10.新規骨粗鬆症治療薬とCKD合併骨粗鬆症

CKD-MBD
10.新規骨粗鬆症治療薬とCKD合併骨粗鬆症
Perspective of new anti-osteoporotic drug in osteoporotic patients complicated with CKD
稲葉 雅章
Masaaki Inaba
(教授)/大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学
CKD 合併骨粗鬆症では,CKD ステージ 3(eGFR < 60 mL/min)で血清 PTH 濃度の上昇
は始まり,PTH 過剰に伴う皮質骨多孔症が生じる.したがって,皮質骨が骨強度を規定して
いる大腿骨近位部の脆弱性が増し,大腿骨近位部骨折リスクが有意に上昇する.また,同じ程
度の血清 PTH 濃度上昇でも,PTH の骨での感受性が閉経後女性>閉経前女性>男性の順に
強くなることから,PTH 過剰に伴う骨折リスクの増大は閉経後女性で顕著であり,骨粗鬆症
治療薬による介入が必要となる.既存薬では,カルシウム / リン過剰負荷や骨代謝回転過剰抑
制による無形成骨の発症とそれに伴う血管石灰化誘発の危険性や,皮質骨骨折を十分に抑止
するための薬剤強度などの問題があり,CKD 患者での骨粗鬆症治療を長期にわたって安全に
効率よく行えなかった.
しかし,
骨形成抑制作用の弱い新規骨粗鬆症治療薬の登場で,
無形成骨・
血管石灰化の発生を回避したうえで,骨粗鬆症治療による骨折抑止の期待が高まっている.
患者での骨折予防に向けた積極的な介
はじめに
入が望まれる.透析患者でも骨折率は
近 年,慢 性 腎 臓 病(chronic kidney
100透析患者・年あたり2.9件と非常に
disease:CKD)
患者では,腎機能低下に
高く2),米国腎臓データシステムでの検
3)
key words
CKD(慢性腎臓病)
CKD-MBD
(CKD に伴うミネラル骨代謝異常)
二次性副甲状腺機能亢進症
骨粗鬆症治療薬
CKDでの血中Ca・リンの
過剰負荷の危険性
加齢に伴うeGFRの低下によって,尿
伴う副甲状腺機能亢進も関与し,骨折
討でも一般人口より4倍骨折率が高い .
中Ca・リン排泄が低下するため,CKD
リスクの上昇が認識されるようになっ
また骨折が一般人口より若年で起きてい
ではCa/リン過剰負荷が起こりやすい.
4)
てきている.CKDと骨折罹患率はとも
ることが特徴である .副甲状腺ホルモ
陸棲動物では一般にCa欠乏状態となる
に加齢に伴って上昇するが,骨折リス
ン
(PTH)
分泌を直接抑制するカルシウム
ため,Ca補充のための骨吸収が持続し
クはCKD罹患で上昇し,CKD患者で5.2
(Ca)
感知受容体刺激薬であるシナカル
て起こると骨粗鬆症が発症する.CKD
セトの登場により,透析患者での顕著
患者ではリンの尿中排泄低下が早期よ
1)
%にも上ることが示されている .ただ
し,保存期CKDでの推算糸球体濾過量
5)
な骨折率の低下が認められている .し
り起こるため,リンの過剰負荷による
(eGFR)
低下に伴う骨折率の上昇は,男
たがって,CKD患者での骨吸収抑制に
血清Ca濃度の低下が起こるものの,尿
性より女性に顕著であり,さらに高齢
よる骨折防止効果は骨吸収抑制薬で可
中Ca排泄は低下しており,Ca点滴投与
女性では若年女性に比べて顕著である
能と考えられ,長期投与で,より安全
により血清Ca濃度の易上昇性が認めら
ことが示されている .さらに骨粗鬆症
と考えられる新規骨粗鬆症治療薬の有
れる.したがってCa負荷をかけるよう
の有無に分けてCKDの合併をみてみる
用性が示唆される.本稿ではCKD特有
な薬剤では,血清Ca×リン積の上昇を
といずれの群でもCKD合併例での骨折
でのCa・リン代謝異常,それに基づく
通じて骨石灰化が進展し,さらには血
率上昇が示されていることより,CKD
骨粗鬆症治療戦略を中心に述べてみる.
清へのCa負荷に伴うPTH抑制によって
1)
THE BONE Vol.29 No.4 2016- 新春号
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