ケースランスレスコネクタの開発 ケースランスレスコネクタの開発 Development of Caselanceless Connectors 安 保 * 次 雄 町 T. Ambo 田 田 * 幸 文 Y. Machida 中 義 * 和 澤 Y. Tanaka 山 口 真 二 * S. Yamaguchi 田 * 亮 R. Sawada 要 約 自動車のエレクトロニクス化が進む中,益々肥大化する傾向にある自動車用ワイヤハーネスにあって,その中でも特に最 重要部品の位置付けにあるコネクタについては,電気的接続機能を安定的に維持するための諸機能に対する要求度が更に高 いものとなっている。しかしながら,ワイヤハーネスは製造工程上の特異性から,現在も労働集約的要素が強い製品となっ ている。また,自動車の電子化が進む中で,今後も益々回路数の増加が進む傾向にあり,その結果,消費電力が増加するな どの影響により石油燃料の使用量が益々増加することが予想され,そのことによる地球環境への影響が懸念されている。 車社会の定着と共に社会問題として既に顕在化しつつある地球環境問題の観点からも,電圧を 14V(ボルト)から 42V に 変更する,あるいは,パワープラントの電動化推進,また,究極の目標と考えられている燃料電池自動車の開発へと,自動 車を取り巻く環境は一段と厳しい状況の中で,各カーメーカーは生き残りを賭けた開発競争を余儀なくされている。また,同 様にワイヤリングメーカーの我々に対しても前述のとおり,ワイヤリングの重要部品であるコネクタについて更なる軽量 化・小型化を推進すると共に一段の信頼性向上が求められている。しかしながら,軽量化・小型化を進めるに当たっては,特 にワイヤハーネスの製造工程におけるコネクタの取り扱い性について十分に配慮した設計が必要な状況となっている。その 理由の一つに,取り扱い性の悪さが原因での接触問題の発生などに見られるように,また,各種の調査結果からも,特に取 り扱い性との関係が重要であることが明確となりつつある。 今回,新たに開発したケースランスレスコネクタは,従来のコネクタハウジングでは本体に一体的に構成されていたラン スを別体として構成したことで,コネクタの諸機能が取り扱いにより損なうことがなく,かつ,作業性・メンテナンス性を 格段と向上させるなど,従来コネクタの問題点を大幅に改良した構造となっている。また,性能の向上に加え価格低減に対 しても極めて効果的な新技術である。 キーワード: コネクタ,ワイヤハーネス,ケースランス,軽量化,小型化,作業性,メンテナンス性 Summary In the new trend of car electronics, wire-harness volume has been enlarged due to new additional application of electronic requirements. Within an automobile wire-harness, the most crucial components are connectors, which require an especially electrically stable contact function. However wire-harnesses are still a labor-intensive product due to its particular assembling process. To keep up with the progress of car electronics, the circuit number of wire-harnesses are increasing. As a result, further increase in power consumption has consequently brought about more consumption of oil fuel together with consequent environmental issues. With the advent of the car age, the car industry is faced with new environmental issues to be solved. Development competition for survival toward clean energy among carmakers has been intensified in many ways as seen in design change of the