法教育授業(模擬裁判)の実践

平成 17 年度 第3 回「2 1世 紀ぐ んま 教育 賞( あす なろ 賞)教 職員 の部 」
法教育 授業(模 擬裁判) の実践
∼新 しい時 代にふさ わしい 特色あ る教育 活動の推 進∼
も り じ りと し あ き
桐生市立広沢中学校教諭
Ⅰ
主題設定の理由
1
裁判員制度導入が背 景にある
森尻利明
平 成 1 6 年 5 月 「 裁 判 員 の 参 加 す る 刑 事 裁 判 に 関 す る 法 律 」( 裁 判 員 法 ) が 成 立 し 、 公
布の日から 5年以内に裁判員制度 が実施されることになった。 裁判員制度とは、国民に裁
判員として 刑事裁判に参加しても らい、被告人が有罪かどうか 、有罪の場合どのような刑
にするかを 裁判官と一緒に決めて もらう制度である。裁判員制 度は、国民の積極的な協力
なくしては 成り立ち得ない制度で あり、裁判所としては、制度 の意義を理解してもらえる
よう最大限 の努力をし、関係機関 と協力して、分かりやすく迅 速な裁判を実現したいと考
えている。 そのため、最高裁判所 は日本弁護士連合会と協力を 進め、学校に出向いて、模
擬裁判・ビ デオ上映「裁判員制度 ∼もしもあなたが選ばれたら 」などの出前授業を実施し
ている。そ して、国民みんなが参 加できる身近で、速くて、頼 りがいのある司法をめざし
て改革を進 めている。最近では、 県内各地で法教育や裁判員制 度についてのフォーラムが
開催されるようになって きた。
2
今、特色ある教育活 動として法教育が求められている
平成15年 3月、中央教育審議会 から「新しい時代にふさわし い教育基本法と教育振興
基本計画の 在り方について」の答 申の概要が出された。青少年 の規範意識や道徳心、自律
心の低下、 学ぶ意欲の低下、家庭 や地域の教育力の低下など、 日本の教育は多くの課題を
抱 え 、ま さ に 日 本 社 会 は 危 機 に 直 面 し て い る 。「 国 民 か ら 信 頼 さ れ る べ き 学 校 教 育 の 確 立 」
の 項 目 に は 、「 よ り よ い 国 づ く り 、 社 会 づ く り を 支 え る の は 、 国 民 一 人 一 人 の 自 覚 と 行 動
である。こ のため、公共に主体的 に参画する意識や態度を涵養 する取り組みを重視してい
く必要があ る。また、我々が個人 としての自己実現を図りなが らも、個人と不即不離の関
係にある公 共との調和の中で生活 していくためには、社会的モ ラルや公共心、自立心、規
範意識など 、健全な社会の一員と して必要な資質・意識ととも に、より良い社会の実現に
自分自身も 主体的に貢献しようと いう社会人としての自覚を有 することが当然に求められ
る 。」 と あ り 、 こ の よ う な 観 点 か ら 3 つ の 施 策 を 検 討 す べ き と あ げ て い る 。 ① 国 家 ・ 社 会
の形成者と しての資質を養う教育 の充実、②ボランティア活動 や自然体験活動などの奉仕
活動、体験活動の推進、 ③道徳教育の推進。
特に、①「 国家・社会の形成者と しての資質を養う教育の充実 」の実践例として「法教
育授業」は 最も適切な教材である と考える。21世紀に生きる 生徒にとって、法教育の理
論をもとに 学習することはたいへ ん意義がある。法教育の考え 方は、平成12年頃から筑
波大学や日 本弁護士会を中心に関 東弁護士会の呼びかけによっ て始まり、教育現場での研
究や実践は まだ浅い。私は、今回 の法教育を教材化するにあた って、次第にその重要性を
実感した。 数年後には、教育の場 に必要不可欠な学習となるで あろう。こうした新しい時
代の到来に 先駆け、特色ある教育 活動の1つとして法教育(模 擬裁判)の推進を目的とす
る主題を設 定した。これから本校 が取り組んだ法教育の実践の 一部を紹介する。これを機
に県内で法教育の理論・ 実践の研究が拡大し発展することを願う。
-1 -
Ⅱ
法教育を「特色ある 教育活動」に位置づけた本校の実践
1
実践の見通し
○ 法 教 育 を 人 権 教 育 の 一 部 と し て 、本 校 の 環 境 教 育 ・ 福 祉 教 育 等 の「 特 色 あ る 教 育 活 動 」
に 位 置 づ け 、 各 教 科 ・ 道 徳 ・ 特 別 活 動 ・「 総 合 的 な 学 習 の 時 間 」 を 関 連 づ け た 教 育 課 程
を編成し実 践することによって、 本校のめざす生徒像を実現で き、21世紀に生きる理
想的な市民を育成し、個 を尊重する公正な民主主義社会を築くことがで きるであろう。
2
本 校 の 「特 色 あ る 教育 活 動 」( 3 本柱 )
( 論 理的 な 思 考の 学 習 )
法教育
・ 環境 を 守 る 法
・ 人権 を 守 る法
本 校の め ざ す生 徒 像
環 境教 育
福 祉教 育
( 環境 に や さし い ) ・人 と 自 然と の 共 存共 生
学習内容
環 境教育
福祉教育
お も な 体 〈身近な地域 学習〉
験活動
(人 に や さし い )
〈福祉体験学習〉
法教育 (人権教育)
〈模擬 裁判〉
・渡 良瀬川の上流 を見学し、自 ・地域 の福祉施 設に ・ 模擬裁判を 体験し、
然 環 境 を 考 え る 。( 1 学 年 )
分散し2 日間の体 験 論理 的に考え、 適切に
〈 ク リ ー ン ア ッ プ キ ャ ン ペ ー ン 〉活 動 を 行 う 。
