3 段攻撃における役割行動とアタックの技能に注目した授業

研究主題
バレーボールのゲームパフォーマンス向上を目指した学習指導の究明
~3 段攻撃における役割行動とアタックの技能に注目した授業づくり~
小美玉市立小川南中学校
教諭
1
白
石
靖
弘
主題設定の理由
現在,国際化,情報化,高齢化,少子化,都市化等,子どもたちを取り巻く社会環境や生
活様式はめまぐるしく変化し,子どもたちの心身の発達に様々な影響を与えている。これら
の社会の変化に適応し,主体的に生きていくために,「確かな学力」,「豊かな人間性」,「健
康と体力」で構成されている「生きる力」を育んでいくことが求められている。その「生き
る力」を構成する一つの要素である「確かな学力」について,近年クローズアップされてい
る。
体育科では,すべての子どもたちが,生涯にわたって運動やスポーツに親しむのに必要な
素養と健康・安全に生きていくのに必要な身体能力,知識などを身に付けることをねらいと
するものである。
「学習指導要領」では,心と体を一体としてとらえ,
「運動に親しむ資質や
能力を養う」
「健康の保持増進」
「体力の向上」が重要なねらいとなっているといえる。また,
各運動領域の学習内容も明確にされ,その学習内容を確実に習得させていくこと(確かな学
力)も重要な課題となっている。今回の「学習指導要領」の改訂にあたり,全ての子どもに保
証すべき学力が検討され(中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会
2006),体育
分野でも「確かな学力の保証する」授業づくりが求められている(健やかな体を育む教育の
在り方に関する専門部会
2005)ことが背景あると考えられる。そのため,今回の改訂で
は,学習内容の定着を意図し,学習指導要領に「指導内容」が明確に示されている。
球技の領域では,今までの「種目」から「内容」の指導への転換が求められ,類型された
「型」における通低した指導内容を位置づけ,ゲームの中の学びの本質を求めていると考え
られる。(資料1)
本研究で取り上げている「バレーボール」は,ネットを挟んでノーバウンドでラリーが続
き,役割行動による仲間との連携で,自分のプレイが得点につながったときに喜びや楽しさ
を味わい,得点を競い合うゲームである。しかし,ボール操作の課題性が高く,技能の習得
に隔たった授業展開になりやすい。また,サーブの成否による得点で勝敗が決まることがあ
ったり,ボールが空中にあるうちに,そのボールへの対応や連携のための打ち出しの対応な
どの,多くの「判断」が必要となったりすることから,ラリーが続かず,技能の高い生徒だ
けが活動しているような授業に陥りやすいと考えられる。そのため,生徒が,何を,どのよ
うに学んでいくのか,教材や指導法の工夫が必要な種目であるといえる。
本校生徒は,いざ試合を行ってみるとサーブ,レシーブミスが多かったり,3段攻撃がほ
とんどできなかたったりすることが多い。生徒個人の技能差が大きいため,空いた場所をね
らって仲間と協力して攻撃したり,役割行動を意識したりしたゲームにまで至っていないの
が現状である。ゲームパフォーマンスが低いと考える。学級生活でも人間関係の希薄さが目
立ち,うまく友達が作れなかったり,集団で遊ぶことができなかったりすることがある。ま
た,自分で決め,行動にうつせない時や,友達の意見を聞いて判断することができず,わが
ままな行動を取ることも多く見られた。体育の学習でも,指示されたことについては何事に
も真面目に取り組んでいる。しかし,自ら課題を見つけて,自分や自分の所属する集団の向
上に努める積極的な取り組みは,あまり見られない。
そこで,ゲームパフォーマンスの向上を目指した学習を中心に進め,3 段攻撃におけるア
タックまでの連携プレイとゲーム時のレシーブ,トス(セット),アタックの「役割行動」
の理解や空いている場所を狙って打つなどの「判断」に注目し,学習過程や教材を工夫する。
そして,2・3 年生で段階的に指導していくことで,どの生徒もバレーボールの学ぶべき内
容に迫り,運動の得意な生徒,不得意な生徒がチームに参加し貢献できる喜びや,達成感を