power supply system from the current 14V to 42V, electrification of engine power and ultimate target, development of a fuel-cell car. Under these circumstances, needs for weight reduction and compact designing of wire-harness connectors, together with achieving higher reliability are strongly requested. To implement weight reduction and compact designing it is also necessary to pay attention to the designing and handling of connectors, as they are the very parts, which have caused many defects through wrong handling. This has been proved and identified by various survey reports on contact failure of connectors. Our newly developed connector “CASE-LANCE-LESS” is a much-improved connector where in the lance on the connector housing is shifted to the connector rear-holder side without losing its basic function. The innovation has not only solved * 菱星電装株式会社 − 97 − 三 第98号 菱 電 線 工 業 時 2001年10月 報 problems which conventional connectors held but also has brought success in achieving work efficiency and easy maintenance together with high performance and substantial cost reduction. Key words: Connector, Wire harness, Case lance, Weight reduction, Compact design, Work efficiency, Easy maintenance. 1.まえがき 自動車用ハーネスの課題は,同一車種の中にあって車両 11% 29% グレードごとに専用部番が設定されるなど,製品の種類が 17% 多い点にある。種類を示すハーネス部品番号は,同一車種 で 1000 種類を越すケースもある。また,使用されるコネク 20% タについても,一段の軽量・小型化が求められており,そ 23% の結果,小型化の反動でハウジングより端子を取り外す際 変形 金型ピン折れ その他 の作業における問題が絶えない状況が生じている。 なお,自動車メーカーのライン上での問題点の中では,コ ネクタの嵌合問題が最も多い。また,コネクタ製造に関連 する問題点としては,ケースランス部の不良率が最も高い。 ケースランス部に関する製造不良の主な現象としては, Fig. 1 ショ−トショット バリ (’97〜’98当社データより) Percentage of defects occurred through connector manufacturing 樹脂未充填のショートショット,あるいは樹脂の変形,更 コネクタの製造上での問題点発生率 には金型パーツの破損などによる問題点が挙げられる。 このような品質上の問題を改善するため,従来コネクタ の一般的構造であるケースランス構造を抜本的に改善する ことが必要であると判断し,新しい構想に基づく新構造の ケースランスレスコネクタを開発した。 2.問題点の発生状況 変形 一般的に観て,コネクタの製造から実際に車載される迄 の工程および製品の流れは,以下のようになっている。 