諸外国の公的土地評価制度等(改定版)

参考資料2
諸外国の公的土地評価制度等(改定版)
1.地域別の概況
欧州では、日本の地価公示に類する制度はあまり見られないものの、ドイツでは、
日本に先立つ1964年(昭和39年)より「地価マップ」の公示が行われている。
アジアでは、日本で1970年(昭和45年)から実施されている地価公示を参考
とした制度が、中国、台湾、韓国等で導入されている。
アメリカアメリカでは、地価公示に類する制度は存在しないが、土地・建物の両方
が対象となる不動産取引情報のデータベース(2.(4)参照)が構築されている。
なお、このように、土地と建物を区分し、土地のみを評価の対象とするような制度
は、日本、アジアを中心として実施されているという傾向が読み取れるが、これは、
・ 欧州では、建物の構造上の特徴が日本と異なり、また、都心部の開発規制も
強いため、土地が取引の対象となりにくいこと
・
欧米では土地・建物が一体の不動産として扱われており、課税の際も土地・
建物を一体として評価の対象とする傾向があること
・ 日本における不動産の取引価格のうち、土地の価格が占める割合が欧米に比
して相対的に高いこと
といった理由によるのではないかとの指摘がある。
諸外国における地価公示に類する制度の実施状況
地域
欧州
アジア
北米
国
イギリス
フランス
ドイツ
ロシア
シンガポール
マレーシア
香港
韓国
中国
台湾
アメリカ
カナダ
地価公示に類する制度の有無
なし
なし
あり(詳細後述)
なし
なし
なし
なし
あり(詳細後述)
あり(詳細後述)
あり(詳細後述)
なし
なし
出典)「鑑定のひろば No.104」(社)日本不動産鑑定協会(平成18年)
韓国及び台湾については事務局で追記。
1
参考資料2
2.諸外国の制度の例
諸外国の制度のうち、日本の地価公示に先立って創設されたものとして、ドイツの
「地価マップ」の公示を挙げられることから、
(1)でこれについて概説する。
(2)
~(4)では日本の制度を参考にしつつ創設された韓国、中国、台湾の現状について、
(5)ではアメリカの現状について概説する。
(1)ドイツ
①
制度の概要
・ドイツでは、5つの土地価格が存在する。
・統一価格
・売買価格
・取引価格
・標準地価
・建設用地価格
・それぞれの概要は次表のとおりであるが、これらのうち「標準地価」が日本の公
示地価に類するものと考えられる。
ドイツにおける土地価格情報
土地価格情報
所管
根拠法
統一価格
税務署
評価法
売買価格
鑑定委員会※
建設法典
取引価格
鑑定委員会※
建設法典
標準地価
鑑定委員会※
建設法典
各市町の鑑定委員会が、暦年末時点で評
価。「地価マップ」として公開。
連邦価格統計法
連邦統計庁が、土地価格のマクロ的変動
を把握するために調査する価格統計。未
建築地の売買価格の平均値であり、建築
熟成値、粗建築地、その他の建築地と区
別して算出。
建設用地価格
※
州・連邦統計庁
概要
課税目的の評価値。財産税・土地税・相
続税・贈与税の統一的な評価基準に基づ
き実施。
現実の売買価格。公証人を通じて鑑定委
員会に報告。
現実の売買価格ではなく、個別物件につ
いて鑑定委員会が取引事例比較法によ
り合理的市場を想定し評価。
鑑定委員会:各市町村に設置され、行政担当者、銀行員、建築士、不動産取引業者、法律家等か
ら構成される土地評価のための組織。
2
参考資料2
②
制度の目的・役割
・標準地価は、土地市場及び土地価格に関する客観的な情報の提供(銀行の担保業
務や経済政策等の根拠)を目的として導入されたものである。
③
制度の内容・特徴
・「標準地価」は、建設法典により、各市町村に調査が義務付けられているもので
ある。
・「地価マップ」により公示される標準地価は地点のデータではなく、ゾーンのデ
ータであることが日本の地価公示と大きく異なる点である。ゾーンは鑑定委員会
により、容積率などの公法上の規定や地域の特性などを考慮して設定される。
ドイツにおける「標準地価」の内容
項目
名称
調査機関
調査人
発表機関
根拠法令
目的
内容
標準地価
鑑定委員会
不動産鑑定士
鑑定委員会
建設法典 第 196 条
経済政策への活用、銀行の担保評価の適正さの担保
※
1936年(昭和11年)の価格統制法により各価格統計が統制されていたが、そ
の廃止とともに不動産市場の透明化が求められたことが制度創設の背景。
算定方法
