日本語習得過程におけるネットワーク形成と社会参加 Networking, social

一般社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
日本語習得過程におけるネットワーク形成と社会参加
-在日インド人ビジネスパーソンの事例から-
鈴木
真奈†
†早稲田大学大学院日本語教育研究科 〒169-0051 東京都新宿区西早稲田 1-21-1
E-mail: †[email protected]
あらまし 本研究は,教室指導を受けずに日本語を習得し,社会参加を果たした日本語学習者に関する質的研究
である.特に,近年増加傾向にあるインド人ビジネスパーソンに焦点を当て,4 名の半構造化インタビューを行い,
ネットワークの観点から分析・考察を行った.その結果,一人一人の日本語経験や習得プロセス,多様な社会参加
の過程を経て,従来の言語学習の範疇には入れられてこなかった異文化調整能力や異文化適応能力を身に着けてい
ることがわかった.そして,こうした能力は,学習者と彼ら/彼女らを取り巻く他者や環境との関係の中で形成され
ていることも明らかになった.また,どの学習者も,文法積み上げ式といった日本語教育の従来型の学習法とは異
なり,実際使用場面に根ざした業界用語を中心に,習得順序や制限のない,自由で自律的な学びを創出している点
が共通していた.
キーワード ネットワーク,社会参加,言語習得,在日インド人ビジネスパーソン,インフォーマル学習,江戸
川区,質的研究,半構造化インタビュー
Networking, social participation and acquisition of Japanese
-Case studies of several Indian business persons in Japan-
Mana Suzuki‡
†Graduate School of Japanese Applied Linguistics, Waseda University
1-21-1 Nishiwaseda, Shinjuku-ku, Tokyo, 169-0051 Japan
E-mail: †[email protected]
Abstract
In this paper, we report on a qualitative research about Japanese learners who successfully participated in
Japanese society without formal education of the Japanese language, focusing on four Indian business persons, with whom we
conducted semi-structured interviews. I analyzed the data gathered in terms of their social networking. Throughout their
exposure to and experiences in the Japanese society, acquisition of the language and various social participation, they obtained
abilities for cross-cultural adjustment adaptation ability, which had not been given proper status in language learning so far.
These abilities were formed in relations to other participants in their surrounding communities. Different from typical Japanese
learner experiences within schools, such as those based on buildup approach, all learners created independent and autonomous
learning experiences without fixed order of acquisition or vocabulary restrictions.
Keywords social networking,social participation,language acquisition,Indian business persons,informal learning,
Edogawa Ward,qualitative research,semi-structured interview
1. は じ め に
本研究は,教室指導を前提としない日本語学習者が,
師とは関わりのない学習者は,従来の学習者とは異な
り見えにくい領域にあり,習得プロセスの実態はこれ
他者との関わりを通してどのように日本語を習得し社
まであまり明らかにされてこなかった.しかし,学習
会参加を果たしたのかを,4 人のビジネスパーソンを
者が多様化している現在の日本語教育においては,こ
事例として質的に研究するものである.特に,近年増
れまでの研究の主流とみなされてきた 留学生以外にも
加傾向にある在日インド人に焦点を当て,ネットワー
積極的に目を向け,広い視野を持つことが重要である
ク (人 間 関 係 )の 観 点 か ら 詳 細 に 分 析 ・ 記 述 を す る . 教
と考えている.そして,教育機関や教師とは関わらな
This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.
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い学習者も日本語教育の範疇に位置づけ,今後の日本
半 の 若 手 IT 技 術 者 が 家 族 単 位 で 滞 在 し て い る の が 特
語教育のあり方や,様々な現場で外国人と関わる日本
徴 で あ る 2.
人がもつべき意識について論じる.
江戸川区にインド人が集住している理由は ,帰国後
の子供の教育問題が大きく関わっている.ジェフリー
2. 研 究 背 景
[3]が 述 べ て い る よ う に , イ ン ド は 教 育 格 差 が 激 し く ,
2-1.江 戸 川 区 と い う 地 域 性
高 等 学 校 に 進 学 す る た め に は CBSE(Central Board of
2009 年 以 来 ,筆 者 は 東 京 都 江 戸 川 区 で 日 本 語 教 育 実
Secondary Education: 中 央 中 等 教 育 委 員 会 )と 呼 ば れ る
践を行っている.江戸川区は在留外国人が全国で 3 番
機関が実施する,全国統一試験を受けなければならな
目 に 多 い 地 区 1 で あ る が ,イ ン ド 人 の 集 住 地 と し て も 有
い.この選抜に通ることができなければ,高等学校に
名 で あ る .2015 年 現 在 ,全 国 2 万 人 を 超 え る イ ン ド 人
進学できないことになる.よって,在日インド人の児
の お よ そ 1 割 が 江 戸 川 区 に 集 住 し て い る (図 2-1,図 2-2).