・生徒 会、実行委員 を中心にゲ (2学年)
表 現する方法 を学習す
る 。( 3 学 年 )
ームで 楽しみながら 班活動によ ・ブライ ンドウォ ー 〈人権週間〉
3
り、地域のゴミ拾いを行 う。
ク 、 車 い す 体 験 、 手 ・ 人 権 作 文 、人 権 標 語 、
(全学年)
話 、盲 導 犬( 全 学 年 ) ビ デ オ 学 習 ( 全 学 年 )
法教育授業∼各教科 ・道徳教育との関連
(1)社会科(公民的分 野)との関連
中学校学習 指導要領公民的分野の 目標に「個人の尊厳と人権の 尊重の意義、特に自由・
権利と責任 ・義務の関係を広い視 野から正しく認識させ、民主 主義に関する理解を深める
とともに、 国民主権を担う公民と しての必要な基礎的教養を培 う」とある。また「法に基
づく公正な 裁判の保障」の内容に ついて「法に基づく公正な裁 判によって社会の秩序が保
た れ 人 権 が 守 ら れ て い る こ と 」「 司 法 権 の 独 立 と 法 に よ る 裁 判 が 憲 法 に よ っ て 保 障 さ れ て
いること」 を理解させるとあり、 その際「裁判官、検察官、弁 護士などの具体的な動きを
通 し て 理 解 さ せ る こ と 」 を 配 慮 事 項 と し て あ げ て い る 。「 自 ら 学 び 、 自 ら 考 え る 力 を 育 成
する」等の 学び方を重視した今回 の学習指導要領改訂により、 社会の変化に主体的に対応
できる資質 や能力を育成すること をめざしている。法教育(模 擬裁判)を扱って学習する
ことは、まさに社会科の 目標に合致している。
(2)国語科との関連
中学校 学習指導 要領の目 標に「適 切に表現 し正確に 理解する 能力を育 成し、伝 え合う力
を高めると ともに、思考力や想像 力を養い言語感覚を豊かにし 、国語に対する認識を深め
国 語 を 尊 重 す る 態 度 を 育 て る 」と あ る 。ま た 、話 す こ と ・ 聞 く こ と の 能 力 を 育 成 す る た め 、
「広い範囲 から話題を求め、話し たり聞いたりして、自分のも のの見方や考え方を広めた
り 、 深 め た り す る こ と 」「 話 の 中 心 の 部 分 と 付 加 的 な 部 分 、 事 実 と 意 見 と の 関 係 に 注 意 し 、
-2 -
話 の 論 理 的 な 構 成 や 展 開 を 考 え て 、 話 し た り 聞 き 取 っ た り す る こ と 」「 話 の 内 容 や 意 図 に
応じた適切 な語句の選択、文の効 果的な使い方など説得力のあ る表現の仕方に注意して、
話 し た り 聞 き 取 っ た り す る こ と 」「 相 手 の 立 場 や 考 え を 尊 重 し 、 話 合 い が 目 的 に 沿 っ て 効
果的に展開 するように話したり聞 き分けたりして、自分の考え を深めること」を指導事項
としてあげ ている。さらに「伝え 合う力、思考力や想像力を養 い言語感覚を豊かにするの
に 役 立 つ こ と 」「 公 正 か つ 適 切 に 判 断 す る 能 力 や 創 造 的 精 神 を 養 う の に 役 立 つ こ と 」 を 、
教 材 を 選 択 す る 観 点 と し て の 配 慮 事 項 に あ げ て い る 。法 と 照 ら し 合 わ せ て 、論 理 的 に 考 え 、
適切に表現する法教育( 模擬裁判)の授業展開は、国語科のねらいに適 合する。
(3)道徳教育との関連
法 教 育 ( 模 擬 裁 判 ) に 関 す る 内 容 項 目 と し て 、「 4 主 と し て 集 団 や 社 会 と の か か わ り
に 関 す る こ と 」「 ( 2 ) 法 や き ま り の 意 義 を 理 解 し 、 遵 守 す る と と も に 、 自 他 の 権 利 を 重 ん
じ 義 務 を 確 実 に 果 た し て 、 社 会 の 秩 序 と 規 律 を 高 め る よ う に 努 め る 」 が あ げ ら れ る 。 4- ( 1 )
「 集 団 の 意 義 、 役 割 と 責 任 の 自 覚 、 集 団 生 活 の 向 上 」、 4- ( 2 )「 公 徳 心 、 よ り よ い 社 会 の 実
現 」、 4- ( 3 )「 正 義 、 公 正 ・ 公 平 、 差 別 ・ 偏 見 の な い 社 会 の 実 現 」 に も 関 連 す る 。 心 の ノ ー
トでは「法 やきまりを守る気持ち よい社会を」を題材に、社会 の秩序と規律を高めるため
に規則ルー ルがあることや、権利 と義務について考えさせるこ とをねらいとした項目にあ
てはまる。 法教育授業の実践によ り、道徳的価値及び人間とし ての生き方についての自覚
を深め、道徳的実践力を 育成できると考える。
4
模擬裁判の実践
社会科学習指導案
平成17年1月25日( 火)5・6校時
(1)題材名
広沢中学校体育館
指導者
森尻
利明
「オオカ ミなんか怖くない」殺オオカミ事件
( 単 元 名 「 人 間 の 尊 重 と 日 本 国 憲 法 の 基 本 的 原 則 」)
(2)生徒の実態
模擬 裁判授業の実践にあたって、生徒にアンケート 調査をしてみた。
☆ 裁 判 に つ い て 、 次 の ア ン ケ ー ト に 答 え な さ い 。( 24 名 )
①刑事裁判と民事裁判の ちがいがわかりますか?
