ハイブリッド型パルス・プラズマ・コーティング (HPPC)システムの研究開発

ハイブリッド型パルス・プラズマ・コーティング
(HPPC)シ ス テ ム の 研 究 開 発
粟津薫*
安 井 治 之 * 作 道 訓 之 **a) 佐 治 栄 治 **b) 長 谷 川 祐 史 **c)
人 母 岳 **d) 池 永 訓 昭 **e) 佐 藤 貴 之 **f) 南 保 幸 男 **g) 斎 藤 和 雄 **h)
三 次 元 形 状 の 複 雑 な 製 品 (金 型 , 工 具 や 機 械 部 品 等 )の 表 面 に ド ラ イ コ ー テ ィ ン グ に よ り , 均 一 で 密 着 性
の 高 い ダ イ ヤ モ ン ド ラ イ ク カ ー ボ ン ( DLC) 膜 や セ ラ ミ ッ ク 膜 を 形 成 す る 新 表 面 改 質 シ ス テ ム の 研 究 開 発 を
北 陸 三 県 の 産 学 官 プ ロ ジ ェ ク ト で 行 っ た 。 研 究 成 果 の 概 要 を 以 下 に 示 す 。 (1) 開 発 し た 新 表 面 改 質 シ ス テ
ムは,原料ガス導入,プラズマ生成,パルス電圧印加をすべてパルス制御で行うもので,高周波とマイク
ロ 波 の 重 畳 に よ り 1 m 3 の 大 容 積 中 に 均 一 で 高 密 度 な プ ラ ズ マ を 生 成 す る こ と が で き た 。( 2) DLC膜 の 付 き 回
り 性 試 験 に よ り , 複 雑 形 状 部 ( ア ス ペ ク ト 比 : 〜 5 ま で ) へ の コ ー テ ィ ン グ が 可 能 に な っ た 。 ( 3)200 ℃ 以 下
の 低 温 で の DLCコ ー テ ィ ン グ が 可 能 に な り ,D L C膜 の 膜 質 向 上 が 図 ら れ た 。ま た ,TiO x 及 び SiO x 膜 を 1 50 ℃
以 下 の 低 温 で 有 機 材 料 ( ポ リ エ ス テ ル 繊 維 , PET 樹 脂 製 品 等 ) 表 面 へ 機 能 性 膜 の コ ー テ ィ ン グ が 可 能 に な っ
た。
キ ー ワ ー ド : ハ イ ブ リ ッ ド , 複 雑 形 状 , パ ル ス プ ラ ズ マ , コ ー テ ィ ン グ , DLC膜 , TiO x 膜 , SiO x 膜
Research and Development of Hybrid Pulse Plasma Coating (HPPC) System
Kaoru AWAZU, Haruyuki YASUI, Noriyuki SAKUDO, Eiji SAJI, Yuushi HASEGAWA
Takeshi HITOBO, Noriaki IKENAGA, Takayuki SATO, Yukio NAMBO and Kazuo SAITOH
A project team of this R & D work comprises the researchers from one university and three institutes, and the engineers of five
enterprises in a Hokuriku district, by which a goal of this work was achieved. Obtained results are as follows: (1) Hybrid pulse
plasma coating (HPPC) system is constructed which consisted all pulse control system with gases pulse introduction, pulse plasma
generation, pulse high-voltage application. Uniform plasma was found to be generated over in a large chamber (1m3) by absorption
of RF and microwave. (2) In order to examine the uniformity of coating films of diamond like carbon (DLC), DLC films were able to
coat at the parts of complex shape (aspect ratio: 〜5). (3) DLC films were able to coat at lower temperature than 200℃ and ceramic
films (TiOx and SiOx) were coated at lower temperature than 150℃ on the organic materials (polyester texture, PET resin and etc.).
Keywords:hybrid, complex shape, pulse plasma, coating, DLC film, TiOx film, SiOx film.