Fig. 2 Deformation of injected mold resin 樹脂の変形 コネクタ製造 ↓ ショ−トショット ハーネスメーカーおよび電装部品メーカーへの出荷 ↓ ハーネス製造段階での組付および電装部品への組付 ↓ 自動車メーカーへの納入 ↓ Fig. 3 ハーネスおよび電装部品の車両組付 Short shot defect of injected mold resin 樹脂流動不良のショートショット 各工程ごと,あるいは製品流動に沿った問題点の状況を 調査した結果,以下のような状況となっている。 バリ 2.1 コネクタ製造工程における問題点 Fig. 1 にコネクタ製造上での問題点発生率を取りまとめ た。 コネクタ製造段階における問題点の発生状況としては, ( 樹脂の変形(Fig. 2)) 樹脂流動不良であるショート ショット(Fig. 3)* バリ(Fig. 4)+ 金型破損となってい Fig. 4 Typical figure of flash バリ る。 − 98 − ケースランスレスコネクタの開発 また,その 70% 以上がケースランス部に発生している。 問題点がケースランス部に集中する理由は,ケースラン スを構成する金型構成部品のコアピンが 1mm 以下と非常 24% に小さく細い上に,複雑に組み込まれた構造となっている 44% 点にある(Fig. 5) 。現象としては,コストダウンを目的に 16% 一段のハイサイクル成形を目指しているため,その際の問 題点として,ケースランス部において,樹脂とコアピンの 8% 8% 離型時の摩擦が原因で離型時にケースランスが伸びるな 端子変形 端子逆挿入 どの変形が発生する点にも現れている。 従って,従来のケースランス構造は,ハイサイクル化の その他 阻害要因ともなっており,コストダウンが進めにくい原因 でもあった。 Fig. 6 端子係止はずれ アッシ−未嵌合 (’98〜’00当社データより) Percentage of defects occurred through harness assembling process ハーネスメーカーでのライン問題点発 生率 a) オスコネクタ 樹脂充填部 端子取りはずし冶具 b) メスコネクタ Fig. 5 Mold construction of case lance portion ケースランス成形部の金型構造 2.2 端子取りはずし冶具 ハーネス生産工程における問題点の発生状況 Fig. 6 にハーネスメーカーでの現象別問題点発生率を取 Fig. 7 りまとめた。 ハーネス製造上での問題点は,( 端子変形(Fig. 7)) 端 Defect example attributable to terminal extraction work 端子取りはずしに起因する問題例 子係止はずれ(Fig. 8)* 端子逆挿入(Fig. 9)+ アッシー 未嵌合(Fig. 10)の順となっている。 端子不完全挿入による端子係止はずれ なお,最も多い問題点である端子変形に関する主要因 は,端子誤挿入に伴う端子取りはずし作業に起因してい る。 コネクタの端子係止構造に関しては,歴史的変遷として も,端子自体に係止爪を有したターミナルランス構造か ら,ハウジング内に同様の係止爪を有したケースランス構 造へと変化し,更に現在は,ほとんどのコネクタで採用さ れているケースランスでの係止を補完するためのリテー ナーを有した二重係止構造へと変化してきている。1980年 代初頭から本格採用が開始された二重係止構造のコネク タは,その狙いであった端子抜け問題の対策として格段の 効果があり,本構造を採用することにより端子抜け問題は − 99 − Fig. 8 Example of incomplete terminal insertion 端子係止問題例 三 第98号 菱 電 線 工 業 時 2001年10月 報 端子逆挿入 端子取りはずし 冶具 端子曲がり a) オスコネクタ Fig. 9 Example of reverse terminal insertion 端子逆挿入問題例 端子取りはずし冶具 接触子変形 b) メスコネクタ Fig. 10 Example of defective assy mating アッシー未嵌合問題例 Fig. 11 Defect attributable to conventional terminal extraction work 概ね解消された状況となった。 従来コネクタの端子取りはずしに起因する問題点 しかしながら,ハウジングより端子を取り外す作業は, コネクタの電気的機能として最も重要な部位の端子接触 部近傍に治具を挿入し,ハウジングランスを作用させての 解除作業となるため,Fig. 11 に示すように,端子接触子の 変形,メス端子外観部分の変形,端子圧着部の曲がりおよ び折れが発生するなど,多くの問題も共有する結果となっ た。 