は い 15 名
いいえ 9 名
②裁判所の種類をあげな さい。
・ 最 高 ( 18 名 )・ 高 等 ( 15 名 )・ 地 方 ( 13 名 )・ 家 庭 (20 名 ) ・ 簡 易 ( 10 名 )
③三審制がおこなわれて いるのはなぜですか?
・ 裁 判 の ま ち が い を 防 ぎ 、 慎 重 に 行 う た め ( 12 名 )
④裁判所に行ったことが ありますか?
誤答 5 名
無答 7 名
な い ( 24 名 ) 相 生 に あ る の は 知 っ て い る ( 8 名 )
⑤弁護士や検察官の仕事 について知っていますか?
テ レ ビ で 見 た こ と が あ る 。 (17 名 )
⑥「三匹の子豚」のスト ーリーを知っていますか?
は い ( 20 名 )
い い え (4 名 )
⑦ 弁 護 士 が 裁 判 官 に な り 、み ん な が 演 じ て 模 擬 裁 判 の 授 業 を し ま す 。興 味 が も て ま す か ?
は い ( 19 名 )
い い え (5 名 )
生徒たちは 、すでに公民的分野「 裁判のしくみ」の単元で学習 しているので、裁判に関
わる基本事 項はほぼ理解している 。今回の模擬裁判は、体験活 動を伴うこともあって比較
的興味をも っており、実施しやす いと思われる。しかし、模擬 裁判の判決について論理的
に考え、適 切に表現する力が求め られており、長文を読みこな すには、かなりの読解力が
要 求 さ れ る 。 ま た 、「 三 匹 の 子 豚 」 の ス ト ー リ ー を 確 認 す る た め 、 事 前 に 絵 本 や ビ デ オ な
どで見せておくことが必 要となる。
(3)目標
①人間の尊 重についての考え方を 、基本的人権を中心に深める とともに、法の意義につ
いて理解する。
-3 -
②民主的な 社会生活を営むために は、法に基づく政治が大切で あることを理解し、我が
国の政治が日本国憲法に 基づいて行われていることの意義について考え る。
③模擬裁判 を通じて、法に基づいた 論理的な思考方法を学び、多 面的・多角的な見方や
考え方により、自他の意 見を理解し表現できる力を培う。
(4)評価規準(単元の 評価規準・学習活動における具体的な評価規準 )
ア
社 会 的 事 象 へ の イ 社会的 な思考・判 ウ
関心・意欲・態度
断
資 料活 用 の 技 能 ・ エ
表現
社会的事象につ
いて の知識・理解
・法の 意義と法 に基 ・ 民 主 的 な 社 会 生 活 ・人間 尊重の考え 方と ・ 法に基づ く政治が
づく政 治の大切 さに の 在 り 方 に つ い て 、 日本国 憲法をはじ めと 民 主政治の 原理とな
ついて 意欲的に 追求 自 由 ・ 権 利 と 責 任 ・ した法 に関する資 料を っ ているい ることを
している。
義 務の関係をふまえ、様々な 情報手段を 活用 理 解し、そ の知識を
公 正 に 判 断 し て い る 。し て 収 集 し て い る 。
身につけている。
・模擬 裁判の進 め方 ・ 法 に 基 づ い た 論 理 ・模擬 裁判の資料 を読 ・ 裁判に関 係する基
や役割 演技に興 味を 的 な 思 考 方 法 で 、 自 み取り 、必要な情 報を 本 的 な 語 句 を 理 解
もち、 積極的に 授業 分 な り の 判 決 を 下 し 取り出 し、適切に 表現 し 、人間尊 重の考え
に参加している。
て いる。
している。
方を とらえている。
(5)指導方針
①模擬裁判 の授業を通じて、法に もとづいた裁判の手続きや論 理的思考方法を学びなが
ら、民主主義社会におけ る自立した市民になる基礎的教養を培う。
②小集団ご とに有罪か無罪かを話し 合うことにより、裁判につい て関心を高め、生徒の