1.緒
言
湿式めっきに代替するドライコーティングでは,
が,内面や深い溝部等へのコーティングは,被加工
物の保持や回転の工夫だけでは均一で高密着性の膜
膜 の コ ー テ ィ ン グ・ コ ス ト ば か り で な く ,付 き 回 り
は得られない。一方,イオン注入は母材表面の改質
性 や 密 着 性 が 課 題 に な る 。従 来 の ド ラ イ コ ー テ ィ ン
であり剥離に関する問題は生じないが,注入装置が
グでは,真空容器中に配置された被加工品に比べ,
非常に高価であり,また三次元形状部への改質では
生成されるプラズマの領域が狭く,均一な成膜を行
真空中で三次元的に回転させる必要がある。
うためには被加工物を自公転させる必要がある。ま
そ の よ う な 中 で ,1986年 ウ ィ ス コ ン シ ン 大 学 (米 国 )
た,被加工物の外面にはコーティングが可能である
で「プラズマ中に置かれた物体に高電圧パルスを印
*
加することにより三次元形状の物体表面にイオン注
製品科学部
**
地域コンソーシアムプロ
ジ ェ ク ト a ) 〜 h ) の 所 属 は 2.1 節 中 に 表 記
入 す る 技 術 」 (Plasma Source Ion Implantation: PSII) 1〜 3)が
- 19 -
開 発 さ れ た 。こ の 技 術 は ,1993年 9月 金 沢 市 で 開 催 さ
川県から借り受け,この場所で主な研究開発を実施
れ た SMMIB93 国 際 会 議 ( 議 長 : 理 化 学 研 究 所 岩 木 正
した。
哉 氏 , 石 川 県 工 業 試 験 場 と 共 催 )の 招 待 講 演 で
な お , 研 究 開 発 の 実 施 に お い て は , (財 )北 陸 産 業
J.R.Conrad博 士 に よ り 初 め て 日 本 に 紹 介 さ れ た 4)。 そ
活性化センター・地域コンソーシアム室が研究管理
の 後 , 日 本 で も PSIIに 関 す る 研 究 が 開 始 さ れ , い く
を行うとともに,研究開発の遂行状況の把握と調整
つかの報告がなされている。
を行った。
我々は,プラズマとイオン注入を利用した表面改
質技術に関する調査・研究を行う表面創製技術研究
2.2
研究開発の目的
会 ( 設 立 : 1992年 11月 ) で , PSII技 術 に 関 す る 研 究 の
本 研 究 開 発 の 目 標 は ,こ れ ま で の ド ラ イ コ ー テ ィ ン
動向調査を行った。そうした中で,三次元複雑形状
グ で は 不 可 能 で あ っ た 複 雑 形 状 の 金 型 ,工 具 や 摺 動 部
部へのコーティングを可能にする新しい表面改質シ
品 な ど の 被 加 工 物 表 面 に 均 一 で 密 着 性 に 優 れ た DLCや
ステムの開発が要望された。そこで,地域コンソー
セラミック膜等を形成する表面改質システムを開発す
シアム研究開発事業に「ハイブリッド型パルス・プ
る こ と で あ る 。 そ の た め に ,金 沢 工 業 大 学 の 技 術 シ ー
ラ ズ マ ・ コ ー テ ィ ン グ (HPPC)シ ス テ ム の 研 究 開 発 」
ズ で あ る 高 密 度 な プ ラ ズ マ 生 成 技 術 を 活 用 し て 5),
を 提 案 し , 平 成 10〜 12年 度 に 渡 り 北 陸 三 県 の 産 学 官
金属,炭素や窒素などの各イオン種を三次元複雑形
プロジェクトで実施した。ここでは,その研究開発
状の被加工物表面に効率よく均一に注入して被膜形
の内容を報告する。
成 を 行 う ハ イ ブ リ ッ ド 型 パ ル ス・プ ラ ズ マ・コ ー テ ィ
ング・システムの研究開発を行う。
2.1
2.研究開発の体制と目標
技術課題として,
研究体制
① 原 料 をガス状 態 で効 率 的 に導 入 させる原 料 ガス
本研究開発は,新エネルギー・産業技術総合開発
のパルス導入技術
機 構 (NEDO) の 地 域 コ ン ソ ー シ ア ム 研 究 開 発 事 業 と
② 高密度なプラズマ生成技術およびパルスプラズ
し て , (財 )北 陸 産 業 活 性 化 セ ン タ ー が 管 理 法 人 と な
マ生成技術
り ,北 陸 地 域 の 産 学 官 で 構 成 し た 研 究 共 同 体 (石 川 県
③ 複雑形状の被加工物表面に各種イオンを垂直
