市民科学研究室 海外文献翻訳 電磁波問題 2016/06/13 携帯電話電磁波照射で動物の発がん率が上昇 予算 2500 万ドル NTP 研究が脳腫瘍を発見 政府に期待される健康リスクに関する公衆への注意喚起 Cell Phone Radiation Boosts Cancer Rates in Animals; $25 Million NTP Study Finds Brain Tumors U.S. Government Expected To Advise Public of Health Risk microwavenews.com 2016 年 5 月 25 日 より http://microwavenews.com/news-center/ntp-cancer-results 翻訳:杉野実+上田昌文 携帯電話とがんに関する議論の風向きがまた変わってきた。 携帯電話から放射される電磁波がヒトの発がんリスクを高めることを、米国国家毒性プログラム(NTP) が公表するとみこまれている。GSM ないし CDMA の信号(※)に 2 年にわたり曝露したラットにおい て、発がん率が統計的に有意に上昇したとする、最近の研究が終了したのをうけて、発表がなされるも のとみられる。 ※GSM とは、Global System for Mobile Communications の略で、ヨーロッパで生まれたデジタル携帯電話の通信方式の 一つ。日本国内では使われていないが、主にヨーロッパやアフリカ、アジア、オセアニアなど 160 以上の国・地域でこの 方式の携帯が採用されている。 ※同じく無線通信に用いられる通信方式の一つで、複数の送信者が同一の周波数を共有し、それぞれの音声信号に異なっ た符号を乗算して送信するもの。符号分割多重接続と呼ばれる。日本でも用いられている 携帯電話方式の cdmaOne や W-CDMA(3GPP)がこれに相当。 この新発見について公衆にどう評価するかという点については、連邦諸機関のあいだで現在議論がなさ れている。ほとんどの人が高周波電磁波の放射に常時曝露し、したがって潜在的なリスクのもとにある ということから、この結果はできるだけ早急に公表されるべきであると、NTP の高官はみている。 1 市民科学研究室 海外文献翻訳 電磁波問題 2016/06/13 医師・生物学者・生理学者・疫学者・技術者・ジャーナリスト・政府高官らが主張してきた通説と、今 回の新しい結果は衝突する。この通説は部分的には、携帯電話からの高周波電磁波ががんを誘発するし くみが、十分に説明されていないという事実に依拠している。たとえば 22 日にもミシがん州の医師が『ウ ォール・ストリート・ジャーナル』に、「携帯電話が脳腫瘍を発症させるメカニズムは知られていない」 と書いた。健康リスクについて公衆に警告する必要はないとまで、この医師は発言した。 NTP が示したのは、照射される電磁波の強度が上昇するほど、ラットの発がん率も上昇するということ である。この結果を報告されていた信頼できる筋は、 「統計的に有意な容量反応関係もあった」と、当サ イト『マイクロウェーブニュース』に語っている。だがその効果はマウスではみられなかった。NTP が 正式な発表をまだしていないので、氏名は公表しないでほしいと、その筋は語った。ラットが曝露した のは、ふたつの方式 GSM と CDMA に属する、強度 3 段階(1.5、3 および 6W/kg)の照射である。 驚くべき一致? 重要なのは、曝露したラットにおいて発症率が上がったのが、脳のグリオーマ(神経膠腫、グリア細胞 腫)と、大変まれながんである心臓のシュワン細胞腫という、2 種類のがんであったことである。照射さ れなかった対照群のラットには、これらの腫瘍はみられなかった。 グリオーマやシュワン細胞腫を、携帯電話と関連づけた疫学研究は多い。たとえばインターフォン研究 が、グリオーマと携帯電話使用に関連ありとしている。 内耳を脳につなぐ神経のような、頭蓋神経を包むさやは、シュワン細胞でできている。そういう細胞の 腫瘍は聴覚神経腫とよばれている。つまり聴覚神経腫はシュワン細胞腫の一種である。携帯電話使用と 聴覚神経腫の関係をみいだした疫学研究は少なくとも 4 件ある。 NTP の研究計画策定チームを主導し、現在は引退しているロン・メルドニック(Ron Melnick)は、ある 筋から伝えられたという、発表の概要を確認した。同氏が電話インタビューでいうには、 「NTP は、携帯 電話電磁波が健康に影響しないという仮説を検証しましたが、その仮説は反証されました。実験がなさ れ、広範に検討された結果、発がん効果はあるという合意がなされたのです」。 「これらのデータは、携帯電話電磁波論争を再定義するはずです」ともメルドニックはいう。携帯電話 の安全性は 20 年以上も論争されているが、議論がとりわけさかんになったのは、国際がん研究所が 2011 年に高周波電磁波を「ヒト発がん可能性あり」に分類してからである。 「ラットでがん化した細胞が、携帯電話疫学研究で腫瘍化するとされた細胞と同種のものであることは、 公衆衛生上非常に憂慮すべきことです」と、同氏はつけくわえた。「もしこれが偶然の一致だとすれば、 驚くべきことです」 。 NTP による照射研究は、20 年以上も継続されてきたが、NTP により実施されたもっとも高価な研究でも ある。これまでに 2500 万ドル以上が支出された。 