主体的な学習を促す。
③模擬裁判 の中での証言をもとに、 評決への道筋を多面的・多角 的に考察することによ
り、事実を正確にとらえ 、公正に判断し、適切に表現する資質を養う。
④ゲストテ ィーチャーを講師に招 き、裁判について身近に感じ させるとともに、弁護士
の仕事について興味をも たせる。
(6)指導と評価の計画 (全5時間予定)∼本時は4・5時
学習活動
時間
・模擬裁判のしくみ
1
学習活動への支援
具体的な評価規準と の関連
・裁判のしくみを復習し、 ・裁 判のしくみ を知ってい
を知り、配役を決め
生徒 か ら 自 主的 に 配 役 を
る ( エ )。 自 主 的 に 配 役 を
る。
決めさせる。
決 め て い る 。( ア )
・模 擬 裁 判 のも と に な る
・全 員の生徒が 、童話のお
た」のストーリーを
童話 を 絵 本 やビ デ オ で 、
おま かなストー リーを把握
確認する。
ス ト ー リ ー を 確 認 さ せ る 。 し て い る 。( ウ )
・童話「3匹の子ぶ
・模擬裁判の資料を
1
1
・裁 判 の 手 続き や 流 れ に
・模 擬裁判の流 れや個々の
読み、内容を把握す
着目 さ せ な がら 、 模 擬 裁
証言を把握し ている。
(ウ)
る。
判の内容を把握させる。
・模擬裁判に参加し、
2
・班 ご と に 有罪 か 無 罪 か
・班 で話し合い 、事実を正
裁判の手続きや論理
本時
を考 え さ せ 、班 長 に 発 表
確に とらえ、公 正に判断し
させる。
て い る 。( イ )
的思考方法を学ぶ。
(7)模擬 裁判資料
資料提供「群馬弁護士会」
「オオカミなんか怖くな い」殺オオカミ事件
前橋地方裁判所
桐生広 沢中支部体育館法廷
裁判長(群馬弁護士会)
被告人
平成17年(わ)第7 77号事件
カーリー・ザ・ピッグ
(俳優役生徒5名)検察 官1名(男女を問わない)
被告人1名(男子)
弁護人1名(男女 を問わない)
証 人2名(男子1名、女子1名)
-4 -
男子はジャック・スミス 役。女子はオオカミの母親役。
(机の配置)下図のとお り(○は椅子、☆はマイク、丸数字は班)
○
○
○
○
①
○
①
○
②
○
②
○
①
○
①
○
②
○
②
○
長机2
学校長・社会科教諭
参
黒
③
○
③
○
④
○
④
○
ハの字にする
板
○
観
○
弁護人
証
③
○
③
○
④
○
④
○
人
者
☆
⑤
○
⑤
○
⑥
○
⑥
○
・
裁
○
被
判
☆
○
1組
官
告
⑤
○
⑤
○
⑥
○
⑥
○
☆
保
人
2組
⑦
○
⑦
○
⑧
○
⑧
○
護
⑦
黒
○
⑦
○
⑧
○
⑧
○
☆
検察官
者
板
証
○
人
⑨
○
⑨
○
⑩
○
⑩
○
⑨
○
⑨
○
⑩
○
⑩
○
○
ハの字にする
3
列
来賓
⑪
○
⑪
○
⑫
○
⑫
○
⑪
○
⑪
○
⑫
○
⑫
○
長机2
○
○
○
○
刑法第199条(殺人罪)
人(この場合はオオカミを含むものとする)を殺したものは、死刑・無期懲役刑・または3年
以上の懲役刑に処せられる。
・子豚は、オオカミを殺してしまうつもりでチャンスを待っていたのか?
・それとも、たまたまオオカミが侵入してきたとき、お湯をわかしていたのか?
刑法第35条1項(正当防衛)
急激で不意な攻撃から自分や他人を守るために、やむを得ずにした行為については、罰せられ
ることがない。
・オオカミの侵入は「急激な攻撃」と言えるか?
・子豚のしたことは「自分を守るためにやむを得なかった」と言えるか?
・オオカミを煮ただけでなく、食べてしまったことについてはどうか?
〈裁判長〉これより開廷 します。被告人は前へ出てください。名前は何 と言いますか?
