「スポーツツーリズムの経済分析」-ニュージーランドにおけるメガスポーツ

日本国際観光学会論文集(第18号)March, 2011
スポーツツーリズムの経済分析
―ニュージーランドにおけるメガスポーツイベントによる
ツーリストへのインパクトの研究―
西尾 建
ワイカト大学マネジメントスクール博士課程
The aim of this study is to examine the impacts of sports events on New Zealand inbound tourism. Mega-sports events are an
instrument of destination marketing for host countries. New Zealand has held some mega-sports events. Some past studies have
examined the economic value of sports events in NZ. However, little research has been undertaken to analyse the relationship
between inbound tourism and mega-sports events. In this study, I examined the impact of mega-sports events on inbound tourism in
NZ, in particular, the impact on inbound tourism of eight mega-sports events. For each of the eight mega-sports events, I tested
whether these events had a significant influence on tourist arrivals in NZ from: 1. all countries 2. participating countries 3. nonparticipating countries. The results suggested that some events had a significant positive impact on inbound tourism.
1.はじめに 計量経済モデルを使ってニュージーランド
2−1 ニュージーランドのインバウンド
ここ20年でメガ・スポーツイベントは、
におけるスポーツイベントによるスポーツ
ツーリスト
その規模が急拡大している。長い歴史を持
ツーリストへのインパクトについて考える。
ニュージーランドは、人口420万人あま
つオリンピックやFIFAワールドカップを
りの国であるが、年間240万人の人々が訪
はじめ、さまざな競技でも国際大会が多く
2.研究の目的と背景
れる観光大国である。政府も農業とならび
実施されるようになってきた。国や自治体
本研究の目的は、ニュージーランドで開
観光を主要産業と位置づけ力を入れている。
も、国際的なメガスポーツイベントを招致
催された国際的スポーツイベントが、イン
図−1は、ニュージーランドへの入国者
すれば観戦に訪れる観光客だけでなくチー
バウンドツーリスト数へどのようなインパ
数の推移を示したものであり、図−2は、
ムに同行するスタッフや運営担当者、イベ
クトがあるかを分析することである。研究
地域別入国者数の推移を示したものである
ントに関連する商用での来訪による宿泊、
の背景として、まずニュージーランドのイ
(statistics NZ 2010)
。1980年 前 半 ま で
飲食や移動のための交通手段の使用などに
ンバウンドツーリストの変遷、続いてニュ
は、オーストラリア、アメリカやヨーロッ
よる開催地、開催国への直接的経済効果や
ージーランドで過去に開催されたメガスポ
パからの入国者が大半をしめていたが、グ
メディアによる開催地の広告効果の増加な
ーツイベント、最後に先行研究と分析の意
ローバリゼーションの進展と東南アジア諸
ど間接的経済効果も期待でき国や自治体も
義について述べる。
国の経済発展で1980年後半アジアからの
イベント招致に積極的である。ここでは、
図−1 ニュージーランド年間入国者数の推移
(1979-2009年)
入国者を中心に急激に上昇した。特に1980
図−2 ニュージーランドへの訪問者の地域別入国者数の推移
(1979-2009年)
出所:Statistics New Zealand(2010)