味わい,主体的に学習を進めていけるために効果的かどうか,実際の授業を通して明らかに
したいと考え,本主題を設定した。
2
研究のねらい
中学校 2・3 年生におけるバレーボールの学習において,安定した 3 段攻撃におけるアタ
ックまでの「連携プレイ」とゲーム時のレシーブ,トス(セット),アタックの「役割行動」
の理解や空いている場所を狙って打つなどの「判断」に注目し,戦術的課題として学習を進
めていくことで,ゲームパフォーマンスが向上していくことを,授業実践を通して明らかに
する。
3
研究の仮説
(1)
中学校 2 年生におけるバレーボールの学習において,安定した3段攻撃を行うために,
レシーブ,トス,アタックの「役割行動」とそれらに伴う「判断」に焦点をあて,戦術ア
プローチを取り入れ,学習を進めていくことによって,それぞれのゲームパフォーマンス
の向上が図れるであろう。
(2)
中学3年生におけるバレーボールの学習において,「アタック」に焦点をあて,チーム
で 3 段攻撃を行う共同的な連携プレイを中心に戦術アプローチの指導過程を取り入れて学
習を進めることで,生徒同士の学び合いが促進され,ゲームパフォーマンスが向上するで
あろう。
4
研究の内容
(1)
ゲームパフォーマンスとは
球技の学習指導における現在の国際的動向や学習指導要領の改訂において支持されて
いるキーワードとして,ゲームでの「パフォーマンス」である。それは,
「ボールを操作
する技能」と,
「ボールを持たないときの動き」からなる「ゲームパフォーマンス」の向
上である。そこでは,ゲーム中の状況判断や,技能発揮といった戦術的な課題を指導す
ることが重要であると考えられている。グリフィンらは,戦術アプローチによって向上
をねらいとする「ゲームパフォーマンス」を評価する方法として,
「ゲームパフォーマン
ス評価法(Game Performance Assessment Instrument)」を開発した。そこでは,ゲー
ムパフォーマンスが,ベース,調整,意思決定,技能発揮,サポート,カバー,カード/
マークの7つに分類されている。
(資料2
ン他
ゲームパフォーマンスの構成要素
グリフィ
1999)
戦術学習について
(2)
①
戦術アプローチ
戦術アプローチとは戦術アプローチとは,技術練習を適切な時期に行うことや,ゲー
ムにおける戦術的状況の中で技術を用いることを強調することによって,戦術と技術を
関連づけようとすることである。その目的は,生徒のゲームパフォーマンスを向上させ
ることである。そこでは,戦術的気づきと技能の発揮とを結びつけることが意図されて
いる。
資料3は戦術アプローチの指導過程を表したものである。このモデルは,
「戦術的気づ
きに向けた指導では,まず,ゲームから出発すべきである」という立場をとっている。
もっと正確にいえば,そこでのゲームは,進んだ形態が出現するような「修正されたゲ
ーム」である。あるいは生徒に戦術的課題を意識させることをねらった「誇張されたゲ
ーム」である。(資料4)
このようなゲームを提示することによって,
「何をするか」という生徒の戦術的気づき
を発生させ,そこから「どのようにするか」という技能の行使を実行させることになる。
こうした流れでゲームを行い,その戦術的課題が達成された場合,さらに進んだ形の「ゲ
ームの形式」を提示していくことになる。ゲーム指導のための戦術アプローチ
②
(グリフィン他
1999)
「学び合い」について
本校では,校内研修として,生徒同士の「学
び合い」の実践研究を行っている。
豊かな心が現在の教育で重要視されている
が,豊かな人間性を養うためには,生徒同士
のよりよい人間関係の構築が必要であると考
える。そのためには,学習の場を共同的なも
のとする条件を多くつくり,一人の学びから
広げていくことが必要である。ボール運動で
は,一人一人が,チームとしての作戦を実行
するために,自分を生かしたり,チームの人
を生かしたりし,共通の目標である勝利や作
図1
学習定着率(全米教育協会)
戦の達成を目指していくものである。一人の個人技だけでは勝てない,いかにチーム力