〈子豚〉カーリー・ザ・ ピッグです。
〈裁判長〉検察官、起訴 状を朗読してください。
〈検察官〉 はい。公訴事実を読み 上げます。被告人は、自分の 兄ふたりがオオカミに食べ
られてしま ったと聞き、オオカミ に恨みを持ち、チャンスがあ ればオオカミを殺してやろ
うと思って 、そのチャンスをねら っていたが、オオカミにお祭 りに誘われると、オオカミ
を怒らせれ ばエントツから家の中 に入ってくるにちがいないと 考え、暖炉でお湯をわかす
-5 -
用意をした うえで、約束の時間よ り前に自分ひとりでお祭りに 行ってしまい、また、樽の
中に入って ころがり、オオカミを おどろかせたうえに、あとで 自宅にやってきたオオカミ
を侮辱した ため、怒ったオオカミ が、被告人の家のエントツか ら家の中に入ろうとするの
を見て、ね らいどおりにオオカミ を殺してしまおうと決意し、 暖炉のナベのフタをとり、
あらかじめ ナベの中にわかしてお いたお湯にオオカミを転落さ せて、すぐにナベのフタを
しめ、オオ カミを全身やけどによ って死亡させたうえに、その 死体をグツグツと煮て食べ
てしまった ものであります。以上 の事実は、刑法第199条の 殺人罪にあたりますので、
正しい処罰をお願いしま す。
〈裁判長〉 では、最初に被告人に 注意しておきます。被告人に は、黙秘権という権利があ
ります。被 告人は、この裁判でい ろいろな質問をされますが、 答えたくなければ答えなく
てもかまい ません。黙っていたか らといって被告人が不利にな ることはありません。もち
ろん、答え たければ答えてもかま いませんが、被告人が答えた ことは、被告人に有利な証
拠になることも不利な証 拠になることもあります。被告人、わかりまし たか?
〈子豚〉はい、わかりま した。
〈裁判長〉 では、被告人に質問し ます。さきほど検察官が読み 上げた公訴事実は、そのと
おり間違いありませんか ?
〈子豚〉と んでもありません。全 然ちがいます。ぼくがオオカ ミを殺すチャンスをねらっ
ていたなん てことはありません。 おそろしいオオカミを殺して やろうなどと考えるはずが
ないでしょ う。だいたい、ブタは オオカミの肉なんて好きでは ありません。あの日は、晩
ごはんに「 湯どうふ」を食べよう と思って、お湯をわかしてい たのです。ところが、オオ
カミが「お 前を食べてやる」と言 ってエントツから入ってこよ うとしたので、びっくりし
て、とっさ にナベのフタをとった ら、そこにオオカミが落ちて きたのです。もう、恐ろし
くてオオカ ミの姿を見ることさえ もできず、必死でナベのフタ をしめました。そして、オ
オカミが動 かなくなったあとも、 今にも生き返ってきて自分を 食べてしまうような気がし
て、恐ろし さのあまりにオオカミ を食べてしまったのです。今 までに、あんなにまずいも
のを食べたことはありま せん。
(中略)
〈検察官〉 では、最後の質問です 。お祭りから帰ったあと、オ オカミがまた家にやってく
るだろうと予想していま したか?
〈子豚〉オオカミのこと ですから、来るかもしれないとは思っていまし た。
〈検察官〉これで質問を 終わります。
(中略)
【評決への筋道】(本時の学習の視点)
□真実は何だろうか?子豚はオオカミを煮て食べようと待ち受けており、オオカミが子豚のワナ
にはまったのだろうか?それとも、子豚はたまたまお湯をわかしていただけなのだろうか?
○誰がどんな証言をしていたのだろうか。
・オオカミのお母さん
・ジャック・スミスさん
・子豚
○その証言は信用できるだろうか。信用できないところがあるとすれば、それはなぜ?
【結論】殺人罪について
□有罪
□無罪
(8)本時のねらい
・模擬裁判 を通じて、法にもとづ いた裁判の手続きや論理的思 考方法をもとに、班ごと
に評決への 道筋を考察することに より、民主主義社会における 自立した市民になる基礎
的教養を培う。
(9)展開
①準備
模 擬 裁 判 プ リ ン ト 、 表 示 ( 裁 判 官 、 検 察 官 、 被 告 人 、 弁 護 人 、 証 人 )、 黒 板 、
磁石、セロテープ、パソ コン、プロジェクター、スクリーン、アンケー ト
-6 -
②本時の展開
( T1 )社 会 科 教 諭 、 ( T2 )弁 護 士 ( ゲ ス ト テ ィ ー チ ャ ー )
学習活動
時間
学習活動への支援
具体的な評 価規準
( T1 ) 学 習 内 容 を 確 認 し 弁 護 士 を
・ 学 習 内 容 を 確 認
紹介する。
し 、模擬裁 判授業に
( T2 ) 裁 判 手 続 き の 流 れ 、 関 係 す
つ いての心 構えがで
②関係する条文
る条文、配役 を確認し、模 擬裁判
き て い る 。( ア )
③配役の確認
の流れを説明する。
2、模擬裁判実演
(T1 )マ イ ク の 使 い 方 に 留 意 さ せ 、
・ 役 者 に な り き っ
は っきりゆっく りと話すよう指 導
て、 わかりや すくゆ
する。
っく りと演じ ている
( T2 ) 裁 判 官 と し て 、 裁 判 の 手 続
か。裁判 の流れを 把
きや流れ を把握しなが ら役割を演
握しなが ら聞いて い
ずる。
る か 。( ウ )