出所:Statistics New Zealand(2010)
−69−
日本国際観光学会論文集(第18号)March, 2011
年代後半から1990年前半にかけては、シン
界最高峰といわれているスーパーラグビー
ガポールや韓国、
タイなどが軒並み8%(年
は、5都市
(オークランド、ハミルトン、ウ
1971年にはじまったこの大会は、1992
率)をこえる経済成長を見せ、入国者数に
エリントン、クライストチャーチ、ダニー
年2月から3月にオーストラリアと共催で
も大きく寄与した。総入国者数は1993年に
デン)にフランチャイズを持ち多くの観光
開催された。9カ国が参加したこの大会の
100万 人、1996年 に は150万 人 を 超 え た。
客が観戦に訪れる。
全39試合のうち14試合がニュージーラン
1997年に端を発したアジア通貨危機に影
メガスポーツイベントに関しては、ニュ
ド7都市で行われた。2015年にオーストラ
響を受けアジアからの入国者は落ち込んだ
ージーランドは島国であり地政学的に距離
リアと共催で開催される予定でニュージー
(Prideaux 1999)ものの、2000年に入って
があるということで欧米に比べ開催頻度は
ランドでも8都市での試合が予定されてい
からもオーストラリアからの入国者を中心
少ないが、いくつかの国際大会が招致され
る。
に順調に伸び続けた。2006年以降は世界金
開催されている。
『クリケット・ワールドカップ』
『アメリカズカップ』
融危機などの影響もあり横ばいであるが、 『ブリテッシュライオンズツアー』
1851年に始まった歴史あるヨットの国
2009年は240万人の人がニュージーランド
イギリスとアイルランドで編成される選
際大会。1995年アメリカ艇に勝利したニュ
を訪れた。国別で見ると上位は、オースト
抜チームでブリテッシュアイリッシュと呼
ージーランドが開催権を地元に持ち帰り
ラリアから108万人、イギリスから25万人、
ばれており、4年おきにニュージーランド、
2000年はイタリアと2003年はスイスとい
アメリカから19万人となっており日本か
オーストラリア、南アフリカに遠征し代表
ずれもオークランド沖で開催された。この
らも7万8千人の人が訪れている
(Tourism
チームと試合を行う。ニュージーランドに
大会は、8000人以上の雇用とオークランド
NZ 2010)
。
最初に遠征したのが1888年で100年以上の
地区に6400万NZドルの追加的経済価値を、
伝統を持つイベントである。2005年の遠征
またニュージーランド全体では1億6400万
2−2 ニュージーランドの観光とメガス
時は、ニュージーランド9都市で1 ヶ月の
NZ ドルの追加的経済価値を産み出した
ポーツイベント
間にオールブラックス戦3試合をふくむ11
(Barker, Page & Meyer 2002)
。
ニュージーランドは、豊富な自然の観光
試合が行われた。
『その他』
資源を有している。南島は、氷河を抱くマ
『ラグビー・ワールドカップ』
U17サッカー世界ボート選手権が、1978
ウントクックをはじめ3000メートル級の
1987年記念すべき第1回大会がオースト
年と2010年にワイカトのカラピロで開催
山々やミルフォードサウンドなどのフィヨ
ラリアと共催で行われ、16各国が参加し計
され、1999年にFIFAU17ワールドカップ
ルドランド国立公園、北島はマオリの聖地
60万人の観客を集めた
(IRB 2008)
。大会
が4都市で2008年にはFIFAU17女子ワール
であるルアペフ山がるトンガリロ国立公園
は、全24試合のうち決勝をふくむ14試合が
ドカップが4都市で開催された。
やワイトモ渓谷など大自然に抱かれた素晴
ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド9都 市 で 開 催 さ れ た。
らしい観光資源がある。年間を通じて温暖
1990年代半ばのラグビーユニオンのプロ
2−3 スポーツイベントの経済効果と本
な気候と豊かな自然環境の中でスポーツ活
化から大会規模が拡大し今やオリンピック、
研究
動も盛んで、観光とスポーツとの関係は強
サッカーワールドカップと並ぶ世界3大ス
メガスポーツイベントは、開催国に様々
い
(Hall & Higham 2003)
。夏場はミル
ポーツイベントのひとつにまで成長した。
な経済効果を産み出す。レギュラーシーズ
フォードサウンドやマウントクックのトレ