調査内容
特徴
開始時期
調査時点
公表時期
公表方法
・売買事例書式に基づきデータを収集し、鑑定委員会が主に取引事例比
較法により評価。
・別途、買主に対するアンケートも活用。
・更地としての取引が稀な都市区域の場合、不動産価格から建物価格を
控除することにより、更地価格を評価。
・住宅、商業、農業等の用途別に実施。
・各地域における取引高、各用途の平均価格や価格範囲等の情報も調査。
基本的には特殊要因を除いた現実の取引価格をベースとした鑑定値。
1964年(昭和39年)
暦年末
基本的に年1回(州令で異なった設定が可能)
。
「地価マップ」として公示(地点のデータでなくゾーンのデータ)
。
3
参考資料2
参考
ドイツにおける地価マップの例
出典)「ヨーロッパにおける不動産評価の理論と実務」日本不動産鑑定協会・国際委員会訳(平成10年)
④
参考(背景、経緯等)
・1936年(昭和11年)に制定された価格統制法により、未建築地に対する価格
が統制されていたが、1960年(昭和35年)に制定された連邦建設法により価
格統制法は廃止され統制は解除された。
・当時、社会や議会においては、土地市場・土地価格についての関心が高く、建築地
市場を客観的に判断できる確実な統計資料は極めて乏しい状況であったため、連邦
建築法第141条の規定に基づき、連邦参議院の同意のもと、土地取引価格の調査
原則に関する命令が公布され、これに基づき標準地価の調査・公表が行われること
となった。
・その後、1986年(昭和61年)に制定されたドイツ建設法典では、国土を外部
地域と内部地域に区分しているが、外部地域では原則として開発・建築行為は許さ
れていない。この開発・建築行為が可能な土地とそれ以外の土地では、かなり異な
る価格水準となっている。
・1990年(平成2年)の東西ドイツ統一後、土地関連法制は基本的に旧西ドイ
ツ地域の法律が適用され、旧東ドイツ地域のデータを含め、土地関連情報の整備
が進められている。
4
参考資料2
(2)韓国
①
制度の概要
・韓国では、不動産価格の公示制度として、地価公示制度及び住宅価格公示制度が
存在する。
・地価公示制度は1989年(平成元年)から導入されたが、課税の適正化のため、
土地と建物を一体で評価する住宅価格公示制度が2005年(平成17年)に追
加的に導入された。住宅価格公示は、地価公示による情報も活用し、土地・建物
を一体で評価する仕組みである。
・さらに、非住居不動産の価格公示制度について、調査事業、モデル事業を通じて
検討が進んでいる(2011年(平成23年)8月時点)
。
②
地価公示制度
1)制度の目的・役割
・不動産市場の価格の安定を図ることを目的として導入された。
・標準地の公示地価の機能
9
土地市場の地価情報の提供
9
一般的な土地取引の指標
9
国・地方自治体の業務における地価算定の基準
9
鑑定評価業者が個別の土地を鑑定評価する際の基準
・個別地は、以下のように多様な行政分野における地価算定の基準等として活
用されている。
個別地の公示地価の活用範囲(例)
種類
国税
活用対象
譲渡取得税、贈与税、相続税の算出の基準
地方税
土地分財産税、土地分取得税、土地分登録税の課税標準
額の決定資料
その他
開発負担金、開発制限区域既存負担金、開発制限区域内
の土地の買収、国・公有財産の貸付料・使用料等の算定
の基準等
2)制度の内容・特徴
・公示される地価は、標準地と個別地に係るものがある。標準地は政府(国土
海洋部長官)が公示する。個別地は、地方公共団体が、標準地の公示地価を
もとに比準表により算定し、公示することとされている。
5
参考資料2
韓国における地価公示制度の概要(2011年(平成23年)の例)
対象
主体
内容
標準地
国土海洋部長官
・毎年1回、1月1日時点の価格を公示。
・代表性が高いと認められる標準地を選定し、適正
価格を評価。
・2人以上の鑑定評価士により評価。
・全国で50万地点。
個別地
地方公共団体の長 ・毎年1回、1月1日時点の価格を公示。
・標準地の公示地価と土地価格比準表を基礎とし
て、地方自治体が算定。
・全国で3,093万地点。
3)参考(背景、経緯等)
・不動産市場の価格安定化のために1989年(平成元年)に導入された。
③
住宅価格公示制度
1)制度の目的・役割
・住宅の保有に対する課税の公平性や透明性を確保することを主な目的として
導入。