また,端子変形の次に多く発生している端子係止はずれ については,ハーネス組立上でサブハーネスを本体ハーネ スに追加的に組み合わせる工程において行われる所定の 端子挿入作業の際に,ハーネスの引き回しの影響から,ハ ウジングに挿入された端子が引っ張られランスを破損さ せる形で発生している。 特に,この現象は,超小型コネクタに内在している。 単位:mm 0.9 A 040 (ランス幅) 090 1.5 B 040 1.85 (キャビティー幅) 090 3 この問題の原因は,コネクタの更なる小型化に伴い,端 子を係止するケースランスも小さく設計せざるを得ない Fig. 12 Dimension of case lance part of conventional 結果(Fig. 12)からくる機械強度の低下に起因している。 connector このような問題を解消すべく,ハーネスメーカーでは端 従来コネクタのケースランス部関連寸法 子誤挿入の際の端子取りはずし作業を専任の端子取りは ずし作業認定者がコネクタごとの専用治具を用いて作業 する方式を採っている。 しかしながら,種類の多さなどから,また,専用治具の 調達性などの問題から,作業ミス・標準作業逸脱を誘発し − 100 − ケースランスレスコネクタの開発 ケースランスとハウジングの一体化構造からランスをハ てしまい,端子変形に至る事例が報告されている。 ウジング本体から取り除き別体として構成した点にある。 2.3 自動車メーカーでのライン問題 この結果,慢性的に発生していた各工程での問題点を解 自動車組立ラインにおけるコネクタが原因での問題点 消し,品質向上が図れただけでなく金型構造の簡略化から は,( コネクタ嵌合不良 ) 接触不良 * カシメ不良となっ くる価格低減も実現できたなど,多くの効果を出し得た革 ている。 中でも最も多い問題点である嵌合不良については,その 新的な新技術である。 『ケースランスレスコネクタ』の狙いを下記に記載する。 要因がコネクタの嵌合作業時に発生するオスコネクタ嵌 合間口のこじり現象に起因している。また,本問題が誘発 ―ケースランスレスコネクタの狙い― される原因は,ハウジングにケースランスを構成させたた (コネクタ嵌合性の向上 )端子取りはずし作業時の端子変形の撲滅 めに,金型構造上コネクタ嵌合部にオス端子先端部の挿入 *端子取りはずし作業時の取り扱い性向上 ガイドを効果的に構成することが難しいためである。 +端子取りはずし用専用治具の廃止 具体的には,メスハウジングの端子挿入ガイド部全周に オス端子の挿入ガイド部となる C 面を構成できないことに ,端子仮係止時の保持強度向上 -フレッティング・コロージョンの抑制 ある。 嵌合問題発生のメカニズムについては,Fig. 13,Fig. 14 .構造単純化による製品価格の低減 のように,2 通りのパターンがある。 3.1 コネクタ嵌合性の向上 コネクタの嵌合問題が誘発される原因は,コネクタの嵌 合に際し最も重要な機能の一つとなる嵌合ガイド機能に ついて,メスハウジング側に構成するオス端子挿入ガイド の C 面が端子挿入部の周囲に構成できない点にあった (Fig. 15)。 端子挿入ガイド不良 →オス端子先端合わせ部の開き →端子抜けおよび接触不良 C面部が 全周に構 成できな い。 Fig. 13 Mechanism of contact failure (pattern 1) 嵌合問題発生のメカニズム(パターン 1) オス端子が メス端子の 下に潜り込 んでしまう。 Fig. 15 Connecting face of female housing of conventional connector 端子挿入ガイド不良 →メス端子箱部との接触 →熱によるハウジングの変形 →接触不良 従来コネクタのメスハウジング嵌合間口 今回開発したケースランスレスコネクタは,Fig. 16 のよ うにハウジング本体にケースランスを構成しないことで, 挿入ガイド部としての C 面が全周に構成することが可能と なり,コネクタの嵌合不良・接触不良を防止できる構造が Fig. 14 Mechanism of contact failure (pattern 2) 可能となった。 嵌合問題発生のメカニズム(パターン 2) 3.2 端子取りはずし作業時における端子変形の撲滅 Fig. 17 に示すように,端子取りはずし作業をコネクタの 3.