工 業 試 験 場 ,a)金 沢 工 業 大 学 ,b)福 井 県 工 業 技 術 セ ン
に注入させる負のパルス電圧印加技術
タ ー , c ) ㈱ オ ン ワ ー ド 技 研 , d ) フ ジ タ 技 研 ㈱ , e) 澁谷
工業㈱,
f)
㈱ 不 二 越 , g)日 華 化 学 ㈱ ,
h)
④ 前 述 の 技 術 シ ー ズ と 技 術 課 題 を 統 合 化 し て ,イ
名古屋工業
オ ン 種 ,注 入 量 や 成 膜 速 度 な ど の 制 御 を 可 能 と
技 術 研 究 所 )を 形 成 し て 推 進 し て き た 。 図 1に 北 陸 の
地域コンソーシアム参加機関の配置を示す。
研 究 開 発 の 実 施 は , 管 理 法 人 で あ る (財 )北 陸 産 業
する高度ハイブリッド制御技術
があるが,これらの課題はプロジェクトで分担して
解決する。
活性化センターが石川県工業試験場の実験場所を石
これにより,北陸地域のものづくり基盤技術の高
度 化 を 図 る と と も に ,新 規 成 長 分 野 へ の 高 品 質 で 低 価
格の部品供給能力を向上させ,新規産業創造に寄与
北陸の地域コンソーシアム
する。
3.研究開発の内容
金沢工業大学
3.1
㈱不二越
澁谷工業㈱
開 発 し た HPPC装 置
研究実施場所
ハイブリッド型パルス・プラズマ・コーティング(HPPC)
石川県工業試験場
複合技術実験室
日華化学㈱
フジタ技研㈱
㈱オンワード技研
福井県工業技
術センター
装置は,2機(1号機と2号機)製作した。HPPC1号機は,図2
に示すように,真空容器(1m×1m×1m)に多数のフランジ
名古屋工業
技術研究所
を設け,プラズマ状態の目視観察やプラズマ密度の測定(ラ
ングミューア・プローブ法とマイクロ波干渉計),プラズ
図1 研究開発体制
マフラグメント測定等によるプラズマ状態をモニターでき
- 20 -
るようにしている。図3にその構成図を示す。原料ガスを
密度は一定であるが,トルエンでは,500ms間でもプラズ
エアバルブにより1Hzで開閉させ,炭化水素系ガス(メタン,
マ密度が変化していることがわかる 7)。
トルエン等)をパルスで導入する。プラズマの生成は,高
図5は,トルエンガスをプラズマ化して,プラズマ中か
周波電源(13.56MHz)により誘導結合型プラズマ(ICP)を生
ら直接イオンを引き出し,4重極質量分析装置(Qマス)の
成させ,マイクロ波(2.45GHz)を吸収させることにより,
分析管中で質量分離を行うプラズマフラグメントイオン測
高密度プラズマを生成する。高電圧パルス印加は,パルス
定装置(日本真空製)により測定したプラズマフラグメント
幅5〜20μs,電圧-1〜-20kV,周波数1〜3kHzをパルスで印
の分布の一例である。高周波電力が50Wから200Wに大き
加する。また,真空バルブの開閉もパルス駆動している。
くなると質量数の小さいフラグメントが多くなっている。
真空系は油拡散・回転ポンプとしている。主な用途は,プ
また,マイクロ波を吸収させ,高密度プラズマを生成する
ラズマ実験,成膜条件等の選定,ハイブリッド制御等の基
と,その傾向がさらに大きくなることが明らかになった。
6)
礎実験と,DLC膜のコーティング実験である 。
3.3
HPPC2号機では,高電圧パルス電源は1号機とつなぎ替
高電圧パルスの印加
高電圧パルス印加装置(山菱電機製)は,最大電圧40kV,
えで使用し,プラズマ生成は1号機と同様に高周波プラズ
マにマイクロ波を吸収させることによる高密度プラズマを
電流20Aと,正負電圧の切り替え可能であり,量産化とコ
生成できる。真空容器はφ1m×1.2mで,ガス導入系は,常
スト評価のために最大電圧10kV,電流50A,定電圧及びパ
温で液体の有機金属TEOS[Si(OC2H5)4]及びチタンイソプロ
ルス波形を重畳できる重畳電源±2kVを製作した。パルス
パキシド[Ti-(iC3H7O)4 ]を液体マスフローで制御後気化さ
電圧の印加は,通常のバイアス電位からの負電圧印加の他,
せ,エアバルブの開閉により,ガスをパルスで導入する。真
負の定電圧電位から負の高電圧パルス印加,正の定電圧電
空系は,有機金属ガスを使うため,ドライポンプ,ターボ
位から負の高電圧パルス印加,正の高電圧パルス印加など
分子ポンプとし,排ガス処理装置を設けている。
の各種のパルス波形の重畳が可能である。図6は,通常の
3.2