・従来は土地と建物を個別に評価し合算する仕組みだったが、これにより土地
と建物を一体として課税評価を行う仕組みとなった。
・住宅価格を時価で評価し課税標準を定めることで税負担の公平性を確保。
・公示の内容をインターネットで公開することにより課税情報の透明性を確保。
・住宅公示価格に関するデータベースを整備することにより、政策決定のため
の統計資料としても活用。
2)制度の内容・特徴
・戸建住宅は土地価格公示制度と同様の仕組みにより、国による標準住宅の評
価をもとに、地方公共団体が個別住宅の評価を実施している。
・共同住宅はすべての対象を国が評価している。
・評価対象住宅数(2011年(平成23年))は、標準戸建住宅19万戸、
個別戸建住宅397万戸、共同住宅1,033万戸。
6
参考資料2
韓国における住宅価格公示制度の概要
対象
主体
内容
戸建住宅
国土海洋部長官
・標準住宅を選定・評価した後、価格を公示。
・各戸別価格を2人の鑑定士が調査・評価。
・地方公共団体が個別住宅価格を算定するため
の住宅価格比準表を作成。住宅価格自動算定
プログラムを開発・提供。
地方公共団体の長 ・個別住宅の特性を調査し、住宅価格比準表を
適用して、価格を算定・公示。
・個別住宅と特性が類似した標準住宅を選定し
た後、住宅価格比準表を活用し、住宅価格自
動算定プログラムにより価格を算定。
共同住宅
国土海洋部長官
・国土海洋部長官が、専門調査機関である韓国
韓国鑑定院
鑑定院による調査価格を公示。
・韓国鑑定院が、戸別に直接調査。実際の取引
価格を調査し、階数、方向、眺望、騒音等の
価格特性を考慮して戸別価格を算定。
税制改編による課税標準の変化の内容
従来の課税標準
土地
国税
建物
共同
住宅
公示地価
新築原価(46 万㌆/㎡)
一戸
×各種指数×面積
建て
建物
建設交通部・
地方自治体の
公示住宅価格
国税庁の基準時価
土地
地方税
改編後の課税標準
公示地価
共同
建設交通部の
新築原価(18 万㌆/㎡)
住宅
公示住宅価格
×各種指数×面積
3)参考(背景、経緯等)
・不動産保有税について、土地と建物を分離課税することにより、課税標準が
不均衡となる問題が生じていた。このような不公平を改め、課税の信頼性、
手続きの透明性等を確保するための課税評価システムとするために導入さ
れた。
7
参考資料2
・2005年(平成17年)から住宅価格公示事業が開始された。2006年
(平成18年)以降、国内の全ての住宅に対する価格を公示することとされ
た。
住宅価格公示制度の実施状況
④
調査対象
2005年(平成17年)
2011年(平成23年)
戸建住宅
433万戸
416万戸
共同住宅
167万戸
1,033万戸
非住居不動産(商業不動産等)価格公示制度
1)制度の目的・役割
・住宅同様、課税の公平性、透明性を確保することを主な目的として導入を検
討中。
・期待される効果
9
規準価格の提供(信頼できる価格提供、市場の透明性の向上)
9
不動産情報の多様化(政策決定支援、国家経済運営への活用等)
9
行政目的(課税、実取引価格の検証、開発負担金・保険料査定等)
9
公平課税(価格基準の一元化、地域・種類・階別の価格格差解消等)
9
その他(税収増加、納付者の権利保護等)
2)制度の内容・特徴
・住宅同様、非住居不動産(商業不動産等)についても、土地と建物を一体的
に評価。
3)参考(背景、経緯等)
・土地・住宅については前述のとおり価格公示制度が導入されたが、非住居用
不動産は課税行政機関ごとに原価方式を基礎として価格を査定しており、正
確性や活用範囲が限定的(公示制度導入以前の住宅と同様)
。
・住宅同様、価格公示制度を導入することにより、価格評価の一元化、課税公
平性の確保、取引指標としての活用が企図されている。
・以降の検討経緯は以下のとおり。
8
参考資料2
非住居用不動産の価格公示に関する取組の経緯
年月
事項
2005 年 5 月
国民経済諮問会議で制度の導入を決定。
2006 年 1 月
国土海洋部が主管することを関係省庁の間で合意。
2006~2007 年
2度にわたり導入の方法と方向性を調査。
2009~2010 年
一部地域に限り2度にわたりモデル調査事業を実施。
2011 年 8 月時点 モデル調査事業の成果をもとに制度導入や時期等に関して具体
的な導入方法を検討中。早ければ 2013 年から制度を導入。
※
韓国の制度に関する参考文献