新たに開発したケースランスレス構造の特長 側面から実施できる構造としたため,端子取りはずしの際 新開発コンセプトである『ケースランスレスコネクタ』 の最大の特長は,コネクタ構造のネックポイントであった に発生する接触不良の原因であるメス端子接触子の変形 や,コネクタ嵌合不良の原因となるオス端子の曲がり,お − 101 − 三 第98号 菱 電 線 工 業 時 2001年10月 報 存在の有・無,あるいは,位置が確認しにくいことや,小 型化と平行する形でランスも小さくなってしまうことに C面を 全周に構 成できる。 オス端子を 確実にメス 端子へ導入 することが 可能な構造 となった。 ある。 また,一般的に言えることとして,端子取りはずし治具 を差し込む距離が長く,オスハウジングでは,15 〜 18mm の奥迄治具を差し込む必要が出てくる。その結果,オス端 子の場合は,特に折り曲がりなどの問題が発生し易く,ラ イン作業におけるコネクタ嵌合不良の原因ともなってい る。 今回開発したケースランスレスコネクタは,Fig. 18 に示 Fig. 16 Connecting face of female housing of caselanceless connector ケースランスレスコネクタのメスハウジング嵌合 間口 すように,ランスと本体の色分けも可能であると共に,ラ ンスを別体で成形できるため,従来構造と比較して約 2 倍 程度の大きさが確保できる。更に,Fig. 19 に示すように端 子取りはずし治具の挿入距離が 3mm 程度と従来構造の半 分程度の距離で処理することが可能となるため,端子変形 の要因を排除でき,かつ係止力を大幅にアップすることが 可能となった。小型化には極めて有効なコンセプトであ る。 ハウジング リアホルダ a) オスコネクタ Fig. 18 Structural figure of caselanceless connector ケースランスレスコネクタ構造図 端子取りはずし冶具 挿入距離 端子取りはずし治具 挿入距離 2.9 端子取りはずし治具 7.8 b) メスコネクタ 2.95 4.8 端子取りはずし冶具 Fig. 17 Terminal extraction work of caselanceless connector ケースランスレスコネクタの端子取り a) 従来型コネクタ はずし作業 よび,端子外観部のつぶれが解消できる構造とすることが Fig. 19 Jig inserting method at terminal extraction work 端子取りはずし作業時の治具挿入方法 可能となった。 3.3 b) ケースランスレスコネクタ 3.4 端子取りはずし作業性の向上 端子専用とりはずし治具の廃止 従来コネクタでは,各コネクタごとに専用の端子取りは 端子の取りはずし作業は,コネクタが小型化して行く中 ずし治具を設定すると共に,ハーネスメーカーにおいて で益々難しい作業となっている。 その原因は,従来型コネクタの場合では,ハウジング本 体に一体でランスが構成されているため,ケースランスの は,コネクタからの端子取りはずし作業を専任化するため の認定者制度などを採用している。 − 102 − ケースランスレスコネクタの開発 しかし,専用治具は,高価であること,また,入手の容 易性,種類の多さなどに課題があり,各コネクタごとに専 用治具の使用を徹底させることは,困難な状況であった。 新開発のケースランスレスコネクタでは,従来から使用 している汎用治具を使用することで対応可能となった。 3.5 端子仮係止時の保持強度向上 酸素 ・振動衝撃などで端子のオス側 とメス側との接触部に小さな摺 カンチレバー側 動運動が生じる。 ・その結果、発生したスズメッ キ粉は空気中の酸素と結合し、 酸化スズとなる。 2Sn+O2=2SnO 酸化スズ(SnO2)は電気的接触に 問題ない物質である。 スズメッキ層(1µm) ワイヤハーネスは,種類が多く,従来からサブハーネス スズメッキ粉 ビート側 を積み重ねて製造する方法を一般的に採用するケースが 多い。従って,サブハーネス段階では,コネクタに全ての 端子が装着されない状態で,ハーネスの引き回し作業が行 われることになる。 その作業では,従来コネクタの場合,二重係止部の端子 係止力が寄与されないため,超小型コネクタでは,サブ ハーネス状態でケースランスが破壊され,端子が抜けてし まう問題が発生している。 ・さらに振動衝撃が加わること で削れが進み母材の銅合金表面 が露出する。 ・その結果、同様に銅粉と空気 中の酸素が結合し、絶縁体であ る亜酸化銅・酸化銅が生成され 接触不良の原因となる。 2Cu+O2=2CuO 4Cu+O2=2Cu2O 酸化銅被膜 従って本来的にはランス単体で 70N レベル以上の強度 銅粉が発生 酸素 を確保することが基本となる。 