2013.2.27 校長 角島 誠 2 月は発表の月 本校にとっての 2 月。それは、各学年での発表が行われる発表月と呼んでもいいような月です。 ある意味、その学年の年度の成果を具体的な形で見ることができるような月です。 発表の目的や発表に至るまでのプロセスが各学年で違うので、全体をひとまとめで扱うには少し 無理があります。また、発表された内容そのものをご紹介したいのも山々ですが、ここでは、本校 における発表という観点で少々。 ◎1、2 年生の自己表現力コンテスト 16 日の土曜日。なぎさ公園小学校の 5 年生、6 年生も招いての自己表現力コンテストは 600 名超収容の広島工業大学の Nexus21 デネブホールで行われました。 自己表現力コンテストは、日本語による弁論の部と英語のレシテーション(暗唱)の部からなり ます。レシテーションは定められたストーリーを暗誦し、発音、抑揚、声量の強弱はもちろんのこ と、ジェスチャーや視線を効果的に交えたまさに表現力を競うものです。選択指定の素材文は 1 年 生と 2 年生は違うものの、同じ土俵でのコンテストです。 コンテストの最後にはグランドモデルとして、帰国生徒2名による秀逸な発表も行われました。 本格的なホールでまばゆい照明を浴びながら堂々と発表を行うというのは中々できるものでも ないし、そこに立つだけで勇気のいることです。しかしながら、恥じらったり照れたりすることも 無く、吹っ切れたようなストレートな清々しさで豊かな表現が毎年のことながら披露されます。ど うやったらここまでできるようになるのだろうと、本校の校長をしておりながら毎年感心します。 同級生が照れたりすることなく本気で豊かに表現する姿は、何よりもの見本です。いいものを見 る。本気のものに触れる。これは先輩が築いてきた伝統であり、本校特有の私学文化ならでは伝統 の重みだと改めて実感しています。 ◎3、4年生の自己表現力コンテスト 3 年生は 27 日、4 年生は 22 日、それぞれ学年ごとにシェルホールで行われました。 弁論の部と英語のスピーチ。英語は暗唱ではなくてスピーチです。中学年になると、自分の年齢 相応の内容をそのまま英語で表現できるようになります。ですから、日本語による弁論も英語によ るスピーチも、発表されている内容そのものはどちらの言語で発表しても 同等のレベルとなります。 発表内容は、社会問題を扱ったものもありますが、悩める思春期らしいものがあり、極めて個人 的な関心ごとや悩みの哲学的な思索であったりすることも多くなってきます。6カ年の共同体での 学年ごとでの開催なので、話す側、聞く側ともによく知りあった仲での発表となり、話の論理構成 への共鳴度ということも然りながら、内容への共感も高いものとなってきます。 低学年での「これぞ発表の見本!」といった、ストーリーの豊かな表現といった鳴りは潜めるも のの、思索のプロセスにおける間の取り方などがうまくなり、聞き入る、納得というものとなって きます。 同級生が行う深い思索とそれに向かい合う姿勢を共有することで、6カ年の共同体の学年の 6 カ 年の絆は、この中学年の3年生、4年生でより深いものとなっていきます。 ◎3年生の仕事ウオッチング発表会 21日に丸一日を費やして行われました。1月に訪れた 31 か所の職場での職場体験の報告を行 うものです。本校お決まりの事前学習、体験、事後学習の流れでの事後学習の一つという位置づけ です。午前は4会場に分かれて全てのグループの発表が行われます。 ここでどういうルールを設定しているか。 「発表に当たってコンピュータの使用を禁じる。」 。 何か時代に逆行しているように思われるかもしれません。コンピュータを自在に使う教育が最新 の教育と思われるかもしれません。しかし、違うんです。 パワーポイントなどのプレゼンテーション用のソフトに、デジカメ写真を貼り付けて、ワープロ のように字を打てば、それなりに発表したような気になってしまいます。 プレゼン用のソフトはとても便利。だからそれに頼る。しかし、それがなくなるととたんに何も 出来なくなる。それはあたかも、遊ぶこと=ゲーム機器になった子どもからゲーム機器を取り上げ るととたんに何をしていいかわからなくなる。これと同じです。 「禁止」のルール。これが「ふるえる心」のスイッチを入れます。例えば、サッカーは手を使っ てはいけないというルールがあるから、足・胸・頭の組み合わせでいかにボールをコントロールす るかの工夫と知恵が出てきます。それと同じです。足、胸、頭といった素材の組合せ。これが教育 における「仕掛け」なんです。 31 組が連続、部屋を暗くしてパワーポイントで説明したら、みんな寝てしまいます。そうかと いって、模造紙にだらだら説明を書いたものを棒読みしても退屈極まりない。 聞いている人を退 屈させることなく、限られた時間で要点をついて、全員が情報を共有できるような発表をせよ。毎 度同じないつもの指示です。 