を上げていくかが必要になってくる。チームの課題とそれを達成するための個人の課題
解決をするために,人とのかかわりを深め,チームワークをよくし,高めあっていくこ
とが必要である。また,
(図 1)に示した学習定着率から見ても,教え合いの定着率は 90%
となっている。グループ討論,体験的な学習,そして教え合う活動により,技能面にお
いても学習効果が期待できるはずである。また,主体的な学習を進めるにあたっても,
仲間とのかかわりは大変重要な意味をもっていると考えられる。
5
研究の実践
平成 23 年度 2 年生(バレーボール選択者,男 16 名,女 16 名,計 32 名)における授
(1)
業実践(資料5)
① 教材配列について
単元配列については,ゲームパフォーマンスの向上を図るために,毎時間メインゲー
ムを実施し,単元前半は,いろいろなチームとの対抗戦,単元後半は,リーグ戦を実施
した。単元最後は,リーグ戦の結果を基に,バレーボール大会を設定した。また,メイ
ンゲームで解決すべき課題とドリル,タスクゲームとの関連を図った。特にドリルゲー
ム,タスクゲームでは,得点化し,単元全体を通して実施し,その進歩が継続的に確認で
きるように掲示した。
② ドリルゲームについて(資料6)
3段攻撃を成功させるためには,レシーブ,トス,アタックの役割行動が必要である。
そのための共通した最低限の技能として,アンダーハンドパスとオーバーハンドパスが
必要であると考えた。基本的なボール操作であるこの二つの技能を,ゲームで技能発揮
するために,毎時間ドリルゲーム化し,継続的して行い,定着を図った。また,成果の
進歩が確認できるように,得点化し,教え合いを促進するために,グループごとの得点
を合計し,掲示した。
「アンダーハンドパス」は,2 人組で行い,レシーブからセッターがトスしやすいボー
ルを返球することをねらいとした。ボールの出し役は,
「山なりの取りやすいボール」を
出すようにする。また,レシーバーが1歩動いてとれる場所に左右に出す。レシーバー
は,出し役が動かず,頭の高さより上がって返球できれば1点とした。
「オーバーハンドパス」は,2 人組で行い,アタックが打ちやすいトスを上げることを
ねらいとした。二人組で体の向き変えとオーバーハンドパスの技能向上を中心的な学習
内容にし,単元を通して学習できるようにした。
「アンダーハンドパスのドリル」と同様
に,得点化し,ネットを背にセッターゾーンに立ち,体を向き変えてトスし,アタック
ゾーンにトスし,ボール出しの生徒がキャッチできれば 1 点とした。
④
タスクゲームについて(資料7)
単元前半(2~5 時間目)を「セカンドキャッチ」,単元後半(6~9 時間目)を「ファ
ーストキャッチ」で行った。中学校 2 年生の発達段階を考慮し,本学年では「安定した
アンダーハンドパスからのトス,空いた場所に狙ってアタックする」ことをねらいとし
た。2 学年までは,サービスを投げ入れによるフリーボール(相手が打ちやすいボール)
とし,サービスとスパイクについては,3 学年での中心的な学習内容とした。
コートはバドミントンコートを使用し,コートのネットに近いスペースを横に三分割
しセッターゾーン」と「アタックゾーン」を作成した。これは,基本のポジション取り
やレシーブやトスの返球する場所として活用した。
ア
「セカンドキャッチゲーム」
単元前半の「セカンドキャッチ」では,3 段攻撃における 1 本目のレシーブをアン
ダーハンドパスでセッターに返球することを中心的な学習内容とした。レシーブ(ア
ンダーハンドパス)の技能の緩和を図り,サービスを,フリーボールの投げ入れで行
ったが,アンダーハンドパスでのレシーブをトスアップできる安定したボールをセッ
ターに返球できる技能の定着には,時間がかかることが予想される。また,安定しな
いボールでは,セッターの試行回数も得られず,トスアップが難しいと考えられる。
これらのことから,アンダーハンドパスのレシーブを単元前半から中心的な学習内容
とした。また,もう一つのねらいである「空いた場所へ狙ってアタックする」ために,