Fig. 20 Mechanism showing fretting corrosion 今回の開発品であるケースランスレスコネクタは,I S O 規格 025・040 サイズであってもランス部を大きく構成で フレッティング・コロージョン発生メカニズム きるため,仮係止部の強度を十分な強度に保つことが可能 レッティング・コロージョンの抑制に効果的な構造となっ となった。 また,近年超小型の 025 サイズコネクタでは,端子保持 ている。 強度を確保するために,端子に係止爪を構成させるターミ ナルランス構造を採用しているケースもあるが,この構造 3.7 構造単純化による製品価格の低減 ハウジング内にランスを構成させる場合,Fig. 22 に示す では,ハーネス製造過程でランスが外力の影響などで変形 ように金型構造が極めて複雑となり,図で示すように前後 を起こす可能性が高く,二次的問題の原因となる。 方向でのコアピン同士の摺り合わせの金型構造が必要と 3.6 なる。また,コアピンの摺り合わせ距離は 7mm 程度と長い フレッティング・コロージョンの抑制 コネクタ性能問題のひとつに,フレッティング・コロー 上に,コアピンの大きさも小さい所では厚さが 0 . 3 〜 0.4mm になってしまい,その上,金型ピンが複雑であるた ジョンの発生問題がある。 フレッティング・コロージョンとは,Fig. 20 に示すよう め,金型コストも非常に高いものとなっていた。なお,ハ に端子がハウジング本体の端子収納キャビティ内で動く ウジングの金型コストの約 7 割程度がケースランスを構成 ことが原因で,端子接触面が摺動し端子接触部表面部の するコアピンのコストである。 メッキが削れ導体金属が露出されることで,接触面に酸化 新開発のケースランスレスコネクタは,Fig. 23 に示すよ 銅や亜酸化銅が生成され,結果として接触不良となってし うに,本体からランスを削除したためコアピンの摺り合わ まう現象を言う。 せがなく,また,薄肉のピンもないため,メンテナンス費 この問題への対策として一般的に実施されている対応 用(コアピンの破損)も大幅に削減でき,金型コストを大 策は,端子の前後方向の動きを抑制することである。しか 幅に低減できることから,製品価格の大幅な原価低減が可 し,既存コネクタのケースランス構造では,ハウジング内 能となった。 に一体でランスが構成されているために,端子挿入時の また,構造を単純化した効果として,従来のコネクタで ケースランスの動き(円弧可動分)を見込みクリアランス は困難であったキャビティ数のアップやハイサイクル成 を設ける必要があり,片側コネクタで0.5mm程度,オス・ 形も同時に可能となり,価格低減に大きく貢献することが メスが嵌合した状態では 1mm 程度の前後方向の動きが発 可能な構造となっている。 生してしまう構造となっている。 新構造のケースランスレスコネクタは,Fig. 21 に示すよ 4.性能評価 うにハウジング本体とリアホルダで端子を挟み込む構造 としているため,前述のクリアランスを設ける点について 今回,開発したケースランスレスコネクタの基本性能に は,その必要性が無くなった結果,端子の前後方向の動き 関する評価結果を報告する。端子保持強度および初期レベ を,両側で0.2mm 程度に抑制することが可能となり,フ ルでの電圧降下値,および温度上昇値と環境耐久試験にお − 103 − 三 第98号 菱 電 線 工 業 時 2001年10月 報 1 2 3 4 クリアランスとして0.2〜0.3mmを考慮する 端子挿入 5 7 6 クリアランスは0.5mm程度となる Fig. 22 Mold construction of conventional connector 従来型コネクタ金型構造 a) 従来コネクタ構造 1 2 3 端子挿入 リアホルダ 挿入 クリアランスは0.1mm程度で可 4 5 Fig. 23 Mold construction of caselanceless connector ケースランスレスコネクタ金型構造 b) ケースランスコネクタ構造 50〜200Hz間を連続的に周期8分にて変化させ,振動加速 度 66.6m/s2 にて,上下方向4時間,左右方向各2時間加振 Fig. 21 Clearance of terminal and housing する。 端子とハウジングのクリアランス 耐熱性 コネクタを嵌合した状態で,1 0 0 ℃に保たれた恒温槽中 ける変化度について述べる。 なお,各環境試験の内容および組合せ試験の試験方法を に120時間放置し,その後,取り出して常温に戻るまで放置。 以下に示す。 4.1 複合環境試験 試験内容 同一試料について,耐振性,耐熱性と順次試験を行う。 