3 仮想化 やってはいけない

特集
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安易な仮想化には思わぬ落とし穴がある。
サーバーとデスクトップの仮想化について,
失敗なく導入するポイントを解説する。
(手嶋 透 [email protected] )
特集
仮想化
やってはいけない
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仮想化やってはいけない
サーバー編
仮想化達成率 100% を
追い求めてはいけない
知らないと
危険なレベル
〉〉〉
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2
1
ドメイン・コントローラ。負荷がそれ
ほど高くないからといって,仮想化し
ても差し支えないと考えてはいけな
富士フイルムの基幹系システムを仮
するときは,統合効果を高めるために
い。
仮想サーバーでドメイン・コントロー
想化するに当たって,富士フイルムコ
対象サーバーを増やし,仮想化達成率
ラを動かすと,
その仮想サーバーが載っ
ンピューターシステムの柴田英樹氏
を100%に近付けたいと思うもの。し
た物理サーバーを再起動した際に,ド
(システム事業部 ITインフラ部 部長)
かし,各サーバーを仮想化対象にする
メインを見つけられなくなることがあ
は統合バックアップ用のバックアップ・
かどうかは,
慎重に検討すべきである。
るからだ。認証をActive Directoryに
サーバー 4台を仮想化の対象から除外
仮想化に不向き,あるいは仮想化でき
集 約 し て い る 場 合 は,M i c r o s o f t
した。バックアップ・サーバーはスト
ないサーバーもあるからだ。
System Centerなどの管理サーバーに
レージやバックアップ装置のデータを
読み書きする処理負荷が高く,仮想化
再起動でドメインが見つからない
アクセスできなくなってしまうことも
あり得るので,注意が必要である。
するとCPUやメモリーを含むシステ
仮想化してはいけない,もしくは不
仮想マシンを監視する役割のサー
ム・リソースを占有するからである。
向きなサーバーの例を表1に示した。
バー(VMware vCenter Serverなど)
仮想化技術を使ってサーバーを統合
代表的なのが,Active Directoryの
も,障害発生時の切り分けを容易にす
るため,
仮想化しないことが望ましい。
1 仮想化してはいけない,もしくは不向きなサーバーの例
表
サーバーの用途
バックアップ・サーバー
Active Directory のドメイン・コン
トローラ
仮想マシンの監視サーバー
(VMware vCenter Server など)
NTP(Network Time Protocol)
サーバー
入出力処理,プロセス切り替えの多
いアプリケーション
仮想化ソフトが対応していないハー
ドウエア(非対応のテープ・ライブ
ラリ装置など)を前提にしたもの
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仮想化によって生じる主な問題
バックアップの際,バックアップ・サーバーには CPU 負荷と入
出力負荷が大きくかかるので,他の仮想サーバーの動作が遅くな
る
ドメイン・コントローラの仮想サーバーが載った物理サーバーを
再起動した際に,ドメインを見つけられなくなる
監視サーバーを動かすゲスト OS が動作しなくなると,障害の切
り分けが困難になる
仮想サーバーからは物理クロックにアクセスできないので,時刻
が合わなくなる
サーバーのリソースを占有し,他の仮想サーバーの動作が遅くな
る
利用できない
例えば,ある物理サーバーで仮想化ソ
フトにパッチを当てたらゲストOSが
動作しなくなる障害が発生したとす
る。もし,その物理サーバー上の仮想
環境で監視サーバーを動かしていた場
合は,監視サーバーにアクセスできず,
障害の原因追究が困難になる。
このほか,NTP(Network Time
Protocol)サーバーなども,問題が生
じるので仮想化には向かない。
NIKKEI SYSTEMS 2009.11
イラスト:ミオササノッチ
サーバー編
DB サーバーは仮想化に不向きと
決めつけてはいけない
知らないと
危険なレベル
〉〉〉
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2
1
「更新処理がそれなりにあるDBサー
