内視鏡検査を実施した消化器型リンパ腫のイヌ2例 発表者

演 題 番 号:41
演 題 名:内視鏡検査を実施した消化器型リンパ腫のイヌ2例
発表者氏名:○木本有美
木村朋美
高田健次
中村武靖
春名章宏
発表者所属:春名動物病院(岡山県)
1.はじめに:イヌの小腸性下痢は頻繁に診断される疾病であるが、その病因まで特定されることは少なく、経
験的治療で対処されることが多い。多くの場合、抗生物質や処方食治療により改善し、さらなる検査が必要とな
ることも少ない。今回、一般的な治療に反応しない慢性小腸性下痢を示した 2 症例を経験し、内視鏡検査により
消化器型リンパ腫と診断する機会が得られたのでその概要を報告する。
2.症 例:①柴犬、7 歳 2 ヶ月齢、去勢済みオス、体重 10kg。本症例は気性が荒く、来院できないという理由
で 8 ヶ月間内服治療のみを実施していた。慢性間欠的小腸性下痢を呈しており、メトロニダゾールを投与すると、
一定期間の改善が認められた。来院時、食欲廃絶しており、血中総タンパク濃度が低値を示し、電解質異常も認
められた。第 4 病日に上部および下部内視鏡検査を実施し、リンパ腫(T 細胞性)との診断を受けたが、第 9 病
日、死の転帰をとった。本症例の組織像は、リンパ芽球様で増殖活性が高い腫瘍細胞が粘膜固有層に浸潤すると
いう典型的なものであった。
3.症 例:②パグ、9 歳齢、未去勢オス、初診時体重 8.35kg。2 ヶ月前から下痢が続いており、他院にて治療
を受けるが改善がなく、当院を受診された。1 日 1 回程度の水様下痢が持続し、嘔吐も時折見られ、体重が 2 ヶ
月で約 1.7kg 減少し、非常に削痩していた。血中総タンパク濃度は低値を示し、軽度の貧血を認めた。処方食、
メトロニダゾール、スルファサラジンによる治療で全く改善を認めず、2 週間後上部内視鏡検査を実施した。十
二指腸粘膜は脆弱で、不規則に隆起しており、病理組織学的検査にてリンパ腫(T 細胞性)との診断を受けた。
組織像は、成熟したリンパ球が粘膜上皮に浸潤しており、免疫染色により T 細胞性リンパ腫と診断された。本症
例は、化学療法(COP)にて治療しており、現在経過は順調である。
3.まとめ:今回の 2 症例は、診断時期の相違から全く異なる経過をたどっているが両症例ともに T 細胞性リン
パ腫との診断だった。両症例が示したようなタンパク喪失性腸症の主な原因は、炎症性腸疾患、リンパ管拡張症、
リンパ腫であり、確定診断には組織学的検査が必須である。症例②は比較的早期に内視鏡検査が実施でき、治療
可能であった。予後は難しい症例だが慎重に経過を追っていくと同時に、今後も内視鏡検査の利点を生かし、疾
病の早期発見と組織診断に基づく的確な診断と治療を行っていきたいと考えている。