1 0
( T2 ) 各 グ ル ー プ で 有 罪 か 無 罪 か
・ 根拠をも とに話し
分
を話し合わせ る。途中休憩を 入れ
合 い が 行 わ れ て い
る。
る 。( イ )
【 前 半 】( 5 0 分 )
1、説明をきく
①裁判 手続きの 流れ
1 0
分
30
分
3、グループ討論
(班の人数4名)
( T1 )各 班 を ま わ り 、 助 言 す る 。
休憩10分
【 後 半 】( 5 0 分 )
1、グループ討論
10
( T2 ) グ ル ー プ で 話 し 合 っ た 結 果
・ 話し合い の結果を
を班長に発表してもらう。
は っきりと 伝えてい
( T1 )発 表 の し か た を 助 言 す る 。
る 。( イ )
( T2 ) 証 人 が ど ん な 証 言 を し 、 そ
・ 評決への 道筋にも
25
の証言は信用 できるか、正 当防衛
と づ い て 、班 で 考 え 、
分
は認められる かを考えさせ 、班ご
適 切 に 表 現 し て い
分
2、全体討論
①評決への道筋
②正当 防衛は成 立す
るのか
と に 発 表 さ せ 、意 見 を 対 立 さ せ る 。 る 。( イ )
3、まとめ
( T2 ) 模 擬 裁 判 を 通 じ て 、 憲 法 や
・ 憲法や法 律は私た
1 5
法律によって 個人の尊厳や 人権が
ち の生活と 密接な関
分
尊重されてい ること、法の 適用か
係 があり、 法律に基
ら日常生活に おける論理的 思考や
づ いて人権 が尊重さ
行動が行 われているこ と、自己決
れている こと、理 想
定・自己 責任をもつこ とが国民主
とする民 主主義社 会
権の基礎 にあり、民主 主義社会に
において 資質を向 上
おいて自 立した市民に なれること
させてい かねばな ら
を生徒に気づかせる。
ないこと に気づい て
( T1 ) 弁 護 士 に 関 す る 仕 事 を 含 め
いる。弁 護士に関 す
て、模擬 裁判について 質疑応答を
る 仕 事 が わ か る 。
し、まとめる。
(ア)
①裁判の手続き
②論理的思考方法
③質疑応答
( 10 ) 授 業 の 成 果
①評決の結果(12班中 、有罪9班、無罪3班)
評
決
有罪・ 無罪を判断するおもな理由
有
罪
オオカ ミを食べたことがダメ 。食べるのはやり過ぎ 。ローリーは自業自得。
(9班) 証言 に矛盾が多い。ナベ が大きすぎた。子豚は 逃げていない。夕食の準備が
自然でない。
無
罪
このま ま、放っていたら食べ られてしまう。自分だ ったら戦うと思う。オオ
(3班) カミを 殺す計画に無理がある。
-7 -
② 授 業 後 の ア ン ケ ー ト 結 果 ( 2 4 名 )、 ア ン ケ ー ト 作 成 ( 群 馬 弁 護 士 会 )
1、今日の授業について
○ 面 白 か っ た ( 1 9 名 ); 本 当 の 裁 判 の よ う す が よ く わ か っ た 。 討 論 が よ か っ た 。
○ よ く 分 か ら な か っ た ( 5 名 ); 有 罪 か 無 罪 か を 決 め る の は 難 し い 。
2、またこのような授業 を受けたいですか。
○ は い ( 2 3 名 ); 自 分 の 知 ら な い 世 界 を 知 っ た 。 法 律 を 学 び 、 役 に 立 つ と 思 っ た 。
○ い い え ( 1 名 ); 難 し く て 、 よ く わ か ら な か っ た 。
3、授業を した弁護士の印象は? ;お金持ち、頭が良さそう 。教え方が上手でおもし
ろかった。やさしくわか りやすい。親しみやすい人だと思った。
4、今後、 弁護士や裁判官から授 業を受けるとしたら、どの ような授業を受けたいで
すか?;今 日みたいにみんなで討 論する授業がよい。もう少し やさしい事件。内容
を短く、図があり、日本 人向けの内容がよい。
5、弁護士 に質問したいことがあ りますか?;弁護士になっ て苦労したことやよかっ
たことは何 か。裁判での勝率。弁 護士の年収。悔いが残った裁 判。弁護している人
が本当は犯罪を犯してい るのに、ウソをついていることがわかったらど うするか。
5
法教育の理論研究
(1)法教育とは
・個人が尊重される民主主義の実現
・「 理想的な市民」「良識ある国民 」「公民的資質の育成」
・生まれながらの理想的市民はいない
・理性的に問題を解決する判断力の育成
法 教 育 の 先 進 国 は ア メ リ カ 合 衆 国 で あ る 。個 人 が 尊 重 さ れ 、自 由 で 公 正 な 民 主 主 義 社 会 。
これはアメ リカでも日本でも理想 的な社会であることには変わ らない。アメリカ独立宣言
の「人々の あいだに政府が設けら れ、その正当な権力は人民の 同意による」という国民主
権 の 考 え 方 が 、こ の 民 主 主 義 を か た ち づ く っ て い る 。民 主 主 義 を 発 展 さ せ て い く た め に は 、
「 理 想 的 な 市 民 」「 良 識 あ る 国 民 」 を 育 て 、「 公 民 的 資 質 」 を 高 め て い か ね ば な ら な い 。