バーを仮想サーバーに移すとなると,
入出力処理がネックとなって遅くなる
DBサーバーはディスク・アクセスを
ユーザーが基幹系システムを仮想化す
危惧もあった。しかし実際は,以前よ
中心とする入出力処理が多く,ネット
る際,既存システムのアセスメントを
りも高速になった」と言い切る。速く
ワークやディスク・インタフェースの
徹底的に実施した。
「個々のシステム
なった理由は,DBMSがメモリーを多
帯域幅のほとんどを占有してしまうの
の負荷やデータ量がきっちり分かれ
用するよう設計されていることと,移
で仮想化に向かないといわれている。
ば,適切にサイジングできる。また,
行先の仮想サーバーがCPUやメモリー
システム・リソースを複数サーバーで
ディスク・アクセスの多いサーバーと
資源を豊富に利用できることにあると
共有し,サーバー全体でリソース利用
少ないサーバーを組み合わせるといっ
見ている。
率を上げるという仮想化のメリットが
た,配置の最適化も可能になる」
(金子
十分に得られなくなるからだ。
氏)からだ。
DBサーバーには,可用性を高める
エミュレーションするのでオーバー
トランザクション量が多いDBサー
テムがある。野村総合研究所の西片公
ヘッドが生じる。それにより,入出力
バーを,仮想環境で動作させることも
一氏(情報技術本部 基盤技術一部 グ
性能が劣化することも問題になる。
現実的な選択肢になりつつある。一般
ループマネージャー)は,そうしたク
的には入出力処理が頻発するので仮想
ラスタ構成のDBサーバーを仮想化す
化に向かないといわれているが,バッ
る際はフェールオーバーの所要時間が
ただし,すべてのDBサーバーが仮
ファキャッシュや共有プールの容量を
延びることがあるので注意が必要だと
想化に不向きというわけではない(図
自動調整するといった,メモリーの利
指摘する。
1)
。キャッシュへのヒット率が高い参
用効率を高める技術がDBMSに実装
西片氏がゲストOS上でクラスタ・
照や計算処理が中心なら,CPU処理が
されるようになったからだ。
ソフトを動かし,DBMSをフェール
中心となり入出力処理は少ないので,
日立ソフトウェアエンジニアリング
オーバーさせる検証を実施したとこ
仮想化に向いている。
は,製品サポート・サービス「日立ソフ
ろ,設定によっては所要時間が数割延
例えば富士フイルムは,基幹業務の
ト@Service 24」を支える10台のサー
びるケースがあったという。ゲスト
DBサーバーであっても,仮想化の対象
バー群を「Secure Online」と呼ぶ仮
OSで稼働するクラスタ・ソフトは,物
に 含 め て い る。 富 士 フイルムコン
想環境に移した。
同社の中村輝雄氏
(セ
理サーバーに障害が起きたことを直接
ピューターシステムの柴田氏は,
「DB
キュリティサービス本部 本部長
判別できないことが,遅延につながっ
サーバーを仮想化する際には,ほかの
Secure Online主席アーキテクト)は,
たと同氏は分析している。
処理量が小さければ仮想化する
3
ためにクラスタ構成になっているシス
仮想化やってはいけない
生じると,仮想化ソフトがその処理を
仮想化対象が更新系にも広がる
特集
また,仮想サーバーで入出力処理が
クラスタ利用時は注意が必要
サーバーに比べれば処理の負荷を詳し
仮想化に向かない:大量トランザクション
く把握する必要はあるものの,特別扱
いはしていない。処理が大量でないな
ら,基本的には仮想サーバーで動かす」
と話す。
DBMS
DBサーバーを仮想化する際は特に,
OS
アセスメントと呼ぶ事前の情報収集を
仮想化ソフト
丁寧に行うことが大切である。AJSの
ハードウエア
金子貴之氏(医療・産業システム事業
部 ERPシステム部)は,ある製造業の
・
・・
更新
処理
図
大 量 のトランザク
ション処理を行うと,
ディスク・アクセス
(入出力処理)
が多
発する
リソースのほとんど
を占有してしまうの
で,仮想化のメリッ
トが十分に得られな
くなる
仮想化に向く:参照や計算処理が中心
・
・・
参照や
計算処理
DBMS
OS
キャッシュへのヒット
率の高い参照や計
算処理が中心なら,
CPU 処理がほとん
どで,入出力処理は
少ない
リソースを占有しな
いので,仮 想 化の
メリットが得られる
仮想化ソフト
ハードウエア
1 すべてのDBサーバーが仮想化に不向きなわけではない
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