プラズマの測定とモニター
HPPC1号機内にアルゴンガスを導入し,高周波プラズ
高周波電源 マイクロ波電源
(パルス)
(パルス)
マを生成して,ラングミューア・プローブ(長さ:0.5m)に
より,真空容器内のプラズマ密度の空間分布を測定した。
プラズマフラグメント
イオン測定装置
ガス
(パルス)
プラズマ
また,アルゴンガス及びトルエンガスを導入し,1Hzでon/off
マイクロ波
干渉計
する高 周波プラズマの点火時のプラズマ密度を10GHzマイク
ロ波干渉計(日本高周波製)を用いて測定した。図4は,そ
真空 ポ ンプ
真空容器
の測定結果である。不活性ガスのアルゴンでは,プラズマ
高電圧
(パルス)
ハイブリッド制御
プラズマ密度 cm - 3
図3 HPPCシステムの構成図
10 11
○:アルゴン
◆:トルエン
10 10
500ms
10 9
-100
0
100 200 300 400 500 600 700
時
間 ms
図4 パルスプラズマのプラズマ密度
図2 開発したHPPC装置の外観
- 21 -
場合の高電圧パルスを印加した場合の電圧波形と電流波形
にし,プラズマを生成する。このプラズマ生成中に負の高
の一例を示す。パルス電圧の立ち上がりは,1μs/5kVで,
電圧パルスを印加する。その後,負の高電圧パルスとプラ
ピーク電圧20kV,パルス幅20μsとなっている。
ズマをoffにして,真空容器中の残留ガスを入れ替えのため,
真空排気バルブを開け排気後,原料ガスのエアバルブをon
3.4
ハイブリッド制御
にする。これを1サイクルとするハイブリッド制御システ
原料ガス導入,真空排気系開閉,プラズマ点火,高電圧
ムを構築した。
パルス印加をハイブリッド制御するシステムを開発した。
図7はそれぞれのタイミングを示したハイブリッド制御シ
3.5
ステムの一例である。
完成したHPPCシステムを使って,高密着性のDLC膜を
まず,真空容器中を高真空にした後,原料ガス用エアー
成膜プロセスの開発
得るための成膜プロセスを検討した。
バルブをonにし,ガスが拡散するまでの間,真空排気系バ
図8に,これまで得られた最適な成膜プロセスを示す。
ルブをoffにしておく。次に,高周波とマイクロ波電源をon
まず,サンプルを洗浄後,真空容器中にセットし,アルゴ
ンガスを導入し,サンプル表面のボンバード処理(真空圧
0.05Pa,パルス電圧-10kV,15分程度)後,アルゴンガスを
RF:50W
60
トルエンガスにかえて,界面ミキシング処理(真空圧0.05Pa,
30
パルス電圧-15kV,15分程度),DLC膜の成膜(真空圧0.5Pa,
0
60
RF:200W
30
C1Hx
0
0
20
C2Hx
C3Hx
C4Hx
C5Hx
40
60
原子質量単位 AMU
パルス電圧-10kV,2時間程度)である。この成膜プロセス
C7Hx
ものと思われる。そのため,当初,このミキシング電圧を
C6Hx
80
における界面ミキシング電圧がDLC膜の密着性に関与する
100
5kV,10kV,15kVとし,他は同一条件でDLC膜を成膜して,
スクラッチ試験により密着性の評価を行った。
図5 プラズマフラグメントの分布
図9は,定荷重方式のスクラッチ試験機を用いてスクラッ
チ試験を行い,臨界剥離荷重を測定した結果である。図10
はその臨界剥離荷重前後のスクラッチ痕を示す。DLC膜の
成膜の前に行う界面ミキシング時のパルス電圧を大きくす
7 kV
パルス電圧
ると膜の密着性が高くなることが分かる。DLC膜の密着性
は,サンプル表面の洗浄等の処理条件により大きく影響さ
3.4 A
パルス電流
れることが知られており,本実験ではいくつかのサンプル
で100N以上の高密着性のDLC膜も得られている。
また,DLC膜との密着性の良くないアルミニウム合金や
ステンレス鋼製品に対してもDLC膜の成膜条件の検討を
20μs
行った。通常の界面ミキシングだけでは,アルミやステン
図6 高電圧パルス波形の一例
レス表面の酸化層の除去や改質がなされないようであり,
有機金属TEOS[Si(OC2H5)4]を使ったHPPCシステムによ
ON
1.原料ガス導入
OFF
ON
2.排気バルブの開閉
OFF
3.プラズマ点火
4.高電圧印加
イオンボンバード
イオンミキシング
コーティング
(クリーニング)
(密着性向上)
(成膜)
ON
ガス種:
Ar
C7H8
C7H8
OFF
電 圧:
−10kV
−15kV
−10kV
−20kV