・「日韓国土計画分野協力会議 韓国側資料」
・「韓国の不動産取引制度に関する研究(その1)」周藤 利一(平成23年12月)
(3)中国
①
制度の概要
・中国の地価公示制度では、「基準地価」、「公示地価」
、「評価地価」、
「実際の取引
地価」の4種類の地価のほか、これらから派生した、抵当融資、土地課税、資産
計算、土地譲渡に使用される地価が含まれる。これらの中で「基準地価」が最も
重要なものとして位置付けられている。
基本となる地価
②
左記の4種類の地価から派生した地価
・基準地価
・抵当融資のための地価
・公示地価
・土地課税のための地価
・評価地価
・資産計算のための地価
・実際の取引地価
・土地譲渡のための地価
制度の目的・役割
・中国の地価公示制度の役割
1)中央政府が地価に対し実施するマクロコントロールの根拠
2)政府が徴税する上での客観的な根拠
3)土地の十分な利用と合理的な流通の指導のための基礎データ
4)鑑定評価を行う際の基礎となる指標
9
等
参考資料2
③
制度の内容・特徴
・「基準地価」は、市街地の中で、現状の利用条件の下、商業・住宅・工場などの
用途に応じて評価を実施し、これらの結果から一定範囲の地域内の土地使用権の
平均価格を算出したものである。日本の地価公示制度と異なり、一定範囲内の複
数地点の平均値となっている。
・基準地価の特徴としては、地域的な価格、用途別の価格、平均価格であること、
また土地使用権の価格であること、適時性を有する価格、政府による指導的な価
格であることが挙げられる。
基準地価の特徴
④
地域的な価格
完全な土地使用権の価格
用途別の価格
適時性を有する価格
平均価格
指導的な価格
参考(背景、経緯等)
・中国では1980年代にはじめて土地使用料の徴収制度が提起され、土地の有償
使用の概念ができ、1989年(平成元年)に都市部の土地の格付規則が公布さ
れた。
・中国では、国以外の主体は土地の所有権を購入することはできず、使用権を取得
するのみとなっている。使用権の取得は有償または無償のいずれかの場合がある
が、有償の場合、国からの払い下げ等によるもので、使用期間は用途により異な
るが、住宅用地の場合、最長70年となっている。
・1999年(平成11年)に国土資源部が新たな地価調査を実施した。全国99%
以上の都市、85%以上の県、70%以上の市町村で基準地価の更新作業を終了
し、ほぼ全国の基準地価システムが構築され、数多くの都市は数回の更新を行っ
ている。
・基準地価は全国を対象として地方政府が更新しているが、中国は国土が広く、マ
ーケットの動きに比して更新頻度が遅れているため、補助機能として都市地価の
動的観測制度が運用されている。この制度は、一定の基準により設定された特定
区画を対象とし、地価観測地点の設定、地価観測資料の収集・集計・整理による
地価分析等及びから成り立っている。たとえば北京市では498地点が設定され
ており、北京市内の54鑑定機関の229名の鑑定評価師が、四半期ごとに各地
点の鑑定評価を行っている(数値は2010年(平成22年)9月時点の資料に
10
参考資料2
よる)。
・なお、中国における土地の鑑定評価資格としては「土地評価師」、
「不動産評価師」
及び「資産評価師」の3種類がある。地価公示については「土地評価師」(国土
資源部所管)が担っている。
「不動産評価師」
(建設部所管)は土地・建物一体で
の評価、
「資産評価師」
(財政部所管)は企業全体の資産価値評価等を行う資格で
ある。
・また、中国では、土地に関する課税としての固定資産税・相続税・贈与税は原則
として存在しない(現在、上海及び重慶のみで試験的に導入している状況)
。
※
中国の制度に関する参考文献
・
「中国・韓国の不動産鑑定評価制度」財団法人日本不動産研究所(「Appraisal & Finance」
2010年9月号)
(4)台湾
①
制度の概要
・台湾における地価公示に類する制度としては「土地公告現値」がある。
・「土地公告現値」以外の公的土地評価としては「公告地価」及び「申報地価」が
ある。
「公告地価」は日本の固定資産税評価額に相当するものであり、
「申報地価」
は土地所有者が登記の際に申告する価格である。
台湾における公的土地評価
種類
実施主体
土地公告現値
直轄市及び県政府
地価評議委員会
公告地価
地方政府
概要
日本の地価公示に相当。
毎年7月1日時点の土地の現在価格。
日本の固定資産税評価額に相当。
