FAO適正酪農規範ガイド

JIDF酪農専門部会委員が仮訳
FAO適正酪農規範ガイド
はじめに
適正農業規範(Good Agricultural Practice:GAP)の基本
酪農家に向けた適正農業規範は、酪農家にとって実効性が高く根拠のある規範であり、
これらを総称して適正酪農規範と呼ぶ。
これらの規範は、生産される乳・乳製品が安全であり、想定された用途に適合すること
を保証しなければならない。さらにまた、酪農企業が、経済的、社会的および環境保全の
視点で、将来発展する可能性をも担保しなければならない。
最も重要なことは、酪農家は人類へ供給する食料を生産する産業に従事しており、乳の
安全性と品質に対して、生産者自身が自信を持たなければならないということである。適
正酪農規範は、食品産業や消費者が期待していることを満足させるような乳生産を下支え
するものである。
乳・乳製品の安全性と規格への適合性を保証する国際的な枠組みは、コーデックス国際
規範-食品衛生の一般的原則に関する規則(CAC/RCP 1- 1969, Rev. 4, 2003) 1) 、および、
乳・乳製品の生産に関する衛生規範(CAC/RCP 57-2004) 2) に示されている。本ガイドでは、
これらの規範に示されている原則のうち、農場での乳生産に関係している事項をピックア
ップしている。酪農家は、乳製品の巨大な生産・加工チェーンおよびそのすべての関係者、
即ち、酪農家、酪農家への資材供給者、乳の運搬業、乳業および食品加工業、卸売業、小
売業および消費者にとって、なくてはならない存在であり、総合的な食品安全・品質を保
証する管理システムの一翼を担うべきと考えられる。酪農家は、農場レベルでの適正酪農
規範の実施を保証することで、食料生産を担う役割を果たすことができる。
適正酪農規範は、家畜福祉、社会、経済および環境保全の視点においても継続的に責任
を果たす方法によって、乳が健康な家畜から生産されることを保証するものとなっている。
それゆえ、適正酪農規範を実行することは酪農企業にとって、短期的・長期的な将来にわ
たるリスク管理に好適である。本ガイドは、酪農家に対して、問題が発生するまで待つこ
とよりは、先を見越して予防的に規範を導入することを推奨している。
要約すると、本ガイドは酪農家に向けた適正農業規範(Good Agricultural Practice:
GAP)を詳しく述べており、地域や国、あるいは国際的な規模で酪農業の未来を下支えする
持続的な方法で、安全・高品質な生産を支援するものである。
本ガイドについて
多くの酪農企業や生産組織および国は、乳製品の安全性と品質を確保する目的で、農場
において安全・品質を保証するためのプログラムをすでに導入している。
本書の目的は、世界中の多様な酪農システムにおいても実現可能な実務について解説す
る、農家向けのガイドを提供することにある。本ガイドにおけるアプローチは以下のとお
りである。
・酪農場において積極的な管理が求められている関連事項を強調すること
・各分野において具体的な成果を求められている事項を抽出すること
・重要な危機に対処する良い実践方法を示すこと
・目的を達成するために実践すべき管理基準の事例を提示すること
本ガイドは、各々の酪農家で固有な農場システムに関連する対応方法に対して活用され
る、あるいは実行されるような教材となることを意図している。従って、特定の模範的な
行動やプロセスよりは、むしろ、望ましい結果を得ることに焦点を絞っている。なお、本
ガイドは、法律としての位置づけではなく、また、国あるいは国際的な規定に取って代わ
るものではない。
目標および適用範囲
本ガイドで適正酪農規範を説明する目標は、安全で高品質な乳は、経済的、社会的およ
び環境保全の視点で継続できる管理方法によって健康的な家畜から生産されなければなら
ないということである。
この目標を達成するために、酪農家は以下の分野で適正に実践しなければならない。
・家畜の健康
・搾乳衛生
・栄養管理(飼料および飲水)
・家畜福祉
・環境保全
・社会経済的管理.
これらのカテゴリーの各々について、このガイドでは適正酪農規範を列挙して、要求さ
れている成果を達成するために実践できる基準を提案している。
その他の関連事項に関する参考文献
本ガイドを作成するにあたり、コーデックス規格 (CODEX), 国際連合食糧農業機関
(FAO), 国際酪農連盟(IDF), 国際獣疫事務局(OIE), 持続可能な農業イニシアチブ(SAI) 、
および、世界各国の農場における品質保証プログラム等の国際的な刊行物を含む多くの資
料を参考としている。
特に、企業や国で独自の適正酪農規範ガイドライン(あるいは、農場における品質保証
プログラムのガイドライン)を作成する際には、以下の資料を参照すべきである。
・Codex Alimentarius: Food Hygiene - The Basic Texts (4th ed) 3).
・Codex Alimentarius: Recommended International Code of Practice – General
Principles of Food Hygiene CAC/RCP 1 – 1969 3).
・Codex Alimentarius: Code of Hygienic Practice for Milk and Milk Products CAC/RCP
57 – 2004 3).
