアなど).均一な鎮静状態でなくリズムを作る 11)血糖値は150mg/dl以下にする 12)pH7.15以上では重炭酸(メイロン)は投与しない 13)深部静脈血栓症に対する予防とストレス潰瘍に対する予防を行う 14)治療を中止する決断も重要である SEVERE SEPSIS BUNDLES Sepsis Resuscitation Bundle(6時間以内に)感染治療と循環管理 1.血清乳酸値を測定する 2.抗生剤投与前に血液培養を施行する 3.症状発現時から救急室において, 3時間以内に広域な抗生剤を投与する。ま たICU入院においては, 1時間以内に投与する 4.初期治療で20ml/kgの晶質液, または膠質液を投与するMAP>65 mmHgを 維持するために適切な輸液を行い、その後昇圧剤を使用する 5.CVP>8mmHgに保つ. ScvO2>70%に保つ Sepsis Management Bundle(24時間以内に)維持療法 標準化されたICU治療指針に基づき敗血症性ショックに対して少量ステロイド 投与がなされる 1.活性型プロテインC投与がなされる(日本では該当なし) 2.血糖<180mg/dL(ただし下限値よりは下回らないこと) 3.人工呼吸器の設定として、吸気プラトー気道内圧<30cm H20に保つ Protocol for Early Goal-Directed Therapy (Riverse E, et al, N Engl J Med, 2001) 酸素投与 CVC + + 気管挿管,人工呼吸 動脈カテーテル留置 CVP < 8 mmHg 膠質液 8〜12mmHg < 65 mmHg MAP 晶質液 > 90 mmHg 血管作動薬 > 65 and < 90 mmHg SvO2 ≧ 70% < 70 % Ht >30%までMAP 循環作動薬 GOAL ≧ 70% < 70% Protocol beyond Early Goal-Directed Therapy ICU入室前の診断・治療 SIRS:ー1.体温>38℃または<36℃ ー2.呼吸数>20/minまたはPaCO2<32mmHg ー3.心拍数>90/min ー4.白血球数>12000/mm3または<4000/mm3 幼弱好血球(桿状核球)>10% 重症敗血症の認識 気道確保とIVルート確保 輸液負荷: NS/LR 30mL/kg 30〜60分 広域抗菌薬:1時間以内 ±感染源コントロール SBP<90:輸液追加 NS/LR 30mL/kg 30〜60分 その後,500cc30〜60分 + 重症敗血症: ー1.感染疑い ー2.SIRS2項目 ー3.SBP<90(輸液負荷後) ー4.乳酸>4mmol/L ノルアドレナリン開始: 0,01μg/kg/分 PMX−DHP + CHDF 検査: ー1.生化学(肝,腎機能,電解質),凝固,血算 ー2.乳酸 ー3.画像検査:X線,CT,エコー ー4.血液培養2セット,尿培養,感染臓器培養 初期治療開始後の治療 SBP<90: ノルアドレナリン0.02μg/kg/分↑ 心エコー:左室機能評価 Aライン挿入,PPV/SVV評価 PPV/SVV,IVC呼吸変動率:輸液反応性 LR500mLまたは 5%アルブミン250mL 左室機能低下〜正常: ドブタミン2.5μg/kg/時 左室機能亢進: バソプレシン0.03単位/分 ショック維持 ショック改善 血行動態モニタリング: ―Upstream Endpoint ―Downstream Endpoint まとめ 1.ショックの早期認識 ・血圧に頼るな! ・後手に廻るな! 2.ショックの早期治療 ・循環管理(しっかり入れる) ・原因治療(感染管理:重要) Q&A Q1.20歳男性 (50kg, Hb:16g/dl) 大腿骨骨折, 動脈損傷 車に跳ねられ受傷, 大腿部より出血,すぐに圧迫止血して,救命救急センター搬入 手は冷たく,脈は速い,血圧: 100/80, 心拍数: 100/分 予想出血量はいくら? (1) (2) (3) (4) (5) 出血したら,血圧は下がるのか? 