輸入食品等の現状 Ⅰ 輸入食品等の現状 1.はじめに 我が国は、戦後の物資欠乏の時代から世界有数の富める国へと、わずか50年で到達し、 食生活においては、数多くの食品が豊富に流通し、日本に居ながらにして世界各国で生 産される食品の入手が可能となっている。 食品は、日常生活を支える「衣食住」の三要素のひとつとして、人間の生活にとって 必要不可欠なものであり、安全な食品が安定的に供給されることが国民生活、社会・経 済の基盤となっている。 我々の豊かな食生活について食料需給の観点からみると、その多くを外国に依存して おり、輸入食品の関係者は国民生活、社会・経済の基盤の維持に大きな責任を担ってい ると言っても過言ではなく、他方、消費者は、輸入食品の安全性に関し漠然とした不安 を抱いている。 販売の用に供し、または営業上使用する食品、食品添加物、食品に接触する器具及び 容器包装、または乳幼児の口に接触するおもちゃについては、その安全と衛生を確保す るため、食品衛生法に基づき種々の規制を受け、これらを輸入しようとする場合は、そ の都度、厚生労働大臣(所轄の各検疫所食品監視担当窓口を通じて)に届出なければな らないこととなっている。 2.食料需給状況 日常摂取する食品のうち、どの位外国産のものを食しているか正確な数値はないが、 農林水産省が発表した平成23年度食料需給表のうち、食用農産物等の自給率をみると 表1のとおり、その多くを海外に依存している。 3.食品等輸入の現状 食品衛生法に基づき輸入届出された食品等の届出件数、重量の年次別推移は後述の Ⅸ章 図1のとおりで、輸入重量は平成3年までは毎年2,200~2,300万トンであったが、 以降若干上昇し、近年3,000万トン前後を推移している。平成23年度の輸入重量は約 3,341万トンであり、届出件数は約210万件とここ10年で約1.3倍になっている。 平成23年度の品目別輸入重量・件数及び地域別輸入重量・件数は表2及び表3のと おりである。 4.諸外国で発生している食品衛生上の問題 安全な食品を輸入するためには、諸外国で発生している食品衛生上の問題に注意を払 い、それらの情報をいち早くキャッチすることが重要である。 以下に、最近の主な事例を列記する。 1985年(昭和60年) ・輸入ワインのジエチレングリコール混入 一部のヨーロッパ諸国において、ワインに不凍液が混入する事件があり、監視強化を 行った。現在は当該品の国内流通のおそれはない。 1986年(昭和61年) ・旧ソ連原子力発電所による放射能汚染事故の発生 農畜産食品の汚染が問題となり、ヨーロッパ地域からの輸入食品について監視強化を 行っており、対象品については検査実績等から随時見直しを行っている。(最終:平 成21年) 1987年(昭和62年) ・未殺菌乳を原料としたチーズのリステリア菌汚染について輸出国側から情報が提供さ れ、輸入軟質系ナチュラルチーズの監視強化を行った。輸入時の検出事例もあり、現 在は検査命令の対象としている。 1989年(平成元年) ・チリ産ブドウのシアン化合物混入事件 米国に輸出されたチリ産ブドウに意図的に毒物が混入された事件があった。輸出国に おける監視強化等を鑑み、現在は特段の対応なし。 1996年(平成8年) ・英国牛にBSE発生 欧州委員会の対応(EU加盟国に対する輸出禁止)を受け、輸入が自粛された。 1997年(平成9年) ・グアテマラ産べリー類果実のサイクロスポラ汚染 米国において、喫食に起因して健康被害が発生しているとの報道に基づき、輸入禁止 措置がとられたことを受け、監視強化を行った。 ・その他、監視強化事例 米国等において特定ロットの食肉、食肉製品からの病原性大腸菌O157、サルモネ ラ菌の検出に伴う自主回収、韓国における米国産アイスクリームからのリステリア菌 の検出等、種々の海外情報に基づき、当該ロットの製品について監視強化を行った。 1998年(平成10年) ・タイ産ベビーコーンによる赤痢発生の情報 デンマークにおける、タイ産ベビーコーンの喫食による赤痢患者発生の情報を受け、 監視強化を行った。 ・インド産マスタードオイルによる健康被害の情報 インドにおいて、食用不適の油脂の喫食により、死亡例を含む重篤な健康被害が発生 したとの情報に基づき監視強化を行った。 ・その他、監視強化事例 EU加盟国における、イタリア産瓶詰食品のボツリヌス毒素検出に伴う警告、米国産 牛挽肉の病原性大腸菌O157、食肉製品のリステリア菌検出等、海外での健康被害 の発生情報及び製品の自主回収情報を基に、当該ロットの製品について監視強化を実 施した。 1999年(平成11年) ・ベルギー産食肉等のダイオキシン汚染問題 ダイオキシンに汚染された飼料によりベルギー産食肉等が汚染された事件が発生し、 汚染が疑われる食品の販売が自粛された。 2000年(平成12年) ・韓国産ひらめより基準値を超えるオキシテトラサイクリンの検出 韓国より輸入される養殖ひらめについてモニタリング検査を実施したところ、基準値 を超えるオキシテトラサイクリンが検出されたことから、輸入時の監視強化を行った。 ・GMO「スターリンク混入」事件 市販のトウモロコシ加工品から安全性未審査の遺伝子組換え(GMO)トウモロコシ 「スターリンク」の混入が判明。 米国産トウモロコシの輸入について、米国政府のプロトコールに基づく措置を日米間 で合意。 2001年(平成13年) ・牛海綿状脳症の報告の増加 2000年の後半以降の欧州牛海綿状脳症の報告の増加を踏まえ、当該疾病にかかり、 又はその疑いがある獣畜の肉、臓器等の販売・輸入を禁止した。 ・遺伝子組換え食品の安全性審査の法的義務化 2001年4月1日以降、安全性審査を受け承認を受けたもの以外について、販売・ 輸入が禁止された。 2002年(平成14年) ・中国産冷凍ほうれんそうなどの中国産輸入野菜から残留農薬違反が続発し、検査・監 視体制が強化。 ・中国産ダイエット食品などから医薬品成分の含有による健康被害が多発し、規制を強化。 2003年(平成15年) ・中国産養殖鰻加工品から抗菌性物質であるエンロフロキサシン検出による違反が続発 し、検査・監視体制を強化。 ・米国、カナダでのBSE発生により、米国産、カナダ産牛肉等の輸入禁止。 ・中国産・台湾産などの加工食品からサイクラミン酸検出が続発し、検査・監視体制を 強化。 2004年(平成16年) ・新たな農薬残留防止対策に基づき、中国政府が認めた27加工企業の冷凍ほうれんそ うについて、輸入自粛解除。 ・食品安全委員会プリオン専門調査会において、BSE国内対策の評価・検証結果とし て「中間とりまとめ」をとりまとめ。 ・食品安全委員会において「中間とりまとめ」を了承し、厚生労働省及び農林水産省へ 通知。 2005年(平成17年) ・食品中に残留する農薬等のポジティブリスト制度に係る一律基準、対象外物質、新た な残留基準に関する告示等の公布 ・米国及びカナダ産牛肉の輸入再開 2006年(平成18年) ・ポジティブリスト制度の施行を踏まえた輸入時の検査項目の拡充。 ・輸出国における衛生対策の適正化の推進のため、残留農薬等に係る法第11条違反の 事例が多い輸出国を中心に衛生対策を求めた。 ・BSE等に係る輸出国の衛生管理について、現地調査を実施した。 2007年(平成19年) ・米国から輸入される牛肉等について、全箱開梱による検査から、施設の区分毎に規定 された検査頻度及び開梱数による検査に移行。 2008年(平成20年) ・中国産冷凍ギョウザによる薬物中毒が発生し、検査・監視体制の強化。 ・輸入加工食品の自主管理に関する指針(ガイドライン)の制定。 ・中国における牛乳へのメラミン混入が発生し、検査・監視体制の強化。 2009年(平成21年) ・米国において米国産ピーナッツバター及びピーナッツペースト等を原因とするサルモ ネラ症が広域に発生したことにより、日本においても検査、監視体制を強化。 2010年(平成22年) ・アルゼンチン産ワインよりナタマイシンが検出され回収が行われているとの情報から、 検査・監視体制の強化。 ・ドイツにおいて、飼料原料にダイオキシンが混入し、汚染の疑いがある鶏卵の回収、 鶏及び豚の殺処分等の措置がとられているとの情報から、輸入者に対して本事案との 関連性について報告を求めた。 2011年(平成23年) ・ベトナム産米加工品より遺伝子組み換え食品の検出による監視強化。 ・東日本大震災による福島第一原子力発電所事故に対応し、当分の間、原子力安全委員 会により示された指標値を暫定基準値とし、これを上回る食品が供されることがない よう対応することとされた。 (国内事例であるが輸入食品監視にも影響が及ぶこととな った事例として) ・韓国産養殖ひらめを原因食品とした「クドア」による食中毒事例が発生したことから 検査・監視体制の強化がなされた。 ・アフラトキシンを含有する食品について、食品安全委員会の食品健康影響評価、国際 動向、国内流通食品の含有実態を踏まえ、検査指標をアフラトキシンB1のみから、 総アフラトキシン(アフラトキシンB1、B2、G1及びG2の総和)に検査、監視 体制の強化がなされた。 2012年(平成24年) ・前年の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故に対応し、食品から許容するこ とができる放射性セシウムの線量を年間5ミリシーベルトから年間1ミリシーベルト に引き下げ、食品中の放射性物質の規格基準を新たに設定し、従来の暫定基準値より もより厳しい基準値(一般食品で100Bq/Kg)とした。これにより旧ソ連原子力発電所 事故に係る輸入食品の監視指導の通知についても、新基準に基づき改訂となった。 表2 食品分類別の届出・検査・違反状況(平成23年度) 輸入・届出数量 検査数量 違反数量 品目分類名 件 数(件) 重 量(㌧) 件 数(件) 重 量(㌧) 件 数(件) 重 量(㌧) 畜産食品 163,949 2,119,151 7,431 41,428 6 26 畜産加工食品 162,127 1,056,726 34,973 298,927 81 132 水産食品 123,900 1,100,159 11,901 99,606 34 238 水産加工食品 196,692 1,283,747 39,335 253,957 263 1,478 農産食品 189,937 19,358,099 37,308 4,893,657 390 54,440 農産加工食品 335,931 3,424,265 45,465 477,837 217 988 その他の食料品 195,027 1,534,550 23,279 114,199 130 120 飲料 215,264 1,968,513 7,732 61,415 23 17 48,320 665,509 1,853 27,738 20 103 359,215 730,531 15,688 2,442 72 17 容器包装 18,009 94,244 765 1,107 3 3 おもちゃ 87,756 71,746 6,046 893 18 2 2,096,127 33,407,240 231,776 6,273,207 1,257 57,565 食品添加物 器具 合計 表3 生産・製造国別の届出・検査・違反状況(平成23年度) 輸入・届出数量 検査数量 違反数量 国 名 件 数(件) 重 量(㌧) 件 数(件) 重 量(㌧) 件 数(件) 重 量(㌧) 1,146,778 9,430,216 162,290 1,568,455 734 6,466 欧州(ロシア領アジアを含む) 496,999 1,961,259 31,851 67,005 152 99 北米州(ハワイを含む) 285,206 16,930,852 27,615 4,292,660 234 45,799 南米州 66,577 1,917,562 4,821 97,040 76 1,393 アフリカ州 11,239 324,798 1,967 124,272 39 2,826 太平洋州(ハワイを含まない) 89,327 2,842,553 3,231 123,776 22 982 1 2,096,127 0 33,407,240 1 231,776 0 6,273,207 0 1,257 0 57,565 アジア州(ロシア領を含まない) 特殊地域 合 計
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