童 生 徒 は , CBSE の カ リ キ ュ ラ ム を 採 用 し て い る イ ン
こうした地域の特徴もあり,筆者が関わる日本語学習
ド系インターナショナルスクール に通うのが一般的な
者 の 大 半 は イ ン ド 人 で あ る .こ れ ま で ,年 少 者 ,主 婦 ,
のである.このカリキュラムを導入しているインド系
語 学 教 師 ,会 社 経 営 者 ,IT 系 エ ン ジ ニ ア な ど 幅 広 い 学
イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル ス ク ー ル は ,都 内 で は 江 戸 川 区 と ,
習 者 と 関 わ っ て き た .当 然 ,学 習 者 の 年 齢 ,学 習 目 的 ,
隣 接 す る 江 東 区 の 2 校 の み で あ る 3 .ま た ,教 育 熱 心 で
学習経験,学習レディネスなど,もっている要素もさ
英語を重視するインド人には,国際バカロレア資格を
まざまである.
も つ イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル ス ク ー ル 4も 人 気 が あ る .
2000 年 以 前 は 単 身 で 生 活 す る イ ン ド 人 エ ン ジ ニ ア
が多かったが,児童生徒のための教育機関が設立され
生活環境が整った現在は,インドから家族を呼び寄せ
て生活しているのである.なお,3 位の台東区には,
御 徒 町 周 辺 で 商 売 を 営 む ,宝 石 系 の イ ン ド 人 (主 に ジ ャ
イ ナ 教 )が 集 住 し て い る .
図 2-1: 在 日 イ ン ド 人 の 動 向 (全 国 上 位 3 位 )
(出 典:法 務 省「 在 留 外 国 人 統 計 」各 年 度 版 よ り 作 成 )
イ ン ド 人 の 歴 史 的 展 開 は 19 世 紀 に 遡 る . 都 丸 [5]に
よると,繊維業を扱うインド人商人が神戸や横浜に住
み 始 め た の が き っ か け だ が , 1923 年 の 関 東 大 震 災 や
1995 年 の 阪 神 淡 路 大 震 災 を 機 に ,現 在 は 東 京 に 拠 点 が
図 2-2: 在 日 イ ン ド 人 の 動 向 (都 内 上 位 3 位 )
移 っ て い る と い う . 3, 4 世 代 目 が 社 会 参 加 を 果 た し ,
(出 典:法 務 省「 在 留 外 国 人 統 計 」各 年 度 版 よ り 作 成 )
定住化し,コミュニティが落ち着いた神戸や横浜地域
と は 異 な り ,都 内 に 在 留 す る イ ン ド 人 は ,主 に 30 代 前
在留外国人数の上位 3 自治体は,1 位東京都新宿区
(38,674 人 ), 2 位 大 阪 市 生 野 区 (27,912 人 ), 3 位 東 京 都
江 戸 川 区 (27,491 人 )で あ る (法 務 省「 在 留 外 国 人 統 計 」,
2015).
1
江 戸 川 区 の 在 日 イ ン ド 人 の 平 均 年 齢 は 25.7 歳 で ,10
歳 未 満 の 子 供 と 30 代 を 中 心 に 構 成 さ れ て い る .在 留 資
格 は 家 族 滞 在 (22%)が 最 多 で あ る .
3 江 戸 川 区 西 葛 西 の Global Indian International
School(通 称 GIIS)と ,江 東 区 西 大 島 の India International
School in Japan(通 称 IISJ).
4 江 東 区 白 河 に あ る K International School.