2 本目をキャッチすることで,安定したボールがアタッカーへ返球できることと,空
いた場所を狙うための時間ができることで「判断」の緩和を図った。なお,2 本目キ
ャッチ時において,トスアップの動作として,アタッカーの方へ体を向き変えてトス
を上げるよう指導した。
イ
「ファーストキャッチゲーム」
単元後半の「ファーストキャッチ」では,3 段攻撃における,オーバーハンドパス
(トス)からの空いた場所へ狙ってアタックすることをねらいとし,オーバーハンド
パスの技能習得およびセッターのトスアップを中心とした学習内容とした。そのため,
3 段攻撃における 1 本目のレシーブをキャッチ可として,安定したボールがセッター
に返球されるようにルールを修正した。また,空いた場所へ狙ってアタックするねら
いは,単元後半ではより速い「判断」が必要となり,難易度は上がった。なお,アン
ダーハンドパスについては,ドリルゲームとタスクゲームの守備,メインゲームで継
続的に行うため,試行数は確保できると考える。
③ メインゲームについて(資料8)
単元を通して,資料 8 のようなルールで行った。コート,ローテ-ションについては,
図 3-2 のように行い,2 本交代でサーブ権の移動とし,試行回数の確保をした。コート
はバトミントンコートのダブルスコートで行い,サーブはフリーボール投げ入れで,ノ
ーエースで行い,レシーブの技能の緩和を図った。人数は 3 対 3 で行い,スリータッチ
で返球することとした。3 段攻撃における役割分担の明確化と,必ず全員で連携プレイ
をすることで,一人一人がパフォーマンスを向上する必要性に気付き,責任を持ってゲ
ームに参加する意欲の向上を狙った。試合時間は 7 分間とした。
(2)
平成 24 年度 3 年生(バレーボール選択者,男 12 名,女 16 名,計 28 名)による授業
実践(資料9)
生徒は,2年生時,ゲームを中心に学習を進め,基本となるアンダーハンドパス,オー
バーハンドパスの技能を中心的な学習内容とし,使用頻度をあげ,ルールを修整して取り
組んだ。また,ゲーム時のレシーブ,トス,アタックの「役割行動」の理解と変化,空い
ている場所を狙って打つ等の「判断」に着目した学習から,意図的な3段攻撃で空いてい
る場所を攻防できるゲームを展開することをねらいとした。アンダーハンドパス・オーバ
ーハンドパスのゲームパフォーマンスの向上は見られたが,ボールの力を加減するなど,
正確な位置に返球することについては課題が残った。また,
「役割行動」の変化や,チーム
で連携した動き,正確なアタックについての課題が残った。
そこで,3年生の学習では,サービスレシーブからのチームの連携による 3 段攻撃,ア
タックの学習を主なねらいとし,教材を配列した。7 割以上の基礎的・基本的な技能の習
得を目指し,すべての生徒がバレーボールの特性に触れて学習が進められるようしていき
たいと考えた。
①
基礎ドリルについて
サービス,アタックの技能について,本学年からの学習となるため,基礎ドリルで技
能を修得することとした。サーブ,アタック,セットアップからのアタックの3種類の
場を,1 分交代,30 秒で次の準備・移動をするサーキット形式で行うようにした。
サーブの場では,サーブ(アンダーハンド)をうち,レシーバーがアンダーハンドパ
スをするようにキャッチすると 1 点とした。レシーバーを狙ってサーブを打つことと,
レシーバーは体の正面に入ることをねらいとした。
アタックの場では,ソフトテニスのボールを,バドミントンコートに 3 箇所にフープ
を置き,ジャンプし狙って投げ入れる。両脇のフープに入れば 2 点,真ん中のフープに
入れば 1 点とした。アタックの助走と空中でのタイミングの取り方をねらいとした。
それぞれ 3 種類の場で獲得した点数を合計し,グループの得点として掲示することで
グループの教え合いが進むようにした。
②
ドリルゲームについて
レシーブ,トスの役割行動の安定が,アタックの成功やそこにおける空いた場所を狙
うことなどの「判断」に大きく影響する。2 年生で実施した授業の分析結果では,定め
られた場所に安定して返すことは,単元を通して高まりが見られなかった。そのことか