250 500 1000 2000 3000 出血性ショックの重症度分類:出血量と症状 ショック 重症度 循環血液量 の欠乏量 出血量 無症状 10〜15% 500〜 750ml 15〜30% 750〜 1500ml 30〜45% 1500〜 2250ml 軽 度 中等度 重 症 45%以上 2250ml 以上 ショック 指数 臨床症状 尿量 0.5〜1.0 無症状,軽度の頻脈 時に立ちくらみ,眩暈 やや減少 40〜50ml/h 1.0〜1.5 手足の冷感,冷汗, 倦怠感,口渇,頻脈, 血圧低下傾向 減少 30〜40ml/h 1.5〜2.0 蒼白,呼吸速迫,不穏, チアノーゼ,血圧低下, 高度の頻脈 乏尿 10〜20ml/h 2.0以上 強度の皮膚蒼白, 意識混濁ないし昏睡, 高度の血圧低下, 脈拍触れにくい 無尿 0〜10ml/h ショック指数=心拍数/収縮期血圧 Shock Index=血圧,心拍数より予想される出血量 通常:0.6〜0.7, 1以上は出血量(ℓ)に相当 本症例: HR/SBP = 100/100 = 1.0 (ℓ) 予想出血量はいくら? (1) (2) (3) (4) (5) 250 500 1000 2000 3000 出血したら, 血圧が下がる前に脈が増えるのだ! Q2. 20歳男性 (50kg, Hb:16g/dl) 大腿骨骨折,動脈損傷 医大前でバイクと車の交通事故 ヘルメットなし. 膝窩動脈より1000ml出血, すぐに圧迫止血して, 受傷5分後に当院救命救急センター搬入 出血したら, 貧血になるか? 搬入時のHbはいくつでしょうか? (1) (2) (3) (4) (5) 16 12 10 8 6 20 歳男性(Hb: 16g/dl)大腿骨骨折,膝窩動脈損傷 1ℓ 血漿 1ℓ 1ℓ 1ℓ 細胞・間 質からの 水移動 (> 1h)や輸 液による 増加 血球 =Ht 4ℓの循環血液量のうち1ℓを出血した しかし全血を失った場合,Hb,Ht, RBCは変わらない . 急性出血の場合, , では,貧血になるのはなぜ? すぐ貧血にはならない さて搬入時のHbはなんぼ? (1) 16 (2) 12 (3) 10 (4) 8 (5) 6 (1) 16 g/dl 20 歳男性(Hb: 16g/dl)大腿骨骨折,膝窩動脈損傷 医大前でバイクと車の交通事故, 大腿部より出血,すぐに圧迫止血して,救命救急センター搬入 テは冷たく,脈は速い,血圧: 100/80, 心拍数: 100/分 1000ccの急性出血では 1)収縮機血圧は低下しない(脈圧は低下) 2)頻脈となる 3)末梢冷感が出現する Q3. ショックにどの輸液を使用する? 1. 5%ブドウ糖 2. ソリタ3号(3号液液) 500ml 500ml 3. 細胞外液(生食,Veen D)500ml 4. HESパンダー 5. 5%アルブミン 500ml 500ml 輸液剤はどれくらい血管内に残存するのか 5%ブドウ糖 → 全ての区分に均等に分布するので, 5%しか増えない 細胞外液 → 細胞外液のみ; 血管内1/4, 組織間液3/4 蛋白・コロイド製剤 → ① 血管内に全て留まる. 細胞内液 ② 5%以上の濃度では 40% 高膠質浸透圧により 3〜5倍の水分を 血管内へ引き込む 細胞外液 20% 間 血 質 漿 液 15% 5% ショック治療に用いる輸液 • 晶質液(NaClを主体とした輸液) – – – – 生理食塩水 乳酸リンゲル液 酢酸リンゲル液 重炭酸リンゲル液 安価で簡便。しかし,輸液 量の1/4程度しか血管内に 留まらず間質に分布し浮腫 を形成。5%ぶどう糖液は 僅か5%しか血管内に残ら ない。 • 膠質液(溶媒の分子量が大きい) – 加熱ヒト血漿蛋白製剤 – デキストラン – ヒドロキシエチルデンプン 浸透圧の上昇により血管内 容量が輸液した以上に増加 するが,一方,細胞内脱水 を進行させる Q5. 急速輸液をしたい. あなたは末梢静脈カテか, CVカテ(内頚 静脈)か? どちらを選択するか? 4 抵抗=K・L/R カテ 太さ 末梢静脈に 16G, 4cmのカテ 16 長さ 4 抵抗 1 < 中心静脈に 14G, 16cmのDLカテ 20G/16G (4乗すると2.44倍) 16 (4倍) 9.7 フレンチとゲージ チューブなどの太さを示すフレンチ(Fr)とは? ⇒ 1Fr = 1/3 mm 注射針などに使うゲージ(G)とは? ⇒ Gは1インチ (25.4mm) の何分の1かを表しており, 例えば,22Gの注射針は1/22インチ(1.15mm)の太さを示す。 つまり,Gの数字が小さくほど針は太くなるのだ。 従って,14Gの針の太さは28Gの2倍の太さだ。
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