2
2-2.イ ン ド 人 の 言 語 習 得
4. 研 究 課 題
都 内 在 住 の イ ン ド 人 は 短 期 滞 在 者 5 が 多 く ,第 三 国 へ
本研究の目的は,在日インド人ビジネスパーソンが,
の移動を常に視野にいれながら生活している.筆者か
教室とは異なる環境でどのように日本語を経験し,ど
ら 見 れ ば ,彼 ら /彼 女 ら の ラ イ フ ス タ イ ル は ま る で 旅 の
のような学びを形成しているのか,そしてその学びの
一部のようであり,日本語学習も暫定的である .例え
形成を支えるネットワークはどのようなものかを明ら
ば ,読 み 書 き 能 力 を 身 に 着 け る こ と な く「 聞 く 」
「話す」
かにすることである.これらの研究目的に答えを出す
能力を中心に習得し,ある場面に特化したような使い
た め に ,研 究 課 題 (以 下 ,RQ)は 以 下 の 3 つ を 設 定 し た .
方をする.4 技能にバラつきがあるケースも多く,複
数の言語が,場や状況に応じて頻繁にスイッチングさ
[RQ1]
インフォーマルな学習環境における日本語学
れる.一つの話題の中で突然言語が切り替わることも
習者は,社会参加の過程において,日本 語の使用をど
度 々 あ る .マ ル チ リ ン ガ ル 6 で あ る イ ン ド 人 に と っ て 日
のように経験していたか.
本語は使用言語の一つに過ぎず,日本語を使用する必
[RQ2]
然 性 は 見 ら れ な い .村 田 [8]が 述 べ て い る よ う に ,限 ら
習者にとって,日本語使用の体験は,習得とどのよう
れ た 日 本 語 能 力 に お け る 意 思 の 伝 達 に は ,図 や 絵 な ど ,
な関係があったか.
言 語 以 外 の 手 段 を 組 み 合 わ せ , multimodal な リ テ ラ シ
[RQ3]
ー を 用 い て 対 処 し て い る . 近 年 は ICT(情 報 通 信 技 術 )
は,多様な社会参加を経て,どのような学びを創生し
の発展により,無料の学習教材がインターネットから
ているのか.
インフォーマルな学習環境における日本語学
教室場面での学びに参加しない日本語学習者
自由に手に入る時代になり,携帯電話のアプリケーシ
ョンやパソコンを使った自学自習も容易 になった.学
以上,教室以外の環境における学びと,習得に繋が
校に通わずにビジネス場面で効率的に習得し,日本語
るネットワークの実態を,在日インド人ビジネスパー
能力を生かして仕事をする学習者も少なくない.
ソンの語りと,関わった第三者の語り双方から質的に
分析・考察する.
3. 問 題 意 識
本 研 究 は , 筆 者 が 2014 年 に 経 験 し た 一 つ の エ ピ ソ
5. 研 究 の 意 義
ー ド が 発 端 と な っ て い る .イ ン ド 政 府 関 係 者 を 対 象 に ,
本研究の対象者は,教師とは関わりのない領域にい
在 日 イ ン ド 商 工 協 会 (ICIJ) が 主 催 し た 懇 親 会 に 出 席 し
るため,
「 教 師 」と「 学 習 者 」と い う 立 場 で 関 わ る こ と
た 際 ,ICIJ の 会 長 を 務 め る イ ン ド 人 H 氏 が ,流 暢 か つ
は こ れ か ら も 今 後 も な い で あ ろ う . し か し , 250 万 人
ユーモア溢れる日本語でスピーチをしていた. 後に,
近い在留外国人のうち,教育機関で形式的に日本語を
H さんが日本語学校に通わずに日本語を習得したとい
学ぶ学習者は,1 割にも満たない留学生であるのが現
う話を直接聞き,とても驚いた.公式な場でのスピー
状 で あ る . つ ま り , 200 万 人 を 超 え る 多 様 な 在 留 外 国
チは適切な語彙の選択,運用能力,音声面など高い日
人が,潜在的な日本語学習者として存在しているので
本語能力が必要とされるが,いずれも流暢で母語話者
ある.こうした学習者とは,例えば,地域のボランテ
並みの能力なのである.この経験を通して筆者が抱い
ィア教室に通う生活者がすぐに思い浮かぶかもしれな
た疑問は以下の 3 点である.
い.しかしそれだけではなく,学習の機会に乏しい学
習者の存在も忘れてはならない.例えば,夜間中学在
1.ど の よ う に 日 本 語 を 学 ん だ の で あ ろ う か .