2011年は、ニュージーランド10都市で再び
ンの試合とは違い、ワンオフ
(一回限り)
の
ッキング、冬場はマウントハットやクイー
開催されニュージーランド史上最大のスポ
スポーツイベントでは、経済効果も大きい。
ンズタウンのスキーなど恵まれた自然をふ
んだんに使ったスポーツアクティビティも
ーツイベントになる。
『コモンウエルスゲームズ』
Gratton, Dobson & Shibli(2000)は、英
国で開催された6つのスポーツイベントの
多く観光に取り入れられている。
日本でなじみの薄いコモンウエルスゲー
経済効果を分析し、スポーツイベントを4
スポーツ観戦も盛んである。特にラグビ
ムは、英国連邦諸国が4年に一度集まって
つに類型化した。ワンオフ
(一回限り)
で実
ーは、世界ランキング
(2010年12月時点)1
開催されるスポーツ大会である。ニュージ
施されるメガスポーツイベントは、レギュ
位
(IRB 2010)のオールブラックスを有し
ーランドでは、過去1951年と1990年にオ
ラーシーズンの試合とは違い、経済効果も
ており、南アフリカ、オーストラリアの3
ークランドで1971年クライストチャーチ
大きい。特にメガスポーツイベントでは、
カ国での対抗戦であるトライネーションズ
で開催された。1990年オークランド大会に
通常のスポーツイベントやシーズンでの試
や北半球の6カ国
(イングランド、アイルラ
は、英国連邦加盟の55カ国から2000人以上
合に比べて期間が長くなる。オリンピック
ンド、ウエールズ、スコットランド、フラ
の選手が参加し10の競技205種目で熱戦が
は、2週間、FIFAワールドカップは1 ヶ月、
ンス、イタリア)
のNZ遠征などラグビーに
繰りひろげられ、ニュージーランド経済に
ラグビーワールドカップは2 ヶ月にわたっ
2億3100万NZド ル の 効 果 を も た ら し た
てイベントが続く。これらのイベントは、
関するイベントは数多く開催されている。
またレギュラーシーズンスポーツでは、世
(Barker, Page & Meyer 2002)
。
−70−
ツーリストおよびスポーツファンにとって
日本国際観光学会論文集(第18号)March, 2011
も魅力的で、開催国および開催都市のアコ
入国者数かを考慮に入れていない。
るためデータ公表後から現在までで実施さ
モデーション、食事、現地での交通の利用、
国別の分析は、入国者促進のための国の
れた8つのメガスポーツイベントを分析の
また滞在中観光地への訪問など招致都市で
観光政策、つまりデスティネーション・マ
対象とする。
の観光客の支出が需要を生み出す。またワ
ーケティングと言う観点から見た場合重要
ンオフで実施されるメガスポーツイベント
になってくるが、スポーツイベントと開催
3−1 分析対象のイベントと使用データ
では、レギュラーシーズンのスポーツの試
国の入国者数を取り扱った研究はない。ま
表1は、1983年から2005年に実施され
合やローカルのスポーツイベントに比べ大
たメガイベントの経済効果に関しては、乗
たメガスポーツイベントである。イベント
規模であるため、インフラ整備のための投
数効果やInput-Output分析などを使った
の選別に関しては、規模が国際的であり、
資など、より多くのビジネスの機会を産み
分析や株式市場を使った分析などが見られ
Gratton, Dobson & Shibli(2000)の分類
出しや雇用を創出する。またメガスポーツ
るが、観光統計を使った分析はあまり見ら
による『イレギュラー
(ワンオフ)
で実施さ
イベントでは、短期的な経済効果に注目さ
れない。本研究では、ニュージーランドで
れ経済的規模の大きくメディアの関心の高
れがちであるが、長期という視点に立てば
過去30年に実施された国際的スポーツイ
いスポーツイベント』を選んだ。NZ統計
イベントのレガシー
(遺産)
効果も重要であ
ベントが観光客数へどのようなインパクト
局の観光データが月次ベース
(1日から31
る
(原田2002)
。
を与えたかを計量経済モデルを使って分析
日)であるので、観光客が集中するイベン
メガスポーツイベントの経済効果に関し
する。
トの中心月を観察月として設定した
(表−
て は、 乗 数 効 果 やInput-Output分 析
( P r e u s s ( 2 0 0 4 )、 B l a k e ( 2 0 0 5 )、
1)
。
3.データと分析手法
Dwyer (2006), Downward, P., A.