ら,2 対 2 でバドミントンコートを縦に 2 つにわり,レシーブ、トス,パスアタックで
相手と何回つなげられるかのゲームを取り入れた。また,この役割行動での技能は,ア
ンダーハンドパスとオーバーハンドパスに限定し,試行回数の確保とゲームのような状
況の中で技能発揮できるようにした。このことにより,少人数での連携プレイと相手の
動きに合わせてのプレイもでき,生徒も意欲的に活動していた。このドリルゲームにつ
いても,ポイントとして掲示し,グループの伸びが実感でき,教え合いが促進するよう
にした。
③
タスクゲーム(資料10)
今回の 3 年生の授業では,「アタック・サーブ」技能の習得と 3 段攻撃を行う共同的
な連携プレイをねらいとしている。
「アタック」までの役割行動,連携プレイのための役
割行動の変化が必要になってくるため,人数は 4 対 4 で行うこととした。
「アタック」につなげるため,役割の変化,連携プレイによる攻撃参加のための「判
断」の緩和,空いている空間に落とすためのアタックが打てるようなトスを上げる観点
から,まず,単元前半(2~4 時間目)を「セカンドキャッチ」,単元後半(5~7 時間目)
を「ファーストキャッチ」で行った。
コートはバドミントンコートを使用し,コートのネットに近いスペースを「セッター
ゾーン」と「アタックゾーン」に設定した。これは,基本のポジション取りやレシーブ
やトスの返球する場所として活用した。
ア
「セカンドキャッチゲーム」
2 年生の実践と同様の内容で行った。但し,ゲームの人数が 4 人に増えたため,役
割の変化や,連携プレイの幅を増やすことができた。アタックのドリルゲームで練習
し,「判断」やトスの技能の緩和を図ったため,アタックの成功率が上がっていった。
イ
「ファーストキャッチゲーム」
単元後半の「ファーストキャッチ」では,サーブから入ることとした。サーブを狙
って打つことと,レシーバーは正面に入ってキャッチすることで,ゲーム時のレシー
ブの基礎的な動きを習得することがねらいである。
また,守備側は,アタックされたボールをレシーブし,セカンドキャッチし,トス
を上げる。そしてアタックすることとし,簡易的なラリーにすることとした。これは,
守備から攻撃につなげるための「判断」をラリーの中で経験し,パフォーマンスを高
めることがねらいである。
④
メインゲームについて(資料11)
4 対 4 の人数で行った。単元を通して,ノーバウンド,3 タッチで返球することとし
た。2 本交代でサーブ権の移動とし,試行回数の確保をした。コートはバトミントンコ
ートのダブルスコートで行い,サーブはアンダーハンドサーブに限定した。3 段攻撃に
おける役割分担の変化や連携プレイの向上とフォーメーションの工夫等を期待して人数
を増やした。このことにより,より正規のバレーボールに近い形のゲームになった。試
合時間は 7 分間とした。
6
研究のまとめ
(1)
分析について
本研究を通して学習成果を確認するために,以下のような方法で分析を行った。
①
平成 23 年度 2 年生
ア
授業評価
毎時間ごとの生徒による形成的授業評価,単元前後に診断的・総括的授業評価を行
い,生徒の変容を見た。
イ
仲間との関わりについての分析
毎時間ごとに,生徒による集団的・協力的活動を評価する形成的授業評価を行い,
仲間との関わりについて考察した。
ウ
ゲームパフォーマンス分析
授業をビデオ撮影し,メインゲームのはじめから 5 分までを対象に映像分析を行っ
た。分析する時間を 1 時間目の試しのゲームと 10 時間目の大会,タスクゲームの学
習内容が変わる 2 時間目から 5 時間目を「前半」,6 時間目から 9 時間目までを「後半」
とし,単元全体の流れ,変容がわかるようにした。ビデオカメラ 3 台使用し,1 台は
教師行動を撮影し,2台で体育館を二つに分け,2分割し,全生徒の動きを撮影した。
分析ソフトは,「エクセル」を使用し,ゲームパフォーマンスを「レシーブ」,「ト
ス」,「アタック」の局面における「技能発揮」にカテゴリー分けをして,1プレイご
とに映像を切り出し,それぞれの判定基準をもとに分析を行った。