日本では、 公民の授業・道徳の時 間や家庭でのしつけの中で学 んでいるが、アメリカのよ
うに積極的 な指導はしていない。 アメリカでは「生まれながら の理想的市民はいない」と
いう考え方 をもとに、学校で法教 育について学ぶカリキュラム がある。最近の日本では、
青少年の犯 罪の増加、規範意識の 低下、治安の悪化などが大き な社会問題となっている。
そこで日本 弁護士会が中心となっ て、積極的に学校に出かけ、 出前授業というかたちで、
法教育を広 めていく動きが始まっ た。法教育を学ぶことにより 、学校生活の中でのトラブ
ルを、暴力 的や独りよがりではな く、公正に理性的に解決して いく。そうした判断力を身
につけることによって安 心して楽しい学校生活が送れるようになる。
(2)わたしたちと法
・権威(Authority )
・プライバシー(Privacy)
・責任(Responsibility)
・正義( Justice )
実 際 に ア メ リ カ の 小 学 校 で 学 習 し て い る テ キ ス ト に よ る と 、「 権 威 ・ プ ラ イ バ シ ー ・ 責
任 ・ そ し て 正 義 」の 4 つ を 民 主 主 義 の 基 本 概 念 ・ 原 理 と 考 え て い る 。ア メ リ カ で は 、現 在 、
広く普及している代表的 な法教育教材となっている。
( 3 ) 権 威 ( Authority )
・権威をもっているのは誰か
・みんなの同意によって権威ある人(リーダー)を選ぶ
・権威ある人に従う
・「権威のある権力 」
「権威のない権力」
私 た ち が 生 活 を し て う え で 、 守 ら ね ば な ら な い ル ー ル や 法 律 が あ り 、「 権 威 」 の ひ と つ
に数えられ る。権威ある人は、あ なたに「何かしなさい」とか 「してはいけない」と言う
権利をもっ ている。身近な生活の 中で、権威をもっている人は 誰か。学校では担任・校長
・生徒会長 ・部長・委員長・学級 委員・班長、家庭では保護者 、社会では警察官・政治家
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・弁護士・ 医者などがあげられる 。私たちは、より良い生活を めざすためにリーダーを選
ぶ。私たち はAにするかBにする か迷ったとき、リーダーに判 断をゆだねるときがある。
私たちは、 そうしたとき信頼でき るリーダーに従う。もしリー ダーに権威がなくなり信頼
できなくな ったとき、私たちは、 新しく自分たちの権利を守っ てくれるリーダーを選び直
す。現在の生徒の実態か ら考えると、権威については十分に学習する必 要がある。
( 4 ) プ ラ イ バ シ ー ( Privacy )
・人によってプライバシーは違う
・自由、創造性、安心、信頼
・プライバシーの限界
プライバシ ーを守ることによって 、自由は保障され、独自なア イデアが浮かんだり、安
心して生活 でき、周りの人も信頼 できる。しかし、プライバシ ーを守るからと言って、自
分のことを 何も話をしないと友達 はいなくなってしまう。また 、犯罪を犯した人が銃をバ
ックに隠し持っていたら と考えると、プライバシーの権利には限界があ る。
( 5 ) 責 任 ( Respons ibility )
・誰に対して責任を負っているか
・責任を果たすと(報酬)
・責任を果たさないと(罰則)
・競合した責任をどうするか
責任の問題 は私たちの生活の中で 毎日起こる。家族・学校・地 域社会で責任が関わる問
題に直面し ないで1日を過ごすこ とはない。責任とは、何かを したり、ある方法であるこ
とを行った りする義務のことであ る。あなたには、自分の部屋 をきれいにし、家の手伝い
をする責任 がある。この責任は家 族に対して負っている。あな たは、時間通りに教室で授
業を受ける という責任がある。こ の責任は教師や他の生徒に対 して負っている。責任を果
たすと、それが評価され 周囲から認められるが、逆になると自分の権威 は失墜する。
( 6 ) 正 義 ( Justice )
・公正(fairness )と同じ意味
・平等か、平等でないか(配分的正義)
きょ うせい
・不正や損害への対応(匡 正的正義)
・手続きが公正であるか(手続的正義)
公正という 言葉は、正義とほぼ同 じ意味である。もし誰かがあ なたのものを取り上げた
ら、ほとん どの人は、それをあな たに返せと言う。また、もの を盗んだとしたら、その人
を罰するの が公正であるとも考え る。正義には3つの種類があ る。例えば、6人の生徒は
学校新聞の 仕事がしたいと言って いる。2人の生徒は文を書く のがとても上手である。誰
が仕事をし たらよいか。配分的正 義を考えるとき、平等か・平 等でないかを一つの視点と
するが、個 人の能力や適性も考慮 しなければならない。不正は 、誰かがルールや法律を破
っ た り 、 正 し く な い 行 為 を し た と き に 起 こ る 。「 授 業 に 遅 れ て 学 校 の ル ー ル を 破 っ た 」「 お
金を盗んで 法律に違反した」など である。損害とは、誰かの生 命・所有物・自由・幸福が