時 間:
15min
15min
60〜120min
0 kV
ガス圧:
0.05Pa
0.05Pa
0.5Pa
200,500W
50,200W
RF、MW: 50,200W
1sec
図7 ハイブリッド制御システム
図8 DLC膜の成膜プロセス
- 22 -
り,アルミとステンレス材表面にSi系酸化膜をミキシング
験片の膜厚比を測定した。プラズマCVD法では,膜厚比
層として形成した後,DLC膜を積層,成膜した。このプロ
は2.0であり,HPPCシステムでは,膜厚比は1.3となり,
セスにより,従来成膜が困難であったアルミニウム合金や
HPPCシステムの方が膜の均一性に優れることが分かった。
ステンレス鋼製品への高密着性のDLC膜の成膜が可能に
3.7
なった。
成膜時の低温化
DLC膜の成膜では,処理温度が高温(400℃以上)になる
3.6
とグラファイト化する 9)ため,処理温度をより低温にする
複雑形状物の成膜
図11は,複雑形状を模した付き回り性試験用のモデル金
必要がある。プラズマ生成,パルス電圧,ガス流量など
型の模式図である。Dは溝の深さ,dは開口部の幅であり,
の条件選定により,低温(200℃以下)でDLC膜の成膜が可
D/dをアスペクト比として,D/d=4までの付き回り性の試験
能になり,市販の高品質DLC膜と同等のものが得られた。
を行った。図12は,溝底部(a)と側面部(b)に設置した試験
また,HPPC2号機を使って,常温で液体である有機金属
片の膜厚を測定した結果である。イオンプレーティング等
を原料に用いて,膜中にカーボンを含まないSiOx ,TiOx
の従来法では,D/d=1程度が限界であるが,HPPCシステム
の非晶質膜を繊維(ナイロン,PET等)表面に成膜する条
では,深い溝底面やその側面でも成膜されることが分かる。
件を見出した。成膜時の温度は150℃以下であり,有機材
さらなる条件選定により付き回り性の改善が可能となる8)。
また,パイプ内面でのプラズマ生成実験により,D/d=5ま
b
a
での成膜実験を行い,DLC膜の成膜が可能であることを確
1
2
認している。
さらに,有機金属ガスによるセラミック膜の均一成膜
3
性を試験評価するため,立方体ジグ(5面)に貼り付けた試
d
4
80
臨界剥離荷重
N
D
図11 付き回り性試験用モデル金型
C
60
B
2.0
実用レベルライン
A
40
m
μ1.5
20
0
0
底部 (a)
厚1.0
-5
-10
-15
- 20
イオンミキシング電圧 kV
膜0.5
図 9 ス ク ラ ッ チ 試 験 に よ る DLC膜 の 成 膜 時 の
0.0
0
ミキシング電圧を変化させた場合の臨界剥
側面 (b)
1
2
3
4
5
アスペクト比 D/d
離荷重
図12 付き回り性試験結果
A
B
C
表1 メチレンブルーによる光分解率の比較
50N
60N
60N
70N
70N
30 min
60 min
90 min
HPPC
15 %
28 %
ゾルゲル:アナターゼ
14 %
28 %
36 %
34 %
(成 膜 条 件 )
80N
原 料 :Ti ( OC 3 H 7 ) 4 , 高 周 波 : 1000W, 真 空 度 :0.46Pa,
酸素分圧:200sccm, 時間: 90min
図 10 臨 界 剥 離 荷 重 前 後 の ス ク ラ ッ チ 痕
- 23 -
料等へのセラミック膜の成膜が可能になった。この非晶
2) J.V.Mantese, I.G.Brown, N.W.Cheung and G.A.Collins:
質TiOx 膜の光触媒効果を調べた結果,ゾルゲル法で作製
Plasma-Immersion Ion Implantation, MRS BULLETIN,
したアナターゼ型TiO2膜と比較し,表1に示すように,同
p.52-56 (1996)
3) 鈴木泰雄: 三次元イオン注入による立体形状物の表面改
程度の光分解効果が認められた。
質, 応用物理, Vol.67, p.664-667 (1998)
3.8
事業化検討
4) J.R.Conrad:
開発したHPPC装置によるコーティング製品の事業化検
Recent
Results
in
Plasma
Source
Ion
Implantation, SMMIB93, Abstracts I-21, p.45 (1993)
討のため,真空容器内にドリルを高密度に充填してDLC膜
5) 作道, 粟津: 特開平11-297493.
