東京大学IRT 研究機構、3 つのロボット技術を発表

東京大学 IRT 研究機構、3 つのロボット技術を発表
少子高齢社会をロボット技術で支えることをプロジェクトテーマに掲げる
「東京大学 IRT 研究機構」は、 2008 年 10 月に発
表した車輪移動型の双腕ヒューマノイドロボット「ホームアシスタントロボット」による掃除片付け技術に続いて、 12 月ま
でに 3 つのロボット技術を追加発表した。発表されたロボットは、パーソナルモビリティ
(1 人乗りの移動ロボット)、思い
森山 和道(サイエンスライター)
出し支援ロボット、キッチンロボットの 3 種類。それぞれ紹介する。
パーソナルモビリティ
親指コントローラ
思い出し支援技術は 1)日用品を物品認
識し、収納場所などをデータベースに記
パーソナルモビリティは高齢者の移動支
憶する技術、2)広視野多重解像度カメラ
援を目的に開発されているロボット。屋内
とロボットが人の行動を認識する技術の 2
用と屋外用の 2 種が発表された。
つからなる。物品の認識にはビジョンが使
屋外用パーソナルモビリティは、時速
6km の走行が可能で、重量は 150kg。
ハンドル
ブレーキ
をベースにセンサー類を追加、IRT 研究機
構が開発した新制御技術を搭載したもの。
トワーク経由で 56CPU からなる PC ク
ラスタに送って画像を処理する。そして 3
2007 年 12 月に発表されたトヨタの倒
立 2 輪型のパーソナルモビリティ
「モビロ」
われている。特徴点を抽出し、それをネッ
操縦用のコントローラ。手関節で回転させて操
作することで、ハンドルの役割をする。親指コ
ントローラで、前後方向の速度切替や、前後左
右の操縦を行う。
∼ 4 秒後に随時システムに送り返し、ロ
ボットがそれに応じて行動を実行するとい
う流れだ。今の PC クラスタの性能だと、
3 次元物理モデルを使い、前後左右の揺れ
百数十程度の物品を認識できるとのこと
をそれぞれ個別に制御するのではなく 1
だ。
ビジョン情報収集にはロボットに搭載
つのものとして制御できるようになった。
それによって斜面や段差、凹凸がある場所
されているカメラだけではなく、各引き出
全体の安定性が増した。搭乗者の負担の少
しの上にもカメラを設置し、各カメラは
ない手首の回内・回外運動を使った操縦系
変化が起こるたびに撮影してデータベース
を独自に開発した。
に送る。物体の認識には回転やスケール、
屋内タイプのパーソナルモビリティは
照明などが変化しても変わらない SIFT
660 × 640 × 1,300mm(幅×奥行き×
(ScaleInvariant Feature Transform)特
高さ)
、重量 45kg。座面下に 6 軸力セン
徴量を使っている。床にはパッシブ RFID
サーを内蔵し、座面上での体重移動を検
が埋設されており、ロボットとスリッパに
知して任意の方向に動くことができる。こ
アンテナと読み取り装置を搭載。これによ
れによって両手が空くことがメリットだ。
り、ロボットや人の位置を検出していた。
ヘッドレスト部分にはカメラも内蔵してお
新規に開発されたロボットは、見守りロ
り、オプティカルフローを使って人のジェ
ボット「Mamoru」君。動き検出、パター
スチャー認識をし、それに応じて対面者に
ンマッチング計算において汎用 PC の 6
近寄っていくといった動作も可能となって
いる。本体後方にも下方向に向けられたカ
メラを備え、こちらのカメラでは床面の模
様をマーカーとして認識することでグロー
バル座標を獲得し、自律移動できる。
屋内用パーソナルモビリティ。人が座っている
かどうかを認識して、その搭乗者の重心位置や
座面との接触状況などから操縦意図を推定し、
体の動きだけで操縦することができる。
ロボットによる「思い出し」支援技術
各ロボットについて紹介しよう。照明ロ
屋外用パーソナルモビリティ。
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倍の高速処理性能を持つ富士通のビジョン
ボードを使っている。カメラは、光学系は
1 つなのだが、広視野、中心部など異なっ
た解像度を持った複数の画像をハードウェ
アで分離してボードに送る機能を持つ。ま
た聴覚として 16 チャンネルのマイクを持
ち、スピーカも備える。
ボットによる「思い出し」支援技術は、ロ
たとえば「Mamoru 君」は顔パターンの
ボットと、広視野で多重解像度を持った
知覚、立体視を使った顔と手の注視、奥行
環境カメラを連携させることで、日常の
き比較を統合することができる。これらの
ちょっとした物品の置き場所や薬の飲み忘
技術によって、薬を飲んでいる人を見守
れなどの「思い出し」を支援する技術を開
り、薬箱を持ってきたこと、飲もうとして
発したというもの。高齢者支援を目的とし
いることを視覚で認識し記憶することがで
ている。
きる。この技術は株式会社富士通研究所と
ROBOCON Magazine 2009.2
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