本研究では、ニュージーランドで開催さ
3−2 ツーリストデータの季節調整
Dawson, & T. Dejonghe(2009)
など)
や
れたメガスポーツイベントの入国者数に対
観光データは、季節性をもっている。図
株 式 市 場 を 使 っ た 分 析
(Berman,
するインパクトを、AR(1)モデルを使っ
−3は2009年1月から12月までのニュージ
Brooksand & Davidson (2000), て実証的に分析する。Statistics NZ(ニ
ーランドへの月次入国者数を示している。
Nishio, Lim, & Downward(2009)
など)
が
ュージーランド統計局)は、月次国別入国
日本とは季節が逆の南半球にあるニュージ
見られるが、ツーリストデータを使ったス
者データが1978年4月以降から公表してい
ーランドでは12月から2月が観光における
ポーツイベントのインパクトの研究につい
ては多くない。
Baumann、
Matherson & Muroi(2009)
図−3 2009年ニュージーランド月別入国者数
が、ARIMAモデルを用い、ハワイの入国
者データを使ってスポーツイベントのイン
パクトを分析し、ホノルルマラソン、アイ
アンマントライアスロン、プロボウル
(ア
メリカンフットボールのオールスターゲー
ム)の3つのイベントがハワイへの来訪者
に有意なインパクトを与えたことを証明し
た。しかしこれらは、ハワイへの総入国者
数のみを取り扱ったもので、どの国からの
出所:Statistics New Zealand(2010)
表−1 分析対象のニュージーランドのメガスポーツイベント
イベント
年
開催月日
観察月
イベント参加国
(NZ以外)
ブリテッシュライオンズツアー
1983
5月15日-7月16日
6月
英国、アイルランド
ラグビー・ワールドカップ
1987
5月22日-6月20日
6月
イギリス、フランス、イタリア他
コモンウエルスゲームズ
1990
1月24日-2月3日
1月
コモンウェルス国
クリケット・ワールドカップ
1992
2月22日-3月25日
2月
インド, パキスタン, 南アフリカ 他
ブリテッシュライオンズツアー
1993
5月22日-7月3日
6月
英国、アイルランド
アメリカズ・カップ
2000
2月20日-3月2日
2月
イタリア
アメリカズ・カップ
2003
2月15日-3月2日
2月
スイス
ブリテッシュライオンズツアー
2005
6月4日-7月9日
6月
英国、アイルランド
−71−
日本国際観光学会論文集(第18号)March, 2011
ハイシーズンであり、この時期に毎年入国
図−4 ニュージーランド月別入国者数の推移(1990-2010年)
者数が増加する。夏場のハイシーズンは、
いずれも10万人を越えているが、5月から6
月にかけてのローシーズンには半分以下の
5万人ほどになる。図−4は、1990年から
2010年までの月次入国者数の推移グラフ
である。すべての月を連続で並べてみると、
季節要因でハイシーズンとローシーズンで
大きく振幅のある時系列データになる。
図−4のような振幅のあるデータを使用
して、イベント月のインパクトを正確に測
出所:Statistics New Zealand(2010)
ることは難しい。そこで本研究では、観光
データの季節要因を除外するため、同じ月
ュージーランドで開催された8つのスポー
の時系列データを使用する。例えば1983年
ツイベント
(表−1)
が
のブリテッシュライオンズツアーの場合、
1. 入国者全体の数
データを観察する月が1983年6月のため、
2. メガスポーツイベントの参加国からの
1978年6月から2009年6月までの6月の入国
スポーツイベントの参加国からの入国者数
(2)
Ho :γN = 0 H1 : γN < 0 N =メガス
ポーツイベント参加国以外からの入国者数
(3)
入国者数
者データ
(32年分)を使用しこの時系列の
3. メガスポーツイベントの参加国以外の
中でイベント年である1983年6月のインパ
国からの入国者数にどのようなインパ
メガスポーツイベントは、多くの観光客
クトを分析する。
クトを与えたかを調べる。
が観戦に訪れると考えられるので、全体の
入国者数を押し上げると仮定する
(仮説1)
。
3−3 使用モデル
例えば1990年1月開催コモンウエルス・
またメガスポーツイベントでは、参加国の
推定式は標準的なAR(1)モデルを用い