・Codex Alimentarius: Code of Practice on Good Animal Feeding CAC/RCP 54-2004
3)
.
・FAO: Food Quality and Safety Systems – A training manual on food hygiene and
the Hazard Analysis and Critical Control Point (HACCP) system (1998) 4).
・OIE: Terrestrial Animal Health Code 5).
・SAI Platform: Principles and Practices for Sustainable Dairy farming (2009)
6)
.
ガイドラインでの表現方法
本ガイドラインでは次の2つの方法で表現している。
1.適正酪農規範および基準案は、家畜の健康、搾乳衛生、家畜飼養、家畜福祉、環境
保全および社会経済的管理の各重要分野について、図表形式で提案される。
2.個別の概要書が、それぞれの各分野に対して適正酪農規範を保証するための詳細な
方法を示しながら提供される。
適正酪農規範に向けた本ガイドの目的
主目的
適正規範
安全・高品質な乳は、家畜福祉、経済的、社会的および環境保全の視点で継
続できる管理方法によって健康的な家畜から生産される
家畜の健
康
搾乳衛生
栄養(飼料
と飲水)
家畜福祉
環境保全
特徴の明確化
―――――――――――――――――――――――――――――――――
1)
2)
3)
4)
5)
6)
www.codexalimentarius.net から入手可能。
www.codexalimentarius.net から入手可能。
www.codexalimentarius.net から入手可能。
www.fao.org から入手可能。
www.oie.int から入手可能。
www.saiplatform.org から入手可能。
社会経済
的管理
正しい酪農業の実際
1. 家畜(乳牛)の健康管理
生乳生産に供される家畜は健康であり、かつ有効な健康管理プログラムが常備されて
いることが必要。
正しい酪農業の実際
正しい使用管理実施を目指すに当たり
推奨される手段(方策)例
1.1 疾病に対して
1.1.1 その地域の環境と飼養システムに
抵抗性のある強い
合った品種並びに血統の家畜を
家畜群をつくる。
選択する。
1.1.2 管理技術、地域条件、土地の広さ、
インフラ、エサなどのインプットの
条件整備度合により家畜群のサイ
ズ(頭数)と飼養密度を決める。
1.1.3 その地域の家畜保健機関の推奨
または要項に基づき家畜全頭に
ワクチン接種を実施する。
1.2 農場への疾病
1.2.1(牛群・個体共に)健康履歴が判明
侵入防除。
している家畜だけを購入すること
とし、農場への家畜搬入に際して
対応が必要であれば検疫体制にて
管理を。
1.2.2 農場出入り移動により家畜が疾病
を伝播しないこと。
1.2.3 併合・隣接地間でリスクをモニター
し確実な境界線を設置している。
1.2.4 可能な限りヒトや野生動物の農場
へのアクセスを制限する。
1.2.5 害獣・害鳥対策プログラム実施し
いる。
1.2.6 出所がはっきりしている清潔な
機器を使用する。
1.3 実効性のある
1.3.1 全ての家畜の出生~死亡までの間
牛群健康管理
識別できる個体識別システムを
プログラムが
活用する。
常備されている
1.3.2 国並びに地域の要項を満たすと共
に農場の要求に見合った防疫に
焦点を当てた実用性がある群健康
管理プログラムを開発する。
1.3.3 家畜の疾病の兆候を定期的に
チェックする。
1.3.4 病畜は速やかに正しい方法で対応
各対応策への目的
家畜の疾病への抵抗性
を 高める /ス トレス を
削減。
防疫体制(バイオセキ
ュリティ)を確保。
家畜の健康状態保持。
国際、国内、地域ごと
決められている動物の
移動と疾病予防に準ず
る。
家畜の疾病の早期
発見。
家畜間の伝播を防止
する。
食品安全を確保。
トレーサビリティを
確保。
する。
1.3.5 病畜は隔離する。
1.3.6 病畜並びに治療中の家畜の乳は
(正常乳と)分けて取り扱う。
1.3.7 治療記録は文書で保管し、治療し
家畜をキチンと特定できるように
する。
1.3.8 公衆衛生にも影響を及ぼす可能性
のある家畜の疾病(動物原性伝染
病)の管理制御。
1.4 全ての化学薬品、 1.4.1 供給認可を受けている化学薬品
化学薬品の食品中残留
動物医薬品を
のみを法令に基づき使用。
の発生を防ぐ。
(用法)説明書 1.4.2 化学薬品用法に基づき容量を注意
通り使用のこと。
深く計算し、きちんと出荷制限期間
を守る。
1.4.3 獣医師から処方された獣医診療
動物医薬品のみ使用する。
1.4.4 化学薬品や動物医薬品は安全な
場所に保管し、責任をもって廃棄
すること。
編者注:仮訳の全体は会員専用頁を参照ください。仮訳文の正確性、完全性、有用性等につい
てはいかなる保証をするものではありません。参考資料として扱い、内容に疑義が生じた場合
は英文の原文をご確認ください。