の成膜実験を行い,膜厚の均一性及び高密着性が得られる
6) N. Sakudo, K. Awazu, H. Yasui, E. Saji, K. Okazaki, Y.
ことを確認した。また,DLC膜の量産化時の試算により,
Hasegawa, N. Ikenaga, K. Kanda, Y. Nambo, K. Saitoh:
クロムめっきに代替が可能なコストで処理が可能であるこ
Development of Hybrid Pulse Plasma Coating System, Surf.
とを示した。さらに,光分解効果のある非晶質TiOx膜の低
Coat. Technol., Vol.136, p.23-27 (2001)
温成膜が可能になり,これまで成膜できなかった有機材料
7) K. Awazu, N. Sakudo, H. Yasui, E. Saji, K. Okazaki, Y.
への展開を調査している。
Hasegawa, N. Ikenaga, K. Kanda, Y. Nambo, K. Saitoh:
DLC Films Formed by Hybrid Pulse Plasma Coating
4.結
言
(HPPC) System, Surf. Coat. Technol., Vo.136, p.172-175
複雑形状物の表面に硬質クロムめっきに代替可能なコス
(2001)
トでDLC膜やセラミック膜を成膜するためには,大容積で,
8) 岡崎, 長谷 川, 粟津, 作道, 安井, 佐治, 池 永: ハイブ
かつ均一な高密度プラズマを発生させる技術の開発が必要
リッド型パルス・プラズマ・コーティング(HPPC)シス
になる。本プロジェクトでは,技術シーズである原料ガス
テムによるDLC膜の創製, 第16回イオン注入表層処理シ
のパルス導入,パルス・プラズマ生成,パルス電圧印加の
ンポジウム予稿集, p.35-39 (2000年11月:東京)
3大要素技術開発に関わる課題を分担して,ブレークスルー
9) Y. Funada, K. Awazu, K. Shimamura, M. Iwaki: Thermal
し,これらをハイブリッド制御するHPPCシステムを構築
Properties of DLC Thin Films Bombarded with Ion Beams,
した。このシステムを用いて,複雑形状を模した金型やパ
Surf. Coat. Technol., Vol.103/104, p.389-394 (1998)
イプ状の内面にDLC膜の成膜を可能とした。これにより,
これまで困難であった複雑な形状物に適用可能となり,ク
ロムめっき代替の目的を達成した。また,PSIIを利用した
イオンミキシング法による高密着性DLC膜の成膜法開発や
Si系及びTi系の有機金属を使った非晶質セラミック膜の低
温での成膜法開発などの研究成果は,新事業への進出や展
開が期待される。
謝
辞
本研究開発は,新エネルギー・産業技術総合開発機構
(NEDO)の地域コンソーシアム研究開発事業として,(財)
北陸産業活性化センターが管理法人となり実施したもので
す。記して感謝の意を表します。
参考文献
1) J.R.Conrad,
J.L.Radtke,
R.A.Dodd,
F.J.Worzala
and
N.C.Tran: Plasma Source Ion-Implantation Technique for
Surface Modification of Materials, J. Appl. Phys., Vol.62,
p.4591-4596 (1987)
- 24 -