ゲームズを例にとると、使用する時系列デ
多くのスタッフやサポーターが訪れるため
る。
ー タ は1979年1月 か ら2010年1月 ま で の32
にイベント参加国からの入国者数を押し上
ヶ月分の1月のデータで、具体的には、
げると仮定する
(仮説2)
。一方スポーツイ
1. 入国者全体の数は、1990年1月におけ
ベント非参加国からの入国者数は、減少が
るNZへのすべての国からの入国者数 予想されると考える。これは、スポーツイ
非説明変数Atは月間の入国者数で、At-1
2. イベント参加国からの入国者数は、1990
ベント期間中は、潜在的な観光客が、スポ
は、その1 ヶ月前の入国者数、Dtはメガ
年コモンウエルズゲームズは、54カ国
ーツイベント開催の情報を得ることによっ
スポーツイベント開催月ダミーで、α, (ニュージーランドを除く)が参加して
て、イベント開催期間中は、航空券や宿泊
β, γは、パラメーターベクトルで、etは、
いるため、1月における54カ国の合計
費が高くなり、観光スポットも込み合うと
誤差項である。
(1)
式は、
の入国者数。
考え、
(スポーツイベントに関心の低い)
旅
At = α + βAt-1 + γDt + et
(1)
3. イベント参加国以外の入国者数は、1月
行を避けようとするクラウディング・アウ
At ‒ At -1 = α + βAt- 1 ‒ At + γDt +
におけるコモンウエルズゲームズに参
ト効果が発生する。つまりメガスポーツイ
et (2)
加していない国からの入国者の合計の
ベント参加国以外からの入国者数は、負の
数
(
『全入国者数』から『コモンウエル
インパクトを与えると仮定する
(仮説3)
。
もしくは
スゲームズに参加した54カ国の入国者
ΔAt = α +( β - 1 )At -1 + γDt + et
数』を引いた数)
。
4.結果と考察
(3)
となる。
と書き直すことができる。
(3)
式での従属
帰無仮説と対立仮説は、以下のようにあら
来訪者全体、スポーツイベント出場国から
変数 ΔAtは、前月との入国者数の変化
わすことができる
の入国者数の合計、イベントに参加しない
表−2は、Eviewソフトウエア
(Version
6)により算出した各イベントにおける、
をあらわす。ダミー変数1は、スポーツイ
国からの入国者数のパラメーターの値であ
Ho :γT = 0 H1 :γT > 0 T =入国
る。スポーツイベントのインパクトの推定
す。
者数全体
(1)
に は、 最 小 二 乗 法
(Ordinary Least 本研究では、1983年から2005年までにニ
Ho :γP = 0 H1 :γP > 0 P = メガ
Square)
を用いた。
ベント観察月、0はそれ以外の月をあらわ
−72−
日本国際観光学会論文集(第18号)March, 2011
表−2 ニュージーランドのメガスポーツイベントのインバウンドツーリスト数へのインパクト
スポーツイベント
(観察年・月)
ブリテッシュライオンズツアー
(1983年6月)
ラグビー・ワールドカップ
(1987年6月)
コモンウエルスゲームズ
(1990 年1月)
クリケット・ワールドカップ
(1992 年2月)
ブリテッシュライオンズツアー
(1993年6月)
アメリカズ・カップ
(2000年2月)
アメリカズ・カップ
(2003年2月)
ブリテッシュ・ライオンズツアー
(2005年6月)
α
β
γ
0.0615(2.79)*
0.0902(0.46)
-0.0445(-0.48)
イベント出場国
0.1069(1.95)
-0.3793(-2.10)*
-0.0241(-0.08)
イベント非出場国
0.0586(2.69)
0.1491(0.77)
-0.0635(-0.71)
来訪者合計
来訪者合計
0.0525(2.42)*
0.1355(0.70)
0.1240(1.38)
イベント出場国
0.0567(2.56)*
-0.3008(-1.65)
-0.0581(-0.51)
イベント非出場国
0.0883(1.80)
-0.1065(-0.55)
0.2966(1.17)
来訪者合計
0.0449(2.76)*
0.0949(0.53)
0.1672(2.29)*
イベント出場国
0.0511(3.52)*
-0.1337(-0.87)
0.2201(3.12)*
イベント非出場国
0.033(1.45)
0.3990(2.34)*
0.0769(0.74)
来訪者合計