籍 者 , 外 国 人 受 刑 者 , 技 能 実 習 生 , EPA 医 療 福 祉 従 事
2.日 本 語 を 学 ぶ 過 程 で , 周 囲 の 母 語 話 者 は ど の よ う に
候 補 者 7な ど が そ う で あ る . こ う し た 学 習 者 の 多 く は ,
関わったのだろうか.
自ら教育機関にアクセスするのが難しい環境にあるが,
3.周 囲 と の 多 様 な 関 わ り や 社 会 参 加 を 通 し て , 何 を 学
多様な日本語学習者の一人として捉え,日本語教育の
んでいるのだろうか.
視野に入れていくべきである.そして,多様な学習者
以上の問題意識を基に,習得のプロセスを可視化す
る目的で研究課題を設定した.
に対応する多様な支援のあり方を議論していくべきで
ある.そうした観点から,今後は,学習者にとって従
来の関係者であった教師だけではなく ,教師以外の非
在留資格でいうと,
「 技 能 」や「 技 術 」で あ る .江 戸
川 区 の イ ン ド 人 は 両 者 合 わ せ た 割 合 が 全 体 の 29%で あ
る.在留期限は最短で 3 か月,最長で 5 年である.
6 インド国内は「3 言語方式」という言語政策の元で
教育が行われている.3 言語とは,ヒンディー語,英
語,地域言語である.
5
専門家にも関わる身近な問題として捉え,発信してい
く こ と が 重 要 で あ る と 考 え て い る .宮 崎 [6]は ,日 本 語
(Economic Partnership Agreement:経 済 連 携 協 定 )に よ
って東南アジアから受け入れ始めた,看護・介護人材
のこと.
7
の非専門家集団が,言語教育に積極的に役割参加する
ー ト ナ ー 10 名 .
上で必要な理念を「市民リテラシー」と定義し,社会
調査方法:対面型の半構造化インタビュー .
変化の認識や新たな社会規範を学び取る意識を醸成す
イ ン タ ビ ュ ー 時 間 は 60 分 前 後 .
ることが肝要であると述べている.
調査場所:協力者が指定した喫茶店や事務所等.
本研究を通し,今後,多様な場面において外国人と
関わるであろう日本人に対して,どのようなことが 提
学 習 者 へ の イ ン タ ビ ュ ー は ,(1)来 日 の 背 景 (2)学 習 動
言できるのかを考えるための基礎研究とすることが本
機 (3)学 習 環 境 (4)周 囲 と の 関 わ り (5)社 会 に お け る 自 己
研究の目指すところである.
の 役 割 (6)能 力 に 関 す る 自 己 評 価 (7)習 得 の 工 夫 を 中 心
に 聞 き 取 っ た . パ ー ト ナ ー へ の イ ン タ ビ ュ ー は , (1)
5. 先 行 研 究
本 研 究 に 関 連 す る 先 行 研 究 は ,「 学 習 環 境 」「 学 習 者
出 会 っ た き っ か け (2)相 手 の 人 柄 や 人 物 像 (3)日 本 語 の
運 用 能 力 (4)こ れ ま で の 支 援 を 中 心 に 聞 き 取 っ た .質 問
オートノミー」
「 教 師 の 教 育 観 」の 3 つ 観 点 か ら 概 観 し
紙 は 予 め 作 成 し ,イ ン タ ビ ュ ー 前 に メ ー ル で 送 付 し た .
た . 学 習 環 境 に つ い て は , OECD[2]に よ っ て 3 つ の 異
イ ン タ ビ ュ ー は ,協 力 者 の 許 可 を 得 て IC レ コ ー ダ ー で
な る 学 習 環 境「 フ ォ ー マ ル 学 習 」
「インフォーマル学習 」
録音し,全て文字化した.インタビューの際には個人
「ノンフォーマル学習」が定義されてはいるものの,
情報に十分配慮し,静かな時間帯や場所を選ぶよう心
近 年 の 学 習 者 の 多 様 化 や ICT の 発 展 に 伴 い ,学 習 環 境
が け た . イ ン タ ビ ュ ー 時 間 は 最 短 で 30 分 , 最 長 で 1
の明確な区分けには限界があることが明らかになった.