端子保持力試験 ハウジングに電線を圧着した端子を組み込み,ハウジン 4.2 ネクタ離脱方向へ毎分約 200mmの一定速度で引っ張り,端 測定項目および測定位置 電圧降下および温度上昇を測定する測定位置を Fig. 24 グを固定し,圧着部より 50 〜 100mmの位置より電線をコ に示す。 子がハウジングから引き抜けたときの荷重を測定する。 4.3 評価結果 耐振性 ・端子保持力比較結果(Fig. 25) また電線が振動台と平行になるように固定する。振動数は ・温度上昇値比較結果(Fig. 27) コネクタに取付けた電線が振動台に接触しない高さで, − 104 − ・接触抵抗値比較結果(Fig. 26) ケースランスレスコネクタの開発 32.5 Y 温度上昇値(°C) 従来型 Y V A 電源 温度上昇測定位置 電圧降下測定位置 (電線抵抗分は、除外する) ケースランスレス型 30.0 27.5 25.0 Fig. 24 Measuring points of voltage drop and temperature 初期 rise 耐熱後 複合環境後 Fig. 27 Comparison of temperature rise 電圧降下および温度上昇測定位置 温度上昇値比較結果 200 端子保持力値(N) 仮係止 本係止 150 100 50 0 ケースランスレス型 従来型 オスコネクタ ケースランスレス型 従来型 メスコネクタ Fig. 28 040 size caselanceless connector (Type HC) 040サイズケースランスレスコネクタ(HCタイプ) Fig. 25 Comparison of terminal retention strength 端子保持力比較結果 2.5 接触抵抗値(mΩ) 従来型 ケースランスレス型 2.0 1.5 1.0 初期 耐熱後 複合環境後 Fig. 26 Comparison of contact resistance Fig. 29 090 size caselanceless connector (Type NS-LC) 接触抵抗値比較結果 090 サイズケースランスレスコネクタ(NS-LC タ イプ) 5.新構造ケースランスレスコネクタの応用例 6.む す び 今回,開発した新構造ケースランスレスコネクタは,非 防水コネクタとしてその商品化を実施した。 自動車の電子化動向に相まって益々高くなるワイヤリ ングシステムへの信頼性向上要請に応えるべく,キー部品 また,本コンセプトを商品化するにあたり,現在,国際 としてのコネクタにスポットを当て,そのコネクタの取り 標準化活動の一環として進められている自動車用コネク 扱い性,および性能向上に向けた改善策として,構造面か タの国際規格化(ISO 化)との整合性を前提にその対象と ら抜本的な改善を実施した。本報ではその具体的対応内容 なるサイズを I S O 規格の中心サイズである 0 4 0 (タブ幅 について述べた。開発方針として挙げた,( コネクタ嵌合 1.0mm)および 090(タブ幅 2.3mm)とし,二種類のコネ クタシリーズを開発した。Fig. 28,Fig. 29にその例を示す。 性能の安定化 ) コネクタ取り扱い性の改善 * コスト改善, の 3 項目について,今回の開発品であるケースランスレス 構造は,全ての項目を満足できるコンセプトあることが確 − 105 − 三 第98号 菱 電 線 工 業 時 2001年10月 報 安保次雄(あんぼ つぎお) 認できた。 なお,今後の計画として他サイズについても本コンセプ トの商品化を計画中であり,将来的にはさらに適用範囲を 菱星電装株式会社 コネクタ開発部 ハーネス部品全般の開発設計に従事 前自動車技術会電装部会コネクタ分科会委員 広げ,コネクタ全般の信頼性向上,およびコスト低減を目 指す計画である。 町田幸文(まちだ ゆきふみ) 謝 菱星電装株式会社 コネクタ開発部 開発一課 辞 本開発にあたり,金型を中心とした製造技術の全般にわ コネクタの開発設計に従事 たり,ご協力をいただいた アザミ精工殿に深く感謝申し 上げます。 山口真二(やまぐち しんじ) 菱星電装株式会社 コネクタ開発部 開発一課 コネクタの開発設計に従事 田中義和(たなか よしかず) 菱星電装株式会社 コネクタ開発部 開発一課 コネクタの開発設計に従事 澤田 亮(さわだ りょう) 菱星電装株式会社 コネクタ開発部 開発一課 コネクタの開発設計に従事 − 106 −
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