ハイブリッドカー整備・修理の ここだけは押さえておきたいポイント

特集
あいおいニッセイ同和自動車研究所・鈴木正恒部長に聞く
ハイブリッドカー整備・修理の
ここだけは押さえておきたいポイント
――数多くの工場と技術者に研修を行
生から18年。2年後の1999年に初代ホ
ってきた中で、ハイブリッドカーの整
インバーター取り付け作業でも、高
ンダ・インサイトが発売され、その後
備・修理に関する知識と技術はどの程
電圧端子の締め付けにトルクレンチを
しばらくは両社のみがハイブリッドカ
度広まっていると感じているか
使用していないケースも見受けられる
が、高電圧端子は締め付け過ぎ、締め
ーの展開を続けていたが、今や国産乗
用車メーカーの半数以上が独自のハイ
車体修理工場においては格差が大き
付け不足ともに接触抵抗が大きくな
ブリッドシステムを持ち、輸入車もド
く、ハイブリッドカーの修理について
り、発熱する可能性がある。場合によ
イツ系ブランドを中心として徐々に日
熟知している工場と、ハイブリッドカ
ってはインバーターの焼損にもつなが
本導入が進み、今後より一層車種数・
ーの何を知っていないのかということ
る恐れがある。
システムの種類ともに増加していくこ
さえ理解していない工場とに二極化し
そのため研修では、高電圧部品を整
とが見込まれている。
ている。
備する際は1人ではなく必ず2人で行
ハイブリッドカーの黎明期よりその
整備工場においては、ハイブリッド
い二重チェックすることで、ボルトの
メカニズムと整備・修理技術を技術者
カーの取り扱いについてまったく何も
締め忘れ及び過不足などの作業ミスを
のみならず日本の自動車業界全体に伝
知らないという工場はもう少なくなっ
減らすよう推奨している。
承し続け、近年はFCV(燃料電池車)
ている。それは、車検を中心とする整
や先進予防安全技術を含む最先端の自
備工場では扱う台数も車種も多いた
――ハイブリッドカーには現在どのよ
動車技術と整備・修理に関する講演・
め、保有台数の増加とともに、ハイブ
うな種類があるか
研修会を精力的に開催している、あい
リッドカーに触れる機会が必然的に増
おいニッセイ同和自動車研究所・研修
えたことが大きいと思われる。しかし
現在はカーメーカー各社が様々なハ
部の鈴木正恒部長に、ハイブリッドカ
ながら、整備工場を訪問した際に現場
イブリッドシステムを開発し市販車に
ー整備・修理の現状と、作業上必要不
を見ると、ハイブリッドカー特有の部
採用しているが、いずれのシステムも
可欠な基礎知識について聞いた。
位に対し、細部にまで配慮が徹底され
シリーズ式、パラレル式、シリーズパ
ている工場とそうではない工場との差
ラレル式のいずれかに分類できる。
は、依然大きいように感じられる。
あいおいニッセイ同和自動車研究所
研修部 部長
鈴木 正恒 氏
24
性がある。
1997年の初代トヨタ・プリウス誕
まずシリーズ式は、エンジンがジェ
例えば高電圧部品からパワーケーブ
ネレーターを回し電力を駆動用バッテ
ルを外した際、露出した端子にテーピ
リーや駆動用モーターに供給し車輪を
ングを施し絶縁処理をしていなけれ
駆動する。なお、低速から上り坂で急
ば、水分が入り錆や漏電の原因にな
加速する時など負荷が大きい時は、エ
る。また、取り外した駆動用バッテリ
ンジン回転を高め発電量を増やすこと
ーや補機バッテリーを不安定な場所に
で、モーターに多くの電力を送り加速
置き、それを落下させ内部のセルを損
力を高める。
傷させれば、走行中に電流が流れた際
エンジンからモーターまで直列の関
に発熱して走行不能になるばかりか、
係でエネルギーが伝えられていくこと
最悪の場合は車両火災が発生する危険
から、シリーズ式と呼ばれている。モ
ボデーショップレポート 2016 年 1 月号
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特集
ハイブリッドカー修理の基礎知識と最新事情
工場事例
スキャンツールによる故障診断を
ハイブリッドカーオーナー集客の武器に
織戸自動車整備工場(千葉県習志野市)
織戸克久社長
葉県西部の習志野市と船橋
千
ン車と異なるのかを、カーオーナーと
と い う 織 戸 社 長。「 専 業・ 兼 業 の 整
市のほぼ市境に1971年より
整備・修理工場の双方がよく理解する
備・修理工場は今ようやく、セカンド
拠点を構え、習志野市内を
こと」と断言する。
オピニオンになれるかのスタートライ
主な商圏とする織戸自動車整備工場。
その上で織戸社長が心掛けているの
ンに立ったところ。これからも地域密
同社が故障診断機を導入したのは
は「車両の声なき声をスキャンツール
着でファンを増やしていくとともに、
2000年ごろと極めて早く、必然的に
などで聞き、カーオーナーの不安を解
各種研修会などを通じて高度な故障診
スキャンツールを用いたハイブリッド
消すること」
。以前の車両は音や振動
断技術を持つ人材を育成していく」。
カーの点検整備・修理にもいち早く対
などで劣化や不具合を体感できたが、
応した。
ハイブリッドカーに限らず近年の車両
同社は織戸社長と経理を担当する夫
は電子化が進み補正制御が緻密に働く
人の2人ながら、月間平均入庫台数は
ようになったため、スキャンツールを
約50台と多く、そのうち約10台がハ
使わなければそれが分かりにくくなっ
イブリッドカーと、その入庫比率は高
た。しかも、メンテナンスパックの普
い。なお、月間平均入庫台数に占める
及もあり、自動車のメカニズムに対す
車検の割合は3分の2、鈑金塗装は約5
るカーオーナーの関心が薄らいでいる。
分の1、残りが一般整備となっている。
そのため同社では、車検や12 ヵ月
長年ハイブリッドカーの点検整備・
点検、車体修理などで入庫した際はも
修理に携わってきた織戸社長は、千葉
ちろん、同社から車両を購入した場合
県自動車整備振興会の習志野支所で4
はその納車前にもスキャンツールを使
年前まで研修委員長を務めていたが、
い各種データを取得。過去のものを含
ハイブリッドカーの点検整備・修理で
めた故障診断の結果を車両診断書に出
まず注意すべきは「何が通常のエンジ
力してカーオーナーに見せることで、
「自動車のメカニズムに関心を持って
ハイブリッドカー入庫時はまず故障診断し故障コー
ドを消去。補機バッテリーのマイナス端子や駆動用
バッテリーのサービスプラググリップを外した後は
必ず再度診断する
もらいながら、明確な根拠に基づいた
追加・予防整備を攻めの姿勢で提案し
ている」。事故車の場合は、入庫時と
納車前の2回故障診断することで、追
加・予防整備の提案はもちろん、事故
とは直接関係ない不具合が発生した際
のクレーム防止にも役立てている。
これら取り組みが功を奏し、「台当
たり単価はアップしリピート率も向
上。紹介客も得られるようになった」
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故障診断後にカーオーナーへ提示する車両診断書と
スキャンツールの画面コピー
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