2 市民科学研究室 海外文献翻訳 電磁波問題 2016/06/13 もうひとつ興味深い一致とみるべきはボローニャのラマッチーニ研究であって、そこでは、50 ヘルツの 極低周波数電磁波に曝露したラットにおいて、心臓シュワン細胞腫の増加がみられた。 研究結果に意を強める NTP この結果が公衆衛生に重要な意味をもつと、NTP は国立衛生研究所(NIH)の上層部に警告したが、同 研究所はそれに抵抗してさらにきびしい査察をしたらしい。だがデータにも研究法にも重大な欠陥はみ つからなかった。 国立環境衛生科学研究所(NIEHS)所長で、NTP 所長でもあるリンダ・ビンバウム(Linda Birnbaum) と、NTP 副所長ジョン・ブッヒャー(John Bucher)をふくむ高官が、研究結果を支持しているという。 この高官らは、この結果の公表は公衆衛生のために必須とみていると、ある筋はいう。 ブッヒャーの前任であったことのあるクリス・ポーティアー(Chris Portier)も、NTP がしたことは正 しいとみる。 「このデータを一刻も早く公衆と共有すべきであると、私は確信します」と、同氏もインタ ビューでのべた。携帯電話計画は、同氏が NTP の副所長であったときに推進された。同氏は引退した現 在も顧問をつとめている。 拡大関係者会議ののち、食糧医薬品局と連邦通信委員会という、携帯電話による曝露の規制に責任をも つべきふたつの連邦機関が、この結果について先週報告をうけた。これらの機関はまだ態度を明確にし ていない。 関係諸機関はいま、NTP の発見に関する発表を、計画している最中であろう。ビンバウム氏もブッヒャ ーも、その発表がどうなされるかについてはあきらかにしていない。 予期せぬ発見 NTP の結果を知る部外者はまだ少ない。 『マイクロウェーブニュース』は今回の結果を、本研究を追跡し てきた部外者に伝えたところ、だれもが驚いていた。 実際のところ数年前に公表されたインタビューでは、NTP のブッヒャー自身が、高周波電磁波とがんの 関係を示唆する結果は出ないであろうとのべていたのだ。 「この研究で否定的な結果が出ることを、だれもが予期していました」と、ある政府の放射線専門家は 匿名を条件として答えた。 「加熱効果が除去されるという条件で照射が実行されたとすれば、今回みつか ったような効果はありえないといっていた人が、まちがっていたということになります」。 (本研究では 実際に、照射されたラットの体温は摂氏 1 度以上上がらないようにされていた。 ) 3 市民科学研究室 海外文献翻訳 電磁波問題 2016/06/13 「この研究が流れを変えたことはまちがいありません」というのは、オルバニー大学環境保健研究所所 長デビッド・カーペンター(David Carpenter)だ。 「前からわかっていたことが確かめられました。いま や動物でも人間でも証拠があがっていますが」と、氏はつけくわえる。 「NTP は連邦政府に信頼されてい ます。反対者が高周波電磁波と発がんの関連を否定するのはもはや困難でしょう」。同氏の研究所は世界 保健機構の協力拠点でもある。 懐疑派の代表者は、国立放射線防護計測評議会会長のジョン・ボイス(John Boice)である。 「脳腫瘍と 携帯電話の関係については、多くの関係者にとっては解決ずみです。リスクはありません。生物学的な メカニズムが存在しませんし、そういう効果について追試可能な証拠をみつけた、動物実験も細胞実験 もありません」と、今月はじめ同氏は『メドスケープ医学ニュース』記者に語った。 そういう見解も根強く共有されており、たとえば 2014 年夏には、同評議会が疾病予防センター(CDC) に圧力をかけて、 「携帯電話に関するファクトシート」から予防的勧告を削除させている。 ボイス氏が無視しているのはたとえば、化学物質によって発がんが誘発されたマウスで、携帯電話電磁 波を照射させると腫瘍形成が促進された、という過去の動物実験を確認した、ドイツのアレックス・レ ルヒル(Alex Lerchl)による昨年の報告である。今回の NTP の実験はといえば、動物の細胞をがん化さ せるのに化学物質など使用していないのだ。 生物学的メカニズムについていえば、つい 2 か月前、高周波電磁波の研究では著名なフランク・ベイム ズ(Frank Barnes)とベン・グリーンバウム(Ben Greenebaum)が、低強度放射がいかにしてがん細胞 の成長率をかえることができるかを説明することができたと発表している。 NTP の高周波電磁波照射・動物実験プロジェクトの経過 1999 FDA が高周波電磁波照射機器を NTP の対象にとりあげる 2001 NTP が高周波電磁波と発がんの関係の研究に着手 2003 NTP が高周波電磁波と発がんの実験への予算を申請 2004 NTP が二回目の予算申請を行う 2005 NTP がシカゴのイリノイ工科大学研究施設(IITRI)と照射実験の契約締結 2007 IT’IS (The Foundation for Research on Information Technologies in Society) が作製した曝露実験システムが IITRI によって設置 2009 Ron Melnick にかわって研究責任者を Michael Wyde が引き継ぐ 2014-15 2 年間の照射実験が終了 2016 研究結果が出る 4
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