時 間 半 で あ っ た . 文 字 数 は 最 も 少 な い も の で 7,019 文
学 習 者 オ ー ト ノ ミ ー に つ い て , 青 木 , 中 田 [1]は ,「 誰
字 ,最 も 長 い も の で 20,243 文 字 で あ っ た .文 字 化 し た
でも持ちうる能力である」としながらも,依然として
デ ー タ は 佐 藤 [4]を 参 考 に ,
「来日の背景」
「日本語経験」
教師からの働きかけが必要であることが指摘され,オ
「習得との関係」
「 学 び 」に 関 す る 語 り を 抜 き だ し ,コ
ートノミーを育てる上で教師の介入・干渉は前提とな
ードを付け分類した.分析は筆者一人で行った.
っ て い る .し か し ,そ う し た 教 師 の 指 導 を 前 提 と せ ず ,
社会参加を果たした本研究の調査対象者の事例は,青
6-2.協 力 者 の プ ロ フ ィ ー ル
木 ほ か [1] の 理 論 に 新 た な 知 見 を 加 え る こ と に な る で
本研究の調査協力者は以下の通りである.
あろう.また,教師の教育観に関しては,これまでの
研究の多くは留学生を主な対象とし,教師の指導を前
表 6-1: 調 査 協 力 者 a の プ ロ フ ィ ー ル (学 習 者 )
提とした学びに関するものが主流であった.近年は教
氏
性
育理念を捉え直し,教師の成長や立場の再形成に目を
名
別
向ける傾向は見られるが,教室以外の学習活動につい
A
男
40 代
ては十分に目を向けられていない.こうした学習者を
O
男
50 代
日本語教育の範疇に位置づけ,今後,どのように捉え
U
男
向き合うべきかという視点で書かれた研究は,管見の
G
男
年齢
業種
来日時期
在留
(年 )
資格
情報通信業
1999
永住
情報通信業
1991
永住
30 代
情報通信業
2007
技術
60 代
貿易業
1974
永住
限り見当たらない.
表 6-2: 調 査 協 力 者 b の プ ロ フ ィ ー ル (パ ー ト ナ ー )
6. 調 査 の 概 要
事
氏
性
6-1.デ ー タ 収 集
例
名
別
A
R
男
出版業
2005-現 在
B
女
飲食業
1995-現 在
N
男
-
1996-現 在
I
男
情報通信業
2011-現 在
T
男
情報通信業
2004-2009
D
女
情報通信業
2004-2009
F
男
娯楽業
1976-現 在
調査の概要は以下の通りである .なお,調査協力者
a の 選 定 (学 習 者 )に は ,筆 者 が 所 属 す る 日 印 協 会 に 協 力
を 依 頼 し ,雪 だ る ま 式 に 紹 介 を 受 け た .調 査 協 力 者 b(日
O
本 人 パ ー ト ナ ー )の 選 定 に は , 調 査 協 力 者 a(学 習 者 )か
ら「日本語習得に関して,これまで深く関わりのあっ
た人」という条件で,紹介を受けた.
U
調 査 期 間 : 2014 年 11 月 か ら 2015 年 6 月 ま で .
調査協力者:日本語を形式的に学んだ経験のない在日
インド人ビジネスパーソンと,彼らと関わりのある/
あった日本人パートナー.
調査人数:インド人ビジネスパーソン 4 名,日本人パ
G
業種
関わった時期
(年 )
C
男
サービス業
1995-現 在
M
女
貿易業
1999-現 在
L
男
娯楽業
2014-現 在
こうした能力の育成を日本語教育の目的の議論の中心
7. 調 査 結 果 の ま と め
分析の結果,4 人の事例に共通するのは以下の通り
に置き,日本語が社会的にどのように機能し,他者と
の関係でどのように形成されているのか,学習者の学
であった.
びとの関わり方について,より議論をしていくべきだ
と考えている.
[RQ1 の 答 え ]
1.
人的ネットワークを有効利活用することによって,
教室環境と似たような学習環境を作り出し,周囲の母
8-2.日 本 人 に 向 け て
語話者を教師に代わる学習管理者として仕立て上げて
在 留 外 国 人 が 250 万 人 を 超 え る 現 在 , 学 習 者 の 多 様
いる.そして,その学習管理者は多様で,生活環境や
化は身近な話題となっている.また,日本が少子高齢
学習レベルに応じて管理者の移行が生じている.
化という深刻な社会問題に直面する中で, 在留外国人
2.
滞在期間の長期化にともない,日本人に受け入れ
られやすい行動方略を無意識的にとるようになる.