傷つけられ たり、壊されたりした ときに起こる。例えば「ボー ルの貸し出しのルールを破
っ て 、 中 庭 で ボ ー ル を 蹴 り ガ ラ ス を 割 っ た 」「 携 帯 電 話 を 使 い な が ら 運 転 を し 、 交 通 事 故
を起こし相 手に怪我をさせた」な どである。このように不正や 損害に関わる公正さを匡生
的正義と言 う。一般的に損害につ いては理解できるが、不正に ついては認識が甘いところ
が あ る 。実 際 の 生 活 の 中 で 、不 正 を 正 し 、損 害 を 回 復 さ せ る こ と は 勇 気 の い る こ と で あ る 。
問題が生じ たとき、情報を集め、 的確に判断して、問題を解決 する手続きの方法を学ぶこ
と を 手 続 的 正 義 と 言 う 。今 回 の 授 業 の よ う に 裁 判 の 手 続 き に つ い て 学 ぶ こ と も こ れ に 入 る 。
このとき広 い視野に立って公正に 論理的に判断できる力を身に 付けることが必要となる。
(7)法教育の学習形態
・集団討議
・模擬裁判
・ディベート
・ロールプレイ
・学級における討論会など
法教育を学 ぶ上で、集団討議・模 擬裁判・ディベートなど、創 造的な活動を重視する学
習形態が重 要と考えられている。 生徒は、1つとは限らない正 解をめぐって、複雑な問題
を処理する ことによって、適切な 回答を創造したり、生み出し たりすることができるから
である。今 回はその中から模擬裁 判を選んだ。さらに役割演技 を通じて裁判の手続きの方
-9 -
法を学んだ り、集団における討議 によって論理的な思考方法を 学習した。法教育の授業を
通じて感覚 に左右されず、情報を 集め、信用できるかどうかを 検証して判断する力を身に
付けることができる。
(8)参考文献
・テキストブック「わたしたちと法」
現代人文社
・「法教育(21世紀を生きる子どもたちのために )」
江口勇次(監訳)
現代人文社
関東弁護士会連合会(編)
テキストブ ック「わたしたちと法 」は、アメリカの小学校で使 っている法教育の教科書
を日本語訳 したものであり、法教 育授業を行う上で、欠かすこ とのできないテキストブッ
ク で あ る 。「 法 教 育 ( 2 1 世 紀 を 生 き る 子 ど も た ち の た め に )」 は 、 学 校 教 育 の 場 で 法 教
育授業の普 及が必要であることを 、関東弁護士会連合会が平成 14年つくばで開催された
シンポジウ ムを記念して、指導に あたる教員・弁護士向けに出 版されたものである。この
2冊で、法教育の概要が 理解され、授業の組み立てが容易にできる。
Ⅲ
まとめと課題
平成 17 年1 月、 群馬弁 護士 会の 全面 的なご
協力 を賜 り、 県内 初の法 教育 授業 が実 施でき た
こと を誇 りに 思う 。お世 話に なっ た弁 護士会 、
教育 委員 会、 関係 の皆様 に厚 く御 礼申 し上げ た
い。 授業 終了 後、 新聞報 道の 影響 もあ って、 授
業展 開や 資料 入手 につい ての 問い 合わ せに追 わ
れた 。2 月に は太 田市内 の中 学校 で同 様の授 業
が開 催さ れ、 前橋 市内の 中学 校に おい ても模 擬
裁判 授業 が行 われ た。夏 休み 中、 群馬 県中学 校
社会 科研 究会 で模 擬裁判 につ いて 紹介 するこ と
にな った 。今 回の 授業を 契機 とし て法 教育授 業
がさかんになることを期 待している。
模擬 裁判 を通 じて 、憲法 や法 律に よっ て個人
の尊 厳や 人権 が尊 重され 裁判 の手 続き が行わ れ
てい るこ と、 感覚 ではな く法 の適 用か ら日常 生
活に おけ る論 理的 思考や 行動 が行 われ ている こ
とを 学ぶ こと がで きた。 そし て、 自己 決定・ 自
己責 任の 原則 が国 民主権 の基 礎に あり 、民主 主
義社 会に おい て自 立した 市民 にな るこ とを目 標
とし て、 法教 育に ついて の基 礎的 教養 を培っ て
いくことの大切さを学ん だ。
私は、法教 育という特色ある教育活 動を県内の全校で取り入れて ほしいと願う。模擬裁
判はもちろ んのこと、法教育の手 法を取り入れた道徳教育も可 能である。今年度、1学年
の授業で「 権威について学ぶ」を 題材として法教育授業を行っ た。権威とは、自分にこう
しなさいと 命令する人、規則ルー ルであり、教師・保護者だけ でなく自分たちが選んだリ
ーダーに従 わなければならないと いう理論である。権利や義務 は、道徳の内容項目で扱わ
れているが 、権威については家庭 でのしつけにまかされている のが現状である。教師や保
護者の指示 に従えない子どもたち 、リーダーが育たない学級集 団など、今日の学校の課題
は、権威を 教えない生活環境に原 因があると思えてならない。 アメリカできちんと教えて
いる法教育 。21世紀に生きる理 想的な市民を育成するため、 日本でも各学校において教
育課程に系統づけて指導 していく必要がある。
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