0.0575(3.07)
-0.0807(-0.42)
0.0543(0.65)
イベント出場国
0.0868(4.59)*
-0.4844(-2.98)*
-0.0553(-0.59)
イベント非出場国
0.4452(2.07)*
0.0115(0.07)
0.1664(1.57)
来訪者合計
0.0591(2.63)*
0.0973(0.48)
0.0103(0.11)
イベント出場国
0.1002(1.83)
-0.3704(-2.05)
0.1575(0.54)
イベント非出場国
0.0565(2.55)*
0.1544(0.78)
-0.0123(-0.13)
来訪者合計
0.0574(3.31)*
-0.0877(-0.49)
0.0791(1.05)
イベント出場国
0.0767(1.11)
-0.4119(-2.46)
0.7781(2.07)*
イベント非出場国
0.0563(3.20)*
-0.0596(-0.34)
0.0997(1.31)
来訪者合計
0.0602(3.40)*
-0.0852(-0.47)
-0.0088(-0.11)
イベント出場国
0.0693(2.05)*
-0.1803(-1.04)
0.2091(1.22)
イベント非出場国
0.0605(3.33)*
-0.0692(-0.38)
-0.0091(-0.11)
来訪者合計
0.060(2.80)
0.0507(0.25)
0.0814(0.87)
イベント出場国
0.0801(1.69)
-0.3706(0.15)
0.7605(3.05)*
イベント非出場国
0.0554(2.57)
0.1769(0.87)
-0.0307(-0.32)
Note:
( )
はt 値 *は有意なもの
*はt 値1.96(5%以上)
で統計的に有意な
来訪者の需要を喚起することができる。ま
コモンウエルスゲームズ、2000年アメリカ
ものを示している。メガスポーツイベント
たクラウディング・アウト効果を引き起こ
ズカップと2005年のライオンズツアーが
のインパクトはパラメーターγで表されて
し潜在的旅行需要に明らかな負の影響を与
有意な結果を示した。一方イベント非出場
いる。統計的に有意な結果を示したのは、
えることがないということが検証できた。
国で有意な結果を示したイベントはなくク
来訪者合計では、1990年コモンウエルスゲ
近年多くの国や自治体は、スポーツイベ
ラウディング・アウト効果は見られなかっ
ームズ
(γ=0.1672)
、イベント参加国では、
ント特にメガスポーツイベントは、より多
た。この結果からニュージーランドでのメ
1990年 コ モ ン ウ エ ル ス ゲ ー ム ズ
(γ=
くの経済効果やレガシー効果を期待できる
ガスポーツ・イベントの開催は、デスティ
0.2201)
、2000年アメリカズ・カップ
(γ=
ため招致に積極的である。観光が、産業の
ネーション・マーケティングの手段のひと
0.7781)
、ブリテッシュ・ライオンズツア
大きな柱であるニュージーランドにとって
つとしては有効であるということがわかっ
ーの
(γ=0.7605)でありこれらのイベント
もメガスポーツイベントは、観光客招致の
た。2011年はニュージーランドでラグビー
開催月は入国者トレンドに対して顕著な増
有効な手段であるということがいえる。
ワールドカップが開催され、おそらく史上
加が見られた。イベント非出場国に関して
最大のスポーツイベントになる。大会後過
メガスポーツイベントが、入国者数に有意
5.結論
去のメガスポーツイベントと比べてどのよ
な結果は示さなかった。この分析結果から
本研究では、ニュージーランドの入国者
うに有意性に違いが出るのか分析してみた
は、ニュージーランドのメガスポーツイベ
の月次の入国者データを使って、メガスポ
い。
ントが入国者の増加に寄与し、逆に負の効
ーツイベントのインパクトについて見てき
果はなかったことを示した。メガスポーツ
た。有意な結果を示したのは、入国者全体
イベントは、来訪者全体にインパクトを与
では、1990年コモンウエルスゲームズだけ
えるケースは少ないが、イベント出場国の
であったが、スポーツイベント出場国では、
−73−
引用文献
原田宗彦
(2002)
『スポーツイベントの経済
日本国際観光学会論文集(第18号)March, 2011
学』65頁. 平凡社. 東京.
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