といかに共存,共生していくのかを幅広く議論してい
く 必 要 が あ ろ う .外 国 人 と 関 わ る 機 会 の あ る 日 本 人 は ,
異文化を理解し,共に学び合うパートナーとして,外
[RQ2 の 答 え ]
国人の日本語能力を積極的にケアする姿勢が求められ
滞在期間の長期化と音声習得には因果関係が認め
るが,まだ十分に意識化されているとは言えず,単な
られない.音声に意識を向け,気づきを得ることが習
る傍観者になる傾向がある.学習者と関わる教師や,
得の第一歩となる.
ビジネス場面で関わる日本人参加者,地域住民など,
1.
それぞれができる範囲で,それぞれの役割に応じて貢
[RQ3 の 答 え ]
1.
献する姿勢をもつことが喫緊の課題である .このよう
学習者は多様な社会参加の過程を経て,異文化調
整能力や異文化適応能力を育んでいる.
2.
な社会に向かうことこそが,日本のグローバル化と言
えるのではないだろうか.
文法積み上げ式といった日本語教育の従来型の学
習法とは異なり,実際使用場面に根ざした業界用語を
中心に,習得順序や制限のない,自由で自律的な学び
を創出している.
9. 今 後 の 課 題
本研究は,調査対象者の出身地域が限定された 4 名
の事例研究であったことから,本研究で得られたデー
タを基に,今後はさらにデータを増やし 研究を進めて
8. 提 言
いく必要がある.さらなるデータの収集と対象領域の
8-1.今 後 の 日 本 語 教 育 に 向 け て
拡大によって,インド人学習者としての汎用性が出て
日本語教育機関におけるこれまでの日本語教育は
く る と 思 わ れ る .し か し ,一 口 に イ ン ド 人 と 言 っ て も ,
language Proficiency Test :
地域が異なれば言葉,文化,宗教が異なり,インド人
JLPT )対 策 を 初 め と し て , 学 習 者 の 言 葉 の 知 識 や 能 力
ですら他地域出身者を「外国人」と認識するほど多様
を育成することを重視してきた.学習に使用される教
で,奥の深い国であり,どのような共通点が見出せる
材は,明らかに,4 技能をバランスよく習得すること
かは分析をしてみないと分からな い.
日 本 語 能 力 試 験 8 (Japanese
を 前 提 に 制 作 さ れ て お り ,日 本 語 の 授 業 の シ ラ バ ス も ,
近年の経済の国際化や社会のグローバル化に伴い,
どのような能力が獲得されるのかを明確にデザインす
外国人と日本人の接触場面はより一層増え,そうした
ることが求められている.しかし,このような言語学
状況で,日本人がどのような意識をもって関わってい
習観は,学習者の社会参加を可能にする機会を作りだ
くべきかを論じることは重要であると考えるが,現時
してきたとは言えないのではないだろうか.本研究を
点ではまだそのような段階に至っていないのではない
通して,異文化調整能力や異文化適応能力を身に着け
だろうか.外国人が日本語を使用する場面において,
ることが,社会参加の実現に不可欠であることが明ら
周囲の日本人は相互に理解し学びあうパートナーとし
かになったが,こうした学びは,これまで言語学習の
て,どのように関わり,支援をしているのか,日本人
範 疇 に 入 れ ら れ て こ な か っ た .三 代 [7]が 述 べ て い る よ
の言語行動と外国人の日本語使用の実態を 把握するこ
うに,日本語教育の目的の議論は能力の育成に焦点化
とが先決であり,さらなる研究のための基礎研究を進
し過ぎ,それが主流となっていたのである.今後は ,
める必要がある.
公益財団法人日本国際教育支援協会と独立行政法
人国際交流基金が主催する,日本語を母語としない人
を 対 象 と し た 検 定 試 験 で あ る .2014 年 現 在 ,67 の 国 ・
地 域 で 実 施 さ れ , 毎 年 60 万 人 近 く が 受 験 し て い る .
8
文
献
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教育-韓国人留学生のライフストーリーから-”
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Sep.2010.
[8] 村 田 晶 子 ,
“複言語状況におけるブリコラージュが
意味するもの-工学系の 2 つの共同体における事
例 か ら - ,”WEB 版 リ テ ラ シ ー ズ ,6,no.2,pp.1-9,
Dec.2009.
参 考 URL
法務省「在留外国人統計」
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touro
ku.html
日本語能力検定試験
http://www.jlpt.jp/