映像の切り出しは,①「レシーブした瞬間からセッターがボールに触れるまで」,
②「セッターがボールに触れた瞬間からアタッカーが触れる瞬間まで」,③「アタッカ
ーがボールに触れた瞬間から,相手コートに落ちる,または相手チームが触る瞬間ま
で」とした。サーブレシーブ後の 1 本目の攻撃(サービスカット)に限定して分析を
行うこととした。
②
平成 24 年度 3 年生
ア
授業評価
毎時間ごとの生徒による形成的授業評価,単元前後に診断的・総括的授業評価を行
い,生徒の変容を見た。
イ
仲間との関わりについての分析
毎時間ごとに,生徒による集団的・協力的活動を評価する形成的授業評価を行い,
仲間との関わりについて考察した。
ウ
ビデオ映像
授業をビデオ撮影し,全体の流れ,生徒の習熟度の確認,変容がわかるようにした。
授業内容の反省にも使用した。映像分析は行わなかった。ビデオカメラ 2 台使用し,
体育館を 2 分割し,全生徒の動きを撮影した。
(2)
結果と考察
①
診断的・総括的授業評価について
ア
平成 23 年度
2 年生
検証授業における診断的授業評価と総括的授業評価に t 検定を行った結果が(資料
12)である。単元当初から+であったが,授業後には優位な伸びが見られた。
また,楽しむ(情意目標)も優位に伸びていることから,本単元を行った結果,生徒
が意欲的に授業に臨み,積極的に運動に取り組めたことが伺える。特に,できる(運
動目標)が一番優位に伸びていた。各項目を見ても,生徒自身,運動技能の向上を自
覚でき,ドリル,タスクゲームの練習やゲームに意欲的に取り組んだことが伺える。
学ぶ(認識目標)は,友人・先生の励まし,積極的な発言が伸びており,チームでの
積極的な関わりができたことが伺えた。
イ
平成 24 年度
3 年生
検証授業における診断的授業評価と総括的授業評価にt検定を行った結果が(資料
13)である。総合得点,全ての項目で単元当初から+であり,授業後も伸びが見ら
れた。項目をみると,「できる」(運動目標)が優位に伸び,「いろんな運動の上達」,
「授業前の気持ち」が優位に伸びていたことから,生徒自身も技能の伸びを感じ,授
業に意欲的に取り組む姿勢があったことが伺える。また,「学ぶ」(認識目標)の項目
も優位に伸び,特に「応援」,「他人を参考にする」,「友人・先生の励まし」が優位に
伸びていることから,グループの教え合いなど活発に行われ,積極的な関わりができ
たことが伺えた。
②
生徒による形成的授業評価について
ア
平成 23 年度
2 年生(資料14)
生徒による形成的授業評価は,1 時間目から「4」の評価を得られたことから,単
元当初から生徒には肯定的に受け入れられた授業であったと言える。
6 時間目と 8 時間目に全体的な落ち込みが見られたものの,単元を通して全体的に
数値があがり,まとめの 10 時間目では各次元と総合評価で「5」の評価となった。生
徒が意欲的に取り組め,満足のいく学習過程であったことが伺える。
1 時間目においては,グループ編成や学習の決まり,ゲームの進め方,学び方等,
マネジメントや学習指導に大きな時間を割いたため,成果や関心意欲の面で評価は低
かった。試しのゲームが 5 分しかできなかったので,効率的なオリエンテーションの
工夫も必要であると考える。
6 時間目の落ち込みは,学習のねらいとタスクゲームが変わったため,生徒に戸惑
いが見られた。また,8 時間目の落ち込みは,2 つのグループで授業前のトラブルによ
り,体育の学習でも引きずり,グループ内の雰囲気が悪かったことが原因として考え
られる。
イ
平成 24 年度
3 年生(資料15)
生徒による形成的授業評価は,1 時間目から総合評価で「5」を得たことから,単
元当初から生徒には,肯定的に受け入れられた授業であったと言える。特に,学び方
の評価が単元を通して「5」の評価を得たことから,生徒の自発性と合理性が高く,
受け入れやすい教材であったと推測できる。また,協力の評価も高い評価を得たこと
から,グループ間の人間関係や学び合いも活発に行われていたことが推測できる。
③