3年ごとに更新。
土地公告現値等を参考に設定。
申報地価
土地所有者
土地所有者が登記の際に自己申告する価
格。
②
制度の目的・役割
・「土地公告現値」は、土地に関する課税の算定のほか、土地の所有権移転に伴う
登記の際の「申報地価」や、公的主体による土地収用価格の根拠とされたりして
いる。
11
参考資料2
・台湾においては、
「地価税」
(日本の固定資産税に相当)のほか、土地の譲渡によ
り実現するキャピタルゲインに対する課税として「土地増値税」があり、取引の
申告価格と前回取引価格との増分に対して課税される。
③
制度の内容・特徴
・「土地公告現値」は直轄市及び県政府が、管轄区域内の地価を調査し、地価評議
委員会の審議を経て評価を決定し、毎年7月1日に公告する制度である。
④
参考(背景、経緯等)
・台湾では、孫文の三民主義により、大土地所有の制限、農民への土地の再配分が
目指され、「土地を活用することが必要な人に対し土地を取得し利用する機会を
与える」という「平均地権」という考え方がある。この考え方に基づき、土地所
有者が資本や労力を投下した結果生じた価値は土地所有者に帰属するが、土地の
利用価値や交換価値の増加は、社会経済の発展の結果生じたもので社会公共に還
元されるべきと考えられている。
・このような考え方を実現する手段として、
「規定地価」
(土地所有者に所有地の地
価を自己申告させること)、「照価徴税」(申告地価に基づいて地価税(固定資産
税)を課税すること)、「照価収買」(必要に応じ申告地価により政府が収用する
こと)、「漲価帰公」(地価上昇利益のうち自然増価分は公共に還元すること)と
いった政策がとられている。
・台湾では、2004年(平成16年)からは基準地地価制度の試行的に実施され
ており、2009年(平成21年)時点で1,200箇所の基準地が設定されて
いる。趣旨としては、「地価基準地選定・調査評価の要点」の中で「地価の比較基
準を確立し、適正な地価の形成を促すため、土地行政機関は地価の変動状況から判
断して、一定範囲の地区内において基準地の選定及び調査評価を行うことができ
る。」とされており、以下のような項目について調査・評価がなされている。
基準地の調査・評価項目
基準地番号
建蔽率(%)
土地の表示
容積率(%)
地価(元/㎡)
地上建物の住居番号
面積(㎡)
地上建物の形態及び使用の現状
形状(間口・奥行比)
(m)
面する路線等の備考
使用区分又は指定用地
―
12
参考資料2
※
台湾の制度に関する参考文献
・「海外不動産基礎情報」財団法人日本不動産研究所(季刊「不動産研究」第 51 巻第 3 号
(2009 年 7 月) 特集 : 海外の不動産)
・
「中華民国(台湾)再開発事情調査報告書」再開発コーディネーター協会(再開発コーデ
ィネーター2009 No.138)
・「2009 年地価基準地調査評価実施成果報告」台湾 内政部 2010 年 5 月
(5)アメリカ(不動産取引情報データベース)
・アメリカではMLS(Multiple Listing Services)とよばれる物件情報提供システ
ム運営事業者が存在する。現在、全米において、約900のMLS事業者が存在し、
各地域の物件情報が市場に開示され、不動産流通が促進されている。
・MLSは不動産業者の営業支援を行う情報流通事業者であり、地域の物件情報の提
供のほか、事業者のルール遵守の徹底・指導等も行っている。不動産事業者は各地
域のMLSに加入しなければ営業できない仕組みとなっている。不動産の売手のエ
ージェントは売手との専任媒介契約締結後、24~48時間以内にMLSへの物件
情報搭載が義務付けられており、罰則等も規定されている。
・MLSに登録される対象不動産物件としては、多くが土地・建物一体の複合不動産
の売買物件であるが、土地のみや賃貸物件が掲載されている場合もある。登録情報
としては、物件の基本情報、売買価格、エージェントの連絡先、固定資産税額のか、
過去の売買履歴(過去の所有者・成約価格等)や学校・商業施設、地域住民の特色
等の周辺情報も登録されており、透明性の高い情報が流通促進に寄与している。
13
参考資料2
アメリカの不動産取引における情報提供システムの概要
出典)平成24年土地白書(国土交通省)
14
参考資料2
MLSの物件情報の例(Northwest MLS)
出典)NorthWestMLS ウェブサイト
以上
15