どうすればいいか答えはありません。だから知恵を出します。 訪問先でのちょっとしたハプニングとそれへの対応にこそその職場の本質ありととらえ、寸劇を 入れるグループ、ある単純作業の確実な工程にこそ本質ありととらえ、その工程をダンボールのモ デルで再現して引き付けるグループ、ただの模造紙での説明と思いきや、複数人でのアカペラ音響 効果も組み合わせるグループ等々。彼らは、五感に訴える方法を工夫します。 パソコン禁止というちょっとした仕掛けが学びを作っています。 決して、全てが順調に進むものでもなく、発表途中に詰まったり、手順通りに行かなかったり… 様々です。 そんな中から良かったグループの発表が、午後からシェルホールで学年全体の前で行われます。 中学校時代のこういうアナログ的な表現力、というか発表の本質のようなものを踏まえて、高校 からはプレゼンや発表等でのコンピュータ使用を認めています。すると、あら不思議というか期待 通りに育っていくのです。 ◎5 年生の研修旅行報告会 4日、18 日、25 日と 3 週間にわたって行われました。5 年生の発表では、コンピュータを使 うことが許可されています。そして、1年生からの積み重ねができている 5 年生の研修旅行の発表 は、発表をする側、聞く側双方に互いに「わくわく」という雰囲気があります。 動画として音楽との組み合わせで編集しているもの、各種プレゼンソフトを使用しているもの 様々ですが、これらデジタルツールと、アナログな小道具や演出を効果的に取り入れた発表を行い ます。 人生観に影響を与える本校の研修旅行。互いに、他のコースでの学びがどうであったのか、「あ っと言わせる」、 「唸らせる」 、そんな工夫を織り交ぜながら、まさに Entertainment できる報告会 でした。意図した通りに育ってきています。 ◎6カ年を通した意図と仕掛け 発表というのは日々の授業の中でも行われ、例えば、数学における別解の説明や証明などはまさ にそういった好機です。また、「人間」の授業では、キーワード化する作業がよく行われ、その理 由の発表が求められます。 学校の行事として発表の本質のようなものが意図的に指導されていくのは、1 年生の校外学習で 行う「森の物語」というプログラムから始まります。八千代キャンパスという大自然豊かな森の中 で行われるこのプログラムでは、八千代キャンパスを五感という観点から紹介するというタスクが 課されています。そしてプレゼンにおいて用いていいものは、紙と筆記道具とあとは自然にあるも のと班員という人間であって、パソコンなど電子機器なんてありません。 原稿読みながらの棒読みなんて許されません。人に聞いてもらう、理解してもらう。惹きつける。 工夫をすることを求められます。そして、五感に訴えることや、立体的に演出していくことの有効 性を理解していきます。大自然の森の中で行うからこそ教育効果が高いことは言うまでもありませ ん。そして、この八千代キャンパスでの学びを下支えし、反芻効果をもたらしているのが1年生で 展開している創造国際の「森」の授業や「彩」の授業に他なりません。 こういった五感系、アナログ系なアプローチと並行して、2 年生の創造国際の授業は「ムービー」 として動画編集を行い、4年生の「ホームプロジェクト」では、パワーポイント等で一人ひとりの プロジェクトを英語で発表を行うなど、デジタルスキルの育成も行っています。 そして、2月の特色ある学校行事という舞台で、本校における発表・プレゼンは聴衆を感心させ て楽しませるというものになっているのです。伝統です。 それは、TEDのスタイルに通じるものです。 ◎TED(Technology, Entertainment, Design) TEDそのものについての詳しい説明は、ウィキペディアなどの他所に任せるとします。 http://www.ted.com/translate/languages/ja http://www.ted.com/ 科学技術などがもたらした新しい知見は、これまで玄人対象の学会という場で、いわゆる学会調 の伝え方で伝えられていました。しかしながら、新しい知見を、より多くの人が楽しみながら共有 する方法はないかと、Entertainment という観点を導入することで、新しい情報の伝え方、共有 の仕方を Design するという、まさに Information Architect という概念で作り出されたのが、 TEDです。 その様子はネット上でも動画で配信され、新たな知見を他人に広く効果的に納得をもたらす新し いプレゼンスタイルとなっています。学術的には論文という形はもちろん必要ですが、その一方で、 動画による、あるいは、動画の対象となりうるプレゼンスタイルが求められるということでもあり ます。 数年後、本校の卒業生がTEDに招かれて発表していることと思います。
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