生徒による集団的・協力的活動を評価する形成的授業評価について
ア
平成 23 年度
2 年生(資料16)
単元当初より,2.5 以上であり,総じて,全体として単元当初より仲間づくりがうま
く機能していたと言える。単元後半では,全項目で評価が上がり,全体やグループの
仲間と楽しくゲームに取り組めたことが伺える。
単元前半は,授業が進むにつれ,声かけや学び合いの姿が多く見られ,評価も上が
ってきた。6 時間目は,形成的授業評価でも同じように下がっていることから,学習
内容とタスクゲームが変わったことで,生徒個人の理解が先行し,生徒同士の関わり
が深まらなかったことが原因として考えられる。単元後半では,まとめの大会に向け
て,生徒同士が勝利したいという思いが強くなり,話し合いや教え合いが促進し,生
徒同士の関わりも深まったことが伺える。
イ
平成 24 年度
3 年生(資料17)
単元当初より,2.5 以上で高い数値で推移し,総じて,全体として単元当初より仲間
づくりがうまく機能していたと言える。単元前半から,全項目で評価が上がり,全体
やグループの仲間と楽しくゲームに取り組めたことが伺える。
単元前半から,声かけや学び合いの姿が多く見られ,単元後半でも落ち込むことが
なかったことから,話し合いや教え合いが促進し,生徒同士の関わりも深まったこと
が伺える。
④
ゲームパフォーマンスについて
本実践では,バレーボールの特性である自チーム内で協力し,効果的に攻撃ができる
よう,守備から攻撃へつなぐ連携プレイを重視し,そのためのゲームパフォーマンスの
向上と「役割行動」の理解と「判断」を中心とした学習内容で授業を展開した。
そのことにより,チーム内で自分の役割ができ,連係プレイに貢献して得点する喜びや
達成感を感じながら,個人のゲームパフォーマンスの向上が図れた。それぞれの分析カ
テゴリーに沿って,ゲームパフォーマンスについては,技術的課題を細分化して検討す
ると,課題に応じて期待する達成レベルに到達するために必要な時間数に差が見られる
ことが示唆された。特に,山なりのボールや返球の位置のような,ボールの軌跡を予測
した力の入れたかに関する課題の難度が高いことが示唆された。
継続的に狙いを明確化した基礎ドリルやドリルゲームを入れ,タスクゲームとも関連
させたことで,アタックの動作など,ゲームで技能発揮ができるようなパフォーマンス
が多く見られた。また,戦術的なアタックの仕方,空いている場所へ狙う等の「判断」
についても,トス,レシーブの役割行動が安定し,パフォーマンスが向上してくると,
安定し高くなっていった。
7
今後の課題
(1)
ゲームパフォーマンスにおける,生徒にとって難度の高い課題に対して,効果的な指導
方法や教材化の工夫が必要である。また,教師が計画する授業全体のマネジメントと,発
問を効果的にすることで,より多くの生徒が,より早く,ゲームパフォーマンスの向上が
図れるのではないかと考える。
<参考文献>
○高橋健夫・岡出美則・友添秀則・岩田靖編集(2010)「新版
体育科教育学入門」
書店
○高橋健夫
編集(2003)
○リンダ・L・グリフィン
「体育授業を観察評価する」
他[著]
「ボール運動の指導プログラム
○福原祐三[編著]
昭和出版
高橋健夫・岡出美則[監訳](1999)
新しい戦術学習の進め方」
大修館書店
勝本真,黒後洋,鈴木理[著](1997)
「バレーボールの練習プログラム」
大修館書店
○文部科学省(2008)
中学校学習指導要領解説
○学校体育指導資料
茨城県保健体育課
保健体育編
○文部科学省 hp
「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」
「健やかな体を育む教育のあり方に関する専門部会これまでの審議の状況」
「健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会」(2005)
「中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会」(2006)
○千葉県長期研修生
・佐藤
秀昭
研究報告書
著(平成 23 年度)
大修館